特許第6560091号(P6560091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6560091圧粉磁心材料、圧粉磁心、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560091
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】圧粉磁心材料、圧粉磁心、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/33 20060101AFI20190805BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20190805BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20190805BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20190805BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20190805BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20190805BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   H01F1/33
   H01F1/153 183
   H01F41/02 D
   H01F27/255
   B22F1/02 C
   B22F1/02 E
   B22F3/00 B
   B22F1/00 Y
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-198691(P2015-198691)
(22)【出願日】2015年10月6日
(65)【公開番号】特開2017-73447(P2017-73447A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】加古 哲隆
(72)【発明者】
【氏名】大平 晃也
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5053195(JP,B2)
【文献】 特開2012−009825(JP,A)
【文献】 特開2014−095059(JP,A)
【文献】 特許第5715614(JP,B2)
【文献】 特開2014−138052(JP,A)
【文献】 特開2010−141183(JP,A)
【文献】 特開2006−219685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/33
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
H01F 1/153
H01F 27/255
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造粒バインダーと、粒子表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末と、磁気焼鈍温度の100℃以下の軟化点を有するガラスフリットとを含み、
前記造粒バインダーは、重合度1000以下およびけん化度50〜100モル%のポリビニルアルコールであることを特徴とする圧粉磁心材料。
【請求項2】
前記軟磁性粉末が鉄系アモルファス合金粉末であることを特徴とする請求項1記載の圧粉磁心材料。
【請求項3】
前記ガラスフリットの配合量が前記軟磁性粉末の全体量に対して、0.3〜1.0質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧粉磁心材料。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか1項記載の圧粉磁心材料からなり、圧環強さが10MPa以上であることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項記載の圧粉磁心材料を用いて製造される圧粉磁心の製造方法であって、
前記圧粉磁心材料を前記造粒バインダーの融点付近以下の温度で圧縮成形する工程と、
