(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着層が、変成シリコーン樹脂とエポキシ硬化剤とを含む第I剤と、エポキシ樹脂とシラノール縮合触媒とを含む第II剤とが混合された接着剤樹脂組成物の硬化物である、請求項1に記載のセメント硬化体構造物の保護構造。
前記接着層が、変成シリコーン樹脂と、前記変成シリコーン樹脂100重量部に対し1重量部以上100重量部以下の含有量のエポキシ樹脂とを含む接着剤樹脂組成物の硬化物である、請求項1から3のいずれか1項に記載のセメント硬化体構造物の保護構造。
セメント硬化体構造物の表面、樹脂層と炭素膜とが積層された保護シートの表面の少なくともいずれかに、変成シリコーン樹脂とエポキシ樹脂とを含む接着剤樹脂組成物の層を設ける工程と、
前記セメント硬化体構造物の表面と前記保護シートの表面とを、前記接着剤樹脂組成物を介して接着する工程と、
を含む、セメント硬化体構造物の保護工法であって、
前記接着剤樹脂組成物が硬化して形成される接着層のJIS K6251に準拠した10%伸長時の応力が、0.3N/mm2以下であり、
前記接着層の層厚が、100μm以上1000μm以下である、セメント硬化体構造物の保護工法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の要素には同一の符号を付しており、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明のセメント硬化体保護構造の一例を示す模式的断面図である。
図1に示すコンクリート保護構造100は、コンクリート建造物200と、保護シート300と、それらの間に介在する接着層400とを含む。
【0017】
コンクリート建造物200は、コンクリート210と、鉄筋などの芯材220とを含む。コンクリート210は、セメントに、水、砂利、砂などを混合し、セメントの水和反応により硬化したものである。コンクリート建造物200は、新設の物であってもよいし、補修対象物であってもよい。コンクリート建造物200としては、コンクリート高架橋(特に梁、柱)、コンクリート桁橋、電架柱、ビル、住宅などが挙げられる。
【0018】
保護シート300は、樹脂層310と、樹脂層310に接するように積層された炭素膜350とを含む。保護シート300は、樹脂層310が接着層400に接する向きで設けられ、接着層400を介してコンクリート建造物200を覆う。
【0019】
樹脂層310の材質としては樹脂であればよく、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0020】
樹脂層310の膜厚は、たとえば1μm以上1000μm以下、好ましくは10μm以上500μm以下である。上記下限値以上であることは、コンクリート210の中性化を抑制する効果を得られやすい点で好ましい。上記上限値以下であることは、保護シート300のセメント硬化体構造物(コンクリート建造物200)への良好な接着施工性を得る点で好ましい。
【0021】
樹脂層310の、JIS K7197に準拠した線膨張率は、10×10
−5/K以下であることが好ましく、さらに好ましくは5×10
−5/K以下である。上記上限値以下であることにより、樹脂層310自体の割れを防止し、当該割れに追随する炭素膜350のひび割れを抑制しやすい。
【0022】
炭素膜350としては、種々の炭素膜が用いられるが、中性化抑制効果の観点、さらには酸素および/または水蒸気の透過を抑制する観点から好ましくはダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜である。DLC膜は、ダイヤモンド構造(sp3結合)とグラファイト構造(sp2結合)とを両方含む非晶質の膜である。また、水素を含んでもよいし、含まなくてもよい。ダイヤモンド構造とグラファイト構造との混在比率、および水素の含有率は特に限定されない。より具体的には、ta−C、a−C、ta−C:H、およびa−C:Hが挙げられる。
【0023】
本発明においては、炭素膜350のひび割れを効果的に抑制することができる接着層400を用いるため、たとえば、ナノインデンテーション法で測定した硬さが1GPa以上の炭素膜であっても許容される。なお、ナノインデンテーション法とは、圧子(例えばナノオーダーの針)を材料表面に押込み、荷重と変位量とから微小領域の硬さ、ヤング率等を測定する方法である。一例として次のように測定することができる。Hysitron社製Triboscopeを使用し、ベルコビッチ型圧子と呼ばれる三角錘型ダイヤモンド製圧子を試料表面に直角に当て、炭素膜表面から炭素膜の膜厚の10%の押込み量まで徐々に荷重を印加後、荷重を0にまで徐々に戻す。この時の最大荷重Pを圧子接触部の投影面積Aで除した値P/Aを硬度として算出する。
【0024】
炭素膜350の膜厚は、たとえば0.01μm以上1μm以下、好ましくは0.02μm以上0.5μm以下である。上記下限値以上であることは、中性化抑制効果を得られやすい点で好ましい。上記上限値以下であることは、保護シートの炭素膜のひび割れを抑制しやすい点で好ましい。
