(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559523
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】レンズユニット
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 E
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-186713(P2015-186713)
(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-71367(P2016-71367A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2018年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-196319(P2014-196319)
(32)【優先日】2014年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 知昭
【審査官】
井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−244386(JP,A)
【文献】
特開2002−090603(JP,A)
【文献】
特開2011−059396(JP,A)
【文献】
特開2010−197886(JP,A)
【文献】
特開2009−216774(JP,A)
【文献】
特開2010−078978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズと、
前記複数のレンズを保持するレンズホルダと、
ゴム製の円環状のシール部材と、を有するレンズユニットであって、
前記複数のレンズのうち最も物体側に配設されるレンズである第1レンズはプラスチックレンズであり、
前記第1レンズにおける像側には外径が段状に小さくされた小径部が形成され、
前記小径部の外周面と、該小径部の外周面に対向する前記レンズホルダの内周面である対向面との間には、前記シール部材が装填される間隙であるシール部材収容部が設けられ、
前記シール部材は前記シール部材収容部内において光軸方向にクリアランスを有し、
前記シール部材収容部を区画する前記レンズホルダの内面には、前記シール部材収容部内に張り出して前記シール部材収容部の像側の間隙を狭めることにより、前記シール部材の像側方向への移動を規制するシール部材脱落防止部が形成され、
前記対向面の内径は、前記第1レンズにおける前記小径部よりも物体側の部分である大径部の外径よりも小さく、
前記シール部材収容部の物体側の端面は、前記第1レンズにおける前記大径部の外周面と前記小径部の外周面とを結ぶ径方向に延びる面である段差面により構成され、
前記段差面には、前記シール部材収容部内に張り出す押込部が形成されていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
複数のレンズと、
前記複数のレンズを保持するレンズホルダと、
ゴム製の円環状のシール部材と、を有するレンズユニットであって、
前記複数のレンズのうち最も物体側に配設されるレンズである第1レンズはプラスチックレンズであり、
前記第1レンズにおける像側には外径が段状に小さくされた小径部が形成され、
前記小径部の外周面と、該小径部の外周面に対向する前記レンズホルダの内周面である対向面との間には、前記シール部材が装填される間隙であるシール部材収容部が設けられ、
前記シール部材は前記シール部材収容部内において光軸方向にクリアランスを有し、
前記シール部材収容部を区画する前記レンズホルダの内面には、前記シール部材収容部内に張り出して前記シール部材収容部の像側の間隙を狭めることにより、前記シール部材の像側方向への移動を規制するシール部材脱落防止部が形成され、
前記小径部の外周面は、像側に向かって外径が小さくされた傾斜面であり、
前記傾斜面の光軸方向に対する傾斜角度(θ)は、1°≦θ≦3°であることを特徴とするレンズユニット。
【請求項3】
複数のレンズと、
前記複数のレンズを保持するレンズホルダと、
ゴム製の円環状のシール部材と、を有するレンズユニットであって、
前記複数のレンズのうち最も物体側に配設されるレンズである第1レンズはプラスチックレンズであり、
前記第1レンズにおける像側には外径が段状に小さくされた小径部が形成され、
前記小径部の外周面と、該小径部の外周面に対向する前記レンズホルダの内周面である対向面との間には、前記シール部材が装填される間隙であるシール部材収容部が設けられ、
