【文献】
Evaluation of anti-Glucosaminidase Monoclonal Antibodies as a Passive Immunization for Methicillin-R,2011 Annual Meeting of the Orthopaedic Research Society (ORS),2011年 1月,No.196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
黄色ブドウ球菌感染に対する、患者の受動免疫のための薬剤の製造における、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼと特異的に結合し、配列番号2のVHドメインおよび配列番号3のVLドメインの6個の相補性決定領域(CDR)の配列をすべて含み、黄色ブドウ球菌グルコサミニダーゼの触媒ドメイン内のエピトープと完全にまたは部分的に結合する、ヒト化モノクローナル抗体またはその抗原結合部分の使用。
【発明の概要】
【0011】
本発明の第一の態様は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼと特異的に結合し、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を阻害するモノクローナル抗体またはその結合部分に関する。一実施形態では、モノクローナル抗体またはその結合部分は、配列番号2のアミノ酸配列を有するV
Hドメインおよび配列番号3のアミノ酸配列を有するV
Lドメインのうちの一方または両方を含む。
【0012】
本発明の第二の態様は、本発明のモノクローナル抗体または結合部分を発現する細胞系に関する。一実施形態では、細胞系はハイブリドーマ細胞系である。別の実施形態では、細胞系は、その抗体を発現する組換え細胞系である。
【0013】
本発明の第三の態様は、担体と、1種以上の本発明のモノクローナル抗体または結合部分とを含む医薬組成物に関する。
【0014】
本発明の第四の態様は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を有する患者に、有効量の本発明のモノクローナル抗体、結合部分または医薬組成物を投与することを含む、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の治療方法に関する。
【0015】
本発明の第五の態様は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)による骨または関節感染症を有する患者に、有効量の本発明のモノクローナル抗体、結合部分または医薬組成物を投与することを含む、骨髄炎の治療方法に関する。
【0016】
本発明の第六の態様は、整形外科用インプラントを必要とする患者に、本発明の有効量のモノクローナル抗体、結合部分または医薬組成物を投与することと、その患者に整形外科用インプラントを導入することとを含む、整形外科用インプラントを患者に導入する方法に関する。本発明のこの態様では、モノクローナル抗体、結合部分または医薬組成物は予防剤として作用する。ある実施形態では、本発明のこの態様は、全関節再置換術時または全関節再置換術後のOMまたは黄色ブドウ球菌(S.aureus)再感染の予防に関する。
【0017】
本発明の第七の態様は、個人の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する免疫能を評価する方法に関する。この方法は、個人由来の血清の存在下で黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼをグルコサミニダーゼの基質に曝露することと、上記曝露後に基質に対するグルコサミニダーゼの活性を評価することとを含み、陰性対照に対するグルコサミニダーゼ活性の相対的減少が、個人の血清によって付与された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する免疫能の程度を示す。
【0018】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)(MRSA)などの抗生物質耐性変異株がブドウ球菌(Staphylococcus)感染症に最もよくみられる困難な原因であるため、本発明の方法は、この微生物の増殖サイクルの重要な段階を中断させることを目的とする。本発明はこのほか、患者、例えば全関節置換術を受ける患者の感染症を予防するための受動免疫処置に関する。免疫処置のために選択される標的は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)から分泌され有糸分裂時の細胞の分離である細胞質分裂を促進するグルコサミニダーゼ(Gmd)である(Oshidaら,"A Staphylococcus aureus Autolysin that has an N−acetylmuramoyl−L−Alanine Amidase Domain and an Endo−beta−N−acetylglucosaminidase Domain:Cloning,Sequence Analysis,and Characterization,"Proc Natl Acad Sci U S A 92:285−9(1995);Oshidaら,"Expression Analysis of the Autolysin Gene(atl)of Staphylococcus aureus,"Microbiol Immunol 42:655−9(1998);Sugaiら,"Localized Perforation of the Cell Wall by a Major Autolysin:atl Gene Products and the Onset of Penicillin−induced Lysis of Staphylococcus aureus,"J Bacteriol 179:2958−62(1997);およびYamadaら,"An Autolysin Ring Associated with Cell Separation of Staphylococcus aureus,"J Bacteriol 178:1565−71(1996);上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0019】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症、OMおよびブドウ球菌(Staphylococcus)感染症に対する各種治療法を試験し評価するため、ステンレス鋼ピンに黄色ブドウ球菌(S.aureus)を塗布して脛骨骨端から経皮質的に移植する、インプラントによるOMの新規マウスモデルを用いた(Liら,"Quantitative Mouse Model of Implant−Associated Osteomyelitis and the Kinetics of Microbial Growth,Osteolysis,and Humoral Immunity,"J.Orthop.Res.26(1):96−105(2008)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。このモデルはグラム陽性の生物膜、骨溶解、腐骨片/骨柩形成を伴うきわめて再現性の高いOMが得られるものであり、臨床的OMに酷似している。さらに、in vivo生物発光イメージングを用いて細菌の浮遊増殖相を定量化することができ、リアルタイム定量的PCR(RTQ−PCR)を用いて感染骨組織のnuc遺伝子コピー数を決定し、総細菌数を定量することができ、マイクロCTを用いて骨溶解を定量化することができる。
【0020】
骨髄炎の上記マウスモデルを用いて、Gmdに特異的な抗体が抗原投与マウスにおける良好な免疫応答に顕著な役割を果たすことを確認した。さらに、N末端His
6(Gmd−His)を有する組換えGmdを含むワクチンにより、マウスモデルで少なくとも一部の免疫が誘発された。抗Gmd抗体は細胞分裂サイクルの脆弱なポイントで、細胞分裂を直接阻止することによって、あるいは食細胞または補体などの宿主エフェクターを動員することによって、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の細胞分裂を阻止することができる。
【0021】
モノクローナル抗体4A12およびそれから誘導したヒトキメラ抗体の作用を明らかにする実験を添付の実施例に記載する。実施例では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の増殖培地における光散乱による検出によって、4A12およびそのマウス:ヒトキメラ型が、急速に分裂する黄色ブドウ球菌(S.aureus)の増殖を抑制することが示される。抗体4A12は、分裂細胞が互いに分離できない程度にGmdの活性を低下させた。この効果は視覚的に明白で、用量依存性であり、各抗体とGmdとの間の高親和性相互作用と一致するものであった。これらの効果は、組換えGmdに対して生成した抗体が天然Gmdと効果的に反応し、その酵素活性を低下させることを示すものである。抗体4A12がin vivoマウスモデルにおいて黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を阻害し、キメラ4A12が、ヒト患者、特に関節置換術または再置換術などの整形外科用インプラント導入を受けている患者において、同様に有用となるであろうと考えられる。
【0022】
したがって、本出願人が権利を保有するように、いかなる既知の製品、製品を製造する工程、製品の使用方法も本発明に包含せず、それによって、いかなる既知の製品、工程、方法も放棄することを明らかにすることが本発明の一つの目的である。本発明が、USPTO(35 U.S.C.§112、第1項)またはEPO(EPCの第83条)の明細書記載要件および実施可能要件を満たさないいかなる製品、工程、製品の製造、製品の使用方法も本発明の範囲に包含せず、本出願人が権利を保有し、それにより既に記載されているいかなる製品、製品の製造工程、製品の使用方法も放棄することを明らかにすることが留意される。
【0023】
本開示、特に請求項および/または節において、「含む(comprise)」、「含まれる(comprised)」、「含む(comprising)」などの用語は、米国特許法においてそれに帰せられる意味を有し得るものであり、例えば、上記用語は「含む(include)」、「含まれる(included)、「含む(including)」などを意味し得るものであり、また「〜から実質的になる(consisting essentially of)」および「〜から実質的になる(consists essentially of)」などの用語は、米国特許法においてそれに帰せられる意味を有し、例えば、上記用語は明記されていない要素は許容するが、先行技術にみられる要素または本発明の基本的な特徴もしくは新規な特徴に影響を及ぼす要素は除外するものであることが留意される。
[本発明1001]
配列番号2のアミノ酸配列を有するV
Hドメインおよび配列番号3のアミノ酸配列を有するV
Lドメインの一方または両方を含む、モノクローナル抗体またはその結合部分。
[本発明1002]
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼと特異的に結合し、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を阻害する、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1003]
前記黄色ブドウ球菌(S.aureus)がメチシリン耐性である、本発明1002のモノクローナル抗体。
[本発明1004]
前記抗体または結合部分が、グルコサミニダーゼの保存されたエピトープと10
−9Mを上回る親和性で結合する、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1005]
前記抗体または結合部分が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼの触媒ドメイン内のエピトープと完全にまたは部分的に結合する、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1006]
配列番号1に示されるグルコサミニダーゼと結合する、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1007]
配列番号2のV
Hドメインと配列番号3のV
Lドメインとをともに含む、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1008]
細胞に依存しない黄色ブドウ球菌(S.aureus)溶解を促進する、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1009]
Gmdの活性を少なくとも約95%阻害する、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1010]
前記in vivo増殖の阻害が、500,000CFUの生物発光黄色ブドウ球菌(S.aureus)に感染させた下腿インプラントを移植した動物モデルを用いて測定される、本発明1001のモノクローナル抗体。
[本発明1011]
ヒト化された、本発明1001〜1010のいずれかのモノクローナル抗体。
[本発明1012]
本発明1001のモノクローナル抗体結合部分。
[本発明1013]
Fabフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖抗体、V
Hドメイン、またはV
Lドメインを含む、本発明1012のモノクローナル抗体結合部分。
[本発明1014]
本発明1001〜1011のいずれかのモノクローナル抗体または本発明1012もしくは1013の結合部分を発現する、細胞系。
[本発明1015]
ハイブリドーマ4A12である、本発明1014の細胞系。
[本発明1016]
担体と、1種以上の本発明1001〜1011のいずれかのモノクローナル抗体、または1種以上の本発明1012のモノクローナル抗体結合部分とを含む、医薬組成物。
[本発明1017]
前記担体が水溶液である、本発明1016の医薬組成物。
[本発明1018]
抗生物質または免疫治療剤をさらに含む、本発明1016の医薬組成物。
[本発明1019]
前記抗生物質が、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、リファンピン、ゲンタマイシン、フシジン酸、ミノサイクリン、コトリモキサゾール、クリンダマイシン、リネゾリド、キヌプリスチン−ダルホプリスチン、ダプトマイシン、チゲサイクリン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシン、セフトビプロール、セフタロリン、イクラプリム、およびカルバペネムCS−023/RO−4908463からなる群より選択される、本発明1018の医薬組成物。
[本発明1020]
前記免疫治療剤が、テフィバズマブ、BSYX−A110、またはAurexis(商標)である、本発明1018の医薬組成物。
[本発明1021]
1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6に由来するモノクローナル抗体またはその結合部分をさらに含む、本発明1018の医薬組成物。
[本発明1022]
患者に整形外科用インプラントを導入する方法であって、
整形外科用インプラントを必要とする患者に有効量の本発明1001〜1011のいずれかのモノクローナル抗体、本発明1012もしくは1013のモノクローナル抗体結合部分、または本発明1016〜1021のいずれかの医薬組成物を投与することと、
前記患者に前記整形外科用インプラントを導入することと
を含む、方法。
[本発明1023]
前記導入の前に前記投与を繰り返すことをさらに含む、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記導入の後に前記投与を繰り返すことをさらに含む、本発明1022の方法。
[本発明1025]
前記投与を全身に実施する、本発明1022の方法。
[本発明1026]
前記投与を移植部位に直接実施する、本発明1022〜1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
前記整形外科用インプラントが、人工関節、移植片、または合成インプラントである、本発明1022の方法。
[本発明1028]
前記人工関節が、人工膝関節、人工股関節、人工指関節、人工肘関節、人工肩関節、人工側頭下顎関節、または人工足関節である、本発明1027の方法。
[本発明1029]
前記移植片または合成インプラントが、人工椎間板、半月板インプラント、または合成もしくは同種移植片の前十字靭帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯、後十字靱帯、アキレス腱もしくは回旋筋腱板である、本発明1027の方法。
[本発明1030]
前記患者に第二の治療剤を投与することをさらに含み、前記第二の治療剤が抗生物質または免疫治療剤である、本発明1022〜1029のいずれかの方法。
[本発明1031]
前記抗生物質が、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、リファンピン、ゲンタマイシン、フシジン酸、ミノサイクリン、コトリモキサゾール、クリンダマイシン、リネゾリド、キヌプリスチン−ダルホプリスチン、ダプトマイシン、チゲサイクリン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシン、セフトビプロール、セフタロリン、イクラプリム、およびカルバペネムCS−023/RO−4908463からなる群より選択される、本発明1030の方法。
