特許第6559665号(P6559665)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6559665骨誘導性リン酸カルシウムを製造する方法及びそうして得られる製品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559665
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】骨誘導性リン酸カルシウムを製造する方法及びそうして得られる製品
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20190805BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20190805BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20190805BHJP
   A61K 6/033 20060101ALI20190805BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20190805BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   A61L27/12
   A61L27/50
   A61C8/00 Z
   A61K6/033
   C01B25/32 W
   A61F2/28
【請求項の数】22
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-527969(P2016-527969)
(86)(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公表番号】特表2016-536067(P2016-536067A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】NL2014050491
(87)【国際公開番号】WO2015009154
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】2011195
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】516017271
【氏名又は名称】クロス・バイオサイエンシズ・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フローレンス・デ・フロート−バレール
(72)【発明者】
【氏名】フィンセント・ファン・ミーヘム
(72)【発明者】
【氏名】フイピン・ユアン
(72)【発明者】
【氏名】ヨースト・デ・ブルーイン
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−202853(JP,A)
【文献】 特開昭62−227094(JP,A)
【文献】 特開2004−315299(JP,A)
【文献】 特開昭63−111875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/12
A61C 8/00
A61F 2/28
A61K 6/033
A61L 27/50
C01B 25/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨誘導性リン酸カルシウム材料を製造する方法であって、
β−リン酸三カルシウム及びヒドロキシアパタイトからなる焼結型二相性リン酸カルシウム(BCP)出発材料を用意する工程であって、BCPが4〜20重量%のヒドロキシアパタイトを含み、焼結型BCP出発材料が、リン酸カルシウム粒体からなる表面トポグラフィーを有する工程と、
焼結型二相性リン酸カルシウム出発材料に、125℃以上の温度で、出発材料の表面上のリン酸カルシウム粒体をリン酸カルシウム針状体に変化させるのに十分な時間、水熱処理を施す工程と、
を含む方法。
【請求項2】
焼結型リン酸カルシウム出発材料が、0.1〜3.0μmの範囲の平均粒体サイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼結型リン酸カルシウム出発材料が多孔性である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
焼結型リン酸カルシウム出発材料が、50〜1500μmのサイズ範囲のマクロ細孔を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
骨誘導性リン酸カルシウム材料の比表面積が、焼結型リン酸カルシウム出発材料の比表面積より少なくとも10〜50%大きい、より好ましくは80〜100%大きい、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
骨誘導性リン酸カルシウム材料のタンパク質吸着能が、焼結型リン酸カルシウム出発材料のタンパク質吸着能より少なくとも10〜50%高い、より好ましくは80〜100%高い、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
β−リン酸三カルシウムおよびヒドロキシアパタイトの焼型結二相性リン酸カルシウム(BCP)出発材料を用意する工程であって、BCPが420重量%のヒドロキシアパタイトを含み、焼結型BCP出発材料が、リン酸カルシウム粒体からなる表面トポグラフィーを有する工程と、焼結型二相性リン酸カルシウム出発材料に、125℃以上の温度で、出発材料の表面上のリン酸カルシウム粒体をリン酸カルシウム針状体に変化させるのに十分な時間、水熱処理を施す工程とによって調製された、骨誘導性リン酸カルシウム材料。
【請求項8】
針状の表面トポグラフィーを有し、好ましくは直径が10〜1500nmの針状体を有する、請求項7に記載のリン酸カルシウム材料。
【請求項9】
吸収性の二相性リン酸カルシウム(BCP)である、請求項7又は8に記載のリン酸カルシウム材料
【請求項10】
0.9m/gを超えるBET比表面積を有する、請求項7から9のいずれか一項に記載のリン酸カルシウム材料
【請求項11】
アパタイト針状体の密度が0.45個/μm未満である、請求項7から10のいずれか一項に記載のリン酸カルシウム材料
【請求項12】
医療用インプラント材料又は組織スキャフォールドとして使用される、請求項7から11のいずれか一項に記載のリン酸カルシウム材料
【請求項13】
独の、又は増殖因子若しくは/及び細胞と組み合わせた、医療用インプラント又はデバイスの製造するための、
請求項7から11のいずれか一項に記載のリン酸カルシウム材料の使用。
【請求項14】
ヒドロキシアパタイト針状体を含む外層、及び外層と接触している内層を含む骨誘導性リン酸カルシウム材料であって、内層が、β−リン酸三カルシウムとヒドロキシアパタイトとからなる焼結型二相性リン酸カルシウムを含み、二相性リン酸カルシウムが、420重量%のヒドロキシアパタイトを含み、外層が、125℃以上の温度で水熱処理した後における、内層のBCPからのヒドロキシアパタイトの析出物である、材料。
【請求項15】
ヒドロキシアパタイト針状体が、10〜1500nmの間の平均直径を有する、請求項14に記載の材料。
【請求項16】
外層上のヒドロキシアパタイト針状体の密度が0.45個/μm未満である、請求項14又は15に記載の材料。
【請求項17】
外層の厚さが1〜1000μmの間である、請求項14から16のいずれか一項に記載の材料。
【請求項18】
0.9m/gを超えるBET比表面積を有する、請求項7から10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項19】
請求項7から11のいずれか一項に記載の材料を含む移植可能な物体。
【請求項20】
生体内で骨組織の形成を誘導するための使用のための、請求項14に記載の骨誘導性リン酸カルシウム材料。
【請求項21】
歯科、整形外科または筋骨格外科手術における使用のための、請求項14に記載の骨誘導性リン酸カルシウム材料。
【請求項22】
20重量%のヒドロキシアパタイトを含み、
リン酸カルシウム粒体から、125℃以上の温度で表面トポグラフィー変化を行うのに十分な時間の水熱処理により得られるリン酸カルシウム針状体への前記表面トポグラフィー変化を伴う、焼結型β−リン酸三カルシウム/ヒドロキシアパタイトBCP。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療で骨補填材として用いられるリン酸カルシウムの表面処理、及びかかる処理により得られる骨誘導性リン酸カルシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