前記シール部材は前記シール部材収容部内において光軸方向にクリアランスを有し、
前記シール部材収容部を区画する前記レンズホルダの内面には、前記シール部材収容部内に張り出して前記シール部材収容部の像側の間隙を狭めることにより、前記シール部材の像側方向への移動を規制するシール部材脱落防止部が形成され、
前記対向面の内径は、前記第1レンズにおける前記小径部よりも物体側の部分である大径部の外径よりも小さく、
前記シール部材収容部の物体側の端面は、前記第1レンズにおける前記大径部の外周面と前記小径部の外周面とを結ぶ径方向に延びる面である段差面により構成され、
前記段差面に対向する前記対向面の物体側端部は、面取り形状または丸め形状とされていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項4】
前記レンズホルダには、前記第1レンズの前記段差面に対向するとともに前記対向面に繋がる大径平坦面が設けられ、前記大径平坦面の内側端部と前記対向面の物体側端部との間には、前記面取り形状または丸め形状とされた面取り面が形成されており、
前記面取り面が前記大径平坦面とつながる前記面取り面の外端位置は、前記第1レンズの前記小径部に前記シール部材が装着された状態であって、前記対向面によって圧縮される前の状態において、前記シール部材の外周面よりも外側の位置まで形成されていることを特徴とする請求項3に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記シール部材はOリングであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記シール部材収容部の像側の端面は、前記対向面の像側の端から径方向内側に延びる像側端面により構成され、
前記シール部材脱落防止部は、前記像側端面の一部が前記シール部材収容部内に突き出した突出部からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項7】
前記突出部は前記シール部材収容部の全周にわたって形成されていることを特徴とする請求項6に記載のレンズユニット。
【請求項8】
前記シール部材脱落防止部は、前記光軸方向における断面としてみたときに、前記第1レンズの前記小径部の外周面に向かって径方向に延びる平坦面と、前記像側端面から光軸方向に延びる内側面とからなる段部であり、
前記平坦面は、前記小径部の前記外周面と前記レンズホルダの前記対向面との間の径方向間隔に対して半分以上の径方向幅を有するとともに、前記段部の前記光軸方向に延びる前記内側面は、前記小径部の外周面と径方向に対向する位置まで形成されていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のレンズユニット。
【請求項9】
前記段部の前記平坦面によって前記シール部材収容部の前記第1レンズの光軸方向における長さは、前記第1レンズの前記小径部の前記光軸方向における長さよりも小さく設定されていることを特徴とする請求項8に記載のレンズユニット。
【請求項10】
前記シール部材脱落防止部は、前記対向面が像側に向かって径方向内側に張り出した傾斜面であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項11】
前記シール部材収容部における前記シール部材の充填率は85%〜90%であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズユニットに関し、さらに詳しくは、シール部材の脱落防止構造を備えるレンズユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1にはOリングの脱落防止構造を備えるレンズユニットが開示されている。下記特許文献1のレンズユニットは、その複数のレンズのうち最も物体側に配設されるレンズ(11)の小径部(11a)にOリングを装着し、該小径部(11a)の外周面を像側に向かって径方向外側に広がる傾斜面にするなどして、Oリングが像側にずれることを防ごうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−059396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車外に設置され車両周囲の状況を撮像する車載周辺監視カメラは、風雨や塵埃など、過酷な環境条件の下で使用される。そのため、レンズユニットをはじめ、監視カメラを構成する各ユニットには、機構内への異物の侵入を防ぐ手段が備えられる必要がある。
【0005】
