(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560003
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】溶接構造物
(51)【国際特許分類】
B23K 26/244 20140101AFI20190805BHJP
B23K 26/28 20140101ALI20190805BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20190805BHJP
【FI】
B23K26/244
B23K26/28
B23K26/21 G
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-77870(P2015-77870)
(22)【出願日】2015年4月6日
(65)【公開番号】特開2016-196034(P2016-196034A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】奥出 竜基
(72)【発明者】
【氏名】柘植 薫
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−516082(JP,A)
【文献】
特開2009−233712(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/050097(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0222457(US,A1)
【文献】
仏国特許出願公開第3003492(FR,A1)
【文献】
特開2011−230158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材と、
前記第1の部材とレーザ溶接によって接合され、少なくとも1本の溶接線を有する溶接施工部が形成された第2の部材と、
を備え、
前記溶接線の各端部は、前記溶接施工部を最短の長さで囲む1本の外周線から離間して配置され、
前記溶接線の各端部は、前記溶接施工部が有する前記少なくとも1本の溶接線に360度囲まれており、
前記溶接線は、前記端部同士の間に開口部が形成されたC字状である、溶接構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接構造物であって、
前記溶接線の各端部である第1の端部及び第2の端部は、前記第1の端部及び前記第2の端部を有する前記溶接線に360度囲まれている、溶接構造物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の溶接構造物であって、
少なくとも一部が前記外周線に沿って配置された前記溶接線の前記開口部が、前記外周線に面していない、溶接構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両において、パイプと取付部材との接合など、レーザ溶接による部品同士の接合が施されている溶接構造物が知られている。例えば、特許文献1には、C字状の溶接線を有する溶接施工部が形成された溶接構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−145285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、レーザ溶接による溶接線の端部(溶接の始点及び終点)は、ポロシティ(空洞)が発生しやすい等の理由により、安定して良好な溶接強度が得られにくく、応力が溶接線の端部に集中する場合、溶接施工部のはがれが発生する問題があった。
【0005】
本発明は、溶接施工部のはがれが生じにくい溶接構造物の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、溶接構造物であって、第1の部材と、第2の部材と、を備える。第2の部材は、第1の部材とレーザ溶接によって接合され、少なくとも1本の溶接線を有する溶接施工部が形成されている。溶接線の各端部は、溶接施工部を最短の長さで囲む1本の外周線から離間して配置される。
【0007】
このような構成によれば、溶接線の各端部が溶接施工部における最も外側の位置(外周線に隣接する位置)よりも内側に配置され、溶接施工部に荷重が加わった際に各端部よりも先に溶接線における端部以外の部分に応力がかかりやすくなるため、各端部への応力の集中が抑制される。よって、溶接施工部のはがれが生じにくい溶接構造物の提供が可能となる。
【0008】
上記構成において、溶接線の各端部は、溶接施工部が有する少なくとも1本の溶接線に360度囲まれていてもよい。このような構成によれば、溶接施工部にどの方向から荷重が加わった場合にも、各端部よりも先に溶接線における端部以外の部分に応力がかかるため、各端部に応力が集中することを抑制することができる。
【0009】
上記構成において、溶接線の各端部である第1の端部及び第2の端部は、第1の端部及び第2の端部を有する溶接線に360度囲まれていてもよい。このような構成によれば、1本の溶接線によっても、第1の端部及び第2の端部に応力が集中することを抑制することができる。
【0010】
上記構成において、溶接線は、端部同士の間に開口部が形成されたC字状であってもよい。このような構成によれば、溶接線が閉じた形状に形成される場合と比較して、溶接線により囲まれた部分に孔が空いてしまうことを防ぐことができる。
【0011】
