(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
石炭焚ボイラから排出される排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝触媒を有してなる脱硝装置と、該脱硝装置に前記石炭焚ボイラから前記排ガスを導くダクトとを備え、前記ダクトは、前記ボイラの排ガス出口に接続された水平ダクトと、該水平ダクトに接続された垂直ダクトと、前記水平ダクトと前記垂直ダクトの接続部の下部に設けられたホッパとを有してなる排ガス処理装置において、
前記ホッパの上端開口部に、前記排ガス中の灰粒子を衝突させて前記ホッパ内に落下させる衝突板を設け、
前記衝突板は、長方形に形成され、短辺の幅は前記水平ダクトの縦幅の2〜7%に設定され、長辺の下辺を前記水平ダクトの底壁の延長面に対応する前記ホッパの上端開口面に位置させて前記水平ダクトの幅方向に延在され、前記水平ダクトから見た前記ホッパの上端開口の奥側の端から、上端開口の長さの1/4〜3/4の範囲内に位置させて設けられていることを特徴とする排ガス処理装置。
前記排ガス出口は、前記石炭焚ボイラの熱回収伝熱管が設置された下向き排ガス流路の側壁に形成され、前記排ガス出口の前記排ガス流路の前記水平ダクトよりも上部の側壁から排ガス流路内に張出部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の排ガス処理装置。
さらに、前記水平ダクトは、前記ホッパの上流側の離れた位置の対向する一対の側壁の上端から下端にかけて、一対の側壁衝突板が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の排ガス処理装置。
さらに、前記水平ダクトは、前記一対の側壁衝突板の上流側の天井壁から垂下させて天井衝突板が設けられ、該天井衝突板は、天井壁の幅の中央部から両側壁に向けて延在された一対の板片で形成され、該一対の板片のなす角度が45°〜70°に設定され、かつ板面を前記水平ダクトの上流側に天井壁に対して30°〜60°傾けて設けられていることを特徴とする請求項6に記載の排ガス処理装置。
【背景技術】
【0002】
例えば、石炭焚火力発電用ボイラの燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去するために、排ガス中に還元剤(例えば、アンモニア)を注入し、脱硝触媒でNOxをN
2に還元する脱硝装置が一般に採用されている。この脱硝装置は、例えば、特許文献1に記載されているように、石炭を燃料とするボイラのスーパヒータやエコノマイザ(節炭器)などの熱交換器から排出される排ガスを、水平ダクトと垂直ダクトを介して脱硝装置の頂部に導くようになっている。脱硝装置には窒素酸化物を還元する脱硝触媒が備えられ、脱硝触媒の上流側の垂直ダクト又は脱硝装置の入口側のダクトに設けられたノズルから、排ガス中に還元剤を注入するようになっている。脱硝触媒は、一般に、板状又はハニカム状に形成された複数の触媒を層状に積層して形成されており、触媒層の目開きは通常5〜6mm程度である。
【0003】
一方、石炭焚ボイラは、石炭をミルで平均粒径が100μm以下の微粉炭に粉砕し、火炉に供給して燃焼するようにしている。その燃焼によって生成される粉塵又は灰分(以下、灰粒子と総称する。)の大きさは、通常数10μm以下である。しかし、ボイラの伝熱管や側壁に付着したスラグやクリンカを、スートブロアなどで吹き飛ばすと、5〜10mm程度の灰の塊が生じ、排ガスとともに脱硝装置まで飛来し、触媒層に堆積する原因となる。このような灰の塊が触媒表面に堆積すると、排ガス流を妨げ脱硝反応を阻害するという問題がある。
【0004】
