特許第6559193号(P6559193)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559193
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】点火プラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/02 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   H01T13/02
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-158288(P2017-158288)
(22)【出願日】2017年8月18日
(65)【公開番号】特開2019-36492(P2019-36492A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2018年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】特許業務法人鳳国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 奨
【審査官】 内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−286612(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0202599(US,A1)
【文献】 特開2013−55033(JP,A)
【文献】 特開2005−149896(JP,A)
【文献】 特開平9−139276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 〜 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸線に沿って延びる棒状体であり、後端側が前記軸孔内に配置され、先端側が前記絶縁体より先端側に突出した中心電極と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記主体金具の先端部に接続された接続端部と、前記接続端部とは反対側で、前記中心電極との間に間隙を形成して対向する自由端部と、を備える棒状の接地電極と、
を備える点火プラグであって、
前記中心電極、前記主体金具の前記先端部、前記絶縁体のうち前記主体金具の前記先端部に包囲される包囲部、及び、前記接地電極の前記接続端部を前記軸線に沿って投影した、前記軸線に垂直な仮想平面において、
前記軸線から前記接続端部に対して引かれた2本の接線の間の前記接続端部が位置する範囲を含み、前記軸線を通り、前記軸線と前記接続端部の中心とを結ぶ線と垂直な線よりも前記接続端部側に位置する周方向の範囲を第1の範囲とし、
前記第1の範囲を除いた周方向の範囲を第2の範囲とするとき、
前記第2の範囲における前記先端部の内周面を示す第2の線は、前記軸線を示す点を中心とする円の弧であり、
前記第1の範囲における前記先端部の内周面を示す第1の線は、前記円よりも外周側に配置され、
前記第1の線の少なくとも一部は、前記第2の線との接続点から、前記接続点を通り前記円に正接する直線よりも外周側に延び、
前記第1の範囲における前記絶縁体の前記包囲部と前記主体金具の前記先端部との距離D1は、前記第2の範囲における前記包囲部と前記先端部との距離D2よりも大きいことを特徴とする、点火プラグ。
【請求項2】
請求項1に記載の点火プラグであって、
前記仮想平面において、
前記第1の範囲は、前記軸線と前記接続端部の中心とを結ぶ線を中心とする120度以内の範囲であることを特徴とする、点火プラグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の点火プラグであって、
前記仮想平面において、
前記第1の線と前記第2の線との2個の前記接続点は、前記軸線と前記接続端部の中心とを結ぶ線に対して、線対称であることを特徴とする、点火プラグ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記距離D1は、1.5mm以下であることを特徴とする、点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、内燃機関等において燃料ガスに点火するための点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられる点火プラグとして、主体金具に接続された接地電極と、中心電極と、の間に電圧が印加されることによって、中心電極の先端部と接地電極の先端部との間に形成されたギャップに、放電を発生させる。
【0003】
内燃機関の設計の自由度を確保する観点から、点火プラグの小径化が求められている。点火プラグが小径化するほど、主体金具も小径化するため、中心電極と主体金具との間の径方向の距離を確保することが困難になる。このために、点火プラグが小径化するほど、中心電極と、主体金具の先端の近傍と、の間に、絶縁体の表面を介して、放電が発生する不具合(横飛火とも呼ぶ)が発生しやすくなる。このような放電は、本来のギャップにおける放電と比較して、接地電極による消炎作用が大きいので、本来の着火性能を発揮できない。
【0004】
特許文献1には、横飛火を防止すべく、主体金具と接地電極との接続部分に生じる溶接だれを除去しながら、主体金具の内周面の成形加工を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−154462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記技術では、横飛火を完全には防止できない場合には、主体金具の先端のうち、電界強度が大きな接地電極との接続部近傍において、横飛火が発生してしまう可能性が高かった。
【0007】
本明細書は、点火プラグにおいて、上述した横飛火が発生した場合であっても、着火性能の低下を抑制できる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]軸線に沿って延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸線に沿って延びる棒状体であり、後端側が前記軸孔内に配置され、先端側が前記絶縁体より先端側に突出した中心電極と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記主体金具の先端部に接続された接続端部と、前記接続端部とは反対側で、前記中心電極との間に間隙を形成して対向する自由端部と、を備える棒状の接地電極と、
を備える点火プラグであって、
前記中心電極、前記主体金具の前記先端部、前記絶縁体のうち前記主体金具の前記先端部に包囲される包囲部、及び、前記接地電極の前記接続端部を前記軸線に沿って投影した、前記軸線に垂直な仮想平面において、
前記軸線から前記接続端部に対して引かれた2本の接線の間の前記接続端部が位置する範囲を含み、前記軸線を通り、前記軸線と前記接続端部の中心とを結ぶ線と垂直な線よりも前記接続端部側に位置する周方向の範囲を第1の範囲とし、
