【文献】
ZHU, Lei et al.,B-cell epitope peptide vaccination targeting dimer interface of epidermal growth factor receptor(EGFR),Immunology Letters,2013年,Vol.153,Pages 33-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒトHER1に結合する単離された抗体を選択する方法であって、該抗体はヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合し、
ここで、
a)配列番号1のアミノ酸配列を含む
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1、
からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドが、a)の下の少なくとも1つのポリペプチドへの結合を示す抗体を選択するために用いられ、
それによって、ヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する抗体を選択する方法。
ヒトHER1に結合する単離された抗体であって、配列番号13のポリペプチド(TtSlyDcys−Her1)に含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合し、
該抗体が、
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240)の(a)HVR−H1;(b)HVR−H2;(c)HVR−H3;(d)HVR−L1;(e)HVR−L2;及び(f)HVR−L3;又は
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241)の(a)HVR−H1;(b)HVR−H2;(c)HVR−H3;(d)HVR−L1;(e)HVR−L2;及び(f)HVR−L3;
を含み、
全てのHVRはカバットに従って決定され、
該抗体がHER2、HER3及び/又はHER4と交差反応性を有さない、抗体。
HER1発現A549細胞(ATCC CCL−185)を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの存在下でHER1の70パーセントを超える内部移行を示し、HER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの非存在下でHER1の55パーセント未満の内部移行を示す、請求項2及び4から7のいずれか一項に記載の単離された抗体。
HER1/HER2及び/又はHER1/HER1二量体化を阻害するための薬剤であって、請求項7から9のいずれか一項に記載の抗体又は請求項12に記載のイムノコンジュゲートを含む、薬剤。
【発明を実施するための形態】
【0052】
I.定義
本明細書において、「アクセプターヒトフレームワーク」は、下に規定されるように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含むことができるか、又はそれはアミノ酸配列変化を含有することができる。一部の実施態様では、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下又は2以下である。一部の実施態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0053】
「親和性成熟」抗体は、そのような改変を有さない親抗体と比較して、1つ又は複数の超可変領域(HVR)に1つ又は複数の改変を有する抗体を指し、そのような改変は抗原への抗体の親和性の向上をもたらす。
【0054】
本明細書で用いる用語「抗原結合性タンパク質」は、本明細書に記載される抗体又は足場の抗原結合性タンパク質を指す。好ましい一実施態様では、抗原結合性タンパク質は、本明細書に記載される抗体である。足場の抗原結合性タンパク質は当該技術分野で公知であり、例えば、フィブロネクチン及び設計されたアンキリン反復配列タンパク質(DARPin)が抗原結合性ドメインの代替の足場として用いられている、例えば、Gebauer及びSkerra、Engineered protein scaffolds as next−generation antibody therapeutics。Curr Opin Chem Biol13:245−255(2009)及びStumpp等、Darpins:A new generation of protein therapeutics。Drug Discov Today 13:695−701(2008)を参照、その両方は出典明示により完全に本明細書に援用される。B.本発明の抗原結合性タンパク質のための親可変ドメイン及び受容体の選択基準。一実施態様では、足場の抗原結合性タンパク質は、CTLA−4(エビボディ);リポカリン;プロテインA由来の分子、例えばプロテインAのZ−ドメイン(アフィボディ、SpA)、A−ドメイン(アビマー/マキシボディ);熱ショックタンパク質、例えばGroEI及びGroES;トランスフェリン(トランス体);アンキリン反復配列タンパク質(DARPin);ペプチドアプタマー;C型レクチンドメイン(テトラネクチン);ヒト.ガンマ.−クリスタリン及びヒトユビキチン(アフィリン);PDZドメイン;ヒトプロテアーゼ阻害剤のサソリ毒クニッツ型ドメイン;並びにフィブロネクチン(アドネクチン);からなる群から選択され、これらは、天然リガンド以外のリガンドへの結合を得るために、タンパク質工学にかけられた。
【0055】
CTLA−4(細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4)は、主にCD4+T細胞で発現されるCD28ファミリーの受容体である。その細胞外ドメインは、可変ドメイン様のIgひだを有する。異なる結合特性を付与するために、抗体のCDRに対応するループは異種配列で置換されてもよい。異なる結合特異性を有するように操作されたCTLA−4分子は、エビボディとしても知られる。詳しくは、Journal of Immunological Methods248(1−2)、31−45(2001)を参照されたい。
【0056】
リポカリンは、ステロイド、ビリン、レチノイド及び脂質などの小さい疎水性分子を運搬する細胞外タンパク質のファミリーである。それらは、異なる標的抗原に結合するように操作することができる、円錐構造の開放端にいくつかのループを有する、強固なベータシート二次構造を有する。アンチカリンはサイズが160−180アミノ酸であり、リポカリンに由来する。詳しくは、Biochim Biophys Acta 1482:337−350(2000)、米国特許第7250297B1号及び米国特許出願公開第20070224633号を参照されたい。
【0057】
アフィボディは、抗原に結合するように操作することができる、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAに由来する足場である。このドメインは、概ね58アミノ酸の3螺旋束からなる。表面残基のランダム化によって、ライブラリーが生成されている。詳しくは、Protein Eng.Des.SeI.17、455−462(2004)及び欧州特許出願公開第1641818A1号を参照されたい。アビマーは、Aドメイン足場ファミリーに由来する多ドメインタンパク質である。概ね35アミノ酸の天然ドメインは、規定のジスルフィド結合構造を採用する。多様性は、Aドメインのファミリーが示す天然の変異のシャッフリングによって生成される。詳しくは、Nature Biotechnology23(12)、1556−1561(2005)及びExpert Opinion on Investigational Drugs16(6)、909−917(June 2007)を参照されたい。
【0058】
トランスフェリンは、モノマーの血清輸送糖タンパク質である。トランスフェリンは、許容表面ループ中のペプチド配列の挿入によって異なる標的抗原に結合するように操作することができる。操作されたトランスフェリン足場の例には、トランス体が含まれる。詳しくは、J.Biol.Chem274、24066−24073(1999)を参照されたい。
【0059】
設計されたアンキリン反復配列タンパク質(DARPin)は、細胞骨格への必要不可欠な膜タンパク質の結合を媒介するタンパク質のファミリーであるアンキリンに由来する。単一のアンキリン反復配列は、2つのアルファヘリックス及びベータターンからなる33残基のモチーフである。それらは、各反復配列の第1のアルファヘリックス及びベータターンの残基をランダム化することによって異なる標的抗原に結合するように操作することができる。それらの結合界面は、モジュールの数を増加することによって増加することができる(親和性成熟の方法)。詳しくは、J.MoI.Biol.332、489−503(2003)、PNAS100(4)、1700−1705(2003)及びJ.MoI.Biol.369、1015−1028(2007)及び米国特許出願公開第20040132028A1号を参照されたい。
【0060】
フィブロネクチンは、抗原に結合するように操作することができる足場である。アドネクチンは、ヒトフィブロネクチンIII型(FN3)の15反復単位の第10ドメインの天然のアミノ酸配列の骨格からなる。ベータサンドイッチの一端の3つのループは、アドネクチンが目的の治療標的を特異的に認識することを可能にするように操作することができる。詳しくは、Protein Eng.Des.SeI.18、435−444(2005)、米国特許出願公開第20080139791号、国際公開第2005056764号及び米国特許第6818418B1号を参照されたい。
【0061】
ペプチドアプタマーは、定常足場タンパク質、一般的に活性部位に挿入される抑制された可変ペプチドループを含有するチオレドキシン(TrxA)からなるコンビナトリアル認識分子である。詳しくは、Expert Opin.Biol.Ther.5、783−797(2005)を参照されたい。
【0062】
ミクロボディーは、3−4システイン架橋を含有する長さが25−50アミノ酸の天然に存在する微小タンパク質に由来する−微小タンパク質の例にはKalataBI及びコノトキシン及びノッチンが含まれる。微小タンパク質は、微小タンパク質の全体のひだに影響することなく最高25個のアミノ酸を含むように操作することができるループを有する。操作されたノッチンドメインの詳細については、国際公開第2008098796号を参照されたい。
【0063】
他の抗原結合性タンパク質には、異なる標的抗原結合特性を操作するための足場として用いられているタンパク質、例えば、ヒトガンマ−クリスタリン及びヒトユビキチン(アフィリン)、ヒトプロテアーゼ阻害剤のクニッツ型のドメイン、Ras結合性タンパク質AF−6のPDZドメイン、サソリ毒(カリブドトキシン)、C型レクチンドメイン(テトラネクチン)が含まれ、Handbook of Therapeutic Antibodies(2007、Stefan Dubel編)からのChapter7−Non−Antibody Scaffolds及びProtein Science15:14−27(2006)でレビューされている。本発明のエピトープ結合性ドメインは、これらの代替タンパク質ドメインのいずれに由来してもよい。
【0064】
用語「抗HER1抗原結合性タンパク質」、「(ヒト)HER1に結合する抗原結合性タンパク質」及び「ヒトHER1に特異的に結合する抗原結合性タンパク質」は、抗原結合性タンパク質がHER1を標的にすることにおいて診断薬及び/又は治療剤として有益であるように、十分な親和性でHER1に結合することが可能である抗原結合性タンパク質を指す。一実施態様では、例えば表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIACORE)で測定したときの、無関係な非HER1タンパク質への抗HER1抗原結合性タンパク質の結合の程度は、HER1への抗原結合性タンパク質の結合の約10%未満である。ある特定の実施態様では、ヒトHER1に結合する抗原結合性タンパク質は、ヒトHER1への結合に関して≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば、10
−8M以下、例えば10
−8Mから10
−13M、例えば10
−9Mから10
−13M)の結合親和性のKD値を有する。好ましい一実施態様では、結合親和性のそれぞれのKD値は、HER1結合親和性のためのヒトHER1(HER1−ECD)の野生型細胞外ドメイン(ECD)を用いる表面プラズモン共鳴アッセイで判定される。
【0065】
用語「抗HER1抗体」、「(ヒト)HER1に結合する抗体」及び「ヒトHER1に特異的に結合する抗体」は、抗体がHER1を標的にすることにおいて診断薬及び/又は治療剤として有益であるように、十分な親和性でHER1に結合することが可能である抗体を指す。一実施態様では、例えば表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIACORE)で測定したときの、無関係な非HER1タンパク質への抗HER1抗体の結合の程度は、HER1への抗体の結合の約10%未満である。ある特定の実施態様では、ヒトHER1に結合する抗体は、ヒトHER1への結合に関して≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば、10
−8M以下、例えば10
−8Mから10
−13M、例えば10
−9Mから10
−13M)の結合親和性のKD値を有する。好ましい一実施態様では、結合親和性のそれぞれのKD値は、HER1結合親和性のためのヒトHER1(HER1−ECD)の野生型細胞外ドメイン(ECD)を用いる表面プラズモン共鳴アッセイで判定される。
【0066】
本明細書で用いる用語「活性化HER1中のアミノ酸配列の配列番号1に結合する抗HER1抗原結合性タンパク質又は抗HER1抗体」は、ヒトHER1−ECDに含まれるアミノ酸配列の配列番号1に結合する抗HER1抗原結合性タンパク質又は抗HER1抗体を指す。
【0067】
好ましい一実施態様では、本明細書で用いる用語「アミノ酸配列の配列番号1に結合する抗HER1抗原結合性タンパク質又は抗HER1抗体」は、配列番号13のポリペプチド(TtSlyDcys−HER1)に含まれるアミノ酸配列の配列番号1に結合する抗HER1抗原結合性タンパク質又は抗HER1抗体を指す。
【0068】
一実施態様では、用語「活性化HER1中のアミノ酸配列の配列番号1に結合する抗HER1抗原結合性タンパク質又は抗HER1抗体」は、配列番号13のポリペプチド(TtSlyDcys−HER1)に含まれるアミノ酸配列の配列番号1に結合する抗HER1抗原結合性タンパク質又は抗HER1抗体を指す。
【0069】
本明細書において、用語「抗体」は最も広い意味で用いられ、限定されずにモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び、それらが所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片を含む、様々な抗体構造物を包含する。
【0070】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例には、限定されずに、Fv、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’)
2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えばscFv);及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0071】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」は、競合アッセイにおいてその抗原への参照抗体の結合を50%以上ブロックする抗体を指し、反対に、参照抗体は競合アッセイにおいてその抗原へのその抗体の結合を50%以上ブロックする。例示的な競合アッセイが、本明細書で提供される。
【0072】
用語「それがヒトHER2、HER3及び/又はHER4の細胞外ドメイン(ECD)と交差反応しないとき、すなわち、表面プラズモン共鳴アッセイで測定される結合性シグナル(相対単位(RU)の)がバックグラウンドシグナル(ノイズ)の3倍未満であるとき(例えば、抗原としてヒトHER2、HER3及び/又はHER4−ECDが可溶型被分析物[0]として注入される固定化(例えば捕捉された)抗体により25℃で)、(ヒト)HER2、HER3及び/又はHER4と交差反応性を有する/示す(又は代わりに交差反応する)抗体(又は抗原結合性タンパク質)。
【0073】
本明細書で用いる用語「がん」は、例えば、肺がん、非小細胞肺(NSCL)がん、細気管支肺胞上皮細胞肺がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頚部がん、皮膚若しくは眼内黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門部のがん、腹部がん、胃がん、結腸がん、乳がん、子宮がん、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系のがん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、膀胱がん、腎臓若しくは尿管がん、腎細胞癌、腎盂癌、中皮腫、肝細胞がん、胆道がん、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、多形性神経膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣細胞腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、リンパ腫、リンパ性白血病、並びに上記のがんのいずれかの難治性型のもの、又は上記のがんの1つ又は複数の組合せであってもよい。好ましい一実施態様では、そのようながんは、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、肺がん又は前立腺がんである。好ましい一実施態様では、そのようながんは、HER1の発現又は過剰発現でさらに特徴付けられる。さらなる一実施態様では、本発明は、原発腫瘍及び新規転移の同時治療で用いるための本発明の抗HER1抗体である。
【0074】
用語「キメラ」抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部は特定の供給源又は種に由来するが、重鎖及び/又は軽鎖の残部は異なる供給源又は種に由来する抗体を指す。
【0075】
抗体の「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4、IgA
1及びIgA
2にさらに分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、α、δ、ε、γ及びμとそれぞれ呼ばれている。
【0076】
本明細書で用いられる用語「細胞傷害性剤」は、細胞の機能を阻害若しくは阻止し、及び/又は細胞の死若しくは破壊を引き起こす物質を指す。細胞傷害性剤には、限定されずに、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体);化学療法の剤又は薬物(例えば、メトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤);成長阻害剤;核酸分解酵素などの酵素及びその断片;抗生物質;その断片及び/又は変異体を含む毒素、例えば小分子毒素又は細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素活性毒素;並びに下で開示される様々な抗腫瘍又は抗がん剤が含まれる。好ましい一実施態様では、「細胞傷害性剤」はシュードモナス外毒素A又はその変異体である。好ましい一実施態様では、「細胞傷害性剤」はアマトキシン又はその変異体である。
【0077】
本明細書で用いる用語「寄託された抗体」は、呼称及び寄託番号によって識別されるそれぞれの寄託されたハイブリドーマ細胞によって生成される抗体を指す。下の生体物質の寄託も参照されたい。
【0078】
「エフェクター機能」は、抗体アイソタイプによって異なる、抗体のFc領域に帰せられる生物活性を指す。抗体のエフェクター機能の例には、以下のものが含まれる:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;及びB細胞活性化。
【0079】
薬剤、例えば薬学的製剤の「有効量」は、必要な投薬量及び期間で、所望の治療的又は予防的結果を達成するのに有効な量を指す。
【0080】
用語「エピトープ」には、抗体への特異的結合が可能である任意のポリペプチド決定因子が含まれる。ある特定の実施態様では、エピトープ決定因子は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニルなどの分子の化学的活性表面基を含み、ある特定の実施態様では、特異的3次元構造特徴及び又は特異的荷電特徴を有することができる。エピトープは、抗体が結合する抗原の領域である。
【0081】
本明細書の用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために用いられる。この用語は、天然配列のFc領域及び変異Fc領域を含む。一実施態様では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から、又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで伸びている。しかし、Fc領域のC末端のリジン(Lys447)は、存在しても存在しなくてもよい。本明細書で特記されない限り、Fc領域又は定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat,E.A.等、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)、NIH Publication 91−3242に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付け系による。
【0082】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4から一般になる。したがって、HVR及びFR配列は、VH(又はVL)において以下の配列で一般に出現する:FR1−H1(L1)−FR2−H2(L2)−FR3−H3(L3)−FR4。
【0083】
