特許第6559954号(P6559954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6559954選択的にCPRを中断するためのプロトコルを伴なう除細動器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559954
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】選択的にCPRを中断するためのプロトコルを伴なう除細動器
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/39 20060101AFI20190805BHJP
【FI】
   A61N1/39
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-500511(P2014-500511)
(86)(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公表番号】特表2014-511722(P2014-511722A)
(43)【公表日】2014年5月19日
(86)【国際出願番号】IB2012051251
(87)【国際公開番号】WO2012127380
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2015年3月11日
【審判番号】不服2017-16047(P2017-16047/J1)
【審判請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】61/466,514
(32)【優先日】2011年3月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ジョーゼンソン,ドーン ブライリー
(72)【発明者】
【氏名】キャリー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】フロマン,ジェイミー
(72)【発明者】
【氏名】ラッカー,ケネス
【合議体】
【審判長】 高木 彰
【審判官】 関谷 一夫
【審判官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−511464(JP,A)
【文献】 特表2009−519081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除細動器であって、
電気的治療を与える高電圧配電回路と、
ECG信号のソースに接続されたECGフロントエンド回路と、
前記ECGフロントエンド回路と通信可能に接続されたコントローラーであり、
CPR活動が無い期間を特定するためのCPR分析器と、
前記ECG信号に対応する処置決定プロセッサと、を含み、
前記処置決定プロセッサは、CPR期間の最中に前記電気的治療のためのショックを与えることが可能なリズムが存在する可能性を見積もり、該見積もりに基づいて、電気的治療を与えるために前記CPR期間の終了以前にCPRを中断すべきか否かを決定し、
前記処置決定プロセッサは、前記CPR分析器により特定された前記CPR活動が無い期間の最中だけで獲得されたECG信号を使用し、
前記処置決定プロセッサの決定は、前記CPR分析器により特定されたCPR活動期間によって分離された、前記CPR分析器により特定された2つの前記CPR活動い期間にわたり累積されたECG信号に基づいており、
前記CPR期間は、前記CPR活動期間および前記CPR活動が無い期間で構成されている、
コントローラーと、
ユーザーインターフェイスであり、前記コントローラーの決定に対応して、CPRを中断するための出力インストラクション、および、続いて前記高電圧配電回路を通じて前記電気的治療を与えるための出力インストラクションを提供するユーザーインターフェイスと、を含む、
ことを特徴とする除細動器。
【請求項2】
前記除細動器は、さらに、
前記コントローラーに接続された第2信号のソースを含み、
前記CPR分析器は、前記第2信号のソースからの信号に基づいてCPR活動無い期間を特定する、
請求項1に記載の除細動器。
【請求項3】
前記第2信号は、患者のインピーダンス信号、そして、患者の胴の加速度信号のうちから選択される、
請求項2に記載の除細動器。
【請求項4】
前記コントローラーは、さらに、
ショックが推奨されるか、または、ショックが推奨されないかを決定するために、前記CPR分析器により特定された前記CPR活動が無い期間の最中に獲得されたECG信号を分析するECGデータ分析回路と、を含む、
請求項1に記載の除細動器。
【請求項5】
前記コントローラーは、さらに、
前記処置決定プロセッサが前記CPRは中断されるべきであると決定し、かつ、続いて前記ECGデータ分析回路がショックは推奨されないと決定する場合に、
後続のCPR期間において、前記CPRを中断すべきか否かを決定することを不能にする、
請求項4に記載の除細動器。
【請求項6】
前記コントローラーは、さらに、
前記処置決定プロセッサが前記CPRは中断されるべきであると決定し、かつ、続いて前記ECGデータ分析回路がショックは推奨されないと決定する場合に、
後続のCPR期間において、前記処置決定プロセッサによって使用される決定パラメーターを調整する、
請求項4に記載の除細動器。
【請求項7】
前記処置決定プロセッサによって使用される前記決定パラメーターは、フィルターパラメーターと閾値パラメーターを含むグループから選択される、
請求項に記載の除細動器。
【請求項8】
除細動器からの出力インストラクションをコントロールする方法であって、
前記除細動器における処置決定プロセッサが、CPR期間に患者のECG信号を受け取るステップと、
CPR分析器が、前記CPR期間の最中にCPR活動が無い期間を特定するステップと、
前記処置決定プロセッサが、前記CPR分析器により特定された前記CPR活動が無い期間の最中だけで獲得されたECG信号を使用して、受け取った前記患者のECG信号から、前記CPR期間の最中に電気的治療のためのショックを与えることが可能なリズムが存在する可能性を見積もるステップと、
前記見積もるステップに基づいて、前記処置決定プロセッサが、電気的治療を与えるために前記CPR期間の終了以前にCPRを中断すべきか否かを決定するステップと、
ユーザーインターフェイス、前記決定するステップに基づいて、CPRを中断するため出力インストラクションを提供するステップ続いて、前記電気的治療を与えるための出力インストラクションを提供するステップと、
を含み、
前記処置決定プロセッサの決定は、前記CPR分析器により特定されたCPR活動期間によって分離された、前記CPR分析器により特定された2つの前記CPR活動が無い期間にわたり累積されたECG信号に基づいており、
前記CPR期間は、前記CPR活動期間および前記CPR活動が無い期間で構成されている、
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記方法は、さらに、
ECGデータ分析回路が、ショックが推奨されるか、または、ショックが推奨されないかを決定するために、前記CPR分析器により特定された前記CPR活動が無い期間の最中に獲得されたECG信号を分析するステップと、を含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、さらに、
