【文献】
Macromol. Symp.,2010年,296,pp.63-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1および2から、本発明に従う系が比較の系よりも高い反応速度を示すことが分かる。これは、プロセス全体の構成および機器設計において使用されてコストを下げることができる。
【0010】
上述したように、本発明に従う方法は、プロセス利点と関連する。これを説明するために、乳酸を製造する従来の方法が最初に記載される。
【0011】
乳酸はしばしば、発酵によって製造される。発酵の際に、塩基がしばしば添加されて乳酸を中和し、そしてpHを乳酸を生成する微生物に適する範囲に保持する。これは、乳酸塩を含む発酵ブロスを結果する。乳酸塩は典型的には、強い無機酸による酸性化によって乳酸に転化される。これは、発酵ブロス上でそのまま行われ得るが、そこからバイオマスを除去し、任意的にさらなる精製工程の後にも行われ得る。この結果は、乳酸、酸性化工程から結果する(溶解したまたは固体の)塩(乳酸塩のカチオンおよび酸からのアニオン)、および任意的なさらなる成分、例えば発酵ブロスから結果する1以上の追加の成分を含む水性溶液である。
【0012】
この水性媒体から出発して乳酸が単離され、そして精製されるところの多数の方法がある。これらの例として、蒸留および抽出が挙げられる。抽出工程が使用される場合には、発酵培地が、しばしば種々の精製工程、例えばバイオマス除去の後に、有機溶媒と接触されて、乳酸の有機溶媒中の溶液を形成する。この溶液は慣用的に、2の方法の1つで処理される。第一の可能性として、乳酸の有機溶媒中の溶液が、それを水と接触させることにより、逆抽出工程に付される。これは、例えば国際公開第00/17378号パンフレットに記載されている。上記文献は、アミン、アルコールおよびエーテル、好ましくはイソアミルアルコール、ジイソプロピルエーテルおよびAlamine 336(低い水溶解度を有する高沸点の第3アミン)の使用を記載している。
【0013】
国際公開第95/03268号パンフレットは、カルボン酸、例えば乳酸を含む供給物を、4〜12の炭素原子を有しかつヒドロキシル、エステル、ケト、エーテル、カルボニルおよびアミドからなる群から選択される少なくとも1の官能基を有する含酸素溶媒で抽出することを記載している。上記溶媒抽出物は、次いで、水性液体によって逆抽出される。さらに、国際公開第2013/093028号パンフレットは、乳酸および少なくとも5重量%の塩化マグネシウムを含む水性混合物から、C5+ケトン、ジエチルエーテルおよびメチル−t−ブチルエーテルから成る群から選択される有機溶媒を使用して乳酸を抽出することを記載している。上記乳酸溶液は、それを水と接触させることにより逆抽出工程に付されて、水性乳酸溶液を形成する。この文献の方法では、抽出と逆抽出との組み合わせが、乳酸出発溶液よりも濃縮された乳酸生成物溶液を得ることを可能にする。
【0014】
逆抽出の他に、乳酸を水性溶液から揮発性溶媒を使用して抽出し、次いで上記溶媒を除去することも記載されている。例えば、米国特許第2,710,880号明細書は、乳酸および溶解した塩を含む水性媒体から、3〜4の炭素原子を有するアルコールまたはケトンを使用して乳酸を抽出することを記載している。実施例では、溶媒が蒸留によって除去される。英国特許出願公開第173479号明細書は、類似の方法を記載している。
【0015】
英国特許出願公開第280969号明細書は、硫酸および乳酸ナトリウムが80%乳酸溶液に添加され、そして上記溶液がエーテルで抽出される方法を記載している。抽出物は水で洗浄されて汚染物を除去する。エーテルは、「周知のやり方」で除去され、そして再利用され得ることが示されている。
【0016】
本発明に従う方法では、乳酸を含む抽出溶媒を逆抽出工程または蒸留工程に付して乳酸を回収し、そして上記乳酸を乳酸オリゴマーに転化することよりもむしろ、揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液が、ラクチドの製造における出発物質として直接使用され、これは、装置における投資と処理コストの両方における節約をもたらす。さらに、驚いたことに、本発明に従う方法は、ラクチド形成を良好な収率で、望ましくない副生物の形成なしに、そして増加され得る反応速度ですらもたらすことが分かった。
【0017】