そのような灰の塊による不都合に対応するため、特許文献1又は特許文献2に記載されているように、水平ダクトと垂直ダクトの接続部の下部にホッパを設けてホッパ内に灰の塊を捕集することが提案されている。また、ボイラから脱硫装置に導くダクト内の排ガス流速を遅くして、水平ダクト内又は垂直ダクト内に金網状のスクリーンを設置して灰の塊を捕集することが提案されている。あるいは、垂直ダクトの内壁部に複数枚の板状部材からなるルーバを設置したり、邪魔板を設置することにより、灰の塊を捕集して垂直ダクトの下部のホッパに落下させることが提案されている。
【0005】
また、特許文献3によれば、水平ダクト内の上流側に排ガス流を下向きに偏流させる板部材を設置して、灰粒子を水平ダクトの底壁側に偏流させてホッパに捕集させるようにすることが提案されている。また、同文献には、水平ダクトの底壁から捕集板をホッパ内の上部に延長して設け、排ガス流が捕集板に巻き込まれる渦流を利用して、灰粒子をホッパ内に捕集することが提案されている。さらに、同文献には、水平ダクト内の排ガス流れが衝突するホッパと垂直ダクトとの接続部に、水平な偏向板をホッパ内の上部に張り出して設け、この偏向板によりホッパ内に流入したガス流れを上述した捕集板の下面に導き、灰粒子の捕集効果を高めることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献では、直径が100〜300μmの灰粒子が含まれている場合については考慮されていない。すなわち、中国やインドなどでは、オーストラリア産の高品質な石炭だけではなく、灰分が多く、微粉砕することが困難な品質の石炭を使用する石炭焚ボイラが計画されている。例えば、中国の内モンゴル地区で産出される石炭(A炭)の工業分析値及び排ガス中に含まれる灰粒子の粒径分布を測定した結果、オーストラリア産の石炭(B炭)の灰分が約13%であるのに対し、A炭の灰分は47%と多い。また、灰分の粒度分布は、B炭の場合は99%の粒子が直径100μm以下であるのに対し、A炭の場合は100μm以下の粒子は50%程度である。つまり、A炭の場合は、灰の半分が100μm以上の粒子で構成されている。
【0008】
このように、排ガス中に30〜40%以上の灰分が含まれる場合、あるいは100μm以上の大きな粒径の灰粒子が含まれると、脱硝触媒が短時間で摩耗されるという問題が新たに生じることが判明した。例えば、特許文献に提案されている金網状スクリーンでは、触媒層の目開きよりも大きな5〜10mm程度の灰の塊は除去できるが、それより小さい100μm〜5mmの灰粒子を除去することはできない。
【0009】
これに対して、金網状のスクリーンの目開きを例えば100μmにすると、ダクトにおける圧力損失が大きくなるだけでなく、スクリーンの目詰まりの発生頻度が高くなる問題がある。また、直径が100〜300μmの灰粒子は、流速が数m/sの排ガス流に同伴されるため、ダクトの内壁に複数枚の板状部材からなるルーバを設置しても、ルーバに衝突した灰は、再び気流に同伴されて、後流側に吹き飛ばされるから、脱硝触媒が摩耗されるという問題を解決することができない。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、直径が100μm以上の灰粒子による脱硝触媒の摩耗を抑制することができる排ガス処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らが、ボイラ出口から水平ダクトと垂直ダクトを介して脱硝装置まで導かれる排ガスに同伴される灰粒子の軌跡を数値解析手法により鋭意研究した結果、後述するように、直径が30μmの灰粒子はダクト内部にほぼ均一に分散して脱硝装置まで到達するのに対し、直径が200μmの灰粒子は、水平ダクトの下部に偏在して排ガスに同伴されることを知見した。
【0012】
そこで、本発明は、石炭焚ボイラから排出される排ガス中の窒素酸化物を還元する脱硝触媒を有してなる脱硝装置と、該脱硝装置に前記石炭焚ボイラから前記排ガスを導くダクトとを備え、前記ダクトは、前記石炭焚ボイラの排ガス出口に接続された水平ダクトと、該水平ダクトに接続された垂直ダクトと、前記水平ダクトと前記垂直ダクトの接続部の下部に設けられたホッパとを有してなる排ガス処理装置において、前記ホッパの上端開口部に、前記排ガス中の灰粒子を衝突させて前記ホッパ内に落下させる衝突板を設けることを第1の特徴とする。