前記処置決定プロセッサが前記CPRは中断されるべきであると決定し、かつ、続いて前記ECGデータ分析回路がショックは推奨されないと決定する場合に、後続のCPR期間において、前記処置決定プロセッサによって使用される決定パラメーターを調整するステップ、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記調整するステップの前記決定パラメーターは、フィルターパラメーターと閾値パラメーターを含むグループから選択される、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、さらに、
前記処置決定プロセッサが前記CPR中断されるべきであると決定、かつ、続いて前記ECGデータ分析回路がショックは推奨されないと決定する場合に、前記CPRを中断すべきか否かを決定するステップを不能にする、
請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、電気治療回路に関する。より特定的には、本発明は、患者の生理学的なデータを分析して、ショックまたは心肺蘇生(cardio−pulmonary resuscitation:CPR)が行われるべきか否かを決定する除細動器に関する。さらに特定的には、いわゆるvRhythmスコアといった、AEDリズム区分によりCPRのための最適なプロトコルを決定する。例えば、胸部圧迫だけのCPR、または、従来のCPR(胸部圧迫+人工呼吸)のどちらが応答者によって実行されるべきかを決定する。救助の最中のCPRプロトコルを調整するために、vRhythmスコアの傾向が使用され得る。加えて、即座に除細動ショックを与えるため早期にCPR期間を停止するか否かの決定を助けるために、CPRの最中にAEDリズム区分が使用され得る。
【背景技術】
【0002】
除細動器は、不整脈を起こしている患者に対して正常なリズムと収縮機能を回復するために、心臓に対して高電圧インパルスを与える。不整脈は、心室細動(ventricular fibrillation:“VF”)または心室性頻拍(ventricular tachycardia:“VT”)といった自発的な血液循環を伴なわないものである。除細動器には、手動除細動器、インプラント可能な除細動器、そして、自動対外式除細動器(automatic external defibrillator:“AED”)、を含むいくつかのクラスがある。AEDは、自動的に心電図(“ECG”)を分析して除細動が必要かを決定できる点で、手動除細動器とは異なるものである。ほとんど全てのAEDの設計では、ユーザーは、AEDによってショックがアドバイスされたときに患者に対してショックを与えるためにショックボタンを押すように促される。
【0003】
図1は、心拍停止を患う患者14を救命するために、ユーザー12によって適用される除細動器10を示している。突然の心拍停止では、患者は正常な心臓リズムに対する生命を脅かす中断に襲われている。典型的には、自発的な血液循環を伴なわないVFまたはVTの形式のものである(つまり、ショック可能なVT)。VFにおいて、正常なリズムの心室収縮は、早くて不規則なけいれんに置き換わり、非効率で非常に少ない心臓ポンプを結果として生じている。およそ8から10分までの時間に正常なリズムが回復できない場合、患者は死亡してしまうものと一般的に理解されている。反対に、VFの開始後(CPRと除細動器を介して)血液循環が早く回復されるほど、患者14が生き残る可能性が高くなる。除細動器10は、最初の応答者によって使用できるようにAEDの形式であってよい。除細動器10は、また、上級救急救命士、または、高度に訓練された医療関係者による使用のために手動除細動器の形式であってもよい。
【0004】
患者の心臓からECG信号を得るために、ユーザー12によって患者14の胸を横断して2つの電極16が適用される。そして、除細動器は、不整脈の徴候を探してEC信号を分析する。VFが検知された場合、除細動器10は、ショックを推奨することをユーザーに知らせる。VFまたは他のショック可能なリズムを検知した後で、ユーザー12は、除細動器10のショックボタンを押して患者14を救命するための除細動パルスを与える。
【0005】
最近の研究では、種々の要因に基づいて、異なる処置計画によって、異なる患者がより効率的に救命され得ることが示されている。除細動が成功する確率に影響する1つの要因は、患者が不整脈を起こしてから経過した時間量である。この研究は、心拍停止の期間に従って、ある1つのプロトコルでは別のプロトコルに比べて、患者の回復の可能性が高いことを示している。AEDが、特定の患者の救命のために、より効率的でないプロトコルに設定された場合は、患者の回復可能性が減少し得る。こうした研究は、CPRが最初に実行される場合、これらの患者のいくらかが、救命されるより多くの可能性があることを示している。外部から駆動された血液循環を提供することから開始し、患者をショックの適用が自発的な血液循環を回復することに成功する状態にするものである。
【0006】
自動的な方法で、患者の生命徴候からこの決定をしようとする種々の試みが行われてきている。ショックをアドバイスするか否かの決定は、患者のECG波形の解析から始まるので、こうした試みは、この決定をするためのECG波形の分析に焦点をあてている。研究の1つの系統は、EGC波形の大きさに着目し、より強い(より大きい)ECG波形を有する患者は、より小さなECG波形を有する患者よりも、除細動ショックによる回復の可能性が高いことを見出した。ECGの大きさは、一般的に、VFの始まり後の時間経過とともに減少していくので、この結果は理解できるものである。しかしながら、この方法は、救命の成功についてのフェイルプルーフ(fail−proof)な予測因子ではない。成功の予測因子として研究されてきた別のECGの特性は、ECG波形の周波数成分である。高い周波数のコンテンツが救命の成功と関連することが見出されている。この分析は、ECGのスペクトル解析を実行する高速フーリエ変換プロセッサを使用することで、ECG波形のスペクトル解析を実行することによって行われる。これは、また、成功の予測因子として完全に正確であるものとは見出されていない。他の研究者は、ECG情報の大きさと周波数の情報をお互いに掛け合わせて、成功の予測因子としての重み付けされた高周波数測定値を提供しており、両方の特性の利点を利用している。従って、高い成功の予測因子と高い正確性を伴なって自動的に、除細動器に処置計画を決定させるのが望ましい。
【0007】
さらに、患者にAEDが取り付けられてから可能な限り早く、処置計画を決定することが望ましい。そうできないと、いくつかの問題を引き起こし得る。例えば、CPRファーストを行うためにAEDを設定している現場に救命者が到着し(つまり、除細動の以前)、グッドCPR(Good CPR)が既に進行していることがわかれば、除細動器ショックは不必要で遅延される。一方、ショックファーストを行うために(つまり、CPRの以前に)AEDを設定している現場に救命者が到着し、CPR無しで患者が長い停止時間(downtime)にいることがわかれば、CPRは遅延されてもよい。こうした状況のそれぞれにおいて、最適な救命プロトコルがより少なければ、生き残りの可能性が減少してしまう。
