(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明者らは、鋭意検討の結果、リビングラジカル重合によって形成される特有な構造を有するポリマーが、非水系分散媒体中に水酸化鉱物を良好な分散状態で分散させうるフィラー分散剤として極めて有用であること見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の水酸化鉱物分散体は、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含有するとともに、数平均分子量が4,000以上20,000以下であり、かつ、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下である、Aポリマーブロック及びBポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーをフィラー分散剤として含有する。
【0015】
水酸化鉱物は、その表面に水酸基(OH基)を有する無機化合物である。一方、フィラー分散剤として用いるA−Bブロックコポリマーは、非水系分散媒体に溶解及び相溶しうるポリマー鎖であるAポリマーブロックと、カルボキシ基を有するBポリマーブロックとで構成されている。Bポリマーブロック中のカルボキシ基は、水酸化鉱物の表面に存在するOH基とイオン結合、又はOH基や酸素原子と水素結合する。これにより、Bポリマーブロックは水酸化鉱物に吸着するとともに、疎水性の非水系分散媒体中においては、Bポリマーブロックと水酸化鉱物との吸着は解離しにくいと考えられる。また、Aポリマーブロックは、疎水性の非水系分散媒体に溶解及び相溶するブロックであることから、立体反発によって水酸化鉱物の凝集を抑制し、水酸化鉱物の分散状態を良好な状態に保つことができる。したがって、このようなA−Bブロックコポリマーをフィラー分散剤として含有する本発明の水酸化鉱物分散体は、低粘度であるとともに、長期間にわたって安定した分散性を示す。さらに、水酸化鉱物は比重が高いため、液媒体中で沈降した場合であっても、軽く撹拌することで元の分散状態に容易に戻すことができる。
【0016】
<水酸化鉱物分散体>
本発明の水酸化鉱物分散体は、水酸化鉱物、非水系分散媒体、及び非水系分散媒体中に水酸化鉱物を分散させるフィラー分散剤を含有する。以下、本発明の水酸化鉱物分散体を構成する各成分について詳細に説明する。
【0017】
(水酸化鉱物)
水酸化鉱物は、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化水酸化鉄、及び水酸化鉄からなる群より選択される少なくとも一種である。これらの水酸化鉱物は無機酸化物であるため、様々な結晶形を有する。例えば、水酸化アルミニウムに関しては、α−、β−、γ−、δ−が知られている。本発明においては、いずれの結晶形を有するものであってもよい。水酸化鉱物の形状としては、針状、平面状、板状、鱗片状、立方体、円盤状、粒状、粉状、及び球状などがある。本発明においては、いずれの形状の水酸化鉱物であってもよい。さらに、水酸化鉱物は天然鉱物であってもよく、化学合成して得られたものであってもよい。化学合成としては、アルカリによる中和反応、過飽和状態からの析出、金属アルコキシドの加水分解、及び水酸化物の熱合成などがある。
【0018】
水酸化鉱物の数平均粒子径は、粒子形状や水酸化鉱物分散体の用途によって変動するため一概に言えないが、500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。水酸化鉱物の数平均粒子径が上記の範囲内であると、水酸化鉱物の性能を良好に発揮させることができる。一方、水酸化鉱物の数平均粒子径が大きすぎると、外観が不透明になりやすく、艶や透明感を出すことが困難になる場合がある。なお、水酸化鉱物の数平均粒子径は、例えば、顕微鏡観察や光散乱測定により測定することができる。
【0019】
なお、水酸化鉱物として、水酸化マグネシウム水酸化カルシウムなどの複合水酸化鉱物を用いることもできる。このような複合水酸化鉱物は、例えば、塩化マグネシウムと塩化カルシウムの共沈によって得ることができる。また、必要に応じて、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、シリカなどの無機フィラーの表面に水酸化鉱物を付与して表面処理した無機フィラーを用いることもできる。
【0020】
水酸化鉱物分散体中の水酸化鉱物の含有量は、5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましい。水酸化鉱物の含有量が5質量%未満であると、フィラーとしての特性が発揮されにくくなる場合がある。一方、水酸化鉱物の含有量が50質量%超であると、非水系分散媒体として液媒体を用いた場合、粘度が高くなりすぎることがある。また、非水系分散媒体として熱可塑性樹脂を用いた場合、充填率が高すぎてしまい、混練が困難になることがある。
【0021】
