特許第6559925号(P6559925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6559925多孔質チタン系焼結体、その製造方法及び電極
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  • 特許6559925-多孔質チタン系焼結体、その製造方法及び電極 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6559925
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】多孔質チタン系焼結体、その製造方法及び電極
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/11 20060101AFI20190805BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20190805BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   B22F3/11 A
   C22C1/08 F
   C22C14/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-530232(P2019-530232)
(86)(22)【出願日】2019年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2019011104
【審査請求日】2019年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2018-64588(P2018-64588)
(32)【優先日】2018年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 恭彦
(72)【発明者】
【氏名】津曲 昭吾
(72)【発明者】
【氏名】藤 貴大
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−317207(JP,A)
【文献】 特開2002−239321(JP,A)
【文献】 特開昭51−028507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F3/11
C22C1/08,14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙率が45〜65%、平均気孔径が5〜15μm、曲げ強度が100MPa以上である、多孔質チタン系焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質チタン系焼結体からなる電極。
【請求項3】
平均円形度が0.93以下であり、粒度分布測定により得られるD90:25μm以下のチタン系粉を、乾式且つ実質的に無加圧で、成形型中に載置させ、次いで、850℃以上950℃未満で焼結させる工程を含む、多孔質チタン焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質のチタン系焼結体に関し、特に、フィルター、燃料電池用や大型蓄電池用の電極として好適に利用される多孔質チタン系焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン系粉を焼結させて得られる多孔質チタン系焼結体、その中でもチタン粉を焼結させて得られる多孔質チタン系焼結体は高温融体等のフィルターとして古くから用いられているが、近年、ニッケル水素電池やリチウム電池用電極板の基材、生体材料、触媒基材、燃料電池の部材等の用途においても脚光を浴びており、開発が進められている。
【0003】
このような多孔質チタン系焼結体の製造方法としては、例えば、特許文献1にはチタン繊維を焼結させることにより高い空隙率を有する多孔質チタン焼結体を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2にはチタン又はチタン合金のガスアトマイズ法による球状粉粒体を焼結させることにより空隙率が35〜55%の焼結体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−172179号公報
【特許文献2】特開2002−66229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、チタン繊維を焼結させた多孔質チタン焼結体は、高い空隙率を有するものの、気孔径および強度の検討がおこなわれていなかった。
【0007】