前記第1の範囲を除いた周方向の範囲を第2の範囲とするとき、
前記第2の範囲における前記先端部の内周面を示す第2の線は、前記軸線を示す点を中心とする円の弧であり、
前記第1の範囲における前記先端部の内周面を示す第1の線は、前記円よりも外周側に配置され、
前記第1の線の少なくとも一部は、前記第2の線との接続点から、前記接続点を通り前記円に正接する直線よりも外周側に延び、
前記第1の範囲における前記絶縁体の前記包囲部と前記主体金具の前記先端部との距離D1は、前記第2の範囲における前記包囲部と前記先端部との距離D2よりも大きいことを特徴とする、点火プラグ。
【0010】
上記構成によれば、横飛火が発生したとしても、第1の線と第2の線との接続点において発生する可能性を高くすることができ、接続端部が配置された範囲で横飛火が発生することを抑制できる。この結果、横飛火が発生した場合であっても、該横飛火に対する接地電極による消炎作用を低減できるため、着火性能の低下を抑制できる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の点火プラグであって、
前記仮想平面において、
前記第1の範囲は、前記軸線と前記接続端部の中心とを結ぶ線を中心とする120度以内の範囲であることを特徴とする、点火プラグ。
【0012】
上記構成によれば、横飛火が発生した場合に、第1の線と第2の線との接続点において発生する可能性をさらに高くすることができるので、接続端部が配置された範囲で横飛火が発生することをさらに抑制できる。
【0013】
[適用例3]適用例1または2に記載の点火プラグであって、
前記仮想平面において、
前記第1の線と前記第2の線との2個の前記接続点は、前記軸線と前記接続端部の中心とを結ぶ線に対して、線対称であることを特徴とする、点火プラグ。
【0014】
上記構成によれば、横飛火が発生した場合に、2個の接続点のいずれにおいて横飛火が発生したとしても、同程度の着火性能を発揮できる。この結果、横飛火が発生した場合の着火性能のばらつきを抑制できる。
【0015】
[適用例4]適用例1〜3のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記距離D1は、1.5mm以下であることを特徴とする、点火プラグ。
【0016】
距離D1が、1.5mm以下である場合には、特に、横飛火が発生しやすくなる。上記構成によれば、横飛火が発生しやすい場合に、横飛火の発生時の着火性能の低下を適切に抑制することができる。
【0017】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火プラグや点火プラグを用いた点火装置、その点火プラグを搭載する内燃機関や、その点火プラグを用いた点火装置を搭載する内燃機関、点火プラグの主体金具等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の点火プラグ100の断面図である。
図2】点火プラグ100の先端近傍の拡大断面図である。
図3】第1実施形態の仮想平面VPを示す図である。
図4】接続点TPaの近傍の説明図である。
図5】主体金具50の製造について説明する図である。
図6】第1評価試験のサンプルの説明図である。
図7】第2実施形態の仮想平面VPBを示す図である。
【0019】
A.実施形態:
A−1.点火プラグの構成:
図1は本実施形態の点火プラグ100の断面図である。図2は、点火プラグ100の先端近傍の拡大断面図である。図1図2の一点破線は、点火プラグ100の軸線AXを示している。軸線AXと平行な方向(図1図2の上下方向)を軸線方向とも呼ぶ。軸線AXを中心とし、軸線AXと垂直な面上の円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、当該円の周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。図1における下方向を先端方向FDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。図1図2における下側を、点火プラグ100の先端側と呼び、図1図2における上側を、点火プラグ100の後端側と呼ぶ。
【0020】
点火プラグ100は、内燃機関に取り付けられ、内燃機関の燃焼室内の燃焼ガスに着火するために用いられる。点火プラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子電極40と、主体金具50と、抵抗体70と、導電性のシール部材60、80と、を備える。
【0021】
絶縁体10は、軸線AXに沿って延び、絶縁体10を貫通する貫通孔である軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、例えば、アルミナ等のセラミックスを用いて形成されている。絶縁体10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、縮外径部15と、脚長部13と、を備えている。
【0022】
鍔部19は、絶縁体10における軸線方向の略中央に位置する部分である。後端側胴部18は、鍔部19よりも後端側に位置し、鍔部19の外径よりも小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19よりも先端側に位置し、後端側胴部18の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17よりも先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13の外径は、先端側ほど縮径され、点火プラグ100が内燃機関(図示せず)に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。縮外径部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成され、後端側から先端側に向かって外径が縮径した部分である。
【0023】
絶縁体10は、内周側の構成の観点でみると、後端側に位置する大内径部12Lと、大内径部12Lよりも先端側に位置し、大内径部12Lよりも内径が小さな小内径部12Sと、縮内径部16と、を備えている。縮内径部16は、大内径部12Lと小内径部12Sとの間に形成され、後端側から先端側に向かって内径が縮径した部分である。縮内径部16の軸線方向の位置は、本実施形態では、先端側胴部17の先端側の部分の位置である。
【0024】
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)に点火プラグ100を固定するための円筒状の金具である。主体金具50には、軸線AXに沿って貫通する貫通孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁体10の径方向の周囲(すなわち、外周)に配置されている。すなわち、主体金具50の貫通孔59内に、絶縁体10が挿入・保持されている。絶縁体10の先端は、主体金具50の先端よりも先端側に突出している。絶縁体10の後端は、主体金具50の後端よりも後端側に突出している。
【0025】
