(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載のサイクロトロンにおいて、前記磁場バンプの最大の大きさの、前記主磁場の前記z成分に対する比率△Bz/Bzが、様々な抽出エネルギーでの荷電粒子の注入、加速、および抽出のサイクルの間、一定のままであることを特徴とするサイクロトロン。
請求項4に記載のサイクロトロンにおいて、前記第1の真空ユニットが、前記正中面Pの一方の側に位置し、かつ、前記サイクロトロンが、前記正中面Pに対して前記第1の真空ユニットと対称的に同一である第2の真空ユニットであって、
●第2の真空チャンバ(32)と、
●前記第2の真空チャンバ(32)に収容された第2の放射シールド(22)と、
●前記第2の放射シールド(22)の内部に位置し、かつ、前記第2の磁場バンプモジュール(52)の前記超伝導バンプコイル(52b)を含む第2のコールドマス構造体(92c)であって、任意選択的に、
○前記第2の超伝導主コイル(12)、および/または
○前記第2の磁場成形ユニット(42)をさらに含む第2のコールドマス構造体(92c)と、
●少なくとも第2の低温冷却機(82)であって、前記第1の平均温度T1で前記第2の放射シールド(22)を冷却するために、前記第2の放射シールドに結合された第1の段(82w)を備え、かつ、前記第2の平均温度T2に前記第2のコールドマス構造体を冷却するために、前記第2のコールドマス構造体に結合された第2の段(82c)を備える少なくとも第2の低温冷却機(82)と、
を備える前記第2の真空ユニットを備えるとともに、
前記第2の磁場バンプモジュール(52)の前記超伝導バンプ成形ユニット(52s)が、前記第2の放射シールド(22)と、前記第1の平均温度T1で、熱接触していることを特徴とするサイクロトロン。
請求項1乃至7の何れか一項に記載のサイクロトロンにおいて、前記第1の磁場バンプモジュールおよび前記第2の磁場バンプモジュールが、少なくとも40T/mの第1の勾配(dBz/dr)1を作り出すことを特徴とするサイクロトロン。
請求項9に記載のサイクロトロンにおいて、少なくとも前記第1の磁場バンプモジュール(51)および前記第2の磁場バンプモジュール(52)がそれぞれ、以下のように、すなわち、前記正中面への射影において、磁場バンプモジュールがそれぞれ、
●前記第1の勾配(dBz/dr)1を急峻化するための、1つまたは複数の上流側の超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)と、
●前記幅の広い磁場バンプまたはディップを生成するための、1つまたは複数の超伝導バンプコイル(51b、52b)と、
●前記第2の勾配(dBz/dr)2を急峻化するための、1つまたは複数の下流側の超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)と、を備える
と定義されているとともに、
前記中心軸zを始点に半径方向に連続して配置され、かつ、所与の方位セクタ内に閉じ込められていることを特徴とするサイクロトロン。
請求項1乃至10の何れか1項に記載のサイクロトロンにおいて、前記磁場バンプまたはディップの半値全幅FWHMが、15〜60mmの間に含まれていることを特徴とするサイクロトロン。
請求項1乃至11の何れか1項に記載のサイクロトロンにおいて、前記第1の磁場バンプモジュールおよび前記第2の磁場バンプモジュールが、超伝導体以外の非超伝導性の鉄製部品も、永久磁石部品も含まないことを特徴とするサイクロトロン。
請求項1乃至13の何れか1項に記載のサイクロトロンにおいて、シンクロサイクロトロンおよび等時性サイクロトロンの中から選択されることを特徴とするサイクロトロン。
【背景技術】
【0002】
サイクロトロンは、負または正の荷電粒子が、サイクロトロンの中心から螺旋状の経路に沿って、数メガ電子ボルト(MeV)のエネルギーまで外側に加速する一種の円形粒子加速器である。サイクロトロンには様々なタイプがある。等時性サイクロトロンでは、粒子ビームは、螺旋状の経路の各連続サイクルまたはサイクルの一部分を同じ時間に実行する。シンクロサイクロトロンは、粒子の速度が光速に近づくにつれて、相対論的効果を補償するために、駆動RF電場の周波数が変化する特別なタイプのサイクロトロンである。これは、この周波数が一定である等時性サイクロトロンとは対照的である。サイクロトロンは、様々な分野、例えば、核物理学、陽子線治療などの医療処置、またはラジオ薬理学などで使用されている。
【0003】
サイクロトロンは、注入システムと、荷電粒子を加速するための高周波(RF)加速システムと、正確な経路に沿って加速粒子を誘導するための磁気システムと、このように加速された粒子を収集するための抽出システムと、サイクロトロン内に真空を作り出し、維持するための真空システムと、を含むいくつかの素子を備える。超伝導サイクロトロンには、その超伝導素子をそれらの超伝導温度で維持するための低温冷却システムが必要である。
【0004】
注入システムは、粒子ビームを比較的低速の初速度で、サイクロトロンの中心で、または中心近くで加速ギャップ内に導入する。RF加速システムは、磁気システムによって生成された磁場によって加速ギャップ内の螺旋状の経路に沿って外側に誘導されたこの粒子ビームを、連続的かつ反復的に加速する。
【0005】
磁気システムは、その目標エネルギーEiに達するまで、螺旋状の経路に沿って荷電粒子のビームを誘導し集束させる磁場を生成する。磁場は、2つの磁場成形ユニットに巻回された2つのソレノイド主コイルによって、これらの磁場成形ニットの間に画定されたギャップ内に生成される。磁場成形ユニットは、磁極または加速ギャップによって互いに離隔された超伝導コイルとすることができる。
【0006】
主コイルは磁束リターン内に封入され、これにより、サイクロトロン内に磁場を制限する。真空が、少なくとも加速ギャップ内で抽出される。磁場成形ユニットおよび磁束リターンのいずれか1つは、鉄または低炭素鋼などの磁性材料で作ることもできるし、電気エネルギーによって作動させるコイルで構成することもできる。前記コイルも、主コイルと同様、超伝導材料で作ることができる。この場合、超伝導コイルは、それらの臨界温度未満に冷却されなければならない。低温冷却機を使用して、サイクロトロンの超伝導部品をそれらの臨界温度未満に冷却することができる。臨界温度は、低温超伝導体(LTS:low temperature superconductor)については、おおよそ2〜10Kの間、典型的には4K前後、また高温超伝導体(HTS:high temperature superconductor)については、おおよそ20〜75Kの間とすることができる。
【0007】
粒子ビームがその目標エネルギーに達すると、抽出システムは抽出ポイントでサイクロトロンからそれを抽出し、抽出チャネルに向けてそれを誘導する(
図2参照)。いくつかの抽出システムが存在し、当業者に知られている。