合成骨代用材は、臨床現場で成功裏に用いるためには、生体適合性、骨伝導性、及び生体骨との機械的適合性を有していなければならない。材料の更なる改善は、骨成長の迅速化、更には身体の骨形成能、又は骨誘導を刺激することにより達成される。インプラント材料のこのような特性は、骨形成を誘導するその能力、又は幹細胞が骨形成性骨芽細胞に分化する契機をもたらす機構と関係する。
【0003】
骨誘導は、ヒドロキシアパタイト(HA)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、HAとTCPとの混合物を指す二相性リン酸カルシウム(BCP)、無水リン酸二カルシウム(DCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、炭酸アパタイト、ピロリン酸カルシウム(CPP)、及びHA/炭酸カルシウム(CC)混合物を含むリン酸カルシウムセラミックのサブグループについて主に報告されている。骨誘導性についてこれまでに記載されている材料の徹底した分析にもかかわらず、厳密にどのように骨誘導性材料を設計し製造すべきかについて記述することは、未だに不可能である。はっきりしているのは、骨誘導能は、異所性の(heterotopic)移植により、すなわち骨が自然には増殖しない組織又は臓器内への移植、例えば異所性(ectopic)移植(すなわち、筋肉内移植又は皮下移植)等により確認できるという点である。
【0004】
一般的に、ある種の多孔性リン酸カルシウムは、骨誘導性を示すことが判明している。例えば、Yamasakiらは、Biomaterials、第13巻: 308〜312頁(1992)で、異所性の(heterotopic)骨化(通常は骨化しない組織内での新生骨の形成)が多孔性ヒドロキシアパタイトセラミック顆粒周辺において生ずるが、密集した顆粒周辺では生じないことを記載する。多孔性顆粒のサイズ範囲は200〜600μmであり、連続的で相互に接続したミクロ多孔性を有し、その細孔径の範囲は直径2〜10μmである。
【0005】
米国特許第6,511,510号は、Yamasakiらの多孔性ヒドロキシアパタイト顆粒よりも改善された骨誘導性を示す生体適合性及び生分解性のリン酸カルシウムについて記載している。生分解性リン酸カルシウムは、20〜90%の総空隙率を有し、0.05〜1.5mmのサイズ範囲のマクロ細孔及び0.05〜20μmのサイズ範囲のミクロ細孔の両方を含む。生分解性リン酸カルシウム材料は、成型鋳造により製造され、続いてブロックは、より小さなサイズの粒子に造粒又は細断することができる。この材料は、移植された際に(一時的な)骨の代用材として機能するのに適している。
【0006】
上記のような材料が入手可能であるにもかかわらず、生体組織と連結して用いられるバイオマテリアルが、より良好な骨伝導特性及び骨誘導特性、すなわちより迅速でより顕著な骨形成を引き起こす特性を有する形で得ることができたならば、有利であろう。また、かかる骨誘導性材料が、最も好ましくは、骨性部位及び非骨性部位の両方で新生骨を生成するための、容易に移植可能で、有効なスキャフォールド材料となるように、哺乳動物の体内に容易に導入できたならば、やはり有利であろう。かかる材料は、新規自家骨の生成の目的で非常に有用であり、これは大規模な骨の欠損の修復用に骨代用材としてその後に使用できよう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,511,510号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yamasakiら、Biomaterials、第13巻:308〜312頁(1992)
【非特許文献2】Elliot, J.C.、1994、Structure and Chemistry of the Apatites and other Calcium Orthophosphates, Amsterdam: Elsevier
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc.、1938、60、309頁
【非特許文献4】「An Introduction to the Physical Characterization of Materials by Mercury Intrusion Porosimetry with Emphasis on Reduction and Presentation of Experimental Data」、Paul A. Webb、1〜22頁、Micromeritics Instrument Corporation, Norcross,GA、January 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた骨誘導特性を有するリン酸カルシウム材料を提供する。
【0010】
特に、本発明は、リン酸カルシウム、特に焼結型リン酸カルシウムを処理する方法であって、材料、特にその表面を、未処理の材料と比較してより骨誘導性にする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、骨誘導性リン酸カルシウム材料を製造する方法であって、リン酸カルシウム粒体からなる表面トポグラフィーを有する焼結型二相性リン酸カルシウム(BCP)出発材料を用意する工程と、焼結型二相性リン酸カルシウム出発材料に、125℃以上の温度で、出発材料表面上のリン酸カルシウム粒体をリン酸カルシウム針状体に変化させるのに十分な時間、水熱処理を施す工程とを含む方法を提供する。
【0012】
本発明の方法の好ましい実施形態では、水熱処理前のBCP出発材料は、4〜20%の量のアパタイトを含む。より好ましくは、アパタイトはヒドロキシアパタイトである。
【0013】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、水熱処理前のリン酸カルシウム出発材料は、0.1〜3.0μm、より好ましくは0.2〜2.5μmの範囲の平均粒体サイズを有し、より好ましくは、メジアン粒体サイズが約0.5〜2.2μm、0.75〜1.5μmである。
【0014】
多孔性である点が、処理前後の材料の好ましい特性である。
【0015】
マクロ多孔性(0.1〜1.5mmのサイズ範囲の細孔)を示す点が、処理前後の材料の別の好ましい特性である。
【0016】
水熱処理は、出発材料表面上にあるリン酸カルシウム粒体をリン酸カルシウム針状体に変化させる。粒体様のトポグラフィーから針状のトポグラフィーへの表面トポグラフィーの変化は比表面積及び総細孔面積の増加を伴い、この結果、表面のタンパク質吸着能が、本明細書に記載する水熱処理によって著しく増加する。
【0017】
本発明の方法の好ましい実施形態では、リン酸カルシウム出発材料の総細孔面積は、未処理の対照材料と比較して、水熱処理後に少なくとも10〜65%増加する。総細孔面積は、水銀圧入法により測定可能であり、m2/gで表すことができる。
【0018】
本発明の方法の更に別の好ましい実施形態では、リン酸カルシウム出発材料の総細孔面積は、未処理対照材料と比較して、水熱処理後に少なくとも100%増加する。
【0019】
本発明の方法の更に別の好ましい実施形態では、リン酸カルシウム出発材料のタンパク質吸着能は、未処理対照材料と比較して、水熱処理後に少なくとも10〜50%増加する。タンパク質吸着能は、37℃でインキュベーションした後、吸着された血清タンパク質又はアルブミンの量を決定し、所定量のリン酸カルシウム材料と共に所定時間インキュベーションした後、溶液中に残留するタンパク質の量を測定することにより決定可能である。タンパク質は、例えばビシンコニン酸(BCA)アッセイ法を用いて、分光光度法により測定可能である。
【0020】
本発明の方法の更に別の好ましい実施形態では、リン酸カルシウム出発材料のタンパク質吸着能は、未処理対照材料と比較して、水熱処理後に少なくとも50%増加する。
【0021】
本発明は、別の態様では、上記のような本発明に基づく方法により入手可能な骨誘導性リン酸カルシウム材料を提供する。かかる骨誘導性リン酸カルシウムは、同等の未処理出発材料より少なくとも40%高いタンパク質吸着能を有することが好ましい。このタンパク質吸着能の増加は、本処理に起因する比表面積の増加と関連すると考えられている。実際、本処理は、リン酸カルシウム材料の比表面積を倍増させ得る。
【0022】