Oリングを用いてレンズユニットに防水性能を持たせる場合、最も物体側のレンズ(以下「第1レンズ」ともいう。)がガラスレンズである場合には、
図7(a)に示すような構造をとることが可能である。すなわち、Oリングの上下平面が第1レンズに軸方向に圧縮された状態でこれらがレンズホルダに固定される構造である。
【0006】
このようなレンズユニットでは、一般に、各レンズおよびOリングがレンズホルダに配置された後、レンズホルダの物体側端部に設けられたカシメ部が熱カシメされることによりこれらがレンズホルダ内に固定される。この方法による場合、Oリングを軸方向に圧縮している第1レンズがOリングの反発力により物体側に浮き上がってしまわないよう、治具で第1レンズをレンズホルダに押し付けつつ熱カシメする必要がある。
【0007】
熱カシメをする際には治具にも熱が伝わるため、治具の温度は200度近くまで上昇する。かかる高温の治具により第1レンズが押圧されることから、上記方法においては第1レンズがガラスレンズであることが前提条件とされている。第1レンズがプラスチックレンズの場合、治具が当接した部分が溶融してしまうため、この方法を用いることはできない。
【0008】
第1レンズがプラスチックレンズであるレンズユニットにOリングを装着する構造としては、
図7(b)に示すような、治具による第1レンズの押圧を必要としない構造が考えられる。
図7(b)のレンズユニットでは、Oリングは第1レンズによりその内外径が径方向に圧縮されるため、その反発力により第1レンズが物体側に押動されることはない。プラスチックレンズはガラスレンズに比べ形状の自由度が大きいことからこのような構造が一般に採用されている。
【0009】
図7(b)のレンズユニットにおけるOリングの組み付け方法としては、まず第1レンズにOリングを装着し、その後、Oリングが装着された第1レンズをレンズホルダに嵌め込み、レンズホルダのカシメ部を熱カシメすることとなる。かかる組み付け方法による場合、第1レンズをレンズホルダに圧入する際や、Oリングがレンズホルダに意図せず接触するなどして、Oリングの装着位置がずれてしまうことがある。具体的には、Oリングが装着された第1レンズをレンズホルダに嵌め込むときに、例えば、
図7(b)において、図中左端側のOリングの一部がレンズホルダの平坦面に引っ掛かりを生じ、レンズホルダの内側に入り込まない場合には、Oリングの右端側が半径方向内側に引っ張られてレンズホルダの下側の平坦面との間に挟まれたり、または、第1レンズの下面とレンズホルダの下側の平坦面との間隔が大きい場合にはOリングが脱落するなどの問題を生じやすい。即ち、Oリングの装着位置がずれることにより、Oリングが脱落したり、Oリングが第1レンズとレンズホルダとの間に噛み込まれたりすることがある。
【0010】
また、
図7(b)のレンズユニットは、Oリングの内外径が第1レンズにより径方向に圧縮される構造であるため、Oリングが保持される溝のクリアランスは軸方向に設けられる。円筒面をOリングの内外径でシールする構造は、その組み付け性の観点から、Oリングの上下平面でシールする場合に比べ、Oリングの装着位置にずれが生じやすい構造といえる。よって、レンズホルダにレンズおよびOリングを組み付けた後においても、車外の過酷な環境条件下での使用により、溝内におけるOリングの装着位置がずれ、Oリングに歪曲、捻転、たるみ等が生じ、防水性能が低下するおそれがある。
【0011】
上記問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、最も物体側のレンズがプラスチックレンズであるレンズユニットにおいて、該プラスチックレンズにゴム製の円環状のシール部材が装着されてレンズホルダに組み付けられる際に、シール部材の脱落や噛み込みを防止することができ、また、組み付け後のシール部材に歪曲、捻転、たるみ等が生じることによる防水性能の低下も防止することができるレンズユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のレンズユニットは、複数のレンズと、前記複数のレンズを保持するレンズホルダと、ゴム製の円環状のシール部材と、を有するレンズユニットであって、前記複数のレンズのうち最も物体側に配設されるレンズである第1レンズはプラスチックレンズであり、前記第1レンズにおける像側には外径が段状に小さくされた小径部が形成され、前記小径部の外周面と、該小径部の外周面に対向する前記レンズホルダの内周面である対向面との間には、前記シール部材が装填される間隙であるシール部材収容部が設けられ、前記シール部材は前記シール部材収容部内において光軸方向にクリアランスを有し、前記シール部材収容部を区画する前記レンズホルダの内面には、前記シール部材収容部内に張り出して前記シール部材収容部の像側の間隙を狭めることにより、前記シール部材の像側方向への移動を規制するシール部材脱落防止部が形成され
