特許第6559939号(P6559939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559939
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】電動補助自転車
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20190805BHJP
【FI】
   B62M6/45
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-226943(P2014-226943)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-88374(P2016-88374A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000112978
【氏名又は名称】ブリヂストンサイクル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】阪本 翔
(72)【発明者】
【氏名】高尾 浩二
(72)【発明者】
【氏名】田上 勝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−95287(JP,A)
【文献】 特開2011−230664(JP,A)
【文献】 特開平9−99885(JP,A)
【文献】 特開2002−19684(JP,A)
【文献】 特開平11−11375(JP,A)
【文献】 特開平7−309283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルに加えられた入力トルクに応じた補助駆動力を自転車の車輪に発生させる発生手段と、
発進を検出する発進検出手段と、
ハンドル又はロールの角度を検出する角度検出手段と、
前記発進検出手段によって発進が検出された場合に、発進時に前記角度検出手段によって検出された角度に応じて予め定めたトルク変化量で、予め定めた目標トルクとなるまでトルク変化量を変化させ、前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御する制御手段と、
を含み、
前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が大きいほど、小さいトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように記発生手段を制御する電動補助自転車。
【請求項2】
前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が予め定めた制御実施角度範囲の場合に制御を行う請求項1に記載の電動補助自転車。
【請求項3】
前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が直進状態と判断される予め定めた直進状態角度範囲の場合は、予め定めた通常のトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御する請求項1又は請求項2に記載の電動補助自転車。
【請求項4】
ペダルに加えられた入力トルクに応じた補助駆動力を自転車の車輪に発生させる発生手段と、
発進を検出する発進検出手段と、
ハンドル又はロールの角度を検出する角度検出手段と、
前記発進検出手段によって発進が検出された場合に、発進時に前記角度検出手段によって検出された角度に応じて予め定めたトルク変化量で、予め定めた目標トルクとなるまでトルク変化量を変化させ、前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御する制御手段と、
を含み、
前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が、直進状態と判断される予め定めた直進状態角度範囲の場合に、予め定めた通常のトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御し、前記角度検出手段によって検出された角度が前記直進状態角度範囲より大きい角度の場合に、前記通常のトルク変化量より小さいトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御する電動補助自転車。
【請求項5】
前記角度検出手段によって検出された角度が、前記制御手段の制御を禁止する予め定めた禁止角度より大きい場合に、前記制御手段の制御を禁止する禁止手段を更に含む請求項1〜4の何れか1項に記載の電動補助自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダルに加えられた入力トルクに応じた補助駆動力を電動モータによって発生させ、この補助駆動力によって補助的に車輪を駆動する電動補助自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
