特許第6559568号(P6559568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559568
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ウェルからの拘束液体の抽出
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   C12M1/00 Z
【請求項の数】36
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-541936(P2015-541936)
(86)(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公表番号】特表2016-508025(P2016-508025A)
(43)【公表日】2016年3月17日
(86)【国際出願番号】US2013069214
(87)【国際公開番号】WO2014074863
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年11月8日
(31)【優先権主張番号】61/724,118
(32)【優先日】2012年11月8日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/777,459
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500481499
【氏名又は名称】タカラ バイオ ユーエスエー, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリスウォルド ブラッドレイ エル.
(72)【発明者】
【氏名】フセイン サイド エー.
(72)【発明者】
【氏名】モティ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ドン ウェスリー ビー.
(72)【発明者】
【氏名】コットゥーリ ゴポール
(72)【発明者】
【氏名】ダン ジュード
(72)【発明者】
【氏名】リン フィリップ
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第1999/051349(WO,A1)
【文献】 米国特許第06083761(US,A)
【文献】 国際公開第2003/028878(WO,A1)
【文献】 特表2011−506998(JP,A)
【文献】 特開2011−062119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ中のオープンウェルから、拘束液体を除去する方法であって、 a) チップに取り付けられた1つの抽出器具を備える、アセンブリを提供することであって、
i) 前記チップは、基板と、前記基板中に形成される複数の物理的に分離されたオープンウェルとを備え、前記複数のオープンウェルは、拘束液体を含有し、
ii) 前記1つの抽出器具は、前記拘束液体のうち、前記複数のオープンウェルから押し出されるどの放出液体も、前記1つの抽出器具によって回収されるように、前記チップに取り付けられ、
アセンブリを提供することと、
b) 前記拘束液体の少なくとも一部分が、前記チップのオープンウェルから流出することで、前記放出液体となって、前記一つの抽出器具によって回収され、且つ、当該一つの抽出器具に回収された前記放出液体が、前記一つの抽出器具によって保持されるか、または、前記一つの抽出器具を通って流動するように、前記アセンブリを力に供することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記力は、求心力、遠心力、真空力、および運動の急停止からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記力は、遠心分離機によって生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つの抽出器具は、抽出器具基部を備え、前記抽出器具基部は、流体を回収するように寸法決定される、円錐部分を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つの抽出器具は、抽出器具基部を備え、前記抽出器具基部は、i)前記チップを保持するように寸法決定される、ポケット構成要素と、ii)流体を回収するように寸法決定される、円錐部分と、iii)ガスケットを保持するように寸法決定される、ガスケットトラックと、を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記放出液体が、前記1つの抽出器具によって保持される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
基部保持構成要素をさらに提供し、前記基部保持構成要素は、前記チップに隣接して前記1つの抽出器具を保持するように寸法決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基部保持構成要素に載置される、少なくとも1つの回収管をさらに備え、前記放出液体は、前記1つの抽出器具を通って、前記少なくとも1つの回収管に流入する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つの抽出器具は、前記チップに取り付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記拘束液体の少なくとも35%が前記放出液体になる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記拘束液体は、表面張力拘束液体である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記複数のオープンウェルのそれぞれは、0.1ナノリットル〜500ナノリットルの間の体積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記複数のオープンウェルのそれぞれは、1.0ナノリットル〜250ナノリットルの間の体積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記複数のオープンウェルは、少なくとも3つのオープンウェルである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記複数のオープンウェルは、少なくとも1000個のオープンウェルである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
システムであって、
a) チップであって、前記チップは、基板と、前記基板中に形成される複数の物理的に分離されたオープンウェルとを備え、前記複数のオープンウェルは、拘束液体を含有する、チップと、
b) アセンブリを形成するために、前記チップに取り付けられるように寸法決定される、1つの抽出器具であって、さらに、前記複数のオープンウェル中に存在する前記拘束流体のうち、前記複数のオープンウェルから押し出された放出液体が、前記1つの抽出器具によって回収され、且つ、当該1つの抽出器具に回収された前記放出液体が、前記1つの抽出器具によって保持されるか、または、前記1つの抽出器具を通って流動するように、寸法決定される、少なくとも1つの抽出器具と、
を備える、システム。
【請求項17】
さらに、c)前記アセンブリに力を印加するように構成されるデバイスを備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記デバイスは、遠心分離機を備える、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記1つの抽出器具は、抽出器具基部を備え、前記抽出器具基部は、流体を回収するように寸法決定される、円錐部分を備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記1つの抽出器具は、抽出器具基部を備え、前記抽出器具基部は、i)前記チップを保持するように寸法決定される、ポケット構成要素と、ii)流体を回収するように寸法決定される、円錐部分と、iii)ガスケットを保持するように寸法決定される、ガスケットトラックと、を備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項21】
前記放出液体は、前記1つの抽出器具によって保持される、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
基部保持構成要素をさらに提供し、前記基部保持構成要素は、前記チップに隣接して、前記1つの抽出器具を保持するように寸法決定される、請求項16に記載のシステム。
【請求項23】
前記基部保持構成要素に載置される、少なくとも1つの回収管をさらに備え、前記放出液体は、前記1つの抽出器具を通って、前記少なくとも1つの回収管に流入する、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記1つの抽出器具は、前記チップに取り付けられる、請求項16に記載のシステム。
【請求項25】
前記複数のオープンウェルのそれぞれは、0.1ナノリットル〜500ナノリットルの間の体積を有する、請求項16に記載のシステム。
【請求項26】
前記複数のオープンウェルは、少なくとも1000個のオープンウェルである、請求項16に記載のシステム。
【請求項27】
前記拘束液体は、表面張力拘束液体である、請求項16に記載のシステム。
【請求項28】
