(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記四巻線変圧器は、前記一次巻線と前記二次巻線との間の漏れインピーダンスと、前記一次巻線と前記三次巻線との間の漏れインピーダンスとを一致させ、且つ、前記二次巻線と前記四次巻線との間の漏れインピーダンスと、前記三次巻線と前記四次巻線との間の漏れインピーダンスとを異ならせた巻線構成である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の電力変換装置、及び定数取得方法を、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る電力変換装置1の構成の一例を示す図である。電力変換装置1は、電力変換器10と、変換器制御装置20とを備える。電力変換器10は、交流系統の交流電力と、直流系統の直流電力とを互いに変換する。電力変換器10は、正極端子Pと、負極端子Nとの間に複数のレグLGを備える。レグLGの数は、例えば、交流系統が供給する交流電力の相数に対応する。交流系統は、例えば、R相、S相及びT相の三相三線式の交流電力を供給し、電力変換器10は、R相に対応するレグLGrと、S相に対応するレグLGsと、T相に対応するレグLGtとを備える。この交流電力とは、例えば、高圧や特別高圧等の10[kV]以上の交流電力である。以降の説明において、レグLGrと、レグLGsと、レグLGtとを互いに区別しない場合には、総称して「レグLG」と記載する。
【0014】
各レグLGは、互いに同様の構成を備える。以降の説明において、レグLGrに係る構成には、符号の末尾に「r」を付し、レグLGsに係る構成には、符号の末尾に「s」を付し、レグLGtに係る構成には、符号の末尾に「t」を付す。また、いずれのレグLGに係る構成であるかを互いに区別しない場合には、「r」、「s」、又は「t」を省略して示す。
【0015】
各レグLGには、トランスTRを介して、交流系統が供給する交流電力の三相のうち一つの相が接続される。トランスTRは、例えば、単相3巻線と、安定巻線である四次巻線W4とを備える四巻線変圧器である。トランスTRの一次巻線には、交流系統のR相に接続されるR相一次巻線W1rと、交流系統のS相に接続されるS相一次巻線W1sと、T相一次巻線W1tとが含まれ、トランスTRの二次巻線には、R相二次巻線W2rと、S相二次巻線W2sと、T相二次巻線W2tとが含まれ、トランスTRの三次巻線には、R相三次巻線W3rと、S相三次巻線W3sと、T相三次巻線W3tとが含まれる。各相に対応して設置される各四次巻線W4は、デルタ結線される。
【0016】
図1に示される通り、R相一次巻線W1r、S相一次巻線W1s、及びT相一次巻線W1tは、Y結線され、その中性点は直接、又は中性点接地抵抗(例えば、数[Ω])を介して接地される。R相二次巻線W2r、S相二次巻線W2s、及びT相二次巻線W2tは、Y結線され、R相三次巻線W3r、S相三次巻線W3s、及びT相三次巻線W3tは、Y結線され、それぞれの中性点が互いに接続される。
【0017】
以降の説明において、R相二次巻線W2rと、R相三次巻線W3rとが接続される点を中性点CPrと記載し、S相二次巻線W2sと、S相三次巻線W3sとが接続される点を中性点CPsと記載し、T相二次巻線W2tとT相三次巻線W3tとが接続される点を中性点CPtと記載する。
【0018】
二次巻線W2は、二次巻線W2に生じる磁気が生じさせる電位の正側がレグLGの正極Pに接続されるように、各レグLGの正側アームと接続される。三次巻線W3は、三次巻線W3に生じる磁気が生じさせる電位の負側がレグLGの負極Nに接続されるように、各レグLGの負側アームと接続される。
【0019】
レグLGrは、正側アームと負側アームのそれぞれに、直列に接続されたn個のセルCL(図示するセルCL1−1r〜CL1−nr、及びセルCL2−1r〜CL2−nr)を備える。nは、自然数である。レグLGsおよびレグLGtについても同様である。
【0020】