ペダルに加えられた入力トルクを車輪に供給する人力駆動系と、ペダルに加えられた踏力に応じて電動モータから車輪に補助駆動力を供給する補助駆動力駆動系と、を備えた電動補助自転車が知られている。
【0003】
また、電動補助自転車には、ペダルに加えられた入力トルクを後輪に伝達し、モータによる補助駆動力を前輪に伝達するタイプのものや、ペダルに加えられた入力トルクとモータによる補助駆動力との双方を後輪に伝達するタイプのものがある。
【0004】
このような電動補助自転車では、ハンドルの舵角に応じて補助駆動力を制御する技術が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1では、足踏みペダルの足踏みを動力補助する電動モータに対してバッテリ電源から供給する電力を、舵角センサの出力舵角θの逆数に計数kを乗じたk/θで表される舵角関数を乗算して制限することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−95287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、舵角に応じて補助駆動力を制御することで走路逸脱や転倒等の防止、操作性向上などの効果を得ることができる。しかしながら、舵角が大きい場合に補助駆動力を単に小さくするので、補助駆動力不足に感じる場合があり得る。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、最適な補助駆動力を発生しつつ発進時や低速時における走行安定性を向上することが可能な電動補助自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、ペダルに加えられた入力トルクに応じた補助駆動力を自転車の車輪に発生させる発生手段と、発進を検出する発進検出手段と、ハンドル又はロールの角度を検出する角度検出手段と、前記発進検出手段によって発進が検出された場合に、発進時に前記角度検出手段によって検出された角度に応じて予め定めたトルク変化量で、予め定めた目標トルクとなるまでトルク変化量を変化させ、前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御する制御手段と、を含み、前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が大きいほど、小さいトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように記発生手段を制御する
【0011】
また、前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が予め定めた制御実施角度範囲の場合に制御を行うようにしてもよい。
【0012】
また、前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が直進状態と判断される予め定めた直進状態角度範囲の場合は、予め定めた通常のトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御するようにしてもよい。
【0013】
また、ペダルに加えられた入力トルクに応じた補助駆動力を自転車の車輪に発生させる発生手段と、発進を検出する発進検出手段と、ハンドル又はロールの角度を検出する角度検出手段と、前記発進検出手段によって発進が検出された場合に、発進時に前記角度検出手段によって検出された角度に応じて予め定めたトルク変化量で、予め定めた目標トルクとなるまでトルク変化量を変化させ、前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御する制御手段と、を含み、前記制御手段は、前記角度検出手段によって検出された角度が、直進状態と判断される予め定めた直進状態角度範囲の場合に、予め定めた通常のトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御し、前記角度検出手段によって検出された角度が前記直進状態角度範囲より大きい角度の場合に、前記通常のトルク変化量より小さいトルク変化量で前記補助駆動力が発生するように前記発生手段を制御するようにしてもよい。
【0014】