【0025】
保護シート300は、樹脂層310を基材とし、種々の気相成膜法によって炭素膜350を形成することによって製造することができる。たとえば気相成膜法の具体例としては、プラズマCVD法およびスパッタ法などが挙げられる。さらに、プラズマCVD法としては、大気圧プラズマCVD法、および高真空下でのプラズマCVD法が挙げられる。
【0026】
接着層400は、変成シリコーン樹脂硬化物とエポキシ樹脂硬化物とを含む硬化樹脂で構成される。この硬化樹脂は、変成シリコーン樹脂硬化物とエポキシ樹脂硬化物とのポリマーアロイである。好ましくは、変成シリコーン樹脂硬化物を主成分とし、変成シリコーン樹脂硬化物相中に、エポキシ樹脂硬化物相が分散した海島構造を有する。これによって、接着層400は、エポキシ樹脂硬化物に由来する靭性と変成シリコーン樹脂硬化物に由来する弾性との両方を兼ね備える。
【0027】
接着層400を構成する硬化樹脂は、変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、それぞれの樹脂を硬化させるための硬化剤とを含む接着剤樹脂組成物を硬化させることによって調製される。当該接着剤樹脂組成物は、いわゆる1液型の樹脂組成物であってもよいし、いわゆる2液混合型の樹脂組成物の2液混合物であってもよい。1液型の樹脂組成物である場合は、作業が容易であるとともに作業効率も良好であり、さらに、硬化に供する接着剤樹脂組成物の均一性が良好である点で硬化不良が起こりにくく、したがって容易に良好な接着性を得ることができる。2液混合型の樹脂組成物である場合は、セメント硬化体構造物表面における凹凸および/または割れの程度に関わらず接着性が良好であり、さらに、耐候性も良好である点で好ましい。
【0028】
接着剤樹脂組成物が1液型である場合、接着剤樹脂組成物として、変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、シラノール縮合触媒と、エポキシ硬化剤とを含む混合物が挙げられる。
接着剤樹脂組成物が2液混合型の樹脂組成物の2液混合物である場合、第I剤および第II剤としては次のものが挙げられる。第I剤には変成シリコーン樹脂が含まれ、第II剤にはエポキシ樹脂が含まれる。この場合、第I剤にさらにエポキシ硬化剤が含まれ、第II剤にさらにシラノール縮合触媒が含まれる。
【0029】
変成シリコーン樹脂としては特に限定されないが、好ましくは湿気硬化型の変成シリコーン樹脂であり、この場合、加水分解性ケイ素基を有する。加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂は、ポリエーテル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーからなる群から選ばれるポリマーを主鎖(加水分解性ケイ素基を除く部分)とする。したがって、主鎖は、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分およびアクリル成分からなる群から選ばれるモノマーの重合体であってよく、この重合体は、単独重合体および共重合体を問わない。共重合体である場合、共重合成分としては、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分、アクリル成分、および他のビニル成分からなる群から選ばれてよい。
【0030】
アルキレンオキサイド成分としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。主鎖は、硬化後の伸びおよび粘性的な取り扱い易さの観点から、主としてプロピレンオキサイド単位から構成されるポリプロピレンオキサイドが好ましい。
オレフィン成分としては、イソブチレンが挙げられる。
【0031】
アクリル成分としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−3−メチルブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2−[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2−ヒドロキシプロピルフタル酸などが挙げられる。なお、アクリル系ポリマーが、他のビニルモノマー成分が共重合されたものである場合、加水分解性ケイ素基を有するビニルモノマー成分を共重合することにより加水分解性ケイ素基を導入することができる。
【0032】
主鎖がアクリル単位を含んでいることは、耐候性が良好となる点で好ましい。さらに、耐候性の観点からは、主鎖中のアクリル単位の含有量は、5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
【0033】