アセンブリを形成するために、チップに取り付けられるように寸法決定される、抽出器具を備える、製造物品であって、
前記チップは、基板と、前記基板中に形成される複数の物理的に分離されたオープンウェルとを備え、前記複数のオープンウェルは、拘束液体を含有し、
前記抽出器具はさらに、前記複数のオープンウェル中に存在する前記拘束液体のうち、前記複数のオープンウェルから押し出された放出液体が、前記抽出器具によって回収され、且つ、当該抽出器具に回収された前記放出液体が、前記抽出器具によって保持されるか、または、前記抽出器具を通って流動するように、寸法決定される、製造物品。
【請求項29】
前記抽出器具は、抽出器具基部を備え、前記抽出器具基部は、流体を回収するように寸法決定される、円錐部分を備える、請求項28に記載の物品。
【請求項30】
前記抽出器具は、抽出器具基部を備え、前記抽出器具基部は、i)前記チップを保持するように寸法決定される、ポケット構成要素と、ii)流体を回収するように寸法決定される、円錐部分と、iii)ガスケットを保持するように寸法決定される、ガスケットトラックとを備える、請求項28に記載の物品。
【請求項31】
前記放出液体は、前記抽出器具によって保持される、請求項30に記載の物品。
【請求項32】
基部保持構成要素をさらに提供し、前記基部保持構成要素は、前記チップに隣接して、前記抽出器具を保持するように寸法決定される、請求項28に記載の物品。
【請求項33】
前記基部保持構成要素に載置される、少なくとも1つの回収管をさらに備え、前記放出液体は、前記抽出器具を通って、前記少なくとも1つの回収管に流入する、請求項32に記載の物品。
【請求項34】
前記複数のオープンウェルは、少なくとも3000のオープンウェルである、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記複数のオープンウェルは、少なくとも3000のオープンウェルである、請求項16に記載のシステム。
【請求項36】
前記複数のオープンウェルは、少なくとも3000のオープンウェルである、請求項28に記載の製造物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2012年11月8日出願の米国仮出願第61/724,118号、および2013年3月12日出願の米国仮出願第61/777,459号の優先権を主張し、それらの両方は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、チップ中のオープンウェル(well)から、拘束液体(例えば、表面張力拘束液体)を抽出するための方法、システム、アセンブリ、および物品を提供する。例えば、本発明は、オープンウェルから押し出されるどの拘束液体も、抽出器具によって回収されるか、またはそれを通って流動するように、チップに取り付けられてもよい、および/または隣接してもよい、抽出器具を提供する。
【背景技術】
【0003】
典型的なナノウェルチップは、チップ基板中のウェルまたは空洞の72×72の配列(5184)からなる。典型的なナノウェルチップにおいて、各ウェルは、直径が450μm、深さが940μmであり、ナノリットル体積の液体反応物質で充填される。例えば、従来の96または384ウェルプレートで行われるように、小さいサイズは、ピペットによる反応した材料の除去を不可能にする。ウェルの小さいサイズを考えると、ウェル内の流体の表面張力は、ウェルから液体を除去するために克服されなければならない力のはるかに大きい成分になり、したがって、除去過程を困難にする。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、チップ中のオープンウェル(例えば、ナノウェル)から、拘束液体(例えば、表面張力拘束液体)を抽出するための方法、システム、アセンブリ、および物品を提供し、表面張力拘束液体は、ウェルが上下逆に保持されるとき、重力によってウェルから流出しない。例えば、本発明は、オープンウェルから押し出されるどの拘束液体(例えば、表面張力拘束液体)も、抽出器具によって回収される、および/またはそれを通って流動するように、チップに取り付けられてもよい、および/または隣接してもよい、抽出器具を提供する。また例えば、本発明は、チップに取り付けられる、および/または隣接する抽出器具からなる、アセンブリと、オープンウェル中の拘束液体の少なくとも一部分が押し出され、抽出器具によって回収される、および/またはそれを通って流動するように、抽出器具からなるアセンブリを力に供する方法とを提供する。ある特定の実施形態では、液体が抽出器具を通って流動する場合、それは回収管中に回収される。
【0005】
いくつかの実施形態では、本発明は、チップ中の少なくとも1つのオープンウェルから、拘束液体(例えば、表面張力拘束液体)を除去する方法を提供し、a)チップに隣接した、および/または取り付けられた、少なくとも1つの抽出器具を備える、アセンブリを提供することであって、i)チップは、基板と、基板中に形成される複数のオープンウェル(または少なくとも1つのオープンウェル)とを備え、複数のオープンウェルは、拘束液体を含有する、ii)少なくとも1つの抽出器具は、複数のオープンウェルから押し出されるどの拘束液体も、少なくとも1つの抽出器具によって回収されるように、チップに隣接する、および/または取り付けられる、アセンブリを提供することと、b)拘束液体の少なくとも一部分が、複数のオープンウェルのうちの少なくとも1つから流出する放出液体になり、少なくとも1つの抽出器具によって保持されるか、またはそれを通って(例えば、回収管中に)流動するように、アセンブリを力に供することと、を含む。ある特定の実施形態では、抽出器具は、チップを包囲する複数の構成要素からなる。
【0006】
ある特定の実施形態では、本発明は、チップ中の少なくとも1つのオープンウェルから、拘束液体(例えば、表面張力拘束液体)を除去するための方法を提供し、アセンブリを力に供することを含み、アセンブリは、チップに隣接した、および/または取り付けられた、少なくとも1つの抽出器具を備え、チップは、基板と、基板中に形成される複数のオープンウェル(または少なくとも1つのオープンウェル)とを備え、複数のオープンウェルは、拘束液体を含有し、アセンブリを力に供することは、拘束液体の少なくとも一部分を、複数のオープンウェルのうちの少なくとも1つから流出する放出液体にさせ、それは、少なくとも1つの抽出器具によって保持されるか、またはそれを通って流動する。
【0007】
特定の実施形態では、力は、求心力、遠心力、真空力、および急な減速(例えば、運動の停止)、または任意の他の除去力からなる群より選択される。他の実施形態では、力は、遠心分離機または同様のデバイスによって生成される。
【0008】
さらなる実施形態では、本発明は、チップに隣接した、および/または取り付けられた、少なくとも1つの抽出器具を備える、アセンブリを提供し、チップは、基板と、基板中に形成される複数のオープンウェル(または少なくとも1つのオープンウェル)とを備え、複数のオープンウェルは、液体を含有し、チップの配向にかかわらず、表面張力または他の拘束力が、液体がオープンウェルから流出することを防ぐように、寸法決定され、少なくとも1つの抽出器具は、複数のオープンウェルから押し出されるどの液体も、少なくとも1つの抽出器具によって回収されるか、またはそれを通って(例えば、回収管中に)流動するように、チップに取り付けられる、および/または隣接する。
【0009】
いくつかの実施形態では、本発明は、a)チップであって、チップは、基板と、基板中に形成される複数のオープンウェル(または少なくとも1つのオープンウェル)とを備え、複数のオープンウェルは、拘束液体を含有する、チップと、b)アセンブリを形成するために、チップに取り付けられる、および/または隣接するように寸法決定される、少なくとも1つの抽出器具であって、及び、拘束液体が複数のオープンウェル中に存在し、放出液体を形成するために複数のオープンウェルから押し出されるとき、放出液体が少なくとも1つの抽出器具によって回収されるか、またはそれを通って(例えば、回収管中に)流動するように、更に寸法決定される、少なくとも1つの抽出器具と、を備える、システムを提供する。さらなる実施形態では、システムはさらに、c)力をアセンブリに印加するように構成されるデバイスを備える。特定の実施形態では、デバイスは、遠心分離機を備える。
【0010】
ある特定の実施形態では、本発明は、アセンブリを形成するためにチップに取り付けられるように寸法決定される、(および/またはチップに隣接して保持されるように寸法決定される)、抽出器具を備える、製造物品を提供し、チップは、基板と、基板中に形成される複数のオープンウェル(または少なくとも1つのオープンウェル)とを備え、複数のオープンウェルは、拘束液体を含有し、抽出器具はさらに、拘束液体が複数のオープンウェル中に存在し、放出液体になるために複数のオープンウェルから押し出されるとき、放出液体の少なくとも一部が抽出器具によって回収されるか、またはそれを通って流動するように、寸法決定される。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、a)アセンブリを形成するために、少なくとも1つの抽出器具をチップに取り付けること(もしくはチップに隣接して抽出器具を保持すること)であって、チップは、基板と、基板中に形成される複数のオープンウェル(または少なくとも1つのオープンウェル)とを備え、複数のオープンウェルは、拘束液体を含有し、少なくとも1つの抽出器具は、放出液体になるために、複数のオープンウェルから押し出されるどの拘束液体も、少なくとも1つの抽出器具によって回収されるか、またはそれを通って流動するように、チップに取り付けられる(および/または隣接する)、少なくとも1つの抽出器具をチップに取り付けることと、b)チップの少なくとも一部分と少なくとも1つの抽出器具との間の水密封が形成されるように、密閉構成要素を用いて、少なくとも1つの抽出器具をチップに密閉することと、を含む、アセンブリを作製する方法を提供する。ある特定の実施形態では、密閉構成要素は、Oリングまたは他のガスケットを備える。他の実施形態では、密閉構成要素は、ねじ、接着剤、少なくとも1つのクランプ、およびボルトからなる群より選択される。
