特許第6559662号(P6559662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6559662積層部材の加工方法、積層部材の加工体およびガスバリアフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559662
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】積層部材の加工方法、積層部材の加工体およびガスバリアフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 38/18 20060101AFI20190805BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190805BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20190805BHJP
   B26F 1/38 20060101ALI20190805BHJP
   B26D 7/08 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   B32B38/18 C
   B32B27/00 B
   B26D3/00 601B
   B26F1/38 Z
   B26D7/08 Z
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-523183(P2016-523183)
(86)(22)【出願日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2015056508
(87)【国際公開番号】WO2015182203
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2017年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-110569(P2014-110569)
(32)【優先日】2014年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】淵 恵美
(72)【発明者】
【氏名】永縄 智史
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−040625(JP,A)
【文献】 特開2010−228391(JP,A)
【文献】 特開2009−291845(JP,A)
【文献】 特開2011−201080(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147090(WO,A1)
【文献】 特開2007−299487(JP,A)
【文献】 特開2011−062958(JP,A)
【文献】 特開平6−106688(JP,A)
【文献】 特開2000−6305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B26D 3/00
B26D 7/08
B26F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のシートと、第1のシートの一方の面上に配置される第2のシートとを備える積層部材の加工方法であって、
前記第1のシートは、基材と前記基材の少なくとも一方の面に積層されたガスバリア層とを備え、
前記ガスバリア層は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が10GPa以上であり、
前記第2のシートは、前記第1のシートから剥離されるものであり、
前記第2のシートの前記第1のシートに対向する面と反対側の面は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が0.05GPa以上、0.5GPa以下であり、
前記積層部材を、前記第2のシート側の面から機械的切断加工を行って、前記第1のシートの切断体および前記第2のシートの切断体を備える前記積層部材の加工体を得る切断工程を備えること
を特徴とする、積層部材の加工方法。
【請求項2】
前記機械的切断加工は、裁断加工および抜き加工の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記積層部材の加工体から前記第2のシートの切断体を除去することを含んで、前記第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得る除去工程を備える、請求項1に記載の加工方法。
【請求項4】
前記第2のシートは、前記第1のシートの前記ガスバリア層側の面上に配置される、請求項1に記載の加工方法。
【請求項5】
前記第2のシートは、支持フィルムと、前記支持フィルムの一方の面上に積層された粘着剤層とを備え、
前記粘着剤層側の面が前記第1のシートに対向するように前記第2のシートは配置されている、請求項1に記載の加工方法。
【請求項6】
前記第1のシートの第2のシートに対向する面と反対側の面は、算術平均粗さ(Ra)が10nm以上、粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)が150nm以上である、請求項1に記載の加工方法。
【請求項7】
前記第2のシートの前記粘着剤層の面は前記第1積層体の前記ガスバリア層の面に貼付され、前記第2のシートの前記第1のシートに対する粘着力が1500mN/25mm以下である、請求項5に記載の加工方法。
【請求項8】
前記第2のシートの厚さは、第1のシートの厚さよりも厚いことを特徴とする、請求項1に記載の加工方法。
【請求項9】
前記第1のシートの前記ガスバリア層は、算術平均粗さ(Ra)が10nm以上50nm以下、かつ粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)が150nm以上1000nm以下である、請求項1に記載の加工方法。
【請求項10】
第1のシートと、第1のシートの一方の面上に配置される第2のシートを備える積層部材を、前記第2のシート側の面から機械的切断加工を行って得られた、前記第1のシートの切断体および前記第2のシートの切断体を備える積層部材の加工体であって、
前記第1のシートは、基材と前記基材の少なくとも一方の面に積層されたガスバリア層とを備え、
前記第2のシートは、前記第1のシートから剥離されるものであり、
