特許第6559944号(P6559944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559944
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】ケース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20190805BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20190805BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   C23C14/06 N
   C23C14/34 R
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-236307(P2014-236307)
(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-104924(P2015-104924A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2017年11月17日
(31)【優先権主張番号】201310614634.1
(32)【優先日】2013年11月28日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505177003
【氏名又は名称】深▲セン▼富泰宏精密工業有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】514165118
【氏名又は名称】富智康(香港)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】張 春傑
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−209926(JP,A)
【文献】 特開2004−010923(JP,A)
【文献】 特開2006−002221(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103009705(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0286392(US,A1)
【文献】 特開2002−206161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C23C 14/00−14/58
H05K 5/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び前記基材の表面を被覆する透明膜を備えるケースであって、
前記透明膜は、前記基材の上面に順次形成された下地層、移行層、及び透明層を含み、前記下地層は、金属クロム層であり且つ前記基材の表面上に形成され、前記移行層は、炭化クロム層であり且つ前記下地層の表面上に形成され、前記透明層は、シリコン層であり且つ前記移行層の表面に形成されることを特徴とするケース。
【請求項2】
前記透明層は、シリコン原子により構成され、前記透明層の厚さは、0.1μm〜0.3μmであることを特徴とする請求項1に記載のケース。
【請求項3】
前記下地層の厚さは、0.1μm〜0.3μmであり、前記移行層の厚さは、0.2μm〜0.4μmであることを特徴とする請求項1に記載のケース。
【請求項4】
前記基材の材料は、金属、プラスチック又はセラミックであることを特徴とする請求項1に記載のケース。
【請求項5】
基材を提供する工程と、
クロムターゲットを用いて、マグネトロンスパッタ法によって、前記基材の表面上にクロムからなる下地層を形成する工程と、
前記クロムターゲットを用いて、アセチレンを反応気体として注入し、前記マグネトロンスパッタ法によって、前記下地層の表面上に炭化クロムからなる移行層を形成する工程と、
シリコンターゲットを用いて、前記マグネトロンスパッタ法によって、前記移行層の表面上にシリコンからなる透明層を形成する工程と、
を備えることを特徴とするケースの製造方法。
【請求項6】
前記下地層を形成する場合、前記クロムターゲットに対応するRF電源のパワーを8k〜15kにし、真空チャンバの中に流量が100sccm〜150sccmのアルゴンを注入し、前記真空チャンバの内部温度を120℃〜180℃にし、前記基材に対して100V〜250Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを5分間〜10分間行うことを特徴とする請求項5に記載のケースの製造方法。
【請求項7】
前記移行層を形成する場合、前記クロムターゲットに対応するRF電源のパワーを6k〜12kにし、真空チャンバの中に流量が80sccm〜140sccmのアルゴン及び流量が50sccm〜75sccmのアセチレンを注入し、前記真空チャンバの内部温度を100℃〜10℃にし、前記基材に対して200V〜300Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを40分間〜50分間行うことを特徴とする請求項5に記載のケースの製造方法。
【請求項8】
前記透明層を形成する場合、前記シリコンターゲットに対応するRF電源のパワーを4k〜8kにし、真空チャンバの中に流量が50sccm〜135sccmのアルゴンを注入し、前記真空チャンバの内部温度を90℃〜120℃にし、前記基材に対して200V〜400Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを20分間〜40分間行うことを特徴とする請求項5に記載のケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース及びその製造方法に関し、特に表面に透明膜が形成されているケース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、技術の発展に伴って、ノートパソコン、携帯電話機及びマルチメディア装置などの電子装置の機能が益々多様化していると共に、これらの電子装置の外観に対する要求も高くなっている。従って、高輝度で、平滑なケースを備える電子製品及び金属質感を有する電子製品が、消費者に人気である。
【0003】