なお、米国特許出願公開第2009/0093034号明細書は、乳酸を、pH4.8以下の発酵液から、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールおよびミネラルスピリットから選択される溶媒を使用して抽出する方法を記載している。オリゴ乳酸が、4.8以下のpHを有する乳酸発酵培地を減圧下で加熱し、そして水で洗浄することによって得られ得ることが記載されている。また、上述した溶媒が発酵培地に添加され、溶媒含有発酵培地が、上記溶媒と水の共沸混合物と上記溶媒の沸点との間の温度に加熱されて乳酸オリゴマーを形成し、そして発酵液を60℃〜上記溶媒の沸点の範囲の温度に加熱してオリゴ乳酸を発酵培地から抽出するところの方法も記載されている。この文献は、特に生成物をラクチドに直接転化することを記載していない。
【0018】
米国特許出願公開第2012/0116100号明細書は、ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合を含むヒドロキシカルボン酸環式二量体の製造法を記載している。ここで、上記解重合工程では、反応溶液が、水平に提供された反応溶液通路を通って流動しながら、減圧下での加熱媒体通路からの熱伝達を介して加熱される。揮発性有機溶媒の使用は記載されていない。
【0019】
米国特許出願公開第2011/0155557号明細書は、乳酸オリゴマーからのラクチドの製造法を記載しており、上記方法は、乳酸オリゴマーを触媒の存在下で150〜300℃の温度で加熱する工程を含む。揮発性有機溶媒の使用は記載されていない。
【0020】
国際公開第2012/110117号パンフレットは、ポリヒドロキシカルボン酸、特にポリ乳酸を、出発物質としてラクチドを使用する開環重合法を介して製造する方法を記載している。ラクチドは、ポリマー生成物から除去され、そして反応の出発点に再循環される。揮発性有機溶媒の使用を含む方法によるラクチドの製造は記載されていない。
【0021】
米国特許第5420304号明細書は、多重溶媒を使用する逐次の抽出/反応プロセスを介して環式エステルを製造する統合された方法を記載している。揮発性有機溶媒および水の蒸発による乳酸オリゴマーの形成、および続く触媒の添加によるラクチドの形成は記載されていない。
【0022】
本発明およびその種々の実施形態が、下記により詳細に記載される。
【0023】
本発明に従う方法における第一工程は、揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液を用意することである。
【0024】
本発明の文脈内において、有機溶媒は、200℃未満の大気圧下での沸点を有するときに揮発性である。本発明での使用に適する溶媒は、本発明に従う方法において遭遇されるであろう条件下で乳酸と反応しないことが要求される。従って、上記溶媒は、実質的な量のアルコールを含むべきでない。これは、アルコールは、乳酸エステルの形成下で乳酸と反応し得るからである。また、溶媒は、実質的な量のアミンを含むべきでない。これは、アミンは、反応して乳酸アミンを形成し得るからである。
【0025】
溶媒がアルコールとアミンを合わせて5重量%未満、特に2重量%未満、より特に1重量%未満で含むことが好ましい。
【0026】
溶媒が、実質的な量のエステルを含まないことがさらに好ましい。これは、エステルは加水分解し得るからである。したがって、溶媒は、5重量%未満、特に2重量%未満、さらに特に1重量%未満のエステルを含むことが好ましい。
【0027】
さらに、本発明で使用される溶媒が、乳酸のための比較的高い溶解度を有することが好ましい。これは、乳酸の上記溶媒中の比較的高い濃度、例えば少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%の溶液の調製を許す。そうでなければ、非常に高い溶媒体積の使用が必要とされるだろう。この理由のために、直鎖アルカンの使用はあまり適しないと考えられる。同じことが、芳香族化合物、例えばトルエン、キシレン、メシチレンおよびエチルベンゼンに当てはまる。本発明での使用に好ましい溶媒は、C2〜C10ケトンおよびC2〜C10エーテルを含む群から選択されるものである。
【0028】
本発明での使用に特に好ましい溶媒は、C2〜C8ケトンおよびC2〜C6エーテルを含む群から選択されるものである。メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンおよび2−または3−ペンタノンの使用は、特に魅力的であることが分かった。
化合物の混合物も使用され得る。
【0029】
