特許第6559728号(P6559728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559728
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】半導体装置及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/48 20060101AFI20190805BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20190805BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20190805BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20190805BHJP
【FI】
   H01L23/48 K
   H01L25/04 C
   H01L23/48 G
   H02M7/48 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-74822(P2017-74822)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-181919(P2018-181919A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】西部 祐司
(72)【発明者】
【氏名】景山 恭行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康善
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進一
(72)【発明者】
【氏名】柳生 泰秀
【審査官】 豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−223812(JP,A)
【文献】 特開2015−095560(JP,A)
【文献】 特開2016−066700(JP,A)
【文献】 特開2016−059147(JP,A)
【文献】 特開2015−057807(JP,A)
【文献】 特開平02−224215(JP,A)
【文献】 特開2011−209158(JP,A)
【文献】 特開2000−067786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/29
23/34 −23/36
23/373−23/427
23/44
23/467−23/48
23/50
25/00 −25/07
25/10 −25/11
25/16 −25/18
H02M 7/42 − 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子を封止する封止樹脂と、
各々が、前記パワー半導体素子に電気的に接続され且つ前記封止樹脂の表面から突出した突出部を有する複数の電気端子と、
を含み、
前記突出部は、突出方向における前記封止樹脂の側に設けられ、前記突出方向と交差する断面の形状が円形またはオーバル形状である第1の部分と、前記突出方向の先端側に設けられた平板状の第2の部分と、を含み、
前記第1の部分の前記突出方向と交差する断面の面積と、前記第2の部分の前記突出方向と交差する断面の面積とが同じである
半導体装置。
【請求項2】
少なくとも1つのパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子を封止する封止樹脂と、
各々が、前記パワー半導体素子に電気的に接続され且つ前記封止樹脂の表面から突出した突出部を有する複数の電気端子と、
を含み、
前記突出部は、突出方向における前記封止樹脂の側に設けられ、前記突出方向と交差する断面の形状が円形またはオーバル形状である第1の部分と、前記突出方向の先端側に設けられた平板状の第2の部分と、を含み、
前記第1の部分は、前記複数の電気端子が並ぶ端子配列方向における端面が、前記端子配列方向と交差する方向における長さの2分の1の逆数に相当する曲率を有する曲面である
半導体装置。
【請求項3】
第1のトランジスタ及び第2のトランジスタを前記パワー半導体素子として含み、
前記複数の電気端子は、前記第1のトランジスタのコレクタに接続された第1の電気端子と、前記第2のトランジスタのエミッタに接続された第2の電気端子と、前記第1のトランジスタのエミッタに接続されるとともに前記第2のトランジスタのコレクタに接続された第3の電気端子と、を含む
請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
複数の半導体装置が、冷却器を間に挟んで積層された電力変換装置であって、
前記複数の半導体装置の各々は、
少なくとも1つのパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子を封止する封止樹脂と、
各々が、前記パワー半導体素子に電気的に接続され且つ前記封止樹脂の表面から突出した突出部を有する複数の電気端子と、
を含み、
