特許第6559126号(P6559126)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6559126セルロース植物廃棄物からの生分解性プラスチック材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559126
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】セルロース植物廃棄物からの生分解性プラスチック材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20190805BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20190805BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20190805BHJP
   C08B 16/00 20060101ALI20190805BHJP
   D01F 2/02 20060101ALN20190805BHJP
   D01D 5/04 20060101ALN20190805BHJP
【FI】
   C08J11/08
   C08L1/02
   B09B3/00 304H
   C08B16/00
   !D01F2/02
   !D01D5/04
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-527437(P2016-527437)
(86)(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公表番号】特表2016-539221(P2016-539221A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】IB2014065688
(87)【国際公開番号】WO2015063700
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2017年10月11日
(31)【優先権主張番号】TO2013A000874
(32)【優先日】2013年10月29日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イルケル・セ・バイエル
(72)【発明者】
【氏名】エリーザ・メレ
(72)【発明者】
【氏名】デスピナ・フラゴウリ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・チンゴラーニ
(72)【発明者】
【氏名】アタナシア・アタナシオウ
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/094240(WO,A1)
【文献】 特表平11−513425(JP,A)
【文献】 特開2001−342353(JP,A)
【文献】 KHIMIIA DREVESINY,1986年,2,pp.29-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08
D01
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物廃棄物材料から得られる生分解性プラスチック材料を製造する方法であって、該方法は:
a)前記材料のセルロース部分が溶解し得るように、無水トリフルオロ酢酸およびトリフルオロ酢酸無水物からなる無水溶媒混合物中に前記植物廃棄物材料を溶解させる操作、ここで、前記無水の溶媒混合物は、無水のトリフルオロ酢酸の体積に対して10〜50体積%の量のトリフルオロ酢酸無水物を含み、前記植物廃棄物材料は、その水含有量が前記セルロース部分の加水分解を引き起こすのに適当でない程度まで部分的に脱水され、かつ、前記植物廃棄物材料は、植物廃棄物粉末を含み、0.5重量%〜5重量%の濃度において、前記無水の溶媒混合物に添加され、および
b)非加水分解化セルロース部分を含む溶液から溶媒を除去する操作を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
段階a)における溶解から生じる生成物について、c)溶媒の除去の前に、溶媒混合物から非溶解性成分を除去するためにろ過または遠心を行うことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
a)において得られる生成物を無水のトリフルオロ酢酸中の微結晶性セルロースの溶液と混合することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記微結晶性セルロース溶液は、無水のトリフルオロ酢酸中1重量%〜4重量%の含有量の微結晶性セルロースを有することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