前記ガスバリア層は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が10GPa以上であり、
前記第2のシートの前記第1のシートに対向する面と反対側の面は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が0.05GPa以上、0.5GPa以下であること
を特徴とする積層部材の加工体。
【請求項11】
請求項10に記載される積層部材の加工体が備える第1のシートの切断体を備えるガスバリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層部材の加工方法、積層部材の加工体およびガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ、タッチパネル、携帯電話などの画像表示デバイスの表示側の保護部材として用いられる透明基板は、従来、ガラス製であったが、湾曲面を有する形状を容易に形成可能など形状加工性に優れ、軽量化の観点からも好ましいことから、透明基板としてプラスチックフィルムの採用が検討されてきている。
【0003】
プラスチックフィルムからなる透明基板は、上記のような有利な点を有するが、ガラス基板に比べて、水分などのガス透過率が高くなりやすい。このため、プラスチックフィルムを備える透明基板のガス透過率を低下させることが求められている。
【0004】
プラスチックフィルムを備える透明基板のガス透過率を低下させるための一手段として、無機化合物からなる層をガスバリア層として基材フィルム上に形成して、透明基板をガスバリアフィルムからなるものとすることが挙げられる。本明細書において、透明基板のガス透過率を低下させることに寄与するガスバリア層の特性をガスバリア性という。ガスバリア性が高いガスバリア層を用いることにより、透明基板のガス透過率をより低下させることが可能となる。
【0005】
透明基板を上記のガスバリアフィルムとすることにより、透明基板のガス透過率を低下させることが可能であることは確認されたが、次のような課題の存在も明らかになった。すなわち、一般的には、ガスバリア層を構成する無機化合物層は硬質であり、しかもその厚さは1μm以下程度である。したがって、ガスバリアフィルムを所定の形状に加工する際に、上記のガスバリア層にクラックが入りやすい。クラックが入ったガスバリア層のガスバリア性は著しく低下し、ガスバリア層を備えていながらガスバリアフィルムのガス透過性を低下させることが困難となってしまう。このため、ガスバリア層を備えるガスバリアフィルムを加工する際にクラックが入りにくいようにすること、すなわち、ガスバリアフィルムの加工性を向上させることが求められている。
【0006】
このガスバリアフィルムの加工性を向上させるという課題を解決するために提案された手段として、特許文献1には、樹脂基材上に形成したガスバリア層に離型性を有する樹脂材料をラミネートすることにより、接触するロールによる擦り傷の発生や異物付着を防止する方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、高いバリア性能を達成できるガスバリアフィルムをロール状の形態で生産し得るために、粘着力が0.05〜0.15N/25mmである粘着性層を有する粘着性保護フィルムの粘着性層面と、片面に平滑層を有するフィルムの平滑層面とが接して配置されている複合フィルムから、粘着性保護フィルムを剥離後、平滑層面にガスバリア層を積層することが開示されている。
【0008】
特許文献3には、連続して供給されるガスバリアフィルムを傷つけずにガスバリアフィルムと電子素子を貼り合わせる方法として、ガスバリアフィルム、接着剤層および支持フィルムがこの順に積層している複合フィルムのガスバリアフィルム面側から刃を入れて該フィルム複合体の前記支持フィルムの膜厚方向の途中までを部分スリット加工する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2007/138837号
【特許文献2】国際公開2010/024149号
【特許文献3】特許第5247641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガスバリア層として用いられる無機化合物層は、ガスバリアフィルムの製造コストを低減させる観点からその厚さが少なくなる傾向があり、そのように薄層化されても適切なガスバリア性を確保できるように、ガスバリア層は近年硬質化が進んでいる。このため、ガスバリア層を備えるガスバリアフィルムを機械的に切断する加工、具体的には、裁断加工や抜き加工が例示される、を実施する際に、ガスバリア層にクラックが入りやすくなっている。それゆえ、上記のガスバリアフィルムの加工性を高めることへの要求が特に高まっている。
【0011】
本発明は、ガスバリア層を備えるガスバリアフィルムを与えうる積層部材であって、ガスバリア層にクラックが入りにくい積層部材の加工方法を提供することを目的とする。また、ガスバリア層を備えるガスバリアフィルムを与えうる積層部材に対して機械的切断加工が施されてなる積層部材の加工体、およびその積層部材の加工体から得られるガスバリアフィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)第1のシートと、第1のシートの一方の面上に配置される第2のシートとを備える積層部材の加工方法であって、前記第1のシートは、基材と前記基材の少なくとも一方の面に積層されたガスバリア層とを備え、前記ガスバリア層は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が10GPa以上であり、前記第2のシートの前記第1のシートに対向する面と反対側の面は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が0.05GPa以上であり、前記積層部材を、前記第2のシート側の面から機械的切断加工を行って、前記第1のシートの切断体および前記第2のシートの切断体を備える前記積層部材の加工体を得る切断工程を備えることを特徴とする、積層部材の加工方法。
【0013】
(2)前記機械的切断加工は、裁断加工および抜き加工の少なくとも一方を含む、上記(1)に記載の加工方法。
【0014】
(3)前記積層部材の加工体から前記第2のシートの切断体を除去することを含んで、前記第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得る除去工程を備える、上記(1)または(2)に記載の加工方法。
【0015】
(4)前記第2のシートは、前記第1のシートの前記ガスバリア層側の面上に配置される、上記(1)から(3)のいずれかに記載の加工方法。