加水分解性ケイ素基としては特に限定されないが、ハロゲン化シリル基、アルケニルオキシシリル基、アシロキシシリル基、アミノシリル基、アミノオキシシリル基、オキシムシリル基、アミドシリル基、アルコキシシリル基などが挙げられる。ここで、加水分解性ケイ素基におけるケイ素原子に結合した加水分解性基の数は1以上3以下が好ましい。また、1つのケイ素原子に結合した加水分解性基は1種であってもよく、複数種であってもよい。更に、加水分解性基と非加水分解性基とが1つのケイ素原子に結合していてもよい。加水分解性ケイ素基としては、安定性に優れ、取り扱いが容易である点で、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基などのアルコキシシリル基が好ましい。
変成シリコーン樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0034】
加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂の数平均分子量は、たとえば、1,000以上500,000以下、1,000以上100,000以下、10,000以上30,000以下、4,000以上500,000以下、または4,000以上30,000以下である。上記下限値以上であることは、接着剤樹脂組成物の硬化時間が短い点、または硬化後の接着強度が良好である点で好ましい。上記上限値以下であることは、接着剤樹脂組成物の粘度が適当であり取扱性が良好である点で好ましい。
【0035】
シラノール縮合触媒は、変成シリコーン樹脂組成物を短時間で硬化させるために用いられる。シラノール縮合触媒としては、ポリ(ジアルキルスタノキサン)ジシリケート化合物、モノアルキル錫エステルおよびジアルキル錫エステルなどの錫触媒、有機チタネートなどが挙げられる。
【0036】
モノアルキル錫エステルとしては、例えば、ブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)などが挙げられ、ジアルキル錫エステルとしては、例えば、ジブチル錫アセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジオレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシド、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫アセトアセテート、オクタン酸第一錫などが挙げられる。
有機チタネートとしては、例えば、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシルチタネート)トリエタノールアミンチタネートなどのチタンアルコキシド類、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、オクチレングリコレートなどのチタンキレート類などが挙げられる。
シラノール縮合触媒は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0037】
接着剤組成物中のシラノール縮合触媒の含有量は、変成シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下、好ましくは1重量部以上5重量部以下である。上記下限値以上であることは、硬化時間の短縮の点で好ましい。上記上限値以下であることは接着強度などの物性を担保する点で好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂としては特に限定されず、エポキシ基を有する樹脂であればよい。具体的には、不飽和の脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、および複素環式化合物からなる群から選ばれる化合物にグリシジル基が結合したものが挙げられる。中性化抑制効果の観点からは、芳香族化合物を含むものであることが好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型およびこれらの水添化物などのビスフェノール型エポキシ樹脂;ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂などのエステル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型およびクレゾールノボラック型などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂およびこれらの水添化物;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのトリスフェノール型の多官能エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート型、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型、テトラグリシジルメタキシレンジアミン型、ヒダントイン型などの含窒素環型多官能エポキシ樹脂;ナフタレン型などの縮環型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;エーテルエステル型エポキシ樹脂;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式構造を有するエポキシ樹脂;ウレタン型エポキシ樹脂;ポリブタジエンおよびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム骨格を有するゴム変成エポキシ樹脂などを用いることができる。
エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
接着剤組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、変成シリコーン樹脂100重量部に対し、たとえば1重量部以上100重量部以下、好ましくは2重量部以上80重量部以下である。上記下限値以上であることにより、硬化後の接着層において良好な靭性を得ることができ、上記上限値以下であることにより、硬化後の接着層において良好な弾性を得ることができる。したがって、保護シートの炭素膜のひび割れを好ましく抑制することができる。
【0041】
エポキシ硬化剤としては、たとえばアミン化合物が挙げられる。アミン化合物としては、N,N−ジメチルプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族3級アミン類、N−メチルピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジンなどの脂環族3級アミン類、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの芳香族3級アミン類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン類、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン、ノルボルデンジアミンなどの脂環式ジアミン類、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン類が挙げられる。
上記以外にも、エポキシ硬化剤としては、ポリアミド樹脂;2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;無水フタル酸などのカルボン酸無水物などの化合物が挙げられる。
【0042】
さらに、エポキシ硬化剤としては、活性アミンがブロックされており、水分などの所定の条件下で活性化するケチミンなどの潜在型硬化剤であってもよい。たとえばケチミンは、水分がない状態では安定に存在するが、水分の存在によって一般に一級アミンとなり、エポキシ樹脂と反応する。具体的には、2,5,8-トリアザ-1,8- ノナジエン、2,10- ジメチル-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、2,10- ジフェニール-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、3,11- ジメチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、3,11- ジエチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、2,4,12,14-テトラメチル-5,8,11-トリアザ-4,11-ペンタデカジエン、2,4,20,22-テトラメチル-5,12,19- トリアザ-4,19-トリエイコサジエン、2,4,15,17-テトラメチル-5,8,11,14- テトラアザ-4,14-オクタデカジエンなどが挙げられる。
エポキシ硬化剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0043】
接着剤樹脂組成物中のエポキシ硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対し、たとえば20重量部以上60重量部以下、好ましくは30重量部以上50重量部以下である。あるいは、エポキシ硬化剤として潜在型硬化剤を用いる場合は、活性化により生じる活性アミノ基の総モル数に対する、エポキシ樹脂のエポキシ基の総モル数(エポキシ基の総モル数/活性アミノ基の総モル数)は、たとえば0.8以上1.2以下、好ましくは0.9以上1.1以下である。上記下限値以上であることは、硬化膜の弾性率の観点で好ましく、上記上限値以下であることは、貯蔵安定性の点で好ましい。
【0044】
接着剤樹脂組成物中には、必要に応じて、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、脱水剤、エポキシシランカップリング剤、酸化防止剤、充填材、可塑剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、顔料、溶剤、及び香料などが挙げられる。
【0045】
接着層400の層厚は、たとえば100μm以上1000μm以下、好ましくは200μm以上800μm以下である。上記下限値以上であることは、良好な弾性を得る点で好ましく、上記上限値以下であることは、製膜容易性の点で好ましい。