本明細書において、用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は互換的に使用されて、天然の抗体構造に実質的に類似した構造を有するか、又は本明細書に規定されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指す。
【0084】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養」は互換的に使用されて、そのような細胞の子孫を含む、外因性の核酸が導入された細胞を指す。宿主細胞には「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、それらには、一次形質転換細胞及び継代数に関係なくそれに由来する子孫が含まれる。子孫は親細胞と核酸内容が完全に同一でなくてもよく、突然変異を含有することができる。当初形質転換された細胞でスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物活性を有する突然変異体子孫が、本明細書に含まれる。
【0085】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞によって生成される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列、又はヒト抗体レパートリー、若しくは他のヒト抗体をコードする配列を利用する、ヒト以外の供給源に由来するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、ヒト以外の抗原結合残基を含むヒト化抗体を特異的に排除する。
【0086】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、一連のヒト免疫グロブリンのVL又はVHフレームワーク配列で最も一般的に見られるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンのVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。一般に、配列のサブグループは、Kabat,E.A.等、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Bethesda MD(1991)、NIH Publication 91−3242、1−3巻の中のサブグループである。一実施態様では、VLについては、サブグループは、上記のカバット等におけるサブグループカッパIである。一実施態様では、VHについては、サブグループは、上記のカバット等におけるサブグループIIIである。
【0087】
「ヒト化」抗体は、ヒト以外のHVRからのアミノ酸残基及びヒトFRからのアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。ある特定の実施態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、及び一般的に2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、そこにおいて、HVR(例えばCDR)の全て又は実質的に全てはヒト以外の抗体のそれらに対応し、FRの全て又は実質的に全てはヒト抗体のそれらに対応する。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を任意選択的に含むことができる。抗体、例えばヒト以外の抗体の「ヒト化変異体」は、ヒト化を経た抗体を指す。好ましい一実施態様では、「ヒト化抗体」を調製するために、マウスHVRがヒト抗体のフレームワーク領域に接がれる。例えばRiechmann,L.等、Nature332(1988)323−327;及びNeuberger,M.S.等、Nature314(1985)268−270を参照されたい。マウスの可変領域アミノ酸配列はヒト生殖系列抗体V遺伝子の集合と整列させられ、配列同一性及び相同性によって選別される。アクセプター配列は、高い全体的配列相同性、及び任意選択的にアクセプター配列中に正しい正規の残基が既に存在することにも基づいて選択される(Poul, M-A.及びLefranc, M-P., in "Ingenierie des anticorps banques combinatores"、Lefranc, M-P.及びLefranc, G.編、Les Editions INSERM、1997を参照されたい)。生殖系列V遺伝子は、重鎖についてはHVR3の始めまで、及び軽鎖のHVR3の中央までの領域だけをコードする。したがって、生殖系列V遺伝子の遺伝子は、全Vドメインにわたっては整列させられない。ヒト化コンストラクトは、軽鎖及び重鎖のために、ヒトフレームワーク1−3、マウスのHVR、並びにヒトJK4及びJH4配列に由来するヒトフレームワーク4配列をそれぞれ含む。1つの特定のアクセプター配列を選択する前に、ドナー抗体のいわゆる正規ループ構造を決定することができる(Morea, V.等、 Methods、20巻、3版(2000) 267-279を参照する)。これらの正規ループ構造は、いわゆる正規の位置に存在する残基のタイプによって決定される。これらの位置はHVR領域の外にあり(部分的に)、親の(ドナー)抗体のHVR立体配置を保持するために、最終コンストラクトにおいて機能的に同等に保たれるべきである。国際公開第2004/006955号では、非ヒト成熟抗体のHVRの正規のHVR構造タイプを特定する工程;ヒト抗体可変領域のペプチド配列のライブラリーを得る工程;ライブラリー中の可変領域の正規のHVR構造タイプを決定する工程;及び非ヒト及びヒト可変領域の中の対応する位置で正規のHVR構造が非ヒト抗体の正規のHVR構造タイプと同じであるヒト配列を選択する工程を含む、抗体のヒト化方法が報告されている。要約すると、可能なアクセプター配列は、高い全体的相同性、及び任意選択的にさらにアクセプター配列中に正しい正規の残基が既に存在することに基づいて選択される。一部の場合には、単純なHVRグラフティングは、非ヒト抗体の結合特異性の部分的保持をもたらすだけである。結合特異性を再構成するために少なくともいくつかの特異的非ヒトフレームワーク残基が必要とされ、ヒトフレームワークにも接がれなければならないこと、すなわち、非ヒトHVRの導入に加えていわゆる「復帰突然変異」も実行しなければならないことが分かっている(例えば、Queen等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10、029-10、033;Co等、Nature 351 (1991) 501-502を参照されたい)。これらの特異的フレームワークアミノ酸残基はFR−HVR相互作用に加わり、HVRの立体配置(ループ)を安定させた(例えば、Kabat等、J. Immunol. 147 (1991) 1709を参照されたい)。一部の場合には、ヒト生殖系列配列をより緊密に採用するために正突然変異も導入される。したがって、「本発明による抗体のヒト化変異体」(それは、例えばマウス起源である)は、VH及びVLが上記の標準技術(HVRグラフティング、並びに任意選択的にフレームワーク領域及びHVR−H1、HVR−H2、HVR−L1又はHVR−L2のある特定のアミノ酸の以降の突然変異誘発を含むが、HVR−H3及びHVR−L3は未改変のままである)によってヒト化されるマウス抗体配列に基づく抗体を指す。
【0088】
本明細書で用いる用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列が超可変である(「相補性決定領域」又は「CDR」)及び/又は構造的に規定されたループを形成する(「超可変ループ」)及び/又は抗原接触残基を含有する(「抗原接触部」)抗体可変ドメインの領域の各々を指す。一般に、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)及びVLに3つ(L1、L2、L3)。本明細書において、例示的なHVRには、以下のものが含まれる:
(a)アミノ酸残基26−32(L1)、50−52(L2)、91−96(L3)、26−32(H1)、53−55(H2)及び96−101(H3)で見られる超可変ループ(Chothia及びLesk、J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b)アミノ酸残基24−34(L1)、50−56(L2)、89−97(L3)、31−35b(H1)、50−65(H2)及び95−102(H3)で見られるCDR(Kabat等、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD (1991));
(c)アミノ酸残基27c−36(L1)、46−55(L2)、89−96(L3)、30−35b(H1)、47−58(H2)及び93−101(H3)で見られる抗原接触部(MacCallum等、J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));及び
(d)HVRアミノ酸残基46−56(L2)、47−56(L2)、48−56(L2)、49−56(L2)、26−35(H1)、26−35b(H1)、49−65(H2)、93−102(H3)及び94−102(H3)を含む(a)、(b)及び/又は(c)の組合せ。
【0089】
別途指示がない限り、本明細書において、可変ドメイン中のHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、上記のカバット等に従って番号付けされる。
【0090】
好ましくは、HVRはアミノ酸残基24−34(L1)、50−56(L2)、89−97(L3)、31−35b(H1)、50−65(H2)及び95−102(H3)(Kabat等、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD (1991))に存在するCDRを指す、すなわちHVRはカバットに従って決定される。
【0091】
「イムノコンジュゲート」は、限定されずに細胞傷害性剤を含む1つ又は複数の異種分子にコンジュゲートされる抗体である。
【0092】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されずに、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれる。ある特定の実施態様では、個体又は対象はヒトである。
【0093】
「単離」抗体は、その天然の環境の構成要素から分離されたものである。一部の実施態様では、抗体は、例えば電気泳動(例えば、SDS−PAGE、等電点電気泳動(IEF)、毛細管電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)によって判定したときに、95%又は99%を超える純度まで精製される。抗体純度の調べるための方法の概説については、例えば、Flatman,S.等、J.Chromatogr.B 848(2007)79−87を参照されたい。
【0094】
「単離」核酸は、その天然の環境の構成要素から分離された核酸分子を指す。単離核酸には、その核酸分子を通常含有する細胞に含有される核酸分子が含まれるが、その核酸分子は染色体外に存在するか又はその天然の染色体位置と異なる染色体位置に存在する。
【0095】
「抗HER1抗体をコードする単離核酸」は、単一のベクター又は別個のベクター中のそのような核酸分子(複数可)を含む、抗体重鎖及び軽鎖(又はその断片)をコードする1つ又は複数の核酸分子を指し、そのような核酸分子(複数可)は宿主細胞の1つ又は複数の位置に存在する。
【0096】
本明細書で用いられる用語「モノクローナル抗体」は、可能な変異体抗体、例えば天然に存在する突然変異を含有するか又はモノクローナル抗体調製物の生成の間に生じる、一般に少量存在する変異体を除いて、実質的に均一な抗体の集団、すなわち集団を構成する個々の抗体が同一であり及び/又は同じエピトープに結合する集団から得られる抗体を指す。異なる決定因子(エピトープ)に対する異なる抗体を一般的に含むポリクローナル抗体調製物と対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定因子に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の性格を示し、いかなる特定の方法による抗体の生成を必要とするものと解釈するべきでない。例えば、本発明に従って用いられるモノクローナル抗体は、限定されずに、ハイブリドーマ方法、組換えDNA方法、ファージディスプレイ方法及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含む様々な技術によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法及び他の例示的な方法は本明細書に記載される。
【0097】
用語「Mab」はモノクローナル抗体を指すが、用語「hMab」はそのようなモノクローナル抗体のヒト化変異体を指す。
【0098】
「ネイキッド抗体」は、異種部分(例えば、細胞傷害性部分)とコンジュゲートしていなく、放射標識されてもいない抗体を指す。ネイキッド抗体は、薬学的製剤中に存在していてよい(先行技術がイムノコンジュゲートを有する場合、含む)。
【0099】
「天然の抗体」は、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然のIgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖で構成される、約150,000ダルトンのヘテロテトラマー糖タンパク質である。N末端からC末端にかけて、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)、続いて3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端にかけて、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)、続いて定常軽鎖(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプの1つに割り当てることができる。
【0100】
用語「添付文書」は、適応症、使用法、投薬量、投与、併用療法、禁忌症及び/又はそのような治療製品の使用に関する警告に関する情報を含む、治療製品の市販パッケージに慣習的に含まれる説明書を指すために用いられる。
【0101】
参照ポリペプチド配列に関して「アミノ酸配列パーセント(%)同一性」は、いかなる保存的置換も配列同一性の一部とみなさずに、最大のパーセント配列同一性を達成するために配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入した後の、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の百分率と規定される。アミノ酸配列パーセント同一性を判定するためのアラインメントは、当該分野の技術の範囲内である様々な方法で、例えば公開されているコンピュータソフトウェア、例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを用いて達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含め、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかし、本明細書において、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN−2を用いて生成される。ALIGN−2配列比較コンピュータプログラムはGenentech,Inc.によって書かれ、ソースコードはU.S.Copyright Office、Washington D.C.、20559の利用者文書に提出され、そこにおいてそれは米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN−2プログラムは、Genentech,Inc.、South San Francisco、Californiaから公開されているか、又はソースコードからコンパイルすることができる。ALIGN−2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含む、UNIXオペレーティングシステムで用いるためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータはALIGN−2プログラムによって設定され、変更されない。
【0102】
ALIGN−2がアミノ酸配列比較のために用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Bへの、それとの又はそれに対する所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列%同一性(それは、代わりに、所与のアミノ酸配列Bに、それと又はそれに対してある特定のアミノ酸配列%同一性を有するか含む所与のアミノ酸配列Aと言い表すことができる)は、以下の通りに計算され:
分数X/Y×100
上式で、XはAとBのそのプログラムのアラインメントにおいて配列アラインメントプログラムALIGN−2により同一の組合せとして評価されるアミノ酸残基の数であり、YはBの中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合は、AのBとのアミノ酸配列%同一性は、BのAとのアミノ酸配列%同一性と等しくない。特記されていない限り、本明細書で用いられる全てのアミノ酸配列同一性%値は、ALIGN−2コンピュータプログラムを用いて直前の段落に記載の通りに得られる。
【0103】
用語「薬学的製剤」は、そこに含まれる有効成分の生物活性を有効にするような形であり、製剤が投与される対象に許容されないほど毒性である追加の成分を含有しない調製物を指す。
【0104】
「薬学的に許容される担体」は、薬学的製剤中の、有効成分以外の対象に無毒である成分を指す。薬学的に許容される担体には、限定されずに、バッファー、賦形剤、安定剤又は保存剤が含まれる。
【0105】
別途指示がない限り、本明細書で用いられる用語「HER1」は、霊長類などの哺乳動物(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む任意の脊椎動物源からの任意の天然のHER1を指す。本用語は、「完全長」の未処理のHER1に加えて、細胞でのプロセシングからもたらされる任意の形のHER1を包含する。本用語は、HER1の天然に存在する変異体、例えばスプライスバリアント又は対立遺伝子変異体も包含する。例示的なヒトHER1のアミノ酸配列を、配列番号2に示す。「ヒトHER1」(別名上皮増殖因子受容体EGFR又はErb−B1)は、c−erbBがん原遺伝子によってコードされる170kDa膜貫通型受容体であり、固有のチロシンキナーゼ活性を示す(Modjtahedi, H.等、Br. J. Cancer 73 (1996) 228-235;Herbst, R.S.及びShin, D.M.、Cancer 94 (2002) 1593-1611)。SwissProtデータベースエントリー番号P00533は、HER1の配列を提供する(配列番号2)。限定されずにSwissprotデータベースエントリー番号P00533−1、P00533−2、P00533−3及びP00533−4によって特定されるものを含む、HER1のアイソフォーム及び変異体(例えば、代替RNA転写物、切除型、多型等)もある。HER1は、α)、上皮増殖因子(EGF)(配列番号4)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF)、アンフィレグリン、ヘパリン結合性EGF(hb−EGF)、ベータセルリン及びエピレグリンを含むリガンドに結合することが公知である(Herbst, R.S.及びShin, D.M.、Cancer 94 (2002) 1593-1611;Mendelsohn, J.及びBaselga, J.、Oncogene 19 (2000) 6550-6565)。HER1は、細胞の増殖、分化、細胞生存、アポトーシス、血管新生、有糸分裂及び転移をコントロールするシグナル伝達経路の活性化を限定されずに含む、チロシンキナーゼ媒介シグナル伝達経路を通して多数の細胞プロセスを調節する(Atalay, G.等、Ann. Oncology 14 (2003) 1346-1363;Tsao, A.S.及びHerbst, R.S.、Signal 4 (2003) 4-9;Herbst, R.S.及びShin, D.M.、Cancer 94 (2002) 1593-1611;Modjtahedi, H.等、Br. J. Cancer 73 (1996) 228-235)。本明細書で用いる用語「上皮増殖因子」(EGF)は、ヒト上皮増殖因子(EGF、hEGF)(配列番号4)を指す。
【0106】
興味深いことに、その平衡状態において、HER1受容体はその「閉鎖的立体配置」で存在し、それは、二量体化HER1ベータ−ヘアピンモチーフが非共有結合的性相互作用を介してHER1 ECDドメインIVに連結されることを意味する(
図1及びLemmon, MA、"Ligand-induced ErbB receptor dimerization" Exp Cell Res. Feb 15、2009; 315(4): 638-648の全論文を参照されたい)。「閉鎖的」HER1立体配置は、特異的HER1 EGF結合部位でのリガンドEGF(配列番号4)の結合を介して開放することができると想定されている。HER1 ECDのドメインI及びドメインIIIによって形成されるHER1界面で、これは起こる。この相互作用によって、HER1受容体が活性化されてその「開放的立体配置」に変えられると、考えられている(
図1を参照されたい)。この開放的立体配置で、別のHER1分子とのホモ二量体化又はHERファミリーの別のメンバーとのヘテロ二量体化、及びシグナル誘導(Lemmon, MA、Exp Cell Res. Feb 15、2009; 315(4): 638-648)。
【0107】
本明細書で用いるように、「治療」(及び「治療する」又は「治療すること」などの文法上のその変異体)は、治療する個体の自然経過を変化させる企てにおける臨床介入を指し、予防のために、又は臨床病理の過程で実施することができる。治療の望ましい効果には、限定されずに、疾患の発生又は再発を予防すること、症候の緩和、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的帰結の減少、転移の予防、疾患進行の速度を低下させること、病態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。一部の実施態様では、本発明の抗体は、疾患の発達を遅延させるために、又は疾患の進行を遅くするために用いられる。
