【実施例】
【0098】
FVIIIの構造活性関連性分析。FVIII及びBDD FVIIIは、生物学的反応に含まれる多種の部位を有する非常に大きな複合(complex)分子である。薬物動態学的性質を向上させるためにそれらを共有結合により変更する以前の試みは、混同した結果を有した。分子を特異的に突然変異させ、次いで部位−特異的なやり方でポリマーを加えることができることは驚くべきことである。さらに、非特異的な付加及び活性の低下を引き起こす過去のポリマー複合体の場合の問題を考えると、向上した薬物動態学的性質及び保持される活性の結果も驚くべきことである。
【0099】
1つの態様において本発明は、PEG−マレイミドのようなシステイン−特異的リガンドを用いる特定部位の突然変異誘発に関する。非−突然変異BDDはPEG−マレイミドと反応するために利用できるシステインを有しておらず、従って突然変異システイン位置のみがPEG化の部位となるであろう。さらに特定的に、BDD FVIIIは19個のシステインを有し、その中の16個はジスルフィドを形成し、その中の他の3個は遊離のシステインである(McMullen et al.著,Protein Sci.4,1995年,pp.740−746)。BDDの構造モデルは、3個の遊離のシステインのすべてが埋もれていることを示唆している(Stoliova−McPhie et al.著,Blood 99,2002年,pp.1215−1223)。酸化されたシステインはPEG−マレイミドによりPEG化され得ないので、BDD中でジスルフィドを形成する16個のシステインは、最初に還元されずにはPEG化され得ない。BDDの構造モデルに基づき、BDD中の3個の遊離のシステインは、最初にタンパク質を変性させ、これらのシステインをPEG試薬に露出せずにはPEG化され得ない。かくしてBDD構造を劇的に変えることなく、本来のシステイン残基におけるPEG化によりBDDの特異的なPEG化を達成することは実行可能であると思われず、BDDの構造を劇的に変えることは、おそらくその機能を破壊するであろう。
【0100】
全長FVIIIのBドメイン中の4個のシステインのレドックス状態は未知である。Bドメイン中の4個のシステインのPEG化は、それらがジスルフィドを形成しておらず、表面に露出されていれば可能であり得る。しかしながら、全長FVIII及びBDDは類似の薬物動態学的(PK)側面及び生体内における類似の半減期を有するので(Gruppo et al.著,Haemophilia 9,2003年,pp.251−26
0)、BドメインPEG化は、PEGが偶然非−Bドメイン領域をも保護しなければ、向上した血漿半減期を生ずるとは思われない。
【0101】
FVIII活性を有するポリペプチド上のポリマー結合のためのあらかじめ規定される部位であって、因子VIII活性を保持し、且つ薬物動態学を向上させる部位を決定するために、BDD FVIIIに基づいて以下の指針を示す。変更はクリアランス、不活性化及び免疫原性機構、例えばLRP、HSPG、APCならびに阻害性抗体結合部位を標的としなければならない。
Stoilova−McPhie,S.et al.著,Blood 99(4),2002年,pp.1215−23はBDDの構造を示している。例えば半減期を延長するために、1個のPEGをA2残基484−509及びA3残基1811−1818中のLRP結合部位もしくはその近辺における特異的な部位に導入することができる。これらの部位における嵩高いPEGの導入は、FVIIIがLRPに結合する能力を崩壊させ、循環からのFVIIIのクリアランスを減少させるはずである。活性に有意に影響せずに半減期を延長するために、PEGを残基1648において導入することができるとも思われ、それは全長分子中のBドメインとA3ドメインの連結部分にあり、BDDではA2及びA3ドメインの間の14−アミノ酸中にある(in the 14−amino acid liker I the BDD between the
A2 and A3 domains)。
【0102】
PEG化の特異性は、組換えDNA突然変異誘発法を用いて1個のシステイン残基をA2又はA3ドメイン中に工作し(engineering)、続いて導入されたシステインをPEG−マレイミドのようなシステイン−特異的PEG試薬を用いて部位−特異的にPEG化することにより達成され得る。484−509及び1811−1818におけるPEG化の他の利点は、これらの2つのエピトープが患者における阻害性抗原部位の3つの主な種類の2つに相当することである。循環半減期の向上及び免疫原性反応の低下の最大の効果を達成するために、A2及びA3 LRP結合部位の両方をPEG化し、ジPEG化生成物を与えることができる。1811−1818領域内におけるPEG化は、この領域がFIX結合にも含まれるために、活性の有意な損失を生じ得ることに注意しなければならない。558−565内における特定部位のPEG化はHSPG結合を廃止するが、この領域はFIXにも結合するので、活性も低下させ得る。
【0103】
FVIIIの新規なクリアランス機構を同定するために、さらに別の表面部位をPEG化することができる。A2ドメインのPEG化は、活性化されるとA2ドメインがFVIIIから解離し、おそらくそのより小さいサイズの故にFVIII分子の残りの部分より速く循環から除去される点で追加の利点を与えることができる。他方、PEG化されたA2は、腎臓クリアランスを逃れるのに十分に大きく、FVIIIの残りの部分と同等の血漿半減期を有することができ、かくして生体内で活性FVIIIを再構築することができる。
【0104】
A2及びA3領域内のPEG化部位の同定。推定A2 LRP結合領域もしくはその近辺における5個の位置(PEG1−5位置に対応するY487、L491、K496、L504及びQ468)を、高い表面露出及びそれらのCαからCβへの軌道(trajectory)の外側への向きに基づき、特定部位のPEG化のための例として選んだ。さらに、これらの残基は分子の三−次元構造において互いから大体同じ距離にあり、それらは一緒になってこの領域全体を表す(represent)ことができる。推定A3 LRP結合領域もしくはその近辺における8個の位置(PEG6−14に対応する1808、1810、1812、1813、1815、1795、1796、1803、1804)を特定部位のPEG化のための例として選んだ。PEG6(K1808)は1811−1818及び1810における自然のN−結合グリコシル化部位に隣接している。位置1810(PEG7)におけるPEG化は糖をPEGで置換するであろう。PEG8位置T