水酸化鉱物100質量部に対する、フィラー分散剤の含有量は、20〜200質量部であることが好ましく、25〜100質量部であることがさらに好ましい。水酸化鉱物100質量部に対する、フィラー分散剤の含有量が20質量部未満であると、水酸化鉱物の保存安定性が不足する場合がある。一方、水酸化鉱物100質量部に対する、フィラー分散剤の含有量が200質量部超であると、フィラー分散剤が過剰となる。このため、非水系分散媒体として液媒体を用いた場合、粘度が高くなりすぎることがある。さらに、フィラー分散剤として用いるA−Bブロックコポリマーの物性が顕著に発現しやすくなり、所望とする非水系分散媒体の物性が発揮されにくくなる場合がある。
【0022】
(フィラー分散剤(A−Bブロックコポリマー))
本発明の水酸化鉱物分散体に用いるフィラー分散剤は、Aポリマーブロック及びBポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーである。A−Bブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上、好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%含有する。後述するA−Bブロックコポリマーの好適な製造方法は、メタクリル酸系モノマーを用いることが好ましい重合方法である。この製造方法において、スチレン等のビニル系モノマー、アクリレート系モノマー、又はビニルエーテル系モノマーなどを用いると、重合末端に結合したヨウ素が安定化しすぎてしまい、解離させるのに加温する必要性が生ずる、或いは加温しても解離しないなどの不都合が生ずる可能性がある。このため、メタクリル酸系モノマー以外のモノマーを多量に用いると、所望とする特定構造を有するA−Bブロックコポリマーが得られない、或いは分子量分布が過剰に広がってしまうなどの不具合が生ずる可能性がある。但し、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、メタクリル酸系モノマー以外のモノマーを用いてもよい。
【0023】
A−Bブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は、4,000以上20,000以下、好ましくは5,000以上15,000以下である。A−BブロックコポリマーのMnが4,000未満であると、得られる水酸化鉱物分散体の分散安定性が低下する。一方、A−BブロックコポリマーのMnが20,000超であると、非水系分散媒体として液媒体を用いた場合に、粘度が高くなりすぎる、或いは水酸化鉱物の分散性が低下する場合がある。なお、本明細書における「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリスチレン換算の分子量である。
【0024】
A−Bブロックコポリマーの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.6以下、好ましくは1.5以下である。A−Bブロックコポリマーの分子量分布(以下、「PDI」とも記す)が1.6超であると、上記の数平均分子量(Mn)の範囲から外れるポリマーが含まれやすくなるため、得られる水酸化鉱物分散体の分散安定性が低下する場合がある。
【0025】
A−Bブロックコポリマーを製造(重合)する際には、AポリマーブロックとBポリマーブロックのいずれを先に重合してもよい。但し、Aポリマーブロックを重合した後、Bポリマーブロックを重合することが好ましい。カルボキシ基を有するメタクリル酸系モノマーを用いてBポリマーブロックを先に形成した場合、重合率が低く、カルボキシ基を有するメタクリル酸系モノマーが残存すると、Aポリマーブロックにもカルボキシ基が導入されやすくなる。Aポリマーブロックにもカルボキシ基が導入されてしまうと、得られる水酸化鉱物分散体の分散安定性が不十分となることがある。
【0026】
[Aポリマーブロック]
Aポリマーブロックは、疎水性の非水系分散媒体に親和及び溶解し、立体障害や立体反発によって水酸化鉱物の凝集を抑制する機能を有する。また、Aポリマーブロックは、顔料分散液などに用いられるその他のポリマーと相溶する性質をも有する。
【0027】
Aポリマーブロックは、アルキルメタクリレート、シクロアルキルメタクリレート、アルキルシクロアルキルメタクリレート、アリールメタクリレート、アリールアルキルメタクリレート、アルコキシアルキルメタクリレート、シクロアルコキシアルキルメタクリレート、シクロアルケノキシアルキルメタクリレート、及びアリーロキシアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を含有する。また、この構成単位のAポリマーブロック中の含有量は、80質量%以上、好ましくは90質量%以上である。なお、Aポリマーブロックは、Bポリマーブロックに含有される、カルボキシ基を有するメタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を実質的に含有しないことが好ましい。
