(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の流体殺菌装置においては、低圧水銀ランプから発せられる254nmの波長の紫外光が流体に照射されているが、上記の特許文献においても指摘されているように、この波長の紫外光は、流体自体に吸収されてしまい、表面から数ミリメートル程度の深さまでしか届かない。特許文献1においては、流体の循環経路中に流体が浅くなる部分を設け、その部分を通過する流体に紫外光を照射するなどの工夫が施されているが、抜本的な解決にはなっていない。紫外光照射により流体を殺菌する効率を更に向上させる技術が求められている。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、紫外光により流体を殺菌する効率を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の流体殺菌装置は、流体を流すための流路と、流路を流れる流体に向けて、290〜310nmの波長の紫外光を照射する光源と、を備える。
【0007】
この態様によると、後述するように、流体に含まれる成分による紫外光の吸収を抑えて、流体の内部まで紫外光を照射し、流体に含まれる細菌やウイルスなどを効率良く殺菌することができる。
【0008】
流体は、芳香族化合物を含んでもよい。254nm付近の紫外光を吸収するような芳香族化合物が含まれる流体であっても、290〜310nmの波長の紫外光を照射することにより、流体に含まれる細菌やウイルスなどを効率良く殺菌することができる。
【0009】
流路は、長手方向に延びる直管を含んでもよい。流体は、流路を層流状態で流れてもよい。光源は、290〜310nmの波長の紫外光を発する発光素子を含んでもよく、長手方向と直交する流路の断面において中央付近の紫外光強度がその周囲の紫外光強度よりも高い強度分布となるように紫外光を照射してもよい。
【0010】
この態様によると、層流状態で流れる流体に紫外光を照射するため、乱流状態の流体に紫外光を照射する場合と比べて殺菌効率を高めることができる。本発明者らの知見により、直管状の流路内に紫外光を照射して殺菌処理をする場合、乱流状態とするよりも層流状態とする方が約7倍の殺菌効率が得られることがわかっている。また、層流状態の流体は、中央付近の流速が速く、管内壁付近の流速が遅い速度分布を有しているため、その速度分布に対応させて中央付近の紫外光強度を高めることで、流路内を流れる流体に効果的に紫外光を照射して殺菌効率を向上させることができる。
【0011】
流体は、切削加工のための切削液を含んでもよい。この態様によると、切削加工中に空気中を浮遊しているバクテリア等が切削液に溶け込み、切削液に含まれている有機成分を培地として繁殖してしまうのを防ぐことができる。
【0012】
流体は、水耕栽培のための培養液を含んでもよい。この態様によると、水耕栽培のための培養液に混入した病原菌が繁殖し、植物が死滅してしまうのを防ぐことができる。
【0013】
流体は、製造過程における日本酒を含んでもよい。この態様によると、日本酒の製造過程において残存した乳酸菌により、日本酒に含まれる糖分が流通過程において醗酵し、日本酒本来の味を損ねてしまうのを防ぐことができる。
【0014】
本発明の別の態様は、流体殺菌方法である。この方法は、流路を流れる流体に向けて、290〜310nmの波長の紫外光を照射する。
【0015】
この態様によっても、流体に含まれる成分による紫外光の吸収を抑えて、流体の内部まで紫外光を照射し、流体に含まれる細菌やウイルスなどを効率良く殺菌することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紫外光により流体を殺菌する効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態に係る流体殺菌装置は、従来の流体殺菌装置において使用されていた254nm付近の波長の紫外光ではなく、より長波長の紫外光、例えば、290〜310nmの範囲の波長の紫外光を流体に照射する。これにより、流体に含まれる成分による紫外光の吸収を抑えて、流体の内部まで紫外光を照射し、流体に含まれる細菌やウイルスなどを効率良く殺菌することができる。290〜310nmの範囲の波長の紫外光を照射すべき理由を以下に説明する。
