特許第6559487号(P6559487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6559487二次励磁装置の制御装置、制御方法、および可変速揚水発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559487
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】二次励磁装置の制御装置、制御方法、および可変速揚水発電システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/00 20060101AFI20190805BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20190805BHJP
   H02P 101/10 20150101ALN20190805BHJP
   H02P 103/10 20150101ALN20190805BHJP
【FI】
   H02P9/00 E
   H02P9/04 A
   H02P101:10
   H02P103:10
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-136637(P2015-136637)
(22)【出願日】2015年7月8日
(65)【公開番号】特開2017-22811(P2017-22811A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】トリアディタマ リヤン
(72)【発明者】
【氏名】楠 清志
(72)【発明者】
【氏名】木下 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 浩行
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−200299(JP,A)
【文献】 特開2012−235609(JP,A)
【文献】 特開2000−125474(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00488669(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/00
H02P 9/04
H02P 101/10
H02P 103/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御装置であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算する、高調波周波数計算手段と、
電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性あるいはこれに関連する電気的諸量を取得する情報取得手段と、
前記高調波周波数計算手段により計算された特定の高調波の周波数が、前記情報取得手段により取得された結果に応じて定められる所定の帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するキャリア周波数補正手段と
を具備することを特徴とする二次励磁装置の制御装置。
【請求項2】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御装置であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算する、高調波周波数計算手段と、
電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性を測定するインピーダンス周波数特性測定手段と、
前記高調波周波数計算手段により計算された特定の高調波の周波数が、前記インピーダンス周波数特性測定手段により測定されたインピーダンス周波数特性に応じて定められる所定の帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するキャリア周波数補正手段と
を具備することを特徴とする二次励磁装置の制御装置。
【請求項3】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御装置であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算する、高調波周波数計算手段と、
電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性を測定する第1のインピーダンス周波数特性測定手段と、
前記回転機のインピーダンス周波数特性を測定する第2のインピーダンス周波数特性測定手段と、
前記高調波周波数計算手段により計算された特定の高調波の周波数が、前記第2のインピーダンス周波数特性測定手段により測定されたインピーダンス周波数特性と前記第1のインピーダンス周波数特性測定手段により測定されたインピーダンス周波数特性との比率に応じて定められる所定の帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するキャリア周波数補正手段と
を具備することを特徴とする二次励磁装置の制御装置。
【請求項4】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御装置であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算する、高調波周波数計算手段と、
前記特定の高調波の発生を許容する許容帯域を設定する高調波許容帯域設定手段と、
前記高調波周波数計算手段により計算された特定の高調波の周波数が、前記高調波許容帯域設定手段により設定された許容帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するキャリア周波数補正手段と
