(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術では、回転軸の振動検出のため、振動検出器が使用されている。しかし、比較的小型な回転機械においては、振動検出器が備えられないことがある。そのため、この場合には、上記特許文献1に記載の技術では、接触振動の検出を行うことができない。また、振動検出器を備える回転機械においても、振動検出器を用いずに接触振動を検出できることで、振動検出器の省略等の利点が見込まれる。従って、接触検出器の有無にかかわらず接触振動を検出可能な技術が望まれている。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みて為されたものであり、本発明の少なくとも一実施形態は、回転機械の接触振動を検出可能な接触振動検出装置及びそれを備える回転機械、並びに、接触振動検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る接触振動検出装置は、静止部への回転軸の接触に起因する接触振動を検出するための接触振動検出装置であって、回転中の前記回転軸の変位に基づいて、前記回転軸の回転波形を決定するための回転波形決定部と、前記回転波形の実効値、又は、前記回転波形の位相角のうちの少なくとも一方のパラメータの変化を検出するためのパラメータ変化検出部と、前記パラメータの前記変化の有無に基づいて前記接触振動の有無を判定するための接触振動判定部とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記(1)の構成によれば、例えば変位センサにより測定される変位に基づいて回転波形を決定し、決定された回転波形の上記パラメータの変化に基づくことで、回転軸の静止部への接触に起因する接触振動を検出できる。これにより、振動検出器によらず回転機械の接触振動を検出できる。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記接触振動判定部は、前記パラメータの前記変化が所定期間継続して生じている場合に、前記接触振動が生じていると判定するように構成されたことを特徴とする。
【0011】
上記(2)の構成によれば、実際には接触振動は生じていないにもかかわらず、何らかの理由によりたまたま上記パラメータが変化した場合に、接触振動が生じたとの誤判定を抑制できる。これにより、判定精度を高めることができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記回転軸には、前記回転波形における位相角の基準となるパルス波形を重畳させるためのパルス波形生成部が形成され、前記パラメータ変化検出部は、前記パルス波形に対する前記位相角の変化を検出することで、前記パラメータの前記変化を検出するように構成されたことを特徴とする。
【0013】
上記(3)の構成によれば、静止部への接触により回転波形の位相角が変化しても、回転波形に重畳されるパルス波形の位置は不変であるため、基準信号としてのパルス波形に対する回転波形の位相角変化を算出することで、パラメータの変化を精度よく検出できる。
【0014】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、前記パルス波形生成部は、前記回転軸の外周面に、前記回転軸の周方向で等間隔に形成された2以上の切り欠き部を含むことを特徴とする。
【0015】
上記(4)の構成によれば、切り欠き部の回転軸への形成を容易に行うことができる。また、回転軸の回転中のバランスを良くし、回転軸を安定して回転できる。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の構成において、前記パラメータ変化検出部は、検出された前記パルス波形を分周することで基準パルス波形を決定するように構成され、前記パラメータ変化検出部は、前記基準パルス波形に対する前記位相角の変化を検出することで、前記パラメータの前記変化を検出するように構成されたことを特徴とする。
【0017】
上記(5)の構成によれば、分周により、切り欠き部に対応する2以上のパルス波形から1つの基準パルス波形を決定できる。そのため、基準パルス波形に対する位相角を容易に算出できる。
【0018】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)の構成において、前記パラメータ変化検出部は、前記実効値及び前記位相角の変化を検出するように構成され、前記接触振動判定部は、前記実効値の変化、及び、前記位相角の変化を検出したときに、前記接触振動が生じていると判定するように構成されたことを特徴とする。
【0019】
上記(6)の構成によれば、接触振動の検出精度を高めることができる。