、前記対向面の内径は、前記第1レンズにおける前記小径部よりも物体側の部分である大径部の外径よりも小さく、前記シール部材収容部の物体側の端面は、前記第1レンズにおける前記大径部の外周面と前記小径部の外周面とを結ぶ径方向に延びる面である段差面により構成され、前記段差面には、前記シール部材収容部内に張り出す押込部が形成されていることを要旨とする。
【0013】
ゴム製の円環状のシール部材が装着された第1レンズをレンズホルダに嵌め込む際に、シール部材の装着位置がずれたとしても、シール部材が脱落する方向であるシール部材収容部の像側にはシール部材脱落防止部が張り出しているため、シール部材はシール部材脱落防止部に当接し、脱落が阻止される。また、これにより第1レンズ嵌め込み時におけるシール部材の歪みも低減されるため、シール部材が第1レンズとレンズホルダの間に噛み込まれにくくなる。さらに、シール部材を径方向に圧縮してその内外径でシールする場合には、シール部材収容部のクリアランスはシール部材の光軸方向に設けられるが、シール部材収容部の像側の間隙はシール部材脱落防止部により狭められていることから、シール部材が像側方向へずれる範囲は制限される。これにより、車外の過酷な環境条件下の使用によってもシール部材の歪曲、捻転、たるみ等を生じにくくさせることができる。
また、第1レンズをレンズホルダに嵌め込む際に、対向面の物体側端部と段差面とが近接する前に押込部が先行してシール部材をシール部材収容部内に押し込むため、対向面の物体側端部と段差面との間にシール部材が噛み込まれることを防止することができる。
【0014】
また、前記シール部材はOリングであることが望ましい。
【0015】
多種多様な規格および寸法のものが広く一般に流通しているため、本発明のレンズユニットに最適なものを安価に安定的に入手可能であり、また適切に装着した際の高い密封性が実証されていることから、シール部材としての信頼性が高いためである。
【0016】
また、前記シール部材収容部の像側の端面は、前記対向面の像側の端から径方向内側に延びる像側端面(水平面)により構成され、前記シール部材脱落防止部は、前記径方向内側に延びる像側端面の一部が前記シール部材収容部内に突き出した突出部からなる構成としても良い。この場合、前記シール部材脱落防止部は、前記光軸方向における断面としてみたときに、前記第1レンズの前記小径部の外周面に向かって径方向に延びる平坦面と、前記像側端面から光軸方向に延びる内側面とからなる段部とすることができ、前記平坦面は、前記小径部の前記外周面と前記レンズホルダの前記対向面との間の径方向間隔に対して半分以上の径方向幅を有するとともに、前記段部の前記光軸方向に延びる前記内側面は、前記小径部の外周面と径方向に対向する位置まで形成されているように構成することができる。また、前記段部の前記平坦面によって前記シール部材収容部の前記第1レンズの光軸方向における隙間の長さは、前記第1レンズの前記小径部の前記光軸方向における長さよりも小さく設定しておくことが好ましい。このように構成すると、シール部材収容部内におけるシール部材のずれを低減することができる。
【0017】
また、前記突出部は前記シール部材収容部の全周にわたって形成される構成とすることが望ましい。
【0018】
突出部がシール部材収容部の一部だけに形成されている場合、突出部のない部分にシール部材が落ち込み、シール部材の歪曲、捻転、たるみ等が生じ、密封性が低下するおそれがあるためである。突出部をシール部材収容部の全周にわたって形成することにより、そのような懸念が払拭される。
【0019】
また、前記小径部の外周面は、像側に向かって外径が小さくされた傾斜面としても良い。
【0020】
また、上記課題を解決するため、本発明のレンズユニットは、複数のレンズと、前記複数のレンズを保持するレンズホルダと、ゴム製の円環状のシール部材と、を有するレンズユニットであって、前記複数のレンズのうち最も物体側に配設されるレンズである第1レンズはプラスチックレンズであり、前記第1レンズにおける像側には外径が段状に小さくされた小径部が形成され、前記小径部の外周面と、該小径部の外周面に対向する前記レンズホルダの内周面である対向面との間には、前記シール部材が装填される間隙であるシール部材収容部が設けられ、前記シール部材は前記シール部材収容部内において光軸方向にクリアランスを有し、前記シール部材収容部を区画する前記レンズホルダの内面には、前記シール部材収容部内に張り出して前記シール部材収容部の像側の間隙を狭めることにより、前記シール部材の像側方向への移動を規制するシール部材脱落防止部が形成され、前記小径部の外周面は、像側に向かって外径が小さくされた傾斜面であり、前記傾斜面の光軸方向に対する傾斜角度(θ)は、1°≦θ≦3°であることを要旨とする。