上述したように、揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液は、好ましくは、少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%の乳酸濃度を有する。溶媒はいずれにしても蒸発するので、乳酸濃度の最大はない。より高い乳酸濃度、および従ってより少ない溶媒含量は、より少ない溶媒蒸発を要求し、それは、商業的観点から魅力的であろう。実際的な点から、乳酸濃度は一般的に40重量%未満であろう。
【0030】
揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液は、更なる成分を含み得る。特に、水を含み得る。これは、上記溶液が抽出プロセスに由来するならば特にそうである。水はラクチド製造のために除去されなければならないので、水分量が比較的少ないのが好ましい。特に、揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液の水分量が15重量%未満であるのが好ましい。
【0031】
1実施形態では、揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液が、乳酸を水性媒体から抽出することにより、または水性媒体を上記有機溶媒と接触させ、そしてこうして得られた反応媒体を液液分離工程に付すことにより得られる。これは、本明細書においてより詳細に論じられるであろう。
【0032】
揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液は、蒸発工程に付されて有機溶媒および水を除去して、乳酸オリゴマーを含む組成物を形成する。
【0033】
蒸発工程は、従来公知の方法を使用して行われ得る。例えば、高められた温度で大気圧で、または減圧下で行われ得る。減圧下で行うことの利点は、より低い温度が適用され得ることである。より低い温度の使用は、乳酸のラセミ化を減少させるために魅力的であり得る。
【0034】
蒸発工程は、乳酸オリゴマーを含む組成物を形成する。乳酸オリゴマーは一般に、2〜30、特に4〜20、より特に5〜15の平均重合度を有する。この範囲の平均重合度では、一方での揮発性の低分子量オリゴマーの量を制限することと、他方での非常に高い分子量のオリゴマーの量を制限することにより粘度を許容可能なレベルで保持することとの間のバランスが見出されると考えられる。本明細書の文脈において、平均重合度は、下記のように定義される。
【0035】
DP = 1 + (1000/(FA*10/90)−90)/72
【0036】
この式において、DPは平均重合度を表わし、FAは滴定により決定された遊離酸含量(重量%)を表わす。
【0037】
上記組成物は、残留溶媒、例えば0〜5重量%、特に0〜2重量%、特に0〜0.5重量%の範囲の溶媒をさらに含み得る。
【0038】
上記組成物は、水を例えば0〜5重量%、特に0〜2重量%、更に特に0〜0.5重量%の範囲でさらに含み得る。
【0039】
乳酸オリゴマーの量を含む組成物に触媒が添加される。上記触媒は、乳酸オリゴマーがラクチドに転化されるところの解重合/環化プロセスを触媒する。適する触媒は、当該分野において知られており、金属酸化物、金属ハライド、メタルダスト、カルボン酸等に由来する有機金属化合物、および有機化合物、例えばグアニジンを包含する。スズ(II)を含む触媒の使用が好ましいと考えられる。上記触媒は、例えば、この目的のために従来周知である、酸化スズ(II)または2−エチルヘキサン酸スズ(II)を含み得る。上記触媒は、例えば、乳酸オリゴマーの量に基づいて計算して、0.01〜5重量%、特に0.01〜2重量%の量で添加され得る。
【0040】
反応混合物は次いで、反応条件に付されてラクチドを形成する。適する反応条件は、160〜220℃の範囲、特に180〜200℃の範囲の温度、および1〜15mbarの範囲の圧力を包含する。形成の後にラクチドが蒸発し、そして例えば凝縮器に凝縮することにより、集められ得る。より高い沸点の乳酸オリゴマーは蒸発しない。従って、ラクチドを高い純度で得ることができる。
【0041】
本発明に従う方法によって得られたラクチドは、従来公知の方法によってさらに処理され得る。意図される将来の用途に応じて、精製工程、例えば結晶化または蒸留が望ましくあり得る。
【0042】
ラクチド(ジラクチドという場合がある)は、乳酸の環式二量体である。乳酸は、光学的にエナンチオマーである2つの型(D−乳酸およびL−乳酸と呼ばれる)で存在する。L−乳酸は、天然に主に存在する型であり、一般に発酵プロセスで得られる型である。2つの型の乳酸の存在は、ラクチドが2のL−乳酸分子から成るか、2のD−乳酸分子から成るか、またはL−乳酸分子とD−乳酸分子が組み合わさって二量体を形成するかに応じて、3つの型のラクチドを生み出す。これら3つの二量体は、それぞれ、L−ラクチド、D−ラクチドおよびメソ−ラクチドと呼ばれる。さらに、約126℃の融点を有する、L−ラクチドとD−ラクチドの50/50混合物はしばしば、文献において、D,L−ラクチドと呼ばれる。