【0019】
[殺菌の対象となる流体]
旋盤等の工作機械では、切削液として、エチレングリコールを主成分としたクーラントが広く用いられている。このクーラントは、加工点の潤滑剤及び冷却剤としての機能を有しているが、使用とともにクーラント自体の温度が上昇することは避けられないので、空気中を浮遊しているバクテリア等がクーラントに溶け込んだ際には、もともとクーラントに含まれている有機成分を培地として、バクテリア等が繁殖し易い環境にある。このため、特に夏場ともなると、加工中に悪臭が放たれて、作業環境の悪化を招いている。また、バクテリアが産生する成分は、流体のpHを下げるため、加工製品や加工装置の錆や腐食を起こし、品質を低下させたり、加工装置の寿命を短縮したりする問題も生じる。更に、切削液中のカビの発生も大きな問題となる。カビが発生すると、液槽の壁に堆積物が付着するが、この堆積物がクーラントの性能を阻害し、特にろ過システムの性能を低下させる。カビの発生を抑えるために、真菌用の殺菌剤を使用すると、切削性能が変化してしまう場合があるため、特に高い精度を必要とする加工装置では好ましくない。このため、紫外光により切削液を殺菌することが求められている。
【0020】
水耕栽培や植物工場では、生育に必要な培養液を循環しているが、しばしばこの培養液に病気の原因となる病原菌が入りこむことがある。培養液に病原菌がひとたび混入すると、培養液を循環させているために、植物が全滅してしまう可能性もある。野菜栽培では、病気に対抗するために、しばしば農薬が使われるが、水耕栽培の場合は、農薬を使用すると、農薬が培養液に溶け込み、植物の内部が農薬によって汚染されてしまうため、ほとんどの農薬が使用できない。このため、紫外光により培養液を殺菌することが求められている。
【0021】
日本酒は、米を麹菌により醗酵させて作るアルコール飲料であるが、その製造過程において乳酸菌が残存してしまうと、日本酒に含まれる糖分が次々と醗酵していき、日本酒本来の味を大きく損ねることになる。そのため、日本酒の製造過程では、醗酵し終わった原酒に含まれる麹菌をフィルタで取り除いた後に、60℃程度の温度で処理する「火入れ」と呼ばれる工程を導入しており、ここで乳酸菌を殺菌している。ところが、この「火入れ」は、日本酒が持つ豊かな風味や味を損ねることが知られているため、できるだけ温度を低くしたり、時間を短くしたりして、風味が落ちないようにする工夫がなされている。そのため、ごくまれに乳酸菌が残ってしまうことがあり、その場合は、流通過程を経て消費者の手に届くまでの間に乳酸菌が繁殖してしまい、消費者が開封する頃には、炭酸ガスを含んだ、酸っぱい味に変化してしまう。これを「火おち」と呼んでいる。紫外光により乳酸菌を殺菌することができれば、火入れを行う必要がなくなるので、風味や味を損ねることなく、芳醇な味わいの日本酒を製造することができると考えられる。
【0022】
[流体の紫外光吸収特性]
図1は、流体の一例である切削液の透過スペクトルの例を示す。この透過スペクトルは、市販されている切削液を用いて測定したものである。約290nm未満の波長の紫外光の透過率は15%未満と低いが、約290nm以上の波長の紫外光はあまり吸収されずに透過することが分かる。このような透過特性は、主に、切削液に添加されている下記の有機化合物が約290nm未満の紫外光を吸収することに由来すると考えられる。
【化1】
【化2】
【化3】
これらの有機化合物は、いずれもベンゼン環を有しており、共役二重結合の存在により、吸収される紫外光の波長が長波長側にシフトした結果、約290nmまでの波長の紫外光を吸収すると考えられる。
【0023】
共役二重結合が増えるにつれて、吸収される紫外光の波長が長波長側にシフトすることは良く知られている。
図2は、共役二重結合を有する有機化合物の例として、ベンゼン、ナフタレン、およびアントラセンの吸収スペクトルを示す。ベンゼンでは約270nm、ナフタレンでは約310nm、アントラセンでは約390nmまで吸収の立ち上がりがシフトしている。また、吸収される紫外光の波長は、ベンゼン環に結合する官能基によっても影響を受ける。
