【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来の人工角膜に伴う上記の問題の少なくともいくつかを克服する。本発明の人工角膜は、眼の前眼房内に貫入することなしに角膜の表層(lamellae)内に植え込まれるように作製される。そのような貫入を回避することにより、眼の感染(眼内炎)の危険性が大きく低減される。さらに、本発明の人工角膜は、角膜表層ポケットの入口切開部のサイズが人工角膜より小さいときそのポケット内に小さい切開部を通して植え込むことができるように十分可撓性且つ耐久性があるように設計される。そのような植込みは、インプラント周りの細菌が前眼房内に侵入するのをさらに妨げるので、またインプラントを固定する助けとなり、それにより縫合糸も接着剤も使用せずにインプラントを留置することができるので、有利である。しかし、通常、インプラントは角膜組織より少なくとも幾分剛性となり、それによりインプラントは、植込み後、光学的に有利な形状を維持することができる。哺乳動物の角膜の典型的なヤング率は0.2MPaと0.29MPaの間なので、人工角膜のヤング率は、角膜内に植え込んだ後その形状を保持するために、好ましくは0.29MPaより大きくすべきである。しかし、人工角膜は、瞬きなど通常の生理学的活動中に角膜と共に曲がることができないほど硬くすべきでない。本発明者らは、これが本発明で起こらないように、ヤング率は、好ましくは100MPaより大きくすべきでないと決定した。
【0013】
従来技術の人工角膜の場合、角膜の自然な形状と一致するように人工角膜を一貫してフィットさせることは可能でなかった。これは、人工角膜のオプティクと角膜の表面との不一致が臨床的に有意な問題を引き起こすので重要である。Boston Artificial Corneaの場合、キャリアドナー角膜のレベルより上方にオプティクが上がると、患者にとって持続的な異物感覚を引き起こし、また眼瞼の内側の結膜の擦過傷を防止するために、バンデージコンタクトレンズの継続的な使用が必要になる。一方、AlphaCorのオプティクは、ホスト角膜のレベルより300ミクロン下方に置かれ、これは、粘液など残屑を継続的に蓄積するくぼみを作り、それにより患者の視覚改善を制限する。
図7は、従来技術の人工角膜と本発明のプロファイル、およびそれらがどのようにホストまたはキャリア角膜内にフィットするかを示す。
【0014】
本発明の特定の態様では、人工角膜は、非常に正確な寸法を有する切開部を使用して角膜内に植え込まれる。寸法のこの精度により、人工角膜が角膜内に正確にフィットすることができ、その結果、人工角膜の表面は、人工角膜のオプティクの表面と同じ高さになり、オプティクと角膜組織の間に間隙ができない。この高いレベルの精度を有する角膜切開部を生み出すことができるのは、最近、フェムト秒レーザおよび機械的な角膜ポケットメーカが使用可能になってはじめて可能になった。好ましい態様では、角膜切開部は、一般に約±3ミクロンの公差を有するフェムト秒レーザで生み出される。代替の好ましい態様では、角膜ポケット切開部は、一般に±50ミクロンまたはそれより良好な公差を有する機械的な角膜ポケットメーカでも生み出すことができる。手製のポケットをも本発明の人工角膜を植え込むために使用することができるが、人の手は、±50ミクロンの精度で切開することができないので、確実にオプティクがホスト角膜の表面と同じ高さになるようにすることは不可能であろう。
【0015】
好ましい態様では、本発明の人工角膜のオプティク用の開口部を生み出す切開部はまた、オプティクの角のある形(angulation)と正確に一致する。すなわち、オプティクと隣接する角膜の切開部は、±30度、より好ましくは±10度以内でオプティクの角のある形と一致する。たとえば、オプティクの側部が、リムとオプティクの接合部によって生み出される平面と90度の角度をなす場合、隣接する角膜切開部は、リムとオプティクの接合部によって生み出される平面に対してやはり90度にすべきである。
【0016】
代替の好ましい態様では、角膜切開部は、人工角膜の3次元形状と同様の形状を有するある体積の角膜組織を切除するようになされる(
図9A)。そのような人工角膜の角膜組織との締りばめまたはかみ合い嵌合(interlocking fit)は、
図9Bに示されているようにデバイスを角膜内で保持する助けになり得る。
【0017】
