(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559143
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】並列のねじり振動ダンパを備えるトルクコンバータ
(51)【国際特許分類】
F16H 45/02 20060101AFI20190805BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
F16H45/02 Y
F16H45/02 X
F16F15/134 A
F16F15/134 B
F16F15/134 D
【請求項の数】20
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-545924(P2016-545924)
(86)(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公表番号】特表2017-503131(P2017-503131A)
(43)【公表日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】US2014069781
(87)【国際公開番号】WO2015105618
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2017年12月8日
(31)【優先権主張番号】61/925,913
(32)【優先日】2014年1月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー ブラフ
【審査官】
前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−91099(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0149440(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
F16F 15/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクを受け取るように配置されたカバーと、
前記カバーに回転不能に接続されたポンプシェルを有するポンプと、
前記ポンプに液圧的に連結され、かつ軸方向移動可能なタービンシェルを有するタービンと、
前記タービンシェルの半径方向最も外側の部分と、前記ポンプシェルの部分と、前記タービンシェルの半径方向最も外側の部分と前記ポンプシェルの部分との間に配置された摩擦材料と、を含むタービンクラッチと、
前記タービンシェルに回転不能に接続された第1の入力プレートと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力フランジと、前記第1の入力プレート又は前記出力フランジに係合する複数のばねと、を有する第1のねじり振動ダンパと、
第2の入力プレートと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力プレートと、前記第2の入力プレート及び前記出力プレートに係合する少なくとも1つの第1のばねと、を有する第2のねじり振動ダンパと、
前記カバーと前記第2の入力プレートとを回転不能に接続するように配置された軸方向移動可能なピストンプレートを有するロックアップクラッチと、
第1の加圧流体を供給して前記タービンクラッチを開放するように配置された第1の流体回路と、
第2の加圧流体を供給して前記タービンクラッチを閉鎖又は前記ロックアップクラッチを開放するように配置された第2の流体回路と、
第3の加圧流体を供給して前記ロックアップクラッチを閉鎖するように配置された第3の流体回路と、
を備えるトルクコンバータ。
【請求項2】
前記ロックアップクラッチを開放又は閉鎖状態に維持する一方、前記タービンクラッチを閉鎖するように、又は、
前記ロックアップクラッチを開放又は閉鎖状態に維持する一方、前記タービンクラッチを開放するように、
前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項3】
前記タービンクラッチを開放状態に維持する一方、前記ロックアップクラッチを閉鎖するように、又は、
前記タービンクラッチを閉鎖状態に維持する一方、前記ロックアップクラッチを開放するように、
前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項4】
前記ロックアップクラッチを閉鎖又は開放する一方、前記タービンクラッチを閉鎖するように、又は、
前記ロックアップクラッチを閉鎖又は開放する一方、前記タービンクラッチを開放するように、
前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項5】
前記タービンクラッチを閉鎖又は開放する一方、前記ロックアップクラッチを閉鎖するように、又は、
前記タービンクラッチを閉鎖又は開放する一方、前記ロックアップクラッチを開放するように、