【0012】
特定の実施形態では、本発明は、a)チップを提供することであって、チップは、基板と、基板中に形成される複数のオープンウェル(または少なくとも1つのオープンウェル)とを備え、複数のオープンウェルは、拘束液体を含有し、チップは、複数のオープンウェルを被覆する密閉フィルムで少なくとも部分的に被覆される、チップを提供することと、b)開放領域を作成するために、チップから密閉フィルムの少なくとも一部分を除去することと、c)アセンブリを形成するために、開放領域が抽出器具によって被覆されるように、チップに抽出器具を取り付けること(またはチップに隣接して抽出器具を保持すること)であって、抽出器具は、放出液体になるために、複数のオープンウェルから押し出されるどの拘束液体も、抽出器具によって保持されるか、またはそれを通って流動するように、チップに取り付けられる、および/または隣接する、チップに抽出器具を取り付けることと、d)チップの少なくとも一部分と抽出器具との間の水密封が形成されるように、密閉構成要素を用いて、少なくとも1つの抽出器具をチップに密閉することと、を含む、方法を提供する。ある特定の実施形態では、方法はさらに、e)表面張力拘束液体の少なくとも一部分が、抽出器具によって回収されるか、またはそれを通って流動する放出液体になるために、複数のオープンウェルのうちの少なくとも1つから流出するように、アセンブリを力に供する工程を含む。
【0013】
特定の実施形態では、少なくとも1つの抽出器具は、抽出器具基部を備え、上記の抽出器具基部は、流体を回収するように寸法決定される円錐部分を備える。他の実施形態では、少なくとも1つの抽出器具は、抽出器具基部を備え、抽出器具基部は、以下のうちの少なくとも1つを備える:i)チップを保持するように寸法決定される、ポケット構成要素、ii)流体を回収するように寸法決定される、円錐部分、およびiii)ガスケットを保持するように寸法決定される、ガスケットトラック。さらなる実施形態では、少なくとも1つの抽出器具はさらに、抽出器具基部に付着するように寸法決定される、抽出器具頂部プレートを備える(例えば、前記チップがその中に包囲されるように)。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの抽出器具はさらに、i)抽出器具基部に付着するように寸法決定される、抽出器具頂部プレート、ii)チップと抽出器具頂部プレートとの間に収まるように構成される、紙ガスケット、および/またはiii)試料が器具頂部プレートを通して分注されることを可能にするように構成される、試料カップを備える。さらなる実施形態では、円錐部分は、ピペットがその中に位置するどの放出液体も除去することを可能にするように寸法決定される、流体保持構成要素を備える。いくつかの実施形態では、複数のオープンウェルのうちの少なくとも1つから流出する液体は、前記少なくとも1つの抽出器具によって保持される。
【0014】
特定の実施形態では、アセンブリ、システム、および方法はさらに、基部保持構成要素を有し、基部保持構成要素は、チップに隣接して、少なくとも1つの抽出器具を保持するように寸法決定される。いくつかの実施形態では、アセンブリ、システム、および方法はさらに、基部保持構成要素に載置される少なくとも1つの回収管を備え、液体は、複数のオープンウェルのうちの少なくとも1つから流出し、少なくとも1つの抽出器具を通って、少なくとも1つの回収管に流入する。他の実施形態では、基部保持構成要素は、上記のチップに隣接して、抽出器具のうちの少なくとも2つを保持するように寸法決定される(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上の抽出器具)。さらなる実施形態では、少なくとも1つの抽出器具は、上記のチップに取り付けられる。特定の実施形態では、基部保持構成要素は、チップに隣接して(例えば、一方の端部で)、かつ回収管に隣接して(例えば、もう一方の端部で)、少なくとも1つの抽出器具を保持するように寸法決定される。ある特定の実施形態では、回収管は、ポリメラーゼ連鎖反応管、EPPENDORF、または同様の種類の管を備える。
【0015】
他の実施形態では、少なくとも1つの抽出器具は、i)被覆構成要素と、ii)流体保持構成要素とを備え、被覆構成要素は、チップの少なくとも一部分を被覆するように寸法決定され、流体保持構成要素に解放可能に取り付けられるポートを備える。特定の実施形態では、流体保持構成要素は、試験管を備える。いくつかの実施形態では、被覆構成要素は、ポート周辺領域に概して平面の形状を有する。
【0016】
ある特定の実施形態では、少なくとも25%(例えば、25%...35%...50%...60%...75%...85%...95%...98%...99.5%...99.9%...100%)の拘束液体(例えば、表面張力拘束液体)が放出液体になり、複数のオープンウェルから流出し、抽出器具によって保持されるか、またはそれを通って流動する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抽出器具は、少なくとも2つの抽出器具(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15...25個またはそれ以上)を備える。特定の実施形態では、複数のオープンウェルの少なくとも一部は、0.1ナノリットル〜500ナノリットルの間の体積を有する(例えば、約0.1nl...0.9nl...1.5nl...5.0nl...10nl...20nl...35nl...50nl...75nl...100nl...150nl...300nl...450nl...500nl)。特定の実施形態では、複数のオープンウェルの少なくとも一部は、1.0ナノリットル〜250ナノリットルの間の体積を有する(例えば、1〜250nl、10〜200nl、25〜150nl、40〜100nl、または50〜100nl)。
【0017】
いくつかの実施形態では、複数のオープンウェルは、少なくとも3つのオープンウェルを備える(例えば、3...10...100...350...500...750...1000...1500...3000...5000...7500...10,000...15,000...20,000...30,000...45,000個またはそれ以上のオープンウェル)。他の実施形態では、拘束液体は、PCR試薬を含む(例えば、プライマー、ポリメラーゼ、水、緩衝剤、鋳型核酸配列、逆転写酵素など)。他の実施形態では、拘束液体は、増幅核酸を含む。さらなる実施形態では、方法はさらに、少なくとも1つの抽出器具によって保持されるか、またはそれを通って流動する放出液体を、核酸検出アッセイに供する工程を含む。
【0018】
さらなる実施形態では、チップは、10mm〜200mm(例えば、10mm...50mm...100mm...150mm...または200mm)の長さ、10mm〜200mm(例えば、10mm...50mm...100mm...150mm...または200mm)の幅、および0.1mm〜10センチメートル(例えば、0.1mm...1.0mm...10mm...10cm)の厚さを有する。他の実施形態では、基板は、ガラス、セラミック、半金属、シリコン、ケイ酸塩、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、石英、ヒ化ガリウム、プラスチック、および有機ポリマー材料からなる群より選択される、材料を備える。さらなる実施形態では、チップはさらに、個別に制御された加熱要素を備え、それらのそれぞれは、オープンウェルに動作可能に連結される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抽出器具は、ねじ、接着剤、少なくとも1つのクランプ、およびボルトからなる群より選択される、取り付け構成要素によって、チップに取り付けられる。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、ナノウェルチップ上のアンプリコン生成のダイナミックレンジを減少させるための方法を提供し、i)上記のナノウェルチップ中の全てのウェルの増幅中、平均アンプリコン生成に対して、増幅中の特定の標的からの増加または減少したアンプリコン生成物を生成する、初期のナノウェルチップ中の少なくとも1つのウェルを同定することと、ii)以下:A)上記の試験ナノウェルチップ上の追加ウェルが、減少したアンプリコン生成を有すると同定される標的に対して採用される、B)発現が増加していることがわかった標的が、多重増幅が単一ウェル中で生じるように、他の標的と組み合わされる、C)低いアンプリコン生成を有することがわかったウェル中のプライマー濃度を増加させる、D)高いアンプリコン生成を有することがわかったウェル中のプライマー濃度を減少させる、E)高いアンプリコン生成を有することがわかったウェル中に阻害剤を含む、F)高いアンプリコン生成を有することがわかったウェル中で、効率性のより低いプライマーに切り替える、G)アンプリコン生成が減少した場合、アンプリコン生成を増加させるために、またはアンプリコン生成が増加した場合、アンプリコン生成を減少させるために、ウェル中の熱循環温度および/または回数を変更する、および H)アンプリコン生成が減少した場合、アンプリコン生成を増加させるために、またはアンプリコン生成が増加した場合、アンプリコン生成を減少させるために、ウェルの深さ、幅、および/または体積を変更する、の少なくともを除いて、上記の初期のナノウェルチップと同一に設定される、試験ナノウェルチップを使用して、増幅を実施することと、を含む。
