特許第6559199号(P6559199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559199
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20190805BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   F16H25/22 C
   F16H25/24 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-184748(P2017-184748)
(22)【出願日】2017年9月26日
(62)【分割の表示】特願2013-114802(P2013-114802)の分割
【原出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-219202(P2017-219202A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦士
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−025301(JP,A)
【文献】 特開2003−148584(JP,A)
【文献】 特開2010−025129(JP,A)
【文献】 特開2011−256901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋の転動体転走溝を有するねじ軸と、
内周面に前記転動体転走溝に対向する螺旋の負荷転動体転走溝を有するナットと、
前記ねじ軸の前記転動体転走溝と前記ナットの前記負荷転動体転走溝との間の螺旋の負荷転動体転走路の一端と他端を接続する戻し路と、
前記負荷転動体転走路及び前記戻し路に配列される複数の転動体と、を備え
前記負荷転動体転走路では前記転動体が前記ナットと前記ねじ軸との間で圧縮の荷重を受けるねじ装置において、
前記ナットの軸線方向から見たとき、
前記戻し路には、前記戻し路における転動体の軌道中心線の曲率半径が前記負荷転動体転走路における転動体の軌道中心線の曲率半径以上であり、かつ前記負荷転動体転走路から離れるにしたがって前記戻し路における転動体の軌道中心線の曲率半径が徐々に又は段階的に大きくなる曲率半径変化部が設けられることを特徴とするねじ装置。
【請求項2】
前記ナットは、
前記負荷転動体転走溝が形成されるナット本体と、
前記ナット本体に装着され、前記戻し路の少なくとも一部が形成される循環部品と、を備え、
前記曲率半径変化部の外周側は、前記循環部品に形成されることを特徴とする請求項1に記載のねじ装置。
【請求項3】
前記ナットは、
前記負荷転動体転走溝が形成されるナット本体と、
前記ナット本体に装着され、前記戻し路の少なくとも一部が形成される循環部品と、を備え、
前記曲率半径変化部の外周側は、前記ナット本体に前記ナット本体の前記負荷転動体転走溝を延長して形成されることを特徴とする請求項1に記載のねじ装置。
【請求項4】
前記曲率半径変化部の内周側の少なくとも一部は、前記ねじ軸の外周面で構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のねじ装置。
【請求項5】
前記ナットは、
前記負荷転動体転走溝が形成されるナット本体と、
前記ナット本体に装着され、前記戻し路の少なくとも一部が形成される循環部品と、を備え、
前記曲率半径変化部の内周側の残りの部分は、前記循環部品に形成されることを特徴とする請求項4に記載のねじ装置。
【請求項6】
前記ナットの前記負荷転動体転走溝の断面形状、及び前記曲率半径変化部の外周側の断面形状は、前記転動体としてのボールに二点で接触するゴシックアーチ溝形状に形成されることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載のねじ装置。
【請求項7】