前記圧縮成形された圧縮成形体を磁気焼鈍する工程とを備えることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧粉磁心材料およびこの材料を用いた圧粉磁心ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、表面を絶縁処理した軟磁性粉を圧縮成形した電磁部品である。この電磁部品は、省資源・省エネルギーの観点から、磁性コアの小型化・高効率化が求められており、これらを満足するためには高磁束密度、高透磁率、低鉄損といった圧粉磁心の諸特性をより向上する必要がある。
【0003】
従来の磁性材料として、鉄を主成分とする粉末の表面が、シリコ ーン樹脂および顔料を含有する被膜で被覆されている磁性材料(特許文献1)、Fe系の軟磁性金属粒子同士の粒界層がFeと2価金属とMgの複合酸化物を主体とする高強度高比抵抗低損失複合軟磁性材(特許文献2)とする磁性材料が知られている。また、圧粉磁心として、非晶質軟磁性合金粉末と、軟化点が非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度より低いガラス粉末と、ポリビニル水溶液、またはポリビニルブチラール溶液からなる結着性樹脂を混合し、これらの混合物を加圧成形して成形体を作製し、その成形体を非晶質軟磁性合金粉末の結晶化温度より低い温度で焼鈍処理した圧粉磁心(特許文献3)、金属磁性粒子を取り囲む絶縁皮膜の表面に低融点ガラス層を有し、この絶縁皮膜の少なくとも一部が焼鈍により液相化されたのちに固化されている圧粉磁心(特許文献4)、軟磁性粒子間に形成される粒界相粒界相が軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する第一無機酸化物からなる低温軟化材と該焼鈍温度よりも高い軟化点を有する第二無機酸化物からなる高温軟化材とが複合した圧粉磁心(特許文献5)、磁性体粉末と、転移点が磁性体粉末の結晶化温度より低いガラス粉末とが混合され、ガラス粉末の転移点が、磁性体粉末の結晶化温度と50℃以上差を有し、ガラス粉末の結晶化温度が、磁性体粉末の結晶化温度と50℃以下の差を有している圧粉磁心(特許文献6)等が知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、磁性材料の被覆材としてシリコーン樹脂等を用いた場合、溶媒として有機溶媒や有害物質を含むことが多いので安全や環境対策に留意しなければならないという問題がある。特許文献2に記載の発明は、酸化処理軟磁性粉末にMg粉末を添加し、造粒転動攪拌混合装置で混合して得られた混合粉末を不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中において加熱するなどした後、さらに、必要に応じて酸化性雰囲気中で加熱する酸化処理を施す磁性材料であるが、Mg粉末を使用するなど安全性に留意しなければならないという問題がある。特許文献3に記載の圧粉磁心は、非晶質軟磁性合金粉末の表面が耐熱性保護被膜であるシラン カップリング剤で被覆されているので、また、ポリビニルブチラール溶液を用いる場合があるので安全性に留意しなければならないという問題がある。特許文献4〜6に記載の圧粉磁心は低融点ガラス層またはガラス粉末を用いているが、いずれも軟磁性粉同士を予め相互に結着させることについては考慮されていない。
【0005】
リアクトルやチョークコイルなどの数10kHzから数100kHzの周波数領域で用いられる圧粉磁心には軟磁性材料にFe−Si、センダスト、鉄系アモルファスなどの合金粉末が使用される。その理由は、材料の抵抗率が高く、高周波領域で生じる渦電流損を抑制できるためである。また、磁歪が小さいため成形時に生じるひずみ量が少ないという利点もある。
しかしながら、合金粉末は、圧粉磁心を製造する前段階である成形体としたときに欠けや割れ等の破損が生じやすく、圧縮成形時にわずかな荷重により崩壊してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−303711号公報
【特許文献2】特開2009−141346号公報
【特許文献3】特開2010−027854号公報
【特許文献4】特開2010−206087号公報
【特許文献5】特開2012−230948号公報