[本発明1032]
前記免疫治療剤が、テフィバズマブ、BSYX−A110、またはAurexis(商標)である、本発明1030の方法。
[本発明1033]
前記整形外科用インプラントが全関節再置換術のための人工関節であり、前記方法が、前記患者への前記整形外科用インプラントの前記導入の前に、感染した人工関節を前記患者から取り除くこと、および前記患者の前記感染を治療することをさらに含む、本発明1022の方法。
[本発明1034]
前記治療が、有効量の抗生物質、本発明1001〜1011のいずれかのモノクローナル抗体、本発明1012もしくは1013のモノクローナル抗体結合部分、本発明1016〜1021のいずれかの医薬組成物、またはその組合せを投与することを含む、本発明1033の方法。
[本発明1035]
前記全関節再置換術時の感染または再感染を予防するのに効果的である、本発明1033または1034の方法。
[本発明1036]
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を治療する方法であって、
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を有する患者に有効量の本発明1001〜1011のいずれかのモノクローナル抗体、本発明1012もしくは1013のモノクローナル抗体結合部分、または本発明1016〜1021のいずれかの医薬組成物を投与すること
を含む、方法。
[本発明1037]
前記投与を繰り返すことをさらに含む、本発明1036の方法。
[本発明1038]
前記投与を全身に実施する、本発明1036の方法。
[本発明1039]
前記投与を前記黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の部位に直接実施する、本発明1036の方法。
[本発明1040]
前記黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の部位が、皮膚、筋肉、心臓、気道、胃腸管、眼球、腎臓および尿路、または骨および関節の感染を含む、本発明1039の方法。
[本発明1041]
前記患者に第二の治療剤を投与することをさらに含み、前記第二の治療剤が抗生物質または免疫治療剤である、本発明1036〜1040のいずれかの方法。
[本発明1042]
前記抗生物質が、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、リファンピン、ゲンタマイシン、フシジン酸、ミノサイクリン、コトリモキサゾール、クリンダマイシン、リネゾリド、キヌプリスチン−ダルホプリスチン、ダプトマイシン、チゲサイクリン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシン、セフトビプロール、セフタロリン、イクラプリム、およびカルバペネムCS−023/RO−4908463からなる群より選択される、本発明1041の方法。
[本発明1043]
前記免疫治療剤が、テフィバズマブ、BSYX−A110、またはAurexis(商標)である、本発明1041の方法。
[本発明1044]
骨髄炎を治療する方法であって、
黄色ブドウ球菌(S.aureus)による骨または関節感染症を有する患者に有効量の本発明1001〜1011のいずれかのモノクローナル抗体、本発明1012もしくは1013のモノクローナル抗体結合部分、または本発明1016〜1021のいずれかの医薬組成物を投与すること
を含む、方法。
[本発明1045]
前記投与を繰り返すことをさらに含む、本発明1044の方法。
[本発明1046]
前記投与を全身に実施する、本発明1044の方法。
[本発明1047]
前記投与を前記黄色ブドウ球菌(S.aureus)による骨または関節感染症の部位に直接実施する、本発明1044の方法。
[本発明1048]
前記患者に第二の治療剤を投与することをさらに含み、前記第二の治療剤が抗生物質または免疫治療剤である、本発明1044〜1047のいずれかの方法。
[本発明1049]
前記抗生物質が、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、リファンピン、ゲンタマイシン、フシジン酸、ミノサイクリン、コトリモキサゾール、クリンダマイシン、リネゾリド、キヌプリスチン−ダルホプリスチン、ダプトマイシン、チゲサイクリン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシン、セフトビプロール、セフタロリン、イクラプリム、およびカルバペネムCS−023/RO−4908463からなる群より選択される、本発明1048の方法。
[本発明1050]
前記免疫治療剤が、テフィバズマブ、BSYX−A110、またはAurexis(商標)である、本発明1048の方法。
[本発明1051]
前記患者が、50歳を超えているかまたは免疫無防備状態である、本発明1022〜1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
個人の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する免疫能を評価する方法であって、
前記個人由来の血清の存在下で黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼ(Gmd)をGmdの基質に曝露することと、
前記曝露後に基質に対するGmdの活性を評価することと
を含み、
陰性対照と比したGmd活性の相対的減少が、前記個人の血清によって付与された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する免疫能の程度を示す、方法。
[本発明1053]
前記黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である、本発明1052の方法。
[本発明1054]
前記Gmdの基質がM.ルテウス(M.luteus)の細胞壁調製物である、本発明1052の方法。
[本発明1055]
前記評価が、
前記曝露後、分光光度計を用いて細菌細胞壁懸濁液の吸光度値を測定することと、
前記血清の前記吸光度値を陽性対照または陰性対照の吸光度値と比較し、前記血清がGmdの細胞壁溶解活性を阻害する能力を判定することと
を含む、本発明1052の方法。
[本発明1056]
前記血清についてGmdの細胞壁溶解活性のパーセント阻害率を計算することをさらに含む、本発明1055の方法。
[本発明1057]
前記曝露前に前記個人から血清を分離することをさらに含む、本発明1052の方法。
[本発明1058]
前記曝露および前記評価を、陰性対照、陽性対照、またはその両方と並行して実施する、本発明1052の方法。
[本発明1059]
前記陰性対照が緩衝溶液である、本発明1058の方法。
[本発明1060]
前記陽性対照が、少なくとも50%のGmd活性阻害率が得られると考えられる濃度でモノクローナル抗Gmd抗体またはその結合フラグメントを含む溶液である、本発明1058の方法。
[本発明1061]
前記モノクローナル抗Gmd抗体が、4A12、1C11、2D11、3H6、1E12、もしくは3A8またはその結合フラグメントである、本発明1060の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1A〜
図1Cはインプラントによる骨髄炎に起因する骨溶解の定量化を示す。代表的なマウスの一連の経時X線画像から、このモデルにおけるインプラントによる骨溶解の経時的進展が明らかである(
図1A)。黄色ブドウ球菌(S.aureus)を塗布した下腿ピンを移植し、示される日数で屠殺したマウス(N=5)の代表的な脛骨の再構成したμCT(マイクロコンピュータ断層撮影法)画像の正中面図である(
図1B)。黄色ブドウ球菌(S.aureus)を塗布した下腿ピンを移植し、非経口ゲンタマイシン(Gent)で処置した対照マウス、または無菌ピンを移植した対照マウスについても図示する。ピン周囲の骨溶解部位を既に記載されている通りに定量化し(Liら,"Quantitative Mouse Model of Implant−Associated Osteomyelitis and the Kinetics of Microbial Growth,Osteolysis,and Humoral Immunity,"J.Orthop.Res.26(1):96−105(2008)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、データを平均±標準偏差で表す(第4日に対して
*p<0.05;Gent第18日に対して
**p<0.05)(
図1C)。ゲンタマイシン対照と無菌ピン対照との間に骨溶解部位の差は認められなかった。
【
図2】
図2A〜2Hは、下腿インプラントによるOMの組織像を示す図である。無菌ピン(
図2A、2D、および2G)または黄色ブドウ球菌(S.aureus)を塗布したピン(
図2B、2C、2E、2F、および2H)の移植9日後の脛骨皮質(#)に隣接するピン部位(
*)におけるH&E(ヘマトキシリンおよびエオシン染色)(
図2A〜2C)、TRAP(酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ)(
図2D〜2F)およびグラム染色(
図3Gおよび3H)の組織切片を示す。無菌ピン(
図2A、2Dおよび2G)周囲に形成されている新たな骨(h)と感染ピンに隣接する壊死腐骨片(s)および骨柩(i)に注目されたい。未感染試料にはTRAP+破骨細胞(黄色矢印)がほとんど存在しなかった(
図2D)のに対して、多数の破骨細胞が感染ピンに隣接する皮質を活発に再吸収し、骨柩を包み込む新たな線維性骨を再構築しているように見える(
図2Eおよび2F)。グラム染色により、無菌ピンの検体には細菌が存在せず(
図2G)、感染ピン周囲の壊死骨内には細菌が存在する(黒色矢印)ことが確認された。
【
図3】
図3A〜
図3Cは、慢性骨髄炎確立時の細菌量と黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原に対する液性免疫との間の逆相関を示す。マウスの脛骨に1×10
6CFUの黄色ブドウ球菌(S.aureus)を含む感染経皮質ピンを移植し、示される日数で屠殺する経時的研究を実施した。屠殺時、感染脛骨からDNAを精製し、RTQ−PCRを実施して黄色ブドウ球菌(S.aureus)nucのCt値を決定した。示される標準曲線を用いて、この数値を脛骨当たりの回収可能なnuc遺伝子数に変換した。試料の整合性を制御するため、各試料について脛骨当たりの回収可能なnuc遺伝子数の値をマウスβ−アクチンのCt値に正規化した。この変換から、細菌量を「Nuc遺伝子コピー数/脛骨」として得た。各マウスのデータを
図3Aに個別の点として示し、各時点の平均±標準偏差(n=5)を
図3Bに示す。OM確立時の抗黄色ブドウ球菌(S.aureus)の特異的な抗体の発現を評価するため、第18日に屠殺するグループの各マウスから感染前(第0日)ならびに感染後第4日、第7日、第11日、第14日、および第18日に血清を採取した。
図3Cに示されるように、この血清を黄色ブドウ球菌(S.aureus)全抽出物のウエスタンブロットに一次抗体として使用し、次いで、マウスIgGに特異的なHRP結合抗体でプローブした。データは、宿主が細菌に対して最初の特異的抗体を発現する第0日〜第11日に細菌増殖が安定して増加することを示すものである。抗黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗体の力価が増大するにつれて細菌量が減少し、このことは抗体が防御作用を有することを示唆するものである。ウエスタンブロットではほかにも、26、34、38、および56kDaの4種類の免疫優性抗原が明確に確認される(矢印)。このほか、Xen29も上に挙げた同じ26、34、38、および56kDaタンパク質に対して抗体を誘導することが示されている。
【
図4】
図4A〜
図4Cは、黄色ブドウ球菌(S.aureus)自己溶菌酵素のグルコサミニダーゼが56kDaの免疫優性抗原であることを示す。
図3で確認された新規な黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原の分子属性を明らかにするため、免疫前および免疫後第14日の血清を用いて、全細胞抽出物の2D−SDS−PAGEの差引き免疫ブロット分析を実施した。等電点電気泳動(pH4.0〜10.0)後に3つの2Dゲルを泳動した。1つ目はクーマシーブルー染色したものである(
図4A)。他の2つは第0日の血清(
図4B)または第14日の血清(
図4C)でウエスタンブロットを実施したものである。免疫血清によって、バックグラウンド反応に加え特異的ポリペプチド(約53kDa;pH9:矢印)が検出された。53kDaのスポットをクーマシーゲルから取り出し、トリプシンで消化し、MALDIによって分析したところ、70個の個々のペプチドピークがみられた。いずれのペプチドのアミノ酸配列も、53.6kDaでpIが9.66である黄色ブドウ球菌(S.aureus)自己溶菌酵素のグルコサミニダーゼの既知の配列と100%一致した。
【
図5】
図5A〜
図5Bは、慢性骨髄炎確立時の細菌増殖の生物発光イメージング(BLI)による定量化を示す。
図5Aは感染部位のBLIレベル(p/秒/cm
2/sr)を示し、無菌下腿ピンを移植したマウス(未感染)またはXen29黄色ブドウ球菌(S.aureus)を塗布したピンを移植したマウス(感染)を経時的に評価し、示される日数で撮像したものである。左上画像の丸で囲った部分は、各時点において各マウスでBLIを評価した直径1.5cmの目的領域(ROI)を強調したものである。
図5Bは、手術後の示される時点でBLIにより縦断的に評価した未感染マウス(N=5)、感染マウス(N=5)または感染させ非経口抗生物質(ゲンタマイシン)で処置したマウス(N=5)のデータを示している。データは平均±標準偏差で表されている(
*第0日に対して有意に大きい;p<0.05)。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、機能的抗Gmd ELISAにより組換えGmdワクチンの有効性が明らかになったことを示す。
図6Aは、His−Gmdを抗原として使用し、高力価であることが知られている黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染マウスの抗血清を用いて作製したマウス血清における抗Gmd抗体の力価を評価した血清ELISAを示している。GraphPad Prism 4ソフトウェアを用いて、2倍段階希釈した血清試料の段階希釈係数(X軸)および450nmでの吸光度(Y軸)をXY平面にプロットする。希釈曲線の変曲点(矢印)から機能的力価(1:3623)が推定される。
図6Bは、示されるワクチンでの免疫処置前、追加免疫処置前および抗原投与前のマウス血清における抗Gmd抗体の力価を決定するのに用いたELISAを示している。His−Gmdワクチンで免疫処置したマウスでのみ高い力価が得られたことに注目されたい。
【
図7】
図7A〜
図7Cは、組換えHis−GmdワクチンがインプラントによるOMからマウスを防御することを示す図である。添付の実施例に記載する通りに、Xen29に感染させた下腿ピンでマウス(n=20)に抗原投与し、第3日にBLIを実施し、第11日にnuc RTQ−PCR用にマウスを安楽死させた。グループ1および3の代表的なマウスから得られたBLIの画像を示し(
図7A)、BLIの有意な減少を平均±標準偏差により示す(
図7B)。この減少は、第11日の増幅可能なnuc遺伝子(平均±標準偏差)の有意な減少に置き換えられる(
図7C)。
【
図8】mAb 1C11および4A12を用いて黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vitro増殖阻害を比較したグラフである。1C11はPCT出願公開第WO2011/140114号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。対数期増殖の段階にある培養物の黄色ブドウ球菌(S.aureus)(UAMS−1)100cfuをLB培地中、無関係なIgG mAb(CTL)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)プロテインA(抗Spa)に対するmAb、または4A12もしくは1C11抗Gmd mAbのいずれか50μg/mLとともに37℃でインキュベートした。示される間隔で、490nmにおける光散乱によって増殖をモニターした。mAb 4A12とmAb 1C11は同程度の有意なin vitro増殖阻害を示した。
【
図9】
図9A〜
図9Dは、抗Gmd mAb 4A12による黄色ブドウ球菌(S.aureus)の二分裂阻害を示す画像である。黄色ブドウ球菌(S.aureus)(Xen29)を液体のルリアブロス(LB)培地中、無関係なIgG mAb(CTL)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)プロテインAに対するmAb(抗Spa)、または4A12および1C11抗Gmd mAbの存在下で培養した。37℃で12時間培養した後、走査型電子顕微鏡用に懸濁培養のアリコートを採取した。娘細菌に輪郭が明確な細胞膜がみられる(白矢印)ことからCTLおよび抗Spa mAbには二分裂に対する効果がないことを示す代表的な写真を示す。これに対して、娘細菌間に分裂板が伸長している(赤矢印)ことから明らかな通り、4A12および1C11はともに二分裂を阻害する。明確に見える分裂板が存在しないことから、4A12の方が1C11よりも阻害能が高い証拠となる。