1812における突然変異もグリコシル化部位を廃止するであろう。PEG9位置(K1813)は内側に向いていると予測されたが、構造モデルが正しくない場合にそれは選ばれた。PEG10(Y1815)はLRP結合ループ内の嵩高い疎水性アミノ酸であり、疎水性アミノ酸は典型的にはタンパク質−タンパク質相互作用の中心に存在するので、決定的な相互作用残基であり得る。1811−1818領域はLRP及びFIX結合の両方に含まれると報告されているので、このループ内におけるPEG化はおそらく活性の低下を生ずると考えられた。かくしてPEG11−PEG14(1795、1796、1803、1804)は1811−1818ループ近辺にあるがループ内にないように設計され、種々のPEGサイズを用いてLRP及びFIX結合を解離させる(dissociate)ことができるようにした。
【0105】
両LRP結合部位を同時に遮断するために、例えばPEG2及びPEG6位置における二重PEG化を発生させることができる。
【0106】
558−565領域はHSPG及びFIXの両方に結合することが示されているので、この領域内で部位は設計されなかった。代わりに、結合PEGが両方の相互作用を妨げ、且つそれらの間のあり得る相互作用を崩壊させることができるように、PEG15−PEG17(377、378及び556)がA2 LRP及びHSPG結合領域の間に設計された。表面露出され且つ外側に向いているさらに別の部位をLRP及びHPSG結合領域内もしくはその近辺で選ぶこともできた。新規なクリアランス機構を同定するために、FVIIIを系統的にPEG化することができる。PEG1−17の他に、3個の他の自然のグリコシル化部位、すなわちPEG18−20に対応するN41、N239及びN2118をPEG化のための結合点(tethering points)として用いることができ、それはそれらが表面露出されているはずだからである。PEG2、PEG6及び4個のグリコシル化部位のCβ原子から20オングストローム半径内の表面領域は、vWF、FIX、FX、リン脂質及びトロンビンに関する機能的相互作用部位の他にBDDモデル上にマッピングされた。
【0107】
Y81、F129、K422、K523、K570、N1864、T1911、Q2091及びQ2284に対応するPEG21−29は次いで、それらのCβ原子のそれぞれからの20オングストローム半径で残るBDD表面のほとんど全体を覆うそれらの能力に基づいて選択された。これらの位置は、それらが完全に露出されており、外側に向いており、且つ自然のシステインからずっと離れていて正しくないジスルフィド形成の可能性を最小にする故にも選択された。20オングストローム半径は、64kD分枝鎖状PEGのような大きなPEGが約20オングストローム半径を有する球を覆う可能性を有すると思われる故に選ばれる。PEG2及びPEG6ならびにグリコシル化部位PEG18、19及び20と一緒のPEG21−29のPEG化は、FVIIIの非−機能性(non−functional)表面のほとんど全体を保護するようである。
【0108】
PK側面の向上、より高い安定性又は免疫原性の低下のような強化された性質に導くPEG化位置を組み合わせて、最大に強化された性質を有する多重−PEG化生成物を形成することができる。PEG30及びPEG31は、それぞれA2及びA3ドメイン中の露出されたジスルフィドを除去することにより設計された。PEG30又はC630Aは、そのジスルフィドパートナーC711をPEG化のために遊離させるはずである。同様に、PEG31、C1899AはC1903がPEG化されるのを可能にするはずである。
【0109】
突然変異誘発。PEG化のために選ばれる部位においてシステインコドンを導入することにより、FVIIIの特定部位のPEG化のための基質を形成することができる。PEG突然変異体のすべての生産のためにStratagene cQuickChange
TM II特定部位の突然変異誘発キットを用いた(Stratagene Corpor
ation,La Jolla,CAからのStratageneキット200523)。cQuikChange
TM特定部位の突然変異誘発法は、Pfu Turbo
R DNAポリメラーゼ及び温度サイクラーを用いて行なわれる。所望の突然変異を含有する2個の相補的オリゴヌクレオチドプライマーを、Pfu Turboを用いて伸張させ、それはプライマーを置き換えないであろう。野生型FVIII遺伝子を含有するdsDNAを鋳型として用いる。複数の伸張サイクルに続き、メチル化DNAに関して特異的なDpnlエンドヌクレアーゼを用いて生成物を消化する。突然変異を含有する新しく合成されたDNAはメチル化されないが、親の野生型DNAはメチル化される。次いで消化されたDNAを用いてXL−1 Blue超−感応細胞を形質転換する。
【0110】
突然変異誘発の効率はほとんど80%である。突然変異誘発反応はpSK207+BDD C2.6又はpSK207+BDDにおいて行なわれた(
図1)。DNA配列決定により成功した突然変異誘発を確かめ、突然変異を含有する適したフラグメントを哺乳類発現ベクターpSS207+BDD中のFVIII主鎖中に転移させた。転移の後、突然変異のすべてを再び配列−確認した。A3突然変異タンパク質PEG6、7、8、9及び10の場合、ベクターpSK207+BDD C2.6において突然変異誘発を行なった。配列決定により確かめた後、突然変異体フラグメント、Kpnl/PmeをpSK207+BDD中にサブクローニングした。次いでBDD突然変異タンパク質をpSS207+BDD発現ベクター中にサブクローニングした。A3突然変異タンパク質PEG11、12、13、14の場合、突然変異誘発をベクターpSK207+BDD中で直接行い、配列−確認突然変異体BDDを次いでpSS207+BDD中にサブクローニングした。A2突然変異タンパク質PEG1、2、3、4、5の場合、突然変異誘発をpSK207+BDD C2.6ベクター中で行なった。配列が確認された突然変異体をpSK207+BDD中に、及び次いでpSS207+BDD中にサブクローニングした。
【0111】
突然変異誘発に用いられるプライマー(センス鎖(sense stand)のみ)を各反応に関して挙げる:
PEG1,Y487C:GATGTCCGTCCTTTGTGCTCAAGGAGATTACCA(配列番号:5)
PEG2,L491C:TTGTATTCAAGGAGATGCCCAAAAGGTGTAAAAC(配列番号:6)
PEG3,K496C:TTACCAAAAGGTGTATGCCATTTGAAGGATTTTC(配列番号:7)
PEG4,L504C:AAGGATTTTCCAATTTGCCCAGGAGAAATATTC(配列番号:8)
PEG5,Q468C:GATTATATTTAAGAATTGCGCAAGCAGACCATAT(配列番号:9)
PEG6,K1808C:TAGAAAAAACTTTGTCTGCCCTAATGAAACCAAAAC(配列番号:10)
PEG7,N1810C:AACTTTGTCAAGCCTTGCGAAACCAAAACTTAC(配列番号:11)
PEG8,T1812C:GTCAAGCCTAATGAATGCAAAACTTACTTTTGGA(配列番号:12)
PEG9,K1813C:CAAGCCTAATGAAACCTGCACTTACTTTTGGAAAG(配列番号:13)