を具備することを特徴とする二次励磁装置の制御装置。
【請求項5】
前記回転機のすべりを取得するすべり取得手段を更に具備し、
前記高調波周波数計算手段は、少なくとも前記すべり取得手段により取得されたすべりと商用周波数とからすべり周波数を求め、前記すべり周波数と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の二次励磁装置の制御装置。
【請求項6】
前記回転機の回転速度を取得するすべり回転速度取得手段を更に具備し、
前記高調波周波数計算手段は、少なくとも前記回転速度取得手段により取得された回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の二次励磁装置の制御装置。
【請求項7】
前記高調波周波数計算手段は、以下の計算式:
=(a×f)±f±(k×f
:n次高調波周波数
a:定数
:キャリア周波数
:商用周波数
:キャリア周波数によるn次高調波成分の側帯波の係数
:すべり周波数
を用いて、前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の二次励磁装置の制御装置。
【請求項8】
前記高調波周波数計算手段は、以下の計算式:
=(a×f)±f±〔k×{f−(N・P/120)}〕
:n次高調波周波数
a:定数
:キャリア周波数
:商用周波数
:キャリア周波数によるn次高調波成分の側帯波の係数
N:回転子の回転速度
P:回転子の磁極数
を用いて、前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の二次励磁装置の制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の二次励磁装置の制御装置を備えたことを特徴とする可変速揚水発電システム。
【請求項10】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御方法であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算するステップと、
電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性あるいはこれに関連する電気的諸量を取得するステップと、
前記計算された特定の高調波の周波数が、前記取得で得られた結果に応じて定められる所定の帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するステップと
からなることを特徴とする二次励磁装置の制御方法。
【請求項11】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御方法であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算するステップと、
電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性を測定するステップと、
前記計算された特定の高調波の周波数が、前記測定されたインピーダンス周波数特性に応じて定められる所定の帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するステップと
からなることを特徴とする二次励磁装置の制御方法。
【請求項12】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御方法であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算するステップと、
電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性を測定するステップと、
前記回転機のインピーダンス周波数特性を測定するステップと、
前記計算された特定の高調波の周波数が、前記測定された回転機のインピーダンス周波数特性と前記測定された電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性との比率に応じて定められる所定の帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するステップと
からなることを特徴とする二次励磁装置の制御方法。
【請求項13】
回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御方法であって、
前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算するステップと、
前記特定の高調波の発生を許容する許容帯域を設定するステップと、
前記計算された特定の高調波の周波数が、前記設定された許容帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するステップと
からなることを特徴とする二次励磁装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次励磁装置の制御装置、制御方法、および可変速揚水発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
可変速揚水発電システムでは、発電電動機の回転速度を調整するために、回転子に三相交流を流し回転界磁を作る二次励磁装置を用いる。
【0003】
二次励磁装置は、PWM制御によりキャリアと発生させたい信号波とを重ね、キャリアと信号波との交点で交互に半導体素子をスイッチングさせることで目標の電圧を作成する。
【0004】