【0008】
加えて、ECG分析のための停止がない心肺蘇生(CPR)の固定されたインターバルは、“ハンズオフ(hands−off)”時間を削減するが、ショックと再除細動に失敗した場合に細動除去の遅れのリスクがあり、その後の患者の容態はわからない。CPRの最中のショック可能なリズムを有する患者は、早期のショックが有益であるが、分析のためにCPRを中断することは、より多くの患者との折り合いになろう。従って、必要なことは、CPRの持続時間を最適化する心拍再開(return of spontaneous circulation:ROSC)の高い可能性をもったショック可能なリズムを検知するための分析アルゴリズムである。本発明は、2つの既存の方法を組合わせて使用する。高度な特異性に対して設計されたAEDショックアドバイスアルゴリズム、および、除細動ショックの後のROSCの可能性を示すECG変化率のインデックスである。分析アルゴリズムの実施例は、タイトル“Defibrillator with Automativ Shock Fiarst/CPR First Akgorithm”である米国特許出願第11/917272号(米国特許出願公開2008/0208070号)明細書に記載されており、ここにおいて参照として包含されている。
【0009】
加えて、応答者は、しばしばCPRの最中に人工呼吸を実行することに問題を抱えており、手動のみのCPRが非常に有効であり得ることが知られている。また、最小限の中断(例えば、呼吸をさせること)で胸部圧迫を続けることが、結果としてより改善した蘇生をもたらし得ることが知られている。既存の救命除細動器に固有の問題は、最適な生き残りのためにどのCPRプロトコルを追求するか(胸部圧迫かつ人工呼吸、または、胸部圧迫のみ)の決定ができないことである。
【0010】
CPRは、ECGにおけるアーチファクトを生じさせるので、現在の技術では、CPRの最中での、細動除去の開始について信頼のおける決定をすることができない。現在の心肺蘇生のガイドラインは、中断のないCPRの期間を推奨しており、従って、ECG分析のためのCPRにおける停止は望ましくないし、反対に患者の生き残りに影響を与えるかもしれない。一方、CPRの最中に細動除去する患者においては、反対に、延長されたCPRが生き残りに影響し得る。ショック可能なリズムを確認するためのCPRにおける停止が有効なのは患者の一部分であるため、アーチファクトのあるCPR(つまり、停止がないもの)の最中にショック可能なリズムの存在の高い可能性を決定することができるアルゴリズムによって、大多数の患者の蘇生に折り合うことなく、ショックが有効な患者を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願第11/917272号明細書
【特許文献2】米国特許出願第2010/0076510号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
既存の救命除細動器に固有の問題は、最適な生き残りのためにどのCPRプロトコルを追求するか(胸部圧迫かつ人工呼吸、または、胸部圧迫のみ)の決定ができないことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の趣旨に従って、ECG波形を自動的に分析し、心拍再開(ROSC)の可能性のスコアを見積もる除細動器が説明される。ROSCスコアは閾値と比較され、より成功する可能性が高い処置計画がアドバイスされる。処置計画は、最初に患者にショックを与え、次に、ECGをさらに分析して、おそらくCPRを提供することであり得る。別の可能な処置計画は、ショックを与える前に患者にCPRを提供することである。
【0014】
本発明は、さらに、ROSCスコアが患者の生き残りの可能性とよく相関しているという発明者の発見を利用している。実際に、発明者は、救命の最中のROSCスコアの改善は、一般的に患者の生き残りの可能性がより高いことを示すことを見出した。従って、患者の容態を改善するために、救命の最中のROSCスコアの傾向は、救命の初めから終わりまでCPRプロトコルを調整するために使用され得る。
【0015】
本発明は、さらに、患者がVF状態である場合は、手動のみでCPRを施すことが最適であることを認識している。ROSCスコアによってVFの「活力」が示されるという点で価値を加えることにより、ROSCスコアは、このことの機能を高めている。ROSCがより長い停止時間(活力がより少ない)を示している場合は、胸部圧迫だけ、または、人工呼吸と胸部圧迫が提供されるべき状態である。ショック可能でないリズムの場合は、人工呼吸と胸部圧迫が提供されるべき状態である。いくつかのリズム(例えば、徐脈が40BPM以下)に対しては、人工呼吸が示される。本発明の趣旨に従って、本発明の一つの目的は、複数のCPRモードの動作から一つを選択するためにROSCスコアを利用する、電気的治療を与える除細動器および方法を説明することである。例えば、除細動器は、閾値以上のROSCスコアに対して、胸部圧迫だけのモードのCPR動作を選択し、または、閾値以下のROSCスコアに対して、人工呼吸と胸部圧迫モードのCPR動作を選択することができる。閾値は、現場の救命権威者の所定のプロトコルに適合するように調整することができる。
【0016】
本発明の別の対象は、第1のCPRモードの動作から第2のCPRモードの動作への変更が患者にとって有効であるか否かを決定するために連続したROSC見積りを比較する除細動器および方法である。例えば、心臓救命コースの最中にROSC見積りが悪化した場合、除細動器は、CPRモードの動作を胸部圧迫だけのモードから人工呼吸と胸部圧迫モードへ変更し得る。
【0017】
本発明のさらなる別の対象は、除細動ショック以前からショック直後の継続的なROSC見積りを算出する除細動器および方法であり、比較に基づいて追加のショックを与えるショックモードの動作が付加される。例えば、後続のROSC見積りが以前のROSC見積りより高い場合は、そうでなければ単一ショックプロトコルとなってしまう状況において、直ちに第2のショックを与えることが有益である。
【0018】
本発明のさらなる別の対象は、継続的なROSC見積りを算出し、比較に基づいてユーザーにフィードバックを行なう除細動器および方法である。例えば、後続のROSC見積りが以前のROSC見積りより高い場合、「グッドCPR(Good CPR)」または「インプルーブCPR(improving CPR)」といった聴覚もしくは視覚的なフィードバックが除細動器によって行わされる。
【0019】
本発明のさらなる別の対象は、CPR胸部圧迫の最中にROSC見積りを算出し、即座に電気的治療のショックを与えるためにCPRを中断すべきか否かを決定する除細動器および方法である。間違った決定(例えば、アーチファクトのあるCPR)による有害な効果を最小限にするために、本発明の一つの実施例は、CPRが中断された後で決定を確認し、その決定が間違って場合には、その後に決定基準値を調整する。調整は、中断機能を全く不能にしてしまうことができる。
【0020】