【0043】
乳酸およびラクチドの光学活性は、特定の条件下で変わることが知られており、等量のD−エナンチオマーとL−エナンチオマーが存在する場合には、光学不活性での平衡に向かう傾向にある。出発物質におけるD−エナンチオマーとL−エナンチオマーの相対的濃度、不純物または触媒の存在、および温度および圧力を変えるときは、そのようなラセミ化の速度に影響を及ぼすことが知られている。乳酸またはラクチドの光学純度は、ラクチドの開環重合の後に得られるポリ乳酸の立体化学のために決定的であり、ポリマー特性のための重合なパラメータである。
【0044】
本発明の方法では、出発物質の光学純度が、相対的に大きい程度に保持され得る。言い換えると、本発明に従う方法が、少なくとも90%、特に少なくとも95%、より特に少なくとも98.5%、さらに特に少なくとも99.5%の光学純度を有する乳酸を用いて開始するならば、ラクチド蒸気が、少なくとも85%、特に少なくとも92%、より特に少なくとも97.5%、さらに特に少なくとも99%の光学純度を伴って反応混合物から得られる。光学純度の損失は好ましくは、5%未満、特に3%未満、より特に1%未満、さらに特に0.5%未満である。ここで、光学純度の損失は、出発時の乳酸の光学純度と、反応混合物から得られたラクチド蒸気に存在するときのラクチドに存在する乳酸の光学純度との差として定義される。
【0045】
本明細書において、表示された光学純度は、系に存在する乳酸の合計量に基づいて計算された、D−乳酸またはL−乳酸の何れかの割合を意味する。上記方法の段階に応じて、乳酸は、乳酸、乳酸オリゴマーおよび/またはラクチドの形態で存在するだろう。すなわち90%の光学純度は、何れの形態でも系に存在する乳酸分子の合計量に基づいて計算して、90%がL−乳酸でありかつ10%がD−乳酸であるか、90%がD−乳酸でありかつ10%がL−乳酸であることを意味する。
【0046】
出発物質に存在する乳酸が、少なくとも90%、特に少なくとも95%、より特に少なくとも98,5%、さらに特に少なくとも99.5%の光学純度を有するL−乳酸であることが好ましい。
【0047】
1実施形態では、本発明に従う方法において出発物質として使用される、揮発性有機溶媒中の乳酸の溶液が、乳酸を水性媒体から抽出することにより得られる。この抽出工程は、乳酸を含む水性媒体を、乳酸を含む水性媒体と少なくとも部分的に混和性でない揮発性有機溶媒と接触させることを含み得る。適する有機溶媒に関しては、上述したものが参照される。
【0048】
水性媒体の乳酸含量は好ましくは、できるだけ高い。例えば、水性混合物が、水性混合物の合計重量に基づいて、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%の乳酸を含み得る。少なくとも20重量%、より特に少なくとも25重量%の値が特に好ましくあり得る。最大としては、40重量%の値が挙げられ得る。
【0049】
1実施形態では、水性混合物が、2以下、典型的には1以下、例えば0〜1のpHを有する。pHが比較的低くて、乳酸が混合物中に酸の形態で存在して、抽出を許すのが好ましい。上記pHは、無機酸の添加によって適合され得る。
【0050】
1実施形態では、乳酸を含む水性媒体が、少なくとも5重量%の溶解された無機塩を含む。溶解された無機塩の存在が、より多くの量の乳酸が揮発性有機溶媒に混入される点で改善された抽出プロセスを結果することが分かった。さらに、溶解された無機塩の存在は、有機溶媒の水性媒体中での溶解度が低下することを意味する。これは、抽出プロセス中のより少ない溶媒損失をもたらし、これは、経済的および環境的観点から魅力的である。さらに、水の上記有機溶媒中での溶解度も、塩濃度が増加すると低下する。
【0051】
これらの組み合わされた効果は、純粋な水と混和性であるが、実質的な量の塩を含む水とは部分的にのみ混和性である溶媒の潜在的適用を結果する。これは、より広い範囲のありうる適する溶媒をもたらす。本発明の効果を高めるために、上記塩濃度は好ましくは、比較的高い。塩濃度が、少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%であるのが好ましくあり得る。上記溶液の乳酸含量に応じて、塩含量はより高く、例えば少なくとも25重量%、または少なくとも30重量%、または場合によっては少なくとも35重量%であり得る。最大値は一般に、係る塩の係る乳酸溶液中での溶解度によって決定され、当業者によって容易に決定され得る。