【0108】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗原への抗体の結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれ、VH及びVL)は類似の構造を一般に有し、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域(FR)及び3つの超可変領域(HVR)を含む。(例えば、Kindt, T.J.等、Kuby Immunology、6版、W.H. Freeman and Co.、N.Y. (2007)、 p91を参照されたい)。抗原結合特異性を付与するのに、単一のVH又はVLドメインで十分なことがある。さらに、相補的なVL又はVHドメインのライブラリーをそれぞれスクリーニングするために、抗原に結合する抗体からのVH又はVLドメインを用いて、特定の抗原に結合する抗体を単離することができる。例えば、Portolano, S.等、J. Immunol. 150 (1993) 880-887;Clackson, T.等、Nature 352 (1991) 624-628を参照されたい)。
【0109】
本明細書で用いるように、用語「ベクター」は、それが結合する別の核酸を増殖させることが可能な核酸分子を指す。本用語は、自己複製する核酸構造としてのベクター、並びにそれが導入されている宿主細胞のゲノムに組み込まれるベクターを含む。ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている核酸の発現を導くことが可能である。そのようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0110】
II.組成物及び方法
一態様では、本発明は、SlyD足場の中に三次元配向で機能的に提示されるHER1のベータ−ヘアピン(例えば、
図2、並びに配列番号12から16及び18のポリペプチドを参照されたい)を用いることによって、HER1のベータ−ヘアピンに特異的である(及びHER2、HER3及び/又はHER4と交差反応しない)抗体を選択することが可能であったとの知見に一部基づく。
【0111】
ある特定の実施態様では、本発明はヒトHER1に結合する抗体を提供し、抗体はヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する。
【0112】
本発明の抗体は、例えば、がんの診断又は治療のために有益である。
【0113】
A.例示的な抗HER1抗原結合性タンパク質及び抗体
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗原結合性タンパク質を提供し、抗原結合性タンパク質は以下からなる群から選択されるポリペプチドに結合する:
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1。
【0114】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗原結合性タンパク質をさらに提供し、抗原結合性タンパク質は、以下からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する:
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1。
【0115】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗原結合性タンパク質をさらに提供し、
a)抗原結合性タンパク質は、
配列番号13 TtSlyDcys−Her1
のポリペプチドに結合する。
【0116】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗原結合性タンパク質をさらに提供し、
抗原結合性タンパク質は、ELISAアッセイで、
配列番号13 TtSlyDcys−Her1
のポリペプチドに、
配列番号11 TtSlyDcas
のポリペプチドへの結合と比較して少なくとも50倍高いELISAシグナル(好ましくは少なくとも100倍高く、別の好ましい実施態様では少なくとも500倍高い)で結合し、ここで、TtSlyDcys−HER1及びTtSlyDcasは0.5μg/mlの濃度で固定化されている。
【0117】
好ましくは、ELISAシグナルは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識F(ab’)
2ヤギ抗マウスFcγで検出され、2,2’−アジノ−ジ−[3−エチルベンズチアゾリンスルホネート(6)]二アンモニウム塩(ABTS)がHRP基質として用いられた。
【0118】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗原結合性タンパク質をさらに提供し、
a)抗原結合性タンパク質は、配列番号13のポリペプチド(TtSlyDcys−Her1)に含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する。
【0119】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗体を提供し、
a)抗体は以下からなる群から選択されるポリペプチドに結合する:
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1。
【0120】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗体をさらに提供し、
a)抗体は以下からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する:
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1。
【0121】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗体をさらに提供し、
a)抗体は、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1
のポリペプチドに結合する。
【0122】
本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗体をさらに提供し、
a)抗体は、配列番号13のポリペプチド(TtSlyDcys−Her1)に含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する。
【0123】
一態様では、本発明はヒトHER1に結合する単離された抗体を提供し、抗体はヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する。
【0124】
ある特定の実施態様では、本発明はヒトHER1に結合する単離された抗体を提供し、抗体は以下の特性(各単一の特性の各組合せも本明細書で企図される)の1つ又は複数を有する:
a)抗体は配列番号1のアミノ酸配列に結合する;並びに/又は
b)抗体は活性化HER1のアミノ酸配列の配列番号1に結合する;並びに/又は
c)抗体は、
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する、
並びに/又は
d)HER1のβ−ヘアピン領域に結合する;並びに/又は
e)HER1/HER2ヘテロダイマーのヘテロ二量体化を阻害する;並びに/又は
f)HER2、HER3及び/若しくはHER4と交差反応性を有さない;並びに/又は
g)抗体はアミノ酸配列TYQMDVNPEG(配列番号19)を含む15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する;並びに/又は
h)TYQMDVNPEG(配列番号19)からなるポリペプチドに結合する;並びに/又は
i)抗体はアミノ酸配列MLYNPTTYQ(配列番号20)を含む15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する;並びに/又は
j)MLYNPTTYQ(配列番号20)からなるポリペプチドに結合する;並びに/又は
k)EGFの非存在下でA549がん細胞においてHER1のリン酸化を誘導しない(実施例6を参照されたい);並びに/又は
l)EGFの非存在下でHER1のリン酸化に関して非アゴニスト抗体である(実施例6を参照されたい);並びに/又は
m)HER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの存在下でHER1の70パーセントを超える内部移行を示し、HER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの非存在下でHER1の55パーセント未満の内部移行を示す(実施例5を参照されたい)。
【0125】
ある特定の実施態様では、本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗体を提供し、抗体はアミノ酸配列MLYNPTTYQ(配列番号20)を含む15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する。
【0126】
ある特定の実施態様では、本発明は、ヒトHER1に結合する単離された抗体を提供し、抗体はアミノ酸配列TYQMDVNPEG(配列番号19)を含む15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する。
【0127】
一態様では、本発明は、以下からなる群から選択される全部で6つのHVRを含む抗HER1抗体を提供する:
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241);
iii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);及び
iv)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239)。
【0128】
好ましくは、HVRはカバットに従って決定される。
【0129】
好ましい一実施態様では、本発明は、以下からなる群から選択される全部で6つのHVRを含む抗HER1抗体を提供する:
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);及び
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241)。
【0130】
好ましくは、HVRはカバットに従って決定される。
【0131】
一態様では、本発明は、
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241);
iii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);及び
iv)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239)
からなる群から選択される全部で6つのHVRを含む抗HER1抗体を提供し、抗体は、以下の特性の1つ又は複数を有する:
a)抗体は配列番号1のアミノ酸配列に結合する;並びに/又は
b)抗体は活性化HER1のアミノ酸配列の配列番号1に結合する;並びに/又は
c)抗体は、
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1、
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する、
並びに/又は
d)HER1のβ−ヘアピン領域に結合する;並びに/又は
e)HER1/HER2ヘテロダイマーのヘテロ二量体化を阻害する;並びに/又は
f)HER2、HER3及び/又はHER4と交差反応性を有さない;並びに/又は
g)抗体はアミノ酸配列TYQMDVNPEG(配列番号19)を含む15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する;並びに/又は
h)TYQMDVNPEG(配列番号19)からなるポリペプチドに結合する;並びに/又は
i)抗体はアミノ酸配列MLYNPTTYQ(配列番号20)を含む15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する;並びに/又は
j)MLYNPTTYQ(配列番号20)からなるポリペプチドに結合する;並びに/又は
k)EGFの非存在下でA549がん細胞においてHER1のリン酸化を誘導しない(実施例6を参照);並びに/又は
l)EGFの非存在下でHER1のリン酸化に関して非アゴニスト抗体である(実施例6を参照されたい);並びに/又は
m)HER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの存在下でHER1の70パーセントを超える内部移行を示し、HER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの非存在下でHER1の55パーセント未満の内部移行を示す(実施例5を参照されたい)。
【0132】
好ましくは、HVRはカバットに従って決定される。
【0133】
さらなる態様では、本発明は、本明細書で提供される抗HER1抗体と同じエピトープに結合する抗体を提供する。例えば、ある特定の実施態様では、以下からなる群から選択される抗HER1抗体と同じエピトープに結合する抗体が提供される:
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241);
iii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);及び
iv)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239)。
【0134】
好ましい一実施態様では、以下の抗HER1抗体と同じエピトープに結合する抗体が提供される:
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);又は
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241)。
【0135】
さらなる態様では、本発明は、ヒトHER1への結合に関して本明細書で提供される抗HER1抗体と競合する抗体を提供する。例えば、ある特定の実施態様では、ヒトHER1への結合に関して、以下からなる群から選択される抗HER1抗体と競合する抗体が提供される:
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241);
iii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);及び
iv)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239)。
【0136】
好ましい一実施態様では、ヒトHER1への結合に関して、以下の抗HER1抗体と競合する抗体が提供される:
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);及び
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241)。
【0137】
ある特定の実施態様では、アミノ酸MLYNPTTYQ(配列番号20)からなるヒトHER1の断片中のエピトープに結合する抗体が提供される。
【0138】
ある特定の実施態様では、アミノ酸TYQMDVNPEG(配列番号19)からなるヒトHER1の断片中のエピトープに結合する抗体が提供される。
【0139】
好ましい一実施態様では、抗体は、IgG1又はIgG4アイソタイプのものである。好ましい一実施態様では、抗体はヒト起源の定常ドメイン(ヒト定常ドメイン)を含む。それぞれのヒト定常ドメインを含む本発明の意味の範囲内の一般的なヒト定常領域は、配列番号21から配列番号26のアミノ酸配列(それらは、アミノ酸置換を部分的に含む)を有する。
【0140】
1.抗体親和性
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM又は≦0.001nM(例えば、10
−8M以下、例えば10
−8Mから10
−13M、例えば10
−9Mから10
−13M)の解離定数KDを有する。
【0141】
好ましい一実施態様では、KDは、〜10応答単位(RU)で固定化抗原CM5チップと一緒に25℃でBIACORE(登録商標)を用いる表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。簡潔には、供給業者の指示書に従って、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIAcore,Inc.)を、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。結合タンパク質のおよそ10反応単位(RU)を達成するために、5μl/分の流速で注入する前に、抗原を10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/ml(〜0.2μM)に希釈する。抗原の注入の後、1Mのエタノールアミンを注入して未反応基をブロックする。反応速度論的測定のために、Fabの二倍段階希釈(0.78nM−500nM)を、25℃の0.05%ポリソルベート20(TWEEN−20(商標))界面活性剤を有するPBS(PBST)におよそ25μl/分の流速で注入する。会合及び解離センサーグラムを同時に取り付け、簡単な1対1のLangmuir結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluationソフトウェアバージョン3.2)を用いることによって、会合速度(k
on又はka)及び解離速度(k
off又はkd)を計算する。平衡解離定数KDは、比kd/ka(k
off/k
on)として計算する。例えば、Chen,Y.等、J.Mol.Biol.293(1999)865−881を参照されたい。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによって会合速度が10
6M
−1s
−1を超えるならば、会合速度は、流動停止を備えた分光光度計(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM−AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)などの分光計で測定されるような漸増濃度の抗原の存在下で、PBS中の20nM抗抗原抗体(Fab形)、pH7.2の蛍光放出強度(励起=295nm、放出=340nm、16nm帯域通過)の増加又は低下を25℃で測定する蛍光消光技術を用いて判定することができる。
【0142】
2.抗体断片
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片には、限定されずに、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’)
2、Fv及びscFv断片、並びに下記の他の断片が含まれる。ある特定の抗体断片の概説については、Hudson,P.J.等、Nat.Med.9(2003)129−134を参照されたい。scFv断片の概説については、例えば、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113巻、Rosenburg及びMoore(編)、Springer−Verlag、New York(1994)p269−315中のPlueckthun,A.を参照;国際公開第93/16185号;並びに米国特許第5571894号及び5587458号も参照する。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、増加したインビボ半減期を有するFab及びF(ab’)
2断片の考察については、米国特許第5869046号を参照されたい。
【0143】
ダイアボディは、二価又は二重特異性であってもよい、2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第0404097号;国際公開第1993/01161号;Hudson,P.J.等、Nat.Med.9(2003)129−134;及びHollinger,P.等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)6444−6448を参照されたい。トリアボディ及びテトラボディも、Hudson,P.J.等、Nat.Med.9(2003)129−134に記載されている。
【0144】
単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全体若しくは一部又は軽鎖可変ドメインの全体若しくは一部を含む抗体断片である。ある特定の実施態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.、Waltham、MA;例えば、米国特許第6248516B1号を参照されたい)。
【0145】
本明細書に記載されるように、抗体断片は、限定されずに、インタクトな抗体のタンパク質分解並びに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による生成を含む、様々な技術によって作製することができる。
【0146】
3.キメラ及びヒト化抗体
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、キメラ抗体である。ある特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4816567号;及びMorrison,S.L.等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81(1984)6851−6855に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又はサルなどの非ヒト霊長類に由来する可変領域)及びヒト定常領域を含む。さらなる例では、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のものから変化している「クラススイッチ」された抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合性断片を含む。
