【文献】
SHENG-HUEI HSIAO et al.,"Synthesis and characterization of polyimides based on isopropylidene-containing bis(ether anhydride)s",JOURNAL OF POLYMER RESEARCH,1997年,vol. 4, no. 3,pages 183 - 190
【文献】
MATTHEW LASKOSKI et al.,"Improved synthesis of oligomeric phthalonitriles and studies designed for low temperature cure",JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART A: POLYMER CHEMISTRY,2014年,vol. 52, no. 12,pages 1662 - 1668
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】10℃/分の昇温速度におけるPN樹脂の示差走査熱量測定法のグラフである:BMPN(実線)、BPPN(破線)、及びRPN(一点鎖線)。
【0016】
[発明を実施するための形態]
以下の定義された用語の用語解説に関して、これらの定義は、特許請求の範囲又は本明細書の他の箇所において異なる定義が提供されていない限り、本出願全体について適用されるものとする。
【0017】
用語解説
ある特定の用語が、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用されており、これらの大部分については周知であるが、何らかの説明が必要とされる場合もある。本明細書において使用する場合、以下のようであると理解されたい。
【0018】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」という用語は、「少なくとも1つの」と交換可能に使用され、記載されている要素のうちの1つ又は複数を意味する。
【0019】
「及び/又は(and/or)」という用語は、一方又は両方を意味する。例えば「A及び/又はB」は、Aのみ、Bのみ、又はAとBとの両方を意味する。
【0020】
本明細書で使用する場合、末端値による数値範囲での記述には、その範囲内に包含されるあらゆる数値が含まれる(例えば1〜5には1、1.5、2、2.75、3、3.8、4、及び5が含まれる)。
【0021】
特に指示がない限り、本明細書及び実施形態で使用する量又は成分、特性の測定値などを表す全ての数は、全ての場合、「約」という用語によって修飾されていると解するものとする。したがって、特に指示がない限り、前述の明細書及び添付の実施形態の列挙において示す数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に依存して変化し得る。最低でも、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして通常の丸め技法を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは請求項記載の実施形態の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
【0022】
用語「含む(comprises)」及びその変化形は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲において現れる場合、限定的な意味を有しない。
【0023】
「好ましい」及び「好ましくは」という言葉は、一定の状況下で一定の利益を提供できる、本開示の実施形態を指す。しかし、他の実施形態もまた、同じ又は他の状況において好ましい場合がある。更には、1つ以上の好ましい実施形態の記述は、他の実施形態が有用ではないことを示唆するものではなく、本開示の範囲から他の実施形態を排除することを意図するものではない。
【0024】
本明細書全体を通して、「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「1つ以上の実施形態」、又は「実施形態」に対する言及は、「実施形態」という用語の前に、「例示的な」という用語が含まれているか否かに関わらず、その実施形態に関連して説明される具体的な特色、構造、材料、又は特徴が、本開示のある特定の例示的な実施形態のうちの少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。それゆえ、本明細書全体を通した様々な箇所での、「1つ以上の実施形態では」、「一部の実施形態では」、「いくつかの実施形態では」、「一実施形態では」、「多くの実施形態では」、又は「実施形態では」などの表現の出現は、必ずしも本開示の特定の例示的な実施形態のうちの同じ実施形態に言及しているわけではない。更に、特定の特徴、構造、材料、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わされてもよい。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「フタロニトリル」は、2つの隣接ニトリル基を有する特徴的なベンゼン誘導体を有する、化合物を含む。図示されたフタロニトリル基において、Rは、例えば、これらに限定されるものではないが、エーテル、チオエーテル、アリール、アルキル、ハロゲン、アミン、エステル、又はアミド、ヘテロアルキル、又は(ヘテロ)ヒドロカルビルである。
【化6】
【0026】
本明細書で使用する場合、「ビスフェノールMジフタロニトリルエーテル」は、ビスフェノールMのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0027】
本明細書で使用する場合、「ビスフェノールTジフタロニトリルエーテル」は、ビスフェノールTのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0028】
本明細書で使用する場合、「ビスフェノールPジフタロニトリルエーテル」は、ビスフェノールPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0029】
本明細書で使用する場合、「レゾルシノールジフタロニトリルエーテル」は、レゾルシノールのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルを指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、「アルキル」は、直鎖状、分枝状、及び環状アルキル基を含み、非置換及び置換アルキル基の両方を含む。特に指示がない限り、アルキル基は、典型的には1〜20個の炭素原子を含む。本明細書で使用される「アルキル」の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、イソブチル、t−ブチル、イソプロピル、n−オクチル、n−ヘプチル、エチルヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル及びノルボルニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。別途注記のない限り、アルキル基は、一価であっても多価であってもよい。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロアルキル」は、独立して、S、O、Si、P、及びNから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を有する直鎖状、分枝状、及び環状アルキル基、並びに非置換及び置換アルキル基の両方を含む。特に指示がない限り、ヘテロアルキル基は、典型的には、1〜20個の炭素原子を含む。「ヘテロアルキル」は、以下に記載する「ヘテロ(ヘテロ)ヒドロカルビル」の部分集合である。本明細書で使用する場合、「ヘテロアルキル」の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、3,6−ジオキサヘプチル、3−(トリメチルシリル)−プロピル、及び4−ジメチルアミノブタニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。別途注記のない限り、ヘテロアルキル基は、一価であっても多価であってもよい。
【0032】
本明細書で使用する場合、「アリール」は、6〜18個の環原子を含有する芳香族であり、縮合環を含有してもよく、飽和であっても、不飽和であっても、芳香族であってもよい。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナントリル、及びアントラシルが挙げられる。ヘテロアリールは、窒素、酸素、又は硫黄等のヘテロ原子を1〜3個含有するアリールであり、縮合環を含有してもよい。ヘテロアリールのいくつかの例は、ピリジル、フラニル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、ベンゾフラニル、及びベンズチアゾリルである。別途注記のない限り、アリール及びヘテロアリール基は、一価であっても多価であってもよい。
【0033】