特許文献2のようにガスアトマイズ法による球状のチタン粉を焼結させた多孔質チタン焼結体は空隙率が低いが、円形度が大きいため粉末同士の接点が少なく、強度が低いため、強度向上という要望があった。
【0008】
近時、多孔質チタン系焼結体に対して構造的な強度を求める機運が高まっている。フィルターや電極を一構造部材として捉えた場合、強度低下は割れ品等不良品発生に繋がるからである。
しかし、一般に多孔体の強度を上げると空隙率が低下してしまう。その内容は多孔体の原料となる粉体等が密になるほど焼結体の強度が高くなるというものである。
ここで、フィルター等圧損が発生する用途では、強度が高いことで通気性や通液性を改善しうる。しかし、適切な気孔を確保し、かつ空隙率が高くなければ圧力をかけても多孔体の通気性や通液性が向上しにくい。よって、金属質多孔体において良好な気孔径と空隙率を並立しつつ、高強度化したいという要望があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、良好な気孔径と空隙率を並立し、かつ高強度の多孔質チタン系焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明者らは鋭意検討を重ね、以下の知見を得るに至った。
本発明者らは金属の中では比較的軽量のチタン系粉を金属材料として採用することとした。さらに、ガスアトマイズ法にて製造した円形度の高いチタン系粉ではなく、破砕品であるチタン系粉が有効であると本発明者らは想定した。破砕品はガスアトマイズ品と比較して形状が不均一であり、角部も多く存在する。よって、粉末同士の接触点が多く、粉末同士はブリッジを形成するため高い空隙率を確保できると考えた。さらに、接触点が多い状態で適切に焼結面積を確保すれば、良好な気孔径と空隙率を実現しつつ、高強度化が達成できると考えた。
一方、ガスアトマイズ品等円形度の高い粉末を使用すると、一定空間に充填される粒子量が多くなるため空隙率が低くなる。さらに円形の粉末同士は接触点が少ないため良好な焼結点を確保しにくく、所望の強度が得られないおそれがある。
以上の知見に基づき原料となるチタン系粉の粒子径とその焼結温度について種々検討を重ねた結果、粒度分布測定でD90が特定の値以下となる微粉を集中して利用し、かつ特定の温度域で焼結することが有効であるとの知見を本発明者らは得た。さらに検討を重ね、本発明者らは45%以上の空隙率と5〜15μmの平均気孔径を実現しつつ100MPa以上の高強度を達成した。
このような多孔質チタン系焼結体は高強度であるため耐圧性に優れ、かつ良好な気孔径と空隙率を有するため通気性や通液性に優れるものである。また、多孔質チタン系焼結体がガス発生電極として使用される場合、電極内で発生するガスを良好に電極外に除ける。よって、強度として優れるだけでなく、ガス発生に起因する破損をも抑制できる。
以上の知見に基づき本発明は完成された。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、空隙率が45〜65%、平均気孔径が5〜15μm、曲げ強度が100MPa以上である、多孔質チタン系焼結体を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、(1)の多孔質チタン系焼結体からなる電極を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、平均円形度が0.93以下であり、粒度分布測定により得られるD90:25μm以下のチタン系粉を、乾式且つ実質的に無加圧で、成形型中に載置させ、次いで、850℃以上950℃未満で焼結させる工程を含む、多孔質チタン焼結体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な気孔径と空隙率を並立し、かつ高強度の多孔質チタン系焼結体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】曲げ強度を求める曲げ試験を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の多孔質チタン系焼結体は、空隙率が45〜65%、平均気孔径が5〜15μm、曲げ強度が100MPa以上である。通常、多孔質チタン系焼結体は、粒状のチタン系粉の焼結体であり、内部に多数の気孔を有する。
【0017】