本発明の特定の態様では、人工角膜は、予め選択されたオプティク高さを±50μm以下の範囲の公差内で維持するように、非常に厳密な公差に合わせて機械加工される中央オプティクを有する。50μmは、角膜の上の上皮の平均的な厚さなので、角膜上皮は、人工角膜の表面レベルと天然角膜の表面レベルとのあらゆる差を埋め合わせるように薄くなる、または厚くなることによって応答することができる。したがって、角膜ポケットの深さを、同様の公差またはその付近内に慎重に制御することによって、人工角膜のオプティク高さを天然角膜の高さと一致させ、眼および人工角膜にわたって涙液膜を保存し、患者の快適さを高めることができる。オプティク高さは、典型的には200μmから400μmに維持されることになり、人工角膜のリムを覆うように天然角膜組織の十分な厚さを可能にし、その結果、組織を通る侵食の危険性が低減される。内皮不全による角膜水腫に罹った患者に一般的に見られるものなど異常に厚い角膜の場合、オプティク高さは、そのような増大した厚さを補償するために800ミクロンと同程度にすることができる。
【0018】
したがって、本発明によれば、可逆的に変形可能な人工角膜が、環状リムによって囲まれた中央オプティクを有するモノリシック体を備える。「モノリシック」とは、中央オプティクおよびリムが、継ぎ目、継手などのない材料の、単一の連続体であることを意味する。たとえば、人工角膜は、典型的には、英国エセックス州のContamac Ltd.から市販されているC126など、メタクリル酸ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸メチル(methylmethacraylate)のコポリマーであることが好ましい、眼内レンズ(IOL)を形成する際に一般に使用されるタイプのポリマーヒドロゲル、またはBenz Researchから市販されているものなど疎水性アクリル材料である、材料の単一ブランクまたはブロックから形成されてもよい。プラズマ表面処理にかけたメタクリル酸ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸メチル(methylmethacraylate)のコポリマーなど、ポリマーヒドロゲル材料はまた、疎水性および親水性の特性を有することができる。あるいは、人工角膜は、相互貫入網目構造またはコラーゲンベースのヒドロゲルを含む材料から成形、機械加工、またはレーザ切断することができる。
【0019】
モノリシック体は、水和すると、4mmから10mmの範囲内の直径を有する。中央オプティクは、3mmから9mmの範囲内の直径、および200μmから800μmの範囲内のオプティク高さ(D、
図4)を有する。オプティク高さの製造公差は、周囲の受納角膜組織に正確にフィットすることができるように、±50ミクロン以下となる。環状リムは、0.5mmから4.5mmの範囲内の環状の幅、および50μmから200μmの範囲内のメジアン厚さ(median thickness)を有する。ポリマーヒドロゲルは、好ましくは、完全に水和したとき0.3MPaから100MPaの範囲内の弾性率を有するように選択される。好ましくは、引張り強さは、少なくとも1.5MPaとすべきであり、破断までの伸び(elongation to break)は、少なくとも100%とすべきである。好適な本体材料は、酸素に対して少なくとも部分的に透過性とすべきであり、典型的には、少なくとも3バーラーの酸素透過性(dK)を有する。優れた酸素透過性、たとえば少なくとも60のdKを有する例示的な材料は、Lotrafilcon A、Lotrafilcon B、Balafilcon A、Comfilcon A、Senofilcon A、Enfilcon A、およびGalyfilcon Aを含む。
【0020】
例示的な実施形態では、角膜インプラントの環状リムは、中央オプティクの後縁に外接する。さらに、中央オプティクの前表面は、角膜内に植え込まれたとき、典型的には30ジオプトリから70ジオプトリの範囲内にある、天然角膜とほぼ等しい、またはそれと適合する屈折力をもたらすように、通常、凸状に形作られる。通常、中央オプティクの前表面は凸状に形作られ、後表面は凹状に形作られる。後方オプティクおよびリムの曲率半径は、典型的には、6.2mmから10mmの範囲内にある天然角膜の曲率の範囲と適合する。
【0021】
本発明の他の特定の態様では、環状リムは、栄養素および酸素の通過を可能にするように複数の孔(aperture)を有する。リムが、角膜の隣接する表層表面間に植え込まれるとき、角膜組織の健康を維持するために、栄養素が通過することができることが重要である。通常、孔は、リムの環状エリアの10%から90%を占有することになり、典型的には、そのエリアの約33%を占有する。例示的な実施形態では、孔は、環状リム周りに均一に配置された丸い穴であるが、環状リムの外縁内のクレネレーション(crenellation)など、いくつかの他の幾何形状をとることができる。
【0022】