本明細書で使用する場合、「(ヘテロ)ヒドロカルビル」は、(ヘテロ)ヒドロカルビルアルキル及びアリール基、並びにヘテロ(ヘテロ)ヒドロカルビルヘテロアルキル及びヘテロアリール基を含み、後者は、エーテル等の1つ又は複数のカテナリー酸素ヘテロ原子又はアミノ基を含む。ヘテロ(ヘテロ)ヒドロカルビルは、任意に、エステル、アミド、ウレア、ウレタン、及びカーボネート官能基を含む、1つ又は複数のカテナリー(鎖内)官能基を含有してもよい。特に指示がない限り、非ポリマー(ヘテロ)ヒドロカルビル基は、典型的には、1〜60個の炭素原子を含有する。このような(ヘテロ)ヒドロカルビルのいくつかの例は、本明細書で使用する場合、上記「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」、及び「ヘテロアリール」について記載したものに加えて、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、4−ジフェニルアミノブチル、2−(2’−フェノキシエトキシ)エチル、3,6−ジオキサヘプチル、3,6−ジオキサへキシル−6−フェニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「重合物」は、重合性組成物の重合反応の結果を指す。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「残基」は、記載されている式中の結合している官能基又は結合している基を除去(又は反応)した後に残る基の(ヘテロ)ヒドロカルビル部分を定義するために用いられる。例えば、ブチルアルデヒド、C
4H
9−CHOの「残基」は、一価のアルキルC
4H
9−である。フェニレンジアミンH
2N−C
6H
4−NH
2の残基は、二価のアリール−C
6H
4−である。
【0036】
ここで本開示の様々な例示的な実施形態が記述される。本開示の例示的な実施形態には、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を加えてもよい。したがって、本開示の実施形態は、以下に記載の例示的な実施形態に限定されるものではないが、特許請求の範囲に記載されている限定及びそれらの任意の均等物により支配されるものであることを理解すべきである。
【0037】
本開示は、概ね、ジフタロニトリルエーテル樹脂(例えば、モノマー)、樹脂ブレンド、2成分システム、及びこれらの製造方法に関する。
【0038】
フタロニトリルは、フタロニトリル重合の付加的性質によりバルク重合反応に理想的な前駆体樹脂であり、ネットワークを弱体化させ、ネットワークから浸出し、かつ高温で揮発し得る未結合の反応副生成物を避けるため、特に有利である。フタロニトリルは、触媒又は硬化剤によって促進された場合に、付加硬化反応を起こす。既知のフタロニトリル重合用触媒系は、4つのフタロニトリル部分のフタロシアニン環への四環化を促進する(McKeown,N.B.,The Synthesis of Symmetrical Phthalocyanines,in The Porphyrin Handbook,K.M.Kadish,K.M.Smith,and R.Guilard,Editors.2003,Academic Press:Amsterdam.p.61−124)。フタロシアニンは、無金属(PcH2)フタロシアニン又は含金属(PcM)フタロシアニンの2つの形態のうちの1つで存在し得る。塩基、アルコール、及び熱を加えること、又は適切な還元剤及び熱を加えることにより、PcH2を形成してもよい。これらの条件は、アミン塩基を第一級アルコール(例えば、C1〜C5アルコール)と共に添加することによって満足されてもよい。塩基はPcH2の形成及びアルコールのアルデヒドへの酸化を触媒する。好適な還元剤(例えば、ヒドロキノン又は1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)は、PcH2形成に形式的に必要な2個の電子及び2個のプロトンを供給することができ、環化四量体化ももたらすであろう。金属、有機金属又は金属塩及び熱を加えることにより、PcMを形成してもよい。金属は、フタロシアニン環の中央の4つの窒素と配位結合する。配位状態に応じて、金属は2つ以上のフタロシアニン環と相互作用して、積み重なったフタロシアニン構造を生じさせてもよい。多くの金属が、環化四量体化をもたらすことが示されている(ibid.)。これらのバルク重合反応用触媒系の欠点は、しばしば揮発性物質が発生することである。
【0039】
アルデヒドへの酸化を起こすことができる第一級アルコールが存在しない場合、第一級アミンがフタロニトリル硬化剤として作用し、多官能性フタロニトリル樹脂を用いた場合、N置換ポリ(3−イミノイソインドレニン)結合ポリマーネットワークが生じる(米国特許第4,408,035号(Keller)及び同第4,223,123号(Keller et al.))。アルコールの不足は、PcH2フタロシアニン環の形成を妨げると考えられる。フタロニトリルとの良好な反応性を示している第一級アミンは、アニリン系である。重合中の硬化剤の損失を避けるために、典型的には、より高分子量及びより低揮発性のアニリン官能性硬化剤が望ましい。ジアニリン系硬化剤は、硬化剤の重量当たりのアニリン官能性がより高いことから、有用となり得る。フタロニトリル重合を促進すると推定されるジアニリン系硬化剤の例としては、例えば、4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジオキシ)ジアニリン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェニル−1,1’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−スルホニルジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2−メチルアニリン)、3,3’−メチレンジアニリン、3,4’−メチレンジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−(イソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(p−フェニレンオキシ)ジアニリン、及び4,4’−ジアミノベンゾフェノンが挙げられるが、これらに限定されない。第一級アミンに促進されるフタロニトリル硬化反応は、200℃〜250℃の温度で、かなりの速度で進行する。アミン硬化されたフタロニトリル重合されたネットワークは、高いガラス転移温度、良好な耐熱劣化性及び耐熱酸化劣化性によって付与される卓越した熱安定性を示し、更には本質的に不燃性で、吸湿性が低い。しかし、現在の樹脂技術は、400℃を超える高いガラス転移温度のため、長尺の高温多段階オートクレーブ硬化スケジュールに制限される(米国特許第4,223,123号(Keller et al.))。
【0040】
レゾルシノールジフタロニトリルエーテル(RPN)は、他の、より高分子量のフタロニトリル樹脂と比較して、商業的に重要であり、185℃の融解温度及び低い溶融粘度を呈する。RPN硬化されたネットワークは、450℃を超える高いガラス転移温度を示す(米国特許第4,587,325号(Keller);及びKeller,T.M.and D.D.Dominguez,High temperature resorcinol−based phthalonitrile polymer.Polymer,2005.46(13):p.4614−4618)。ビスフェノールAジフタロニトリルエーテル(BAPN)は、198℃の融解温度を有する別の周知の樹脂である(米国特許4,223,123号(Keller et al.))。BAPN硬化されたネットワークも、450℃を超える高いガラス転移温度を示す(Laskoski,M.,D.D.Dominguez,and T.M.Keller,Synthesis and properties of a bisphenol A based phthalonitrile resin.Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,2005.43(18):p.4136−4143)。ビフェノールジフタロニトリル(BPN)は、233℃の融解温度を有し、硬化したBPNネットワークは450℃を超えるガラス転移温度を示す。(Dominguez,D.D.and T.M.Keller,Properties of phthalonitrile monomer blends and thermosetting phthalonitrile copolymers.Polymer,2007.48(1):p.91−97;及び米国特許第4,587,325号(Keller))。RPN、BAPN、及びBPN硬化されたネットワークのそれぞれの高いガラス転移温度(T
g)は、ポリマーネットワーク形成を阻害するガラス化を克服するため及び300℃を超える硬化温度でのネットワーク劣化を最小限に抑えるために、不活性オートクレーブ条件下で425℃までの多段階硬化処理を必要とする。ガラス化を回避し、不活性雰囲気を必要とすることなく、より低温での脱オートクレーブ硬化を可能にする、より低いガラス転移温度を有するポリマーネットワークを形成する液体PN樹脂を、200℃未満の温度で生成するフタロニトリル樹脂技術が必要である。
【0041】
本開示は、ビスフェノールMジフタロニトリル(BMPN)樹脂を、過冷却液体特性を示す低融解温度、低粘度のフタロニトリル樹脂として記載する。BMPNは、脱オートクレーブ(OOA)硬化により、既知のPNネットワークポリマー(これは反応がより遅く、オートクレーブ中の不活性雰囲気下で、より高温での硬化を必要とする)と比較して、驚くほど低いガラス転移温度を有するネットワークポリマーを生成できることを示す。本開示はまた、ビスフェノールPジフタロニトリル(BPPN)樹脂を、より高融点のフタロニトリル樹脂として記載する。BPPNは、BMPNの好ましい加工特性(例えば、低い融解温度及び過冷却液体)を備えないが、BPPNにより、以前のPN樹脂技術と比べて、OOA硬化処理及び低ガラス転移温度のポリマーネットワークを可能にする。
