特許第6559585号(P6559585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559585
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ペリクル枠およびペリクル枠の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20190805BHJP
   B23H 9/00 20060101ALI20190805BHJP
   B23H 9/14 20060101ALI20190805BHJP
   B23P 15/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   G03F1/64
   B23H9/00 Z
   B23H9/14
   B23P15/00 Z
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-11205(P2016-11205)
(22)【出願日】2016年1月25日
(65)【公開番号】特開2017-134093(P2017-134093A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年1月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸広
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−102357(JP,A)
【文献】 特開2012−181499(JP,A)
【文献】 特開平09−204039(JP,A)
【文献】 特開2012−103638(JP,A)
【文献】 実開昭62−049153(JP,U)
【文献】 特開2003−107678(JP,A)
【文献】 実開平07−039047(JP,U)
【文献】 特開2017−076024(JP,A)
【文献】 特開2016−122091(JP,A)
【文献】 特開2007−283412(JP,A)
【文献】 特開平05−069324(JP,A)
【文献】 特開2005−313258(JP,A)
【文献】 特開2010−221391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G03F 1/00−1/92、
B23H 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠形状に形成されたペリクル枠であって、
外周に少なくとも1つの位置決め用の有底孔を有し、
前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、
前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされ、
前記有底孔の前記円錐形状の部位は、先端が半径Rの球形形状の一部をなす位置決め用ピンが接触し得る形状であり、
前記緩衝部は、前記円錐形状を前記中心軸まで延長した仮想的な形状と、前記円錐形状の部位に接触した状態の前記位置決め用ピンの先端形状との間に位置する形状である
ペリクル枠。
【請求項2】
前記円錐形状は、前記中心軸に対する円錐周面の角度がθであり、
前記緩衝部は、平面形状であり、その半径rは、
r≦R(1−sinθ)/cosθ
である請求項1記載のペリクル枠。
【請求項3】
前記緩衝部は、曲面形状であり、その曲率半径は、前記位置決め用ピン先端の前記半径Rより大きい請求項1記載のペリクル枠。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のペリクル枠であって、
前記円錐形状は、前記中心軸に対する円錐周面の角度が50度以上70度以下であり、
前記有底孔の前記円錐形状の部位に接触する位置決めピンの先端は、球形形状の一部をなす形状であり、その半径は、0.3〜0.8mmであり、
前記緩衝部の前記中心軸を通る差し渡しは、0.05mm以上である
ペリクル枠。
【請求項5】
枠形状に形成されたペリクル枠であって、
外周に少なくとも1つの位置決め用の有底孔を有し、
前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、
前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされ、
前記円錐形状は、前記中心軸に対する円錐周面の角度が50度以上70度以下であり、
前記有底孔の前記円錐形状の部位に接触する位置決めピンの先端は、球形形状の一部をなす形状であり、その半径は、0.3〜0.8mmであり、
前記緩衝部の前記中心軸を通る差し渡しは、0.05mm以上である
ペリクル枠。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のペリクル枠であって、
ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなり、
前記焼結体の20℃における体積抵抗率が、1.0×10-3Ω・cm以下である
ペリクル枠。
【請求項7】
枠形状に形成されたペリクル枠であって、
外周に少なくとも1つの位置決め用の有底孔を有し、
前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、
前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされ、
ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなり、
前記焼結体の20℃における体積抵抗率が、1.0×10-3Ω・cm以下である
ペリクル枠。
【請求項8】
枠形状を備えるペリクル枠を製造する方法であって、