【0016】
(5)前記第2のシートは、支持フィルムと、前記支持フィルムの一方の面上に積層された粘着剤層とを備え、前記粘着剤層側の面が前記第1のシートに対向するように前記第2のシートは配置されている、上記(1)から(4)のいずれかに記載の加工方法。
【0017】
(6)前記第1のシートの第2のシートに対向する面と反対側の面は、算術平均粗さ(Ra)が10nm以上、粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)が150nm以上である、上記(1)から(5)のいずれかに記載の加工方法。
【0018】
(7)前記第2のシートの前記粘着剤層の面は前記第1積層体の前記ガスバリア層の面に貼付され、前記第2のシートの前記第1のシートに対する粘着力が1500mN/25mm以下である、上記(5)に記載の加工方法。
【0019】
(8)前記第2のシートの厚さは、第1のシートの厚さよりも厚いことを特徴とする、上記(1)から(7)のいずれかに記載の加工方法。
【0020】
(9)前記第1のシートの前記ガスバリア層は、算術平均粗さ(Ra)が10nm以上50nm以下、かつ粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)が150nm以上1000nm以下である、上記(1)から(8)のいずれかに記載の加工方法。
【0021】
(10)第1のシートと、第1のシートの一方の面上に配置される第2のシートを備える積層部材を、前記第2のシート側の面から機械的切断加工を行って得られた、前記第1のシートの切断体および前記第2のシートの切断体を備える積層部材の加工体であって、前記第1のシートは、基材と前記基材の少なくとも一方の面に積層されたガスバリア層とを備え、前記ガスバリア層は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が10GPa以上であり、前記第2のシートの前記第1のシートに対向する面と反対側の面は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が0.05GPa以上であることを特徴とする積層部材の加工体。
【0022】
(11)上記(10)に記載される積層部材の加工体備える第1のシートの切断体を備えるガスバリアフィルム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ガスバリア層にクラックが入りにくい積層部材の加工方法が提供される。また、ガスバリア層を備えるガスバリアフィルムを与えうる積層部材に対して機械的切断加工が施されてなる積層部材の加工体が提供される、さらに、その積層部材の加工体から得られるガスバリアフィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る積層部材の概略断面図である。
図2】直線状の切断刃により積層部材を押切することにより、第1のシートの切断体および前記第2のシートの切断体を備える積層部材の加工体が形成された状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.積層部材
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る積層部材100は、第1のシート10と第2のシート20とを備え、第2のシート20が備える粘着剤層22側の面が第1のシート10が備えるガスバリア層12の面に貼付されている。
【0026】
(1)第1のシート
第1のシート10は、基材11と基材11の少なくとも一方の面に積層されたガスバリア層12とを備える。
【0027】
(1−1)基材
本実施形態に係る第1のシート10が備える基材11は、積層部材100が第1のシート10のガスバリア層12が後述する硬度に関する規定を満たすことができる限り、具体的な特徴は特に限定されない。
【0028】
一実施形態に係る基材11は透明プラスチックフィルムからなる。この透明プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ABS樹脂、アイオノマー樹脂などの樹脂からなるフィルム、またはそれらの積層フィルム等が挙げられる。それらの中でも、強度の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレートなどからなるフィルムまたはこれらの積層フィルムが挙げられる。これらの中で、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。本明細書において、(メタ)アクリル酸共重合体とは、アクリル酸共重合体およびメタクリル酸共重合体の両方を意味する。エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの類似用語も同様である。
【0029】
基材11がプラスチックフィルムを備える場合において、そのフィルムは、延伸フィルムであってもよいし、無延伸フィルムであってもよい。
【0030】
本実施形態に係る第1のシート10が備える基材11の厚さは特に制限はなく、第1のシート10の使用目的に応じて適宜選定され、通常は1〜500μmである。取り扱い性を高めたり軽量化を実現したりする観点から、基材11の厚さは300μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。基材11の厚さの下限は限定されない。取り扱い性を高めるなどの観点から、基材11の厚さは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0031】
本実施形態に係る第1のシート10が備える基材11は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの耐候剤を含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態に係る第1のシート10が備える基材11は、その面の少なくとも一方に、その(それらの)面に積層される要素(ガスバリア層12、プライマー層などが例示される。)に対する密着性を高める目的で、表面処理が施されていてもよい。上記の表面処理としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、サンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。また、基材11には、ガスバリア層12との密着性を向上させる目的で、基材11とガスバリア層12との間に位置するように、基材11の面上にプライマー層が設けられていてもよい。