【0042】
4−ニトロフタロニトリルの多官能性フェノールモノマー樹脂による求核置換からの多官能性フタロニトリルモノマー樹脂の合成は、既知のフタロニトリル樹脂の製造方法である(米国特許第4,304,896号(Keller et al.))。置換反応は、非プロトン性極性溶媒に塩基を添加することにより、促進される。炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムは、好ましい塩基であり;金属水酸化物塩基も置換反応を促進すると推定される。ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の極性溶媒は、一般に好ましい溶媒であり、他の溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。フェノキシアニオンによるニトロ置換基の求核置換反応は、周囲温度で進行し、より高い温度でやや加速し得る。しかし、BMPN又はBPPNのいずれの合成も報告されていない。
【0043】
第1の態様では、式Iのモノマーが提供される。
【化7】
【0044】
式Iのモノマーは、ビスフェノールMのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルと呼ばれることもある。第2の態様では、第一級アミン硬化剤と式Iのモノマーとを含む組成物が提供される。第3の態様では、式Iのモノマーの重合物が提供される。いくつかの実施形態において、重合物は、200〜250℃のガラス転移温度を示す。
【0045】
第4の態様では、式IIのモノマーが提供される。
【化8】
【0046】
式IIのモノマーは、ビスフェノールPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルと呼ばれることもある。第5の態様では、第一級アミン硬化剤と式IIのモノマーとを含む組成物が提供される。第6の態様では、式IIのモノマーの重合物が提供される。いくつかの実施形態において、重合物は、250〜300℃のガラス転移温度を示す。
【0047】
より具体的には、BMPN及びBPPNの合成は、本開示において、DMSO中の炭酸カリウムで触媒される、ビスフェノールのフェノール残基による4−ニトロフタロニトリルのニトロ基の求核置換によって示される。反応は、窒素雰囲気下で、周囲温度にて実施した。各樹脂は、反応溶液を低分子量アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、このうちメタノールが好ましい場合がある)に添加することによって沈殿し、未溶解塩が反応容器内に残った。沈殿生成物を真空濾過により回収し、水で洗浄して残留反応塩及びメタノールを除去し、生成物を乾燥した。生成物を、減圧及び高温下で乾燥した。全ての残留溶媒を、200℃の上方温度(upper temperature)で真空ベークすることにより除去し、より高い融解温度の樹脂には、より高温を使用した。
【0048】
BMPNの構造は、BPPN及びその他のフタロニトリル樹脂と比べた場合、フタロニトリルの融解温度を大幅に低下させると考えられた。BMPNをBPPNと比較したとき、融解温度の低下は劇的である。BMPN樹脂とBPPN樹脂とは異性体であり、中央フェニル環での結合性によって構造が異なる。BMPNは中央フェニル環でメタ結合性を有し(上の式I参照)、BPPNは、中央フェニル環でパラ結合性を示す(上の式II参照)。意外にも、結合性の違いは融解温度に変換され、
図1に示すように、BMPNの160℃に対して、BPPNでは213℃である。BMPNの融解温度は、他の報告されているビスフェノールフタロニトリルよりも低い(Takekoshi,T.,Synthesis of High Performance Aromatic Polymers via Nucleophilic Nitro Displacement Reaction.Polym J,1987.19(1):p.191−202)。
【0049】
興味深いことに、BMPNは、その融解温度未満の温度で過冷却液体として存在できることを示し、これは他のビスフェノール系フタロニトリル樹脂では示されていない特性である。この属性は、融解温度未満の温度での液状樹脂加工を可能にし、樹脂の硬化発熱と樹脂融解温度との間のデルタTを大きくすることにより、BMPNに加工上の利点を加える。デルタTが大きくなると、他のフタロニトリル樹脂システムと比べて、BMPN樹脂システム(例えば、硬化剤又は触媒が添加されたBMPN)の加工範囲が大きくなり、ゲル時間が長くなる。この過冷却液体特性は、実施例1に詳述するように、樹脂融解温度未満の温度(135℃)での樹脂粘度をモニターすることによって例示されている。測定は、異なるフローサンプリング条件下におけるBMPN樹脂の遅い結晶化時間、及び過冷却液体状態を維持する手段としての短い持続時間の低剪断流の使用を示す。これらの測定をRPN及びBPPNに適用すると、これらの樹脂は、環境温度が樹脂の融解温度未満まで低下したときに結晶化し、これらの樹脂が過冷却液体特性を示さないことが判明した。BMPN、BPPN及びRPNのそれぞれの重合は、4重量百分率(pph)の4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリンを添加することによって開始した。BMPN樹脂は、より低い融解温度及び過冷却液体特性により、135℃の樹脂温度で硬化剤を添加することが可能であった。BPPNは、融解温度がより高いため、225℃の樹脂温度で硬化剤を添加する必要があった。硬化剤を、200℃の温度でRPNに添加した。樹脂の硬化条件は、以下の実施例に詳述する。
【0050】
BMPN及びBPPN硬化されたネットワークは、驚くべきことに、以前のPN硬化された樹脂と比較して、有意に低いガラス転移温度を示す。BMPN硬化されたネットワークは、E’開始で示される209℃、及びtanδピーク温度で示される229℃のガラス転移温度を示す。BPPN硬化されたネットワークは、E’開始で示される264℃、及びtanδピーク温度で示される287℃のガラス転移温度を示す。BMPN硬化されたネットワークとBPPN硬化されたネットワークを直接比較すると、樹脂の分子量が同じであるために2つのネットワークの間の架橋密度はほぼ同じであることから、樹脂異性体間のメタ結合性とパラ結合性の影響が明らかとなる。
【0051】
BMPN硬化されたネットワーク及びBPPN硬化されたネットワークのそれぞれの低T
gにより、この2種の樹脂の硬化を、オートクレーブを使用することなく、300℃未満の温度で完了することができる。より高温での後硬化は、ネットワークのガラス転移温度を上昇させなかった。比較して、RPNは、不活性雰囲気下で300℃を超える後硬化温度を必要とする。RPNネットワークを、不活性雰囲気管炉内で、450℃の温度の最終硬化まで後硬化した。E’開始によるガラス転移温度は、412℃と測定された。機械的tanδのピークは観察されず、より高温に存在する可能性がある。BMPN及びBPPN硬化されたネットワークのT
gがより低下することにより、300℃未満の温度で硬化したときにガラス化(セグメント並進移動性の低下)が回避される。ガラス化は、PN樹脂に共通の問題であり、不完全硬化樹脂ネットワークのガラス転移温度が外部硬化温度を超えると、樹脂の完全硬化を制限する。BMPN及びBPPN樹脂の完全硬化は、OOA条件下で、それぞれ、250℃及び300℃のより高い硬化温度で達成される。
【0052】
したがって、第7の態様では、重合されたネットワークの製造方法が提供される。方法は、式I又は式IIのモノマーを得ることと、当該モノマーを、硬化剤、触媒(例えば、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノン−5−エン又は1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の塩基;還元剤、例えば、ヒドロキノン及び1,2,3,6−テトラヒドロピリジン;金属、有機金属又は金属塩、例えば、銅、鉄、銅アセチルアセトネート、ナフテン酸亜鉛、ジブチルスズジラウレート、塩化第一スズ、塩化第二スズ、塩化銅、塩化鉄、及び/又は炭酸カルシウム)、又はこれらの組み合わせとブレンドして、モノマーブレンド(又は樹脂ブレンド)を形成することと、当該モノマーブレンドを300℃以下の温度で処理して完全に重合されたネットワークを形成することと、を含む。一般的に、組成物を、約50〜300℃、例えば約130〜300℃の温度で約1〜480分間加熱する。好適な熱源としては、誘導加熱コイル、オーブン、ホットプレート、ヒートガン、レーザーを含む赤外線源、マイクロ波源が挙げられる。
【0053】