本発明のさらなる別の対象は、ROSCスコアプロセッサを効率的な方法で実施し、ROSCスコアを素早く、かつ、便利よく創出する除細動器である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、心拍停止を患っている患者に対して適用される除細動器を示している。
図2図2は、本発明の趣旨に従って構成された除細動器のブロックダイヤグラムである。
図3図3は、本発明の趣旨に従って構成されたROSC予測器の詳細なブロックダイヤグラムである。
図4図4は、図3の予測器において使用できる閾値の決定を示す患者データのグラフである。
図5図5は、本構成されたシステムによって獲得された、異なる感度設定の4つのECG波形の結果を示している。
図6図6は、クリーンデータ(vRclean)の最中、および、CPR乱れデータ(vRcpr)の最中でのvRhythmスコアを示している。
図7図7は、図6からの「トゥルーコンティニューCPR」の場合のCPR(vRcpr)の最中のvRhythmを示している。
図88は、図6からの「トゥルー停止CPR」の場合のvRcprを示している。
図9図9は、心臓救命の最中のCPRおよび除細動に対する決定工程のフローチャートである。vRhythmスコアおよびショック決定アルゴリズムを使用している。
図10図10は、追加の除細動ショックを発生するか否かを決定する工程のフローチャートである。最初のショックの直後に対してすぐ以前のvRhythmスコアの傾向に基づくものである。
図11図11は、CPR期間中のvRhythmの使用を説明するフローチャートである。図11の実施例では、CPRの最中のROSCスコアが算出され、即座のショックが有効であるとスコアが示している場合にはCPRの中断を生じさせる。そうでなければ、CPR期間の終了までCPRを継続する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図2は、本発明の趣旨に従って構成された除細動器110を示している。以降の説明のために、除細動器110はAEDであるものとして構成されており、物理的なサイズが小さく、軽量であり、高度な訓練レベルを有しない人によっても操作できる比較的に簡単なユーザーインターフェイスであるように設計されている。そうでなければ、除細動器110はたまにしか使用されないであろう。反対に、上級救急救命士または臨床で使用されるタイプの除細動器で一般的に緊急医療サービス(EMS)の応答者によって持ち運ばれるものは、より大きく、より重く、数多くの手動モニターと分析機能をサポートすることができるより複雑なユーザーインターフェイスを有する傾向にある。本発明の実施例は、AEDにおけるアプリケーションに関して説明されるが、他の実施例は、例えば、手動の除細動器、および、上級救急救命士または臨床用の除細動器といった、異なるタイプの除細動器におけるアプリケーションを含んでいる。
【0023】
ECGフロントエンド回路202は、患者14の胸を横断して取り付けられる1対の電極116に接続されている。ECGフロントエンド回路202は、デジタル化されたECGサンプルのストリーム(stream)を創生するために、患者の心臓によって生成された電気的なECG信号を増幅し、バッファーし、フィルターし、デジタル化するように動作する。デジタル化されたECGサンプルはコントローラー206に提供され、コントローラーは、VF、ショック可能なVT、または、他のショック可能なリズムを検知するための分析を行い、かつ、本発明に従って、成功するであろう処置計画を決定するための分析を実行する。ショック可能なリズムが、即座の除細動ショックを示す処置計画との組み合わせにおいて検知された場合、コントローラー206は、HV(高電圧)配電回路208に対してショックを与える準備としてチャージするように信号を送付し、ユーザーインターフェイス214上のショックボタンは、点滅を始めるように動作化される。ユーザーが、ユーザーインターフェイス214上のショックボタンを押した場合、除細動ショックが、HV配電回路208から、電極116を介して患者14に対して与えられる。
【0024】
コントローラー206は、さらに、音声ストリップ(strip)を創出するために、マイクロフォン212からの入力を受け取るように接続されている。マイクロフォン212からのアナログ音声信号は、望ましくは、デジタル化された音声サンプルを創出するためにデジタル化され、イベントサマリー130としてメモリー128の中に保管され得る。ユーザーインターフェイス214は、ディスプレイ、音声スピーカー、および、オン−オフボタンやユーザーコントロールと同様に視覚的および聴覚的なプロンプトを提供するためのショックボタンといったコントロールボタン、を含んでいる。クロック216は、イベントサマリー130の中に含まれるタイムスタンプ情報のために、コントローラー206に対してリアルタイム時間データを提供する。メモリー218は、オンボードのRAM、取外し可能なメモリーカード、または異なるメモリー技術の組み合わせ、のいずれかとして実施されるが、患者14の処置とコンパイル(compile)されて、そのままデジタル的にイベントサマリー130を保管するように動作する。イベントサマリー130は、デジタル化されたECG、音声サンプル、上述の他のイベントデータのストリームを含んでいる。
【0025】
図2のAEDは、いくつかの処置救命プロトコルまたは処置モードを有しており、EMSサービスがAEDを最初に受け取ったときに、AEDの設定の最中に選択され得る。プロトコルの1つのタイプは「ショックファースト(shock first)」プロトコルである。AEDがこのプロトコル用に設定された場合、AEDは、患者に取り付けられ動作化されると、心臓リズム区分を作成するために患者のECG心臓リズムを直ちに分析する。分析により、電気的除細動で処置可能な不整脈が存在すると決定した場合、典型的には心室細動(VF)またはパルスなしの心室性頻拍(VT)のいずれかであるが、救命者は、情報が伝えられ、ショックを与えることができる。不整脈が電気的除細動で処置できないと決定した場合、AEDは「ポーズ(pause)」モードに入り、その最中にCPRが実行される。
【0026】
第2のプロトコルのタイプは「CPRファースト」プロトコルである。AEDがこのプロトコル用に設定された場合、AEDは、患者に対してCPRを施すように救命者を指導することで動作を開始する。所定の時間CPRが実施された後、AEDは、電気的除細動で処置可能な不整脈が存在するかどうかを決定するためにECGデータの分析を始める。
【0027】
本発明の趣旨に従って、AED110は、第3の設定を有しており、最初に、ショックファーストまたはCPRファーストのいずれかの処置プロトコルを推奨する。これは、以降に説明するようにROSCスコアを算出し評価して、患者のECG波形の分析を開始するAEDによって行われる。ROSCスコアの評価から処置プロトコルが推奨される。推奨されたプロトコルは、AEDによって直ちに実行されてよい。または、実施されるべき処置プロトコルの最終決定をするために救命者に対して推奨プロトコルが示される。
【0028】