【0028】
上記の構成単を構成するモノマーの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−メチルプロパンメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベへニルメタクリレート、イソステアリルメタクリレートなどの直鎖状又は分岐状のアルキルメタクリレート;シクロヘキシルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、シクロデシルメタクリレートなどのシクロアルキルメタクリレート;t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、トリメチルシロクヘキシルメタクリレートなどのアルキルシクロアルキルメタクリレート;フェノキシメタクリレート、ナフチルメタクリートなどのアリールメタクリレート;ベンジルメタクリレートなどのアリールアルキルメタクリレート;メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ラウロキシエチルメタクリレートなどのアルコキシアルキルメタクリレート;シクロヘキシロキシエチルメタクリレートなどのシクロアルコキシアルキルメタクリレート;ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートなどのシクロアルケノキシアルキルメタクリレート;フェノキシエチルメタクリレートなどのアリーロキシアルキルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0029】
上記のモノマーと共重合しうるその他のメタクリル酸系モノマーを用いてもよい。但し、カルボキシ基と容易に反応するモノマーや、親水性の高いモノマーの使用は避けることが好ましい。カルボキシ基と容易に反応するモノマーとしては、グリシジルメタクリレート、メタクリロイロキシエチルイソシアネート、オキセタニルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレートなどを挙げることができる。また、親水性の高いモノマーとしては、ホスホニルエチルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0030】
その他のメタクリル酸系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートなどの水酸基を有するメタクリレート;テトラフルオロエチルメタクリレートなどのハロゲン含有メタクリレート;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルメタクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどの紫外線を吸収しうるメタクリレート;トリメトキシシリル基やジメチルシリコーン鎖を持ったケイ素含有メタクリレートの他;テトラヒドロフルフリルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0031】
Aポリマーブロックの数平均分子量(Mn)は、3,000以上15,000以下、好ましくは5,000以上10,000以下である。AポリマーブロックのMnが3,000未満であると、立体反発が不十分になり、水酸化鉱物が分散したとしても凝集しやすくなることがある。一方、AポリマーブロックのMnが15,000超であると、分子量が大きすぎてしまう。このため、非水系分散媒体として液媒体を用いた場合に、Aポリマーブロックが溶解して粘度が高くなることがある。
【0032】
Aポリマーブロックの分子量分布(PDI)は、1.5以下、好ましくは1.3以下である。AポリマーブロックのPDIが1.5超であると、上記の数平均分子量(Mn)の範囲から外れるポリマーブロックが含まれやすくなる。
【0033】
[Bポリマーブロック]
Bポリマーブロックは、カルボキシ基を有するメタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を含有する、水酸化鉱物に吸着するポリマーブロックである。カルボキシ基以外の酸性基(例えば、スルホン酸基やリン酸基など)の場合、水酸化鉱物分散体の耐水性が低下する場合がある。カルボキシ基を有するメタクリル酸系モノマーとしては、例えば、メタクリル酸;メタクリル酸にアクリル酸を付加したもの;メタクリル酸を開始基としてε−カプロラクトンなどを数モル開環反応させて得られるモノマー;メタクリル酸2−ヒドロキシエチルやメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基含有メタクリレートに、フタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、コハク酸、これらの酸無水物、これらの酸クロライドなどの二塩基酸を反応させて得られる、二塩基酸やトリメリット酸などの多価カルボキシ化合物のハーフエステル型メタクリレート;グリシジルメタクリレートに二塩基酸を反応させたものなどを挙げることができる。