【0147】
ある特定の実施態様では、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。一般的に、非ヒト抗体はヒトへの免疫原性を低減するためにヒト化されるが、親の非ヒト抗体の特異性及び親和性は保持される。一般に、ヒト化抗体は、HVR、例えばCDR(又はその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する、1つ又は複数の可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、ヒト定常領域の少なくとも一部も任意選択的に含む。一部の実施態様では、例えば抗体の特異性又は親和性を回復又は改善するために、ヒト化抗体の一部のFR残基は、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換される。
【0148】
ヒト化抗体及びそれらを作製する方法は、例えば、Almagro,J.C.及びFransson,J.、Front.Biosci.13(2008)1619−1633で概説され、さらに、例えば、Riechmann,I.等、Nature 332(1988)323−329;Queen,C.等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(1989)10029−10033;米国特許第5821337号、7527791号、6982321号及び7087409号;Kashmiri,S.V.等、Methods 36(2005)25−34(SDR(a−CDR)移植を記載する);Padlan,E.A.、Mol.Immunol.28(1991)489−498(「リサーフェイシング」を記載する);Dall’Acqua,W.F.等、Methods 36(2005)43−60(「FRシャフリング」を記載する);Osbourn,J等、Methods 36(2005)61−68及びKlimka,A.等、Br.J.Cancer,83(2000)252−260(FRシャフリングの「誘導選択」手法を記載する)に記載されている。Morea,V.等、Methods、l20巻、3版(2000)267−279)及び国際公開第2004/006955号(正規の構造による手法)。
【0149】
4.ヒト抗体
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当該技術分野で公知である様々な技術を用いて生成することができる。ヒト抗体は、van Dijk,M.A.及びvan de Winkel,J.G.、Curr.Opin.Pharmacol.5(2001)368−374及びLonberg,N.、Curr.Opin.Immunol.20(2008)450−459に一般に記載されている。
【0150】
ヒト抗体は、抗原投与に応答してインタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有するインタクトな抗体を生成するように改変されているトランスジェニック動物に、免疫原を投与することによって調製することができる。そのような動物はヒト免疫グロブリン遺伝子座の全体又は一部を一般に含有し、それらは内因性免疫グロブリン遺伝子座を置き換えるか、又はそれらは染色体外に存在するか若しくは動物の染色体にランダムに組み込まれる。そのようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の概説については、Lonberg,N.、Nat.Biotech.23(2005)1117−1125を参照されたい。例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載する米国特許第6075181号及び6150584号;HuMab(登録商標)技術を記載する米国特許第5770429号;K−M MOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許第7041870号、及びVelociMouse(登録商標)技術を記載する米国特許出願公開第2007/0061900号も参照する。そのような動物によって生成されるインタクトな抗体からのヒト可変領域は、例えば異なるヒト定常領域と組み合わせることによってさらに改変することができる。
【0151】
ヒト抗体は、ハイブリドーマをベースとした方法によって作製することもできる。ヒトモノクローナル抗体の生成のための、ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が記載されている(例えば、Kozbor, D.、 J. Immunol.、133 (1984) 3001-3005;Brodeur, B.R.等、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、Marcel Dekker, Inc.、New York (1987)、p51-63;及びBoerner, P.等、J. Immunol.、147 (1991) 86-95を参照されたい)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を通して生成されるヒト抗体も、Li,J.等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103(2006)3557−3562に記載されている。追加の方法には、例えば、米国特許第7189826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の生成を記載する)及びNi,J.、Xiandai Mianyixue 26(2006)265−268(ヒト−ヒトハイブリドーマを記載する)に記載されるものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)も、Vollmers,H.P.及びBrandlein,S.、Histology and Histopathology 20(2005)927−937及びVollmers,H.P.及びBrandlein,S.、Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27(2005)185−191に記載されている。
【0152】
ヒト抗体は、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成することもできる。そのような可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと次に組み合わせることができる。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択する技術は、下に記載される。
【0153】
5.ライブラリー由来の抗体
本発明の抗体は、所望の活性(複数可)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを生成し、所望の結合特性を有する抗体についてそのようなライブラリーをスクリーニングするために、様々な方法が当該技術分野で公知である。そのような方法は、例えば、Methods in Molecular Biology 178(2001)1−37中のHoogenboom,H.R.等で概説され、さらに、例えば、McCafferty,J.等、Nature 348(1990)552−554;Clackson,T.等、Nature 352(1991)624−628;Marks,J.D.等、J.Mol.Biol.222(1992)581−597;Methods in Molecular Biology 248(2003)161−175中のMarks,J.D.及びBradbury,A.;Sidhu,S.S.等、J.Mol.Biol.338(2004)299−310;Lee,C.V.等、J.Mol.Biol.340(2004)1073−1093;Fellouse,F.A.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(2004)12467−12472;及びLee,C.V.等、J.Immunol.Methods 284(2004)119−132に記載されている。
【0154】
ある特定のファージディスプレイ方法では、VH及びVL遺伝子のレパートリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々にクローニングし、ファージライブラリーでランダムに組み換え、次に、それらをWinter,G.等、Ann.Rev.Immunol.、12(1994)433−455に記載されている通り、抗原結合性ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、抗体断片を一般的に単鎖Fv(scFv)断片として又はFab断片として提示する。免疫化された供給源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原へ高親和性抗体を提供する。あるいは、Griffiths,A.D.等、EMBO J.12(1993)725−734に記載される通り、いかなる免疫化なしに広範囲の非自己及び自己抗原へ抗体の単一供給源を提供するために、ナイーブレパートリーをクローニングする(例えば、ヒトから)ことができる。最後に、Hoogenboom,H.R.及びWinter,G.、J.Mol.Biol. 227(1992)381−388に記載されている通り、幹細胞から、組換えを起こしていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含有するPCRプライマーを用いて、高度可変CDR3領域がコードされ、且つインビトロで組換えが起きるようにすることによって、ナイーブライブラリーを合成により作製することもできる。ヒト抗体ファージライブラリーを記載する特許公報には、例えば:米国特許第5750373号並びに米国特許出願公開第2005/0079574号、第2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号及び第2009/0002360号が含まれる。
【0155】
ヒト抗体ライブラリーから単離される抗体又は抗体断片は、本明細書においてヒト抗体又はヒト抗体断片とみなされる。
【0156】
6.多重特異性抗体
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある特定の実施態様では、結合特異性の1つはHER1に対してであり、他は任意の他の抗原に対してである。HER1を発現する細胞に細胞傷害剤を局在化するために、二重特異性抗体を用いることもできる。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製することができる。
【0157】
多重特異性抗体の作製技術には、限定されずに、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の組換え共発現(Milstein, C.及びCuello, A.C.、Nature 305 (1983) 537-540、国際公開第93/08829号、及びTraunecker, A.等、EMBO J. 10 (1991) 3655-3659を参照されたい)、及び「ノブ−イン−ホール」操作(例えば、米国特許第5731168号を参照されたい)が含まれる。多重特異的抗体は、抗体Fcヘテロダイマー分子を作製するための静電ステアリング効果を操作すること(国際公開第2009/089004号);2つ以上の抗体又は断片を架橋させること(例えば、米国特許第4676980号及びBrennan, M.等、Science 229 (1985) 81-83を参照されたい);二重特異性抗体を生成するためにロイシンジッパーを用いること(例えば、Kostelny, S.A.等、J. Immunol. 148 (1992) 1547-1553を参照されたい);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術を用いること(例えば、Hollinger, P.等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448を参照されたい);及び単鎖Fv(sFv)ダイマーを用いること(例えば、Gruber, M等、J. Immunol. 152 (1994) 5368-5374を参照されたい);及び、例えばTutt,A.等、J.Immunol.147(1991)60−69に記載されるような三重特異性抗体を調製することによって作製することもできる。
【0158】
「タコ抗体」を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を有する操作された抗体も、本明細書に含まれる(例えば、US2006/0025576を参照されたい)。
【0159】
本明細書において、抗体又は断片は、HER1並びに別の異なる抗原に結合する抗原結合部位を含む「二重作用Fab」又は「DAF」も含む。(例えば、US2008/0069820を参照されたい)。
【0160】
本明細書の抗体又は断片には、国際公開第2009/080251号、国際公開第2009/080252号、国際公開第2009/080253号、国際公開第2009/080254号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号及び国際公開第2010/145793号に記載される多重特異性抗体も含まれる。
【0161】
7.抗体変異体
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を向上させることが望ましいことがある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入することによって、又はペプチド合成によって調製することができる。そのような改変には、例えば、抗体のアミノ酸配列中の残基からの欠失、及び/又はそれへの挿入及び/又はその置換が含まれる。その最終コンストラクトが所望の特徴、例えば抗原結合性を有する限り、最終コンストラクトに到達するために欠失、挿入及び置換の任意の組合せを作成することができる。
【0162】
a)置換、挿入及び欠失変異体
ある特定の実施態様では、1つ又は複数のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換型突然変異誘発のための目的の部位には、HVR及びFRが含まれる。表1に「好ましい置換」の項目名の下に、保存的置換を示す。表1に「例示的な置換」の項目名の下に、及びアミノ酸側鎖クラスに関して下でさらに記載されるように、より実質的な変化が提供される。アミノ酸置換を目的の抗体に導入することができ、生成物を所望の活性、例えば、保持/改善された抗原結合性、低下した免疫原性又は改善されたADCC若しくはCDCについてスクリーニングすることができる。
【0163】
アミノ酸は、共通する側鎖特性によって分類することができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0164】
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
【0165】
置換型変異体の1つのタイプは、親抗体(例えばヒト化又はヒト抗体)の1つ又は複数の超可変領域の残基を置換することを含む。一般に、さらなる研究のために選択される生じた変異体(複数可)は、親抗体と比較してある特定の生物学的特性(例えば、増加した親和性、低減した免疫原性)の改変(例えば、改善)を有し、及び/又は実質的に保持された親抗体のある特定の生物学的特性を有する。例示的な置換型変異体は親和性成熟抗体であり、それは、例えば、本明細書に記載されるものなどのファージディスプレイをベースとした親和性成熟技術を用いて都合よく生成することができる。簡潔には、1つ又は複数のHVR残基を突然変異させ、変異体抗体をファージの上で提示し、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングする。
【0166】
例えば、抗体親和性を改善するために、HVRに変更(例えば、置換)を加えることができる。そのような変更はHVRの「ホットスポット」で、すなわち、体細胞成熟過程において高頻度で突然変異を受けるコドンによってコードされる残基(例えば、Chowdhury, P.S.、Methods Mol. Biol. 207 (2008) 179-196を参照されたい)、及び/又はSDR(a−CDR)で加えることができ、生じる変異体VH又はVLは結合親和性について試験される。二次ライブラリーから構築及び再選択することによる親和性成熟が、例えば、Methods in Molecular Biology 178(2002)1−37中のHoogenboom,H.R.等に記載されている。親和性成熟の一部の実施態様では、様々な方法(例えば、変異性PCR、鎖シャッフリング又はオリゴヌクレオチド指定突然変異誘発)のいずれかによる成熟のために選択される可変遺伝子に、多様性が導入される。二次ライブラリーを次に作製する。所望の親和性を有する抗体変異体を特定するために、次にライブラリーをスクリーニングする。多様性を導入する別の方法は、HVR指定手法を含み、この手法ではいくつかのHVR残基(例えば、一度に4−6残基)がランダム化される。抗原結合に関与するHVR残基は、例えば、アラニンスキャニング突然変異誘発又はモデル化を用いて、特異的に特定することができる。特に、CDR−H3及びCDR−L3がしばしば標的にされる。
【0167】
ある特定の実施態様では、置換、挿入又は欠失は、そのような変更が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低減しない限り、1つ又は複数のHVRの中で起こることができる。例えば、結合親和性を実質的に低減しない保存的変更(例えば、本明細書で規定される保存的置換)を、HVRに加えることができる。そのような変更は、HVRの「ホットスポット」又はSDRの外にあってもよい。上で提供される変異体VH及びVL配列のある特定の実施態様では、各HVRは不変であるか、1つ以下、2つ又は3つのアミノ酸置換を含有する。
【0168】
突然変異誘発のために標的にすることができる抗体の特定の残基又は領域の特定のための有益な方法は、Cunningham,B.C.及びWells,J.A.、Science 244(1989)1081−1085に記載のように「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。この方法では、残基又は標的残基の群(例えば、arg、asp、his、lys及びgluなどの荷電残基)が特定され、抗体と抗原の相互作用が影響を受けるかどうか判定するために中性又は負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)によって置き換えられる。初期置換への機能的感受性を示しているアミノ酸位置に、さらなる置換を導入することができる。あるいは、又はさらに、抗体と抗原の間の接触点を特定するための、抗原抗体複合体の結晶構造。そのような接触残基及び隣接残基は、置換のための候補として標的にするか又は排除することができる。それらが所望の特性を有するかどうか判定するために、変異体をスクリーニングすることができる。
【0169】
アミノ酸配列の挿入には、1残基から100以上の残基を含有するポリペプチドまでの長さのアミノ及び/又はカルボキシル末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。末端挿入の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入型変異体には、抗体の血清中半減期を増加させる酵素(例えばADEPT)又はポリペプチドに対する抗体のN又はC末端への融合が含まれる。
【0170】
b)グリコシル化変異体
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加又は減少させるように変更される。抗体に対するグリコシル化部位の付加又は欠失は、1つ又は複数のグリコシル化部位が形成又は除去されるように、アミノ酸配列を変更することによって簡便に達成することができる。
【0171】
抗体がFc領域を含む場合、それに結合する炭水化物を変更することができる。哺乳動物細胞によって生成される天然抗体は、N結合によってFc領域のCH2ドメインのAsn297に一般に結合する、分枝状の二分岐オリゴ糖を一般に含む。例えば、Wright,A.及びMorrison,S.L.、TIBTECH 15(1997)26−32を参照されたい。オリゴ糖には、様々な炭水化物、例えば、マンノース、N−アセチルグルコサミン(GIcNAc)、ガラクトース及びシアル酸、並びに二分岐オリゴ糖構造の「ステム」のGIcNAcに結合したフコースを含めることができる。一部の実施態様では、ある特定の改善された特性を有する抗体変異体を作製するために、本発明の抗体のオリゴ糖の改変を加えることができる。
【0172】
一実施態様では、Fc領域に結合する(直接的又は間接的に)フコースを欠く炭水化物構造を有する抗体変異体が提供される。例えば、そのような抗体中のフコースの量は、1%から80%、1%から65%、5%から65%又は20%から40%であってもよい。例えば国際公開第2008/077546号に記載される通り、フコースの量は、MALDI−TOF質量分析によって測定したときの、Asn297に結合した全ての糖構造(例えば、複合体、ハイブリッド及び高マンノース構造)の合計と比較した、Asn297の糖鎖中のフコースの平均量を計算することによって判定される。Asn297は、Fc領域の297位(Fc領域残基のEu番号付け)あたりに位置するアスパラギン残基を指す。しかし、抗体中の軽微な配列差異のために、Asn297は、297位から約±3アミノ酸上流又は下流に、すなわち294位から300位の間に位置することもできる。そのようなフコシル化変異体は、向上したADCC機能を有することができる。例えば、US2003/0157108;US2004/0093621を参照されたい。「脱フコシル化」又は「フコース欠損」抗体変異体に関する刊行物の例には、以下のものが含まれる:US2003/0157108;国際公開第2000/61739号;国際公開第2001/29246号;US2003/0115614;US2002/0164328;US2004/0093621;US2004/0132140;US2004/0110704;US2004/0110282;US2004/0109865;国際公開第2003/085119号;国際公開第2003/084570号;国際公開第2005/035586号;国際公開第2005/035778号;国際公開第2005/053742号;国際公開第2002/031140号;Okazaki,A.等、J.Mol.Biol.336(2004)1239−1249;Yamane−Ohnuki,N.等、Biotech.Bioeng.87(2004)614−622。脱フコシル化抗体の生成が可能な細胞株の例には、タンパク質フコシル化が欠損しているLec13 CHO細胞(Ripka, J.等、Arch. Biochem. Biophys. 249 (1986) 533-545;US2003/0157108;及び国際公開第2004/056312、特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例えばアルファ−1,6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki, N.等、Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622;Kanda, Y.等、Biotechnol. Bioeng. 94 (2006) 680-688;及び国際公開第2003/085107号を参照されたい)が含まれる。