PEG10,Y1815C:CTAATGAAACCAAAACTTGCTTTTGGAAAGTGCAAC(配列番号:14)
PEG11,D1795C:ATTTCTTATGAGGAATGCCAGAGGCAAGGAGCA(配列番号:15)
PEG12,Q1796C:TCTTATGAGGAAGATTGCAGGCAAGGA
GCAGGA(配列番号:16)
PEG13,R1803C:CAAGGAGCAGAACCTTGCAAAAACTTTGTCAAGCCT(配列番号:17)
PEG14,K1804C:GGAGGAGAACCTAGATGCAACTTTGTCAAGCCT(配列番号:18)
PEG15,K377C:CGCTCAGTTGCCAAGTGTCATCCTAAAACTTGG(配列番号:19)
PEG16,H378C:TCAGTTGCCAAGAAGTGTCCTAAAACTTGGGTA(配列番号:20)
PEG17,K556C:CTCCTCATCTGCTACTGCGAATCTGTAGATCAA(配列番号:21)
PEG18,N41C:CAAAATCTTTTCCATTCTGCACCTCAGTCGTGTAC(配列番号:22)
PEH19,N239C:GTCAATGGTTATGTATGCAGGTCTCTGCCAGGT(配列番号:23)
PEG20,N2118C:CAGACTTATGCAGGATGTTCCACTGGAACCTTA(配列番号:24)
PEG21,Y81C:ATCCAGGCTGAGGTTTGTGATACAGTGGTCATT(配列番号:25)
PEG22,F129C:GAAGATGATAAAGTCTGTCCTGGTGGAAGCCAT(配列番号:26)
PEG23,K422C:CAGCGGATTGGTAGGTGTTACAAAAAAGTCCGA(配列番号:27)
PEG24,K523C:GAAGATGGGCCAACTTGCTCAGATCCTCGGTGC(配列番号:28)
PEG25,K570C:CAGATAATGTCAGACTGCAGGAATGTCATCCTG(配列番号:29)
PEG26,N1864C:CACACTAACACACTGTGTCCTGCTCATGGGAGA(配列番号:30)
PEG27,T1911C:CAGATGGAAGATCCCTGCTTTAAAGAGAATTAT(配列番号:31)
PEG28,Q2091C:ACCCAGGGTGCCCGTTGCAAGTTCTCCAGCCTC(配列番号:32)
PEG29,Q2284C:AAAGTAAAGGTTTTTTGCGGAAATCAAGACTCC(配列番号:33)
PEG30,C630A:TTGCAGTTGTCAGTTGCTTTGCATGAGGTGGCA(配列番号:34)
PEG31,C1899A:AATATGGAAAGAAACGCTAGGGCTCCCTGCAAT(配列番号:35)
【0112】
突然変異タンパク質発現。ハイグロマイシンBに対する耐性を与えるベクターにおける挿入の後、PEG突然変異タンパク質を、製造者の指示に従って293 フェクチントランスフェクション試薬(Fectin Transfection Reagent)(Invitrogen Corp.Cat#12347−019)と複合させたHKB11細胞中にトランスフェクションした(米国特許第6,136,599号明細書)。トランスフェクションから3日後におけるFVIII発現をCoatest発色アッセイにより評価した(Chromogenix Corp.Cat#821033,実施例12発色アッセイを参照されたい)(表1)。トランスフェクションされた細胞を次いで、5%FBSが補足された生育培地中で、50□g/mlのHyg Bを用いる選択圧下に置いた。Hyg B−耐性コロニーが現れたら、それらを手で採集し、Coatest発色ア
ッセイによりFVIII発現に関してスクリーニングした。FVIII発現安定細胞を次いでHPPS補足物質を含有する培地に適応させた。細胞を拡大し、新しい培地を有する振盪フラスコ中にml当たり1X106個の細胞において播種した。3日後に収穫される組織培養液(TCF)をFVIII BDD突然変異タンパク質の精製のために用いた。TCFのFVIII活性をCoatestにより検定した(表1)。
【0113】
【表1】
【0114】
突然変異タンパク質精製。分泌される突然変異タンパク質FVIIIタンパク質を含有する細胞培養上澄み液を集めたら、0.2ミクロンの膜フィルターを介して上澄み液を濾過し、残る細胞を除去する。次いで限外濾過又はアニオン交換により上澄み液を濃縮する。次いでそれを免疫親和性カラム(immunoaffinity column)に適用し、そこで細胞培養培地成分及び宿主細胞タンパク質不純物の大部分を除去する。免疫親和性カラム溶出液を次いでスクロースを含有する調製緩衝液中へのダイアフィルトレーションにより緩衝液交換し、凍結する。発色アッセイにより、モノクローナルFVIII抗体カラムを通過する(across)タンパク質の収率及び回収率を評価した。クロマトグラフィーランの負荷物、通過流(flow through)、種々の溶出液画分、ストリップ及びダイアフィルトレーションされた溶出液の試料をFVIII活性に関して検定した(表2)。表2はモノクローナル抗体カラムからのPEG2突然変異タンパク質の回収率を示す。抗体はC7F7抗体である。表2におけるパーセント回収率は発色アッセイにより決定される。最終的な収率は73%であった。
図2に示されるのは、モノクロ
ーナルFVIII抗体クロマトグラフィーカラム上で精製されたPEG2タンパク質の場合の、時間に関する280nmにおけるUV吸光度のプロットである。クロマトグラフィーは、Amersham BioscienceからのAKTA
R Explorer 100クロマトグラフィーシステムを用いて行なわれた。この機器は多重−波長UV−可視モニター及び2mmのフローセルを用いる。PEG2突然変異タンパク質は高濃度の塩(high salt)の存在下でカラムから溶出し、溶出ピークは280nmにおける吸光度及びFVIII活性アッセイの両方により示される。
【0115】
【表2】
【0116】
PEG化。100倍を超える過剰のPEG:タンパク質比において、本来の全長FVIII又はBDDを還元及び変性なしでシステイン−特異的PEGによりPEG化することはできず(データは示されていない)、すべての本来のシステインがジスルフィドを形成しているか、又はFVIII内に埋もれているというBDD構造モデルに基づく仮説を確証している。上記で挙げた標準的な案を用いて発現し且つ精製されたFVIIIシステイン突然変異タンパク質をシステイン−特異的PEGマレイミド試薬を用いてPEG化することはできず、おそらくそれは導入されたFVIIIシステインが細胞生育培地中に存在するシステイン及びβ−メルカプトエタノールのようなスルフヒドリル基との反応により「キャッピングされている」からである。この問題はおそらく培地からシステイン及びβ−メルカプトエタノールを除去することにより解決され得るが、これはより低いFVIII生産を生じ得、細胞により放出されるスルフヒドリルが導入されたFVIIIシステインを遮断するのを妨げないであろう。
