(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559722
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】逆止弁
(51)【国際特許分類】
F16K 1/42 20060101AFI20190805BHJP
F16K 15/06 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
F16K1/42 G
F16K15/06
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-12110(P2017-12110)
(22)【出願日】2017年1月26日
(65)【公開番号】特開2018-119627(P2018-119627A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2018年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓也
(72)【発明者】
【氏名】野原 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】大西 博文
【審査官】
角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第01890223(US,A)
【文献】
特開2014−202254(JP,A)
【文献】
実開平02−150476(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/00−1/54
15/00−17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側開口、下流側開口、及び該上流側開口から該下流側開口にまで延びる流体通路を有するケーシングと、
上流側端部、下流側端部、及び該上流側端部から該下流側端部にまで延びる連通路を有し、該流体通路内において該ケーシングに固定された弁座部材であって、該流体通路の下流側に面する端面に弁座面が形成された弁座部材と、
該弁座部材とは別体とされ、該弁座部材の該下流側端部に取り外し可能に取り付けられて、該流体通路内において該下流側端部から下流側に延在し内側に弁体収容空間を画定する筒状の弁体ハウジングと、
該弁体ハウジングの該弁体収容空間内において該弁体収容空間の長手軸線の方向で摺動可能に配置された弁体であって、該弁座部材の該弁座面に当接して該連通路を閉止する閉止位置と、該閉止位置よりも下流側に位置し該弁座面から離れて該連通路を開放する開放位置との間で変位可能とされた弁体と、
を備え、
該ケーシングが、該上流側開口を有する第1のケーシング部材と、該下流側開口を有し該第1のケーシング部材に連結された第2のケーシング部材とを備え、
該弁座部材が、径方向外側に突出したシール部を有し、該シール部が該第1のケーシング部材と該第2のケーシング部材との間に狭着されることにより、該第1及び第2のケーシング部材の間を密封して該ケーシングに固定され、
該弁座部材が該下流側端部の外周面に雄ねじ部を有し、該弁体ハウジングが内周面に雌ねじ部を有し、該雌ねじ部を該雄ねじ部に螺合することにより該弁体ハウジングが該弁座部材に取り付けられるようにされており、
該弁座部材の外周面に、該弁体ハウジングが取り付けられたときに該弁体ハウジングの上流側端面が当接する当接面と、該当接面と該シール部との間の位置に形成された周方向に延びる歪抑制溝と、を有するようにされた、逆止弁。
【請求項2】
該弁座部材の該弁座面が、該流体通路の下流側に向かって拡径した円錐状面である、請求項1に記載の逆止弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆止弁に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の逆流を防止するための逆止弁として、流体通路を有するケーシングと、流体通路内に配置された弁座部材と、流体通路内において弁座部材の弁座面に密封して当接することにより流体通路を閉止する弁体とを備えるものがある。例えば特許文献1に示される逆止弁は、弁体がスプリングによって弁座面に押し付けられるように付勢されていて、弁体に対する順方向への流体圧力がスプリングの付勢力を超えると弁体が下流側に変位して流体通路が開放され、逆方向への流体圧力が加わるとスプリングの付勢力と該流体圧力とによって弁体が弁座面に押し付けられて流体通路が閉止された状態が維持されるようになっている。比較的に低い低圧の流体を対象とする逆止弁においては、ゴムなどの弾性部材により形成されたシールリングを弁体と弁座面との間に介在させて弁体と弁座面との間を密封するようになっているが、高圧流体を対象とする逆止弁においては、シールリングが高圧流体によって破損する虞があるため、特許文献1の逆止弁のように剛性が高い金属などの材料で形成された弁体と弁座部材とを直接当接させる、いわゆるメタルシール構造により流体通路を閉止するようにすることが多い。