主体金具50は、プラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8〜M14である。
【0026】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属製の環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、点火プラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、点火プラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
【0027】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁体10の後端側胴部18の外周面と、の間に形成される環状の領域には、環状の線パッキン6、7が配置されている。当該領域における2つの線パッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁体10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁体10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、線パッキン6、7およびタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。環状の板パッキン8を介して、主体金具50の内周で取付ネジ部52の位置に形成された段部56(金具側段部)によって、絶縁体10の縮外径部15(絶縁体側段部)が押圧される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁体10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。
【0028】
中心電極20は、軸線AXに沿って延びる棒状の中心電極本体21と、中心電極チップ29と、を備えている。中心電極本体21は、絶縁体10の軸孔12の内部の先端側の部分に保持されている。すなわち、中心電極20の後端側(中心電極本体21の後端側)は、軸孔12内に配置されている。中心電極本体21は、耐腐食性と耐熱性が高い金属、例えば、ニッケル(Ni)またはNiを主成分とする合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。中心電極本体21は、NiまたはNi合金で形成された母材と、該母の内部に埋設された芯部と、を含む2層構造を有しても良い。この場合には、芯部は、例えば、母材よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金で形成される。
【0029】
中心電極本体21は、図2に示すように、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24と、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23(電極頭部)と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25(電極脚部)と、を備えている。鍔部24は、絶縁体10の縮内径部16によって、先端側から支持されている。すなわち、中心電極本体21は、縮内径部16に係止されている。脚部25の先端側、すなわち、中心電極本体21の先端側は、絶縁体10の先端10Aよりも先端側に突出している。
【0030】
中心電極チップ29は、例えば、略円柱形状を有する部材であり、中心電極本体21の先端(脚部25の先端)に、例えば、レーザ溶接を用いて、接合されている。中心電極チップ29の先端面は、後述する接地電極チップ39との間で火花ギャップを形成する第1放電面295である。中心電極チップ29は、例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属や、当該貴金属を主成分とする合金が用いて、形成されている。
【0031】
端子電極40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子電極40は、絶縁体10の軸孔12に後端側から挿通され、軸孔12内において、中心電極20よりも後端側に位置している。端子電極40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子電極40の表面には、例えば、防食のために、Niなどのめっきが形成されている。
【0032】
端子電極40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42(端子顎部)と、鍔部42よりも後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42よりも先端側の脚部43(端子脚部)と、を備えている。端子電極40のキャップ装着部41は、絶縁体10よりも後端側に露出している。端子電極40の脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、高圧ケーブル(図示外)が接続されたプラグキャップが装着され、放電を発生するための高電圧が印加される。
【0033】
抵抗体70は、絶縁体10の軸孔12内において、端子電極40の先端と中心電極20の後端との間に、配置されている。抵抗体70は、例えば、1KΩ以上の抵抗値(例えば、5KΩ)を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能を有する。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。
【0034】
軸孔12内における、抵抗体70と中心電極20との隙間は、導電性のシール部材60によって埋められている。抵抗体70と端子電極40との隙間は、シール部材80によって埋められている。すなわち、シール部材60は、中心電極20と抵抗体70とにそれぞれ接触し、中心電極20と抵抗体70とを離間している。シール部材80は、抵抗体70と端子電極40にそれぞれ接触し、抵抗体70と端子電極40とを離間している。このように、シール部材60、80は、中心電極20と端子電極40とを、抵抗体70を介して、電気的、かつ、物理的に、接続している。シール部材60、80は、導電性を有する材料、例えば、例えば、B23−SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0035】
接地電極30(接地電極本体31)は、図2に示すように、断面が四角形の棒状体である。接地電極本体31は、両端部として、接続端部312と、接続端部312の反対側に位置する自由端部311と、を有している。接続端部312は、主体金具50の先端50tに、例えば、抵抗溶接によって、接合されている。これによって、主体金具50と接地電極本体31とは、電気的および物理的に接続される。接地電極本体31の接続端部312の近傍は、軸線AXの方向に延びており、自由端部311の近傍は、軸線AXと垂直な方向に延びている。棒状の接地電極本体31は、中央部分において、約90度だけ湾曲している。