針状の表面トポグラフィーを有する本発明の骨誘導性リン酸カルシウム材料は、例えば上記の方法により得ることができるが、同材料は、類似した組成を有するが粒体様の表面トポグラフィーを含む参照材料よりも大きな比表面積並びに総細孔面積を有する。特に、本発明の改善された骨誘導性材料は、好ましくは少なくとも1.8m2/gの総細孔面積を有する。より好ましくは、本発明の改善された骨誘導性材料は、水銀圧入法に基づく測定によれば、少なくとも1.85m2/g、より好ましくは少なくとも1.9m2/g、なおいっそうより好ましくは少なくとも2.0m2/g、より好ましくは2.5、2.8、3.0、3.5、4.0、又は4.5m2/gを超える総細孔面積を有する。特に、本発明の改善された骨誘導性材料は、少なくとも0.7m2/gの比表面積を有することが好ましい。より好ましくは、本発明の改善された骨誘導性材料は、BETに基づく測定によれば、0.9m2/gを超える、より好ましくは1.0、1.5、2.0、2.5、又は3.0m2/gを超える比表面積を有する。
【0023】
針状の表面トポグラフィーを有する本発明の骨誘導性リン酸カルシウム材料は、上記の方法により得ることができるが、同材料は類似した組成を有するが粒体様の表面トポグラフィーを含む参照材料より大きなタンパク質吸着能を有する。特に、本発明の改善された骨誘導性材料は、好ましくは材料(1%のFBS、2mlから)、1cc当たり少なくとも血清タンパク質、1.0〜3.0mg、又は材料(400μg/mlのBSA、2mlから)、1cc当たり少なくともBSA、1000〜3500μgのタンパク質吸着能を有する。
【0024】
本発明の方法により得ることができる骨誘導性リン酸カルシウム材料は、リン酸カルシウム出発材料より多量又は少量、好ましくは多量のヒドロキシアパタイトを有し得る。10%の量のヒドロキシアパタイトを含む二相性リン酸カルシウム出発材料は、水熱処理後に、30%のヒドロキシアパタイトより多くの量を示し得る。
【0025】
本発明の方法により取得された骨誘導性リン酸カルシウム材料は、好ましい実施形態では二相性リン酸カルシウム(BCP)セラミックであり、好ましくは5〜65%、例えば50%等のヒドロキシアパタイト(HA)、及び35〜95%、例えば50%等のβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)を含む。
【0026】
本発明の方法により取得された骨誘導性リン酸カルシウム材料は、針状の表面トポグラフィーを有する。これらの針状体のサイズは、一般的に直径10〜1500nmである。材料は、多孔性であることが更に好ましい。
【0027】
本発明の方法により製造される材料は、主にその顕著なタンパク質吸着能により、生体組織内で優れた骨誘導性挙動を示す。本発明の材料表面における骨組織の形成によって、前記材料からなるインプラントが受容されやすくなる。更に、骨組織の形成は、骨構造内のあらゆる損傷の回復を促進し、インプラントを適用する理由となる。
【0028】
本発明の骨誘導性リン酸カルシウムは、約50〜約1500μm、より好ましくは約200〜約500μm、最も好ましくは212〜300μmの範囲の粒子サイズを有する微粒子の形態であることが好ましい。代替的実施形態では、本発明のリン酸カルシウムは、好ましくは1000〜4000μmの顆粒サイズ範囲を有する顆粒の形態である。別の代替的実施形態では、本発明のリン酸カルシウムは、数立方センチメートル(例えば0.5、1、1.5、2、2.5、3cm3)のブロック、事前成形されたブロック、又は外科用メス若しくは錐によって(骨の)欠損のサイズに成形可能なブロックの形状である。
【0029】
本発明の骨誘導性リン酸カルシウムセラミックは、水熱処理前の対応するリン酸カルシウムセラミック出発材料より0.5、1、1.5、2、2.5倍、又は3倍も大きな総細孔面積を一般的に有する。針状の表面トポグラフィーを有する本発明のリン酸カルシウムセラミックの総細孔面積は、Hg圧入法に基づく測定によれば、1.8、1.9、2、2.5、2.7、3.0、3.5、3.8m2/gほど、又は更には4.0m2/g以上であり得る。
【0030】
本発明の骨誘導性リン酸カルシウムセラミックは、水熱処理前の対応するリン酸カルシウムセラミック出発材料の0.5、1、1.5倍、又は2倍も大きな比表面積(BET)を一般的に有する。針状の表面トポグラフィーを有する本発明のリン酸カルシウムセラミックの比表面積は、BETに基づく測定によれば、1.25、1.4、1.5、2、2.4ほど、又は更には2.5m2/g以上であり得る。
【0031】
(ミクロ)粒子又は顆粒の形態の本発明の骨誘導性材料の長所として、優れた流動特性が挙げられる。(ミクロ)粒状材料の砂様の構造により、流動性担体を更に用いなくてもその注入が可能になる。従って、かかる実施形態の材料は、注入剤として利用可能であるが、但し、例えば流動性担体と混合して利用することも可能性である。或いは、(ミクロ)粒子又は顆粒は、例えば移植で好適に利用可能なように、複合材料として組み合わせて、固体又は半固体のブロックを形成することも可能である。
【0032】
本発明の材料の更に別の好ましい実施形態では、アパタイト針状体の密度は0.45個/μm2未満である。
【0033】
別の態様では、本発明は、医療用インプラント材料又は組織スキャフォールドとして使用される本発明の骨誘導性リン酸カルシウムに関する。
【0034】
本発明の骨誘導性リン酸カルシウムは、生物において骨組織の形成を誘導するために、非骨部位において自家骨を生成するための、単独の、又は増殖因子若しくは/及び細胞と組み合わせたインプラント材料として、或いは単独の、又は増殖因子若しくは/及び細胞と組み合わせた、医療用インプラント又はデバイスを製造するために、好適に使用することができる。
【0035】
本発明の骨誘導性リン酸カルシウムは、例えば最顎顔面外科手術又は整形外科手術等における骨再建において好適に使用することができる。
【0036】
別の態様では、本発明は、アパタイト針状体を含む外層、及び任意選択で、外層と接触している内層を含む骨誘導性リン酸カルシウムコーティングに関する。この態様の好ましい実施形態では、骨誘導性リン酸カルシウムコーティングは、アパタイト針状体を含む層からなり、この場合、この層は、コア材料上にコーティング層を形成する。コア材料の表面は、完全にコーティングされていなくてもよいが、少なくとも40〜90%が骨誘導性リン酸カルシウムコーティングで覆われていることが好ましい。コア材料は、任意の移植可能材料、例えば骨支持材又は骨再建材、例えば金属材料(金、スチールワイヤー、白金、チタン)、プラスチック材料(ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン)、又はセラミック材料(セラミック酸化物、カーボン、リン酸カルシウム系セラミック、ガラス質セラミックス)等、好ましくはリン酸カルシウム、より好ましくはBCP、又はそのような材料の組み合わせであり得る。
【0037】
本発明のコーティングの好ましい実施形態では、アパタイトはヒドロキシアパタイトである。
【0038】
本発明のコーティングの別の好ましい実施形態では、アパタイト針状体は、10〜1500nmの間の平均直径を有する。
【0039】
本発明のコーティングの更に別の好ましい実施形態では、外層のアパタイト針状体の密度は、針状体0.45個/μm2未満である。
【0040】
本発明のコーティングのまた別の好ましい実施形態では、外層の厚さは、1〜1000μmの間である。
【0041】
本発明のコーティングの更に別の好ましい実施形態では、内層はBCPを含む。
【0042】
本発明のコーティングのまた別の好ましい実施形態では、BCPは4〜20重量%のアパタイトを含む。
【0043】
本発明のコーティングの更に別の好ましい実施形態では、BCPは焼結型BCPである。
【0044】
本発明のコーティングの別の好ましい実施形態では、コーティングは、0.9m2/gを超えるBET比表面積を有する。
【0045】
本発明のコーティングの更に別の好ましい実施形態では、外層は、125℃以上の温度で水熱処理した後における、内層のBCPからのアパタイトの析出物である。
【0046】
別の態様では、本発明は、本発明のコーティングの上記実施形態のいずれか一つに記載のコーティングを含む移植可能な物体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】(a) T1050、(b) T1125、(c) T1150、(d) T1050a、(e) T1125a、及び(f) T1150aのSEM画像を示す図である。写真(d)〜(f)は「ホット/ロング」の設定で処理したセラミックである。「コールド/ショート」処理法で処理したセラミックについては、表面トポグラフィーに変化が認められなかったので、ここでは画像は示していない。
図2】(左側)は、血清タンパク質の吸着(1cc当たりのμg)、及び(右側)アルブミンタンパク質吸着(1cc当たりのμg)を示す図である。
図3】(a) T1050、(b) TCP陰性対照、(c) T1050a、及び(d) T1125aの組織学的な概要を示す図である。材料は黒色、骨は着色されたピンク色、及び軟組織/筋肉は着色された紫色。
