(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559597
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/08 20060101AFI20190805BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20190805BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20190805BHJP
B28B 3/20 20060101ALI20190805BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20190805BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20190805BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20190805BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20190805BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20190805BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20190805BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20190805BHJP
B01D 46/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
C04B38/08 DZAB
C04B38/00 303Z
C04B38/00 304Z
C04B35/195
B28B3/20 E
B01D53/94 222
B01D53/94 280
B01D53/94 245
B01J23/46 311A
B01J35/10 301J
B01J37/00 D
B01J37/08
B01D39/20 D
F01N3/28 301P
B01D46/00 302
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-37845(P2016-37845)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-154913(P2017-154913A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】野引 浩介
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/090263(WO,A1)
【文献】
特開2008−037722(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/094967(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/128149(WO,A1)
【文献】
特開平10−324517(JP,A)
【文献】
特表2005−512936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00−38/10
C04B 35/195
C01B 33/12−33/193
B28B 3/20−3/26
B01D 39/20
B01D 46/00−46/54
B01D 53/86−53/90
B01D 53/94
B01J 23/42
B01J 23/46
B01J 35/10
B01J 37/00−37/36
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機造孔材として多孔質シリカの粉末を添加して坏土化した成形原料を調製する原料調製工程と、
得られた前記成形原料をハニカム成形体に押出成形する押出工程と、
押出成形された前記ハニカム成形体を焼成し、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するコージェライト成分を含むハニカム構造体を形成する焼成工程と
を備え、
前記成形原料に添加される前記多孔質シリカの吸油量は、
50〜190ml/100gの範囲であり、
前記多孔質シリカのBET比表面積は、
340〜690m2/gであるハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質シリカの嵩密度は、
0.15〜0.64g/cm3の範囲である請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質シリカの50%粒子径(D50)は、
4〜24μmの範囲である請求項1または2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ハニカム構造体のハニカム気孔率は、
40〜55%の範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質シリカは、
