特許第6559473号(P6559473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIエアロスペースの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559473
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】炭化珪素系複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/573 20060101AFI20190805BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20190805BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   C04B35/573
   C04B35/80 600
   D01F9/22
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-117493(P2015-117493)
(22)【出願日】2015年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-1912(P2017-1912A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】山内 宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】宇田 道正
(72)【発明者】
【氏名】添田 晴彦
【審査官】 谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−292647(JP,A)
【文献】 特開2005−239478(JP,A)
【文献】 特開平11−292646(JP,A)
【文献】 特開2013−014445(JP,A)
【文献】 特開平04−182355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維から成るプリフォームを用いて炭化珪素系複合体を製造するに当たり、
上記プリフォームとして、黒鉛化した炭素繊維から成る黒鉛化炭素プリフォームを形成し、
上記黒鉛化炭素プリフォームに、ポリボロオルガノシラザンを含浸、乾燥及び焼成する界面形成処理を施してプレ複合体を得、
次いで、上記プレ複合体に、珪素と炭素を含む液体化合物としてポリカルボシランを含浸させて加熱するマトリックス形成処理を施す、ことを特徴とする炭化珪素系複合体の製造方法。
【請求項2】
上記炭素繊維の黒鉛化を、不活性ガス中2000〜2400℃の焼成によって行うことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素系複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素系複合体の製造方法に係り、更に詳細には、優れた曲げ強度を有する炭化珪素系複合体が得られる炭化珪素系複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素/炭化珪素複合体(C/SiC複合体)などの炭化珪素系複合体は、所望形状を有する炭素繊維製のプリフォームを作成し、その後、このプリフォームに、PIP法(ポリマー含浸焼成法:Polymer Infiltration Pyrolysis)や、MI法(溶融含浸法:Melt Infiltration)によって炭化珪素を生成・含浸させてプリフォームを高密度化することにより、製造されていた。
【0003】
かかるPIP法はとしては、セラミックス前駆体ポリマーであるポリカルボシランを溶融含浸及び熱分解してSiC膜を形成する方法が知られており(例えば、非特許文献1参照。)、プリフォームの大きな繊維の空隙を埋めることが可能である。
【0004】
また、MI法としては、カーボンを予めプリフォームの繊維束内に析出させ、その後、溶融シリコンを含浸し、反応焼結させてSiC膜を形成する方法が知られており(例えば、特許文献1参照。)、Si膜を短時間で形成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−173377号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ke Jian etc.「Processing and Properties of 2D C/Si composite incorporating SiC fillers」 Material Science Engineerig 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来の炭化珪素系複合体の製造方法において、PIP法では、焼成時にポリマーの収縮が生じるため、割れや気孔が発生し易く、得られる炭化珪素系複合体の曲げ強度が十分には向上しないという問題があった。
【0008】
一方、MI法では、炭素(C)と金属シリコン(Si)との反応により炭化珪素(SiC)を生成させるが、Siが残存して化学量論組成を実現しにくく、残存Siと炭素繊維が反応して劣化し易く、十分な強度を有する炭化珪素系複合体が得にくいという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた曲げ強度を有する炭化珪素系複合体が得られる炭化珪素系複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、所定のプリフォームに黒鉛化した炭素繊維を用いることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の炭化珪素系複合体の製造方法は、炭素繊維から成るプリフォームを用いて炭化珪素系複合体を製造するに当たり、