【
図10】マウス4A12モノクローナル抗体とヒト:マウスキメラ4A12モノクローナル抗体がGmdの酵素活性を阻害する能力を比較したグラフである。マウスIgG1 4A12ならびにそのヒトIgG1重鎖およびヒトカッパ軽鎖とのキメラ型をGmd活性の基質である熱殺菌したM.ルテウス(M.luteus)の存在下、示される濃度でGmdとともにインキュベートした。37℃で60分間インキュベートした後、490nmにおける光散乱をt=0のときの光散乱と比較することによって、細胞溶解の程度を測定した。式:阻害率(%)=100(1−(Δ60mAb/Δ60no mAb))を用いてGmdの阻害率を計算した。Δ60mAb=mAbの存在下で測定した60分後のA
490の変化;Δ60no mAb=mAbの非存在下で測定した60分後のA
490の変化。
【
図11】
図11A〜
図11Cは、抗Gmd抗体の機能的力価のアッセイを示す。M.ルテウス(M.luteus)細胞壁消化アッセイにより機能的力価を決定したものであり(
図11A)、図中の四角で囲った部分はHis−Gmdの有効濃度3.5μg/mlを示している。アッセイの感度は、精製1C11 mAbの希釈物による3.5μg/mlのHis−Gmdの阻害率(%)として決定され、力価は変曲点に対応する(
図11Bの矢印)。
図11Cは、抗原を投与しないマウス、抗原を投与したマウス、および免疫処置マウスから得られた1:10の血清希釈物による機能アッセイの特異性を示すものである。
図11Dは、物理学的力価と機能的力価との間の線形回帰分析を示している(PBSで1:10に希釈した血清での阻害率(%);p値<0.0002、ピアソン相関係数)。
【
図12】
図12A〜
図12Bは、感染症患者と健常対照との間の物理学的力価(
*p<0.02)および機能的力価(
**p<0.0001)の差を示す。
図12Cは、物理学的力価と機能的力価との間の線形回帰分析を示している(
*p<0.0001)。
【
図13】抗Gmd抗体の受診者動作特性(ROC)曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
一態様では、本発明は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼと特異的に結合し、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を阻害するモノクローナル抗体に関する。本発明のモノクローナル抗体は、メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌(S.aureus)を標的にし得るものであり得る。
【0026】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、天然源由来または組換え入手源由来の免疫グロブリンおよび免疫グロブリンの免疫反応部分(すなわち、抗原結合部分)を包含することが意図される。本発明のモノクローナル抗体は、例えば、実質的に純粋なモノクローナル抗体、抗体フラグメントまたは結合部分、キメラ抗体およびヒト化抗体を含めた様々な形態で存在するか、そのような形態で単離され得る(Ed HarlowおよびDavid Lane,USING ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる))。
【0027】
本発明のモノクローナル抗体は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)グルコサミニダーゼまたはそのフラグメントと結合する特異性を特徴とする。抗体は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)自己溶菌酵素(Atl)のグルコサミニダーゼ(Gmd)サブユニット内の免疫優性エピトープと特異的に結合する。上記モノクローナル抗体は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を阻害する。
【0028】
免疫優性抗原とは、免疫系によって最も容易に認識され、従って誘導される抗体の特異性に最も影響を及ぼす抗原決定基の一部分のことである。「免疫優性エピトープ」は、抗原上の他のエピトープを実質的に除外して宿主生物内の免疫応答を選択的に誘発する抗原上のエピトープを指す。
【0029】
通常、免疫優性エピトープを有する可能性の高い抗原は、病原生物の外表面の抗原を選択することによって特定することができる。例えば、真菌、細菌およびウイルスなどの最も単純な生物体には、その病原生物の外表面に露出したタンパク質が1種類または2種類存在する。この外表面タンパク質がしかるべき抗原を有する可能性が最も高い。免疫優性エピトープを有する可能性が最も高いタンパク質は、病原生物に感染した生物体由来の血清に対して全タンパク質をゲル上で泳動するウエスタンアッセイで特定することができる。血清由来の結合抗体は、よく知られるELISA法の1つにおいて等で、標識した抗抗体によって特定される。免疫優性エピトープは、病原生物に感染した宿主生物由来の血清を検査することによって特定することができる。宿主生物内で免疫応答を引き起こす可能性の高い識別された抗原と結合する抗体の含有量について、血清を評価する。その抗原上に免疫優性エピトープが存在する場合、実質的に血清中の全抗体が免疫優性エピトープと結合し、抗原上の他のエピトープとはほとんど結合しないことになる。
【0030】
Atlは黄色ブドウ球菌(S.aureus)の触媒的に異なるペプチドグリカンヒドロラーゼのうちの1つであり、有糸分裂時に細胞壁を消化するのに必要とされる(BabaおよびSchneewind,"Targeting of Muralytic Enzymes to the Cell Division Site of Gram−Positive Bacteria:Repeat Domains Direct Autolysin to the Equatorial Surface Ring of Staphylococcus aureus,"EMBO.J.17(16):4639−46(1998)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。増殖に不可欠な遺伝子であることに加えて、二分裂時に黄色ブドウ球菌(S.aureus)と結合した抗Atl抗体が細菌の細胞壁に覆われていない部位に局在することが、走査型電子顕微鏡による研究で明らかにされている(Yamadaら,"An Autolysin Ring Associated With Cell Separation of Staphylococcus aureus,"J.Bacteriol.178(6):1565−71(1996)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0031】
Atl酵素は、同じAtl前駆体タンパク質から切断プロセスを介して生じるアミダーゼ(62kD)とグルコサミニダーゼ(53kD)とからなる(BabaおよびSchneewind,"Targeting of Muralytic Enzymes to the Cell Division Site of Gram−Positive Bacteria:Repeat Domains Direct Autolysin to the Equatorial Surface Ring of Staphylococcus aureus,"Embo.J.17(16):4639−46(1998);Komatsuzawaら,"Subcellular Localization of the Major Autolysin,ATL and Its Processed Proteins in Staphylococcus aureus,"Microbiol Immunol.41:469−79(1997);Oshidaら,"A Staphylococcus aureus Autolysin That Has an N−acetylmuramoyl−L−alanine Amidase Domain and an Endo−beta−N−acetylglucosaminidase Domain:Cloning,Sequence Analysis,and Characterization,"Proc.Nat'l.Acad.Sci.U.S.A.92(1):285−9(1995);上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。この自己溶菌酵素は、3種類の約150アミノ酸の細胞壁結合ドメインR1、R2およびR3によって細胞壁に保持される。最終成熟段階では、タンパク質分解性の切断により、アミニダーゼドメインとそれに付随するR1およびR2ドメインがグルコサミニダーゼとそれに付随するN末端R3ドメインから分離される。
【0032】
特に限定されないが、例を挙げると、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼの1つの典型例は、下の配列番号1のアミノ酸配列を含む:
。配列番号1において、下線を施した残基はコードされる自己溶菌酵素の残基783〜931に対応し、R3ドメインを表す。残りのC末端残基(下線なし)は触媒グルコサミニダーゼドメインに対応する。
【0033】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)Gmdは、固相または液相ペプチド合成、組換え発現によって合成するか、天然源から入手することができる。自動ペプチド合成装置をApplied Biosystems社(Foster City、California)など多数の供給業者から購入することができる。化学的ペプチド合成の標準的な技術が当該技術分野で周知である(例えば、SYNTHETIC PEPTIDES:A USERS GUIDE 93−210(Gregory A.Grant編,1992)を参照されたい;上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。大腸菌(E.coli)などの細菌、酵母、昆虫または哺乳動物の細胞および発現系を用いて、組換え発現によるタンパク質またはペプチド作製を実施することができる。組換えタンパク質/ペプチド発現の方法は当該技術分野で周知であり、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual(C.S.H.P.Press,NY 第2版,1989)によって記載されている。
【0034】
イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過および逆相クロマトグラフィーを含めた当該技術分野で容易に知ることができるいくつかの方法のいずれか1つを用いて、組換え発現したペプチドを精製することができる。ペプチドは、従来の技術により純粋な形態(好ましくは、少なくとも約80%または85%の純度、より好ましくは、少なくとも約90%または95%の純度)で作製するのが好ましい。組換え宿主細胞が増殖培地中にペプチドを分泌するようにされている(Bauerらの米国特許第6,596,509号を参照されたい;上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)かどうかに応じて、遠心分離(分泌されたペプチドを含有する上清から細胞成分を分離するためのもの)、次いで上清の硫酸アンモニウム沈殿により、ペプチドを単離および精製することができる。ペプチドを含有する画分を適宜大きさを調節したデキストランまたはポリアクリルアミドカラムでゲルろ過にかけ、ペプチドを他のタンパク質から分離する。必要に応じて、HPLCによりペプチド画分をさらに精製する。
【0035】
ある実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、10
−9Mを上回る親和性で黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼの保存されたエピトープと結合する。本明細書で使用される「エピトープ」は、モノクローナル抗体によって認識される黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼの抗原決定基を指す。本発明の抗体によって認識されるエピトープは直線状エピトープ、すなわち、グルコサミニダーゼのアミノ酸配列の一次構造であり得る。あるいは、本発明の抗体によって認識されるエピトープは、非直線状エピトープまたは立体構造エピトープ、すなわち、グルコサミニダーゼの三次構造であり得る。
【0036】
ある実施形態では、モノクローナル抗体はGmdの触媒ドメインと特異的に結合し得る。本発明の抗体の一典型例はモノクローナル抗体4A12である。4A12はエピトープマッピングアッセイで直線状のGmdフラグメントと反応しなかったため、4A12は触媒ドメイン内に存在する可能性の高い立体構造エピトープを認識すると考えられる。
【0037】
他の実施形態では、モノクローナル抗体はR3ドメインと特異的に結合し得る。R3ドメインと結合するモノクローナル抗体の例としては、特に限定されないが、mAbの1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6が挙げられる。
【0038】
ある実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は黄色ブドウ球菌(S.aureus)Gmd阻害活性を有し、そのモノクローナル抗体はGmdの活性を少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%阻害する。他の実施形態では、モノクローナル抗体はGmdの活性を少なくとも60%、少なくとも70%または少なくとも80%阻害する。モノクローナル抗体4A12は、ほぼ完全な阻害(>99%)に近い抗Gmd阻害活性を有する。
【0039】
Gmd活性の阻害はin vitroで測定することができる。1つの方法では、最初にGmdの力価を予め測定し、60分間でA
490が約50%減少する濃度を決定する。次いで、PBSTで希釈した抗体50μLを96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに加えた後、適宜希釈したGmd 50μLを加え、この混合物を5分間以上インキュベートし、最後に0.15%mLを100μL加え、初期A
490を測定する。プレートを37℃でインキュベートし、30分後および60分後にA
490を測定する。阻害率(%)を100×(1−(阻害剤のΔ
60A
490/阻害剤なしの対照のΔ
60A
490))として計算する。
【0040】
ある特定の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は黄色ブドウ球菌(S.aureus)の密集もしくは凝集、細胞に依存しない黄色ブドウ球菌(S.aureus)溶解またはその両方を引き起こす能力を有する。黄色ブドウ球菌(S.aureus)の密集を引き起こす能力を有する抗体の例としては、特に限定されないが、モノクローナル抗体4A12、1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6が挙げられる。溶解抗体の1つの例はモノクローナル抗体1C11である。
【0041】
モノクローナル抗体4A12またはその結合フラグメントは、単独で使用することも、モノクローナル抗体1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6のうちの1種以上と組み合わせて使用することもできる(PCT出願公開第WO2011/140114号を参照されたい;上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0042】
本発明のモノクローナル抗体はほかにも、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を阻害する。黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖の阻害は、多数の適切な標準法に従って測定することができる。1つのこのような実施形態では、添付の実施例に記載するタイプの生物発光アッセイ法に従って、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を評価することができる。具体的には、生物発光黄色ブドウ球菌(S.aureus)(Xen 29;ATCC 12600)(Francisら,"Monitoring Bioluminescent Staphylococcus aureus Infections in Living Mice Using a Novel luxABCDE Construct,"Infect.Immun.68(6):3594−600(2000);またContagら,"Photonic Detection of Bacterial Pathogens in Living Hosts,"Mol.Microbiol.18(4):593−603(1995)も参照されたい;上記文献はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を用いて、外科的移植前に500,000CFUで下腿インプラントに投与する。手術3日前に、5週齢の雌BALB/cJマウスに生理食塩水(n=10)または生理食塩水0.25mlに溶かした1mgの精製抗体を腹腔内注射することができる。様々な日数(例えば、0日、3日、5日、7日、11日および14日)でマウスを撮像して生物発光を評価し、BLI画像を比較して、抗体が生理食塩水対照に比して黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo増殖を阻害するかどうかを評価することができる。