【特許文献6】特開2014−229839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、圧粉磁心製造時の作業安全性に優れ、かつ環境負荷の少ない圧粉磁性材料、およびこの磁性材料を用いて圧縮成形することで得られる、高磁束密度、高透磁率、低鉄損で、かつ機械的強度に優れた圧粉磁心、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧粉磁心材料は、造粒バインダーと、粒子表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末と、磁気焼鈍温度の100℃以下の軟化点を有するガラスフリットとを含むことを特徴とする。
特に、上記軟磁性粉末が鉄系アモルファス合金粉末であることを特徴とする。また、上記ガラスフリットの配合量が上記軟磁性粉末の全体量に対して、0.3〜1.0質量%であることを特徴とする。また、上記造粒バインダーは、重合度1000以下およびけん化度50〜100モル%のポリビニルアルコール(以下、PVAという)であることを特徴とする。
【0009】
本発明の圧粉磁心は、上記の圧粉磁心材料からなり、圧環強さが10MPa以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の圧粉磁心の製造方法は、上記圧粉磁心材料を用いて製造され、上記圧粉磁心材料を上記造粒バインダーの融点付近以下の温度で圧縮成形する工程と、上記圧縮成形された圧縮成形体を磁気焼鈍する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧粉磁心材料は、造粒バインダーと、粒子表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末と、磁気焼鈍温度の100℃以下の軟化点を有するガラスフリットとを含むので、軟磁性粉末に対してガラスフリットが均一分散する。また、磁気焼鈍温度の100℃以下の軟化点を有するガラスフリットを含むので、圧環強さが10MPa超の圧粉磁心が得られる。また、ガラスフリットの配合量が0.3〜1.0質量%であるで軟磁性粉末同士の結着と透磁率のバランスが取れた圧粉磁心が得られる。
【0012】
本発明の圧粉磁心の製造方法は、造粒バインダーの融点付近以下の温度で圧縮成形する工程と、磁気焼鈍する工程とを備えるので、造粒バインダーの流動性が増し、鉄系アモルファス合金などの軟磁性粉末とバインダーとの接点が増加するため、成形体の形状保形性が飛躍的に高まる。また、磁気焼鈍工程で融解、固化したガラスフリットにより磁気焼鈍後の圧粉磁心が高強度化するので鉄系アモルファス合金基圧粉磁心が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】圧縮成形時の状態を示す図である。
図2】磁気焼鈍時の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
軟磁性粉末が圧粉磁心を製造する前段階である成形体としたときに、欠けや割れ等の破損が生じやすく、圧縮成形時にわずかな荷重により崩壊してしまう現象について研究した。
鉄系アモルファスなどの軟磁性合金粉末は、硬度が高いため、圧縮成形時の塑性変形性に乏しい。よって、これらの合金粉の高密度化の機構は粒子の再配列が支配的となる。これは圧縮成形時に、各粒子が隙間を探しながら密充填されていくプロセスである。ここで、軟磁性合金粉末が均一な大きさの球状の粒子で構成されていると仮定すると、例え密充填されたとしても粒子間には隙間が生じてしまう。これは密度が低下し、磁束密度、透磁率がともに低下することを示す。通常、軟磁性合金粉末は、1〜100μmや30〜300 μmなどの幅を有する粒度分布を持つ。このため、大きな粒子同士の隙間を小さな粒子が埋めることで高密度化が可能となる。
【0015】
リアクトルやチョークコイルといった数10kHzから数100kHzの領域で用いられる圧粉磁心には、高周波領域での渦電流損失を低減させるため、20μm以下の細かい粉末が配合される。この20μm以下の微細粉末は著しく流動性に乏しく、金型内への粉末の自動挿入が困難である他、搬送時の偏析(粗い粉と細かい粉の分離)や成形金型のクリアランスへの侵入などの問題がある。圧縮成形後の圧粉体の形状保持性は成形時の粉末同士の絡み合いが支配的である。この際、粉末形状がいびつであり、比表面積が大きいほど、機械的に絡み合い易くなるが、Fe−Si、センダスト、鉄系アモルファスなどの合金粉末は、球状かつ高硬度であるため、機械的な絡み合いが生じ難く、圧縮成形した際には形状保持性が困難になることが分かった。特にこれらの合金粉末のみを成形した場合、圧縮成形の抜き出し時に崩壊するほど、成形体の形状保持性が低い。