【0021】
小径部の外周面を像側に向かって外径が小さくなる傾斜面とすることにより、第1レンズのレンズホルダへの組み付けが容易となる。また、あえてシール部材に像側に引き込まれる力を生じさせることにより、第1レンズとレンズホルダとの間にシール部材が噛み込まれにくくすることができる。尚、この場合においても、シール部材脱落防止部によりシール部材の脱落は阻止されるため、組み付けの容易性と防水性能の安定性との両立を図ることができる
。
【0022】
また、前記シール部材脱落防止部は、前記対向面が像側に向かって径方向内側に張り出した傾斜面としても良い。
かかる構成はレンズホルダの金型からの離型性の向上にも資する。
【0023】
また、上記課題を解決するため、本発明のレンズユニットは、複数のレンズと、前記複数のレンズを保持するレンズホルダと、ゴム製の円環状のシール部材と、を有するレンズユニットであって、前記複数のレンズのうち最も物体側に配設されるレンズである第1レンズはプラスチックレンズであり、前記第1レンズにおける像側には外径が段状に小さくされた小径部が形成され、前記小径部の外周面と、該小径部の外周面に対向する前記レンズホルダの内周面である対向面との間には、前記シール部材が装填される間隙であるシール部材収容部が設けられ、前記シール部材は前記シール部材収容部内において光軸方向にクリアランスを有し、前記シール部材収容部を区画する前記レンズホルダの内面には、前記シール部材収容部内に張り出して前記シール部材収容部の像側の間隙を狭めることにより、前記シール部材の像側方向への移動を規制するシール部材脱落防止部が形成され、前記対向面の内径は、前記第1レンズにおける前記小径部よりも物体側の部分である大径部の外径よりも小さく、前記シール部材収容部の物体側の端面は、前記第1レンズにおける前記大径部の外周面と前記小径部の外周面とを結ぶ径方向に延びる面である段差面により構成され、前記段差面に対向する前記対向面の物体側端部は、面取り形状または丸め形状とされていることを要旨とする。
【0024】
本発明のレンズユニットにおいて、シール部材が最も噛み込まれやすい部位は対向面の物体側端部と段差面との対向する部分であるため、対向面の物体側端部の角部を取り除き、かかる対向する部分に隙間を設けることにより、シール部材の噛み込みを効果的に防ぐことができる。この場合、前記レンズホルダには、前記第1レンズの前記段差面に対向するとともに前記対向面に繋がる大径平坦面が設けられ、前記大径平坦面の内側端部と前記対向面の物体側端部との間には、前記面取り形状または丸め形状とされた面取り面を形成しておき、前記面取り面が前記大径平坦面とつながる前記面取り面の外端位置は、前記第1レンズの前記小径部に前記シール部材が装着された状態であって、前記対向面によって圧縮される前の状態において、前記シール部材の外周面よりも外側の位置まで形成されているように構成することが好ましい。このように構成すれば、シール部材の噛み込みを更に確実に防ぐことができる。
【0027】
また、前記シール部材収容部における前記シール部材の充填率は85%〜90%であることが望ましい。
【0028】
充填率をやや高めに設定し、シール部材収容部のクリアランスを必要最小限に抑えることにより、シール部材収容部内におけるシール部材のずれをさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかるレンズユニットによれば、最も物体側のレンズがプラスチックレンズであるレンズユニットにおいて、該プラスチックレンズにゴム製の円環状のシール部材が装着されてレンズホルダに組み付けられる際に、シール部材の脱落や噛み込みを防止することができ、また、組み付け後のシール部材に歪曲、捻転、たるみ等が生じることによる防水性能の低下も防止することができるレンズユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】レンズユニット1の全体構成を示す説明図である。
【
図2】レンズユニット1の点線Aで囲った部分を示す部分拡大図である。
【
図4】レンズユニット11のシール構造を示す部分拡大図である。
【
図5】レンズユニット12のシール構造を示す部分拡大図である。
【
図6】レンズユニット13のシール構造を示す部分拡大図である。
【