焼結体材料を前記枠形状より大きな形状として用意する第1工程と、
前記用意された焼結体材料をワイヤー放電加工により、前記枠形状のペリクル枠の内周面、外周面および開口面の少なくとも一つを得る第2工程と、
前記外周面に、位置決め用ピンの挿入用の有底孔を、放電加工用の電極を用いた放電加工により形成する第3工程と
を備え、
前記第3工程では、
前記放電加工用の電極として、先端部を除く部分が、円錐形状であり、前記先端部が、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状である、電極を用い、
前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、
前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされ、
前記有底孔の前記円錐形状の部位を、先端が半径Rの球形形状の一部をなす位置決め用ピンが接触し得る形状とし、
前記緩衝部を、前記円錐形状を前記中心軸まで延長した仮想的な形状と、前記円錐形状の部位に接触した状態の前記位置決め用ピンの先端形状との間に位置する形状とする
ペリクル枠の製造方法。
【請求項9】
枠形状を備えるペリクル枠を製造する方法であって、
焼結体材料を前記枠形状より大きな形状として用意する第1工程と、
前記用意された焼結体材料をワイヤー放電加工により、前記枠形状のペリクル枠の内周面、外周面および開口面の少なくとも一つを得る第2工程と、
前記外周面に、位置決め用ピンの挿入用の有底孔を、放電加工用の電極を用いた放電加工により形成する第3工程と
を備え、
前記第3工程では、
前記放電加工用の電極として、先端部を除く部分が、円錐形状であり、前記先端部が、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状である、電極を用い、
前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、
前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされ、
焼結後の前記ペリクル枠は、ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなり、
前記焼結体の20℃における体積抵抗率が、1.0×10-3Ω・cm以下である
ペリクル枠の製造方法。
【請求項10】
更に、前記放電加工により形成された前記有底孔の内壁の変質層を除去する第4工程を備えた
請求項8または請求項9記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項11】
前記第4工程における変質層の除去は、ブラスト処理、研磨および化学処理のうち少なくとも一つによって行なう請求項10に記載のペリクル枠の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクル枠およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造において、半導体ウェハにパターンを形成する露光工程で用いられるフォトマスクを防塵するために、透明な薄い膜(ペリクル膜)が張設されたペリクルが用いられる。このペリクル膜をフォトマスクから所定距離離して配するためにペリクル枠という長方形の枠体が用いられる。このペリクル枠には、いくつかの特性が求められる。
【0003】
ペリクル枠は、ペリクルの製造やその取付けを自動化する都合上、位置決め用の有底孔を枠体の外周に設けることがある(例えば、特許文献1参照)。こうした有底孔では、位置決め精度を確保するために、先端を半球形状としたジグピンを用いることを前提に、底部をテーパーとすることが知られている。加工には、一般にドリルを用いるため、有底孔の底部は、ドリル先端の角度に対応した円錐形状となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−181499号公報
【特許文献2】特開2012−103638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有底孔の先端が円錐形状とされていると、有底孔の加工深さを計測し難いという問題があった。計測用のデプスゲージなどを用いる場合、先端に取り付けるニードルタイプの測定子の先端形状や有底孔内の位置によって、測定される深さにバラツキを生じる可能性があった。また、ペリクル枠を、高硬度の素材により形成した場合には、有底孔の加工が困難なるという問題もあった。円錐形状に加工しようとすると、ドリルなどの加工工具の先端が摩耗し、加工工具の交換や加工工具先端の研ぎ直しなどが必要になってしまう。このため、ペリクル枠とその製造方法に関しては、なお改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。例えば本発明の第1の態様として、枠形状に形成されたペリクル枠が提供される。このペリクル枠は、外周に少なくとも1つの位置決め用の有底孔を有し、前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされ、