【0043】
一実施形態では、モノクローナル抗体は、次に挙げる配列番号2のアミノ酸配列を含むV
Hドメインを含む:
。
【0044】
一実施形態では、モノクローナル抗体は、次に挙げる配列番号3のアミノ酸配列を含むV
Lドメインを含む:
。
【0045】
モノクローナル抗体4A12は、配列番号2のV
Hドメインと配列番号3のV
Lドメインとを有する。
【0046】
また本発明の抗体は、合成抗体であってもよい。合成抗体とは組換えDNA技術を用いて作製される抗体、例えば、バクテリオファージによって発現される抗体のことである。あるいは、合成抗体は、本発明の抗体をコードし発現するDNA分子の合成、または抗体を規定するアミノ酸の合成によって作製され、この場合、DNAまたはアミノ酸配列は、当該技術分野において利用可能で周知の合成DNAまたは合成アミノ酸配列技術を用いて得られたものである。
【0047】
本発明のモノクローナル抗体はヒト化抗体であってもよい。ヒト化抗体とは、可変領域内に最小限の非ヒト(例えば、マウス)抗体由来の配列を含む抗体のことである。このような抗体は、ヒト対象に投与した場合に抗原性およびヒト抗マウス抗体の反応を減弱させるよう治療に用いられる。実際には、ヒト化抗体は通常、非ヒト配列を最小限含む抗体ないし一切含まないヒト抗体である。ヒト抗体とは、ヒトによって産生される抗体またはヒトによって産生される抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体のことである。
【0048】
ヒト抗体の相補性決定領域(CDR)を所望の特異性、親和性および能力を有する非ヒト抗体(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスターなど)のものに置換することによって、抗体をヒト化することができる(Jonesら,"Replacing the Complementarity−Determining Regions in a Human Antibody With Those From a Mouse,"Nature 321:522−525(1986);Riechmannら,"Reshaping Human Antibodies for Therapy,"Nature 332:323−327(1988);Verhoeyenら,"Reshaping Human Antibodies:Grafting an Antilysozyme Activity,"Science 239:1534−1536(1988);上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。そのヒト化抗体をFvフレームワーク領域内および/または置き換えた非ヒト残基内のまた別の残基により置換してさらに改変し、抗体の特異性、親和性および/または能力を向上させ最適化することができる。
【0049】
当該技術分野で公知の各種技術を用いて、ヒト化抗体を作製することができる。in vitroで免疫化するか、標的抗原に対する抗体を産生する免疫化した個体から単離した不死化ヒトBリンパ球を作製することができる(例えば、Reisfeldら,MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY 77(Alan R.Liss編,1985)およびGarrardの米国特許第5,750,373号を参照されたい;上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。このほか、ヒト化抗体をファージライブラリーから選択することができ、この場合、そのファージライブラリーはヒト抗体を発現するものである(Vaughanら,"Human Antibodies with Sub−Nanomolar Affinities Isolated from a Large Non−immunized Phage Display Library,"Nature Biotechnology,14:309−314(1996);Sheetsら,"Efficient Construction of a Large Nonimmune Phage Antibody Library:The Production of High−Affinity Human Single−Chain Antibodies to Protein Antigens,"Proc.Nat'l.Acad.Sci.U.S.A. 95:6157−6162(1998);Hoogenboomら,"By−passing Immunisation.Human Antibodies From Synthetic Repertoires of Germline VH Gene Segments Rearranged in vitro,"J.Mol.Biol.227:381−8(1992);Marksら,"By−passing Immunization.Human Antibodies from V−gene Libraries Displayed on Phage,"J.Mol.Biol.222:581−97(1991);上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。ほかにも、免疫化すると内因性免疫グロブリンを産生せずにヒト抗体の全レパートリーを産生することができるヒト免疫グロブリン遺伝子座を有するトランスジェニックマウスでヒト化抗体を作製することができる。この方法は、Suraniらの米国特許第5,545,807号;Lonbergらの同第5,545,806号;Lonbergらの同第5,569,825号;Lonbergらの同第5,625,126号;Lonbergらの同第5,633,425号;およびLonbergらの同第5,661,016号に記載されており、上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
4A12のV
HおよびV
Lドメインのヌクレオチド配列を用いたBLAST検索に基づいて、ヒトゲノム内の相同配列が、V
LドメインについてはIgKV1−27
*02およびIgKJ4
*02として、V
HドメインについてはIgHV1−46
*03およびIgHJ6
*02として同定された。
【0051】
本発明は全抗体のほかにも、このような抗体の結合部分を包含する。このような結合部分としては、一価のFabフラグメント、Fvフラグメント(例えば、一本鎖抗体、scFv)および単一可変V
HおよびV
Lドメインならびに二価のF(ab')
2フラグメント、Bis−scFv、ダイアボディ、トライアボディ、ミニボディなどが挙げられる。上に挙げた抗体フラグメントは、James Goding,MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND PRACTICE 98−118(Academic Press,1983)およびならびにEd HarlowおよびDavid Lane,ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL(Cold Spring Harbor Laboratory,1988);Houstonら,"Protein Engineering of Antibody Binding Sites:Recovery of Specific Activity in an Anti−Digoxin Single−Chain Fv Analogue Produced in Escherichia coli,"Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883(1988);Birdら,"Single−Chain Antigen−Binding Proteins,"Science 242:423−426(1988)(上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているタンパク質分解による断片化法などの従来の方法をはじめとする当該技術分野で公知の方法によって作製することができる。
【0052】
特に抗体フラグメントの場合、抗体を改変してその血中半減期を増大させるのがさらに望ましいことがある。これは、例えば、抗体フラグメントのしかるべき領域の変異によりサルベージ受容体結合エピトープを抗体フラグメントに組み込むことによって、あるいはエピトープ結合部位をペプチドタグに組み込んだ後、これを抗体フラグメントの一端または中央に融合させる(例えば、DNAまたはペプチド合成によって)ことによって達成することができる。
【0053】
本発明による使用には、このほか抗体模倣物が適切である。多数の抗体模倣物が当該技術分野で公知であり、このようなものとして、特に限定されないが、ヒトフィブロネクチンIII型第10ドメイン(
10Fn3)に由来しモノボディとして知られる抗体模倣物(Koideら,"The Fibronectin Type III Domain as a Scaffold for Novel Binding Proteins,"J.Mol.Biol.284:1141−1151(1998);Koideら,"Probing Protein Conformational Changes in Living Cells by Using Designer Binding Proteins:Application to the Estrogen Receptor,"Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:1253−1258(2002);上記文献はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる);およびブドウ球菌プロテインAの安定なα−へリックス細菌受容体ドメインZに由来しアフィボディとして知られる抗体模倣物(Nordら,"Binding Proteins Selected from Combinatorial Libraries of an alpha−helical Bacterial Receptor Domain,"Nature Biotechnol.15(8):772−777(1997)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。
【0054】
上に挙げた抗体模倣物の調製には、その抗体模倣物の可変ループ領域内にV
Hおよび/またはV
L鎖のCDR配列をグラフトすることができる。グラフトでは、アミノ酸残基が少なくとも2個、ないしCDR配列の置換とともに特定のループ領域に現れる1個のアミノ酸残基を除き実質的にすべてが、欠失し得る。挿入は、例えば、特定のループ領域の1つ以上の位置におけるCDRドメインの挿入であり得る。本発明の抗体模倣物は、本出願に開示されるV
Hおよび/またはV
L鎖配列と少なくとも50%相同であるアミノ酸配列を有することが好ましい。ポリペプチドでの欠失、挿入および置換は、組換え技術を用い、既知のヌクレオチド配列から開始して、達成することができる(下記参照)。
【0055】
モノクローナル抗体作製の方法は、本明細書に記載の技術をはじめとする当該技術分野で周知の技術を用いて遂行し得る(MONOCLONAL ANTIBODIES―PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATIONS(Mary A.RitterおよびHeather M.Ladyman編,1995)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。この工程では一般に、目的とする抗原(すなわち、黄色ブドウ球菌(S.aureus)グルコサミニダーゼまたはそのペプチドフラグメント)で予め免疫化した哺乳動物の脾臓から免疫細胞(リンパ球)を採取する。
【0056】
次いで、その抗体分泌リンパ球を、細胞培養で無制限に複製することができるミエローマまたは形質転換細胞と融合させることにより、不死の免疫グロブリン分泌細胞系が作製される。細胞培養で無限に複製することが可能な哺乳動物ミエローマ細胞をはじめとする融合パートナーとの融合は、標準的な周知の技術によって、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)をはじめとする融合剤を用いることによって達成される(MilsteinおよびKohler,"Derivation of Specific Antibody−Producing Tissue Culture and Tumor Lines by Cell Fusion,"Eur.J.Immunol.6:511(1976)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。不死細胞系は、マウスであることが好ましいが、他の哺乳動物種の細胞に由来するものであってもよく、特定の栄養素を利用するのに必要な酵素が欠損しており、速く増殖することが可能で、融合能に優れるよう選択する。得られた融合細胞またはハイブリドーマを培養し、生じたコロニーを所望のモノクローナル抗体の産生についてスクリーニングする。このような抗体を産生するコロニーをクローン化し、in vivoまたはin vitroで増殖させて大量の抗体を産生させる。
【0057】
したがって、本発明の第二の態様は、本発明のモノクローナル抗体を発現する細胞系に関する。一実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、4A12と命名するハイブリドーマ細胞系によって産生される。別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体(またはその結合部分)は組換え細胞または細胞系によって産生される。
【0058】
上述の通り、Cabillyらの米国特許第4,816,567号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている組換えDNA法を用いてモノクローナル抗体を作製することができる。モノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチドは、例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたRT−PCRにより、成熟B細胞またはハイブリドーマ細胞から単離される。次いで、重鎖および軽鎖をコードする単離ポリヌクレオチドを適切な発現ベクター内にクローン化し、これをそのままでは免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはミエローマ細胞などの宿主細胞内にトランスフェクトすると、モノクローナル抗体を発現し分泌する宿主細胞が得られる。このほか、ファージディスプレイライブラリーから所望の種の組換えモノクローナル抗体またはそのフラグメントを単離することができる(McCaffertyら,"Phage Antibodies:Filamentous Phage Displaying Antibody Variable Domains,"Nature 348:552−554(1990);Clacksonら,"Making Antibody Fragments using Phage Display Libraries"Nature 352:624−628(1991);およびMarksら,"By−Passing Immunization.Human Antibodies from V−Gene Libraries Displayed on Phage,"J.Mol.Biol.222:581−597(1991);上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0059】
本発明はほかにも、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を包含する。一実施形態では、核酸はDNAである。このようなDNA配列の例には、本発明のV
Hおよび/またはV
Lコード配列を含む配列がある。ハイブリドーマ4A12 V
H(最もマッチする生殖細胞系列:J558.59.155およびJH4)をコードするDNA配列は次のようなヌクレオチド配列(配列番号4)を有する:
。
【0060】
4A12 V
L(最もマッチする生殖細胞系列:RFおよびJK5)をコードするDNA配列は次のようなヌクレオチド配列(配列番号5)を有する:
。
【0061】
本発明のさらに別の態様は、本発明の抗体または結合部分をコードするDNA分子と、DNA分子の5'に作動可能に連結したプロモーター効果DNA分子と、DNA分子の3'に作動可能に連結した転写終結DNA分子を含むDNA構築物である。本発明はこのほか、本発明のDNA構築物を挿入する発現ベクターを包含する。本発明のポリペプチドの合成遺伝子を、変異誘発を容易にするのに好都合な制限部位を含み、高レベルのタンパク質発現に特定のコドンを用いるように設計することができる(Gribskovら,"The Codon Preference Plot:Graphic Analysis of Protein Coding Sequences and Prediction of Gene Expression,"Nucl.Acids.Res.12:539−549(1984)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0062】