【0117】
本発明の他の側面において、FVIIIの部位−特異的PEG化を可能にする3−段階法を開発した(
図3)。段階1において、約1μMにおける精製されたFVIIIシステイン突然変異タンパク質を約0.7mM トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)又は0.07mM ジチオトレイトール(DTT)のような還元剤を用い、4℃において30分間穏やかに還元し、「キャップ」を放出させる。段階2に、回転カラム(BioRad
R)を介して試料を移動させるようなサイズ−排除クロマトグラフィー(SEC)法により「キャップ」と一緒に還元剤を除去し、導入されたシステインを遊離且つ還元された状態にしながらFVIIIジスルフィドの再形成を可能にする。段階3において、還元剤の除去から少なくとも30分後に、遊離されたFVIIIシステイン突然変異タンパク質を5〜64kDの範囲のサイズを有する少なくとも10−倍モル過剰のPEG−マレイミド(Nektar Therapeutics及びN.O.F.Corporation)を用い、4℃で少なくとも1時間処理する。この方法は、異なる個人により繰り返される数十回の反応に関し、再現性の良いデータを有する高度に一貫した生成物分布を与える。
【0118】
TCEPの除去のための回転カラム法は計ることができないので、ゲル濾過脱塩クロマトグラフィーが選ばれた。しかしながら、TCEPのスパイクサンプル(spike sample)を用いてこの方法を調べると、TCEPがカラム空隙において測定可能なレベルで溶出し、その低い分子量を有する分子から予測される塩画分中のみで溶出するので
はないことが示された。ウェスタンブロットアッセイは、おそらくTCEPの不完全な除去の故の有意なバックグラウンドPEG化を示した。そうしている間に別の実験は、塩勾配と組み合わされたアニオン交換クロマトグラフィー媒体を用いて、C7F7精製材料を他のタンパク質不純物からさらに有意に精製できることを示した。そこで上記のTCEPを用いてC7F7材料を還元し、次いでアニオン交換カラム上で材料を処理する(process)ことが決定された。電荷の相違のために、FVIIIタンパク質は保持されるが、TCEPはカラムを通過して流れ、保持されない。同時に勾配塩溶出の間に、FVIIIタンパク質は残るタンパク質不純物の大部分から精製された。これは、後に起こるPEG化が、より純粋な出発材料を用いて理論的により均一であろうことを意味した。しかしながら、TCEPのスパイクサンプルを用いて調べると、勾配中でFVIIIと一緒に溶出する測定可能なレベルのTCEPが見出されることが示された。従って、アニオン交換クロマトグラフィーの後にゲル濾過脱塩クロマトグラフィーを行なうことが決定され、これらの2つの段階は順番に用いられると、TCEPの完全な除去及び非−特異的PEG化の除去を生じた。
【0119】
SDS PAGE及びウェスタンブロットによるPEG化分析。還元性6%TrisGlycine SDSポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)上の電気泳動により、PEG化された生成物を分析することができる。電気泳動に続き、クーマシーブルーを用いてゲルを染色してすべてのタンパク質を同定するか、あるいは標準的なウェスタンブロット案に供してFVIIIの種々の領域上のPEG化パターンを同定することができる。それぞれFVIII重鎖のC−末端領域又はVIII軽鎖のN−末端領域に対して構成される(raised)マウスモノクローナルR8B12又はC7F7抗体を用いるブロットの染色は、それぞれの鎖のPEG化を同定するはずである。FVIIIの484−509領域に対する413抗体を用いる染色は、PEG1−4のような突然変異タンパク質に関してPEG化が実際に部位−特異的であるか否かを決定するであろう。同様に、FVIIIの1801−1823領域を認識するCLB−CAg A抗体を用いる染色は、PEG6−10のような突然変異タンパク質に関してPEG化が部位−特異的であるか否かを決定するであろう。
【0120】
PEG2(L491C)PEG化は、軽鎖より重鎖に関して選択的であり、特に484−509領域に関して選択的であることが示されたが(
図4)、PEG6(K1808C)は重鎖より軽鎖に関して選択的であることが示された(
図5)。
【0121】
図4に描かれる研究のために、TCEPを用いてPEG2突然変異タンパク質(列1及び8)を還元し、続いてTCEPを除去し(列2及び9)、5、12、22、33又は43kD PEG−マレイミドで処理する(列3−7及び10−14)。非PEG化FVIIIは非プロセシング(H+L)ならびにプロセシング重(H)及び軽(L)鎖バンドとして移動する。3つのすべてのバンドはクーマシーブルー染色されたゲル上で検出可能であるが(下の右)、鎖特異的抗体を用いるウェスタン染色はプロセシングされない対応する鎖のみを明らかにする。R8B12染色(上の左)を用いると、PEG2をPEG−マレイミドで処理する場合の重鎖(H)バンドは強度が劇的に低下し、新しいバンドが形成され、それはPEGのサイズに比例して親Hバンドより高く移動する。C7F7染色(下の左)を用いると、軽鎖(L)バンド(不均一なグリコシル化の故に多重バンド)は強度を変えない。両染色に関する非プロセシングH+Lバンドは、H鎖が非プロセシングFVIIIの一部であるために移動する。クーマシー染色も軽鎖よりずっと多い重鎖のPEG化、すなわちHバンド強度の低下を確証する。最後にPEG化バンドは、おそらく484−509への413抗体の結合を遮断する491の部位−特異的PEG化の故に、PEGサイズ−依存的やり方で、R8B12染色より413抗体染色上(上の右)で相対的により強度を失う。列当たりに負荷されるFVIIIの量は2つの左のゲルの場合に約30ngであり、上の右のゲルの場合に約1000ngであり、下の右のゲルの場合に約200
0ngである。
【0122】
還元及びそれに続く還元剤の除去は、FVIIIの移動を変えない(列1対2及び8対9)。PEG2への22kD PEGの付加は413抗体の結合を遮断し、491位置における特異的なPEG化と一致する(
図4の上の右のゲル)。これはPEG化されたPEG2が人間においてより低い免疫原性を有するであろうことも示唆しており、それは、413抗体がヒトA2阻害性抗体と同じエピトープを共有することが示されているからである(Scandella et al.著,Thromb.Haemost.67,1992年,pp.665−71)。
【0123】
図5に描かれる研究のために、TCEPを用いてPEG6突然変異タンパク質を還元し、続いてTCEPを除去し(列1及び6)、5、12、22又は33kD PEG−マレイミドで処理する(列2−5及び7−10)。非PEG化FVIIIは非プロセシング(H+L)ならびにプロセシング重(H)及び軽(L)鎖バンドとして移動する。PEG6(K1808)突然変異は軽鎖上にあるので、PEG化は軽鎖上のみで検出され、重鎖上では検出されなかった。列当たりに負荷されるFVIIIの量は左のゲルの場合に約100ngであり、右のゲルの場合に約30ngである。