【0008】
本発明では、抽出システムは、平衡軌道に対して粒子の振動を作り出し、サイクロトロンから粒子を追い出す。いわゆる「再生的」ビーム抽出システムは、主磁場の摂動を局所的に生成することにより、加速器の抽出チャネルに向かって最後の加速軌道を操縦する。大きさ△Bzの磁場バンプは、軌道の中心のシフト△yの原因である放射状の振動を引き起こす方位間隔φbにわたって作り出すことができる。第1の調和振動場の摂動に関しては、シフトの大きさは、第1の調和振動場摂動の振幅に比例する。
図2に図示されるように、軌道中心は、摂動の方向に距離△y分だけシフトする。前記シフトは、最終的に、抽出チャネルを通してサイクロトロンから粒子を導出する(
図2参照)。
【0009】
輪郭が明確な方位および放射状の拡張部分(「リジェネレータ(regenerator)」と呼ばれる)を有する鉄製のバーを使用して、磁場バンプを生成する場合が多い。例えば、(特許文献1)および(特許文献2)は、鉄系のリジェネレータについて記載している。鉄で生成された磁場バンプは、約80T/mまで程度の半径方向に、極大磁場勾配dBz/drを有することができる。鉄系のリジェネレータの短所の1つには、磁場バンプの大きさを容易に変えることができず、当然ながら、サイクロトロンの動作中は変えることができないという点が含まれる。同じサイクロトロンを使用して様々なエネルギーで粒子を抽出する場合、これは大きな短所である。
【0010】
磁極と同様に、鉄系のリジェネレータは、コイルで、特に、より大きな磁場を生成することが可能な超伝導コイルで置き換えることができる。コイルを使用することにより、主磁場の大きさBzとは独立して、磁場バンプの大きさ△Bzを変えることが可能になる。しかしながら、
図1(b)に示されているように、超伝導バンプコイルによって生成される磁場バンプは、鉄系のリジェネレータによって生み出される磁場バンプよりも実質的に幅が広く、その結果得られる極大磁場勾配はおおよそ20T/mであり、最適な摂動を作り出すには小さすぎる。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、これは、少なくとも部分的に以下のように説明することができる。超伝導バンプコイルは、それらの臨界温度(例えば、低温超伝導体に関しては液体ヘリウムに近い温度)未満の、非常に低い温度に冷却され、真空に維持されなければならない。したがって、超伝導バンプコイルは、それ自体が真空チャンバ内に収容された、冷却された放射シールド内に密閉されなければならない。このロシア式入れ子人形構造には空間が必要であり、加速器の正中面Pから、超伝導バンプコイルをz方向にさらに距離を離して移動させることで、コイルベースのリジェネレータの磁場バンプの幅(FWHM)が大きくなる。
【発明の概要】
【0013】
添付の独立請求項は、本発明を定義するものである。従属請求項は、好適な実施形態を定義するものである。特に、本発明は、荷電粒子、特にハドロンを加速するための、例えば、シンクロサイクロトロンまたは等時性サイクロトロンのようなサイクロトロンであって、
●共通の中心軸zを中心とし、中心軸zに対して垂直であり、かつ、サイクロトロンの対称面を規定している正中面Pの両側に互いに平行に配置されている少なくとも第1の超伝導主コイルおよび第2の超伝導主コイルであって、電源によって作動させると、主磁場Bを生成する前記少なくとも第1の超伝導主コイルおよび第2の超伝導主コイルと、
●正中面Pの両側の第1の超伝導主コイルおよび第2の超伝導主コイル内に配置され、かつ、加速ギャップ(6)によって互いに離隔された第1の磁場成形ユニットおよび第2の磁場成形ユニットであって、加速ギャップの中で、中心軸zに平行な主磁場のz成分Bzを制御するのに適した前記第1の磁場成形ユニットおよび第2の磁場成形ユニットと、
●作動させたときに、主磁場のz成分Bzの中に局所的な磁場バンプを作り出すために、正中面Pの両側に配置され、かつ、共通の方位角φb上に周方向に延在する少なくとも第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールであって、それぞれが、
○電源によって作動させると、幅の広い磁場バンプまたはディップを局所的に生成する少なくとも1つの超伝導バンプコイルであって、前記磁場バンプはバンプの最大の大きさが△Bzの釣鐘形状を有するとともに、半径方向rにz成分Bzの第1の勾配(dBz/dr)
1によって規定されている、少なくとも1つの超伝導バンプコイルを備える磁場バンプモジュールと、
を備えるサイクロトロンにおいて、磁場バンプモジュールがそれぞれ、
○少なくとも1つの超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)であって、作動させると、少なくとも1つの超伝導バンプコイルによって生み出された第1の勾配(dBz/dr)
1を、好ましくは少なくとも2倍分だけ、局所的に急峻化するように位置決めされた、前記少なくとも1つの超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)
をさらに備えるサイクロトロンに関する。
【0014】
好適な一実施形態では、バンプの最大の大きさの、z成分に対する比率△Bz/Bzが、荷電粒子の注入、加速、および抽出のサイクルの間、実質的に一定のままである。
【0015】
少なくとも1つの超伝導バンプ成形ユニットは、
●印加された主磁場Bによって、および/または幅の広い磁場バンプまたはディップによって作動させる受動的なバルク超伝導体(受動的なバルク超伝導体は、超伝導材料のかたまりであり、どんな電源にも接続されていない)、および/または、
●電源によって作動させる超伝導成形コイルを備えることができる。
【0016】
サイクロトロンの超伝導素子を真空に、かつ、それぞれの臨界温度未満に保つために、サイクロトロンは、好ましくは、少なくとも、
●第1の真空チャンバと、
●前記第1の真空チャンバに収容された第1の放射シールドと、
●第1の放射シールドの内部に位置し、かつ、少なくとも第1の磁場バンプモジュールの超伝導バンプコイルを含む第1のコールドマス構造体であって、任意選択的に、
○少なくとも第1の超伝導主コイル、および/または
○少なくとも第1の超伝導磁場成形ユニット、をさらに含む第1のコールドマス構造体と、
●第1の平均温度T1で第1の放射シールドを冷却するために、前記第1の放射シールドに結合された第1の段を備え、かつ、T1よりも低温の第2の平均温度T2(T2<T1)に第1のコールドマス構造体を冷却するために、前記第1のコールドマス構造体に結合された第2の段を備える、少なくとも第1の低温冷却機と、を備える第1の真空ユニットを備えるとともに、
●少なくとも第1の磁場バンプモジュールの超伝導バンプ成形ユニットが、第1の放射シールド(21)と、第1の平均温度T1で、熱接触している。
【0017】