【0020】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の構成において、前記接触振動検出装置は、前記接触振動の発生を検出したとき、使用者に対して前記接触振動の発生を通知するための通知部を備えることを特徴とする。
【0021】
上記(7)の構成によれば、接触振動の検出を使用者に通知でき、これにより、使用者が回転機械の運転を停止する等、使用者に対して適切な行動をとることを促すことができる。
【0022】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、回転軸と、上記(1)〜(7)の何れか1に記載の接触振動検出装置とを備えることを特徴とする。
【0023】
上記(8)の構成によれば、回転機械において生じた接触振動を検出して、回転機械の適切な保守管理を行うことができる。
【0024】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る接触振動検出方法は、静止部への回転軸の接触に起因する接触振動を検出する接触振動検出方法であって、回転中の前記回転軸の変位に基づいて、前記回転軸の回転波形を決定する回転波形決定ステップと、前記回転波形の実効値、又は、前記回転波形の位相角のうちの少なくとも一方のパラメータの変化を検出するパラメータ変化検出ステップと、前記パラメータの前記変化に基づいて前記接触振動の有無を判定する接触振動判定ステップとを含むことを特徴とする。
【0025】
上記(9)の方法によれば、例えば変位センサにより測定される変位に基づいて回転波形を決定し、決定された回転波形の上記パラメータの変化に基づくことで、回転軸の静止部への接触に起因する接触振動を検出できる。これにより、振動検出器によらず回転機械の接触振動を検出できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、回転機械の接触振動を検出可能な接触振動検出装置及びそれを備える回転機械、並びに、接触振動検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、以下に実施形態として記載されている内容又は図面に記載されている内容は、あくまでも例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、任意に変更して実施することができる。また、各実施形態は、2つ以上を任意に組み合わせて実施することができる。さらに、各実施形態において、共通する部材については同じ符号を付すものとし、説明の簡略化のために重複する説明は省略する。
【0029】
また、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る接触振動検出装置100を適用した回転機械200を示すブロック図である。回転機械200は、回転機械本体部10と、接触振動検出装置100とを備える。これらのうち、回転機械本体部10は、いずれも図示しないが、ターボ、タービン、圧縮機等により構成される。また、接触振動検出装置100は、回転機械本体部10において生じた、静止部13への回転軸12の接触に起因する接触振動を検出するためのものである。
【0031】
回転機械本体部10は、ケーシング11と、回転軸12と、静止部13と、変位センサ14とを備える。ケーシング11は、回転軸12、静止部13、変位センサ14等を収容するものである。回転軸12は、回転機械本体部10が例えばターボの場合には、例えば船舶の排ガス等が有するエネルギによって回転されるものである。また、静止部13は、いずれも図示しないが、例えばシール部、油切部等である。
【0032】
さらに、変位センサ14は、回転軸12の回転中における回転軸12の変位を測定するものである。変位センサ14は、回転機械本体部10において通常備えられる。変位センサ14は、例えば渦電流方式のセンサにより構成される。変位センサ14により測定された変位は、後記する回転波形決定部101に入力される。変位センサ14は、本発明の一実施形態では1つのみ設けられている。
【0033】
これらのうち、回転軸12には、回転軸12の回転に伴って生じる回転波形にパルス波形を重畳させるための切り欠き部12a(パルス波形生成部)が形成される。この点を、
図2を参照しながら説明する。
【0034】
図2は、回転軸12に形成される切り欠き部12aを示す部であり、(a)は切り欠き部12aと変位センサ14との相対的な位置関係を示す図であり、(b)は回転軸における切り欠き部12aの形成位置を説明するための図である。
図2には、上記の変位センサ14を併せて図示している。
【0035】