【0036】
接地電極本体31は、耐腐食性と耐熱性が高い金属、NiまたはNiを主成分とする合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。接地電極本体31は、中心電極本体21と同様に、母材と、母材よりも熱伝導性が高い金属(例えば、銅)を用いて形成され、母材に埋設された芯部と、を含む2層構造を有しても良い。
【0037】
自由端部311には、中心電極20の第1放電面295との間に間隙Gを形成して対向する第2放電面395を有する接地電極チップ39が接合されている。接地電極チップ39は、例えば、円柱形状や四角柱形状を有している。第1放電面295と第2放電面395との間の間隙Gは、放電が発生するいわゆる火花ギャップである。接地電極チップ39は、中心電極チップ29と同様に、例えば、貴金属、または、貴金属を主成分とする合金を用いて形成される。
【0038】
図3は、第1実施形態の仮想平面VPを示す図である。仮想平面VPは、軸線AXに垂直な仮想的な平面である。仮想平面VPには、中心電極20の脚部25と、主体金具50の先端部50sと、絶縁体10の包囲部13sと、接地電極30の接続端部312と、が軸線AXに沿って投影される。主体金具50の先端部50sは、先端50tを含む部分であり、例えば、取付ネジ部52のネジ山の先端よりも先端側の部分である。絶縁体10の包囲部13sは、脚長部13のうち、主体金具50の先端部50sに、外周を包囲される部分である。換言すれば、包囲部13sは、脚長部13のうち、先端部50sが配置された軸線方向の範囲に位置する部分である。
【0039】
仮想平面VPにおいて、中心電極20の軸線AXから、接地電極30に対して引かれた2本の接線を、接線LT1、LT2とする。2本の接線LT1、LT2に挟まれた周方向の範囲であり、接地電極30(接続端部312)が位置する範囲を、接地電極範囲ERとする。
【0040】
仮想平面VPにおいて、中心電極20の軸線AX(点火プラグ100の軸線AX)から接地電極30の接続端部312の中心30Cに向かう方向(図3の左方向)を、第1方向RD1とする。仮想平面VPにおいて、第1方向RD1と垂直な方向(図3の上方向)を第2方向RD2とする。
【0041】
仮想平面VPにおいて、主体金具50の先端部50sの内周面50iを示す閉図形CFは、真円ではない。この閉図形CFは、第1の円C1の弧AC1と、第2の円C2の弧AC2と、によって構成されている。第1の円C1の弧AC1は、第2の円C2よりも外周側(径方向の外側)に位置している。第1の円C1の弧AC1は、第1方向RD1に張り出している。第2の円C2の弧AC2は、第1方向RD1の反対方向に張り出している。
【0042】
第2の円C2の中心CC2は、中心電極20の軸線AX(点火プラグ100の軸線AX)と、一致している。第1の円C1の中心CC1は、軸線AX(中心CC2)よりも第1方向RD1に位置している。第1の円C1の中心CC1の第2方向RD2の位置は、軸線AX(中心CC2)と同じである。第1の円C1の直径は、第2の円C2の直径よりも小さい。換言すれば、第1の円C1の弧AC1の曲率半径は、第2の円C2の弧AC2の曲率半径よりも小さい。
【0043】
仮想平面VPにおいて、第1の円C1の弧AC1と、第2の円C2の弧AC2と、の2個の接続点を、TPa、TPbとする。また、軸線AXを始点とし、接続点TPaを通る直線をTLaとし、軸線AXを始点とし、接続点TPbを通る直線をTLbとする。軸線AXを通り、軸線AXと接続端部312の中心30Cとを結ぶ直線HLと垂直な直線をVLとする。直線TLaから直線TLbまでの周方向の範囲であって、接地電極範囲ERを含む側の範囲を第1の範囲RA1とする。直線TLaから直線TLbまでの周方向の範囲であって、接地電極範囲ERを含まない側の範囲を第2の範囲RA2とする。第2の範囲RA2は、全周の範囲(360度分の範囲)から第1の範囲RA1を除いた範囲である。第1の範囲RA1は、第1の円C1の弧AC1が位置する範囲であり、第2の範囲RA2は、第2の円C2の弧AC2が位置する範囲である。本実施形態では、第1の範囲RA1は、直線VLよりも接続端部312側にある。したがって、第1の範囲RA1は、180度未満であり、第2の範囲RA2は、180度よりも大きい。
【0044】
仮想平面VPにおいて、接続点TPa、TPbは、尖っている。ここで、接続点TPa、TPbが尖っているとは、接続点TPa、TPbにおける閉図形CFの曲率半径が0.5mm未満であることを意味する。このような尖った部分では、後述するように、点火プラグ100の動作時において、電界強度が高くなる。
【0045】
図4は、接続点TPaの近傍の説明図である。図4(A)には、図3の接続点TPaの近傍の領域BAの拡大図が示されている。図4(B)には、比較形態の点火プラグの主体金具50xの図4(A)に対応する部分が示されている。図4(A)には、接続点TPaを通り、第2の円C2に正接する直線ELa、すなわち、接続点TPaにおける第2の円C2の接線ELaが示されている。第1の円C1の弧AC1のうち、接続点TPaの近傍の部分TNは、接続点TPaから、上述した接線ELaよりも外周側(径方向の外側)に延びている。この結果、上述したように、接続点TPaは、尖っている。拡大図は、省略するが、接続点TPbの近傍の部分も、接続点TPbから、接続点TPbにおける第2の円C2の接線ELbよりも外周側に延びている(図3)。このために、接続点TPbも尖っている。
【0046】
図4(B)の比較形態では、接続点T2xにおいて、第2の円C2の弧AC2xと、直線SLxと、が接続している。そして、直線SLxは、接続点T1xにおいて、第1の円C1の弧AC1xと接続している。直線SLxは、第1の円C1と、第2の円C2と、の両方に正接している。すなわち、直線SLxは、第1の円C1と、第2の円C2と、の共通の接線である。したがって、直線SLxおよび第1の円C1の弧ACxとは、接続点T2xから、接続点T2xにおける第2の円C2の接線SLxよりも外周側に延びる部分を含まない。この結果、接続点T2xは、尖っていない。
【0047】
上述したように、第1の円C1の弧AC1は、第2の円C2よりも外周側(径方向の外側)に位置している。このために、仮想平面VPにおいて、第1の範囲RA1における絶縁体10の包囲部13sと主体金具50の先端部50sとの距離D1は、第2の範囲RA2における包囲部13sと先端部50sとの距離D2より大きい。例えば、距離D1は、1.5mm以下であり、例えば、1.1mmである。距離D2は、例えば、0.8mmである。
【0048】
図3の仮想平面VPにおいて、第1の範囲RA1は、軸線AXと接続端部312の中心30Cとを結ぶ直線HLを中心とする120度以内の範囲である。図3の例では、第1の範囲RA1は、約80度の範囲である。また、仮想平面VPにおいて、2個の接続点TPa、TPbは、軸線AXと接続端部312の中心30Cとを結ぶ直線HLに対して、線対象である。
【0049】
