特許第6559817号(P6559817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6559817
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】転動体ねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20190805BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   F16H25/22 C
   F16H25/24 B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-21276(P2018-21276)
(22)【出願日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年5月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【弁理士】
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦士
(72)【発明者】
【氏名】河合 弘太郎
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−180666(JP,A)
【文献】 国際公開第03/021133(WO,A1)
【文献】 実開平5−3715(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋の転動体転走溝を有するねじ軸と、
内周面に前記転動体転走溝に対向する螺旋の負荷転動体転走溝を有するナットと、
前記ねじ軸の前記転動体転走溝と前記ナットの前記負荷転動体転走溝との間の螺旋の負荷転動体転走路の一端と他端を接続する戻し路と、
前記負荷転動体転走路および前記戻し路に配列される複数の転動体と、
を備える転動体ねじ装置において、
前記ナットは、
前記負荷転動体転走溝が形成されるナット本体と、
前記ナット本体の両端面にそれぞれ装着され、前記戻し路の少なくとも一部が形成される複数の循環部品と、を備え、
前記ナット本体は、当該ナット本体の両端面のそれぞれに前記循環部品の外形よりも大きな循環部品取付孔を有し、
前記循環部品は、前記循環部品取付孔に設置された後、前記ナット側の凹部と前記循環部品の凸部の中心位置を回転中心として、前記循環部品を回転させた後に、固定手段を設置することで前記ナット本体に対する装着が行われることを特徴とする転動体ねじ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転動体ねじ装置において、
前記固定手段は、スペーサ部材として構成され、
前記循環部品は、前記循環部品取付孔に設置された後、前記循環部品取付孔と前記循環部品との間に生じる隙間を埋める前記スペーサ部材を設置することで前記ナット本体に対する装着が行われることを特徴とする転動体ねじ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の転動体ねじ装置において、
前記固定手段は、
前記循環部品取付孔に形成されたネジ孔と、
前記循環部品に形成されたボルト取付孔を介して前記ネジ孔に螺合可能なボルトと、
から成ることを特徴とする転動体ねじ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の転動体ねじ装置において、
前記循環部品は、前記ねじ軸の前記転動体転走溝内に突出して前記負荷転動体転走路から前記戻し路に転走する前記転動体を掬うリップ部を備え、
前記循環部品取付孔は、前記ねじ軸と前記ナットとが組み付けられた状態で前記循環部品を設置可能な大きさを有していることを特徴とする転動体ねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナットとの間に転がり運動可能に転動体を介在させ、転動体が循環するようにした転動体ねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ、ローラねじ等の転動体ねじ装置は、ねじ軸、ナット、ねじ軸とナットとの間に介在されるボール、ローラ等の転動体、および転動体を無限循環させる循環部品を備える。転動体ねじ装置は、転動体の転がり運動によって軽快な動きが得られるという特徴を持ち、回転運動を直線運動に変換し、又は直線運動を回転運動に変換する機械要素として広く用いられている。
【0003】