a)またはc)において得られる溶解生成物を、トリフルオロ酢酸中の生分解性または生体適合性ポリマーの1以上の溶液と組み合わせることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記生分解性または生体適合性ポリマーは、ポリアミド、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、ポリビニルホルミル樹脂またはその混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記トリフルオロ酢酸中のポリマー溶液は、1重量%〜5重量%のポリマー濃度を有することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記生分解性または生体適合性ポリマーの溶液を添加した、a)またはc)において得られる溶液は、繊維の製造のためにエレクトロスピニングが行われることを特徴とする、請求項5、6または7に記載の方法。
【請求項9】
a)またはc)において得られる前記溶液を、トリフルオロ酢酸中の麻繊維包装材料から得られる、廃棄物またはリサイクル植物繊維の溶液と組み合わせることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
トリフルオロ酢酸中の結晶性マイクロセルロース溶液またはトリフルオロ酢酸溶液中の生分解性または生体適合性ポリマー溶液を添加した、a)またはc)において得られる溶液は、モールド中においてキャスト処理が行われ、前記キャスト処理モールドにおいて溶媒の蒸発によって溶媒を除去することを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
トリフルオロ酢酸溶液中の前記溶液を、溶媒の蒸発の前にアセトンを用いて希釈することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記粉末は10μm〜200μmの寸法を有することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記植物廃棄物は、セリ科またはヒユ科の種に属する食用植物を含み、完全に脱水されていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース植物廃棄物、特に食用ハーブ、葉野菜および穀草類に由来するもの、を用いた生分解性プラスチック材料および生分解性コンポジットプラスチック材料の製造方法に関する。
【0002】
本発明の目的は、上記種類の植物廃棄物をバイオプラスチックに変換する経済的かつ環境保護的な技術を通して、上記種類の植物廃棄物を再利用することである。
【背景技術】
【0003】
実際、加工が終わった植物材料に由来するバイオ廃棄物または低価値の副生成物の再利用は、これまであまり考慮されていなかった。事実、たいていの植物廃棄物は、焼却されるか、または天然堆肥もしくは動物の餌として用いられている。
【0004】
そのため、工業プロセスからの植物廃棄物の再利用は、比較的最近の概念であり、持続可能な開発を促進することを意図する。the Journal of Chemical Technology and Biotechnology、vol. 84、ed. 6、第895-900頁、2009年6月での出版物は、再利用の促進の持続可能な方法を特定し、議論するレビューであり、特にオリーブ油の製造からの廃水の再利用の例を記載している。これに加えて、近年の研究は、好極限性微生物の発酵のための成長培地としての植物廃棄物の使用に取り組んでいる(例えば、Waste and Biomass Valorization、2011年5月、vol. 2、ed. 2、第103〜111頁参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】the Journal of Chemical Technology and Biotechnology、vol. 84、ed. 6、第895-900頁、2009年6月
【非特許文献2】Waste and Biomass Valorization、2011年5月、vol. 2、ed. 2、第103〜111頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、プロセス植物廃棄物、例えば非食用の茎、または食用植物および葉野菜(例えばパセリ、ホウレンソウ、バジル等)に由来する損傷した葉または過剰物または二酸化炭素の放出を最小化する溶液を用いた穀草類の収穫に由来する残余物等の処理は、これまでほとんど注目されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それゆえ、本発明は、この記載の固有の部分を構成する次の請求項に記載のように、(一般に非食用の)植物廃棄物をバイオポリマーに転化する方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