R相二次巻線W2rは、R相の正側アームと接続され、S相二次巻線W2sは、S相の正側アームと接続され、T相二次巻線W2tは、T相の正側アームと接続される。R相三次巻線W3rは、R相の負側アームと接続され、S相三次巻線W3sは、S相の負側アームと接続され、T相三次巻線W3tは、T相の負側アームと接続される。セルCL1−1の正極端子は、「正側アームの第1端」の一例であり、セルCL2−nの負側端子は、「負側アームの第1端」の一例であり、セルCL1−nの負極端子は、「正側アームの第2端」の一例であり、セルCL2−1の正極端子は、「負側アームの第2端」の一例である。
【0021】
以降の説明において、一次巻線W1、二次巻線W2、三次巻線W3、及び四次巻線W4を互いに区別しない場合には、総称して「巻線W」と記載する。
【0022】
[セルCLについて]
電力変換器10において、セルCLは、
図2に示すハーフブリッジ回路のセルCLと、
図3示すフルブリッジ回路のセルCLとのいずれを用いてもよい。
【0023】
図2は、セルCLの構成の一例を示す図である。
図2に示すセルCLは、ハーフブリッジ回路である。セルCLは、例えば、複数のスイッチング素子Q1およびQ2と、スイッチング素子Qに応じた数のダイオードD1およびD2と、コンデンサC1とを備える。スイッチング素子Qは、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。ただし、スイッチング素子Qは、IGBTに限定されず、コンバータ又はインバータを実現可能なスイッチング素子であれば、いかなる素子でもよい。
【0024】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは、互いに直列に接続される。スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2と、コンデンサC1とは、互いに並列に接続される。スイッチング素子Q1と、ダイオードD1とは、互いに並列に接続され、スイッチング素子Q2と、ダイオードD2とは、互いに並列に接続される。セルCLの正極端子は、スイッチング素子Q1と、スイッチング素子Q2との接続点に接続され、セルCLの負極端子は、スイッチング素子Q2のエミッタ端子に接続される。
【0025】
図3は、セルCLの構成の他の一例を示す図である。
図3に示すセルCLは、フルブリッジ回路である。セルCLは、スイッチング素子Qと、ダイオードDの並列回路を2組直列に接続した回路に対し、コンデンサCを並列に接続した構成であってもよい。
図3の例では、セルCLは、複数のスイッチング素子Q3〜Q6と、スイッチング素子Qに応じた数のダイオードD3〜D6と、コンデンサC2とを備える。セルCLの正極端子は、スイッチング素子Q3と、スイッチング素子Q4との接続点に接続され、セルCLの負極端子は、スイッチング素子Q5と、スイッチング素子Q6との接続点に接続される。
【0026】
各スイッチング素子Qには、スイッチング素子Qのオン、オフを切り替える切替端子(不図示)を備え、切替端子には、変換器制御装置20から制御信号が入力される。変換器制御装置20は、電力変換器10から取得する検出信号に基づいて、電力変換器10に制御信号を出力し、電力変換器10の動作を制御する。制御信号に基づいて変換器制御装置20の各スイッチング素子Qがオン、又はオフに切り替えられることにより、セルCLが備えるコンデンサC1は、充電され又は放電する。
【0027】
[トランスTRの巻線Wの配置について]
図4は、トランスTRの巻線Wの配置の一例について示す図である。
図4に示される通り、トランスTRは、鉄心(図示する鉄心CR)を軸とし、鉄心CRの径方向に、鉄心CRに近い側から四次巻線W4、二次巻線W2、一次巻線W1、及び三次巻線W3の順に、同心円状に層をなすように、巻線Wが巻きつけられて構成される。一次巻線W1と二次巻線W2との間の漏れインピーダンスと、一次巻線W1と三次巻線W3との間の漏れインピーダンスが一致する位置に各巻線Wが配置される。例えば、鉄心CRから見て一次巻線W1の内側に二次巻線W2を配置し、一次巻線W1の外側に三次巻線W3を配置し、一次巻線W1と二次巻線W2との間の距離と、一次巻線W1と三次巻線W3との間の距離とを一致させることにより、一次巻線W1と、三次巻線W3との間の漏れインピーダンスを一致させることができる。
【0028】