【0046】
接着層400の、JIS K6251に準拠した10%伸長時の応力は、たとえば0.7N/mm2以下、好ましくは0.5N/mm
2以下、さらに好ましくは0.3N/mm
2以下である。これによって、コンクリート建造物200から保護シート300の炭素膜350への応力が効果的に吸収され、炭素膜350のひび割れを好ましく抑制することができる。
【0047】
コンクリート保護構造の100の施工時には、上述の接着剤樹脂組成物としては、さらに水が加えられた、非加熱または加熱されたものが用いられる。加熱される場合、たとえば40度以上80度以下の温度とすることができる。上記下限値以上であることは、短時間で十分な接着力を得る点で好ましい。上記上限値以下であることは、保護シート300の損傷を防ぐ点で好ましい。
【0048】
施工時における接着剤樹脂組成物の粘度は、JIS K6833に準拠し、23℃、50%RHにおける初期粘度が10Pa・S以上1000Pa・S以下(初期粘度とは、BS型粘度計のローター7を使用し、回転数10rpmで測定した粘度)であることが好ましい。上記下限値以上であることは、適度な粘性となり施工性の点で好ましい。上記上限値以下であることは、コンクリート建造物200表面の凹凸への密着性が良好となり、接着性の点で好ましい。
【0049】
コンクリート保護構造100の施工においては、コンクリート建造物200の表面、コンクリート建造物200の表面と保護シート300の樹脂層310の表面、または、保護シート300の樹脂層310の表面に、上述の接着剤樹脂組成物の層が設けられる。接着剤樹脂組成物の層を設ける方法としては、塗布法、浸漬法、スプレー法など特に限定されない。塗布法としては、ロール、ヘラ、コテなどを用いた塗布、しごき塗り、刷毛塗り、流し塗りなどの方法が挙げられる。ロールを用いて塗布する場合、ゴム製または金属性のロールを用いることができ、さらに、2本ロールまたは3本ロールの態様で塗布することができる。
【0050】
その後、コンクリート建造物200の表面と保護シート300の樹脂層310の表面とを、接着剤樹脂組成物の層を介して張り合わせ、養生して硬化させることにより接着する。
【0051】
なお、コンクリート建造物200の表面に予め必要に応じて下地調整塗膜を設けておき、下地調整塗膜の上に接着剤樹脂組成物の層が設けられてもよい。下地調整用塗料としては、エチレン酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、アクリルカチオン系エマルジョンなどが挙げられる。
【0052】
コンクリートの中性化の評価方法は、一般的に、コンクリート試験体を切り出して断面を露出させ、フェノールフタレインの呈色反応を利用することによって行うことができる。
【0053】
[他の例]
上記実施形態では、樹脂層310と炭素膜350とから構成される保護シート300の樹脂層310側が接着層400を介してコンクリート建造物200を覆うように設けられた態様を例示したが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0054】
たとえば、
図2に示すように、樹脂層310と炭素膜350とから構成される保護シート300aは、炭素膜350の側が接着層400を介してコンクリート建造物200を覆うように設けられてもよい。この場合、炭素膜350が外部環境(たとえば風雨、飛来物など)の影響を直接受けないため、炭素膜のひび割れを抑制しやすい。
また、
図3に示すように、保護シート300bは、樹脂層310と炭素膜350との間に、別の樹脂層320が介在していてもよい。別の樹脂層320の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から挙げられる。別の樹脂層320の線膨張率(JIS K7197に準拠した測定値)は、たとえば10×10
−5/K以下、好ましくは5×10
−5/K以下である。
【0055】
また、中性化抑制のための保護対象としては、セメント硬化体建造物であればよいため、コンクリート建造物200のほか、樹脂製の芯材を有するコンクリート建造物であってもよいし、芯材を有しないコンクリート構造物であってもよいし、モルタル構造物であってもよい。
【実施例】
【0056】
<実施例1>
1.保護シートの作製
ポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム(以下、PETフィルムとする)として、東レ株式会社製のルミラーシリーズを用意した。このPETフィルムの膜厚は50μmであった。
【0057】
PETフィルムを基材として、その片面に、大気圧プラズマCVD装置を用いてDLC膜を形成した。
図4に、大気圧プラズマCVD装置900の概略構成を示す。大気圧プラズマCVD装置900は、互いに平行に配置された銅製の対向電極903,905と、それらの表面に配置された誘電体907,909を備える。対向電極903,905間には、図示しない供給配管から、雰囲気ガス911が、所定の流速で供給される。雰囲気ガス911は、原料ガスであるC
2H