前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項6】
前記タービンクラッチと前記ロックアップクラッチを同時に開放又は閉鎖するように、又は、
前記タービンクラッチと前記ロックアップクラッチを同時に開放状態又は閉鎖状態に維持するように、
前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項7】
前記第2の入力プレートを前記カバーから分離する一方、前記カバーから前記出力フランジに到るトルク経路が形成されるように、前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能であり、又は、
前記タービンシェルと前記カバーとの間の相対回転を可能にする一方、前記カバーから前記出力プレートへのトルク経路が形成されるように、前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項8】
前記カバーから前記タービンクラッチを通って前記出力フランジに到る第1のトルク経路と、
前記第1のトルク経路とは分離された、前記カバーから前記ロックアップクラッチを通って前記出力プレートに到る第2のトルク経路と
を同時に形成するように、前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項9】
少なくとも部分的に前記ポンプと前記タービンとによって形成される第1のチャンバと、
少なくとも部分的に前記カバーと前記タービンシェルとによって形成される第2のチャンバと、をさらに備え、
前記第1の流体回路は、前記第1の加圧流体を前記第1のチャンバへと供給するように配置されており、
前記第2の流体回路は、前記第2の加圧流体を前記第2のチャンバへと供給するように配置されている、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項10】
少なくとも部分的に前記カバーと前記タービンシェルとによって形成される第1のチャンバと、
少なくとも部分的に前記カバーと前記ピストンプレートとによって形成される第2のチャンバと、をさらに備え、
前記第2の流体回路は、前記第2の加圧流体を前記第1のチャンバへと供給するように配置されており、
前記第3の流体回路は、前記第3の加圧流体を前記第2のチャンバへと供給するように配置されている、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項11】
前記第2のチャンバは、前記第1のチャンバに対してシールされている、請求項10記載のトルクコンバータ。
【請求項12】
前記第1のねじり振動ダンパは、第1のカバープレートを有し、
前記複数のばねは、第2のばね及び第3のばねを有し、
第1の入力プレートと前記第1のカバープレートとは、前記第2のばねに係合し、
前記第1のカバープレートと前記出力フランジとは、前記第3のばねに係合している、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項13】
前記第2のねじり振動ダンパは、前記カバーに回転不能に接続された圧力プレートを有し、
前記第2の入力プレートの少なくとも一部は、軸方向で前記ピストンプレートと前記圧力プレートとの間に位置している、請求項1記載のトルクコンバータ。
【請求項14】
トルクを受け取るように配置されたカバーと、
前記カバーに回転不能に接続されたポンプシェルを有するポンプと、
軸方向移動可能なタービンシェルを有するタービンと、
前記タービンシェルの半径方向最も外側の部分と、前記ポンプシェルの部分と、前記タービンシェルの半径方向最も外側の部分と前記ポンプシェルの部分との間に配置された摩擦材料と、を含むタービンクラッチと、
前記タービンシェルに回転不能に接続された第1の入力プレートと、第1のカバープレートと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力フランジと、複数のばねであって、該複数のばねにおける第1のばねはそれぞれ、前記第1の入力プレート、又は前記第1のカバープレート、又は前記出力フランジの少なくとも1つに係合する、複数のばねと、を有する第1のねじり振動ダンパと、
第2の入力プレートと、トランスミッション用の前記入力軸に回転不能に接続するように配置された出力プレートと、前記第2の入力プレート及び前記出力プレートに係合する第2のばねと、を有する第2のねじり振動ダンパと、
前記カバーと前記第2の入力プレートとを回転不能に接続するように配置された軸方向移動可能なピストンプレートを有するロックアップクラッチと、
を備えるトルクコンバータ。
【請求項15】
前記タービンクラッチの作動は、前記ロックアップクラッチの作動とは独立しており、
前記ロックアップクラッチの作動は、前記タービンクラッチの作動とは独立している、請求項14記載のトルクコンバータ。
【請求項16】
加圧流体を供給して前記タービンクラッチを開放するように配置された第1の流体回路と、
加圧流体を供給して前記タービンクラッチを閉鎖するか又は前記ロックアップクラッチを開放するように配置された第2の流体回路と、