ねじ軸の外周面には、螺旋の転動体転走溝が形成される。一方、ナットの内周面には、ねじ軸の転動体転走溝に対向する螺旋の負荷転動体転走溝が形成される。ねじ軸の転動体転走溝とナットの負荷転動体転走溝との間の螺旋の負荷転動体転走路には、多数の転動体が転がり運動可能に配列される。ナットには、転動体を循環させるための循環部品が設けられる。循環部品には、螺旋の負荷転動体転走溝の一端と他端を繋げる戻し路の少なくとも一部が形成される。ナットに対してねじ軸を相対的に回転させると、転動体が負荷転動体転走路を転がり運動する。ナットの負荷転動体転走溝の一端まで転がり運動した転動体は、循環部品の戻し路を経由して再び負荷転動体転走溝の他端に戻る。なお、この種の転動体ねじ装置を示す先行技術文献として、下記の特許文献1が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−143527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した循環部品がナットの両端部に配置される形式の転動体ねじ装置において、ねじ軸の外周面に形成される螺旋の転動体転走溝がねじ軸の軸端部まで形成されていない所謂両端切り上がりのねじ軸の場合、製造時における循環部品のリップ部とねじ軸との干渉を避けるため、従来技術では一般的に、ねじ軸にリップ部との干渉を避けるための逃げ溝を設けたり、あるいは循環部品を分割体とするなど、循環部品の構造を工夫したりすることが行われていた。このような従来技術の構成は、簡易な構造ではあるものの、ねじ軸加工の増加や組み立て工数の増加を招くものであり、コスト的な課題を有していた。
【0006】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、ナットの両端部に配置される循環部品の位置決めと固定を簡易に行うことのできる構成を提案することで、製造コストを削減した転動体ねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る転動体ねじ装置は、外周面に螺旋の転動体転走溝を有するねじ軸と、内周面に前記転動体転走溝に対向する螺旋の負荷転動体転走溝を有するナットと、前記ねじ軸の前記転動体転走溝と前記ナットの前記負荷転動体転走溝との間の螺旋の負荷転動体転走路の一端と他端を接続する戻し路と、前記負荷転動体転走路および前記戻し路に配列される複数の転動体と、を備える転動体ねじ装置であって、前記ナットは、前記負荷転動体転走溝が形成されるナット本体と、前記ナット本体の両端面にそれぞれ装着され、前記戻し路の少なくとも一部が形成される複数の循環部品と、を備え、前記ナット本体は、当該ナット本体の両端面のそれぞれに前記循環部品の外形よりも大きな循環部品取付孔を有し、前記循環部品は、前記循環部品取付孔に設置された後、前記ナット側の凹部と前記循環部品の凸部の中心位置を回転中心として、前記循環部品を回転させた後に、固定手段を設置することで前記ナット本体に対する装着が行われることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ナットの両端部に配置される循環部品の位置決めと固定を簡易に行うことのできる構成を提案することで、製造コストを削減した転動体ねじ装置を提供することが可能となる。また、本発明は、両端切り上がりのねじ軸を採用した転動体ねじ装置に対して、好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る転動体ねじ装置としてのボールねじ装置の外観斜視図を示す図である。
図2図1で示したボールねじ装置の分解斜視図である。
図3図1で示したボールねじ装置の循環路の概略構成を説明するための模式図である。
図4】本実施形態に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するための外観斜視図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。
図5】本実施形態に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するためのナットをフランジ側から見た場合の正面図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。
図6】本発明の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するための外観斜視図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。
図7】本発明の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するためのナットをフランジ側から見た場合の正面図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。
