特許第6559493号(P6559493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559493
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】回転ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/14 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   F16F9/14 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-148089(P2015-148089)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2017-26112(P2017-26112A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】織田 信寿
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−034598(JP,A)
【文献】 特開平10−306836(JP,A)
【文献】 特開2003−194124(JP,A)
【文献】 特開2006−242318(JP,A)
【文献】 特開昭61−065907(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0111308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00− 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側を開口端とし他方側を閉塞した底部とする第1の空洞が形成された、基体に取り付けられる固定部材と、
第1の前記空洞に充填される粘性流体と、
前記基体に対して駆動される被駆動体に一方側が取り付けられ、他方側が第1の前記空洞に挿入されて軸心を中心に第1の前記空洞に回動自在に収容される、第1の前記空洞の底部に面した開口端を他方側に有する第2の空洞が形成された回転部材と、
前記回転部材の一方側を露出させて第1の前記空洞の開口端を塞ぐ蓋と、
第1の前記空洞に収容される前記回転部材の外周と第1の前記空洞の内周との間に形成される部屋を、前記回転部材の軸心方向において、第1の前記空洞の底部側に形成される主室と前記蓋側に形成される副室とに分ける隔壁と、
前記回転部材の外周に設けられるベーンによって前記主室を前記回転部材の軸心の周方向に区画するベーン機構と
を備えて構成される回転ダンパにおいて、
前記隔壁の内周に接する部分の前記回転部材に、前記回転部材の外周に開口する開口部が前記隔壁の内周に覆い尽くされる、第2の前記空洞と第1の前記空洞とを連通させる通路が形成されていることを特徴とする回転ダンパ。
【請求項2】
一方側を開口端とし他方側を閉塞した底部とする第1の空洞が形成された、基体に取り付けられる固定部材と、
第1の前記空洞に充填される粘性流体と、
前記基体に対して駆動される被駆動体に一方側が取り付けられ、他方側が第1の前記空洞に挿入されて軸心を中心に第1の前記空洞に回動自在に収容される、第1の前記空洞の底部に面した開口端を他方側に有する第2の空洞が形成された回転部材と、
前記回転部材の一方側を露出させて第1の前記空洞の開口端を塞ぐ蓋と、
第1の前記空洞に収容される前記回転部材の外周と第1の前記空洞の内周との間に形成される部屋を、前記回転部材の軸心方向において、第1の前記空洞の底部側に形成される主室と前記蓋側に形成される副室とに分ける隔壁と、
前記回転部材の外周に設けられるベーンによって前記主室を前記回転部材の軸心の周方向に区画するベーン機構と
を備えて構成される回転ダンパにおいて、
前記隔壁の内周に接する部分の前記回転部材に、前記回転部材と前記隔壁との間の所望の摺接抵抗に応じて形状または個数が設定される、第2の前記空洞と第1の前記空洞とを連通させる通路が形成されていることを特徴とする回転ダンパ。
【請求項3】
前記通路は、前記回転部材の外周に開口する開口部が前記隔壁の内周に覆い尽くされることを特徴とする請求項2に記載の回転ダンパ。
【請求項4】