【0124】
標準として移動させたBDDは、上記の還元及び還元剤除去法の後でさえ、100−倍を超えるモル過剰のPEG−マレイミドを用いて処理した時に有意なPEG化を示さなかった(
図6a)。同じ方法をPEG4及びPEG5にも適用した(
図6a)。PEG2と比較して、これらの突然変異タンパク質は有効にPEG化されなかったが、それらはPEG2(L491C)に類似して重鎖に関して選択的であった。PEG6(K1080C)のPEG化効率は比較的低く、それはおそらくそれがN1810におけるN−結合グリコシル化部位に非常に近接しており、それが位置1808におけるPEG化を遮断し得るからである。かくして我々は、1810における本来のグリコシル化部位を除去するためにPEG7(N1810C)を設計した。頭−頭比較(head−to−head comparison)においてPEG7はPEG6と比較して向上したPEG化効率を示す(
図6b)。類似して、PEG15はPEG2よりわずかに良いPEG化効率を示す。BDDの二重突然変異体であるPEG2+6は、PEG2が重鎖システイン突然変異であり、PEG6が軽鎖突然変異であるために、重鎖及び軽鎖の両方の上でPEG化され得る(
図6c)。この方法を野生型全長FVIIIにも適用した(
図6d)。PEG化は、A1、A2及びBドメインのほとんどを含む重鎖の最大のフラグメントに関して検出された。PEG化パターンはモノPEG化を示唆し、1個のPEG化されたシステインのみがあることを示唆した。
【0125】
トロンビン切断及びウェスタンブロットによるPEG化分析。PEG化された生成物を37℃において30分間トロンビン(FVIIIのug当たり40IU)で処理することができる。用いられるトロンビンは汚染物としてAPCも含有する。トロンビン切断は重鎖から50kD A1及び43kD A2ドメインを形成するが、APC切断はA2ドメインをさらに21及び22kDのフラグメントに割るであろう(
図7)。重鎖のC−末端を認識するR8B12抗体を用いる染色は、無損傷のA2ドメイン及び21kD C−末端フラグメントのみを同定するであろう(FVIII562−740)。かくしてPEG2のPEG化が位置491に関して特異的であったら、43kD A2ドメインはPEG化されるが21kD C−末端フラグメントはPEG化されないはずである。これは実際に、
図7に示される22kD PEG化PEG2に関するウェスタンブロットにより確証された。かくして除去により、PEG2のPEG化は、A2ドメインのN−末端22kDフラグメント(FVIII373−561)に位置決定された。PEG−マレイミドはpH6.8においてシステインに関して完全に選択的であり、373−561内の唯一の本来のFVIIIシステインは528−554の間の埋もれたジスルフィドに由来するので
、PEG2は位置491における導入されたシステイン上でPEG化されるのが非常にありそうなことである。FVIII重鎖N−末端抗体を用いるトロンビン−処理されたPEG化PEG2のウェスタン染色は、A1ドメインのPEG化を示さなかった(データは示されない)。トロンビン切断法を用いるPEG2の選択的PEG化は、5、12、33及び43kDのPEGsに関しても確証された(データは示されない)。PEG化された野生型全長FVIIIのトロンビン切断は、BドメインのみがPEG化されることを示す(
図8)。
【0126】
ヨウ素染色によるPEG化分析。クーマシーブルー及びウェスタン染色の際に新しく作られるバンドが実際にPEG化されたバンドであることを確証するために、PEGに関して特異的であるバリウム−ヨウ素染色を用いた(
図9)。PEG化されたPEG2を6%TrisGlycineゲル(Invitrogen)上で移動させ、R8B12重鎖抗体又はバリウム−ヨウ素溶液で染色した(Lee et al.著,Pharm Dev
Technol.4:1999年,269−275)。PEG化されたバンドは、それらを整列させるための分子量マーカーを用いて2つの染色の間で一致し、かくしてFVIII重鎖PEG化を確証した。
【0127】
MALDI−質量分析によるPEG化分析。重鎖中のA2ドメインのPEG化を確証するために、PEG化の前後のrFVIII試料をマトリックス−補助レーザー脱着/イオン化(MALDI)質量分析により分析した。30%アセトニトリル,0.1%TFA中のシナピン酸マトリックスを有するMALDI標的プレート(target plate)上で試料を混合し、結晶化させた。次いでそれらをVoyager DE−PRO分光計において、正の線状モードで分析した。
図10に示される結果は、83kDを中心とするPEG2の軽鎖及び89kDにおける重鎖(HC)を示した。PEG化試料に関して取得されたスペクトルは、HCピークの低下及び111kDを中心とする新しいピークの形成を示した。これは、重鎖のPEG化を確証する。PEG化された軽鎖(105kDにおける)は、検出限界より上で観察されなかった。
【0128】
次いで試料を両方とも、FVIIIのmg当たり20単位のトロンビンにおいて37℃で30分間、トロンビン消化に供し、続いてアミノ酸分析によりFVIII濃度を決定した(Commonwealth Biothechnologies,Inc)。重鎖は46kD(A1)N−末端画分及び43kD(A2)画分に切断された。PEG化試料に関して取得されたMALDIスペクトル(
図11)は、43kDピークの喪失及びPEG化されたA2ドメインの故の新しい65kDピークの出現を示す。LCのPEG化はやはり検出限界より上で観察されない。これらの結果は再び、FVIIIのA2ドメインのPEG化を確証している。同じ分析をPEG化されたPEG6に適用し、軽鎖A3C1C2フラグメントのPEG化を確証した(
図12)。
【0129】
活性測定
凝固アッセイ。凝固FVIII:C試験法は、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)に基づく1−段階アッセイである。FVIIIは因子IXa、カルシウム及びリン脂質の存在下で、因子XからXaへの酵素的転換において補因子として働く。このアッセイでは、希釈された試験試料をFVIII欠失血漿基質及びaPTT試薬の混合物と一緒に37℃でインキュベーションする。インキュベーションされた混合物に塩化カルシウムを加え、凝固を開始させる。血餅が形成されるのに要する時間(秒)とFVIII:Cの濃度の対数の間には逆比例関係(inverse relationship)が存在する。種々の希釈度の試験材料の凝固時間を、一系列の希釈度の既知の活性の標準材料から構築される曲線と比較することにより、未知の試料に関する活性レベルを内挿し、mL当たりの国際単位(IU/mL)において報告する。