【0020】
定義
本明細書で使用される場合、ウェルの開口部が地面を向いているように、チップが上下逆に保持されるとき、液体が重力によってウェルから流出しないとき、液体は、チップのオープンウェル中に「拘束」されている。ある特定の実施形態では、液体は、表面張力によってウェル中に拘束されている(すなわち、液体は、表面張力拘束液体である)。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】4つの蝶ねじ(40)によって互いに取り付けられる抽出器具基部(20)および抽出器具頂部プレート(30)からなる抽出器具内に位置付けられ得る、ナノウェルチップ(10)を示す。この例示的な実施形態に示される抽出器具基部(20)は、チップを保持するためのポケット構成要素(25)、流体を回収するためであり、流体保持構成要素(26)を備える、円錐部分(27)、および抽出器具頂部プレート(30)と抽出器具基部(20)との間の液体密閉を形成するのを補助する、ガスケット(例えば、Oリング)を保持するための、ガスケットトラック(28)を有する。
図2A】ナノウェルチップ(10)が頂部に位置する、基部保持構成要素(50)の上から見下ろした図を示す。
図2B】4つの抽出器具(35)が、下の基部保持構成要素(50)中およびナノウェルチップ(10)に隣接して保持された、基部保持構成要素(50)の側面斜視図を示す。
図2C図2Aからの断面B−Bを通った、基部保持構成要素(50)の断面図を示す。図2Cの断面図は、回収管(60)上の基部保持構成要素(50)内に保持される、4つの抽出器具(35)中の2つを示す。
図3】紙ガスケット(70)を含有する抽出器具の例示的な実施形態を示す。図3は、ナノウェルチップ(10)と器具頂部プレート(30)との間の紙ガスケット(70)を示す。また、試料が導入され得る、器具頂部プレート(30)中の試料カップ(90)も図3に示される。試料カップ(90)を被覆することができる保護ラベル(45)が示される。全ての構成要素を一緒に取り付けるための(例えば、抽出器具基部(20)中に示される穴に固定するための)、4つのねじ(40)が器具頂部プレート(30)中に示される。また、定位置にゴムガスケットを有して示されるガスケットトラック(28)が、抽出器具基部(20)中に示される。
図4】器具頂部プレート中のバルク充填器具の種々の例示的な実施形態を示す。図A−1は、試料カップ中への試料の針注射(例えば、抽出器具が、下のナノウェルチップ中へと試料を引き下ろす、真空充填ステーションの頂部にあるときの、標的試料の針注射)を可能にするための、試料カップ(90)がその中心に形成され、セプタム(80)が試料カップ(90)の中心にある、器具頂部プレート(30)の上面図を示す。図A−2は、図A−1の断面A−Aを通った、試料カップ(90)の側面図を示す。図B−1は、試料カップ(90)がその中心に形成される、器具頂部プレート(30)の上面図を示し、図B−2は、断面B−Bを通った、図B−1の側面図を示す。図B−3は、図B−2のバルク充填器具の拡大図を示し、栓(110)および栓の頂部のダックビル弁(101)を示し、それは、真空が印加され(または放出され)、試料をナノウェルチップ(10)中へと引き下ろすとき(部分120は、例示的な液体前面、および真空が放出または印加されたときに、液体がチップ上をどのように流動することができるのかを示す)、空気を外に出すことを可能にし、それにより、試料カップ中の液体の泡立ちを防ぐ。図C−1は、試料カップ(90)がその中心に形成される、頂部プレート(30)の上面図を示し、図C−2は、断面C−Cを通った、図C−1の側面図を示す。図C−3は、図C−2のバルク充填器具の拡大図を示し、栓(110)およびコンボ弁(102)を示し、それは、ダックビル弁を通って通気すると同時に、液体が傘状部分を通って流入することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、チップ中のオープンウェルから拘束液体を抽出するための方法、システム、アセンブリ、および物品を提供し、液体は、ウェルが上下逆に保持されるとき、重力によってウェルから流出しない。例えば、本発明は、オープンウェルから押し出されるどの拘束液体も、抽出器具を通って流動するために、それによって回収されるように、チップに取り付けられてもよい、抽出器具を提供する。また例えば、本発明は、チップに取り付けられる抽出器具からなるアセンブリと、オープンウェル中の拘束液体の少なくとも一部分が、押し出され、抽出器具によって保持されるか、またはそれを通って流動するように、抽出器具からなるアセンブリを力に供する方法とを提供する。
【0023】
ある特定の実施形態では、本発明は、チップ中のウェル(例えば、ナノウェル)中の拘束液体が放出され、単一プールに組み合わされることを可能にする(例えば、特定のチップからの液体の全部が、単一液体試料に組み合わされる)。いくつかの実施形態では、本発明は、ナノウェルチップから拘束された反応液を抽出するために必要な力を提供するために、遠心分離機または同様のデバイスを採用する。
【0024】
本発明の実施形態の開発中に実施された作業において、Wafergen(Fremont,CA)からのSMARTCHIPナノウェルチップに貼り付けた単純な抽出器具を使用して、このナノウェル抽出概念の実現可能性を試験した。ウェル中の反応物質の正確な量を決定するために、充填前後のナノウェルチップを計量することによって、概念を試験した。抽出器具をチップ上に貼り付け、求心力が流体をウェルから押し出すように作用するように、遠心分離機のアームに全部を配置した。2つのアセンブリを反対側に載せることによって、遠心分離機の平衡状態を保持するために、2つのアセンブリを使用した。チップ/器具の組み合わせを回転させる前に、抽出器具も計量した。2000rpmで15分間、遠心分離機で試験を行った。抽出器具を取り外し計量した。もともとチップ中にあった流体の約15%が抽出器具中に捕捉された。
【0025】
本発明の開発中に実施された他の作業において、図1の構成要素を使用して、抽出されるチップ(SMARTCHIP)を、ウェルが抽出器具の円錐部分に向くように、ウェル側を下にして配置した。チップは、円錐部分上のポケットに配置され、抽出器具の頂部部分は次いで、それが4つの蝶ねじで締められるとき、チップを定位置に固定した。抽出器具全体が、Oリングによって密閉され、抽出された流体がさらなる分析のために除去されるまで、それを含有された状態で維持する。円錐部分が、遠心分離中に流体を捕捉する大きな円錐、および捕捉された流体をより小さい領域に集中させるより小さい部分の2つの部分に分割されることに留意されたい。これは、抽出された流体が、別の容器への移動のためにピペットによって除去されることを可能にする。抽出器具は次いで、一般的な実験用遠心分離機に配置され、回転させられる。試験は、遠心分離機の速度がより大きい割合の液体を回収するのに重要であることを示した。回転がある特定の速度未満である場合(例えば、チップ中のナノウェルのサイズに応じて)、流体は、ナノウェルチップからほとんどまたは全く除去されない。これは、遠心分離機によって生成される力が、ウェル中に流体を保持する表面張力を克服するのに十分ではないためである。特定の速度を超えると(例えば、ナノウェルの特定のサイズに対して)、抽出は効率的であり得、もともとナノウェルチップ中の流体の75%超を捕捉する。ある特定の実施形態では、アセンブリは、75%の抽出を達成するために、2000rpm超で回転させられるべきである。
【0026】
ある特定の実施形態では、単一チップから複数の試料(例えば、プールされた試料)を回収するために、抽出器具が使用される(例えば、複数の抽出器具が単一チップ上で使用される)。単一チップから複数の試料を回収するために抽出器具が使用される実施形態の一実施例は以下の通りである。本実施形態では、チップは、4つまたは9つの部分など、別個の部分に地理的に分割される。各部分は、約4mm幅のフライス加工表面によって形成される密閉「路」によって隣接する部分から分離される。チップは、多試料ナノディスペンサによって、試薬(例えば、PCR反応物質)が充填され、反応条件に処理されてもよい(例えば、PCR反応のための加熱および冷却サイクル)。熱循環後、密閉フィルムは、各密閉「路」の中心に存在する切断線上でかみそりの刃または他の切断構成要素を作動させることによって、一度に一部分切除される。特定の実施形態では、一部分のみがどの時点においても切除され、個々の抽出器具がその部分上に配置され、その底縁でPSA(感圧接着剤)によって密閉される。そのような実施形態では、図2に説明されている配列が使われうる。個々の抽出器具のそれぞれは、例えば、200μlの回収管を受容するポートを有してもよい。後続の部分は、同様に被膜が除去されてもよく、かつ被覆されてもよい。いったん個々の抽出器具の全部が定位置にあると、ある特定の実施形態では、個々の抽出器具を同時に締め付ける、クランプが取り付けられる。他の実施形態では、クランプは採用されない。アセンブリ全体が次いで、遠心分離機に配置され、上記の単一試料実施形態に記載されるように処理される。いったん遠心分離工程が完了すると、チップアセンブリは除去され、チップ側を上にして器具上に位置付けられる。この配向において、ナノウェルの含有物は、回収管の底部でプールされる。個々の回収管は除去され、蓋で覆われてもよく、続いて、(例えば、液体中のアンプリコンの)任意の汚染を防ぐために、次の管を除去する前に、空の管を定位置に取り付ける。いったん使用者が空の回収管を有するチップアセンブリを除去し、蓋で覆うと、アセンブリ全体が廃棄され得る。アセンブリ全体が廃棄され得る実施形態は、異なる部分からのアンプリコンの二次汚染のリスクなく、個々の試料の増幅または他の操作を可能にする。試料抽出の別の方法は、基部保持構成要素の側面でセプタムシールを使用し、次いで、遠心分離された含有物を抽出するために、皮下注射器を使用する。