前述の構成要素を備える様々な配置を想定することが可能である。第1の実施形態では、第1の真空チャンバが正中面P上に延在するとともに、
(A)第1の放射シールド(21)が正中面P上に延在し、かつ、
●第2の磁場バンプモジュールの超伝導バンプコイルであって、第1のコールドマス構造体に含まれるか、または、第2の平均温度T2で第2のコールドマス構造体を冷却するために、第1の低温冷却機または第2の低温冷却機の第2の段に結合された前記第2のコールドマス構造体に含まれる超伝導バンプコイルと、
●第1の放射シールドと、第1の平均温度T1で、熱接触している第2の磁場バンプモジュールの超伝導バンプ成形ユニット(52s)と、
●任意選択的に、第2の超伝導主コイル、および/または、第1の低温冷却機もしくは第2の低温冷却機の第2の段によって第2の平均温度T2で維持された、第1のコールドマス構造体または第2のコールドマス構造体に属する、第2の超伝導磁場成形ユニットと、をさらに収容するか、
または、
(B)第1の放射シールドが、正中面の一方の側に位置し、かつ、サイクロトロンが、
●正中面Pに対して第1の放射シールドと対称的に位置する第2の放射シールドであって、
●第2の磁場バンプモジュールの超伝導バンプコイルを含むとともに、任意選択的に、
○第2の超伝導主コイル、および/または
○第2の超伝導磁場成形ユニットをさらに含む第2のコールドマス構造体と、
●第1の放射シールドに結合された低温冷却機と同じもの、または異なるものとすることが可能な、少なくとも1つの低温冷却機であって、第1の平均温度T1に第2の放射シールドを冷却するために、前記第2の放射シールドに結合された第1の段を備えるとともに、第2の平均温度T2に第2のコールドマス構造体を冷却するために、前記第2のコールドマス構造体に結合された第2の段を備える、少なくとも1つの低温冷却機と、を封入する前記第2の放射シールドと、をさらに備え、
●第2の磁場バンプモジュールの超伝導バンプ成形ユニットが、前記第2の放射シールドと、前記第1の平均温度T1で、熱接触しているか、
のいずれかである。
【0018】
代替的な一実施形態では、第1の真空ユニットが、正中面Pの一方の側に位置し、かつ、サイクロトロンが、正中面Pに対して第1の真空ユニットと対称的に同一である第2の真空ユニットであって、
●第2の真空チャンバと、
●前記第2の真空チャンバに収容された第2の放射シールドと、
●第2の放射シールドの内部に位置し、かつ、第2の磁場バンプモジュールの超伝導バンプコイルを含む第2のコールドマス構造体であって、任意選択的に、
○第2の超伝導主コイル、および/または
○第2の超伝導磁場成形ユニットをさらに含む第2のコールドマス構造体と、
●少なくとも第2の低温冷却機であって、第1の平均温度T1で第2の放射シールドを冷却するために、前記第2の放射シールドに結合された第1の段を備え、かつ、第2の平均温度T2に第2のコールドマス構造体を冷却するために、前記第2のコールドマス構造体に結合された第2の段を備える少なくとも第2の低温冷却機と、
を備える前記第2の真空ユニットを備えるとともに、
●第2の磁場バンプモジュールの超伝導バンプ成形ユニットが、第2の放射シールドと、第1の平均温度T1で、熱接触している。
【0019】
一方では、本発明の好適な形態では、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールのうちの少なくとも1つの超伝導バンプコイルが、低温超伝導体(LTS)で作られており、使用時に、2〜10Kの間、好ましくは2.2〜7Kの間に含まれる温度T2で、より好ましくは4K±1Kで、維持されている。他方では、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールの第1の超伝導バンプ成形ユニットおよび第2の超伝導バンプ成形ユニットが、高温超伝導体(HTS)で作られており、使用時に、30〜75Kの間に含まれる温度T1で維持され、かつ、対応する第1の超伝導バンプコイルおよび第2の超伝導バンプコイルよりも正中面の近くに位置する。コントローラを、使用時に、HTS素子およびLTS素子が前述の温度範囲内に確実に維持されるように構成することができる。第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールはいずれも、超伝導体以外の非超伝導性の鉄製部品も永久磁石部品も含まないことが好ましい。
【0020】
例えば、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールのうちの少なくとも1つの超伝導バンプコイルは、例えば、Nb族、またはMgB
2から選択された、1つまたは複数の材料で作られたコイル状のワイヤまたはテープによって形成することができる。第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールのうちの少なくとも1つの超伝導バンプ成形ユニットは、銅酸化物族、鉄系族またはMgB
2からの1つまたは複数の材料から選択された超伝導材料を含んでいてもよい。
【0021】
コントローラは、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールが、少なくとも40T/mの、好ましくは少なくとも60T/mの、より好ましくは、少なくとも70T/mの、最も好ましくは、少なくとも80T/mの絶対値の半径方向に、第1の勾配(dBz/dr)
1を確実に作り出すように構成することもまた可能である。
【0022】
釣鐘形状の幅の広い磁場バンプまたはディップは、(サイクロトロンの中心を始点に、半径方向に対して表現された)上流側の傾斜、および下流側の傾斜を有する。第1の勾配(dBz/dr)
1は、上流側の傾斜または下流側の傾斜のうちの一方(好ましくは下流側の傾斜)を特徴付けし、z成分Bzの第2の勾配(dBz/dr)
2は、第1の勾配(dBz/dr)
1とは反対の符号の半径方向に、上流側の傾斜または下流側の傾斜のうちのもう一方(好ましくは上流側の傾斜)を特徴付けする。
【0023】
好適な一実施形態では、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールがそれぞれ、少なくとも1つの超伝導バンプコイルによって生み出された第2の勾配(dBz/dr)
2を、好ましくは少なくとも2倍分だけ、より好ましくは少なくとも40T/mの、最も好ましくは少なくとも60T/mの、理想的には、少なくとも70T/mの、さらに理想的には、少なくとも80T/mの極大絶対値に、半径方向に局所的に急峻化するように位置決めされた、少なくとも第2の超伝導バンプ成形ユニットを備える。
【0024】
第1の勾配および第2の勾配(dBz/dz)を有する幅の広い磁場バンプまたはディップの傾斜を成形するために、少なくとも第1の磁場バンプモジュール(51)および第2の磁場バンプモジュール(52)がそれぞれ、以下のように、すなわち、正中面への射影において、磁場バンプモジュールがそれぞれ、