図4】(a) T1050 (先行技術材料)、(b) T1050a (本発明による)、及び(c) T1125a (本発明による)の同一スポットにおける蛍光画像と光画像との重複を示す図である。明るい緑色は、骨組織に対するカルセイン染色である(星印で示す)。TCP陰性対照では、骨形成が認められなかったので、ここでは図示せず。
図5】本発明の材料又はコーティングの針状の表面トポグラフィーを示す図である。
図6】本発明の材料又はコーティングの断面を示す図である。写真左側は、針状の表面トポグラフィー(外層)を明確に示すが、写真右側は、BCP(内層)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
用語「粒子」及び「顆粒」は、本明細書では交換可能に用いられ、またリン酸カルシウム材料の粒状又は粉末状の形態を示すのに、本明細書で用いられる。粒子は、0.1〜5mmの範囲の平均サイズを有し得る。微粒子は、1mm未満のサイズを有する粒子である(すなわち、数マイクロメートル〜数百マイクロメートル)。
【0049】
用語「結晶」は、SEM顕微鏡写真において目視可能な、個別に認識可能で相互に接続したリン酸カルシウム要素を示すのに用いられ、その要素は、リン酸カルシウムの連続したマトリックスを形成する。用語「結晶」は、結晶化プロセス、例えば析出等を経た後のリン酸カルシウム分子の基本的な空間構造を一般的に意味する。用語「結晶」には、本明細書で定義する粒体及び針状体の両方が含まれる。
【0050】
用語「粒体」及び「粒体様」は、リン酸カルシウム結晶が球形の性質又は形態を有することを示すのに用いられ、これによりリン酸カルシウム材料の表面トポグラフィーを規定する。図1a〜cは、リン酸カルシウムの粒体様表面トポグラフィーの例、すなわち結晶が実質的に粒体からなる例を提示する。粒体は、0.1〜5.0μmの範囲の平均サイズを一般的に有する。
【0051】
用語「針状体」及び「針状」は、リン酸カルシウム結晶が棘突起的な性質又は形態を有することを示すのに用いられ、これによりリン酸カルシウム材料の表面トポグラフィーを規定する。図1d〜fは、リン酸カルシウムの針状表面トポグラフィーの例、すなわち結晶が実質的に針状体からなる例を提示する。花弁様又は葉様の構造は、用語「針状」に含まれず、同用語は、円筒形又は多角柱構造であって、その直径(10〜1500nm)の1.5、3、4、5、6、10、20、50、又は100倍を超える長さの構造に限定されることが好ましい。
【0052】
用語「不規則な形状を有する粒子」とは、リン酸カルシウム粉末の粒子(それ自体、粒体構造を有する場合もある)を意味する。
【0053】
用語「BCP」とは、本明細書で用いる場合、β-TCPとアパタイト、好ましくはヒドロキシアパタイトとの複合物を意味する(Ca/P比1.5〜1.67)。換言すれば、用語「BCP」は、リン酸カルシウムの重量を基準として、1〜99重量%のアパタイト、好ましくはヒドロキシアパタイトと、同様に99〜1重量%のβ-TCPを含むβ-TCPとアパタイト、好ましくはヒドロキシアパタイトとの複合物を意味する。従って、用語「BCP」には、本明細書で用いる場合、アパタイト、好ましくはヒドロキシアパタイトとβ-TCPとのすべての考え得る組み合わせが、上記重量%の範囲内で含まれる。
【0054】
用語「アパタイト」とは、本明細書で用いる場合、化学量論的化学式Ca5(PO4)3(OH)の反復により表されるリン酸カルシウム無機物の群のいずれか、及びOH基が、例えばF-、Cl-、CO32-、HCO3-、若しくは任意のその他の陰イオンによって部分的に置換される、及び/又はPO4基が、例えばHPO42-、CO32-、HCO3-、若しくは任意のその他の陰イオンによって部分的に置換される、及び/又はCa2+が、例えばMg2+、Sr2+、Ba2+、Na+、若しくは任意のその他の陽イオンによって部分的に置換されることに起因する、任意のその他の非化学量論的及び/又は欠損型のアパタイトを意味する(Elliot, J.C.、1994、Structure and Chemistry of the Apatites and other Calcium Orthophosphates, Amsterdam: Elsevier)。これらの部分的置換は、Ca/P比に変動をもたらす。
【0055】
用語「比表面積」は、BET分析により求められるCaP粒子の表面積を示す。Brunauer、Emmett、及びTeller (BET)法(J. Am. Chem. Soc.、1938、60、309頁)により、通常の大気圧下、液体ガスの沸点において、その圧力に関連して吸着した気体の量から、粉末の表面積が見積もられ、m2/グラムで表される。
【0056】
用語「総細孔面積」は、インプラントを通流可能な(すなわち、CaP粒子を通じて)液体(例えば、生体液、細胞)のアクセス可能な容積を示す。この利用可能な総細孔面積は、円筒形の細孔モデル(「An Introduction to the Physical Characterization of Materials by Mercury Intrusion Porosimetry with Emphasis on Reduction and Presentation of Experimental Data」、Paul A. Webb、1〜22頁、Micromeritics Instrument Corporation, Norcross, GA、January 2001に開示されている)を用いて、水銀圧入法によりを求められ、m2/グラムで表される。
【0057】
用語「タンパク質吸着」は、1%ウシ胎仔血清(FBS)及び25ppm NaN3、又は400μg/mlウシ血清アルブミン(BSA) 及び25ppm NaN3を含有する水溶液2mlに浸漬した際に、37℃で24時間インキュベーションした後、容積が1ccのリン酸カルシウムにより吸収されるタンパク質の量を表し、この場合、吸収された量は、100%から、溶液中に残留する割合(%)を差し引いたものであり、またその溶液のタンパク質含有量は、リン酸カルシウムとの接触前後において、例えばBCA(商標)タンパク質アッセイ法キット(Pierce Biotechnology Inc社、Rockford、IL、米国)を用いて求められる。
【0058】
用語「焼結化」及び「焼結型」とは、実質的に1000℃を超える温度、例えば1000℃〜1300℃等、好ましくは1050℃〜1275℃の間の温度で、CaPを熱的に処理するプロセスを意味する。焼結プロセスは、リン酸カルシウム材料の焼締を引き起こす。必要とされる密度の増加に応じて、焼結プロセスは、1〜10時間実施され得る。
【0059】
用語「外層」は、本明細書で用いる場合、アパタイト針状体を含む骨誘導性コーティングの層を意味し、この場合、アパタイト針状体は、コア基材、すなわち堆積面又は接着面上に接着又は堆積され、また任意選択でコア基材と外層との間に、内層が配置され、そしてコア基材とは反対側の外層の部分は、ヒト又は動物の身体内に移植された際に、組織に曝露されるコーティング表面を形成する。外層が、コア基材上に存在する唯一の層であり、従って同外層は、本発明の骨誘導性コーティングに関する唯一の材料であることが本発明の実施形態である。また、骨誘導性コーティングは、外層と接触している内層を含むことも、本明細書において予想される。
【0060】
用語「内層」とは、本明細書で用いる場合、BCPを含む、又は好ましくはBCPからなる骨誘導性コーティングの層を意味し、また内層は外層と接触している。内層は、外層よりもコアセラミック側に位置する。いくつかの副次的事例では、内層は、顆粒の断片化の結果として又は水熱処理期間中の物理的障害の結果として、環境に曝露され得る(例えば、ガラス皿と接触している顆粒の一部は、アパタイト針状体を形成しない)。
【0061】
処理前のリン酸カルシウム材料
本発明の態様で有用であり、また本発明の方法により骨誘導能を高めるのに向いている出発材料は、本質的にリン酸カルシウム粒体からなる表面トポグラフィーを有する焼結型リン酸カルシウムであることにより特徴付けられる。従って、リン酸カルシウムマトリックスそのものの構造は、微視的な観察に基づけば、平滑ではなく粒体状であり、構造的な材料は、充填された粒体の形態で構造的に組織化されている。
【0062】
出発材料は、マクロ細孔を含むことが好ましい。出発材料は、実質的に開放多孔性構造を有することが好ましく、個々の細孔は、開口部又は隙間により相互接続している。本発明の材料又はコーティングは、水熱処理前後の両方において多孔性であることが好ましい。水熱処理前に材料を洗浄(例えば、超音波処理)することが好ましい。焼結型リン酸カルシウム出発材料は多孔性であることが好ましい。焼結型多孔性リン酸カルシウム出発材料は、いくつかの実施形態ではミクロ細孔を含んでもよいが、好ましい実施形態ではミクロ細孔(細孔<5μm)を含まない。
【0063】