【0013】
第1の特徴を有する本発明によれば、ホッパの上端開口部、つまり水平ダクトの底壁の延長面に、排ガス中の灰粒子を衝突させてホッパ内に落下させる衝突板を設けることにより、水平ダクトの下部に偏在して排ガスに同伴される100μm以上の灰粒子を衝突板に衝突させて、選択的にホッパに捕集することができる。その結果、100μm以上の灰粒子を高効率でホッパに捕集できるから、粒径の大きな灰粒子により脱硝触媒が摩耗するのを抑制することができる。
【0014】
この場合において、前記衝突板は、長方形の長辺を前記水平ダクトの底壁の延長面に対応する前記ホッパの上端開口面に接して、かつ前記水平ダクトの幅方向に延在させて設置することが好ましい。これによれば、水平ダクトの下部である底壁側に偏在して排ガスに同伴される100μm以上の灰粒子を衝突板に効果的に衝突させてホッパ内に落下させることができる。また、衝突板は、100μm以上の灰粒子が水平ダクトの底壁側に偏在して飛散する領域に対応する短辺を有する長方形であればよいから、排ガス流れの圧力損失を低く抑えることができる。
【0015】
また、衝突板の設置位置は、水平ダクトから見たホッパの上端開口の奥側の端から、上端開口の長さの1/4〜3/4に相当する範囲内に設けられていればよい。また、衝突板は、ホッパの上端開口面に対して水平ダクト側に設定角度
a(但し、0°<a<90°)傾けて設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明は、さらに、前記ホッパの内部に前記水平ダクトの延長線に直交し、かつ鉛直方向に垂下された仕切板を設けることを第2の特徴とする。
【0017】
第2の特徴によれば、水平ダクトを流通する排ガスが、ホッパの壁面に衝突してホッパの側壁から底部に向かい、底部に捕集された灰粒子の堆積面で反転して上昇する流れを抑制(小さく)することができる。その結果、ホッパ内に捕集された灰粒子の再飛散を抑えることができるから、脱硝触媒に達する100μm以上の灰粒子の量を抑制することができる。この場合、仕切板は、水平ダクトから見たホッパの上端開口の奥側の端から、上端開口の長さの1/2に相当する位置、つまり中心位置に設けられていることが好ましい。
【0018】
本発明は、前記水平ダクトが接続される前記排ガス出口は、前記石炭焚ボイラの熱回収伝熱管が設置された下向き排ガス流路の側壁に形成され、前記排ガス出口の前記排ガス流路の前記水平ダクトよりも上部の側壁から排ガス流路内に張出部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、直径が100μm以上の灰粒子による脱硝触媒の摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の排ガス処理装置の第1実施形態の全体構成図である。
【
図2】第1実施形態の特徴であるホッパ部の拡大斜視図である。
【
図3】第1実施形態の脱硝触媒の一例の斜視図である。
【
図4】炭種の違いによる灰粒子の粒径分布の一例を示す図である。
【
図5】石炭の工業分析値及び灰組成分析の結果を示す図である。
【
図6】ボイラ出口から水平ダクト、垂直ダクト及び脱硫装置に至る灰粒子の粒径の違いによる飛散軌跡を数値解析した図である。
【
図7】第1実施形態の衝突板を設置した場合のガス流速分布の解析結果を示す図である。
【
図8】第1実施形態の衝突板を設置した場合の大粒径の灰粒子の軌跡を解析した結果を示す図である。
【
図9】第1実施形態の再飛散防止板を設置した場合のガス流速分布を解析した結果を示す図である。
【
図10】第1実施形態の衝突板の位置について検討した結果を示す図である。
【