前記焼成工程で溶融し、前記成形原料に含まれる他の成分と反応することでコージェライトに変換され、前記ハニカム構造体の一部を構成する請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、コージェライト成分を含むコージェライトハニカム構造体の製造時における、特に隔壁切れの発生を抑制可能なハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス製のハニカム構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、或いは燃焼装置用蓄熱体等の広範な用途に使用されている。ここで、ハニカム構造体は、成形原料(坏土)を調製し、押出成形機を用いて所望のハニカム形状に押出成形し、生切断、乾燥、端面仕上げを行ったハニカム成形体を、更に高温で焼成することで製造されている。
【0003】
特に、近年において、珪素、アルミニウム、及びマグネシウムの三つの成分で構成されたコージェライト成分を含むコージェライトハニカム構造体(以下、単に「ハニカム構造体」と称す。)が製造されている。
【0004】
コージェライト成分は、熱膨張係数がアルミナ材料と比べて低く、かつ、耐熱衝撃性や耐強度性に優れた特徴を備えている。そのため、ハニカム構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体等の幅広い分野において広く採用されている。
【0005】
上記ハニカム構造体のようなセラミックス多孔質体を製造する際に、成形原料の中に多孔質シリカの粉末や多孔質のシリカ含有化合物の粉末(以下、「多孔質シリカの粉末」と本明細書中において総称する。)を無機造孔材として添加し、坏土化した成形原料を押出成形することが行われている(特許文献1参照)。
【0006】
多孔質シリカの粉末を無機造孔材として用いることにより、従来、無機造孔材として用いられている樹脂粉末やカーボン粉末と比べ、二酸化炭素や有害ガスの発生を抑えることができる利点を有している。更に、可燃分が樹脂粉末等と比べて少ないため、燃焼時間を短縮化することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/090263号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記多孔質シリカの粉末は、高い吸水性(または吸湿性)を有することが知られている。そのため、成形原料に添加された水分を当該シリカ粉末中に保持し、或いは空気中の水分がシリカ粉末に吸湿されることがあった。その結果、従来の樹脂粉末等と比べて、坏土に含む水分の割合(坏土水分率)が高くなる傾向があった。
【0009】
ここで、坏土水分率が高くなると、押出成形後のハニカム成形体を乾燥する過程で、坏土中の水分が多く蒸発することになる。その結果、ハニカム成形体の隔壁が収縮し、変形することがある。これにより、格子状の隔壁の一部が分断される等の“隔壁切れ”の不具合を発生し、最終的なハニカム構造体の製品品質を低下させるおそれがあった。
【0010】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、多孔質シリカの粉末を無機造孔材として使用する場合において、坏土水分率を低く抑え、隔壁切れ等の発生を抑制可能なコージェライト成分を含んだハニカム構造体の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記課題を解決したハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0012】
[1] 無機造孔材として多孔質シリカの粉末を添加して坏土化した成形原料を調製する原料調製工程と、得られた前記成形原料をハニカム成形体に押出成形する押出工程と、押出成形された前記ハニカム成形体を焼成し、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するコージェライト成分を含むハニカム構造体を形成する焼成工程とを備え、前記成形原料に添加される前記多孔質シリカの吸油量は、50〜190ml/100gの範囲であり、前記多孔質シリカのBET比表面積は、340〜690m
2/gの範囲であるハニカム構造体の製造方法。
【0013】
[2] 前記多孔質シリカの嵩密度は、0.15〜0.64g/cm
3の範囲である前記[1]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0014】
[3] 前記多孔質シリカの50%粒子径(D
50)は、4〜24μmの範囲である前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0015】
[4] 前記ハニカム構造体のハニカム気孔率は、40〜55%の範囲である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0016】
[5] 前記多孔質シリカは、前記焼成工程で溶融し、前記成形原料に含まれる他の成分と反応することでコージェライトに変換され、前記ハニカム構造体の一部を構成する前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、ハニカム成形体の乾燥の際における隔壁切れ等の変形が生じることなく、製品品質を安定させ、かつ高いライトオフ性能を発揮し、浄化効率を向上させたハニカム構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】ハニカム構造体の一例を模式的に示す平面図である。