図2(a)に示す回転軸12は、回転中心線Lを回転中心として回転する。そして、回転軸12の表面には、例えば断面矩形状の切り欠き部12aが形成される。この切り欠き部12aは、
図2(b)に示すように、回転軸12の外周面に、回転軸12の周方向に等間隔で形成される。また、2つの切り欠き部12aは、同じ大きさかつ同じ形状である。2つ(3つ以上でもよい)の切り欠き部12aが等間隔で形成されることで、切り欠き部12aの回転軸12への形成を容易に行うことができる。また、回転軸12の回転中のバランスを良くし、回転軸12を安定して回転できる。
【0036】
なお、詳細は後記するが、切り欠き部12aが形成されることで、回転軸12の回転により決定される回転波形に対し、パルス波形が重畳される。
【0037】
図1に戻って、接触振動検出装置100は、回転波形決定部101と、パラメータ変化検出部102と、接触振動判定部103と、通知部104とを備える。これらのうち、パラメータ変化検出部102は、実効値算出部102aと、位相角算出部102bと、分周部102cと、検出部102dと、パラメータデータベース102eとを備える。
【0038】
回転波形決定部101は、回転中の回転軸12の変位に基づいて、回転軸12の回転波形を決定するためのものである。具体的な回転波形の形状を、一例として
図3に示す。
【0039】
図3は、回転波形決定部101により決定された回転軸12の回転波形501を示すグラフであり、時刻T
0における回転軸12の回転波形501である。変位センサ14を用いた回転軸12の変位はリアルタイムで測定され、測定された変位はリアルタイムで回転波形決定部101に送信される。そのため、例えば
図3に示すような形状の回転波形501も、リアルタイムで決定される。
【0040】
図3に示す回転波形においては、回転軸12の回転に伴って生じる通常の回転波形501(最大振幅1)に加えて、0°≦位相角≦360°において2つのパルス波形502(最大振幅5)が生成している。これらのパルス波形502は、上記の
図2を参照しながら説明した2つの切り欠き部12aに起因する。即ち、回転軸12が回転すると、回転軸12の外周面に等間隔で形成された切り欠き部12aの部分において回転軸12の変位が大きく変化する。そのため、2つの切り欠き部12aに対応するパルス波形502が、位相角の差が180°となって通常の回転波形501に重畳される。
【0041】
なお、パルス波形502は、詳細は後記するが、上記回転波形501における位相角の基準信号となる。即ち、静止部13への回転軸12に起因して回転波形501の位相角が変化しても、重畳されるパルス波形502の位置は不変である。そのため、基準信号としてのパルス波形502に対する回転波形501の位相角変化を算出することで、回転波形501の位相角変化を検出できる。
【0042】
図1に戻って、パラメータ変化検出部102は、回転波形の実効値、及び、回転波形の位相角であるパラメータの変化を検出するためのものである。ただし、これらのパラメータは、何れか一方のみでもよい。パラメータ変化検出部102は、上記のように、実効値算出部102aと、位相角算出部102bと、分周部102cと、検出部102dと、パラメータデータベース102eとを備える。
【0043】
実効値算出部102aは、回転波形の実効値を算出するためのものである。ここでいう回転波形とは、例えば上記の
図3を参照しながら説明した回転波形501である。実効値の算出は、回転軸12の回転が整定状態(即ち、回転軸12の回転速度が一定)のときに取得された回転波形に基づいて行うことが好ましい。
【0044】
回転波形の実効値Eは、以下の式(1)により算出できる。なお、上記のパルス波形の大きさは一定であるから、実効値Eの算出では、算出の簡略化のために、パルス波形の大きさ(面積)については考慮しない。
【0046】
式(1)において、x(t)は時刻tを変数とする回転波形の関数、Tは回転波形の周期を表す。算出された実効値Eは、パラメータデータベース102eに記録される。
【0047】
位相角算出部102bは、回転波形の位相角を算出するためのものである。ここでいう位相角とは、回転波形に重畳したパルス波形に対する位相角、即ち、パルス波形との位相角差である。ここでいう回転波形とは、例えば上記の
図3を参照しながら説明した回転波形501であり、パルス波形とは、例えば上記の
図3を参照しながら説明したパルス波形502である。位相角の算出は、回転軸12の回転が整定状態(即ち、回転軸12の回転速度が一定)のときに取得された回転波形及びパルス波形に基づいて行うことが好ましい。
【0048】
ここで、静止部13への接触により回転波形の位相角が変化しても、回転波形に重畳されるパルス波形の位置は不変である。そのため、基準信号としてのパルス波形に対する回転波形の位相角変化を算出することで、位相角(パラメータ)の変化を精度よく検出できる。
