【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、ENO ISO 14577−1(2002年版、バーコビッチ圧子及びオリバー及びファーによる解析法を用いた。)に従って測定したナノハードネス
HIT 0.005/5/1/5が4GPa以下であることを特徴とする、少なくとも90質量%のクロム含有量を有する金属粉末により、達成される。
【0007】
この場合、硬度値は、好適には、更なる後処理、例えばアニール、に曝されない金属粉末に関連する。ナノハードネス
HIT 0.005/5/1/5は、好ましくは3.7GPa以下であり、特に好ましくは3.4GPa以下である。非常に要求が厳しい場合、例えば非常に薄肉の部品については、3.1GPa以下のナノハードネス
HIT 0.005/5/1/5が役に立つ。非常に純粋なクロム粉末の場合には、1.4GPa以下のナノハードネスHIT 0.005/5/1/5が満たされる。この場合、ナノハードネスは、純粋なクロム相で測定される。純粋なクロム相が存在しない場合、ナノハードネスは、クロムが最も豊富な相(最も高いクロム含有量を有する相)で測定される。従って、本発明の金属粉末は、従来技術による金属粉末のナノハードネスに比較して顕著に低いナノハードネスを有する。本発明の粉末は、後工程の研削なしに製造されるので、BET値が好ましくは0.05m
2/g以上の表面積を有する非常に微細な粒の粉末の場合には、特徴的なナノハードネスが達成される。
この出願の範囲において、BET値による表面積の規定は、規格(ISO 9277:1995、測定範囲:0.01〜300m
2/g、装置:Gemini II 2370、加熱温度:130℃、加熱時間:2時間、吸着剤:窒素、5点決定法に依る容積分析)に従ったBET測定に関連する。
本発明の目的は、更に、ASTM B 312−09に従って550MPaの圧縮圧で測定したグリーンストレングスが7MPa以上、好ましくは10MPa以上、更に好ましくは15MPa以上、特に好ましくは20MPa以上であることを特徴とする、少なくとも90質量%のクロム含有量を有する金属粉末により達成される。比較的高いBET表面積を有する非常に純粋な粗粒のクロム粉末の場合、550MPaの圧縮圧において約50MPaまでのグリーンストレングスを有する金属粉末が得られる。この場合、ASTM B 312−09は、圧縮添加剤としてワックスが使用されているか否かは規定していない。本発明に依れば、圧縮添加剤として、ワックス、具体的には、0.6質量%のアミドワックス、即ち、リコワックス(登録商標) ミクロパウダー PM(LICOWAX Micropowder PM)(クラリアント(Clariant)社製,製品番号107075、CAS−No.00110−30−5)が使用される。
更に、グリーンストレングスは、好ましくは、以下の値を有する:圧縮圧450MPaにおいて、8MPa以上、好ましくは13MPa以上;圧縮圧300MPaにおいて、6MPa以上、好ましくは11MPa以上;圧縮圧250MPaにおいて、4MPa以上、好ましくは6MPa以上;圧縮圧150MPaにおいて、2MPa以上、好ましくは2.5MPa以上。圧縮圧450、300及び250MPaにおいて、それぞれ、18.5、13.0及び7.5MPa以上のグリーンストレングスを達成することができる。
【0008】
本発明による金属粉末は、粉末冶金法により、簡単な方法で、例えば圧縮及び焼結により、加工することができる。特に本発明の金属粉末を用いれば、薄肉領域、複雑な形状乃至は比較的不利な圧縮比を有する部品を、粉末冶金により、簡単に、優れた対費用効果で製造することが可能になる。
【0009】
ナノハードネス及びグリーンストレングスに関する特性は、クロム含有量が90質量%以上のときに達成することができる。従って、その他の金属の含有量は10質量%を超えることはない。この場合、その他の金属は、有利には、クロム相から分離して存在する。更に、その他の金属は、金属形態又は非金属形態で、好ましくは固相接着により、添加することができる。そのような粉末は、複合粉末と呼ばれる。その他の金属の一部分(好ましくは5質量%未満)は、クロム中に溶解し、クロム混合結晶を形成することができる。このような粉末は、合金化粉末と呼ばれる。このとき、金属粉末は、純粋なクロム相及び/又はクロム混合結晶相を含有する。例えば、La
2O
3(5質量%まで)又はCu(10質量%まで)を合金成分として挙げることができる。ここで、La
2O
3の場合はLa(OH)
3が、銅の場合はCuOが、Cr
2O
3と混合され、還元に供される。しかしながら、勿論、他の金属又は非金属も用い得る。
【0010】
好ましくは、金属粉末は、550MPaにおいて7MPa以上、好ましくは10MPa以上、更に好ましくは15MPa以上、特に好ましくは20MPa以上のグリーンストレングスと共に、4GPa以下、好ましくは3.7GPa以下、更に好ましくは3.4GPa以下、特に好ましくは3.1GPa以下のナノハードネス
HIT 0.005/5/1/5を有する。
【0011】