●第1の勾配(dBz/dr)
1を急峻化するための、1つまたは複数の上流側の超伝導バンプ成形ユニットと、
●幅の広い磁場バンプまたはディップを生成するための、1つまたは複数の超伝導バンプコイルと、
●第2の勾配(dBz/dr)
2を急峻化するための、1つまたは複数の下流側の超伝導バンプ成形ユニットと、を備えると定義されている。
【0025】
上記の構成要素は、中心軸zを始点に半径方向に連続して配置され、かつ、所与の方位セクタ内に閉じ込められている。上記の構成要素の正中面への射影は、互いに重ね合わせることができる。
【0026】
磁場バンプまたはディップは、釣鐘形状の磁場バンプまたはディップの半値全幅FWHM(full width at half maximum)が、15〜60mmの間、好ましくは20〜50mmの間、より好ましくは21〜40mmの間に含まれるように成形されることが好ましい。
【0027】
第1の磁場成形ユニットおよび第2の磁場成形ユニットはそれぞれ、
●磁性材料で作られている磁極、もしくは、
●1つまたは複数の磁場成形コイル、好ましくは、電源によって作動させると、成形磁場を生成する超伝導磁場成形コイル、または
●この2つの組み合わせ
によって形成することが可能である。
【0028】
同じことは、磁束リターンに当てはまり、それらはヨーク、またはコイル形態とすることが可能であり、また、超伝導コイルとすることも、超伝導コイルとしないことも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、ハドロン、および特に、目標エネルギーEiを有する陽子などの、荷電粒子のビームを生み出す等時性サイクロトロン、およびシンクロサイクロトロンの両方を含むサイクロトロンに適用された加速粒子ビーム抽出システムに関する。粒子ビームの目標エネルギーは、おおよそ15〜400MeV/核子、好ましくは60〜350MeV/核子の間、より好ましくは70〜300MeV/核子の間とすることができる。
図2、および
図3に図示されているように、本発明によるサイクロトロンは、共通の中心軸zを中心に、中心軸zに対して垂直であり、かつ、サイクロトロンの対称面を規定している正中面Pの両側に互いに平行に配置された、少なくとも第1の超伝導主コイル(11)および第2の超伝導主コイル(12)を備える。正中面Pをまたいで延在する単一の超伝導主コイルを使用することが可能であるが、少なくとも2つの超伝導主コイルを正中面の両側に配置する方が好ましい。第1の超伝導主コイルおよび第2の超伝導主コイルは、電源によって作動させると、主磁場Bを生成する。
【0032】
サイクロトロンは、正中面Pの両側の第1の超伝導主コイルおよび第2の超伝導主コイル内に配置され、かつ、加速ギャップ(6)によって互いに離隔された第1の磁場成形ユニット(41)および第2の磁場成形ユニット(42)もまた備える。第1の磁場成形ユニット(41)および第2の磁場成形ユニット(42)は、加速ギャップの中で、中心軸zに平行な主磁場のz成分Bzを制御する。z成分Bzは、RF加速システムによって加速された粒子を、粒子ビームが後続する螺旋状の経路に沿って駆動する。z成分Bzの最大値によって特徴付けされる磁場が、好ましくは少なくとも3Tの、より好ましくは少なくとも4Tの、最も好ましくは少なくとも5Tの加速ギャップの中で生み出される。加速している粒子ビームが目標エネルギーEiに達すると、粒子ビームを加速ギャップ(6)から抽出しなければならない。
【0033】
磁場バンプモジュール(51、52)
加速されたエネルギーEiの粒子のビームを抽出するために、サイクロトロンは、作動させたときに、主磁場Bの中に局所的な磁場バンプを作り出すために、正中面Pの両側に配置され、かつ、共通の方位角φb上に周方向に延在する少なくとも第1の磁場バンプモジュール(51)および第2の磁場バンプモジュール(52)を備える。磁場バンプモジュールはそれぞれ、電源によって作動させると、幅の広い磁場バンプまたはディップを局所的に生成する、少なくとも1つの超伝導バンプコイル(51b、52b)を備える。このように生成された磁場バンプは、バンプの最大の大きさが△Bzの釣鐘形状を有しており、半径方向rにz成分Bzの第1の勾配(dBz/dr)
1によって規定されている。第1の勾配(dBz/dr)
1は、本明細書では、釣鐘形状のバンプまたはディップの第1の側で測定された磁場勾配の最高絶対値として規定されている。言いかえれば、それは、バンプまたはディップの前記第1の側の最も急峻な傾斜である。摂動は、バンプまたはディップとすることができる。簡潔にするために、また、当技術分野ではよくあるように、「バンプ」という用語は、単独で使用される場合が多いが、この用語はディップの場合もまた包含すると解釈しなければならないことは明らかである。バンプの第1の側は、バンプの下流側であることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。なお、下流は、サイクロトロンの中心を始点に、半径方向rに対して表現される。
【0034】
上記の背景技術の項で説明したように、低温が必要条件であるため、超伝導バンプコイルを、正中面Pから一定の距離に位置決めしなければならず、その結果、超伝導バンプコイルの対だけによって生成された磁場バンプの第1の勾配は、ビーム経路の最適な振動、および粒子ビームを抽出するための前記ビーム経路の中心の最適なオフセットを生成するには小さすぎる。
図1(b)は、超伝導バンプコイルの対(51b、52b)だけによって生成された磁場バンプの一例を図示する。
図1(b)〜
図1(d)では、第1の勾配は、バンプの上流部分を特徴付けしているように図示されているが、この代わりに、第1の勾配は、釣鐘形状のバンプの下流側部分を特徴付けすることができる。図では、上流および下流は、サイクロトロンの中心を始点に、半径方向に規定されている。
【0035】
本発明の要点は、少なくとも1つの超伝導バンプコイルによって生み出された第1の勾配(dBz/dr)
1を局所的に急峻化するように位置決めされた、少なくとも1つの超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)を、磁場バンプモジュールそれぞれに提供することである。前記少なくとも1つの超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)を作動させると、第1の勾配は、好ましくは少なくとも2倍分だけ、より好ましくは少なくとも2.5倍分だけ、またさらには少なくとも3倍分だけ増加される。ここでもやはり、第1の勾配は、超伝導バンプ成形ユニットがない場合と、軸rに沿った同じ放射状の位置で、または同じ磁場の値Bzで測定されたかどうかにかかわらず、前記超伝導バンプ成形ユニットを用いて得られたバンプまたはディップの最も急峻な傾斜として規定される。