【0052】
本発明での使用に適する無機塩は、水中での高い溶解度、特に上記で特定された塩濃度を得ることを許す溶解度を有する無機塩である。無機塩に存在するカチオンは好ましくは、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、ニッケル、コバルト、鉄およびアルミニウムならびにそれらの組合せから選択される。マグネシウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムの群から選択される1以上のカチオンの使用が好ましい。カルシウムおよびマグネシウムの使用が特に好ましい。なぜならば、これらのカチオンは、乳酸の有機相中での存在を促進することが分かったからである。マグネシウムの使用は、この理由のために特に好ましくあり得る。
【0053】
無機塩のアニオンは、例えば、ナイトレート、スルフェートおよびハライドから選択され得る。アニオンとカチオンが、可溶な塩が得られるようなやり方で組み合わされるべきであることは当業者に明らかであろう。ハライド塩の使用は、実際的な点から好ましくあり得る。ハライド塩は、フッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物であり得る。塩化物の使用が好ましい。この選択は、上記で特定されたカチオンのための選好との組み合わせにおいて当てはまる。好ましい塩の具体的な例は、MgCl
2、CaCl
2、NaClおよびKClである。これらの塩は、乳酸の有機相への高められた分布に寄与することが分かった。塩化カルシウムおよびマグネシウムの使用が好ましいと考えられる。塩化マグネシウムの使用は、特に好ましくあり得る。
【0054】
抽出工程では、乳酸および好ましくは上述した溶解された無機塩を含む水性媒体が、有機溶媒と、一般的には上記溶媒と上記媒体との激しい(intense)接触が確実にされるような条件下で一緒にされる。存在するならば、上記可溶塩およびおそらくいくらかの残留乳酸を含む水性層と、乳酸を含む有機溶媒相とを含む系が形成される。
【0055】
分離工程では、水性相と有機溶媒相が、液液分離によって互いに分離されるが、これは、液液二相系を分離するための従来公知の方法を使用して行われ得る。液液分離に適する装置および方法の例は、デカンテーション、沈降、遠心分離、プレートセパレータの使用、コアレッサーの使用、およびハイドロサイクロンの使用を包含する。種々の方法および装置の組合せも使用され得る。
【0056】
分離工程は、任意の適する温度で、一般には5〜95℃の範囲で行われ得る。溶媒相の組成に関しては、上述したものが参照される。
【0057】
1実施形態では、乳酸および好ましくは溶解された無機塩を含む水性媒体が、無機酸を乳酸塩に添加して乳酸および溶解された無機塩を含む水性媒体液体を提供することを含む酸性化工程を包含する方法によって得られる。
【0058】
乳酸塩は、固体形態、例えばろ過ケーキ(filter cake)または懸濁物の形態であり得る。これは、乳酸塩が、比較的限られた水溶解度を有する場合、例えば乳酸マグネシウムの場合であり得る。他方、乳酸塩は、溶解された形態で提供され得、例えば乳酸ナトリウム、乳酸カリウムおよび乳酸カルシウムの場合であり得る。
【0059】
酸性化工程で使用される酸は、典型的には強酸、例えば塩酸、硫酸または硝酸である。上記酸は、酸のアニオンと乳酸塩のカチオンとが一緒になって可溶塩を形成するようなやり方で選択されるべきである。塩酸または硝酸の使用が好ましく、塩酸の使用が特に好ましい。この場合には、乳酸および塩化物塩を含む水性混合物が得られる。好ましい実施形態では、固体形態の乳酸マグネシウムが塩酸溶液と接触されて、乳酸および溶解された乳酸マグネシウムを含む水性媒体を形成する。
【0060】
酸性化は、例えば、乳酸塩(固体または溶解された形態)を水性酸溶液と接触させることにより行われ得る。HCl(これはまた、気体状であり得る)の場合には、乳酸塩溶液または懸濁物を、HClを含む気体流と接触させることも可能である。
【0061】
乳酸塩の酸性化が、それを酸性溶液と接触させることにより行われる場合には、好ましくは、酸性溶液ができるだけ高い酸濃度を有する。そのような高い酸濃度は、高い乳酸濃度を有する水性混合物を結果し、それは望ましい。従って、酸性溶液は、酸性溶液の総重量に基づいて、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%の酸を含む。