本発明に係るチタン系粉とは、チタン粉、水素化したチタン粉、窒化チタンやチタンシリサイドでコーティングされたチタン粉、チタン合金粉、あるいはこれらを組み合わせた複合材料である。本発明においてチタン系粉としては、金属チタンと不可避不純物からなるチタン粉、金属チタンと合金金属と不可避不純物からなるチタン合金粉等が挙げられる。なお、本発明に係るチタン系粉は、例えば、HDH粉(水素化脱水素粉)のような破砕粉であってよい。例えば、チタン合金は、チタンとFe、Sn、Cr、Al、V、Mn、Zr、Mo等の金属(合金金属)との合金であり、具体例としては、Ti−6−4(Ti−6Al−4V)、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−8−1−1(Ti−8Al−1Mo−1V)、Ti−6−2−4−2(Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo−0.1Si)、Ti−6−6−2(Ti−6Al−6V−2Sn−0.7Fe−0.7Cu)、Ti−6−2−4−6(Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo)、SP700(Ti−4.5Al−3V−2Fe−2Mo)、Ti−17(Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr)、β−CEZ(Ti−5Al−2Sn−4Zr−4Mo−2Cr−1Fe)、TIMETAL555、Ti−5553(Ti−5Al−5Mo−5V−3Cr−0.5Fe)、TIMETAL21S(Ti−15Mo−2.7Nb−3Al−0.2Si)、TIMETAL LCB(Ti−4.5Fe−6.8Mo−1.5Al)、10−2−3(Ti−10V−2Fe−3Al)、Beta C(Ti−3Al−8V−6Cr−4Mo−4Cr)、Ti−8823(Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al)、15−3(Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn)、BetaIII(Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn)、Ti−13V−11Cr−3Al等が挙げられる。なお、上記において、各合金金属の前に付されている数字は、含有量(質量%)を指す。例えば、「Ti−6Al−4V」とは、合金金属としては、6質量%のAlと4質量%のVとを含有するチタン合金を指す。
【0018】
本発明の多孔質チタン系焼結体では空隙率を45〜65%とすることで通気性や通液性の向上を図り、高強度化も図る。空隙率が45%未満だと良好な通気性、通液性を確保できないおそれがある。一方、空隙率が65%を超えると多孔質チタン系焼結体が粗に過ぎることを意味し、所望の強度を確保できない懸念がある。本発明の多孔質チタン系焼結体の空隙率の下限側は48%以上が好ましく、50%以上が好ましい。一方、本発明の多孔質チタン系焼結体の空隙率の上限側は63%以下としてよく、60%以下としてもよい。また、多孔質チタン系焼結体の空隙率の上限側は55%以下としてもよく、53%以下としてもよい。
空隙率は多孔質チタン系焼結体の単位体積あたりの空隙の割合を百分率で示したものである。本発明では、多孔質チタン系焼結体の体積V(cm)と、多孔質チタン系焼結体の質量M(g)と、焼結体を構成する金属部の真密度D(g/cm)(例えば、純チタンの場合は真密度4.51g/cm)から以下の式で空隙率を算出する。なお、上記体積Vは、多孔質チタン系焼結体の見かけ体積を指す。
空隙率(%)=100−(((M/V)/D)×100)
【0019】
本発明の多孔質チタン系焼結体では平均気孔径を5〜15μmとすることで通気性や通液性の向上を図り、高強度化も図る。平均気孔径が5μm未満だと微粒子どうしの結合が進みすぎているおそれがあり、所望の空隙率と高強度を並立できないおそれがある。一方、平均気孔径が15μmを超えると、強度が不十分となる傾向がある。本発明の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の下限側は7μm以上であることが好ましく、8μm以上がより好ましい。多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の下限側は10μm以上がより好ましく、11μm以上がさらに好ましい。また、本発明の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の上限側は14μm以下が好ましい。多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の上限側は、12μm以下がより好ましい。
本発明では、水銀圧入法(Washburnモデル)により平均気孔径を求める。
平均気孔径(μm)=2×V/S
ここで、V:細孔容積(cc/g)、Sp:細孔比表面積(m/g)である。
−測定条件:JIS R 1655(2003)−
圧力計測法:ストレンゲージ法
温度:室温
前処理:室温で6Pa程度まで減圧後、水銀圧入開始
【0020】