図3は、官能基を有する芳香族化合物の例として、フェノール、p−ニトロフェノールの吸収スペクトルを、ベンゼンの吸収スペクトルとともに示す。水酸基やニトロ基の影響により、フェノールおよびp−ニトロフェノールの吸収は、ベンゼンよりも更に長波長側にシフトしている。
【0024】
このように、切削液などの流体は、添加物として、または不純物として、芳香族化合物を含んでいるが、芳香族化合物は、一般に、254nm付近の波長の紫外光の吸光度が高いので、254nm付近の波長の紫外光を照射しても、流体の表面付近の芳香族化合物により、ほとんどの紫外光が吸収されてしまうことになる。
【0025】
これに対して、254nmよりも長波長、例えば290nm以上の波長の紫外光は、ベンゼン、ナフタレン、フェノールによってはほとんど吸収されない。
【0026】
図4は、日本酒の透過スペクトルの例を示す。この透過スペクトルは、市販されている2種類の日本酒と精製水の透過スペクトルである。いずれの日本酒においても、285nmより短い波長領域では、ほとんどの光が透過しないことが分かる。これは、日本酒にはフェノールが約10ppm〜300ppm程度含まれており、また多くの芳香族アミノ酸も含まれていることから、これらの芳香族化合物が285nm未満の波長の紫外光をほとんど吸収してしまうためであると考えられる。
【0027】
[紫外光による殺菌効果の波長依存性]
図5は、紫外光による殺菌効果の波長依存性の例を示す。細菌やウィルスなどの核酸は、本図に示すように、波長が260nm付近である紫外光を良く吸収すると言われている。したがって、前述したように、従来の流体殺菌装置においては254nm付近の波長の紫外光が流体に照射されていた。しかし、本図からも分かるように、より長波長の紫外光であっても、310nm付近の波長までの範囲であれば、殺菌効果が期待できる。254nm付近の波長の紫外光よりも効果は低くなるが、照射する光量や時間などを増加させることにより解決可能であり、例えば290〜310nmの波長の紫外光を照射することによっても、確実に流体を殺菌することができる。290nm付近の波長の紫外光の照射による殺菌効果は約30%であり、最も殺菌効果の高い254nm付近の波長の紫外光を照射する場合に比べて殺菌効果は約1/3に低下するが、紫外光の照射エネルギーを約3倍に増加させれば同等の殺菌効果が得られる。これは、流体殺菌装置に応用するにあたって、十分に現実的な値である。
【0028】
[照射すべき紫外光の波長]
以上説明したように、殺菌の対象となる流体に含まれる芳香族化合物による紫外光の吸収を低く抑えるためには、290nm以上の波長の紫外光を照射することが好ましく、流体に含まれる細菌やウイルスなどを効果的に殺菌するためには、310nm以下の波長の紫外光を照射することが好ましい。
【0029】
下限値は、流体に含まれる有機化合物の種類に応じて選択されてもよい。例えば、主成分がベンゼンであり、その他の芳香族化合物がほとんど含まれない場合は、270nm以上の波長の紫外光を用いることができる。また、主成分がアントラセンである場合も、270nm以上の波長の紫外光を用いることができる。主成分がナフタレンまたはフェノールである場合は、290nm以上の波長の紫外光を用いることが好ましい。主成分がp−ニトロフェノールである場合は、逆に、300nm以下、より好ましくは280nm以下の波長の紫外光を用いることが好ましい。殺菌の対象となる流体の吸収スペクトルを予め測定して、照射すべき紫外光の波長を決定してもよい。この場合、照射する紫外光の光量、照射時間、照射エネルギー、紫外光を照射する部分における流路の深さなどを考慮して、許容される流体の吸光度を決定し、決定された吸光度から照射する紫外光の波長を決定してもよい。
【0030】
上限値は、流体に含まれる細菌やウイルスなどの種類に応じて選択されてもよい。例えば、