更に、本発明の金属粉末は、好ましくは、スポンジ状の粒子形状/モルフォロジー(粒子形状/モルフォロジーの分類に関しては、ランドール M.ジャーマン(Randall M.German)、パウダー メタラジー サイエンス(Powder Metallurgy Science);MPIF;Princeton,1994,第二版,63頁を参照。)を有する。これは、グリーンストレングスに好ましい効果を与える。
【0012】
スポンジ状粒子形状/モルフォロジーと低い硬度との結合により、比較的高い圧縮密度、就中、所与の密度における非常に高いグリーンストレングス、が可能になる。
【0013】
好ましい実施態様においては、金属粉末は、表面拡大操作なしに、0.05m
2/g以上のBET法に依る表面積を有することが規定されている。BET法に依る表面積は、好ましくは0.07m
2/g以上である。BET法に依れば0.25m
2/g以上の表面積を達成し得る。表面拡大操作なしにとは、この文脈において、「製造されたままの」を意味し、当業者に、金属粉末がその方法によって直接得られたものであり、研削操作に供されていないことを知らせる。そのような研削操作は、金属粉末のモルフォロジーにおいて認識することができる。というのは、研削操作中に、未研削の粉末には見られない平滑な破断面が形成されるからである。本発明に依れば、好ましくは、解砕(Deagglomeration)のみが起きる。
【0014】
一実施態様に依れば、本発明の金属粉末は、99.0質量%以上、好ましくは99.5質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上、特に好ましくは99.99質量%以上の金属純度、即ち、他の金属に対するクロム含有量を有する。金属純度は、この場合、非金属成分、例えば、酸素、炭素、窒素及び水素、を考慮しない金属粉末の純度と理解されるべきである。
【0015】
本発明の金属粉末の酸素含有量は、好ましくは、クロム1gあたり1,500μg以下、更に好ましくはクロム1gあたり1,000μg以下である。特に好ましい実施態様では、酸素含有量はクロム1gあたり500μg以下である。達成可能な炭素含有量は、非常に低く抑えることができ、好ましくはクロム1gあたり150μg以下、更に好ましくはクロム1gあたり150μg以下である。特に好ましい実施態様では、炭素含有量はクロム1gあたり50μg以下である。
【0016】
一実施態様において、金属粉末は、顆粒化されていてもよい。顆粒化は、典型的な方法、好ましくはスプレー顆粒化又は凝塊(Agglomeration)(この点に関して、ランドール M.ジャーマン(Randall M.German)、パウダー メタラジー サイエンス(Powder Metallurgy Science);MPIF;Princeton,1994,第二版,183〜184頁を参照。))、により行なうことができる。顆粒とは、この場合、例えば結合剤又は焼結ネック形成により、お互いに結合した、個々の粉末粒子の合一と理解すべきである。
【0017】
一実施態様において、金属粉末は、2.0g/cm
3以下の嵩密度を有する。嵩密度は、好ましくは0.1〜2g/cm
3、更に好ましくは、0.5〜1.5g/cm
3である。比較的高い嵩密度が、達成可能な粒子サイズ又はBET表面積(好ましくは0.05m
2/g以上)について達成し得るので、粉末は、圧縮操作中、良好な充填挙動を示す。
【0018】
更に、金属粉末は、550MPaの圧縮圧において、好ましくは、理論密度の80%以上の圧縮密度を有する。従って、高い焼結損失なしに、最終輪郭にぴったり合った部品を製造することができる。
【0019】
本発明の金属粉末は、酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を、所望により混合する固体炭素源と共に、少なくとも一時的に水素又は炭化水素を作用させることにより、還元することにより製造することができる。酸化クロム又は水酸化クロムとして、好ましくは、粉末形状のCr(III)化合物、例えば、Cr
2O
3、CrOOH、Cr(OH)
3、又は酸化クロムと水酸化クロムの混合物が考慮される。好ましいクロム源は、CrO
3である。最終製品の純度を高くするために、使用されるCr
2O
3は、少なくとも顔料品質を有することが好ましい。
【0020】
所望により固体炭素源を混合した、酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる化合物は、好ましくは、1,100℃≦T
R≦1,550℃を満足する温度T
Rに加熱され、所望によりこの温度に保持される。1,100℃未満の又は1,550℃を超える温度では、粉末特性が低下し、或いは、方法の対費用効果が低下する。反応は、温度T
Rを約1,200〜1,450℃の範囲から選択した場合に、工業的目的のために特に良好に進行する。
【0021】
本発明における温度範囲がより低い場合は、有利な90%の還元の程度T
Rに至るのに非常に長い保持時間が必要となるが、本発明における温度範囲がより高い場合は、保持時間を非常に短く設定することができるか又は全く省略することができる。還元の程度は、還元されないクロム化合物における全酸素存在量に対する、時間tまでに酸素に分解した酸化クロム又は水酸化クロムの物質量の、比として定義される。