その実施態様において、本発明は、幅広い物理的特性および機械的特性、例えば弾性、剛性、透明性、溶解性(度)および環境安定性、を有するバイオプラスチックの製造を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、トリフルオロ酢酸における処理時間に応じた、実施例1によるセルロースフィルム及びパセリから得られたフィルムの機械的特性(ヤング率、引張応力及び引張歪み)のヒストグラムを示す。
図2図2は、種々の植物源:パセリ、ココア、コメ及びホウレンソウから得られた生分解性フィルムに対する応力/変形(歪み)ダイヤグラムである。
図3図3は、TFA:TFAnと比較した、TFAを用いた実施例9に従って得られた生分解性フィルムに関する応力/変形(歪み)ダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本方法の一実施態様は、無水トリフルオロ酢酸(anhydrous trifluoroacetic acid, TFA)中において少なくとも部分的に脱水された植物廃棄物の分散を通した、実質的または主に非結晶性のセルロースフィルムまたはシートの調製に関する。この実施態様において、無水トリフルオロ酢酸(そのセルロース脱結晶化(decrystallisation)特性は既知である(Journal of Applied Polymer Science 45(10)、1857-1863、1992年参照))を含む無水溶媒混合物中での溶解によって、乾燥した又は少なくとも部分的に脱水した植物残余物の結晶性セルロース成分を非晶質状態に変換する。
【0011】
別例として、無水溶媒混合物は無水トリフルオロ酢酸およびトリフルオロ酢酸無水物(trifluoroacetic anhydride, TFAn)を含んでもよく、トリフルオロ酢酸無水物の量は、酸の体積に対して、好ましくは10〜50体積%である。
【0012】
TFAおよびTFAnの溶媒混合物の使用は、無水TFAだけの使用と比較して、非常に顕著に早い溶解をもたらす;そのため、溶解が数時間のうちに生じ得、さらに不溶解成分をろ過して除去する必要性はない。TFA-TFAn混合物を加熱して約50℃、例えば45℃に温度上昇させる場合、溶解を1時間未満に促進させることもできる。
【0013】
TFA-TFAn混合物の使用により、同じ条件下において、ヤング率の実質的な低下と共に、より高い弾性特性を有するバイオプラスチックを得ることが可能となることも見出されている。
【0014】
開始材料として用いられる植物廃棄物は、好ましくは、セリ科およびヒユ科の種(綱)に属する食用植物、例えばバジル、パセリおよびホウレンソウ等、の廃棄物または過剰物を含むが、他の穀草類残余物、ココアまたはナッツ殻、または他の葉野菜を含んでもよい。
【0015】
用語「脱水」は、全体的な脱水に対する必要性を示すことを意図せず、加工を行った廃棄物の水含有量を削減する必要はなく、単に環境条件に曝すことによって行うことができる初期乾燥処理を単に示す。しかし、植物廃棄物の遊離の又は結合した水含有量は、低ければならず、例えばそれは、上記の無水溶媒を用いた処理中においてセルロース部分の加水分解をもたらさない。
【0016】
本発明に係る方法は、比較的少量の水(例えば、開始材料の10重量%未満またはより良くは5重量%未満)の存在に適合する;しかし、完全無水材料の使用が好ましい。
【0017】
少なくとも部分的に脱水または乾燥された廃棄物材料は、好ましくは粉末の形状で用いられ、例えば10μm〜200μmの粒子寸法(粒子径)を有するが、例示によって示されるよりも小さい又は大きいサイズの粒子を用いてよい。
【0018】
通常、本発明は、0.5重量%〜5重量%、より好ましくは1重量%〜2重量%のオーダーの無水溶媒中の植物廃棄物の濃度を用いる。この百分率は、開始植物材料のセルロース含有量に依存し、用いた廃棄物材料がTFA中に溶解する速度(rate)の観察(observation)および決定(determination)を通して、およびTFAを用いた処理中に特定の時点(time)において得られた最終の溶液の濃度(consistency)および粘度から、容易に達成することができる最適化を必要とし得る。
【0019】
例として、TFA中の3重量%の濃度の脱水パセリ廃棄物から、数日間の溶媒中での処理後の次のキャスト処理に適当な粘度を有する溶液を得ることができる。廃棄物材料の溶解は、所望であれば、例えば外気温度にて穏和なエネルギーを用いて10分〜40分の時間での超音波処理によって促進させてよい。