トランスTRは、一次巻線W1と、二次巻線W2との間の漏れインピーダンスと、一次巻線W1と、三次巻線W3との間の漏れインピーダンスとが合致するように設計される。上述したように、二次巻線W2と、三次巻線W3とを逆極性にしてレグLGに接続し、且つ漏れインピーダンスが合致することで、正側アームから負側アームに流れる直流電流による起磁力、或いは負側アームから正側アームに流れる直流電流による起磁力を相殺し、起磁力に応じた電力変化が、交流系統や直流系統に影響することを抑制することができる。四次巻線W4と、他の巻線との漏れインピーダンスの詳細については、後述する。
【0029】
電力変換器10は、トランスTRの励磁特性の非線形性に伴う高調波を、四次巻線W4によって構成されるデルタ結線内で還流させ、起磁力に応じた電力変化が交流系統や直流系統に影響することを抑制することができる。
【0030】
なお、四次巻線W4には、絶縁破壊を起こさないように避雷器TTが接続されていてもよい。避雷器TTは、例えば、四次巻線W4と、接地電位(例えば、大地)との間に接続される。これにより、電力変換器10や交流系統に、雷サージなどで過大な電圧が印加された場合であっても、レグLGにリアクトルを設けることなく、電流を抑制することが出来る。
【0031】
図5は、トランスTRの巻線Wの配置の他の例について示す図である。
図5に示される通り、トランスTRは、鉄心CRを軸とし、鉄心CRの径方向に、鉄心CRに近い側から二次巻線W2、一次巻線W1、三次巻線W3、及び四次巻線W4の順に、同心円状に層をなすように、巻線Wが巻きつけられて構成されていてもよい。例えば、鉄心CRから見て一次巻線W1の内側に二次巻線W2を配置し、一次巻線W1の外側に三次巻線W3を配置し、一次巻線W1と二次巻線W2との間の距離と、一次巻線W1と三次巻線W3との間の距離とを一致させることにより、一次巻線W1と、三次巻線W3との間の漏れインピーダンスを一致させることができる。
【0032】
鉄心CRと四次巻線W4との間、四次巻線W4と二次巻線W2との間、二次巻線W2と一次巻線W1との間、又は一次巻線W1と三次巻線W3との間は、例えば、絶縁物によって仕切られていてもよく、絶縁破壊が生じない程度の距離が開けられていてもよい。
図4、又は
図5に示す一例において、一次巻線W1までの距離が一致していれば、鉄心CRから見て二次巻線W2が一次巻線W1の外側であり、三次巻線W3が一次巻線W1の内側であってもよい。
【0033】
ここで、
図4や
図5に示すように巻線Wが配置される場合、四次巻線W4から二次巻線W2までの距離と、四次巻線W4から三次巻線W3までの距離とを一致させることができない。このため、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスを一致させることはできない。
【0034】
[零相電流について]
図6は、外乱が生じていない場合の交流系統の各相の電圧を示す図である。
図6に示される各波形WVr1、WVs1、WVt1は、交流系統に外乱が生じていない場合のR相一次巻線W1rの交流電圧、S相一次巻線W1sの交流電圧、T相一次巻線W1tの交流電圧の時間変化を示す。波形WVz1は、交流系統に外乱が生じていない場合の零相の電圧の時間変化を示している。
【0035】
図6に示される通り、交流系統に外乱が生じていない場合(つまり、通常の状態である場合)、一次巻線W1には、三相が平衡した交流電圧が印加される。一次巻線W1における交流電圧が、三相で平衡している場合には、零相電圧は、「0」となり、四次巻線W4には、電流が流れない。このため、上述したように、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスが一致していなくても、電力変換器10の動作に影響を与えない。
【0036】
図7は、外乱が生じている場合の交流系統の各相の電圧を示す図である。外乱が生じている状態とは、例えば、一次巻線W1のうち、ある1線に地絡が生じている状態である。
図7に示される各波形WVr2、WVs2、WVt2は、交流系統に外乱が生じている場合のR相一次巻線W1rに現れる交流電圧、S相一次巻線W1sに現れる交流電圧、T相一次巻線W1tに現れる交流電圧の時間変化を示している。波形WVz2は、交流系統に外乱が生じている場合の零相電圧の時間変化を示す。
【0037】
図7に示される通り、交流系統に外乱が生じている場合、一次巻線W1における交流電圧は、三相で不平衡となる。この場合、零相電圧WVz2が発生し、四次巻線W4に電流が流れる。