本発明の多孔質チタン系焼結体では曲げ強度100MPa以上を達成できる。本発明では微粒子どうしの適切な焼結を多数、一斉に得られるためこの高強度が達成されると考えられる。本発明の多孔質チタン系焼結体の曲げ強度は好ましくは110MPa以上であり、より好ましくは120MPa以上であり、さらに好ましくは130MPa以上である。本発明の多孔質チタン系焼結体の曲げ強度の上限は特に設けないが、あえて一例と挙げると170MPa以下であってよく、160MPa以下であってよい。
【0021】
なお、曲げ強度は試験片の厚さや長さの影響を低減している機械特性である。本発明において曲げ強度はJIS Z2248(2006)「金属材料曲げ試験方法」に準じて求められる。後述の実施例で採用した条件は以下のとおりである。
試験片サイズ:15mm×50mm×0.5mm、
試験温度:23℃、
押込み速度:2.0mm/min、
支点間距離:40mm、
曲げ半径(圧子/下部支点先端):R5mm、
試験片セット方向:表面粗さが粗い面を圧子側とし、最大荷重(N)を求める。さらに、下記式で曲げ強度に変換する。
【0022】
【数1】
【0023】
σ:曲げ強度(MPa)、F:(曲げ)荷重(N)、L:支点間距離(mm)、t:試験片厚さ(mm)、w:試験片幅(mm)、Z:断面係数※1(mm)、M:曲げモーメント※2(N・mm)
※1:断面係数Z=wt/6(断面の形状のみで決定する値)
※2:曲げモーメントM=Fmax×L/4(試料の中心に圧力がかかるため)
【0024】
次に、本発明の多孔質チタン系焼結体の製造方法について説明する。
本発明の多孔質チタン系焼結体の製造方法は、平均円形度が0.93以下であり、粒度分布測定により得られるD90:25μm以下のチタン系粉を、乾式且つ実質的に無加圧で、成形型中に載置させ、次いで、850℃以上950℃未満で焼結させる工程を含む、多孔質チタン焼結体の製造方法である。
【0025】
本発明の製造方法で使用するチタン系粉の平均円形度は、0.93以下である。平均円形度を0.93以下とすることで良好な気孔径と空隙率の並立を図る。平均円形度が0.93を超えることはチタン系粉が球形に近づきすぎることを意味する。すなわち、多孔質チタン系焼結体の空隙率が不十分となり、粉末同士の接触点を確保できないため所望の強度を達成できない懸念がある。本発明の製造方法で使用するチタン系粉の平均円形度は、好ましくは0.91以下であり、より好ましくは0.89以下である。
【0026】
本発明では以下の方法によりチタン系粉の平均円形度を求める。電子顕微鏡を使用して粒子の投影面積の周囲長(A)を測定し、前記投影面積と等しい面積の円の周囲長を(B)とした場合のB/Aを円形度とする。平均円形度は、セル内にキャリア液とともに粒子を流し、CCDカメラで多量の粒子の画像を撮り込み、1000〜1500個の個々の粒子画像から、各粒子の投影面積の周囲長(A)と投影面積と等しい面積の円の周囲長(B)を測定して円形度を算出し、各粒子の円形度の平均値として求める。
上記円形度の数値は粒子の形状が真球に近くなるほど大きくなり、完全な真球の形状を有する粒子の円形度は1となる。逆に、粒子の形状が真球から離れるにつれて円形度の数値は小さくなる。
【0027】
本発明の製造方法で使用するチタン系粉は、粒度分布測定により得られるD90が25μm以下である。微粒子を集中的に利用することで所望の強度を達成する。チタン系粉のD90が25μmを超えることは、粒子が大きすぎることを意味する。すなわち、本発明で所望する気孔径と空隙率が得られない。本発明の製造方法で使用するチタン系粉のD90は23μm以下であることが好ましい。なお、チタン系粉のD90の下限側は18μm以上としてよく、20μm以上としてよい。
【0028】
本発明の製造方法で使用するチタン系粉は、粒度分布測定により得られるD50の観点からも規定することが好ましい。該チタン系粉のD50は9μm以上15μm以下とすることが好ましい。本発明の製造方法で使用するチタン系粉のD50の下限側は11μm以上が好ましい。また、チタン系粉のD50の上限側は14μm以下としてよく、13μm以下としてよい。チタン系粉のD50を上記範囲内とすることで、好ましい微粒子をより集中的に利用可能である。
本発明においてD50及びD90は、レーザー回折・散乱法により求められる粒度分布測定において、体積基準の累積分布が、それぞれ、50%、90%となる粒径を指す。詳細には、以下の方法によりチタン系粉粒度分布を測定し、D50およびD90を測定する。すなわち、JIS Z8825:2013に基づき測定する。
【0029】
本発明の製造方法で使用するチタン系粉の平均円形度は適宜調整可能である。例えば、互いに異なる平均円形度を有するチタン系粉どうしを混合して平均円形度を調整可能である。チタン系粉のD50、D90についても、例えば、異なる値を有するチタン系粉どうしを混合してD50、D90を調整可能である。