【0020】
セルロースのゆっくりとした溶解および脱結晶化(decrystallization)を可能とするために、用いる廃棄物植物材料の源に依るが、通常、溶解は、密封容器中、外気温度条件下にて、好ましくは3日より長い時間行われる。
【0021】
しかし、得られた溶液は、長期間、例えば15日以下貯蔵および保持されてよく、全てのセルロースがリグニンから分離し、効果的に溶解することを確実にされる。無水溶媒抽出による処理中において、用いる植物材料中の着色剤およびエッセンシャルオイルを、溶液中に注ぎ、いずれにしてもキャスト処理を行う予定の溶液中に保持してよい。
【0022】
長期の貯蔵後、植物着色剤、タンニン、フラボノイド、カロチノイド、アントラセン、ベタイン等の抽出により、この溶液は着色する。
【0023】
または、所望でない不純物もしくは化合物、または不溶性留分を、ろ過または遠心により除去してよい。
【0024】
非接着性プラスチック材料のモールド、またはTFAにより浸食されないガラスもしくはセラミック材料のモールド中で行われる、そうして得た溶液の直接キャスト処理によって、自己支持型プラスチック材料(self-supporting plastics material)のフィルムおよびシートが、溶媒を揮発させた後に得られる。
【0025】
溶媒は外気条件下で揮発させてよい。TFAは、バクテリアによって分解され得る生分解性酸であり、そのため、その廃棄は環境問題を全く生じさせない;しかし、費用を最小化するために、TFAを揮発中に回収してもよく、本発明に係る方法にリサイクルさせてよい。
【0026】
TFA中の植物廃棄物溶液の直接キャスト処理によって得られるフィルム、シートまたは成形物は、通常、未溶解植物材料、例えばリグニン、脂質またはワックスを含む。遠心またはろ過(例えば0.2μmの孔を有するフィルターを用いる)を通じた、溶媒中での溶解の段階後のかかる化合物の除去は、改善され均一な構造的および光学的特性を有する製品を得るために望ましくあり得る。
【0027】
別の実施態様において、(不溶解成分の除去が行われた又は行われていない)得られた溶液を、無水TFA中の純粋なセルロース(微結晶性セルロース)の場合により透明の溶液と、例えばTFA中のセルロースの1重量%〜4重量%溶液を用いて、任意の所望の比率で混合してよい。
【0028】
別の実施態様において、(不溶解成分のろ過を行った又は行っていない)溶液又は懸濁物を、TFA中に溶解し得る他の生体適合性又は生分解性ポリマーと混合してよい。これに関して、好ましいポリマーは、ポリアミド、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニルまたはポリ酢酸ビニルエマルジョン、ポリエステル、好ましくはリサイクルから得られたPETポリエステル、及びポリビニルホルミル樹脂を含む。TFA中のこれらのポリマーの溶液は、TFA中、1重量%〜5重量%のポリマー濃度を有してよい。
【0029】
ポリマーと開始材料として使用される植物廃棄物との間の任意の重量比率が用いられてよい。この場合においてさえ、そうして得られる溶液は、コンポジットプラスチック材料の製造のためにキャスト処理が行われてよい。
【0030】
別の実施態様において、上記の植物廃棄物の溶液または懸濁物は、包装材料廃棄物、例えば麻繊維からなるコーヒー用のすだ袋又はバッグ等、から得られるTFA中の溶液と組み合わせてよい。コーヒー豆用のずだ袋用の繊維としての使用が知られているこれらの繊維は、商業的に利用可能である(例えば:http://johnsonpaper.com/kona/参照)。
【0031】
かかる廃棄物材料は、上記のようにTFA中の溶液を調製することによってリサイクルすることができる。
【0032】
上記のポリマーと組み合わせた植物廃棄物材料から得られる、TFA中またはTFA及びトリフルオロ酢酸無水物の混合物中の溶液は、別の実施態様において、スピニングが行ってよく、そうして高電圧をポリマー溶液にかけることによって数μm未満の直径を有する繊維を製造することを含むエレクトロスピニングの従来技術を用いて、架橋された繊維状の構造を有する生成物を得る;この技術により、有用な植物成分、例えば酸化防止剤、エッセンシャルオイル、抗菌剤および/または芳香剤等を組み込むコンポジット繊維のマットを得ることができる。上記のポリマー混合物は、コンポジットバイオプラスチック構造を形成するために標準的な押出技術を用いた押出によって加工することもできる。
【0033】
別の実施態様において、TFA中またはTFAおよびトリフルオロ酢酸無水物の混合物中の植物廃棄物の溶液は、好ましくはろ過後に、及び好ましくは溶解の開始後5〜15日の期間後に、アセトンを用いてさらに希釈してよい。希釈のために追加され得るアセトンの量は、溶媒中の溶液のエイジング時間に依るであろうし、短いエイジング時間(例えば5日)に対して25%から長いエイジング時間(例えば29日)に対して90%まで変わり得、上記の量は、開始溶液又は懸濁物の重量に対して添加されるアセトンの量をいう。