【0027】
ある特定の実施形態では、抽出器具は、ナノウェルチップからの液体の全部を単一プール中に回収するように構成される。例示的な実施形態が図1に示され、ここで抽出器具は、係合し、チップを包囲する、抽出基部(20)および抽出器具頂部プレート(30)からなる。抽出器具頂部プレート(30)および抽出器具基部(20)は、任意の種類の構成要素(例えば、ねじ、接着剤、ベルクロなど)を用いて、互いに対して取り付けられ得る。図1中、取り付け構成要素は、4つの蝶ねじ(40)である。図1に示される抽出器具基部(20)は、チップを保持するためのポケット構成要素(25)、流体を回収するための円錐部分(27)(流体保持構成要素(26)を備えてもよい)、および抽出器具頂部プレート(30)と抽出器具基部(20)との間の液体密閉を形成するのを補助する、ガスケット(例えば、Oリング)を保持するためのガスケットトラック(28)を有してもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、各抽出器具がチップのウェルの液体の一部分を回収するように、複数の抽出器具が一緒に使用される。例示的な実施形態が図2に示され、ここで基部保持構成要素内に保持される4つの抽出器具が使用される。図2A中、上下逆のナノウェルチップ(10)が頂部に配置された、基部保持構成要素(50)が示される。図2Bは、4つの抽出器具(35)が下の基部保持構成要素(50)中およびナノウェルチップ(10)に隣接して保持された、基部保持構成要素(50)の側面斜視図を示す。1、2、3、5、6、7、8、9つ、またはそれ以上など、他の数の抽出形状が基部保持構成要素で使用され得る。図2Cは、図2Aから断面B−Bを通った基部保持構成要素(50)の断面図を示す。図2Cの断面図は、回収管(60)上の基部保持構成要素(50)内に保持される、4つの抽出器具(35)のうちの2つを示す。回収管は、PCR管(例えば、200μl)、または任意の他の種類の好適な管もしくは回収容器であってもよい。
【0029】
ある特定の実施形態では、本発明の抽出器具は、(例えば、ナノウェルチップと器具頂部プレートとの間に)紙ガスケットを採用する。抽出器具の例示的な実施形態は、図3に示される。図3は、ナノウェルチップ(10)と器具頂部プレート(30)との間の紙ガスケット(70)を示す。また、試料が導入され得る器具頂部プレート(30)中の試料カップ(90)も、図3に示される。試料カップ(90)を被覆し得る保護ラベル(45)が示される。構成要素の全部を一緒に取り付けるための(例えば、抽出器具基部(20)に示される穴に固定するための)、4つのねじ(40)(任意の種類の取り付け構成要素であってもよい)が、器具頂部プレート(30)中に示される。また、定位置にゴムガスケットを有して示されるガスケットトラック(28)が、抽出器具基部(20)中に示される。
【0030】
紙ガスケットは、ある特定の実施形態では、本発明の抽出器具中のナノウェルチップに添加される試料材料の漏れを防止または減速するために使用される(例えば、液体試料が試料カップを介して抽出器具に注入されるとき)。任意の種類の好適な紙が紙ガスケットのために採用されてもよい。好ましくは、紙ガスケットは、液体流頭を包囲し、過剰な液体を吸収するのに有用であるが、あまり急速ではない種類の紙からなる(例えば、あまりに急速に液体試料を吸収する紙は、これがナノウェルチップ中への低い充填重量をもたらす可能性があるため好ましくない)。ある特定の実施形態では、採用される紙の種類は、KODAKインクジェット用紙などのインクジェット用紙(例えば、30〜70ポンドインクジェット用紙、または約44ポンドインクジェット用紙、または80ポンドインクジェット用紙)である。ある特定の実施形態では、採用される紙は、濾紙、吸い取り紙、シム紙、またはクロマトグラフィ紙である。ある特定の実施形態では、採用される紙は、44ポンドマットインクジェット用紙(例えば、KODAKから)である。ある特定の実施形態では、紙ガスケットは、厚さが0.005〜0.009インチの間である。いくつかの実施形態では、採用される紙は、非コート商品グレード紙、非コート表面処理紙、またはコート紙(例えば、インクジェット用紙の種類のような)である。特定の実施形態では、紙は、中性アート紙(例えば、約60...70...80ポンド中性アート紙)である。
【0031】
ある特定の実施形態では、紙ガスケットのために採用される紙は、吸い取り、シム(shim)、またはクロマトグラフィの種類の紙である。吸い取り、シム、またはクロマトグラフィの種類の紙の例としては、シム/吸い取り紙、標準グレード、湿潤強力、硬質低灰分グレード、および硬質無灰グレードが挙げられ、それらは以下の表1〜5に見られる。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
ある特定の実施形態では、ナノウェルチップは、ナノウェルチップがすでに抽出器具内に存在するとき、試料が充填される。ナノウェルチップがすでに抽出器具内に存在するときの試料の充填は、例えば、器具頂部プレートの一部をなす(例えば、液体が器具頂部プレートを通して送られることを可能にする)、バルク充填器具を用いて達成され得る。図3および4は、試料カップ(90)と呼ばれるバルク充填器具の一部を示し、それは、ナノウェルチップがすでに抽出器具内にあるとき、試料がナノウェルチップに導入され得るように、器具頂部プレート(30)の溝を延在する。
【0038】
図4は、器具頂部プレート中のバルク充填器具の種々の例示的な実施形態を示す。図4A−1は、試料カップ中への試料の針注射(例えば、抽出器具が、下のナノウェルチップ中へと試料を引き下ろす、真空充填ステーションの頂部にあるときの、標的試料の針注射)を可能にするための、試料カップ(90)がその中心に形成され、セプタム(80)が試料カップ(90)の中心にある、器具頂部プレート(30)の上面図を示す。図4A−2は、図4A−1の断面A−Aを通した試料カップ(90)の側面図を示す。図4B−1は、試料カップ(90)がその中心に形成された、器具頂部プレート(30)の上面図を示し、図4B−2は、断面B−Bを通した図4B−1の側面図を示す。図4Bのような実施形態では、試料は、抽出器具が充填ステーション(例えば、真空を印加し得る)に配置される前に、バルク充填器具に事前充填されてもよい。図4B−3は、図4B−2のバルク充填器具の拡大図を示し、栓(110)および栓の頂部のダックビル弁(101)を示し、それは、真空が印加され(または放出され)、試料をナノウェルチップ(10)中へと引き下ろすとき(部分120は、例示的な液体前面、および真空が放出または印加されたときに、液体がチップ上をどのように流動することができるのかを示す)、空気を外に出すことを可能にし、それにより、試料カップ中の液体の泡立ちを防ぐ。図4C−1は、試料カップ(90)がその中に形成された、器具プレート(30)の上面図を示し、図4C−2は、断面C−Cを通した図4C−1の側面図を示す。図4Cのような実施形態では、試料は、抽出器具が充填ステーション(例えば、真空を印加または放出し得る)に配置される前に、バルク充填器具に事前充填されてもよい。図4C−3は、図4C−2のバルク充填器具の拡大図を示し、栓(110)およびコンボ弁(102)を示し、それは、ダックビル弁を通って通気すると同時に、液体が傘状部分を通って流入することを可能にする。
【0039】
本発明は、採用される種類の小型弁によって限定されない。例示的な小型弁(例えば、MINI−VALVE corporationから)としては、ダックビル弁、アンブレラ弁、ベルビル弁、ダックビル−アンブレラの組み合わせ弁、X−fragm弁、ミニバルブボール、クロススリット弁、およびドーム弁が挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
本発明は、抽出器具の形状、サイズ、または構成によって限定されない。ナノウェルから押し出される液体(チップ全体またはその選択された部分から)を回収する(および保持する、または別の構成要素に送る)ことが可能である任意の抽出器具が、本発明で有用である。ある特定の実施形態では、抽出器具は、ナノウェルチップの少なくとも一部分に適合する、全体的な円錐形を有する(例えば、図1に示されるように)。他の実施形態では、抽出器具は、平坦または部分的に平坦であるが、ナノウェルから押し出される液体を回収する能力を有する。ある特定の実施形態では、抽出器具は、ナノウェルチップへの取り付けまたは係合を可能にする、取り付け構成要素を有する。特定の実施形態では、抽出器具は、流体が(例えば、ピペットによって)容易に除去され得るように、流体をより小さい領域に集中させる一部分を有する。いくつかの実施形態では、回収器具は、ガラス、シリコン、金属、または他の好適な材料から選択される材料を含む。さらなる実施形態では、抽出器具のサイズは、それが取り付けられるナノチップのサイズ、および/またはチップ−抽出器具アセンブリが挿入されるデバイスのサイズによって決定される(例えば、抽出器具のサイズは、形成されるアセンブリが遠心分離機のアーム上に収まることができるようなものである)。