前記ベーン機構は、前記回転部材の一方向側への回動による前記ベーンの移動によって前記粘性流体の圧力が高まる一の区画に収容される前記粘性流体に対しては、前記隔壁に形成された流通穴を塞ぐ部材を押し退けさせて前記副室を介して他の区画に流し、前記回転部材の他方向側への回動による前記ベーンの移動によって前記粘性流体の圧力が高まる他の区画に収容される前記粘性流体に対しては、前記部材によって前記流通穴を閉じさせて前記副室を通過させないことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材に収容される回転部材の回動に粘性流体によって抵抗を与えて、回転部材に取り付けられる被駆動体の動きを制動する回転ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の回転ダンパとしては、特許文献1に開示されたトルク自動調整式回転ダンパがある。この回転ダンパは、筒状のハウジング内に相対回転可能にローターが組み込まれて構成される。ハウジングとローターとの間には粘性流体が介在させられ、粘性流体の流動抵抗によって制動力が発揮させられる。ハウジング内には隔壁が設けられ、隔壁に隣接してリードベーンが配置される。隔壁によりハウジング内には主圧力室と第2の圧力室とが形成され、主圧力室は羽根部によって高圧側と低圧側とに区画される。ローターが反時計方向に回転すると、隔壁に設けられた流通穴がリードベーンによって閉じられるので、ローターは高圧側の圧力室内の圧力を受け、ローターに制動力が発生する。一方、ローターが時計方向に回転すると、リードベーンは隔壁の流通穴を流圧によって開放し、羽根部によって区画された一方の圧力室内の粘性流体は、隔壁に設けられた流通穴および第2の圧力室を介して他方の圧力室に流れる。このため、ローターは制動力を受けないで回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−34598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された上記従来の回転ダンパは、ハウジングに円筒状に形成された空洞に、ローターに同じく円筒状に形成された空洞を向かい合わせて組み込む構成であるため、粘性流体を収容するハウジングにローターを組み込む際、ローター側の空洞内に気泡が残留することがある。空洞内に気泡が残留すると、回転ダンパの動作が阻害されてしまい、被駆動体の制動安定性を高めることが困難になる。
【0005】
また、ローターは隔壁の内周に密接した状態で隔壁に対して相対回転するので、ローターと隔壁との接触面が著しく摩耗することがある。このため、従来の回転ダンパは、その製品寿命と運転時間とが短くなってしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
一方側を開口端とし他方側を閉塞した底部とする第1の空洞が形成された、基体に取り付けられる固定部材と、
第1の空洞に充填される粘性流体と、
基体に対して駆動される被駆動体に一方側が取り付けられ、他方側が第1の空洞に挿入されて軸心を中心に第1の空洞に回動自在に収容される、第1の空洞の底部に面した開口端を他方側に有する第2の空洞が形成された回転部材と、
回転部材の一方側を露出させて第1の空洞の開口端を塞ぐ蓋と、
第1の空洞に収容される回転部材の外周と第1の空洞の内周との間に形成される部屋を、回転部材の軸心方向において、第1の空洞の底部側に形成される主室と蓋側に形成される副室とに分ける隔壁と、
回転部材の外周に設けられるベーンによって主室を回転部材の軸心の周方向に区画するベーン機構と
を備えて構成される回転ダンパにおいて、
隔壁の内周に接する部分の回転部材に、回転部材の外周に開口する開口部が隔壁の内周に覆い尽くされる、第2の空洞と第1の空洞とを連通させる通路が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本構成によれば、第2の空洞と第1の空洞とを連通させる通路が回転部材に形成されているため、粘性流体を収容する固定部材に形成された第1の空洞に、回転部材に形成された第2の空洞を向かい合わせて組み込む際、第2の空洞内に残留する気泡は通路を通じて第1の空洞側へ移動する。このため、気泡は第1の空洞の開口端から放出されて各空洞内に残留しなくなり、回転ダンパの動作は気泡によって阻害されるなくなる。この結果、回転ダンパによる被駆動体の制動安定性を高めることが可能になる。