【0038】
図8は、外乱が生じている場合の巻線Wの周囲に生じる磁束を模式的に示す図である。四次巻線W4に流れる電流は、デルタ結線内を循環する電流である。このとき、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していない場合、各巻線Wに鎖交する磁束が互い異なるため、起磁力を相殺することができず、相殺できなかった起磁力に応じた誘起電圧が二次巻線W2、及び三次巻線W3に誘起される。
【0039】
図8に示される磁束は、波形WV1、波形WV2、及び波形WV3として相殺できない起磁力に伴う磁束である。波形WV1は、四次巻線W4が作る漏れ磁束のうち、二次巻線W2と鎖交する磁束である。波形WV2は、一次巻線W1が作る漏れ磁束のうち、二次巻線W2と鎖交する磁束である。波形WV3は、一次巻線W1が作る漏れ磁束のうち、三次巻線W3と鎖交する磁束である。一次巻線W1と二次巻線W2との間の漏れインピーダンスと、一次巻線W1と三次巻線W3との間の漏れインピーダンスとが一致するようにトランスTRが設計されているため、一次巻線W1に流れる電流によって二次巻線W2と三次巻線W3とに誘起される電圧が一致する。このため、交流系統や直流系統には、一次巻線W1に流れる電流がほとんど影響しない。一方で、前述したように、四次巻線W4と二次巻線W2との間の漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との間の漏れインピーダンスは一致していないため、四次巻線W4に流れる電流によって二次巻線W2と三次巻線W3とに誘起される電圧が一致せず、所望の電力変換ができなくなる。
【0040】
相殺できなかった起磁力に応じた誘起電圧が巻線Wに誘起される場合、正側アームのコンデンサC1の電圧と、負側アームのコンデンサC1の電圧とに不平衡が生じ、直流系統の直流電圧が変動する。この場合、変換器制御装置20は、交流電力を所望の直流電力に変換することができない、或いは直流電力を所望の交流電力に変換することができない。そこで、以下に示すように、変換器制御装置20は、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していないことによって生じる起磁力を相殺するように、電力変換器10を制御する。
【0041】
[変換器制御装置20]
変換器制御装置20は、基本的に、交流系統の交流電力を、直流系統の直流電力に変換する場合には、交流系統側から電力変換器10に流入する交流有効電力と、電力変換器10から直流系統に流出する直流有効電力とが一致するように各スイッチング素子Qのオン、オフを切り替える。また、変換器制御装置20は、直流系統の直流電力を、交流系統の交流電力に変換する場合には、直流系統から電力変換器10に流入する直流有効電力と、電力変換器10から交流系統に流出する交流有効電力とが一致するように各スイッチング素子Qのオン、オフを切り替える。このように変換器制御装置20が電力変換器10を制御することにより、電力変換器10の各セルCLのコンデンサC1の電圧が一定に維持され、広域電力系統の安定した動作を実現する。以降の説明において、コンデンサC1の電圧を「コンデンサ電圧」とも記載する。
【0042】
また、変換器制御装置20は、電力変換器10の内部で電力変換に伴う電力損失が生じるため、交流系統と直流系統とのうち、いずれか一方を制御の基準点とし、コンデンサ電圧のフィードバック制御を行う。変換器制御装置20は、例えば、直流系統の直流有効電力を基準とし、交流系統の交流有効電力を制御することにより、コンデンサ電圧のフィードバック制御を行う。具体的には、変換器制御装置20は、各コンデンサ電圧を検出し、電力損失に相当する各コンデンサ電圧の低下分を補う(コンデンサ電圧を昇圧する)ように、交流系統の交流電力を制御するフィードバック制御を行う。また、変換器制御装置20は、規定電圧に維持するため、規定電圧以上のコンデンサ電圧になった場合は降圧するように、交流電力を制御するフィードバック制御を行う。なお、上述では、基準点を直流系統とした場合について説明しているが、交流系統を基準点とした場合は、交流と直流とを逆に読みかえればよい。
【0043】