遺伝子は以下のように組み立てることができる:まず、遺伝子配列を、設計された制限部位の境界で複数の部分に分割し、各部分について、反対側の鎖をコードしかつ約15塩基の相補的な重複を有する1対のオリゴヌクレオチドを合成し、この2つのオリゴヌクレオチドをアニールさせ、DNAポリメラーゼのクレノーフラグメントを用いて単一鎖領域を埋め、この二本鎖オリゴヌクレオチドをフラグメント末端の制限酵素部位を用いてpET3aベクター(Novagen)などのベクター内にクローン化し、その配列をDNAシーケンサーによって確認し、上記段階をそれぞれの部分に対して繰り返して、全遺伝子を得ることができる。この方法は、遺伝子を組み立てるのに1段階のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法よりも時間がかかる(Sandhuら,"Dual Asymetric PCR:One−Step Construction of Synthetic Genes,"BioTech.12:14−16(1992)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。Taqポリメラーゼによる忠実度の低い複製によって変異が導入される可能性が高く、多大な時間を要する遺伝子編集が必要となる。SAMBROOKおよびRUSSELL,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(第2版,1989)(特に明記されない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に従って組換えDNA操作を実施することができる。1段階PCRで変異が導入されるのを避けるため、当該技術分野で公知のように高忠実度/低エラーのポリメラーゼを用いることができる。
【0063】
カセット変異誘発法、オリゴヌクレオチド部位特異的変異誘発技術(DengおよびNickoloff,"Site−Directed Mutagenesis of Virtually any Plasmid by Eliminating a Unique Site,"Anal.Biochem.200:81−88(1992)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)またはKunkel変異誘発法(Kunkelら,"Rapid and Efficient Site−Specific Mutagenesis Without Phenotypic Selection,"Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492(1985);Kunkelら,"Rapid and Efficient Site−Specific Mutagenesis Without Phenotypic Selection,"Methods Enzymol.154:367−382(1987);上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)のいずれかを用いて、本発明のポリペプチド配列に所望の変異を導入することができる。
【0064】
カセット変異誘発法および部位特異的変異誘発法は、ともに、特に望ましいヌクレオチドコード配列を調製するのに用いることができる。上記遺伝子構築物と同じプロトコルを用いてカセット変異誘発法を実施することができ、新たな配列をコードする二本鎖DNAフラグメントを適切な発現ベクター内にクローン化することができる。新たに合成された鎖(変異をコードするもの)と遺伝子合成に使用されるオリゴヌクレオチドとを組み合わせることによって、多数の変異を作製することができる。本発明によるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に変異を導入するのに用いる方法に関係なく、塩基配列決定を実施して、設計された変異が変異誘発反応により導入されたこと(および他の変異は導入されていない)ことを確認することができる。
【0065】
これに対して、Kunkel変異誘発法は、スクリーニング用のポリペプチドのコンビナトリアルライブラリーを調製するのに使用できる複数の変異ポリペプチドコード配列をランダムに作製するのに用いることができる。基本的には、NNKコドン(NはA、T、G、Cの混合物を表し、KはGとTの混合物を表す)を用いて、標的となるループ領域(またはC末端もしくはN末端のテール領域)をランダム化することができる(Kunkelら,"Rapid and Efficient Site−Specific Mutagenesis Without Phenotypic Selection,"Methods Enzymol.154:367−382(1987)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0066】
本発明によるポリペプチドをコードする核酸分子の調製に用いる方法に関係なく、従来の組換えDNA技術を用いて核酸を宿主細胞内に組み込むことができる。これは一般に、DNA分子とは異種の発現系(すなわち、通常は存在しない)にDNA分子を挿入するものである。異種DNA分子をセンス方向、正しいリーディングフレーム内にあるよう発現系またはベクターに挿入する。ベクターには、挿入されたタンパク質コード配列の転写および翻訳に必要な要素(プロモーター、サプレッサー、オペレーター、転写終止配列など)が含まれている。発現ベクターに挿入する前に組み換え遺伝子またはDNA構築物を調製することができる。例えば、従来の組換えDNA技術を用いて、プロモーター効果DNA分子と、ポリペプチドをコードするDNA分子の5'とを作動可能に連結し、転写終結(すなわち、ポリアデニル化配列)をその3'と作動可能に連結することができる。
【0067】
本発明のこの態様では、本発明のポリヌクレオチドを、その分子とは異種の発現系またはベクターに挿入する。異種核酸分子をプロモーターおよび他の任意の5'制御分子に対して適切なセンス(5'→3')方向、正しいリーディングフレームになるよう発現系またはベクターに挿入する。核酸構築物の調製は、SAMBROOKおよびRUSSELL(MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(Cold Springs Laboratory Press,2001、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)により記載されている当該技術分野で周知の標準的なクローニング法を用いて実施することができる。このほか、CohenおよびBoyerの米国特許第4,237,224号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)には、制限酵素による切断およびDNAリガーゼによるライゲーションを用いる組換えプラスミド形態の発現系の作製が記載されている。
【0068】
適切な発現ベクターとしては、宿主細胞と適合性のある種に由来するレプリコンおよび制御配列を含むものが挙げられる。例えば、大腸菌(E.coli)を宿主細胞として用いる場合、pUC19、pUC18またはpBR322などのプラスミドを使用し得る。昆虫宿主細胞を用いる場合、昆虫宿主細胞と適合性のある適切なトランスファーベクターとしては、所望のタンパク質と融合した分泌シグナルを組み込むpVL1392、pVL1393、pAcGP67およびpAcSecG2T、ならびにGSTおよび6×Hisタグを含むpAcGHLTおよびpAcHLT(BD Biosciences、Franklin Lakes、NJ)が挙げられる。本発明のこの態様の実施に使用するのに適したウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ノダウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターが挙げられる。その他の適切な発現ベクターはSAMBROOKおよびRUSSELL,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(Cold Springs Laboratory Press,2001)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。核酸構築物の調製、変異誘発、塩基配列決定、細胞内へのDNA導入と遺伝子発現およびタンパク質の分析における核酸の操作のための既知の技術およびプロトコルがCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Fred M.Ausubelら編,2003)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に詳細に多数記載されている。
【0069】
様々な遺伝シグナルおよびプロセシング事象が多数のレベルでの遺伝子発現(例えば、DNA転写およびメッセンジャーRNA(「mRNA」)翻訳)と、それに続いて宿主細胞によって産生および発現される抗体または抗体フラグメントの量を制御している。DNAの転写はプロモーターの存在に依存しており、このプロモーターとは、RNAポリメラーゼの結合を指令することによりmRNA合成を促進するDNA配列のことである。プロモーターには様々な「強さ」(すなわち、転写を促進する能力)がある。クローン化した遺伝子を発現させる目的には、高レベルの転写、したがって発現を得るため、強いプロモーターを使用するのが望ましい。用いる宿主系に応じて、多数の適切なプロモーターのうちのいずれか1つを用いることができる。例えば、大腸菌(E.coli)、そのバクテリオファージまたはプラスミドを用いる場合、T7ファージプロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、recAプロモーター、リボソームRNAプロモーター、大腸菌ファージラムダのP
RおよびP
Lプロモーターをはじめ、特に限定されないがlacUV5、ompF、bla、lppなどを含めたプロモーターを用いて、隣接するDNAセグメントの高レベルの転写を指令することができる。さらに、組換えDNAやその他の合成DNA技術によって作製されたハイブリッドtrp−lacUV5(tac)プロモーターをはじめとする大腸菌(E.coli)プロモーターを用いて、挿入された遺伝子を転写させることができる。昆虫細胞を用いる場合、適切なバキュロウイルスプロモーターとしては、39Kタンパク質プロモーターまたは塩基性タンパク質プロモーターなどの後期プロモーターならびにp10および多面体プロモーターなどの超後期プロモーターが挙げられる。いくつかの場合には、複数のバキュロウイルスプロモーターを含むトランスファーベクターを使用するのが望ましいこともある。哺乳動物細胞での発現を指令するのに適し、よく用いられるプロモーターとしては、特に限定されないが、SV40、MMTV、メタロチオネイン−1、アデノウイルスEla、CMV、前初期、免疫グロブリン重鎖プロモーターおよびエンハンサーならびにRSV−LTRが挙げられる。プロモーターは構成的プロモーターであっても、あるいは組織特異的または誘導性プロモーターであってもよい。さらに、いくつかの状況では、誘導性(TetOn)プロモーターを使用することができる。
【0070】
原核生物におけるmRNAの翻訳は適切な原核生物のシグナルの存在に依存し、そのシグナルは真核生物のものとは異なる。原核生物でmRNAが効率的に翻訳されるには、mRNA上にシャイン・ダルガーノ(「SD」)配列と呼ばれるリボソーム結合部位が必要である。この配列は開始コドン、通常はタンパク質のアミノ末端メチオニンをコードするAUGの前に位置するmRNAの短いヌクレオチド配列である。SD配列は16S rRNA(リボソームRNA)の3'末端に相補的であり、rRNAと二重鎖を形成してリボソームを正確な位置に調節することによって、mRNAとリボソームとの結合を促進する。遺伝子発現を最大限にすることに関する概説については、RobertsおよびLauer,"Maximizing Gene Expression on a Plasmid Using Recombination In Vitro,"Methods in Enzymology,68:473−82(1979)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0071】
本発明はほかにも、本発明のDNA構築物によって形質転換した宿主細胞を包含する。宿主細胞は原核生物であっても真核生物であってもよい。本発明のポリペプチドを発現するのに適した宿主細胞としては、比較的よく用いられているいずれかのグラム陰性細菌が挙げられる。適切な微生物としては、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ胃腸炎(Salmonella gastroenteritis)(チフィミリウム(typhimirium))、チフス菌(S.typhi)、S.エンテリディティス(S.enteriditis)、シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、ソンネ菌(S.sonnie)、志賀赤痢菌(S.dysenteriae)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(N.meningitides)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、H.プルロニューモニア(H.pleuropneumoniae)、ヘモリチカ菌(Pasteurella haemolytica)、P.マルチロシダ(P.multilocida)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、T.デンチコラ(T.denticola)、T.オラレス(T.orales)、ライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi)、ボレリア菌種(Borrelia spp.)、レプトスピラ・インテロガンス(Leptospira interrogans)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)、P.モルガニ(P.morganii)、P.ミラビリス(P.mirabilis)、発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazeki)、発疹熱リケッチア(R.typhi)、斑点熱リケッチア(R.richettsii)、ジンジバリス菌(Porphyromonas(Bacteriodes)gingivalis)、オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)、肺炎クラミジア(C.pneumoniae)、トラコーマクラミジア(C.trachomatis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、C.インテルメディス(C.intermedis)、カンピロバクター・フィタス(C.fetus)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、フランシセラ・ツラレニシス(Francisella tularenisis)、ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、バークホルデリエ・シュードマレイ(Burkholderie pseudomallei)、ウシ流産菌(Brucella abortus)、B.スシ(B.susi)、ヤギ流産菌(B.melitensis)、イヌ流産菌(B.canis)、鼠咬症スピリルム(Spirillum minus)、鼻疽菌(Pseudomonas mallei)、エロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、エロモナス・サルモニシダ(A.salmonicida)およびペスト菌(Yersinia pestis)が挙げられる。
【0072】
細菌細胞に加えて、動物細胞、特に哺乳動物および昆虫細胞、酵母細胞、真菌細胞、植物細胞、または藻類細胞も、本発明の単離ポリヌクレオチド分子を保有する組換え発現ベクターのトランスフェクション/形質転換に適した宿主細胞である。当該技術分野でよく用いられる哺乳動物細胞系としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、COS細胞、およびその他多数のものが挙げられる。適切な昆虫細胞系としては、Sf9およびSf21細胞を含めたバキュロウイルス感染にしやすい細胞系が挙げられる。
【0073】
発現ベクターにより宿主細胞を形質転換/トランスフェクトする方法は当該技術分野で周知であり、SAMBROOKおよびRUSSELL,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(Cold Springs Laboratory Press,2001)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている通り、選択される宿主系によって決まる。細菌細胞では、適切な技術としては、塩化カルシウム形質転換、エレクトロポレーション、およびバクテリオファージを用いるトランスフェクションが挙げられる。真核細胞では、適切な技術として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム媒介トランスフェクション、およびレトロウイルスまたは他の任意のウイルスベクターを用いる形質導入が挙げられる。昆虫細胞では、本発明のポリヌクレオチド構築物を含むトランスファーベクターをAcNPVなどのバキュロウイルスDNAとコトランスフェクトし、組換えウイルスの産生を促進する。これに続くSf細胞の組換えウイルス感染により、組換えタンパク質の産生率が高くなる。タンパク質産生の促進に使用する発現系および宿主細胞に関係なく、発現された本発明の抗体、抗体フラグメントまたは抗体模倣物は、当該技術分野において公知で、PHILIP L.R.BONNER,PROTEIN PURIFICATION(Routledge 2007)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている標準的な精製方法を用いて容易に精製することができる。