前記突出部は、突出方向における前記封止樹脂の側に設けられ、前記突出方向と交差する断面の形状が円形またはオーバル形状である第1の部分と、前記突出方向の先端側に設けられた平板状の第2の部分と、を含む
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体を備えたパワーモジュールに関する技術として、以下の技術が知られている。例えば特許文献1には、複数のパワーモジュールを含んで構成されるインバータにおいて、直列接続された2つのコンデンサの接続点を接地して構成されるYコンデンサをノイズバイパス手段として用いることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、上アームと下アームのスイッチング素子を備え、樹脂モールドされてモジュールが構成される電力変換装置に用いられる平板状のバスバーに関する技術が記載されている。このバスバーにおいて、P電極とN電極とが、絶縁層を挟んで、厚さ方向において、少なくとも一部が互いに重なるように配置されてなり、表面実装型の容量素子で構成されたスナバ回路が、P電極とN電極の間に電気接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−106503号公報
【特許文献2】特開2015−095963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワー半導体を備えたパワーモジュールにおいては、パワーデバイスの性能向上、実装技術及び冷却技術の進展により、電力密度が高まりつつあり、体格の低減が進展している。このような状況において、これまで熱設計上の理由による体格制限によりマスキングされていた絶縁性能確保のための沿面距離確保の影響が顕在化している。パワーモジュールにおいて、今後さらなる小型化を実現するためには、高圧を発生する電気端子間の絶縁距離を短くすることが必要と考えられる。
【0006】
高速で動作するパワーデバイスの場合には、配線の寄生インダクタンスにより大きなサージ電圧が発生して絶縁設計がより困難となる。パワーモジュールにおける絶縁性能は、沿面放電が決定していることから、電気端子間の絶縁距離を確保することが必要となる。しかしながら、その場合には、パワーモジュールの体格が大きくなる。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、電気端子間における沿面放電の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る半導体装置は、少なくとも1つのパワー半導体素子と、前記パワー半導体素子を封止する封止樹脂と、各々が、前記パワー半導体素子に電気的に接続され且つ前記封止樹脂の表面から突出した突出部を有する複数の電気端子と、を含む。前記突出部は、突出方向における前記封止樹脂の側に設けられ、前記突出方向と交差する断面の形状が円形またはオーバル形状である第1の部分と、前記突出方向の先端側に設けられた平板状の第2の部分と、を含む。
【0009】
本発明に係る半導体装置において、前記第1の部分の前記突出方向と交差する断面の面積と、前記第2の部分の前記突出方向と交差する断面の面積とが同じであることが好ましい。
【0010】
前記第1の部分は、前記複数の電気端子が並ぶ端子配列方向における端面が、前記端子配列方向と交差する方向における長さの2分の1の逆数に相当する曲率を有する曲面であってもよい。
【0011】
本発明に係る半導体装置は、第1のトランジスタ及び第2のトランジスタを前記パワー半導体素子として含み得る。この場合、前記複数の電気端子は、前記第1のトランジスタのコレクタに接続された第1の電気端子と、前記第2のトランジスタのエミッタに接続された第2の電気端子と、前記第1のトランジスタのエミッタに接続されるとともに前記第2のトランジスタのコレクタに接続された第3の電気端子と、を含んでいてもよい。
【0012】
本発明に係る電力変換装置は、複数の半導体装置が、冷却器を間に挟んで積層された電力変換装置であって、前記複数の半導体装置の各々は、少なくとも1つのパワー半導体素子と、前記パワー半導体素子を封止する封止樹脂と、各々が、前記パワー半導体素子に電気的に接続され且つ前記封止樹脂の表面から突出した突出部を有する複数の電気端子と、を含む。前記突出部は、突出方向における前記封止樹脂の側に設けられ、前記突出方向と交差する断面の形状が円形またはオーバル形状である第1の部分と、前記突出方向の先端側に設けられた平板状の第2の部分と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気端子間における沿面放電の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るパワーモジュールの構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るパワーモジュールの平面図である。
図3A図2における3A−3A線に沿った断面図である。
図3B図2における3B−3B線に沿った断面図である。
図4A図2における4A−4A線に沿った断面図である。