【0016】
本発明者等は、このような生産性の観点および形状保持性の観点から、微細粉末を含む軟磁性合金粉末に造粒バインダーを配合することにより、軟磁性粉同士が接着され、成形後の形状保持性が高くなり、搬送時の欠けや割れ等の破損が防止されること、また、バインダーを配合して造粒された軟磁性粉末は、流動性に優れるため圧縮磁心の生産性が向上することを見い出した。さらに、低軟化点ガラスフリットを所定量配合し、造粒バインダーの融点付近で温間成形することが圧粉磁心の高強度化に特に有効であることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0017】
本発明の圧粉磁心材料に用いられる軟磁性粉末は、Fe、Fe−Si、Fe−Si−Al、Fe−Si−Cr、Fe−Ni、Fe−Ni−Mo、Fe−Co、Fe−Co−V、Fe−Cr、Fe系アモルファス合金、Co系アモルファス合金、Fe基ナノ結晶合金、金属ガラス等が使用できる。またこれらの粉末を複数種組み合わせて使用してもよい。
軟磁性粉末の中でも球状の粒子径を有する粉末が好ましい。特に鉄系アモルファス合金粉末であることが高磁束密度、高透磁率、低鉄損の磁心を得られるので好ましい。
【0018】
上記軟磁性粉末の粒子表面には高耐熱性の絶縁被膜が形成されている。絶縁被膜には、圧粉磁心に使用されているものであれば、特に制限はなく使用できる。具体的には、B、Ca、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Mo、Biの酸化物およびこれらの複合酸化物、Li、K、Ca、Na、Mg、Fe、Al、Zn、Mnの炭酸塩およびこれらの複合炭酸塩、Ca、Al、Zr、Li、Na、Mgのケイ酸塩およびこれらの複合ケイ酸塩、Si、Ti、Zrのアルコキシドおよびこれらの複合アルコキシド、Zn、Fe、Mn、Caのリン酸塩およびこれらの複合リン酸塩、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等の耐熱樹脂等から選択できる。これら絶縁被膜は一種類でも構わないし、複数種組み合わせて使用してもよい。また、絶縁被膜の被覆方法は特に限定しないが、例えば、転動流動コーティング法、各種化成処理等が使用できる。
【0019】
本発明の圧粉磁心材料に使用できる造粒バインダーは、軟磁性粉同士を結着するための「糊」や「接着剤」としての機能を有する。バインダーの配合により、軟磁性粉同士が接着され、成形後の形状保持性が高くなり、搬送時の欠けや割れ等の破損が防止される。
造粒バインダーとしては、PVA、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル等が使用できる。また、造粒方法としては、転動流動方式、流動層方式、噴霧乾燥方式、撹拌方式、押し出し方式等が使用できる。これらの中でもエアとローターにより浮遊する粉にバインダー液をスプレーして造粒する転動流動方式が好ましい。
【0020】
上記造粒バインダーの中で水溶性のPVAが好ましい。PVAのなかでも重合度1000以下、好ましくは重合度100〜1000、およびけん化度50〜100モル%のPVAが好ましい。このPVAは、例えば重合度1000以上、けん化度70〜100モル%のPVAと比較して、同一濃度において低粘度の水溶液が得られる。低粘度のPVA水溶液をバインダー液とすることで均一に造粒された軟磁性粉末を得ることができ、かつ圧縮性に優れる。低粘度のPVA水溶液を使用することで、おおよそ50μm以上の大きな粉末同士は容易に造粒(接着)されず、大きな粉末が小さな粉末をまとったような造粒粉が得られる。また、一部のPVA水溶液は粉末に付着した後、造粒には寄与せず、粉末の表面をコーティングするような状態となる。この粉末表面を覆う均一なコーティング層は圧縮成形体の形状保持性に大きく寄与しており、ハンドリング性を向上させる。
【0021】