前記曲率半径変化部の軌道中心線は、緩和曲線又は互いに異なる曲率半径を持つ複数の円弧を組み合わせた複合曲線であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載のねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナットとの間に転がり運動可能に転動体を介在させ、転動体が循環するようにしたねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ、ローラねじ等のねじ装置は、ねじ軸、ナット、ねじ軸とナットとの間に介在されるボール、ローラ等の転動体、及び転動体を無限循環させる循環部品を備える。ねじ装置は、転動体の転がり運動によって軽快な動きが得られるという特徴を持ち、回転運動を直線運動に変換し、又は直線運動を回転運動に変換する機械要素として広く用いられている。
【0003】
ねじ軸の外周面には、螺旋の転動体転走溝が形成される。ナットの内周面には、ねじ軸の転動体転走溝に対向する螺旋の負荷転動体転走溝が形成される。ねじ軸の転動体転走溝とナットの負荷転動体転走溝との間の螺旋の負荷転動体転走路には多数の転動体が転がり運動可能に配列される。ナットには、転動体を循環させるための循環部品が設けられる。循環部品には、螺旋の負荷転動体転走溝の一端と他端を繋げる戻し路が形成される。ナットに対してねじ軸を相対的に回転させると、転動体が負荷転動体転走路を転がり運動する。ナットの負荷転動体転走溝の一端まで転がり運動した転動体は、循環部品の戻し路を経由して再び負荷転動体転走溝の他端に戻る。
【0004】
螺旋の負荷転動体転走路と戻し路との境界において、直線的な戻し路が螺旋の負荷転動体転走路の接線方向に配置されるのが一般的である。すなわち、ナットの軸線方向から見たとき、直線的な戻し路を円形の負荷転動体転走路の接線方向に配置するのが一般的である。転動体は負荷を受けながら螺旋の負荷転動体転走路を移動する。そして、負荷転動体転走路を出て直線的な戻し路に入り、直線的な戻し路を移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−112432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
負荷転動体転走路においては、転動体は螺旋軌道を移動するので、転動体には遠心力が作用する。しかし、戻し路においては、転動体は直線軌道を移動するので、転動体には遠心力は作用しない。このため、負荷転動体転走路から戻し路へ又は戻し路から負荷転動体転走路へ移行する転動体に急激に遠心力の変化が起こる。
【0007】
また、負荷転動体転走路においては、転動体は荷重を受けており、その位置が決められた状態で螺旋軌道に沿って移動する。これに対し、戻し路に入ると転動体は転動体の径よりも内径が大きな戻し路を移動するので、転動体は戻し路の中を自由に動ける状態(転動体の周囲に遊びがある状態)で移動する。これが原因で、戻し路の内壁面に当たった転動体と負荷転動体転走路に入った転動体とで、転動体の中心のずれが生ずる。このため、戻し路と負荷転動体転走路の境界で転動体の急激な位置の変化が生じたり、また転動体のつまりが発生した場合、戻し路内の転動体の軌道がジグザグになったりする。
【0008】
以上のように、従来のねじ装置にあっては、負荷転動体転走路と戻し路の境界で転動体に急激な力の変化又は位置の変化が起こるという課題がある。そこで本発明は、負荷転動体転走路と戻し路の境界で転動体に急激な力の変化又は位置の変化が起こるのを抑えることにより、転動体の動きをスムーズにすることができるねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、外周面に螺旋の転動体転走溝を有するねじ軸と、内周面に前記転動体転走溝に対向する螺旋の負荷転動体転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記転動体転走溝と前記ナットの前記負荷転動体転走溝との間の螺旋の負荷転動体転走路の一端と他端を接続する戻し路と、前記負荷転動体転走路及び前記戻し路に配列される複数の転動体と、を備え、前記負荷転動体転走路では前記転動体が前記ナットと前記ねじ軸との間で圧縮の荷重を受けるねじ装置において、前記ナットの軸線方向から見たとき、前記戻し路には、前記戻し路における転動体の軌道中心線の曲率半径が前記負荷転動体転走路における転動体の軌道中心線の曲率半径以上であり、かつ前記負荷転動体転走路から離れるにしたがって前記戻し路における転動体の軌道中心線の曲率半径が徐々に又は段階的に大きくなる曲率半径変化部が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負荷転動体転走路から離れるにしたがって戻し路の軌道中心線の曲率半径が徐々に又は段階的に大きくなるので、作用する遠心力が増加しながら転動体が戻し路から負荷転動体転走路に入り、作用する遠心力が減少しながら負荷転動体転走路から戻し路へと出ていく。このため、戻し路と負荷転動体転走路の境界の前後で転動体に作用する遠心力が急激に変化するのを抑えることができる。