図4B図2における4B−4B線に沿った断面図である。
図5】本発明のパワーモジュールの構成を示す等価回路図である。
図6】本発明の実施形態に係るインバータの構成を示す回路図である。
図7】本発明の実施形態に係るインバータの断面図である。
図8】本発明の実施形態に係るパワーモジュールの電気端子間に発生する電圧サージ波形を示す図である。
図9A】本発明の実施形態に係るパワーモジュールの電気端子間に発生する電圧サージ波形における各時点において電気端子間に生じる現象を示す図である。
図9B】本発明の実施形態に係るパワーモジュールの電気端子間に発生する電圧サージ波形における各時点において電気端子間に生じる現象を示す図である。
図9C】本発明の実施形態に係るパワーモジュールの電気端子間に発生する電圧サージ波形における各時点において電気端子間に生じる現象を示す図である。
図10】比較例に係るパワーモジュールの構成を示す斜視図である。
図11】比較例に係るパワーモジュールを含んで構成されるインバータの断面図である。
図12A】本発明の実施形態に係る電気端子の突出部の第1の部分の断面形状の他の例を示す断面図である。
図12B】本発明の実施形態に係る電気端子の突出部の第1の部分の断面形状の他の例を示す断面図である。
図13】本発明の他の実施形態に係るパワーモジュールの構成を示す斜視図である。
図14図13における14−14線に沿った断面図である。
図15】本発明の実施形態に係るパワーモジュール及び比較例に係るパワーモジュールにおける電気端子間の電界分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置としてのパワーモジュール10の構成を示す斜視図である。図2は、パワーモジュール10の平面図である。図3Aは、図2における3A−3A線に沿った断面図、図3Bは、図2における3B−3B線に沿った断面図である。図4Aは、図2における4A−4A線に沿った断面図、図4Bは、図2における4B−4B線に沿った断面図である。図5は、パワーモジュール10の等価回路図である。
【0017】
図3A及び図5に示すように、パワーモジュール10は、直列接続された2つのパワー半導体素子11A及び11Bを含んで構成されている。パワー半導体素子11A及び11Bは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワーデバイスである。なお、パワー半導体素子11A及び11Bは、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Efect Transistor)またはバイポーラトランジスタ等のIGBT以外の他のパワーデバイスであってもよい。図5に示すように、パワーモジュール10は、パワー半導体素子11Aのコレクタに接続されたP端子20P、パワー半導体素子11Bのエミッタに接続されたN端子20N、パワー半導体素子11Aのエミッタに接続されるとともにパワー半導体素子11Bのコレクタに接続されたO端子20Oを有する。パワー半導体素子11A、11Bのエミッタ−コレクタ間には、ダイオード40A及び40Bが接続されている。
【0018】
図3Aに示すように、パワー半導体素子11A、11Bの一方の面には、それぞれ、半田12を介して放熱板13A、13Bが接合されている。パワー半導体素子11A、11Bの他方の面には、それぞれ、スペーサ14を介して、放熱板15A、15Bが接合されている。放熱板13A、13B、15A、15B及びスペーサ14は、それぞれ、Cuなどの熱伝導率の比較的高い材料で構成されている。このように、本実施形態に係るパワーモジュール10は、パワー半導体素子11A、11Bの両面に放熱経路を有する、両面冷却型のパワーモジュールである。
【0019】
パワー半導体素子11A、11B、放熱板13A、13B、15A、15B及びスペーサ14は、モールド樹脂16によって封止され、モールド樹脂16の内部に埋設されている。モールド樹脂16は、例えばエポキシ樹脂であってもよい。放熱板15A、15Bの表面は、モールド樹脂16の表面S1の表面から露出している。同様に、放熱板13A、13Bの表面は、モールド樹脂16の表面S2の表面から露出している。なお、本実施形態において放熱板15Aは、O端子20Oに電気的に接続され、放熱板15Bは、N端子20Nに電気的に接続され、放熱板13Aは、P端子20Pに電気的に接続され、放熱板13Bは、O端子20Oに電気的に接続されている。
【0020】
パワーモジュール10は、パワー半導体素子11A及び11Bの少なくとも一方に電気的に接続された電気端子30P、30N、30Oを有する。電気端子30Pは、P端子20Pを構成し、電気端子30Nは、N端子20Nを構成し、電気端子30Oは、O端子20Oを構成する。
【0021】
図1図2及び図3Bに示すように、電気端子30P、30N、30Oは、それぞれ、モールド樹脂16内に埋設された部分31及びモールド樹脂16の表面S3から突出した突出部32を有している。電気端子30P、30N、30Oは、突出部32の突出方向(Y方向)に対して直交する方向(X方向)に沿って、互いに離間して設けられている。
【0022】