【0049】
回転波形の位相角は、回転次数比分析及び高速フーリエ分析により算出できる。具体的には、複素関数F(t)の位相角は、以下の式(2)により算出できる。
【0051】
式(2)において、時間配列f(x)がフーリエ変換を行うデータ個数N個の配列で構成され、上式によりデータ個数0からN−1分だけの周波数tとなって、複素関数F(t)の位相角は、複素数(e)の実部虚部で求められる。算出された位相角は、パラメータデータベース102eに記録される。
【0052】
上記のように、本発明の一実施形態では、基準信号としてのパルス波形に対する回転波形の位相角が算出される。ただし、算出の簡略化のために、2つのパルス波形を分周し、分周により得られた1つの基準パルス波形に対する回転波形の位相角を算出することが好ましい。以下、回転波形の分周及び基準パルス波形について、回転波形の分周を行うための分周部102cに触れつつ説明する。
【0053】
分周部102cは、回転波形中に検出された上記パルス波形を分周することで基準パルス波形を決定するためのものである。分周となるパルス波形は、例えば上記の
図3を参照しながら説明した2つのパルス波形502である。分周により、2つの切り欠き部12aに対応する2つのパルス波形から1つの基準パルス波形が決定される。基準パルス波形について、上記の
図3に加えて、新たに
図4を併せて参照しながら説明する。
【0054】
図4は、回転波形の分周により決定される基準パルス波形503を示すグラフである。
図4には、0°≦位相角≦360°において1つの基準パルス波形503(最大振幅5)が示されている。なお、基準パルス波形503の振幅と、上記のパルス波形502(
図3参照)の振幅とは同じである。
【0055】
上記
図3に示すパルス波形502は、上記のように0°≦位相角≦360°において2つ存在する。そこで、分周部102cは、2つのパルス波形502を分周して、2つのパルス波形502を1つのパルス波形502に変換する。そして、変換により得られたパルス波形502が基準パルス波形503として決定される。なお、
図4に示す例では、基準パルス波形503の位相角は20°であることから、基準パルス波形503に対する回転波形501(
図3参照)の位相角は、この20°からどの程度ずれているかを示すものである。
【0056】
分周により基準パルス波形503が決定されることで、切り欠き部12aに対応する2以上のパルス波形から1つの基準パルス波形を決定できる。そのため、基準パルス波形503に対する回転波形501(
図3参照)の位相角を容易に算出できる。
【0057】
図1に戻って、検出部102dは、上記の実効値算出部102aにより算出された実効値、及び、上記の位相角算出部102bにより算出された位相角のそれぞれについて、それらの変化を検出するものである。具体的には、検出部102dは、現在の実効値及び位相角と、パラメータデータベース102eに記録された例えば1分前の実効値及び位相角とをそれぞれ比較する。そして、検出部102dは、実効値及び位相角のそれぞれについて変化が生じたか否かを判断するようになっている。この点を、上記の
図3に加え、さらに
図5を新たに参照しながら説明する。
【0058】
図5は、回転波形決定部101により決定された回転軸12の回転波形501を示すグラフであり、時刻T
1における回転軸12の回転波形501である。ここでいう時刻T
1は、上記の
図3に示す回転波形501の時刻T
0に対し、例えば1分後の時刻である。
図3及び
図5においては、パルス波形502の位相角及び振幅は同じである。しかし、通常の回転波形501の位相角は同じであるが、回転波形501の最大振幅が、
図3に示す振幅(最大振幅1)と比べて、大きくなっている(最大振幅3)。従って、振幅から算出される実効値が、具体的な値の説明は省略するが、
図3に示す回転波形の時刻T
0から、
図4に示す回転波形の時刻T
1の間で変化が生じている。そのため、この場合には、上記の検出部102dは、実効値の変化を検出することになる。
【0059】
図6は、回転波形決定部101により決定された回転軸12の回転波形501を示すグラフであり、(a)は時刻T
0における回転軸12の回転波形501、(b)は時刻T
2における回転軸12の回転波形501、(c)は時刻T
3における回転軸12の回転波形501である。これらのグラフのうち、
図6(a)に示す回転波形501は、縦軸のスケールが異なること以外は、上記の
図3に示す回転波形501と同じものである。また、時刻T
2は、時刻T
0から例えば2分経過後の時刻、時刻T
3は、時刻T
0から例えば3分経過後の時刻である。
【0060】
図6(a)〜(c)においては、パルス波形502の位相角及び振幅は同じである。しかし、回転波形501の腹の位置が、