【0008】
また、第2の空洞と第1の空洞とを連通させる通路は、隔壁の内周に接する部分の回転部材に形成され、隔壁の内周と通路の開口部とが接する部分では、隔壁内周と回転部材外周との間に摩擦抵抗が生じなくなる。このため、回転部材と隔壁との間に生じる接線応力が小さくなり、回転部材と隔壁との摺接抵抗を抑制することが出来る。また、摺接する隔壁の内周と回転部材の外周との間には通路を通じて粘性流体が供給され、粘性流体が潤滑剤の役割を果たす。このため、回転ダンパの動作によって回転部材と隔壁との接触面に生じる摩耗が防げ、回転ダンパの製品寿命と運転時間とを長くすることが可能になる。
【0010】
本構成によれば、回転ダンパの組み立て後、通路の開口部は隔壁の内周に覆い尽くされて閉塞される。このため、回転ダンパの組み立て後、回転部材の第2の空洞に収容される粘性流体が通路を通じて固定部材の第1の空洞側へ流れて、粘性流体の意図しない流路が形成されるのを防ぐことが出来る。
【0011】
また、本発明は、通路の形状または個数が、回転部材と隔壁との間の所望の摺接抵抗に応じて設定されることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、回転ダンパに要求される性能に応じて通路の形状または個数が設定され、回転部材と隔壁との間の摺接抵抗が調整される。このため、所望の摺接抵抗を有する回転ダンパを容易に提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空洞内に残留する気泡によって動作が阻害されることなく、回転ダンパによる被駆動体の制動安定性を高めることが可能で、しかも、製品寿命と運転時間とを長くすることが可能な、回転ダンパを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態による回転ダンパの外観斜視図である。
図2】一実施の形態による回転ダンパの分解斜視図である。
図3】(a)は一実施の形態による回転ダンパの縦断面図、(b)は縦断面を斜めから見た斜視図である。
図4】(a)は、ハウジングからキャップおよび締結リングを外した状態における一実施の形態による回転ダンパをその軸心方向の斜め上方から見た斜視図、(b)は、さらにリードベーンを外した状態の斜視図である。
図5】ハウジングを破断した一実施の形態による回転ダンパの内部の側面図である。
図6】(a)は、一実施の形態による回転ダンパを図3(a)のA−A線で破断して矢視方向から見た横断面図、(b)は、B−B線で破断して矢視方向から見た横断面図である。
図7】(a)は、ハウジングの開口端が上方に向けて置かれた一実施の形態による回転ダンパの縦断面を斜めから見た斜視図、(b)は、ローターの外周に開口する通路の開口部が隔壁によって塞がれることを説明するためのローターの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明による回転ダンパを実施するための形態について説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施の形態による回転ダンパ1の外観斜視図である。
【0017】
回転ダンパ1は、ハウジング2内に相対回転可能にローター3が組み込まれて構成されている。ハウジング2は金属やプラスチック等の材質で有底の略中空円筒形状に形成されている。ハウジング2の円筒内周部の開口近辺にはキャップ4が嵌着して、蓋をされている。キャップ4は、ハウジング2の円筒内周部の開口端に締結リング5が締結されることで、固定されている。この締結は、ネジによる螺着や接着剤による接着、あるいはこれらの組み合わせ等によって行われる。ローター3はキャップ4から露出した一方側に被駆動体取付部3aが形成されており、この被駆動体取付部3aには、回転ダンパ1によって回動動作が制動される図示しない被駆動体が取り付けられる。また、ハウジング2の後端部左右には基体取付部2aが形成されており、この基体取付部2aには、被駆動体を支持する図示しない基体が取り付けられる。
【0018】
図2は回転ダンパ1の分解斜視図である。
【0019】