前記有底孔の前記円錐形状の部位は、先端が半径Rの球形形状の一部をなす位置決め用ピンが接触し得る形状であり、前記緩衝部は、前記円錐形状を前記中心軸まで延長した仮想的な形状と、前記円錐形状の部位に接触した状態の前記位置決め用ピンの先端形状との間に位置する形状であることを特徴とする。また、本発明の第2の態様として、枠形状を備えるペリクル枠を製造する方法が提供される。この製造方法は、枠形状を備えるペリクル枠を製造する方法であって、焼結体材料を前記枠形状より大きな形状として用意する第1工程と、前記用意された焼結体材料をワイヤー放電加工により、前記枠形状のペリクル枠の内周面、外周面および開口面の少なくとも一つを得る第2工程と、前記外周面に、位置決め用ピンの挿入用の有底孔を、放電加工用の電極を用いた放電加工により形成する第3工程とを備え、前記第3工程では、前記放電加工用の電極として、先端部を除く部分が、円錐形状であり、前記先端部が、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状である、電極を用い、前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされ、前記有底孔の前記円錐形状の部位を、先端が半径Rの球形形状の一部をなす位置決め用ピンが接触し得る形状とし、前記緩衝部を、前記円錐形状を前記中心軸まで延長した仮想的な形状と、前記円錐形状の部位に接触した状態の前記位置決め用ピンの先端形状との間に位置する形状とすることを特徴とする。
【0007】
(1)本発明の第1の実施態様として、枠形状に形成されたペリクル枠が提供される。このペリクル枠は、外周に少なくとも1つの位置決め用の有底孔を有し、前記有底孔の底部の中心部を除く部分は、当該底部略中心を中心軸が通る円錐形状をなし、前記中心部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされて良い。
【0008】
このペリクル枠の有底孔は、底部の中心部を除く部分は、円錐形状とされているため、従来の位置決めピンなどを用いた位置決めが容易にでき、しかも中心部が、平面形状もしくは周辺の円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状の緩衝部とされているので、深さの計測が容易となる。また、有底孔の加工も容易となり、あるいは加工工具の交換や研ぎ直しなどの加工工具の維持管理が容易となる。
【0009】
(2)こうしたペリクル枠において、前記有底孔の前記円錐形状の部位には、先端が半径Rの球形形状の一部をなす位置決め用ピンが接触し得る形状であり、前記緩衝部は、前記円錐形状を前記中心軸まで延長した仮想的な形状と、前記円錐形状の部位に接触した状態の前記位置決め用ピンの先端形状との間に位置する形状としても良い。かかる形状とすれば、上記の作用効果を確実に奏することができ、形状設計において、高い自由度を確保できる。
【0010】
(3)上記ペリクル枠において、前記円錐形状は、前記中心軸に対する円錐周面の角度をθとしたとき、前記緩衝部は、平面形状であり、その半径rを、
r≦R(1−sinθ)/cosθ
としても良い。こうすれば、緩衝部を平面形状とした場合に、先端が半径Rの球形形状の一部をなす位置決め用ピンによる位置決めの機能を損なうことがない緩衝部の最大半径を容易に設定することができる。
【0011】
(4)上記ペリクル枠において、前記緩衝部は、曲面形状であり、その曲率半径は、前記位置決め用ピン先端の前記半径Rより大きくしても良い。こうすれば、緩衝部を曲面形状とした場合に、先端が半径Rの球形形状の一部をなす位置決め用ピンによる位置決めの機能を損なうことがない緩衝部の曲率半径を容易に設定することができる。
【0012】
(5)こうしたペリクル枠において、前記円錐形状は、前記中心軸に対する円錐周面の角度が50度以上70度以下であり、前記有底孔の前記円錐形状の部位に接触する位置決めピンの先端は、球形形状の一部をなす形状であり、その半径は、0.3〜0.8mmである場合、前記緩衝部の前記中心軸を通る差し渡しは、0.05mm以上として良い。これらの寸法は、半導体製造におけるフォトマスクに用いられるペリクル枠において、採用容易な値である。中心軸を通る緩衝部の差し渡しとは、緩衝部が円形または略円形であればその直径または略直径であり、円形でなければ中心軸を通る所定方向の径の平均値を言う。所定方向の径の平均値は、最小値と最大値とを求めて、その加算平均として求めても良いし、緩衝部の面積Sを求め、2×√(S/π)として求めてもよい。面積は、例えば有底孔の底部をカメラ等で撮像して得られた画像に基づき、画像処理により求めればよい。
【0013】
(6)上記の各ペリクル枠を、ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなり、前記焼結体の20℃における体積抵抗率が、1.0×10-3Ω・cm以下としても良い。こうすれば、ペリクル枠として十分な強度が得られ、かつ放電加工など、加工対象が導電性材料である場合に採用可能な種々の加工方法を採用することができる。
【0014】
(7)本発明の第2の実施態様として、枠形状を備えるペリクル枠を製造する方法が提供される。かかる製造方法は、焼結体材料を前記枠形状より大きな形状として用意する第1工程と、前記用意された焼結体材料をワイヤー放電加工により、前記枠形状のペリクル枠の内周面、外周面および開口面の少なくとも一つを得る第2工程と、前記外周面に、位置決め用ピンの挿入用の有底孔を放電加工により形成する第3工程とを備えてよい。ここで、前記第3工程において、先端部を除く部分は、円錐形状であり、前記先端部は、平面形状もしくは前記円錐形状より傾斜の緩やかな平面または曲面形状である放電加工用電極を用いて、前記有底孔を形成する工程として良い。
【0015】
こうしたペリクル枠の製造方法によれば、焼結体材料から、位置決め用の有底孔を備えたペリクル枠を容易に製造することができる。放電加工によれば、被加工材料の硬度は問題とならないので、焼結体材料を用いてもペリクル枠を容易に製造することができる。このため、ペリクル枠として焼結体を用いても、ドリルや切削用ビットなどを用いる必要がなく、加工工具の耐久性が問題となることがない。また、有底孔に緩衝部を設けているので放電加工用の電極先端の摩耗を低減することができ、この結果、有底孔の形成を安定に行なうことが可能となる。
【0016】