【0033】
(1−2)ガスバリア層
ガスバリア層12は、第1のシート10のガス透過性を低下させることに寄与できる限り、その組成や厚さは限定されない。前述のように、通常、ガスバリア層12は、無機化合物層を備える。
【0034】
無機化合物層の材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等の無機酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物、酸化窒化ケイ素等の無機酸化窒化物等、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、スズ等の金属などが挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
また、無機化合物層は、ポリシラザン化合物を含有する膜を公知の改質方法によりシリカ質膜に転化させたものであってもよい。改質処理としては、プラズマイオン注入、プラズマ処理、熱処理、紫外線照射処理等が挙げられる。プラズマイオン注入にて注入されるイオンとしては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス、フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン;金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウム等の金属のイオンなどが挙げられる。
【0036】
ガスバリア層12の厚さは、1nm〜10μmであることが好ましく、10〜1000nmであることがより好ましく、20〜500nmであることが特に好ましく、50〜200nmであることがさらに好ましい。
【0037】
ガスバリア層12は、単層であってもよく、複数層であってもよいが、より高いガスバリア性が得られるという観点から、ガスバリア層12は複数層であることが好ましい。
【0038】
ガスバリア層12を形成する方法は、使用する材料に応じて適宜選択すればよい。例えば、上記ガスバリア層の材料を、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等により基材11上に形成する方法、あるいはポリシラザン化合物を有機溶剤に溶解した溶液を基材11に塗布してポリシラザン化合物を含有する膜を形成し、さらに上記のような改質処理を行ってシリカ質膜に転化する方法などが挙げられる。基材11とガスバリア層12との間に接着剤層など基材11とガスバリア層12との密着性を高める層が介在していてもよい。
【0039】
(1−3)表面硬度
第1のシート10は、上記のように、基材11の少なくとも一方の面に、ガスバリア層12が積層された積層構造を有し、ガスバリア層12のナノインデンターを用いて測定される表面硬度が10GPa以上である。上記の表面硬度が10GPa未満の場合には、従来の加工方法でもガスバリア層12にクラックが発生し難いが、上記の表面硬度が10GPa以上のものでは、従来の加工方法では、ガスバリア層へのクラック発生を抑制することが困難である。しかしながら、本実施形態に係る積層部材100を用いれば、一般的な機械的切断加工が施されても、ガスバリア層12にクラックが生じる可能性を低減させることが可能である。上記のガスバリア層12の表面硬度は、好ましくは、10〜100GPa、より好ましくは、20〜50GPaである。
【0040】
ここで、ナノインデンターは、ダイヤモンドチップからなる三角錐の圧子を材料表面に押し込み、その時の圧子にかかる荷重と圧子の下の射影面積から硬度(押込み試験による硬度)を求める測定器である。通常の硬度計(ビッカース硬度計など)に比べて、押し込み荷重が少ないため、ガスバリア層12のような、硬質かつ薄層であるため比較的脆い層の表面の硬度を適切に測定することができる。
【0041】
(1−4)ガス透過性
第1のシート10はガス透過性が低いことが好ましく、具体的に、水蒸気透過率として、40℃、90%RHにおいて、0.5g/(m・day)以下であることが好ましく、0.1g/(m・day)以下であることがより好ましく、0.05g/(m・day)以下であることが特に好ましい。
【0042】
(1−5)第1のシートの積層構造
第1のシート10の積層構造は限定されない。例えば、図1に示されるように、基材11の一方の面にガスバリア層12を備えていてもよく、ガスバリア層12が複数積層した構造を有していてもよい。また、基材11の両面にガスバリア層12を備えていてもよい。
【0043】
(1−6)厚さ
本実施形態に係る第1のシート10の厚さは、第1のシート10の切断体がガスバリアフィルムとなることを考慮して適宜設定される。限定されない例として、本実施形態に係る第1のシート10の厚さは、20μmから300μm程度の範囲内であり、30μm以上250μm以下であることが好ましい場合もあり、40μm以上230μm以下であることが好ましい場合もある。
【0044】
(1−7)全光線透過率
本実施形態に係る第1のシート10は、JIS K7361−1に準拠して厚さ方向に測定された全光線透過率(以下、「全光線透過率」と略記する。)が85%以上であることが好ましい。この全光線透過率が85%以上であることにより、画像表示デバイスの表示側の保護部材として用いられる透明基板として好ましく使用することが可能となる。上記の保護部材への適用性を高める観点から、全光線透過率は90%以上であることが好ましい。なお、この全光線透過率を測定する際の第1のシート10の厚さは特定されない。
【0045】
(1−8)表面粗さ
本実施形態に係る第1のシート10の第2のシート20に対向する面と反対側の面は、JIS B0601:2001(ISO 4287:1997)に規定される、算術平均粗さ(Ra)が10nm以上50nm以下、かつ粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)が150nm以上1000nm以下となるようにすることが好ましい。
【0046】
RaおよびRtが上記範囲であれば、本発明の一実施形態に係る積層部材100をロール・ツー・ロール方式により機械的切断加工する場合、巻き取り時に、フィルム表面とその上に接するフィルムの裏面が貼り付いてしまう現象(いわゆるブロッキング)や、しわが生じる現象(いわゆるエア噛み)等が発生しにくくなり、巻取適性に優れる第1のシート10や積層部材100が得られやすい。
【0047】