また、本発明に係る電動補助自転車は、前記角度検出手段によって検出された角度が、前記制御手段の制御を禁止する予め定めた禁止角度より大きい場合に、前記制御手段の制御を禁止する禁止手段を更に含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る電動補助自転車によれば、最適な補助駆動力を発生しつつ発進時や低速時における走行安定性を向上することが可能な電動補助自転車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る電動補助自転車の構成を示す側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る電動補助自転車の電気系の構成を示すブロック図である。
図3】(A)は本発明の実施形態に係る電動補助自転車において舵角領域を示す図であり、(B)は舵角毎のトルク変化量を示す表であり、(C)は舵角に応じたトルク変化量の一例を示すグラフであり、(D)は舵角に応じたトルク変化量(目標アシストトルクまでの時間)の一例を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態に係る電動補助自転車の演算処理装置で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】(A)は本発明の実施形態に係る電動補助自転車の舵角毎のトルク変化量を示す表であり、(B)は舵角に応じたトルク変化量の一例を示すグラフであり、(C)は舵角に応じたトルク変化量(目標アシストトルクまでの時間)の一例を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る電動補助自転車の演算処理装置で行われる処理の流れの変形例を示すフローチャートである。
図7】(A)はアシストトルクが比例的に増加する例を示すグラフであり、(B)は段階的に増加して目標アシストトルクになる例を示すブラフであり、(C)は2次関数的に増加して目標アシストトルクになる例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、以下の説明では、運転者によってペダルに加えられた入力トルクで後輪を駆動すると共に、電動モータによる補助駆動力で前輪を駆動するタイプの電動補助自転車に本発明を適用する場合を例示する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る電動補助自転車の構成を示す側面図である。
【0019】
電動補助自転車1は、フロントフォーク11、ヘッドパイプ12、ダウンチューブ13、シートチューブ14、シートステー15、チェーンステー16からなるフレームを有している。前輪21はフロントフォーク11に回動自在に取り付けられ、後輪22はシートステー15とチェーンステー16との交点に回動自在に取り付けられている。
【0020】
ヘッドパイプ12には、ハンドルステム23が回動自在に挿通され、ハンドルステム23の上端にはハンドル24が取り付けられている。一方、シートチューブ14には、シートポスト25が嵌合されており、シートポスト25の上端にはサドル26が取り付けられている。
【0021】
ペダル27は、クランク28を介してスプロケット(図示せず)に接続されている。運転者がペダル27に踏力を加えることによりスプロケットが回転し、スプロケットが回転することによってチェーン29を介して後輪22に駆動力が伝達されるようになっている。
【0022】
電動モータ30は、前輪21の車軸に装着され、前輪21を回転させる駆動力を生成する。電動モータ30の回転は、減速機構(図示せず)によって減速され、前輪21に伝達されるように構成されている。電動モータ30は、例えばブラシレスDCモータによって構成することができる。
【0023】
電動モータ30を駆動するための電力は、シートチューブ14に沿って着脱可能に設けられたバッテリ31から供給される。バッテリ31は、例えばリチウムイオン二次電池により構成され、充電を行うことによって繰り返し使用することが可能となっている。
【0024】
図2は、本発明の実施形態に係る電動補助自転車1の電気系の構成を示すブロック図である。
【0025】
電動補助自転車1は、図2に示すように、トルクセンサ32、ペダル回転センサ34、車速センサ36、舵角センサ38、バッテリ10、操作・表示部18、演算処理装置20、モータ駆動回路40、及び電動モータ30を備えている。
【0026】
トルクセンサ32は、ペダル27に加えられた人力による入力トルクの大きさを検出し、検出した入力トルクの大きさを示すトルク検出信号を生成する。トルクセンサ32によって生成されたトルク検出信号は、演算処理装置20に入力される。トルクセンサ32は、例えば、クランク軸に対して機械的な接触部を有しない、磁歪効果を利用した公知のトルクセンサ等を適用することができる。
【0027】
ペダル回転センサ34は、ペダル27の回転数を検出し、検出した回転数を示すペダル回転数信号を生成する。生成されたペダル回転数信号は、演算処理装置20に入力される。ペダル回転センサ34は、クランク28又はフレームに設けたホール素子や磁気センサ、クランク28等に設けたロータリエンコーダなどによって構成することができる。