上記構成において、少なくとも一部が外周線に沿って配置された溶接線の開口部が、外周線に面していなくてもよい。このような構成によれば、少なくとも一部が外周線に沿って(溶接施工部における最も外側の位置に)配置された溶接線の各端部が、外周線に隣接する位置に配置されない。よって、溶接施工部に1本のみ形成された場合には端部が外周線に隣接する位置に配置される形状の溶接線であっても、複数本の配置により端部が外周線に隣接しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態のインパネリインフォースメントの全体図である。
【
図2】第1実施形態の大径パイプ及びブレースブラケットの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1に示す第1実施形態のインパネリインフォースメント10は、車両を構成する溶接構造物であり、インストルメントパネル内において車両幅方向(車両左右方向)に沿って、図示しない運転席側ピラーと助手席側ピラーとの間に配設されている。なお、車両左右方向における左右とは、車両後方から車両前方を見た際の左右のことをいい、
図1に示すインパネリインフォースメント10では、左端部11(運転席側)が左側となり、右端部12(助手席側)が右側となる。インパネリインフォースメント10は、大径パイプ2と、小径パイプ3と、ブレースブラケット4と、を備える。
【0014】
大径パイプ2は、インパネリインフォースメント10の左端部11を含む運転席側部分を構成している。大径パイプ2は、ブラケット等の部材を介して、ステアリングコラム(図示せず)を支持している。
【0015】
小径パイプ3は、インパネリインフォースメント10の右端部12を含む運転席とは反対側(助手席側)の部分を構成している。小径パイプ3の外径は、大径パイプ2の外径よりも小さい。また、小径パイプ3の厚み(板厚)は、大径パイプ2の厚みよりも薄い。小径パイプ3は、大径パイプ2と溶接等により連結されている。
【0016】
ブレースブラケット4は、インパネリインフォースメント10の車両下方側に配設されているフロアブレース(図示せず)を大径パイプ2に固定する鋼板状の部材である。
図2に示すように、ブレースブラケット4は、U字状に折り曲げられた形状の本体部40と、本体部40から延設されたフランジ部41と、を備える。本体部40には、締結孔42が形成されている。フランジ部41は、ブレースブラケット4の端部に形成され、大径パイプ2と当接する。フランジ部41は、大径パイプ2とレーザ溶接によって接合され、接合された箇所が、後述する溶接施工部6となる。本体部40は、締結孔42に挿通されたボルト5によりフロアブレースの上端部に締結される。このようにして、大径パイプ2にフロアブレースが固定される。なお、フロアブレースの下端部は車体フロア(図示せず)に固定されている。
【0017】
次に、レーザ溶接によって形成される溶接施工部6について具体的に説明する。
図3に示すように、溶接施工部6は、レーザ溶接によって、フランジ部41に溶接の軌跡である溶接線61が施されることにより形成される。本実施形態では、溶接施工部6は、複数(この例では4本)の溶接線61を有する。各溶接線61は、溶接の始点及び終点である2つの溶接端部62同士の間に開口部610が形成されたC字状の形状である。各溶接線61は、2つの円弧611を有する。
【0018】
外周線63は、溶接施工部6を最短の長さで囲む1本の仮想線である。外周線63は、溶接施工部6が有するすべて(この例では4本)の溶接線61を包含するようにして描かれる。本実施形態では、各溶接線61の一部が外周線63に沿って(溶接施工部6における最も外側の位置に)配置されており、各溶接線61の開口部610が、外周線63に面しないよう配置されている。その結果、各溶接端部62は、外周線63から離間して配置されている。なお、ここでいう「離間して配置」とは、溶接端部62が溶接施工部6における最も外側の位置(外周線63に隣接する位置)よりも内側に配置されることを意味する。
【0019】
[1−2.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)ブレースブラケット4は、大径パイプ2とレーザ溶接によって接合される。ブレースブラケット4には、4本の溶接線61を有する溶接施工部6が形成されている。溶接線61の各溶接端部62は、溶接施工部6を最短の長さで囲む1本の外周線63から離間して配置される。
【0020】
このような構成によれば、溶接線61の各溶接端部62が溶接施工部6における最も外側の位置(外周線63に隣接する位置)よりも内側に配置される。したがって、例えば車両の衝突などの衝撃により溶接施工部6に荷重が加わった際に、溶接端部62よりも先に溶接線61における溶接端部62以外の部分に応力がかかりやすくなるため、溶接端部62への応力の集中が抑制される。よって、溶接施工部6のはがれが生じにくいインパネリインフォースメント10の提供が可能となる。
【0021】
すなわち、例えば、
図5に示すように、溶接端部82が外周線83と隣接する位置に配置された溶接施工部8では、開口部810の方向(方向a)に荷重が加わると、溶接端部82に応力が集中しやすくなる。溶接端部82は、溶接線81における溶接端部82以外の部分と比較して、溶接加工の性能上溶接強度(許容応力)が劣るため、荷重の大きさによっては、溶接施工部6のはがれが発生する場合がある。
【0022】
これに対し、第1実施形態の溶接施工部6では、4つの溶接線61のそれぞれの開口部610が外周線63に面しておらず、各溶接端部62が、外周線63に隣接する位置よりも内側に配置されている。その結果、溶接端部62への応力の集中を抑制することができる。
【0023】