(8)こうしたペリクル枠の製造方法において、更に、前記放電加工により形成された前記有底孔の内壁の変質層を除去する第4工程を備えてもよい。このペリクル枠を製造する方法によれば、変質層を除去するので、塵埃等の発生を抑制できる。
【0017】
(9)また、前記第4工程における変質層の除去は、ブラスト処理、研磨および化学処理のうち少なくとも一つによって行なうものとしても良い。これらの手法によれば、変質層の除去を容易に行なうことができる。
【0018】
本発明は、上述した実施態様以外にも種々なる態様で実施可能である。例えば、上記ペリクル枠にペリクル膜を張設したペリクルとして実施することもできる。同様に、ペリクルの製造方法として実施しても良い。更には、有底孔を用いた位置決め方法の発明、位置決め装置の発明、あるいは有底孔を利用した位置決めを行なうペリクル枠の製造装置としての発明などの態様で実施することができる。
【0019】
この他、ペリクル枠を焼結体を用いて形成する場合、焼結体は、耐熱温度1500℃以上の導電性の無機化合物である窒化物、炭化物、珪化物、硼化物の成分を少なくとも一種含むものとして良い。こうした焼結体としては、炭化珪素焼結体としても良く、高融点金属材料の成分を含むことをとしても良い。更にはペリクル枠は、ヤング率が250GPa以上あるいはビッカース硬度が1000以上としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態としてのペリクル枠を示す斜視図。
図2図1における2−2矢視断面図。
図3】ペリクル枠の製造方法を示す工程図。
図4】各サンプルのヤング率、ビッカース硬度、体積抵抗率および加工性を示す説明図。
図5】各サンプルの組成を示す説明図。
図6】放電加工用の銅線の先端形状の一例を示す説明図。
図7】有底孔と位置決めピンとを用いたペリクル枠の位置決めについて示す説明図。
図8】有底孔に位置決めピンを挿入している状態を示す説明図。
図9】有底孔に位置決めピンが接触した状態を示す説明図。
図10】有底孔の底部における緩衝部の他の形態を示す説明図。
図11】有底孔の底部形状において緩衝部のとりうる形状を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[ペリクル枠の構造]
図1は、本発明の各実施形態に共通のペリクル枠10の形状を示す斜視図である。また、図2は、図1の2−2矢視断面図である。図2では、理解の便を図って、ペリクル枠10の片面に張設されたペリクル膜30を併せて記載した。ペリクル枠10にペリクル膜30を張設したものをペリクル40と呼ぶ。本明細書では、ペリクル枠の全ての面のうち、ペリクル膜が張設される面を区別する場合には、図2においてペリクル膜が張設された側を「上面」といい、反対の面を「下面」という。また、この両面と外側の面の3つの面を含めて「外周面」と呼び、ペリクル枠の内側の面を「内周面」と呼ぶことがある。また、これらの面をそれぞれ区別する必要がない場合は、単に「表面」と呼ぶことがある。
【0022】
両図に示すように、このペリクル枠10は、略長方形の枠形状を有する枠体であり、長方形状をなす上下左右の直線部31〜34の太さ(断面縦横寸法)は、4つのコーナー部51〜54を除いて同一である。また、コーナー部51〜54は、図1に示した例では、外周が45度の面取り、内周が1/4円弧に、それぞれ加工されている。コーナー部51〜54の形状は、もとよりこれに限る訳ではなく、面取りなどの直線的な加工、曲線状(円弧、楕円弧や放物線、自由曲線などを含む)の加工、およびこれらの組み合わせが考えられ、いずれの形状を外周・内周とするかの組み合わせも任意である。また、コーナー部51〜54の一部または全部を互いに異なる形状とすることも差し支えない。本実施形態では、コーナー部51〜54の幅は、外周側の面から法線方向の長さとして規定しているが、最小部で約2.2mmであり、直線部の幅2.0mmより広くした。このため、ペリクル枠10は、コーナー部の強度の方が、直線部より高くなっている。
【0023】
こうしたペリクル枠10は、後述する製造方法により製造されるが、焼結体により形成されたペリクル枠の共通する構造について、まず説明し、その後、製造方法の実施形態、種々の製造方法により製造されたペリクル枠の実施形態の順に説明する。
【0024】
このペリクル枠10には、左右の枠体に4箇所、Φ1.6mmの有底孔11ないし14が設けられている(図1では、有底孔11,13は図示せず)。有底孔11〜14は、図2に示したように、有底の丸孔であり、底部は円錐形状に近似の形状に整えられている。この有底孔11〜14は、ペリクルの製造およびその後のフォトマスクに取り付ける際の位置決めに用いられる。位置決めに際しては、図示しないペリクル製造装置あるいはペリクル取り付け装置に設けられた位置決めピンが、4箇所の有底孔11〜14に嵌合する。位置決めの実際については、後で詳しく説明する。
【0025】
ペリクル枠10の下辺および上辺の枠体には、Φ0.5mmの貫通孔20がそれぞれ設けられている。この貫通孔20は、フォトマスクにペリクル40が取り付けられた後、ペリクルとフォトマスクに囲まれた空間と外部環境との気圧調整に用いられる。外部環境から粉塵が侵入しないよう、貫通孔20には、図示しないフィルタが設けられる。
【0026】
[ペリクル枠の製造方法]
図1図2に示したペリクル枠10は、以下の製造工程を経て製造される。この製造工程を図3に示した。以下に説明する製造に用いた材料や、製造工程、形状などは、いずれも例示である。原材料の主成分としてアルミナ、炭化チタンおよび窒化チタンの複合セラミックからなるペリクル枠10を、以下の工程により製造した。ペリクル枠10を製造する場合には、まず粉体を製作する(工程P10)。ここで粉体とは、焼結体の元になる物質であり、例えば窒化ケイ素やジルコニア、あるいはアルミナなどの原料粉末に焼結助剤などを適宜加え湿式混合した後、噴霧乾燥法によって50ないし100μmの顆粒に作製したものである。一例として、平均粒径0.5μmのαーアルミナ粉末63%、平均粒径1.0μmの炭化チタン10%、平均粒径1.0μmの窒化チタン25%、残部をMgO:Y=1:1の焼結助剤からなる複合材料を湿式混合し、成型用有機バインダを加えたのち通常の噴霧乾燥法によりアルミナ・炭化チタン・窒化チタン複合セラミック素地粉末を作製した。なお、原料粉末の粒径の測定は、レーザー回折・散乱法により行なったが、動的光散乱法や沈降法により行なってもよい。