図8】本発明の別の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するための外観斜視図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。
図9】本発明の別の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するためのナットをフランジ側から見た場合の正面図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
まず、図1図3を参照して、本実施形態に係る転動体ねじ装置の基本構成を説明する。なお、本実施形態では、転動体にボールを採用したボールねじ装置として構成される転動体ねじ装置を例示して説明することとする。ここで、図1は、本実施形態に係る転動体ねじ装置としてのボールねじ装置の外観斜視図を示す図である。また、図2は、図1で示したボールねじ装置の分解斜視図であり、図3は、図1で示したボールねじ装置の循環路の概略構成を説明するための模式図である。図1に示すように、本実施形態に係るボールねじ装置10は、ねじ軸11と、ねじ軸11の外方を囲むように配置されるとともに当該ねじ軸11と軸線が共通するナット21と、を備えている。
【0012】
ねじ軸11は、長尺棒状の軸体の外周面に螺旋の転動体転走溝としてのボール転走溝11aが形成された部材である。このねじ軸11の外周面に形成されたボール転走溝11aは、一定のリードを持つ螺旋の転動体転走溝として形成されている。本実施形態のボール転走溝11aの断面形状は、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝とされている。ゴシックアーチ溝の円弧の半径は、ボール13(図3参照)の半径よりも大きくなるように構成されている。したがって、本実施形態のボール13は、ねじ軸11のボール転走溝11aに二点で接触する。なお、ボール転走溝11aの条数は、一条、二条、三条等、適宜設定することができる。
【0013】
ナット21は、円筒形をしたナット本体21aと、ナット本体21aの軸線方向の一端部に設けられるフランジ21bと、を備えて構成されている。フランジ21bには、ナット21を相手部品に取り付けるための取付穴21cが空けられている。ナット21の内周面には、ねじ軸11のボール転走溝11aに対向する螺旋の負荷転動体転走溝としての負荷ボール転走溝21dが形成されている(図3参照)。負荷ボール転走溝21dのリードおよび条数は、ボール転走溝11aのリードおよび条数と等しくなるように形成されている。負荷ボール転走溝21dの断面形状も、二つの円弧を組み合わせたゴシックアーチ溝となっている。
【0014】
また、図2に示すように、ナット本体21aの軸線方向の両端部には、転動体としてのボール13を循環させるための循環部品としての一対のエンドピース24が装着されている。図2には、ナット21の手前側のエンドピース24のみが示されているが、ナット21の奥側にも同様のエンドピース24が設けられる。図2に示すように、ナット本体21aの軸線方向の端面には、エンドピース24を装着するための循環部品取付孔としてのエンドピース取付孔25が形成されている。エンドピース24は、ナット本体21aに形成されたエンドピース取付孔25に嵌め込まれて設置される。そして、詳細は後述するが、エンドピース取付孔25に嵌め込まれたエンドピース24は、エンドピース24とエンドピース取付孔25との間に生じた隙間空間に対して、固定手段としてのスペーサ部材26を設置されることで位置固定が実施される。この状態から更に、ナット本体21aの軸線方向の両端部には、プレート28が取り付けられる。プレート28の取り付けによって、本実施形態に係るボールねじ装置10が完成する。
【0015】
ここで、図3を参照して、本実施形態に係るボールねじ装置10の内部構造を説明する。なお、図3では、説明の便宜のために、フランジ21bとプレート28が省略された状態でのボールねじ装置10の概略構成が示されている。本実施形態に係るボールねじ装置10では、ねじ軸11のボール転走溝11aとナット本体21aの負荷ボール転走溝21dとの間には、複数のボール13が配列されている。ねじ軸11のボール転走溝11aとナット本体21aの負荷ボール転走溝21dとの間で、負荷ボール転走路が構成される。この負荷ボール転走路では、ボール13はナット21とねじ軸11との間で荷重を受けながら転がり運動を行うこととなる。
【0016】