交流系統に外乱が生じている場合、変換器制御装置20は、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していないことによって生じる起磁力を相殺するように、コンデンサ電圧のフィードフォワード制御を行う。以降の説明において、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していないことによって生じる起磁力に応じた誘起電圧を単に「誘起電圧」と記載する。
【0044】
図9は、変換器制御装置20の構成の一例を示す図である。変換器制御装置20は、例えば、交流電圧指令値演算部110と、直流電圧指令値演算部112と、第1算出部114と、除算部116と、第2算出部118と、第3算出部120と、正側セル数除算部122と、負側セル数除算部124と、正側PWM制御部126と、負側PWM制御部128と、零相電圧算出部130と、変圧比乗算部132と、比例定数乗算部134とを備える。これらの機能部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0045】
交流電圧指令値演算部110は、交流系統や直流系統の各電力系統間の電力の供給(融通)を制御する制御装置(以下、広域電力系統制御装置(不図示))から指示される所望の電力を変換できるように、電力変換器10が出力すべき交流系統の交流電圧値を指示する交流電圧指令値Vacrfを演算する。直流電圧指令値演算部112は、電力変換器10が出力すべき直流系統の直流電圧値を指示する直流電圧指令値Vdcrfを演算する。広域電力系統制御装置と、変換器制御装置20とは、例えば、ネットワークを介して交流電圧指令値や直流電圧指令値等の種々の情報を送受信する。ネットワークは、例えば、WAN(Wide Area Network)やLAN(Local Area Network)などを含む。また、交流電圧指令値演算部110や直流電圧指令値演算部112は、所望の電力変換動作に必要な指令値を演算することに加え、上述したコンデンサ電圧のフィードバック制御に係る演算も行う。
【0046】
なお、変換器制御装置20は、広域電力系統制御装置から指示される所望の電力を変換できるように交流電圧指令値Vacrfや直流電圧指令値Vdcrfを演算する構成に代えて、予め定められた電力変換動作に基づく交流電圧の振幅、或いは位相や、直流電圧の振幅をフィードバックなどの技術を用いて、交流電圧指令値Vacrfや直流電圧指令値Vdcrfを演算してもよい。
【0047】
第1算出部114は、直流電圧指令値演算部112が演算した直流電圧指令値Vdcrfから比例定数乗算部134によって算出された補正値cvを減算する。補正値cvは、交流系統に外乱が生じていない場合には「0」となるが、交流系統に外乱が生じている場合には零相電圧に応じた値となる。まず、交流系統に外乱が生じていない場合(つまり、補正値cvが「0」)である場合について説明し、交流系統に外乱が生じている場合については、後述する。第1算出部114は、直流電圧指令値Vdcrfから補正値cv(この場合、「0」)を減算した値(以下、減算値sv)を算出する。
【0048】
除算部116は、第1算出部114によって算出された減算値svを「2」で除算する。除算部116は、減算値svを「2」で除算した値(以下、除算値dv)を第2算出部118と、第3算出部120とに出力する。除算値dvは、式(1)で示される。
dv=Vdcrf/2…(1)
【0049】
第2算出部118は、交流電圧指令値演算部110によって取得された交流電圧指令値Vacrfと、除算部116によって算出された除算値dvとに基づいて、正側アームに出力させる電圧値(以下、正側出力電圧値Vup)を算出する。
図1に示されるように、トランスTRの正側は減極性であり、トランスTRの負側は加極性であるため、第2算出部118は、交流電圧指令値Vacrfに「−1」を乗算した値に除算値dvを加算した値を正側出力電圧値Vupとして算出する。正側出力電圧値Vupは、式(2)で示される。
Vup=−Vuref+Vdcref/2…(2)
【0050】
