(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0010】
本発明のセルロースナノファイバーは、セルロース原料をナノサイズまで解繊する事により得られる繊維である。
【0011】
本発明のセルロースナノファイバーは、数平均繊維径が2nm以上500nm以下、繊維のアスペクト比が50以上、及びセルロースI型結晶構造を有する事が好ましい。
【0012】
前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であるが、接着強度の点から好ましくは2nm以上150nm以下であり、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、特に好ましくは3nm以上80nm以下である。前記数平均繊維径が2nm未満であると、繊維自体の強度が低下して接着強度が小さくなるという虞があり、前記数平均繊維径が500nm超の場合、繊維の表面積が大きくなり接着強度が小さくなる虞がある。
【0013】
前記セルロースナノファイバーの最大繊維径は、基材への残存が生じない点で、1000nm以下であることが好ましく、特に好ましくは500nm以下である。
【0014】
前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径および最大繊維径は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、最大繊維径および数平均繊維径を算出する。
【0015】
前記セルロースナノファイバーのアスペクト比は50以上であるが、好ましくは100以上、より好ましくは200以上である。アスペクト比が50未満であると繊維自体の強度が低下し接着強度が小さくなる虞がある。
【0016】
前記セルロースナノファイバーのアスペクト比は、例えば以下の方法で測定することが出来る、すなわち、セルロースナノファイバーを親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、セルロースナノファイバーの数平均繊維径、および繊維長を観察した。すなわち、各先に述べた方法に従い、数平均繊維径、および繊維長を算出し、これらの値を用いてアスペクト比を下記
の式(1)に従い算出した。
【0017】
【数1】
前記セルロースナノファイバーは、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース原料を微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成する。
【0018】
前記セルロースナノファイバーを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0019】
前記セルロースナノファイバーは公知の方法で製造することが可能であり、具体的には以下の通りである。
【0020】
たとえば、天然セルロースを水に懸濁させ、これを高圧ホモジナイザー、またはグラインダーなどで処理して微細化することにより得られる。
【0021】
天然セルロースとしては、植物または動物、微生物由来のセルロースであれば特に限定はなく、針葉樹または広葉樹由来のクラフトパルプや溶解パルプ、コットンリンター、セルロース純度の低いリグノセルロース、木粉、草木セルロース、バクテリアセルロースなどが挙げられる。
【0022】
また、前記セルロースナノファイバーは、バクテリアによって産生されるバクテリアセルロースを使用することができる。前記バクテリアとしては、アセトバクター(Acetobacter)属等が挙げられ、より具体的には、アセトバクターアセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクターサブスピーシーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナ(Acetobacterxylinum)等が挙げられる。これらのバクテリアを培養することにより、バクテリアからセルロースが産生される。得られた産生物は、バクテリアとこのバクテリアから産生されて該バクテリアに連なっているセルロースナノファイバー(バクテリアセルロース)とを含むものであるため、この産生物を培地から取り出し、それを水洗、又はアルカリ処理などしてバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースを得ることができる。
【0023】
前記セルロースナノファイバーはアニオン変性されていることが好ましい。具体的に、アニオン変性されたセルロースとしては、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、多価カルボキシメチルセルロース、長鎖カルボキシセルロース、等が挙げられる。これらの内、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかであることから、酸化セルロースが好ましい。
【0024】
また、汎用性、安全性の点からカルボキシメチルセルロースも好ましい。
【0025】
前記酸化セルロースは、天然セルロースを原料とし、水中においてN − オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、および水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程を含む製造方法により得ることができる。
【0026】
前記酸化セルロースは、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、ケトン基、およびカルボキシル基のいずれかとなっていることが好ましい。カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は水への分散性の点から1.2〜2.5mmol/gの範囲が好ましく、より好ましくは1.5〜2.0mmol/gの範囲である。
【0027】
前記酸化セルロースのカルボキシル基量の測定は、例えば、乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式(2)に従いカルボキシル基量を求めることができる。
【0028】
【数2】
なお、カルボキシル基量の調整は、後述するように、セルロースナノファイバーの酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより行うことができる。
【0029】
前記酸化セルロースは、前記酸化変性後、還元剤により還元させることが好ましい。これにより、アルデヒド基およびケトン基の一部ないし全部が還元され、水酸基に戻る。なお、カルボキシル基は還元されない。そして、前記還元により、前記セルロースナノファイバーの、セミカルバジド法による測定でのアルデヒド基とケトン基の合計含量を、0.3mmol/g以下とすることが好ましく、特に好ましくは0〜0.1mmol/gの範囲、最も好ましくは実質的に0mmol/gである。これにより、易剥離性接着剤組成物の保存安定性に優れたものとなる。