加圧流体を供給して前記ロックアップクラッチを閉鎖するように配置された第3の流体回路と、
をさらに備える、請求項14記載のトルクコンバータ。
【請求項17】
前記第2の入力プレートを前記カバーから分離する一方、前記カバーから前記出力フランジに到る第1のトルク経路が形成されるように、又は、
前記タービンシェルと前記カバーとの間の相対回転を可能にする一方、前記カバーから前記出力プレートに到る第2のトルク経路が形成されるように、又は、
前記カバーから前記第1のねじり振動ダンパを通って前記出力フランジに到る第1のトルク経路と、前記カバーから前記第2のねじり振動ダンパを通って前記出力プレートに到る第2のトルク経路とが、同時に形成されるように、
前記第1の流体回路、前記第2の流体回路及び前記第3の流体回路が制御可能である、請求項16記載のトルクコンバータ。
【請求項18】
少なくとも部分的に前記ポンプと前記タービンとによって形成され、前記第1の流体回路に接続される第1のチャンバと、
少なくとも部分的に前記カバーと前記タービンシェルとによって形成され、前記第2の流体回路に接続される第2のチャンバと、
少なくとも部分的に前記カバーと前記ピストンプレートとによって形成され、前記第3の流体回路に接続される第3のチャンバと、
をさらに備える、請求項16記載のトルクコンバータ。
【請求項19】
トルクを受け取るように配置されたカバーと、
前記カバーに回転不能に接続されたポンプシェルを有するポンプと、
軸方向移動可能なタービンシェルを有するタービンと、
前記タービンシェルの半径方向最も外側の部分と、前記ポンプシェルの部分と、前記タービンシェルの半径方向最も外側の部分と前記ポンプシェルの部分との間に配置された摩擦材料と、を含むタービンクラッチと、
複数のばねと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力フランジと、を有する第1のねじり振動ダンパと、
少なくとも1つのばねと、前記入力軸に回転不能に接続されるように配置された出力プレートと、を有する第2のねじり振動ダンパと、
前記カバーと前記第2のねじり振動ダンパの第2の入力プレートとを回転不能に接続するように配置された軸方向移動可能なピストンプレートを有するロックアップクラッチと、
前記タービンクラッチが閉鎖されている際に、前記タービンシェルから前記第1のねじり振動ダンパを通って前記出力フランジに到る第1のトルク経路と、
前記ロックアップクラッチが閉鎖されている際に、前記第1のトルク経路とは分離された、前記カバーから前記第2のねじり振動ダンパを通って前記出力プレートに到る第2のトルク経路と、
を備えるトルクコンバータ。
【請求項20】
前記タービンクラッチと前記ロックアップクラッチが、同時に開放又は同時に閉鎖されるように配置されているか、又は、
前記ロックアップクラッチを開放又は閉鎖する間、前記タービンクラッチが開放又は閉鎖されるように配置されているか、又は、
前記タービンクラッチを開放又は閉鎖する間、前記ロックアップクラッチが開放又は閉鎖されるように配置されている、請求項19記載のトルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年1月10日に出願された米国仮特許出願第61/925,913号の合衆国第35法典第119条(e)に基づく利益を主張するものであり、この出願は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本開示は、並列のねじり振動ダンパとこれに付随するクラッチとを有するトルクコンバータに関する。この付随のクラッチを介して、トルクは単独の又は並列のダンパを通して伝達される。このトルクコンバータは、付随のクラッチの独立的な作動を可能にするように配置された3つの流体回路を有する。
【背景技術】
【0003】
トルクコンバータにおいて単一のねじり振動ダンパ又は直列のねじり振動ダンパを使用することが知られている。上記構成は、トルクコンバータのカバーから、ダンパ構造を通ってトルクコンバータの出力へと到るトルク経路を提供する。通常、ダンパは、ダンパにかけられると予想されるトルク負荷に合わせて調整される。例えば、ダンパにおけるばねのバネ定数は、予想されるトルク負荷に応じて選択される。例えば2気筒モードに伴う比較的低いトルク負荷に対しては、バネ定数は比較的低くなければならず、例えば4気筒エンジンで生じる比較的高いトルク負荷に対しては、バネ定数は比較的高くなければならない。しかしながら、上記の要求では、ダンパにかけられると予想されるトルク負荷があまりにも広い範囲を含む場合、矛盾が生じる。例えば、2気筒モードが可能な4気筒エンジンでは、4気筒モードでの運転には上述した比較的高いバネ定数が必要である。しかしながら、バネ定数が比較的高いと、2気筒モードにとってはダンパの効果がなくなってしまう。即ち、比較的高いバネ定数により、ダンパは、2気筒モードにおいては過度に堅く、望ましくない振動量がダンパを通過する。
【0004】