仮想平面VPにおいて、主体金具50の先端部50sの外周面50oを示す円は、真円である。そして、上述の通り、閉図形CFは、真円ではないので、主体金具50の先端部50sの径方向の肉厚は、一定ではなく、周方向の位置によって異なる。具体的には、閉図形CFが第2の円C2の弧AC2で構成される周方向の位置では、先端部50sの厚さは、一定である。閉図形CFが第1の円C1の弧AC1で構成される周方向の位置では、閉図形CFが第2の円C2の弧AC2で構成される周方向の位置よりも、先端部50sの厚さが小さい。仮想平面VPにおいて、先端部50sの厚さは、接続端部312の中心30Cを通る周方向の位置において、最小となる。
【0050】
A−2.点火プラグの製造方法:
点火プラグ100の製造方法について、主体金具50の製造方法を中心に説明する。先ず、主体金具50の中間成型体50mが準備される。中間成型体50mは、先端部50smにおける貫通孔59mが、完成後の主体金具50と異なる。中間成型体50mのその他の構成は、完成後の主体金具50と同じである。
【0051】
図5は、主体金具50の製造について説明する図である。図5(A)には、中間成型体50mの先端部50smが軸線AXに沿って投影された仮想平面VPmが図示されている。仮想平面VPmにおいて、中間成型体50mの先端部50smの内周面50imを示す閉図形CFmは、第2の円C2である。
【0052】
中間成型体50mに対して、接地電極本体31の接続端部312が、例えば、抵抗溶接によって接合される。仮想平面VPmには、接合された接続端部312が軸線AXに沿って投影されている。また、仮想平面VPmには、接続端部312を溶接した際に形成される溶接だれWPmが図示されている。このような溶接だれWPmの一部は、貫通孔59m内に浸入している。このような溶接だれWPmは、後述する横飛火の原因となる。
【0053】
図5(A)の中間成型体50mに対して、第1の円C1に対応する外径を有するドリルを用いて、中間成型体50mの内周面50imを切削加工する。これによって、仮想平面VPにおいて、閉図形CFを示す内周面50iが形成されて、主体金具50が完成する。すなわち、切削加工によって、閉図形CFのうち、第1の円C1の弧AC1の部分、すなわち、第1の範囲RA1の部分が形成される。第1の範囲RA1の角度θ(図5(B))を、削り角θとも呼ぶ。この結果、尖った接続点TPa、TPbも形成される。また、切削加工によって、溶接だれWPmのうち、軸線AXに近い部分が切削・除去される。図5(B)には、一部が除去された後の溶接だれWPが図示されている。
【0054】
その後、主体金具50に、絶縁体10に端子電極40、中心電極20、抵抗体70等を組付けた組立体が固定される。具体的には、主体金具50の貫通孔59内に、板パッキン8と、組立体と、線パッキン6、7と、タルク9と、が配置される。絶縁体10の縮外径部15と主体金具50の段部56との間には、板パッキン8が介在される。そして、主体金具50の加締部53を内側に折り曲げるように加締めることによって、主体金具50と絶縁体10とが組み付けられる。そして、棒状の接地電極30が曲げられて、間隙Gが形成される。これによって、点火プラグ100が完成される。
【0055】
以上説明した実施形態の点火プラグ100では、仮想平面VPにおいて、接地電極範囲ERを含み、直線VLよりも接続端部312側に位置する周方向の範囲を第1の範囲とし、第1の範囲RA1を除いた周方向の範囲を第2の範囲RA2とするとき、第2の範囲RA2における先端部50sの内周面50iを示す線は、軸線AXを示す点を中心とする第2の円C2の弧AC2である。そして、第1の範囲RA1における先端部50sの内周面50iを示す線は、第2の円C2よりも外周側に配置される。そして、第1の範囲RA1における先端部50sの内周面50iを示す線の少なくとも一部(例えば、図4(A)の部分TN)は、接続点TPa、TPbから、接続点TPa、TPbを通り第2の円C2に正接する直線ELa、ELbよりも外周側に延びている。さらには、第1の範囲RA1における包囲部13sと先端部50sとの距離D1は、第2の範囲RA2における包囲部13sと先端部50sとの距離D2よりも大きい。これによって、接続点TPa、TPbは、比較的尖った形状を有することになる。この結果、横飛火が発生したとしても、接地電極範囲ERの内側ではない接続点TPa、TPbにおいて発生する可能性を高くすることができる。この結果、接続端部が配置された接地電極範囲ERの内側で横飛火が発生することを抑制できる。この結果、横飛火が発生した場合であっても、該横飛火に対する接地電極30による消炎作用を低減できるため、着火性能の低下を抑制できる。
【0056】
詳しく説明する。横飛火は、図2に示す経路FTを通る横飛火のように、中心電極20から接地電極範囲ER内の方向(例えば、図2図3の第1方向RD1)に向かう経路上で発生しやすい。主体金具50の先端10Aの全周のうちでも、接地電極30の接続端部312が接続されている部分は、特に、電界強度が高いためである。換言すれば、横飛火は、仮想平面VPにおいて、中心電極20の軸線AXから見た周方向の位置によって、発生しやすさが異なる。具体的には、接地電極範囲ERの内側の位置では、接地電極範囲ER外の位置よりも横飛火が発生しやすい。このような接地電極範囲ERの内側の位置で横飛火が発生すると、接地電極30(接地電極本体31)に近いために、接地電極30による消炎作用が大きくなる。また、この場合には、接地電極30が近いために、火炎の拡がりが接地電極30によって妨げられるための火炎が拡がりにくい。したがって、仮に、接地電極範囲ERの内側の位置で横飛火が発生すると、点火プラグ100の着火性能は著しく低下する。
【0057】
本実施形態では、接地電極範囲ERの外側に、尖った接続点TPa、TPbが形成される。尖った接続点TPa、TPでは、電界強度が大きくなるので、中心電極20から接続点TPa、TPbへ向かう横飛火が発生しやすくなる。さらに、接地電極範囲ERを含む第1の範囲RA1における包囲部13sと先端部50sとの距離D1は、第2の範囲RA2における包囲部13sと先端部50sとの距離D2よりも大きい。この結果、横飛火が発生する場合には、中心電極20から接続点TPa、TPbへ向かって発生する可能性が高くなる。そして、接続端部312が配置された接地電極範囲ERの内側で横飛火が発生することを抑制できる。これによって、横飛火が発生する場合であっても、接地電極30による消炎作用を抑制して、点火プラグ100の着火性能の低下を抑制できる。
【0058】
さらに、上記実施形態では、仮想平面VPにおいて、第1の範囲RA1は、軸線AXと接続端部312の中心とを結ぶ直線HLを中心とする120度以内の範囲である。電界強度は、接続端部312が存在する接地電極範囲ER内の位置が最も高く、接地電極範囲ERから離れた周方向の位置ほど低くなる。第1の範囲RA1の範囲が120度以内の範囲である場合には、接続点TPa、TPbが、接地電極範囲ERから比較的近くなるので、接続点TPa、TPbの電界強度が接地電極範囲ERよりも過度に低くなることを抑制できる。この結果、横飛火が発生する場合に、中心電極20から接続点TPa、TPbへ向かって発生する可能性をさらに高くすることができる。したがって、接続端部312が配置された範囲で横飛火が発生することをさらに抑制できる。
【0059】