基体に取り付けられて固定されるハウジング2は固定部材を構成し、中空内部には第1の空洞2bが形成されている。第1の空洞2bは、一方側を開口端2cとし、基体取付部2aが形成された他方側を閉塞した底部として、ハウジング2が中ぐりされた形状をしている。開口端2cの内周には、締結リング5に螺合する図示しない雌ねじ溝が形成されている。一方側に被駆動体が取り付けられて回動するローター3は回転部材を構成し、他方側が第1の空洞2bに挿入されて、軸心を中心に第1の空洞2bに回動自在に収容される。第1の空洞2bにはシリコーンオイル等の粘性流体が充填され、ハウジング2とローター3との間に粘性流体が介在させられることで、粘性流体の流動抵抗によって被駆動体に対して制動力が与えられる。
【0020】
図3(a)は回転ダンパ1の縦断面図、図3(b)は回転ダンパ1の縦断面を斜めから見た斜視図である。
【0021】
ローター3も金属やプラスチック等の材質で略中空円筒形状に形成され、中ぐりされた中空内部には第2の空洞3bが形成されている。第2の空洞3bは、第1の空洞2bの底部に面した開口端3cをローター3の他方側に有する。第2の空洞3bには、回転ダンパ1の仕様により、ピストン6や、円筒コイルバネ7等の構成部品が組み込まれる。また、ローター3の外周にはローター3の軸心に対して垂直方向に延びる一対の突起3dが形成されており、これら突起3dはベーン9の各溝9aに差し込まれて嵌合する。ベーン9がこのようにローター3の外周に止着されることで、ローター3の外周にローター3と一体に羽根部が形成される。ローター3はその端部に軸受部材となるブッシュ8が嵌められて、第1の空洞2bに収納される。
【0022】
ローター3が同軸上に組み込まれたハウジング2の第1の空洞2bには、金属やプラスチック等の材質で形成された隔壁10が挿入される。隔壁10は、第1の空洞2bの内部に形成された段差2dに片面の外周縁部が当接して配置される。この隔壁10には、金属やプラスチック等の材質で形成されたリードベーン11が隣接して配置される。リードベーン11と一体になった隔壁10は、キャップ4を介して締結リング5によって片面の外周縁部が段差2dに押さえ込まれ、第1の空洞2bの内部に固定される。キャップ4は、ローター3の一方側を露出させて第1の空洞2bの開口端2cを塞ぐ蓋を構成する。
【0023】
キャップ4の大径部外周に形成された溝には大きな径の細いOリング12が嵌められ、このOリング12がハウジング2の内周に圧接することで、キャップ4の外周とハウジング2の内周との間から粘性流体が漏れるのを防ぐ。また、ローター3の頭部側外周に形成された溝には小さな径の太いOリング13が嵌められ、このOリング13がキャップ4の内周に圧接することで、ローター3の外周とキャップ4の内周との間から粘性流体が漏れるのを防ぐ。
【0024】
図4(a)は、ハウジング2からキャップ4および締結リング5を外した状態における回転ダンパ1をその軸心方向の斜め上方から見た斜視図、図4(b)は、さらにリードベーン11を外した状態における回転ダンパ1を同じ視点から見た斜視図である。
【0025】
図4(b)に示すように、隔壁10には、長楕円形状をした一対の流通穴10a,10bが形成されている。また、図4(a)に示すように、リードベーン11には、一方の流通穴10aを露出させる切り欠き11a、および、他方の流通穴10bを塞ぐ弁部11bが形成されている。弁部11bは粘性流体の流れる方向に応じて流通穴10bを閉じ、または開く。
【0026】
図5は、ハウジング2を破断した回転ダンパ1の内部の側面図である。
【0027】
キャップ4で蓋がされた第1の空洞2bに収容されたローター3の外周と第1の空洞2bの内周との間には、部屋が形成される。隔壁10は、この部屋を、ローター3の軸心方向において、第1の空洞2bの底部側に形成される主室2b1と、キャップ4側に形成される副室2b2とに分ける。主室2b1は、第1の空洞2bの底部側において、隔壁10と第1の空洞2bの底部との間に形成され、副室2b2は、キャップ4側において、隔壁10とキャップ4との間に形成される。
【0028】
図6(a)は、回転ダンパ1を図3(a)のA−A線で破断して矢視方向から見た回転ダンパ1の横断面図、図6(b)は、回転ダンパ1を図3(a)のB−B線で破断して矢視方向から見た回転ダンパ1の横断面図である。
【0029】