図3は、本発明の趣旨に従って動作するECGフロントエンド回路202とコントローラー206の部分を表わしている。上述のように、電極116は、A/Dコンバーター20によってサンプル(デジタル化)された患者からのECG信号を提供する。デジタル化されたECG信号は、コントローラーの中のECG分析プロセッサ回路に接続され、コントローラーはショック適用をアドバイスするか決定するためにECG波形を分析する。ECGサンプルは、また、任意的なダウンサンプラー(downsampler)22、ROSCカリキュレーター24、および、閾値コンパレーター26を含む処置決定プロセッサ28に接続されている。任意的なダウンサンプラー22は、ECGサンプルのストリームをより低いデータレートへサブサンプル(subsample)する。例えば、200サンプル/秒のデータストリームは、100サンプル/秒のデータストリームにサブサンプルされ得る。ECGデータサンプルは、ECGデータからROSCスコアを決定するROSCカリキュレーター24に接続されている。ROSCスコアは、閾値コンパレーター26によって閾値と比較され、蘇生の成功をもたらすことが最も確からしい処置モードを決定する。このモード決定は、コントローラーのモード選択部分に接続されており、自動的に望ましいモードを選択するか、もしくは、救命者に対して推奨するモードを示すか、いずれかを行う。そして、救命者は、推奨されたモードに従うか、または、代替的な処置計画にするか、いずれかを決定する。処置決定プロセッサ28は、コントローラー26から分離したエレメントとして示されているが、処置決定プロセッサ28とECG分析プロセッサ回路は、コントローラー206の一部分であり得ることが理解されよう。
【0029】
ROSCカリキュレーター24は、いくつかの方法で動作し得る。1つの例として、ROSCスコアは、数秒間にわたるECGのバンド幅が限定された第1微分(または、離散時間アナログである第1差分)のマグニチュード(magnitude)の平均として算出される。バンド幅が限定された第1微分は、不整脈検知のためにコントローラー206によって既に計算されているので、絶対値の平均の追加的な算出だけが、追加の計算として含まれ得る。このプロセスは、移動平均の手法によってリアルタイムに実施され得るもので、サンプル毎に1つの足し算と1つの引き算を要するだけである。例えば、100サンプル/秒で4.5秒間にわたり受け取られたサンプルのストリームに対して、連続したサンプルの差分をとることができる。絶対値を創出するために差異の徴候は捨てられ、4.5秒間にわたり集計される。これにより、ECG波形の周波数で重み付けされた大きさ平均と同等なROSCスコア値が創出される。スコアは、対象システムのアーキテクチャーおよび要求に従ってスケール化され、または、さらに処理される。
【0030】
第1微分のスペクトラムは周波数に対して比例するので、ROSCスコアは、ほとんどアーチファクトのあるCPRによっては影響されない、ほとんどが非常に低い周波数だからである。従って、こうした方法で算出されたROSCスコアは、CPRの最中の患者の心臓の活力に関する意味のある情報を提供することができる。
【0031】
中間値を算出する別の代替的な方法は、連続したサンプルの差分を2乗することであり、次に、計算結果を合計して、合計の平方根をとることである。これにより、ROSCスコアのRMS(2乗平均平方根)形式が創出される。
【0032】
中間値の算出に対する代替案として、別のアプローチは、第1微分の大きさの中央値(median)を使用することである。このアプローチは、よりコンピューター計算集中型であるが、有利なことにノイズに対してよりロバスト(robust)であり得る。識別力の手段を与える信号の重要性を減じることのないように注意する必要がある。別の実施例において、トリム(trim)された中間値または最小―最大値の計算は、好ましい譲歩を提供することができる。最も大きくはずれたものを除去することで、アーチファクトのあるインパルス(例えば、電極パッドの物理的な乱れ)に対するより良い耐性が提供され得る。最も大きくはずれたものを除去することで、比較的にまれに起きるであろう時折のアーチファクトのある高いアンプが、心臓源のデータに関する識別力を著しく減少させることなく、除去され得る。
【0033】
AEDは、本発明に従って動作するように構成されてきている。発明者は、実施されたROSCスコアプロセッサが、例えば、およそ90%、特には60%以上といった、高い感度を持った即座の除細動に続くROSCを結果として生じるECGリズムを特定することを見出した。感度(Sn)は、即座の除細動ショックに反応してROSCを達成するであろう患者の割合であり、ROSCスコアによって正しく特定される。特異性(specificity)は、即座の除細動ショックに反応してもROSCに達しないであろう患者の割合であり、ROSCスコアによって正しく特定される。ROSCに対する感度と特異性は、おおよそ等しい割合でのトレードオフである。
【0034】
図4のグラフは、ユーザーに対して利用可能にされた代替的な設定感度の実施を示している。データベースは、除細動によって処置された患者の結果を集めたもので、いくらかの人は初期の除細動ショックに反応してROSCに達したが、いくらかの人はそうではなかった。患者は、心拍停止期間を多様にした後で処置された。実施されたシステムによって算出されたROSCスコアは2.5から40.0単位の範囲にあり、それぞれの単位は0.25mV/秒に対応している。グラフにおいて、右下斜め方向にシェーディングされたバーの部分は、データベースの中で、ショックを与えた後でROSCを表わした患者を示している。右上斜め方向にシェーディングされたバーの部分は、データベースの中で、処置後もROSCを表わさなかった患者を示している。グラフは、システムによるROSCスコアの結果を示している。ROSCスコアが3.0mV/秒(つまり、12.0単位)より大きい患者への最初のショックに続くROSCに対して95%の感度を示しており、ROSCスコアが3.6mV/秒(つまり、14.4単位)より大きい患者について85%の感度を示しているROSCスコアが約2.5mV/秒(つまり、10単位)以下の患者は、患者集合の100%が、最初のショックの結果としてROSCに達することができず、CPRファーストの処置計画が有効であった。実施されたシステムにおいては、異なる感度の2つの閾値が使用された。一方は95%感度であり、他方は85%感度である。ユーザーは、従って、AED設定の最中に所望の感度を選択することができ、高い感度(95%)を選択することでショックファーストをより多く使用し、または、低い感度(85%)によりCPRファーストをより多く使用することができる。
【0035】
実施されたシステムは、また、ショックファーストプロトコルによって処置された患者について良い結果の集団を特定することができる。53%(95%CI〔40%、67%〕)が神経学的に無傷で生存している。実施されたシステムは、また、たった4%(95%CI〔0.1%、20%〕)しか神経学的に無傷で生存していない悪い結果のグループを特定できる。従って、CPRファースト蘇生よって処置されたものである。
【0036】
図5は、異なる感度設定での4つのECG波形について、構成されたシステムによって得られた結果を示している。オート1(高い)感度設定300では、最初の3つのECG波形340、350、360に対してショックファーストが推奨され、第4の波形370に対してCPRファーストが推奨される。オート2(低い)感度設定320では、最初のECG波形340に対してショックファーストが推奨され、残りの3つの波形350、360、370に対してCPRファーストが推奨される。