このようなメタルシール構造において高いシール性を確保するためには、弁座面とそれに当接する弁体の当接部分とを高い精度で加工することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−94962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す逆止弁においては弁座面が筒状の弁座部材の内側の奥まった位置に形成されているため、弁座面の加工には細長く延びた工具を使用しなければならなかった。そのような工具の先端には振動やブレが生じやすくなるため、弁座面の加工を高精度で行うことが難しかった。また、加工した弁座面が奥まった位置にあるため、弁座面の加工精度を加工後に確認することも難しかった。このようなことから、弁座面の高い精度での加工は多くの時間を要する繁雑な作業となっていた。
【0005】
そこで本発明は、弁座面の加工を容易に行えるようにした逆止弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
上流側開口、下流側開口、及び該上流側開口から該下流側開口にまで延びる流体通路を有するケーシングと、
上流側端部、下流側端部、及び該上流側端部から該下流側端部にまで延びる連通路を有し、該流体通路内において該ケーシングに固定された弁座部材であって、該流体通路の下流側に面する端面に弁座面が形成された弁座部材と、
該弁座部材とは別体とされ、該弁座部材の該下流側端部に取り外し可能に取り付けられて、該流体通路内において該下流側端部から下流側に延在し内側に弁体収容空間を画定する筒状の弁体ハウジングと、
該弁体ハウジングの該弁体収容空間内において該弁体収容空間の長手軸線の方向で摺動可能に配置された弁体であって、該弁座部材の該弁座面に当接して該連通路を閉止する閉止位置と、該閉止位置よりも下流側に位置し該弁座面から離れて該連通路を開放する開放位置との間で変位可能とされた弁体と、
を備える逆止弁を提供する。
【0007】
当該逆止弁においては、弁座面を弁座部材の下流側の端面に形成するようにしているため、従来のように奥まった位置に弁座面か形成されているものに比べて、弁座面の加工が容易になる。また加工した弁座面の加工精度の確認も容易に行うことが可能となる。これにより、弁座面の研削や研磨による高精度な加工をより容易に行うことが可能となる。
【0008】
好ましくは、
該ケーシングが、該上流側開口を有する第1のケーシング部材と、該下流側開口を有し該第1のケーシング部材に連結された第2のケーシング部材とを備え、
該弁座部材が、径方向外側に突出したシール部を有し、該シール部が該第1のケーシング部材と該第2のケーシング部材との間に狭着されることにより、該第1及び第2のケーシング部材の間を密封して該ケーシングに固定され、
該弁座部材が該下流側端部の外周面に雄ねじ部を有し、該弁体ハウジングが内周面に雌ねじ部を有し、該雌ねじ部を該雄ねじ部に螺合することにより該弁体ハウジングが該弁座部材に取り付けられるようにされており、
該弁座部材の外周面に、該弁体ハウジングが取り付けられたときに該弁体ハウジングの上流側端面が当接する当接面と、該当接面と該シール部との間の位置に形成された周方向に延びる歪抑制溝と、を有するようにすることができる。
【0009】
弁座部材のシール部を第1のケーシング部材と第2のケーシング部材とによって狭着すると、シール部には第1及び第2のケーシング部材から受ける強い力により歪が生じる。弁座面を弁座部材の端面に形成したことに伴って、弁体ハウジングの取付位置が弁座部材のシール部に近い位置となり、シール部に生じた歪みによって弁体ハウジングの取付位置にも歪みが生じる虞がある。しかしながら、上述のように弁体ハウジングの上流側端面が当接する当接面とシール部との間に歪抑制溝を設けることにより、シール部の歪が歪抑制溝において吸収されて、シール部の歪の影響が当接面にまでは及ばないようすることができる。これにより、シール部の歪によって当接面までもが変形して弁体ハウジングの螺合が緩んでしまうことを防止することが可能となる。
【0010】
具体的には、該弁座部材の該弁座面が、該流体通路の下流側に向かって拡径した円錐状面であるようにすることができる。
【0011】
以下、本発明に係る逆止弁の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る逆止弁の側面断面図であり、弁体が閉止位置にある状態を示す図である。
【
図2】
図1の逆止弁において弁体が開放位置にある状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る逆止弁10は、