【0130】
発色アッセイ。発色アッセイ法は2つの連続的段階から成り、その方法では色の強度がFVIII活性に比例する。第1段階において、因子Xが最適量のカルシウムイオン及びリン脂質の存在下でFIXaにより、その補因子FVIIIaを用いてFXaに活性化される。因子Xの活性化の速度がFVIIIの量のみに依存するように、過剰量の因子Xが存在する。第2段階において、因子Xaは発色基質を加水分解し、発色団を与え、色の強度を405nmにおいて測光的に読み取る。未知試料の力価を計算し、傾斜比統計法(slope−ratio statistical method)を用いてアッセイの正当性を調べる。活性をmL当たりの国際単位(IU/mL)において報告する。
【0131】
1811−1818ループはFIXへの結合に含まれるが、このループ内の個々の位置の重要性は決定されていない。PEG7−10突然変異タンパク質は、本来のFVIIIに関してほとんど同じ比発色活性を示す(表3)。表3は、BDDに関するPEG突然変異タンパク質及びPEG化されたPEG2又はPEG6のパーセント比活性(S.A.)を示す。S.A.は、発色、凝固又はvWF結合活性を全抗原ELISA(TAE)値で割ることにより決定された。次いでPEG化突然変異タンパク質のS.A.をBDDのS.A.(8IU/ug発色、5IU/ug凝固及び1vWF/TAE)で割り、100を掛けて、表3中に発色、凝固及びvWF/TAEの見出しの下に挙げられるパーセントS.A.を得る。
【0132】
【表3】
【0133】
表3中で用いられる場合、「PEG2 red」は、還元剤で処理され、続いて還元剤が除去されたPEG2突然変異タンパク質である。この還元法はFVIIIの3つの機能的活性を有意に変えなかった。5kD(PEG2−5kD)〜43kD(PEG2−43kD)の範囲のPEGsに複合したPEG2突然変異タンパク質は、有意な量の発色活性を失わなかったが、PEGサイズが5kDを超えて大きくなるとともに凝固活性を非常に低下させた。比較的大きいサイズのPEG化PEG2に関してvWF結合における中程度の減少もあり得る。
【0134】
全抗原ELISA(TAE)。ポリクローナルFVIII抗体がコーティングされたミクロタイタープレート上にFVIIIを捕獲する。ビオチニル化ポリクローナルrFVIII抗体及びストレプタビジンホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)複合体を用いてFVIII結合を検出する。ペルオキシダーゼ−ストレプタビジン複合体は、テトラメチルベンジジン(TMB)基質を加えると発色反応を生ずる。4パラメーターフィットモデルを用いて標準曲線から試料濃度を内挿する。FVIIIの結果をμg/mLにおいて報告する。
【0135】
vWF結合ELISA。FVIIIを溶液中で重症血友病血漿(Severe Hemophilic Plasma)中のvWfに結合させる。次いでvWf−特異的モノクローナル抗体がコーティングされたミクロタイタープレート上でFVIII−vWf複合体を捕獲する。FVIIIポリクローナル抗体及びホースラディッシュペルオキシダーゼ−抗−ウサギ複合体を用いてvWfに結合したFVIIIを検出する。ペルオキシダーゼ−複合抗体複合体は、基質を添加すると発色反応を生ずる。4パラメーターフィットモデルを用いて標準曲線から試料濃度を内挿する。FVIII結合の結果をμg/mLにおいて報告する。PEG化された場合に活性のいずれにも有意な影響はなく、それはBドメインにおけるPEG化と一致した。
【0136】
【表4】
【0137】
イオン−交換クロマトグラフィーによるPEG化FVIIIの精製。PEG化されたFVIIIをアニオン交換カラム又はカチオン交換カラムに適用し、ここでタンパク質はカラムに結合するが、過剰の遊離のPEG試薬は結合せず、通過流中で除去される。次いで塩化ナトリウム勾配を用いてPEG突然変異タンパク質をカラムから溶出させる。負荷物、通過流及び勾配画分のバリウム−ヨウ素染色された4〜12%Bis−Trisゲルを用い、カラム溶出画分がPEG化突然変異タンパク質を有することを確証した。
【0138】
サイズ−排除クロマトグラフィーによるPEG化FVIIIの精製。PEG2突然変異タンパク質の大部分を含有するアニオン交換画分をプールし、限外濾過により濃縮し、次いでサイズ排除カラムに適用する。次いで調製緩衝液を用いてカラムを溶出させる。PEGがタンパク質に結合しているかどうかに依存するタンパク質のサイズ及び形における相
違の故に、このカラムはPEG化PEG2突然変異タンパク質をPEG化されていない残るPEG2のそれから分離する。PEG化された突然変異タンパク質FVIII画分を、ほとんどのFVIII活性を有することに基づいてプールし、次いでその後の動物研究及び分子特性化のために凍結する。
図13は、43kD PEG化PEG2突然変異タンパク質の溶出に対して非−PEG化PEG2突然変異タンパク質の溶出を比較する。PEG化PEG2は有意により初期に溶出し、それは共有結合したPEGからのそのサイズにおける増加及び形を示す。
【0139】
より低い、すなわち50%未満のPEG化の効率を示すPEG6のような突然変異タンパク質の場合、高度に純粋なモノ−PEG化生成物を与えるための最も有効な精製案は、カチオン交換クロマトグラフィーとそれに続くサイズ排除クロマトグラフィーの組み合わせを使用することである。例えばPEG6の場合、カチオン交換クロマトグラフィーはPEG化されたPEG6(より初期の溶出画分、
図14)を非−PEG化PEG6の大部分(より後期の溶出画分、
図15)から精製する。次いでサイズ排除クロマトグラフィーはPEG化されたタンパク質(より初期の溶出画分、
図15)を非−PEG化タンパク質(より後期の溶出画分、
図15)の残りから分離して仕上げを施す(polishes)。
【0140】
活性へのPEGサイズの影響。PEGサイズがPEG化された時のFVIIIの凝固及び発色活性の両方に影響を有するかどうかを調べるために、精製された全長FVIII、PEG2、PEG6及びPEG14をTCEPにより還元し、続いて還元剤を除去し、緩衝液標準又は6kD〜64kDの範囲のPEGsと反応させた。得られるPEG化FVIIIを過剰のPEG又は非PEG化FVIIIの除去なしで直接検定した。標準実験は、過剰のPEGがFVIII活性に影響を有していないことを示した。
【0141】
図16はこの研究の結果を示す。精製された全長FVIIIは
図16中でKG−2として示される。