【0062】
酸性化は典型的には、過剰の酸を使用して行われる。過剰は、得られた水性混合物が高い酸性を有しないように少ないのが好ましい。高い酸性は、そのような混合物をさらに処理する観点から望ましくない場合がある。例えば、使用される酸の過剰は、得られる水性混合物が2以下のpH、好ましくは0〜1のpHを有するようなものであり得る。
【0063】
HClを含む気体流が使用される場合には、乳酸塩溶液または懸濁物が、HClを含む気体流と、例えばそれを乳酸塩溶液または懸濁物に吹き込むことにより、接触され得る。HCl気体が使用される場合には、HClが、上述したように、熱分解工程に由来し得る。
【0064】
好ましくは、酸性化が、75℃以下の温度で行われる。より高い温度では、装置を高い温度で酸性環境の厳しい条件に適合させるために不経済になる。
【0065】
酸性化の後に、固体物質は、存在するならば、水性混合物から、例えばろ過によって除去され得る。水性混合物中での固体物質の存在は、抽出の際に望ましくない。
【0066】
水性混合物は、酸性化後で抽出の前に、無機可溶塩の溶解度までの濃度に濃縮され得る。
【0067】
1実施形態では、発酵プロセスに由来する乳酸塩、特に乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウムまたは乳酸マグネシウム、特に乳酸マグネシウムが使用される。従って、本発明の方法は、乳酸を形成するための発酵プロセスをさらに含み得、上記発酵プロセスは、炭素源、例えば炭水化物を、発酵ブロス中で微生物によって発酵して乳酸を形成する工程、および上記乳酸の少なくとも一部を塩基、特にナトリウム塩基、カリウム塩基、カルシウム塩基またはマグネシウム塩基、より特にはマグネシウム塩基の添加によって中和し、それによって上記で定義された乳酸塩、特に乳酸マグネシウムを得る工程を含む。
【0068】
乳酸を製造するための発酵プロセスは、従来知られており、ここではさらなる説明を必要としない。製造されるべき所望の酸、炭素源および利用できる微生物に応じて、適する発酵プロセスを、当業者の技術常識を使用して選択することは、当業者の範囲内である。
【0069】
発酵プロセスの生成物は発酵ブロスであり、それは、乳酸塩、バイオマスおよび任意的にさらなる成分、例えば糖、蛋白質および塩等の不純物を含む水性液体である。乳酸塩は、固体形態、溶解された形態、または固体形態と溶解された形態の両方で存在し得る。例えば、乳酸ナトリウム、乳酸カリウムおよび乳酸カルシウムは一般に、溶解された形態で存在する。乳酸マグネシウムは、しばしば、濃度に応じて、固体形態および溶解された形態の両方で存在する。
【0070】
所望ならば、発酵ブロスが、更なる処理の前に、バイオマス除去工程、例えばろ過工程に付され得る。これは一般に、生成物の品質、特に生成物の色を改善するために好ましい。
【0071】
別の中間工程は、固体反応生成物、例えば乳酸マグネシウムを、バイオマス除去の前、後または同時に発酵ブロスから分離し、そして任意的に固体生成物、例えば乳酸マグネシウムを洗浄工程に付すことであり得る。濃度に応じて、乳酸マグネシウムは、発酵培地に析出し得る。1実施形態では、固体乳酸マグネシウムが発酵培地から、例えばろ過によって分離され、そして上述した酸性化工程に付される。
【0072】
別の中間工程は、発酵ブロスを濃縮工程に付して、酸性化の前に組成物中の乳酸塩の濃度を高めることであり得る。この工程は、バイオマス除去の前、後または同時に行われ得る。そのような工程は、固体乳酸塩の含量を増加させるために魅力的であり得る。固体乳酸塩は、次いで、上述したように発酵ブロスから分離され、そして固体乳酸塩、特に乳酸マグネシウムとして本発明に従う方法で処理され得る。
【0073】
他の中間工程、例えば精製工程は、当業者に明らかであるように、要望に応じて行われ得る。
【0074】
本発明に従う方法における種々の工程の好ましい局面が要望に応じて組み合わされ得ることは当業者に明らかであろう。
【0075】
本発明を下記実施例によって説明するが、本発明は下記実施例にまたは下記実施例によって制限されない。
【実施例】
【0076】
実施例1(比較)
水中の9重量%の乳酸溶液の4520gが調製された。この溶液が、100mbar(a)の圧力で約90重量%に濃縮された。濃縮後に、480gの濃縮された乳酸溶液が得られた。400gの濃縮された乳酸溶液が、機械的撹拌機を使用する丸底フラスコ中で180℃の設定温度まで90分で加熱され、そしてゆっくり減圧された。90分で圧力が100mbar(a)に低下され、一方、水は蒸発していた。次いで、圧力が次の60分でさらに50mbar(a)に低下され、最後に40mbar(a)に低下された。合計94gの水が凝縮された。
