特許第6560107号(P6560107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560107
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20190805BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20190805BHJP
   F16J 1/04 20060101ALI20190805BHJP
   C10M 107/38 20060101ALI20190805BHJP
   C10M 177/00 20060101ALI20190805BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20190805BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20190805BHJP
【FI】
   C23C26/00 J
   F16C33/20 Z
   F16J1/04
   C10M107/38
   C10M177/00
   C10N30:06
   C10N40:02
   C10N50:08
   C10N70:00
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-227902(P2015-227902)
(22)【出願日】2015年11月20日
(65)【公開番号】特開2017-95753(P2017-95753A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年2月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 和幹
(72)【発明者】
【氏名】池田 一秋
(72)【発明者】
【氏名】グェン・ホン・フク
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/115655(WO,A1)
【文献】 特開2007−255311(JP,A)
【文献】 特開2006−008813(JP,A)
【文献】 特開2014−145401(JP,A)
【文献】 特開2001−227604(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051591(WO,A1)
【文献】 特開2007−225013(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第03103830(EP,A1)
【文献】 特開2011−084679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
C10M 1/00−177/00
F16C 17/00−17/26
F16C 33/00−33/28
F16J 1/00−1/24
F16J 7/00−10/04
C10N 30/00−70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面に潤滑油が存在する流体潤滑条件下で摺動する摺動部材であって、
前記摺動部材の摺動面には、架橋されたフッ素樹脂の皮膜が形成されており、
前記皮膜の表面粗さは、中心線平均粗さRa1.0〜2.0μmの範囲にあり、
前記皮膜は、基材の表面を被覆しており、前記皮膜と前記基材との間には化学結合が形成されていることを特徴とする摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面に潤滑油が存在する流体潤滑条件下で摺動するに好適な摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンの小型化・軽量化などの要求が高まっている。これに伴いピストン周りにおいてもスカート面積の減少や、スカート表面とシリンダボア間のクリアランスの減少を招き、潤滑状態はますます厳しいものになってきている。
【0003】
このような背景を鑑みて、エンジンのフリクションを低減するため、または摺動面同士の接触を伴う潤滑状態(境界・混合潤滑)における信頼性を担保するための手段として、ピストンのスカート部や軸受の表面への樹脂コーティングが主流となってきている。
【0004】