【0030】
前記酸化セルロースが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMPO)等のN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであり、前記酸化反応により生じたアルデヒド基およびケトン基が、還元剤により還元されたものであると、前記セルロースナノファイバーを容易に得ることができるようになるため好ましい。また、前記還元剤による還元が、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)によるものであると、前記観点からより好ましい。
【0031】
セミカルバジド法による、アルデヒド基とケトン基との合計含量の測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうする。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌する。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えて、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式(3)に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応しシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシル基とは反応しないことから、前記測定により、アルデヒド基とケトン基のみを定量できると考えられる。
【0032】
【数3】
前記酸化セルロースは、繊維表面上のセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基のいずれかとなっている。このセルロースナノファイバー表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的に酸化されているかどうかは、例えば、
13C−NMRチャートにより確認することができる。すなわち、酸化前のセルロースの
13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりにカルボキシル基等に由来するピーク(178ppmのピークはカルボキシル基に由来するピーク)が現れる。このようにして、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることを確認することができる。
【0033】
また、前記酸化セルロースにおけるアルデヒド基の検出は、例えば、フェーリング試薬により行うこともできる。すなわち、例えば、乾燥させた試料に、フェーリング試薬(酒石酸ナトリウムカリウムと水酸化ナトリウムとの混合溶液と、硫酸銅五水和物水溶液)を加えた後、80℃で1時間加熱したとき、上澄みが青色、セルロースナノファイバー部分が紺色を呈するものは、アルデヒド基は検出されなかったと判断することができ、上澄みが黄色、セルロース繊維部分が赤色を呈するものは、アルデヒド基は検出されたと判断することができる。
【0034】
前記酸化セルロースを解繊したセルロースナノファイバーは、(1)酸化反応工程、(2)還元工程、(3)精製工程、(4)分散工程(微細化処理工程)等により製造することが好ましく、具体的には以下の各工程により製造することが好ましい。
【0035】
(1)酸化反応工程
天然セルロースとN−オキシル化合物とを水(分散媒体)に分散させた後、共酸化剤を添加して、反応を開始する。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なす。ここで、共酸化剤とは、直接的にセルロース水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN−オキシル化合物を酸化する物質のことである。
【0036】
前記天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等をあげることができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプが好ましい。前記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。また、前記天然セルロースとして、単離、精製の後、乾燥させない(ネバードライ)で保存していたものを使用すると、ミクロフィブリルの集束体が膨潤しやすい状態であるため、反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができるため好ましい。
【0037】
前記反応における天然セルロースの分散媒体は水であり、反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(天然セルロース)の充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。通常は、反応水溶液の重量に対して約5%以下であるが、機械的撹拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
【0038】
また、前記N−オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物があげられる。前記N−オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルが好ましく、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4−アセトアミド−TEMPOが好ましい。前記N−オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0039】
前記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、前記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、反応速度の点から、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが好ましい。前記臭化アルカリ金属の添加量は、前記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0040】
前記反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。所望のカルボキシル基量等を得るためには、共酸化剤の添加量と反応時間により、酸化の程度を制御する。通常、反応時間は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
