特許第6559983号(P6559983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6559983
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20190805BHJP
   C10M 105/36 20060101ALN20190805BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20190805BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20190805BHJP
   C10M 125/10 20060101ALN20190805BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20190805BHJP
   C10M 129/58 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20190805BHJP
【FI】
   C10M169/00
   !C10M105/36
   !C10M107/02
   !C10M115/08
   !C10M125/10
   !C10M137/10 A
   !C10M129/58
   C10N10:02
   C10N10:04
   C10N10:12
   C10N20:00 A
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:02
   C10N30:08
   C10N30:12
   C10N40:02
   C10N50:10
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-55200(P2015-55200)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-175962(P2016-175962A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】井上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一弘
(72)【発明者】
【氏名】井筒 智善
(72)【発明者】
【氏名】川村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】天利 裕行
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 稔
(72)【発明者】
【氏名】中野 康平
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−298537(JP,A)
【文献】 特開2005−105238(JP,A)
【文献】 特開2005−048044(JP,A)
【文献】 特開2004−332578(JP,A)
【文献】 特開2013−035882(JP,A)
【文献】 特開平03−210394(JP,A)
【文献】 特開2014−084442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00〜177/00
C10N10/00〜80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車電装補機に用いられる外輪回転用転がり軸受に封入されるグリース組成物であって、
前記グリース組成物が基油、増ちょう剤、耐剥離添加剤、耐摩耗添加剤、および防錆剤を含有し、
前記基油は、40℃における動粘度が40〜140mm/sで、流動点が−35℃以下のトリメリット酸エステル油と40℃における動粘度が10〜60mm/sで流動点−50℃以下の合成炭化水素油からなり、その混合割合が質量比で前記トリメリット酸エステル油:前記合成炭化水素油=(70:30)〜(90:10)であり、
前記増ちょう剤が下記式(1)で示されるジウレア化合物であり、
前記耐摩耗添加剤が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、
前記耐剥離添加剤が、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、およびモリブデン酸リチウムから選ばれる少なくとも1つのモリブデン酸アルカリ金属塩であり、グリース組成物全量に対して、0.6〜1.2質量%含有することを特徴とするグリース組成物。
【化1】
(式中、Rは炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を表し、Rはシクロヘキシル基を表す。)
【請求項2】
前記耐摩耗添加剤が、グリース組成物全量に対して、0.1〜2.0質量%含有することを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記防錆剤は、ナフテン酸亜鉛を必須成分とし、グリース組成物全量に対して、0.5〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車電装補機に使用する外輪回転用の転がり軸受用グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品は燃費向上や室内空間拡大のため、静粛化・小型化・軽量化が進んでいる。自動車電装補機に使用する転がり軸受用グリースは、静粛化に伴うエンジンルームの密閉化が進み、高温耐久性が要求されている。また、小型化による出力低下を高速回転で補うため、転がり軸受は高速回転且つ高荷重下で使用されている。このような使用環境の苛酷化に伴い、転走面に白色組織変化を伴った軸受の剥離現象、いわゆる水素脆性剥離が報告されるようになり、グリースには水素脆性剥離対策が要求されている。また、ロシアや北米などの寒冷地では、エンジン始動時に発生する異音、いわゆる冷時異音が問題となっており、グリースには低温性の更なる向上も要求されている。更に、走行中に雨水がかかることもあるため、グリースには防錆性も求められている。この様な背景から、グリースには高温耐久性・耐剥離性・低温性・防錆性の全ての性能を満足することが求められている。