【0028】
車速センサ36は、車輪の回転速度を検出し、検出した回転速度を示す速度信号を生成する。生成された速度信号は、演算処理装置20に入力される。車速センサ36は、例えば、車輪に設けたホール素子や磁気センサ等によって構成することができる。
【0029】
舵角センサ38は、ハンドル24の角度(以下、舵角という)を検出し、検出した舵角を示す舵角信号を生成する。生成された舵角信号は、演算処理装置20に入力される。舵角センサ38は、例えば、ハンドルステム23やヘッドパイプ12等に設けたホール素子やロータリエンコーダ等によって構成することができる。なお、本実施形態では、舵角センサ38によって舵角を検出するものとするが、舵角センサ38の代わりにロールセンサ等によってロールの角度を検出する構成としてもよい。
【0030】
操作・表示部18は、電源ボタン(図示せず)や、アシスト比率の設定(アシストモード)を選択するための入力操作を受け付けるモード選択ボタン(図示せず)、ライト(図示せず)を点灯及び消灯させるための入力操作を受け付けるライトボタン(図示せず)等の各種ボタンを有する。操作・表示部18は、モード選択ボタンやライトボタン等の各種ボタンが操作されると、これらのボタンが操作されたことを演算処理装置20に通知する。また、操作・表示部18は、バッテリ残量、現在選択されているアシストモードやライトの点灯・消灯等を含む自車両の状態を表示するための表示部(図示せず)を有する。自車両の状態に関する情報は、演算処理装置20から供給される。
【0031】
演算処理装置20は、例えば、単一の半導体チップにCPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力回路、タイマー回路等を含むコンピュータシステムを集積したLSI(Large Scale Integration)を含んで構成されている。
【0032】
演算処理装置20は、バッテリ10から電力を受給して動作する。また、演算処理装置20は、バッテリ10の電力を電動モータ30に供給して電動モータ30を駆動する制御を行う。演算処理装置20は、各種センサからの信号に基づいて電動モータ30の駆動を制御する。具体的には、演算処理装置20は、トルクセンサ32、ペダル回転センサ34、車速センサ36、及び舵角センサ38の各センサの検出結果に基づいて、モータ駆動指令値を生成する。そして、生成したモータ駆動指令値をモータ駆動回路40に供給することによってモータ駆動回路40の動作を制御する。
【0033】
モータ駆動回路40は、演算処理装置20から供給されるモータ駆動指令値によって示される補助駆動力(目標アシストトルク)に対応した駆動電力をバッテリ10から電動モータ30に供給する。なお、トルクセンサ32、ペダル回転センサ34、車速センサ36、舵角センサ38、及び操作・表示部18も、それぞれバッテリ10から供給される電力によって動作する。
【0034】
なお、トルクセンサ32、演算処理装置20、モータ駆動回路40、及び電動モータ30が発生手段に相当し、車速センサ36及び演算処理装置20が発進検出手段に相当し、舵角センサ38が角度検出手段に相当する。
【0035】
ところで、本実施形態に係る電動補助自転車1は、上述のように、電動モータ30による補助駆動力で前輪を駆動する構成である。そのため、ハンドル24の舵角が大きい場合に、補助駆動力を車輪に付加すると、搭乗者が意図するよりも大きく曲がったり、急な角度で曲がってしまう可能性がある。また、発進時などの低速走行の場合においてはバランスを崩す可能性もある。補助駆動力を後輪22に付加する構成においても上記問題が起こり得るが、本実施形態のように、補助駆動力を前輪21に付加する構成では、特に上述のような問題が起こりやすい。
【0036】
そこで、本実施形態に係る電動補助自転車1の演算処理装置20は、発進の際の舵角に応じて、目標アシストトルクとなるまでのトルク変化量を変化させて、電動モータ30の駆動を制御するようになっている。
【0037】
以下、発進の際の舵角に応じた具体的な制御について説明する。 図3(A)は、本発明の実施形態に係る電動補助自転車において舵角領域を示す図である。図3(B)は、舵角毎のトルク変化量を示す表である。また、図3(C)は、舵角に応じたトルク変化量の一例を示すグラフである。また、図3(D)は、舵角に応じたトルク変化量(目標アシストトルクまでの時間)の一例を示すグラフである。
【0038】
本実施形態では、図3(A)に示すように、舵角θが0<θ<θ1の場合、 θ1≦θ≦θ2の場合、θ2<θの場合の3つの領域で各々異なるトルク変化量で制御する例を示す。なお、舵角θは、ハンドル24の中立位置(直進位置)を0とした中立位置からの角度である。また、θ1、θ2は予め定めた角度であり、特に、θ1は、例えば、直進時の左右の操舵ばらつきを考慮して予め定めた直進状態と判断される角度とする。