上記プリフォームとして、黒鉛化した炭素繊維から成る黒鉛化炭素プリフォームを形成し、
上記黒鉛化炭素プリフォームに、ポリボロオルガノシラザンを含浸、乾燥及び焼成する界面形成処理を施してプレ複合体を得、
次いで、上記プレ複合体に、珪素と炭素を含む液体化合物としてポリカルボシランを含浸させて加熱するマトリックス形成処理を施す、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の炭化珪素系複合体の製造方法の好適形態は、上記炭素繊維の黒鉛化を、不活性ガス中2000〜2400℃の焼成によって行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定のプリフォームに黒鉛化した炭素繊維を用いることとしたため、優れた曲げ強度を有する炭化珪素系複合体が得られる炭化珪素系複合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の炭化珪素系複合体の製造方法について説明する。
この製造方法は、上述の炭化珪素系複合体を製造する方法であって、以下の(a)〜(c)工程を有する。
(a)炭素繊維から成るプリフォームとして、黒鉛化した炭素繊維から成る黒鉛化炭素プリフォームを作製する工程、即ち目的とする炭化珪素系複合体の骨格を形成する工程
(b)上記繊維質プリフォームに、珪素、炭素、ホウ素及び窒素のうちの少なくとも2種の元素を含む化合物、具体的にはポリボロオルガノシラザンを含浸し、乾燥及び焼成する界面形成処理を施してプレ複合体を得る工程、即ち目的とする炭化珪素系複合体に界面層を形成する工程
(c)上記プレ複合体に、珪素と炭素を含む液体化合物としてポリカルボシランを含浸させて加熱するマトリックス形成処理を施す工程、即ち目的とする炭化珪素系複合体にマトリックス層を形成し、炭化珪素系複合体を完成する工程
【0017】
ここで、(a)工程は、所望形状を有するプリフォームを形成する工程であるが、所望形状を有する炭素繊維製プリフォームの形成は、ブレード織法、フィラメントワインディング法及び2D積層法など従来公知の方法に従って行うことができる。
また、炭素繊維の黒鉛化は、所望形状を有する炭素繊維製プリフォームをアルゴンなどの不活性ガス中2000〜2400℃で焼成することによって行うことができ、これにより、所望形状を有する黒鉛化炭素プリフォームを得ることができる。
【0018】
また、(b)工程は、界面層形成工程であり、上記黒鉛化炭素プリフォームの表面及び空隙に界面層を生成し、プリフォームに新たな界面を形成したプレ複合体を得る工程である。
この(b)工程により得られるプレ複合体では、破断歪みが増大しているので応力が加わった場合でも応力を逃がし易くなる。
【0019】
なお、上記の珪素、炭素、ホウ素及び窒素のうちの少なくとも2種の元素を含む化合物としては、ポリボロオルガノシラザン、ペルヒドロポリシラザン(PHPS)、ポリフェニルボロキサン、ポリボロシロキサン又はポリカルボシラン(PCS−UUH)及びこれらの混合液を例示できるが、本発明では、ポリボロオルガノシラザンを用いる。
これらの化合物は上記の黒鉛化炭素繊維骨格に界面層を形成し、この点からは、ポリボロオルガノシラザン等は界面層前駆体といい得る。
【0020】
ポリボロオルガノシラザン等の界面層前駆体の被覆は、ディッピングなど常法に従って行うことができる。
乾燥は150〜200℃、焼成は800〜1000℃で行うことができる。
また、これらの含浸、乾燥及び焼成は、いわゆるPIP法に従って行ってもよい。
【0021】
上記界面層前駆体のうち、ポリボロオルガノシラザンは、以下の反応式で合成されるものである。SiNBC系ポリマーと表記することがあり、Si/B=1/2の混合比のものを「SiNBC−1/2」と略記することがある。
【0022】
【化1】
【0023】
また、ペルヒドロポリシラザン(Perhydoropolysilazane:PHPS)は、ジクロロシランから合成されるポリシラザンであり、以下の反応式で合成される。AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社から商品名「アクアミカ」で市販されている。
【0024】
【化2】
【0025】
ポリフェニルボロキサンは、フェニルホウ酸を出発物質として、以下の反応式により合成されるものである。
【0026】
【化3】
【0027】
ポリボロシロキサンは、ホウ酸アルコキシド(トリエトキシボロン)の加水分解縮合により、以下の反応式に従って合成されるものである。
【0028】
【化4】
【0029】
ポリカルボシランは、不溶性のポリカルボシラン(PCS)であり、溶融することなくSiC系セラミックスに転換する。これをPCS−UUHと称する。
日本カーボン製PCS−UHを原料として、ヘキサン−アセトン混合溶液から沈殿物として回収・分別できる。
【0030】
次に、(c)工程は、プレ複合体にマトリックス層を形成して炭化珪素複合体を完成する工程である。
本工程は、繰り返すことにより複数回行うことができ、例えば、6〜12回程度行うことが好ましい。
本工程により、プレ複合体が緻密・高密度化し、機械的強度や形状維持性に優れた炭化珪素系複合体、即ちC/SiCコンポジットが得られる。
【0031】
本工程は、プレ複合体に珪素と炭素を含む液体化合物、例えば液体ポリシラン(LPS)若しくは液体ポリカルボシラン(LPCS)又はこれらの混合液を含浸させて加熱することにより、行うことができる。