ナット本体21aには、負荷ボール転走溝21dの一端と他端を接続する戻し路27が形成される。戻し路27にも複数のボール13が配列される。ナット本体21aには、ナット21の軸線に平行な貫通孔27aが形成される。ナット本体21aの貫通孔27aの両端部には、エンドピース24が配置される。戻し路27は、ナット本体21aの貫通孔27aおよびエンドピース24のターン部27bによって構成される。負荷ボール転走溝21dの一端まで転がったボール13は、戻し路27内に入り、戻し路27を経由して、負荷ボール転走溝21dの他端に戻る。そして、再び負荷ボール転走溝21dの一端まで転走する。戻し路27の内径はボール13の直径よりも大きく、かかる戻し路27では、ボール13は荷重から開放された無負荷の状態で転走することとなる。
【0017】
以上、本実施形態に係るボールねじ装置10の基本構成を説明した。次に、図4および図5を参照図面に加えて、本実施形態に係るボールねじ装置10の特徴的な構成を説明する。ここで、図4は、本実施形態に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するための外観斜視図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。また、図5は、本実施形態に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するためのナットをフランジ側から見た場合の正面図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。なお、図4図5で示された分図(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれで対応した図となっている。
【0018】
図2および図4中の分図(a)で示すように、本実施形態に係る循環部品としてのエンドピース24は、ナット本体21aの貫通孔27aと接続する箇所が凸部24aとして形成されている。また、図5中の分図(b)で示すように、当該エンドピース24には、凸部24aが形成された側とは逆側の位置に、リップ部24bが形成されている。このリップ部24bは、設置状態においてねじ軸11のボール転走溝11a内に突出し、負荷ボール転走路から戻し路27に転走するボール13を掬う機能を発揮する部材である。したがって、負荷ボール転走溝21dの一端まで転がったボール13は、当該一端側に設置されたエンドピース24が備えるリップ部24bによって掬い上げられることで、負荷域である負荷ボール転走路から無負荷域であるエンドピース24のターン部27bに移動し、さらにエンドピース24のターン部27bからナット本体21aの貫通孔27aと、負荷ボール転走溝21dの他端側に設置されたエンドピース24のターン部27bとを経由して、負荷ボール転走溝21dの他端に戻る。そして、再び負荷ボール転走溝21dの一端まで転走することとなる。
【0019】
また、上述したエンドピース24は、ナット本体21aの両端面のそれぞれに形成された循環部品取付孔としてのエンドピース取付孔25に設置されることになるが、本実施形態に係るエンドピース取付孔25は、図5中の分図(a)で示すように、貫通孔27aの入口に凹部27cが形成されている。この凹部27cは、エンドピース24に形成された凸部24aを嵌め込むことができるように、凸部24aに対応した寸法で形成されている。
【0020】
さらに、本実施形態に係るエンドピース取付孔25は、図4中の分図(b)、(c)および図5中の分図(b)、(c)において対比して示されるように、エンドピース24の外形よりも大きな空間を有するように構成されている。したがって、本実施形態に係るボールねじ装置10の製造時には、ねじ軸11とナット21が組み付けられた状態でエンドピース取付孔25にエンドピース24を設置する際に、図5中の分図(b)で示すように、リップ部24bがねじ軸11を避けた状態でエンドピース24をエンドピース取付孔25に対して設置することが可能となっている。そして、図5中の分図(b)で示す状態から、符号Xで示す凸部24aと凹部27cの中心位置を回転中心として、エンドピース取付孔25内でエンドピース24をねじ軸11側に向けて回転させることで、リップ部24bがねじ軸11のボール転走溝11a内に突出した状態となる(図5中の分図(c)参照)。
【0021】
図4中の分図(c)および図5中の分図(c)で示す状態から、エンドピース取付孔25とエンドピース24との間に生じる隙間を埋めるように固定手段としてのスペーサ部材26を挿入設置することで、エンドピース24のエンドピース取付孔25に対する装着が完了する(図4中の分図(d)および図5中の分図(d)参照)。なお、本実施形態のスペーサ部材26は、立方体形状をした金属材料から成るキー部材として構成されている。一方、エンドピース24においてスペーサ部材26と接触する箇所は、図4および図5で示すように半円突状に盛り上がった形状を有しているので、エンドピース24とスペーサ部材26は、互いの部材の製造誤差を吸収する状態で確実に線接触することができるので、エンドピース取付孔25内でのエンドピース24の確実な位置決めが実現される。