図7】第1レンズがガラスレンズのレンズユニットおよびプラスチックレンズのレンズユニットにおけるOリングの装着構造の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明にかかるレンズユニットの実施形態について図面を用いて詳細に説明する。本実施形態におけるレンズユニット1は、広角レンズを備え、車載周辺監視カメラに組み込まれるレンズアッシである。尚、本発明における「物体側」および「像側」とは、
図1に示す光軸L方向における物体側および像側をいい、「軸方向」とは光軸Lに平行する方向、「径方向」とは光軸Lに直交する方向をいう。
【0032】
(全体構成)
レンズユニット1は、
図1に示されるように、光軸Lに沿って配置された第1レンズ21、第2レンズ22、および第3レンズ23の三枚のレンズにより構成される広角レンズ2と、絞り7と、光学フィルター8と、ゴム製の円環状のシール部材であるOリング4と、これらを保持するレンズホルダ3と、からなる。
【0033】
広角レンズ2を構成するレンズのうち最も物体側に配置されるレンズである第1レンズ21は、レンズの物体側の部分である大径部21aと、外径が大径部21aよりも段状に小さくされた像側の部分である小径部21bとからなる凹レンズである。第1レンズ21の像側に位置する第2レンズ22は、第1レンズ21の小径部21bよりもさらに小径の凸レンズであり、第2レンズ22の像側に位置する第3レンズ23は、第2レンズ22よりもやや小径の凸レンズである。第2レンズ22と第3レンズ23との間には絞り7が配置され、これら第1レンズ21、第2レンズ22、第3レンズ23、および絞り7は軸方向に密着して配設されている。これら各レンズには、レンズの加工性および経済性に優れるという点からプラスチックレンズが使用されている。
【0034】
広角レンズ2は、負のパワーを有する第1レンズ21と、正のパワーを有する第2レンズ22および第3レンズ23の、3群3枚で構成される逆望遠型(いわゆるレトロフォーカス型)の単焦点広角レンズであり、135°の視野角を有している。尚、本実施形態におけるレンズユニット1の広角レンズ2は上記三枚のレンズにより構成されているが、これは四枚以上のレンズからなる構成としても良く、また、接合レンズを備える構成としても良い。
【0035】
レンズホルダ3は鏡筒を構成する樹脂製の円筒状の玉枠であり、広角レンズ2を構成する各レンズの外周面に沿いながら、像側に向かって階段状に縮径された内周面を有している。広角レンズ2を構成する各レンズは、その外周面がレンズホルダ3の内周面に支持されることにより径方向に位置決めされ、また、第3レンズ23における像側の面の周縁に形成された環状の平坦部23aが、レンズホルダ3の像側端部において径方向内側に延びる水平面34に載置され、第1レンズ21の物体側の面の周縁がレンズホルダ3の物体側端部に設けられたカシメ部35に係止されることにより、軸方向に位置決めされる。
【0036】
(シール構造)
図2に示されるように、第1レンズ21の小径部21bの外周面21b1と、小径部21bの外周面21b1に対向するレンズホルダ3の内周面である対向面31との間には、Oリング4が装填される間隙であるシール部材収容部6が設けられている。シール部材収容部6に装填されたOリング4は、小径部21bの外周面21b1と対向面31とにより径方向に圧縮され、その内外径で第1レンズ21とレンズホルダ3の隙間をシールしている。シール部材収容部6におけるOリング4の像側には、圧縮等によるOリング4の軸方向への膨張を吸収するクリアランスが設けられている。
【0037】
本実施形態におけるシール部材にはOリング4が用いられているが、これは入手の容易性や経済性の点でOリングが優れているためであり、Oリング4に代えて角リングやいわゆるDリング、Xリングなどを用いることもできる。
【0038】
シール部材収容部6の像側の端面は、レンズホルダ3の対向面31の像側の端から径方向内側に延びる像側端面としての水平面33により構成され、水平面33における対向面31側の端部にはシール部材収容部6内に段状に突き出したシール部材脱落防止部である突出部5が形成されている。突出部5は、光軸方向の断面としてみたとき(