例えば、摺動面に樹脂コーティングを施した技術として、フリクションを低減する固体潤滑剤として、基材の表面(摺動面)に熱可塑性樹脂を被覆することがある。例えば、特許文献1には、摺動面にポリアミドイミドを含む皮膜を形成した摺動部材が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の摺動部材によれば、摺動部材が相手材との摺動する時に、摺動面に形成された皮膜のポリアミドイミドが固体潤滑剤として作用する。このため摺動面同士の接触が主となる境界潤滑条件下で摺動部材のフリクションを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−076914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ピストンまたは軸受などに代表される自動車部品のほとんどは、摺動時に潤滑油の油膜で、摺動面同士が分離される流体潤滑条件下で摺動する。このため、特許文献1に示す摺動面に形成された皮膜にポリアミドイミドを含有させたとしても、流体潤滑条件下では、この皮膜はフリクション低減に有効に作用しない。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、摺動面に潤滑油が存在する流体潤滑条件下で、低フリクションで摺動することができる摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を鑑みて、発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、摺動面に潤滑油が存在する流体潤滑条件下で、摺動部材を低フリクションで摺動させる材料として、フッ素樹脂に着眼した。しかしながら、摺動部材の摺動面に皮膜として形成しても、その皮膜自体の耐摩耗性は極めて低い。そこで、発明者らは、皮膜を構成するフッ素樹脂として、架橋されたフッ素樹脂に着眼した。
【0010】
本発明は、このような着眼に基づくものであり、本発明に係る摺動部材は、摺動面に潤滑油が存在する流体潤滑条件下で摺動する摺動部材であって、前記摺動部材の摺動面には、架橋されたフッ素樹脂の皮膜が形成されており、前記皮膜の表面粗さは、中心線平均粗さRa0.05〜2.0μmの範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、摺動面に、架橋されたフッ素樹脂の皮膜を形成することにより、流体潤滑条件下において低フリクションを発現するとともに、皮膜の耐摩耗性を向上させることができる。さらに、皮膜の表面粗さを、中心線平均粗さRa0.05〜2.0μmの範囲にすることにより、高面圧下においても、摺動部材の低フリクションを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は、架橋前のフッ素樹脂の皮膜が形成された摺動部材の模式的概念図であり、(b)は、本発明に係る架橋されたフッ素樹脂の皮膜が形成された摺動部材の模式図である。
図2】(a)は、摩擦摩耗試験を説明するための模式的概念図であり、(b)は、焼付試験を説明するための模式的概念図である。
図3】実施例1および比較例1に係る摺動部材の摩擦係数の時間変化を示した図である。
図4】実施例1に係る摺動部材の摺動面に作用する荷重と摩擦係数との関係を示した図である。
図5】低面圧下で回転数を増加させたときの実施例1および比較例2〜5に係る摺動部材の摩擦係数の変化を示した図である。
図6】高面圧下で回転数を増加させたときの実施例1および比較例2〜5に係る摺動部材の摩擦係数の変化を示した図である。
図7】実施例2および比較例6に係る摺動部材の皮膜(架橋PTFE)の表面粗さと摩擦係数の関係を示した図である。
図8】流体潤滑条件下でのフリクション低減のメカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を図1を参照しながら説明する。
本実施形態に係る摺動部材は、摺動面に潤滑油が存在する流体潤滑条件下で摺動する摺動部材である。このような摺動部材は、例えば、ピストン、軸受、ワッシャーなどに適用される。摺動面に存在する潤滑油には、エンジンオイル、オートマチックトランスミッション用のオイル(ATF)、コンティニュアスリーバリアブルトランスミッション用のオイル(CVTF)などに代表される自動車用潤滑油を挙げることができる。ここで、流体潤滑条件とは、相互に摺動する摺動面同士が接触せず潤滑剤を介して摺動している条件(状態)をいう。
【0014】
図1(b)に示すように、本実施形態に係る摺動部材の摺動面(具体的には基材の表面)には、架橋されたフッ素樹脂の皮膜が形成されている。基材の材質としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼、または鋳鉄などを挙げることができ、架橋されたPTFEと密着性を有することができ、摺動部材として剛性を有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0015】