電子製品の外観の輝度及び平滑度を高めるために、通常、塗装などの方法によって電子製品の表面に透明膜を形成する。しかし、従来の製造プロセスは複雑であり、且つ製造して得た透明膜の平滑度はより低い。また、耐摩耗性も悪く、使用寿命も比較的短い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点を考慮してなされたものであり、表面に高輝度及び高平滑度の透明膜が形成されているケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明に係るケースは、基材及び該基材の表面を被覆する透明膜を備え、透明膜は、基材の上面に順次形成された下地層、移行層、及び透明層を含み、下地層は、金属クロム層であり且つ基材の表面上に形成され、移行層は、炭化クロム層であり且つ下地層の表面上に形成され、透明層は、シリコン層であり且つ移行層の表面上に形成される。
【0006】
また、上記の課題を解決するために、本発明に係るケースの製造方法は、基材を提供する工程と、クロムターゲットを用いて、マグネトロンスパッタ法によって、基材の表面上にクロムからなる下地層を形成する工程と、クロムターゲットを用いて、アセチレンを反応気体として注入し、マグネトロンスパッタ法によって、下地層の表面上に炭化クロムからなる移行層を形成する工程と、シリコンターゲットを用いて、マグネトロンスパッタ法によって、移行層の表面上にシリコンからなる透明層を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
従来の技術と異なり、本発明は、特殊なターゲットの組み合せを用いた、新しいPVDコーティング技術によって、表面に透明膜を備えるケースを製造する。前記透明膜は、高い透明度、輝度、及び平滑度を有する。よって、ケースの外観も高輝度及び高平滑度を有する。また、本発明は、マグネトロンスパッタ法によって、基材の表面に順次下地層、移行層、及び透明層を形成する。各層は互いに緊密に接合され、また、各層の内部には明らかな応力が発生しないので、透明膜は、外力を受けても破壊され難く、良好な硬度及び耐摩耗性を有し、使用寿命が長い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るケースの断面図である。
図2】本発明に係るケースの製造方法に使用する真空蒸着装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1に示すように、本発明のケース100は、3C電子製品又は自動車用電子製品に用いられる。具体的には、ケース100は、基材20及び基材20の表面上に形成される透明膜10を含む。透明膜10は無色透明であり、基材20の上面に下方から順次形成されている下地層13、移行層15、及び透明層17を含む。
【0011】
基材20の材料は、金属、プラスチック又はセラミックである。
【0012】
下地層13は、基材20の表面を被覆している金属クロム層であり、その厚さは0.1μm〜0.3μmである。下地層13は、基材20と移行層15との間の接合力を高める役割を果たす。
【0013】
移行層15は、下地層13の表面を被覆している炭化クロム(CrC)層であり、その厚さは0.2μm〜0.4μmである。移行層15は、透明層17の付着力を増強する。
【0014】
透明層17は、移行層15の表面を被覆しているシリコン層であり、その厚さは0.1μm〜0.3μmである。透明層17には、シリコン原子しか含有されておらず、透明度が高い。
【0015】
上記のケース100において、下地層13は、基材20の表面上に金属クロムをスパッタリングすることによって形成され、移行層15は、下地層13の表面上に炭化クロムをスパッタリングすることによって形成され、透明層17は、移行層15の表面上にシリコンをスパッタリングすることによって形成される。各層は互いに緊密に接合され、またこの際、各層の内部には明らかな応力が発生しないので、透明膜10は外力を受けても破壊され難く、良好な硬度及び耐摩耗性を有し、使用寿命が長い。
【0016】
また、本発明のケース100において、下地層13は、金属クロム層であるので、透明性を有する。移行層15の厚さは比較的薄いので、透明膜10全体の透明度に影響を与えない。透明層17には、シリコン原子のみしか含有されていないため、より高い透明度を有する。その上、透明層17の表面は平滑である。これによって、透明膜10は、全体としてより高い透明度を有するため、ケース100の外観は高輝度及び高平滑度を有する。
【0017】
本発明の実施形態に係るケース100の製造方法は、以下の工程を備える。
【0018】
第一工程において、真空蒸着装置200を提供する。図2に示すように、真空蒸着装置200は、真空チャンバ21及び真空チャンバ21に連接されている真空ポンプ300を含む。真空ポンプ300は、真空チャンバ21を真空環境にするために用いられる。真空チャンバ21の内部には、回転棚(図示せず)、クロムターゲット23及びシリコンターゲット24がさらに設けられている。回転棚は、基材20を動かして円形のトラック25に沿って公転させる。この際基材20は、トラック25に沿って公転しながら自転する。
【0019】
第二工程において、金属、プラスチック及びセラミックの中の何れか1種からなる基材20を提供する。
【0020】
第三工程において、基材20の表面に対して前処理を行う。具体的には、無水エタノールを用いて基材20の超音波洗浄を行い、基材20の表面の油又は汚れを除去する。超音波洗浄の時間は、25分間〜35分間である。次いで、基材20の表面を研磨して鏡面仕上げを行う。その後、前処理された基材20を乾燥した後に、基材20を真空チャンバ21内の回転棚に固定する。
【0021】
第四工程において、真空ポンプ300を起動して、真空ポンプ300によって真空チャンバ21を5×10−2Paまで真空にする。
【0022】
第五工程において、ターゲットを洗浄する。具体的には、流量が100ml/分(sccm)のアルゴンを注入して、5kの定常出力の条件下で、ターゲットを15分間洗浄する。
【0023】
第六工程において、真空チャンバ21をさらに真空にし且つ加熱する。真空チャンバ21の温度を200℃にする。次いで、真空ポンプ300によって真空チャンバ21を5×10−3Paまで真空にする。
【0024】
第七工程において、高電圧アルゴンイオングロー洗浄を行う。具体的には、真空チャンバ21の温度を120℃にし、バイアス電圧を1300Vに設定し、真空チャンバ21内にアルゴンを注入して、基材20の表面を洗浄する。
【0025】