さらに、上記実施形態では、仮想平面VPにおいて、2個の接続点TPa、TPbは、軸線AXと接続端部312の中心とを結ぶ線に対して、線対称である(図3)。この結果、横飛火が発生した場合に、2個の接続点のいずれにおいて横飛火が発生したとしても、接地電極30などによる消炎作用の程度が同じになるので、同程度の着火性能を発揮できる。この結果、横飛火が発生した場合の着火性能のばらつきを抑制できる。さらに、2個の接続点TPa、TPbにおける電界強度が同程度になるので、2個の接続点TPa、TPbにおける横飛火の発生頻度を同程度にすることができる。この結果、2個の接続点TPa、TPbの近傍の消耗を同程度にできる。
【0060】
さらに、上記実施形態では、上述した第1の範囲RA1における包囲部13sと先端部50sとの距離D1は、1.5mm以下である。距離D1が、1.5mm以下である場合、すなわち、比較的小径の点火プラグ100では、特に、横飛火が発生しやすくなる。上記構成によれば、横飛火が発生しやすい場合に、横飛火の発生時の着火性能の低下を適切に抑制することができる。
【0061】
B.第1評価試験
第1評価試験では、点火プラグについて、図5(B)における削り角θが互いに異なる主体金具を備える17個のサンプルを用意した。具体的には、17個のサンプルの削り角θは、0度、20度、25度、30度、40度、60度、80度、100度、120度、130度、140度、160度、170度、180度、200度、220度、240度である。これらのサンプルは、図5(B)を参照して説明したように、中間成型体50mに対して、第1の円C1に対応する外径を有するドリルを用いて切削加工を行って、第1の円C1の弧AC1の部分を形成する際に、第1の円C1の直径と、第1の円C1の中心CC1と、を変更することで、作成できる。
【0062】
図6は、第1評価試験のサンプルの説明図である。図6(A)には、削り角θが40度であるサンプルの主体金具50cの先端部50scが軸線AXに沿って投影された仮想平面VPcが示されている。図6(B)には、削り角θが200度であるサンプルの主体金具50dの先端部50sdが軸線AXに沿って投影された仮想平面VPdが示されている。図6(A)に示すように、直径が比較的小さく、中心CC1cが接続端部312に比較的近い第1の円C1cの弧AC1cを形成する場合には、削り角θ1は小さくなる。すなわち、内周面50icを示す閉図形CFcにおいて、接続点TPa1、TPb1は、接続端部312に比較的近くなる。図6(B)に示すように、直径が比較的大きく、中心CC1dが接続端部312から比較的遠い第1の円C1dの弧AC1dを形成する場合には、削り角θ2は大きくなる。すなわち、内周面50idを示す閉図形CFdにおいて、接続点TPa2、TPb2は、接続端部312から比較的遠くなる。
【0063】
また、図6(A)、(B)から解るように、削り角θが180度未満である場合には、第1の範囲RA1(削り角θの範囲)は、直線VLよりも接続端部312側に位置する。すなわち、この場合には、接続点TPa、TPbは、直線VLよりも接続端部312側に位置する。削り角θが180度を超える場合には、接続点TPa、TPbは、直線VLから見て、接続端部312とは反対側に位置する。
【0064】
また、削り角θが0度であるサンプルは、第1の円C1の弧AC1を形成する切削加工を行っていないサンプル、すなわち、図5(A)の中間成型体50mを、主体金具として採用したサンプルである。
【0065】
なお、各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
仮想平面VPにおける包囲部13sの外径:2.5mm
仮想平面VPにおける第2の円C2の直径:5mm
仮想平面VPにおける距離D1:1.3mm
仮想平面VPにおける接地電極範囲ERの角度:23.58度
【0066】
ここで、横飛火のうち、中心電極20から接地電極範囲ER内に向かって発生する横飛火を、横飛火Aとする。また、横飛火のうち、中心電極20から接続点TPa、TPbに向かって発生する横飛火を、横飛火Bとする。第1評価試験では、削り角θが0度であるサンプルにおいて、横飛火Aの発生率が80%になるように、間隙Gおよび印加電圧などの条件を決定した。削り角θが0度であるサンプルでは、間隙Gを大きくするほど、横飛火Aの割合が増加し、間隙Gにおける放電が減少する。削り角θが0度であるサンプルでは、横飛火Bは発生し得ない。
【0067】
削り角が20度〜240度の16種類のサンプルでは、削り角θが0度であるサンプルにて決定された条件で、100回の放電を行って、横飛火Aの発生率と横飛火Bの発生率とを調べた。発生した放電を撮影して、撮影した放電を確認することで、放電が、横飛火Aであるか、横飛火Bであるか、間隙Gにおける放電であるかを、認識できる。なお、横飛火Aおよび横飛火B以外の放電は、間隙Gにおける放電である。これらの発生率は、ばらつきがあるため、発生率の調査をサンプルごとに3回行って、平均の発生率を算出した。そして、平均の発生率の1の位を四捨五入して得られる10%刻みの値を、各サンプルの発生率として算出した。横飛火Aの発生率が低いほど、サンプルの着火性能は、高いと言うことができる。このため、横飛火Aの発生率が、50%以上であるサンプルの評価を「C」とし、横飛火Aの発生率が、10%以上50%未満であるサンプルの評価を「B」とし、横飛火Aの発生率が、10%未満であるサンプルの評価を「A」とした。評価結果は、以下の表1に示す通りである。
【0068】
【表1】
【0069】
削り角θが20度であるサンプルでは、削り角θ(20度)よりも接地電極範囲ERの角度(23.58度)が大きいために、横飛火Aと横飛火Bとの区別ができない。このため、削り角θが20度であるサンプルでは、発生した横飛火は、全て横飛火Aとしてカウントした。
【0070】
削り角θが20度であるサンプルの横飛火Aの発生率が80%であり、その評価は、「C」であった。削り角θが180度以上である4個のサンプル、すなわち、削り角θが180度、200度、220度、240度であるサンプルの横飛火Aの発生率は、50%であり、横飛火Bの発生率は、0%であった。したがって、これらのサンプルの評価は、「C」であった。
【0071】
これに対して、削り角θが、25度以上180度未満であるサンプルの横飛火Aの発生率は、0%以上40%以下であり、横飛火Bの発生率は、10%以上40%以下であった。したがって、これらのサンプルの評価は、「B」以上であった。
【0072】
以上のことから、削り角θが、接地電極範囲ERの角度(23.58度)より大きく、かつ、180度未満である場合に、点火プラグの着火性能を向上できることが解った。換言すれば、第1の範囲RA1(削り角θの範囲)は、接地電極範囲ERを含み、直線VLよりも接続端部312側に位置することで、点火プラグの着火性能を向上できることが解った。
【0073】
さらに、詳しく見ると、削り角θが25度以上180度未満であるサンプルのうち、削り角θが120度より大きなサンプル、すなわち、削り角θが、130度、140度、160度、170度である4個のサンプルでは、横飛火Aの発生率は、それぞれ、10%、20%、30%、40%であり、横飛火Bの発生率は、それぞれ、40%、30%、20%、10%であった。すなわち、削り角θが120度より大きく180度未満の範囲では、削り角θが大きいほど、横飛火Aの発生率が大きくなり、横飛火Bの発生率が小さくなることが解った。換言すれば、この範囲では、削り角θが大きいほど、着火性能が低下することが解った。そして、削り角θが120度より大きく180度未満の範囲の4個のサンプルの評価は、「B」であった。