上記PWM制御で使用するキャリア周波数の高調波成分は、発電電動機の一次側に電圧歪率を発生させてしまう。そこで、電圧歪率を検出し、キャリア周波数の高調波成分による電圧歪率を減少させる為に、キャリア周波数を制御する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−200299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、可変速揚水発電システムでは、発電電動機の一次側に発生する高調波が、電力系統のインピーダンス周波数特性の変化に伴って増大する。より具体的には、発電電動機から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機から電力系統を見たインピーダンスとの反共振が起こると、電力系統の高調波電圧歪率が増加してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、電力系統の高調波電圧歪率を低減することが可能な二次励磁装置の制御装置、制御方法、および可変速揚水発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態による二次励磁装置の制御装置は、回転機に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置の制御装置であって、前記回転機のすべり周波数もしくは回転速度と前記二次励磁装置のキャリア周波数とを用いて前記回転機の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算する、高調波周波数計算手段と、電力系統もしくは当該電力系統に接続される回路のインピーダンス周波数特性あるいはこれに関連する電気的諸量を取得する情報取得手段と、前記高調波周波数計算手段により計算された特定の高調波の周波数が、前記情報取得手段により取得された結果に応じて定められる所定の帯域に収まるように、前記二次励磁装置のキャリア周波数を補正するキャリア周波数補正手段とを具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電力系統の高調波電圧歪率を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る二次励磁式の可変速揚水発電システムの概略構成の一例を示す図。
図2】キャリア周波数fが補正される前のn次高調波周波数Fの状態の一例を示す概念図。
図3】キャリア周波数fが補正された後のn次高調波周波数Fの状態の一例を示す概念図。
図4】第2の実施形態に係る二次励磁式の可変速揚水発電システムの概略構成の一例を示す図。
図5】第3の実施形態に係る二次励磁式の可変速揚水発電システムの概略構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
最初に、図1乃至図3を参照して、第1の実施形態を説明する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る二次励磁式の可変速揚水発電システムの概略構成の一例を示す図である。
【0014】
可変速揚水発電システムは、主な構成要素として、電力系統Eに変圧器Tを介して接続される回転機である二重給電発電電動機(以下、「発電電動機」と称す)1、発電電動機1の二次側に可変周波数の電圧もしくは電流を供給する二次励磁装置2、および各種情報に基づいて二次励磁装置2における周波数変換器のキャリア周波数fを制御する制御装置100を備えている。また、この可変速揚水発電システムには、電力系統E側の電圧および電流をそれぞれ測定する電圧測定手段3および電流測定手段4が備えられる。電圧測定手段3および電流測定手段4の各測定結果は制御装置100へ送られる。
【0015】
制御装置100は、すべり取得手段11、高調波周波数計算手段12、インピーダンス周波数特性測定手段13、キャリア周波数補正手段14などを備えている。
【0016】
すべり取得手段11は、発電電動機1から当該発電電動機1のすべりsを示す情報を取得する。すべりsは、例えば、測定される発電電動機1の回転子の回転速度N(あるいは回転数)とあらかじめ設定された基準回転速度(あるいは基準回転数)Nとから、計算式「s=(N−N)/N」により求めることができる。
【0017】
高調波周波数計算手段12は、すべり取得手段11により取得された発電電動機1のすべりsと商用周波数とからすべり周波数fを求め、このすべり周波数fと二次励磁装置2のキャリア周波数fとを用いて発電電動機1の一次側に発生する特定の高調波の周波数を計算する。すべり周波数fは、例えば、すべり取得手段11により取得された発電電動機1のすべりsと基準周波数(商用周波数)fとから、計算式「F=s×f」により求めることができる。ここで、特定の高調波の周波数を、n次高調波周波数Fと表現する(但し、nは、1,2,3,…のいずれかである)。本実施形態では、1次高調波周波数を扱う場合を想定しているが、これに限定されるものではない。
【0018】
高調波周波数計算手段12は、具体的には、次の(1)式を用いて発電電動機1の一次側に発生するn次高調波周波数Fを計算する。
【0019】
=(a×f)±f±(k×f) …(1)
:n次高調波周波数
a:定数
:キャリア周波数
:商用周波数
:キャリア周波数によるn次高調波成分の側帯波の係数
:すべり周波数
インピーダンス周波数特性測定手段13は、電圧測定手段3により測定される電圧と電流測定手段4により測定される電流とから、電力系統Eのインピーダンス周波数特性Zを測定する。
【0020】
キャリア周波数補正手段14は、高調波周波数計算手段12により計算された特定の高調波の周波数(n次高調波周波数F)が、インピーダンス周波数特性測定手段13により測定されたインピーダンス周波数特性Zに応じて定められる所定の許容帯域Aに収まるように、二次励磁装置2のキャリア周波数fを補正する。許容帯域Aは、特定の高調波成分(n次高調波成分)の一定未満の発生を許容しつつ、発電電動機1から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機1から見た電力系統Eのインピーダンスとの反共振の発生を抑制するための領域である。
【0021】