また、本実施形態に係る第1のシート10における第2のシート20に対向する面、すなわち、ガスバリア層12の面についても、JIS B0601:2001(ISO 4287:1997)に規定される、算術平均粗さ(Ra)が10nm以上50nm以下、かつ粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)が150nm以上1000nm以下であることが好ましい。上記のブロッキングやエア噛みが生じにくくなって巻取適性に優れる第1のシート10となるうえに、第1のシート10を巻き取る際にガスバリア層12にクラックが生じにくくなる。このガスバリア層12の巻取時のクラックが発生する可能性をより安定的に低減させる観点から、本実施形態に係る第1のシート10のガスバリア層12の面の算術平均粗さ(Ra)は、40nm以下であることが好ましく、粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)は900nm以下であることが好ましい。
【0048】
(2)第2のシート
本発明の一実施形態に係る積層部材100が備える第2のシート20は、積層部材100に対して機械的切断加工を行う際に保護フィルムとして機能するものであって、支持フィルム21と支持フィルム21の一方の面に積層された粘着剤層22とを備え、その一方の面が粘着剤層22の面からなる。本実施形態では、この粘着剤層22の面が第1のシート10の一方の面に接するように、第2のシート20は第1のシート10に積層されている。このとき、第2のシート20の粘着剤層22の面は、第1のシート10のガスバリア層12の面に接していることが好ましい。本発明の一実施形態に係る積層部材が備える第2のシートはこのような積層構造を有していなくてもよい。すなわち、第2のシートは支持フィルムのみから構成されていてもよい。
【0049】
(2−1)表面硬度
本発明の一実施形態に係る積層部材が備える第2のシートにおける第1のシートに対向する面と反対側の面は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が0.05GPa以上である。具体的には、第2のシート20は、支持フィルム21側の面について、表面硬度が0.05GPa以上である。
【0050】
本発明の一実施形態に係る積層部材100に対して機械的切断加工を行う場合には、第2のシート20を介して第1のシート10に、たとえば、加工用の切断刃を入刃することになる。すなわち、第2のシートにおける第1のシートに対向する面と反対側の面は、機械的切断加工が行われる際に、切断刃が最初に接触する面となる。第2のシート20には、入刃の衝撃を適切に緩和し、機械的切断加工においてガスバリア層12にクラックが発生することを抑制する能力が求められる。第2のシート20が入刃の衝撃を緩和する能力の程度を表す指標として、本発明では、ナノインデンターによって第2のシートの表面硬度を測定することとしている。ナノインデンターを用いることにより、第2のシートに切断刃が入り始めたときの第2のシートの緩和する能力を適切に評価することができる。
【0051】
この表面硬度に関する規定を満たすことにより、第2のシート20に対して機械的切断加工が施されたときに、積層部材100の加工性を高めることが容易になる。具体的には、第2のシート20の過度に変形が抑制され、機械的切断加工におけるガスバリア層12のクラック発生を適切に防止することが可能となる。積層部材100の加工性をより安定的に高める観点から、第2のシート20は、少なくとも一方の面について、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が、0.15GPa以上であることが好ましく、0.2GPa以上であることがより好ましく、0.25GPa以上であることが特に好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態に係る積層部材が備える第2のシートにおける第1のシートに対向する面と反対側の面は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が0.5GPa以下であることが好ましい。具体的には、第2のシート20は、支持フィルム21側の面について、表面硬度が0.5GPa以下であることが好ましい。この表面硬度に関する規定を満たすことにより、第2のシート20に対して機械的切断加工が施されたときに、積層部材100としての加工性を高めることが容易になる。積層部材100の加工性をより安定的に高める観点から、第2のシート20における第1のシートに対向する面と反対側の面は、ナノインデンターを用いて測定される表面硬度が、0.45GPa以下であることが好ましく、0.4GPa以下であることがより好ましい。
【0053】
(2−2)支持フィルム
支持フィルム21の具体的な組成や構造は、上記の表面硬度に関する規定を満たすことができる限り、限定されない。支持フィルム21は、前述の基材11と同様の材料から構成されていてもよい。支持フィルム21がプラスチックフィルムを備える場合において、そのプラスチックフィルムの具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン(PS)、トリアセチルセルロース(TAC)、フッ素樹脂、ポリ乳酸等の合成樹脂フィルムなどを挙げることができる。支持フィルム21は、単層構造であってもよいし、積層構造を有していてもよい。
【0054】
支持フィルム21の厚さは、後述する表面硬度に関する規定を満たすことができる限り、限定されない。一例として、10μmから500μmの範囲が挙げられる。支持フィルム21の厚さは25μm以上200μm以下であることが好ましい場合もある。
【0055】
(2−3)粘着剤層
粘着剤層22を構成する粘着性組成物の組成は特に限定されない。主成分である粘着剤としてゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系等の粘着剤が例示され、これらの1種類を使用してもよいし、2種類以上を使用してもよい。また、粘着剤層22は積層構造を有していてもよい。
【0056】
上記のうちアクリル系の粘着剤についてやや詳しく説明する。アクリル系の粘着剤は、アクリル系共重合体を主成分とする。粘着性組成物は必要に応じて、架橋剤、粘着付与剤、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤等をさらに含んでいてもよい。
【0057】