【0074】
モノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチド(1つまたは複数)を組換えDNA技術を用いてさらに改変して、別の抗体を作製することができる。例えば、上述のように、マウスモノクローナル抗体の軽鎖および重鎖の定常ドメインをヒト抗体の定常領域に置換してヒト化(キメラ)抗体を作製することができる。あるいは、マウスモノクローナル抗体の軽鎖および重鎖の定常ドメインを非免疫グロブリンポリペプチドに置換して融合抗体を作製することができる。他の実施形態では、定常領域を切断または除去して、モノクローナル抗体の所望の抗体フラグメントを作製することができる。さらに、可変領域の部位特異的変異誘発または高密度変異誘発を用いて、モノクローナル抗体の特異性および親和性を最適化することができる。
【0075】
本発明のまた別の態様は、担体と、本発明による1種以上のモノクローナル抗体または1種以上のその結合部分とを含む医薬組成物に関する。この医薬組成物は、2つ以上の抗体または結合フラグメントを含有し得、すべての抗体または結合フラグメントが同じエピトープを認識する。あるいは、医薬組成物は、抗体または結合フラグメント混合物を含有し、1種以上の抗体または結合フラグメントが黄色ブドウ球菌(S.aureus)Gmdの1つのエピトープを認識し、1種以上の抗体または結合フラグメントが黄色ブドウ球菌(S.aureus)Gmdのこれと異なるエピトープを認識するものであり得る。例えば、混合物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)グルコサミニダーゼのR3ドメインと特異的に結合する1種以上の本発明の抗体を、グルコサミニダーゼ触媒ドメインと結合する抗体などのグルコサミニダーゼと結合する他の任意の抗体とともに含有し得る。本発明の医薬組成物は、以下に記載するように、薬学的に許容される担体をはじめとする薬学的に許容される成分をさらに含有する。
【0076】
一実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される担体中に抗体4A12、その結合フラグメント、またはそのキメラ変異体を含む。
【0077】
別の実施形態では、医薬組成物は、1種以上のmAbs 1C11、2D11、3H6、1E12、および3A8、その結合フラグメントまたはそのキメラ変異体をさらに含む。
【0078】
本発明の抗体を含有する医薬組成物をブドウ球菌(Staphylococcus)感染症に罹患しているか、それに罹患するリスクのある対象に投与することができる。各種の送達系が知られており、本発明の抗体を投与するのに用いることができる。導入する方法としては、特に限定されないが、真皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路が挙げられる。治療剤は、例えば、注入またはボーラス注入によって、上皮または皮膚粘膜の内皮(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)からの吸収によって投与することができ、また化学療法剤、抗生物質またはその他の免疫治療剤などの他の生物学的に活性な薬剤とともに投与することができる。投与は全身投与であっても、局所投与、すなわちブドウ球菌感染部位への投与または手術部位もしくはインプラント部位への直接投与であってもよい。
【0079】
本発明の医薬組成物は、患者に第二の治療剤を投与することをさらに含み得るものであり、第二の治療剤は抗生物質または免疫治療剤である。抗生物質の例としては、特に限定されないが、バンコマイシン、トブラマイシン、セファゾリン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、リファンピン、ゲンタマイシン、フシジン酸、ミノサイクリン、コトリモキサゾール、クリンダマイシン、リネゾリド、キヌプリスチン−ダルホプリスチン、ダプトマイシン、チゲサイクリン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシン、セフトビプロール、セフタロリン、イクラプリム、カルバペネムCS−023/RO−4908463、およびその組合せが挙げられる。免疫治療剤の例としては、特に限定されないが、テフィバズマブ、BSYX−A110、Aurexis(商標)、およびその組合せが挙げられる。抗生物質および免疫治療剤の上記一覧は非限定的な例を意図するものであり、したがって、他の抗生物質または免疫治療剤も企図される。ほかにも、第二の治療剤の組合せまたは混合物を本発明の目的に使用することができる。ここに挙げた薬剤は、同時に投与しても単一製剤として投与してもよい。
【0080】
医薬組成物は通常、1種以上の医薬担体(例えば、無菌の液体、例えば、水、および石油、動物、植物、または合成由来のものを含めた油、例えばラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油など)を含む。医薬組成物を静脈内に投与する場合、水がより典型的な担体である。このほか、液体担体として、生理食塩水ならびにブドウ糖およびグリセロール水溶液を特に注射用液に使用することができる。適切な医薬賦形剤としては、例えば、デンプン、ブドウ糖、ラクトース、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白墨、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアラート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物はこのほか、湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤を必要に応じて少量含有し得る。上記組成物は液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの形態をとり得る。組成物は、従来の結合剤およびトリグリセリドなどの担体を用いて坐剤として製剤化することができる。経口製剤は、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含み得る。適切な医薬担体の例が、E.W.Martinによる"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載されている。このような組成物は、患者に適切に投与するための形態が得られるよう、治療有効量の核酸またはタンパク質を通常は精製された形態で、適切な量の担体とともに含有する。製剤は投与様式に対応したものとなる。
【0081】
上記細菌感染症の治療のための本発明の組成物の有効量は、投与様式、標的部位、患者の生理的状態、投与される他の薬剤、および治療が予防目的であるか治療目的であるかを含めた多くの様々な因子によって異なる。予防適用では、長期間にわたって、比較的低頻度の間隔で、比較的低用量を投与する。一部の患者は生涯にわたって治療を受け続ける。治療適用では、疾患が軽減するか終結するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的または全面的な改善を示すまで、比較的短い間隔で比較的高い用量が必要になることがある。その後、患者に予防レジメンを実施し得る。ブドウ球菌(Staphylococcus)による細菌感染に対する予防処置には、個人が細菌に曝露される前に本発明の医薬組成物(1つまたは複数)を投与し、生じた免疫応答により細菌感染症の重症度が抑制または軽減されることにより、細菌がその個人から排除され得ることが意図される。例えば、モノクローナル抗体または医薬組成物は、関節置換術または人工装具移植を伴う任意の手術などの外科的処置の前、最中および/または直後に投与することができる。
【0082】
本発明の抗体または結合フラグメントによる受動免疫処置では、用量は宿主の体重当たり約0.0001〜約100mg/kg、より通常には約0.01〜約5mg/kgの範囲である。例えば、用量は約1mg/kg体重または約10mg/kg体重であるか、約1〜約10mg/kgの範囲内にあり得る。治療レジメンのひとつの典型例では、2週間に1回、1か月に1回または3〜6か月に1回の投与を実施することになる。いくつかの方法では、異なる結合特異性をもつ2つ以上のモノクローナル抗体を同時に投与し、この場合、投与する各抗体の用量は、示された範囲内にある。通常、抗体を繰り返し投与する。単回投与の間隔は毎日、毎週、毎月または毎年であり得る。いくつかの方法では、血漿中抗体濃度が1〜1000μg/ml、いくつかの方法では25〜300μg/mlになるよう用量を調節する。あるいは、抗体を徐放性製剤として投与することができ、この場合、より低頻度の投与が必要とされる。患者体内での抗体の半減期によって用量および頻度が異なる。一般に、ヒト抗体が最も長い半減期を示し、ヒト化抗体、キメラ抗体、非ヒト抗体がこれに次ぐ。
【0083】
本発明の別の態様は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の治療方法に関するものであり、この方法は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を有する患者に有効量の本発明のモノクローナル抗体もしくはその結合フラグメントまたは医薬組成物を投与することを含む。
【0084】
本発明のこの態様の一実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の治療方法は、前記投与を繰り返すことをさらに含む。黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を治療する方法は、全身に投与するものであっても、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の部位に直接投与するものであってもよい。
【0085】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の治療方法を用いて、特に限定されないが、皮膚、筋肉、心臓、気道、消化管、眼球、腎臓および尿路の感染症ならびに骨または関節感染症を含めた各部位における黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を治療することができる。
【0086】
一実施形態では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)による骨または関節感染症を有する患者に有効量の本発明のモノクローナル抗体もしくはその結合フラグメントまたは医薬組成物を投与することによって骨髄炎を治療するために、この方法を実施する。上記薬剤または組成物の投与は上記経路のいずれを用いて実施してもよいが、骨または関節感染症の部位に直接投与するのが好ましい。
【0087】
本発明のまた別の態様は、患者に整形外科用インプラントを導入する方法に関するものであり、この方法は、整形外科用インプラントを必要とする患者に有効量の本発明のモノクローナル抗体、結合部分または医薬組成物を投与することと、患者に整形外科用インプラントを導入することとを含む。
【0088】
一実施形態では、整形外科用インプラントを導入する方法は、整形外科用インプラントを必要とする患者の移植部位に有効量のモノクローナル抗体もしくは結合フラグメントまたはこれを含有する医薬組成物を直接投与することを含む。あるいはこれに加えて、整形外科用インプラントを移植部位に移植する前、最中または直後にモノクローナル抗体もしくは結合フラグメントまたはこれを含有する医薬組成物で整形外科用インプラントをコーティングまたは処理することができる。
【0089】
整形外科用インプラントは人工関節、移植片、または合成インプラントであり得る。人工関節の例としては、特に限定されないが、人工膝関節、人工股関節、人工指関節、人工肘関節、人工肩関節、人工側頭下顎関節および人工足関節が挙げられる。ほかにも、他の人工装具を使用することができる。移植片または合成インプラントの例としては、特に限定されないが、人工椎間板、半月板インプラントまたは合成もしくは同種移植片の前十字靭帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯、後十字靱帯、アキレス腱および回旋筋腱板が挙げられる。ほかにも、他の移植片またはインプラントを使用することができる。
【0090】
一実施形態では、整形外科用インプラントを導入する方法は、全関節再置換物を取り付ける過程を包含することが意図される。最初の関節置換物に感染、特にブドウ球菌感染が生じた場合、唯一実施可能な治療法は全関節再置換術である。この実施形態では、最初に、感染した人工関節を取り除いてから、患者の根本的な感染症を治療する。感染症の治療は長期間(すなわち、6か月間)にわたって実施し、この間、患者は動けない状態(またはごくわずかに動ける状態)であり、根本的な感染症を治療するための高用量の抗生物質および任意選択で1種以上の本発明のモノクローナル抗体もしくは結合部分または医薬組成物が投与される。根本的な感染症を治療した後、新たな人工関節を取り付ける。新たな人工関節を取り付ける直前(すなわち、新たな人工関節を取り付けるまでの2週間)および任意選択で取り付けた後、1種以上の本発明のモノクローナル抗体もしくは結合部分または医薬組成物を患者に投与する。取り付け後の期間に、この治療法を1回以上繰り返すことができる。抗生物質治療薬を1種以上の本発明のモノクローナル抗体もしくは結合部分または医薬組成物と併用して、または同時に投与し得る。ここに挙げた治療法は、全関節再置換術時の感染または再感染を予防するのに効果的である。
【0091】
本発明の治療方法は、これを必要とする任意の患者を治療するのに用いることができるが、この方法は、免疫無防備状態のあらゆる年齢の患者および50歳を超えた患者に特に有用である。
【0092】
本発明の別の態様は、個人の黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する免疫能を評価する方法に関するものであり、この方法は、個人由来の血清の存在下で黄色ブドウ球菌(S.aureus)グルコサミニダーゼ(Gmd)をGmdの基質に曝露することと、前記曝露後に基質に対するGmdの活性を評価することとを含む。この方法は、治療処置または予防処置のために本発明の抗体またはフラグメントを患者に投与する必要性を評価するのに特に有用である。
【0093】
一実施形態では、上記のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のGmdを用いて、この方法を実施する。
【0094】
Gmdの基質は、この酵素の任意の適切な基質であり得る。基質のひとつの例は、M.ルテウス(M.luteus)細胞壁調製物である。本明細書で使用される「細胞壁」という用語は、細菌の細胞外膜を形成して細菌の統合性を保つあらゆる成分を表す。細菌細胞壁を精製する方法は当該技術分野で周知であり、特に限定されないが、天然の細胞壁およびSDS細胞壁の調製がこれに含まれる。遠心分離により沈殿させた対数期の培養物から天然の細胞壁を調製する。次いで、細菌を緩衝液に再懸濁させ、超音波振動によって破壊する。低速の遠心分離により未破壊細菌の除去を行った後、細胞壁を含有する上清を収集する(FeinおよびRogers,"Autolytic Enzyme−Deficient Mutants of Bacillus subtilis 168,"J Bacteriol.127(13):1427−1442(1976)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0095】
SDS処理した細胞壁は、FeinおよびRogers("Autolytic Enzyme−Deficient Mutants of Bacillus subtilis 168,"J Bacteriol.127(13):1427−1442、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている通りに、凍結乾燥させた細胞または対数期まで増殖させた細胞から調製することができる。
【0096】
本発明のこの態様では、細菌細胞壁懸濁液を個人由来の血清の存在下および非存在下の両方でGmdに曝露した後、分光光度計を用いてその吸光度を測定し、次いで血清がGmdの細胞壁溶解活性を阻害する能力を分析することによって、前記個人の黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する免疫能の測定を実施することができる。血清を当該技術分野で許容される塩溶液で希釈し、マイクロタイタープレート中、約1mg/mlの精製Gmdと37℃で60分間接触させ得る。次いで、分光光度計で490nmにおける試料の吸光度を読み取り得る。方程式:阻害率(%)=100(1−(血清の存在下で測定した60分後の吸光度の変化/血清の非存在下で測定した60分後の吸光度の変化))によって、個人のこの免疫状態を決定することができる。この解析では、細菌懸濁液の光散乱の減少が細菌細胞壁を溶解する機能を示す溶解酵素(すなわち、Gmd)の量と相関し、血清がGmdによる細胞壁溶解を阻害する能力によって、Gmdに対する免疫能の存在が反映される。