図16中で報告されるパーセント活性は、還元及び還元剤の除去の後にPEGで処理された試料の値を、PEG化の収率を考慮しながら、緩衝液標準で処理された試料の値で割ることにより決定された。PEG化の収率は、いずれの与えられるFVIII構築物の場合にも、すべてのPEGsにわたり(across)同等であった。それらはKG−2、PEG2及びPEG14の場合に約80%であり、PEG6の場合に約40%である。例えば12kD PEG化PEG14試料の場合の3.2IU/mLに対して、緩衝液標準処理されたPEG14は6.8IU/mLの凝固活性を有する。しかしながら、PEG化の効率は約80%であり、3.2IU/mLが約80%のPEG化及び約20%の非PEG化の凝集体活性を示すことを意味する。非PEG化試料が緩衝液標準で処理されたPEG14と同じ活性を有すると仮定すると、PEG化PEG14の場合の非PEG化PEG14に対するパーセント活性は34%=(3.2−6.8x20%)/(6.8x80%)であると算定される。
【0142】
BDDのPEG2、PEG6又はPEG14位置におけるA2又はA3ドメイン内のPEG化は、PEGサイズが6kDを超えて増加すると凝固活性の劇的な喪失を生ずる。しかしながら、全長FVIIIのBドメイン内の本来のB−ドメインシステインにおけるPEG化は凝固活性に影響を有していなかった。興味深いことに、発色活性はすべてのPEG化構築物の場合に影響されなかった。これはアッセイの相違の故であり得る。小さい発色性ペプチド基質は、凝固活性で用いられるもっと大きなタンパク質基質よりPEG化FVIII/FIX/FX複合体に容易に近づけることがあり得る。あるいはまた、PEGは突然変異タンパク質の活性化に影響し得る。これは2−段階発色アッセイより1−段階凝固アッセイによって容易に検出されるであろう。
【0143】
PEG2、6及び14の凝固活性へのPEGの影響の観察を確証するために、いくつかのPEG化構築物を過剰のPEG及び非PEG化タンパク質(unPEGylated)
から精製した。PEGは発色活性に影響を有していないので、発色活性対凝固活性の比率は凝固活性へのPEGの相対的影響についての良い評価となる(表5)。PEG2のような与えられる位置におけるより大きなPEGs及びPEG2+6構築物の場合におけるようなより多数のPEGsは、より多くの凝固活性の喪失を引き起こす。
【0144】
【表5】
【0145】
うさぎPK研究。FVIIIの薬物動態学(PK)へのPEG化の影響を理解するために、複数の種においてPK研究を行なった。研究のためにNZW SPFウサギを用いた:10匹の雌,グループあたり5匹のウサギ、2つのグループ(PEG2 FVIII及び22kD PEG化PEG2)。試料を100IU/mL(発色単位)の最終的濃度を以って無菌のPBS中に希釈した。各ウサギに耳縁静脈(marginal ear vein)を介して1ml/kg(100IU/kg)の用量の希釈された試験物質又は標準物質を与えた。注入から種々の時間の後に、投薬から後の規定された時点に耳中心動脈(central ear artery)から血液試料(1mL)を1mLシリンジ中に採取した(100μLの3.8%Na−クエン酸塩を装入)。血漿試料を、96−ウェルプレート上にコーティングされたR8B12重鎖抗体と一緒にインキュベーションし、投薬されたヒトFVIIIを特異的に捕獲した。捕獲されたFVIIIの活性を発色アッセイにより決定した(
図17)。PEG化PEG2及びPEG化PEG6をBDDと比較もし(
図18及び19)、PEG化された突然変異タンパク質はBDDと比較して血漿回収率における向上を示した。PEG化された野生型全長FVIIIは多くの向上を示すようではなかった(
図20)。
【0146】
マウスPK研究。第2の種として、ICR正常もしくは血友病、FVIII欠失マウス(Taconic,Hudson,NY)をPK研究に用いた。1時点につきグループ当たり5匹のマウスで、正常なマウスを研究に用いた。試験材料を調製緩衝液中に、25IU/mLの公称最終濃度まで希釈した。各マウスに尾静脈を介して4mL/kg(約0.1mLの合計体積)の希釈された(dilute)試験材料を投与することができる。指示される時点に下大静脈から、血液試料(正常もしくは血友病マウス研究のためにそれぞれ0.45もしくは0.3mL)を1mLのシリンジ(正常もしくは血友病マウス研究のためにそれぞれ50もしくは30μLの3.8%Na−クエン酸塩が装入された)中に採取する(試料当たり1匹の動物)。上記の発色アッセイ法を用いて血漿試料をFVIII濃度に関して検定する。PEG化PEG6は、BDD又はPEG6と比較してより高い血漿回収率を示す(
図21)。PEG化PEG2は、BDDと比較してより高い血漿回収率を示す(
図22及び23)。
【0147】
【表6】
【0148】
【表7】
【0149】
血友病マウス(BDD)因子VIII回収率。
図24に示される血友病マウス(BDD)因子VIII回収率ヒストグラムは、血友病マウスアッセイにおけるBDD因子VIIIの2つの種の半減期の薬物動態学的(PK)評価を描く。このアッセイは、マウスモデルにおいて静脈内投与から後の3つの時点に、BDD因子VIII(
図24中で「wt」又は野生型BDD因子VIIIと呼ばれる)及びBDD因子VIIIのPEG2+6二重PEG化変異体(そして本明細書の他の箇所でBDD因子VIIIのL491C,K1808C二重変異体と同定される)の両方の血漿濃度を測定するように設計された。0.8及び4時間の両時点におけるPK評価は同等であったが、16時間の評価は特に注目する価値がある。16時間において、非−PEG化分子と比較する場合に約4倍(400%)もの多くの二重にPEG化されたBDD因子VIII変異体(PEG2+6)が投与から16時間後のマウス血漿中に留まった。
【0150】
腎臓裂傷モデル。PEG化FVIII突然変異タンパク質が血友病マウスにおいて出血を止めるのに有効であるかどうかを決定するために、腎臓裂傷モデルを用いた。血友病マウス(破壊されたFVIII遺伝子を有するC57/BL6)をイソフルオラン(isofluorane)下で麻酔し、秤量した。下大静脈を露出し、31ゲージの針を用いて
100ulの食塩水又はFVIIIを注入した。針を注意深く取り出し、出血を妨げるために注入の部位で30〜45秒間圧力を加えた。2分後、右腎臓を露出し、垂直軸に沿って鉗子間に保った。#15メスを用い、腎臓を3mmの深さまで水平に切断した。傷の均一な深さを保証するために、腎臓を中心で軽く持って鉗子の両側上の等しい組織を露出した。露出された腎臓の表面は鉗子の深さまで切断された。上記の通りに血液損失を定量した。マウスについて種々の用量のFVIIIを調べ、腎臓出血へのFVIIIの用量反応関係を特性化した。PEG化PEG2は、マウス腎臓傷害後の血液損失の減少においてBDDと同等の力価を示した(
図25)。かくしてPEG化PEG2の凝固活性はBDDのそれより低いが、この腎臓裂傷モデルは、PEG化PEG2の生体内有効性がBDDと比較して測定可能なほど低下しないことを示し、発色アッセイデータと一致した。
【0151】