溶媒は、加工助剤として使用することが可能である。有用な溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノン等のケトン;アセトアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド(dimethylforamide)、N−メチルピロリジノン等のアミド;テトラメチレンスルホン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、ブタジエンスルホン、メチルスルホン、エチルスルホン、プロピルスルホン、ブチルスルホン、メチルビニルスルホン、2−(メチルスルホニル)エタノール、2,2’−スルホニルジエタノール等のスルホン;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート;エチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、メチルホルメート等のカルボン酸エステル;並びにテトラヒドロフラン、塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ニトロメタン、グリコールサルファイト及び1,2−ジメトキシエタン(グリム)等のその他の溶媒である。
【0054】
方法の少なくともいくつかの実施形態の利点は、任意で行われる重合されたネットワークの後硬化は、重合されたネットワークを300℃を超える温度で処理しないことである。別の言い方をすれば、方法の一部の実施形態において、重合されたネットワークの任意の後硬化は全て、重合されたネットワークを300℃以下の温度で処理することを含む。方法の一部の実施形態では、モノマーは式Iのものであり、モノマーブレンドは、250℃以下の温度で処理される。更に、方法の少なくともいくつかの実施形態の別の利点は、硬化、後硬化、又はその両方が空気中で実施される(例えば、脱オートクレーブ条件実施され、不活性雰囲気下で実施する必要がない)。方法の一部の実施形態では、モノマーブレンドは、空気中で300℃以下の温度で処理される。任意に、モノマーブレンドは、大気圧で300℃以下の温度で処理される。
【0055】
硬化されたBMPN及びBPPNネットワークは、フタロニトリル硬化されたネットワークの高温耐熱劣化性及び耐熱酸化劣化性の特徴を有することが発見された。熱劣化は、10℃/分の昇温速度の加熱条件下での熱重量分析によって特性決定した。大気下及び不活性窒素下でのBMPN及びBPPN硬化されたネットワークの劣化による重量損失は、以下の実施例に詳述する。RPN硬化されたネットワークの劣化による重量損失も、比較のために示す。全ての樹脂を、4pphの4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリンで硬化した。非酸化的環境(例えば、窒素)下では、BMPN及びBPPNネットワークは、それぞれ478℃及び477℃で5パーセントの重量損失を生じた。RPNネットワークは、497℃で、わずかに高かった。酸化的環境(例えば、大気)下では、BMPN及びBPPNネットワークのいずれも、5パーセントの重量損失が生じた温度は489℃であった。RPNの場合、大気下で5パーセントの重量損失が生じた温度は507℃であった。大気下での温度は、樹脂への酸素添加の作用により、窒素下よりも高く、ほぼ同じ重量損失を生じる温度は、熱的環境と比べて熱酸化環境中の方が高くなる。
【0056】
本開示の少なくともいくつかの実施形態による組成物は、1又は複数の硬化剤を含む。このような硬化剤は、多くの場合、一級アミン等のアミン化合物、例えばアニリン官能性残基(aniline functional residue)を含むものを含む。所望により、様々な硬化剤の組み合わせを使用することができる。硬化剤は、典型的には、樹脂ブレンドの少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%又は更には少なくとも20重量%、及び樹脂ブレンドの最大40重量%、最大35重量%、最大30重量%、又は更には最大25重量%、例えば、樹脂ブレンドの0〜40重量%の量で存在する。フタロニトリル重合を促進すると推定されるジアニリン系硬化剤の例としては、例えば、4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジオキシ)ジアニリン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェニル−1,1’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−スルホニルジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2−メチルアニリン)、3,3’−メチレンジアニリン、3,4’−メチレンジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−(イソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(p−フェニレンオキシ)ジアニリン、4,4’−ジアミノベンゾフェノンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
第8の態様では、2成分システムが提供される。2成分システムは、モノマーと硬化剤とを別々の成分に含むことができ、したがって、2コンポーネントシステムは、式I又は式IIのモノマーを含む第1成分と、硬化剤を含む第2成分とを含む。使用前に、2つの成分は、典型的には一緒にブレンドされる。他の材料は、任意に2成分システムに含まれる。いくつかの実施形態では、第1成分、第2成分、又はその両方が、少なくとも1種の添加剤を更に含む。1又は複数の添加剤は、強化剤、充填剤、又はこれらの組み合わせから独立して選択することができる。好適な添加剤は、下記に更に記載する。
【0058】
第9の態様では、樹脂ブレンドが提供される。樹脂ブレンドは、式I、式II、及び式IIIのモノマーから選択される少なくとも2種のモノマーのブレンドを含む。
【化9】
【化10】
【化11】
【0059】
式IIIのモノマーは、ビスフェノールTのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテルと呼ばれることもある。いくつかの実施形態では、樹脂ブレンドは、式Iのモノマーと式第式IIのモノマーとのブレンドを含む。いくつかの実施形態では、樹脂ブレンドは、式Iのモノマーと式IIIのモノマーとのブレンドを含む。同様に、いくつかの実施形態では、樹脂ブレンドは、式IIのモノマーと式IIIのモノマーとのブレンドを含む。樹脂ブレンド中の2種のモノマーの重量比は特に限定されない。例えば、式Iのモノマー対式IIのモノマー、又は式Iのモノマー対式IIIのモノマー、又は式IIのモノマー対式IIIのモノマーの重量比は、典型的には10:90〜90:10の範囲(両端の値を含む)である。選択された実施形態では、樹脂ブレンドは、式I、式II、及び式IIIのモノマーのそれぞれのブレンドを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示による樹脂ブレンドは、少なくとも1つの追加のフタロニトリル樹脂を更に含む。追加のフタロニトリル樹脂の例としては、例えば、ビスフェノールAのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールAのビス(2,3−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールAPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールAFのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールBのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールBPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールCのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールC2のビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールEのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールFのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、3,3’,5,5’−テトラメチルビスフェノールFのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールFLのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールGのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールSのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールPHのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールTMCのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、ビスフェノールZのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、カテコールのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル、フェノールの3,4−ジシアノフェニルエーテル、フェノールの2,3−ジシアノフェニルエーテル、4−tert−ブチルフタロニトリル、4−ブトキシフタロニトリル、4−クミルフェノールの3,4−ジシアノフェニルエーテル、2−アリルフェノールの3,4−ジシアノフェニルエーテル、オイゲノールの3,4−ジシアノフェニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、(2種類以上の樹脂の)樹脂ブレンドは、25℃で固体である。