このような構成において、制御装置100は、二次励磁装置2における周波数変換器のキャリア周波数fを制御するために、すべり取得手段11、高調波周波数計算手段12、インピーダンス周波数特性測定手段13、キャリア周波数補正手段14の各種機能を使用する。
【0022】
すなわち、高調波周波数計算手段12は、キャリア周波数補正手段3において設定されたキャリア周波数fや、すべり取得手段5により取得されたすべりsなどを用いて、発電電動機1から発生されるn次高調波周波数を計算し、その計算結果をキャリア周波数補正手段14に渡す。一方、インピーダンス周波数特性測定手段13は、電圧測定手段3により測定される電圧と電流測定手段4により測定される電流とから、電力系統Eのインピーダンス周波数特性Zを測定し、その測定結果をキャリア周波数補正手段14に渡す。キャリア周波数補正手段14は、高調波周波数計算手段12により計算されたn次高調波周波数とインピーダンス周波数特性測定手段13により測定されたインピーダンス周波数特性Zとから、補正後のキャリア周波数fもしくはキャリア周波数の補正値を計算し、その計算結果を指令値として二次励磁装置2へ送るとともに、同じ情報を高調波周波数計算手段12にも送る。図1の例では、キャリア周波数補正手段14が指令値として補正後のキャリア周波数fを出力する場合を例示している。
【0023】
ここで、図2および図3の概念図を参照して、キャリア周波数補正手段14により行われる動作の一例を説明する。図2はキャリア周波数fが補正される前のn次高調波周波数Fの状態の一例を示しており、図3はキャリア周波数fが補正された後のn次高調波周波数Fの状態の一例を示している。
【0024】
キャリア周波数補正手段14は、高調波周波数計算手段12により計算されたn次高調波周波数Fが、インピーダンス周波数特性測定手段13により測定されたインピーダンス周波数特性Zに応じて定められた許容帯域A内に存在するか否かを確認する。
【0025】
いま、n次高調波周波数F図2に示す状態にあるものとする。この状態では、発電電動機1の一次側に発生するn次高調波周波数Fが、電力系統Eのインピーダンス周波数特性Zにおけるインピーダンスの比較的高い周波数帯域に位置しており、発電電動機1から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機1から見た電力系統Eのインピーダンスとの反共振が起こりやすい状態となっている。
【0026】
キャリア周波数補正手段14は、その反共振を抑制するため、発電電動機1の一次側に発生するn次高調波周波数Fが、インピーダンスの比較的高い帯域に存在しないようにする。すなわち、キャリア周波数補正手段14は、図3に示すように、発電電動機1の一次側に発生するn次高調波周波数Fが、インピーダンスの比較的低い許容帯域Aに存在するよう、前述の(1)式に従って二次励磁装置2の変換器のキャリア周波数fを補正する。
【0027】
このような補正を行った後においても、キャリア周波数補正手段14は、n次高調波周波数Fが許容帯域A内に存在するか否かを定期的に確認し、n次高調波周波数Fが許容帯域Aから外れた場合には、n次高調波周波数Fが許容帯域A内に収まるように、二次励磁装置2の変換器のキャリア周波数fを補正する。
【0028】
第1の実施形態によれば、連続的にあるいは定期的に入力する情報として運転中の発電電動機1のすべりsと電力系統Eのインピーダンス周波数特性Zとを使用することにより、発電電動機1から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機1から見た電力系統Eのインピーダンスとの反共振を抑制し、電力系統Eの高調波電圧歪率を低減することが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態では、許容帯域Aを定めるに際し、「電力系統E」のインピーダンス周波数特性を使用する場合を例示したが、使用する情報はこれに限らない。代わりに、「電力系統Eに接続される回路」のインピーダンス周波数特性を使用してもよいし、「電力系統E」のインピーダンス周波数特性と「電力系統Eに接続される回路」のインピーダンス周波数特性の両方を用いてもよい。
【0030】
また、「電力系統Eもしくは当該電力系統Eに接続される回路のインピーダンス周波数特性」と「発電電動機1のインピーダンス周波数特性」とのインピーダンス比率(発電電動機1から見たインピーダンス周波数特性)を用いるようにしてもよい。この場合、図1の構成に対し、発電電動機1のインピーダンス周波数特性を測定する「第2のインピーダンス周波数特性測定手段」(図示せず)をさらに設け、キャリア周波数補正手段14は、インピーダンス周波数特性測定手段13により測定されたインピーダンス周波数特性と第2のインピーダンス周波数特性測定手段により測定されたインピーダンス周波数特性との比率(インピーダンス比率)を求めるようにすればよい。その際、キャリア周波数補正手段14は、高調波周波数計算手段12により計算されたn次高調波周波数Fが、求めたインピーダンス比率に応じて定められる許容帯域Aに収まるように、二次励磁装置2のキャリア周波数fを補正すればよい。
【0031】
また、本実施形態では、許容帯域Aを定めるに際し、電力系統Eの「インピーダンス周波数特性」を使用する場合を例示したが、使用する情報は「インピーダンス周波数特性」に限られず、「インピーダンス周波数特性に関連する電気的諸量」を使用してもよい。例えば、「インピーダンス周波数特性」の代わりに、「インピーダンス周波数特性を算出することが可能な電気的諸量」を使用してもよく、あるいは「インピーダンス周波数特性と等価な電気的諸量を算出することが可能な電気的諸量」を使用してもよい。あるいはこれらの情報の組み合わせを使用してもよい。
【0032】
「インピーダンス周波数特性を算出することが可能な電気的諸量」の例としては、電圧および電流が挙げられる。ここで、インピーダンス(Z)と電圧(V)と電流(I)との間には、次の関係がある。
【0033】