図2参照)、径方向に延びる平坦面5aと光軸方向に延びる内側面5bとからなる段部である。平坦面5aと内側面5bとは、小径部21bの全周を取り囲むように設けられている。平坦面5aは、小径部21bの外周面21b1とレンズホルダ3の対向面31との間の径方向間隔(隙間幅)に対して半分以上の径方向幅を有するように設けられている。内側面5bの高さ(光軸方向の幅)は、小径部21bの底面と外周面21b1との間に形成されるR部の上端付近まで達しており、Oリング4が小径部21bの底面側に移動する力を受けたとしても、その底面側への移動が阻止されるようになっている。尚、突出部5は、像側端面としての水平面33の一部として一体的に形成されている。また、本実施形態における突出部5は、成型性の観点から、その径方向外側の端部が対向面31と一体化されているが、突出部5は必ずしも対向面31と一体化されている必要はなく、対向面31と突出部5との間には隙間が設けられていても良い。また、本実施形態において、平坦面5aは、光軸方向に直交する水平面として形成されているが、光軸方向に対して傾斜させた傾斜面としてもよい。光軸方向に直交する水平面として平坦面5aを形成すると、突出部5を全周にわたって設けた場合、平坦面5aは円環状の水平面となり、また、光軸方向に対して傾斜させた傾斜面として平坦面5aを形成すると、平坦面5aは円錐状の面として形成される。
【0039】
図3に示されるように、水平面33には、金型からレンズホルダ3を離型する際に突出しピンが当接する部位であって、突出しにより生じるバリの高さを相殺するため、わずかに凹形状とされた凹部39が形成されており、突出部5はかかる凹部39を避けながらシール部材収容部6の全周にわたって環状に形成されている。これにより、突出部5のない部分にOリング4が落ち込んで、歪曲、捻転、たるみ等が生じ、密封性が低下することが防止されている。
【0040】
本実施形態におけるレンズユニット1へOリング4を組み付ける際には、まず第1レンズ21の小径部21bにOリング4を装着し、その後、Oリング4が装着された第1レンズ21をレンズホルダ3内に嵌め込むこととなる。第1レンズ21の大径部21aと小径部21bとの間には、大径部21aの外周面と小径部21bの外周面とを結ぶ径方向に延びる環状の平坦面である段差面21cが設けられており、段差面21cに対向するように対向面31に繋がるレンズホルダ3の大径平坦面32が設けられている。例えば、Oリング4が装着された第1レンズ21をレンズホルダ3内に嵌め込むときに、Oリング4の右端側の部分が第1レンズ21の段差面21cとレンズホルダ3の大径平坦面32との間で引っ掛かりを生じ、その結果、Oリング4の左端側の部分が、
図2において、右側に引っ張られたとしても、即ち、第1レンズ21をレンズホルダ3に嵌め込む際にOリング4の装着位置がずれたとしても、Oリング4が脱落する方向であるシール部材収容部6の像側には突出部5が張り出しているため、Oリング4は突出部5に当接し、脱落が阻止される。また、これにより第1レンズ21嵌め込み時におけるOリング4の歪みも低減されるため、Oリング4は第1レンズ21の小径部21bの底面とレンズホルダ3の水平面33との間に噛み込まれにくく、Oリング4が第1レンズ21とレンズホルダ3の間に噛み込まれる問題点が解消される。一方、この場合、Oリング4の左端側の部分が突出部5に当接してその移動は阻止されるので、逆に、Oリング4の右端側の部分は内側に向かう力の作用を受け、Oリング4の右端側の部分の引っ掛かりも解消されることになる。
【0041】
さらに、本実施形態におけるレンズユニット1は、円筒面である第1レンズ21の小径部21bにOリング4が装着され、Oリング4の内外径でシールされる構造であるため、その組み付け性の観点から、上下平面でシールする場合に比べ、Oリング4の装着位置にずれが生じやすい。しかし、突出部5によりシール部材収容部6の像側の間隙が狭められ、シール部材収容部6内におけるOリング4の変位可能範囲が制限されていることから、車外の過酷な環境条件下の使用によってもOリング4のずれによる歪曲、捻転、たるみ等が生じにくくなっている。
【0042】
また、対向面31の内径は、第1レンズ21の大径部21aの外径よりも小さく、シール部材収容部6の物体側の端面は、大径部21aの外周面と小径部21bの外周面とを結ぶ径方向に延びる環状の平坦面である段差面21cにより構成されており、段差面21cと対向する対向面31の物体側端部は、面取り形状とされている。即ち、レンズホルダ3の大径平坦面32の内側端部と対向面31の物体側端部との間には、面取りされた面取り面34が形成されている。
【0043】