第八工程において、マグネトロンスパッタ法によって、洗浄された基材20の上面に下地層13を形成する。具体的には、クロムターゲットに対応するRF電源を起動し、且つ前記RF電源のパワーを8W〜15Wに設定し、真空チャンバ21の中に流量が100sccm〜150sccmのアルゴンを持続的に注入し、真空チャンバ21内の温度を120℃〜180℃にし、基材20に対して100V〜250Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを5分間〜10分間行う。
【0026】
第九工程において、クロムターゲット23を用いて、マグネトロンスパッタ法によって、下地層13の表面上に移行層15を形成する。スパッタリングする時に、RF電源を起動し且つパワーを6W〜12Wに設定し、真空チャンバ21の中に流量が80sccm〜140sccmのアルゴンを不活性気体として注入すると共に、流量が50sccm〜75sccmのアセチレンを反応気体として注入し、真空チャンバ21内の温度を100℃〜10℃にし、基材20に対して200V〜300Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを40分間〜50分間行う。アセチレンの注入量は比較的少ないため、透明膜10の透明度に影響を及ぼさない。
【0027】
第十工程において、シリコンターゲット24を用いて、マグネトロンスパッタ法によって、移行層15の表面上に透明層17を形成する。スパッタリングする時に、RF電源を起動し且つパワーを4k〜8kに設定し、真空チャンバ21の中に流量が50sccm〜135sccmのアルゴンを注入し、真空チャンバ21内の温度を90℃〜120℃にし、基材20に対して200V〜400Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを20分間〜40分間行う。
【0028】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明について説明する。
【0029】
[実施例1]
(a)ステンレス316からなる基材20を提供する。
【0030】
(b)マグネトロンスパッタ法によって、基材20の上面に下地層13を形成する。具体的には、クロムターゲット23に対応するRF電源を起動して、電源のパワーを8kにし、真空チャンバ21の中に流量が100sccmのアルゴンを持続的に注入し、真空チャンバ21内の温度を170℃にし、基材20に対して100Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを5分間行う。
【0031】
(c)マグネトロンスパッタ法によって、下地層13の上面に移行層15を形成する。具体的には、クロムターゲット23に対応するRF電源のパワーを6kにし、真空チャンバ21内に流量が110sccmのアルゴン及び流量が55sccmのアセチレンを持続的に注入し、真空チャンバ21内の温度を160℃にし、基材20に対して200Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを40分間行う。
【0032】
(d)マグネトロンスパッタ法によって、移行層15の上面に透明層17を形成する。具体的には、シリコンターゲット24に対応するRF電源のパワーを6kにし、真空チャンバ21の中に流量が125sccmのアルゴンを持続的に注入し、真空チャンバ21内の温度を130℃にし、基材20に対して300Vのバイアス電圧を印加し、コーティングを20分間行う。
【0033】
[実施例2]
(a)ステンレス304からなる基材20を提供する。
【0034】
(b)マグネトロンスパッタ法によって、基材20の上面に下地層13を形成する。具体的には、クロムターゲット23に対応するRF電源のパワーを10kにし、真空チャンバ21の中に流量が110sccmのアルゴンを持続的に注入し、真空チャンバ21内の温度を175℃にし、基材20に対して150Vのバイアス電圧を印加し、コーティングを8分間行う。
【0035】
(c)マグネトロンスパッタ法によって、下地層13の上面に移行層15を形成する。具体的には、クロムターゲット23に対応するRF電源のパワーを7kにし、真空チャンバ21の中に流量が120sccmのアルゴン及び流量が60sccmのアセチレンを注入し、真空チャンバ21の内部温度を165℃にし、基材20に対して250Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを45分間行う。
【0036】
(d)マグネトロンスパッタ法によって、移行層15の上面に透明層17を形成する。具体的には、シリコンターゲット24に対応するRF電源のパワーを5.5kにし、真空チャンバ21の中に流量が120sccmのアルゴンを注入し、真空チャンバ21の内部温度を125℃にし、基材20に対して350Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを25分間行う。
【0037】
[実施例3]
(a)ステンレス314からなる基材20を提供する。
【0038】
(b)マグネトロンスパッタ法によって、基材20の上面に下地層13を形成する。具体的には、クロムターゲット23に対応するRF電源のパワーを12kにし、真空チャンバ21の中に流量が135sccmのアルゴンを持続的に注入し、真空チャンバ21内の温度を180℃にし、基材20に対して220Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを12分間行う。
【0039】
(c)マグネトロンスパッタ法によって、下地層13の上面に移行層15を形成する。具体的には、クロムターゲット23に対応するRF電源のパワーを9kにし、真空チャンバ21の中に流量が135sccmのアルゴン及び流量が65sccmのアセチレンを注入し、真空チャンバ21の内部温度を170℃にし、基材20に対して300Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを50分間行う。
【0040】
(d)マグネトロンスパッタ法によって、移行層15の上面に透明層17を形成する。具体的には、シリコンターゲット24に対応するRF電源のパワーを7kにし、真空チャンバ21の中に流量が135sccmのアルゴンを注入し、真空チャンバ21の内部温度を115℃にし、基材20に対して400Vのバイアス電圧を印加した後、コーティングを35分間行う。





【符号の説明】
【0041】
10 透明膜
13 下地層
15 移行層
17 透明層
20 基材
21 真空チャンバ
23 クロムターゲット
24 シリコンターゲット
25 トラック
100 ケース
200 真空蒸着装置
300 真空ポンプ
図1
図2