アクリル系共重合体は、官能基含有モノマーに由来する構成単位を備えていてもよい。かかる官能基含有モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーやアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有モノマーが挙げられる。官能基含有モノマーは、アクリル系共重合体を構成するモノマー全体を基準(100質量%)として、モノマー単位として0.3〜5.0質量%含むことが好ましい。アクリル系共重合体は、官能基を含有することにより、架橋剤との反応で凝集力を調整することができ、粘着力および耐熱性を向上させることができる。
【0058】
粘着性組成物に使用される架橋剤としては、特に制限はなく、アクリル系の材料を主成分とする粘着性組成物において慣用されているものの中から適宜選択して用いられ、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、アジリジン系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などが用いられ、好ましくはポリイソシアネート化合物が用いられる。
【0059】
後述するように、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得る除去工程において、第2のシート20は第1のシート10から剥離されるため、粘着剤層22は再剥離性を有していることが好ましい。この再剥離性は、第2のシート20の粘着剤層22の面の第1のシート10に対する貼付段階での粘着性が比較的低いことによって実現されてもよいし、粘着剤層22に例えば反応性物質を含有させて、第2のシート20の粘着剤層22の面の第1のシート10に対する粘着性を低減可能な状態としていてもよい。
【0060】
粘着剤層22の厚さは特に限定されない。用途に応じて適宜設定されるべきものであり、通常、0.5μm以上100μm以下程度とされ、2μm以上70μm以下程度とすることが好ましい場合があり、10μm以上50μm以下程度とすることがより好ましい場合がある。
【0061】
第2のシート20は、常法によって製造することができ、例えば、粘着剤層22を構成する粘着剤と、所望によりさらに溶媒とを含有する塗布剤を調製し、コンマロールコーター、グラビアコーター、チャンバーグラビアコーター、キスロールコーター、リバースロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、ダイコーター等の塗工機によって支持フィルム21の片面に塗布するか、別に用意した剥離シートの剥離処理面に塗布し、形成した粘着剤層22と支持フィルム21とを貼り合わせてもよい。
【0062】
第2のシート20の粘着剤層22には、粘着剤層22を保護するために剥離フィルムを積層してもよい。剥離フィルムとしては、特に限定されることなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、ポリスチレン、トリアセチルセルロース(TAC)、フッ素樹脂、ポリ乳酸等の合成樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを使用することができる。剥離フィルムの厚さは、通常10〜250μm程度であり、好ましくは20〜200μm程度である。
【0063】
(2−4)粘着力
第2のシート20のように、本発明の一実施形態に係る積層部材の第2のシートが粘着剤層を備える場合には、第2のシート20の粘着剤層22の面は第1積層体10のガスバリア層12の面に貼付されることが好ましく、この状態において、第2のシート20の第1のシート10に対する粘着力が1500mN/25mm以下であることが好ましい。なお、本明細書における第2のシートの第1のシートに対する粘着力とは、後述する試験例における測定方法による値で示すものとする。
【0064】
第2のシート20の第1のシート10に対する粘着力が1500mN/25mm以下であることにより、積層部材100に対して機械的切断加工を施したのち、第1のシート10の切断体から第2のシート20の切断体を剥離する際に、粘着剤層を構成する材料が凝集破壊を起こしてその材料がガスバリア層12に転移する問題や、剥離する際にガスバリア層12に付与される応力によりガスバリア層12にクラックが発生する問題が生じる可能性を安定的に低減させることができる。これらの問題が生じる可能性をより安定的に低減させる観点から、第2のシート20の第1のシート10に対する粘着力は、1490mN/25mm以下であることが好ましく、1450mN/25mm以下であることがより好ましい。
【0065】
第2のシート20の第1のシート10に対する粘着力は、積層部材100に対して機械的切断加工を施す際に、粘着剤層22がガスバリア層12を適切に保持できるように、10mN/25mm以上であることが好ましく、50mN/25mm以上であることがより好ましく、100mN/25mm以上であることが特に好ましい。粘着力が10mN/25mm未満の場合は、積層部材100に対して機械的切断加工を施す際に、粘着剤層22とガスバリア層12との間の密着性が低下し、衝撃を適切に緩和することが困難となり、ガスバリア層12にクラックが発生するおそれがある。
【0066】
第2のシート20の厚さは、第1のシート10の厚さよりも厚いことが好ましい。これにより、積層部材100に対して機械的切断加工を施す際に、加工の際の衝撃が、第2のシート20により緩和され、ガスバリア層12においてクラックが発生する可能性を低減させることができる。
【0067】
2.積層部材の加工方法
上記の積層部材100の加工方法は、積層部材100を、第2のシート20側の面から機械的切断加工を行って、第1のシート10の切断体および前記第2のシート20の切断体を備える積層部材100の加工体を得る切断工程を備える。
【0068】
機械的切断加工の具体的な方法は限定されない。直線状または曲線状の刃を用いた押切であってもよいし、回転刃を回転させながら切断してもよい。また、裁断加工であってもよいし、抜き加工であってもよい。また、ロール・ツー・ロール方式により、積層部材100を一定方向に搬送しながら、機械的切断加工を行ってもよい。図5は、直線状の切断刃3により積層部材100を押切することにより、第1のシート10の切断体および前記第2のシート20の切断体を備える積層部材100の加工体が形成された状態を示す概略断面図である。
【0069】
このような、一般的な機械的切断加工を含む切断工程であっても、本実施形態に係る積層部材100は、加工面側に第2のシート20が位置するため、加工の際の入刃の衝撃が、第2のシート20により緩和され、ガスバリア層12においてクラックが発生する可能性を低減させることができる。