図6(a)に示すように、ローター3の外周に設けられるベーン9は、ハウジング2の厚肉部に形成されたウォール部2eと共に、ローター3の軸心の周方向に、主室2b1を第1の圧力室2b11と第2の圧力室2b12とに区画する。ベーン9は回転ダンパ1の中心軸を中心に主室2b1内で円周運動をし、ハウジング2の薄肉部内周を摺接する。この際、ベーン9と反対側の部分のローター3はウォール部2eを摺接する。一の区画の第1の圧力室2b11と他の区画の第2の圧力室2b12との間は、細い流路3eによって連通している。流路3eは、ローター3の外周に帯状に形成された溝によって構成される。
【0030】
第1の圧力室2b11は、図6(b)に示す隔壁10に形成された第1の流通穴10aを介して副室2b2に連通しており、第2の圧力室2b12は第2の流通穴10bを介して副室2b2に連通している。この第2の流通穴10bは図4(a)に示すようにリードベーン11の弁部11bによって塞がれる。
【0031】
ローター3の羽根部に装着されたベーン3および隔壁10に固定されたリードベーン11はベーン機構を構成する。このベーン機構は、ローター3の一方向側、本実施形態では反時計回り側への回動によるベーン9の移動によって、粘性流体の圧力が高まる第2の圧力室2b12に収容される粘性流体に対して、第2の流通穴10bを塞ぐリードベーン11の弁部11bをその流圧によって押し退けさせて、副室2b2および第1の流通穴10aを介して第1の圧力室2b11に流す。このため、ローター3は制動力を受けないで反時計回りに回動し、ローター3に取り付けられた被駆動体は抵抗を受けることなく基体に対して回動する。
【0032】
一方、ベーン機構は、ローター3の他方向側、本実施形態では時計回り側への回動によるベーン9の移動によって、粘性流体の圧力が高まる第1の圧力室2b11に収容される粘性流体に対して、第1の流通穴10aを介して副室2b2に流れ込ませるが、リードベーン11の弁部11bによって第2の流通穴10bを閉じさせて、副室2b2を通過させない。第1の圧力室2b11に収容される粘性流体は、細い流路3eを通じて第2の圧力室2b12に流れる。このため、ローター3は制動力を受けながら時計回りに回動し、ローター3に取り付けられた被駆動体は制動力を受けながら基体に対して回動する。
【0033】
なお、本実施形態では、上述のように、ローター3にベーン9を装着し、リードベーン11を隔壁10に固定するベーン機構について説明しているが、ベーン機構は上述の構成に限定されるものではなく、他の構成であってもよい。
【0034】
また、本実施形態では、図3に示すように、隔壁10の内周に接する部分のローター3に通路3fが形成されている。この通路3fは、ローター3の軸心に垂直な方向に貫通して円筒状に形成され、ローター3に形成される第2の空洞3bとハウジング2に形成される第1の空洞2bとを連通させる。ローター3の外周に開口する通路3fの円形状開口部の直径は隔壁10の厚さよりも小さくされ、通路3fの開口部の面積は、この開口部が接する隔壁10の内周の面積よりも相対的に小さく設定されている。したがって、ローター3の外周に開口する通路3fの開口部は、ローター3がハウジング2に組み込まれて、ローター3の外周に隔壁10が取り付けられることで、隔壁10の内周に覆い尽くされる。
【0035】
このような構成において、回転ダンパ1の組み立て作業は次のように行われる。まず、ベーン9をローター3の外周に止着し、ローター3の胴部の両端部外周にシール部材となるOリング13とブッシュ8を組み付ける。回転ダンパ1の仕様によっては、ピストン6や円筒コイルバネ7等の部品をローター3内の第2の空洞3bに組み込む。次に、図7(a)に示すように、ハウジング2をその開口端2cを上方に向けて水平面上に置き、開口端2cから第1の空洞2bに粘性流体を注入する。そして、各部品を上記のように組み付けたローター3をハウジング2内の第1の空洞2bに挿入する。この際、ローター3b内の第2の空洞3bに残留する気泡14は、通路3fを通って第2の空洞3bから第1の空洞2bへ排出され、ハウジング2の開口端3cから放出される。
【0036】