【0036】
図1(c)および
図1(d)は、本発明の2つの実施形態によるバンプモジュールの対(51、52)によって生成された磁場バンプを図示する(わかり易くするために、図では第1のバンプモジュール(51)だけが表されている)。超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)を適切に位置決めすることにより、
図1(c)および
図1(d)に図示されたバンプの半値全幅(FWHM)が、超伝導バンプ成形ユニットなしで生成された
図1(b)の幅の広いバンプのFWHMよりも実質的に狭いことがわかる。本発明による磁場バンプモジュールによって生成された磁場バンプまたはディップの半値全幅FWHMは、典型的には15〜60mmの間、好ましくは20〜50mmの間、より好ましくは21〜40mmの間に含まれ得る。
図1(b)に図示されている、超伝導バンプコイル(51b、52b)だけによって生成された幅の広い磁場バンプのFWHM値は、典型的にはおおよそ70mm以上である。言いかえれば、本発明によるバンプモジュールの対によって生成されたときの方が、超伝導バンプコイルの対(51b、52b)だけによって生成されたときよりもバンプは狭くなる。FWHMは、式、FWHM≒2.35σで近似値を求めることができる。式中、σは釣鐘形状のバンプの標準偏差である。バンプの大きさ△Bzは、おおよそ0.5〜1.5T、好ましくはおおよそ0.7〜1.2T、より好ましくはおおよそ0.8〜1.0Tとすることができる。
【0037】
表1は、磁場バンプモジュールの対によって生成されたバンプで測定されたシグマ(σ)、FWHM、および△Bzの値を一覧表示したものである。表1は、
●51b/52b:超伝導バンプコイル(51b、52b)だけの場合、FWHMが70.5mmの幅の広いバンプが生じ、
●(51b+51s)/(52b+52s):超伝導バンプコイル(51b、52b)および本発明による、
図3および
図4に図示された超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)の場合、FWHMが23.5mmの、次のスチール鋼を用いて得られたものに類似した幅の狭いバンプが生じ、
●スチール鋼:最新技術、例えば、(特許文献2)による低炭素鋼、
を含んでいる。
【0038】
表1から、スチール鋼シム(shim)を用いて得られたものに非常に類似した磁場バンプが、本発明による磁場バンプモジュールを用いて得られたことがわかる。しかしながら、この結果の根底にある物理的原理は、鉄シム/スチール鋼シムとは反対のものである。鉄シムが局所的に磁場を増大させると、本発明の超伝導成形ユニット(51s、52s)は、第1の超伝導バンプコイル(51b)および第2の超伝導バンプコイル(52b)によって生成された幅の広い磁場バンプを局所的に縮小することによりバンプを成形し、鉄シムによって生み出されたバンプの形状を再生するが、大きさおよびFWHMを容易に制御し、変えることができるという追加の利点がある。これにより、超伝導成形ユニット(51s、52s)のことを呼ぶのに「シミング(shimming)」ではなく「成形(shaping)」という用語が使用されている理由がわかる。抽出チャネルの開始において、超伝導成形ユニットの使用を想定することもまた可能である。
【0039】
本発明を用いて生成された幅の狭くなったバンプにともない生じた傾斜は、第1の勾配の値が大きくなり、実質的に急峻になっている。例えば、第1の勾配(dBz/dr)
1は、
図1(c)および
図1(d)に図示されているような、本発明によるバンプモジュールを用いて生成されたバンプの半径方向に、少なくとも40T/mの、好ましくは少なくとも60T/mの、より好ましくは、少なくとも70T/mの、最も好ましくは、少なくとも80T/mの極大絶対値を有することができる。これらは、(特許文献1)または(特許文献2)に記載されている種類の鉄シムを使用することによって得られる値(表1参照)に匹敵する傾斜の値であり、オフセット△y分だけ連続軌道の中心をシフトし、最終的には、(縮尺通りではない)
図2に図示されているように、サイクロトロンから粒子ビームを導出する加速粒子の振動が生成可能な摂動に相当する傾斜の値である。超伝導バンプ成形ユニットがなければ、超伝導バンプコイルの対だけを備えるバンプモジュールを用いて生成された幅の広いバンプの対応する極大の第1の勾配は、おおよそ20T/mである可能性があり、それは、加速粒子のビームの抽出に必要とされる種類の振動を作り出すには最適以下である。
【0040】
図1(c)に図示されている1つの実施形態では、各磁場バンプモジュールの少なくとも1つの超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)は、印加された主磁場Bによって、および/または幅の広い磁場バンプによって作動させる受動的なバルク超伝導体とすることができる。受動的なバルク超伝導体は、超伝導材料のかたまりであり、どんな電源にも接続されていない。バルク超伝導材料は、特定の幾何的形状に機械加工することができる。
【0041】
この代わりに(またはこれに加えて)、超伝導バンプ成形ユニットは、
図1(d)に図示されているような、電源によって作動させる超伝導成形コイルを含むことができる。超伝導バンプコイルと同様に、超伝導成形ユニット(51s、52s)は、コイル状の細線、ワイヤ、リボン、テープなどによって形成された、1つまたは複数の超伝導成形コイルの形態とすることができる。受動的なバルク超伝導体は、動力源に接続する必要がないので、設置が簡単になる。しかしながら、バンプの形状および大きさは、超伝導バンプコイル(51b、52b)の電流を制御することによってのみ制御することができる。超伝導成形コイルを使用することにより、超伝導バンプコイル(51b、52b)および超伝導成形コイル(51s、52s)の両方の電流を変えることによって、バンプの形状および大きさを制御し易くすることが可能になる。これは、バンプと主磁場のz成分Bzとの間の直線性を維持するためには、特に有利である。すべての場合において、特にシンクロサイクロトロンの場合、バンプの最大の大きさの、z成分に対する比率△Bz/Bzが、様々な抽出エネルギーでの荷電粒子の注入、加速、および抽出のサイクルの間、実質的に一定のままであることが好適である。
【0042】
第1の磁場バンプモジュール(51)および第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプコイル(51b、52b)は、概して、Nb族(例えば、NbTi、Nb
3Sn、Nb
3Al)、またはMgB
2からの1つまたは複数の超伝導材料のような、低温超伝導体(LTS)で作られている。LTSは、概して少なくとも2Kの、また概して、最高でも10Kの、そして好ましくは、おおよそ4K±1Kの温度T2で、超伝導性を示すことができる。
