特許第6559544号(P6559544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6559544-超砥粒工具の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559544
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】超砥粒工具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/06 20060101AFI20190805BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20190805BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20190805BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20190805BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   B24D3/06 B
   B24D3/00 340
   B24D3/00 320B
   C23C18/52 A
   C25D7/00 D
   C25D15/02 F
   C25D15/02 L
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-219487(P2015-219487)
(22)【出願日】2015年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-87336(P2017-87336A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100142239
【弁理士】
【氏名又は名称】福富 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋祐
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−149811(JP,A)
【文献】 特開2015−178425(JP,A)
【文献】 特開2006−225730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00 − 3/10
C23C 18/52
C25D 7/00
C25D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に超砥粒をめっき層により固着した超砥粒工具の製造方法であって、
硫酸濃度が98質量%の濃硫酸と硝酸濃度が98質量%の濃硝酸とを10:90〜50:50の体積比(硫酸:硝酸)で含む混酸中に超砥粒を分散させ、350℃以上500℃以下の加熱温度で加熱する混酸加熱処理工程と、
前記混酸加熱処理を施した超砥粒を含むめっき液に基材を浸漬してめっき処理を施すことにより、該基材の表面に前記超砥粒をめっき層により固着するめっき処理工程と
を包含する、超砥粒工具の製造方法。
【請求項2】
前記混酸加熱処理工程における加熱時間が30分〜240分である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記めっき処理工程は、前記めっき液を40rad/s〜160rad/sの攪拌速度で攪拌しながら行われる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記めっき液は、クエン酸を含む、請求項1〜3の何れか一つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記超砥粒の平均粒子径が0.01μm〜1μmである、請求項1〜4の何れか一つに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に超砥粒をめっき層により固定した超砥粒工具を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超砥粒工具(典型的には電着工具)は、例えば、ダイヤモンド、CBNなどの超砥粒を金属めっき層によって縦型形状、カップ形状、円盤形状などの基材(台金)の表面に固着した工具であり、超硬合金、セラミック、ガラス、半導体材料、鋳鉄、各鋼などの精密研削用工具として用いられている。この種の超砥粒工具は、上記超砥粒を分散させたメッキ液内に上記基材を浸漬し、該基材の表面に超砥粒をニッケルなどの金属めっきを用いて固着することにより形成されている(例えば特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−225730号公報
【特許文献2】特開2001−107260号公報