【0097】
個人由来の血清は、新たに分離した血清であっても、凍結血清を解凍したものであってもよい。いずれの場合にも、血清をアッセイに使用する前に、必要に応じて血清を約1:10〜約1:1000に希釈することができる。個人の血液から血清を分離するには、当該技術分野で周知の方法を用いることができる。
【0098】
上記の通り、曝露段階および評価段階は陰性対照(すなわち、血清を含有しない緩衝溶液)と並行して実施することができる。あるいは、これらの段階を、本発明のモノクローナル抗体または結合フラグメントを1種以上含有する溶液(少なくとも50%のGmd活性阻害率が得られる濃度であることが好ましい)などの陽性対照と並行して実施することができる。さらなる実施形態では、陽性対照と陰性対照の両方を個人の血清と並行して用いる。ある特定の実施形態では、モノクローナル抗Gmd抗体は4A12、1C11、2D11、3H6、1E12もしくは3A8またはその結合フラグメントである。
【実施例】
【0099】
以下の実施例を参照しながら本発明を説明する。ここに挙げる実施例は、特許請求される発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0100】
インプラントによる骨髄炎のマウス下腿モデル
整形外科用インプラントによるOMは髄内装置(すなわち、人工関節)および経皮質インプラント(すなわち、外部固定装置、
図1A)の両方に生じる。固定装置の感染率は人工関節全体の2.5倍、発生率は人工関節全体の8倍を上回るが、固定装置の再置換術は、はるかに単純であるため、このことは深刻に捉えられていない(Darouiche,"Treatment of Infections Associated With Surgical Implants,"N.Engl.J.Med.350(14):1422−9(2004)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。感染した経皮質インプラントがみられる症例のほとんどが、1回の手術でピンの位置を移動させ、独立して膿瘍を処置することにより解消できるが、感染した人工装具の大部分は再置換術を2回必要とする(Darouiche,"Treatment of Infections Associated With Surgical Implants,"N.Engl.J.Med.350(14):1422−9(2004)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。1回目の再置換術は感染症を治療するために必要とされ、2回目の再置換術は人工装具を取り替えるために必要とされるものである。したがって、臨床的意義の観点から、この分野では主として、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のUAMS−1(ATCC49230)株のある髄内装置に関するインプラントによるOMのモデルに焦点が絞られている(Daumら,"A Model of Staphylococcus aureus Bacteremia,Septic Arthritis,and Osteomyelitis in Chickens,"J.Orthop.Res.8(6):804−13(1990);Rissingら,"Model of Experimental Chronic Osteomyelitis in Rats,"Infect.Immun.47(3):581−6(1985);Passlら,"A Model of Experimental Post−Traumatic Osteomyelitis in Guinea Pigs,"J.Trauma 24(4):323−6(1984);Worlockら,"An Experimental Model of Post−Traumatic Osteomyelitis in Rabbits,"Br.J.Exp.Pathol.69(2):235−44(1988);Varshneyら,"Experimental Model of Staphylococcal Osteomyelitis in Dogs,"Indian J.Exp.Biol.27(9):816−9(1989);Kaarsemakerら,"New Model for Chronic Osteomyelitis With Staphylococcus aureus in Sheep,"Clin.Orthop.Relat.Res.339:246−52(1997);上記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。残念ながら、この方法には大きな制約があり、その最たるものが、再現性のある(時間的にも空間的にも)病変が得られないことである。この制約を克服するため、既に記載されている通りに(Zhangら,"Cyclooxygenase−2 Regulates Mesenchymal Cell Differentiation Into the Osteoblast Lineage and is Critically Involved in Bone Repair,"J.Clin.Invest.109(11):1405−15(2002)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、アインホルン装置を用いて、1×10
6CFUを含有する髄内ピンの挿入直後に脛骨を骨折させることによって、感染の位置を骨幹部に誘導した。マウスにおいて、感染した経皮質ピンの移植では常に病変がピンに隣接して発生し、脛骨の他の領域に慢性OMが生じることも、血行性に播種することもないことがわかった(
図1A〜1C)。
【0101】
骨溶解を定量化するため、感染脛骨をμCTにより分析する経時的研究を実施した(
図1B〜1C)。この結果は、反応性の骨膜による骨形成を伴って感染インプラント周辺に破骨細胞による骨吸収がみられる腐骨片形成と一致するものであった。
【0102】
マウスにおけるOMの存在を組織学的に確認した。
図2A〜2Hは、脛骨の経皮質ピンモデルが、腐骨片および骨柩の形成、破骨細胞による皮質骨吸収ならびにインプラント周囲の壊死骨に存在するグラム染色された細胞外細菌および生物膜を含む慢性OMの顕著な特徴をすべて含んでいることを示している。熱殺菌した黄色ブドウ球菌(S.aureus)および非病原性大腸菌(E.coli)を含む陰性対照では、上に挙げた特徴を示すものはみられなかった。
【実施例2】
【0103】
骨髄炎のリアルタイムPCRによる定量化
OMを定量化する方法は知られていない。感染した骨から生きた細菌を効率的に抽出し、古典的なコロニー形成単位(CFU)細菌量を決定することは不可能なため、その代替となる細菌量の結果判定法として、チーズ(Heinら,"Comparison of Different Approaches to Quantify Staphylococcus aureus Cells by Real−Time Quantitative PCR and Application of This Technique for Examination of Cheese,"Appl.Environ.Microbiol.67(7):3122−6(2001)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)および血液(Palomaresら,"Rapid Detection and Identification of Staphylococcus aureus From Blood Culture Specimens Using Real−Time Fluorescence PCR,"Diagn.Microbiol.Infect.Dis.45(3):183−9(2003)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)の汚染試験で実施されるように、DNA試料中の回収可能なnuc遺伝子の数を定量化するリアルタイムPCR法を開発した。
【0104】
既に記載されている269bp産物を増幅するプライマー
を用いて、黄色ブドウ球菌(S.aureus)特異的nuc遺伝子のRTQ−PCRを実施することができる(Heinら,"Comparison of Different Approaches to Quantify Staphylococcus aureus Cells by Real−Time Quantitative PCR and Application of This Technique for Examination of Cheese,"Appl.Environ.Microbiol.67(7):3122−6(2001)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。0.3 μMのプライマー、1×Sybr Green PCR Super Mix(BioRad、Hercules、CA)および精製脛骨DNA鋳型2μlからなる最終体積20μl中で反応を実施することができる。Rotor−Gene RG 3000(Corbett Research、Sydney、AU)を用いて試料をアッセイすることができる。
【0105】
このほか、試料間のDNA鋳型の統合性を制御するため、プライマー
を用いて、124bpの産物を検出するマウスβ−アクチン遺伝子のRTQ−PCRを実施することができる。マウスβ−アクチン、黄色ブドウ球菌(S.aureus)nuc、およびrRNAゲノムDNAに特異的なPCRプライマーを用いて、これらのPCRの特異性および予測産物を増幅する能力が示された(Liら,"Quantitative Mouse Model of Implant−Associated Osteomyelitis and the Kinetics of Microbial Growth,Osteolysis,and Humoral Immunity,"J.Orthop.Res.26(1):96−105(2008)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。次いで、nuc遺伝子、すなわち黄色ブドウ球菌(S.aureus)ゲノムDNAを含む精製プラスミドDNAを用いて用量反応実験を実施し、このRTQ−PCRの検出限界が約100コピーであることが明らかになった(Liら,"Quantitative Mouse Model of Implant−Associated Osteomyelitis and the Kinetics of Microbial Growth,Osteolysis,and Humoral Immunity,"J.Orthop.Res.26(1):96−105(2008)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。このアッセイは、感染および受動免疫処置の有効性の二次的な結果判定法として、in vivo細菌量を定量化するのに用いられている。
【実施例3】
【0106】
骨髄炎確立時の感染および液性免疫の動態
骨髄炎確立時の微生物による病理発生および宿主免疫を定量化するため、感染した経皮質ピンをマウスの脛骨に移植する経時的研究を実施し、細菌量および宿主の液性応答をそれぞれ、nuc/β−アクチンのRTQ−PCRおよびウエスタンブロットにより経時的に判定した(
図3A〜3C)。結果は、感染と液性免疫との間に明らかな逆相関関係があることを示す。ここに挙げた結果は、古典的な微生物による病理発生および細胞外細菌に対する後天性免疫にみられる通り、細菌が迅速に自らを確立して対数増殖期に入り、11日後に中和液性応答によって消失することを示すものである。細菌量のピークと特定の細菌タンパク質に対する高親和性のIgG抗体の生成が一致することに基づけば、この「免疫優性」抗原が、OMの確立に対して診断にも防御にも機能的な免疫応答を誘発することは明らかである。
【実施例4】
【0107】
OM確立時に特異的なIgG2b応答を誘発する56kDaの免疫優性抗原としての黄色ブドウ球菌(S.aureus)自己溶菌酵素のグルコサミニダーゼサブユニットの特定およびクローン化
OM確立時の液性応答の特徴をさらに明らかにするため、感染後最初の2週間にわたって、マウス血清中のIgアイソタイプの出現率をELISAにより決定した(Liら,"Quantitative Mouse Model of Implant−Associated Osteomyelitis and the Kinetics of Microbial Growth,Osteolysis,and Humoral Immunity,"J.Orthop.Res.26(1):96−105(2008)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。結果は、マウスが第1週目に古典的なIgM応答を開始し、第2週目には、黄色ブドウ球菌(S.aureus)抗原に対して強力なオプソニン作用および防御作用を示すことが近年明らかにされた特異的IgG2b応答(Maira−Litranら,"Comparative Opsonic and Protective Activities of Staphylococcus aureus Conjugate Vaccines Containing Native or Deacetylated Staphylococcal Poly−N−acetyl−beta−(1−6)−glucosamine,"Infect.Immun.73(10):6752−62(2005)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に転換することを示すものであった。
【0108】
図3Cで確認された免疫優性抗原の分子的属性を明らかにするため、2D−PAGEによって分離する全黄色ブドウ球菌(S.aureus)抽出物の差引きウエスタンブロットを実施した(
図4A〜4C)。この分析により、免疫前の血清によっては検出されないが、免疫14日後の血清と強い反応性を示すポリペプチドの存在が明らかになった。このタンパク質を分離用クーマシーブルー染色ゲルから分離し、トリプシンで消化し、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)によって分析したところ、70個の個々のペプチドピークがみられた。いずれのペプチドのアミノ酸配列も、黄色ブドウ球菌(S.aureus)AltのGmdサブユニットの既知の配列と100%一致した。ほかにも、AtlがMRSA OMのウサギ脛骨モデルの免疫優性抗原であることが近年明らかにされているのは興味深い(Bradyら,"Identification of Staphylococcus aureus Proteins Recognized by the Antibody−Mediated Immune Response to a Biofilm Infection,"Infect.Immun.74(6):3415−26(2006)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0109】
図4Cの2D−PAGEゲルから取り出したスポットが免疫優性抗原によるものであることを裏付けるため、黄色ブドウ球菌(S.aureus)自己溶菌酵素の53kDaグルコサミニダーゼサブユニットの1,465bpコード領域を、IPTG誘導用のlac Iプロモーターを含むpET−28a(+)発現プラスミド(Novagen)のXhoI−BamHI部位にクローン化することによって、組換え6−Hisで標識された融合タンパク質を作製した。DNAの配列決定後、プラスミドを用いてBL21大腸菌(E.coli)を形質転換し、これを用いて組換えHis−グルコサミニダーゼ(His−Gmd)を作製した。次いで、この組換えタンパク質を用いて免疫前の血清および免疫血清の反応性を評価した。結果は、IPTGに誘導された57kDa組換えタンパク質が免疫血清によってのみ認識されることを示し、したがって、Gmdが黄色ブドウ球菌(S.aureus)免疫優性抗原であることを裏付けるものであった。Xen29に感染したマウス由来の抗血清を用いてこの実験を再び実施したところ、C57Bl/6もこの黄色ブドウ球菌(S.aureus)生物発光株に対してGmd特異的抗体を産生することが裏付けられた。
【実施例5】
【0110】
OMおよび細菌増殖の経時的結果判定法としてのlux形質転換黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vivo生物発光イメージング
マウスモデルのOMを定量化するRTQ−PCR法はきわめて有用なものであるが、この方法には主な制約が3つある。1つ目は、分析にマウスを屠殺してDNAを回収する必要があるため、この方法は経時的ではない点である。2つ目は、この方法は多大な労力を要し、DNA単離、PCR、およびデータ分析に細心の注意が必要である点である。3つ目は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)ゲノムDNA(nuc遺伝子)を検出しても、活発な増殖相にある細菌と生物膜内に密集した休眠状態の細菌とを区別することができない点である。したがって、RTQ−PCRを用いてin vivoの細菌増殖に対するmAbの効果を容易に評価することはできない。
【0111】