電気端子30P、30N、30Oの突出部32は、それぞれ、モールド樹脂16の側(根元側)に設けられた第1の部分32aと、突出部32の突出方向(Y方向)の先端側に設けられた第2の部分32bを有する。突出部32の第1の部分32aと第2の部分32bは、互いに異なる形状を有する。本実施形態において、突出部32の第1の部分32aの形状は円柱形状である。すなわち、突出部32の第1の部分32aの突出方向(Y方向)と直交する断面(X−Z面と平行な断面)の形状は、図4Aに示すように円形である。一方、突出部32の第2の部分32bの形状は、X−Y面と平行な平坦面を有する平板形状であり、突出部32の第2の部分32bの突出方向(Y方向)と直交する断面(X−Z面と平行な断面)の形状は、図4Bに示すように矩形である。なお、本実施形態において、突出部32の第2の部分32bのX−Y平面における平面形状は、図2に示すように矩形形状とされているが、この態様に限定されず、任意の形状とすることができる。また、突出部32の第2の部分32bにおける平坦面の向きは、突出部32の突出方向と平行な軸(Y軸)を回転軸として任意の角度だけ回転させて構成することも可能である。
【0023】
突出部32の第1の部分32aの突出方向と直交する断面(X−Z面と平行な断面)の面積と、突出部32の第2の部分32bの突出方向と直交する断面(X−Z面と平行な断面)の面積とが同じである。すなわち、図4Aに示す円形の直径をDとし、図4Bに示す矩形の幅及び高さをそれぞれ、W及びHとすると、下記の(1)式が成立する。
π×(D/2)=W×H ・・・(1)
断面積を同じとするのは大電流を流して損失を低減させるために必要最小限となる断面積で規定するものである。これを大きくすると重量増、体格増となり問題となる。
【0024】
図6は、3つのパワーモジュール10を組み合せて構成される、本発明の実施形態に係る電力変換装置としてのインバータ100の構成を示す回路図である。インバータ100は、直流電力を、三相交流電力に変化し、モータ50を駆動する。インバータ100を構成する3つのパワーモジュール10は、それぞれ、三相交流電力の、U相、V相及びW相に対応する。各パワーモジュール10のパワー半導体素子11A、11Bは、それぞれ、各相の上アーム用のスイッチ及び下アーム用のスイッチとして機能する。各相のパワー半導体素子11A、11Bが、所定のタイミングでオンオフすることによりモータ50が駆動される。
【0025】
図7は、3つのパワーモジュール10を含んで構成されるインバータ100の断面図である。3つのパワーモジュール10は、冷却器60を間に挟んで積層されている。すなわち、冷却器60とパワーモジュール10とが交互に積層されており、各パワーモジュール10の両面に、冷却器60が接合されている。冷却器60は、例えばAl等の金属で構成されている。冷却器60の冷却方式は、空冷方式及び水冷方式のいずれであってもよい。冷却器60とパワーモジュール10との間には、SiN等のセラミックで構成された絶縁板61が設けられており、モールド樹脂16の表面から露出している放熱板13A、13B、15A、15Bと冷却器60との間で絶縁がとられている。
【0026】
以下に、パワーモジュールにおいて、電気端子間で、モールド樹脂の表面に沿った放電、すなわち沿面放電が起こるメカニズムについて説明する。複数のパワーモジュールを用いて、図6に示すインバータを構成し、各パワーモジュールを動作させた場合、パワーモジュールの電気端子間には、図8に示す波形のサージ電圧が発生する。図9A図9B及び図9Cは、図8に示す各時点において電気端子間に生じる現象を示した図である。なお、図9A図9Cには、電気端子30のモールド樹脂16から突出した突出部の形状を円柱としたモデルケースが例示されている。
【0027】
サージ電圧波形のピーク電圧Vpが電気端子30間に発生するタイミングt1において、電気端子30の表面近傍の電界が最も大きくなり、電気端子30の表面近傍において部分放電が発生する(初期電荷の発生)(図9A)。
【0028】
ピーク電圧Vp発生後の、電圧レベルが一定である保持電圧Vhが発生するタイミングt2において、部分放電により発生した放電電荷が移動して、放電電荷が対向する電気端子30の近傍にまで到達する。この電荷は、ヘテロ電荷と呼ばれている。ヘテロ電荷は、対向する電気端子30の近傍に存在し、電気端子30の極性とは逆極性の電荷である。ヘテロ電荷と電気端子30との間で電界集中が発生する(図9B)。
【0029】
その後、サージ電圧波形の次のピーク電圧Vpが電気端子30間に発生するタイミングt3において、さらなる電界集中が発生して、なだれ的な放電が発生して絶縁破壊に至る(図9C)。
【0030】
この沿面放電の発生メカニズムによると、部分放電が絶縁破壊に至る火花放電の起点であることが分かる。したがって、部分放電の発生を抑制すれば、沿面放電の発生を抑制でき、電気端子間の絶縁性能が向上する。
【0031】