皮膜を構成するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の群から選択される1種以上であることが好ましく、より好ましくは、PTFEである。
【0016】
本実施形態に係る摺動部材のフッ素樹脂の皮膜の表面粗さは、中心線平均粗さRa0.05〜2.0μmの範囲である。これにより、高面圧下においても、摺動部材の低フリクションを維持することができる。このような表面粗さの皮膜は、基材の表面粗さ、皮膜の厚さ等を調整することにより、得ることができる。
【0017】
ここで、フッ素樹脂の皮膜の表面粗さが、中心線平均粗さRa0.05μm未満の皮膜を後述するシートから製造することは難しい。一方、フッ素樹脂の皮膜の表面粗さが、中心線平均粗さRa2.0μmを超えた場合には、低面圧下であっても、摺動部材のフリクションが増大することがある。
【0018】
架橋されたフッ素樹脂の皮膜を、コーティングにより基材の表面に成膜する方法を以下に説明する。この方法は、基材の表面に比較的に厚さの薄い皮膜(10〜100μm程度)を形成する際に有効な方法である。以下に、フッ素樹脂の一例として、PTFEを用いた場合の方法を例示する。
【0019】
具体的には、まず、PTFEの微粒子を水などの溶媒中に分散させた液体を、基材の上にスプレーコーティングする。その後、PTFEの融点(327℃)以上の温度(具体的には380〜400℃)で加熱し、この温度を10〜30分間保持することで、PTFEからなる均一な皮膜を、基材の表面に成膜することができる。
【0020】
この状態では、図1(a)に示すように、PTFEからなる皮膜の表面は、非粘着性を有し、低フリクションを発現できるが、未架橋のPTFE同士の分子間力が弱く、基材と皮膜との密着性も低い。したがって、図1(a)に示す状態のPTFEの皮膜では、皮膜が基材から剥離するまたは摩滅するおそれがある。
【0021】
そこで、本実施形態では、皮膜のPTFEを架橋する。はじめに、未架橋のPTFEの皮膜を、融点から融点+30℃の照射温度に温度調整する(具体的には融点が327℃のPTFEの場合、327〜357℃に加熱する)。この温度調整をした状態で、酸素ガスが極めて少ない低酸素濃度雰囲気下で、放射線(好ましくは電子線)を皮膜に照射する。
【0022】
具体的には、低酸素濃度雰囲気とは、酸素濃度が1000ppm以下の窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気である。放射線の照射量は、10〜1000kGyであり、好ましくは、100〜500kGyである。これにより、図1(b)に示すように、皮膜のPTFEは架橋され、基材と皮膜との間にも化学結合が形成され、皮膜の耐摩耗性を向上させるとともに、基材からの皮膜の剥離を抑えることができる。
【0023】
この他にも、PTFEシートから架橋されたPTFEの皮膜を基材の表面に形成してもよい。この方法は、基材の表面に比較的に厚さの厚い皮膜(50μm以上)を形成する際に有効な方法である。
【0024】
具体的には、まず、PTFEのバルク材から、スライサーによりPTFEシートを切り出す。その後、前記と同様に、上述した照射温度までPTFEシートを温度調整し、低酸素濃度で放射線を照射することにより、架橋されたPTFEシートを作製する。最後に、接着剤(例えば、ポリアミドイミドにPTFEを含浸させたもの)を介して、基材の表面に、架橋されたPTFEシートを貼り付けて、基材の表面に架橋されたPTFEの皮膜を形成することができる。
【実施例】
【0025】
本発明を以下の実施例により説明する。
【0026】
[実施例1]
摺動部材として、摩擦摩耗試験用のブロック試験片(図2(a)参照)と、焼付試験用の平板試験片(図2(b)参照)とを、作製した。まず、これらの試験片の基材として、アルミニウム合金鋳物(JIS規格:AC8A)を準備した。次に、これらの試験片の摺動面に対応する基材の表面に、フッ素樹脂としてPTFEの微粒子を水(分散溶媒)に分散させた液体を、基材の表面に吹き付けて、PTFEをスプレーコーティングした。その後、PTFEが付着した基材を340℃で加熱し、分散溶媒を揮発させることによりPTFEを焼成した。これにより、基材の表面に膜厚28μmの未架橋のPTFEの皮膜を成膜した。
【0027】
次に、酸素濃度を3.4ppmに維持した低酸素濃度の窒素ガス状態で、加速電圧1.16MeVの電子線を、照射量が300kGyとなるように照射し、未架橋のPTFEの皮膜のPTFEを架橋した。得られた摺動部材の皮膜の表面粗さは、中心線平均粗さRa1.0μmであった。なお、本明細書でいう、皮膜の表面粗さ(中心線平均粗さRa)は、JIS B0601−1994に準じて測定した結果である。