第3算出部120は、交流電圧指令値演算部110によって取得された交流電圧指令値Vacrfと、除算部116によって算出された除算値dvとに基づいて、負側アームに出力させる電圧値(以下、負側出力電圧値Vun)を算出する。上述したように、トランスTRの負側は加極性であるため、第3算出部120は、交流電圧指令値Vacrfから除算値dvを除算した値を負側出力電圧値Vunとして算出する。正側出力電圧値Vupは、式(3)で示される。
Vun=Vuref+Vdcref/2…(3)
【0051】
正側セル数除算部122は、第2算出部118によって算出された正側出力電圧値Vupと、正側アームに備えられるセルCLの数(この一例では、n個)に基づいて、正側アームの各セルCLに出力させる電圧値を算出する。おおよそ、中性点CPから正側アームの間の直流電圧は、正側アームに直列接続されたn個のコンデンサC1のコンデンサ電圧の和と一致する。換言すると、正側出力電圧値Vupをnによって除算した値に正側アームの各セルCLの出力電圧を制御することによって、中性点CPから正側アームの間の電圧を正側出力電圧値Vupにすることができる。正側セル数除算部122は、正側出力電圧値Vupをnによって除算した値を正側アームの各セルCLの出力電圧値として算出する。
【0052】
負側セル数除算部124は、第3算出部120によって算出された負側出力電圧値Vunと、負側アームに備えられるセルCLの数(この一例では、n個)に基づいて、負側アームの各セルCLに出力させる電圧値を算出する。おおよそ、中性点CPから負側アームの間の直流電圧は、負側アームに直列接続されたn個のコンデンサC1のコンデンサ電圧の和と一致する。換言すると、負側出力電圧値Vunをnによって除算した値に負側アームの各セルCLの出力電圧を制御することによって、中性点CPから負側アームの間の直流電圧を負側出力電圧値Vunにすることができる。負側セル数除算部124は、負側出力電圧値Vunをnによって除算した値を負側アームのセルCLの出力電圧値として算出する。
【0053】
正側PWM制御部126は、正側セル数除算部122によって算出された正側アームのセルCLの目標出力電圧に基づいて、三角波比較などにより正側PWM(Pulse Width Modulation)制御信号を生成し、電力変換器10に出力する。電力変換器10は、取得した正側PWM制御信号に基づいて、正側アームのセルCLのスイッチング素子Qのオン、オフを切り替える。
【0054】
負側PWM制御部128は、負側セル数除算部124によって算出された負側アームのセルCLの目標出力電圧に基づいて、負側PWM制御信号を生成し、電力変換器10に出力する。電力変換器10は、取得した負側PWM制御信号に基づいて、負側アームのセルCLのスイッチング素子Qのオン、オフを切り替える。
【0055】
零相電圧算出部130は、交流電力の各相の交流電圧に基づいて、零相電圧を算出する。
図10は、電圧検出器VMによる各相の交流電圧の検出手法の一例を示す図である。
図10に示される通り、各一次巻線W1には、交流系統の各相の交流電圧値を検出する電圧検出器VMが接続される。具体的には、R相一次巻線W1rには、電圧検出器VMrが接続され、S相一次巻線W1sには、電圧検出器VMsが接続され、T相一次巻線W1tには、電圧検出器VMtが接続される。電圧検出器VMrは、接地電位に対するR相の交流電圧(以下、R相交流電圧Vu)を検出し、電圧検出器VMsは、接地電位に対するS相の交流電圧(以下、S相交流電圧Vv)を検出し、電圧検出器VMtは、接地電位に対するT相の交流電圧(以下、T相交流電圧Vw)を検出する。
【0056】
図9に戻り、零相電圧算出部130は、検出されたR相交流電圧Vu、S相交流電圧Vv、及びT相交流電圧Vwの和を、「3」で除算した値を零相電圧V0として算出する。零相電圧V0は、式(4)で示される。
V0=(Vu+Vv+Vw)/3…(4)
【0057】
変圧比乗算部132は、零相電圧算出部130によって算出された零相電圧V0にトランスTRの変圧比を乗算する。
【0058】
比例定数乗算部134は、零相電圧V0に変圧比を乗算した値に、比例定数Kを乗算する。零相電圧と誘起電圧は、比例関係にあるため、零相電圧V0に比例定数Kを乗算することにより、誘起電圧を算出することができる。比例定数Kは、トランスTRが設計された後、トランスTRに、ある大きさの零相電圧を印加した際に、二次巻線W2と、三次巻線W3との間に生じる誘起電圧を測定することにより求められる。
【0059】