【0061】
いくつかの他の任意の添加剤も、本開示による組成物、2成分システム、及び/又は樹脂ブレンドに含まれてもよく、その例としては、強化剤、充填剤、及びこれらの組み合わせが挙げられる。このような添加剤は、様々な機能を提供する。例えば、有機粒子などの強靭化剤は、硬化を妨げることなく、硬化後に、組成物に強度を追加し得る。1つの化合物が、2つ以上の異なる機能を形成してもよいことは、当業者に理解されよう。例えば、化合物は、強靭化剤及び充填剤の両方として機能してもよい。いくつかの実施形態では、このような添加剤は、樹脂ブレンドの樹脂と反応しない。いくつかの実施形態では、このような添加剤は、反応性官能基を、特に末端基として含んでもよい。このような反応性官能基の例としては、これらに限定されないが、アミン、チオール、アルコール、エポキシド、ビニル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0062】
有用な強靭化剤は、ゴム相及び熱可塑性相の両方を有するポリマー化合物、例えば、重合した、ジエンゴム状コア及びポリアクリレート、ポリメタクリレートシェルを有するグラフトポリマー;ゴム状のポリアクリレートコア及びポリアクリレート又はポリメタクリレートシェルを有するグラフトポリマー;並びにフリーラジカル重合性モノマー及び共重合性ポリマー安定剤からエポキシド中にてin situで重合されるエラストマー粒子である。
【0063】
米国特許第3,496,250号(Czerwinski)に開示されるように、第1の種類の有用な強靭化剤の例としては、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルのシェル、モノビニル芳香族炭化水素、又はこれらの混合物がグラフト化されている重合されたジエンゴム状骨格又はコアを有する、グラフトコポリマーが挙げられる。例示的なゴム状骨格は、重合されたブタジエン又はブタジエン及びスチレンの重合された混合物を含む。重合されたメタクリル酸エステルを含む例示的なシェルは、低級アルキル(C1〜C4)で置換されたメタクリレートである。例示的なモノビニル芳香族炭化水素は、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルビニルベンゼン、イソプロピルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びエチルクロロスチレンである。グラフトコポリマーは、樹脂の重合を阻害する官能基を含有しないことが重要である。
【0064】
第2の種類の有用な強靭化剤の例は、アクリレートコア−シェルグラフトコポリマーであり、ここで、コア又は骨格は0℃未満のガラス転移温度を有するポリアクリレートポリマー、例えば、ポリメチルメタクリレート等の25℃超のガラス転移温度を有するポリメタクリレートポリマー(シェル)がグラフト化されたポリブチルアクリレート又はポリイソオクチルアクリレートである。
【0065】
第3の部類の有用な強靭化剤は、組成物の他の成分と混合する前に、25℃未満のガラス転移温度(T
g)を有するエラストマー粒子を含む。これらのエラストマー粒子は、フリーラジカル重合性モノマー及び共重合性ポリマー安定剤から重合される。フリーラジカル重合性モノマーは、ジオール、ジアミン、及びアルカノールアミンなどの共反応性二官能性水素化合物と組み合わせた、エチレン性不飽和モノマー又はジイソシアネートである。
【0066】
有用な強靭化剤としては、コアが架橋スチレン/ブタジエンゴムであり、シェルがポリメチルアクリレートである、メタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)コポリマーなどのコア/シェルポリマー(例えば、Rohm and Haas(Philadelphia,PA)から入手可能なACRYLOID KM653及びKM680)、ポリブタジエンを含むコアと、ポリ(メチルメタクリレート)を含むシェルと、を有するもの(例えば、Kaneka Corporation(Houston,TX)から入手可能なKANE ACE M511、M521、B11A、B22、B31、及びM901、並びにATOFINA(Philadelphia,PA)から入手可能なCLEARSTRENGTH C223)、ポリシロキサンコア及びポリアクリレートシェルを有するもの(例えば、ATOFINAから入手可能なCLEARSTRENGTH S−2001、及びWacker−Chemie GmbH,Wacker Silicones(Munich,Germany)から入手可能なGENIOPERL P22)、ポリアクリレートコア及びポリ(メチルメタクリレート)シェルを有するもの(例えば、Rohm and Haasから入手可能なPARALOID EXL2330、及び武田薬品工業(大阪)から入手可能なSTAPHYLOID AC3355及びAC3395)、MBSコア及びポリ(メチルメタクリレート)シェルを有するもの(例えば、Rohm and Haasから入手可能なPARALOID EXL2691A、EXL2691、及びEXL2655)など、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0067】
上記で使用したように、アクリルコア/シェル材料のための「コア」は、0℃未満のT
gを有するアクリルポリマーであることが理解され、「シェル」は、25℃より高いT
gを有するアクリルポリマーであることが理解されよう。
【0068】
他の有用な強靭化剤としては、B.F.Goodrich ChemicalCo.からの商標名HYCAR CTBN 1300X8、ATBN 1300X16、及びHYCAR 1072で入手可能なものなどのカルボキシ化されたアミン末端のアクリロニトリル/ブタジエン加硫性エラストマー前駆物質、商標名HYCAR CTBで入手可能なものなどのブタジエンポリマー、3M Co.(St.Paul,MN)からの分子量10,000の一級アミン末端化合物であるHCl101(すなわちポリテトラメチレンオキサイドジアミン)、及びHuntsman Chemical Co.(Houston,TX)からの商標名JEFFAMINEで入手可能なものなどのアミン官能性ポリエーテルが挙げられる。有用な液体ポリ−ブタジエンヒドロキシル末端樹脂としては、Petroflex(Wilmington,DE)からLIQUIFLEXの商標名で、及びSartomer(Exton,PN)からHT45の商標名で入手可能なものが挙げられる。
【0069】
強化剤は、エポキシ末端化合物を含んでもよく、これは、ポリマー骨格に組み込まれ得る。典型的な、好ましい強化剤の一覧には、アクリルコア/シェルポリマー、スチレン−ブタジエン/メタクリレートコア/シェルポリマー、ポリエーテルポリマー、カルボキシル化アクリロニトリル/ブタジエン、及びカルボキシル化ブタジエンが挙げられる。エポキシ樹脂を持つ化合物内の鎖延長剤の提供から、上述した強靭化剤が無くとも、利点を得ることができる。しかし、特定の利点は、前に示唆したように、強靭化剤の存在又は異なる薬剤の組み合わせから得られる。
【0070】
所望の場合、強靭化剤の様々な組み合わせを用い得る。使用する場合、強靭化剤は少なくとも3重量%、又は少なくとも5重量%の量で樹脂ブレンド中に存在する。使用する場合、強靭化剤は35重量%以下、又は25重量%以下の量で樹脂ブレンド中に存在する。
【0071】
その他の任意による添加剤又は補助剤は、所望のように、組成物に添加されてもよい。このようなその他の任意による添加剤の例としては、着色剤、酸化防止安定剤、熱分解安定剤、光安定剤、流動化剤、増粘剤、艶消し剤、不活性充填剤、結合剤、発泡剤、殺真菌剤、殺菌剤、界面活性剤、可塑化剤、ゴム強化剤、及び当業者に既知のその他の添加剤が挙げられる。このような添加剤は、典型的には、実質的に非反応性である。存在する場合、これらの補助剤は、又はその他の任意による添加剤は、それらの意図された目的に有効な量で加えられる。
【0072】
好適な充填材料の例としては、強化等級カーボンブラック、フルオロプラスチック、粘土、及びこれらのいずれかの任意の割合での任意の組み合わせが挙げられる。
【0073】
本明細書で使用する場合、語句「強化等級カーボンブラック」は、約10ミクロン未満の平均粒径を有する任意のカーボンブラックを含む。強化等級カーボンブラックに関するいくつかの特に好適な平均粒径は、約9nm〜約40nmの範囲である。強化等級ではないカーボンブラックとしては、平均粒径が約40nmより大きいカーボンブラックが挙げられる。カーボンナノチューブもまた、有用な充填剤である。カーボンブラック充填剤は、典型的には、組成物の伸長、硬度、磨耗耐性、伝導度、及び加工性のバランスをとるため、用いられる。好適な例としては、MTブラックス(メディアム・サーマル・ブラック)(名称:N−991、N−990、N−908、及びN−907)、FEF N−550、並びに大粒径ファーネスブラックが挙げられる。
【0074】
その他の有用な充填剤としては、ケイソウ土、硫酸バリウム、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、及びフッ化カルシウムが挙げられる。任意的な構成成分の選択及び量は、特定の用途の必要性に依存する。
【0075】
モノマー、組成物、重合生成物、方法、2成分システム、及び樹脂ブレンドを含む様々な実施形態が提供される。
【0076】
実施形態1は、式Iのモノマーである。
【化12】