【0074】
また、削り角θが25度以上180度未満であるサンプルのうち、削り角θが120度以下であるサンプル、すなわち、削り角θが、25度、30度、40度、60度、80度、100度、120度である7個のサンプルでは、横飛火Aの発生率は、いずれも、0%であり、横飛火Bの発生率は、いずれも、50%であった。すなわち、削り角θが25度以上120度以下の範囲では、削り角θに拘わらず、着火性能に変化はなかった。そして、削り角θが25度以上120度以下の範囲の7個のサンプルの評価は、「A」であった。すなわち、削り角θが25度以上120度以下のサンプルでは、削り角θが120度より大きく180度未満の範囲であるサンプルよりも、着火性能が優れていた。
【0075】
以上のことから、第1の範囲RA1は、軸線AXと接続端部312の中心30Cとを結ぶ直線HLを中心とする120度以内の範囲であるであることが好ましいことが解った。こうすれば、横飛火Aが発生することによる着火性能の低下を抑制できる。
【0076】
C.第2評価試験
第2評価試験では、図3の第1実施形態の点火プラグ100について、図3の仮想平面VPにおける距離D1が互いに異なる主体金具を備える5個のサンプルを用意した。具体的には、5個のサンプルの距離D1は、1.1mm、1.3mm、1.5mm、1.7mm、1.9mmである。なお、各サンプルでは、仮想平面VPにおける距離D2と距離D1との比率(D1/D2)、および、接地電極範囲ERの角度が一定値となるように、第1の円C1および第2の円C2の直径および相対的な位置が決定された。これにより、各サンプルは、仮想平面VPにおける閉図形CFが互いに相似形になるように作成された。
【0077】
なお、各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
仮想平面VPにおける包囲部13sの外径:2.5mm
距離D2と距離D1との比率(D1/D2):1.05
仮想平面VPにおける接地電極範囲ERの角度:23.58度
【0078】
さらに、比較の対象として、第1実施形態の5個のサンプルに対応する比較用の5個のサンプルが作成された。比較用の5個のサンプルでは、仮想平面VPにおける閉図形が真円である。このために、比較用の5個のサンプルでは、仮想平面VPにおいて、周方向のいずれの位置においても、絶縁体の包囲部と主体金具の先端部との距離が等しい。また、比較用の5個のサンプルでは、絶縁体の包囲部と主体金具の先端部との距離は、対応する実施形態の距離D1と等しく、1.1mm、1.3mm、1.5mm、1.7mm、1.9mmである。
【0079】
第2評価試験では、第1実施形態および比較用の各サンプルを、単気筒、DOHC(Double OverHead Camshaft)、排気量2L、のガソリンエンジンを、1600rpmの回転速度で1分に亘って運転し、失火率を調べた。失火率は、燃焼圧を調べることによって認識できる。なお、試験中は、失火によって回転速度が低下しないように、モータによって強制的にクランクシャフトを回転させた。失火率は、ばらつきがあるため、失火率の調査を、サンプルごとに3回行って、平均の失火率を算出した。そして、平均の発生率の1の位の値が0以上2以下である場合は、1の位の値を「0」とし、1の位の値が3以上7以下である場合には、1の位の値を「5」とし、1の位の値が8以上9以下である場合には、10の位の値に1を加算し、かつ、1の位の値を「0」とした。これによって得られる5%刻みの値を、各サンプルの失火率として算出した。そして、第1実施形態のサンプルの失火率と、対応する比較用のサンプルの失火率と、の差分を改善率として算出した。第2評価試験の結果は、表2に示すとおりである。
【0080】
【表2】
【0081】
比較用のサンプルでは、距離D1が大きくなるに連れて、失火率は小さくなった。具体的には、距離D1が1.5mm以下の比較用のサンプルでは、失火率が比較的高かった。例えば、距離D1が、1.1mm、1.3mm、1.5mmの比較用のサンプルの失火率は、それぞれ、90%、80%、60%であった。距離D1が1.5mmより大きな比較用のサンプルでは、失火率が比較的低かった。例えば、距離D1が、1.7mm、1.9mmの比較用のサンプルの失火率は、それぞれ、20%、10%であった。これは、距離D1が大きい場合には、横飛火が発生しにくく、間隙Gにて放電が発生する確率が高いからである。
【0082】
これに対して、第1実施形態のサンプルでは、距離D1が1.5mm以下であっても失火率が5%以下であった。例えば、距離D1が、1.1mm、1.3mm、1.5mmの第1実施形態のサンプルの失火率は、それぞれ、5%、5%、0%であった。距離D1が1.5mmより大きな第1実施形態のサンプル、すなわち、距離D1が、1.7mm、1.9mmの第1実施形態のサンプルの失火率は、いずれも、0%であった。このように、距離D1に拘わらずに、比較用のサンプルと比較して、第1実施形態のサンプルでは、失火率の改善が確認できた。これは、比較用のサンプルでは中心電極20から接地電極範囲ER内に向かう方向に横飛火が発生しているのに対して、第1実施形態のサンプルでは中心電極20から接続点TPa、TPb(図3)に向かう方向に横飛火が発生しているために、第1実施形態のサンプルでは着火性能の低下が小さいからである。
【0083】
改善率を見ると、距離D1が、1.5mm以下の第1実施形態のサンプルでは、改善率が比較的大きかった。例えば、距離D1が、1.1mm、1.3mm、1.5mmの第1実施形態のサンプルの改善率は、それぞれ、85%、70%、60%であり、50%を大幅に上回った。これに対して、距離D1が1.5mmより大きな第1実施形態のサンプルでは、改善率が比較的小さかった。例えば、距離D1が、1.7mm、1.9mmの第1実施形態のサンプルの改善率は、それぞれ、20%、10%であり、50%を大幅に下回った。
【0084】
第2評価試験の結果から、距離D1が、1.5mm以下である場合には、点火プラグの着火性能を著しく改善できることが確認できた。
【0085】
D.第2実施形態
上記第1実施形態では、仮想平面VPにおける閉図形CFにて、第1の範囲RA1における線は、円弧(具体的には、第1の円C1の弧AC1)であるが、これに限られない。第1実施形態では、第1の範囲における線が、円弧と直線である場合について説明する。
【0086】
図7は、第2実施形態の仮想平面VPBを示す図である。第2実施形態の点火プラグは、第1実施形態の主体金具50とは異なる主体金具50Bを備える。第2実施形態の点火プラグのその他の構成は、第1実施形態の点火プラグ100と同一である。仮想平面VPBは、図3の仮想平面VPと同様に、軸線AXに垂直な仮想的な平面である。仮想平面VPBには、中心電極20の脚部25と、主体金具50Bの先端部50sBと、絶縁体10の包囲部13sと、接地電極30の接続端部312と、が軸線AXに沿って投影される。
【0087】
第2実施例の主体金具50Bは、段部56よりも先端側の部分において、貫通孔59の形状が、第1実施例の主体金具50と異なる。すなわち、第2実施例では、仮想平面VPBにおいて、先端部50sBの内周面50iBを示す閉図形CFBの形状が、第1実施例と異なる。主体金具50Bのその他の構成は、第1実施例の主体金具50と同一である。