図11】第1実施形態の再飛散防止板の形状について検討した結果を示す図である。
【
図12】
図11の再飛散防止板の形状ごとの灰粒子捕集率の違いを示す図である。
【
図13】第1実施形態による粒子径100、200、360μmの飛散割合を従来と比較して示す図である。
【
図14】第1実施形態において、水平ダクトが接続されるボイラ出口に張出部を設けた変形例を説明する図である。
【
図15】
図13の張出部の有無による灰粒子捕集率の違いを示す図である。
【
図16】本発明の排ガス処理装置の第2実施形態の主要部構成図である。
【
図17】第2実施形態の側壁衝突板の角度αと灰粒子の捕集率との計算結果を示す図である。
【
図18】第2実施形態の側壁衝突板の角度βと灰粒子の捕集率との計算結果を示す図である。
【
図19】第2実施形態の側壁衝突板の板幅dと灰粒子の捕集率との計算結果を示す図である。
【
図20】第2実施形態の側壁衝突板の下端とホッパ上部との離間距離L1と灰粒子の捕集率との計算結果を示す図である。
【
図21】第3実施形態の天井衝突板の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の排ガス処理装置を実施形態に基づいて説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1を参照して、本発明の排ガス処理装置の第1実施形態の全体構成を説明する。石炭焚ボイラ1は、図示していないミルなどの粉砕機により粉砕された石炭2を、燃焼用ガス3により燃焼するバーナ4を備えて構成される。また、石炭焚ボイラ1の火炉内及び排ガス流路内に水が流通される複数の熱回収伝熱管5が設けられ、さらに石炭焚ボイラ1の下流側の排ガス流路内に熱回収伝熱管の1つであるエコノマイザ(節炭器)6が設けられている。これにより、石炭焚ボイラ1は図示していない発電タービンを駆動する蒸気を発生するようになっている。
【0023】
エコノマイザ6の下方のボイラ側壁に石炭焚ボイラ1の排ガス出口7が設けられ、排ガス出口7に水平ダクト8が接続されている。水平ダクト8の他端は垂直ダクト9の側壁に接続され、垂直ダクト9の上端は脱硝装置10の入口ダクト10aに接続されている。これにより、石炭焚ボイラ1で石炭を燃焼して発生した排ガスは、排ガス出口7から水平ダクト8と垂直ダクト9を介して、脱硝装置10の頂部に導かれるようになっている。脱硝装置10は、内部に
図3に示すような脱硝触媒10bが充填され、垂直ダクト9の途中に設けられたアンモニア供給ノズル10cから還元剤としてアンモニアが注入されるようになっている。これにより、脱硝装置10は、排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を還元して排出するようになっている。脱硝装置10から排出されるNOxが除去された排ガスは、燃焼用ガスを加熱するエアヒータ11、集塵器12、脱硫装置13を経て、煙突14から大気中に放出されるようになっている。
【0024】
次に、本発明の特徴部の構成について説明する。
図1及び
図2に示すように、水平ダクト8の終端に接続された垂直ダクト9の下部に、水平ダクト8の幅方向に沿って、複数のホッパ15が設置されている。ホッパ15の上端開口面は、水平ダクト8の底壁面の位置に合わせて設置されている。ホッパ15の上端開口面に位置させて排ガス中の灰粒子を衝突させて、ホッパ15内に落下させる衝突板16が設けられている。本実施形態の衝突板16は、長方形に形成され、長辺を水平ダクト8の底壁の延長面に対応するホッパの上端開口面に接して、かつ水平ダクトの幅方向に延在させて設置されている。衝突板16の短辺の幅は、後述するように、水平ダクト8の底壁に沿って飛散される大粒径の灰粒子の流れの厚みに応じて定められる。例えば、衝突板16の短辺の幅は、水平ダクト8の縦幅Hの2〜7%の幅の範囲から選択することができ、排ガス流の圧力損失と灰粒子の捕集率との関係を考慮して定める。
【0025】