図6(a)〜(c)で変化している。具体的には、時刻T
0における回転波形501を示す
図6(a)では、回転波形501に含まれる腹の位相角のうち最も小さい角度が90°である。従って、
図6では図示しない基準パルス波形503(
図4参照、位相角20°)に対する位相角(位相角の差)は、70°である。また、時刻T
2における回転波形501を示す
図6(b)では、腹の位相角のうち最も小さい角度が67.5°である。従って、基準パルス波形503に対する位相角は47.5°である。さらに、時刻T
3における回転波形501を示す
図6(c)では、腹の位相角のうち最も小さい角度が45°である。従って、基準パルス波形503に対する位相角は25°である。
【0061】
これらのように、時刻T
0、T
2、T
3において、基準パルス波形503に対する回転波形501の位相角が変化している。そのため、この場合には、上記の検出部102dは、位相角の変化を検出することになる。
【0062】
図1に戻って、パラメータデータベース102eは、上記の実効値算出部102aにより算出された実効値、及び、上記の位相角算出部102bにより算出された位相角のそれぞれが記録されるものである。上記のように、実効値及び位相角は、それぞれ例えば1分毎に算出されることから、パラメータデータベース102eへの記録も、1分毎に行われる。
【0063】
接触振動判定部103は、上記の検出部102dにより検出された実効値及び位相角(パラメータ)の変化の有無に基づいて上記接触振動の有無を判定するためのものである。具体的には、本発明の一実施形態では、接触振動判定部103は、実効値に変化が生じ、かつ、位相角に変化が生じた場合には、回転軸12に接触振動が生じたと判定するようになっている。ただし、詳細は後記するが、いずれか一方の変化が生じたときに回転軸12に接触振動が生じたと判定するようにしてもよい。
【0064】
通常、回転速度が整定し、回転軸12が安定しているとき、実効値及び位相角はいずれも変化しない。しかし、例えば実効値についていえば、何らかの原因により静止部13への回転軸12の接触が生じると、接触振動が生じる。また、接触部分では摩擦に起因する熱が発生し、温度が上昇する。この結果、回転軸12が曲がり、回転軸12が不安定となるため、接触振動が大きくなる。そして、これを繰り返すことで、回転軸12の不安定性に起因して、回転波形に変化が生じる。この結果、回転波形から算出される実効値が変化(例えば増加)する。そこで、接触振動判定部103は、実効値の変化に基づいて接触振動の有無を判定している。
【0065】
また、例えば位相角についていえば、静止部13への接触に起因して上記のように回転軸12が不安定になっても、当該不安定さを打ち消すような別の接触が生じることで、上記実効値の変化(即ち振幅の変化)が極めて小さくなる可能性がある。この場合、実効値はほとんど変わらない。しかし、静止部13への回転軸12の接触により、回転軸12の円周上の1箇所の接触部分が局所加熱されるため、回転軸12が熱曲がりを起こす。この結果、十分にアンバランスが除去された回転軸12に熱曲がりによるアンバランスが相俟って、それが振動として発生する。そして、接触によるアンバランスは時間と共に円周上を移動することから、回転波形の位相角がずれていく。そこで、接触振動判定部103は、位相角の変化に基づいて接触振動の有無を判定している。
【0066】
そして、本発明の一実施形態では、接触振動判定部103は、実効値の変化、及び、位相角の変化を検出したときに、接触振動が生じていると判定するように構成されている。このようにすることで、接触振動の検出精度を高めることができる。
【0067】
また、本発明の一実施形態では、接触振動判定部103は、上記実効値及び上記位相角(パラメータ)の変化が所定期間継続している場合に、上記接触振動が生じていると判定するように構成されている。ここでいう所定期間には、例えば上記のように所定時間毎(例えば1分毎)に実効値及び位相角が算出されている場合には、例えば100回連続して変化が生じた場合が含まれる。また、例えば、回転波形の決定とともに実効値及び位相角の算出がリアルタイムで行われている場合には、例えば1時間40分連続して変化が生じた場合が含まれる。
【0068】
このようにすることで、実際には接触振動は生じていないにもかかわらず、何らかの理由によりたまたまパラメータ(実効値及び位相角)が変化した場合に、接触振動が生じたとの誤判定を抑制できる。これにより、判定精度を高めることができる。
【0069】