【0077】
実施形態2は、第一級アミン硬化剤と式Iのモノマーとを含む組成物である。
【0078】
実施形態3は、少なくとも1種の充填剤を更に含む、実施形態2に記載の組成物である。
【0079】
実施形態4は、第一級アミン硬化剤が、アニリン官能性残基を含む、実施形態2又は3に記載の組成物である。
【0080】
実施形態5は、第一級アミン硬化剤が、4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジオキシ)ジアニリン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェニル−1,1’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−スルホニルジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2−メチルアニリン)、3,3’−メチレンジアニリン、3,4’−メチレンジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−(イソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(p−フェニレンオキシ)ジアニリン、及び4,4’−ジアミノベンゾフェノン、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態2〜4のいずれか1つに記載の組成物である。
【0081】
実施形態6は、第一級アミン硬化剤が、重合物の0〜40重量%の量で存在する、実施形態2〜5のいずれか1つに記載の組成物である。
【0082】
実施形態7は、式Iのモノマーの重合物である。
【0083】
実施形態8は、実施形態2〜6のいずれか1つに記載の組成物の重合物である。
【0084】
実施形態9は、200〜250℃のガラス転移温度を示す、実施形態8に記載の重合物である。
【0085】
実施形態10は、式IIのモノマーである。
【化13】
【0086】
実施形態11は、第一級アミン硬化剤と式IIのモノマーとを含む組成物である。
【0087】
実施形態12は、少なくとも1種の充填剤を更に含む、実施形態11に記載の組成物である。
【0088】
実施形態13は、第一級アミン硬化剤が、アニリン官能性残基を含む、実施形態11又は12に記載の組成物である。
【0089】
実施形態14は、第一級アミン硬化剤が、4,4’−(1,3−フェニレンジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジオキシ)ジアニリン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェニル−1,1’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(1,1’−ビフェニル−4,4’−ジイルジオキシ)ジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−スルホニルジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2−メチルアニリン)、3,3’−メチレンジアニリン、3,4’−メチレンジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−(イソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(p−フェニレンオキシ)ジアニリン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態11〜13のいずれか1つに記載の組成物である。
【0090】
実施形態15は、第一級アミン硬化剤が、重合物の0〜40重量%の量で存在する、実施形態11〜14のいずれか1つに記載の組成物である。
【0091】
実施形態16は、式IIのモノマーの重合物である。
【0092】
実施形態17は、実施形態11〜16のいずれか1つに記載の組成物の重合物である。
【0093】
実施形態18は、250〜300℃のガラス転移温度を示す、実施形態17に記載の重合物である。
【0094】
実施形態19は、重合されたネットワークの製造方法である。方法は、式I又は式IIのモノマーを得ることと、当該モノマーを、硬化剤、触媒、又はこれらの組み合わせとブレンドして、モノマーブレンドを形成することと、当該モノマーブレンドを300℃以下の温度で処理して、完全に重合されたネットワークを形成することと、を含む。任意で行われる重合されたネットワークの後硬化は、重合されたネットワークを300℃以下の温度で処理される。
【0095】
実施形態20は、モノマーが式Iのものであり、モノマーブレンドが250℃以下の温度で処理される、実施形態19に記載の方法である。
【0096】
実施形態21は、モノマーが式IIのものである、実施形態19に記載の方法である。
【0097】
実施形態22は、モノマーブレンドが、大気中で300℃以下の温度で処理される、実施形態19〜21のいずれか1つに記載の方法である。
【0098】
実施形態23は、モノマーブレンドが、大気圧で300℃以下の温度で処理される、実施形態19〜22のいずれか1つに記載の方法である。
【0099】
実施形態24は、式I又は式IIのモノマーを含む第1成分と、硬化剤を含む第2成分とを含む、2成分システムである。
【0100】
実施形態25は、第1成分、第2成分、又はその両方が、更に少なくとも1種の添加剤を含む、実施形態24の2成分システムである。
【0101】
実施形態26は、少なくとも1種の添加剤が、強化剤、充填剤、又はこれらの組み合わせから独立して選択される、実施形態25に記載の2成分システムである。
【0102】
実施形態27は、式I、式II、及び式IIIのモノマーから選択される少なくとも2種のモノマーのブレンドを含む、樹脂ブレンドである。
【化14】
【化15】
【化16】
【0103】
実施形態28は、式Iのモノマーと式IIのモノマーとのブレンドを含む、実施形態27の樹脂ブレンドである。
【0104】
実施形態29は、式Iのモノマーの式IIのモノマーに対する重量比が、10:90〜90:10の範囲(両端の値を含む)である、実施形態28に記載の樹脂ブレンドである。
【0105】
実施形態30は、式Iのモノマーと式IIIのモノマーとのブレンドを含む、実施形態27に記載の樹脂ブレンドである。
【0106】
実施形態31は、式Iのモノマーの式IIIのモノマーに対する重量比が、10:90〜90:10の範囲(両端の値を含む)である、実施形態30に記載の樹脂ブレンドである。
【0107】
実施形態32は、式IIのモノマーと式IIIのモノマーとのブレンドを含む、実施形態27に記載の樹脂ブレンドである。
【0108】
実施形態33は、式IIのモノマーの式IIIのモノマーに対する重量比が、10:90〜90:10の範囲(両端の値を含む)である、実施形態32に記載の樹脂ブレンドである。
【0109】
実施形態34は、式I、式II、及び式IIIのモノマーのブレンドを含む、実施形態27の樹脂ブレンドである。
【0110】
実施形態35は、少なくとも1種の添加剤を更に含む、実施形態27〜34のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0111】
実施形態36は、少なくとも1種の添加剤が、触媒、硬化剤、強化剤、充填剤、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態35に記載の樹脂ブレンドである。
【0112】
実施形態37は、硬化剤が、第一級アミンを含む、実施形態36に記載の樹脂ブレンドである。
【0113】
実施形態38は、硬化剤が、アニリン官能性残基を含む、実施形態36又は37に記載の樹脂ブレンドである。
【0114】
実施形態39は、硬化剤が、樹脂ブレンドの0〜40重量%の量で存在する、実施形態36〜38のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0115】
実施形態40は、少なくとも1種の添加剤が、強化剤を含む、実施形態36〜39のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【0116】
実施形態41は、少なくとも1種の添加剤が、充填剤を含む、実施形態36〜40のいずれか1つに記載の樹脂ブレンドである。
【実施例】
【0117】
以下の実施例によって、本発明の目的及び利点を更に例示するが、これらの実施例で列挙される特定の材料及びその量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不当に限定するものと解釈されるべきではない。これらの実施例は説明目的のためのものにすぎず、添付の「特許請求の範囲」の範囲を限定することを意図するものではない。別途注記のない限り、実施例において使用される全ての化学物質はSigma−Aldrich Corp.(Saint Louis,MO)から得ることができる。
【表1】
【0118】
方法:
示差走査熱量計(DSC)による硬化反応発熱量の測定方法
TA Instruments QシリーズDSC(TA Instruments(New Castle,DE)から入手)を使用して、一定の昇温速度適用下における材料の動的熱流を測定した。約5mgの樹脂を、アルミニウムDSCパン内に量り取った。試料パンをDSC装置内に入れ、試料の熱流を、10℃毎分(℃/分)の昇温速度にて、動的DSC測定で測定した。
【0119】