【0011】
また、戻し路において転動体の軌道中心線が曲がっていることから、戻し路を移動する転動体に遠心力が働く。遠心力によって転動体は戻し路の外周側に押しつけられながら戻し路を移動する。このため、戻し路で転動体が整列し易くなり、境界の前後で転動体に急激な位置の変化が起こるのを抑えることができる。さらに、戻し路において転動体の軌道中心線が曲がっていることから、転動体が詰まった場合でも転動体に転動体を戻し路の外周側に押しつける力が働き、戻し路で転動体が整列し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態のねじ装置の側面図
図2】本実施形態のねじ装置の斜視図
図3】本実施形態のねじ装置の正面図(ナットの軸線方向からみた図)
図4】本実施形態のナット本体の斜視図(図4(a)は図2と同方向から見たナット本体の斜視図を示し、図4(b)は図2と反対方向から見たナット本体の斜視図を示す)
図5】本実施形態の循環部品の斜視図
図6】緩和曲線を示す図
図7】従来の接線方向掬いと本実施形態の曲率半径変化掬いとで、ボールに作用する遠心力を比較した図(図7(a)(b)は従来の接線方向掬いを示し、図7(c)は本実施形態の曲率半径変化掬いを示す)
図8】従来の接線方向掬いと本実施形態の曲率半径変化掬いとで、ボールの自転を比較した図(図8(a)(b)は従来の接線方向掬いを示し、図8(c)(d)は本実施形態の曲率半径変化掬いを示す)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態のねじ装置を説明する。図1ないし図3は本実施形態のねじ装置を示す。図1はねじ装置の側面図、図2はねじ装置の斜視図、図3はねじ装置の軸線方向からみた正面図を示す。ねじ装置は、ねじ軸1、ねじ軸1が貫通する開口部2aが形成されるナット2、ねじ軸1とナット2との間に転がり運動可能に介在する複数の転動体としてのボール4を備える。
【0014】
ねじ軸1の外周面には螺旋の転動体転走溝としてのボール転走溝1aが形成される。ボール転走溝1aは一定のリードを持つ。この実施形態では、一条のボール転走溝1aが示されているが、ボール転走溝1aの条数は二条、三条等とすることができる。ボール転走溝1aの断面形状は二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝形状に形成される。ボール4はねじ軸1のボール転走溝1aに二点で接触する。一般的にねじ軸1は鋼製である。ボール4が円滑に転がるようにボール転走溝1aの表面には熱処理及び砥石を用いた研削加工が施される。
【0015】
ナット2の内周面には、ねじ軸1のボール転走溝1aに対向する螺旋の負荷転動体転走溝としての負荷ボール転走溝2bが形成される。負荷ボール転走溝2bのリード及び条数はボール転走溝1aのリード及び条数と等しい。負荷ボール転走溝2bの断面形状も二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝形状に形成される。ボール4はナット2の負荷ボール転走溝2bに二点で接触する。一般的にナット2(循環部品を除く)は鋼製である。ボール4が円滑に転がるように負荷ボール転走溝2bの表面には熱処理及び砥石を用いた研削加工が施される。
【0016】
ナット2の負荷ボール転走溝2bとねじ軸1のボール転走溝1aとの間に負荷転動体転走路としての螺旋の負荷ボール転走路3が形成される。ナット2の負荷ボール転走溝2bとねじ軸1のボール転走溝1aとの間のすきまはボール4の径よりも小さく、負荷ボール転走路3ではボール4はナット2とねじ軸1との間で圧縮の荷重を受ける。
【0017】