【特許文献3】特開2010−36298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の超砥粒工具においては、切れ味を良好にするため、基材表面に固着された超砥粒の固着密度(析出量)が密であることが要求されている。超砥粒の固着密度を高める方法としては、例えば基材を浸漬しためっき液中に超砥粒を大量に添加することが考えられる。しかし、単純に超砥粒の添加量を増やすだけでは、超砥粒の添加量に対して、基材に固着する超砥粒の割合が著しく低く、電着効率が悪い。また、基材に固着しなかった大量の超砥粒は、回収して再利用する必要があるため、再利用のためのコストがかかるという欠点もある。この点について、特許文献1には、ナノダイヤモンド粒子を懸濁しためっき浴を、酸素を含有する気体で攪拌することで、大量のナノダイヤモンド粒子を金属マトリクス中に分散させる技術が記載されている。しかし、このような技術によっても、超砥粒の固着密度に関する近年の要求レベルを十分に満足させるには不十分であり、なお改善の余地がある。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、基材の表面に超砥粒が高密度に固着した超砥粒工具を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、基材の表面に超砥粒をめっき層により固着する超砥粒工具の製造方法において、使用する超砥粒を濃硫酸と濃硝酸とを含む混酸中であらかじめ加熱処理することにより超砥粒の固着密度(析出量)を高めることに思い至り、さらに従来に比して濃硫酸の含有率を大幅に減らした混酸を用いることで、基材表面に超砥粒がより高密度に固着した超砥粒工具が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明によって提供される超砥粒工具の製造方法は、基材の表面に超砥粒をめっき層により固定した超砥粒工具を製造する方法である。この製造方法は、濃硫酸と濃硝酸とを10:90〜50:50の体積比で含む混酸中に超砥粒を分散させて加熱する混酸加熱処理工程を包含する。また、前記混酸加熱処理を施した超砥粒を含むめっき液に基材を浸漬してめっき処理を施すことにより、該基材の表面に前記超砥粒をめっき層により固着するめっき処理工程を包含する。かかる態様の製造方法によれば、基材の表面に超砥粒が高密度に固着した超砥粒工具を製造することができる。
【0008】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記混酸加熱処理工程における加熱温度が300℃〜500℃であり、加熱時間が30分〜240分である。このような加熱温度および加熱時間の範囲内であると、超砥粒の固着密度がより良く向上し得る。
【0009】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記めっき処理工程は、前記めっき液を40rad/s〜140rad/s(例えば40rad/s〜60rad/s)の攪拌速度で攪拌しながら行われる。めっき液の攪拌速度を上記範囲内にすることで、基材表面に超砥粒がより高密度に固着された超砥粒工具を製造することができる。
【0010】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記めっき液は、クエン酸を含む。めっき液にクエン酸を含有させることにより、砥石として使用しても超砥粒の脱落が少ない長寿命な超砥粒工具を製造することができる。
【0011】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、前記超砥粒の平均粒子径が0.01μm〜1μmである。このような超砥粒の平均粒子径の範囲内であると、より高性能な超砥粒工具を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る超砥粒工具の製造フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、超砥粒工具の製造方法)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(基材の成形方法、超砥粒の合成方法など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。本明細書において「超砥粒工具」とは、基材の表面に超砥粒をめっき層により固着した工具(例えば電着工具)をいう。
【0014】
ここに開示される製造方法は、基材の表面に超砥粒をめっき層により固着した超砥粒工具の製造方法に関するものである。図1を参照しつつ本実施形態に係る超砥粒工具の製造方法について説明する。
【0015】
本実施形態に係る超砥粒工具は、図1に示すように、混酸加熱処理工程(ステップS10)とめっき処理工程(ステップS20)とを経て製造することができる。混酸加熱処理工程には、濃硫酸と濃硝酸とを10:90〜50:50の体積比で含む混酸中に超砥粒を分散させて加熱することが含まれる。また、めっき処理工程には、混酸加熱処理を施した超砥粒を含むめっき液に基材を浸漬してめっき処理を施すことが含まれる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0016】
<混酸加熱処理工程>
ステップS10の混酸熱処理工程では、濃硫酸と濃硝酸とを10:90〜50:50の体積比で含む混酸中に超砥粒を分散させて加熱する。
【0017】
<超砥粒>