【0022】
その後、図4中の分図(d)および図5中の分図(d)で示す状態から、ナット本体21aの軸線方向の両端部に対してプレート28を取り付けることによって、本実施形態に係るボールねじ装置10が完成する。
【0023】
以上説明したように、本実施形態に係るボールねじ装置10では、循環部品であるエンドピース24は、エンドピース取付孔25に設置された後、スペーサ部材26を設置することでナット本体21aに対する装着が可能となっている。また、エンドピース取付孔25に対するエンドピース24の位置決めは、エンドピース24に形成された凸部24aを貫通孔27aの入口に形成された凹部27cに嵌め込み、エンドピース24を回転させるだけで実現可能となっている。このように、本実施形態に係るボールねじ装置10は、ナット21の両端部に配置される循環部品であるエンドピース24の位置決めと固定を簡易に行うことができるので、製造コストを削減した転動体ねじ装置を提供することが可能となっている。また、本実施形態に係るエンドピース取付孔25は、ねじ軸11とナット21とが組み付けられた状態でエンドピース24を設置可能な大きさを有しているので、特に、両端切り上がりのねじ軸11を採用した転動体ねじ装置に対して、好適に適用可能となっている。
【0024】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0025】
例えば、上述した実施形態では、固定手段が立方体形状をした金属材料から成るキー部材として構成されたスペーサ部材26を例示するものであった。また、エンドピース24においてスペーサ部材26と接触する箇所は、半円突状に盛り上がった形状を有していた。つまり、このスペーサ部材26は、エンドピース24と線接触する構成であった。しかしながら、本発明の範囲は上述した形態には限られず、本発明の循環部品とスペーサ部材は、上述した実施形態と同様の作用効果を発揮する範囲内において、あらゆる形態を採用することができる。例えば、そのような変形例を図6および図7に示す。
【0026】
ここで、図6は、本発明の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するための外観斜視図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。また、図7は、本発明の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するためのナットをフランジ側から見た場合の正面図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。なお、図6図7で示された分図(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれで対応した図となっている。また、上述した実施形態で説明した部材と同一又は類似する部材については、同一符号を付して説明を省略する場合がある。
【0027】
本変形例に係るボールねじ装置100では、図6中の分図(a)等で示されるように、エンドピース124におけるスペーサ部材126と接触する箇所に、断面台形形状をした台形溝124cが形成されている。一方、固定手段であるスペーサ部材126における前記台形溝124cと対応する位置には、当該台形溝124cに嵌め込むことのできる台形凸部126aが形成されている。したがって、エンドピース取付孔125にエンドピース124を配置してスペーサ部材126を挿入すると、エンドピース124の台形溝124cとスペーサ部材126の台形凸部126aが係合状態となるので、エンドピース取付孔125内でのエンドピース124とスペーサ部材126の確実な設置状態が実現することとなる。以下、本変形例に係るボールねじ装置100の製造方法を説明する。
【0028】
本変形例に係るボールねじ装置100の製造時には、ねじ軸11とナット21が組み付けられた状態でエンドピース取付孔125にエンドピース124を設置する際に、図7中の分図(b)で示すように、リップ部124bがねじ軸11を避けた状態でエンドピース124をエンドピース取付孔125に対して設置することが可能となっている。そして、図7中の分図(b)で示す状態から、符号Xで示す凸部124aと凹部27cの中心位置を回転中心として、エンドピース取付孔125内でエンドピース124をねじ軸11側に向けて回転させることで、リップ部124bがねじ軸11のボール転走溝11a内に突出した状態となる(図7中の分図(c)参照)。
【0029】