比例定数Kは、トランスTRの漏れインピーダンスの等価回路を用いて算出することもできる。
図11は、トランスTRの漏れインピーダンスの等価回路の一例を示す図である。トランスTRのような四巻線変圧器の場合、トランスTRには、一次巻線W1と二次巻線W2との間の漏れインピーダンスZ12と、一次巻線W1と三次巻線W3との間の漏れインピーダンスZ13と、一次巻線W1と四次巻線W4との間の漏れインピーダンスZ14と、二次巻線W2と三次巻線W3との間の漏れインピーダンスZ23と、二次巻線W2と四次巻線W4との間の漏れインピーダンスZ24と、三次巻線W3と四次巻線W4との間の漏れインピーダンスZ34とが存在する。
【0060】
漏れインピーダンスZ12、Z13、Z14、Z23、Z24、及びZ34から、
図11に示されるトランスTRの漏れインピーダンスの等価回路の漏れインピーダンスZ1〜Z7を既知の方法によって算出することができる。すなわち、比例定数Kは、式(5)によって算出され、漏れインピーダンスZ7は、式(6)によって算出される。
【0061】
K=V23/V14=(Z7)/(Z1+Z4+Z7)×(Z6)/(2×Z5+Z6)…(5)
Z7=Z6×(2×Z5+Z6)/(2×Z5+2×Z6)…(6)
【0062】
図9に戻り、比例定数乗算部134は、零相電圧に変圧比を乗算した値に、比例定数Kを乗算した値を補正値cvとして算出する。第1算出部114は、比例定数乗算部134によって算出された補正値cvを直流電圧指令値Vdcrfから減算して減算値svを算出する。
【0063】
減算値svに基づく除算値dvを正側出力電圧値Vup、及び負側出力電圧値Vnpに加算することにより、変換器制御装置20は、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していないことによって生じる起電力を相殺するように、正側アームおよび負側アームが出力する電圧の制御を行うことができる。
【0064】
[比較例との比較]
図12は、比較例の変換器制御装置による制御結果の一例を示す図である。
図13は、変換器制御装置20による電力変換器10の制御結果の一例を示す図である。
【0065】
比較例の変換器制御装置は、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していないことによって生じる起電力を相殺する制御を行わない。
【0066】
図12、及び
図13には、一次巻線W1の(つまり、交流系統の)交流電圧の時間を示す波形と、一次巻線W1の交流電流の時間変化を示す波形と、上アームに流れる電流の時間変化と下アームに流れる電流の時間変化とをレグLG毎に示す波形と、上アームのコンデンサC1のコンデンサ電圧の平均値の時間変化と下アームのコンデンサC1のコンデンサ電圧の平均値の時間変化とをレグLG毎に示す波形と、正極Pと負極Nとの間の直流電圧(つまり、直流系統の直流電圧)の時間変化を示す波形とが示される。
図12、及び
図13に示される一例において、直流電流は、交流系統側から直流系統側に電力を融通(送電)する場合に正の値をとり、直流系統側から交流系統側に電力を融通(送電)する場合は負の値になる。
【0067】
一次巻線W1には、時刻t1において外乱(例えば、一次巻線W1のうち、一線に地絡)が生じる。これに伴い、地絡した一次巻線W1の交流電流、及び交流電圧が低下する。また、交流電圧が低下することに伴い、アーム電流、コンデンサ電圧が振動し、この振動によって、直流電流、及び直流電圧も振動する。
【0068】
図12に示される従来の制御の制御結果では、地絡事故を除去することにより、時刻t2において、外乱が解消されるが、一部のアームのコンデンサ電圧が、過電圧保護電圧に達するため、電力変換装置1(電力変換器10)の運転が停止される。時刻t2とは、例えば、時刻t1から70[ms]程度経過した後のタイミングである。電力変換器10の運転が停止され、一次巻線W1の電流、アーム電流、及び直流電流が「0」になる。また、変換器制御装置20は、外乱が解消された後も、過電圧保護電圧に達したコンデンサC1の放電を行う必要があるため、すぐには運転を開始することができない。
【0069】
これに対し、