【0173】
二分されたオリゴ糖を有する、例えば抗体のFc領域に結合する二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分される抗体変異体がさらに提供される。そのような抗体変異体は、低減したフコシル化及び/又は向上したADCC機能を有することができる。そのような抗体変異体の例は、例えば、国際公開第2003/011878号;米国特許第6602684号;及びUS2005/0123546に記載されている。Fc領域に結合するオリゴ糖に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変異体も、提供される。そのような抗体変異体は、向上したCDC機能を有することができる。そのような抗体変異体は、例えば、国際公開第1997/30087号;国際公開第1998/58964号;及び国際公開第1999/22764号に記載されている。
【0174】
c)Fc領域変異体
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体のFc領域に1つ又は複数のアミノ酸改変を導入し、それによってFc領域変異体を生成することができる。Fc領域変異体は、1つ又は複数のアミノ酸位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のFc領域)を含むことができる。
【0175】
ある特定の実施態様では、本発明は、エフェクター機能の全てではなく一部を有する抗体変異体を企図し、このような抗体変異体であれば、抗体のインビボ半減期は重要であるが、ある特定のエフェクター機能(例えば、補体及びADCC)が不要又は有害である適用のための望ましい候補となる。CDC及び/又はADCC活性の低減/消失を確認するために、インビトロ及び/又はインビボ細胞傷害性アッセイを実行することができる。例えば、抗体がFcγR結合を欠いている(したがって、ADCC活性を欠いている可能性がある)がFcRn結合能力を保持することを確実にするために、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実行することができる。ADCCを介在する一次細胞であるNK細胞はFcガンマRIIIだけを発現するが、単球はFcガンマRI、FcガンマRII及びFcガンマRIIIを発現する。造血細胞でのFcR発現は、Ravetch,J.V.及びKinet,J.P.、Annu.Rev.Immunol.9(1991)457−492の464ページの表3で要約されている。目的の分子のADCC活性を調べるインビトロアッセイの非限定例は、米国特許第5500362号(例えば、Hellstrom, I.等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 7059-7063;及びHellstrom, I.等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82 (1985) 1499-1502を参照されたい);米国特許第5821337号(Bruggemann, M.等、J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361を参照されたい)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ方法を採用することができる(例えば、フローサイトメトリーのためのACTI(商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology,Inc.Mountain View、CA;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega、Madison、WI)を参照されたい)。そのようなアッセイのための有益なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいは、又はさらに、目的の分子のADCC活性は、例えばClynes,R.等、Proc. Natl. Acad.Sci.USA 95(1998)652−656に開示されているものなどの動物モデルにおいてインビボで評価してもよい。抗体がC1qに結合することができず、したがってCDC活性を欠くことを確認するために、C1q結合アッセイを実行することもできる。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を調べるために、CDCアッセイを実行することができる(例えば、Gazzano-Santoro, H.等、J. Immunol. Methods 202 (1996) 163-171;Cragg, M.S.等、Blood 101 (2003) 1045-1052;及びCragg, M.S.及びM.J. Glennie, Blood 103 (2004) 2738-2743を参照されたい)。当該技術分野で公知の方法を用いて、FcRn結合及びインビボでのクリアランス/半減期判定を実施することもできる(例えば、Petkova, S.B.等、Int. Immunol. 18(2006)1759-1769を参照されたい)。
【0176】
エフェクター機能の低減した抗体には、Fc領域残基238、265、269、270、297、327及び329の1つ又は複数の置換を有するものが含まれる(米国特許第6737056号)。そのようなFc突然変異体には、残基265及び297のアラニンへの置換を有するいわゆる「DANA」Fc突然変異体を含む、アミノ酸位置265、269、270、297及び327の2つ以上の置換を有するFc突然変異体が含まれる(米国特許第7332581号)。
【0177】
FcRへの結合が向上又は減少したある特定の抗体変異体が記載される。(例えば、米国特許第6737056号;国際公開第2004/056312号及びShields, R.L.等、J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604を参照されたい)。
【0178】
ある特定の実施態様では、抗体変異体は、ADCCを向上させる1つ又は複数のアミノ酸置換、例えばFc領域の298位、333位及び/又は334位(残基のEU番号付け)の置換を有するFc領域を含む。
【0179】
一部の実施態様では、例えば米国特許第6194551号、国際公開第99/51642号及びIdusogie,E.E.等、J.Immunol.164(2000)4178−4184に記載されているように、変更された(すなわち、向上又は減少した)C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらす変更がFc領域に加えられる。
【0180】
半減期が増加した、及び胎児への母体IgGの移動を担う(Guyer, R.L.等、J. Immunol. 117 (1976) 587-593及びKim, J.K.等、J. Immunol. 24 (1994) 2429-2434)新生児Fc受容体(FcRn)への結合が向上した抗体が、US2005/0014934に記載されている。それらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を向上させる1つ又は複数の置換をその中に有するFc領域を含む。そのようなFc変異体には、Fc領域残基238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434の1つ又は複数の置換、例えばFc領域残基434の置換を有するものが含まれる(米国特許第7371826号)。
【0181】
Fc領域変異体の他の例に関する、Duncan,A.R.及びWinter,G.、Nature 322(1988)738−740;US5648260;US5624821;及び国際公開第94/29351号も参照する。
【0182】
d)システイン操作抗体変異体
ある特定の実施態様では、抗体の1つ又は複数の残基がシステイン残基で置換されるシステイン操作抗体、例えば「thioMAb」を作製することが望ましいことがある。特定の実施態様では、置換される残基は、抗体のアクセス可能な部位に存在する。本明細書にさらに記載されるように、それらの残基をシステインで置換することによって、反応性チオール基が抗体のアクセス可能な部位に置かれ、抗体を他の部分、例えば薬物部分又はリンカー−薬物部分にコンジュゲートさせてイムノコンジュゲートを作製するために用いることができる。ある特定の実施態様では、以下の残基の任意の1つ又は複数をシステインで置換することができる:軽鎖のV205(カバット番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。例えば米国特許第7521541号に記載されるように、システイン操作抗体を生成することができる。
【0183】
e)抗体誘導体
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗体は、当該技術分野で公知であって直ちに利用できるさらなる非タンパク質部分を含有するように、さらに改変することができる。抗体の誘導体化のために適する部分には、限定されずに水溶性ポリマーが含まれる。水溶性ポリマーの非限定例には、限定されずに、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ−1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダム共重合体)、及びデキストラン又はポリ(n−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール及びそれらの混合物が含まれる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のために製造上の利点を有することができる。ポリマーは任意の分子量であってもよく、分枝状であっても非分枝状であってもよい。抗体に付着するポリマーの数は異なってもよく、1を超える数のポリマーが付着する場合は、それらは同じか又は異なる分子であってもよい。一般に、誘導体化のために用いられるポリマーの数及び/又はタイプは、限定されずに、改善する抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が規定条件下の療法で用いられるかどうか、などを含む考慮事項に基づいて決定することができる。
【0184】
別の実施態様では、抗体と、照射への曝露によって選択的に加熱することができる非タンパク質部分のコンジュゲートが提供される。一実施態様では、非タンパク質部分は、カーボンナノチューブである(Kam, N.W.等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (2005) 11600-11605)。照射は任意の波長であってもよく、限定されずに、通常の細胞を害しないが、抗体−非タンパク質部分に隣接する細胞が死滅する温度まで非タンパク質部分を加熱する波長を含む。
【0185】
B.組換え方法及び組成物
抗体は、例えば米国特許第4816567号に記載されているように、組換え方法及び組成物を用いて生成することができる。一実施態様では、本明細書に記載される抗HER1抗体をコードする単離核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードすることができる。さらなる実施態様では、そのような核酸を含む1つ又は複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる実施態様では、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。そのような実施態様では、宿主細胞は、以下のものを含む(例えば、以下のもので形質転換されている):(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクター及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクター。一実施態様では、宿主細胞は真核生物、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施態様では、抗HER1抗体を作製する方法であって、上で提供されるような抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を抗体の発現に適する条件下で培養すること、及び任意選択的に宿主細胞(又は宿主細胞培地)から抗体を回収することを含む方法が提供される。
【0186】
抗HER1抗体の組換え生成のために、例えば上記のような抗体をコードする核酸を単離して、さらなるクローニング及び/又は宿主細胞での発現のために1つ又は複数のベクターに挿入する。そのような核酸は、従来の手法を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能であるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)、容易に単離し、配列決定を行うことができる。
【0187】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現のために適する宿主細胞には、本明細書に記載される原核生物又は真核生物の細胞が含まれる。例えば、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が不要なときは、抗体を細菌で生成することができる。細菌での抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えばUS5648237、US5789199及びUS5840523を参照されたい。(大腸菌での抗体断片の発現を記載する、Charlton, K.A., In:、Methods in Molecular Biology、248巻、Lo, B.K.C.(編)、Humana Press、Totowa、NJ (2003)、p245-254も参照する)。発現の後、抗体を可溶性分画中の細菌細胞ペーストから単離することができ、さらに精製することができる。
【0188】
原核生物に加えて、そのグリコシル化経路が「ヒト化され」、部分的又は完全にヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の生成をもたらす真菌類及び酵母株を含む、糸状菌又は酵母などの真核生物の微生物が、抗体をコードするベクターのために適するクローニング又は発現宿主である。Gerngross,T.U.、Nat.Biotech.22(2004)1409−1414及びLi,H.等、Nat.Biotech.24(2006)210−215を参照されたい。
【0189】
グリコシル化抗体の発現のために適する宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物及び昆虫細胞が含まれる。特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために昆虫細胞と共に用いることができる、多数のバキュロウイルス株が同定された。
【0190】
植物細胞培養物を、宿主として利用することもできる。例えば、米国特許第5959177号、第6040498号、第6420548号、第7125978号及び第6417429号を参照されたい(トランスジェニック植物で抗体を生成するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載する)。
【0191】
脊椎動物細胞を、宿主として用いることもできる。例えば、懸濁液で成長するように適合させた哺乳動物細胞株が利用可能である。有益な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1株(COS−7);ヒト胚性腎臓株(例えば、Graham, F.L.等、J. Gen Virol. 36 (1977) 59-74に記載される、293又は293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, J.P.、Biol. Reprod. 23 (1980) 243-252に記載されるTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝細胞(BRL3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳房腫瘍(MMT060562);例えば、Mather, J.P.等、Annals N. Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68に記載されるTRI細胞;MRC 5細胞;及びFS4細胞である。他の有益な哺乳動物の宿主細胞株には、DHFR
−CHO細胞を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub, G.等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216-4220);並びにY0、NS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。抗体産生のために適するある特定の哺乳動物宿主細胞株の概説については、例えば、Yazaki,P.及びWu,A.M.、Methods in Molecular Biology、248巻、Lo,B.K.C(編)、Humana Press、Totowa、NJ(2004)、p255−268を参照されたい。
【0192】
C.アッセイ及び抗体(又は抗原結合性タンパク質)選択方法
本明細書で提供される抗HER1抗体は、当該技術分野で公知の様々なアッセイによってそれらの物理的/化学的特性及び/又は生物学的活性について特定するか、スクリーニングするか又は特徴付けることができる。
【0193】
本発明の一態様は、ヒトHER1に結合する抗体(又は抗原結合性タンパク質)を選択する方法であって、抗体(又は抗原結合性タンパク質)はヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合し;
ここで、
a)配列番号1のアミノ酸配列を含む
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1、
からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドが;
a)の下の少なくとも1つのポリペプチドへの結合を示す抗体(又は抗原結合性タンパク質)を(結合アッセイで)選択するために用いられ、
それによって、ヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する抗原結合性タンパク質、特に抗体を選択する方法である。
【0194】
一実施態様では、そのような選択方法は、選択される抗体がPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)を含まないポリペプチド足場に結合しないことを確認するために、選択される抗体が:
配列番号11 TtSlyDcas
配列番号17 TgSlyDΔIF
からなる群から選択されるポリペプチドで逆スクリーニングされる(ポリペプチドへの結合について試験される)工程をさらに含む。
【0195】
本発明は、そのような選択方法によって得られる抗体(又は抗原結合性タンパク質)を提供する。
【0196】
ヒトHER1に特異的に結合する抗体(又は抗原結合性タンパク質)を選択する方法であって、
a)配列番号1のアミノ酸配列を有するHER1のβ−ヘアピンへの複数の抗体(又は抗原結合性タンパク質)の結合親和性を判定する工程であって、HER1のβ−ヘアピンは、配列番号1のアミノ酸配列を有するHER1のβ−ヘアピンを含む:
i)配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
ii)配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
iii)配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
iv)配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
v)配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
vi)配列番号18 TgSlyDcys−HER1、
からなる群から選択されるポリペプチドとして提示される工程、
b)所定の閾値レベルを上回る明らかな複合安定性を有する抗体(又は抗原結合性タンパク質)を選択する工程
を含む方法。
【0197】
1.結合アッセイ及び他のアッセイ
一態様では、本発明の抗体(又は抗原結合性タンパク質)は、例えば、表面プラズモン共鳴(BIACORE)を含む、ELISA、ウェスタンブロットなどの公知の方法によって、その抗原結合活性について試験される。
【0198】
別の態様では、HER1への結合について
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241);
iii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);又は
iv)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239);
と競合する抗体を特定するために、競合アッセイを用いることができる。
【0199】
ある特定の実施態様では、そのような競合抗体は、