【
図3】比表面積に対する吸油量の相関関係を示すグラフである。
【
図4】坏土水分率に対する気孔率の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明のハニカム構造体の製造方法の実施の形態について詳述する。なお、本発明のハニカム構造体の製造方法は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0020】
1.ハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法
本実施形態のハニカム構造体の製造方法によって製造されるハニカム構造体1は、
図1及び
図2に示すように、流体の流路を形成する一方の端面2aから他方の端面2bまで延びる複数のセル3を区画形成する格子状の隔壁4を有するハニカム構造部5と、ハニカム構造部5の周囲に設けられた外周壁部6とを備え、略円柱状を呈して構成されている。
【0021】
ハニカム構造体1は、多孔質性のセラミックス材料の一種である、構成元素として珪素、アルミニウム、及びマグネシウムの三成分で構成されるコージェライト成分を含むコージェライトハニカム構造体である。なお、コージェライト成分の各成分の比率は、特に限定されないが、例えば、上記三成分を酸化物換算した場合の合計比率を100%とした場合、酸化珪素(シリカ)が50%以上、酸化アルミニウム(アルミナ)が15〜45%の範囲、酸化マグネシウム(マグネシア)が5〜30%の範囲のものを使用することができる。
【0022】
上記コージェライト成分を含んだ成形原料に対し、多孔質シリカの粉末(図示しない)を所定範囲で添加し、坏土化した成形原料を調製する(原料調製工程)。ここで、多孔質シリカの粉末としては、不定形シリカ粉末(非晶質シリカ粉末)の使用が好適であり、具体的には、シリカゲル等を使用することができる。なお、多孔質シリカ含有混合物としては、不定形シリカ含有混合物を好適に使用することができる。
【0023】
坏土化した成形原料を周知の押出成形機を用いて押出成形し、所望の形状のハニカム成形体を得る(押出工程)。その後、ハニカム成形体を乾燥させた後、規定の焼成温度に設定された焼成炉に導入し、焼成を行う(焼成工程)。これにより、一方の端面2aから他方の端面2bまで延びる流体の流路としてのセル3が区画形成された隔壁4を有するハニカム構造体1が製造される。ここで、焼成温度は、特に限定されないが、例えば、1200℃〜1300℃の範囲に設定することができる。
【0024】
ここで、使用する成形原料の中には、上記コージェライト成分及び多孔質シリカの粉末以外に、他の成分を含むものであっても構わない。例えば、天然原料のカオリンやタルクなど、或いは、合成原料のアルミナや水酸化アルミニウム、その他の種々の成分を含むものであっても構わない。但し、上記のコージェライト成分の組成を維持する必要があり、この条件を満たすのであれば、上記した他の成分の添加を省略しても構わない。
【0025】
更に、上記の天然原料や合成原料などの成形原料中の“他の成分”と、多孔質シリカの粉末とが、高温の焼成温度で焼成される焼成工程において反応し、コージェライト組成に変換されるものであっても構わない。この場合、多孔質シリカの一部が溶融し、コージェライト成分の一部を構成する酸化珪素として消費される。
【0026】
更に、原料調製工程において成形原料に添加される多孔質シリカの粉末は、その吸油量が、50〜190ml/100gの範囲に設定され、かつ、BET比表面積が340〜690m
2/gの範囲に設定されたものが使用される。すなわち、本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、出発原料となる成形原料に添加される無機造孔材としての多孔質シリカの性状が、“吸油量”及び“BET比表面積”の二つのパラメータを組合わせることによって規定される。
【0027】
その結果、坏土化された成形原料の水分率(坏土水分率)を低く抑えることができる。これにより、多孔質シリカの粉末を使用した場合であっても、乾燥時における隔壁の収縮及び変形を抑え、隔壁切れの発生を防止することができる。
【0028】
ここで、吸油量とは、一定の条件において粉体に吸収される油量を規定したものであり、100g当たりの粉体に対する油量を容積(ml)または油の重量(g)で表したものである。具体的には、JIS K5101−13−1(または、JIS K5101−13−2)に規定された測定方法に基づいて算出される。
【0029】
更に詳細に説明すると、正確に重量を測定した粉体状の試料(この場合、多孔質シリカ)を測定板の上に置き、油(あまに油)をビュレットから1回に4,5滴ずつ、試料の中央付近に滴下する。
【0030】
そして、滴下の度に試料の全体をパレットナイフで十分に練り合わせる。この油の滴下及び練り合わせの作業を繰り返し、全体が硬いパテ状の塊になったら、更にビュレットからの油の滴下を1回につき1滴に変更し、同様にパレットナイフによる練り合わせを行う。更に、最後の1滴で、パレットナイフを用いてらせん形に巻くことができるようになった状態を測定の終点とする。
【0031】
終点に達したときのビュレット内の滴下量を読み取り、下記式(1)により、試料100g当たりの容積(ml)を算出する。ここで、O
1:吸油量(ml/100g)、V:消費したあまに油の容量(ml)、m:試料の重量(g)を表す。
式(1): O