アパタイトは、ヒドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、炭酸アパタイト、又はカルシウム欠損型アパタイトであることが好ましい。アパタイトは、ヒドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、炭酸アパタイト、カルシウム欠損型アパタイト、及び非化学量論的アパタイトより選択される少なくとも2つのアパタイトの組み合わせであり得る。より好ましくは、アパタイトは、実質的にヒドロキシアパタイトである。これは、アパタイトは、例えばX線回折法に基づく測定によれば、アパタイトの重量を基準として、少なくとも50重量%のヒドロキシアパタイト、より好ましくは70〜90重量%の間のヒドロキシアパタイト、及び最も好ましくは91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100重量%のヒドロキシアパタイトからなることを意味する。
【0064】
当業者は、アパタイトは、例えばカルシウムイオン及び水酸化物イオンが少ない、又は欠損さえしている一方、置換性の不純物が多いことにより不完全であり得ることを知っている。この文脈において、用語「ヒドロキシアパタイト」が用いられる場合、それは、実質的にヒドロキシアパタイトであるアパタイトを意味するが、不純物も許容する。かかる不純物の例として、ヒドロキシアパタイト中の1つ又は複数のフルオロ及び/又はクロロ化合物の群の存在が挙げられる。従って、用語「ヒドロキシアパタイト」には、本明細書で用いる場合、実質的にヒドロキシアパタイトであるが、1つ又は複数のフルオロアパタイト、クロロアパタイト、炭酸アパタイト、非化学量論的及び/又はカルシウム欠損型アパタイトも含むアパタイトが含まれる。
【0065】
出発材料は、本明細書で用いる場合、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、及びなおいっそうより好ましくは少なくとも80重量%のβ-TCPを含むリン酸カルシウムである。リン酸カルシウム出発材料は、リン酸カルシウムの重量を基準として、約4〜20重量%のアパタイト、好ましくはヒドロキシアパタイトを含むことが好ましい。出発材料として有用なBCPは、低温水溶液からの析出により、又は高温(熱的)プロセスにより取得されたBCPであることが適当であり得る。
【0066】
CaP出発材料を製造する方法は、リン酸カルシウム粉末の水性スラリー、起泡剤及び任意選択で細孔生成剤の水溶液を用意する工程と、スラリーを、前記スラリーの起泡を引き起こす条件に曝す工程と、得られた起泡スラリーを乾燥する工程と、任意選択で細孔生成剤を除去する工程と、乾燥後の起泡スラリーを焼結して、任意選択で多孔性焼結型リン酸カルシウムセラミックを得る工程とを含み得る。本方法は、焼結型リン酸カルシウムセラミックを粒子に粉砕する工程と、及び望ましい粒子サイズを有する粒子を収集する工程とが任意選択で後続し得る。
【0067】
本発明の方法で用いられるCaP出発材料は焼結型の材料であり、すなわち1000℃を超える温度に曝しておくことが好ましいことを意味する。
【0068】
適切なCaP出発材料は、例えば硝酸カルシウム四水和物とリン酸水素二アンモニウムとの水性混合物を、高pHにおいて熟成し、その後に得られた堆積物を粉末化し、過酸化水素等の細孔形成剤の存在下で多孔性を生み出し、得られたグリーン体を焼結することにより製造可能である。かかる方法は、例えば米国特許第6,511,510号に記載されている。好ましくは、本発明のリン酸カルシウムは、未焼結のリン酸カルシウム(グリーン体)を、800℃〜1300℃の間、好ましくは1000℃〜1275℃の間、より好ましくは約1050℃〜1200℃の間の温度において、任意選択で加圧条件下で焼結する工程を伴うプロセスにより形成される。好ましくは、焼結は、1075℃〜1175℃、1100℃〜1150℃の間の温度で実施される。焼結工程の時間は、好ましくは、例えば4〜10時間、好ましくは6〜9時間水熱処理を行った後に、最良の針状の構造トポグラフィーがもたらされるように、好適に選択及び最適化され得る。
【0069】
CaP出発生成物の特性は、温度、圧力、及びリン酸カルシウム出発材料について特定の組み合わせを選択することにより調整可能である。例えば、純粋のHAは、Ca/P比が1.67のアパタイトを用いて形成されるが、一方、TCPは、Ca/P比が1.5のアパタイトを用いて形成される。しかし、本発明は、1.51〜1.66(境界値を含む)の間の範囲であるCa/P比と関連し、このような比は、BCPと呼ばれ、また例えば、異なる量のアパタイト、好ましくはヒドロキシアパタイトとTCPとを含む焼結型CaPセラミックを得るために焼結可能な、組み合わされたアパタイト-TCP、好ましくはヒドロキシアパタイト-TCPのセラミックを生ずる。
【0070】
焼結パラメーターは、出発材料のマクロ多孔性を調整するために選択可能である。セラミックのマクロ多孔性は、セラミックの製造法に関するいくつかの実施形態では、焼結型粒子間に残留するギャップに起因する可能性があり、それは、CaPの結晶化又は用いられる細孔生成剤により影響を受ける。焼結パラメーターは、出発材料の粒体サイズを調整するためにも選択可能である。セラミックの粒体サイズは、セラミックの製造法に関するいくつかの実施形態では、焼結によるグリーン体の相転移に起因する可能性があり、それは焼結時間及び焼結温度により影響を受ける。
【0071】
本発明の好ましい実施形態に基づけば、CaP出発材料は、相互接続した結晶又は粒体から構成される。粒体サイズは、好ましい実施形態では、好ましくは50〜3000nm又は0.05〜3μmの間、より好ましくは0.1〜2μmの間、なおもより好ましくは0.1〜1.5μmの間、及びなおいっそうより好ましくは0.5〜2.5μmの間である。出発材料はBCPであることが好ましい。BCPの出発材料は、50〜約5500μm、好ましくは500〜1500μm又は1000〜4000μmの範囲の小粒サイズ又は粒子サイズを有する粉末の形態であることが好ましい。
【0072】
水熱処理プロセス
端的には、改善された骨誘導性能を有し、針状の表面トポグラフィーに基づく焼結型リン酸カルシウムセラミック製造法が、以下のように実施され得る:
【0073】
焼結型リン酸カルシウムの高度に好ましい実施形態では、第1の工程は、出発材料として焼結型リン酸カルシウムセラミックを用意することである。かかる好ましい実施形態では、リン酸カルシウム粉末の水性スラリー、起泡剤、及び細孔生成剤が、溶媒中に用意し得る。スラリーは、次に前記スラリーの起泡を引き起こす条件に曝すことができる。その後、得られた起泡スラリーは、事前乾燥可能であり、また細孔生成剤は、事前焼結により除去可能である。次に、事前乾燥した起泡後のグリーン体は、焼結型リン酸カルシウムセラミックを得るために焼結し得るが、その前に任意選択でグリーン体がより小さな粒子に粉砕又は破砕する。最終的に、焼結型リン酸カルシウムセラミック出発材料(任意選択で、より小さな粒子に粉砕又は破砕し得る)は、次にセラミック表面上でCaP針状体の発現を引き起こす水熱処理を受ける可能性があり、これにより針状の表面を有する焼結型リン酸カルシウムセラミックが得られる。示すように、未粉砕のグリーン体を焼結及び水熱処理した場合、本方法には、前記リン酸カルシウムセラミックを顆粒に粉砕する工程、及び任意選択により様々な小粒サイズの分画で、顆粒を収集する工程が後続し得る。水熱処理は、実質的に焼結型リン酸カルシウムの表面処理であるので、改善された骨誘導性を有する粒子を得ようとする場合には、所望の粒子サイズの粒子が用意した後に、前記粒子表面を改変するために水熱処理工程を実施し、これにより本発明の粒子を提供することが好ましいと理解されよう。
【0074】
前記のように、グリーン体の調製は、リン酸カルシウム(CaP)のスラリーを形成する工程を好適に含み得るが、この場合、前記CaPは、起泡剤を含有する溶液に懸濁した粉末の形態であることが好ましい。起泡剤溶液中の起泡剤(例えば、H2O2)の濃度は、0.1%〜10.0%の範囲が好適であり、また溶媒は、水が好適である。スラリーを形成するために、起泡剤溶液(例えば、0.1〜10.0%のH2O2水溶液)とリン酸カルシウムとを混合する比は、CaP 100g当たり、起泡剤溶液1〜300mLの間が好適である。CaP 100g当たりの用いられる細孔生成剤(例えば、ナフタレン又はワックス小粒物、<2000μm)の量は、0〜150gの間が好適である。細孔生成剤は、溶媒中に懸濁し得る。前記溶媒とリン酸カルシウムとを混合する比は、CaP 100g当たり、溶媒0〜100mLの間が好適である、又は水に含まれる前記溶媒の含有量の比は、容積として0〜50%の間が好適である。スラリーは、次に起泡及び例えば50〜120℃で乾燥可能であり、そして次にグリーン体を形成するために、例えば800〜1100℃で1〜6時間事前焼結可能であるが、これは次に例えば1000〜1300℃で3〜12時間焼結する。このセラミックの組成は: HA 4〜18%及びβ-TCP: 96〜82%である。焼結型リン酸カルシウムセラミックは、次に135℃の水中、99分間、及び2〜4バールで水熱処理し、40〜100℃で乾燥し、そして顆粒を形成するために粉砕されるが、異なるサイズで収集(及び用意)する場合もある。