なお、本発明の製造方法で製造される多孔質チタン系焼結体は、原料であるチタン系粉の平均円形度と粒度分布を調整することで空隙率や平均気孔径を調整しうる。例えば、粒度分布において細粒側に多くの粉が存在するようにすれば空隙率および平均気孔径を小さくすることができる。また、粒度分布において粗粒側において多くの粉が存在するようにすれば空隙率および平均気孔径を大きくすることができる。空隙率と平均気孔径の変化には必ずしも相関関係はないが、チタン系粉の平均円形度と粒度分布の調整に基づき多孔質チタン系焼結体の空隙率と平均気孔径を調整しうる。
【0030】
本発明の製造方法では、チタン系粉を乾式且つ実質的に無加圧で成形型中に載置させる。成形型へのチタン系粉の載置を乾式且つ実質的に無加圧で行うことにより、嵩密度(充填時の密度)が維持され、高い空隙率を有する焼結体が得られる。一方、湿式でチタン系粉を成形型に載置すると、流体の抵抗によりチタン系粉が異方性を持って堆積するため、所望の値まで空隙率が高くならない。湿式にてチタン系粉を成形型に載置すると、タップ密度相当までチタン系粉が密に充填されるおそれがある。また、チタン系粉を成形型に載置するときに、成形型内のチタン系粉の上面にかかる圧力が高過ぎると空隙率が高くならない。
【0031】
本発明において、実質的に無加圧とは、チタン系粉を成形型に充填するときに、チタン系粉の自重によってチタン系粉にかかる力や、チタン系粉を成形型に充填した後成形型の上端より上にあふれて存在するチタン系粉を擦切るときに成形型内のチタン系粉の上面にかかる力を除き、成形型内のチタン系粉の上面に対して意図的に加える力の圧力が1×10−2MPa/mm以下であることを指す。また、成形型内のチタン系粉の上面にかかる圧力とは、成形型のチタン系粉の充填部分の上面の全体にかかる力を、充填部分の上面の面積で除した値である。また、本発明において、乾式とは、意図的に水や有機溶剤を使用しないことを指す。
【0032】
本発明で使用する成形型の材質は、チタン系粉と反応しないこと、高温に耐えられること、熱膨張を抑制できるものであれば適宜選択可能である。例えば、石英、アルミナ、グラファイト、カーボン、コージェント、酸化インジウム、カルシア、シリカ、マグネシア、ジルコニア、スピネル、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、ムライトなどが成形型の材質として好適である。より好ましい成形型の材質は、加工性良好であるという理由から、石英、アルミナ、カーボン、カルシア、マグネシア、ジルコニア、ボロンナイトライドなどである。
【0033】
本発明の製造方法では、チタン系粉を850℃以上950℃未満で焼結させる。なお、焼結温度は焼結の際の最高到達温度である。この温度範囲での焼結により、製造した多孔質チタン系焼結体の良好な気孔径と空隙率を並立させ、多孔質チタン系焼結体の高強度を達成する。焼結温度が850℃未満だと、本発明で所望する微粒子どうしの適切な焼結を得られない懸念がある。一方、焼結温度が950℃以上となると微粒子どうしの焼結が進みすぎ、本発明で所望する空隙率と強度を並立できないおそれがある。本発明の製造方法において、焼結温度の下限側は870℃以上が好ましく、890℃以上がより好ましい。また、本発明の製造方法において、焼結温度の上限側は930℃以下が好ましく、920℃以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明の製造方法において、チタン系粉を焼結させるときの焼結時間は焼結炉のサイズや製造する多孔質チタン系焼結体のサイズ等によって適宜選択される。
【0035】
本発明の多孔質チタン系焼結体の製造方法では、通常、チタン系粉の焼結を減圧下で行う。チタン系粉を焼結させる方法としては、例えば、
(1)チタン系粉を成形型に載置した後、成形型に減圧手段を付設して密閉し、減圧手段で成形型内を減圧した後、減圧状態を保ったまま、減圧手段を外し、焼結用の炉内に成形型を設置し、チタン系粉を加熱して焼結させる方法、
(2)チタン系粉を成形型に載置した後、成形型に減圧手段を付設して密閉し、焼結用の炉に成形型を設置し、炉内で減圧手段により成形型内を減圧してから、減圧を止め、あるいは、更に減圧を続けながら、チタン系粉を加熱して焼結させる方法、
(3)チタン系粉を成形型に載置した後、成形型を焼結用の炉内に設置し、成形型ごと炉内を減圧してから、減圧を止め、あるいは、更に減圧を続けながら、チタン系粉を加熱して焼結させる方法、が挙げられる。
【0036】
本発明において、チタン系粉を焼結させるときの雰囲気は、好ましくは5.0×10−3Pa以下である。雰囲気の圧力が過度に高いと、雰囲気に存在する過剰の酸素によりチタン系粉が酸化されてしまい、焼結が起こり難くなる。
【0037】