図5に示した例よりも長波長の紫外光でも殺菌効果があるような細菌やウイルスなどが流体に含まれる場合は、310nmよりも長い波長の紫外光が用いられてもよく、例えば、320nm、330nm、340nm、または350nmを上限値としてもよい。この場合も、殺菌の対象となる流体に含まれる細菌やウイルスの種類を予め検査し、含まれる細菌やウイルスの種類から紫外光の波長を決定してもよい。
【0031】
[流体殺菌装置の構成]
上記の波長の紫外光を流体に照射するための光源として、キセノンランプ、重水素ランプ、発光ダイオードなどが挙げられるが、キセノンランプ及び重水素ランプは、上記の波長以外の波長の光も発するので、熱線により流体の温度が上昇してしまうのを防ぐために、フィルターなどを用いる必要がある。したがって、上記の波長の紫外光を選択的に発することが可能な発光ダイオードを用いることがより好ましい。以下に、発光ダイオードを光源とする流体殺菌装置の構成について説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0032】
(第1の実施の形態)
図6は、第1の実施の形態に係る流体殺菌装置10の構成を概略的に示す図である。流体殺菌装置10は、直管20と、流出管30と、光源40とを備える。光源40は、直管20の端部(第2端部22)に配置され、直管20の内部に向けて紫外光を照射する。流体殺菌装置10は、直管20の内部を流れる水などの流体に紫外光を照射して殺菌処理を施すために用いられる。
【0033】
直管20は、第1端部21と、第2端部22と、第1フランジ26と、窓部28とを有する。直管20は、第1端部21から第2端部22に向けて長手方向に延在する。第1端部21には、直管20の長手方向に流体を流入させる流入口23と、流入口23を他の配管等に接続するための第1フランジ26が設けられる。第2端部22には、光源40からの紫外光を透過させるための窓部28が設けられる。窓部28は、石英(SiO
2)やサファイア(Al
2O
3)、非晶質のフッ素系樹脂などの紫外光の透過率が高い部材で構成される。
【0034】
第2端部22には、直管20の長手方向と交差する方向または直交する方向に流体を流出させる流出口24が設けられる。流出口24は、直管20の側壁に設けられ、流出口24には、流出管30が取り付けられている。流出管30は、一端が流出口24に取り付けられ、他端に第2フランジ32が設けられる。したがって、直管20および流出管30は、L字状の流路12を形成する。第1フランジ26から流入する流体は、流入口23、直管20、流出口24および流出管30を通って第2フランジ32から流出する。
【0035】
直管20および流出管30は、金属材料や樹脂材料で構成される。直管20の内壁面20aは、紫外光の反射率が高い材料で構成されることが望ましく、例えば、鏡面研磨されたアルミニウム(Al)や、全フッ素化樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成される。これらの材料で直管20の内壁面20aを構成することで、光源40が発する紫外光を内壁面20aで反射させて直管20の長手方向に紫外光を伝搬させることができる。なお、PTFEは、化学的に安定した材料であり、紫外光の反射率が高い材料であるため、流体殺菌装置の流路を構成する直管20の材料として好適である。
【0036】
直管20の内径dおよび流路12を流れる流体の平均流速vは、流路12を流れる流体が層流状態となるように調整される。具体的には、流路12のレイノルズ数Reが層流状態の臨界レイノルズ数以下となるように、Re=v・d/ν(ν:流体の動粘性係数)の式を用いて内径dおよび平均流速vが調整される。臨界レイノルズ数以下の値とは、例えば、レイノルズ数Reが3000以下であり、好ましくは2500以下であり、さらに好ましくは2320以下である。また、流入口23から流路12に長手方向に流体を流入させることにより、第2端部22に向かって流体が層流状態で流れるようにする。流体が層流状態で流れる場合、直管20の中心軸の近傍を流れる流体の流速v
1が相対的に速く、直管20の内壁面20aの近傍を流れる流体の流速v
2が相対的に遅い流速分布となる。理想的な層流状態である場合、流路12を流れる流体は、回転放物面の式で表される速度分布となる。
【0037】