図6中の分図(c)および図7中の分図(c)で示す状態から、エンドピース取付孔125とエンドピース124との間に生じる隙間を埋めるように固定手段としてのスペーサ部材126を挿入設置する。この際、エンドピース124の台形溝124cとスペーサ部材126の台形凸部126aが係合状態となるので、エンドピース取付孔125内でのエンドピース124とスペーサ部材126の確実な設置状態が実現し、エンドピース124のエンドピース取付孔125に対する装着が完了する(図6中の分図(d)および図7中の分図(d)参照)。なお、本変形例では、台形溝124cと台形凸部126aから成る係合手段を例示したが、かかる係合手段の形状は台形に限られるものではなく、あらゆる形状のほぞ穴とほぞを採用することができる。
【0030】
その後、図6中の分図(d)および図7中の分図(d)で示す状態から、ナット本体21aの軸線方向の両端部に対してプレート28を取り付けることによって、本変形例に係るボールねじ装置100が完成する。上述した本変形例に係るエンドピース取付孔125は、ねじ軸11とナット21とが組み付けられた状態でエンドピース124を設置可能な大きさを有しているので、特に、両端切り上がりのねじ軸11を採用した転動体ねじ装置に対して、好適に適用可能となっている。
【0031】
なお、図4および図5で示した本実施形態に係るボールねじ装置10では、エンドピース取付孔25に対して大きな切り欠き形状が形成されており、この切り欠き形状の位置に対してスペーサ部材26が挿入設置される構成が採用されていた。一方、図6および図7で示した本変形例に係るボールねじ装置100では、エンドピース取付孔125に対して大きな切り欠き形状が形成されていない。つまり、本変形例に係るボールねじ装置100の場合、ほぞ穴とほぞから成る係合手段を採用したことで、エンドピース取付孔125をシンプルな形状で形成した場合であっても強固な係合状態を実現することが可能となっている。また、この構成は、エンドピース取付孔125をシンプルな形状で形成することから、ナット本体21aに対する加工量を減少させることができるので、製造コストの削減効果を得ることが可能となっている。
【0032】
以上、上述した変形例では、循環部品と固定手段が取り得る多様な形態例を説明したが、本発明には、さらに多様な変形形態を採用することが可能である。そこで次に、本発明に係る固定手段が取り得る別の変形形態例を説明することとする。例えば、そのような別の変形例を図8および図9に示す。
【0033】
ここで、図8は、本発明の別の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するための外観斜視図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。また、図9は、本発明の別の変形例に係るボールねじ装置の詳細構成と組み立て手順を説明するためのナットをフランジ側から見た場合の正面図であり、図中の分図(a)から(b)、(c)、(d)の順で組み立てが行われる様子が示されている。なお、図8図9で示された分図(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれで対応した図となっている。また、上述した実施形態および変形例で説明した部材と同一又は類似する部材については、同一符号を付して説明を省略する場合がある。
【0034】
本発明の別の変形例に係るボールねじ装置200では、図9中の分図(a)等で示されるように、循環部品取付孔であるエンドピース取付孔225には、2つのネジ孔225aが形成されている。一方、循環部品であるエンドピース224には、2つのネジ孔225aに対応する位置に2つのボルト取付孔224cが形成されている。さらに、本発明の別の変形例に係るボールねじ装置200では、エンドピース224に形成されたボルト取付孔224cを介してネジ孔225aに螺合可能なボルト226が採用されており、これらネジ孔225aとボルト取付孔224cとボルト226によって、本発明に係る固定手段が実現されている。したがって、エンドピース取付孔225にエンドピース224を配置し、ボルト取付孔224cを介してネジ孔225aにボルト226を螺合させることにより、エンドピース取付孔225内でのエンドピース224の確実な設置状態が実現することとなる。以下、本発明の別の変形例に係るボールねじ装置200の製造方法を説明する。
【0035】
本発明の別の変形例に係るボールねじ装置200の製造時には、ねじ軸11とナット21が組み付けられた状態でエンドピース取付孔225にエンドピース224を設置する際に、図9中の分図(b)で示すように、リップ部224bがねじ軸11を避けた状態でエンドピース224をエンドピース取付孔225に対して設置することが可能となっている。そして、図9中の分図(b)で示す状態から、符号Xで示す凸部224aと凹部27cの中心位置を回転中心として、エンドピース取付孔225内でエンドピース224をねじ軸11側に向けて回転させることで、リップ部224bがねじ軸11のボール転走溝11a内に突出した状態となる(図9中の分図(c)参照)。