1 = (100×V)/m
【0032】
なお、試料100g当たりの油の重量(g)で表す場合は、下記式(2)により算出する。 ここで、O
2:吸油量(g/100g)、V:消費したあまに油の容量(ml)、m:試料の重量(g)を表す。
式(2): O
2 = (93×V)/m
【0033】
一方、BET比表面積とは、例えば、JIS R1626(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET吸着法による比表面積の測定方法)の記載に準拠して測定された値とすることができる。具体的に説明すると、試料(多孔質シリカ)を吸着セルに入れ、加熱しながらセル内を真空にすることで、試料表面に吸着しているガス分子を除去し、試料の重量を計測する。
【0034】
その後、試料を封入した状態の吸着セル内に窒素ガスを流す。その結果、試料表面に窒素が吸着し、更に窒素ガスの流入量を増加させることにより、ガス分子が試料表面に複数の層をなす。
【0035】
このとき、上記の過程を圧力変化に対する吸着量の変化としてプロットしたグラフを作成し、得られたグラフから試料表面だけに吸着したガス分子の吸着量をBET吸着等温式より求める。このとき、窒素分子に関しては、予め吸着占有面積が既知であるため、ガス分子の吸着量に基づいて試料の表面積が求められる。
【0036】
更に、本実施形態のハニカム構造体の製造方法において使用される多孔質シリカは、嵩密度が0.15〜0.64g/cm
3の範囲であり、50%粒子径(D
50)の値が4〜24μmの範囲であり、製造されたハニカム構造体のハニカム気孔率は、40〜55%の範囲のものである。
【0037】
嵩密度とは、多孔質シリカの嵩容量を重量で除したものであり、市販の嵩密度計等を用いて測定することができる。また、50%粒子径(D
50)とは、一般に“メディアン径”と呼ばれるものであり、粉末状の多孔質シリカの粒子径スケールに対し、相対粒子量が50%となる場合の粒子径を表している。
【0038】
一方、ハニカム気孔率とは、ハニカム構造体を構成する隔壁の気孔率を示すものである。なお、本実施形態のハニカム構造体の製造方法では、係るハニカム気孔率は、JIS R1655に準拠した水銀圧入法に基づいて測定した値を示している。
【0039】
すなわち、先に示した、多孔質シリカにおける吸油量及びBET比表面積を規定した二つのパラメータによる規定に加え、多孔質シリカの嵩密度及び50%粒子径について更に限定し、かつ焼成後のハニカム構造体のハニカム気孔率の範囲を規定することで、更に坏土水分率の上昇を抑え、隔壁切れ等の不具合の発生を防いだハニカム構造体を製造することが可能となる。
【0040】
加えて、高気孔率のハニカム構造体を安定して製造することが可能となり、所謂“ライトオフ性能”を向上させることができる。ここで、“ライトオフ性能”とは、ハニカム構造体に担持した触媒の浄化性能が発現する温度特性を示すものである。
【0041】
すなわち、ハニカム構造体による浄化を開始する際に、浄化開始から比較的短時間で、高い浄化性能を発揮可能な温度まで速やかにハニカム構造体の温度が上昇する優れた特性を有している。ハニカム構造体の気孔率が高くなれば熱容量が小さくなり、触媒の昇温が早くなり、ライトオフ性能が向上する。ライトオフ性能の向上により、本実施形態のハニカム構造体の製造方法で製造されたハニカム構造体は、高い浄化性能を発揮することが可能である。
【0042】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法の実施例について説明するが、本発明のハニカム構造体の製造方法は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
1.シリカの性状の測定
始めに、吸油量及びBET比表面積がそれぞれ異なる複数種類のシリカの粉末を用意する。そして、上述した測定方法等により、それぞれ吸油量、BET比表面積、嵩密度、50%粒子径についての各種性状の測定を行う。なお、得られた測定結果を下記表1に示す。本実施例では、表1に示すように、実施例1〜7、及び比較例1〜8のそれぞれのハニカム構造体を製造するために、合計14種類の多孔質シリカが用意されている。比較例1は結晶質シリカであり、その他は多孔質シリカである。
【0044】
2.成形原料の調製、坏土化
上記の通り、各種性状の測定が行われた多孔質シリカを、一定比率のコージェライト組成を含む成形原料に対してそれぞれ同量ずつ添加し、坏土化することにより押出成形用の成形原料を調製する(原料調製工程)。坏土化とは、セラミックス成形原料に助剤、水等を添加して混練し、可塑性の練り土にすることである。このとき、坏土硬度が同一となるように、成形原料及び多孔質シリカの混合物に対し、水分の添加量の調整を行っている。その結果、一定の坏土硬度からなる複数の成形原料が得られる。
【0045】
3.坏土水分率の測定
坏土化された成形原料に含まれる水分の含有量を測定し、坏土水分率を算出した。すなわち、多孔質シリカ及び水分を含む成形原料の全重量を100とした場合の水分の比率を%で表したものである。算出された坏土水分率を下記表1に示す。
【0046】
これによると、多孔質シリカの吸油量が50〜190ml/100gの場合(実施例1〜6)、成形原料の坏土水分率は、およそ30〜35%未満の範囲である。これに対し、吸油量が200ml/100g以上の場合、35%以上となり、特に吸油量が240〜250ml/100gの場合(比較例6〜8)、坏土水分率が38%以上と高くなる。一方、吸油量が250ml/100g以上であっても(比較例2または5)、嵩密度が0.10g/cm