【0037】
本発明に対する代替的な実施例は、高度な特異性のためのAEDショックアドバイスアルゴリズムを使用する。除細動ショック後のROSCの可能性を示すECG割合変化(vRhythmと呼ばれ、米国特許出願第11/917272号明細書(米国特許出願公開2008/0208070号)に記載されている)のインデックスである。アーチファクトが無いECGにおいて、VF状態にある患者に係る最初の説明で、これら2つのアルゴリズムが使用され、即座のショック、または、初期のCPR期間のいずれかがアドバイスされる。この場合において、AEDショックアドバイスアルゴリズムがショック可能なリズムを示すと、vRhythmスコアが閾値と比較される。閾値よりも大きいか等しい場合にはショックがアドバイスされ、閾値より小さい場合は、CPRがアドバイスされる。蘇生のデータベースは、14.5単位の閾値以下のvRhythmである初期のショック可能なリズムについて、即座にショックを与えなければ患者が生き残ることは非常にまれであることを示しており、従って、初期のCPR期間が有効である。
【0038】
除細動ショックが与えられた後、蘇生処置が進行すると、現在のプロトコルは、中断の無いCPR期間の継続(典型的には2分間)を推奨する。しかしながら、患者にとって、CPRの最中に再び細動が起きるのは一般的である。ECGに力強いVF波形が存在することは、直ちにショックが与えられる場合にROSCの可能性が高いことを示している。一方、同一の患者に対して、CPRを継続することは、結果としてROSCの可能性を減少させてしまう。即座のショックが有効な患者の一部は、継続的なCPRが有効な患者の一部よりも非常に少ないので、患者のリズムを正確にアセスするためにCPRを止めることはCPRを中断することになり、患者を助けるよりは、おそらく多くの患者の生き残りを減少させてしまう。
【0039】
この実施例は、AEDショックアドバイスアルゴリズム、および、初期または後続のショックの後ECGを乱されたCPRの最中のvRhythmスコアに適用される。CPRを止めることなく力強いショック可能なリズムの可能性を評価するためである。高いvRhythmスコアによって示されるようなショック可能なリズムの高い可能性がある場合は、CPRが停止され、アーチファクトが無いECGでの分析を確認した後でショックが与えられる。CPRの最中にショック可能なリズムの非常に高い可能性を特定するアルゴリズムのさらなる強化は、確認の分析に介入することなくショックを与えることができる。従って、この実施例では、継続的なCPRがより有効な他の患者の蘇生に折り合うことなく、即座のショックによって生存率が改善する患者に即座にショックを与えることができる。
【0040】
図6に移ると、フィリップスvRhythmスコアに関するフィリップス患者分析システム(PAS)ショックアドバイスアルゴリズムを使用して、本発明の実施例が評価されている。レポートされた実施例に係る性能の改善は、本説明の範囲内において、こうしたアルゴリズムのそれぞれを簡潔に変形することによって得ることができる。性能を評価するために、ECGデータベースは、Wappinger Falls、New YorkのLaerdal Medicalによってコンパイルされた“Sister‘s”データベースから適合され、幅広い種類の実際に予想される典型的なリズムの代表例を伴なう蘇生のECGデータを含んでいる。データベースは、20秒のECGストリップであり、最初の10間はCPRの最中に記録され、CPR停止後の10秒間が続いている。これら2つのデータセグメントに対するアルゴリズムによる測定と結果は、本説明において下付き文字“cpr”および“clean”によって参照される。
【0041】
データベースにおけるそれぞれのケースについて「トゥルーアノテーション(true annotation)」を確立するために、PAS結果およびvRhythmスコアが、クリーンなECGセグメントからのデータについて使用される。以前のフィリップスvRhythm発明と同じく、PAS結果が「ショックアドバイス(shock advised)」を示し、vRhythmスコアが14.5より大きいか等しいケースは、除細動ショックを与えるためにCPRを止めることが有効である可能性が高く「トゥルー(ture)」として注釈される(以降、「トゥルーストップCPR(True Stop CPR)」という)。CPRとクリーンデータセグメントは時間において連続しているので、このクリーンデータにおいて決定されたトゥルーアノテーションは、また、データを乱されたCPRについてもトゥルーである(つまり、基礎をなすリズムは20秒間の記録の最中に変化しないと仮定される)。従って、このデータベースにより、データを乱されたCPRにおいて性能を評価し、クリーンなECGデータから「トゥルー」と決定されたものと比較することができる。
【0042】
図6は、データベースの中の全363ケースに対する、クリーンデータ(vRclean)の最中とデータが乱されたCPR(vRcpr)の最中のvRhythmスコアを示している。ケースは、増加するvRcleanおよびクリーンデータセグメントにおけるPAS決定(PASclean)のために分類される。ケース1から263ではPAScleanはショック無しであり、ケース264から363ではPAScleanはショックが与えられている(100のケース)。ケース324から363(40のケース)は、「トゥルーストップCPR」の基準を満たしている。つまり、継続的なCPRに代わり、即座のショックがおそらく有効であると決定される患者のリズムである。残りのケース(1から323)は「フォールスストップCPR(False Stop CPR)」であり、または、「トゥルーコンティニューCPR(True Continue CPR)」として参照される。
【0043】
図6は、また、vRclean値と直接比較したvRcprを示している。図は、アーチファクトのあるCPRは、vRhythmスコアをより大きい値の方へバイアスしていることを示している。このバイアスに適応するために、CPRの最中に評価されるvRhythmにとって、この実施では即座のショックを示すための閾値を19より大きいか等しい値に上げている(クリーンデータに対する閾値の14.5に代えて)。同様に、vRcprには、vRcleanでは特徴値でない、いくつかの極値が存在していることにも注意する。従って、この実施は、vRcprの閾値が50であり、それを超えるとCPRは中断されない。
【0044】
図7に移ると、図6の「トゥルーコンティニューCPR」ケースに対するCPRの最中のvRhythm(vRcpr)が示されている。図7において、データは、vRcprおよびCPRが乱されたデータセグメントに対するPASの決定(PAScpr)によって分類される。このデータにより、フォールスポジティブ(false positive)とトゥルーネガティブ(true negative)ストップCPR性能を決定することができる。11のフォールスポジティブなケース(310から320)が存在し、PAScpr=shockかつ19<vRcpr<=50、である。312のトゥルーネガティブなケースが存在する(1から309、および、321から323)。
【0045】