図10は、比較例に係るパワーモジュール10Xの構成を示す斜視図である。比較例に係るパワーモジュール10Xは、電気端子30XP、30XN及び30XOの形状が、本実施形態に係るパワーモジュール10における電気端子と異なる。すなわち、比較例に係るパワーモジュール10Xの電気端子30XP、30XN、30XOは、モールド樹脂16の表面S3から突出した突出部32の形状が、単純な直方体の平板状とされている。このように電気端子30XP、30XN、30XOの突出部32の形状が、単純な直方体である場合、電気端子30XP、30XN、30XOの角部において電界集中が生じやすく、電気端子30XPと30XNとの間の領域G1、または、電気端子30XNと30XOとの間の領域G2で、モールド樹脂16の表面に沿った沿面放電が起きやすい。
【0032】
図11は、比較例に係るパワーモジュール10Xと冷却器60とを交互に積層して構成されるインバータ100Xの断面図である。比較例に係るパワーモジュール10Xによれば、電気端子間における沿面放電のみならず、電気端子30XP、30XN及び30XOと、冷却器60との間の領域G3で、モールド樹脂16及び絶縁板61の表面に沿った沿面放電が起きやすい。
【0033】
一方、本発明の実施形態に係るパワーモジュール10によれば、電気端子30P、30N、30Oの、モールド樹脂16から突出した突出部32の、モールド樹脂16側に配置された第1の部分32aの断面形状は、図4Aに示すように円形である。このように、第1の部分32aの形状を、角部を有さない滑らかな曲面形状とすることで、電気端子30Pと30Nとの間、及び電気端子30Nと30Oとの間の沿面部における電界集中を緩和することができる。これにより、部分放電(放電の起点となる初期電子の発生)の発生が抑制され、その結果、沿面放電の発生が抑制される。すなわち、本発明の実施形態に係るパワーモジュール10によれば、電気端子間の絶縁性能を高めることができる。特に、突出部32の第1の部分32aの断面形状を円形とすることで、不平等電界の発生が効率的に抑制され、絶縁性能を向上させる効果を促進できる。このように、本実施形態に係るパワーモジュール10によれば、電気端子間の絶縁性能を向上させることできるので、電気端子間の絶縁を確保するための端子間距離を従来よりも短くすることができる。従って、パワーモジュール10の体格を従来よりも小さくすることができる。
【0034】
また、図7に示すように複数のパワーモジュール10を、冷却器60を間に挟んで積層した場合においても、電気端子30P、30N及び30Oと、冷却器60との間で、モールド樹脂16及び絶縁板61の表面に沿った沿面放電の発生を抑制することができる。すなわち、本実施形態に係るパワーモジュール10によれば、電気端子間のみならず、電気端子30P、30N及び30Oと冷却器60との間の絶縁性能をも向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態に係るパワーモジュール10によれば、電気端子30P、30N、30Oの、突出部32の先端側に配置された第2の部分32bの形状が、平板状とされている。電気端子30P、30N、30Oには、平板状のバスバー(図示せず)を介してモータ等の外部装置に接続されることが想定されるところ、仮に、電気端子30P、30N、30Oの突出部32が、円柱形状の部分のみで構成されている場合、平板状のバスバーと、円柱形状の電気端子との接触面積を確保することができず、接触抵抗が高くなる。電気端子30P、30N、30Oには、大電流が流れるので、接触抵抗が高くなると、損失が大きくなる。そこで、電気端子30P、30N、30Oの、突出部32の先端側に平板状の第2の部分32bを設け、電気端子30P、30N、30Oとバスバーとの接続を、第2の部分32bにおいて行うことで、電気端子30P、30N、30Oとバスバーとの接触面積を大きくすることができ、接触抵抗の増大を抑制することができる。
【0036】
このように、本実施形態に係るパワーモジュール10においては、電気端子30P、30N、30Oの突出部32のモールド樹脂側(根元側)に配置される第1の部分32aの形状が、沿面放電(部分放電)の発生を抑制し得る滑らかな曲面形状とされ、沿面放電の発生に寄与しない突出部32の先端側に配置される第2の部分32bの形状が、バスバーとの電気接続に適した平板状とされている。
【0037】
また、本実施形態に係るパワーモジュール10によれば、電気端子30P、30N、30Oの突出部32の第1の部分32aの突出方向と直交する断面(図4Aに示す断面)の面積と、突出部32の第2の部分32bの突出方向と直交する断面(図4Bに示す断面)の面積とが同じである。電気端子30P、30N、30Oには、大電流を流すために、各電気端子において、所定の大きさ以上の断面積を確保する必要がある。突出部32の第1の部分32a及び第2の部分32bの断面積を揃えることで、電気端子30P、30N、30Oの全体に亘って、必要な断面積を確保することができる。
【0038】
なお、本実施形態において、突出部32の第1の部分32aの、突出方向と直交する断面の形状を円形とする場合を例示したが、この態様に限定されるものではない。突出部32の第1の部分32aの、突出方向と直交する断面の形状は、例えば、図12A及び図12Bに示すような、オーバル形状であってもよい。オーバル形状には、図12Aに示すような楕円形、図12Bに示すようないわゆる長円形及びこれらに類する形状が含まれる。なお、長円形とは、半径の等しい2つの半円を共通外接線でつないだ形状をいう。このように、突出部32の第1の部分32aの、突出方向と直交する断面の形状をオーバル形状とする場合においても、電気端子間における沿面放電及び電気端子と冷却器との間における沿面放電の発生を抑制することができる。