【0077】
こうして製造されたフラスコ中のプレポリマーは、滴定によって測定されたとき、17重量%の遊離酸含量を有していた。この数字から、プレポリマーの平均重合度が7.1であると計算され得る。HPLC測定により、プレポリマーが4.1重量%のD−ラクチドとL−ラクチドの合計および0.1重量%未満のメソラクチドを含んでいることが示された。プレポリマーの水含量は、カールフィッシャー滴定で測定されたとき、0.24重量%であった。
【0078】
ラクチド合成が、同じ反応器でプレ重合工程の後に直接行われた。最初に、0.05重量%の2−エチルヘキサン酸スズ(触媒)が添加された。フラスコの中身がプレポリマー(263g)と共に120℃に加熱された後に、撹拌機が、非常に高い粘度故に、開始された。次いで、設定温度が200℃に高められた。次いで、上記減圧が10mbar(a)に低下された。192gのラクチドが蒸発され、そして3.25時間で凝縮された。
【0079】
得られたラクチドは、HPLC法によって測定されたとき、87.8重量%のD−ラクチドとL−ラクチドの合計および3.3重量%のメソラクチドを含んでいた。HPLCはさらに、成分の残りが主に乳酸、ラクトイル乳酸およびラクトイルラクトイル乳酸であることを示した。これらの成分は、規則正しいおよび不規則のオリゴマーからラクチドを漸次切り出す(cleaving off)触媒によって遊離され、一方、ラクチドと同じ範囲の沸点を有して、ラクチドと一緒に蒸発される。
【0080】
実施例2(本発明に従う)−溶媒としてのMIBK
2%の水を含むメチルイソブチルケトン(MIBK)中の10重量%乳酸溶液の3977gが調製された。この溶液が、90℃および120mbar(a)の圧力で約90重量%に濃縮された。濃縮後に、439gの濃縮された乳酸溶液が得られた。420gの濃縮された乳酸溶液が、機械的撹拌機を使用する丸底フラスコ中で180℃の設定温度まで50分で加熱され、そしてゆっくり減圧された。60分で圧力が100mbar(a)に低下され、一方、水およびMIBKはなおも蒸発していた。100mbar(a)が達せられたとき、MIBKはほとんど凝縮物に来なかった。これは、(ほとんど)全てのMIBKが蒸発したことを示す。次いで、圧力が次の30分でさらに50mbar(a)に低下され、そしてほんの2mlの凝縮物が集められた。
【0081】
合計で117gの水/MIBKが凝縮された。遊離酸含量が、滴定によって12.2重量%と測定され、これは、10の平均重合度をもたらす。
【0082】
プレポリマーは、HPLCにより測定されたとき、5.2重量%のD−ラクチドとL−ラクチドの合計および0.5重量%未満のメソラクチドを含んでいた。プレポリマーの水含量は、カールフィッシャー滴定により、0.43重量%であると測定された。
【0083】
ラクチド合成が、296gのプレポリマーを用いて、同じ反応器でプレ重合工程の後に直接行われた。最初に、0.05重量%の2−エチルヘキサン酸スズ(触媒)が添加された。フラスコの中身がプレポリマーと共に200℃に加熱された。次いで、上記減圧が10mbar(a)に低下された。197gのラクチドが蒸発され、そして2.25時間で凝縮された。得られたラクチドは、87.3重量%のD−ラクチドとL−ラクチドの合計および1.5重量%のメソラクチドを含んでおり、残りは乳酸とより高次のオリゴマーであった。
【0084】
図1は、実施例1の系(参照の水性の系)および実施例2の系(本発明に従うMIBKに基づく系)のための、プレポリマーから製造されたラクチドの重量を経時的に示す。
図1から、本発明に従う系が、比較の系よりも高い反応速度を示すことが分かる。これは、プロセス全体の構成および装置の設計において使用されてコストを削減できる。
【0085】
実施例3(本発明に従う)−溶媒としての2−ペンタノン
2重量%の水を含む2−ペンタノン(Acros)中の20重量%の乳酸(乳酸結晶、Purac Corbion)の溶液の2096.6gが調製された。この溶液が、80〜90℃で減圧下でロータリーエバポレータ(rotavap)中で約90重量%に濃縮された(1589.3gの水および2−ペンタノンが凝縮された)。濃縮後に、449gの濃縮された乳酸溶液が得られた。上記溶液が、機械的撹拌機を有する丸底フラスコに移され、そして55分で180℃に加熱された。180℃でゆっくり減圧されて100mbarに低下された。60分で水および2−ペンタノンがさらに蒸発され、そして2相系が、室温で冷却された凝縮器中に形成された。100mbarが達せられた後に、圧力がさらに50mbarに低下されて、プレポリマー中に平衡に存在するいくらかのラクチドが蒸発および凝縮器での結晶化をし始めた。