【0034】
Bポリマーブロックの酸価は、100mgKOH/g以上652mgKOH/g以下である。なお、樹脂の酸価は、樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表される。酸価は、モノマーの配合比から算出される計算値であっても、実測値であってもよい。酸価は、例えば、樹脂をトルエンやエタノールで希釈した希釈物を測定試料とし、フェノールフタレイン溶液を指示薬として、0.1質量%エタノール性水酸化カリウム溶液を用いた酸塩基滴定によって実測することができる。Bポリマーブロックの酸価が上記の範囲であると、Bポリマーブロックが水酸化鉱物に良好に吸着する。Bポリマーブロックの酸価が100mgKOH/g未満であると、水酸化鉱物に吸着しにくく、脱離する可能性がある。なお、Bポリマーブロックを構成しうるカルボキシ基を有するメタクリル酸系モノマーのうち、分子量が最も小さい化合物はメタクリル酸である。Bポリマーブロックがメタクリル酸のホモポリマーブロックである場合、このBポリマーブロックの酸価(計算値)は「652.7mgKOH/g」となる。
【0035】
Bポリマーブロックは、カルボキシ基を有するメタクリル酸系モノマーに由来する構成単位以外の構成単位(その他の構成単位)を含有していてもよい。その他の構成単位を構成するモノマーとしては、Aポリマーブロックを構成するためのモノマーである、アルキルメタクリレート、シクロアルキルメタクリレート、アルキルシクロアルキルメタクリレート、アリールメタクリレート、アリールアルキルメタクリレート、アルコキシアルキルメタクリレート、シクロアルコキシアルキルメタクリレート、シクロアルケノキシアルキルメタクリレート、及びアリーロキシアルキルメタクリレートを挙げることができる。
【0036】
Bポリマーブロックの数平均分子量は、Aポリマーブロックの数平均分子量以下である。また、Bポリマーブロックの数平均分子量は、Aポリマーブロックの数平均分子量の半分以下であることが好ましく、1/4以下であることがさらに好ましい。なお、Bポリマーブロックの数平均分子量は、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量からAポリマーブロックの数平均分子量を差し引いた値として表すことができる。Bポリマーブロックの数平均分子量が大きすぎると、水酸化鉱物に過剰のBポリマーブロックが吸着してしまい、水酸化鉱物の微分散が困難になる、或いは水酸化鉱物が凝集することがある。
【0037】
(A−Bブロックコポリマーの製造方法)
本発明の水酸化鉱物分散体にフィラー分散剤として用いるA−Bブロックコポリマー(本発明のA−Bブロックコポリマー)は、その数平均分子量や分子量分布などが特定の範囲内に規定されている。このため、A−Bブロックコポリマーは、リビングラジカル重合によって製造することが、分子量や分子量分布などをより正確に制御できるために好ましい。より具体的には、本発明のA−Bブロックコポリマーの製造方法は、重合開始化合物及び触媒の存在下、前述のメタクリル酸系モノマーを用いてリビングラジカル重合する工程(重合工程)を有する。重合開始化合物は、ヨウ素及びヨウ素化合物の少なくともいずれかである。また、触媒は、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物、イミド系化合物、フェノール系化合物、ジフェニルメタン系化合物、及びシクロペンタジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である。
【0038】
リビングラジカル重合としては、これまでに様々な方法が提案されている。例えば、アミンオキシドラジカルの解離と結合を利用するニトロキサイド法(Nitroxide mediated polymerization:NMP法);銅、ルテニウム、ニッケル、鉄等の重金属と、これらの重金属と錯体を形成するリガンドとを使用し、ハロゲン化合物を開始化合物として用いて重合する原子移動ラジカル重合(Atom transfer radical polymerization:ATRP法);ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物等を開始化合物として使用するとともに、付加重合性モノマーとラジカル開始剤を使用して重合する可逆的付加開裂型連鎖移動重合(Reversible addition- fragmentation chain transfer:RAFT法)及びMADIX法(Macromolecular Design via Interchange of Xanthate);有機テルル、有機ビスマス、有機アンチモン、ハロゲン化アンチモン、有機ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム等の重金属を用いる方法(Degenerative transfer:DT法)などを挙げることができる。