一方、例えば重合度1000以上、けん化度70〜100モル%のPVA水溶液をバインダー液とすると、粘度が高いため、粗大な造粒粉ができやすくなってしまう。数100μm以上の粗大造粒粉は、流動性は良好であるものの、かさ密度が低く高圧成形をしても高密度の磁心を得ることが難しい。このみかけの密度が低い造粒粉では、高圧成形をしても粉どうしの摩擦により成形圧のロスが生じるため、高密度の磁心を得難い。したがって、透磁率や鉄損に代表される諸磁気特性が向上しないばかりか強度も著しく低下する。
なお、造粒バインダーの配合割合は、軟磁性粉末の全体量に対して、0.3〜1.0質量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の圧粉磁心材料に使用できるガラスフリットは、磁気焼鈍温度の100℃以下の軟化点を有するガラスフリットであれば使用できる。ここで、磁気焼鈍温度とは、軟磁性金属粉末の製造時および圧縮成形等の各処理工程において生じた結晶歪を除去するために行なう処理温度である。磁気焼鈍の雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気、大気、空気、酸素、スチーム等の酸化性雰囲気、水素等の還元性雰囲気が使用できる。磁気焼鈍の温度は、Fe(純鉄)で600〜700℃、Fe−Si、Fe−Si−Al、Fe−Si−Cr、Fe−Ni、Fe−Ni−Mo、Fe−Co、Fe−Co−V、Fe−Cr等で700〜850℃、Fe系アモルファス合金やCo系アモルファス合金で450〜550℃程度である。磁気焼鈍の保持時間は、部品の大きさによるが、5〜60分程度であり、部品の内部まで十分に加熱できるように設定する。
【0023】
上述したように、鉄系アモルファス合金粉の磁気焼鈍は450〜550℃で施されるが、ガラスフリットは軟化点が磁気焼鈍温度よりも100℃以下、好ましくは100〜250℃低いもの、より好ましくは200〜250℃低いものを選択する。ガラスフリットの配合により焼鈍後の高強度化だけでなく、粉体の流動度も向上する。
ガラスフリットの配合量は、軟磁性粉末の全体量に対して、0.3〜1.0質量%であることが好ましい。この範囲とすることにより、50を超える高透磁率と15MPaを超える高圧環強さを両立させることができる。
【0024】
ガラスフリットとしては、TeO系、V系、SnO系、ZnO系、P系、SiO系、B系、Bi、Al系、TiO系等が使用でき、これらを複数種組み合わせて使用してもよい。特にSnO系、P系、TeO系、V系およびこれらの組み合わせは軟化点が低い特徴があり、低温焼成における高強度化に対して特に有効である。なお、PbO系のガラスフリットは低軟化点を示すが、環境適合性が低い問題があり、使用すべきではない。ガラスフリットの粒径は0.1〜20μmの範囲で選択できるが、微細であるほど、軟磁性金属粉との接点が増すため、高強度になる。
【0025】
本発明の圧粉磁心材料は、必要に応じて固体潤滑剤を配合することができる。本発明に使用する軟磁性金属粉末は塑性変形しにくいため、離型時のスプリングバックが生じにくく、固体潤滑剤の配合がなくとも容易に圧縮成形と離型が可能である。ただし、金型の長寿命化や軟磁性粉末の流動性を確保する観点から、少量の固体潤滑剤を配合することが望ましい。粉末同士の摩擦も低減するため、かさ密度の向上や圧粉体の高密度化も図ることができる。配合量は最大1質量%程度とすることが好ましい。過剰に配合すると圧粉体の低密度化により磁気特性や強度が低下する。
【0026】
固体潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸鉄、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ベヘン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、モンタン酸アミド、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、スターチ、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、ポリテトラフルオロエチレン、ラウロイルリシン、シアヌル酸メラミン等が挙げられる。これらは単独で使用しても構わないし、複数種組み合わせて使用してもよい。また、固体潤滑剤は、V型やダブルコーン型のミキサーを用いて混合できる。
【0027】
上述した圧粉磁心材料を用いて、圧縮成形および磁気焼鈍することにより、圧環強さが10MPa以上の機械的強度に優れた圧粉磁心が得られる。
【0028】