本発明の他の態様では、角膜の障害のある中央領域を取り替えるために、角膜内に人工角膜を植え込むための方法が、角膜内で周辺側壁によって囲まれた後表面を有する中央前方開口部を形成することを含む。開口部は、好ましくは、典型的には200μmから800μmの範囲内の均一な深さを有し、この深さは、インプラントの中央オプティクの周辺壁の高さと一致する(好ましくは±50μm以内)ように選択される。人工角膜は、上述の利点をもたらすために、中央オプティクの周辺厚さまたは壁の高さが±50μmの公差内で中央前方開口部の周辺側壁と一致するように、中央前方開口部内に植え込まれる。
【0023】
本方法の特定の実施形態では、中央前方開口部を形成することに加えて、表層ポケットが、中央前方開口部の周辺側壁の少なくとも一部分の上に形成されることになり、インプラントを開口部内で固定するために、インプラントのリム部分が、表層ポケット内に挿入される。典型的には、表層ポケットは、中央前方開口部に完全に外接することになり、環状リムは、インプラント周りで完全に延びる。さらに他の例示的な実施形態では、表層ポケットは、中央前方開口部の後表面の周辺部周りに形成され、表層ポケット内に入る環状リムは、角膜インプラントの中央オプティクの後縁周りに配置される。
【0024】
例示的な実施形態では、中央前方開口部は、中央オプティクの直径より小さい、典型的には中央オプティクの直径の70%から99%の直径を有するように形成され、その結果、部分的に弾性の角膜組織がインプラントの周辺壁周りを密に封止することができ、縫合糸が除去された後のインプラントの突出を防止し、上皮細胞の内方への成長を妨げ、細菌が入るのを妨げ、前眼房から流体が失われるのを防止する助けとなる。人工角膜は、2つの異なる技法の1つによって中央前方開口部内に植え込むことができる。第1の技法では、人工角膜は、その幅を低減するように拘束され、後方向に前方中央開口部の上部表面を通して導入される。人工角膜は、中央前方開口部内で拘束から解放することができ、その結果、通常、環状リムが表層ポケット内に挿入された状態で、中央開口部の体積を占有するようにその拘束されない幾何形状をとる。あるいは、別個の側方開口部を眼の側部から中央前方開口部内に形成し、そこを通して拘束された人工角膜を導入することができる。
【0025】
特定の実施形態では、本発明の人工角膜は、オプティクの前面の周辺部の上で、生育可能な角膜上皮の成長を支援するように適合される。生育可能な上皮を周辺前表面の上で定着させることは、オプティクの前面の縁部周りに生物学的な封止をもたらすことになり、隆起したオプティクと角膜支質の接合部を通って細菌が角膜ポケットに入るのを防止することが有利である。好ましくは、オプティクの中心には、植込み後、角膜上皮がないままとなり、それにより、患者の眼が滑らかな、光学的に良好な上皮を形成することができないときでさえ、(光学性能にとって重要な)オプティク主材(optic principal)の中央表面が光学的に滑らかなままであることが可能である。好ましい実施形態では、患者の角膜上皮は、0.1mmから1mmの範囲内の幅にわたってオプティクの前面の周辺部上に成長することができる。
【0026】
前方オプティクの周辺部にわたる生育可能な角膜上皮の成長の促進は、オプティクの前面の周辺部にわたって、通常上記の範囲内の幅まで、細胞外基質タンパク質または成長因子などそのような成長を促進するある種の生物学的分子をコーティングする、または共有結合させることによって達成することができる。好適な生物学的分子は、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、フィブロネクチン接着促進ペプチド配列(H−trp−gln−pro−pro−arg−ala−arg−ile−OH)(FAP)、および上皮成長因子を含む。他の好ましい態様では、オプティクの周辺部は、角膜上皮細胞が前方オプティク面の周辺部の表面により容易に結合することができるように、多孔性、またはテクスチャが粗いものとすることができる。
【0027】
人工角膜の製造に使用することができる多数の材料は、一般に、上述の特別な表面処理なしには角膜上皮細胞の成長を支援しない。そのような場合、人工角膜は、周辺部が成長を促進するように処理されたそのような非成長促進材料から形成することができる。コラーゲンまたはコラーゲン誘導体など上皮の成長を本質的に支援する材料製の人工角膜の場合、上皮の成長を支援しないポリマー、たとえばシリコーンまたはメタクリレートを中央オプティク表面の上にコーティングし、中央オプティク表面を上皮がない状態で保つことができる。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
可逆的に変形可能な人工角膜であって、
リムによって囲まれた中央オプティクを含む、4mmと10mmの間の直径を有するモノリシック体を備え、上記中央オプティクが、3mmから9mmの範囲内の直径、および200μmから800μmの範囲内のオプティク高さを有し、上記リムが、0.5mmから4.5mmの範囲内の幅、および50μmから200μmの範囲内のメジアン厚さを有し、