【0041】
(2)還元工程
前記酸化セルロースは、前記酸化反応後に、さらに還元反応を行うことが好ましい。具体的には、酸化反応後の微細酸化セルロースを精製水に分散し、水分散体のpHを約10に調整し、各種還元剤により還元反応を行う。本発明に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することが可能であるが、好ましくは、LIBH
4、NaBH
3CN、NaBH
4等があげられる。なかでも、コストや利用可能性の点から、NaBH
4が好ましい。
【0042】
還元剤の量は、微細酸化セルロースを基準として、0.1〜4重量%の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜3重量%の範囲である。反応は、室温または室温より若干高い温度で、通常、10分〜10時間、好ましくは30分〜2時間行う。
【0043】
前記の反応終了後、各種の酸により反応混合物のpHを約2に調整し、精製水をふりかけながら遠心分離機で固液分離を行い、ケーキ状の微細酸化セルロースを得る。固液分離は濾液の電気伝導度が5mS/m以下となるまで行う。
【0044】
(3)精製工程
つぎに、未反応の共酸化剤(次亜塩素酸等)や、各種副生成物等を除く目的で精製を行う。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99重量%以上)の反応物繊維と水の分散体とする。
【0045】
前記精製工程における精製方法は、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどのような装置を利用しても差し支えない。このようにして得られる反応物繊維の水分散体は、絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10重量%〜50重量%の範囲にある。この後の分散工程を考慮すると、50重量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0046】
(4)分散工程(微細化処理工程)
前記精製工程にて得られる水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、分散媒体中に分散させ分散処理を行う。処理に伴って粘度が上昇し、微細化処理されたセルロースナノファイバーの分散体を得ることができる。その後、必要に応じて前記セルロースナノファイバーを乾燥してもよく、上記セルロースナノファイバーの分散体の乾燥法としては、例えば、分散媒体が水である場合は、スプレードライ、凍結乾燥法、真空乾燥法等が用いられ、分散媒体が水と有機溶媒の混合溶液である場合は、ドラムドライヤーによる乾燥法、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法等が用いられる。なお、前記セルロースナノファイバーの分散体を乾燥することなく、分散体の状態で用いても差し支えない。
【0047】
前記分散工程で使用する分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、経済的に有利に含水潤滑剤組成物を得ることができる点で好ましい。なお、前記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機等を用いても差し支えない。また、2種類以上の分散機を組み合わせて用いても差し支えない。
【0048】
前記アニオン変性したセルロースナノファイバーの1種であるカルボキシメチルセルロースは、前記セルロース原料を用いて以下の方法によって製造することができる。すなわち、セルロースを原料とし、溶媒に質量で3〜20倍の低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。マーセル化剤としては、セルロースのグルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。セルロースと溶媒、マーセル化剤を混合してマーセル化処理を行う。このときの反応温度は0〜70℃、好ましくは10〜60℃であり、反応時間は15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間である。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10倍モル添加してエーテル化反応を行う。このときの反応温度は30〜90℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間は30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時である。
【0049】
前記カルボキシメチルセルロースを高圧ホモジナイザー等によって解繊処理することでセルロースナノファイバー得ることができる。高圧ホモジナイザーとは、ポンプによって流体に加圧し、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させる装置である。粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化・分散・解繊・粉砕・超微細化を行うことができる。
【0050】
本発明のホモジナイザーによる処理条件としては、特に限定されるものではないが、圧力条件としては、30MPa以上、好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、カルボキシメチルセルロースに予備処理を施すことも可能である。
【0051】
本発明において、カルボキシメチルセルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02以上0.50以下であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.02より小さいと、十分にナノ解繊することができず、接着強度が低下する虞がある。一方、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.50より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなり接着強度が低下する虞がある。 本発明の易剥離性接着剤組成は、前記セルロースナノファイバー及びその他添加剤を水に分散した水溶液である。
【0052】
本発明の易剥離性接着剤組成における前記セルロースナノファイバーの含有量は特に限定されないが0.01質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましい。セルロースナノファイバーの含有量が0.01質量%以上10質量%以下であれば、易剥離性接着剤組成の塗工性が優れたものとなる。