動的機械分析器(DMA)による動的弾性率及びガラス−ゴム転移温度の測定方法
TA Instruments QシリーズDMA(TA Instruments(New Castle,DE)から入手)を使用して、低ひずみ線形粘弾性を測定した。動的機械測定は、単一片持ち梁形状(single cantilever beam geometry)を使用して実施した。1Hzの周波数で20μmの制御された変形振幅にて、連続振動力を適用したときの、低ひずみ同相及び位相外れの変形応答を測定し、測定中に昇温して、得られる貯蔵弾性率及び損失弾性率、並びに損失正接を計算した。温度は、ガラス−ゴム転移温度範囲にわたって、3℃/分で昇温させた。ガラス転移温度は、貯蔵弾性(E’)開始温度、損失弾性率(E”)ピーク温度、及び損失正接(tanδ)ピーク温度によって特徴付けられる。
【0120】
熱重量分析(TGA)による重量損失の測定方法
TA Instruments QシリーズTGA(TA Instruments(New Castle,DE)から入手)を使用して、一定の昇温速度適用下における材料の動的重量損失を測定した。約5mgの試料を白金パンにのせ、TGA内に入れた。試料の質量損失を、大気雰囲気下及び窒素雰囲気下にて、10℃/分の昇温速度で測定した。
【0121】
複素剪断粘度の測定方法
平行板形状の応力制御レオメータTA instruments Discovery Series HR−2(TA Instruments(New Castle,DE)から入手)を使用して、複素剪断粘度を測定した。ツーリングは、上部の40mmのトッププレートと下部の温度制御ペルチェプレートを利用した。上部プレートと下部プレートとの間の間隙は0.5mmであった。粘度は、1%ひずみ振動を1Hzの周波数で6秒間(3秒間のコンディショニング工程と3秒間の測定工程に分けられる)適用することによって測定した。
【0122】
フーリエ変換赤外(FTIR)吸光度分光の測定方法
Thermo Scientific Nicolet 6700 FTIR分光計にSmart iTRアクセサリを使用して(Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から入手)、減衰全反射(ATR)によって赤外吸光度を測定した。製品を画定する強いスペクトル吸光度の特徴がcm
−1単位で報告される。
【0123】
核磁気共鳴(NMR)分光の測定方法
Bruker Ultrashield 500 plus NMR分光計(Bruker BioSpin Corporation(Billerica,MA)から入手)を使用して、プロトン及び炭素の化学シフトを測定した。プロトン及び炭素の化学シフトは、TMSを基準にして列挙される。プロトン共鳴周波数の吸収の積分により、観察されたプロトンの数を画定した。プロトン及び炭素の化学シフト及びプロトンピークの積分を使用して、材料生成物を同定した。
【0124】
実施例1
BMPNモノマーの調製及びその特性決定
ビスフェノールMジフタロニトリル(すなわち、ビスフェノールMのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル)は、4−ニトロフタロニトリル及びビスフェノールM(すなわち、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール)の求核置換反応から誘導した。500mL三つ口反応フラスコに、18g(0.104mol)の4−ニトロフタロニトリル、18.02g(0.052mol)のビスフェノールM、28.74g(0.208mol)の無水K
2CO
3及び180gの乾燥DMSOを添加し、室温にて窒素雰囲気下で48時間撹拌した。反応溶液を600mLの撹拌脱イオン水中に注ぎ、未溶解塩を反応フラスコ内に残した。沈殿生成物を吸引濾過によってブフナー漏斗で回収した。沈殿物を200mLのメタノールに添加し、30分間撹拌して不純物を除去した。固体生成物を、吸引濾過によってブフナー漏斗で2回目の回収をし、200mLのメタノールで洗浄した。生成物を回収し、120℃の対流式オーブン内で乾燥させた。生成物は、28.42g(91.3%)で、示差走査熱量測定法で測定したときに160℃の融解温度を有し、赤外及びNMR分析で、所望の化合物であると同定した。
【0125】
BMPNを、樹脂融解温度よりも低い135℃の温度で樹脂粘度をモニターすることにより、過冷却液体として存在できるか試験した。粘度は、「複素剪断粘度の測定方法」に従って、0.5mmの間隔の平行板形状を用い、1%ひずみ振動を1Hzの周波数で6秒間適用することによって周期的に測定した。測定間の静止時間を変えて、周期的な測定サイクルが冷結晶化(すなわち、樹脂融解温度未満での樹脂の結晶化)に与える影響を調べた。結果を下の表1に示す。10分毎に6秒間の測定時間で粘度をサンプリングした場合、BMPNは、結晶化の徴候を示すことなく、3日間を超えて過冷却液体状態を維持した。サンプリング時間を30分及び60分に変えた場合、BMPNは、それぞれ7.5時間及び4時間後に、樹脂粘度の増加によって冷結晶化の痕跡を示した。微小結晶が形成されたが、試料の大部分は、粘度上昇後数時間は液体の状態であり、測定終了時に微結晶形成を示唆した。
【0126】
BMPNの特性決定データ:DSC T
m=160℃、FTIR(ATR;cm
−1):2231(−CN),1247(C−O−C)、
1H NMR(500MHz,CDCl
3,0.05%v/v TMS含有;δ,ppm):7.72(d,J=8.60Hz,2H),7.28(d,J=8.75Hz,4H),7.24(d,J=2.46Hz,2H),7.23(t,J=2.55,1H),7.22(d,J=2.38Hz,2H),7.11(s,2H),7.09(d,J=1.73,1H),6.95(d,J=8.74,4H),1.68(s,12H)、
13C NMR(500MHz,CDCl
3,0.05%v/v TMS含有;δ,ppm):161.93,151.12,149.70,149.08,135.38,128.99,127.90,125.23,124.33,121.44,121.12,120.00,117.51,115.44,115.04,108.57,42.93,30.83。
【表2】
【0127】
実施例2
BPPNモノマーの調製及びその特性決定
ビスフェノールPジフタロニトリル(すなわち、ビスフェノールPのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル)は、4−ニトロフタロニトリル及びビスフェノールP(すなわち、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール)の求核置換反応から誘導した。250mL三つ口反応フラスコに、9.1g(0.052mol)の4−ニトロフタロニトリル、9.11g(0.026mol)のビスフェノールM、14.53g(0.105mol)の無水K
2CO
3及び90gの乾燥DMSOを添加し、室温にて窒素雰囲気下で48時間撹拌した。反応溶液を300mLの撹拌脱イオン水中に注ぎ、未溶解塩を反応フラスコ内に残した。沈殿生成物を吸引濾過によってブフナー漏斗で回収した。沈殿物を100mLのメタノールに添加し、30分間撹拌して不純物を除去した。固体生成物を、吸引濾過によってブフナー漏斗で2回目の回収をし、100mLのメタノールで洗浄した。生成物を回収し、120℃の対流式オーブン内で乾燥させた。生成物は、13.2g(83.9%)で、示差走査熱量測定法で測定したときに210℃の融解温度を有した。生成物は、赤外及びNMR分析によって所望の化合物と同定された。
【0128】
BPPNの特性決定データ:DSC T
m=213℃、FTIR(ATR;cm
−1):2229(−CN),1249(C−O−C)、
1H NMR(500MHz,CDCl
3,0.05% v/v TMS含有;δ,ppm):7.72(d,J=9.38Hz,2H),7.33(d,J=8.78Hz,4H),7.26(d,J=3.38Hz,4H),7.17(s,4H),6.97(d,J=8.77Hz,4H),1.71(s,12H)、
13C NMR(500MHz,CDCl
3,0.05% v/v TMS含有;δ,ppm):161.90,151.20,149.00,147.40,135.35,129.04,126.43,121.52,121.21,120.01,117.53,115.43,115.06,108.62,42.44,30.86。
【0129】
比較例1
RPNモノマーの調製及びその特性決定
レゾルシノールジフタロニトリル(すなわち、レゾルシノールのビス(3,4−ジシアノフェニル)エーテル)を、4−ニトロフタロニトリル及びレゾルシノールの求核置換反応から誘導した。500mL三つ口反応フラスコに、18g(0.104mol)の4−ニトロフタロニトリル、5.72g(0.52mol)のレゾルシノール、28.74g(0.208mol)の無水K
2CO
3及び180gの乾燥DMSOを添加し、室温にて窒素雰囲気下で48時間撹拌した。反応溶液を600mLの撹拌脱イオン水中に注ぎ、未溶解塩を反応フラスコ内に残した。沈殿生成物を吸引濾過によってブフナー漏斗で回収した。沈殿物を200mLのメタノールに添加し、30分間撹拌して不純物を除去した。固体生成物を、吸引濾過によってブフナー漏斗で2回目の回収をし、200mLのメタノールで洗浄した。生成物を回収し、120℃の対流式オーブン内で乾燥させた。生成物は、17g(90.3%)で、185℃の融解温度を有した。生成物は、赤外及びNMR分析によって所望の化合物と同定された。
【0130】
RPNの特性決定データ:DSC T