【0039】
具体的には、本実施形態では、発進時の舵角θが、直進状態角度範囲としての0<θ<θ1の場合には直進と判断して、図3(B)〜(D)に示すように、予め定めた通常のトルク変化量Aとなるように、電動モータ30の駆動を制御する。
【0040】
また、発進時の舵角θが、制御実施角度範囲としてのθ1≦θ≦θ2の場合には、舵角θに応じたトルク変化量T(θ)となるように、電動モータ30を制御する。
【0041】
そして、発進時の舵角θが、禁止角度としてのθ2<θの場合には、アシスト無しとする。すなわち、電動モータ30によるトルク制御を禁止する。
【0042】
ここで、トルク変化量T(θ)は、具体的には、図3(C)に示すように、トルク変化量A以下のトルク変化量で、かつ舵角θが大きくなるほど小さいトルク変化量となる関数やテーブルを適用することができる。すなわち、図3(D)の複数の点線において、舵角が大きいほど、目標アシストトルクまでの時間が長く(図3(D)中の点線の傾きが小さく)なり、ゆっくりと補助駆動力が車輪に付加される。
【0043】
なお、図3(C)の例では、トルク変化量T(θ)は一次関数的に示すが、一次関数に限るものではなく、舵角が大きくなるほどトルク変化量が小さくなるものであればよい。また、舵角θが0<θ<θ1においても舵角θに応じたトルク変化量T’(θ)を適用するようにしてもよい。ここで、トルク変化量T’(θ)は、θ1≦θ≦θ2におけるトルク変化量T(θ)と同様のものを適用するようにしてもよいし、異なるものとしてもよい。
【0044】
また、演算処理装置20によるトルク変化量の制御は、一例として、タイマーやテーブル等を用いて制御を行うことができる。本実施形態では、目標アシストトルクが、ペダルに入力される入力トルク等によって変化するため、例えば、トルク変化量に対応する係数を時間毎に予め定めたテーブルや関数を予め記憶しておく。また、トルク変化量T(θ)については、舵角に応じたトルク変化量を求める関数やテーブルを予め記憶しておき、舵角に対応するトルク変化量からトルク変化量に対応する係数を求める。そして、トルク変化量の制御を行う際には、タイマーによって計数された時間に対応する係数をテーブルや関数から求めて、入力トルクやペダル回転数から算出した目標アシストトルクに係数を乗算してモータ駆動指令値を求める。そして、求めたモータ駆動指令値をモータ駆動回路40に供給することで、電動モータ30の駆動を制御すればよい。
【0045】
次に、演算処理装置20で行われる具体的な処理について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る電動補助自転車1の演算処理装置20で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0046】
操作・表示部18の電源ボタンによって電源がオンされるとステップ100では、演算処理装置20は、各センサの検出結果を取得してステップ102へ移行する。すなわち、演算処理装置20は、トルクセンサ32、ペダル回転センサ34、車速センサ36、及び舵角センサ38の各センサの検出結果を取得する。
【0047】
ステップ102では、演算処理装置20は、発進か否かを判定する。該判定は、例えば、車速センサ36の検出結果、ペダル回転センサ34の検出結果、及びトルクセンサ32の検出結果の少なくとも1つの検出結果を用いて発進か否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ104へ移行し、否定された場合にはステップ114へ移行する。
【0048】
ステップ104では、演算処理装置20は、舵角センサ38の検出結果が示す舵角θが、θ2<θであるか否か判定する。該判定が肯定された場合にはステップ106へ移行し、否定された場合にはステップ108へ移行する。
【0049】
ステップ106では、演算処理装置20は、アシスト禁止設定を行ってステップ114へ移行する。すなわち、演算処理装置20は、舵角θがθ2より大きい場合には、電動モータ30の駆動を禁止する。これにより、ハンドル24が急な角度の状態で電動モータ30による補助駆動力で発進することによりバランスを崩すことがなくなる。
【0050】
また、ステップ108では、演算処理装置20は、舵角センサ38の検出結果が示す舵角θが、θ1≦θ≦θ2であるか否か判定する。該判定が否定された場合には、舵角θがθ2<θであるものとしてステップ110へ移行し、肯定された場合にはステップ112へ移行する。
【0051】
ステップ110では、演算処理装置20は、トルク変化量Aでトルク制御を行ってステップ114へ移行する。すなわち、図3(B)、(C)に示すように、目標アシストトルクとなるまでのトルク変化量を通常のトルク変化量Aとして電動モータ30を駆動する。
【0052】