2と希釈ガスであるN
2との混合ガスである。対向電極903、905間には、パルス電源913により高周波電圧が印加され、雰囲気ガス911はプラズマ化されてプラズマ化雰囲気ガスとなる。
PETフィルム(樹脂層310)は、対向電極903、905の間に挿入され、一方の面を誘電体907に当接させた状態で、対向電極903、905と平行に移動する。このとき、PETフィルム(樹脂層310)の反対面つまり対向電極905側の面に、DLC膜が形成される。
【0058】
以上のようにして、PETフィルムと、その片面に形成されたDLC膜とから構成された保護シートが作製された。なお、保護シートにおけるDLC膜の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察する方法で測定した結果、0.5μmであった。
【0059】
2.コンクリート構造物の保護構造の作製
保護シートを、150mm×50mmの大きさに切り出した。
図5に示すように、一対のコンクリート製の基板211,212を、0.2mmの隙間Iをおいて配置した。基板211,212の表面には、硬化後において10%伸長時の応力が0.25N/mm
2であり、変成シリコーン樹脂100重量部に対するエポキシ樹脂の混合量が70重量部である、変成シリコーン樹脂とエポキシ硬化剤とを含む第I剤と、エポキシ樹脂とシラノール縮合触媒とを含む第II剤とが混合された2液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤(接着剤樹脂組成物)を、ヘラを用いて塗布した。塗布量は、0.5Kg/m
2とした。接着剤の粘度は、JIS K 6833に準拠し、23℃、50%RHにおける初期粘度が500Pa・S(初期粘度とは、BS型粘度計のローター5を使用し、回転数10rpmで測定した粘度)であった。また、接着剤は、後に保護シートを貼る領域全体に塗布した。
保護シート300の、DLC膜が形成されていないPET層面が接着面となるように、基板211,212の表面の両方にまたがるように接着した。
<実施例2>
接着剤として、2液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤の代わりに、硬化後において10%伸長時の応力が0.1N/mm
2であり、変成シリコーン樹脂100重量部に対するエポキシ樹脂の混合量が3重量部である、変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、シラノール縮合触媒と、エポキシ硬化剤とを含む混合物からなる1液型接着剤を用いたことを除いて、実施例1と同様に、コンクリート構造物の保護構造を作成した。
【0060】
<比較例1>
接着剤として、2液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤の代わりに、変成シリコーン不含エポキシ系接着剤としてのエスダイン#3450、エスダイン#3120、エスダインジョイナーW(いずれも積水化学工業(株)製)をそれぞれ用いたことを除いて、実施例1と同様に、コンクリート構造物の保護構造を作成した。
【0061】
<コンクリート建造物の保護構造の評価>
実施例1および2、ならびに比較例1について、以下の評価を行った。
1.評価方法
JIS A1436−2006「建築用被覆材料の下地不連続部における耐疲労性試験方法」を準用し、保護シートの耐疲労性を評価した。具体的には、一方の基板211を固定し、他方の基板212を、
図5に示す矢印方向に沿って、振幅0.04mm、周期0.1secで、600万回往復移動させた。評価試験は、20℃、60℃、および−10℃それぞれの雰囲気下において行った。
その後、保護シートの炭素膜表面を、電子顕微鏡(日本電子製JSM−5800LV、倍率5000倍)で観察し、炭素膜のひび割れの有無を判断した。
【0062】
2.評価結果
実施例1および2による保護シートの炭素膜には、いずれの温度条件についてもひび割れは見られなかった。一方、比較例1による保護シートの炭素膜には、全ての温度条件についてひび割れを確認した。
したがって、本発明によると、保護シートに対し、コンクリート建造物の振動および/またはひび割れの開閉に起因する応力が繰り返し加わっても、炭素膜にひび割れや破断などが生じ難いことが確認できた。
【0063】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨と範囲とから逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。さらに、本実施形態において述べられる作用および効果は一例であり、本発明を限定するものではない。
【0064】
本明細書において、コンクリート保護構造100,100a,100bは請求項における「セメント硬化体構造物の保護構造」に相当し、コンクリート建造物200は「セメント硬化体構造物」に相当し、保護シート300,300a,300bが「保護シート」に相当し、樹脂層310が「樹脂層」に相当し、炭素膜350が「炭素膜」に相当し、接着層400が「接着層」に相当する。