光源40は、発光素子42と、基板44とを有する。発光素子42は、紫外光を発するLED(Light Emitting Diode)であり、その中心波長またはピーク波長が約200nm〜350nmの範囲に含まれる。発光素子42は、上述した波長の範囲、例えば290nm〜310nm付近の紫外光を発することが好ましい。このような紫外光LEDとして、例えば、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を用いたものが知られている。
【0038】
発光素子42は、所定の指向角または配光角を有するLEDであり、例えば、配光角(全角値)が120度以上となる広配光角のLEDである。このような発光素子42として、出力強度の高い表面実装(SMD;surface mount device)型のLEDが挙げられる。発光素子42は、直管20の中心軸上に配置され、窓部28と対向するように基板44に取り付けられる。基板44は、熱伝導性の高い部材で構成され、例えば、銅(Cu)やアルミニウム(Al)などがベース材料として用いられる。発光素子42が発する熱は、基板44を通じて放熱される。
【0039】
図7は、流路12内の紫外光強度分布を示すコンター図である。発光素子42は、所定の配光角を有する紫外光を照射するため、中央付近の紫外光強度がその周囲の紫外光強度よりも高い強度分布となる。その結果、直管20の内部における紫外光の強度分布は、長手方向と直交する流路12の断面視において、中心軸付近の紫外光強度が高く、内壁面20a付近の紫外光強度が低くなる。
【0040】
以上の構成により、流体殺菌装置10は、直管20の内部を流れる流体に紫外光を照射して流体に殺菌処理を施す。光源40からの紫外光は、直管20の中央付近の強度が高く、直管20の内壁面20a付近の強度が低くなるように照射される。流路12を流れる流体は、中央付近の流速v
1が速く、内壁面20a付近の流速v
2が遅くなる層流状態となるようにして流される。その結果、層流状態となって直管20を通過する流体に作用する紫外光のエネルギー量を流体が通過する径方向の位置によらずに均一化できる。これにより、直管20を流れる流体の全体に対して所定以上のエネルギー量の紫外光を照射することができ、流体全体に対する殺菌効果を高めることができる。
【0041】
つづいて、流体殺菌装置10の効果について比較例を参照しながら説明する。
図8は、乱流状態の流体の速度分布を示すコンター図であり、レイノルズ数Re=4961となる条件下で直管20に流体を流した場合の速度分布を示す。図示する例では、内壁面20a付近の一部分の流速が最も速く、中央付近の流速が負の値となる状態を示すが、流体の速度分布は一定ではなく時間とともに随時変化する。このような乱流状態となる条件下において、流体として大腸菌を含む菌液を流したところ、通過後の流体に含まれる大腸菌の生存率が0.53%であった。
【0042】
図9は、層流状態の流体の速度分布を示すコンター図であり、レイノルズ数Re=2279となる条件下で直管20に流体を流した場合の速度分布を示す。図示する例では、流速が最も高い箇所が右上の方にずれているが、概ね中央付近の流速が速く、内壁面20a付近の流速が遅い流速分布となっている。このような層流状態となる条件下にて大腸菌を含む菌液を流したところ、通過後の流体に含まれる大腸菌の生存率が0.07%となった。これらの結果から、乱流状態と比べて層流状態では約7倍の殺菌効果が得られることがわかった。このように、本実施の形態によれば、層流状態の流体に対して層流状態の流速分布に対応した強度分布の紫外光を照射することできるため、流体に対する殺菌効率を向上させることができる。
【0043】
また、本実施の形態によれば、直管20の中心軸上に流入口23と光源40が配置されるため、光源40からの紫外光が照射される方向に流体のスムーズな流れを作ることができる。また、流入口23を光源40と反対側の位置に設けることで直管20を進んでいくことで乱れの少ない層流状態となった流体に強度の高い紫外光を照射できる。これにより、紫外光強度の低い箇所を流体の一部が高速で通過したり、紫外光強度の高い箇所で流体の一部が渦となって滞留したりして照射される紫外光のエネルギー量にムラが生じ、殺菌効果が低下する影響を抑えることができる。