ここで、上記の液体化合物は、マトリックス層前駆体として機能するが、トルエンやキシレンなどの希釈溶媒で希釈して使用することができる。
上記の加熱は、通常、乾燥と焼成で行うことができ、乾燥は80〜120℃程度、焼成は窒素ガス(N)雰囲気下800〜1000℃程度で行うことができる。なお、乾燥及び焼成は窒素ガス(N)雰囲気下に室温から昇温し1000℃程度に加熱することによって行ってもよい。
【0032】
なお、この(c)工程は、プレ複合体を上記の液体化合物中1000〜1500℃で加熱することによっても行うことができる。
この場合、LPS等中での加熱時間は6〜20時間とする。
6時間未満では、十分なマトリックス層(SiC層)を形成できず、20時間を超えると、過度に余剰のSiCが生成する傾向がある。
【0033】
この手法によれば、希釈溶媒としてのキシレンにPCS溶液を溶解した後に乾燥し、150℃で乾燥処理し、1000〜1500℃で焼成処理し、所要時間が600時間程度である通常のPCS含浸の6回分以上の緻密化・高密度化を行うことができ、炭化珪素系複合体の製造効率を著しく向上することができる。
【0034】
以上に説明した本発明の製造方法においては、所要に応じて、(c)工程の後にHTT(Heat Treatment Temperature)処理を行うことができる。
かかるHTT処理は、(c)工程で得られた炭化珪素系複合体を不活性ガス中1000〜1500℃で加熱処理するものであるが、これにより、炭化珪素系複合体を熟成させて品質の均一化を図ることができ、優れた曲げ強度等を有する炭化珪素系複合体を多数得ることが可能になる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
炭素繊維織物として東レ(株)製T300炭素繊維織物(商品名CO6343)を用いた。この織物は、使用炭素繊維がT300−3Kで、織構成が平織、線密度が縦12.5本/25mmで、目付が198g/cmである。
また、界面層前駆体としてはポリボロオルガノシラザン(原子数比Si/B=1/2の「SiNBC−1/2」)を用いた。
さらに、マトリックス層前駆体としてはポリカルボシラン(PCS)を用いた。
【0037】
上記の材料を用い、以下の処理を行った。
[黒鉛化処理]
上記の炭素繊維織物を、小型黒鉛化炉を用いてアルゴンガス中2400℃で焼成した。
【0038】
[界面層形成処理]
上記で得られた黒鉛化炭素繊維織物を45×50cmの大きさに切断し、この織物ピースに、グローブボックス中でSiNBC−1/2の20%トルエン溶液を含浸させた。さらに、得られた含浸済み織物ピースを12枚積層して金型にセットし、加圧成形を行った。
次いで、得られた織物成形体を100℃で乾燥して余剰のトルエンを蒸発させ、窒素ガス雰囲気下200℃/hrの昇温速度で1000℃まで加熱して焼成を行い、本例の炭化珪素系複合体のプレ複合体を得た。
【0039】
[マトリックス層形成処理]
NGS(アドバンスドファイバー)社製のPCS−UHを出発物質として高分子側に重合を進めたUUHをキシレンに40%の割合で溶解させた溶液を調整した。
次に、このキシレン溶液を上記で得られたプレ複合体にデシケータ内で真空含浸した。
次いで、含浸済みプレ複合体を100℃で乾燥し、さらに、窒素ガス雰囲気下200℃/hrの昇温速度で1000℃まで加熱して焼成を行った。
以上のPCS含浸と焼成を12回繰り返し、本例の炭化珪素系複合体を得た。
【0040】
(実施例2)
界面層前駆体としてSiNBC−1/2の40%トルエン溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の炭化珪素系複合体を得た。
【0041】
(実施例3)
界面層前駆体としてSiNBC−1/1(Si/B=1/1)の40%トルエン溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の炭化珪素系複合体を得た。
【0042】
(比較例1)
黒鉛化処理及び界面層形成処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の炭化珪素系複合体を得た。
【0043】
(比較例2)
黒鉛化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の炭化珪素系複合体を得た。
【0044】
(比較例3)
界面層形成処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の炭化珪素系複合体を得た。
【0045】
<性能評価>
各例の炭化珪素系複合体から5×50×2(厚み)cmの試験片を切り出し、この試験片を3点曲げ試験に供した。試料数は5とし、これらの平均値を曲げ強度(MPa)として表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1〜3の炭化珪素系複合体は、本発明の範囲外の比較例1〜3の炭化珪素系複合体よりも優れた曲げ強度を有することが明らかである。
例えば、実施例1は、比較例1が脆性破壊を示すのに対し、引き抜け破壊の様相を示し、その曲げ強度は比較例1に比し約9倍大きい。
また、実施例2は、比較例1、2に比し約9倍の曲げ強度を示し、引き抜け破壊の様相を示した。
さらに、実施例3は、比較例1、2に比し約13倍、比較例3に比し2倍の強度を示し、引き抜け破壊の様相を示した。
【0048】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、スラスターノズルのみならず、ブレーキローター・ブレーキパッドなどに応用することができ、緻密・高密度な製品を製造効率良く得ることができる。