【0075】
上記で定義したCaP出発材料は水熱処理され、CaP表面トポグラフィーの改変が引き起こされる。
【0076】
本方法は、リン酸カルシウム材料に、125℃以上、好ましくは125〜300℃の間、より好ましくは125〜200℃の間、最も好ましくは125〜150℃の間の温度で、材料表面上のリン酸カルシウム粒体をリン酸カルシウム針状体に変化させるのに十分な時間、水熱処理を施す工程を含む。130〜140℃の間、なおいっそうより好ましくは約135 (+/-2)℃である、水熱処理温度が特に好ましい。
【0077】
水熱処理は、好ましくは水中に浸漬することにより、リン酸カルシウム出発材料を水と接触するように配置する工程、及びリン酸カルシウムセラミック出発材料を、好ましくは約2〜4バールで少なくとも30分間、又はその他の圧力で同等の時間、125〜150℃の間、好ましくは130〜140℃の間、より好ましくは約135 (+/-2)℃の温度に、リン酸カルシウムを水と接触させたまま曝す工程と関係する。好ましくは、未加熱の水の中でソーキングを行っても、本明細書で定義するような水熱処理とはならない。また、リン酸カルシウムを蒸気と接触させても、好ましくは本明細書で定義するような水熱処理とはならない。水熱処理は、リン酸カルシウムを水と接触させたまま、好ましくは水中に浸漬させた状態でオートクレーブ処理する工程を含むことが好ましい。好ましくは、水熱処理の時間は、2〜4バールにおいて少なくとも40、50、60、75、100、200、300、又は400分間、若しくはそれより長い時間、又はその他の圧力において同等の時間である。より好ましくは、本処理は、2〜4バールにおいて材料を約100分間、上記温度に曝す工程を含む。
【0078】
上記水熱処理の後、CaP出発材料の粒状の表面特性は、顆粒の表面全体を覆う繋留されたナノニードルからなる針状の表面特性に変化している。このナノニードルの直径は、10〜1500nmの間の範囲で変化し得る。約10〜600nmのより小さな寸法は、より小さな粒体サイズのCaPに由来するが、一方、約400〜1500nmの間の範囲にあるより大きな針サイズは、より大きな粒体サイズのCaPに由来する。好ましくは、針サイズ直径は、800nm未満、より好ましくは、それは100〜750nmの間、及び最も好ましくは200〜700nmの間である。600〜680nmの平均針直径は、T1125aとして本明細書で示す材料の事例において通常認められ得る。
【0079】
図2及びTable 3(表3)から、粒体サイズは、焼結温度に依存するということが導かれる。また、図2及びTable 3(表3)は、水熱処理のパラメーターが一定のとき、焼結温度が高いほど、針サイズ直径も大きくなることを示している。水熱処理の設定を調整すれば、T1150セラミック{Table 3(表3)を参照}をより長時間、より高温で水熱処理する際に、T1125aセラミック{Table 3(表3)を参照}の桁の針サイズ直径を得ることが可能であることが判明した。換言すれば、本発明の骨誘導性材料又はコーティングが、水熱処理後に得られるかとの質問に対し、焼結型出発材料の粒体サイズは、それ自体で決まるものではない、というのが回答である。本発明の材料及びコーティングの出発材料は、1125℃より高い温度で焼結され、その後に、上段で示した好ましい針サイズ直径を有する本発明の材料又はコーティングを得るのに十分な時間及び温度で水熱処理されることが、ここで予想される。
【0080】
本発明の好ましい実施形態では、出発材料は、水熱処理期間中、水溶液(好ましくは水)中に完全に浸漬される。或いは、本方法は、約100%の相対湿度レベルにおいて実施され得る。
【0081】
好ましくは、水熱処理は、リン酸カルシウムセラミック材料を、130〜140℃の間、より好ましくは約135(+/-2)℃の温度に曝す工程を含む。
【0082】
好ましくは、水熱処理は、リン酸カルシウムセラミック材料を高温に少なくとも10分間、好ましくは少なくとも40、50、60、75、100、200、300、若しくは400分間又はそれより長い時間曝す工程を含む。水熱処理の時間は、材料表面上のリン酸カルシウム粒体をリン酸カルシウム針状体に変化させるのに実質的に十分である。この変化は、SEMにより確認できる。
【0083】
好ましくは、水熱処理は、リン酸カルシウムセラミック材料を、水に浸漬したまま高温に曝す工程を含む。
【0084】
好ましくは、水熱処理は、リン酸カルシウムセラミック材料を、同材料が好ましくは2〜4バールにある間、高温に上記時間曝す工程を含む。その他の圧力も利用可能であるが、時間は、リン酸カルシウムセラミックの表面の改変を最適化するように調整できる。好ましくは、水熱処理の期間中、材料は2〜4バールにおいて生ずる。最も好ましい実施形態では、水熱処理は、材料を2〜4バールにおいて約100分間、上記温度に曝す工程を含む。
【0085】
本発明の方法は、表面トポグラフィーを変化させ、これによりリン酸カルシウム表面の骨誘導能を変化させるようとするものである。好ましい実施形態では、用語「表面」は、本明細書で引用する場合、CaP材料の外部から測定したとき、最上部側の0〜1.0mmを指す。
【0086】
骨誘導性が改善されたリン酸カルシウム材料
上記水熱処理の後、出発材料の粒状の表面特性は、顆粒表面を覆う繋留されたナノニードルからなる針状の表面特性に変化した。このナノニードルの直径は、10〜1500nmの間の範囲で変化し得る。約50〜400nmのより小さな寸法は、より小さな粒体サイズのCaPに由来し、一方、約350〜1100nmの間の範囲のより大きな針サイズは、より大きな粒体サイズのCaPに由来する。
【0087】
本発明の方法により得られるリン酸カルシウム材料では、材料の表面は大幅に変化しているが、一方、下部(より深部)の材料は、実質的に不変のままであり得る。従って、本発明の対象である改善されたリン酸カルシウムセラミックは、材料内の粒体の80%が不変のままであり得るが、これは、表面下(表面から1.0mm〜1cmよりも深い)の粒体に主に該当する。
【0088】
本発明の改善されたリン酸カルシウムセラミックは、直径が0.01〜1.50μmの範囲、より好ましくは50〜1250ナノメートルの針状結晶の表面トポグラフィーを有することが好ましい。
【0089】
本発明のリン酸カルシウム材料及びコーティングは、0.45個/μm2未満、より好ましくは0.10個/μm2〜0.40個/μm2の間、いっそうより好ましくは0.25個/μm2〜0.39個/μm2の間、なおもより好ましくは0.28個/μm2、0.29個/μm2、0.30個/μm2、0.31個/μm2、0.32個/μm2、0.33個/μm2、0.34個/μm2、0,35個/μm2、0.36個/μm2、0.37個/μm2、又は0.38個/μm2の針密度を有することが好ましい。
【0090】
本発明の材料の比表面積及び総細孔面積は、水熱処理前の焼結型リン酸カルシウムより顕著に大きい。一般的に、針状体の形成による比表面積及び総細孔面積の増加は50、80%、又は更には100%増加することで把握される。すなわち、初期の比表面積及び総細孔面積から倍増した場合、BET分析法又は水銀圧入法それぞれにより分析した際に把握可能である。
【0091】
本発明の材料の総細孔面積は、Hg圧入法により測定した際に、1.8m2/gを超えることが一般的である。
【0092】
本発明の材料の比表面積は、BETにより測定した際に、1.25m2/gを、又は更には1.4m2/gを超えることが一般的である。
【0093】
好ましい結晶の針直径、マクロ細孔のサイズ、比表面積、及び総細孔面積は、セラミック上への高濃度のタンパク質吸着、及び高い骨形成能(非骨部位における誘導的骨形成)を実現する。
【0094】
本発明の改善された焼結型リン酸カルシウムは、本明細書にすでに記載したように測定したとき、24時間で40%を超える、より好ましくは60%を超える、なおもより好ましくは75%を超える(40〜80%の)表面タンパク質吸着を示すことが好ましい。特に、本発明の改善された焼結型リン酸カルシウムは、250μg超、好ましくは300μg超、好ましくは500μg超、好ましくは1000μg超、好ましくは1500μg超、又はそれを上回るBSAが、400μg BSA/mlのBSA溶液2mlからリン酸カルシウム材料1mlの表面に吸着されるような、表面タンパク質吸着を示すことが好ましい。
【0095】