【0034】
この実施態様において、TFA溶液又はTFA及びトリフルオロ酢酸無水物の混合物中における植物廃棄物の濃度は、好ましくは1重量%〜3重量%の間である。アセトンの添加及び機械的混合(例えば数分間)の後、この溶液について、上記のようなキャスト処理を行ってよい。溶媒ではないアセトンの使用は、重要な機能を果たし、これは、TFAを用いて共沸混合物を形成する際に、これにより、外気条件下でTFAがアセトンと共に揮発することが可能となり、植物廃棄物におけるセルロース部の部分的なアシル化を大部分に防ぐという点においてである。
【0035】
さらに別の実施態様において、本発明に係る方法は、標準的な溶媒抽出又は蒸留技術を用いたエッセンシャルオイル及び/又は酸化防止剤の抽出の後に、予め処理された植物廃棄物に対して適用してよい。そうして得られたプラスチック材料は、かかる化合物における顕著な初期還元(reduction)のために、抗菌性及び酸化防止性特性を有しない。
【0036】
付属の図面において:
図1は、トリフルオロ酢酸における処理時間に応じた、実施例1によるセルロースフィルム及びパセリから得られたフィルムの機械的特性(ヤング率、引張応力及び引張歪み)のヒストグラムを示す;
図2は、種々の植物源:パセリ、ココア、コメ及びホウレンソウから得られた生分解性フィルムに対する応力/変形(歪み)ダイヤグラムである;
図3は、TFA:TFAnと比較した、TFAを用いた実施例9により得られた生分解性フィルムに関する応力/変形(歪み)ダイヤグラムである。
【実施例】
【0037】
実施例1
微結晶性セルロース(MCC)又はワットマン紙からの純粋なセルロース繊維の溶液を、無水トリフルオロ酢酸中に1%〜3%のMCC又は紙を溶解させて調製した。この溶液は通常、3日後に透明となった。3日後、7日後、10日後及び14日後にこの溶液からのキャスト処理により、フィルムを得ることができる;これらのフィルムの機械的特性は、以下の実施例2におけるフィルムに対して得られた機械的特性と比較して図1に示されている。
【0038】
実施例2
パセリ加工処理工場から受け取るような乾燥パセリの茎のフレークを、実施例1に例示したのと同様の方法において溶解させることができ、例えば3日、7日、10日、及び14日、60日までの同じ期間の間、フィルムを調製することができる。図1は、これらのフィルムの機械的特性を、実施例1におけるフィルムの機械的特性と比較する。
【0039】
実施例3
チョコレート産業から得られたココア廃棄物(殻)を、実施例1に記載したように無水トリフルオロ酢酸中に溶解させることができる。ココア廃棄物からプラスチック材料のフィルムを得るためには、より長い処理時間が必要となる。フィルム形成状態を達成するためには、トリフルオロ酢酸中への溶解に理想的には25〜30日が必要である。
【0040】
実施例4
同様の方法において、実施例1において記載されるように脱水ホウレンソウ廃棄物をトリフルオロ酢酸中に溶解させることができる。しかし、実施例3において記載されるココア廃棄物の場合と同様に、ホウレンソウ廃棄物を25日より長い期間溶液中に保持する場合に、フィルムの製造のための最良の溶液が得られる。29日後にホウレンソウ廃棄物から得られるフィルムは、上記の他の実施例から得られるフィルムと比較して、柔軟であり、弾性である;これに関して、図2中の機械的特性を参照。
【0041】
実施例5
前述の実施例に記載されるように、脱水もみ殻廃棄物を処理してフィルムを製造することができる。しかし、実施例3及び4におけるように、もみ殻はトリフルオロ酢酸中においてより長い溶解時間を必要とする;その時間は、好ましくは25〜30日の間である。29日の酸中への浸漬後にコメ溶液からのキャスト処理によって良好な構造を有する薄い均一なフィルムを得ることができる(図2参照)。
【0042】
実施例6
上記の植物廃棄物の混合物からバイオフィルムを得ることもできる。例えば、実施例1において得られたセルロース溶液(好ましくは3又は7日後)を、実施例2においてパセリから得られた溶液(好ましくは29日後以降)と任意の比率で混合し、セルロース及びパセリの混合物を含むフィルムを形成することができる。
【0043】
実施例7
同様に、実施例1からのセルロース溶液を、実施例3においてココア廃棄物から得られた溶液、又は実施例4においてホウレンソウから得られた溶液、又はまた実施例5におけるもみ殻からの溶液と、任意の比率で混合してよく、ここで、全てのこれら植物廃棄物溶液を25日より長くエイジング処理されていることを確保する。
【0044】
実施例8