米国特許第7,044,279号明細書には、トルクコンバータ内での2つのクラッチの使用が開示されている。しかしながら、米国特許第7,044,279号明細書は単一のダンパを教示している。従って、クラッチが閉鎖されているにもかかわらず、全ての振動減衰がこの単一のダンパのバネ定数に関連付けられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で説明する態様によると、トルクを受け取るように配置されたカバーと、ポンプと、ポンプに液圧的に連結され、かつタービンシェルを有するタービンと、タービンシェルの半径方向最も外側の部分を有するタービンクラッチと、タービンシェルに回転不能に接続された第1の入力プレートと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力フランジと、第1の入力プレート又は出力フランジに係合する複数のばねとを有する第1のねじり振動ダンパと、第2の入力プレートと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力プレートと、第2の入力プレート及び出力プレートに係合する少なくとも1つの第1のばねとを有する第2のねじり振動ダンパと、カバーと第2の入力プレートとを回転不能に接続するように配置された軸方向移動可能なピストンプレートを有するロックアップクラッチと、第1の加圧流体を供給してタービンクラッチを開放するように配置された第1の流体回路と、第2の加圧流体を供給してタービンクラッチを閉鎖するか又はロックアップクラッチを開放するように配置された第2の流体回路と、第3の加圧流体を供給してロックアップクラッチを閉鎖するように配置された第3の流体回路と、を備えるトルクコンバータが提供される。
【0006】
本明細書で説明する態様によると、トルクを受け取るように配置されたカバーと、カバーに回転不能に接続されたポンプと、タービンシェルを有するタービンと、タービンシェルの半径方向最も外側の部分を有するタービンクラッチと、タービンシェルに回転不能に接続された第1の入力プレートと、第1のカバープレートと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力フランジと、複数のばねであって、複数のばねにおける第1のばねはそれぞれ、第1の入力プレート、又は第1のカバープレート、又は第1の出力フランジの少なくとも1つに係合する複数のばねと、を有する第1のねじり振動ダンパと、第2の入力プレートと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力プレートと、第2の入力プレート及び出力プレートに係合する第2のばねと、を有する第2のねじり振動ダンパと、カバーと第2の入力プレートとを回転不能に接続するように配置された軸方向移動可能なピストンプレートを有するロックアップクラッチと、を備えるトルクコンバータが提供される。
【0007】
本明細書で説明する態様によると、トルクを受け取るように配置されたカバーと、カバーに回転不能に接続されたポンプと、タービンシェルを有するタービンと、タービンシェルの半径方向最も外側の部分を有するタービンクラッチと、複数のばねと、トランスミッション用の入力軸に回転不能に接続するように配置された出力フランジとを有する第1のねじり振動ダンパと、少なくとも1つのばねと、入力軸に回転不能に接続されるように配置された出力プレートとを有する第2のねじり振動ダンパと、ロックアップクラッチと、タービンクラッチが閉鎖されている際に、タービンシェルから第1の振動ダンパを通って出力フランジに到る第1のトルク経路と、ロックアップクラッチが閉鎖されている際に、第1のトルク経路とは分離された、カバーから第2の振動ダンパを通って出力プレートに到る第2のトルク経路と、を備えるトルクコンバータが提供される。ロックアップクラッチを開放又は閉鎖する間、タービンクラッチが開放又は閉鎖されるように配置されているか、又はタービンクラッチを開放又は閉鎖する間、ロックアップクラッチが開放又は閉鎖されるように配置されている。
【0008】
様々な実施の形態は、添付の概略的な図面に関連して例としてのみ開示されている。図面では、対応する参照符号は対応する部材を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本願において使用される空間に関する用語を説明する円柱座標系の斜視図である。
【
図1B】本願において使用される空間に関する用語を説明する
図1Aの円柱座標系内の物体の斜視図である。
【
図2】並列のねじり振動ダンパを備えるトルクコンバータを示す部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、異なる図面における同じ図面番号は、本開示の同一又は機能的に類似の構造要素を識別していることを認識すべきである。請求の範囲に記載の開示は、開示された態様に限定されないことを理解すべきである。
【0011】