通知部104は、接触振動判定部103によって接触振動の発生を検出したとき、使用者に対して接触振動の発生を通知するためのものである。通知部104により、接触振動の検出を使用者に通知でき、これにより、使用者が回転機械200の運転を停止する等、使用者に対して適切な行動をとることを促すことができる。通知部104は、例えば、図示しないランプを点灯させたり、図示しないモニタ画面に表示させたりすることで、使用者への通知を行う。
【0070】
以上の構成の接触振動検出装置100によれば、例えば変位センサ14により測定される変位に基づいて回転波形を決定し、決定された回転波形の上記パラメータ(実効値及び位相角)の変化に基づくことで、回転軸12の静止部13への接触に起因する接触振動を検出できる。これにより、振動検出器によらず回転機械200(より具体的には回転機械本体部10)の接触振動を検出できる。なお、本発明の一実施形態は、振動検出器の具備を排除するものではない。
【0071】
特に、例えば
図1に示すような、回転軸12及び接触振動検出装置100を備える回転機械200によれば、回転機械200において生じた接触振動を検出して、回転機械200の適切な保守管理を行うことができる。
【0072】
なお、上記の接触振動検出装置100は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、I/F(InterFace)、制御回路等を備え、ROMに格納されている所定の制御プログラムがCPUによって実行されることにより具現化される。
【0073】
図7は、本発明の一実施形態に係る接触振動検出装置100において行われる接触振動検出方法を示すフローチャートである。
図7に示す接触振動検出方法は、上記の静止部13への回転軸12の接触に起因する接触振動を検出するものである。この接触振動検出方法は、例えば上記の
図1に示す接触振動検出装置100によって実行可能である。そこで、以下の説明においては、上記の
図1を併せて参照しながら
図7の説明を行う。
【0074】
回転軸12の回転開始後、回転軸12の回転速度が一定となり、回転軸12が回転整定する(ステップS1)。また、変位センサ14により、回転軸12の回転開始時から、回転軸12の変位が測定されている(ステップS2)。変位の測定は、回転軸12の回転整定中、リアルタイムで行われる。そして、回転波形決定部101は、回転中の回転軸12の変位に基づいて、回転軸12の回転波形を決定する(ステップS3、回転波形決定ステップ)。これにより、例えば時刻T
0での変位に基づいて決定した場合には、上記の
図3に示した回転波形501及びパルス波形502が決定される。
【0075】
次いで、実効値算出部102aは、決定された回転波形の実効値を算出する(ステップS4)。具体的な算出方法は、上記の接触振動検出装置100において説明した方法を適用することができる。算出された実効値は、パラメータデータベース102eに記録される。そして、検出部102dは、パラメータデータベース102eに記録された実効値同士を比較して、回転波形の実効値に変化があるか否かを判定する(ステップS5、パラメータ変化検出ステップ)。ここでいう実効値の変化とは、例えば上記の
図3及び
図5を参照しながら説明した変化である。
【0076】
この判定の結果、回転波形の実効値に変化があると判定した場合には(ステップS5のYes方向)、接触振動判定部103は、その変化が所定期間継続しているか否かを判定する(ステップS6)。ここでいう所定期間継続とは、上記の接触振動検出装置100において説明した所定期間継続と同義である。そして、実効値変化が所定期間継続している場合には(ステップS6のYes方向)、分周部102cは、上記実効値を算出した回転波形501に重畳されたパルス波形を分周し、基準パルス波形を決定する(ステップS7)。ここでいう基準パルス波形は、上記の
図4を参照しながら説明した基準パルス波形503である。
【0077】
なお、上記のステップS5において実効値に変化がないと判定した場合(ステップS5のNo方向)、及び、上記のステップS6において変化が所定期間継続していないと判定された場合には(ステップS6のNo方向)、フローが終了する。このとき、上記のパラメータデータベース102eに記録された実効値は消去される。
【0078】
上記のステップS7において基準パルス波形が決定された後、位相角算出部102bは、基準パルス波形を決定した回転波形について、基準パルス波形に対する位相角を算出する(ステップS8)。具体的な算出方法は、上記の接触振動検出装置100において説明した方法を適用することができる。算出された位相角は、パラメータデータベース102eに記録される。
【0079】
そして、検出部102dは、パラメータデータベース102eに記録された位相角同士を比較して、基準パルス波形に対する位相角に変化があるか否かを判定する(ステップS9、パラメータ変化検出ステップ)。ここでいう位相角の変化とは、例えば上記の