ナット2には、螺旋の負荷ボール転走路3の一端と他端を繋げる戻し路5が形成される。負荷ボール転走路3及び戻し路5には複数のボール4が配列される。ボール4間にはスペーサ(図示せず)が介在されることもある。負荷ボール転走路3では、ボール4はねじ軸1のボール転走溝1aとナット2の負荷ボール転走溝2bとの間で負荷を受けながら転がり運動し、ボール4の軌道中心線は螺旋になる。一方、戻し路5では、ボール4の軌道中心線が螺旋から外れる。戻し路5(ただし、後述するように負荷ボール転走路3から出た直後の戻し路5は除く)の内径はボール4の外径よりも大きく、戻し路5ではボール4は荷重を受けることがなく、後続のボール4に押されて移動する。ねじ軸1に対してナット2を相対的に回転させると、ボール4は荷重を受けながら負荷ボール転走路3を転がり運動する。ナット2の負荷ボール転走溝2bの一端まで転がったボール4は、戻し路5に入って荷重から開放され、戻し路5を移動した後、負荷ボール転走溝2bの他端に戻る。
【0018】
ナット2は、負荷ボール転走溝2bが形成されるナット本体21と、ナット本体21の軸線方向の両端部に装着される循環部品22と、を備える。ナット本体21には、軸線方向に伸びる貫通孔21aが形成される。ナット本体21に装着される循環部品22には、方向転換路12が形成される。ナット本体21には、負荷ボール転走溝2bを延長して曲率半径変化部13の外周側13bが形成される。図1に曲率半径変化部13の外周側13bを分かり易くするために斜線で示す(曲率半径変化部13の外周側13bはナット本体21と別体のように示されているが、曲率半径変化部13の外周側13bはナット本体21と一体である)。循環部品22の方向転換路12は貫通孔21a及び曲率半径変化部13に繋がる。ナット本体21の貫通孔21a、循環部品22の方向転換路12、及び曲率半径変化部13が戻し路5を構成する。
【0019】
図3に示すように、ナット2の軸線方向から見たとき、戻し路5には、負荷ボール転走路3に連続して曲率半径変化部13が設けられる。負荷ボール転走路3におけるボール4の軌道中心線3aを一点鎖線で示し、曲率半径変化部13におけるボール4の軌道中心線13aを太線で示す。曲率半径変化部13においては、ボール4の軌道中心線13aの曲率半径が負荷ボール転走路3におけるボール4の軌道中心線3aの曲率半径以上であり、かつ負荷ボール転走路3に離れるにしたがって(言い換えれば方向転換路12に近づくにしたがって)ボール4の軌道中心線13aの曲率半径が除々に又は段階的に大きくなる。曲率半径変化部13においては、ボール4の軌道中心線13aは負荷ボール転走路3におけるボール4の軌道中心線3aから外側にずれている。ボール4の軌道中心線13aの曲率中心はねじ軸1側に位置する。曲率半径変化部13と負荷ボール転走路3との接続箇所P1では、曲率半径変化部13の軌道中心線13aの接線方向と負荷ボール転走路3の軌道中心線3aの接線方向が一致する。すなわち、曲率半径変化部13の軌道中心線13aはリードを持った曲線である。また、この接続箇所P1では、曲率半径変化部13の軌道中心線13aの曲率半径は負荷ボール転走路3の軌道中心線3aの曲率半径に等しいか又は軌道中心線3aの曲率半径よりも大きい。図3に示すように、ナット2の軸線方向から見た循環部品22の方向転換路12は直線的に形成される。循環部品22の方向転換路12との接続箇所P2で曲率半径変化部13の軌道中心線13aの曲率半径は無限大になる。曲率半径変化部13の長さ(P1からP2までの軌道中心線13aの長さ)はボール直径の二倍以上である。なお、本実施形態においては、P1はナット2の高さ方向中央を横切る水平線上に存在しているが、曲率半径変化部13の軌道中心線13aの軌跡に応じて、循環部品22に近づけることもできるし、循環部品22から離すこともできる。
【0020】
曲率半径変化部13においては、ボール4がナット2に形成される曲率半径変化部13の外周側13bに沿って移動する。このため、曲率半径変化部13におけるボール4の軌道中心線13aは、ナット2の曲率半径変化部13の外周側13bに沿って移動するボール4の中心の軌跡に一致する。一方、負荷ボール転走路3においては、ボール4がナット2の負荷ボール転走溝2bとねじ軸1のボール転走溝1aとの間に挟まれながら移動する。ボール4の軌道中心線3aは負荷ボール転走路3の中心線に一致し、円形である。負荷ボール転走路3におけるボール4の軌道中心線3aの曲率半径はBCD(BallCircle Diameter)の1/2である。