【0088】
閉図形CFBは、第1の円C1Bの弧AC1Bと、第2の円C2Bの弧AC2Bと、2本の直線LBa、LBbと、によって構成されている。第1の円C1Bの弧AC1Bおよび2本の直線LBa、LBbは、第2の円C2よりも外周側(径方向の外側)に位置している。第1の円C1Bの弧AC1Bは、第1方向RD1に張り出している。第2の円C2Bの弧AC2Bは、第1方向RD1の反対方向に張り出している。
【0089】
第2の円C2Bの中心CC2Bは、第1実施形態と同様に、中心電極20の軸線AXと、一致している。第1の円C1Bの中心CC1Bも、中心電極20軸線AXと一致している。第1の円C1Bの直径は、第2の円C2Bの直径よりも大きい。
【0090】
直線LBa、LBbは、径方向に延びる直線である。仮想平面VPBにおいて、直線LBa、LBbと、第2の円C2Bの弧AC2Bと、の2個の接続点を、TPaB、TPbBとする。また、軸線AXを始点とし、接続点TPaBを通る直線をTLaBとし、軸線AXを始点とし、接続点TPbBを通る直線をTLbBとする。直線TLaBから直線TLbBまでの周方向の範囲であって、接地電極範囲ERを含む側の範囲を第1の範囲RA1Bとする。直線TLaBから直線TLbBまでの周方向の範囲であって、接地電極範囲ERを含まない側の範囲を第2の範囲RA2Bとする。第2の範囲RA2Bは、全周の範囲(360度分の範囲)から第1の範囲RA1Bを除いた範囲である。第1の範囲RA1Bは、第1の円C1Bの弧AC1Bと、2本の直線LBa、LBbが位置する範囲である。第2の範囲RA2Bは、第2の円C2の弧AC2が位置する範囲である。第2実施形態でも、第1の範囲RA1Bは、直線VLよりも接続端部312側にある。したがって、第1の範囲RA1Bは、180度未満であり、第2の範囲RA2Bは、180度よりも大きい。
【0091】
図7には、接続点TPaBを通り、第2の円C2Bに正接する直線ELaB、すなわち、接続点TPaBにおける第2の円C2Bの接線ELaBが示されている。閉図形CFBのうち、直線LBaは、接続点TPaBから、上述した接線ELaBよりも外周側(径方向の外側)に延びている。この結果、上述したように、接続点TPaBは、尖っている。同様に、図7には、接続点TPbBを通り、第2の円C2Bに正接する直線ELbB、すなわち、接続点TPbBにおける第2の円C2Bの接線ELbBが示されている。閉図形CFBのうち、直線LBbは、接続点TPbから、上述した接線ELbBよりも外周側に延びている。このために、接続点TPbBも尖っている。
【0092】
以上説明した第2実施形態においても、接地電極範囲ERの外側に、尖った接続点TPaB、TPbBが形成される。そして、接地電極範囲ERを含む第1の範囲RA1Bにおける包囲部13sBと先端部50sBとの距離D1は、第2の範囲RA2Bにおける包囲部13sBと先端部50sBとの距離D2よりも大きい。この結果、第1実施形態と同様に、横飛火が発生する場合であっても、接地電極30による消炎作用を抑制して、点火プラグの着火性能の低下を抑制できる。
【0093】
E.変形例:
(1)上記第1実施形態の点火プラグ100では、第1の範囲RA1の角度(すなわち、削り角θ(図5(B)))は、120度以内であるが、これに限られない。例えば、削り角θは、120度より大きく、180度より小さな角度、例えば、130度や、140度であっても良い。
【0094】
(2)上記第1実施形態では、2個の接続点TPa、TPbは、直線HLに対して、線対称である。これに限らず、2個の接続点TPa、TPbは、直線HLに対して、線対称でなくても良い。例えば、仮想平面VPにおいて、接続点TPaは、接続端部312の中心30Cに対して、時計回りに60度だけ回転した周方向の位置にあり、接続点TPbは、接続端部312の中心30Cに対して、反時計回りに70度だけ回転した周方向の位置にあっても良い。
【0095】
(3)上記第1実施形態では、第1の範囲RA1における絶縁体10の包囲部13sと主体金具50の先端部50sとの距離D1は、1.5mm以下である。これに限らず、当該距離D1は、1.5mmより大きな値、例えば、1.6mm、1.8mmであっても良い。
【0096】
(4)上記第1実施形態では、主体金具50のうち、段部56よりも先端側の部分における貫通孔59の形状が、軸線AXに沿って投影した場合に図3の閉図形CFとなる形状になっている。これに代えて、段部56よりも先端側の部分のうち、先端50tから特定長(例えば、2〜3mm)だけ離れた軸線方向の位置よりも先端側の部分における貫通孔59の形状だけが、軸線AXに沿って投影した場合に図3の閉図形CFとなる形状になっていても良い。この場合には、段部56よりも先端側の部分のうち、先端50tから特定長だけ離れた位置よりも後端側の部分における貫通孔59の形状は、軸線AXに沿って投影した場合に円となる形状であっても良い。
【0097】
(4)上記各実施形態において、主体金具50、50Bの構成を中心に説明してきたが、他の要素、例えば、中心電極20、端子電極40、接地電極30などの材質や寸法などは、様々に変更可能である。例えば、中心電極20や接地電極30は、貴金属製のチップを備えない構成であっても良い。また、接地電極30は、中心電極の先端部分と軸線方向と垂直な方向に対向して、軸線方向と垂直な方向の火花ギャップを形成しても良い。また、主体金具50、50B、50Cの構成についても、例えば、先端部50sの貫通孔59の形状とは異なる部分の構成、材質について、公知様々な構成を採用可能である。例えば、主体金具50の材質は、亜鉛やニッケルなどでめっきされた低炭素鋼でも良いし、これらのめっきがなされていない低炭素鋼でも良い。
【0098】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0099】
5…ガスケット、6、7…線パッキン、8…板パッキン、9…タルク、10…絶縁体、12…軸孔、13…脚長部、13s、13sB…包囲部、15…縮外径部、16…縮内径部、17…先端側胴部、18…後端側胴部、19…鍔部、20…中心電極、21…中心電極本体、23…頭部、24…鍔部、25…脚部、29…中心電極チップ、30…接地電極、31…接地電極本体、39…接地電極チップ、40…端子電極、41…キャップ装着部、42…鍔部、43…脚部、50、50B…主体金具、50B…主体金具、50m…中間成型体、50s…先端部、51…工具係合部、52…取付ネジ部、53…加締部、54…座部、56…縮内径部、56…段部、58…圧縮変形部、59…貫通孔、60、80…シール部材、70…抵抗体、100…点火プラグ、295…第1放電面、311…自由端部、312…接続端部、395…第2放電面、G…間隙、TPa、TPb、TPaB、TPbB…接続点、AC1、AC1B、AC2、AC2B…弧、RA1、RA1B…第1の範囲、RA2、RA2B…第2の範囲、C1、C1B…第1の円、C2、C2B…第2の円、CF、CFB…閉図形、VP、VPB…仮想平面、ER…接地電極範囲、AX…軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7