一例としてFe系アモルファス合金粉末を用いた圧粉磁心の製造方法について説明する。
粒径1〜200μmの絶縁被覆された鉄系アモルファス合金粉末と、重合度100〜1000、けん化度50〜100モル%PVAを準備して、5〜15質量%の水溶液を調製し造粒バインダー液とする。
Fe系アモルファス合金粉末とガラスフリットとを造粒バインダー液に均一に分散させる。造粒後の粉末にガラスフリットを混合することも可能であるが、造粒バインダー溶液に合金粉末を分散させ、造粒時にガラスフリットを配合した方が、均一に分散できる。
【0029】
造粒処理された鉄系アモルファス合金粉末を金型に充填し造粒バインダーの融点付近以下の温度で圧縮成形する。圧縮成形時の状態を図1に示す。図1(a)は室温で圧縮成形後の模式図を、図1(b)は温間処理後の模式図をそれぞれ示す。鉄系アモルファス合金粉末などの軟磁性粉末1の粒子間に造粒バインダー2が分散している(図1(a))。また、温間処理後は軟磁性粉末1の粒子表面に融解した造粒バインダー2により軟磁性粉末1同士が固着している(図1(b))。
圧縮成形圧力は1000〜2000MPa、より好ましくは1500〜2000MPaである。圧縮成形温度はPVAの融点付近以下の温度である。ここで融点付近以下の温度とは融点+30℃未満の温度をいう。加温による温間処理は成形体内のPVAを流動させ、形状保持性を高めるために行なう。
【0030】
圧縮成形された圧縮成形体を磁気焼鈍する。圧縮成形時等に生じた鉄系アモルファス合金粉内部の応力解放およびガラスフリットの融解のために行なう。磁気焼鈍時の状態を図2に示す。図2(a)は磁気焼鈍開始時の模式図を、図2(b)は磁気焼鈍後の模式図をそれぞれ示す。鉄系アモルファス合金粉末などの軟磁性粉末1の粒子間にガラスフリット3が分散している(図2(a))。また、磁気焼鈍後は軟磁性粉末1の粒子同士がガラスフリット3により固着されている(図2(b))。なお、造粒バインダーは磁気焼鈍時の温度で熱分解している。磁気焼鈍により、磁気特性の向上が図れることに加え、軟化および融解したガラスフリットが鉄系アモルファス合金粉どうしを接着することにより成形体が高強度化する。また、潤滑剤やバインダー等の除去が必要な場合は、磁気焼鈍後に適宜脱脂工程を設ける。
【実施例】
【0031】
実施例1〜5および比較例1〜2
実施例1〜5および比較例1〜2に用いる鉄系アモルファス合金粉として、1〜200μmの粒度分布を有するFe−Cr−Si−B−C系組成の粉末を用意した。この鉄系アモルファス合金粉末の絶縁被膜はケイ酸ナトリウムとし、転動流動装置を用いて、5〜50nm程度の厚さを有する絶縁被膜を形成した。
造粒バインダーとして、日本酢ビ・ポバール社製PVA(商品名JMR−8M、重合度190、けん化度65.4モル%、融点145℃)を用意し、10質量%PVA水溶液を調製した。このPVA水溶液に、TeO・V系ガラスフリット(粒径1μm)を鉄系アモルファス合金粉末全体量に対して0.5質量%配合することで、鉄系アモルファス合金粉末表面にガラスフリットを均一に分散させることができた。なおPVAの配合量(固形分として)は鉄系アモルファス合金粉末全体量に対して0.5質量%とした。また、潤滑剤として、鉄系アモルファス合金粉末全体量に対してステアリン酸亜鉛を0.5質量%配合して、混合物を得た。
【0032】
上記混合物を用い、パウレック社製MP−01転動流動装置により造粒した。造粒粉は、外径20mm×内径2mm×高さ6mmのリング状試験片を形成できる金型を用いて、1470MPaで圧縮成形した。この際、表1に示すように、圧縮成形時の金型温度および粉末温度を室温〜200℃となるように加温した。
その後、圧縮成形体を480℃×15分、大気雰囲気中で磁気焼鈍することで圧粉磁心を得た。
【0033】
得られたリング状試験片の密度、初透磁率、鉄損を以下の方法で測定した。また、磁気焼鈍前後の圧環強さを以下の方法で測定した。測定結果を表1に示す。
[密度]
圧粉磁心の寸法と重量から算出した。
[初透磁率]
日置電機(株)インピーダンスアナライザーIM3570を用い、周波数1kHzの条件で直列自己インダクタンス、巻線数および寸法から算出した。
[鉄損]
岩通計測(株)B−HアナライザSY−8219で測定した。
[圧環強さ]
(株)島津製作所製オートグラフ精密万能試験機AG−Xplusで測定した。
【0034】
【表1】
【0035】