Z=V/I, I=V/Z, V=I×Z
従って、電圧および電流から、「インピーダンス周波数特性」を得ることができる。
【0034】
「インピーダンス周波数特性と等価な電気的諸量」の例としては、電圧が挙げられる。電流が一定であれば、電圧の周波数特性は、インピーダンスの周波数特性と等価となる。
【0035】
従って、周波数の異なる一定の電流を電力系統Eに注入し、異なる周波数毎の電圧を求めることにより、電力系統Eの「インピーダンス周波数特性」を求めることができる。
【0036】
測定した結果からインピーダンス比率(例えば、Z1/Z2)を求める場合は、以下の式を用いる。
【0037】
Z1/Z2=V1/V2(I1=I2=一定)
従って、電圧および電流から、インピーダンス比率(発電電動機1から見たインピーダンス周波数特性)を得ることができる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、図4を参照して、第2の実施形態を説明する。なお、前述した第1の実施形態(図1乃至図3)と共通する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0039】
図4は、第2の実施形態に係る二次励磁式の可変速揚水発電システムの概略構成の一例を示す図である。
【0040】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、インピーダンス周波数特性測定手段13の代わりに、高調波許容帯域設定手段15を設けた点である。
【0041】
高調波許容帯域設定手段15は、前述の許容帯域Aをあらかじめ設定する。この許容帯域Aは、前述した通り、特定の高調波成分(n次高調波成分)の一定未満の発生を許容しつつ、発電電動機1から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機1から見た電力系統Eのインピーダンスとの反共振の発生を抑制するための領域である。
【0042】
この場合、キャリア周波数補正手段14は、高調波周波数計算手段12により計算されたn次高調波周波数Fが、高調波許容帯域設定手段15により設定された許容帯域Aに収まるように、二次励磁装置2のキャリア周波数fを補正する。
【0043】
第2の実施形態によれば、連続的にあるいは定期的に入力する情報として運転中の発電電動機1のすべりsを用いるだけで、発電電動機1から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機1から見た電力系統Eのインピーダンスとの反共振を抑制し、電力系統Eの高調波電圧歪率を低減することが可能となる。
【0044】
(第3の実施形態)
次に、図5を参照して、第3の実施形態を説明する。なお、前述した第1の実施形態(図1乃至図3)と共通する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0045】
図5は、第3の実施形態に係る二次励磁式の可変速揚水発電システムの概略構成の一例を示す図である。
【0046】
第3の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、すべり取得手段11の代わりに、回転速度取得手段16を設けた点である。
【0047】
回転速度取得手段16は、発電電動機1から当該発電電動機1の回転子の回転速度N(あるいは回転数)を示す情報を取得する。
【0048】
この場合、高調波周波数計算手段12は、回転速度取得手段16により取得された発電電動機1の回転速度Nと二次励磁装置2のキャリア周波数fとを用いて発電電動機1の一次側に発生するn次高調波周波数Fの周波数を計算する。
【0049】
高調波周波数計算手段12は、具体的には、次の(2)式を用いて発電電動機1の一次側に発生するn次高調波周波数Fを計算する。
【0050】
=(a×f)±f±〔k×{f−(N・P/120)}〕 …(2)
:n次高調波周波数
a:定数
:キャリア周波数
:商用周波数
:キャリア周波数によるn次高調波成分の側帯波の係数
N:回転子の回転速度
P:回転子の磁極数
第3の実施形態によれば、連続的にあるいは定期的に入力する情報として運転中の発電電動機1の回転子の回転速度Nと電力系統Eのインピーダンス周波数特性Zとを使用することにより、発電電動機1から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機1から見た電力系統Eのインピーダンスとの反共振を抑制し、電力系統Eの高調波電圧歪率を低減することが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態では、第1の実施形態の場合と同様にインピーダンス周波数特性測定手段13を設けた構成を採用する場合を例示したが、この構成に限られるものではない。第2の実施形態で説明したように、インピーダンス周波数特性測定手段13の代わりに、高調波許容帯域設定手段15を設けた構成を採用してもよい。そのようにした場合、連続的にあるいは定期的に入力する情報として運転中の発電電動機1の回転子の回転速度N(あるいは回転数)を用いるだけで、発電電動機1から流出する高調波ピーク周波数と発電電動機1から見た電力系統Eのインピーダンスとの反共振を抑制し、電力系統Eの高調波電圧歪率を低減することが可能となる。
【0052】
以上詳述したように、各実施形態によれば、電力系統の高調波電圧歪率を低減することが可能となる。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1…発電電動機、2…二次励磁装置、3…電圧測定手段、4…電流測定手段、11…すべり取得手段、12…高調波周波数計算手段、13…インピーダンス周波数特性測定手段、14…キャリア周波数補正手段、15…高調波許容帯域設定手段、16…回転速度取得手段、100…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5