【0027】
次に、この粉体を、例えば金型プレス法により成型し、ペリクル枠の原形を形成する(工程P20)。本実施形態では、外形寸法を、縦(図1上下(長手)方向)182mm×横(同図、左右方向)146mm×枠体(断面縦横)7mm程度に成型した。後述する焼成工程により、ペリクル枠の外形は、20ないし30%程度縮むため、予め、焼成後のペリクル枠より大きく成型している。なお、ペリクル枠は、半導体露光装置における露光用マスクの大きさに合わせて種々の大きさとすることができる。
【0028】
粉体を成型した後、これを脱バインダーし、不活性ガス中で、所定温度(例えば1700℃)で所定時間(例えば3時間)保持して焼成する(工程P30)。焼成温度は、粉体の組成による。焼成することにより、導電性を有する緻密な、即ち高いヤング率と硬度とを持つ黒色複合セラミック焼結体が得られた。また、得られた焼結体の20℃における体積抵抗率が、1.0×10-3Ω・cm以下であった。上記に例示したアルミナ−炭化チタン−窒化チタンの複合セラミックを含めて、サンプルのヤング率、硬度、体積抵抗率については、後述する。
【0029】
焼成後、外形を、放電加工により所定寸法に加工する処理を行なう(工程P40)。ペリクル枠の外形は、焼成により20ないし30%程度縮むため、0.5ないし1.0パーセントの寸法バラツキが不可避であり、寸法精度を出すために、焼成後に外形を加工する処理を行なって、所望の大きさとする。本実施形態の外形の加工は、放電加工により行なった。放電加工により、ペリクル枠として用いる際の寸法として、縦149mm×横120mm×枠体3mmに加工した。放電加工は、ワイヤー放電加工であり、加工面の平滑度を十分なものとするため、少なくとも2回に分けて、放電加工を行なう。2回以上行なうことで、20μm程度の寸法精度および平坦度が得られる。放電加工は、ペリクル枠10のコーナー部51〜54の外側面取りを含む外周、コーナー部51〜54の内側Rを含む内周に対して行なう。ペリクル枠10の厚み方向の両平面は、平研加工にて所定圧に研削加工した。
【0030】
続いて、孔加工を行なう(工程P50)。孔加工は、有底孔11〜14および貫通孔20とである。これらの孔加工も、放電加工により行なう。孔の直径はいずれも2mm以下なので、細い電極棒(場合によってはパイプ形状)を用いた細孔放電加工により行なう。孔加工のうち、有底孔11〜14の加工の実例については、後で説明する。
【0031】
孔加工の後、仕上げ加工を行なう(工程P60)。仕上げ加工とは、放電加工により加工面に生じた変質層を除去する処理である。本実施形態では、変質層の厚みは、4ないし6μm程度であった。これをブラスト処理により除去した。ブラストは種々の手法が知られているが、本実施形態では、粒度♯600(平均粒径約30ミクロン)の炭化ケイ素砥粒によるサンドブラストを2分ほど施して、ペリクル枠10の表面の変質層を除去した。もとより、化学的手法や機械的な研磨などによっても差し支えない。化学的手法としては、例えば濃硫酸による除去などの湿式法を採用することができる。また、他の化学処理によっても良い。あるいはバブ研磨などの機械的な研磨を用いても良い。
【0032】
以上の工程により、実施形態のペリクル枠10のサンプルを製造した。ペリクル枠10のサンプルの製造時には、併せてテストピースを製造した。テストピースは、上述したペリクル枠10の製造工程と同じ工程により、外形寸法40mm×3mm、厚さ4mmに仕上げた。表面の変質層の除去も、炭化ケイ素砥粒によるサンドブラストにより、同様に行なった。後述するヤング率、ビッカース硬度、体積抵抗率などは、全てこのテストピースにより計測したが、同じ物性と考えられるので、以下の説明では、全てペリクル枠のヤング率等であるとして説明する。
【0033】
[ペリクル枠のサンプル]
以上説明した実施形態では、アルミナ−炭化チタン−窒化チタンの複合セラミックのサンプル(サンプル番号1)の他、ジルコニア−窒化チタンのサンプル(サンプル番号2)、超硬によるサンプル(サンプル番号3)、比較例としてのアルミナ−炭化チタンのサンプル(サンプル番号4)を作製した。いずれのサンプルも、その製造工程は、図3に示した製造工程と基本的に同一であるが、素材の性質により、適切な焼成温度、焼成時間、ブラスト処理などを選択している。
【0034】
図4は、これらのサンプルのヤング率、ビッカース硬度、体積抵抗率を示す。また図5は、これらのサンプルの組成を示す。
【0035】
図4に示したように、サンプル1、2、3、4はいずれもヤング率250GPa以上、ビッカース硬度1000以上である。またサンプル1、2、3は、体積抵抗率が1.0×10-3Ω・cm以下であり、アルミナ−炭化チタンのサンプル4の体積抵抗率は2.1×10-3Ω・cmであった。図4に示したように、放電加工による加工性は、サンプル1〜3が「良好」であり、サンプル4が「普通」であった。「普通」とは、加工速度を低速にすれば放電加工によっても加工できないわけではないが、変質層が厚くなり、また加工速度の点からも放電加工では実用に供し得ず、通常の切削加工を行なったことを示す。放電加工の特性上、体積抵抗率が高い絶縁体では、そもそも加工は行なえない。体積抵抗率1.0×10-3Ω・cm以下であれば、外形の放電加工(工程P40)や細孔放電加工(P50)において、良好な加工性が得られた。サンプル4は、ダイヤモンドビットを用いて切削した。また、サンプル4の場合、有底孔11〜14や貫通孔20は、ダイヤモンドコートドリルにより孔加工した。