本発明の態様では、骨誘導能が改善されたリン酸カルシウムは、リン酸カルシウムコーティング、すなわち骨誘導性リン酸カルシウムコーティングの形態を採り得る。かかるコーティングは、本明細書に記載する方法により得ることができるが、また外層を含み、そして内層を含む場合もある。コーティングは、数マイクロメートル〜数ミリメートル、又は数センチメートルの厚ささえも有し得る。好ましくは、コーティングの外層の厚さは、1〜1000μmの間、好ましくは1〜500μmの間、より好ましくは1〜200μmの間、及び最も好ましくは1〜100μmの間である。外層の厚さは、当業者に公知の手段により測定され、本発明の材料の断面を得た後に外層を測定することによる。本発明の材料内のアパタイト針状体を含む層の厚さは、同様に好ましくは1〜1000μmの間、好ましくは1〜500μmの間の、より好ましくは1〜200μmの間、及び最も好ましくは1〜100μmの間である。リン酸カルシウムコーティングは、その他のリン酸カルシウム、金属、セラミック、ガラス、ポリマー、又は複合材料を含む、但しこれらに限定されない、骨誘導能の改善を必要とするその他(例えば、非骨誘導性)の材料上において、改善された表面として利用可能である。改善された骨誘導性コーティングは、本明細書に記載するリン酸カルシウム出発材料により、骨誘導性が改善することとなる材料の表面をコーティングすること、及びコーティングされた材料に、本明細書に記載するような骨誘導能を改善する方法を適用することにより製造し得る。得られたコーティング製品は、改善された骨誘導特性を有する。或いは、本発明の対象である改善された針状の表面トポグラフィーを有する改善された骨誘導性リン酸カルシウムは、骨誘導性を改善しようとしている材料、すなわちコア基材の表面に、例えば接着、成型、又は加圧により好適に取り付け可能又は結合可能である。本発明のコーティングの外層は、本発明の方法を用いて本発明のコーティングの内層を水熱処理した後に、前記内層から析出した析出物であることが好適であり得ると予想される。或いは、本発明の対象である改善された針状の表面トポロジーを有する改善された骨誘導性リン酸カルシウムは、「粉末」の形態として単独で、又はペースト若しくはセメントの形態として液体担体と組み合わせて、注入剤の形態で提供することが好適と考えられ、そして次に骨誘導性が改善することとなる材料の表面に適用可能である。
【0096】
本発明の改善されたリン酸カルシウムセラミックは、不規則な形状を有するオーブン乾燥後の粉砕されたリン酸カルシウム粉末を用いるプロセスにより調製されることが好ましい。かかる材料は、規則的な球状粒子を有するスプレードライ化リン酸カルシウム粉末の使用よりも好ましい。更に、焼結温度は、800〜1200℃の間が好ましい。個々のリン酸カルシウムについて、焼結温度は、更に最適化可能である。
【0097】
本発明の材料は、例えば生物内で骨組織の形成を誘導するのに利用可能である。
【0098】
本発明の材料は、非骨部位における自家骨の生成を目的とするインプラント材料として、すなわちスキャフォールドとして好適に利用可能である。この能力は、本材料の高度に骨誘導的特性に起因する。
【0099】
従って、本発明の材料は、リン酸カルシウムから形成される医療用インプラント又は医療用デバイスとして利用可能である。本材料は、異なる材料、例えば金属又はポリマー材料等からなる医療用インプラントと組み合わせて用いられ、異なる材料の上に、本発明による骨誘導性材料がコーティングの形態で存在することも考えられ得る。
【0100】
本発明の材料の様々な利用法として、骨修復における一般的な筋骨格手術用途、並びに歯科手術又は整形手術における用途が挙げられることに留意すべきである。
【0101】
本発明について、下記の非限定的な実施例により説明する。これらの実施例は、リン酸カルシウムセラミック(すなわち、焼結型リン酸カルシウム)の骨形成能を改善する方法について記載するが、この場合、リン酸カルシウムはBCPである。
【実施例】
【0102】
(実施例1)
オートクレーブの設定が針状体形成に及ぼす影響
1.1. 二相性リン酸カルシウムセラミックの調製
水溶液中でCa(OH)2及びH3PO4を混合してCaPを析出させることにより、二相性リン酸カルシウム(BCP)粉末(92〜96%のβ-TCP及び8〜4%のHA)を調製した。Ca/P比を調整して、異なるTCP及びHA含有量を有する最終CaPセラミックを得た。下記のCa/P比が得られた: 1.500 (約100%のTCPの場合)、1.509 (約5%HA/95% TCPの場合)、1.518 (約10%HA/90% TCP)、1,534 (約20%HA/80%TCP)、1,568 (約40%HA/60%TCP)、又は1.636 (約80%HA/20%TCP)。CaP析出物をフィルター処理し、乾燥してCaP粉末にした。このCaP粉末を、H2O2 (1〜2%)、0〜500μmのワックス粒子(40〜60g/粉末100g)、及びエタノール(8〜10%)を含有する脱塩水中でスラリーを調製するのに用いた。その後、スラリーを40〜80℃で起泡させ、1000℃で事前焼結した。ワックスが完全に燃焼したら、多孔性のケーキを粒子(0〜5mm)に破砕し、異なる温度、すなわち1050℃、1125℃、及び1150℃で焼結して、異なる表面トポグラフィーを有するが化学組成が同一の多孔性のリン酸カルシウムセラミックを得た。
【0103】
1.2. 二相性リン酸カルシウムセラミックの特徴付け
セラミックをHA/TCP含有量比について、X線回折計(XRD、Table 1 (表1))を用いて特徴づけを行った。結果より、セラミックは、HA/TCP含有量比が同等の二相性リン酸カルシウムであり、焼結温度とは独立であることが明らかである。走査型電子顕微鏡(SEM)画像から、焼結温度は、表面構造に対して影響を有する、すなわち、焼結温度が高いほど、粒体サイズは大きくなり、多孔性は低下することが実証される(図1a〜c)。
【0104】
1.3. セラミックの水熱処理
顆粒をガラス皿に敷き詰めた。層を脱塩水中に浸漬し、これにより、水面は顆粒の層の表面から少なくとも2cm上方であった。顆粒を含有する皿をオートクレーブ(Astell社、AVX 040)内に配置した。2つの異なる設定を、Table 2 (表2)に示すように適用した。処理が終了したら、材料を取り出して冷却し、80±10℃で乾燥させた。
【0105】
1.4. 水熱処理したセラミックの特徴付け
二次電子モードの走査型電子顕微鏡(SEM; JEOL社)を、出発顆粒の表面トポグラフィーを評価するのに用い、そしてサイズが約500の結晶を材料毎に測定した。出発材料の粒体サイズを測定し、メジアン値を計算した。水熱処理後、新規に形成された針状体の直径を測定し、メジアン値を計算した。すべての測定を、SEMのスケールバーを参照として用いて、ImageJ (v1.43u、NIH、米国)のツール「長さ測定」によりを実施した。この段階で、表面の改変を奏功させるための、出発材料の仕様及び水熱処理の設定が規定された。
【0106】
SEM画像より、「ホット/ロング」の設定による水熱処理のみが、典型的な粒体セラミック表面構造の消失を引き起こし、針状構造の成長をもたらす(図1d〜f)一方、「コールド/ショート」の設定は、検討されたいずれのセラミックにおいても、針状体の形成をもたらさないことが実証された。測定から、かかる針状の成分は、出発セラミックの粒体サイズの増大に伴い、直径も増大することが明らかにされた{Table 3 (表3)}。
【0107】
単一ポイントB.E.T.表面積の測定の場合、サンプルの比表面積(SSA)を、吸着及び離脱が進行するに従い変化するN2/He(30/70)ガスの濃度により、MonosorbTMアナライザー(Quantachrom Instruments社、米国)を用いて測定した。重量が1.0000±0.0001グラムの乾燥サンプルを4.8cm3セルボリューム内に配置する。N2/He (30/70)ガスを140kPaの圧力で適用し、約30分間離脱させる。この操作を3回反復する。
【0108】
サンプルの総細孔面積を、Micromeritics水銀ポロシメーター(AutoPore)を用いて、水銀圧入法により測定した。重量が0.4〜0.7グラムのサンプルを、ステムボリュームが約1.1〜1.2mlの3cm3バルブボリュームペネトロメーター内に配置して、約50〜90%のステムボリュームの利用を実現した。充填されたペネトロメーターを、水銀圧入法の装置内に挿入した(Hg接触角130.000°、Hg比重13.5310g/mL)。排出を50μm Hgを5分間用いて実現し、その後に0.22psiaにて、10秒間平衡化して水銀充填した。
【0109】
BET及び水銀圧入測定から、検討されたセラミックのいずれにおいても、針状体の形成により、比表面積及び総細孔面積それぞれが増加することが明らかになった{Table 3 (表3)}。
【0110】
顆粒上のタンパク質の吸着を2つの溶液について実施した:
・1容積%のウシ胎仔血清(FBS) 及び25ppm NaN3を含有する水溶液。