図1及び
図2に示すように、上流側開口14から下流側開口16にまで延びる流体通路18を有するケーシング12と、流体通路18内に配置された弁座部材20と、弁座部材20に取り付けられた弁体ハウジング22と、弁体ハウジング22内に配置された弁体24とを備える。当該逆止弁10は、下流側開口16から流体圧力が加わっているときには弁体24が流体通路18を閉止した状態(
図1)を維持して流体が上流側(図で見て左側)に向かって逆流することを阻止し、上流側開口14から一定以上の大きさの流体圧力が加わったときには弁体24が下流側(図で見て右側)に変位して流体通路18を開放した状態(
図2)となり、流体が下流側に向かって流れるようになっている。
【0014】
ケーシング12は、上流側開口14を有する第1のケーシング部材26と、下流側開口16を有する第2のケーシング部材28とからなる。第1のケーシング部材26と第2のケーシング部材28とは、互いに螺合されて連結されている。第1のケーシング部材26には、例えば水素ステーションにおける水素供給ホースのノズルなどが取り外し可能に接続されるようにされたノズル接続部30が形成されている。また、第2のケーシング部材28には、例えば燃料電池車の水素タンクに繋がる配管などが接続される配管接続部32が形成されている。
【0015】
弁座部材20は、径方向外側に突出したシール部34を有しており、このシール部34が第1のケーシング部材26と第2のケーシング部材28との間に狭着されることにより、流体通路18内においてケーシング12に固定されている。シール部34は、第1のケーシング部材26の押圧部36に当接する傾斜した第1シール面38と第2のケーシング部材28の押圧部40に当接する傾斜した第2シール面42とを有していて、径方向外側に向かってテーパ状となっている。第1及び第2のケーシング部材26、28と弁座部材20とはともに金属材料により形成されているが、弁座部材20はケーシング12よりも柔らかい金属材料により形成されている。したがって、第1のケーシング部材26と第2のケーシング部材28とを螺合させてその間に弁座部材20を狭着すると、弁座部材20のシール部34は、第1のケーシング部材26の押圧部36と第2のケーシング部材28の押圧部40とによって押し潰されて、各押圧部36、40がシール面38、40に食い込むようにして変形する。これにより第1のケーシング部材26と第2のケーシング部材28との間は弁座部材20を介して密封される。
【0016】
弁座部材20は、その上流側端部44から下流側端部46にまで延びる連通路48を有していて、ケーシング12の上流側開口14から下流側開口16に向かって流れる流体が連通路48の中を通るようになっている。上流側端部44には流体中の塵や埃を取り除くためのフィルタ50が取り外し可能に取り付けられている。下流側端部46の下流側に面する端面52の一部に弁座面54が形成されている。この弁座面54は、流体通路18の下流側に向かって拡径した環状の円錐状面となっている。弁座部材20の下流側端部46の外周面56には雄ねじ部58が形成されており、この雄ねじ部58に弁体ハウジング22の内周面60の上流側の先端付近に形成された雌ねじ部62が螺合されるようになっている。
【0017】
弁体ハウジング22は、弁座部材20とは別体とされており、上述のように雌ねじ部62を弁座部材20の雄ねじ部58に螺合することにより、弁座部材20に取り外し可能に取り付けられている。弁体ハウジング22は、弁座部材20の下流側端部46からさらに下流側に延在した筒状の形状を有し、その内側に弁体収容空間64を画定している。また、弁体ハウジング22は、弁座部材20に取り付けられている雌ねじ部62の付近の大径部分66と、その下流側の小径部分68とを有しており、大径部分66は第2のケーシング部材28の内周面70とほぼ同じ大きさとされ、小径部分68は第2のケーシング部材28の内周面70との間に流体が通過するのに十分な隙間72が形成される大きさとされている。
【0018】
弁体24は、弁体ハウジング22の弁体収容空間64内において、長手軸線Lの方向で内周面60に対して摺動可能に配置されている。弁体24は、弁座部材20の弁座面54に当接して連通路48を閉止する閉止位置(
図1)と、閉止位置よりも下流側に位置して弁座面54から離れて連通路48を開放する開放位置(
図2)との間で変位するようにされている。弁体24と弁体ハウジング22との間には、弁体24を上流側に向かって付勢するスプリング74が配置されている。弁体24の外周面には環状凹部76が形成されており、この環状凹部76の中に環状の摺動抵抗付与部材77が配置されている。この摺動抵抗付与部材77により、弁体24と弁体ハウジング22との間に所定の摺動抵抗が生じるようになり、弁体24が受ける上流側からの圧力と下流側からの圧力との差がスプリングの付勢力の大きさに近い状態となったときに弁体24の位置が不安定となって弁体24が弁座面54に着座したり離れたりする状態が頻繁に繰り返されるいわゆるチャタリングを防止することが可能となる。