使用する超砥粒としては、従来から超砥粒工具に用いられているものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、ダイヤモンド、CBN(立方晶硼素)などの超砥粒を好ましく使用することができる。ダイヤモンド砥粒としては、合成ダイヤモンド(人工的に作られたダイヤモンド)や天然ダイヤモンド等が用いられる。また、これらの混合物から形成された超砥粒であってもよい。特にダイヤモンド砥粒の使用が好ましい。使用する超砥粒の形状(外形)は特に限定されず、不規則形状(例えばニードル状、フラット状、ブロッキー状、キューブ状)のものや、球形又はそれに近い形状の超砥粒を好適に使用することができる。かかる超砥粒としては、レーザー散乱法に基づく平均粒子径が概ね0.01μm〜1μmのものが適当であり、また平均粒径が0.05μm〜0.9μmであるものが好適であり、0.1μm〜0.8μmであるものがさらに好ましく、0.4μm〜0.6μmであるものが特に好ましい。
【0018】
<混酸>
上記混酸熱処理工程で用いられる混酸は、少なくとも濃硫酸と濃硝酸とを混合した酸(混酸)である。ここでいう濃硫酸とは、硫酸の濃度が90質量%以上(概ね90質量%〜100質量%、例えば90質量%〜99質量%、典型的には95質量%〜99質量%、例えば98質量%〜99質量%)の硫酸液をいう。また、濃硝酸とは、硝酸の濃度が55質量%以上(概ね55質量%〜100質量%、例えば55質量%〜99質量%、典型的には60質量%〜99質量%、例えば95質量%〜99質量%、典型的には98質量%〜99質量%)の硝酸水溶液をいう。上記混酸は、硫酸および硝酸以外の酸を含んでもよいし、含まなくてもよい。硫酸および硝酸以外の酸としては、塩酸、リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、スルファミン酸等の無機酸が例示される。実質的に濃硫酸および濃硝酸のみからなる混酸の使用が好ましい。
【0019】
上記混酸中での濃硫酸と濃硝酸との体積比は、概ね10:90〜50:50の範囲であり、好ましくは20:80〜50:50であり、より好ましくは25:75〜50:50であり、さらに好ましくは40:60〜50:50である。濃硫酸と濃硝酸との体積比を10:90〜50:50とした混酸中に超砥粒を分散させて加熱することで、後述するめっき処理工程おいて超砥粒の固着密度(析出量)が向上する。このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、濃硫酸と濃硝酸との体積比を10:90〜50:50とした混酸中に超砥粒を分散させて加熱することで、超砥粒の表面に親水性が適度に付与される。このことが、めっき処理工程での超砥粒の固着密度(析出量)向上に寄与するものと考えられる。
【0020】
上記混酸中における硫酸の含有量は、超砥粒の固着密度向上の観点から、概ね150g/L〜1000g/Lにすることが適当であり、好ましくは300g/L〜900g/L、より好ましくは500g/L〜900g/Lである。また、上記混酸中における硝酸の含有量は、超砥粒の固着密度向上の観点から、500g/L〜1500g/Lにすることが適当であり、好ましくは600g/L〜1200g/L、より好ましくは700g/L〜1000g/Lである。
【0021】
<混酸加熱処理>
上記混酸熱処理工程においては、上記混酸中に前記超砥粒を分散させて加熱する混酸加熱処理が行われる。加熱温度は特に限定されるものではないが、濃硝酸の沸点以上の温度であることが好ましく、例えば300℃以上であり、好ましくは320℃以上、より好ましくは350℃以上である。また、加熱温度は、濃硫酸の沸点以下の温度であることが好ましく、例えば500℃以下であり、好ましくは480℃以下、より好ましくは450℃以下である。このような加熱温度の範囲内であると、後述するめっき処理工程おいて基材表面に超砥粒をより高密度に固着することができる。加熱時間は特に限定されるものではないが、例えば30分以上で充分であり、好ましくは50分以上、より好ましくは60分以上である。加熱時間を30分以上とすることで、超砥粒の表面に適度な親水性を付与することができる。その一方で、加熱時間が長すぎると、上記親水性付与効果が鈍化傾向になることに加えて、処理効率も低下するためメリットがあまりない。加熱時間は例えば240分以下、好ましくは120分以下、より好ましくは80分以下である。このような加熱時間の範囲内であると、後述するめっき処理工程おいて基材表面に超砥粒をより高密度に固着することができる。なお、上記混酸加熱処理を効率よく行う観点から、混酸中で超砥粒をより細かく分散させる処理、例えば超音波処理を事前に行っていてもよい。上記混酸熱処理工程の後、水で洗浄して超砥粒に付着した混酸を洗い流し、分離・乾燥することで、混酸加熱処理された超砥粒を得ることができる。
【0022】
<めっき処理工程>
ステップS20のめっき処理工程では、上記混酸加熱処理を施した超砥粒を含むめっき液に基材を浸漬してめっき処理を施すことにより、該基材表面に超砥粒をめっき層により固着する。
【0023】
<基材>
上記めっき処理の対象となり得る基材(台金)の材質は特に限定されない。この種の超砥粒工具に用いられる材質の基材であれば特に制限なく用いることができる。例えば、銅、アルミニウム、鋼、超硬合金、モリブデン、モリブデン合金、サーメット、チタンなどの金属、セラミックス、プラスチック等の材質の基材を好適に使用し得る。また、上記めっき処理の対象となり得る基材(台金)の形状は特に限定されない。縦型形状、カップ形状、円盤形状などの種々の形状の基材を好適に使用し得る。