レンズユニット1において、Oリング4が最も噛み込まれやすい部位は対向面31の物体側端部(大径平坦面32の内側端部)と段差面21cとの対向する部分であるため、対向面31の物体側端部の角部が面取りされて面取り面34が形成され、かかる対向する部分に隙間が設けられることにより、Oリング4の噛み込みが効果的に防止されている。本実施形態においては、面取り面34を大きく形成することによってOリング4が噛み込まれにくくなっている。具体的には、面取り面34が大径平坦面32とつながる上端位置、即ち、面取り面34の外端位置は、第1レンズ21の小径部21bにOリング4が装着された状態であって、対向面31によって圧縮される前の状態において、Oリング4の外周面よりも外側の位置に形成されている。従って、第1レンズ21の小径部21bにOリング4を装着し、Oリング4が装着された第1レンズ21をレンズホルダ3内に嵌め込むと、Oリング4は必ず面取り面34に当接することになるから、第1レンズ21の段差面21cとレンズホルダ3の大径平坦面32との間で引っ掛かりを生じる問題を解消することができる。
【0044】
本実施形態においては、対向面31の物体側端部の角部には45°の面取り面34が形成されているが、角部の面取りの角度は45°に限られず、Oリング4が噛み込まれにくくなるという効果を奏する範囲において自由に調節可能である。さらに、角部の除去方法も面取りのみに限られず、角部にRを付けて丸めても良い。角部をR面とする場合も、Oリング4が装着された第1レンズ21をレンズホルダ3内に嵌め込んだ時に、Oリング4外周面がR面と当接するようにR面の大きさを設定しておくことが好ましい。
【0045】
尚、突出部5断面の軸方向および径方向の長さは、シール部材収容部6におけるOリング4の充填率が一般的な推奨値よりもやや高めの85%〜90%となるように調整されており、シール部材収容部6内におけるOリング4の変位可能範囲が最小化されている。
【0046】
(他の実施形態)
図4、
図5、
図6は、本発明の他の実施形態に係るシール構造(
図1におけるレンズユニット1の点線Aで囲った部分に相当する部分)の部分拡大断面図である。なお、本形態の基本的な構成は、上記実施形態と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付してそれらの詳細な説明を省略する。
【0047】
図4のレンズユニット11は、
図2の構成に加えて、第1レンズ21の小径部21bの外周面が、像側に向かって外径が小さくなる傾斜面21b2とされている。かかる傾斜面の光軸方向に対する傾斜角度(θ)は、1°≦θ≦3°となるように調整されている。この場合、第1レンズ21の小径部21bの外周面である傾斜面21b2に向かって径方向に延びる平坦面5aは、平坦面5aが形成されている位置において、小径部21bの外周面である傾斜面21b2とレンズホルダ3の対向面31との間の径方向間隔に対して半分以上の径方向幅を有するとともに、内側面5bは、小径部21bの外周面と対向する位置、即ち、小径部21bの外周面を取り囲む位置まで形成されている。
【0048】
小径部21bの外周面を像側に向かって外径が小さくなる傾斜面21b2とすることにより、第1レンズ21のレンズホルダ3への組み付けが容易となり、また、あえてOリング4に像側に引き込まれる力を生じさせやすくすることにより、対向面31の物体側端部と段差面21cとの間にOリング4が噛み込まれにくくなっている。尚、この場合においても、突出部5によりOリング4の脱落は阻止されるため、組み付けの容易性と防水性能の安定性との両立が図られている。また、レンズホルダ3の金型からの離型性にも優れている。
【0049】
図5のレンズユニット12は、段差面21cに、シール部材収容部6内に張り出す環状の押込部21dが形成されている。第1レンズ21のレンズホルダ3への嵌め込み時に、押込部21dが先行してOリング4をシール部材収容部6内に押し込み、対向面31の物体側端部と段差面21cとの間にOリング4が噛み込まれることを防止することができる。
【0050】
図6のレンズユニット13は、シール部材脱落防止部として、突出部5に代えて、対向面31が像側に向かって径方向内側に張り出した傾斜面31aが形成されている。傾斜面31aは、水平面33において凹部39を避けながらシール部材収容部6の全周にわたって環状に形成されており、その効果については突出部5と同様である。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 レンズユニット
11 他の実施形態にかかるレンズユニット
12 他の実施形態にかかるレンズユニット
13 他の実施形態にかかるレンズユニット
2 広角レンズ
21 第1レンズ
21a 第1レンズの大径部
21b 第1レンズの小径部
21c 第1レンズの段差面
21d 段差面の押込部
22 第2レンズ
23 第3レンズ
23a 第3レンズの平坦部
3 レンズホルダ
31 レンズホルダの対向面
33 レンズホルダの水平面
34 レンズホルダの水平面
35 レンズホルダのカシメ部
39 レンズホルダの凹部
4 Oリング
5 突出部
6 シール部材収容部
7 絞り
8 光学フィルター