【0003】
自動車電装補機の軸受用グリースとしては、合成炭化水素油・アルキルジフェニルエーテル油・エステル系合成油などの基油を使用したグリースが主流であるが、合成炭化水素油を主成分とするグリースでは高温耐久性が不足する。また、アルキルジフェニルエーテル油を主成分とするグリースでは、低温性が不足する。また、エステル系合成油を基油に用いたグリースでは、耐熱性と低温性の両立が困難となる場合がある。
【0004】
高温耐久性に優れたグリースとして、エステル系合成油を用いたジウレアグリースが知られている(特許文献1)。また、低温性に優れたグリースとしてはトリメチロールプロパンまたはペンタエリトリトールエステル系合成油と合成炭化水素油の混合油を用いたジウレアグリースが知られている(特許文献2)。
【0005】
耐水素脆性剥離性(以下、耐剥離性ともいう)に優れたグリースとしては、モリブデン酸塩を配合したジウレアグリースが知られている(特許文献3)。
【0006】
防錆性と耐剥離性に優れたグリースとしては、ナフテン酸亜鉛およびアルケニルコハク酸ハーフエステルを配合したジウレアグリースが知られている(特許文献4)。
【0007】
しかしながら、特許文献1から特許文献4に記載されているそれぞれのグリースは高温耐久性、低温性、耐剥離性、または防錆性の個々の各特性には優れているものの、これらの全ての性能を満足するものは得られていない。自動車部品の静粛化・小型化・軽量化が進むにつれて、これら自動車部品に使用される軸受、特に外輪回転用の転がり軸受に用いられるグリース組成物は、単一の性能のみではなく、全ての性能を同時に満足するグリース組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−253257号公報
【特許文献2】特許第4427195号公報
【特許文献3】特開2009−299897号公報
【特許文献4】特許第4877343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高温耐久性・低温性・耐剥離性・防錆性の全ての特性を満足できる外輪回転用の転がり軸受用グリース組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、自動車電装補機に用いられる外輪回転用転がり軸受に封入されるグリース組成物である。該グリース組成物が基油、増ちょう剤、耐剥離添加剤、耐摩耗添加剤、および防錆剤を含有し、上記基油は、トリメリット酸エステル油と合成炭化水素油との割合が質量比で上記トリメリット酸エステル油:上記合成炭化水素油=(70:30)〜(90:10)の混合油であり、上記増ちょう剤が下記式(1)で示されるジウレア化合物であることを特徴とする。
【化1】
式中、Rは炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を表し、Rはシクロヘキシル基を表す。
【0011】
混合基油を構成する、上記トリメリット酸エステル油は、40℃における動粘度が40〜140mm/sで、流動点が−35℃以下であり、上記合成炭化水素油は、40℃における動粘度が10〜60mm/sで流動点−50℃以下であることを特徴とする。
【0012】
また、上記耐剥離添加剤が、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、およびモリブデン酸リチウムから選ばれる少なくとも1つのモリブデン酸アルカリ金属塩であり、グリース組成物全量に対して、0.1〜1.5質量%含有することを特徴とする。
また、上記耐摩耗添加剤が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、グリース組成物全量に対して、0.1〜2.0質量%含有することを特徴とする。
また、上記防錆剤は、ナフテン酸亜鉛を必須成分とし、グリース組成物全量に対して、0.5〜5.0質量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグリース組成物は、自動車電装補機に用いられる外輪回転用転がり軸受に封入されるグリース組成物として、高温耐久性・低温性・耐剥離性・防錆性の全てを高い水準で満足し、−40℃の低温環境下でも冷時異音の発生を抑制し、180℃での高温環境下でも優れた耐久性を示し、且つ、苛酷な使用条件化でも水素脆性剥離を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
自動車電装補機に用いられる軸受としては、ファンカップリング装置、オルタネータ、アイドラプーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、電動ファンモータ等に用いられる転がり軸受が挙げられる。これらの軸受には、外輪回転で使用される外輪回転用転がり軸受があり、従来の電装補機用軸受に封入されるグリース組成物に要求されている高温耐久性・低温性・耐剥離性に加えて、外輪回転用転がり軸受に封入されるグリース組成物には防錆性が要求されている。
【0015】
本発明のグリース組成物を構成する必須の成分について、以下説明する。
(1)基油
基油は、トリメリット酸エステル油と合成炭化水素油との混合油である。トリメリット酸エステル油は、高温下での蒸発損失が少なく、酸化安定性に優れている。また、合成炭化水素油は、低温性に優れている。トリメリット酸エステル油と合成炭化水素油との割合は、質量比でトリメリット酸エステル油:合成炭化水素油=(70:30)〜(90:10)である。すなわち、混合油全量に対して、トリメリット酸エステル油が70〜90質量%、残部が合成炭化水素油であり、合成炭化水素油が30〜10質量%である。混合油の割合がこの範囲外となると、高温耐久性・低温性・耐剥離性・防錆性の全ての特性を満足することができなくなる。
【0016】