上記モノリシック体が、完全に水和したとき0.3MPaから100MPaの範囲内のヤング率を有するポリマーヒドロゲルから構成される、可逆的に変形可能な人工角膜。
(項目2)
少なくとも1.5MPaの引張り強さを有する、項目1に記載の人工角膜。
(項目3)
少なくとも100%の破断までの伸びを有する、項目1に記載の人工角膜。
(項目4)
上記中央オプティクの上記オプティク高さが、±50μm未満で変動する、項目1に記載の人工角膜。
(項目5)
上記中央オプティクと上記リムの間の角度が、±10°未満だけ変動する、項目1に記載の人工角膜。
(項目6)
上記リムが、上記中央オプティクの後縁に外接する、項目1に記載の人工角膜。
(項目7)
上記中央オプティクの少なくとも前表面が凸状に形作られ、天然角膜とほぼ等しい屈折力をもたらす、項目1に記載の人工角膜。
(項目8)
中央オプティクが、角膜内に植え込まれたとき30ジオプトリから70ジオプトリの範囲内にある屈折力をもたらす、項目7に記載の人工角膜。
(項目9)
上記中央オプティクの前表面および後表面が共に凸状に形作られる、項目8に記載の人工角膜。
(項目10)
上記前表面が上記後表面より平坦である、項目9に記載の人工角膜。
(項目11)
上記リムが、栄養素および酸素の通過を可能にするために孔を有する、項目1に記載の人工角膜。
(項目12)
上記孔が、上記リムの環状エリアの10%から90%を占有する、項目11に記載の人工角膜。
(項目13)
上記孔が、上記環状リム周りに均一に配置された丸い穴である、項目9に記載の人工角膜。
(項目14)
上記ポリマーヒドロゲルが、親水性アクリル材料、疎水性アクリル材料、シリコーンポリマーヒドロゲル、コラーゲンポリマーヒドロゲル、および相互貫入網目構造ヒドロゲルからなる群より選択される材料を含む、項目1に記載の人工角膜。
(項目15)
上記ポリマーヒドロゲルが、少なくとも3バーラーの酸素透過性を有する、項目1に記載の人工角膜。
(項目16)
上記ポリマーヒドロゲルが、Lotrafilcon A、Lotrafilcon B、Balafilcon A、Comfilcon A、Senofilcon A、Enfilcon A、およびGalyfilcon Aからなる群より選択される材料を含む、項目1に記載の人工角膜。
(項目17)
上記中央オプティクの前面の環状周辺領域が、上皮の成長を促進し、一方、上記環状周辺領域内の上記前面が、上皮の成長を妨げる、項目1に記載の人工角膜。
(項目18)
上記環状周辺領域が、上皮成長促進材料で覆われるか、粗くされるか、または多孔性である、項目17に記載の人工角膜。
(項目19)
上記環状周辺領域内の上記中央オプティクの上記前面が、上皮の成長を阻害する材料で覆われる、項目17に記載の人工角膜。
(項目20)
障害のある中央領域を有する角膜内に人工角膜を植え込むための方法であって、
上記角膜内に、周辺側壁によって囲まれた後表面を有する中央前方開口部を形成する工程であって、上記開口部が、200μmから800μmの範囲内の均一な周辺深さを有する、工程、および
上記中央前方開口部内に人工角膜を植え込む工程であって、インプラントが、上記中央前方開口部の上記周辺深さの±50μm以内の均一なオプティク高さを有する周辺壁を備える中央オプティクを有する、工程を含む、方法。
(項目21)
上記中央前方開口部の周辺側壁の少なくとも一部分の周りに表層ポケットを形成する工程、および
上記角膜インプラントに外接するリムを上記表層ポケット内に挿入し、上記インプラントを上記開口部内で固定する工程
をさらに含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
上記表層ポケットが、上記中央前方開口部の上記後表面の周辺部および上記角膜インプラントの上記中央オプティクの後縁を囲む上記リムの周りに形成される、項目21に記載の方法。
(項目23)
上記中央前方開口部が、上記中央オプティクの直径より小さい直径を有するように形成され、上記角膜組織が、上記中央オプティクの上記周辺壁を封止し、上皮細胞の内方への成長、細菌の侵入、流体の喪失を阻害する、項目20に記載の方法。
(項目24)
上記インプラントが、後方向に上記前方開口部を通って挿入される、項目20に記載の方法。
(項目25)
上記角膜を通って上記中央前方開口部内に側方通路を形成する工程、および上記側方通路を通して上記角膜インプラントを挿入する工程をさらに含む、項目20に記載の方法。
(項目26)
上記人工角膜が、縫合糸も接着剤も使用せずに固定される、項目20に記載の方法。
(項目27)
最初に表層ポケットが中央角膜を横切って作られ、次いで上記中央前方開口部が、上記表層ポケットの上記領域の上に作られる、項目20に記載の方法。