さらに、この開示は、特定の方法、材料及び記載された変更に限定されるのではなく、もちろん変更されてよいことが理解される。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明する目的のためだけのものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことも理解される。
【0012】
別段の記載がある場合を除き、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で説明されたものと類似又は均等なあらゆる方法、装置又は材料を、本開示の実施又は試験において使用できることを理解すべきである。
【0013】
図1Aは、本願において使用される空間に関する用語を説明する円柱座標系80の斜視図である。本発明は、少なくとも部分的に円柱座標系に関して説明される。系80は、以下の方向及び空間に関する用語の基準として使用される長手方向軸線81を有する。軸方向ADは、軸線81に対して平行である。半径方向RDは、軸線81に対して垂直である。周方向CDは、軸線81を中心として回転する(軸線81に対して垂直な)半径Rの終端点によって規定されている。
【0014】
空間に関する用語を明らかにするために、物体84,85及び86を使用する。物体84の面87は、軸方向平面を形成している。例えば軸線81は面87と一致する。物体85の面88は、半径方向平面を形成している。例えば半径82は面88と一致する。物体86の面89は、周方向面を形成している。例えば円周83は面89と一致する。別の例として、軸方向の移動又は配置は、軸線81に対して平行であり、半径方向の移動又は配置は、軸線81に対して垂直であり、周方向の移動又は配置は、円周83に対して平行である。回転は、軸線81に関する。
【0015】
「軸方向に」、「半径方向に」及び「周方向に」という副詞は、それぞれ軸線81、半径82又は円周83に対して平行な向きに関するものである。「軸方向に」、「半径方向に」及び「周方向に」という副詞は、それぞれの平面に対して平行な向きにも関する。
【0016】
図1Bは、本願において使用される空間に関する用語を説明する、
図1Aの円柱座標系80内の物体90の斜視図である。円筒状の物体90は、円柱座標系内の円筒状の物体を表し、本発明を限定することは意図されていない。物体90は、軸方向の面91と、半径方向の面92と、周方向の面93とを有する。面91は、軸方向平面の一部であり、面92は、半径方向平面の一部である。
【0017】
図2は、並列のねじり振動ダンパを備えるトルクコンバータ100の部分的な断面図である。トルクコンバータ100は、例えばエンジン(図示せず)からのトルクを受け取るように配置されたカバー102と、カバー102からのトルクを受け取るように配置されたポンプ104と、タービンシェル108を有するタービン106と、軸方向でポンプ104とタービン106との間に位置するステータ109と、を備えている。例示の実施形態では、ポンプ104用のポンプシェル110は、カバー102に回転不能に接続されている。トルクコンバータ100は、タービンクラッチ112と、ねじり振動ダンパ114と、ねじり振動ダンパ116と、ロックアップクラッチ118と、を有している。以下にさらに説明するように、ダンパ114と116とは並列に作動する。即ち、カバー102からのトルクは、ダンパ114のみを通るように、又はダンパ116のみを通るように、又はダンパ114と116両方を通るように方向付けることができる。
【0018】
「回転不能に接続されている」構成部分とは、第1の構成部分が回転するときには常に、第2の構成部分が第1の構成部分と共に回転し、第2の構成部分が回転するときには常に、第1の構成部分が第2の構成部分と共に回転するように、第1の構成部分が第2の構成部分に接続されていることを意味している。第1の構成部分と第2の構成部分との間の軸方向の移動は可能である。
【0019】
クラッチ112は、タービンシェル108の半径方向最も外側の部分108Aと、ポンプシェル110の部分110Aと、部分108Aと110Aとの間の摩擦材料Fとを含む。部分108Aは、
図2に示すように、シェル108に一体成形されているか、又は、図示していない実施形態では、シェル108とは別個であって、シェル108に回転不能に接続されている。ダンパ114は、タービンシェル108に回転不能に接続された入力プレート120と、例えばスプライン接続部125を介してトランスミッション用の入力軸124に回転不能に接続するように配置された出力フランジ122と、プレート120又は出力フランジ122に係合するばね126A及び126Bと、を有している。ダンパ116は、入力プレート128と、例えばスプライン接続部131を介して入力軸124に回転不能に接続されるように配置された出力プレート130と、入力プレート128及び出力プレート130に係合する少なくとも1つのばね132と、を有している。例示の実施形態では、出力プレート130は、接続プレート129に回転不能に接続されている。ロックアップクラッチ118は、カバー102と入力プレート128とを回転不能に接続するように配置された、軸方向移動可能なピストンプレート133を有している。
【0020】