【0021】
ボール4の軌道中心線13aは、緩和曲線、又は互いに異なる曲率半径を持つ複数の円弧を組み合わせた複合曲線である。緩和曲線は高速道路などで用いられる曲線であり、曲線長に比例して曲率が連続的に変化する曲線である。緩和曲線については後述する。複合曲線は例えば半径R1、半径R2(R1<R2の関係がある)等の二以上の円弧を組み合わせた曲線である。
【0022】
上記のように曲率半径変化部13の外周側13bはナット2に形成される。曲率半径変化部13の内周側13Cの、負荷ボール転走路3に近い部分13C2がねじ軸1の外周面で構成され、負荷ボール転走路3から離れた部分13C1が循環部品22に形成される。曲率半径変化部13の外周側13bはナット2の負荷ボール転走溝2bに連続しており、負荷ボール転走溝2bから曲率半径変化部13の外周側13bに入った直後のボール4にも負荷ボール転走溝2bに入っているボール4と同様に荷重が作用する。曲率半径変化部13の外周側13bを移動するボール4は負荷ボール転走溝2bから離れるにしたがって徐々に荷重から開放される。ボールは曲率半径変化部13の途中(この実施形態では、負荷ボール転走路3に近い部分13C2の途中)から完全に荷重から開放されて、無負荷の状態で循環部品22に入る。
【0023】
図4(a)は図2と同方向から見たナット本体21の斜視図を示し、図4(b)は図2と反対方向から見たナット本体21の斜視図を示す。ナット本体21の軸線方向の端面には、循環部品22が装着される凹部31が形成される。この凹部31は貫通孔21aに繋がっている。循環部品22を凹部31に装着すると循環部品22の方向転換路12が貫通孔21aに繋がる。ナット本体21の内周面には、負荷ボール転走溝2bを延長して曲率半径変化部13の外周側13bが形成される。曲率半径変化部13の外周側13bの断面形状は二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝形状に形成される。ボール4はナット2の曲率半径変化部13の外周側13bに二点で接触する。凹部31は曲率半径変化部13の外周側13bにも繋がっていて、循環部品22を凹部31に装着すると循環部品22の方向転換路12が曲率半径変化部13の外周側13bに繋がる。
【0024】
図5は循環部品22の斜視図を示す。循環部品22はナット本体21の凹部31に嵌め込まれる本体部32と、ナット2の内周面に接する延長部33と、を備える。本体部32には方向転換路12が形成される。方向転換路12の断面形状はボール4の半径よりも大きな半径の円である。延長部33は本体部32の下部を除去して薄く形成される。延長部33には曲率半径変化部13の内周側13c1が形成される。曲率半径変化部13の内周側13c1の断面形状はボール4の半径よりも大きな半径の半円である。延長部33はナット2の曲率半径変化部13の外周側13bと協働して閉断面の曲率半径変化部13を構成する。延長部33の先端にはボール4を掬い上げる掬い部34が形成される。ボール4は掬い部34で循環部品22に抱え込まれる。ナット2の曲率半径変化部13の外周側13bは循環部品22の掬い部34を超えて奥まで延びている(図3参照)。
【0025】
緩和曲線は以下のとおりである。図6は緩和曲線(クロソイド曲線)を示す説明図である。図6において,始点P0 から終点P1 までの緩和曲線は,次に示す4つのパラメータで表すことができる。
【0026】
h :始点P0 から終点P1 までの曲線の長さ
φ0 :始点P0 における接線角
φv :接線角の円弧分増分
φu :接線角のクロソイド分増分。
ここで、3つの角度の単位は以下の式中にあってはラジアンである。
この緩和曲線上の点Pはy軸を虚軸(j軸)にとるとき、無次元変位Sを変数として、数1により求められる。
【数1】

ここで、φは点Pにおける曲線の接線方向、Sは始点P0 から点Pまでの曲線の長さsをhで割った値である。この曲線の曲率cv は数2により求められる。
【0027】
【数2】
【0028】
縮率、すなわち曲率の変化率cu は数3により求められる。
【数3】
【0029】