【0070】
こうして、積層部材100の切断体を得たら、この積層部材100の加工体から第2のシート20の切断体を除去することを含んで、第1のシート10の切断体からなるガスバリアフィルムを得る除去工程を実施してもよい。除去工程における第2のシート20の切断体の除去方法は任意である。粘着剤層22の性質によっては、この除去を容易にすることを目的とする作業、例えば、エネルギー線照射などが、除去前に追加的に含まれていてもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係るガスバリアフィルムは、積層部材100の加工体が備える第1のシートの切断体を備える。
【0071】
以上の加工方法によれば、切断工程を経て得られた積層部材100の切断体において、ガスバリア層12にクラックが生じにくいため、除去工程を経て得られたガスバリアフィルムにもクラックが生じにくい。
【0072】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0073】
例えば、積層部材100は、第1のシート10の第2のシート20に対向する側と反対側の面に、別の層(本明細書において「付加層」ともいう。)が積層されていてもよい。
【0074】
付加層として、第2のシート20と同様に、支持フィルムからなる層や、支持フィルムと粘着剤層とを備える積層体、ハードコート層等が例示される。第1のシート10の切断体に付加層が貼付されている場合には、切断工程において付加層の切断体は形成されてもよいし、形成されなくてもよい。また、積層部材の加工体は付加層の切断体を含んでいてもよいし、第1のシート10の切断体から付加層を剥離して積層体の加工体を得てもよい。積層部材の加工体は付加層の切断体を含む場合には、除去工程では、付加層における、第1のシート10の切断体に接している部分を、第1のシート10の切断体から除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得ればよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〕
基材として、厚さ25μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、商品名:PET25 T−100、Ra:24nm、Rt:750nm)を用いて、基材の一方の面上に、酸化ケイ素(厚さ150nm)を下記条件で成膜し、ガスバリア層を形成し、第1のシートを得た。なお、得られたガスバリア層の面のRaは40nm以下、Rtは900nm以下であった。
【0077】
<反応性スパッタリングの条件>
・スパッタリングガス:アルゴン、酸素
・ガス流量:アルゴン100sccm、酸素40sccm
・ターゲット材料:シリコン
・電力値:2500W
・真空槽内圧:0.2Pa
【0078】
次いで、第1のシートのガスバリア層の面と、支持フィルムと粘着剤層とを備える第2のシートとして(リンテック社製「PF PET50B」、支持フィルム:厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)の粘着剤層の面とを貼合して、積層部材を得た。なお、第1のシートと第2のシートの厚さの関係は、第2のシート>第1のシートであった。
【0079】
積層部材を、第2のシート側から裁断加工を行って、積層部材の加工体を得た。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0080】
〔実施例2〕
下記条件にて酸窒化ケイ素(厚さ150nm)からなるガスバリア層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、積層部材の加工体を得た。なお、第1のシートと第2のシートとの厚さの関係は、第2のシート>第1のシートであった。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。なお、得られたガスバリア層の面のRaは40nm以下、Rtは900nm以下であった。
<反応性スパッタリングの条件>
・スパッタリングガス:アルゴン、窒素、酸素
・ガス流量:アルゴン100sccm、窒素60sccm、酸素40sccm
・ターゲット材料:シリコン
・電力値:2500W
・真空槽内圧:0.2Pa
【0081】
〔実施例3〕
剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET1031C」)の剥離処理面にアクリル系粘着剤(リンテック社製「LS411E」)を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布、乾燥し、その粘着剤面に、支持フィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績社製「PET100A4300」、厚さ100μm)を貼り合わせ、得られた積層体から剥離フィルムを剥離して第2シートを得たこと以外は、実施例1と同様にして、積層部材の加工体を得た。なお、第1のシートと第2のシートとの厚さの関係は、第2のシート>第1のシートであった。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0082】
〔実施例4〕
剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET1031C」)の剥離処理面にアクリル系粘着剤(リンテック社製「LS411E」)を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布、乾燥し、その粘着剤面に支持フィルムとしてポリカーボネートフィルム(帝人社製「ピュアエースC110−75」、厚さ75μm)を貼り合わせ、得られた積層体から剥離フィルムを剥離して第2のシートを得たこと以外は、実施例1と同様にして、積層部材の加工体を得た。なお、第1のシートと第2のシートとの厚さの関係は、第2のシート>第1のシートであった。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0083】
〔実施例5〕
剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET1031C」)の剥離処理面にアクリル系粘着剤(リンテック社製「LS411E」)を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布、乾燥し、その粘着剤面に支持フィルムとしてポリプロピレンフィルム(王子製紙社製「アルファンPP40」、厚さ40μm)を貼り合わせ、得られた積層体から剥離フィルムを剥離して第2のシートを得たこと以外は、実施例1と同様にして、積層部材の加工体を得た。なお、第1のシートと第2のシートとの厚さの関係は、第2のシート>第1のシートであった。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0084】
〔実施例6〕
支持フィルムと粘着剤層とを備える第2のシートとしてサンエー化研社製「サニテクトPAC−3−70」(厚さ70μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、積層部材の加工体を得た。なお、第1のシートと第2のシートとの厚さの関係は、第2のシート>第1のシートであった。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0085】
〔実施例7〕
支持フィルムと粘着剤層とを備える第2のシートとしてリンテック社製「SRL−0753C(AS)」(厚さ75μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層部材の加工体を得た。なお、第1のシートと第2のシートとの厚さの関係は、第2のシート>第1のシートであった。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0086】
〔比較例1〕
第2のシートを第1のシートに貼付せずに裁断加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0087】
〔比較例2〕
剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET1031C」)の剥離処理面にアクリル系粘着剤(リンテック社製「LS411E」)を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布、乾燥し、その粘着剤面に支持フィルムとしてポリエチレンフィルム(住友化学社製「スミカセンL705」からなるフィルム、厚さ110μm)を貼り合わせ、得られた積層体から剥離フィルムを剥離して第2のシートを得たこと以外は、実施例1と同様にして、積層部材の加工体を得た。この積層部材の加工体から第2のシートの切断体を除去して、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。
【0088】
〔参考例〕
下記条件にて炭素含有酸化ケイ素(厚さ250nm)からなるガスバリア層を形成したこと以外は、比較例1と同様にして、第1のシートの切断体からなるガスバリアフィルムを得た。なお、得られたガスバリア層の面のRaは40nm以下、Rtは900nm以下であった。
<反応性スパッタリングの条件>
・スパッタリングガス:へキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム
・ガス流量:へキサメチルジシロキサン1sccm、酸素ガス10sccm、ヘリウム10sccm
・電力値:2500W
・真空槽内圧:0.2Pa
【0089】
〔試験例1〕<表面硬度の測定>
実施例および比較例により製造したガスバリアフィルム、およびそれらのガスバリアフィルムを製造する際に使用した第2のシートの、第1のシートに対向する面と反対側の面について、ナノインデンター(MTS社製「Nano Indenter SA2」)を用いて、23℃における表面硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
〔試験例2〕<第2のシートの第1のシートに対する粘着力>
実施例および比較例により製造したガスバリアフィルムを製造する際に使用した第2のシートを25mm×250mmのサイズに切り出した。実施例および比較例により製造したガスバリアフィルムを製造する際に使用した第1のシートのガスバリア層の面に、上記第2のシートの粘着剤層の面を貼付した。その後、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置したのち、同環境下で、引張試験機(オリエンテック社製「テンシロン」)を用いて、JIS Z0237に準じて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件での剥離試験を実施した。剥離試験において剥離に要した最大の力を粘着力(mN/25mm)とした。結果を表1に示す。
【0091】
〔試験例3〕<加工適正評価>
連続自動切断機(荻野精機製作所社製「PN1−600」)を用いて、実施例および比較例において製造した積層部材(比較例1のみ第1のシート)を直線状に裁断して、積層部材(比較例1のみ第1のシート)の切断体を得た。得られた切断体の裁断した端部における任意に抜き出した200μm×200μmの領域を観察対象とし、コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック社製「HD100D」、対物レンズ:20倍)を用いて、ガスバリア層の端部や膜面のクラックや傷の有無を観察し、下記の基準に従って加工適正を評価した。
A:1μm以上の異物や傷が見られなく、かつ1μm以下の異物や傷もほぼ見られなかった(1μm以下の異物:2個未満)。
B:1μm以上の異物や傷が見られなかったが、1μm以下の異物や傷がわずかに見られた(1μm以下の異物:2〜10個)。
C:1μm以上の異物や傷が見られなかったが、1μm以下の異物や傷が多数確認された(1μm以下の異物:11個以上)。
D:1μm以上の異物や傷が確認され、かつ1μm以下の異物や傷が多数確認された。
上記基準に従って評価した結果、「A」、「B」および「C」のいずれかであった場合には、適切なガスバリア性を有するガスバリア層であると判断することができる。
【0092】
【表1】
【0093】
表1から分かるように、本発明の条件を満たす実施例の積層部材を用いて、第2のシート側の面から切断することにより、切断面近傍にクラックが認められないガスバリアフィルムを製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る積層部材は、画像表示デバイスの表示側の透明保護部材として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0095】
100…積層部材
10…第1のシート
11…基材
12…ガスバリア層
20…第2のシート
21…支持フィルム
22…粘着剤層
3…切断刃
図1
図2