上に挙げた短所を克服するため、本発明は、生物発光イメージングを用いて病原体をin vivoでモニターするきわめて革新的な方法に関する(Contagら,"Photonic Detection of Bacterial Pathogens in Living Hosts,"Mol.Microbiol.18(4):593−603(1995)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。より最近、この目的のためにP.R.Contagらが生物発光黄色ブドウ球菌(S.aureus)(Xen 29;ATCC 12600)を作製している(Francisら,"Monitoring Bioluminescent Staphylococcus aureus Infections in Living Mice Using a Novel luxABCDE Construct,"Infect.Immun.68(6):3594−600(2000)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
図5A、5Bは、この方法がどのように本発明のOMモデルに適用されるかを示している。Xen29を用いた経時的研究では、無菌のピンを移植したマウスにも、非経口ゲンタマイシンで処置した感染マウスにも、バックグラウンドシグナルのみが検出された。これに対して、感染した未処置の脛骨のBLIは、第4日にベースラインの4倍という急激な増加を示し、その後、第11日までにバックグラウンドレベルまで減少した。
【実施例6】
【0112】
組換えGmdワクチンがインプラントによるOMからマウスを防御する
OMに対する抗自己溶菌酵素による受動免疫処置の可能性を評価するため、活性組換えGmdワクチンによる初期試験を実施し、この試験ではマウス(n=20)を次のように免疫処置した:グループ1(PBSとアジュバントの混合物(陰性対照));グループ2(等体積のアジュバントを用いて1:1で乳化した黄色ブドウ球菌(S.aureus)Xen29全プロテオーム抽出物20μg(陽性対照));グループ3(His−グルコサミニダーゼ20μgとアジュバントの混合物)。抗原投与28日前、各ワクチンのエマルション150μlを筋肉内注射(i.m.)した。抗原投与14日前、追加免疫処置(i.m.;タンパク質20μgとフロイント不完全アジュバントの混合物)を実施した。
【0113】
マウスでのワクチンの有効性を評価するため、抗GmdによるELISAを実施し(
図6A)、最初の免疫処置の前、追加免疫処置の前および細菌投与の前の血清抗体価の定量化に用いた(
図6B)。注目すべきことに、結果は、組換えワクチンのみが高い力価の免疫応答を誘発したことを示すものであった。このワクチンの有効性を評価するため、上の実施例の通りに、Xen29に感染させた下腿ピンにより免疫処置マウスに抗原を投与し(
図5A〜5Cを参照されたい)、第3日にBLIを実施し、第11日にnuc RTQ−PCR用にマウスを安楽死させた。注目すべきことに、黄色ブドウ球菌(S.aureus)全プロテオームで免疫処置したマウス20匹のうち18匹が抗原投与後48時間以内に死亡したため、そのグループの有効性データは用いることができない。この観察結果には推測による説明しかできないが(すなわち、他の抗原に対する高度免疫)、他のいずれのグループにも死亡例がみられず、グループ2のマウス5匹からなる4コホートに死亡例が再びみられたという事実は、結果が正しいことを示すものである。このような理由から、この免疫処置プロトコルをその後の研究の陽性対照として使用するべきではない。このことはほかにも、活性ワクチンの安全性に対する懸念を浮き彫りにするとともに、精製したmAbまたはその結合フラグメントで受動免疫処置を実施する根拠を裏付けるものである。
【0114】
グループ1および3のBLIおよびnuc RTQ−PCRのデータを
図7A〜7Cに示す。結果は、His−Gmd免疫処置マウスに検出されたBLIの有意な減少を明らかに示しており(
図7A、7B)、これは細菌の浮遊増殖の減少を示すものである。この結果と一致して、このモデルでは細菌量のピーク時にnuc遺伝子の数に有意な減少がみられないことが観察された(第11日)。したがって、ここに挙げたデータは、このモデルでは組換えGmdワクチンによりマウスをOMから防御することが可能であることを示すものである。
【実施例7】
【0115】
マウス抗Gmdモノクローナル抗体の作製およびスクリーニング
実施例6に記載したHis−Gmd免疫処置が成功したことから、このプロトコルを用いてマウス抗Gmd mAbを作製した。mAbの作製には標準的な方法を用いた。調製したハイブリドーマの初期プールから、抗Gmd活性に関するELISAによるスクリーニングを実施して第一のサブセットを選択し、ウエスタンドットブロットアッセイを実施して、高親和性を有する第二のサブセットを選択した。
【0116】
GmdおよびGmdのR3ドメイン内にみられるこれらの領域の推定エピトープに対する見かけの高親和性(≦10
−9M)に基づいて、ハイブリドーマ細胞系を5つ選択した。R3ドメインはGmdタンパク質の触媒ドメインではないため、上記モノクローナル抗体が有意な抗Gmd阻害活性を有することは予想外であった。選択した5つのハイブリドーマは1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6であった。これらは、いずれもマウスIgG1抗体を分泌した。
【0117】
ハイブリドーマ1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6(PCT出願公開第WO2011/140114号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている)の配列決定および試験を実施した後、ほかにも、下に記載するハイブリドーマ4A12を配列決定および試験に供した。
【0118】
ハイブリドーマ4A12(最もマッチする生殖細胞系列:J558.59.155およびJH4)は次のようなV
Hヌクレオチド配列(配列番号4)を有する:
。
【0119】
4A12 V
L(最もマッチする生殖細胞系列:RFおよびJK5)は次のようなヌクレオチド配列(配列番号5)を有する:
。
【0120】
ハイブリドーマ4A12 V
Hのアミノ酸配列(配列番号2)は次の通りである:
。
【0121】
4A12 V
Lは次のようなアミノ酸配列(配列番号3)を有する:
。
【0122】
mAbs 1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6(国際出願PCT/US2011/035033号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている)のV
LおよびV
Hドメインの配列と比較すると、4A12のV
LおよびV
Hドメインは独特なものである。
【実施例8】
【0123】
mAb 4A12による黄色ブドウ球菌(S.aureus)Gmd酵素活性の阻害
黄色ブドウ球菌(S.aureus)UAMS−1をLB培地10mL中、200rpmの回転台に載せて37℃で12時間、対数中期まで増殖させた。次いで、細菌をLB培地で1000cfu/mLまで希釈し、希釈した懸濁液100μLを、抗体および対照を添加するよう指定された平底マイクロタイター(カバー付)にウェルに加えた。抗Gmd抗体および対照抗体をそれぞれPBS中約1mg/mLのストックからLBに希釈し、0.2μフィルターで滅菌した。指定された4連ウェルに各抗体100μLを加えた。次いで、プレートを37℃でインキュベートし、マイクロタイタープレートリーダーで490nmにおける光散乱を1時間毎に(12時間)測定した。
図8に示されるように、1C11と4A12は同程度の黄色ブドウ球菌(S.aureus)のin vitro増殖阻害を示した。
【0124】
増殖阻害という結果が得られたため、このほか4A12が黄色ブドウ球菌(S.aureus)の二分裂を阻害する能力について、既に黄色ブドウ球菌(S.aureus)の密集または凝集を促進することが示されている1C11と比較した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)(Xen29)を液体のルリアブロス(LB)培地中、無関係なIgG mAb(CTL)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)プロテインAに対するmAb(抗Spa)、または4A12および1C11抗Gmd mAbの存在下で培養した。37℃で12時間培養した後、走査型電子顕微鏡用に懸濁培養のアリコートを採取した。次いで、走査型電子顕微鏡法による可視化のため、試料を無菌シリコンチップ上に播き、固定し、脱水し、金でコートした。娘細菌に輪郭が明確な細胞膜がみられる(白矢印)ことからCTLおよび抗Spa mAbには二分裂に対する効果がないことを示す代表的な写真を掲載する(それぞれ
図9A、9B)。これに対して、娘細菌間に分裂板が伸長している(赤矢印)ことから明らかな通り、4A12(
図9C)および1C11(
図9D)はともに二分裂を阻害する。
図9Cには明確に見える分裂板が存在しないことから、4A12の方が1C11よりも阻害能が高い証拠となる。
【実施例9】
【0125】
ヒト化抗体の作製および試験
Tillerら("Efficient Generation of Monoclonal Antibodies from Single Human B Cells by Single Cell RT−PCR and Expression Vector Cloning,"J.Immunol.Methods 329(1−2):112−24(2008)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)によって実施例7に記載されているヒト抗体発現ベクター内へのクローン化を可能にするプライマーを用いて、4A12抗体の軽鎖および重鎖の可変領域を再増幅した。4A12の軽鎖および重鎖可変領域と、ヒトカッパおよびIgG1定常領域とを含むプラスミドを調製し、HEK293細胞内に共トランスフェクトした。3日後、細胞から培地を取り出し、ELISAによってヒトIgGの存在および固定化したGmdタンパク質との結合についてアッセイした。西洋ワサビペルオキシダーゼと結合させたヤギ抗ヒトIgG抗体と3,3',5,5'テトラメチルベンジジン基質とを用いて結合抗体を検出した。
【0126】
次いで、ヒト:マウスキメラ4A12(h4A12)がGmd酵素活性を阻害する能力を試験した。マウスIgG1 4A12およびそのキメラ型のh4A12をGmd活性の基質である熱殺菌したM.ルテウス(M.luteus)の存在下、示される濃度でGmdとともにインキュベートした。37℃で60分間インキュベートした後、490nmにおける光散乱をt=0のときの光散乱と比較することによって、細胞溶解の程度を測定した。阻害率パーセントを100×(1−(阻害剤のΔ
60A
490/阻害剤なしの対照のΔ
60A
490))として計算した。マウス4A12モノクローナル抗体は約100%のGmd活性阻害を達成することができる最小濃度に関してほぼ3倍の差を示したが、このデータは、いずれの型の抗体もGmdを完全に阻害することができることを裏付けるものである。
【実施例10】
【0127】
抗Gmd mAb 4A12を含有する受動ワクチンはマウスOMモデルにおいて整形外科移植後に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)をin vivoで阻害する
下腿ピンを用いたOMモデル(実施例1および6を参照されたい)が進行中であり、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の増殖をin vivoで阻害する候補mAb 4A12の能力を評価するのに使用されるであろう。簡潔に述べると、手術3日前に、5週齢の雌BALB/cJマウスに対し生理食塩水(n=10)または生理食塩水0.25mlに精製4A12抗Gmd抗体1mgを溶かしたもの(n=5)を腹腔内注射する。手術時、マウスにXen29黄色ブドウ球菌(S.aureus)を500,000CFU含有する下腿インプラントを移植する。第0日、3日、5日、7日、10日または11日および14日にマウスにイメージングを実施して生物発光を評価し、各群を代表する個体のBLIヒートマップを含む画像を検討する。
【0128】
この実験がこれまでに成功したことに基づけば、ヒト化4A12抗体またはそのIgクラス変異体を単独で、または1C11、1E12、2D11、3A8、および3H6のヒト化型抗体の1種以上と組み合わせて、一次全関節置換術を受ける高齢患者(65歳超)を対象とする第I相臨床試験に用いることが可能であると予想される。
【実施例11】
【0129】
整形外科感染症の患者における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する防御免疫のバイオマーカーとしての抗グルコサミニダーゼ抗体
感染症の存在を評価する優れた血清ベースの診断検査法(すなわち、C反応性タンパク質;CRP)は存在するが、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する宿主免疫をアッセイする試験は存在しない。抗Gmd抗体が防御免疫の血清バイオマーカーであるとする仮説を検証するため、感染マウスおよび非感染マウスならびに黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症を有する整形外科患者および同感染症を有さない整形外科患者の血清において物理学的力価および中和力価を定量化するアッセイを開発した。
【0130】
組換えHis−Gmdタンパク質を大腸菌(E.coli)で作製し、物理学的力価のための抗Gmd ELISAの分析物として精製した。このELISAは、1ng/ml〜1μg/mlの範囲にある抗Gmd抗体を検出することが可能なものであった。抗原投与しないマウス(n=5)の血清と、His−Gmdタンパク質で免疫処置したマウス(n=10)の血清における抗Gmd抗体の力価を比較することによって、ELISAの特異性を判定した。抗原投与しない全マウスの力価が検出限界100を下回り、この検出限界の値は免疫処置マウスよりも有意に低いものであった(p<0.05)。
【0131】
抗GmdによるHis−Gmd活性の阻害をO.D.によって決定するM.ルテウス(M.luteus)細胞壁消化アッセイにより、機能的力価を決定した(
図11A)。四角で囲った部分は、抗Gmdの機能アッセイに使用したHis−Gmdの有効濃度を示している。その感度は、精製1C11 mAbの希釈物による3.5μg/mlのHis−Gmdの阻害率(%)として決定され、力価は変曲点に対応する(
図11Bの矢印)。上記の抗原を投与しないマウス、抗原を投与したマウス、および免疫処置マウスから得られた1:10の血清希釈物により機能アッセイの特異性を判定した(
図11C;p=
**0.004)。線形回帰分析では、
図11Dに示されるように、物理学的力価と機能的力価との間に有意な相関が認められることが明らかになった(PBSで1:10に希釈した血清での阻害率(%);p値<0.0002、ピアソン相関係数)。
【0132】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)による整形外科感染症が確認された患者27例および健常対照20例から全関節置換術(TJR)直前に血液を採取した。その血清から抗Gmd抗体の物理学的力価および中和力価を決定しCRPおよびTNFレベルと比較して、その感染症のバイオマーカーとしての可能性を評価した。患者間に性別、年齢、BMI、2型糖尿病、心疾患および自己免疫の有意差は認められなかった。感染患者の血清では、CRP(148.5+/−230.8と17.8+/−17.2mg/ml;p<0.02)およびTNF(43.0+/−37.5と20.3+/−11.6pg/ml;p<0.0001)レベルともに対照よりも有意に増加していた。感染患者と健常対照との間の物理学的力価(
*p<0.02)および機能的力価(
**p<0.0001)の有意差を
図12Aおよび12Bに示す。線形回帰分析では、物理学的力価と機能的力価との間に有意な相関が示された(
図12C;
*p値<0.0001;ピアソン相関係数)。さらに、抗Gmd抗体の受診者動作特性(ROC)曲線は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症の血清バイオマーカーとしての本試験の有意性を示すものであった(
図13)。このROC曲線には、未感染対照(白丸)と黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染患者(黒丸)の血清の物理学的力価を合わせて曲線下面積(AUC)および有意性とともに示した。
【0133】
整形外科感染症、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)(MRSA)による整形外科感染症が依然として整形外科医の大きな課題となっている。この30年間、整形外科感染症患者の治療に向けた大きな臨床的進歩がみられないことに加えて、バンコマイシン耐性MRSAの発生率が高くなっていることから、このような感染症を予防し治療する免疫処置戦略に研究者の焦点が絞られている。免疫プロテオーム仮説では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する効果的な液性免疫には細菌表面で発現する抗原に対する抗体群の開発が必要であるとされるが、このような抗体の性質および効果的な血清中濃度は未だ明らかにされていない。本実施例では、患者血清中の抗Gmd抗体が黄色ブドウ球菌(S.aureus)感染症のバイオマーカーである証拠が提供される。上記のデータに加えて、感染患者の臨床転帰を抗Gmd力価と相関づけて、その免疫能のバイオマーカーとしての価値を評価する。
【0134】
本明細書に好ましい実施形態を図示および記載してきたが、当業者には、本発明の趣旨を逸脱することなく様々な修正、付加、置換などを実施することが可能であり、したがって、それらが以下の特許請求の範囲で定められる本発明の範囲内にあることが明らかであろう。