【0041】
本発明は、採用されるチップの種類によって限定されない。概して、採用されるチップは、重力単独が液体をウェルから流出させることができないように、ウェル中に捕捉される液体を含有するか、または含有するように寸法決定される、複数のウェルを有する(例えば、表面張力拘束液体がウェル中にある)。例示的なチップは、米国特許第8,252,581号、同第7,833,709号、および同第7,547,556号に提供され、それらの全ては、例えば、その中で使用されるチップ、ウェル、熱循環条件、および関連試薬の教示に関して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。他の例示的なチップとしては、QUANTSTUDIOリアルタイムPCRシステムで使用されるOPENARRAYプレート(Applied Biosystems)が挙げられる。
【0042】
本発明のチップの全体のサイズは異なってもよく、それは例えば、数ミクロンから数センチメートルの厚さ、および数ミリメートルから50センチメートル幅または長さに及ぶことができる。典型的には、チップ全体のサイズは、約10mm〜約200mmの幅および/または長さ、ならびに約1mm〜約10mmの厚さに及ぶ。いくつかの実施形態では、チップは、約40mmの幅×40mmの長さ×3mmの厚さである。
【0043】
チップはまた、例えば、より小さいチップのセットであってもよい。例えば、チップは、熱緩衝剤がより小さいチップのそれぞれの間にある、2〜9つのより小さいチップ(例えば、2...6...または9つのアドレス指定可能なユニットの配列)を備えることができる。より小さいチップのセットであるチップはまた、本明細書においてプレートとも称される。本実施例の一実施形態では、より小さいチップのそれぞれは、チップ全体におけるユニットの配列がアドレス指定される、異なる所定の温度に対応する。
【0044】
チップ上のウェル(例えば、ナノウェル)の総数は、対象のチップが採用される特定の用途によって異なり得る。チップ表面上のウェルの密度は、特定の用途によって異なり得る。ウェルの密度、ならびにウェルのサイズおよび体積は、所望の用途、および例えば、本発明の方法が採用される生物の種などの要因によって異なり得る。
【0045】
本発明は、ナノチップ中のウェルの数によって限定されない。多数のウェルがチップに組み込まれてもよい。種々の実施形態では、チップ上のウェルの総数は、約100〜約200,000個、または約5000〜約10,000個である。他の実施形態では、チップは、より小さいチップを備え、それらのそれぞれは、約5,000〜約20,000個のウェルを備える。例えば、正方形のチップは、125×125ナノウェルを備えてもよく、直径は0.1mmである。
【0046】
チップ中のウェル(例えば、ナノウェル)は、任意の便利なサイズ、形状、または体積で製造されてもよい。ウェルは、約100μm〜約1mmの長さ、約100μm〜約1mmの幅、および約100μm〜約1mmの深さであってもよい。種々の実施形態では、各ナノウェルは、約1〜約4の縦横比(深さ対幅の比)を有する。一実施形態では、各ナノウェルは、約2の縦横比を有する。横断面領域は、円形、楕円形、長円形、円錐形、矩形、三角形、多面体、または任意の他の形状であってもよい。ウェルの任意の所与の深さにおける横断領域もまた、サイズおよび形状が異なり得る。
【0047】
ある特定の実施形態では、ウェルは、約0.1nl〜約1μlの体積を有する。ナノウェルは典型的には、1μl未満、好ましくは500nl未満の体積を有する。体積は、200nl未満、または100nl未満であってもよい。一実施形態では、ナノウェルの体積は、約100nlである。所望の場合、ナノウェルは、表面積対体積比を増加させるように製造され得、それによりユニットを通した伝熱を促進し、それは、熱サイクルのランプ時間を減少し得る。各ウェル(例えば、ナノウェル)の空洞は、種々の構成をとってもよい。例えば、ウェル内の空洞は、別々であるが隣接した区画を形成するために、直線状もしくは曲線状の壁によって、または内側および外側環状区画を形成するために、円形の壁によって分割されてもよい。
【0048】
高い内面積対体積比のウェルは、これが望ましい場合、その中に含有される反応物質がウェルの内面と相互作用し得る可能性を低減するための材料で被覆されてもよい。被覆は、試薬が不必要に内面と相互作用または付着しやすい場合、特に有用である。反応物質の特性に応じて、疎水性または親水性被覆が選択されてもよい。種々の適切な被覆材料が当該技術分野において利用可能である。表面に共有結合し得る材料もあれば、非共有相互作用を介して表面に付着し得る材料もある。被覆材料の限定されない例としては、ジメチクロロシラン(dimethychlorosilane)、ジメチジクロロシラン(dimethydichlorosilane)、ヘキサメチルジシラザン、またはトリメチルクロロシランなどのシラン処理試薬、ポリマレイミド、および酸化ケイ素などのシリコン処理試薬、AQUASIL、およびSURFASILが挙げられる。さらなる好適な被覆材料は、アミノ酸などの遮断薬、またはポリビニルピロリドン、ポリアデニル酸、およびポリマレイミドを含むがこれらに限定されないポリマーである。ある特定の被覆材料は、加熱、放射線を介して、および化学反応によって、表面に架橋され得る。当業者は、チップのナノウェルを被覆するための他の好適な手段を知るか、または必要以上の実験なしで他の好適な手段を確認することが可能になる。
【0049】
いくつかの実施形態では、チップの個々のユニットは、試料を受容し閉じ込めるためのナノウェルを備え、上記のウェルは、試料で充填されるときに密閉される。配列内の個々のウェルは、液体の通過に耐性を有する物理的障壁によって互いから分離され得る。ウェルは、頂部が開放していてもよいが、概して、液体の通過を制限するために、他のウェルから物理的に分離される。したがって、ウェルは、反応試料を受容し閉じ込めるのに好適な、少なくとも1つの空洞を有する。液体の通過を制限するために1つのウェルを環境から分離するために、ウェルは密閉され得る。ある特定の実施形態では、ナノウェルを密閉する方法は、試料を閉じ込めるためにウェル内の試料の頂部に鉱油を堆積させることである。鉱油は、ナノ分注され得る。ウェルは、任意の好適な方法によって密閉され得る。
【0050】
多くの用途において、ウェルを密閉することは、液体の蒸発を防ぐために望ましく、したがって熱循環全体を通して好ましい反応濃度を維持する。したがって、ナノウェルの配列を密閉するための技術が採用され得る。ナノウェルの配列の密閉は、永久的か、または除去可能であってもよい。有用な密閉技術は、いくつかの要因を考慮する。第一に、方法は概して、大量のウェルの高い全体を通した処理が可能であるべきである。第二に、方法は概して、個々のナノウェルの選択的な密閉が可能であるべきである。したがって、方法は、任意の所望のパターンまたは形式で、密閉されたナノウェル間で散在したオープンウェルを備えるチップを得ることができる。オープンおよび/または未充填ウェルは、受動的な熱放散を可能にすることができるだけでなく、隣接したナノウェル間の伝熱を低減することもできる。密閉の代替方法は、少なくとも1つのオープンウェルを含有するウェルの配列をもたらす。方法は、(a)少なくとも1つのオープンウェルの開放表面を画定する周囲寸法に沿って、放射線硬化性接着剤を塗布する工程と、(b)密閉されることになっている少なくとも1つのオープンウェルの開放表面を画定する周囲寸法を包含するために、カバーを配置する工程と、(c)密閉をもたらすために、配列を放射線ビームに曝露する工程とを含むことができる。
【0051】
例示的なチップは、約0.625mmの厚さを有してもよく、ウェルは、長さおよび幅が約0.25mm(250μm)の寸法を有している。ナノウェルの深さは、約0.525mm(525μm)であってもよく、所与のウェルの下に約0.1mmのチップを残す。ナノウェル開口部は、円形、正方形、矩形、または任意の他の所望の幾何学的形状など、任意の形状を含むことができる。一例として、ナノウェルは、約100μm〜約1mmの間の直径または幅、約150μm〜約1mmの間のピッチまたは長さ、および約10μm〜約1mmの間の深さを含むことができる。各ウェルの空洞は、種々の構成をとってもよい。例えば、ナノウェル内の空洞は、別々であるが隣接した区画を形成するために、直線状または曲線状の壁によって分割されてもよい。
【0052】
チップのウェル(例えば、ナノウェル)は、例えば、一般的に既知のフォトリソグラフィ技術を使用して形成されてもよい。ナノウェルは、湿式KOHエッチング技術または異方性乾式エッチング技術を使用して形成されてもよい。
【0053】
高い内面積対体積比のウェルは、その中に含有される反応物質がナノウェルの内面と相互作用し得る可能性を低減するための材料で被覆されてもよい。チップはまた、抵抗加熱材料から作られ得る。材料の限定されない例としては、SS−316などのアルミニウムおよびステンレス鋼基板などの金属プレートが挙げられる。使用される基板が金属である場合、流体試料を用いた動作中に基板の腐食および/または電気分解を防ぐために、絶縁層で表面を被覆することが通常望ましい。被覆は通常、非金属加熱材料の場合必要ではない。種々の保護被覆が利用可能であり、例えば、SiO2、Si3N4、およびテフロン(登録商標)から作られるものを含む。
【0054】