【0044】
図10は、変形例に係る光源140の構成を概略的に示す正面図である。光源140は、複数の発光素子142a,142bと、基板144とを有する。光源140は、基板144の中央領域C1に密集して配置される複数の第1発光素子142aと、基板144の周縁領域C2に点在して配置される複数の第2発光素子142bとを有する。第1発光素子142aおよび第2発光素子142bは、上述の発光素子42と同様に構成される。
【0045】
光源140は、中央領域C1に第1発光素子142aが密集して配置されるため、中央領域C1において相対的に強度の高い紫外光を出力する。一方、周縁領域C2には第2発光素子142bがまだらに配置されるため、周縁領域C2において相対的に強度の低い紫外光を出力する。したがって、本変形例に係る光源140を上述の流体殺菌装置10に適用することで、直管20の直径dを大きくして処理流量を増やす場合であっても、中央付近の紫外光強度が高く、内壁面20a付近の紫外光強度が低い強度分布の紫外光を照射できる。
【0046】
(第2の実施の形態)
図11および
図12は、第2の実施の形態に係る流体殺菌装置210の構成を概略的に示す断面図であり、
図12は、
図11のA−A線断面に対応する。流体殺菌装置210は、直管220と、流入管231と、流出管232と、複数の第1光源240aと、複数の第2光源240bとを備える。流体殺菌装置210は、流入管231および流出管232が直管220の中心軸上に配置され、L字状ではなく直線状の流路212が構成される点で上述の第1の実施の形態と相違する。以下、本実施の形態について第1の実施の形態との相違点を中心に述べる。
【0047】
直管220は、第1端部221から第2端部222に向けて延在する。第1端部221には、直管220の長手方向と直交する第1端面221aと、第1端面221aの中央付近に位置する流入口223とが設けられる。第1端面221aには、第1光源240aからの紫外光を透過させるための複数の第1窓部227が設けられる。流入口223には、直管220の長手方向に延びる流入管231が取り付けられている。流入管231は、直管220の長手方向に流体を流入させ、流路212内の流れに乱れが生じるのを抑える。
【0048】
第2端部222は、第1端部221と同様に構成されている。第2端部222には、直管220の長手方向と直交する第2端面222aと、第2端面222aの中央付近に位置する流出口224とが設けられる。第2端面222aには、第2光源240bからの紫外光を透過させるための複数の第2窓部228が設けられる。流出口224には、直管220の長手方向に延びる流出管232が取り付けられている。流出管232は、直管220の長手方向に流体を流出させ、流路212内の流れに乱れが生じるのを抑える。
【0049】
第1光源240aは、複数の第1発光素子242aと、複数の第1基板244aとを有する。複数の第1発光素子242aは、
図12に示されるように、流入口223を囲むように四方に配置され、第1基板244aに取り付けられる。複数の第1発光素子242aのそれぞれは、対応する第1窓部227を通じて直管220の内部に向けて直管220の長手方向に紫外光を照射する。
【0050】
図示する例では、第1発光素子242aが四箇所に設けられる場合を示しているが、第1発光素子242aは三箇所以下に設けられてもよいし、五箇所以上に設けられてもよい。なお、複数の第1発光素子242aは、流路212を流れる流体全体に紫外光を照射できるように、等間隔に配置されることが好ましい。流入口223を囲むようにして複数の第1発光素子242aを等間隔に配置することで、第1光源240aは、直管220の中央付近の紫外強度が高く、直管220の内壁面220a付近の紫外強度が低くなるような強度分布の紫外光を照射できる。
【0051】