【0024】
<めっき液>
めっき液は、溶媒と、前述した混酸加熱処理を施した超砥粒と、めっき層を構成する金属元素とを含み得る。この金属元素は典型的には金属イオンの形態であり得る。かかる金属元素としては、超砥粒工具の用途に応じて適宜材料を選択することができる。例えば、めっき層を構成する金属元素として、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、銅(Cu)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)等のうちの1種または2種以上が挙げられる。また、かかる金属元素のほかに、非金属元素が含まれてもよい。例えば、リン(P)、硫黄(S)、ホウ素(B)などの元素が含まれてもよい。めっき層を構成する材料の好適例として、Ni,Ni−S合金、Ni−P合金、Ni−Co合金などが例示される。上記金属元素は、これらを構成元素とする各種の塩の形態でめっき液に添加され得る。塩の例としては、上述した金属元素を構成元素とする無機酸塩(例えば硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩)、有機酸塩(例えば酢酸塩)、水酸化物、酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。これらの塩の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
めっき液中の金属元素(該金属元素を構成元素とする塩)の含有量は特に限定されないが、超砥粒を強固に保持する観点から、概ね0.01モル/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.03モル/L以上、さらに好ましくは0.05モル/L以上、特に好ましくは0.08モル/L以上である。また、めっき液中の金属元素の含有量は、概ね5モル/L以下であることが好ましく、より好ましくは1モル/L以下、さらに好ましくは0.5モル/L以下、特に好ましくは0.2モル/L以下である。
【0026】
めっき液に用いられる溶媒としては、水系溶媒の使用が好ましい。水系溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が好ましく用いられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒成分としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の80質量%以上(より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒が挙げられる。
【0027】
めっき液には、必要に応じて錯化剤を含有させることができる。錯化剤としては、クエン酸、マロン酸、酒石酸、乳酸、グリシン、イミノ酢酸、リンゴ酸、グリコール酸、ジグリコール酸、アスコルビン酸およびその金属塩、もしくはアンモニウム塩等が挙げられる。これらの錯化剤の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、クエン酸またはその塩の使用が好ましい。クエン酸塩の具体例としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムなどのアルカリ金属塩が挙げられる。このような錯化剤を含有させることによって、電着された超砥粒とめっき層との密着力が向上し、加工時の超砥粒の脱落が少ない、長寿命の超砥粒工具を得ることができる。
【0028】
めっき液中の錯化剤の含有量は、目的とするめっき膜の種類や膜厚等に応じて適宜変更し得るが、耐久性向上の観点から、概ね0.03モル/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1モル/L以上、さらに好ましくは0.15モル/L以上、特に好ましくは0.25モル/L以上である。また、めっき液中の錯化剤の含有量は、概ね3モル/L以下であることが好ましく、より好ましくは1モル/L以下、さらに好ましくは0.8モル/L以下、特に好ましくは0.5モル/L以下である。このような錯化剤の含有量の範囲内であると、本発明の効果がより好適に発揮され得る。
【0029】
めっき液のpHは、例えば8以上、典型的には9以上(例えば9.5以上)とすることができる。また、めっき液のpHは、例えば12以下、典型的には11以下(例えば10.5以下)とすることができる。前記混酸加熱処理された超砥粒を、このようなpHを有するめっき液において用いることで、本発明の効果がより好適に発揮され得る。
【0030】
ここに開示されるめっき液は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、各種の添加材を副成分として含有することができる。そのような添加剤としては、pH調整剤、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、防腐剤等が例示される。例えばpH調整剤の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性化合物が例示される。
【0031】
<めっき処理>