チップのウェル(例えば、ナノウェル)の表面はさらに、反応試薬に対する吸着部位を作成するように変更され得る。これらの部位は、単純または複雑な有機または無機分子、ペプチド、タンパク質(例えば、抗体)、またはポリヌクレオチドなど、生体または化学化合物の付着のためのリンカー部分を含んでもよい。当業者は、化学または生体反応物質を固定化するために、吸着部位を作成する多くの方法があることを理解するであろう。例えば、共有または非共有結合のいずれかを介して、チップ上で核酸およびアミノ酸を直接固定化し、それらをリンカー部分に固定するか、またはそれらを固定化された部分に連結するための豊富な技術が利用可能である(例えば、Methods Mol.Biol.Vol.20(1993)、Beier et al.,Nucleic Acids Res.27:1970−1−977(1999)、Joos et al.,Anal.Chem.247:96−101(1997)、Guschin et al.,Anal.Biochem.250:203−211(1997)を参照されたく、それらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる)。ナノウェルの表面は、プローブまたはプライマーの固定化を可能にするようにプラズマエッチングされ得る。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「化学反応」は、物質の化学的特性の変化を伴う任意の過程を指す。物質の化学的特性の変化を伴う任意の過程は、タンパク質、糖タンパク質、核酸、脂質、および無機化学物質、またはそれらの任意の組み合わせなど、生体分子を伴う多様な反応を含む。チップは、化学的および生物学的用途において幅広く使用される。化学反応は、核酸分子間、タンパク質間、核酸とタンパク質との間、タンパク質と小分子との間の相互作用を伴い得る。過程が酵素によって触媒される場合、それは「酵素反応」とも称される。
【0056】
チップは概して、酵素反応を実施するのに有用である。チップのウェル中で達成され得る代表的な酵素反応としては、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)などの核酸増幅、核酸配列、逆転写、および核酸連結反応が挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態では、チップ上で実行される核酸増幅反応は、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応である。別の実施形態では、核酸増幅反応は、逆転写共役ポリメラーゼ連鎖反応である。
【0057】
本明細書で使用される場合、「核酸増幅」は、標的核酸のコピー数が増加した酵素反応を指す。標的核酸のコピー数の増加は、直線的または指数関数的に生じ得る。増幅は、例えば、Taqポリメラーゼ、Pfuポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼのクレノウ断片などの天然もしくは組み換えDNAポリメラーゼ、および/または逆転写酵素などのRNAポリメラーゼによって実施され得る。
【0058】
該して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の目的は、最初に供給された少量の標的または種子DNAと同一である、大量のDNAを製造することである。反応は、DNA鎖をコピーし、次いで、そのコピーを後続のサイクルにおいて他のコピーを生成するために使用することを伴う。各サイクルは、存在するDNAの量をほぼ倍増し、それにより、反応混合物中に存在する標的DNA鎖のコピーの量の等比数列をもたらす。PCRに対する一般的な手順は、米国特許第4,683,195号(Mullis)および米国特許第4,683,202号(Mullis et al.)で教示される。簡潔に、PCRによる核酸の増幅は、DNAを熱変性させること、2つのプライマーを、増幅される標的核酸断片に隣接する配列にアニールすること、およびアニールされたプライマーをポリメラーゼで伸長することの反復サイクルを伴う。プライマーは、標的核酸の逆鎖にハイブリッド形成し、ポリメラーゼによる合成がプライマー間の断片にわたって継続し、標的断片の量を効果的に倍増するように配向される。さらに、伸長生成物もまたプライマーに相補的であり、かつプライマーに結合することが可能であるため、各連続的サイクルは本質的に、前のサイクルで合成された標的核酸の量を倍増する。これは、特定の標的核酸の指数関数的蓄積をもたらす。典型的な従来のPCR熱循環プロトコルは、(a)90℃〜95℃の範囲における変性、(b)50℃〜68℃の範囲の温度におけるアニーリング、および(c)68℃〜75℃における伸長の30サイクルを含む。
【0059】
チップは、逆転写PCR反応(RT−PCR)で採用され得る。RT−PCRは、従来のPCRの別の変化形であり、逆転写酵素は最初に、RNA分子を二本鎖cDNA分子に変換し、それは次いで、ポリメラーゼ連鎖反応において後続の増幅のためのテンプレートとして採用される。RT−PCRの実施において、逆転写酵素は概して、標的核酸が熱変性された後に反応試料に添加される。反応は次いで、予定された増幅サイクルが行われる前に、cDNAテンプレートを生成するために、十分な時間(例えば、5〜60分)にわたって、好適な温度(例えば、30〜45℃)で維持される。逆転写PCR反応は、遺伝情報がRNA分子中に保存される生物学的存在を検出するために特に有用である。この分類の生物学的存在の限定されない例としては、HIVおよび肝炎ウイルスなどのRNAウイルスが挙げられる。本発明によって具体化されるRT−PCRの別の重要な用途は、試験試料中で検出されたmRNAレベルに基づいた、生物学的存在の同時定量である。
【0060】
核酸の「定量的」増幅の方法は、当業者によく知られている。例えば、定量的PCR(qPCR)は、同一プライマーを使用して、既知の量の制御配列を同時に共増幅することを伴い得る。これは、PCR反応を測定するために使用され得る、内部標準を提供する。qPCRを実施する他の方法が当該技術分野において利用可能である。核酸増幅は概して、増幅試薬を用いて実施される。増幅試薬は典型的には、酵素、水性緩衝剤、塩、プライマー、標的核酸、およびヌクレオシド三リン酸を含む。状況に応じて、増幅試薬は、完全または不完全増幅反応混合物のいずれかであってもよい。
【0061】
チップのナノウェル中の液体内に含有される試薬は、実行される反応によって決まる。一実施形態では、アドレス指定可能なユニットの配列のウェルのうちの少なくとも1つは、核酸増幅反応を実施するための試薬を含有する。試薬は、免疫測定法、核酸増幅が挙げられるがこれに限定されない核酸検出アッセイのための試薬であってもよい。試薬は、チップのユニット中で乾燥状態または液体状態であってもよい。一実施形態では、核酸増幅反応を実施することが可能なチップ中のウェルのうちの少なくとも1つは、以下のうちの少なくとも1つを含有する:プローブ、ポリメラーゼ、およびdNTP。別の実施形態では、チップのナノウェルは、プローブ、プライマー、およびポリメラーゼを含む溶液を含有する。種々の実施形態では、各チャンバは、(1)上記の標準ゲノム内のポリヌクレオチド標的に対するプライマー、および(2)プライマーが上記の標的と結合する場合、濃度依存性信号を発する、上記のプライマーと関連したプローブを含む。種々の実施形態では、各ウェルは、ゲノム内のポリヌクレオチド標的に対するプライマー、およびプライマーが標的と結合する場合、濃度依存性信号を発する、プライマーと関連したプローブを含む。別の実施形態では、チップの少なくとも1つのウェルは、正PCRプライマー、逆PCRプライマー、および少なくとも1つのFAM標識のMGBクエンチされたPCRプローブを含む、溶液を含有する。一実施形態では、プライマー対は、ウェル中に分注され、次いで凍結などによって乾燥させられる。使用者は次いで、試料、プローブ、および/またはポリメラーゼを、ナノ分注など、選択的に分注することができる。
【0062】
本発明の他の実施形態では、ウェルは、乾燥形態で上記の溶液のいずれかを含有してもよい。本実施形態では、この乾燥形態は、ウェルに被覆されてもよく、またはウェルの底部に方向付けられてもよい。使用者は、分析の前に、水および試料の混合物をウェルのそれぞれに添加することができる。本実施形態では、乾燥した反応混合物を含むチップは、ライナーで密閉され、保存されるか、または別の場所に輸送されてもよい(例えば、本明細書に記載される抽出器具と組み合わせて)。ライナーは、接着剤の均一性を損傷することなく、一枚で解放可能である。ライナーは、識別を補助するために、かつ取り扱いを簡単にするために、カバーとは明白に異なる。ライナーの材料は、接着剤からの解放時の静電荷の生成を最小限に抑えるように選択される。使用者がチップを使用する準備ができているとき、密閉は破られ、ライナーは除去され、試料がチップのユニットに添加される。多くの用途において、ナノウェルを密閉することは、液体の蒸発を防ぐために望ましく、したがって熱循環全体を通して好ましい反応濃度を維持する。
【0063】
チップは、遺伝子型決定、遺伝子発現、またはPCRによって事前形成される他のDNAアッセイのために使用されてもよい。プレート中で実施されるアッセイは、TAQMAN、TAQMANゴールド、SYBRゴールド、およびSYBRグリーンなどのDNAアッセイに限定されず、受容体結合、酵素、および他のハイスル−プットスクリーニングアッセイなど、他のアッセイも含む。いくつかの実施形態では、ROX標識プローブが内部標準として使用される。
【0064】
本発明はまた、複数の充填済みナノウェルを含むチップを使用した、PCR分析を実施するための方法を提供し、方法は、反応混合物を形成するために、試料をナノウェル中に配置することと、鉱油または他の密閉機構を用いて、チップのナノウェルを密閉することと、チップを熱循環システム中に配置することと、システムを循環させることと、結果を分析することと、ナノウェルから試薬を捕捉器具中に抽出することとを含む。