図8は、図6の「トゥルーストップCPR」ケースに対するvRcprを示している。図8において、データは、vRcprおよびCPRが乱されたデータセグメントに対するPASの決定(PAScpr)によって分類される。このデータにより、トゥルーポジティブ(true positive)とフォールスネガティブ(false negative)ストップCPR性能を決定することができる。19のフォールスネガティブなケースが存在する。ケース1から14はPAScpr=no shockだからであり、ケース15から19はvRcpr<19だからである。21のトゥルーポジティブストップCPRなケースが存在する(20から40)。
【0046】
図7および図8の性能データは、組み合わせて、感度、特異性、および、基準値のポジティブ予測性を算出するために使用され得る。予測性は、CPRの最中、このデータベースから、CPRを中断して救命除細動ショックを与えることが潜在的に有益であるケースを予測するものである。データは、以下のことを示している。感度=53%、特異性=97%、ポジティブ予測性=66%。
【0047】
従来技術の除細動器に係るCPR期間では、CPRは、全ての患者に対して継続的であるか、または、除細動ショックを与える必要性をアセスするために全ての患者に対して中断されるか、のいずれかでなければならなかった。継続的なCPRについて、このデータベースからの323のケースが最も確からしい最適な治療を受け(89%)、初期のショックが有効な40のケースが最適以下の治療を受けることになろう(11%)。ショックを与える必要性のアセスのために全ての救命を中断することは、結果として323のケース(89%)に対して最適以下の治療を生じ、40のケース(11%)に対してはより最適な治療を生じさせる。しかしながら、本発明に従えば、32のケース(21のトゥルーポジティブおよび11のフォールスポジティブ、9%)に対してCPRが中断され、331のケース(19のフォールスネガティブおよび312のトゥルーネガティブ)に対してCPRが継続される。333のケース(21のトゥルーポジティブと312のトゥルーネガティブ、92%)において治療は最適であり、たった30のケース(11のフォールスポジティブと19のフォールスネガティブ、8%)についてだけ治療が最適以下である。従って、CPRの最中にROSCを決定する本発明のvRhythmアルゴリズムの全般的な性能は、従来のCPRプロトコルに比べてより良い性能を結果として生じている。明らかにしておくが、用語「ROSCスコア」は、これ以降、上述のように、vRhythmアルゴリズムによって決定されたvRhythmスコアを参照するものである。
【0048】
当業者には、アルゴリズムの基準値に対する調整がこうした性能の統計を変えることがよく知られている。また、性能の基準値は、算出に使用されるデータベースにおけるリズムの相対的なインシデンス(incidence)に依存することもよく知られている。このデータベースは、世界中で心拍停止からの生き残りが非常に低い緊急対応システムの多くを代表するものであり、従って、CPRを停止することが有効であろうケースのインシデンスは低い。応答時間がより短い他のシステムに対しては、従って、生き残り率がより高く、CPRを停止することが有効であろうケースのインシデンスがより高く、そして、アルゴリズムの有効性はそれに応じてより大きい。
【0049】
本発明の代替的な実施例においては、例えば、CPR胸部圧迫において短い切れ目を検知した最中でのみスコアを算出するようにアルゴリズムを調整することができる。つまり、発生するアーチファクトのあるノイズのレベルが低いときである。検知は、動作の第2のインジケータを通じて行うことができる。胸に適用された加速度計、共通モード電流、経胸的なインピーダンス変化、または、ECG信号の分析を介して、といったものである。十分なデータが数多くのこうした短い切れ目の最中に十分に累積され、CPRの最中に細動が再発する可能性を示すことができる。そのように場合には、AEDは、さらなる分析のための中断を指示する。フォールスネガティブによってAEDが不適切にCPRを短くさせている場合には、分析は、追加的に調整され、フィルターされ、または、後続のCPR期間のために完全に遮断される。
【0050】
本発明のこの実施例は、一式の基準値を評価した。他の実施例は、こうした基準値を変え、もしくは、基準値が結合された2つのアルゴリズムを変更する。例えば、ショックアドバイスアルゴリズムは、その中の基準値を変えることでフォールスネガティブなケースの発生をより少なくするように調整され得る。そして、vRhythm計算も、また、ROSCスコアへのアーチファクトのあるCPRの影響をさらに抑えるように変更され得る(例えば、バンド幅を変更する)。以前のROSCスコア、表わされているROSCスコアを含む、は、除細動ショックのためにCPRを中断するかどうかの決定について、入力としても使用され得る。さらに、本発明のこの実施例は、除細動ショックを与える必要性の見積りにおいてECGデータしか使用していない。ECGと供に同時に得られた他の信号(例えば、患者の小さな信号インピーダンス、共通モード電流、CPRの最中の胸壁化速度)によって、実施例をさらに最適化することができる。
【0051】
図9に移ると、AEDにおける自動的な意思決定基準値を表わすフローチャートが示されている。生き残りを増やし、傍観者の行動を促進するために、構成はより簡単なCPRの強調を続けている。手動のみのCPRが(特定のリズムにとって)より良い代替案である場合は、CPRの簡素化の役に立つ。人工呼吸が必要でない場合は、人工呼吸のための中断を最小化して、生き残りを促進する。フローチャートで説明される救命プロトコルは、可能であれば、より簡単で、より効果的なCPRを提供するためのこうした趣旨を考慮している。
【0052】
図9において、心拍停止の患者に対して電極が取り付けられると、ステップ900で、AEDはECGを得る。ステップ902では、AEDは、分析アルゴリズムを使用してECGがショック可能であるか否かを決定し、上述のように、vRhythmアルゴリズムを使用してROSCスコアVR1を算出する。リズムがショック可能でなければ、ステップ904、AEDは、ステップ906で人工呼吸と胸部圧迫を伴なうCPRとして定義された第1のCPRモードの動作に入る。ECGがショック可能である場合は、ステップ908においてROSCスコアVR1が閾値スコアと比較される。ROSCスコアVR1の方が低い場合、AEDはショックファーストプロトコルに入り、ステップ910で直ちに第1のCPRモードを行い、続いてステップ912で除細動ショックを与え、ステップ914でもう一つの第1のCPRモードの動作に入る。
【0053】
ステップ908で、ROSCスコアが閾値よりも上であってECGがショック可能な場合は、次に、ステップ916で直ちにショックが与えられ、続いて、ステップ918で第2のCPRモードの動作に入る。ここで、第2のCPRモードの動作は、胸部圧迫のみのCPRとして定義される。この決定の理由は、高いROSCスコアVR2を有する患者には、胸部圧迫のみのCPRが有効だからである。
【0054】