図13に示される変換器制御装置20の制御結果では、変換器制御装置20によって四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していないことによって生じる起電力を相殺するように制御を行うため、アーム電流、コンデンサ電圧の振動が抑制され、直流電流、及び直流電圧が振動しない。また、直流系統は、外乱が生じた後も、外乱が生じる前とほぼ同じ直流電圧を供給する。このため、変換器制御装置20は、外乱が生じている間も運転を継続することができる。また、変換器制御装置20は、外乱が解消された後(つまり、時刻t2以降)も、過電圧保護電圧に達したコンデンサC1の放電を行う必要がないため、運転を継続することができる。
【0070】
[処理フロー]
図14は、変換器制御装置20の処理の一例を示すフローチャートである。零相電圧算出部130は、各電圧検出器VMによって検出した交流電圧に基づいて、零相電圧を算出する(ステップS102)。比例定数乗算部134は、変圧比乗算部132によって零相電圧に変圧比を乗算した値に比例定数Kを乗算し、補正値cvを算出する(ステップS104)。第1算出部114は、直流電圧指令値演算部112によって取得された直流電圧指令値Vdcrfから補正値cvを減算し、減算値svを算出する(ステップS106)。
【0071】
除算部116は、第1算出部114によって算出された減算値svを「2」で除算し、除算値dvを算出する(ステップS108)。第2算出部118は、交流電圧指令値Vacrfに「−1」を乗算した値に除算値dvを加算した値を、正側出力電圧値Vupとして算出する(ステップS110)。また、第3算出部120は、交流電圧指令値Vacrfに除算値dvを加算した値を、負側出力電圧値Vnpとして算出する(ステップS112)。
【0072】
正側セル数除算部122は、正側出力電圧値Vupを正側アームに備えられるセルCLの数(この一例ではn個)によって除算した値を、正側アームの各セルCLの出力電圧として算出し、負側セル数除算部124は、負側出力電圧値Vnpを負側アームに備えられるセルCLの数(この一例ではn個)によって除算した値を、負側アームの各セルCLの出力電圧として算出する(ステップS114)。
【0073】
正側PWM制御部126は、正側セル数除算部122によって算出された正側アームのセルCLのコンデンサC1のコンデンサ電圧に基づいて、現在の正側アームのセルCLの出力電圧が、算出された出力電圧値に近づくようにスイッチング素子Qを制御するPWM制御信号を生成する(ステップS116)。負側PWM制御部128は、負側セル数除算部124によって算出された負側アームのセルCLのコンデンサC1のコンデンサ電圧に基づいて、現在の負側アームのセルCLの出力電圧が、算出された出力電圧値に近づくようにスイッチング素子Qを制御するPWM制御信号を生成する(ステップS118)。
【0074】
電力変換器10は、取得したPWM制御信号に基づいて、正側アーム、及び負側アームのセルCLのスイッチング素子Qのオン、オフを切り替えることにより、四次巻線W4と二次巻線W2との漏れインピーダンスと、四次巻線W4と三次巻線W3との漏れインピーダンスとが一致していないことによって生じる起電力を相殺するように、正側アームおよび負側アームの出力する電圧の制御を行うことができる。
【0075】
[実施形態のまとめ]
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、変換器制御装置20が、各アームのスイッチング素子Qを制御し、二次巻線W2、及び三次巻線W3おいて誘起する外乱電圧を相殺する零相電圧を出力させることにより、交流系統に外乱が発生した場合でも運転を継続することができる。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
電力変換器の正側アームは、複数の変換器が互いに直列に接続され、第1端が正側直流端子に接続される。電力変換器の負側アームは、複数の変換器が互いに直列に接続され、第1端が負側直流端子に接続される。電力変換器は、二次巻線と逆極性で一次巻線と磁気結合する三次巻線と、デルタ結線される四次巻線と、を含む四巻線変圧器を備える。変換器制御装置は、アームのスイッチング素子を制御し、前記四次巻線に起因して、二次巻線、及び三次巻線おいて誘起される外乱電圧を相殺する電圧を出力させる。