【0043】
第1の磁場バンプモジュール(51)および第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)は、典型的には、銅酸化物族(例えば、ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・銅酸化物(BSSCO)、イットリウム・バリウム・銅酸化物(YBCO)などの希土類金属・バリウム・銅酸化物(REBCO)、鉄系族(例えば、鉄−ランタニド族、鉄−ヒ化物族、FeSe族)、またはMgB
2からの1つまたは複数の超伝導材料などの、高温超伝導体(HTS)で作ることができる。HTSは、概して少なくとも20Kの、また概して最高でも75Kの温度T1で、超伝導性を示すことができる。本発明による第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールは、超伝導体以外のどんな非超伝導性の鉄製部品も、どんな永久磁石部品も必要でないばかりか、むしろそれらを含まない方が好ましい。
【0044】
超伝導バンプ成形ユニットを使用して、バンプの大きさ△Bzを比較的一定に保ちつつ、バンプを狭くすることによって、また釣鐘形状の幅の広いバンプの傾斜を急峻化することによって、その形状を修正する。磁場を是正するために受動的なシムまたは能動的なシムを用いることは、「シミング」のプロセスとして知られている。しかしながら、シミングが、特に磁気共鳴画像撮影(=MRI)装置において、主磁場Bを均質化する目的で知られている場合には、本発明の超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)は、超伝導バンプコイル(51b、52b)によって生成された摂動を鮮明化するという反対の目的を有する。
【0045】
第1の磁場バンプモジュール(51)および第2の磁場バンプモジュール(52)は、好ましくは15°〜40°の間、より好ましくは25°〜35°の間に含まれる所与の方位角φb上にのみ周方向に延在する。
【0046】
釣鐘形状のバンプは、(半径方向に)上流側の傾斜および下流側の傾斜によって規定され、そのうちの一方は、第1の勾配(dBz/dr)
1によって特徴付けされ、他方は、z成分Bzの第2の勾配(dBz/dr)
2によって、第1の勾配(dBz/dr)
1とは反対の符号の半径方向に特徴付けされる。第2の勾配(dBz/dr)
2は、本明細書では、釣鐘形状のバンプまたはディップの第2の側で測定された磁場勾配の最高絶対値として規定されている。好適な一実施形態では、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールはそれぞれ、少なくとも1つの超伝導バンプコイルによって生み出された第2の勾配(dBz/dr)
2を、好ましくは少なくとも2倍分だけ、半径方向に局所的に急峻化するように位置決めされた、少なくとも第2の超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)を備える。第2の勾配(dBz/dr)
2の極大絶対値は、好ましくは少なくとも40T/m、最も好ましくは少なくとも60T/m、理想的には、少なくとも70T/m、さらに理想的には、少なくとも80T/mである。
【0047】
釣鐘形状のバンプの上流側の傾斜および下流側の傾斜の両方を急峻化するために、少なくとも第1の磁場バンプモジュール(51)および第2の磁場バンプモジュール(52)をそれぞれ、以下のように、すなわち、正中面への射影において、磁場バンプモジュールはそれぞれ、
●上流側の傾斜を急峻化するための、1つまたは複数の上流側の超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)と、
●幅の広い磁場バンプまたはディップを生成するための、1つまたは複数の超伝導バンプコイル(51b、52b)と、
●下流側の傾斜を急峻化するための1つまたは複数の下流側の超伝導バンプ成形ユニット(51s、52s)と、を備える
と定義されているとともに、中心軸zを始点に半径方向に連続して配置され、かつ、角度φbの所与の方位セクタ内に閉じ込められていることが好適である。引き続き説明し、また、
図1(c)および
図1(d)、ならびに
図3〜
図5に図示するように、1つまたは複数の上流側の超伝導バンプ成形ユニット(51s)および下流側の超伝導バンプ成形ユニット(52s)は、必ずしも正中面Pからの距離が、1つまたは複数の超伝導バンプコイル(51b、52b)と同じであるとは限らない。上流側の超伝導バンプ成形ユニット(51s)および下流側の超伝導バンプ成形ユニット(52s)の方が、超伝導バンプコイル(51b、52b)よりも正中面の近くに位置していることが好適である。上流側の超伝導バンプ成形ユニット(51s)および下流側の超伝導バンプ成形ユニット(52s)の、正中面への射影は、したがって、
図3(a)および
図4(a)に図示されているように、超伝導バンプコイル(51b、52b)の射影と重ね合わせることができる。
【0048】
サイクロトロン
本発明は、超伝導等時性サイクロトロンおよびシンクロサイクロトロンにも同様に関する。主磁場のz成分の大きさBzとは独立してバンプの大きさを変えることができるので、特に有利である。超伝導主コイル(11、12)が主磁場Bを生成する場合、加速ギャップ(6)の中のそのz成分は、第1の磁場成形ユニット(41)および第2の磁場成形ユニット(42)によって制御される。
【0049】
磁場成形ユニット(41、42)は、
図3に図示されているような、磁性材料で作られた第1の磁極および第2の磁極とすることができる。第1の磁極および第2の磁極を備えるサイクロトロンは、当技術分野において周知であり、例えば、(特許文献2)および(特許文献3)にはシンクロサイクロトロンについて、また(特許文献4)には等時性サイクロトロンについて記載されている。等時性サイクロトロンでは、荷電粒子のビームを集束させるために、磁極は概して、中心軸のまわりに交互に分布した谷(valley)セクタによって離隔された丘(hill)セクタを形成している。
【0050】
磁極の代わりに、または磁極と組み合わせて、磁場成形ユニット(41、42)は、磁場成形コイル、好ましくは、
図4に図示され、また例えば、シンクロサイクロトロンおよび等時性サイクロトロンの両方について(特許文献5)に、および等時性サイクロトロンについて(特許文献6)に記載されているような、電源によって作動させると、成形磁場を生成する超伝導コイルを含むことができる。
【0051】
同じことが磁束リターン(7)に当てはまり、磁束リターンは、
図3に図示されているようなバルク磁性材料で作ることができるし、コイル、好ましくは、
図4に図示されているような超伝導コイル(7s)を含んでもよい。本発明は、前述のタイプのサイクロトロンのいずれにも適用することができる。
【0052】