タービンクラッチ112の作動は、ロックアップクラッチ118の作動とは独立しており、ロックアップクラッチ118の作動は、タービンクラッチ112の作動とは独立して行われる。例えば、クラッチ118を開放又は閉鎖する一方でクラッチ112を閉鎖又は開放することができ、クラッチ112を開放又は閉鎖する一方でクラッチ118を閉鎖又は開放することができる。
【0021】
トルクコンバータ100は3経路トルクコンバータであって、例えばコンバータ100は、3つの別個に制御可能な流体回路134,136,138を有している。流体回路134は、加圧流体F1を、トーラス/チャンバ140へと供給し、タービンクラッチ112を開放するように配置されている。流体回路136は、加圧流体F2を供給して、タービンクラッチ112を閉鎖するように、又はロックアップクラッチ118を開放するように配置されている。流体回路138は、加圧流体F3を供給して、ロックアップクラッチ118を閉鎖するように配置されている。
【0022】
以下にさらに説明するように、回路134,136,138は、以下のように制御可能である。すなわち、クラッチ118を開放又は閉鎖するか又はロックアップクラッチ118を開放又は閉鎖に維持する一方、タービンクラッチ112を開放又は閉鎖する;クラッチ118を開放又は閉鎖するか又はロックアップクラッチ118を開放又は閉鎖に維持する一方、タービンクラッチ112を開放又は閉鎖に維持する;タービンクラッチ112を開放又は閉鎖するか又はタービンクラッチ112を開放又は閉鎖に維持する一方、ロックアップクラッチ118を開放又は閉鎖する;タービンクラッチ112を開放又は閉鎖するか又はタービンクラッチ112を開放又は閉鎖に維持する一方、ロックアップクラッチ118を開放又は閉鎖に維持する。例示の実施形態では、回路134,136,138はそれぞれ通路CH1,CH2,CH3を有している。通路CH1は、ポンプハブ141とステータ軸143とによって形成される。通路CH2は、主として軸124と143とによって形成されている。通路CH3は、軸124内の中心孔によって形成されている。
【0023】
例示の実施形態では、トルクコンバータ100は、チャンバ140,142,144を有する。チャンバ140は、少なくとも部分的にポンプ104とタービン106とによって形成されるトーラスである。回路134は流体F1をチャンバ140へと供給する。チャンバ142は、少なくとも部分的にカバー102とシェル108とによって形成されている。回路136は流体F2をチャンバ142へと供給する。チャンバ144は、少なくとも部分的にカバー102とピストン133とによって形成されている。回路138は流体F3をチャンバ144へと供給する。
【0024】
トルクコンバータ100の作動例は以下の通りである。トルクコンバータモードでの作動のために、即ち、カバー102から入力軸124へと、ポンプ104とタービン106との流体接続によってトルクを伝えるために(トルク経路146を形成するために)、回路134,136,138は以下のように操作される。チャンバ140内の圧力はチャンバ142内の圧力よりも高く、タービン108を軸方向AD1へ移動させ、クラッチ112を開放する。チャンバ142内の圧力はチャンバ144内の圧力よりも高く、ピストン133を軸方向AD1へ移動させ、クラッチ118を開放する。
【0025】
第1のロックアップモードでの作動のために、即ち、カバー102から入力軸124へと、ダンパ114を介してトルクを伝えるために(トルク経路148を形成するために)、回路134,136,138は以下のように操作される。チャンバ142内の圧力はチャンバ140内の圧力よりも高く、タービン108を軸方向AD2へ移動させ、部分108Aと110Aと摩擦材料Fとを摩擦的に係合させ、クラッチ112を閉鎖する。チャンバ142内の圧力はチャンバ144内の圧力よりも高く、ピストン133を軸方向AD1へ移動させ、クラッチ118を開放する。
【0026】
第2のロックアップモードでの作動のために、即ち、カバー102から入力軸124へと、ダンパ116を介してトルクを伝えるために(トルク経路150を形成するために)、回路134,136,138は以下のように操作される。チャンバ140内の圧力はチャンバ142内の圧力よりも高く、タービン108を軸方向AD1へ移動させ、クラッチ112を開放する。チャンバ144内の圧力はチャンバ142内の圧力よりも高く、ピストン133を軸方向AD2へ移動させ、クラッチ118を閉鎖する。第2のロックアップモードでは、シェル108とカバー102との相対回転が可能である。
【0027】
第1のロックアップモードと第2のロックアップモードとを組み合わせた作動のために、即ち、トルク経路148と150とを同時に形成するために、回路134,136,138は以下の通り作動される。チャンバ142内の圧力はチャンバ140内の圧力よりも高く、タービン108を軸方向AD2へ移動させ、クラッチ112を閉鎖する。チャンバ144内の圧力はチャンバ142内の圧力よりも高く、ピストン133を軸方向AD2へ移動させ、クラッチ118を閉鎖する。
【0028】