図6(a)〜(c)を参照しながら説明した変化である。
【0080】
この判定の結果、検出部102dが位相角に変化があると判定した場合には(ステップS9のYes方向)、接触振動判定部103は、その変化が所定期間継続しているか否かを判定する(ステップS10)。ここでいう所定期間継続とは、上記の接触振動検出装置100において説明した所定期間継続と同義である。そして、その変化が所定期間継続している場合には(ステップS10のYes方向)、接触振動判定部103は、静止部13への回転軸12の接触に起因する接触振動が存在すると判定し、接触振動判定部103により接触振動が検出される(ステップS11、接触振動判定ステップ)。
【0081】
なお、上記のステップS9において位相角に変化がないと判定した場合(ステップS9のNo方向)、及び、上記のステップS11において変化が所定期間継続していないと判定された場合には(ステップS11のNo方向)、フローが終了する。このとき、上記のパラメータデータベース102eに記録された実効値及び位相角は消去される。
【0082】
接触振動判定部103により接触振動が検出された後、通知部104は、例えばランプの点灯、ディスプレイへの表示等により、接触振動の検出を使用者に通知する(ステップS12)。そして、フローは終了する。
【0083】
以上の接触振動検出方法によれば、例えば変位センサ14により測定される変位に基づいて回転波形を決定し、決定された回転波形の上記パラメータ(実効値及び位相角)の変化に基づくことで、回転軸12の静止部13への接触に起因する接触振動を検出できる。これにより、振動検出器によらず回転機械200(より具体的には回転機械本体部10)の接触振動を検出できる。
【0084】
図8は、本発明の二実施形態に係る接触振動検出方法を示すフローチャートである。上記の
図7に示した各ステップと同じステップについては、説明の簡略化のために重複する説明を省略する。
【0085】
この
図8に示すフローは、上記の
図7に示すフローにおいて、実効値の変化のみに基づいて、接触振動の検出を行うものである。即ち、実効値の変化が所定期間継続して変化していると判定された場合(ステップS6のYes方向)、接触振動判定部103は、静止部13への回転軸12の接触に起因する接触振動が存在すると判定し、接触振動判定部103により接触振動が検出される(ステップS11、接触振動判定ステップ)。そして、上記の
図7に示すフローと同様に、使用者に対する通知が行われ(ステップS12)、フローが終了する。
【0086】
上記のように、静止部13への接触により回転軸12が不安定になっても、当該不安定さを打ち消すような別の接触が生じることで、上記実効値の変化が極めて小さくなる可能性がある。しかし、回転軸12の不安定さを完全に打ち消すことができるような別の接触が生じる可能性はそれほど高くない。そのため、静止部13への回転軸12の接触が生じれば、通常は、回転波形の実効値に変化が生じると考えられる。そして、実効値変化は、例えば上記の式(1)に示すように簡単な算出式により算出できため、実効値変化の検出は簡便である。従って、実効値のみにより接触振動の検出を行う
図8のフローによれば、簡便な方法で接触振動を検出できる。
【0087】
図9は、本発明の三実施形態に係る接触振動検出方法を示すフローチャートである。上記の
図7に示した各ステップと同じステップについては、説明の簡略化のために重複する説明を省略する。
【0088】
この
図9に示すフローは、上記の
図7に示すフローにおいて、位相角の変化のみに基づいて、接触振動の検出を行うものである。即ち、回転波形決定部101により回転波形が決定された後(ステップS3)、分周部102cにより、パルス波形の分周及び基準パルス波形が決定される(ステップS7)。そして、上記の
図7に示すフローと同様にして位相角を用いた接触振動の検出が行われ(ステップS7〜S11)、使用者に対する通知が行われた後(ステップS12)、フローが終了する。
【0089】
上記のように、回転軸12が静止部13に接触すると、接触振動が発生する。これとともに、接触部分が熱を帯び、接触部分の温度が上昇する。この結果、回転軸12が曲がり、回転軸12が不安定となる。このため、位相角のみに基づいて接触振動の有無を判定することで、接触振動を検出できる。
【解決手段】静止部13への回転軸12の接触に起因する接触振動を検出するための接触振動検出装置100であって、回転中の回転軸12の変位に基づいて、回転軸12の回転波形を決定するための回転波形決定部101と、回転波形の実効値、及び、回転波形の位相角であるパラメータの変化を検出するためのパラメータ変化検出部102と、パラメータの変化の有無に基づいて接触振動の有無を判定するための接触振動判定部103とを備える。