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241);
iii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);又は
iv)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239)
が結合するのと同じエピトープ(例えば、線状又は立体配置的エピトープ)に結合する。
【0200】
抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な例示的方法は、Methods in Molecular Biology、66巻、Humana Press、Totowa、NJ(1966)中のMorris,G.E.編、Epitope Mapping Protocolsで提供される。CelluSpot(商標)技術を用いるさらなる方法が、実施例4で詳述される。
【0201】
例示的な競合アッセイでは、固定化されたHER1は、HER1にそれぞれ結合する第1の標識化抗体(例えば、寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240);MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241);MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239))及びHER1への結合に関して第1の抗体と競合するその能力について試験される第2の非標識化抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第2の抗体は、ハイブリドーマ上清中に存在してもよい。コントロールとして、固定化されたHER1を、第1の標識化抗体を含んでいるが第2の非標識化抗体を含まない溶液中でインキュベートする。HER1への第1の抗体の結合を許容する条件下でのインキュベーションの後、過剰な未結合の抗体を除去し、固定化されたHER1に結合している標識の量を測定する。固定化されたHER1に結合している標識の量がコントロール試料に対して試験試料で実質的に低減されている場合は、そのことは、HER1への結合に関して第2の抗体が第1の抗体と競合していることを示す。Harlow,E及びLane,D、Antibodies:A Laboratory Manual Chapter.14、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1988)を参照されたい。
【0202】
2.活性アッセイ
一態様では、生物活性を有する、その抗HER1抗体(又は抗原結合性タンパク質)を特定するためのアッセイが提供される。生物活性には、例えば、HER1リン酸化の阻害、EGFの非存在下でのHER1リン酸化に関する非アゴニスト活性、HER1を発現又は過剰発現するがん細胞のがん細胞増殖の阻害、HER1/HER1ホモ二量体化の阻害、HER1/HER2ヘテロ二量体化の阻害、ウェスタンブロット又はFACSアッセイによる(時間依存的)内部移行、異種移植HER1を発現又は過剰発現するがん細胞を有する異種移植動物(例えば、マウス又はラット)モデルでのインビボ腫瘍増殖阻害を含めることができる。そのような生物活性を有する抗体は、単独で、又はインビボ及び/又はインビトロで細胞傷害性剤とのイムノコンジュゲートとしても提供される。
【0203】
ある特定の実施態様では、本発明の抗体は、そのような生物活性について試験される。特定の生物活性のための例示的なビトロ又はインビボアッセイは、実施例2e、及び実施例5、6及び8で記載される。
【0204】
D.イムノコンジュゲート
本発明は、1つ又は複数の細胞傷害性剤、例えば化学療法剤若しくは薬物、増殖阻害剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物又は動物起源のタンパク質毒素、酵素活性毒素、又はその断片)、又は放射性同位体にコンジュゲートされた本明細書に記載の抗HER1抗体(又は抗原結合性タンパク質)を含むイムノコンジュゲートも提供する。
【0205】
一実施態様では、イムノコンジュゲートは、抗体が1つ又は複数の薬物、例えば、限定されずに、メイタンシノイド(US5208020、US5416064及びEP0425235B1を参照されたい);モノメチルアウリスタチン薬物部分DE及びDF(MMAE及びMMAF)などのアウリスタチン(US5635483及びUS5780588及び米US7498298を参照されたい);ドラスタチン;カリケアマイシン又はその誘導体(US5712374、US5714586、US5739116、US5767285、US5770701、US5770710、US5773001及びUS5877296;Hinman, L.M.等、Cancer Res. 53 (1993) 3336-3342及びLode, H.N.等、Cancer Res. 58 (1998) 2925-2928を参照されたい);ダウノマイシン又はドキソルビシンなどのアントラサイクリン(Kratz, F.等、Curr. Med. Chem. 13 (2006) 477-523;Jeffrey, S.C.等、Bioorg. Med. Chem. Lett. 16 (2006) 358-362;Torgov, M.Y.等、Bioconjug. Chem. 16 (2005) 717-721;Nagy, A.等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(2000)829-834;Dubowchik, G.M.等、Bioorg. & Med. Chem. Letters 12 (2002) 1529-1532;King, H.D.等、J. Med. Chem. 45 (2002) 4336-4343;及び米国特許第6630579号を参照されたい);メトトレキサート;ビンデシン;ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル及びオルタタキセルなどのタキサン;トリコテセン;並びにCC1065にコンジュゲートされる抗体−薬物コンジュゲート(ADC)である。
【0206】
別の実施態様では、イムノコンジュゲートは、限定されずに、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)から)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデッシンA鎖、アルファ−サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ダイアンシンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII及びPAP−S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サポンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコテセンを含む、酵素活性毒素又はその断片にコンジュゲートされた本明細書に記載の抗体を含む。
【0207】
別の実施態様では、イムノコンジュゲートは、シュードモナス外毒素A又はその変異体にコンジュゲートされた本明細書に記載の抗体を含む。シュードモナス外毒素A又はその変異体は、例えば、国際公開第2011/32022号、国際公開第2009/32954号、国際公開第2007/031741号、国際公開第2007/016150号、国際公開第2005/052006号及びLiu W等、PNAS109(2012)11782−11787に記載される。
【0208】
別の実施態様では、イムノコンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートされて放射性コンジュゲートを形成する、本明細書に記載の抗体を含む。放射性コンジュゲートの生成のために、様々な放射性同位体が利用できる。例には、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、Pb
212及びLuの放射性同位体が含まれる。放射性コンジュゲートを検出のために用いる場合は、それは、シンチグラフィー研究のための放射性原子、例えばTC
99m若しくはI
123、又は核磁気共鳴(NMR)画像化(磁気共鳴画像化、MRIとしても知られる)のためのスピン標識、例えば、再度ヨウ素−123、ヨウ素−131、インジウム−111、フッ素−19、炭素−13、窒素−15、酸素−17、ガドリニウム、マンガン若しくは鉄を含むことができる。
【0209】
抗体及び細胞傷害性剤のコンジュゲートは、a)組換え発現技術(例えば、大腸菌でFab又はFv抗体断片に融合しているアミノ酸配列ベースの毒素の発現のため)を用いて、b)ポリペプチドカップリング技術(Fab又はFv抗体断片へのアミノ酸配列ベースの毒素のソルターゼ酵素ベースのカップリングなど)を用いて、又はc)様々な二官能基のタンパク質カップリング剤、例えば、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能基の誘導体(例えば、ジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2,6−ジイソシアネート)及びビス活性フッ素化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を用いて作製することができる。例えば、リシンイムノトキシンは、Vitetta,E.S.等、Science 238(1987)1098−1104に記載のように調製することができる。炭素14標識1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、抗体への放射性ヌクレオチドのコンジュゲーションのための例示的なキレート剤である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは、細胞内で細胞傷害薬の放出を促進する「開裂可能なリンカー」であってもよい。例えば、酸に対して不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari, R.V.等、Cancer Res. 52 (1992) 127-131;米国特許第5208020号)を用いることができる。
【0210】
本明細書のイムノコンジュゲート又はADCは、限定されずに、市販されている(例えば、Pierce Biotechnology,Inc.、Rockford、IL.、U.S.Aから)架橋試薬、例えば、限定されずに、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC−SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ−EMCS、スルホ−GMBS、スルホ−KMUS、スルホ−MBS、スルホ−SIAB、スルホ−SMCC及びスルホ−SMPB及びSVSB(スクシンイミジル−(4−ビニルスルホン)ベンゾエート)によって調製されるコンジュゲートを明示的に企図する。
【0211】
E.診断及び検出のための方法及び組成物
ある特定の実施態様では、本明細書で提供される抗HER1抗体(又は抗原結合性タンパク質)のいずれも、生物学的試料中のHER1の存在をそれぞれ検出するのに有益である。本明細書で用いる用語「検出する」は、定量的又は定性的検出を包含する。ある特定の実施態様では、生物学的試料は、腫瘍組織などの細胞又は組織を含む。
【0212】
一実施態様では、診断又は検出の方法で用いるための抗HER1抗体が提供される。さらなる態様では、生物学的試料中のHER1の存在をそれぞれ検出する方法が提供される。ある特定の実施態様では、この方法は、HER1への抗HER1抗体の結合を許容する条件下で生物学的試料を本明細書に記載される抗HER1抗体とそれぞれ接触させること、及び抗HER1抗体とHER1の間でそれぞれ複合体が形成されるかどうか検出することを含む。そのような方法は、インビトロ又はインビボの方法であってもよい。一実施態様では、抗HER1抗体は、例えばHER1がそれぞれ患者の選択のためのバイオマーカーである場合に、抗HER1抗体による療法に適格な対象を選択するために用いられる。
【0213】
本発明の抗体を用いて診断することができる例示的な障害には、がんが含まれる。
【0214】
ある特定の実施態様では、標識化抗HER1抗体が提供される。標識には、限定されずに、直接的に検出される標識又は部分(例えば、蛍光性、発色性、高電子密度、化学発光及び放射性の標識)、並びに、例えば酵素反応又は分子相互作用を通して間接的に検出される酵素又はリガンドなどの部分が含まれる。例示的な標識には、限定されずに、放射性同位体
32P、
14C、
125I、
3H及び
131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、例えばホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシフェリン、2,3−ジヒドロフタラジンジオン、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖類オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、HRPなどの色素前駆体を酸化するために過酸化水素を採用する酵素に結合した複素環式オキシダーゼ、例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ又はミクロペルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定したフリーラジカルなどが含まれる。
【0215】
F.薬学的製剤
本明細書に記載される抗HER1抗体(又は抗原結合性タンパク質)の薬学的製剤は、所望の純度を有するそのような抗体を、1つ又は複数の任意選択の薬学的に許容される担体(Remington's Pharmaceutical Sciences、16版、Osol, A.(編)(1980))と、凍結乾燥製剤又は水溶液の形で混合することによって調製される。薬学的に許容される担体は、採用される投薬量及び濃度でレシピエントに一般に無毒であり、限定されずに以下のものが含まれる:バッファー、例えばリン酸、クエン酸及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロライド;ベンザルコニウムクロライド;ベンゼトニウムクロライド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;ポリ(ビニルピロリドン)などの親水性ポリマー;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン;単糖類、二糖類及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn−タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体には、間質性の薬物分散剤、例えば可溶型中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えばヒト可溶型PH−20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrhuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)がさらに含まれる。rhuPH20を含む有用なある特定の例示的なsHASEGP及び方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号及び第2006/0104968号に記載されている。一態様では、sHASEGPはコンドロイチン分解酵素などの1つ又は複数の追加のグリコサミノグリカナーゼと組み合わされる。
【0216】
例示的な凍結乾燥された抗体製剤は、米国特許第6267958号に記載されている。水性抗体製剤には、米国特許第6171586号及び国際公開第2006/044908号に記載されるものが含まれ、後者製剤にはヒスチジン−酢酸バッファーが含まれる。
【0217】
本明細書の製剤は、治療中の特定の適応症のために必要に応じて1を超える有効成分を含有することもできる。
【0218】
有効成分は、例えばコアセルベーション技術又は界面重合、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルによって調製されるマイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンの形で取り込むことができる。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、16版、Osol,A.(編)(1980)に開示されている。
【0219】
徐放性調製物を調製することができる。徐放性調製物の適する例には、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、そのマトリックスは造形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形である。
【0220】
インビボ投与のために用いられる製剤は、一般に無菌である。無菌状態は、例えば滅菌濾過膜を通す濾過によって容易に達成することができる。
【0221】
G.治療方法及び組成物
本明細書で提供される、抗HER1抗体(又は抗原結合性タンパク質)又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体(又は抗原結合性タンパク質)のイムノコンジュゲートのいずれも、治療方法で用いることができる。
【0222】
一態様では、医薬として用いるための抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートが提供される。さらなる態様では、がん治療における使用のための抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートが提供される。ある特定の実施態様では、治療方法で用いるための抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートが提供される。ある特定の実施態様では、本発明は、がんを有する個体を治療する方法であって、抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む方法で用いるための、抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートを提供する。さらなる実施態様では、本発明は、がん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害することに用いるための、抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートを提供する。ある特定の実施態様では、本発明は、個体でがん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害する方法であって、抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与して、がん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害することを含む方法で用いるための、抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートを提供する。上記の実施態様のいずれかによる「個体」は、好ましくはヒトである。
【0223】
さらなる態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における、抗HER1抗体又は細胞傷害性剤にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートの使用を提供する。一実施態様では、医薬はがんの治療のためである。さらなる実施態様では、医薬は、がんを有する個体に医薬の有効量を投与することを含むがんの治療方法で用いるためのものである。さらなる実施態様では、医薬は、がん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害するためのものである。さらなる実施態様では、医薬は、がんを患っている個体でがん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害する方法であって、がん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害するのに有効な医薬の量を個体に投与することを含む方法で用いるためのものである。上記の実施態様のいずれかによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0224】
さらなる態様では、本発明は、がんを治療する方法を提供する。一実施態様では、この方法は、がんを有する個体に抗HER1抗体の有効量を投与することを含む。上記の実施態様のいずれかによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0225】
さらなる態様では、本発明は、がんを患っている個体でがん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害する方法を提供する。一実施態様では、本方法は、抗HER1抗体又は細胞傷害性化合物にコンジュゲートされた抗HER1抗体のイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与して、がんを患っている個体でがん細胞のアポトーシスを誘導するか/又はがん細胞増殖を阻害することを含む。一実施態様では、「個体」はヒトである。
【0226】
さらなる態様では、本発明は、例えば上記の治療方法のいずれかで用いるための、本明細書で提供される抗HER1抗体のいずれかを含む薬学的製剤を提供する。一実施態様では、薬学的製剤は、本明細書で提供される抗HER1抗体のいずれか及び薬学的に許容される担体を含む。
【0227】
本発明の抗体(及び任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内及び鼻腔内、及び、局所治療のために所望の場合は病巣内投与を含む、任意の適する手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下の投与が含まれる。投与は、一部、投与が短期であるか又は長期であるかによって、任意の適する経路、例えば注射、例えば静脈内又は皮下注射によることができる。限定されずに様々な時点での単一又は複数の投与、ボーラス投与及びパルス注入を含む、様々な投与スケジュールが本明細書で企図される。