抗体阻害アッセイ。特異的に位置491(すなわちPEG2)においてポリエチレングリコール(PEG)のような高分子量ポリマーを付加することは、mAB 413へ、及び拡大により患者の大きな割合の阻害性抗体への結合及び感度を低下させるはずであり、それは、多くの患者が同じmAB 413エピトープに対する阻害性抗体(inhibitor antibodies)を発現するからである。これを調べるために、増加する量のmAB 413を非−飽和量(0.003IU/mL)のBDD又は43kD PEG化PEG2と一緒にインキュベーションし、発色アッセイにおいて機能的活性を調べた(
図26)。非−阻害性抗体であるR8B12及びC2ドメインを標的とする阻害性抗体であるESH4を標準として用いた。PEG化PEG2は実際にBDDよりmAB 413阻害に対して抵抗性であり、491位置近辺で結合しない標準抗体の存在下で類似の阻害パターンを示す。さらに、mAB 413阻害に対するPEGの保護効果はPEGサイズに依存し、より大きなPEGsがより強い効果を有する(
図27)。PEG化FVIIIが患者からの阻害性抗体により抵抗性であるかどうかを調べるために、FVIIIへの阻害物質を発現した血友病A患者に由来する1パネルの血漿の存在下で、発色活性を測定した。調べられた8人の患者の血漿の中で4人の患者の血漿試料において、43kD PEG化PEG2はBDDより患者の血漿阻害に抵抗性であった。例えばPEG化されたPEG2、PEG6又はPEG2+6は、1人の患者の血漿においてBDDより高い残留活性を示したが、他の血漿においては示さなかった(
図28)。ジPEG化PEG2+6は、モノPEG化PEG2又はPEG6より抵抗性であると思われる。これらの結果は、PEG化PEG突然変異タンパク質がFVIIIへの阻害物質を発現する患者の処置においてより有効である得ることを示唆している。
【0152】
高処理量PEG化スクリーニング。特定のPEG突然変異タンパク質のPEG化効率は予測不可能であり、それは特にBDDの直接の構造的情報がないからである。例えばBDDの構造モデルに基づき、PEG4及びPEG5のPEG化効率がPEG2及びPEG15のそれに類似して非常に高いはずと予測され、それは構造に従って3個のすべての位置が表面露出され且つ外側に向いているからである。かくして系統的なPEG化を介して新規なクリアランス機構を探索するためにPEGを用いることは、多数の突然変異タンパク質をスクリーニングすることを必要とする。
【0153】
多数のPEG突然変異タンパク質を迅速にスクリーニングするために、新規な高処理量法が開発され、それは一過的にトランスフェクションされた突然変異タンパク質からのPEG化生成物のPEG化効率及び機能的活性を調べることができる。0.1〜0.2IU/mLもの低いFVIII発色値を有する5〜10mLもの少量の一過的に発現されたPEG突然変異タンパク質を、Amicon−centra Ultra device MWCO 30Kを用いて約50−倍濃縮し、FVIIIの濃度はFVIIIへの抗体の相互作用の親和性範囲に近い1nMより高くに達する。濃縮されたPEG突然変異タンパク質(〜300uL)を〜30uLのC7F7 FVIII抗体樹脂と一緒に4℃で終夜インキュベーションし、洗浄し、溶出させ、透析し、還元する。還元剤を除去し、還元さ
れたPEG突然変異タンパク質をPEG化し、上記のようなウェスタン分析上で移動させる(
図29及び30)。一過的に発現されたPEG突然変異タンパク質の相対的なPEG化効率は、精製されたPEG突然変異タンパク質のそれと正確に一致する。
【0154】
この方法により、1〜2ヶ月内に数十個のPEG突然変異タンパク質をスクリーニングすることができる。例えばPEG14(K1804C BDD)は、12kD PEGを用いて少なくとも約80%の軽鎖のPEG化を有し、重鎖のPEG化はなく(データは示されない)、軽鎖上に位置決定されるK1804C突然変異と一致した。K1804とK1808(PEG6位置)の間のC□からC□への距離は、BDD構造に従うとわずか8.4オングストロームであり、この位置における43kD PEGの導入が、よりずっと高いPEG化収率の利点を以って、33kD PEG化PEG6と類似のPKにおける向上を有するであろうことを示唆している。調べられたすべてのPEG突然変異タンパク質に関する相対的なPEG化収率を表8にまとめる。重鎖中にシステインを有するすべての突然変異タンパク質は重鎖上のみでPEG化されるが、軽鎖中にシステインを有するすべての突然変異タンパク質は軽鎖上でPEG化される点で、PEG化はシステイン突然変異が導入される特定のFVIII鎖に関して高度に選択的であった。突然変異タンパク質番号2〜31は、挙げられる位置における本来のアミノ酸がシステインで置換されるBDDのシステイン突然変異を示す。PEG2+6は、位置491及び1808がシステインで置換されたBDDの二重突然変異タンパク質である。A1及びA2(ならびに全長FVIIIであるKG−2の場合にはBドメイン)は重鎖に属するが、A3、C1及びC2は軽鎖に属する。PEG化効率は、PEG化生成物をSDS PAGE上で移動させ、PEG化バンドの強度を非PEG化バンドと比較することから見積もられた:+++ >約80%PEG化収率,++ 約30〜70%収率,+ 約10〜30%収率及び− <約10%収率。
【0155】
【表8】
【0156】
還元されたPEG突然変異タンパク質の質量分析。PEG突然変異タンパク質又は全長
FVIIIの直接のPEG化を妨げる「キャップ」の正体を決定するために、PEG2+14を67uM〜670uMの範囲の濃度におけるTCEPで還元した。PEG化収率はTCEPの増加する量に比例して向上した(
図31)。同じ試料をPEG化の前に質量分析によっても分析した(
図32)。直接研究できるタンパク質ドメインを得るために、FVIIIのmg当たり20単位の比率におけるトロンビンを用い、試料を37℃で30分間消化した。トロンビン切断は残基372−740を含み、占有されたグリコシル化部位を含まないA2フラグメントを生ずる。消化された試料をC4逆相液体クロマトグラフィーシステム上に注入し、カラムからの溶出物を、電子スプレーインターフェース(electrospray interface)を介して4極飛行時間質量分析計(quadrupole time−of −flight mass spectrometer)中に直接導入した。A2ドメインに相当するクロマトグラフィーピーク下からの質量スペクトルをデコンボリューションし、タンパク質の無損傷の質量値を与えた。還元の前に、PEG2+14のA2ドメインは、理論的に予測されるより118ダルトン大きい質量を与える。TCEP濃度が向上すると、A2ドメインの正確な予測質量を有する新しいピークが現れる。この新しいピークの割合は、TCEP濃度が向上するとともに増加する。118ダルトンの差は、システイン(119Da)とのジスルフィド形成を介する残基Cys 491におけるシステイン化及び機器の精度により説明され得る。かくしてこれは、PEG突然変異タンパク質がシステインによりキャッピングされ、それが直接のPEG化を妨げることを示す。
【0157】
本明細書で開示されるすべての引用文献は、引用することによりそれらの記載事項全体が本明細書の内容となる。