上記数3から曲率の変化率cu は一定値となる。すなわち、緩和曲線は、曲率が曲線の長さに対して線形に(一次式で)変化する曲線であり、これを用いることによって曲率が連続的に変化する滑らかな曲線を得ることができる。
【0030】
曲率半径変化部13の外周側13bの製造方法は以下のとおりである。ナット2の負荷ボール転走溝2bは、ナット2の負荷ボール転走溝2bに小径の砥石を当て、砥石を回転させることで研削加工される。このとき、ナット2を回転させながら研削砥石をナット2の軸線方向に移動させる。これにより、螺旋の負荷ボール転走溝2bを研削加工することができる。ナット2の負荷ボール転走溝2bを研削した後、砥石を緩和曲線に沿ってナット2の半径方向にさらに移動させれば、曲率半径変化部13の外周側13bを研削加工することができる。実際には研削加工を容易にするため、ナット2の周方向の位置とナット2の半径方向における砥石の位置との関係を予め数値化しておき、数値にしたがって砥石を半径方向に移動させることになる。
【0031】
以上に本実施形態のねじ装置の構造を説明した。以下に図面を参照して本実施形態のねじ装置の効果を説明する。図7は、従来の接線方向掬いと本実施形態の曲率半径変化掬いとで、ボール4に作用する遠心力Pcを比較したものである。図7(a)及び図7(b)は従来の接線方向掬いを示し、図7(c)は本実施形態の曲率半径変化掬いを示す。図7(a)に示すように、従来の接線方向掬いの場合、負荷ボール転走路3におけるボール4の軌道中心線3aが螺旋であり、戻し路41におけるボール4の軌道中心線41aが直線になる。負荷ボール転走路3から戻し路41へボール4は螺旋の接線方向に進む。この場合、負荷ボール転走路3を移動するボール4には一定の遠心力Pcが作用する。しかし、戻し路41を移動するボール4には遠心力が作用しない。このため、負荷ボール転走路3から戻し路41に移行するボール4、又は戻し路41から負荷ボール転走路3に移行するボール4に作用する遠心力が急激に変化する。
【0032】
また、図7(b)に示すように、負荷ボール転走路3ではボール4は位置が決められた状態で螺旋軌道に沿って移動するのに対し、戻し路41に入るとボール径よりも大きい円筒内を移動することから、ボール4が戻し路41内を自由に動いて移動できるようになる。このため、戻し路41の円筒の壁に当たった状態と負荷ボール転走路3で位置が決められた状態とでボール4の中心にずれがあり、境界42で急激なボール4の位置の変化が生じる。ボール4の詰まりが発生した場合、戻し路41のボール4の軌道中心線41aがジグザグになり、軌道中心線41aが連続しなくなる。
【0033】
これに対して、本実施形態の曲率半径変化掬いの場合、図7(c)に示すように、曲率半径変化部13の軌道中心線13aの曲率半径が徐々に変化するので、作用する遠心力が増加しながらボール4が戻し路5から負荷ボール転走路3に入り、作用する遠心力が減少しながら負荷ボール転走路3から戻し路5へと出ていく。このため、戻し路5と負荷ボール転走路3の境界43の前後でボール4に作用する遠心力が急激に変化するのを抑えることができる。
【0034】
また、ナット2の負荷ボール転走溝2bを延長して戻し路5の曲率半径変化部13の外周側13bを形成しているので、負荷ボール転走路3と戻し路5との境界43でもボール4の軌道中心線3a,13aは連続し、ボール4が円滑に境界43を移動する。さらに、戻し路5においてボール4の軌道中心線13aが曲がっていることから、戻し路5を移動するボール4に遠心力が働く。遠心力によってボール4は戻し路5の外周側13bに押しつけられながら戻し路5を移動するので、戻し路5でボール4が整列し易くなる。ボール4が詰まった場合でも、ボール4を戻し路5の外周側13bに押しつける力が働き、戻し路5でボール4が整列し易くなる。
【0035】
図8は、従来の接線方向掬いと本実施形態の曲率半径変化掬いとで、ボール4の自転を比較したものである。図8(a)(b)は従来の接線方向掬いを示し、図8(c)(d)は本実施形態の曲率半径変化掬いを示す。図8(a)に示すように、従来の接線方向掬いの場合、ねじ軸1を反時計方向に回転させると負荷ボール転走路3においてボール4が時計方向に自転しながら螺旋軌道を移動する。しかし、円筒の戻し路41においてはボール4が自転することはない。図8(b)に示すように、戻し路41から負荷ボール転走路3に入るときもボール4が自転していない状態から急に自転する状態になり、ボール4の自転状態が急激に変化する。