磁場バンプモジュール(51、52)の配置
真空チャンバ
図5は、磁場バンプモジュール(51、52)の様々な配置を図示する。各磁場バンプモジュールの超伝導部品は、真空チャンバ(31、32)内に封入されていなければならない。
図5(a)〜
図5(c)に示されているように、単一の真空チャンバが正中面(P)をまたいで延在することが可能であるとともに、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールを含むことが可能である。単一の真空チャンバは、第1の超伝導主コイルおよび第2の超伝導主コイルを封入することもまた可能であり(
図5(a)参照)、また、
図4(d)に図示されているような超伝導磁場成形コイル(41、42)、および/または
図4(b)に示されているような超伝導磁束リターンコイル(7s)を封入することもまた可能である。あるいは、単一の真空チャンバ(31)は、第1の磁場バンプモジュールおよび第2の磁場バンプモジュールだけを備える。この実施形態では、超伝導主コイル(11、12)およびサイクロトロンの任意の他の超伝導コイルは、
図5(b)および
図5(c)に図示されているように、1つまたは複数の別個の真空チャンバ(31m、32m)に収容されている。真空チャンバ内では、おおよそ10
−3ミリバール(mbar)未満の圧力が必要である。
【0053】
図5(d)〜
図5(f)に図示されている代替的な一実施形態では、第1の磁場バンプモジュール(51)は、正中面Pの一方の側に位置する第1の真空チャンバ(31)に封入され、第2の磁場バンプモジュール(52)は、正中面Pのもう一方の側に位置する第2の真空チャンバ(32)に封入されている。第1の超伝導主コイル(11)および第2の超伝導主コイル(12)、そして任意選択的に、
図5(d)に示されているように、サイクロトロンの任意の他の超伝導コイルを第1の真空チャンバおよび第2の真空チャンバにそれぞれ封入することができる。あるいは、第1の超伝導主コイルおよび第2の超伝導主コイルは、
図5(e)に示されているような、第1の真空チャンバ(31)および第2の真空チャンバ(32)から離隔された、単一の真空チャンバ(31m)に封入されているか、または
図5(f)に示されているような、2つの別個の真空チャンバ(31m、32m)に封入されている。
【0054】
放射シールド
本発明のサイクロトロンは、少なくとも第1の放射シールド(21)を備える。第1の放射シールド(21)は、第1の真空チャンバ(31)に封入されているとともに、少なくとも第1の磁場バンプモジュールを収容している。放射シールドは、その中に収容されている超伝導素子を放射による熱移動から断熱するために使用される。熱シールドは、通常、積層断熱(MLI=multilayer insulation)が内側に施されたアルミニウム板または銅板で作られているが、これは、当業者にはよく知られている。
【0055】
前述した単一の真空チャンバ(31)を備える実施形態では、正中面Pをまたいで延在する単一の放射シールド(21)が、
図5(a)〜
図5(c)に示されているように、両方の磁場バンプモジュール(51、52)を封入することができる。あるいは、第1の放射シールド(21)は、第1の磁場バンプモジュール(51)を封入することができ、正中面Pに対して対称的に位置する第2の放射シールド(22)が、第2の磁場バンプモジュール(52)を封入することができる。他の超伝導素子は、第1の超伝導主コイル(11)および第2の超伝導主コイル(12)を含み(
図5(a)参照)、そして任意選択的に、超伝導磁場成形コイル(41、42)を含む1つまたは2つの放射シールドに封入することができる。
【0056】
第1の真空チャンバ(31)および第2の真空チャンバ(32)を備える実施形態では、第1の放射シールド(21)および第2の放射シールド(22)は、
図5(d)〜
図5(f)に図示されているように、第1の真空チャンバおよび第2の真空チャンバにそれぞれ封入されている。第1の放射シールド(21)および第2の放射シールド(22)は、第1の磁場バンプモジュール(51)および第2の磁場バンプモジュール(52)を封入している。それらは、第1の超伝導主コイル(11)および第2の超伝導主コイル(12)と同様に、サイクロトロンの任意の他の超伝導素子もまた封入していてもよい。あるいは、第1の超伝導主コイル(11)および第2の超伝導主コイル(12)、ならびにサイクロトロンの任意の他の超伝導素子は、自身の1つまたは複数の放射シールド(21m、22m)であって、
図5(b)、
図5(c)、
図5(e)、および
図5(f)に示されているように、自身のコールドマス構造体(91m、92m)の一部である放射シールド(21m、22m)内に収容することができる。
【0057】
低温冷却機(81、82)
超伝導素子(51b、51s、52b、52s)をそれぞれの臨界温度未満に至らせるために、磁場バンプモジュール(51、52)は、1つまたは複数の低温冷却機(81、82)に熱結合されている。前述したように、超伝導バンプコイル(51b、52b)は、液体ヘリウム温度に近い10K未満の温度T2に冷却しなければならない低温超伝導体(LTS)で作られていることが好ましく、一方、超伝導成形コイル(51s、52s)は、液体窒素温度に近い、おおよそ30〜75Kの温度T1>T2に冷却することが可能な高温超伝導体(HTS)で作られていることが好ましい。この理由で、1つまたは複数の低温冷却機がそれぞれ、第1の平均温度T1に構造体を冷却するのに適した第1の段(81w、82w)と、T2<T1である第2の平均温度T2に構造体を冷却するのに適した第2の段(81c、82c)と、を含むことが好適である。
【0058】
図3(b)に図示されているように、各低温冷却機の第1の段(81w、82w)は、第1の平均温度T1に対応する放射シールド(21、22)を冷却するために、前記放射シールドに熱結合されていることが好ましい。この実施形態では、第1のHTS超伝導バンプ成形ユニット(51s)および第2のHTS超伝導バンプ成形ユニット(52s)は、上記のように冷却された対応する放射シールド(21、22)と熱接触しており、したがって、第1の平均温度T1で維持されており、これにより、バンプ成形ユニットは超伝導特性を有する。
【0059】
各低温冷却機の第2の段(81c、82c)は、対応する放射シールド(21、22)の内部に位置し、かつ、LTS超伝導バンプコイル(51b、52b)を含むコールドマス構造体(91c、92c)に熱結合されていることが好ましい。コールドマス構造体は、上記のように第2の平均温度T2に冷却することができる。
図5(a)に図示されているように、サイクロトロンは、第1のLTS超伝導バンプコイル(51b)および第2のLTS超伝導バンプコイル(52b)を含む単一のコールドマス構造体(91c)を備えていてもよい。この実施形態では、単一のコールドマス構造体を冷却するためには、単一の低温冷却機(81)で十分である。あるいは、複数個の低温冷却機を使用して、冷却能力を高めることができる。代替的な実施形態では、