3以下であれば、坏土水分率が低い値となる。これにより、添加される多孔質シリカの吸油量が坏土水分率に大きく寄与することが確認された。
【0047】
4.ハニカム成形体の形成
成形原料を押出成形機を用いて押出成形する(押出工程)。これにより、複数のセルが区画形成された格子状の隔壁を有するハニカム成形体が得られる。なお、押出成形機の押出口に取設する成形用口金を一定のものとすることにより、それぞれの多孔質シリカを添加して形成されたハニカム成形体のセル密度、隔壁厚さ等の各項目は同一のものである。押出成形されたハニカム成形体を乾燥させ、更に一定のサイズに切断する。
【0048】
5.ハニカム成形体の焼成、ハニカム構造体の形成
乾燥及び切断を経たハニカム成形体を焼成炉内に投入し、規定の焼成温度及び焼成時間の焼成条件による焼成を行う(焼成工程)。これにより、コージェライト成分を含むハニカム構造体(コージェライトハニカム)を得ることができる。本実施例では、実施例1〜7、及び比較例1〜8の合計15種類のハニカム構造体が形成される。ハニカム構造体のセル形状は四角セルであり、セル密度は46.5セル/cm
2、隔壁厚さは0.089mm、直径は110mm、長さは97mmである。
【0049】
6.ハニカム気孔径の測定
得られたそれぞれのハニカム構造体に対し、ハニカム構造体の隔壁のハニカム気孔率を水銀圧入法に準拠して測定を行った。測定されたハニカム気孔率を下記表1に示す。
【0050】
7.隔壁切れの発生有無
実施例1〜7、比較例1〜8のそれぞれのハニカム構造体、特に端面を目視により確認し、乾燥時に成形原料中の水分の蒸発に伴う隔壁の収縮及び変形が生じ、隔壁の一部が分断された“隔壁切れ”の発生の有無を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0051】
ここで、表1において、隔壁切れがないものを“良”、隔壁切れが存在したものを“不可”と表示する。これによると、本発明の要件を満たす多孔質シリカを使用し、ハニカム気孔率が規定範囲のハニカム構造体は、いずれも隔壁切れが存在せず、良好な製品品質を有している。一方、多孔質の吸油量が190ml/100gを超え、坏土水分率が高いハニカム構造体(比較例4〜8)は、いずれも隔壁切れの評価が“不可”であった。すなわち、吸油量、坏土水分率、及び隔壁切れの有無が特に関係性を有している。
【0052】
8.ライトオフ性能
ライトオフ性能は、ハニカム構造体に公知の方法で三元触媒を坦持し、NEDCモードのcold phaseにおける特定炭化水素換算のTHC(Total Hydro−Carbon)の残存率に基づいて評価した。この場合、比較例1のTHC残存率を1.00とし、これに対するTHCの残存量が0.97未満のものを“良”、0.97以上0.99未満のものを可、0.99以上のものを“不可”として判定した。THC残存率の測定結果を下記表1に示す。
【0053】
これにより、実施例1〜7のハニカム構造体は、ライトオフ性能が“良”または“可”であった。これに対し、特に、ハニカム気孔率が40%以下のハニカム構造体(比較例1〜4)は、THC残存率が0.99以上を示し、ライトオフ性能が“不可”であった。更に、BET比表面積が上限値に近く、かつハニカム気孔率が下限値に近い実施例7のハニカム構造体のライトオフ性能が“可”となった。すなわち、ハニカム気孔率とTHC残存率(ライトオフ性能)との間に相関関係が認められた。
【0054】
9.判定
隔壁切れの評価項目、及び、ライトオフ性能のいずれの評価項目においても“良”となった場合は、総合的な判定として“良”とした。一方、少なくとも一方の評価項目が“可”の場合は総合判定として“可”、少なくとも一方の評価項目が“不可”の場合は、総合判定として“不可”とした。その結果を下記表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
10.BET比表面積と吸油量との相関関係
横軸をBET比表面積、縦軸を吸油量とし、実施例1〜7、及び比較例1〜8のそれぞれの値についてプロットした結果のグラフを
図3に示す。これにより、本発明のハニカム構造体の製造方法において、グラフ中のハッチングされた領域を満たすBET比表面積及び吸油量の多孔質シリカを好適に使用することができ、隔壁切れのない、ライトオフ性能に優れたハニカム構造体を製造することができると想定される。
【0057】
11.坏土水分率とハニカム気孔率との相関関係
横軸を坏土水分率、縦軸をハニカム気孔率とし、実施例1〜7、及び比較例1〜8のそれぞれの値についてプロットした結果のグラフを
図4に示す。これにより、本発明のハニカム構造体の製造方法において、グラフ中のハッチングされた領域を満たす成形原料の坏土水分率とハニカム気孔率であれば、隔壁切れのない、ライトオフ性能に優れたハニカム構造体となることが想定される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、あるいは燃焼装置用蓄熱体等に利用可能なコージェライト成分を含むハニカム構造体の製造に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:ハニカム構造体、2a:一方の端面、2b:他方の端面、3:セル、4:隔壁、5:ハニカム構造部、6:外周壁部。