めっき処理工程においては、前記超砥粒を分散させためっき液に基材を浸漬してめっき処理を施す。このめっき処理は、電解めっき処理であってもよいし、無電解めっき処理であってもよい。好ましくは電解めっき処理である。めっき液に分散させる超砥粒の量は特に限定されないが、超砥粒の固着密度向上の観点から、概ね0.5g/L以上であることが好ましく、より好ましくは1g/L以上、さらに好ましくは3g/L以上、特に好ましくは5g/L以上である。また、めっき液に分散させる超砥粒の量は、概ね20g/L以下であることが好ましく、より好ましくは15g/L以下、さらに好ましくは10g/L以下、特に好ましくは8g/L以下である。
【0032】
ここで開示される好ましい技術では、上記めっき処理は、上記めっき液を攪拌しながら行われる。めっき液を攪拌しながらめっき処理を行うことにより、基材表面に超砥粒をより高密度に固着することができる。めっき液を攪拌する手段としては、スターラー等の攪拌手段が例示される。攪拌速度としては特に限定されないが、超砥粒の固着密度向上の観点から、概ね20rad/s以上にすることが適当であり、好ましくは30rad/s以上、より好ましくは40rad/s以上、さらに好ましくは50rad/s以上である。また、めっき処理中の攪拌速度は、概ね200rad/s以下にすることが適当であり、好ましくは160rad/s以下である。例えば、攪拌速度は、100rad/s以下であってもよく、典型的には80rad/s以下(例えば70rad/s以下、典型的には60rad/s以下)であってもよい。ここで開示される技術は、上記攪拌速度が40rad/s〜160rad/s(例えば40rad/s〜60rad/s)である態様で好ましく実施され得る。
【0033】
上記めっき処理が電解めっき処理である場合、電流密度としては、特に限定されないが、超砥粒の固着密度向上の観点から、概ね0.5A/dm以上にすることが適当であり、好ましくは1A/dm以上、より好ましくは3A/dm以上である。また、電解めっき処理の電流密度は、概ね20A/dm以下にすることが適当であり、好ましくは12A/dm以下、より好ましくは8A/dm以下である。このような電流密度の範囲内であると、基材の表面にめっき層を効率よく形成することができる。
【0034】
上記めっき処理により形成されるめっき層の厚みは特に限定されない。めっき層の厚みは、超砥粒を強固に保持する観点から、超砥粒の平均粒子径の1/8以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましく、1/4以上であることがさらに好ましく、1/3以上であることが特に好ましい。また、めっき層の厚みは、超砥粒工具の切れ味を良好にする観点から、超砥粒の平均粒子径の2/3以下であることが好ましく、3/5以下であることがより好ましく、1/2以下であることがさらに好ましい。めっき層の厚みの具体例としては、概ね0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.15μm以上である。また、めっき層の厚みの具体例としては、概ね3μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。このようなめっき層の厚みの範囲内であると、超砥粒工具の切れ味を良好に保ちつつ、超砥粒が脱落し難い超砥粒工具とすることができる。
【0035】
このようにして、基材の表面に超砥粒をめっき層により固着した超砥粒工具を製造することができる。
【0036】
<超砥粒工具>
ここに開示される超砥粒工具は、濃硫酸と濃硝酸とを10:90〜50:50の体積比で含む混酸中に超砥粒を分散させて加熱する混酸加熱処理工程と、該混酸加熱処理された超砥粒を含むめっき液に基材を浸漬してめっき処理を施すことにより、該基材の表面に超砥粒をめっき層により固着するめっき処理工程とを経て製造されたものである。そのため、得られた超砥粒工具は、基材の表面に超砥粒が高密度に固着したものとなり得る。典型的には、基材表面に形成されためっき層と超砥粒との合計容量(体積)を100容量%とした場合に、超砥粒の含有量が15容量%以上(例えば15容量%〜40容量%)、好ましくは18容量%以上(例えば18容量%〜30容量%)、より好ましくは20容量%以上、さらに好ましくは25容量%以上、特に好ましくは28容量%以上である。このように基材表面に超砥粒が高含有量(高密度)に保持された超砥粒工具は、良好な切れ味を発揮し得る。
【0037】
好ましい一態様では、上記超砥粒工具は、クエン酸などの錯化剤を含むめっき液に基材を浸漬してめっき処理を施すことにより製造されたものである。そのため、砥石等として使用しても超砥粒の脱落が少ない長寿命な超砥粒工具であり得る。例えば、後述する擦り付け試験前後における走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)画像から把握される超砥粒の残存率が25%以上(例えば25%〜100%)、より好ましくは35%以上(例えば35%〜90%)、さらに好ましくは50%以上(例えば50%〜80%)、特に好ましくは60%以上を示すものであり得る。
【0038】
ここで開示される超砥粒工具の好適例として、上記超砥粒の含有量が15容量%〜40容量%であり、かつ、上記擦り付け試験前後の超砥粒残存率が25%〜100%であるもの;上記超砥粒の含有量が20容量%〜35容量%であり、かつ、上記擦り付け試験前後の超砥粒残存率が40%〜90%であるもの;上記超砥粒の含有量が25容量%〜35容量%であり、かつ、上記擦り付け試験前後の超砥粒残存率が50%〜80%であるもの;等が挙げられる。