図3(b)に示されているように、第1のLTS超伝導バンプコイル(51b)は、第1の低温冷却機(81)の第2の段と熱接触している第1のコールドマス構造体(91c)に属し、第2のLTS超伝導バンプコイル(52b)は、第2の低温冷却機(82)の第2の段と熱接触している第2のコールドマス構造体(92c)に属する。1つまたは複数のコールドマス構造体は、超伝導主コイル(11、12)、および/または、超伝導磁場成形ユニット(41、42)をさらに含んでいてもよい。
【0060】
要約すると、本発明によるサイクロトロンは、
●第1の真空チャンバ(31)と、
●前記第1の真空チャンバ(31)に収容された第1の放射シールド(21)と、
●第1の放射シールド(21)の内部に位置し、かつ、少なくとも第1の磁場バンプモジュール(51)の超伝導バンプコイル(51b)を含む第1のコールドマス構造体(91c)であって、任意選択的に、
○少なくとも第1の超伝導主コイル(11)、および/または
○少なくとも第1の超伝導磁場成形ユニット(41)、
をさらに含む第1のコールドマス構造体(91c)と、
●少なくとも第1の低温冷却機(81)であって、
○第1の平均温度T1で第1の放射シールドを冷却するために、前記第1の放射シールド(21)に結合された第1の段(81w)であって、少なくとも第1の磁場バンプモジュール(51)の超伝導バンプ成形ユニット(51s)が、第1の放射シールド(21)と、第1の平均温度T1で、熱接触している第1の段(81w)、および
○T1よりも低温の第2の平均温度T2(T2<T1)に第1のコールドマス構造体を冷却するために、前記第1のコールドマス構造体に結合された第2の段(81c)を備える第1の低温冷却機(81)と、
を備える第1の真空ユニットが設けられている。
【0061】
第1の真空チャンバ(31)が正中面P上に延在する
図5(a)〜
図5(c)に図示されている実施形態では、第1の放射シールド(21)は、(A)正中面P上に延在するか、または(B)正中面の一方の側に位置するか、のいずれかとすることができる。
【0062】
第1の放射シールド(21)が正中面P上に延在する場合には、
●第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプコイル(52b)であって、第1のコールドマス構造体(91c)に含まれるか、または、第2の平均温度T2で第2のコールドマス構造体を冷却するために、第1の低温冷却機(81)または第2の低温冷却機(82)の第2の段(81c、82c)に結合された前記第2のコールドマス構造体(92c)に含まれる超伝導バンプコイル(52b)と、
●第1の平均温度T1に冷却するために、第1の放射シールド(21)と熱接触している第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプ成形ユニット(52s)と、
●任意選択的に、第2の超伝導主コイル(12)、および/または、第1のコールドマス構造体、または、第1の低温冷却機もしくは第2の低温冷却機の第2の段によって第2の平均温度T2で維持された、第2のコールドマス構造体(92c)に属することが可能な、第2の超伝導磁場成形ユニット(42)と、をさらに含むことができる。あるいは、
【0063】
第1の放射シールド(21)が正中面の一方の側に位置している場合には、サイクロトロンは、
●正中面Pに対して第1の放射シールド(21)と対称的に位置する第2の放射シールド(22)であって、
●第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプコイル(52b)を含み、そして任意選択的に、第2のコールドマス構造体(92c)であって、
○第2の超伝導主コイル(12)、および/または
○第2の超伝導磁場成形ユニット(42)をさらに含む
第2のコールドマス構造体(92c)と、
●第1の放射シールド(21)に結合された低温冷却機と同じもの、または異なるものとすることが可能な、少なくとも1つの低温冷却機(81、82)であって、
○第1の平均温度T1に第2の放射シールドを冷却するために、前記第2の放射シールド(22)に結合された第1の段(81w、82w)であって、第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプ成形ユニット(52s)が、第2の放射シールド(22)と、第1の平均温度T1で、熱接触している第1の段(81w、81w)、および、
○第2の平均温度T2に第2のコールドマス構造体を冷却するために、前記第2のコールドマス構造体に結合された第2の段(82c)を備える
少なくとも1つの低温冷却機(81、82)と、
を封入している前記第2の放射シールド(22)をさらに備えることができる。
【0064】
第1の真空ユニットが正中面Pの一方の側に位置し、かつ、サイクロトロンが、正中面Pに対して第1の真空ユニットと対称的に同一である第2の真空ユニットを備える
図5(d)〜
図5(f)に図示されている実施形態では、前記第2の真空ユニットは、
●第2の真空チャンバ(32)と、
●前記第2の真空チャンバ(32)に収容された第2の放射シールド(22)と、
●第2の放射シールド(22)の内部に位置し、かつ、第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプコイル(52b)を含む第2のコールドマス構造体(92c)であって、任意選択的に、
○第2の超伝導主コイル(12)、および/または
○第2の超伝導磁場成形ユニット(42)をさらに含む
第2のコールドマス構造体(92c)と、
●少なくとも第2の低温冷却機(82)であって、
○第1の平均温度T1で第2の放射シールドを冷却するために、前記第2の放射シールド(22)に結合された第1の段(82w)であって、第2の磁場バンプモジュール(52)の超伝導バンプ成形ユニット(52s)が、第2の放射シールド(22)と、第1の平均温度T1で、熱接触している第1の段(82w)、および、
○第2の平均温度T2に第2のコールドマス構造体を冷却するために、前記第2のコールドマス構造体に結合された第2の段(82c)を備える
第2の低温冷却機(82)と、
を備える。
【0065】
HTS材料を超伝導磁場成形ユニット(51s、52s)に使用する利点の1つは、それらを放射シールド壁と直接接触させて配置することができることにより、低温の温度T2で維持されなければならないLTS超伝導バンプコイル(51b、52b)よりも、加速ギャップ(6)に実質的にさらに近づけて配置することができ、加速ギャップから物理的にさらに遠ざけて配置することができる、ということである。したがって、LTS超伝導バンプコイル(51b、52b)によって生成される幅の広いバンプの成形の精度を大幅に高めることができる。