図9は、また、後に続く第1のショック/CPRインターバルを示しており、ステップ920で再びECGが分析される。AEDは、第2のROSCスコアVR2を算出し、ステップ924でVR2を第1のROSCスコアVR1と比較する。ROSCスコアの増加は、「グッド(good)」CPR及び/又は生き残りの機会改善を意味している。従って、ショックの後で、ROSCスコアが増加している場合、AEDは、ステップ928で第2のCPRモードの動作を継続する。しかしながら、ROSCスコアの減少は、生き残りの機会減少を意味しており、おそらく「プア(poor)」CPRによって悪化したものである。ROSCスコアが降下すると、次に、AEDは、ステップ926で第1のCPRモードの動作に移行する。
【0055】
ショック可能でないことを表わしているECGに対して、AEDは、ステップ906で、除細動ショックを与えることなく第1のCPRモードの動作を適用する。CPR期間の後、AEDは、ステップ930で、ECG分析とそれに続くROSCスコアVR2の算出を繰り返す。そして、AEDは、ステップ932で、VR2と第1のROSCスコアVR1を比較する。ROSCスコアの増加は、「グッド(good)」CPR及び/又は生き残りの機会改善を意味している。従って、ROSCスコアが増加している場合、AEDは、ステップ934で第2のCPRモードの動作を継続する。しかしながら、ROSCスコアの減少は、生き残りの機会減少を意味しており、おそらくCPRが有効でないことを示している。従って、ここでのROSCスコアの減少は、ステップ936で、AEDを第1のCPRモードの動作から交替治療へ変更する。交替治療は、第2のCPRモードの動作、または、エピネフリン(epinephrine)といった調剤治療、低体温治療、もしくは、他の心臓救命技術の指示であり得る。
【0056】
図9において、丸で囲まれた「1」で示されるプロトコルの各ブランチの終端において、心臓救命は従来技術のプロトコルに従って進められる。より望ましくは、さらなる後続の分析のために、ステップ900に戻って本発明の方法が継続されてもよい。救命の初めから終わりまで本方法を繰り返すことは、患者のECGにおける変化によって保証されるように救命プロトコルの継続的な調整を可能にする。ROSCスコア閾値または決定基準値のさらなる調整は、例えば、ステップ936における交替治療のアプリケーションとしての確認に続いて、ステップ900に再び入るときに発生し得る。
【0057】
本発明の別の実施例が、図10のフローチャートで示されている。図9では、次のCPR期間の以前に与えられるべきショックの数がプリセット(pre−set)された従来のショック付与プロトコルが説明されている。このインスタンスは、単一ショックのプロトコルである。発明者らは、ショックのすぐ後に続いて算出されたROSCスコアは、CPR期間に入る以前の追加ショックが患者に有効であるか否かを示し得ることを見出した。実際に、この実施例では、救命を継続する以前に連続して与えるべきショックの数を調整するためにROSCスコアを使用している。
【0058】
図10は、図9のステップ916とステップ918との間に挿入される、修正された決定プロセスを示している。ステップ916でのショックに直ちに続いて、AEDは、ECGデータを得て、ステップ1016で後続のROSCスコアVR1’を算出する。次に、AEDは、ステップ1018で、VR1’と第1のROSCスコアVR1とを比較する。ROSCスコアの増加は、ショックによってECGのリズムが転換されたとしても、生き残りの機会改善を意味しており、追加のショックが保証され得る。従って、AEDは、ステップ918のCPR期間を始める以前に、追加のショックが与えられるように備え、指示する。しかしながら、ステップ1018で検知されたROSCスコアの劣化は、即座のCPRが患者のためにより良いことを示している。この場合、AEDは、さらなる遅延無しに、ステップ918のCPRを始める。
【0059】
さらに別の本発明の実施例が、図11のフローチャートに示されている。図11は、図7および図8に係る発見に従って治療を最適化するための、CPR期間の最中の、ROSCスコアVR3の使用を示している。ここで示されているのは図9のステップ910に係るCPR期間であるが、本発明の方法は、ここにおいて説明されるあらゆる、または、全てのCPR期間に対して組み入れられることが理解されよう。
【0060】
図11の実施例は、CPR期間910の最中にECGデータを獲得するAED処置決定プロセッサを示している。AEDは、ステップ1110でROSCスコアVR3を算出し、ステップ1112でVR3と閾値を比較する。閾値以下のROSCスコアVR3は、ショック可能なリズムの可能性が低いことを意味している。この場合のAEDは、ステップ1114でCPRアプリケーションの継続を指示する。
【0061】
しかしながら、閾値以上のROSCスコアVR3は、ショック可能なリズムの可能性が高いことを意味している。つまり、即座のショックによって転換されるべく十分に力強いということである。このイベントにおけるAEDは、ユーザーインターフェイス214の聴覚及び/又は視覚的な出力手段によって、ステップ1116でCPRの中断を指示する。AEDは、続いてステップ1118でCPRの停止を、上述の共通モード電流、患者のインピーダンス、または、胸壁の圧縮センサー、を含むあらゆる方法によって検知する。次に、AEDは、ステップ1120で、ECGデータを分析して、ショック可能なリズムの存在を確認する。
【0062】
図11のステップ1122でショック可能なリズムが確認された場合、AEDは、ステップ1124で除細動ショックのアプリケーションに備え、指示する。ショックが与えられた後、ステップ1126で、CPR期間の終了までCPRが再び続けられる。
【0063】
分析ステップ1120は、代わりに、ROSCスコアVR3が、アーチファクトのあるCPRによって生じたフォールスポジティブであることを示すことがある。この場合、中断されない胸部圧迫を保証するために、後続のCPR期間においてはフォールスポジティブが再発しないことが重要である。そこで、AEDは、ステップ1128で、CPRの即座の再開を指示することでフォールスポジティブなROSCスコアVR3に対応する。加えて、AEDは、望ましくは、ステップ1130で、ステップ1112において使用されるROSCスコア閾値の感度を削減する。
【0064】
本発明によって、前述の工程に対する代替案が想像される。例えば、ショック可能で、低い初期ROSCスコアが存在するとき、AEDによって指示されるCPRモードの動作は、第2のCPRモードの動作に代わって、第1のCPRモードの動作であり得る。ショックの後で、vRhythmスコアの劣化(つまり、低下)が存在するとき、AEDによって指示されるCPRモードの動作は、第1のCPRモードの動作に代わって、第2のCPRモードの動作であり得る。こうした交替は、アセスされたCPRの性質に基づいて採用される。
【0065】
別の代替案は、単なる増加または減少のスコアクライテリアを使用する代わりに、第1のCPRモードから第2のCPRモードに変更する決定クライテリアとして閾値スコアを採用することである。この技術は、CPRモードの動作におけるより少ない調整を結果としておそらく生じ、救命の最中の混乱をいくらかでも減じることができる。加えて、閾値の使用は、本発明の分析的な基礎といくらかより密接に適合するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11