【0065】
チップは、任意の好適な基板からなってもよい。基板はしばしば、良熱導体である。良熱導体は概して、1W/m−1−1よりも高い、好ましくは100W/m−1−1よりも高い、より好ましくは140W/m−1−1よりも高い熱伝導率値を有する。材料の熱伝導率は250W/m−1−1またはそれ以上であってもよいが、それは通常、500W/m−1−1を超えない。ある特定の実施形態では、基板は比較的不活性であり、かつ化学的に安定している。比較的不活性であり、かつ化学的に安定している基板は概して、目的の用途で採用される反応試料と反応する低い傾向レベルを示す。いくつかの実施形態では、材料は、材料上に、または材料に隣接して熱制御要素を統合する能力または実現可能性に基づき選択される。例示的な材料としては、シリコン、ケイ酸塩、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、ガリウムリン、ヒ化ガリウム、またはそれらの任意の組み合わせなどの、半金属もしくは半導体が挙げられるがこれらに限定されない。他の材料としては、ガラス、セラミック(結晶性および非晶質ケイ酸塩、ならびに非ケイ酸塩系セラミックを含む)、金属、もしくは合金、ドーパントを含有する複合ポリマー(例えば、熱伝導率を高めるための酸化アルミニウム)、または当該技術分野で利用可能な種々のプラスチックおよび有機ポリマー材料のいずれかが挙げられる。一実施形態では、ナノウェルは、AlまたはSS−316ならびに同様の他のものを含む基板中で製造される。
【0066】
ある特定の実施形態では、チップは、熱伝導性ポリマーを使用して製造される。例えば、チップは、ポリカーボネート、ポリプロピレン、または当業者に既知の任意の他の導電性ポリマーを使用して製造され得る。チップは、任意の好適な方法によって製造され得る。チップを作製する方法の例としては、マイクロドリル加工、放電方法、熱エンボス加工、および導光として水を使用するものから作製されるツールを用いた熱エンボス加工が挙げられるがこれらに限定されない。あるいは、チップは、集積回路(IC)および微小電気機械システム(MEMS)産業において確立された技術を使用して製造され得る。製造過程は典型的には、チップ基板の選択を開始し、続いて種々の構成要素を構築および統合するために、適切なIC処理方法および/またはMEMSマイクロマシニング技術を使用する。チップの製造は、IC処理および/またはMEMSマイクロマシニングの標準技術に従って実施され得る。チップは、多層構造として製造され得る。過程は概して、底層の構築を開始する。次いで、その上に位置するか、またはその中に組み込まれる構造を構築するために、フォトリソグラフィ、化学蒸着、または物理蒸着、ドライまたはウェットエッチングが挙げられるがこれらに限定されない技術の組み合わせが採用される。例えば、蒸着が、他の材料上への非常に薄く均一な被覆の製造を可能にする一方で、エッチングは、より大きいチップ構造の大量生産を可能にする。イオン注入、プラズマ灰化、結合、および電気めっきなどの他の有用な技術もまた、チップの表面特性を改善するために、またはチップの種々の構成要素を統合するために採用され得る。
【0067】
ある特定の実施形態では、デバイス、物品、およびアセンブリは、自動試料処理システム(例えば、中央コンピュータ制御を有する)などのシステムの一部である。特定の実施形態では、システムは、試料調製、チップ中の反応(例えば、チップのナノウェル中のPCR反応)、反応の分析(例えば、光学的リアルタイムアンプリコン蓄積)、データ分析/記憶/表示、およびチップのナノウェルからの拘束液体の回収(例えば、本明細書に記載される抽出器具を使用した)を含む、少なくとも部分的な自動化を提供する。特定の実施形態では、システムはさらに、ナノウェルから回収された液体のさらなる操作を含む。
【0068】
本発明はまた、Wafergen’S SMARTCHIPなど、ナノウェルチップ(例えば、ウェル中でプライマー対が事前充填されるチップ)上で生成されるアンプリコンのダイナミックレンジを減少させる方法も提供する。他のウェルと比較したある特定のウェル中で生成されるアンプリコン数の大きい差は、大きいダイナミックレンジをもたらし得る(ある特定のウェル中で生成されるアンプリコンの量の他のウェルに対する大きい差)。他のウェルと比較したアンプリコン数の大きい差は、アンプリコンが配列されるとき、包括度の大きい相違をもたらし得る。ウェル間でアンプリコン生成の差があり得る1つの理由は、プライマー設計および後続のPCR反応の効率性に関連する。多くの場合、対象のアンプリコン内にあるナノウェルチップでは(例えば、PCRプライマーが事前充填されたウェルを有する)、アンプリコンが配列されるとき、配列包括度の大きな範囲をもたらし得る幅広いアンプリコン増幅がある。この包括度の差は、例えば、最大で50倍またはそれ以上であり得る。例えば、1000個の配列されたアンプリコンでは、30X〜1500Xの配列包括度の範囲、または50倍の広がりを有することは特殊ではない。
【0069】
チップ上で所与の標的に対して生成されるアンプリコンが少なくとも部分的に正規化されるように、ナノウェルチップ中の包括度のダイナミックレンジを減少させるための例示的な方法は、以下の通りである。包括度のダイナミックレンジを減少させるための方法は、単独で使用されてもよく、またはありとあらゆる組み合わせで組み合わされてもよい。
i) 特定の実施形態では、ある特定のウェルが特定のチップ上で低発現体であることがわかった場合、チップ構成は、他のウェルと比較して、総量を引き上げるために、低発現アンプリコンに対する利用可能なウェルをさらに利用するように修正され得る。例えば、包括度の幅が30X〜1500Xであり、次いで30Xウェルが3回実施される場合、予想される包括度範囲は、90X〜1500X、または17Xの幅のみである。
ii) 別の実施形態では、高発現アンプリコンは、それらの生成を減少させるために多重化され得る。例えば、少数のアンプリコンの多重化、例えば、二重化から四重化のために、プライマー設計は、単一管アッセイよりも単純に行われ、その場合、数百ものプライマーが組み合わされ、有害な相互作用の可能性はより大きい。
iii) いくつかの実施形態では、1つのアプローチは、プライマー滴定、ならびに高アンプリコン反応に対するプライマー希釈、および/または低アンプリコン反応に対して逆に増加するプライマー濃度に基づく。
iv). アンプリコンの増幅を有するダイナミックレンジを減少させるための別の方法は、GC豊富標的のために設計されたマスターミックスを使用することに関する。ある特定の標的に関する1つの問題は、GC豊富領域が典型的には、少量のアンプリコンを生成することである。例えば、マスターミックスは、GC豊富領域の増加したPCR増幅を可能にするベタインまたは他の試薬を含み得る。
v) ある特定の実施形態では、標準プライマーで高いアンプリコンレベルを生成する標的は、PCR中に生成されるアンプリコンのレベルが低減されるように、その標的に対してあまり効率的ではないプライマーに切り替えられ得る。
vi) 特定の実施形態では、特定のウェルの熱循環温度は、より少ない量(またはより多い量)のアンプリコンが所与のウェル中で生成されるように、変更され得る。
vii) いくつかの実施形態では、ウェルの深さ、幅、および/または全体積は、高または低生成アンプリコンを補うように調整される。例えば、より深いウェルは、低発現アンプリコンに対して採用され得る一方で、より浅いウェルは、高発現アンプリコンに対して使用され得る。
【0070】
上記のように、ある特定の実施形態では、多重化は、高発現アンプリコンの濃度を低減するために採用される。以下の単純化された例は、高発現アンプリコンの濃度を低減するために採用される多重化が、プライマーの特定のセットで有用であるかを決定するために採用され得る。ヒトゲノムDNA上でほぼ同等のCTを有する4つのプライマーを選択する(例えば、BCHからの4つのプライマー、「A」、「B」、「C」、「D」)。これらのプライマーは、以下の7つの構成:A、B、C、D、A+B、A+B+C、およびA+B+C+Dで、384ウェルプレートまたはナノウェルチップのウェル中に分注される。全てのプライマーが公称濃度で分注され、熱循環される(例えば、LC480上で)。次いで、アンプリコンのDNA濃度は、各ウェル中で測定される(例えば、ナノ液滴を使用して)。全てのウェルがほぼ同じDNA濃度を有する場合、高発現アッセイを軽減するための多重化が有用であるはずである。DNA濃度がウェル中のプライマーの数に対応する場合、多重化はおそらく有用ではない。
【0071】
本願で言及される全ての出版物および特許は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の記載された方法および組成物の種々の修正形および変化形が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者に明らかとなるであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態と関連して記載されているが、特許請求の範囲に記載される本発明が、そのような特定の好ましい実施形態に過度に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際には、当業者には明らかである本発明を実施するための記載されたモードの種々の修正形が、以下の特許請求の範囲の範囲内に入るよう意図される。
図1
図2
図3
図4