m=185℃、FTIR(ATR;cm
−1):2231(−CN),1244(C−O−C)、
1H NMR(500MHz,CDCl
3,0.05% v/v TMS含有;δ,ppm):7.79(d,J=8.68Hz,2H),7.57(t,J=8.24Hz,1H),7.37(d,J=2.52Hz,2H),7.33(q,J
ab=8.68Hz,J
bc=2.54,2H),7.03(q,J
ab=8.25Hz,J
bc=2.30,2H),6.86(t,J=2.27Hz,1H)、
13C NMR(500MHz,CDCl
3,0.05% v/v TMS含有;δ,ppm):160.68,155.46,135.66,132.35,122.05,122.01,117.86,117.71,115.15,114.78,112.88,109.83。
【0131】
実施例3
実施例1のフタロニトリルモノマーの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤での重合
8.0gのBMPNを、直径70mmの平底薄板アルミニウムパン内で190℃の温度で溶融ブレンドした。この樹脂ブレンドに、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを、4pph(質量部)添加し、190℃で樹脂に混ぜ込んだ。樹脂を空気循環オーブンに入れて、200℃で15時間及び250℃で5時間硬化し、設定点の間は3℃/分で昇温した。樹脂は、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。固体試料を5℃/分で40℃まで冷却し、アルミニウムパンから取り出した。単一片持ち梁形状における剛性(E’)及びガラス転移温度(tanδピーク)をDMA測定するために、試料をストリップへと切断した。DMA試料を、350℃まで3℃/分で加熱昇温した。試料に、不活性窒素雰囲気下、300℃で5時間及び350℃で2時間の更なる後硬化を行い、2回目のDMA測定を350℃まで実施し、残留硬化による試料の機械的応答の変化をモニターした。機械的応答には変化は見られなかった。耐熱劣化性は、5mgの試料2点を、大気及び窒素下で10℃/分の昇温速度で熱重量分析することにより評価した。
【0132】
実施例4
実施例2のフタロニトリルモノマーの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤での重合
8.0gのBPPNを、直径70mmの平底薄板アルミニウムパン内で230℃の温度で溶融ブレンドした。この樹脂ブレンドに、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを、4pph(質量部)添加し、230℃で樹脂に混ぜ込んだ。樹脂を空気循環オーブンに入れて、230℃で2時間及び300℃で5時間硬化し、設定点の間は3℃/分で昇温した。樹脂は、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。固体試料を5℃/分で40℃まで冷却し、アルミニウムパンから取り出した。単一片持ち梁形状における剛性(E’)及びガラス転移温度(tanδピーク)をDMA測定するために、試料をストリップへと切断した。DMA試料を、350℃まで3℃/分で加熱昇温した。試料に、不活性窒素雰囲気下、375℃で1時間の更なる後硬化を行い、2回目のDMA測定を350℃まで実施し、残留硬化による試料の機械的応答の変化をモニターした。機械的応答には変化は見られなかった。耐熱劣化性は、5mgの試料2点を、大気及び窒素下で10℃/分の昇温速度で熱重量分析することにより評価した。
【0133】
比較例2
比較例1のフタロニトリルモノマーの4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリン硬化剤での重合
8.0gのRPNを、直径70mmの平底薄板アルミニウムパン内で190℃の温度で溶融ブレンドした。この樹脂ブレンドに、4,4’−(1,3−フェニレンオキシ)アニリンを、4pph(質量部)添加し、190℃で樹脂に混ぜ込んだ。樹脂を空気循環オーブンに入れて、230℃で2時間及び300℃で5時間硬化し、設定点の間は3℃/分で昇温した。樹脂は、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。固体試料を5℃/分で40℃まで冷却し、アルミニウムパンから取り出した。試料に、窒素気流下、管炉内で、350℃で1時間、375℃で1時間、400℃で30分間、及び450℃の更なる後硬化を行い(設定点間は3℃/分で昇温した)、その後5℃/分で40℃まで冷却した。単一片持ち梁形状における剛性(E’)及びガラス転移温度(tanδピーク)をDMA測定するために、試料をストリップへと切断した。DMA試料に、3℃/分で450℃までの加熱昇温を2回実施し、より高い温度での残留硬化をモニターした。耐熱劣化性は、5mgの試料2点を、大気及び窒素下で10℃/分の昇温速度で熱重量分析することにより評価した。
【表3】
【0134】
実施例5
実施例1のフタロニトリルモノマーの4,4’−メチレンジアニリン硬化剤での重合
8.0gのBMPNを、直径70mmの平底薄板アルミニウムパン内で190℃の温度で溶融ブレンドした。この樹脂ブレンドに、4,4’−メチレンジアニリンを、2.8pph(質量部)添加し、190℃で樹脂に混ぜ込んだ。樹脂を空気循環オーブンに入れて、200℃で15時間、250℃で5時間及び285℃で12時間硬化し、設定点の間は3℃/分で昇温した。樹脂は、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。固体試料を5℃/分で40℃まで冷却し、アルミニウムパンから取り出した。単一片持ち梁形状における剛性(E’)及びガラス転移温度(tanδピーク)をDMA測定するために、試料をストリップへと切断した。DMA試料を、3℃/分で350℃まで加熱昇温し、その後3℃/分で0℃まで冷却し、3℃/分で350℃までの2回目の昇温を行い、残留硬化の痕跡として、1回目と2回目の昇温間における試料の機械的応答の変化をモニターした。機械的応答には変化は見られなかった。耐熱劣化性は、5mgの試料2点を、大気及び窒素下で10℃/分の昇温速度で熱重量分析することにより評価した。
【0135】
実施例6
実施例1のフタロニトリルモノマーの4,4’−スルホニルジアニリン硬化剤での重合
8.0gのBMPNを、直径70mmの平底薄板アルミニウムパン内で190℃の温度で溶融ブレンドした。この樹脂ブレンドに、4,4’−スルホニルジアニリンを、3.4pph(質量部)添加し、190℃で樹脂に混ぜ込んだ。樹脂を空気循環オーブンに入れて、200℃で15時間、250℃で5時間及び285℃で12時間硬化し、設定点の間は3℃/分で昇温した。樹脂は、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。固体試料を5℃/分で40℃まで冷却し、アルミニウムパンから取り出した。単一片持ち梁形状における剛性(E’)及びガラス転移温度(tanδピーク)をDMA測定するために、試料をストリップへと切断した。DMA試料を、3℃/分で350℃まで加熱昇温し、その後3℃/分で0℃まで冷却し、3℃/分で350℃までの2回目の昇温を行い、残留硬化の痕跡として、1回目と2回目の昇温の間の試料の機械的応答の変化をモニターした。機械的応答には変化は見られなかった。耐熱劣化性は、5mgの試料2点を、大気及び窒素下で10℃/分の昇温速度で熱重量分析することにより評価した。
【0136】
実施例7
実施例1のフタロニトリルモノマーの4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェニル−1,1’−ジイルジオキシ)ジアニリン硬化剤での重合
8.0gのBMPNを、直径70mmの平底薄板アルミニウムパン内で190℃の温度で溶融ブレンドした。この樹脂ブレンドに、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェニル−1,1’−ジイルジオキシ)ジアニリンを5.5pph(質量部)添加し、190℃で樹脂に混ぜ込んだ。樹脂を空気循環オーブンに入れて、200℃で15時間及び250℃で5時間硬化し、設定点の間は3℃/分で昇温した。樹脂は、熱硬化性のネットワーク重合を起こして、硬質の剛性固体になった。固体試料を5℃/分で40℃まで冷却し、アルミニウムパンから取り出した。単一片持ち梁形状における剛性(E’)及びガラス転移温度(tanδピーク)をDMA測定するために、試料をストリップへと切断した。DMA試料を、350℃まで3℃/分で加熱昇温した。試料に、不活性窒素雰囲気下、300℃で5時間及び350℃で2時間の更なる後硬化を行い、2回目のDMA測定を350℃まで実施し、残留硬化による試料の機械的応答の変化をモニターした。機械的応答には変化は見られなかった。耐熱劣化性は、5mgの試料2点を、大気及び窒素下で10℃/分の昇温速度で熱重量分析することにより評価した。
【表4】
【0137】
本明細書では特定の例示的な実施形態について詳細に説明してきたが、当業者には上述の説明を理解した上で、これらの実施形態の修正形態、変形形態、及び均等物を容易に想起できることが、諒解されるであろう。更には、本明細書で参照される全ての刊行物及び特許は、個々の刊行物又は特許を参照により組み込むことが詳細かつ個別に指示されている場合と同じ程度に、それらの全容が参照により組み込まれる。様々な例示的な実施形態について説明してきた。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。