本発明の多孔質チタン系焼結体としては、平均円形度が0.93以下であり、粒度分布測定により得られるD90:25μm以下のチタン系粉を、乾式且つ実質的に無加圧で、成形型中に載置させ、次いで、850℃以上950℃未満で焼結されたもの(以下、本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体とも記載する。)が挙げられる。
【0038】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体に係るチタン系粉は、本発明の多孔質チタン系焼結体に係るチタン系粉と同様である。すなわち、本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体に係るチタン系粉の平均円形度は、0.93以下である。チタン系粉の平均円形度は、好ましくは0.91以下であり、より好ましくは0.89以下である。一方、平均円形度が0.93を超えることはチタン系粉が球形に近づきすぎることを意味するため、多孔質チタン系焼結体の空隙率が不十分となり、粉末同士の接触点を確保できないため所望の強度を達成できない懸念がある。
【0039】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体に係るチタン系粉は、粒度分布測定により得られるD90が、25μm以下であり、好ましくは23μm以下である。微粒子を集中的に利用することで所望の強度を達成する。チタン系粉のD90が25μmを超えることは、粒子が大きすぎることを意味するので、本発明で所望する気孔径と空隙率が得られない。なお、チタン系粉のD90の下限側は、18μm以上としてよく、20μm以上としてよい。
【0040】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体に係るチタン系粉のD50は、9μm以上15μm以下が好ましい。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体に係るチタン系粉のD50の下限側は11μm以上が好ましい。チタン系粉のD50を上記範囲内とすることで、好ましい微粒子をより集中的に利用可能である。また、チタン系粉のD50の上限側は、14μm以下としてよく、13μm以下としてよい。
【0041】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体は、チタン系粉が、成形型に、乾式且つ実質的に無加圧で載置され、減圧下、好ましくは5.0×10−3Pa以下で、加熱されることにより、焼結されたものである。
【0042】
チタン系粉の焼結温度は、850℃以上950℃未満である。この温度範囲での焼結により、製造した多孔質チタン系焼結体の良好な気孔径と空隙率を並立させ、多孔質チタン系焼結体の高強度を達成する。なお、焼結温度は焼結の際の最高到達温度である。焼結温度が850℃だと、本発明で所望する微粒子どうしの適切な焼結を得られない懸念がある。一方、焼結温度が950℃以上となると微粒子どうしの焼結が進みすぎ、本発明で所望する空隙率と高強度が得られないおそれがある。チタン系粉の焼結温度の下限側は870℃以上が好ましく、また、焼結温度の上限側は920℃以下が好ましい。
【0043】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の空隙率は、45〜65%である。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の空隙率を上記範囲とすることで通気性や通液性の向上を図り、高強度化を図る。空隙率が45%未満だと良好な通気性、通液性を確保できないおそれがある。一方、空隙率が65%を超えると多孔質チタン系焼結体が粗に過ぎることを意味し、所望の強度を確保できない懸念がある。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の空隙率の下限側は、48%以上が好ましく、50%以上が好ましい。一方、本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の空隙率の上限側は、63%以下としてよく、60%以下としてもよい。また、本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の空隙率の上限側は55%以下としてもよく、53%以下としてもよい。