一方、ステップ112では、演算処理装置20は、トルク変化量T(θ)でトルク制御を行ってステップ114へ移行する。すなわち、図3(B)〜(D)に示すように、目標アシストトルクとなるまでのトルク変化量を舵角θに応じたトルク変化量T(θ)として電動モータ30を駆動する。これにより、舵角がある程度大きい場合(θ1≦θ≦θ2の場合)には、トルク変化量Aより小さいトルク変化量Bとすることで、搭乗者が意図するよりも大きく曲がったり、急な角度で曲がってしまうことを防止することができる。
【0053】
ステップ114では、演算処理装置20は、操作・表示部18の電源ボタンが操作されて電源がオフされたか否かを判定する。該判定が否定された場合にはステップ100に戻って上述の処理が繰り返され、判定が肯定された場合には一連の処理を終了する。
【0054】
このように、本実施形態では、発進時に直進と判定される状態の場合には、通常のトルク変化量Aで電動モータ30の駆動が制御されるので、電動モータ30の補助駆動力によって容易に発進できる。また、トルク変化量Aで電動モータ30が制御されるので、一気に目標アシストトルクの補助駆動力が付加されるのではなく、徐々に補助駆動力が付加されるので、急発進を防止することができる。
【0055】
また、発進時に操舵状態と判定される状態の場合には、トルク変化量Aよりも小さいトルク変化量Bで電動モータ30の駆動が制御される。これにより、発進時に搭乗者が意図するよりも大きく曲がったり、急な角度で曲がってしまうことを防止することができる。また、発進時などの低速走行の場合においてバランスを崩すことも防止することができる。
【0056】
さらに、発進時の舵角が予め定めた舵角より大きい(θ2<θ)の場合には、電動モータ30によるアシストが禁止されるので、通常の自転車と同様に扱うことが可能となり、舵角が大きいことによる発進時にバランスを崩す等の弊害を確実に防止することができる。
【0057】
なお、上記の実施の形態では、舵角θがθ2<θの場合にアシストなし、θ1≦θ≦θ2の場合にトルク変化量T(θ)、0<θ<θ1の場合にトルク変化量Aで電動モータ30を駆動する例を示したが、これに限るものではない。
【0058】
例えば、トルク変化量T(θ)の代わりに、図5(A)に示すように、トルク変化量Aよりも小さい予め定めたトルク変化量Bの固定値を適用するようにしてもよい。すなわち、舵角に応じて複数の異なるトルク変化量(図5(A)の例では2つの異なるトルク変化量A、B)に切り換える構成としてもよい。これにより、上記実施形態よりも簡易な構成となり、処理負荷を軽減することができる。
【0059】
この場合の演算処理装置20で行われる処理としては、図4の処理に対してステップ112の代わりに、図6に示すように、ステップ113を行えばよい。ステップ113では、演算処理装置20が、トルク変化量Bでトルク制御を行ってステップ114へ移行する。すなわち、図5(B)に示すように、目標アシストトルクとなるまでのトルク変化量をトルク変化量Bとして電動モータ30の駆動を制御する。なお、図6は、本発明の実施の形態に係る電動補助自転車1の演算処理装置20で行われる処理の流れの変形例を示すフローチャートである。
【0060】
また、上記の実施形態では、舵角θが、θ2<θの場合にアシストを禁止するようにしたが、θ2<θにおいて、舵角が大きくなるほど補助駆動力を徐々に小さく(目標アシストトルクが徐々に小さく)なるようにしてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態では、時間経過と共に目標アシストトルクまで増加するアシストトルクは、図7(A)に示すように、直線的に連続して増加する例を説明したが、これに限るものではない。例えば、図7(B)に示すように、段階的に増加して目標アシストトルクになるようにしてもよいし、図7(C)に示すように、曲線的に増加して目標アシストトルクになるようにしてもよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、運転者によってペダルに加えられた入力トルクで後輪を駆動すると共に、電動モータによる補助駆動力で前輪を駆動するタイプの電動補助自転車を例に挙げて説明したが、これに限るものではない。例えば、ペダルに加えられた入力トルクと電動モータによる補助駆動力との双方を後輪に伝達する電動補助自転車を適用するようにしてもよい。或いは、ペダルに加えられた入力トルクと電動モータによる補助駆動力との双方を後輪に伝達すると共に、電動モータによる補助駆動力で前輪を駆動する電動補助自転車を適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 電動補助自転車
20 演算処理装置
30 電動モータ
32 トルクセンサ
36 車速センサ
38 舵角センサ
40 モータ駆動回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7