【0039】
[第2の実施形態]
図13は、本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュール10Aの構成を示す斜視図である。図14は、図13における14−14線に沿った断面図である。パワーモジュール10Aは、電気端子30P、30N、30Oの形状が、第1の実施形態に係るパワーモジュール10と異なる。すなわち、パワーモジュール10Aの電気端子30P、30N、30Oの突出部32の、突出方向(Y方向)と直交する断面(X−Z面と平行な断面)の形状は、図14に示すように長円形である。より具体的には、電気端子30P、30N、30Oの突出部32の、端子配列方向(X方向)における端面が、端子配列方向(X方向)と直交する板厚方向(Z方向)における厚さTの2分の1の逆数(2/T)に相当する曲率を有する曲面である。換言すれば、突出部32は、図14に示す断面における、突出部32の端子配列方向(X方向)における端部の形状が、半径T/2の半円形である。これは、必要最小限の加工で対応できる形状である。
【0040】
電気端子30P、30N、30Oの形状を、図13及び図14に示す形状とすることで、電気端子30Pと30Nとの間、及び電気端子30Nと30Oとの間の沿面部における電界集中を緩和することができる。これにより、電気端子間における沿面放電の発生が抑制され、電気端子間の絶縁性能を高めることができる。また、図7に示すように複数のパワーモジュール10を、冷却器60を間に挟んで積層した場合においても、電気端子30P、30N及び30Oと、冷却器60との間での沿面放電の発生を抑制することができる。すなわち、本実施形態に係るパワーモジュール10Aによれば、第1の実施形態に係るパワーモジュール10と同様、電気端子間のみならず、電気端子30P、30N及び30Oと冷却器60との間の絶縁性能をも向上させることができる。
【0041】
図15は、本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュール10A及び比較例に係るパワーモジュール10X(図10参照)における電気端子間(図10に示す領域G1及びG2に対応する領域)の電界分布を示すグラフである。図15に示すグラフにおいて、縦軸は、電界強度を示し、横軸は、端子配列方向(X方向)における位置を示しており、電気端子30Pの右端をX方向位置におけるゼロ点とする。図15に示すグラフにおいて、実線が本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュール10Aに対応し、破線が比較例に係るパワーモジュール10Xに対応する。
【0042】
図15に示すように、本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュール10Aによれば、電気端子の近傍における電界強度を、比較例に係るパワーモジュール10Xよりも低くすることができる。すなわち、パワーモジュール10Aによれば、電気端子近傍における電界集中を緩和させ、部分放電の発生を抑制することができる。
【0043】
また、本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュール10Aによれば、電気端子30P、30N、30Oの突出部32が平坦面を有するので、バスバーとの接触面積を確保することができる。従って、第1の実施形態に係るパワーモジュール10のように、突出部32の根元側と先端側とで形状を異ならせることを要しない。
【0044】
このように、本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュール10Aによれば、電気端子30P、30N、30Oにおいて、端子配列方向(X方向)の端面の加工という最小限の加工を施すだけで、各電気端子間で形成される沿面部、及び各電気端子と冷却器との間の沿面部における電界集中を緩和することが可能となる。従って、電気端子間の絶縁を確保するために必要な端子間距離を、従来よりも短くすることができ、パワーモジュール10の体格を従来よりも小さくすることができる。
【0045】
なお、本発明の第2の実施形態に係るパワーモジュール10Aにおける電気端子の突出部32の形状を、第1の実施形態に係るパワーモジュール10における電気端子の突出部32の第1の部分32aの形状として適用することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
10、10A パワーモジュール
11A、11B パワー半導体素子
16 モールド樹脂
30P、30N、30O 電気端子
32 突出部
32a 第1の部分
32b 第2の部分
60 冷却器
100 インバータ
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15