金型および粉末温度が高いほど、高密度、高透磁率となった。これは、鉄系アモルファス合金粉末の塑性流動性が高まり、粒子間の空隙を鉄系アモルファス合金粉末が占有したためである。
金型および粉末温度が高いほど高強度となった。これは、成形時の温度が高いほどPVAの流動性が向上し、鉄系アモルファス合金粉同士の結着性が向上したためである。
金型および粉末温度が150℃を超えると、抜出後に成形体は崩壊した。これは、PVAが圧粉体の外側に溶融したためである。結果として、鉄系アモルファス合金粉末同士を結着するPVAはほとんどなくなるため、もはや圧粉磁心として形状を保持できなくなった。
【0036】
実施例6〜8および比較例3〜7
表2に示すガラスフリット(粒径1μm)を用いる以外は、実施例5と同一の組成、条件でリング状試験片の圧粉磁心を得た。実施例5と同一の方法で密度、初透磁率、鉄損を測定した。測定結果を実施例5と共に表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
ガラスフリットの配合は成形体の密度に大きな影響を及ぼさなかった。さらに、密度と高い相関関係にある透磁率も大きく変化しなかった。
実施例5を基準として、ガラスフリットの軟化点が高くなるほど、高渦電流損(高鉄損)となった。これは、軟化および流動したガラスフリットが圧粉体の絶縁性を高めるためである。
比較例3〜6のように、比較的高融点のガラスフリットを配合した場合、ガラスフリット無配合の場合(比較例7)と比較して高鉄損となった。これは、鉄系アモルファス合金粉が磁心を占める体積が低下するためである。
ガラスフリットの配合により、圧環強さの向上が認められる。特に磁気焼鈍温度より100℃以上低い軟化点のガラスフリットを配合すると、10MPaを超える高い圧環強さを得た。これは、低融点ガラスの流動性の違いによるものである。
【0039】
実施例9〜11および比較例8〜10
ガラスフリットの配合量を表3に示す以外は、実施例5と同一の組成、条件でリング状試験片の圧粉磁心を得た。実施例5と同一の方法で密度、初透磁率、鉄損を測定した。測定結果を実施例5と共に表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
ガラスフリットの配合量を変更しても、密度に大きな差異はなかった。
ガラスフリットの配合量が0.3〜1.0質量%の範囲では、50を超える高透磁率と15MPaを超える高圧環強さを両立した。
ガラスフリットの配合量が1.0質量%を超えると、50を下回る低透磁率になり、0.3質量%を下回ると、10MPaを下回る低圧環強さを示した。これは、ガラスフリットの配合量が多すぎると磁心を占める鉄系アモルファス合金粉の体積が小さくなり、低透磁率となったためであり、配合量が少なすぎると、ガラスフリットが粉末を接着する効果が低いためである。
【0042】
表1〜表3より、以下の効果が得られる。
(1)軟化点が磁気焼鈍温度より100℃以上低いガラスフリットの配合により、10MPaを超える高強度圧粉磁心が得られる。
(2)ガラスフリットの配合量を0.3〜1.0質量%から選択すると、鉄系アモルファス合金粉同士の結着と透磁率のバランスが取れた圧粉磁心が得られる。
(3)PVAの融点より50℃低い温度で圧縮成形することにより、バインダーの流動性が増し、鉄系アモルファス合金とバインダーの接点が増加するため、成形体の形状保形性が飛躍的に高まる。
(4)バインダー水溶液にガラスフリットを配合しているため、鉄系アモルファス合金粉に対してガラスフリットが均一分散する。
(5)磁気焼鈍工程で融解、固化したガラスフリットにより磁気焼鈍後の成形体が高強度化する。
(6)本発明により、欠けや割れが生じ難くハンドリング性が良好な圧粉磁心が得られる。
(7)以上により、圧縮成形後および磁気焼鈍後においても高強度な鉄系アモルファス合金基圧粉磁心が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の圧粉磁心材料、圧粉磁心およびその製造方法により得られる磁心は、高磁束密度、高透磁率、低鉄損で、かつ機械的強度に優れているので、リアクトルやチョークコイルなどの数10kHzから数100kHzの周波数領域で用いられる圧粉磁心して利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 軟磁性粉末
2 造粒バインダー
3 ガラスフリット
図1
図2