この溶液が少なくとも29日間の処理によって得られた場合には、任意の比率又は任意の組み合わせにおける実施例2、3、4又は5でのいずれの溶液から得られる混合物から形成されるバイオフィルムを得ることもできる。
【0045】
表1は、図2における植物源から得られたフィルムに対するヤング率、引張応力及び引張歪みに対する数値を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例9
0.5:1(体積)のTFAn対TFA比率を有するTFA及びTFAnの混合物を調製した。気密容器中でこの溶液を約10分間撹拌した。溶媒混合物中において3重量%の固体濃度を有する微結晶性セルロースの粒子をこの溶液に添加した;次に、そうして得られた混合物を、溶解が完了するまで数時間撹拌を続けた;45〜50℃の温度まで加熱することによって1時間未満まで溶解を加速させることができる。キャスト処理後に得られたフィルム形状でのプラスチック材料は、同じ条件下で無水TFAだけを用いて得られたフィルムと比較して、より高い引張歪み値及びより低いヤング率を示す。対応する機械的特性は以下の図3及び表2に示される。
【0048】
【表2】
【0049】
実施例10
溶媒混合物に対して1〜3重量%の廃棄物の濃度を用いて、1:2(体積)の比率でのTFAn:TFAの無水溶媒を用いた場合においても、実施例9による方法を、パセリ、ホウレンソウ、ココア、もみ殻等の脱水植物廃棄物を用いて繰り返した。この場合においても、溶媒混合物の使用は、脱水植物廃棄物の溶解速度の実施的な加速をもたらす。
【0050】
溶媒混合物中で3重量%の濃度で、処理材料を用いてキャスト処理することによって得られたフィルムの機械的特性を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例11
その手順は、1:2(体積)の比率、溶媒中1〜3重量%の濃度でのTFAn:TFAを含む溶媒混合物を用いて0.1〜1(重量)の比率においてセルロース及び脱水植物廃棄物の異なる混合物を用いて、実施例2におけるようであった;固体が溶解するまで数時間にわたってこの混合物を撹拌した;この溶媒が、数日から数時間に溶解速度を劇的に加速する。
【0053】
溶媒混合物中3重量%の濃度で、処理された材料を用いたキャスト処理によって得られたフィルムの機械的特性を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例12
その手順は実施例11におけるようであり、セルロース及び脱水植物廃棄物(パセリ、ホウレンソウ、ココア及びもみ殻)の混合物に代えて、1:2(体積)の比率で1〜3重量%の量でTFAa:TFAを含む溶媒混合物に添加された他の生分解性ポリマー、例えばポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル及びそのコポリマー、ポリ乳酸及びポリ乳酸コポリマー(0:1〜1:0のセルロース:ポリマー比率(重量))との種々のセルロース混合物を用いた;完全な溶解が数時間以内に生じるまでこの混合物を撹拌した。この溶媒は、数日から数時間に溶解速度を劇的に加速する。
【0056】
溶媒混合物中3重量%の濃度で、処理された材料を用いたキャスト処理によって得られたフィルムの機械的特性を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
実施例13
手順を実施例12に関するようにし、セルロース又はセルロースと生分解性ポリマーとの混合物に代えて、1:2(体積)の比率で1〜3重量%の量でTFAa:TFAを含む溶媒混合物に添加された非生分解性ポリマー(同じ溶媒に可溶)、例えばポリアクリレート樹脂等、及びポリアミド、例えばPMMA及びナイロンと組み合わせたセルロース(0:1〜1:0のセルロース:ポリマー比率(重量))を用いた;数時間の範囲内に固体が溶解するまでその混合物を溶解させた。この溶媒は、数日から数時間に溶解速度を劇的に加速する。
【0059】
溶媒混合物中3重量%の濃度で、処理された材料を用いたキャスト処理によって得られたフィルムの機械的特性を表5に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
実施例14
好ましくはポリマーに関して50重量%未満のセルロース又は植物廃棄物を含む実施例12及び13から得られたポリマー混合物は、この混合物の非セルロース成分は生物由来のポリエステル、ポリアクリレート及びポリアミド樹脂等の熱成形ポリマーであるため、種々の形状に押出し、成形することができる。このように、ナノ粒子又はナノウィスカの形状で合成し又は押出し中に別個に添加する(これは、別個に合成するにはさらに複雑で費用がかかる)ことなく、補強剤として、押出された最終生成物中にセルロースを自然に保持され存在させることができる。
【0062】