【0044】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径は、5〜15μmである。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径を上記範囲とすることで通気性や通液性の向上を図り、高強度化を図る。平均気孔径が5μm未満だと微粒子どうしの結合が進みすぎているおそれがあり、所望の空隙率と高強度を並立できないおそれがある。一方、平均気孔径が15μmを超えると強度が不十分となる。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の下限側は7μm以上であることが好ましく、8μm以上がより好ましい。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の下限側は、10μm以上がより好ましく、11μm以上がさらに好ましい。また、本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の上限側は14μm以下が好ましい。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の平均気孔径の上限側は12μm以下がより好ましい。
【0045】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の曲げ強度は、100MPa以上である。本発明では微粒子どうしの適切な焼結を多数、一斉に得られるためこの高強度が達成されると考えられる。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の曲げ強度は、好ましくは110MPa以上であり、より好ましくは120MPa以上であり、さらに好ましくは130MPa以上である。本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体の曲げ強度の上限は特に設けないが、あえて例を挙げると170MPa以下であってよく、160MPa以下であってよい。
【0046】
本発明の第一の形態の多孔質チタン系焼結体は、平均円形度が0.93以下であり、粒度分布測定により得られるD90:25μm以下のチタン系粉を、乾式且つ実質的に無加圧で、成形型中に載置させ、次いで、850℃以上950℃未満で焼結されたものなので、空隙率が高く、平均気孔径が小さく、高強度である。
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0048】
以下の実施例では、チタン系粉として水素化脱水素法により製造した、破砕品形状を有するチタン粉を使用した。使用したチタン系粉の平均円形度、D50、およびD90を表1に示す。
なお、測定に際し、平均円形度については、PITA−3(セイシン企業製)を使用して求めた。D50およびD90については、測定装置:LMS−350(セイシン企業製)を使用して、JIS:Z8825:2013に準拠して求めた。
【0049】
(実施例及び比較例)
各チタン系粉を乾燥且つ無加圧の条件にて石英製の成形型に充填し、成形型の上端より上にあふれて存在するチタン系粉を擦切った。すなわち、擦切り作業以外の余剰の力はチタン系粉にかかっていない。その後、真空度を少なくとも3.0×10−3Paとした環境下にチタン系粉を充填した成形型を置き、昇温速度15℃/minにて表1に示す焼結温度まで焼結し、1時間焼結した。焼結後は炉冷にて室温まで冷却し、チタン系粉の多孔質焼結体を得た。
得られた多孔質チタン系焼結体を分析に供し、空隙率、平均気孔径、曲げ強度を求めた。結果を表1に示す。
空隙率の測定については、上記計算方法(相対密度から逆算)を使用して求めた。平均気孔径については、マイクロメリティックス社製の水銀圧入法測定装置を使用し、ストレンゲージ式圧力計測法により測定した。曲げ強度については、SHIMADZU社製、万能試験機を使用し、図1に概要を示す方法にて最大荷重を測定し、曲げ強度に換算した。
【0050】
【表1】
【0051】
発明例であるNo.1、No.6及びNo.7は、微粒子形状、粒度分布、および焼結温度が良好である。よって、製造された多孔質チタン系焼結体は空隙率、平均気孔径が好ましい値であり、高強度の多孔質チタン系焼結体である。チタン系粉の粉体物性の制御を行わずに、従来の手法で、強度を高くしようとすると、強度は高くなるものの、空隙率が著しく小さくなると推測される。それに対して、発明例のNo.1、No.6及びNo.7では、本発明におけるチタン系粉の粉体物性の制御を行っているので、空隙率が高く保たれたまま、強度が高くなっている。特に、発明例のうち、No.7では、空隙率及び/又は平均気孔径を調節することにより、非常に高い強度を達成することができる。
比較例であるNo.2〜5はD90が大きすぎる。よって、製造後の空隙率は十分に確保できているものの本発明で所望する平均気孔径が得られず所望の強度が達成されない。
【要約】
空隙率が45〜65%、平均気孔径が5〜15μm、曲げ強度が100MPa以上である、多孔質チタン系焼結体。
本発明によれば、良好な気孔径と空隙率を並立し、かつ高強度の多孔質チタン系焼結体を提供することができる。
図1