【0036】
これに対し、本実施形態の曲率半径変化掬いの場合、図8(c)に示すように、負荷ボール転走路3から戻し路5に出るとき、ボール4が曲率半径変化部13の外周側13bに沿って時計方向に自転する。また、図8(d)に示すように、戻し路5から負荷ボール転走路3に入るとき、ボール4が曲率半径変化部13の外周側13bに沿って反時計方向に自転する。このため、負荷ボール転走路3と戻し路5との境界43でボール4の自転状態が急激に変化するのを防止でき、スムーズにボール4が境界43を移動する。ねじ装置を高速回転させれば、ボール4に作用する遠心力、ボール4を整列させる力、ボール4を自転させる力がより強くなるので、よりボール4の動きがスムーズになる。
【0037】
本実施形態のねじ装置によればさらに以下の効果を奏する。ナット本体21の負荷ボール転走溝2bを延長して曲率半径変化部13の外周側13bを形成することで、曲率半径変化部13を製造し易くなる。
【0038】
曲率半径変化部13の内周側の少なくとも一部をねじ軸1の外周面に形成することで、ねじ軸1の回転に伴ってボール4を自転させることができる。
【0039】
曲率半径変化部13の内周側の残りの部分13C1を循環部品22に形成することで、曲率半径変化部13の曲率半径を大きくしてもボール4の周囲の遊びが過大になるのを防止できる。
【0040】
ナット本体21の負荷ボール転走溝2bの断面形状及び曲率半径変化部13の外周側13bの断面形状をボール4に二点で接触するゴシックアーチ溝形状に形成することで、負荷ボール転走路3と戻し路5の境界43の前後でボールの接触点を一致させることができる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲でさまざまな実施形態に具現化可能である。
【0042】
上記実施形態では、曲率半径変化部の軌道中心線をリードを持つ緩和曲線(すなわち、曲率半径変化部と負荷ボール転走路との接続箇所において、曲率半径変化部の軌道中心線の接線方向と負荷ボール転走路の軌道中心線の接線方向とを完全に一致させている)が、負荷ボール転走路と曲率半径変化部をなめらかに繋ぐことができれば、曲率半径変化部の軌道中心線をリードを持たない緩和曲線(例えば、曲率半径変化部の軌道中心線がナットの軸線に直交する平面内に配置される)にすることもできる。ただし、本発明の効果を最大限得るには、リードがある事が望ましい。
【0043】
上記実施形態では、曲率半径変化部の外周側をナット本体の負荷ボール転走溝を延長して形成した例を説明したが、曲率半径変化部の外周側を循環部品に形成することもできる。
【0044】
上記実施形態では、ナットの循環構造がエンドデフレクタ式(ナット本体に貫通孔を形成し、ナット本体の軸線方向の両端部に方向転換路12が形成された循環部品を装着した方式)を説明したが、ナットの循環構造はリターンパイプ式(ナット本体に戻し路が形成されたリターンパイプを装着した方式)にすることもできる。
【0045】
上記実施形態では、ナット本体の負荷ボール転走溝の断面形状、及び曲率半径変化部の外周側の断面形状を二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成する例を説明したが、これらの断面形状を単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状に形成することもできる。
【0046】
転動体としてはボールの他にローラを用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…ねじ軸,1a…ボール転走溝(転動体転走溝),2…ナット,2b…負荷ボール転走溝(負荷転動体転走溝),3…負荷ボール転走路,3a…負荷ボール転走路におけるボールの軌道中心線,4…ボール(転動体),5…戻し路,13…曲率半径変化部,13a…曲率半径変化部におけるボールの軌道中心線,13b…曲率半径変化部の外周側,13c…曲率半径変化部の内周側,13c1…曲率半径変化部の内周側の残りの部分,13c2…曲率半径変化部の内周側の一部,21…ナット本体,22…循環部品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8