また、各ホッパ15の内部に再飛散防止用の仕切板17が設置されている。つまり、ホッパ15の内部に水平ダクト8の延長線に直交し、かつ鉛直方向に垂下された仕切板17が設けられている。これによれば、水平ダクト8を流通する排ガスが、垂直ダクト9とホッパ15の壁面に衝突してホッパ15の側壁から底部に向かい、底部に捕集された灰粒子の堆積面で反転して上昇する流れを抑制(小さく)して、捕集された灰粒子の再飛散を抑制することができる。
【0026】
このように構成される本発明の第1実施形態を用いて、
図5に示した低質炭であるA炭を使用して運転する場合を例に動作を説明する。石炭焚ボイラ1に石炭2と燃焼用ガス3として空気をバーナ4に供給してA炭を燃焼する。A炭の燃焼反応によって発生した熱により、図示していない水冷壁、伝熱管、過熱器5及びエコノマイザ6等の熱回収伝熱管により水を加熱して蒸気を発生させ、図示しないタービン発電機により発電する。
【0027】
石炭焚ボイラ1でA炭の燃焼により生じた排ガスは、エコノマイザ6の出口側である排ガス出口7から排出される。このとき、A炭は低質炭であるため、排ガス中に直径が100〜300μmの灰が多量に含まれている。この排ガス中の大径(例えば、直径100〜300μm)の灰粒子は、水平ダクト8を流通する間に水平ダクト8の底壁部に集められる。そして、水平ダクト8の底壁部に集められた大径の灰粒子は、垂直ダクト9下部に設置した衝突板16に衝突してホッパ15内に落下される。また、ホッパ15内部には、仕切板17が設置されているため、捕集された大径の灰粒子は再飛散することなく、ホッパ15内に保持される。
【0028】
このようにして、大径の灰粒子がほとんど除去された排ガスに、垂直ダクト9に設置したアンモニア供給ノズル10cからアンモニアが供給され、脱硝触媒10bに導かれる。そして、脱硝触媒10bを通過する間に排ガス中のNOxは還元されて、窒素と水に分解される。ここで、脱硝触媒10bを通過する排ガス中の灰粒子には、100μm以上の粒子がほとんど除去されているので、脱硝触媒10bが摩耗することはほとんどない。その後、排ガスはエアヒータ11で燃焼用空気と熱交換して低温となり、集塵器12で灰粒子が除去され、さらに脱硫装置13で硫黄酸化物が除去された後、煙突14から大気中に放出される。
【0029】
ここで、第1実施形態による大径の灰粒子の除去作用について、
図6〜
図9を参照して詳細に説明する。まず、本発明に至る過程で、数値解析により得た知見について説明する。排ガス出口7から脱硝触媒10bまでの灰粒子の軌跡を解析した結果を
図6に示す。数値解析は、第1実施形態の衝突板16及び仕切板17を設けない条件で、かつ石炭焚ボイラ1のエコノマイザ6の出口面で灰粒子が均一に分散していると仮定して、排ガスの流れと灰粒子の軌跡を求めた。
図6(a)は、灰粒子の直径が30μmの例であり、
図6(b)は200μmの場合の軌跡を表示している。そられの図から、直径が30μmの灰粒子はダクト内部をほぼ均一に分散して脱硝触媒10bまで到達することが分かる。これに対し、直径が200μmの灰粒子は、垂直ダクト9の入口部分で水平ダクト8の下部に偏在していることが分かる。この結果を踏まえて、第1実施形態では、垂直ダクト9の下部にホッパ15を設置し、ホッパ15の上部に衝突板16を設置することで、水平ダクト8の下部に偏在して飛散する灰粒子を選択的にホッパ15に導いて捕集するようにしている。
【0030】
ホッパ15の上部に衝突板16を設置した場合の数値解析結果を
図8に示す。水平ダクト8の下部に偏在している灰粒子が軌跡20に示すように衝突板16に衝突し、ホッパ15に捕集されていることが分かる。また、この場合の速度分布の計算結果を
図7に併せて示すが、ホッパ15の内部の排ガス流速は、数m/s以下まで遅くなっているため、ホッパ15の内部の灰粒子が再飛散する割合を低減することができる。
【0031】
さらに、ホッパ15の内部に仕切板17を設置した場合の数値解析結果を