【0039】
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0040】
本例では、基材の表面に超砥粒をめっき層により固着した超砥粒工具を作製し、超砥粒の析出量および耐久性を評価した。ここでは、超砥粒としてダイヤモンド砥粒を使用し、めっき層を構成する材料としてニッケルを使用した。
【0041】
<試験例1>
(例1)
濃硫酸(硫酸濃度98質量%)と濃硝酸(硝酸濃度98質量%)とを10:90の体積比で混合した混酸中に超砥粒としてのダイヤモンド砥粒(平均粒子径0.5μm)を分散させ、400℃で60分間加熱する混酸加熱処理を行った。また、錯化剤としてのクエン酸ナトリウムと、硫酸ニッケルとを混合して、クエン酸ナトリウムを0.3モル/L、硫酸ニッケルを0.1モル/L含むめっき液を調製した。めっき液のpHは、水酸化ナトリウムを用いて10となるように調整した。このめっき液に上記混酸加熱処理を施したダイヤモンド砥粒5g/L分散させ、銅製の基材を浸漬し、めっき液をマグネチックスクーラーで攪拌しながら電解めっき処理を施すことにより、基材の表面にダイヤモンド砥粒をニッケルめっき層により固着した電着砥石を作製した。ここではめっき液の攪拌速度を140rad/s、電流密度を5A/dmとした。また、ニッケルめっき層の厚みは、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径の1/3程度となるように調整した。
【0042】
(例2)
本例では、混酸における濃硫酸と濃硝酸との体積比を25:75に変更したこと以外は例1と同じ手順で電着砥石を作製した。
【0043】
(例3)
本例では、混酸における濃硫酸と濃硝酸との体積比を50:50に変更したこと以外は例1と同じ手順で電着砥石を作製した。
【0044】
(例4)
本例では、混酸における濃硫酸と濃硝酸との体積比を75:25に変更したこと以外は例1と同じ手順で電着砥石を作製した。
【0045】
(例5)
本例では、混酸における濃硫酸と濃硝酸との体積比を90:10に変更したこと以外は例1と同じ手順で電着砥石を作製した。
【0046】
各例の電着砥石について、ニッケルめっき層とダイヤモンド砥粒との合計を100容量%とした場合におけるダイヤモンド砥粒の含有量を測定した。ダイヤモンド砥粒の含有量は、得られたニッケルめっき層を硝酸で溶解し、基材から剥がれたダイヤモンド砥粒を遠心分離により沈降させ、乾燥後質量を測定することにより把握した。結果を表1の「超砥粒の含有量」欄に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、例1〜5は、混酸加熱処理に用いた混酸中における濃硫酸と濃硝酸の体積比が異なる。濃硫酸と濃硝酸の体積比を10:90〜50:50とした例1〜3は、濃硫酸と濃硝酸の体積比を75:25〜90:10とした例4、5に比べて、ダイヤモンド砥粒の含有量が多く、より良好な結果が得られた。この結果から、濃硫酸と濃硝酸の体積比を10:90〜50:50とした混酸中で混酸加熱処理を施すことによって、基材表面に超砥粒をより高密度に固着し得ることが確認された。
【0049】
<試験例2>
本例では、上述した電着砥石作製過程において、めっき液の攪拌速度、錯化剤の種類、混酸加熱処理の有無を異ならせて電着砥石を作製した。各例について、めっき液の攪拌速度、錯化剤の種類、混酸加熱処理の有無を表2に纏めて示す。なお、例6〜9、12〜15では、混酸における濃硫酸と濃硝酸との体積比は50:50で一定とした。
【0050】
各例の電着砥石について、ニッケルめっき層とダイヤモンド砥粒との合計を100容量%とした場合におけるダイヤモンド砥粒の含有量を測定した。
また、各例の電着砥石をガラス板に23g/cm、600回の条件で擦り付ける擦り付け試験を行い、擦り付け試験前後における電着砥石表面のSEM画像から、超砥粒の残存率を算出した。そして、得られた算出値が50%以上のものを「○」、25%以上50%未満のものを「△」、25%未満のものを「×」と評価した。結果を表2の「耐久性」欄に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、混酸加熱処理を行った例6、9は、混酸加熱処理を行わなかった例10、11に比べてダイヤモンド砥粒の含有量が多く、より良好な結果が得られた。この結果から、濃硫酸と濃硝酸との混酸中で加熱処理を施すことによって、超砥粒の固着密度(析出量)を向上し得ることが確かめられた。また、めっき液の攪拌速度を40rad/s〜60rad/sとした例6、7は、例8、9に比べると、ダイヤモンド砥粒の含有量がさらに多かった。超砥粒の固着密度の観点からは、めっき液の攪拌速度は40rad/s〜60rad/sとすることが好ましい。また、錯化剤としてクエン酸ナトリウムを用いた例6〜11は、例12〜15に比べると、擦り付け前後の超砥粒残存率がより高く、耐久性が向上していた。耐久性の観点からは、錯化剤としてクエン酸を用いることが好ましい。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
図1