【0228】
本発明の抗体は、医学行動規範と一致した様式で製剤化、投薬及び投与されるだろう。この関係において考慮すべき因子には、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与計画及び医療施術者に公知である他の因子が含まれる。抗体は、その必要はないが、問題の障害を予防又は治療するために現在用いられている1つ又は複数の薬剤と一緒に任意選択的に製剤化される。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害又は治療のタイプ及び上述の他の因子に依存する。これらは本明細書に記載されるのと同じ投薬量及び投与経路で、又は本明細書に記載される投薬量の約1から99%で、又は適切であると経験的/臨床的に判定される任意の投薬量及び任意の経路によって一般に用いられる。
【0229】
疾患の予防又は治療のために、本発明の抗体の適切な投薬量(単独で用いられるか又は1つ若しくは複数の他の追加の治療剤と併用されるとき)は、治療する疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度及び経過、抗体が予防又は治療目的で投与されるのか、以前の療法、患者の病歴及び抗体への応答、並びに主治医の裁量に依存する。抗体は、好適には、単回で又は一連の治療にわたって患者に投与される。例えば、1回を超える別個の投与によるものであれ又は連続的注入によるものであれ、疾患のタイプ及び重症度によって、約1μg/kgから15mg/kg(例えば0.5mg/kg−10mg/kg)の抗体が患者への投与のための初期候補投薬量であってもよい。1つの一般的な日投薬量は、上で指摘した因子によって、約1μg/kgから100mg/kg以上の範囲内であってもよい。数日以上にわたる反復投与のためには、状態により、治療は病徴の所望の抑制が起こるまで一般に維持される。抗体の1つの例示的な投薬量は、約0.05mg/kgから約10mg/kgの範囲内であろう。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg又は10mg/kg(又はその任意の組合せ)の単回又は複数回の用量を患者に投与することができる。そのような用量は、断続的に、例えば毎週又は3週毎に投与することができる(例えば、患者が約2から約20用量、又は例えば約6用量の抗体を受けるように)。より高い初回負荷用量と、続く1回又は複数回のより低い用量を投与することができる。例示的な投薬レジメンは、約4mg/kgの初回負荷用量の投与、続いて抗体の約2mg/kgの毎週の維持量の投与を含む。しかし、他の投薬レジメンが利用可能なことがある。この療法の進行は、従来の技術及びアッセイにより容易に監視される。
【0230】
抗HER1抗体の代わりに又はそれに加えて本発明のイムノコンジュゲートを用いて、上記の製剤又は治療方法のいずれかを実行することができることが理解される。
【0231】
III.製造品
本発明の別の態様では、上記の障害の治療、予防及び/又は診断のために有益な材料を含有する製造品が提供される。製造品は、容器、及び容器の上に又はそれに関連して表示又は添付文書を含む。適する容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な材料で形成することができる。容器は、それ自体が有効であるか、又は状態を治療、予防及び/若しくは診断するために有効な別の組成物と組み合わされた組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有することができる(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針で穿刺可能なストッパを有するバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本発明の抗体である。表示又は添付文書は、組成物が選択された状態を治療するために用いられることを示す。さらに、製造品は、(a)本発明の抗体を含む組成物を含有する第1の容器;及び(b)さらなる細胞傷害性の、さもなければ治療用の薬剤を含む組成物を含有する第2の容器を含むことができる。本発明のこの実施態様で、製造品は、特定の状態を治療するために組成物を用いることができることを示す添付文書をさらに含むことができる。あるいは、又はさらに、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば静菌性注射用水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンガー液及びデキストローズ溶液を含む第2の(又は第3の)容器をさらに含むことができる。それは、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの見地から望ましい他の材料をさらに含むことができる。
【0232】
上記の製造品のいずれかは、抗HER1抗体の代わりに又はそれに加えて、本発明のイムノコンジュゲートを含むことができることが理解される。
【0233】
アミノ酸配列の説明
配列番号1 ヒトHER1のβ−ヘアピン
配列番号2 ヒトHER1
配列番号3 ヒトHER1細胞外ドメイン(ECD)
配列番号4 ヒトEGF
配列番号5 ヒトHER2
配列番号6 ヒトHER2細胞外ドメイン(ECD)
配列番号7 ヒトHER3
配列番号8 ヒトHER3細胞外ドメイン(ECD)
配列番号9 ヒトHER4
配列番号10 ヒトHER4細胞外ドメイン(ECD)
配列番号11 TtSlyDcas
配列番号12 TtSlyDcas−HER1
配列番号13 TtSlyDcys−HER1
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1
配列番号17 TgSlyDΔIF
配列番号18 TgSlyDcys−HER1
配列番号19 HER1抗体M−47−13のHER1結合性エピトープ
配列番号20 HER1抗体M−50−14(寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.097.14)及びM−50−23(寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.110.23)のHER1結合性エピトープ
配列番号21 ヒトカッパ軽鎖定常領域
配列番号22 ヒトラムダ軽鎖定常領域
配列番号23 IgG1に由来するヒト重鎖定常領域
配列番号24 L234A及びL235A突然変異IgG1に由来するヒト重鎖定常領域
配列番号25 L234A、L235A及びP329G突然変異IgG1に由来するヒト重鎖定常領域
配列番号26 IgG4に由来するヒト重鎖定常領域
【0234】
以下の実施例及び図面は本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神を逸脱しない範囲で、示される手法に改変を加えることができるものと理解される。
【0235】
以下に、本発明のいくつかの実施態様が掲載される:
1.ヒトHER1に結合する抗原結合性タンパク質を選択する方法であって、抗原結合性タンパク質はヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合し、
ここで、
a)配列番号1のアミノ酸配列を含む
配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
配列番号18 TgSlyDcys−HER1、
からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドが;a)の下の少なくとも1つのポリペプチドへの結合を示す抗原結合性タンパク質を選択するために用いられ、
それによって、ヒトHER1のPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する抗原結合性タンパク質を選択する方法。
2.実施態様1の選択方法によって得られる抗原結合性タンパク質。
3.抗原結合性タンパク質が抗体である、実施態様1の方法又は実施態様2の抗原結合性タンパク質。
4.ヒトHER1に結合する単離された抗原結合性タンパク質であって、
ELISAアッセイで、
配列番号13 TtSlyDcys−Her1、
のポリペプチドに、
配列番号11 TtSlyDcas
のポリペプチドへの結合と比較して少なくとも50倍高いELISAシグナルで結合し、ここで、TtSlyDcys−HER1及びTtSlyDcasは0.5μg/mlの濃度で固定化されている、抗原結合性タンパク質。
5.ヒトHER1に結合する単離された抗原結合性タンパク質であって、配列番号13のポリペプチド(TtSlyDcys−Her1)に含まれるPPLMLYNPTTYQMDVNPEGKのアミノ酸配列(配列番号1)の中で結合する、抗原結合性タンパク質。
6.抗原結合性タンパク質が抗体である、実施態様4又は5の抗原結合性タンパク質。
7.抗体が、EGFの非存在下でA549がん細胞(ATCC CCL−185)においてHER1のリン酸化を誘導しない(EGFの非存在下でA549がん細胞(ATCC CCL−185)においてHER1のリン酸化に関して非アゴニスト抗体である)、実施態様1から6のいずれか1つの単離された抗原結合性タンパク質又は抗体。
8.HER1発現A549細胞(ATCC CCL−185)を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの存在下でHER1の70パーセントを超える内部移行を示し、HER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの非存在下でHER1の55パーセント未満の内部移行を示す、実施態様1から7のいずれか1つの単離された抗体。
9.ヒトHER1に結合する単離された抗体であって、TYQMDVNPEGのアミノ酸配列(配列番号19)を含む、15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する抗体。
10.ヒトHER1に結合する単離された抗体であって、MLYNPTTYQのアミノ酸配列(配列番号20)を含む、15アミノ酸の長さのポリペプチドに結合する抗体。
11.ヒト、ヒト化された又はキメラの抗体である、実施態様6から10の抗体。
12.ヒトHER1に結合する抗体断片である、実施態様6から10の抗体。
13.ヒトHER1に結合する単離された抗体であって、
i)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240)の(a)HVR−H1;(b)HVR−H2;(c)HVR−H3;(d)HVR−L1;(e)HVR−L2;及び(f)HVR−L3;
ii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241)の(a)HVR−H1;(b)HVR−H2;(c)HVR−H3;(d)HVR−L1;(e)HVR−L2;及び(f)HVR−L3;
iii)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238)の(a)HVR−H1;(b)HVR−H2;(c)HVR−H3;(d)HVR−L1;(e)HVR−L2;及び(f)HVR−L3;
iv)寄託された抗体MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239)の(a)HVR−H1;(b)HVR−H2;(c)HVR−H3;(d)HVR−L1;(e)HVR−L2;及び(f)HVR−L3;
を含み、全てのHVRはカバットに従って決定される抗体。
14.完全長IgG1抗体又はIgG4抗体である、実施態様6から13のいずれか1つの抗体。
15.Fab断片である、実施態様6から13のいずれか1つの抗体。
16.実施態様6から13のいずれか1つの抗体及び細胞傷害性剤を含むイムノコンジュゲート。
17.実施態様6から13のいずれか1つの抗体又は実施態様16のイムノコンジュゲート、及び薬学的に許容される担体を含む薬学的製剤。
18.医薬として用いるための、実施態様6から13のいずれか1つの抗体又は実施態様16のイムノコンジュゲート。
19.がんの治療で用いるための実施態様6から13のいずれか1つの抗体又は実施態様16のイムノコンジュゲート。
20.HER1/HER2及び/又はHER1/HER1二量体化の阻害で用いるための実施態様6から13のいずれか1つの抗体。
21.医薬の製造での、実施態様6から13のいずれか1つの抗体又は実施態様16のイムノコンジュゲートの使用。
22.医薬ががん治療のためである、実施態様20の使用。
23.HER1/HER2及び/又はHER1/HER1二量体化の阻害のための医薬の製造における、実施態様6から13のいずれか1つの抗体の使用。
24.がんを有する個体を治療する方法であって、実施態様1から23のいずれか1つの抗体又は実施態様1から23のいずれか1つの抗体及び細胞傷害性剤を含むイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む方法。
25.がんを患っている個体でがん細胞のアポトーシスを誘導する方法であって、実施態様1から24のいずれか1つの抗体及び細胞傷害性剤を含むイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与し、それによって個体でがん細胞のアポトーシスを誘導することを含む方法。
26.実施態様6から11のいずれか1つの抗体をコードする、単離された核酸。
27.実施態様26の核酸を含む宿主細胞。
28.抗体が生成されるように実施態様27の宿主細胞を培養することを含む、抗体の生成方法。
29.配列番号1のアミノ酸配列を含む
i)配列番号12 TtSlyDcas−HER1、
ii)配列番号13 TtSlyDcys−HER1、
iii)配列番号14 TtSlyD(GSG)−HER1、
iv)配列番号15 TtSlyD(CC)−HER1、
v)配列番号16 TtSlyD(SS)−HER1、及び
vi) 配列番号18 TgSlyDcys−HER1、
からなる群から選択されるポリペプチド。
【0236】
生体物質の寄託
Budapest条約に従って、以下の生体物質がLeibniz−Institut Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)、Inhoffenstr.7B、38124 Braunschweig、Germanyに寄託されている。
【実施例】
【0237】
材料及び一般方法
組換えDNA技術
DNAを操作するために、Sambrook,J.等、Molecular Cloning:A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989に記載の通りに標準方法を用いた。分子生物学的試薬は、製造業者の指示に従って用いた。
【0238】
遺伝子合成
化学的合成によって作製されたオリゴヌクレオチドから、所望の遺伝子セグメントを調製した。PCR増幅を含むオリゴヌクレオチドのアニーリング及びライゲーションによって、単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位に連なる長さ400−1600bpの遺伝子セグメントを組み立て、その後、指示された制限部位、例えばEcoRI/BlpI又はBsmI/XhoIを介して下記の発現ベクターにクローニングした。サブクローニングした遺伝子断片のDNA配列は、DNA配列決定によって確認した。遺伝子合成断片は、Geneart(Regensburg、Germany)において所与の仕様書により注文した。
【0239】
DNA配列決定
Sequiserve GmbH(Vaterstetten、Germany)で実施された二本鎖配列決定によって、DNA配列は決定された。
【0240】
DNA及びタンパク質配列分析と配列データ管理
配列の形成、マッピング、分析、アノテーション及び図示のために、InfomaxのVector NT1 Advanceセットのバージョン11.5.0を用いた。
【0241】
実施例1
抗原の調製及びタンパク質スクリーニング−HER1のβ−ヘアピンに結合する抗体を選択するための機能的β−ヘアピンHER1コンストラクトの生成
機能的β−ヘアピンHER1コンストラクトを生成するために、FKBPドメインを含むSlyDポリペプチドフレームワークにHER1β−ヘアピンHER1のアミノ酸配列を接いだ。そのようなコンストラクトでは、HER1の天然の不活性化立体配置の隠れた構造と対照的に、接いだβ−ヘアピンは自由にアクセス可能である(例えばEGFのようにリガンドの非存在下で)(HER1のβ−ヘアピンが隠れている、
図1及び2を参照する)。
【0242】
全ての融合したSlyDポリペプチドは、ほとんど同一のプロトコールを用いることにより精製し、リフォールディングすることができる。選択的増殖のためのそれぞれの抗生物質を含有する(カナマイシン30μg/ml又はアンピシリン(100μg/ml))LB培地で、特定の発現プラスミドで形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞を1.5のOD600まで37℃で増殖させ、1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を加えることによってサイトゾル過剰発現を誘導した。誘導の3時間後に、遠心分離(5,000gで20分間)によって細胞を収集し、凍結させ、−20℃で保存した。細胞溶解のために、7M GdmCl及び5mMイミダゾールを加えた冷却させた50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH8.0)に冷凍ペレットを再懸濁した。その後、細胞溶解を完成させるために、懸濁液を氷上で2−10時間撹拌した。遠心分離(25,000g、1時間)及び濾過(硝酸セルロース膜、8.0μm、1.2μm、0.2μm)の後、溶解バッファーで平衡させたNi−NTAカラムに溶解物を加えた。以降の洗浄工程では、チオール部分を還元形に保ち、早発のジスルフィド架橋を阻止するために、イミダゾール濃度を10mM(7M GdmClを含む50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH8.0)中で)に上げ、5mM TCEPを加えた。少なくとも15から20容積の還元性洗浄バッファーを加えた。その後、マトリックスに結合したSlyD融合ポリペプチドの立体配置的リフォールディングを誘導するために、100mM NaCl、10mMイミダゾール及び5mM TCEPを含む50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH8.0)でGdmCl溶液を置き換えた。同時精製プロテアーゼの再活性化を回避するために、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete(登録商標)EDTAフリー、Roche)をリフォールディングバッファーに加えた。合計15から20カラム容積のリフォールディングバッファーを、夜通しの手順の中で加えた。その後、100mM NaCl及び10mMイミダゾールを含む、10カラム容積の50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH8.0)で洗浄することによって、TCEPとComplete(登録商標)EDTAフリー阻害剤カクテルの両方を除去した。最後の洗浄工程では、頑固な汚染物質を除去するために、イミダゾール濃度を30mM(10カラム容積)に上げた。同じバッファー中の250mMイミダゾールを加えることによって、リフォールディングさせたポリペプチドを次に溶出させた。トリシン−SDS−PAGEによって、タンパク質含有画分を純度について調査した(Schaegger, H.及びvon Jagow, G., Anal. Biochem. 166 (1987) 368-379)。その後、バッファー系(50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)、100mM KCl、0.5mM EDTA)としてリン酸カリウムを用いるサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex(商標)HiLoad、Amersham Pharmacia)に、タンパク質をかけた。最後に、タンパク質含有画分をプールし、Amiconセル(YM10)で〜5mg/mlの濃度に濃縮した。TtSlyDcas−HER1のNi−NTA精製の例示的なSDS−PAGE分析を
図3に示し、テルムス・テルモフィルスSlyDcas−HER1のNi−NTA精製画分のSEC溶出プロファイルを
図4に示す。TtSlyDcas−HER1融合ポリペプチドは、そのモノマー形態の可溶型及び安定したポリペプチドとして精製することに成功した。最終収量は、画分11及び12からの30mg精製タンパク質で数量化された。
【0243】
表2:開発したSlyDベースのエピトープ足場のアミノ酸配列の要約(それは挿入断片としてHER1二量体化ドメイン断片HER1を有する。
【0244】
テルムス・テルモフィルスのTtSlyDcas−HER1、TtSlyDcys−HER1、TtSlyD(GSG)−HER1、TtSlyD(CC)−HER1、TtSlyD(SS)−HER1、テルモコックス・ガンマトレランス(Thermococcus gammatolerans)のTgSlyDcys−HER1は、挿入断片としてHER1二量体化ドメイン断片(HER1のβ−ヘアピン)を有し、ELISAスクリーニングで免疫原として、及びポジティブコントロールとして用いられた。
【0245】
TtSlyDcas及びTgSlyDΔIFは、ELISAスクリーニングでネガティブコントロールとして用いられた(HER1二量体化ドメイン断片(挿入断片としてHER1のβ−ヘアピン)なしで)。
【0246】
エピトープ足場は大腸菌で発現されるので、N末端メチオニン残基は存在しても存在しなくてもよい。(Nt=N末端;Ct=C末端)
【0247】
実施例2
a)免疫化及びHER1抗体の選択
HER1のβ−ヘアピンに対する抗体の生成のために、Balb/C、NMRI又はSJLマウスを異なる抗原で免疫化した。抗原として、以下のタンパク質を用いた:完全長HER1 ECD、又はエピトープ足場タンパク質TtSlyDcas−HER1、TtSlyDcys−HER1及びTtSlyD(GSG)−HER1。TtSlyDcas−HER1変異体は、HER1二量体化ドメイン特異的抗体の生成のために用いられる、第一世代のエピトープ足場を表す。
【0248】