図9に示す。ホッパ15の内部に仕切板17を設置することで、ホッパ15内部の排ガス流れが抑制され、ホッパ15の内部に捕集された灰の再飛散量を大幅に低減することができる。
【0032】
次に、衝突板16の最適な設置位置について検討した結果を
図10に示す。同図(a)に示すように衝突板16の位置を変えて、煤塵捕集率を評価した結果を同図(b)に示す。衝突板16の位置は、水平ダクト8側から見たホッパ15の上端開口の奥側の端を基点0として、基点0及びホッパ上端開口の長さLの1/4〜3/4に対応する位置に水平ダクト8側にずらして設定した。この結果、
図10(b)に示すように、衝突板16の位置を基点0に設置した場合は、捕集率が低下することが分かる。
図10(b)の結果から、衝突板16の位置は、
図10(a)の長さLに対し、基点0から1/4〜3/4の位置が効果的であることが分かる。また、排ガス流れの影響を考慮すると、
図7に示すように、排ガス流れを妨害しない基点0から1/4の位置に設置することが最適と考えられる。
【0033】
次に、再飛散防止用の仕切板17の形状について検討した結果を
図11、
図12に示す。仕切板17は、
図11(a)〜(d)に示すように、ホッパ15の上述した基点0から、ホッパ上端開口の長さLに対して、ほぼ1/2の位置に垂下して設ける点は同じである。
図11(a)は、ホッパ15の高さ方向の全体にわたって仕切板17を設置した場合であり、同図(b)は下部を1/4短くした場合、同図(c)は上部を1/4短くした場合、同図(d)は上部、下部をそれぞれ1/4短くした場合である。その結果、
図12に示すように、いずれの形状であっても再飛散防止効果の差異は小さく、仕切板17の鉛直方向の長さの再飛散防止に及ぼす影響は小さいことがわかった。
【0034】
以上述べたように、第1実施形態によれば、直径が少なくとも100μm以上の灰粒子を、脱硝触媒10bに達する前にホッパ15にほとんど捕集することができる。その結果、それらの大粒径の灰粒子が脱硝触媒10bに達する量を大幅に低減できるので、脱硝触媒10bの摩耗を抑制することができる。
【0035】
すなわち、
図4、
図5に示したとおり、A炭は例えば中国の内モンゴル地区で産出される石炭であり、B炭はオーストラリア産の石炭である。
図5の工業分析値及び排ガス中に含まれる灰粒子の粒径分布の測定結果を見ると、A炭は、石炭中の灰分が47%と多いことが分かる。また、
図4に示す灰粒子の粒度分布を見ると、B炭の場合は99%の粒子が直径100μm以下であるのに対し、A炭の場合は、100μm以下の粒子は50%程度であり、灰粒子の半分が100μm以上の灰粒子で構成されていることが分かる。
【0036】
また、A炭の燃料のように、排ガス中に30〜40%以上の灰分が含まれる場合、あるいは100μm以上の大きな粒径の灰分が含まれると、脱硝触媒が短時間で摩耗されるという問題が生じる。例えば、特許文献1に提案されている5〜10mm程度の灰の塊を除去するために設けた金網状スクリーンでは、脱硝触媒10bの目開きよりも大きな灰の塊は除去できるが、それより小さい100μm〜5mmの灰粒子を除去することはできない。逆に、金網状のスクリーンの目開きを、例えば、100μmにすると、ダクトにおける圧力損失が大きくなるだけでなく、スクリーンの目詰まりの発生頻度が大きくなる。また、直径が100〜300μmの灰粒子は、流速が数m/sの排ガス流に同伴されるため、ダクトの内壁に複数枚の板状部材からなるルーバ状板を設置しても、ルーバに衝突した灰は、再び気流に同伴されて、後流側に吹き飛ばされ、脱硝触媒が摩耗されることになる。本発明の第1実施形態によれば、従来技術の問題を解決して、100μm以上の灰粒子を含む石炭を用いても、簡単な構成で100μm以上の灰粒子を含む排ガスによる脱硝触媒の摩耗損傷を防ぐことができる。
【0037】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態に加えて、