本発明の易剥離性接着剤組成には、本発明の効果を損なわない範囲で他の添加物を添加することが出来る。
【0053】
前記他の添加物としては、可塑性樹脂やゴム、及び光安定剤、紫外線吸収剤、造核剤、滑剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、流動性改良剤、離型剤、難燃剤、着色剤、無機系中和剤、塩酸吸収剤、充填剤、導電剤、消泡剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【0054】
本発明の易剥離性接着剤組成は、前記のセルロースナノファイバーの水分散体に、必要に応じて種々の添加剤を加え、公知の攪拌技術で混合して製造することができる。
【実施例】
【0055】
つぎに、実施例について比較例とあわせて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
【0056】
〔セルロース繊維A1(実施例用)の製造〕
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)50gを水4950gに分散させ、パルプ濃度1質量%の分散液を調整した。この分散液をセレンディピターMKCA6−3(増幸産業(株)製)で30回処理し、セルロース繊維A1を得た。
【0057】
〔セルロース繊維A2(実施例用)の製造〕
針葉樹パルプ100gを、イソプロパノール(IPA) 435gと水65gとNaOH9.9gの混合液中にいれ、30℃で1時間撹拌した。このスラリー系に50%モノクロル酢酸のIPA 溶液23.0gを加え、70℃に昇温し1.5時間反応させた。得られた反応物を80%メタノールで洗浄し、その後メタノールで置換し乾燥させ、カルボキシメチル化セルロース繊維を製造した。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて2%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、セルロース繊維A2を製造した。
【0058】
〔セルロース繊維A3(実施例用)の製造〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて2%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、セルロース繊維A3を製造した。
【0059】
〔セルロースA´1(比較例用)の製造〕
原料の針葉樹パルプに替えて再生セルロースを使用するとともに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、再生セルロース1.0gに対して27.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A3の製造に準じて、セルロースA´1を製造した。
上記のようにして得られた各セルロースについて、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、下記表1に併せて示した。
【0060】
〔結晶構造〕
X線回折装置(リガク社製、RINT‐UltIma3)を用いて、各セルロース繊維の回折プロファイルを測定し、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、ピークが見られない場合は「なし」と評価した。
【0061】
〔短幅の方の数平均幅〕
セルロースの数平均幅を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM−1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、短幅の方の数平均幅を算出した。
【0062】
〔アスペクト比〕
セルロースを親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、セルロースの短幅の方の数平均幅、長幅の方の数平均幅を観察した。すなわち、各先に述べた方法に従い、短幅の方の数平均幅、および長幅の方の数平均幅を算出し、これらの値を用いてアスペクト比を下記の式(1)に従い算出した。
【0063】
【数4】
【0064】
【表1】
前記表1の結果から、実施例用のセルロースA1〜A3は、いずれも短幅の方の数平均幅が2〜500nmの範囲内で、セルロースI型結晶構造を有していた。
【0065】
〔実施例1〕
上記セルロース繊維A1を純水で0.1%に希釈した。これを5cm×5cmにカットした上質紙(接着体)に塗布し、8cm×8cmにカットした上質紙(基材)と貼り合せた。5kgf程度の力で3分間貼りあわせた後、24時間静置して乾燥させた。
接着物に関して、以下の手法で接着強度と易剥離性を評価した。
【0066】
<接着強度の評価方法>
接着物の両面にアクリル板を両面テープで貼りつけ、接着体側のアクリル板にはフックを取り付けた。フックを下にして、基材側のアクリル板のみをねじで固定した。フックに静かに分銅を吊り下げて行き、接着面が剥がれた時点の分銅の重量を接着強度(kgf/cm
2)とした。
【0067】
<易剥離性の評価方法>
接着物を一方から静かに剥がし、接着体、および基材の状態を目視で観察し、易剥離性を以下のように評価した。
+++:基材に接着体、および接着剤が残存しておらず、接着体の破れもない。
++:基材にわずかに接着体、および接着剤が残存しているが、接着体の破れはほとん どない。
+:基材に接着体、および接着剤が残存し、接着体が少し破れている。
−:基材に接着体、および接着剤が多く残存し、接着体はほぼ原型を留めていない。
【0068】
〔実施例2〕〜〔実施例4〕
上記セルロース繊維A1の希釈濃度を0.2−1.0%とした以外は、実施例1と同様に調製、評価した。
【0069】
〔実施例5〕、〔実施例6〕
接着基材を上質紙に替えて木材、およびガラス板を使用した以外は、実施例2と同様に調製、評価した。
【0070】
〔実施例7〕〜〔実施例12〕
セルロース繊維A1に替えてA2、およびA3を使用した以外は、実施例2、5および6と同様に調製、評価した。
【0071】
〔比較例1〕〜〔比較例4〕
セルロース繊維A1に替えてA´1、デンプンのり、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた以外は、実施例2と同様に調製、評価した。
【0072】
以上の実施例、および比較例の組成と評価結果を表2に示す。
実施例の接着剤はいずれも面垂直方向には十分な接着強度を持っているにもかかわらず、一方向から力を加えると容易に剥離が可能であり、また、基材への接着剤、接着体の残存も殆ど見られなかった。
【0073】
それに対して、セルロース繊維A´1を用いた場合は接着することができなかった。また、一般的に接着剤として用いられているデンプンのりやPVP、CMCを用いた場合、面垂直方向での接着は可能であったが、剥離の際に上質紙が破れ、基材から接着体を剥がし取ることは不可能であった。
【0074】
【表2】