トリメリット酸エステル油は、下記式(2)で表され、40℃における動粘度が40〜140mm/sで、流動点が−35℃以下のトリメリット酸トリエステル油であることが好ましい。
【化2】
式(2)において、R、R、Rは同一であっても異なってもよい。好ましくは同一である。また、R、R、Rは炭素数が7〜10の脂肪族1価アルコール残基であることが好ましい。この脂肪族1価アルコール残基は直鎖状アルキル基であっても分岐状アルキル基であってもよい。具体的には、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリス(n−オクチル)、トリメリット酸トリス(イソノニル)、トリメリット酸トリス(イソデシル)等が挙げられる。
【0017】
合成炭化水素油は、炭素と水素の化合物からなる炭化水素化合物であり、ポリαオレフィン油、αオレフィンとオレフィンとの共重合体、ポリブテンなどの脂肪族系炭化水素油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニル、合成ナフテンなどの芳香族系炭化水素油などが挙げられる。これらの中で、低温性を考慮するとポリαオレフィン油が好ましい。ポリαオレフィン油の中で特に好ましいのは、40℃における動粘度が10〜60mm/sであり、流動点が−50℃以下のものである。動粘度が60mm/sを超えると低温性に劣り、10mm/s未満では耐熱性が劣る。また、流動点が−50℃より高くなると低温性が劣る。
【0018】
(2)増ちょう剤
増ちょう剤は、せん断安定性や高温耐久性に優れた上記式(1)で表されるジウレア化合物である。Rは炭素数が6〜15の2価の芳香族炭化水素基である。炭素数が上記範囲未満であるとグリースの増ちょう性が劣り、上記範囲をこえるとグリースが硬化し易くなる。Rとしては、例えば、芳香族単環、芳香族縮合環、これら単環または縮合環がメチレン鎖、シアヌル環、イソシアヌル環等で連結された基等が挙げられ、好ましい芳香族炭化水素基としては以下の式(3)で表されるそれぞれの基が挙げられる。
【化3】
これらの基の中で好ましい基の具体例としては、以下の式(4)式で表されるそれぞれの基が挙げられる。
【化4】
【0019】
ジウレア化合物は、ジイソシアネート化合物とモノアミン化合物とを反応させることにより得られる。グリースは、上記基油中でジイソシアネート化合物とモノアミン化合物とを反応させてもよく、また、あらかじめ合成されたジウレア化合物を基油と混合してもよい。好ましい作製方法は、グリースの安定性を保ちやすい前者の方法である。
増ちょう剤の配合量はグリース全量に対して5〜25質量%が好ましく、5質量%未満ではグリースが軟らかく、軸受から漏洩するおそれがあり、25質量%を超えるとグリースが硬く、冷時異音が発生するおそれがある.
【0020】
(3)耐剥離添加剤
耐剥離添加剤は、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、およびモリブデン酸リチウムから選ばれる少なくとも1つのモリブデン酸アルカリ金属塩である。好ましくはモリブデン酸カリウムである。
耐剥離添加剤の配合量は、グリース組成物全量に対して、0.1〜1.5質量%が好ましい。更に好ましくは、0.6〜1.2質量%である。耐剥離添加剤の配合量が0.1質量%未満では十分な耐剥離性が得られず、1.5質量%を超えると、冷時異音が発生するおそれがある。
【0021】
(4)耐摩耗添加剤
高温耐久性を向上させる耐摩耗添加剤は、下記式(5)で表されるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)である。
【化5】
式中のRは、炭素原子数1〜24の一級または二級のアルキル基、または、炭素原子数6〜30のアリール基を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第二級ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、4−メチルペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基、テトラデシルフェニル基、ヘキサデシルフェニル基、オクタデシルフェニル基、ベンジル基などが挙げられる。なお、これらの各Rは同一であっても、異なっていてもよい。
【0022】
これらの中でも、安定性に優れ、水素脆性による転走面での剥離防止にも寄与することからRが一級のアルキル基であることが好ましい。また、Rがアルキル基である場合において、炭素原子数が多いほど、耐熱性に優れ、また、基油に溶けやすい。一方、炭素原子数が少ないほど、耐摩耗性に優れ、基油には溶けにくいものとなる。本発明に好適な市販品としては、例えば、Lubrizol社製:商品名BECROSAN9045などが挙げられる。
配合量はグリース組成物全量に対して、0.1〜2.0質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では十分な効果が得られず、2.0質量%を超えると、防錆性や高温耐久性を低下させる。
【0023】
(5)防錆剤
防錆剤はナフテン酸亜鉛を必須成分とする。防錆剤全量に対して、ナフテン酸亜鉛を10質量%以上含む防錆剤が好ましい。より好ましくはナフテン酸亜鉛を単独使用することである。
防錆剤の配合量は、グリース組成物全量に対して、ナフテン酸亜鉛として0.5〜5.0質量%であることが好ましい。0.5質量%未満では防錆性が低下し、5.0質量%を超えると高温耐久性を低下させる。
【0024】