それゆえ本発明は、通常焼却されることを意図される植物廃棄物を再利用することができる方法を提供し、これにより、幅広い特性を有する生分解性プラスチック材料、例えば固有の酸化防止性および抗菌性特性、天然着色剤および芳香、及び抗菌性及び抗真菌性を特に有するもの、を得ることが可能となる。
【0063】
製造には高いエネルギー消費が必要とされない;そのプラスチック材料を、従来の成形及び押出し技術を用いて最終製品に変換することができる。
【0064】
これに加えて、得られたプラスチック材料は、水に不浸透性であり、従来の水-または有機-溶媒系のペイントを用いて塗布することができる。
本発明の好ましい態様は、以下を包含する。
[1]植物廃棄物材料から得られる生分解性プラスチック材料を製造する方法であって、該方法は:
a)その材料のセルロース部分が溶解し得るように、無水トリフルオロ酢酸を含む無水溶媒中に前記植物廃棄物材料を溶解させる操作、ここで、前記廃棄物材料は、その水含有量が前記セルロース部分の加水分解を引き起こすのに適当でない程度まで部分的に脱水されている、および
b)非加水分解化セルロース部分を含む溶液から溶媒を除去する操作
を含むことを特徴とする方法。
[2]前記廃棄物材料を、無水トリフルオロ酢酸およびトリフルオロ酢酸無水物からなる無水溶媒混合物中に溶解させることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]前記溶媒混合物は、トリフルオロ酢酸の体積に対して10〜50体積%の量のトリフルオロ酢酸無水物を含むことを特徴とする、[2]に記載の方法。
[4]段階a)における溶解から生じる生成物について、
c)溶媒の除去の前に、溶媒混合物から非溶解性成分を除去するためにろ過または遠心を行うことを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]a)において得られる生成物をトリフルオロ酢酸中の微結晶性セルロースの溶液と混合することを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記微結晶性セルロース溶液は、トリフルオロ酢酸中1重量%〜4重量%の含有量の微結晶性セルロースを有することを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7]a)またはc)において得られる溶解生成物を、トリフルオロ酢酸中の生分解性または生体適合性ポリマーの1以上の溶液と組み合わせることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[8]前記生分解性または生体適合性ポリマーは、ポリアミド、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、ポリビニルホルミル樹脂またはその混合物を含む群から選択されることを特徴とする、[7]に記載の方法。
[9]前記トリフルオロ酢酸中のポリマー溶液は、1重量%〜5重量%のポリマー濃度を有することを特徴とする、[8]に記載の方法。
[10]前記生分解性または生体適合性ポリマーの溶液を添加した、a)またはc)において得られる溶液は、繊維の製造のためにエレクトロスピニングが行われることを特徴とする、[7]、[8]または[9]に記載の方法。
[11]a)またはc)において得られる前記溶液を、トリフルオロ酢酸中の、特に麻繊維包装材料から得られる、廃棄物またはリサイクル植物繊維の溶液と組み合わせることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[12]トリフルオロ酢酸中の結晶性マイクロセルロース溶液またはトリフルオロ酢酸溶液中の生分解性または生体適合性ポリマー溶液を必要に応じて添加した、a)またはc)において得られる溶液は、モールド中においてキャスト処理が行われ、前記キャスト処理モールドにおいて溶媒の蒸発によって溶媒を除去することを特徴とする、[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[13]トリフルオロ酢酸溶液中の前記溶液を、溶媒の蒸発の前にアセトンを用いて希釈することを特徴とする、[12]に記載の方法。
[14]前記植物廃棄物材料は、植物廃棄物粉末を含み、0.5重量%〜5重量%の濃度において、前記無水溶媒に添加されることを特徴とする、[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]前記粉末は10μm〜200μmの寸法を有することを特徴とする、[14]に記載の方法。
[16]前記植物廃棄物は、セリ科またはヒユ科の種に属する食用植物を含むことを特徴とする、[1]〜[15]のいずれかに記載の方法。
[17]前記植物廃棄物材料は完全に脱水されることを特徴とする、[1]〜[16]のいずれかに記載の方法。
図1
図2
図3