【0036】
放電加工による加工性が良好であるとは次の要件を満たしていることを言う。
(1)加工速度が速い。実施例では、放電加工(くりぬき)の1回目(粗加工)で4mm/分、2回目(仕上げ加工)で6mm/分であった。
(2)加工工具の消耗が少なく、コストが低い。放電加工は、対象の硬度が高くても放電による溶融と飛散により加工がなされるため、加工用チップなどが摩耗や損傷することがない。また放電ワイヤーは真鍮線を連続供給するが、切削チップなどと比べて安価である。
(3)加工面の加工精度が十分に高い。サンドブラストを行なわなくても、表面の算術平均粗さRaは1μm以下、最大高さ粗さは10μm以下であった。
(4)細孔の孔開けや有底の孔加工において、残留応力による歪みや貫通孔における出口側カケ不良などが生じない。
【0037】
上記(2)については、本実施形態では、放電加工にΦ0.2mmの真鍮線を用いたため、消耗品のコストを極めて低くすることができる。他方、対比用にダイヤモンドビットを取り付けたマシンニングセンタで、外周や内周を加工した場合、高価なダイヤモンドビットの頻繁な交換が必要になり、工程負荷が大きいものの加工できないわけではない。
【0038】
また、図示していないが、貫通孔20および有底孔11〜14の内壁および底部の変質層も、サンドブラストにより除去されていることを、貫通孔20および有底孔11〜14の断面を顕微鏡により観察することで確認した。従って、使用時に貫通孔20内部から変質層の一部が剥離して、ペリクル枠10の内側に入るといった不具合の発生を抑制できる。また、有底孔11〜14を用いてペリクル枠10の位置決めを行なったときに、位置決めピンと接触して、有底孔11〜14内部の変質層の一部が剥離して、ペリクル枠10に貼られたペリクル膜30に付着するといった不具合の発生を抑制できる。
【0039】
上記(4)については、放電加工では、高い孔開け精度が得られた。貫通孔20について説明すると、貫通孔20の直径は0.5mmである。このため、電極として、Φ0.4mmの銅線を用いて、貫通孔20を加工した。複数個の貫通孔を加工したが、電極の入口側でも出口側でも、カケなどは発生せず、電極の直径より放電距離(100μm)だけ外側に大きな貫通孔が形成された。
【0040】
貫通孔20は、Φ0.5mmのダイヤモンドコートドリルにより作製することも可能である。但し、焼結体のように固い材料で製作されたペリクル枠の場合には、加工ドリル出口側にカケ(非所望の破砕)の発生が見られた。カケなどを発生させないためには、低速度で孔加工を行なうことが必要であった。なお、サンプルには示していないが、ジュラルミンやアルミニウム合金などによりペリクル枠を製作する場合には、孔加工は、ダイヤモンドコートドリルや超硬のドリルなどにより、容易に行なうことができた。
【0041】
[第1実施形態]
次に、ペリクル枠10の第1実施形態として、Φ1.6mmの有底孔11〜14の加工とその形状について説明する。有底孔11〜14は、サンプル1〜3については、いずれも、放電加工(Φ1.5mmの銅線による細孔放電加工)により形成した。図6に、放電加工に用いた銅線100の先端形状を示した。Φ1.5mmの銅線の先端は、円錐形状の先端部を除いた形状、即ち円錐台形状とされている。円錐部分の中心軸Oからの角度は60度である。円錐台の小径側寸法は、Φ0.125mmである。円錐台の大径側寸法は、銅線の直径に等しく、Φ1.5mmである。サンプル1〜3については、図6に示した形状の銅線を用いて、4箇所の有底孔11〜14の加工を行なった。また、サンプル4については、図6に示した先端形状とほぼ等価の形状を備えたダイヤモンドコートドリルを用いて、有底孔11ないし14を加工した。
【0042】
こうして形成された有底孔11〜14は、ペリクル枠10の位置決めに用いられる。位置決めは、ペリクル枠10にペリクル膜30を張設する際や、ペリクル膜30が張設されたペリクル40を、フォトマスクに取り付ける際などに行なわれる。位置決めの様子を図7に示した。図7に示したように、4つの有底孔11〜14は、ペリクル枠10の長手方向において、有底孔11と12,有底孔13と14が同じ位置に設けられている。位置決めする際には、この4つの貫通孔11〜14に、位置決めピン61,62が挿入される。図7においては、図示の都合上、4つの位置決めピンのうち、有底孔12,14に対応する位置決めピン61,62のみを描いてある。位置決めピン61,62は、先端が半球形状をしている。
【0043】
有底孔12を例に取り、位置決めピン61による位置決めの様子を説明する。他の有底孔11,13,14もその形状と同一である。図8は、有底孔12に位置決めピン61を挿入している状態を示す説明図である。また図9は、有底孔12に位置決めピン61を差し入れ、位置決めピン61の先端が有底孔12の底部のうち、円錐の部分に接した状態を示す説明図である。図8に示したように、位置決めピン61の先端は球形形状の一部、ここでは半球形状とされており、その球の半径Rは、約0.4mmである。他方、有底孔12は、内径Φ1.5mmであり、その底部は、放電加工用の銅線100の先端形状に対応した形状に加工されている。底部を形成する孔の形状は、銅線100の外形に対応した円錐台形状とされている。即ち、有底孔12の底部の中心部を除く部分は、有底孔12の中心軸Oを通る円錐形状とされており、中心軸Oに対する円錐周面90の角度θは、約60度である。また、中心部は半径rの平面として掲載されている。この中心部が、緩衝部80であり、その直径2rは、0.2mmである。
【0044】
図9に示したように、位置決めピン61を有底孔12に挿入していき、位置決めピン61の先端が有底孔の底部に接した状態を考えると。このとき、位置決めピン61の半径Rの球体が、中心軸に対する円錐周面90の角度がθの円錐に接する場合、その接線の直径を2Zとすると、