ナフテン酸亜鉛と併用することができる防錆剤としては、例えば以下の化合物を例示できる。有機スルホン酸のアンモニウム塩、バリウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホン酸塩、有機カルボン酸塩、フェネート、フォスフォネート、アルキルもしくはアルケニルこはく酸エステル等のアルキル、アルケニルこはく酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類、1−メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類あるいはその金属塩、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプトチアジアゾール等のチアゾール類、2−(デシルジチオ)−ベンゾイミダゾール、ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、あるいは、2,5−ビス(ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール等のジスルフィド系化合物、あるいは、トリスノニルフェニルフォスファイト等のリン酸エステル類、ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル系化合物。
【0025】
また、必要に応じて、その他の添加剤として、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、増粘剤、金属不活性化剤、界面活性剤などの公知の添加剤を使用することができる。
【実施例】
【0026】
実施例1〜3および比較例1〜7
トリメリット酸エステル油としてトリメリット酸トリス(イソノニル)(40℃における動粘度;90mm/s、流動点;−38℃)と、合成炭化水素油としてポリαオレフィン油(40℃における動粘度;30mm/s、流動点;−55℃)との混合油からなる基油を表1に示す配合割合で調製した。なお、比較例5〜7に示すポリオールエステル油は、40℃における動粘度;71mm/s、流動点;−48℃の特性の商品名ハトコールH3144を用いた。また、ジアルキルジチオリン酸亜鉛はLubrizol社製、商品名BECROSAN9045を、ナフテン酸亜鉛系防錆剤はキレスト社製、商品名キレスガードCを、エステル系防錆剤は日油社製、商品名ノニオンOP−80Rを、スルフォネート系防錆剤はMORESCO社製、商品名スルホールCa−45Nを、アミン系酸化防止剤はVANDERBILT社製、商品名VANLUBE81を、フェノール系酸化防止剤はBASF社製、商品名IRGANOX L101をそれぞれ用いた。
【0027】
上記混合基油を2液に分割し、その半量に4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解し、残りの半量の混合基油に4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートのモル比で2倍当量となるシクロヘキシルアミンを溶解した。なお、混合基油全量に対して、脂環族ジウレア化合物として表1に示す配合割合となるように、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびシクロヘキシルアミンを溶解した。4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解した溶液を撹拌しながらシクロヘキシルアミン溶液を加えた後、100〜120℃で30分間撹拌を続けて反応させて脂環族ジウレア化合物を基油に配合した。これに表1に示す配合剤を表1に示す配合割合で加えてさらに100〜120℃で10分間撹拌した。その後冷却し三本ロールで均質化しグリース組成物を得た。このグリース組成物の各種性能を評価した。試験方法および試験条件を以下に示す。また、結果を表1に示す。
【0028】
(1)混和ちょう度
JIS K 2220 により測定した。
【0029】
(2)高温耐久性(ASTM D 3336準拠)
以下に示す、高温環境下でグリースを封入した転がり軸受を内輪回転で回転させ、転がり軸受が寿命に至るまでの時間を測定した。
軸受 : 6204(鉄保持器・金属シール)
試験温度 : 180℃
軸受回転数 : 10000rpm
試験荷重 : アキシャル荷重67N ラジアル荷重67N
グリース封入量: 1.8g
【0030】
(3)冷時異音性
以下に示す、低温環境下でグリースを封入した転がり軸受を外輪回転で回転させ、同一試験者による聴覚により冷時異音の発生の有無を評価し、全試験回数に対する冷時異音が発生しなかった回数の割合を合格率として評価した。
軸受 : 6203
試験温度 : −40℃
軸受回転数 : 0〜6670rpm
試験荷重 : ラジアル荷重250N
グリース封入量: 0.56g
【0031】
(4)低温トルク
JIS K 2220 により、−40℃における起動トルク、回転トルクをそれぞれ測定した。
【0032】
(5)水素脆性剥離性
グリースを封入した転がり軸受を外輪回転で急加減速させ、全試験回数に対する水素脆性剥離の発生しなかった回数の割合を合格率として評価した。
軸受 : 6203
試験温度 : 室温
軸受回転数 : 0〜12000rpm
試験荷重 : ラジアル荷重3000N
試験時聞 : 1000h
グリース封入量: 0.88g
【0033】
(6)軸受防錆性
グリースを塗布した円錐ころ軸受を1質量%の塩水に10秒間浸漬させ、高湿環境下で静置させた。試験後に軸受を取り出し、外輪転走面を目視で観察した。評価は外輪転走面を32区画に分割し、そのうち何区画に錆が発生しているかで、錆発生率を算出した。
軸受 : 4T−30204
グリース封入量: 2.1g
試験温度 : 40℃
試験湿度 : 100%RH
試験時間 : 48h
【0034】
【表1】
【0035】
実施例1〜3は高温耐久性・低温性・耐剥離性・防錆性の全ての性能を満足している。一方で、比較例1〜4は合成炭化水素油を使用していないため、低温性が劣り冷時異音の発生が懸念される。また、比較例1は耐剥離添加剤の添加量が少なく、水素脆性剥離の合格率が低い。比較例4は防錆剤が適切でなく、防錆性が劣る。さらに比較例5〜7に関しては合成炭化水素油を多く含むため、高温耐久性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のグリース組成物は、高温耐久性・低温性・耐剥離性・防錆性の全ての性能を満足しているので、より高い性能を要求される自動車電装補機に用いられる外輪回転用転がり軸受用として好適に利用できる。