次に、ハウジング2にリードベーン11を配置した隔壁10を挿入し、隔壁10の片面の外周縁部が段差2dに当接する位置まで、ローター3の外周をガイドとして隔壁10をスライドさせる。隔壁10は、この位置で、図7(b)に示すように、ローター3の外周に開口する通路3fの開口部を塞ぐ。次に、ハウジング2にキャップ4を挿入し、ローター3の外周にキャップ4を配置する。次に、締結リング5をハウジング2の開口端2cに締結し、回転ダンパ1の組み立てを完成する。
【0037】
このような本実施形態の回転ダンパ1によれば、第2の空洞3bと第1の空洞2bとを連通させる通路3fがローター3に形成されているため、粘性流体を収容するハウジング2に形成された第1の空洞2bに、ローター3に形成された第2の空洞3bを向かい合わせて組み込む際、上述のように、第2の空洞3b内に残留する気泡14は通路3fを通じて第1の空洞2b側へ移動する。このため、気泡14は第1の空洞2bの開口端2cから放出されて各空洞2b,3b内に残留しなくなり、回転ダンパ1の動作は気泡14によって阻害されるなくなる。この結果、回転ダンパ1の回動時におけるトルク精度が向上し、回転ダンパ1による被駆動体の制動安定性を高めることが可能になる。また、気泡14を排出するための機器を回転ダンパ1の組立作業中に使う必要が無いので、回転ダンパ1の組立作業を連続して迅速に行うことが可能になる。
【0038】
また、第2の空洞3bと第1の空洞2bとを連通させる通路3fは、隔壁10の内周に接する部分のローター3に形成され、隔壁10の内周と通路3fの開口部とが接する部分では、隔壁10内周とローター3外周との間に摩擦抵抗が生じなくなる。このため、ローター3と隔壁10との間に生じる接線応力が小さくなり、ローター3と隔壁10との摺接抵抗を抑制することが出来る。また、摺接する隔壁10の内周とローター3の外周との間には通路3fを通じて粘性流体が供給され、隔壁10の内周に常に接する粘性流体が潤滑剤の役割を果たす。このため、回転ダンパ1の動作によってローター3と隔壁10との接触面に生じる摩耗が防げ、回転ダンパ1の製品寿命と運転時間とを長くすることが可能になる。
【0039】
また、本実施形態の回転ダンパ1の構成によれば、回転ダンパ1の組み立て後、通路3fの開口部は隔壁10の内周に覆い尽くされて閉塞される。このため、回転ダンパ1の組み立て後、ローター3の第2の空洞3bに収容される粘性流体が通路3fを通じてハウジング2の第1の空洞2b側へ流れて、粘性流体の意図しない流路が形成されるのを防ぐことが出来る。
【0040】
なお、上記の実施形態では、通路3fは、円筒状に1箇所にローター3に形成される場合について説明したが、通路3fの形状または個数を、ローター3と隔壁10との間の所望の摺接抵抗に応じて設定するように構成してもよい。例えば、ローター3と隔壁10との間の所望の摺接抵抗に応じて、通路3fの形状を扁平なスリット形状や三角柱状等にし、通路3fを2〜3箇所等に形成するように構成してもよい。本構成によれば、回転ダンパ1に要求される性能に応じて通路3fの形状または個数が設定され、ローター3と隔壁10との間の摺接抵抗が調整される。このため、所望の摺接抵抗を有する回転ダンパ1を容易に提供することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による回転ダンパ1は、鍵盤楽器における楽器本体に対する鍵盤蓋の開閉制動や、洋式トイレにおける便器本体に対する便座・便蓋の開閉制動、収納棚における棚本体に対する扉の開閉制動などに適用することが出来る。この場合、被駆動体となる鍵盤蓋や、便座・便蓋、扉などの制動を安定して行え、また、各製品の寿命と運転時間とを延ばすことが可能になるといった上述した作用効果が奏される。。
【符号の説明】
【0042】
1…回転ダンパ、2…ハウジング(固定部材)、2a…基体取付部、2b…第1の空洞、2b1…主室、2b11…第1の圧力室、2b12…第2の圧力室、2b2…副室、2c…開口端、2d…段差、2e…ウォール部、3…ローター(回転部材)、3a…被駆動体取付部、3b…第2の空洞、3c…開口端、3d…突起、3e…流路、3f…通路、4…キャップ(蓋)、5…締結リング、6…ピストン、7…円筒コイルバネ、8…ブッシュ、9…ベーン、9a…溝、10…隔壁、10a,10b…流通穴、11…リードベーン、11a…切り欠き、11b…弁部、12,13…Oリング、14…気泡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7