【0028】
[比較例1]
摺動部材として、実施例1と同様に、摩擦摩耗試験用のブロック試験片を作製した。実施例1と相違する点は、PTFEの架橋は行わず、未架橋のPTFEの皮膜を基材の表面に形成した点である。
【0029】
<摩擦摩耗試験>
図2(a)に示すように、実施例1および比較例1に係る摺動部材(ブロック試験片)を、ねずみ鋳鉄(JIS規格:FC250)からなる円筒試験片(相手材)の周面に押し付けて、摩擦特性を評価した。
【0030】
エンジン油中(80℃)において、ならし運転後、面圧30MPaで一定時間の試験を行った際の摩擦係数の変化を測定し、試験後の皮膜の摩耗深さを摩耗量として測定した。この結果を、図3に示す。図3は、実施例1および比較例1に係る摺動部材の摩擦係数の時間変化を示した図である。
【0031】
〔結果1〕
図3に示すように、比較例1に係る摺動部材では、試験開始から40分までは、低フリクションを維持している。しかしながら、その後、時間経過と共に摩擦係数が徐々に増加し、最終的には、摺動部材の皮膜が摩滅していた。
【0032】
一方、実施例1に係る摺動部材は、試験終了までの間、低フリクションを維持し、試験終了後も、基材の表面に皮膜が形成されていた。なお、実施例1に係る摺動部材の皮膜の摩耗量は、13μmであり、比較例1に係る摺動部材の皮膜の摩耗量は、28μm(摩滅)であった。
【0033】
<焼付試験1>
図2(b)に示すように、実施例1に係る摺動部材(平板試験片)を、ねずみ鋳鉄(JIS規格:FC250)からなる円筒試験片(相手材)の周面に押し付けて、両者を相対的に回転させることにより、焼付特性を評価した。
【0034】
具体的には、エンジン油中(80℃)において、ならし運転後、摺動部材(平板試験片)と円筒試験片とを押し付ける荷重をステップ的に増加させ、このときの摺動部材の摩擦係数を測定した。この結果を、図4に示す。図4は、実施例1に係る摺動部材の摺動面に作用する荷重と摩擦係数との関係を示した図である。
【0035】
〔結果2〕
通常、焼付試験では、摺動部材(平板試験片)の皮膜が摩滅または剥離したときに、円筒試験片と平板試験片の基材とが直接接触し、摩擦係数が急上昇するため、この時点で焼付試験を終了することにしている。しかしながら、実施例1に係る摺動部材では、試験を途中で終了することなく、最大試験面圧25MPaまで、このような現象は生じなかった。
【0036】
すなわち、実施例1に係る摺動部材は、図4に示すように、摺動面に作用する荷重の増加に拘わらず、低フリクションを維持していた。ここで、最大試験面圧が25MPa、摺動速度(円筒試験片の周速度)が60m/minであることから、皮膜の耐摩耗性を示すPV値は、25×60=1500MPa・m/minである。同様の試験を10回繰り返したところ、PV値は、1200±150MPa・m/min程度であることがわかった。このことから、架橋された皮膜の耐摩耗特性を表現する限界PV値は、1000MPa・m/min以上であることが好ましい。
【0037】
[比較例2]
摺動部材として、実施例1と同様に、焼付試験用の平板試験片を作製した。実施例1と相違する点は、PTFEの代わりに、ポリアセタールの皮膜を基材の表面に形成した点である。
【0038】
[比較例3]
摺動部材として、実施例1と同様に、焼付試験用の平板試験片を作製した。実施例1と相違する点は、PTFEの代わりに、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂(PEEK)の皮膜を基材の表面に形成した点である。
【0039】
[比較例4]
摺動部材として、実施例1と同様に、焼付試験用の平板試験片を作製した。実施例1と相違する点は、PTFEの代わりに、超高分子量ポリエチレンの皮膜を基材の表面に形成した点である。
【0040】
[比較例5]
摺動部材として、実施例1と同様に、焼付試験用の平板試験片を作製した。実施例1と相違する点は、PTFEの代わりに、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂の皮膜を基材の表面に形成した点である。
【0041】
<焼付試験2>
図2(b)に示すように、実施例1および比較例2〜5に係る摺動部材(平板試験片)を、機械構造用炭素鋼材(JIS規格:S45C)からなる円筒試験片(相手材)の端面に押し付けて、両者を相対的に回転させることにより、焼付特性を評価した。
【0042】