(1b)溶接線61は、溶接端部62同士の間に開口部610が形成されたC字状の形状を有する。このような構成によれば、溶接線が閉じた形状に形成される場合と比較して、溶接線61により囲まれた部分に孔が空いてしまうことを防ぐことができる。
【0024】
(1c)溶接線61の開口部610が、外周線63に面していない。このような構成によれば、溶接線61の各溶接端部62が、外周線63に隣接する位置に配置されない。よって、溶接施工部に1本のみ形成された場合には溶接端部が外周線に隣接する位置に配置される形状(単純なC字状)の溶接線であっても、複数本の配置により溶接端部が外周線に隣接しないようにすることができる。
【0025】
[2.第2実施形態]
図4に示す第2実施形態の溶接施工部7は、第1実施形態の溶接線61とは形状が異なる1本の溶接線71を有する。つまり、第2実施形態は、4本の溶接線61を有する溶接施工部6に代えて、1本の溶接線71を有する溶接施工部7が形成されている点で、第1実施形態と異なる。その他、基本的な構成は第1実施形態と同様であり、第1実施形態と共通する構成については、同一符号を用いて説明を省略する。
【0026】
溶接線71は、第1実施形態の溶接線61と同様、レーザ溶接によって形成され、円弧711を含むC字状の形状を有しているが、溶接の始点及び終点付近における形状が異なる。すなわち、溶接線61の各溶接端部62は、円弧611から延長された直線部分の末端であるのに対し、溶接線71の各溶接端部72は、開口部710から更に円弧711の内部側に回り込むように描かれる円弧712の末端である。このため、各溶接端部72は、溶接施工部7を最短の長さで囲む1本の仮想線である外周線73から離間して配置される。特に、本実施形態では、各溶接端部72が、溶接線71における溶接端部72以外の部分に360度囲まれるように配置されている。ここでいう「360度囲まれる」とは、溶接端部72と外周線73上の任意の点とを結ぶ直線が必ず溶接線71と交わることを意味する。
【0027】
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の(1a)の効果に加え、以下の効果が得られる。
(2a)溶接線71の溶接端部72は、溶接線71に360度囲まれている。このような構成によれば、溶接施工部7にどの方向から荷重が加わった場合にも、各溶接端部72よりも先に、例えば円弧711など、溶接線71における溶接端部72以外の部分に応力がかかるため、各溶接端部72に応力が集中することを抑制することができる。
【0028】
なお、上記第1及び第2実施形態では、インパネリインフォースメント10が溶接構造物の一例に相当し、大径パイプ2が第1の部材の一例に相当し、ブレースブラケット4が第2の部材の一例に相当する。
【0029】
[3.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を取り得ることは言うまでもない。
【0030】
(3a)上記各実施形態では、C字状の溶接線61,71を例示したが、溶接線の形状はこれに限定されるものではない。例えば、溶接線61,71とは形状の異なるC字状であってもよく、C字状以外の形状であってもよい。なお、ここでいう「C字状」とは、全体としてある部分を取り囲む形状であって、閉じた形状(O字状)ではなく、開口部が形成された形状を意味する。すなわち、厳密なCの形状が要求されるものではなく、例えば第1実施形態のように、円弧611の間や開口部610の近辺など、少なくとも一部に直線部分が含まれてもよい。また例えば、円弧611は、開口部610の中心を軸として対称に配置されていなくてもよく、各円弧611の大きさが異なっていてもよい。
【0031】
(3b)上記第1実施形態では、溶接施工部6が4本の溶接線61を有する構成を例示し、上記第2実施形態では、溶接施工部7が1本の溶接線71を有する構成を例示したが、溶接線の本数はこれに限定されるものではなく、何本であってもよい。
【0032】
(3c)上記第2実施形態では、溶接線71の溶接端部72が溶接線71に360度囲まれている形状としてC字状の形状を例示したが、これに限定されるものではなく、例えばS字状の形状でもよい。また例えば、溶接施工部が複数本の溶接線を有し、各溶接端部がいずれかの溶接線に360度囲まれるようにしてもよい。例えば、
図6に示す変形例の溶接施工部9は、2本の溶接線911の各溶接端部が、溶接線911の内部側に若干回り込むように配置される。その結果、各溶接線911の各溶接端部が、いずれかの溶接線911に360度囲まれる。このような変形例によっても、第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0033】
(3d)上記各実施形態では、大径パイプ2とブレースブラケット4との溶接部に本発明が適用された構成を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、インパネリインフォースメント10における他の溶接部に適用されてもよい。また例えば、本発明は、車両を構成する他の溶接構造物に適用されてもよい。また例えば、本発明は、車両以外で用いられる溶接構造物に適用されてもよい。
【0034】
(3e)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【符号の説明】
【0035】
2…大径パイプ、3…小径パイプ、4…ブレースブラケット、5…ボルト、6,7,8,9…溶接施工部、10…インパネリインフォースメント、11…左端部、12…右端部、40…本体部、41…フランジ部、42…締結孔、61,71,81,911…溶接線、62,72,82…溶接端部、63,73,83…外周線、610,710,810…開口部、611,711,712…円弧。