図14(a)に示すように、水平ダクト8が接続される排ガス出口7がエコノマイザ6の側壁の下方に形成されている場合、排ガス出口7の開口上部の側壁から排ガス流路内に張出部23を設けることができる。すなわち、水平ダクト8が接続される排ガス出口7は、石炭焚ボイラ1の熱回収伝熱管の1つであるエコノマイザ6が設置された下向き排ガス流路の側壁に形成されている。特に、排ガス出口7の水平ダクトよりも上部の排ガス流路の側壁から排ガス流路内に張出部23が設けられている。同図(b)は、張出部23を設けていない第1実施形態に相当する。
【0038】
本変形例によれば、
図15に示すように、張出部23を設けることにより灰粒子捕集率Aが、張出部23を設けていない灰粒子捕集率Bに比べて、大幅に向上することがわかる。これは、張出部23を設けることで、灰粒子を水平ダクトの下側に集める効果が増大し、ホッパ15での灰粒子捕集率が向上したと考えられる。なお、張出部23の張出量は、大きいほど灰粒子の分離効果が期待できるが、圧力損失が増加に伴うファン動力が増加することを考慮し、最大でも流路の1/4程度とするのが望ましい。
【0039】
(第2実施形態)
図16に、本発明の排ガス処理装置の第2実施形態の主要部の構成図を示す。第2実施形態が第1実施形態と相違する点は、水平ダクト8内に側壁衝突板を設けたことにあり、その他の点は、第1実施形態と同一であることから、同一の構成部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
図16(a)は、水平ダクト8とホッパ15の内部を透視して示す側面図であり、同図(b)は水平ダクト8とホッパ15の内部を透視して示す平面図である。
図16(b)に示すように、水平ダクト8の対向する側壁に一対の側壁衝突板31a,31bが対称に設けられている。この一対の側壁衝突板31a,31bは、
図16(b)に示すように、水平ダクト8の上流側の側壁に対して角度α傾けて設けられている。また、側壁衝突板31a,31bは、
図16(a)に示すように、水平ダクト8の上流側の底壁に対して角度β傾けて設けられている。さらに、側壁衝突板31a,31bの下端の位置は、水平ダクト8とホッパ15との接続位置から水平ダクト8の上流側に距離L1空けて設けられ、かつ、水平ダクト8の底壁から距離L2浮かして設けられている。また、側壁衝突板31a,31bの板幅dは、水平ダクト18の横幅Dの2〜7%の選択された幅に設定される。
【0041】
ここで、側壁衝突板31a,31bの傾き角度α、β、幅d、距離L1については、
図17〜
図20に示した灰粒子の捕集率計算値に基づいて決定される。すなわち、
図17は、角度αと灰粒子の捕集率との関係を示している。同図に示すように、角度αを大きくすると、一対の側壁衝突板31a,31bによる排ガス流の圧力損失が低下した。これは、排ガス流の剥離領域が角度αの増加とともに低下するものと考えられる。ただし、灰粒子の捕集率はαが30°〜60°の間で45°をピークに上に凸の関係にあるから、α=45°が最も好ましいと考えられる。また、45°を超えると灰粒子の捕集率が低下する。これらを考慮すると、角度αは、30°〜60°の範囲で採用できるが、好ましくは30°〜45°の範囲から選択する。
【0042】
一方、角度βは、45°より小さくすると、水平方向の長さが長くなるから望ましくない。逆に、45°よりも大きくすると、
図18に示すように、灰粒子の捕集率はわずかに上昇するが、その上昇率は小さい。ただし、80°にすると圧力損失が急激に低下し、これに合わせて灰粒子の捕集率も低下する傾向にある。これらを考慮すると、角度βは、45°〜70°、好ましくは60〜70°の範囲から選択する。
【0043】
また、側壁衝突板31a,31bの幅dは、
図19に示すように、d/D=7〜20%の間は、灰粒子の捕集率の大きな向上が見られないばかりでなく、圧力損失が増加する。これらのことを考慮して、幅dは、水平ダクト幅Dの2〜7%の範囲で選択するのが好ましい。