・400μg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)と25ppm NaN3を含有する水溶液。
【0111】
顆粒上の針密度を、×5000 SEM画像上で目視可能な針の数を計測することにより測定した(ウィンドウサイズ424,6528μm2)。1μm2当たりの密度を計算した。
【0112】
滅菌状態のセラミック顆粒(0.2cc)を、タンパク質溶液2mL中に配置した(5回)。これを、37±0.5℃及び5% CO2にて、1週間インキュベーションした。吸着されたタンパク質(すなわち、血清タンパク質及びアルブミン)を、12時間、1日、4日、及び7日間経過後に、マイクロBCAアッセイキット及び595nmの吸収フィルターを装着した分光光度計を用いて測定した。サンプルにより吸着されたタンパク質(FBSの場合、1cc当たりのμg、及びBSAの場合、1cc当たりのμgで表す)を、FBS及びBSAに関する内部タンパク質校正曲線により見積もった。材料について、処理前後で分析を実施した。
【0113】
図2より、出発材料の種類(すなわち、TCP1050又はTCP1125)とは独立に、水熱処理は、表面積が増加するおかげでタンパク質吸着能を大幅に高めることが明らかである。
【0114】
1.5. 結論
本明細書で試験されたBCPセラミックの水熱処理(例えば、135℃、99分、2〜4バール)は、焼結温度によらず、かかるセラミック上に針状の表面を生み出し、針状体の直径は、処理されるセラミックの粒体サイズに伴い増加する。針状体の形成により、比表面積、総細孔面積、及びその後の総タンパク質吸着量が増加した。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
(実施例2)
HA/TCP比が結晶形成に及ぼす影響
2.1. 二相性リン酸カルシウムセラミックの調製
上記のように、セクション1.1に記載されている手順に従い、様々なHA/TCP含有量比を有するBCP粉末を、セラミックの調製に用いたが、最終セラミックのXRDから、セラミックのHA/TCP含有量比は、セラミックの調製で用いられた出発粉末と比較して変化が無いことが明らかである。
【0119】
2.2. 水熱処理
すべてのセラミックを、次にセクション1.3に記載のプロトコールに従い、「ホット/ロング」の設定で水熱処理した。
【0120】
2.3. 水熱処理したセラミックの特徴付け
SEM分析から、リン酸カルシウム出発セラミックのHA/TCP含有量比は、針状体の成長を決定する際に重要な役割を演ずることが明らかとなった{Table 4 (表4)}。針状体の寸法及び形状は、実施例1で認められたものと同等であった。従って、HA含有量の範囲が狭いことが、針状体の形成の奏功において必要とされる。針状体の形成はBCPセラミックの表面上に限定して生ずるという一般的結論は、β-TCPが100重量%のリン酸カルシウムセラミックの表面上では、水熱処理後に針状体の形成は生じないという観察により実証される。また、HAが100重量%のセラミック上でも、水熱処理後に針状体の形成は生じないことが認められた。
【0121】
2.4. 結論
この実施例及び実施例1から得られた結果によれば、出発セラミックのHA含有量が5〜20%の間であれば、粒体構造の二相性リン酸カルシウムセラミックを水熱処理すると、かかるセラミック上に針状の表面を生成する。
【0122】
【表4】
【0123】
(実施例3)
骨誘導能
3.1. 実験装置
T1050、T1050a、及びT1125a (実施例1で調製したもの)の顆粒(1〜2mm)、1ccを、骨格的に成熟した雑種犬8匹(オス、1〜4歳、体重10〜15kg)の傍脊椎筋肉内に12週間移植して、新規CaPセラミックの組織反応及び骨誘導特性を評価した。針状体のない陰性対照TCPセラミック(TCP陰性対照)を、これらの実験結果の妥当性を確認するのに用いた。
【0124】
3.2. 移植プロトコール
外科手技を、全身麻酔(ペントバルビタールナトリウム、Organon社、オランダ; 30mg kg-1体重)及び滅菌条件下で実施した。イヌの背部を剃毛し、皮膚をヨウ素で洗浄した。縦方向の切開を行い、ブラントセパレーション(blunt separation)により傍脊椎筋肉を露出した。その後、外科用メスを用いて縦方向の筋切開を実施し、ブラントセパレーションにより分離した筋嚢を作成した。次に、複合顆粒を嚢内に配置し、絹製縫合糸を用いて創傷を層状に閉鎖した。手術後、動物は、感染を防止するために、3日間連続して筋肉内ペニシリン注射を受けた。6週間後、すべての動物は、カルセインラベリングにより骨形成の発現時間を試験するために、蛍光色素カルセイン注射(2mg kg-1体重)を受けた。
【0125】
3.3. 採集及び組織学的処理
移植後12週間経過して、動物を屠殺し、周辺組織と共にサンプルを採集し、そして4%の緩衝化ホルムアルデヒド溶液(pH=7.4)内、4℃で1週間固定化した。リン酸バッファー生理食塩水(PBS、Invitrogen社)で水洗後、サンプルを周辺軟組織から切り取り、一連のエタノール溶液(70%、80%、90%、95%、及び100%×2)中で脱水し、そしてメチルメタクリレート(MMA、LTI Nederland社、オランダ)内に包埋した。ダイヤモンドソーミクロトーム(Leica SP1600、Leica Microsystems社、ドイツ)を用いて、非脱灰化組織切片(厚さ10〜20mm)を作製した。1%メチレンブルー(Sigma-Aldrich社)及び0.3%塩基性フクシン(Sigma-Aldrich社)溶液で切片を染色した。
【0126】
3.4. 組織分析
切片を光学顕微鏡(Nikon Eclipse E200、日本)で観察して、組織反応及び骨形成を詳細に分析した。スライドスキャナー(Dimage Scan Elite 5400II、Konica Minolta Photo Imaging社、東京、日本)を用いて染色切片のスキャンを行い、組織形態計測分析を行うための概観画像を取得した。スキャン画像について、Photoshop CS5ソフトウェア(v12、Adobe Systems Benelux BV)を用いて、組織形態計測を実施した。初めに、全サンプルを対象領域として選択し、ピクセル数をROIとして読み取った。次に、材料及び石灰化した骨の両方を偽着色化し、そのピクセルをM及びBとしてそれぞれ読み取った。外植片(Bp)の利用可能空間内の骨の割合(%)を、
Bp = 100 × B / (ROI - M)
として求めた。カルセインラベリングにより骨形成の発現時間を試験するために、未染色の組織切片を、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse E600、日本; camera Nikon FDX-35)にて観察した。画像を曝露時間40〜80msで取得した。骨領域内の蛍光染色率を記録し、サンプル中の蛍光スポット数を計測した。初期の骨形成確率を概略的に示す定量的インデックス(Cfluor)を、
Cfluor = Σ(スポット)m / (蛍光染色率)m
として計算した。ここで、ペディックス(pedix)「m」は検討対象の材料を示す、すなわちm=(T1050、T1050a、T1125a、TCP陰性対照)である。
【0127】
3.5. 結果
材料毎に全部で8サンプルを、8匹のイヌの筋肉内に移植した。12週間後に、材料毎に8サンプルを周辺組織と共に取り出した。いずれの外植片にも炎症は認められなかった。骨の形成は、T1050、T1050a、T1125a、及びT1150aインプラントにおいて生じたが、TCP陰性対照では一切生じなかった{Table 5 (表5)、図3}。12週間で形成された骨の量は、T1050、T1050a、T1125aについて同等であったが、T1150についてよりも有意に多かった。T1050、T1050a、及びT1125aについて蛍光観察を行い、T1125aは、ほとんどの外植片において、6週間よりも早い時期に骨形成の契機をもたらし得るが、T1050及びT1050aは主に6週間以降に骨形成を誘導することが実証された{図4、Table 5 (表5)}。同時に、対照(すなわち、T1050)と比較して、オートクレーブ処理された群(すなわち、T1050a及びT1125a)においてより多くの骨が、第6週目に形成された{Table 5 (表5)}。特に、T1125aは、T1050aと比較してより高い骨形成率を第6週目に示した{Table 5 (表5)}。組織形態計測結果もTable 5 (表5)に要約し、第12週目においては、水熱処理された材料と対照の間で有意差は認めらないことを示している。
【0128】
3.6. 結論
針状体構造(及び大表面積)は、古典的な粒体構造のリン酸カルシウムセラミックと比較して、骨形成を加速させる。
【0129】
【表5】
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5
図6