2Z=2Rsin(90−θ)=2Rcosθ
の関係が成り立つ。従って、図9に示したように、半径Rの球面が円錐周面90と緩衝部80とに接する場合の緩衝部80の直径2r(半径r)は、比例計算により、
2r=2R(1−sinθ)/cosθ
r=R(1−sinθ)/cosθ ・・・(1)
の関係が成り立つ。本実施形態では、R=0.8mm、θ=60度であることから、r=0.107となる。従って、緩衝部80の直径2rが、0.21までであれば、位置決めピン61は、有底孔12の底部の円錐周面90に接し、緩衝部に接することはない。本実施形態では、このようにして、緩衝部80の直径2rを決定した。上記半径r、半径R、および角度θの関係を整理すると、
r≦R(1−sinθ)/cosθ
が成り立つように、緩衝部80の半径rを設定すれば良い。
【0045】
有底孔12を放電加工する際に用いた銅線100の先端の円錐台の小径の直径は、0.125mmであり、加工後の緩衝部80の直径は、0.2mm以下に納まっていた。従って、本実施形態では、位置決めピン61を有底孔12に挿入すると、位置決めピン61の先端の半球(半径R)が円錐周面90に接するから、ペリクル枠10の位置を、位置決めピン61の中心軸が有底孔12の中心軸Oに一致するように位置決めする。このとき、緩衝部80が有底孔12の底部中心に存在するが、位置決めピン61の先端が緩衝部80に当接することはない。従って、円錐周面90と半球形の位置決めピン先端とによる位置決めは精度良く行なわれる。
【0046】
更に、有底孔12の底部に平らな緩衝部80が存在することから、有底孔12の深さを計測する際には、ディープゲージのニードルタイプの測定子の先端を緩衝部80に接触させることにより、有底孔12の深さを精度良く測定できる。しかも、有底孔12の放電加工に用いる銅線100の先端が円錐台形状とされていることから、放電加工による銅線100先端の消耗が少なく、同じ銅線100を用いている複数個の有底孔12を加工することができる。先端を円錐形状としたもの比べて、図6に示した小径側寸法がΦ0.125mmの円錐台形状とした銅線100の加工可能回数は、約2倍であった。
【0047】
[第2実施形態]
次に、有底孔12の緩衝部を曲面とした第2実施形態について説明する。図10は、緩衝部82を曲面形状とした実施形態を示す説明図である。図10に示した緩衝部82は、第1実施形態として図8に示した緩衝部80と比べると、その直径2rは等しいが、表面が平面ではなく、曲面とされている。その曲率半径Rzは、この例では、位置決めピン61の先端の半球の半径Rより大きい。また曲面の中心は、有底孔12内の中心軸O上に存在する。従って、緩衝部82の表面は、位置決めピン61側から見た場合、凹んだ形状となっている。従って、この例でも、位置決めピン61の先端の半球は、緩衝部82には当たらず円錐周面90に接するから、位置決めピン61による位置決めは精度良く行なうことができる。しかも、ディープゲージによる深さの計測も容易である。第1実施形態と比べると、緩衝部82が曲面であることから、ニードルタイプの測定子の先端が達する位置は、深さ方向に対して、緩衝部82の中心と外側とでは異なるものの、曲率半径Rzが大きいので、その差は、有底孔12の深さの測定に対してほとんど問題とならない。ニードルタイプ測定子の先端が十分に細く、円錐周面90ではなく緩衝部82に当たるのであれば、測定される深さの最大値が中心軸上の深さの値となる。
【0048】
更に、図10に示した有底孔12の形状に加工するには、放電加工に用いる銅線100の先端は平らではなく、曲率半径Rzまたはそれに近い形状で凸に加工されている。この結果、銅線100先端とその側部との角部の形状が第1実施形態との形状と比べて緩やかにでき、銅線100の消耗を更に低減し、その使用可能回数を高めることができる。
【0049】
[他の実施形態]
緩衝部の形状は、第1実施形態の平面(図8)や第2実施形態の曲率半径Rzの曲面(図10)以外の形状であっても良い。図11は、緩衝部の存在可能位置を示す説明図である。図11は、有底孔12の底部を、円錐周面から仮想的に中心軸まで延長した円錐形とした場合に、位置決めピン61が有底孔12底部の円錐周面に接した状態を示す。図11において、ハッチングを施した部分Sは、このとき、有底孔12の底部に生じる隙間を示している。緩衝部は、従って、このハッチングの部分Sにその面を備えれば良い。従って、緩衝部を平面により構成する場合、このハッチングの部分Sに配置できれば、平面は、中心軸Oに対して傾いていても差し支えない。平面は単一である必要はなく、複数の平面を組み合わせたものであっても良い。この場合、各平面は、円錐周面の傾斜より緩やかな傾斜を持っていればよい。円錐周面の傾斜より緩やか傾斜とは、平面が、仮想的な円錐形状より有底孔内部側に位置する形状となることを言う。また、曲面にする場合、このハッチングの部分Sに配置できれば、その曲率半径は、位置決めピンの曲率半径Rと同じでも、小さくても差し支えない。また、曲面の中心は、中心軸O上にあっても、なくてもよい。また、曲面にする場合、一定の曲率半径の球面の一部とすることが、製作上容易ではあるが、必ずしも球面の一部に限る必要はなく、自由曲面であっても差し支えない。例えば、緩衝部の中心部は平面形状とし、緩衝部と円錐周面とが連続する部位(肩部)をアール付きとすることも差し支えない。
【0050】