【0036】
図8中の分図(c)および図9中の分図(c)で示す状態から、エンドピース224の2つのボルト取付孔224cに対してそれぞれボルト226を挿し込み、ボルト取付孔224cを介してネジ孔225aにボルト226を螺合させる。このようなボルト固定によって、エンドピース取付孔225内でのエンドピース224の確実な設置状態が実現し、エンドピース224のエンドピース取付孔225に対する装着が完了する(図8中の分図(d)および図9中の分図(d)参照)。なお、本発明の別の変形例では、凸部224aと凹部27cを利用してエンドピース取付孔225内でのエンドピース224の位置決めを行ったが、これら凸部224aと凹部27cを省略することも可能である。
【0037】
その後、図8中の分図(d)および図9中の分図(d)で示す状態から、ナット本体21aの軸線方向の両端部に対してプレート28を取り付けることによって、本発明の別の変形例に係るボールねじ装置200が完成する。上述した本発明の別の変形例に係るエンドピース取付孔225は、ねじ軸11とナット21とが組み付けられた状態でエンドピース224を設置可能な大きさを有しているので、特に、両端切り上がりのねじ軸11を採用した転動体ねじ装置に対して、好適に適用可能となっている。
【0038】
以上、図1図9を用いて本発明が取り得る様々な形態例を説明した。本発明には、上述した種々の形態例に準じた多様な変形形態を採用することが可能である。例えば、上述した実施形態および変形例では、本発明の転動体ねじ装置が転動体にボールを用いたボールねじ装置10,100,200として構成された場合を例示したが、本発明の転動体には、ローラやコロ等といった、あらゆる形式の転動体を適用することが可能である。
【0039】
また例えば、上述した実施形態および変形例では、ナット本体21aの軸線方向の両端部に対して一対のエンドピース24が装着され、この一対のエンドピース24が転動体としてのボール13を循環させるための循環部品として機能していた。しかし、本発明に係る転動体ねじ装置には、2つ以上の複数個の循環部品を設置することが可能である。すなわち、ねじ軸11に形成されるボール転走溝11aの条数が増加する場合には、本発明に係る循環部品は2個以上設置されることとなる。
【0040】
また例えば、上述した実施形態では、エンドピース24とエンドピース取付孔25との間に生じた隙間空間に対して、スペーサ部材26から成る固定手段を設置することで、エンドピース24の位置固定が実施されていた。しかし、本発明に適用可能な固定手段はスペーサ部材26のような構造部材には限られず、メタルボンドや接着剤などの化学的な固定手段を採用することも可能である。
【0041】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0042】
10,100,200 ボールねじ装置(転動体ねじ装置)、11 ねじ軸、11a ボール転走溝(転動体転走溝)、13 ボール(転動体)、21 ナット、21a ナット本体、21b フランジ、21c 取付穴、21d 負荷ボール転走溝(負荷転動体転走溝)、24,124,224 エンドピース(循環部品)、24a,124a,224a 凸部、24b,124b,224b リップ部、25,125,225 エンドピース取付孔(循環部品取付孔)、26,126 スペーサ部材(固定手段)、27 戻し路、27a 貫通孔、27b ターン部、27c 凹部、28 プレート、124c 台形溝、126a 台形凸部、224c ボルト取付孔、225a ネジ孔(固定手段)、226 ボルト(固定手段)。
【要約】
【課題】循環部品の位置決めと固定を簡易に行う。
【解決手段】転動体ねじ装置10は、転動体転走溝11aを有するねじ軸11と、負荷転動体転走溝21dを有するナット21と、転動体転走溝11aと負荷転動体転走溝21dとの間の負荷転動体転走路の一端と他端を接続する戻し路27と、複数の転動体13と、を備える。ナット21は、負荷転動体転走溝21dが形成されるナット本体21aと、ナット本体21aの両端面にそれぞれ装着される複数の循環部品24と、を備え、ナット本体21aは、当該ナット本体21aの両端面のそれぞれに循環部品24の外形よりも大きな循環部品取付孔25を有し、循環部品24は、循環部品取付孔25に設置された後、ナット21側の凹部27cと循環部品24の凸部24aの中心位置を回転中心として、循環部品24を回転させた後に、固定手段26を設置してナット本体21aに装着される。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9