【0044】
さらに、側壁衝突板31a,31bの下端と、水平ダクト8とホッパ15との接続位置との距離L1は、
図20に示すように、距離L1を増加しても灰粒子の捕集率には影響しない。また、圧力損失も若干低下する程度である。したがって、側壁衝突板31a,31bの下端は、ホッパ15の上端開口の位置、つまりL1=0に設置してもよい。
【0045】
また、側壁衝突板31a,31bの下端を、水平ダクト8の底壁から浮かす距離L2は、側壁衝突板31a,31bにより捕集された灰粒子が水平ダクト8の底壁に落下することを考慮したものである。しかし、距離L2=0としても、落下する灰粒子の大部分は最終的にホッパ15に回収されるので問題はない。
【0046】
このように構成される第2実施形態によれば、大粒径の灰粒子は水平ダクト8の底壁だけでなく、側壁に沿って排ガス流に同伴する場合、一対の側壁衝突板31a,31bによって、第1実施形態に比べて灰粒子の捕集率を一層向上させることができる。特に、側壁衝突板31a,31bは、圧力損失を大きく上昇させることなく、大粒径の灰粒子を捕集することができるので、第1実施形態等と組み合わせることにより、効果的に大粒径の灰粒子の捕集率を向上することができる。
【0047】
(第3実施形態)
図21に、本発明の排ガス処理装置の第3実施形態の主要部の構成図を示す。第3実施形態が第1、2実施形態と相違する点は、水平ダクト8の天井壁が垂下させて天井衝突板を設けたことにある。その他の点は、第1、2実施形態と同一であることから、同一の構成部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図21(a)は、水平ダクト8とホッパ15の内部を透視して示す側面図であり、同図(b)は水平ダクト8とホッパ15の内部を透視して示す平面図である。それらの図に示すように、水平ダクト8の天井壁から垂下させて天井衝突板32が設けられている。天井衝突板32は、一対の側壁衝突板31a、31bの上流側に位置させて設けられている。また、天井衝突板32は、天井壁の幅の中央部から両側壁に向けて延在された一対の板片32a、32bで形成され、一対の板片のなす角度γが45〜70°、好ましくは60〜70°に設定されている。また、一対の板片32a、32bの板面を水平ダクト8の上流側に天井壁に対して角度δが30°〜60°、好ましくは45°〜60°傾けて設けられている。さらに、天井衝突板32の一対の板片32a、32bは、両側壁側の端部を対応する側壁と少なくとも側壁衝突板の板幅(高さ)だけ離して設けられている。
【0049】
第3実施形態は、旋回型燃焼炉の石炭焚ボイラ1を用いた場合に好適である。つまり、旋回型燃焼炉の場合は、大粒径の灰粒子が水平ダクト8の天井壁側にも飛散することがあるので、これらの灰粒子を天井衝突板32に衝突させて捕集する。これにより、脱硝触媒10bに100μm以上の灰粒子が到達するのを抑制して、触媒の摩耗を大幅に低減することができる。
【0050】
なお、天井衝突板32の一対の板片32a、32bの端部を対応する側壁から離す距離L3は、少なくとも側壁衝突板31a、31bの板幅d、あるいはL3=dtanαよりも小さな距離を離して設ける。つまり、側壁衝突板31a、31bの吐き出す幅(=dtanα)よりも小さいことが好ましい。
【0051】
第3実施形態によれば、旋回型燃焼炉の石炭焚ボイラ1を用いた場合でも、第1実施形態ないし第2実施形態と組み合わせて用いることにより、効果的に大粒径の灰粒子の捕集率を向上することができる。
【0052】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の主旨の範囲で変形又は変更された形態で実施することが可能であることは、当業者にあっては明白なことであり、そのような変形又は変更された形態が本願の特許請求の範囲に属することは当然のことである。