免疫化の実施開始後0、6及び10週間の時点で、全てのマウスを3回の免疫化にかけた。各時点で、各マウスを100μlのPBSに溶解した100μgの無エンドトキシン免疫原で免疫化した。最初の免疫化のために、免疫原を100μlのCFAと混合した。2回目及び3回目の免疫化のために、免疫原をIFAと混合した。1回目と3回目の免疫化は腹膜内経路を介して加え、2回目の免疫化は皮下に加えた。ハイブリドーマ技術を用いた抗体発達のための脾細胞の調製の2及び3日前に、アジュバントなしの100μlのPBS中の12.5μgの免疫原による静脈内ブースター免疫化に、マウスをかけた。
【0249】
力価分析
それぞれの免疫原及びスクリーニングタンパク質に対する血清力価の決定のために、免疫化の実施開始後11週目に各マウスの血清の少量を収集した。ELISAのために、免疫原又はスクリーニング足場タンパク質をプレート表面に固定化した。HER1 ECDを1μg/mlの濃度で固定化し、足場タンパク質TtSlyDcas−HER1、TtSlyDcys−HER1、TtSlyD(GSG)−HER1、TtSlyDcas、TgSlyDΔIF及びTgSlyDcys−HER1は0.5μg/mlの濃度で用いた。足場タンパク質TtSlyDcas及びTgSlyDΔIFは、ネガティブコントロールとして用いた。各マウスからの血清を1%BSA含有PBSで希釈し、希釈溶液をプレートに加えた。血清は、1:300、1:900、1:2700、1:8100、1:24300、1:72900、1:218700及び1:656100の希釈で試験した。結合した抗体は、HRP標識F(ab’)
2ヤギ抗マウスFcγ(Dianova)及び基質としてABTS(Roche)で検出した。
【0250】
血清滴定のレベルにおいてさえ、免疫化されたマウスがHER1β−ヘアピンドメインに対する抗体を発達させることは既に明らかだった。HER1 ECDで免疫化したマウスでは、これは、二量体化β−ヘアピンループを含有する足場タンパク質の1つに対する滴定によって示すことができる。強く低減されたシグナルは、HER1 ECDによる免疫化より生じた抗体の大部分はECDの中の他の部分を標的にし、わずかな部分だけが二量体化β−ヘアピンドメインに結合するという事実によって説明することができる。HER1二量体化ループ含有足場で免疫化したマウスでは、ループを標的にする抗体の画分は、Her1 ECD(ポジティブコントロール)に対する滴定及びHER1挿入なしのコントロール足場(ネガティブコントロール)に対する滴定によって示すことができる。
【0251】
b)抗体発達及びELISAスクリーニング/選択
ここに記載されるエピトープ足場技術の使用は、HER1二量体化ドメイン(HER1のβ−ヘアピン)を標的にする抗体の発達のための2つの戦略を主に提供する。1つの戦略は、完全長HER1 ECDで免疫化し、二量体化ドメイン特異的抗体についてスクリーニングするために足場を用いることである。他の戦略は、免疫化のための足場の直接使用、及び、HER1 ECD、別の骨格を有する足場又は逆スクリーニングのために挿入なしの足場を用いることである。一次B細胞をP3X63Ag8.653骨髄腫細胞と融合することによって、抗体をハイブリドーマ技術で生じさせた。最終ブースター免疫化の2日後に、免疫化マウスを屠殺し、脾細胞集団を調製した。PEG融合技術を用いることにより、脾細胞をP3X63Ag8.653と融合させた。融合からの細胞バッチ培養を、5%CO
2の下の37℃で一晩インキュベートした。翌日、融合細胞を含有する細胞バッチを300gで10分間遠心分離した。その後、細胞を0.1×アザセリン−ヒポキサンチン(Sigma)加用ハイブリドーマ選択培地に懸濁し、96ウェルプレートの1ウェルにつき細胞数2.5×10
4の濃度で播種した。5%CO
2の下の37℃で少なくとも1週間、プレートを培養した。ELISA分析の3日前に、選択培地を交換した。
【0252】
HER1 ECD及び様々な足場タンパク質に対して、一次培養上清をELISAで試験した。足場タンパク質に対する試験は、選択されたクローンが天然のHER1 ECDの二量体化ドメインβ−ヘアピンに結合することを実証するために実行された。コントロール足場TtSlyDcas及びTgSlyDΔIFに対する試験は、選択されたクローンが挿入されたHER1由来の配列に結合し、足場骨格に結合しないことを示すために実行された。ELISAスクリーニングのために、抗原ダウンフォーマットを用いた。HER1 ECDを1μg/mlの濃度で固定化し、足場タンパク質TtSlyDcys−HER1、TgSlyDcys−Her1及びTtSlyDcasは0.5μg/mlの濃度で固定化した。ハイブリドーマ上清をプレートに加え、室温で1時間インキュベートした。結合した抗体は西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識F(ab’)
2ヤギ抗マウスFcγ(Dianova)で検出し、2,2’−アジノ−ジ−[3−エチルベンズチアゾリンスルホネート(6)]二アンモニウム塩(ABTS)(Roche)をHRP基質として用いた。
【0253】
HRP標識F(ab’)
2ABTS(Roche)を、HRP基質として用いた。
c)免疫組織化学
選択したクローンを、反応性及び特異性についてIHCで試験した。したがって、完全長HER1、HER2、HER3又はHER4をそれぞれコードするプラスミドで、HEK293細胞を一時的にトランスフェクトさせた。トランスフェクションの2日後に、今やHER1、HER2、HER3又はHER4を発現する異なる細胞株を収集し、その後IHCコントロールの生成のためにホルマリンで固定し、アガロースに包埋した。ホルマリンでの夜通しの追加の固定の後、アガロースブロックをパラフィンに包埋した。トランスフェクトしていないHEK293細胞はネガティブコントロールとして用い、トランスフェクトした細胞の通りに処理した。パラフィン包埋の後、ミクロトームを用いて3μmの薄切片を調製した。切片をガラス製顕微鏡スライドに載せ、2時間乾燥させた。免疫組織化学的染色手法の全てのさらなる工程を、Ventana Benchmark XTを用いて実行した。1時間加熱してスライドからワックスを除去し、抗原の回収を実施した。抗原回収のために、VentanaバッファーCC1を用いた。抗体は、1μg/mlの濃度で用いた。結合した抗体の検出のために、Ventana UltraView検出キットを用いた。結果は、
図5に示す。全ての試験したクローンはHER1への結合を示し、HER2、HER3又はHER4に対する交差反応性は検出されなかった。
d)選択された抗Her1ハイブリドーマのDNA配列決定
選択されたハイブリドーマクローンのDNA配列を得るために、5’Race PCRを実行した。RT−PCRのために、全RNA精製キット(Qiagen)を用いて5×10
6個の細胞から全RNAを調製する。5’プライムRACE PCRキット(Roche)を用いて、逆転写及びPCRを実行した。重鎖及び軽鎖から生じたPCR断片を、ゲル電気泳動及び以降のゲル精製によって精製する。TopoZero−Bluntクローニングキット(Invitrogen)を用いてPCR断片をクローニングし、コンピテント細胞に形質転換させる。選択されたクローンのためのコンセンサス配列を得るために、各ハイブリドーマからのいくつかのクローン(例えば、クローンM−31−22、M−37.058.09(MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238))、M−37−15(MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239))、M−47−01、M−47−04、M−47−06、M−47−08、M−47−09、M−47−12、M−47−13、M−46−14、M−47−15、M−47−16、M−50−14(MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240))、M−50−21、M−50−23(MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241))、M−50−24、M−50−37、M−50−38及びM−50−40)が配列決定にかけられる。
【0254】
実施例3
抗HER1抗体(M−47−13)の例示的なエピトープマッピングペプチドベースの2Dエピトープマッピング
別の実施態様では、CelluSpots(商標)合成及びエピトープマッピング技術を用いて、HER1 ECDエピトープを特徴付けるために、ペプチドベースのエピトープマッピング実験を実行した。エピトープマッピングは、ヒトHER1 ECD、HER2 ECD、HER3 ECD及びHER4 ECDペプチドヘアピンの配列に対応する、重複した固定化されたペプチド断片(長さ:15アミノ酸)のライブラリーによって実行した。
図6に、エピトープマッピングの戦略を示す。それらの構造的な埋め込み(構造的)を含む、HER1(EGFR)ECD、HER2 ECD、HER3 ECD及びHER4 ECDのペプチドヘアピン配列(β−ヘアピン)を調査した。システインは、セリンと置き換えた。合成した各ペプチドを1アミノ酸シフトさせた、すなわち、それは前及び後のペプチドとそれぞれ14アミノ酸の重複部分を有していた。ペプチドアレイの調製のために、Intavis CelluSpots(商標)技術を採用した。この手法では、合成後溶解する修飾されたセルロースディスクの上で、ペプチドを自動合成装置(Intavis MultiPep RS)で合成する。高分子セルロースに共有結合している個々のペプチドの溶液を、コーティングされた顕微鏡スライドの上へ次にスポットする。CelluSpots(商標)合成は、384ウェル合成プレートのアミノ修飾セルロースディスクの上で9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学を利用して段階的に実行した。各カップリングサイクルでは、対応するアミノ酸を、DMF中のDIC/HOBtの溶液で活性化した。カップリング工程の間で、反応していないアミノ基は、無水酢酸、ジイソプロピルエチルアミン及び1−ヒドロキシベンゾトリアゾールの混合物でキャップした。合成の終了後、セルロースディスクを96ウェルプレートに移し、側鎖脱保護のためにトリフルオロ酢酸酸(TFA)、ジクロロメタン、トリイソプロピルシラン(TIS)及び水の混合物で処理した。切断溶液の除去の後、TFA、TFMSA、TIS及び水の混合物でセルロース結合ペプチドを溶解し、ジイソプロピルエーテルで沈殿させ、DMSOに再懸濁する。その後、Intavisスライドスポッティングロボットを用いて、Intavis CelluSpots(商標)スライドの上へペプチド溶液をスポットした。
【0255】
エピトープ分析のために、前記の通りに調製したスライドをエタノールで、次にTris緩衝食塩水(TBS;50mM Tris、137mM NaCl、2.7mM KCl、pH8)で洗浄し、その後、4℃で16時間、5mLの10×ウェスタンブロッキング試薬(Roche Applied Science)、TBS中の2.5gスクロース、0.1%Tween20によりブロックした。スライドをTBS及び0.1%Tween20で洗浄し、その後常温で2時間、TBS中の対応するIGF1抗体の1μg/mL及び0.1%Tween20とインキュベートし、その後TBS+0.1%Tween20で洗浄した。検出のために、スライドを抗ウサギ/抗マウス二次HRP抗体(TBS−Tに1:20000)とインキュベートし、続いて化学発光基質ルミノールとインキュベートし、LumiImager(Roche Applied Science)で可視化した。ELISAポジティブSPOTを数量化し、対応するペプチド配列の帰属を通して、抗体結合性エピトープを特定した。
【0256】
図7に表すように、M−47−13は、HER2 ECD、HER3 ECD又はHER4 ECDのヘアピンモチーフに対して検出可能なシグナルのないアミノ酸配列TYQMDVNPEG(配列番号19)を有するHER1 ECDエピトープを示す。M31−22は、わずかに異なるエピトープを示す。M−50−14(寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240))及びM−50−23(寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241))は、HER2 ECD、HER3 ECD又はHER4 ECDのヘアピンモチーフに対して検出可能なシグナルのないアミノ酸配列MLYNPTTYQ(配列番号20)を有するHER1 ECDエピトープを示す。
【0257】
実施例4
抗HER1β−ヘアピン抗体の動態スクリーニング/結合特性
動態スクリーニングは、Biacore CM5センサーを載せたBIAcore 4000機器で、Schraeml等(Schraml, M.及びM. Biehl、Methods Mol Biol 901 (2012) 171-181)に従って実施する。全てのアッセイで、試験抗体が捕捉される。このシステムは、ソフトウェアバージョンV1.1の制御下にある。機器バッファーは、HBS−EP(10mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.05(w/v)%P20)であった。システムは、25℃で操作される。10mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)中の30μg/mlウサギポリクローナル抗体(RAM IgG、(Fcガンマ特異性を有するウサギ抗マウスIgG)GE Healthcare)を、製造業者の使用説明書に従い、EDC/NHS化学を用いてフローセル1、2、3及び4のスポット1、2、4及び5の上に固定化する。センサーは、1Mエタノールアミンを用いて飽和する。各フローセルで、参照シグナルはスポット1−2及びスポット5−4を用いて計算され、スポット3はブランクコントロールの役目を果たす。抗原(HER1のβ−ヘアピンペプチド(配列番号1)を含む、ヒト組換えHER1 ECD、及び組換えテルムス・テルモフィルスTtSlyDcas−HER1、TtSlyDcys−HER1、TtSlyD−(GSG)−HER1、TtSlyD−(CC)−HER1、TtSlyD−(SS)−HER1、テルモコックス・ガンマトレランスTgSlyDcys−HER1の1つ)を、非特異的結合を抑制するために1mg/mlのCMD(カルボキシメチルデキストラン、Sigma)を追加した機器バッファーで150nMに希釈する。それらを加える前に、ハイブリドーマ培養上清を機器バッファーで1:5に希釈する。希釈した混合物を、30μl/分の流速で2分間注入する。応答単位で表した抗体捕捉レベル(CL)を監視する。その直後、それぞれの抗原を3分の結合時間の間30μl/分の流速で注入する。その後、抗体抗原複合体の解離シグナルを5分間記録する。10mMグリシンHCl溶液(pH1.7)を30μl/分の流速で2分間注入することによって、センサーを再生する。抗原の注入の終了の直前に記録したシグナルは、応答単位において、遅い結合(BL)と表される。解離の記録の終了の直前に記録したシグナルは、応答単位において、遅い安定性(SL)と表される。解離速度定数を判定、計算する。分で表した抗体抗原複合体の安定性は、以下の式で計算される:ln(2)/60*kd。モル比は、以下の式で計算された:MW(抗体)/MW(抗原)*BL(抗原)/CL(抗体)。
【0258】
遅い結合(BL)は、被分析物注入の終わりの応答単位を表す。センサー表面のリガンドとして捕捉される抗体の量は、応答単位において、捕捉レベル(CL)として測定される。試験した被分析物、溶液中の抗体及び被分析物の分子量の情報と一緒に、モル比を計算することができる。センサーが抗体リガンド捕捉レベルの適する量で構成される場合には、各抗体は少なくとも溶液中の1つの被分析物に機能的に結合することができるはずであり、それはMR=1.0のモル比で表される。次に、モル比は、被分析物結合の結合価モードのための指標でもある。最大結合価は2つの被分析物に結合する抗体ではMR=2であり得、各Fab結合価は1である。立体的制約又は機能障害性被分析物結合の場合には、HER1 ECDが本発明の抗HER1β−ヘアピン抗体によってその「閉鎖的」立体配置で結合している場合のように(このβヘアピンは閉鎖的立体配置に隠れている)、モル比は化学量論よりも低い結合を示し得る。モル比の判定での最大アッセイ偏差は、MR=0.2である。
【0259】
実施例5
ウェスタンブロットによる抗HER1β−ヘアピン抗体の時間依存的内部移行分析!
抗HER1β−ヘアピン抗体への抗HER1β−ヘアピン抗体の結合及びその内部移行を、HER1発現がん細胞株A549を用いるウェスタンブロットで分析した。
【0260】
24ウェルプレート(細胞数3×105/ウェル、10%FCS含有培地)に、HER1発現A549(ATCC(登録商標)CCL−185(商標)肺癌)細胞を播種した。翌日に、培地を絶食培地(0.5%FCS)に置き換えた。4時間後に(細胞溶解の24時間前に)、抗体M−50−14(=寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.097.14)を、185μg/mlの最終濃度まで各細胞株の2つのウェルに加えた。翌日、抗体M−50−14(=寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.097.14)を以下の時点で再び加えた:細胞溶解の6時間、4時間、2時間、1時間前。細胞溶解の10分前に、各時点の1つのウェルを、hEGF(最終濃度200ng/ml)で刺激した。細胞を、40μlのTriton溶解バッファーで溶解した。SDS−PAGEを実施し、続いて半湿式ウェスタンブロッティングを実施した。膜は、HER1(Upstate#06−847)、ホスホHER1(Epitomics#1139−1)及びホスホチロシン(Millipore#16−105)に対する抗体とインキュベートした。
【0261】
結果を、
図9(A549細胞)に示す。左側はEGFの非存在下での時間依存性HER1検出を示し、右側はEGFの存在下での時間依存性HER1検出を示す。抗体M−50−14は、EGFの非存在下でよりその存在下で明らかにより強力なHER1内部移行を示す。(HER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの存在下でHER1の70パーセントを超える内部移行、及びHER1発現A549細胞を用いるウェスタンブロットアッセイで抗体とのインキュベーションから2時間後にEGFの非存在下でHER1の55パーセント未満の内部移行)。
【0262】
実施例6
HER1発現A549及びA431がん細胞での抗HER1抗体結合によるHER1リン酸化の阻害(誘導なし)
24ウェルプレート(細胞数3×105/ウェル、10%FCS含有培地)に、HER1発現A549(ATCC(登録商標)CCL−185(商標)肺癌)細胞及びA431(ATCC(登録商標)CRL−1555(商標)−皮膚がん/類表皮癌)細胞を播種した。翌日に、培地を絶食培地(0.5%FCS)に置き換えた。4時間後に(細胞溶解の24時間前に)、抗体を185μg/mlの最終濃度まで各細胞株の2つのウェルに加えた。翌日、抗体を以下の時点で再び加えた:細胞溶解の6時間、4時間、2時間、1時間前。細胞溶解の10分前に、各時点の1つのウェルを、hEGF(最終濃度200ng/ml)で刺激した。細胞を、40μlのTriton溶解バッファーで溶解した。SDS−PAGEを実施し、続いて半湿式ウェスタンブロッティングを実施した。膜は、HER1(Upstate#06−847)、ホスホHER1(Epitomics#1139−1)及びホスホチロシン(Millipore#16−105)に対する抗体とインキュベートした。
【0263】
結果を、
図8A(A549細胞)及び8B(A431細胞、わずかな構成的に活性化/リン酸化されたHER1による強力なHER1発現)に示す。左のレーンはEGFの非存在下又は存在下でのHER1の検出を示し、右のレーンはリン酸化されたHER1の検出を示す。
【0264】
両方のがん細胞株で、抗HER1β−ヘアピン抗体HER1 dib1=M−50−14(=寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240))、HER1 dib2=M−50−23(=寄託されたMAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241))及びHER1 dib3=M−47−15は、HER1のリン酸化の誘導を示さず、非アゴニストHER1抗体としての働きをし(EGFリガンドの非存在下、−レーン)、一方、セツキシマブ、GA201(イムガツズマブ、CAS番号959963−46−3、親のICR62ラット抗体のヒト化によって導かれた、ヒト化され、糖操作されたIgG1 mAb、例えば国際公開第2006/082515号に記載される)、又はABT806(mAb806、EGFR欠失変異体、de2−7 EGFR並びに野生型を標的にする、例えば米国特許出願第2011/0076232号に記載される)のような他のHER1抗体は、強力なリン酸化を誘導した(EGFの非存在下で、抗体のない培地と、又は本発明の抗体と比較して)。
【0265】
実施例7
抗HER1β−ヘアピン抗体(ELISA)の存在下でのHER1(EGFR)−ECDへのリガンドEGFの結合
ストレプトアビジンをコーティングした96ウェルプレートを、SBP標識HER1−ECDを含有する細胞培養上清と4℃でインキュベートした。翌日に、洗浄バッファー(PBS+0.05%Tween−20)でウェルを3回洗浄し、1%BSAを含有するPBSで1時間ブロックした。洗浄バッファーによるさらなる3回の洗浄の後、所望の最終濃度(10
−3から10
3nM)の2×保存液として40μlの抗体溶液(Delfia結合バッファー中)を各ウェルに加えた。直ちに、10nMの最終濃度を達成するために40μlの20nMユウロピウム標識EGFを加えた。室温で2時間、プレートを振盪機の上でインキュベートした。Delfia洗浄バッファーによる3回の洗浄の後、Delfia強化溶液を加え、振盪機の上で15分間インキュベートした(光保護)。最後に、時間分解蛍光測定プロトコールを用いてTecan Infinite F200リーダーでプレートを測定した。HER1dib上清は、1:1から1:10e7の希釈で用いた。抗HER1抗体M−50−14(50.097.14=MAK<HER1−DIB>M−50.097.14(DSM ACC3240.);M−50−23(50.110.23=MAK<HER1−DIB>M−50.110.23(DSM ACC3241.);M−47−15(M−47.259.15);M−31−22(M−31.021.22);M−37−09(MAK<HER1−DIB>M−37.058.09(DSM ACC3238);M−37−15(MAK<HER1−DIB>M−37.186.15(DSM ACC3239)の結果を
図10に示す。