【0019】
弁座部材20の外周面56にはさらに、弁体ハウジング22が取り付けられたときに弁体ハウジング22の上流側端面78が当接する当接面80と、この当接面80とシール部34の第2シール面42との間の位置において第2シール面42に隣接して形成された周方向に延びる歪抑制溝82とが形成されている。弁体ハウジング22は、上流側端面78が当接面80に押し付けられる位置にまで螺合されることにより弁座部材20にしっかりと固定される。上述のように弁座部材20はシール部34が第1及び第2のケーシング部材26、28によって狭着されることによりケーシング12に密封して固定されており、固定の際にシール部34には第1及び第2のケーシング部材26、28の押圧部36、40が食い込んで歪が生じ得る。シール部34における歪はその周辺部にまで影響を与えることがあり、歪抑制溝82が形成されていない場合においては、歪の影響が当接面80にまで及ぶことがある。シール部34の歪により当接面80が変形してしまうと、当接面80と弁体ハウジング22の上流側端面78との間に隙間が生じて弁体ハウジング22の螺合が緩んでしまう虞がある。そうすると、弁座部材20に対する弁体ハウジング22の位置が不安定になり、それに保持されている弁体24の位置も不安定となって弁体24が適切に弁座面54に当接できなくなって、連通路48を適切に閉止できなくなる。当該逆止弁10においては、第2シール面42と当接面80との間に歪抑制溝82が形成されているため、シール部34における歪が歪抑制溝82で吸収されてその先の当接面80が変形しないようにすることができる。これにより、弁座部材20をケーシング12に固定したときに弁体ハウジング22の螺合が緩むことが防止される。
【0020】
ケーシング12の上流側開口14から流体が供給されて弁体24に上流側から一定以上の流体圧力が加わると、弁体24はスプリング74の付勢力に抗して閉止位置(
図1)から開放位置(
図2)へと下流側に変位する。弁体24が開放位置となると流体はフィルタ50及び弁座部材20の連通路48を通過し、さらに弁体ハウジング22の側方開口84を通って弁体ハウジング22の小径部分68と第2のケーシング部材28の内周面70との間の隙間72を通過して下流側開口16にまで流れるようになる。下流側の圧力が上昇するなどして下流側に対する上流側の相対的な流体圧力が低下すると、弁体24はスプリング74の付勢力により閉止位置に戻り連通路48を閉止する。上流側開口14からの流体の供給が停止して下流側からの流体圧力の方が大きくなると、弁体ハウジング22の下流側端部に形成されている背圧開口86を介して弁体24に加わる流体圧力とスプリング74の付勢力とにより弁体24は上流側に押圧されて弁座面54に押し付けられる。これにより、流体通路18が閉止された状態が維持されて、下流側開口16の側の流体が上流側開口14に向かって逆流することが防止される。
【0021】
当該逆止弁10においては、弁座部材20の弁座面54が端面52に形成されているため、従来のように筒状の部材の奥まった位置に弁座面が形成されているものに比べて、加工方法や加工工具の選択の自由度が大きくなり、弁座面54の加工を容易に行うことが可能となる。また、加工した弁座面54の加工精度の確認も容易に行うことが可能となる。これにより、加工時間を短縮して加工コストを低減できるのみならず、従来は実現することが困難であった加工精度を比較的に容易に実現することもできるようになる。
【0022】
また、弁座面54を弁座部材20の端面52に形成したことに伴って、弁体ハウジング22の取付位置が弁座部材20のシール部34に近い位置となりシール部34に生じる歪の影響が弁体ハウジング22の取付部分にまで及びやすくなるが、弁体ハウジング22の上流側端面78が当接する当接面80とシール部34との間に歪抑制溝82を設けることにより、シール部34からの歪が歪抑制溝82に吸収されて当接面80にシール部の歪の影響が生じないようにもなっている。
【符号の説明】
【0023】
逆止弁10;ケーシング12;上流側開口14;下流側開口16;流体通路18;弁座部材20;弁体ハウジング22;弁体24;第1のケーシング部材26;第2のケーシング部材28;ノズル接続部30;配管接続部32;シール部34;(第1のケーシング部材26の)押圧部36;第1シール面38;(第2のケーシング部材28の)押圧部40;第2シール面42;上流側端部44;下流側端部46;連通路48;フィルタ50;端面52;弁座面54;外周面56;雄ねじ部58;内周面60;雌ねじ部62;弁体収容空間64;大径部分66;小径部分68;内周面70;隙間72;スプリング74;環状凹部76;摺動抵抗付与部材77;上流側端面78;当接面80;歪抑制溝82;側方開口84;背圧開口86;
長手軸線L;