緩衝部をこうした形状にした場合でも、位置決めピン61の先端が、緩衝部に当たることはなく、第1,第2実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、緩衝部表面の形状が厳密な幾何学形状である必要がない場合には、加工用具の先端形状の加工精度に余裕を持たせることができる。こうした有底孔の底部形状を放電加工により形成する場合には、その形状を実現する放電加工用の電極(銅線100)の形状は、緩衝部の形状に合わせたものとする。銅線100の先端を略円錐台形状とし、更にその先端を有底孔底部の緩衝部の形状を実現する形状とするには、研磨や鍛造、ダイスを用いた引っ張り加工など、種々の手法を用いることができる。また、機械的な加工、例えば切削加工により緩衝部を形成する場合には、ダイヤモンドコートドリルなどのドリルの先端をこうした緩衝部形状に合わせた形にすれば良い。但し、切削の場合は、ドリルの回転により加工を行なうため、中心軸に対して対称な形状となる。機械的な加工により非対称な形状を形成する場合には、直径0.1mm以下の先端形状を有するダイヤモンドピットなどを高速回転させて、三次元加工すれば良い。
【0051】
緩衝部の大きさは、位置決め用の有底孔の内径や位置決めピンの外径およびその先端の半球の半径Rなどにより異なる。有底孔の内径としては、0.5〜3.0mm程度が好ましく、この場合、位置決めピンの直径および先端の半球の半径Rは、0.3〜2.0mm程度が好ましい。こうした場合、緩衝部の中心軸を通る差し渡しは、0.05mm以上0.5mm以下が好ましい。
【0052】
その他の変形例について説明する。上記実施形態では、ペリクル枠10に導電性の材料を用いて、主に放電加工により加工したが、ペリクル枠の材料としては、電気伝導度の低い材料(例えば図4のサンプル4)や、導電性でない焼結体などを用いることもできる。こうしたは場合には、放電加工ではなく、ダイヤモンドコートドリルによる切削などの機械的加工を用いれば良い。また、ペリクル枠としては、ジュラルミンなどの比較的硬い金属を用いることも可能である。こうした場合には、通常の金属用ドリルやビットなどを用いることができる。
【0053】
上記実施形態では、有底孔12の円錐周面90の中心軸に対する角度θは、おおよそ60度としたが、これより大きな角度でも小さな角度でも差し支えない。角度θが大きくなれば、式(1)で示したように、緩衝部の存在可能範囲の最大直径が小さくなり、角度θが小さくなれば、緩衝部の存在可能な最大直径は大きくなる。角度θは、位置決めピンによる位置決めの精度に影響を与えるため、採用可能な範囲は30度〜75度程度であり、より好ましくは50度〜70度程度の範囲である。
【0054】
以上説明した各実施形態において、ペリクル枠10を、ヤング率が150GPa以上、ビッカース硬度が800以上、更に体積抵抗率が1.0×10-3Ω・cm以下の焼結体により形成すれば、その体積抵抗率の低さから、放電加工が可能となり、ペリクル枠10の外形加工も、容易に行なうことができる。しかもヤング率やビッカース硬度が高いため、ペリクル枠として必要な剛性や耐久性を、高い加工性、加工コストの低減と共に、実現することができる。
【0055】
上記実施形態では、導電性の焼結体の例として、アルミナ−炭化チタン−窒化チタンの複合セラミックを用いたが、体積抵抗率が1.0×10-3Ω・cm以下の焼結体または高融点金属を含む焼結体であって、ヤング率が150GPa、ビッカース硬度が800以上であれば、他の材料を用いても放電加工可能である。図4にサンプルを示したジルコニア窒化チタンや超硬以外でも、耐熱温度1500℃以上の導電性の無機化合物である窒化物、炭化物、珪化物、硼化物の成分を少なくとも一種含む材料で、上記物性を満たせば、放電可能することができる。また、高融点金属材料、例えばタングステン(3387℃),レニウム(3180℃),タンタル(2996℃),オスミウム(2700℃),モリブデン(2610℃),ニオブ(2468℃),イリジウム(2447℃),ルテニウム(2250℃),ハフニウム(2150℃)やその合金を含み、上記物性を満たす焼結体を用いることもできる。
【0056】
更に、こうした焼結体が、ヤング率が250GPa以上あるいはビッカース硬度が1000以上の条件を満たせば、ペリクル1として、反り変形を低減でき、耐摩耗性が高まり、更に好ましい。
【0057】
有底孔11〜14や貫通孔20の孔加工は、細孔放電加工として記載したが、実際の加工や加工機の名称としては、ワイヤー放電加工や型彫放電加工およびその加工機と呼ばれることがある。いずれにせよ、金属(銅や真鍮など)やカーボンなどの導体から被加工材への放電を利用した加工法であれば、利用可能である。放電用の電極としても、銅線以外に、真鍮線、銅タングステン線、銀タングステン線なども用いることができる。また、有底孔の加工において、有底孔の径より小さな下穴を予め開けておき、後から図6などに示した電極により、所望の形状に加工しても良い。下穴加工を行なう場合には、電極として、バイブ状の電極を用いることも可能である。
【0058】
以上、本発明の実施形態や変形例について説明したが、本発明はこれらの実施形態および変形例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において種々の態様で実施できることは勿論である。例えばペリクル枠の形状や大きさ、厚みなどは、ペリクル枠として必要な形状、大きさ、厚みとすれば良い。ペリクル枠は、矩形である必要はなく、例えば円形、多角形などの形状であっても差し支えない。またペリクル枠の全ての面を、放電加工する必要はなく、特定の面は他の加工方法、例えばマシンニングセンターによる切削加工を用いても良い。あるいは貫通孔や有底孔の少なくとも一部は、ダイヤモンドコートドリルなどを用いた切削加工によって形成しても良い。また、有底孔は全て同じ形状である必要はなく、その一部が他と異なる形状(内径、緩衝部形状など)であっても良い。
【符号の説明】
【0059】
10…ペリクル枠
11〜14…有底孔
20…貫通孔
30…ペリクル膜
31〜34…
40…ペリクル
61,62…位置決めピン
80,82…緩衝部
90…円錐周面
100…銅線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11