第2光源240bは、複数の第2発光素子242bと、複数の第2基板244bとを有し、第1光源240aと同様に構成される。複数の第2発光素子242bは、流出口224を囲むように四方に配置され、第2基板244bに取り付けられる。複数の第2発光素子242bのそれぞれは、対応する第2窓部228を通じて直管220の内部に向けて直管220の長手方向に紫外光を照射する。第2光源240bは、第1光源240aと同様、直管220の中央付近の紫外強度が高く、直管220の内壁面220a付近の紫外強度が低くなるような強度分布の紫外光を照射する。
【0052】
直管220の内径および流路112を流れる流体の平均流速は、流路212を流れる流体が層流状態となるように調整される。その結果、直管220の中心軸の近傍を流れる流体の流速が相対的に速く、直管220の内壁面220aの近傍を流れる流体の流速が相対的に遅い流速分布となる。このような速度分布を有する流体に対して、第1光源240aおよび第2光源240bから直管220の中央付近の紫外強度が高く、内壁面220a付近の紫外強度が低い強度分布の紫外光が照射される。したがって、本実施の形態においても、層流状態の流体に対して層流状態の流速分布に対応した強度分布の紫外光を照射することで、流体に対する殺菌効率を向上させることができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、直管220の中心軸上に流入口223と流出口224が配置されるため、流路212を流れる流体に乱れや渦が生じるのを抑えることができる。また、流入口223と流出口224の双方に光源240a,240bを配置しているため、いずれか一方のみから紫外光を照射する場合よりも流体に作用する紫外光のエネルギー量を増やして流体に対する殺菌効率を向上させることができる。
【0054】
なお、変形例においては、流入口223と流出口224のいずれか一方のみに光源を配置してもよい。また、光源240a,240bは、直管220の内部に設けられてもよい。直管220の内部に光源240a,240bを設ける場合、光源240a,240bは、直管220の端面221a,222bに取り付けられるとともに、流路212を流れる流体に直接触れないように紫外光を透過するカバー部材等が設けられる。
【0055】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0056】
上述の実施の形態に係る流体殺菌装置10は、流体に紫外光を照射して殺菌処理を施すための装置として説明した。変形例においては、紫外光の照射により流体に含まれる有機物を分解させる浄化処理に本流体殺菌装置を用いてもよい。
【0057】
変形例においては、上述の直管で構成される流路の途中、流入口または流入口よりも上流の位置に整流板が設けられてもよい。この整流板は、流路を流れる流体の流れを整えて層流化させる機能を有してもよい。整流板を設けることで、より乱れの少ない層流状態を形成して殺菌効果を高めることができる。
【0058】
変形例において、光源は、発光素子が発する紫外光の強度分布を調整するための調整機構を有してもよい。調整機構は、レンズなどの透過型の光学素子や、凹面鏡などの反射型の光学素子を含んでもよい。調整機構は、発光素子からの紫外光の強度分布を調整することにより、光源から出力される紫外光の強度分布が層流状態の速度分布に対応した形状となるようにしてもよい。このような調整機構を設けることで、流体の流れの態様に適した強度分布の紫外光を照射することができ、殺菌効率をより高めることができる。
【0059】
実施の形態に係る流体殺菌装置10は、工作機械の切削液、水耕栽培の培養液、日本酒以外にも、様々な流体の殺菌に利用することができる。例えば、水族館、養殖場、家庭などにおいて魚を飼育する水槽の水を殺菌することにより、魚の育成に悪影響を及ぼすバクテリアの繁殖を防止することができる。また、病院、宿泊施設、家庭などにおいて使用されるシーツなどを洗浄する際に、洗浄液ごとシーツを殺菌することにより、病原菌を殺菌し、感染症などの拡散を防止することができる。また、食器洗浄機の洗浄液や化粧水などは、有効成分又は添加物として芳香族化合物を多く含み、業務用循環風呂における風呂水は人体から出た皮脂成分を多く含んでいるが、実施の形態に係る流体殺菌装置10によれば、これらの流体も効率良く殺菌することができる。