【0086】
合計で116gの水/2−ペンタノンが凝縮された。そのうちの56gは水性相としてであった。全重量に基づいて、7〜8の平均重合度を有するプレポリマーが得られたと推定された。プレポリマーは、4.7重量%のD−ラクチドとL−ラクチドの合計および0.4重量%のメソラクチドを含んでいた。
【0087】
次に、0.05重量%の2−エチルヘキサン酸スズ(触媒)が添加された。プレポリマー(315g)が200℃に加熱され、そして上記減圧がゆっくり10mbarに低下された。160分で、157.3gのラクチドが留去された。これは、参照より速い。ラクチドは、68.3重量%のD+Lラクチドの含量を有していた。参照およびMIBKケースよりも低いこの純度は、プレポリマーの比較的低いDPおよび、触媒によるプレポリマーの解重合によって遊離された乳酸とラクトイル乳酸の共蒸留を示す。プレ重合中の温度−圧力の関係を最適化することにより、プレポリマーのDPおよび、その結果、ラクチドの純度が高められ得る。ラクチドのメソラクチド含量は0.9重量%であった。
【0088】
実施例4(本発明に従う)−溶媒としてのMTBE
4重量%の水を含むMTBE(メチルt−ブチルエーテル、Acros)中の12重量%の乳酸(乳酸結晶、Purac Corbion)の溶液の3505.9gが調製された。この溶液が、80〜90℃で減圧下でロータリーエバポレータ(rotavap)中で約90重量%に濃縮された(3040.3の水およびMTBEが凝縮された)。濃縮後に、434.9gの濃縮された乳酸溶液が得られた。上記溶液が、機械的撹拌機を有する丸底フラスコに移され、そして101分で180℃の設定温度に加熱された。180℃でゆっくり減圧されて23分で80mbarに低下され、一方、水およびMTBEはさらに蒸発していた。80mbarで、プレポリマー中に平衡に存在するいくらかのラクチドが蒸発および凝縮器での結晶化をし始め、そしてプレ重合が停止された。合計で110gの水およびMTBEが蒸発された。7〜8の平均重合度を有するプレポリマーが得られたと推定された。プレポリマーは、4.7重量%のD−ラクチドとL−ラクチドの合計および0.4重量%のメソラクチドを含んでいた。
【0089】
次に、0.05重量%の2−エチルヘキサン酸スズ(触媒)が添加された。プレポリマー(316g)が200℃に加熱され、そして上記減圧がゆっくり5mbarに低下された。153分で、180gのラクチドが留去された。これは、参照より速い。ラクチドは、77重量%のD+Lラクチドの含量を有していた。ラクチドのメソラクチド含量は1.1重量%であった。
【0090】
図2は、実施例1の系(参照の水性の系)および実施例4の系(本発明に従うMTBEに基づく系)のための、プレポリマーから製造されたラクチドの重量を経時的に示す。
図2から、本発明に従う系が、比較の系よりも高い反応速度を示すことが分かる。これは、プロセス全体の構成および装置の設計において使用されてコストを削減できる。
【0091】
実施例5(本発明に従う)−溶媒としてのMEK
10重量%の水を含むMEK(メチルエチルケトン、Acros)中の25重量%の乳酸(乳酸結晶、Purac Corbion)の溶液の1680gが調製された。この溶液が、80℃で150mbarの圧力でロータリーエバポレータ(rotavap)中で約90重量%に濃縮された(1217gの水およびMEKが凝縮された)。濃縮後に、445.5gの濃縮された乳酸溶液が得られた。上記溶液が、機械的撹拌機を有する丸底フラスコに移され、そして81分で180℃の設定温度に加熱された。180℃でゆっくり減圧されて60分で100mbarに低下され、一方、水およびMEKがさらに蒸発していた。100mbarですでにいくらかのラクチドが蒸発および凝縮器での結晶化をし始め、そしてプレ重合が停止された。合計で94gの水およびMEKが蒸発された。7〜8の平均重合度を有するプレポリマーが得られたと推定された。プレポリマーは、3.5重量%のD−ラクチドとL−ラクチドの合計および0.1重量%未満のメソラクチドを含んでいた。
【0092】
次に、0.05重量%の2−エチルヘキサン酸スズ(触媒)が添加された。プレポリマーが200℃に加熱され、そして上記減圧がゆっくり10mbarに低下された。185分で、155gのラクチドが留去された。これは、参照より速い。ラクチドは、70重量%のD+Lラクチドの含量を有していた。ラクチドのメソラクチド含量は1重量%であった。