例示の実施形態では、ダンパ114は、ばね126Aと126Bとに係合するカバープレート152を有している。トルクコンバータモードでは、トルク経路146は、シェル108を通って、カバープレート152、ばね126B、フランジ122を通って軸124に到る。第1のロックアップモードでは、トルク経路148は、部分108Aから、プレート120、ばね126A、プレート152、ばね126B、及びフランジ122を通って軸124に到る。
【0029】
例示の実施形態では、ダンパ114は、カバープレート152に回転不能に接続されたカバープレート154と、プレート154に接続された振り子アッセンブリ156と、を備えている。アッセンブリ156は、カバープレート154を貫通し、カバープレート154に対して限定的に移動可能な接続部材158と、振り子質量体160A及び160Bと、を備える。質量体160Aと160Bは、カバープレート154の互いに逆側の半径方向面S1及びS2に配置され、部材158によって互いに接続されており、部材158への接続によりカバープレート154に対して移動可能である。
【0030】
例示の実施形態では、クラッチ118は、摩擦材料Fと、カバー102に回転不能に接続された圧力プレート162とを備えている。入力プレート128は、軸方向でピストン133とプレート162との間に配置されている。摩擦材料Fは、ピストン133とプレート128との間及びプレート128と162との間に位置している。ピストン133が方向AD1に移動すると、プレート128は、プレート162とカバー102に対して回転可能である(クラッチ118は開放される)。ピストン133が方向AD2に移動すると、プレート128とピストン133とは、摩擦材料Fを介して摩擦接続的に係合し、プレート128と162とは、摩擦材料Fを介して摩擦接続的に係合し、プレート128はカバー102と共に回転する(クラッチ118は閉じられる)。
【0031】
例示の実施形態では、クラッチ118は、カバー102に回転不能に接続された外側キャリア164と、プレート162に回転不能に接続された内側キャリア166とを備えている。ピストン133と入力プレート128とは、キャリア164に対して軸方向で移動可能であって、例えばスプライン接続部168を介して、キャリア166に対して回転可能に固定されている。例示の実施形態では、ピストン133は軸方向で移動可能であるが、シール170は、チャンバ142に対してチャンバ144をシールしている。例示の実施形態では、プレート162は、チャンバ内での流体のより迅速かつより一様な分散を可能にするために、孔172を有している。
【0032】
例示の実施形態では、プレート130は、ダンパ114に回転不能に接続され、例えばリベットRがプレート130へと延在している。前述した配置により、プレート130からのトルクも、ばね126Bとフランジ122とを通る。即ち、クラッチ112又は118のいずれかを通るトルクは、ばね126Bを通る。従って、ダンパ116と、プレート152、ばね126B、フランジ122との組み合わせは、実質的に従来の直列ダンパとして作動する。
【0033】
例示の実施形態では、トルクコンバータ100はプレート176を備える。プレート176とカバー102とは、通路CH3に接続された通路CH4とチャンバ144とを形成する。
【0034】
例示の実施形態(図示せず)では、プレート129は、入力軸124に直接接続して終端するのではなく、フランジ122に回転不能に接続されている。例示の実施形態(図示せず)では、フランジ122は、入力軸124に直接接続して終端するのではなく、プレート129に回転不能に接続されている。
【0035】
有利には、クラッチ112とダンパ114によって、及びクラッチ118とダンパ116とによって並列作動が可能であることにより、上述したような、例えば2気筒モード及び4気筒運転に伴うような異なるトルク負荷に対する振動減衰に関する課題が解決される。例えば、一方のダンパ114又は116では、低いトルク負荷に対して最適な減衰を提供するためにバネ定数を比較的低くなるように選択する一方、他方のダンパ114又は116のバネ定数は、重いトルク負荷のためにより高く選択することができる。さらに、両ダンパ114及び116を並列に作動させることによって、より高いトルク負荷を受け取ることができる。流体回路134,136,138と流体チャンバ140,142,144とにより、クラッチ112と118の独立した作動が可能であり、これにより、トルク経路148と150の独立又は並列の実装が可能になる。
【0036】
さらに、ダンパ114又は116は、スロットル位置に関連する特定のトルク負荷を受容するために、コンバータ100へのエンジン供給トルクのためのスロットル位置に応じて段階付けることができる。
【0037】
上に開示された特徴及び機能並びにその他の特徴及び機能、又はそれらに代替するものは、望ましくは多くのその他の異なるシステム又は用途に組み合わされてよいことが認められるであろう。現時点では予想又は予期されない様々な代替、修正、変更又は改良が、引き続き当業者によってなされてよく、これらについても、以下の請求の範囲に包含されることが意図されている。