具体的には、エンジン油中(80℃)において、ならし運転後、摺動部材(平板試験片)と円筒試験片とを押し付ける面圧を0.05MPa(低面圧)にした状態で、回転数(駆動速度)を100〜10000rpmまで増加させた。この回転数の増加に合わせて、その時の摩擦係数を測定した。この結果を、図5に示す。図5は、低面圧下で回転数を増加させたときの実施例1および比較例2〜5に係る摺動部材の摩擦係数の変化を示した図である。
【0043】
さらに、同様に、実施例1および比較例2〜5に係る摺動部材と円筒試験片とを押し付ける面圧を1MPa(高面圧)にして、回転数(駆動速度)を100〜10000rpmまで増加させて、その時の摩擦係数を測定した。なお、各試験において、試験中に皮膜が摩滅または剥離することにより回転トルクが増加した場合には、その時点で試験を終了した。この結果を、図6に示す。図6は、高面圧下で回転数を増加させたときの実施例1および比較例2〜5に係る摺動部材の摩擦係数の変化を示した図である。
【0044】
〔結果3〕
図5に示すように、実施例1に係る摺動部材は、低面圧下では、回転数が増加しても、比較例2〜5のものに比べて、低フリクションを安定的に持続していることがわかる。さらに、図6に示すように、高面圧下では、比較例2〜5に係る摺動部材は、回転数の増加途中で、焼き付いた。しかしながら、実施例1に係る摺動部材は、全回転数域で焼き付くことなく、比較例2〜5に係る摺動部材よりも低フリクションを維持していることがわかる。
【0045】
[実施例2]
摺動部材として、実施例1と同様に、焼付試験用の平板試験片を作製した。実施例1と相違する点は、架橋したPTFEからなる皮膜の表面粗さが、中心線平均粗さRa0.05〜2.0μmの範囲となるように、図7に示す、表面粗さの範囲の摺動部材を作製した点である。
【0046】
[比較例6]
摺動部材として、実施例1と同様に、焼付試験用の平板試験片を作製した。実施例1と相違する点は、架橋したPTFEからなる皮膜の表面粗さが、中心線平均粗さRa2.0μmを超えるように、図7に示す、表面粗さの範囲の摺動部材を作製した点である。
【0047】
<焼付試験3>
実施例2および比較例6の摺動部材(平板試験片)に対して、実施例1と同じように、図2(b)に示す焼付試験を行った。具体的には、エンジン油中(80℃)において、ならし運転後、摺動部材(平板試験片)と円筒試験片とを押し付ける面圧を1MPa(○:流体潤滑条件下)、10MPa(●:境界潤滑条件下)とに分けて、回転数(駆動速度)を1000rpm時の摩擦係数を測定した。この結果を図7に示す。図7は、実施例2および比較例6に係る摺動部材の皮膜(架橋PTFE)の表面粗さと摩擦係数の関係を示した図である。
【0048】
〔結果4〕
図7に示すように、10MPaの高面圧の条件(●)では、皮膜の表面粗さに依存せず、実施例2および比較例6に係る摺動部材の摩擦係数は、ほぼ一定値(0.05程度)である。従って、境界潤滑条件下では、皮膜の表面粗さが摺動部材の摩擦係数に及ぼす影響は小さいことがわかる。
【0049】
一方、1MPaの低面圧の条件(○)では、実施例2に係る摺動部材は、皮膜の表面粗さに拘わらず、低フリクションを維持している。しかしながら、比較例6に係る摺動部材の摩擦係数は、皮膜の表面粗さの増加に伴って、摩擦係数が高面圧の条件での摩擦係数に近づいていた。
【0050】
このような結果、境界潤滑条件および流体潤滑条件のいずれの条件下であっても、摺動部材の皮膜の表面粗さが、中心線平均粗さRa0.05〜2.0μmの範囲で低フリクションを維持することができる。なお、下限値である中心線平均粗さRa0.05μmは、皮膜に架橋されたPTFEシートを用いた場合の表面粗さの製造限界でもある。
【0051】
<流体潤滑条件下でのフリクション低減のメカニズム>
図8は、流体潤滑条件下でのフリクション低減のメカニズムを説明するための図である。図8に示すように、上壁面(摺動面)が一定速度Vで摺動している条件で、上壁面の素材が鉄系材料であれば、上壁面に接する流体(潤滑油)も、上壁面の摺動(移動)とともに速度Vで引きずられる。
【0052】
しかしながら、上壁面の素材がPTFE樹脂であれば、PTFE自体の表面自由エネルギが小さい。これにより、たとえ上壁面が一定速度Vで摺動していても、上壁面と流体との間にすべりが生じる。このすべり量αに応じて、速度U(=V−α)は低減する。したがって、同じ二面間距離hであるにも拘わらず、PTFE樹脂の場合には、流体の速度勾配(=速度/二面間距離)が小さくなり、結果として流体である潤滑油のせん断力も低下する。これにより、本発明に係る摺動部材は、流体潤滑条件下で摺動部材のフリクションが低減される。
【0053】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8