【数1】
【0022】
実施例に基づいて、当業者は、簡単な方法で、彼の炉(連続炉、バッチ炉、最大可能炉温等)のための最適の温度及び時間の組合せを決定することができる。反応は、好ましくは、反応時間の30%以上、特に好ましくは50%以上に亘って、基本的に温度T
Rで一定に(等温に)保たれる。
【0023】
炭化水素の存在により、本発明による特性を有する粉末が、化学輸送法によって確実に形成される。反応の全圧は、有利には、0.95〜2バールである。2バールより高い圧力は、方法の対費用効果に不利な影響をもたらす。0.95バールより低い圧力は、結果として生じる炭化水素分圧に不利な影響をもたらし、これが、次に、ガス相を経由する輸送プロセスに非常に不利な影響を与え、本発明による粉末特性(例えば、硬度、グリーンストレングス、比表面積)の設定に大きく影響する。更に、0.95バール未満の圧力は、プロセスコストに不利な影響を与える。
【0024】
実施例は、炭化水素分圧が簡単なやり方で設定される方法を開示する。炭化水素は、好ましくはCH
4として提供される。好ましくは、少なくとも加熱操作の間、炭化水素分圧は、少なくとも一時的に5〜500ミリバールである。5ミリバール未満の炭化水素分圧は、粉末特性、特にグリーンストレングス、に不利な影響を与える。500ミリバールを超える炭化水素分圧は、還元された粉末の炭素含有量が高くなる結果を招く。残余のガス雰囲気は、この場合、好ましくは水素である。水素及び炭化水素の活動は、好適には、少なくとも、800℃〜1,050℃の温度範囲で起きる。この温度範囲において、炭化水素分圧は、好ましくは5〜500ミリバールである。出発物質から形成される反応混合物は、この場合、好ましくは少なくとも45分間、更に好ましくは60分間、この温度範囲にとどまる。この時間には、加熱操作及び他のあらゆる等温保持段階が含まれる。本発明のこの方法条件により、好ましくはT
R未満の温度で、酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物が、水素及び炭化水素の作用により、少なくとも部分的に反応して炭化クロムに転換することが、確実になる。好ましい炭化クロムは、Cr
3C
2、Cr
7C
3及びCr
23C
6である。炭化水素分圧によって生じる炭化クロムの部分的形成は、次に、粉末特性に好ましい効果をもたらす。更に、本発明による方法条件によって、炭化クロムが、反応混合物中に存在し及び/又は混合されている酸化クロム及び/又は水酸化クロムと反応することが確実となり、クロムを形成する。この際、T
Rでは、このプロセスが支配的となる。
【0025】
炭化水素は、反応系にガス状で、好ましくは固体炭素源を混合することなく、添加してもよい。好ましくは、この場合、酸化クロム及び水酸化クロムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物が、H
2-CH
4ガス混合物の一時的作用により還元される。好適には、H
2/CH
4容積比は、1〜200の範囲、更に好ましくは1.5〜20の範囲に選定される。H
2−CH
4ガス混合物の作用は、この場合、好ましくは、T
Rへの加熱段階の間に少なくとも一時的に起こり、このとき、粉末形状の形成に対する影響は、特に850〜1,000℃の温度範囲で非常に良好なものとなる。温度が約1,200℃に達すると、プロセスは、好適には、好ましくは−40℃未満の露点を有する純粋な水素雰囲気に切り換えられる。T
Rが1,200℃未満のとき、純粋な水素雰囲気への切り換えは、好ましくは、T
Rに到達したときに起きる。T
Rにおける等温段階及び室温への冷却は、有利には、水素雰囲気で起きる。特に冷却の間は、再酸化(Rueckoxidation)を避けるために、露点が−40℃未満の水素を使用するのが有利である。
【0026】
1つの実施態様において、固体炭素源は、酸化クロム及び/又は水酸化クロムと混合される。この場合、クロム化合物中の酸素1モルあたり、0.75〜1.25モルの間、より好ましくは0.90〜1.05モルの間の炭素を使用するのが好ましい。ここで、これは、クロム化合物との反応に利用し得る炭素量を意味する。特に好ましい態様では、炭素に対する酸素の比率は、化学量論量より僅かに低く、0.98である。固体炭素源は、好ましくは、カーボンブラック、活性炭、黒鉛、炭素放出化合物、又はこれらの混合物の群から選ばれる。炭素放出化合物の例として、炭化クロム、例えば、Cr
3C
2、Cr
7C
3及びCr
23C
6を挙げることができる。粉末混合物は水素含有雰囲気においてT
Rまで加熱される。このとき、H
2圧は、少なくとも800℃〜1,050℃の温度範囲において、5〜500ミリバールのCH
4分圧が生じるように設定するのが好ましい。有利には、T
Rにおける等温段階及び室温への冷却が、水素雰囲気下で再び起きる。これらのプロセス段階の間、水素の存在は不要である。これらのプロセス段階の間及び冷却段階の間、水素は、再酸化を防ぐ。冷却段階の間、露点が−40℃未満の水素雰囲気を用いるのが有利である。
【0027】
本発明の更なる利点及び詳細を、以下、実施例及び図に基づいて説明する。