【0039】
しかしながら、上記のようなこれまでの方法では、本発明の水酸化鉱物分散体に用いるA−Bブロックコポリマーを簡便かつ安定して得るには問題がある。例えば、NMP法では、テトラメチルピペリジンオキシドラジカルなどのアミンオキシドを使用するが、100℃以上の高温条件下で重合することが必要とされる。さらに、メタクリル酸系モノマーを用いた場合には、重合が進行しないといった問題もある。
【0040】
また、ATRP法では、重金属を使用する必要があるとともに、酸化還元を伴う重合方法であるため、酸素の除去が必要となる。さらに、アミン化合物をリガンドとして錯体を形成させて重合する方法では、重合系に酸性物質が存在すると錯体の形成が阻害されてしまうので、酸基を有する付加重合性モノマーをそのまま重合させることは困難である。このため、保護基で酸基を保護したモノマーを重合し、重合後に保護基を脱離させる必要があるが、操作が煩雑であり、酸基をポリマーブロックに導入することは容易なことではない。
【0041】
RAFT法及びMADIX法では、ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などの特殊な化合物が必要とされる。これらは硫黄系の化合物であるので、得られるポリマーには硫黄系の不快な臭気が残りやすく、着色されている場合もある。このため、得られたポリマーから臭気や着色を除去する必要がある。さらに、メタクリル酸系モノマーの重合がうまく進行しない場合もある。また、ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などの硫黄エステルはアミノ基で分解する可能性があるので、得られるポリマーが低分子量化したり、硫黄臭が発生したりする。
【0042】
DT法では、ATRP法と同様に重金属を使用する必要がある。このため、得られたポリマーから重金属を除去する必要があるとともに、発生した重金属を含む廃水を浄化しなければならないといった問題がある。
【0043】
これに対して、本発明のA−Bブロックコポリマーの製造方法では、重金属化合物使用する必要がないため、得られるポリマーを精製する必要がない。また、特殊な化合物を用いなくても、比較的安価な材料を用いるだけで容易にA−Bブロックコポリマーを製造することができる。さらに、重合条件が温和であるとともに、従来のラジカル重合方法と同様の条件で重合することができる。そして、カルボキシ基などを有するモノマーをそのまま重合することができる。
【0044】
重合工程において、重合開始化合物として用いるヨウ素やヨウ素化合物に熱や光が付与されると、ヨウ素ラジカルが解離する。ヨウ素ラジカルが解離した状態でモノマーが挿入されると、ヨウ素ラジカルがポリマー末端ラジカルと直ちに再度結合して安定化し、停止反応を防止しながら重合反応が進行する。
【0045】
ヨウ素化合物の具体例としては、2−アイオド−1−フェニルエタン、1−アイオド−1−フェニルエタンなどのアルキルヨウ化物;2−シアノ−2−アイオドプロパン、2−シアノ−2−アイオドブタン、1−シアノ−1−アイオドシクロヘキサン、2−シアノ−2アイオド−2,4−ジメチルペンタン、2−シアノ−2−アイオド−4−メトキシ−2,4−ジメチルペンタンなどのシアノ基含有ヨウ化物などを挙げることができる。
【0046】
これらのヨウ素化合物は、市販品をそのまま使用してもよいが、従来公知の方法で調製したものを使用することもできる。例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素とを反応させることで、ヨウ素化合物を得ることができる。また、上記のヨウ素化合物のヨウ素が臭素や塩素などのハロゲン原子に置換した有機ハロゲン化物に、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩を反応させ、ハロゲン交換させることでもヨウ素化合物を得ることができる。
【0047】
重合工程では、重合開始化合物とともに、重合開始化合物のヨウ素を引き抜くことができる触媒を使用する。触媒としては、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物などのリン系化合物;イミド系化合物などの窒素系化合物;フェノール系化合物などの酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物などの炭化水素系化合物を使用する。
【0048】
リン系化合物の具体例としては、三ヨウ化リン、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、エトキシフェニルフォスフィネート、フェニルフェノキシフォスフィネートなどを挙げることができる。窒素系化合物の具体例としては、スクシンイミド、2,2−ジメチルスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、N−アイオドスクシンイミド、ヒダントインなどを挙げることができる。酸素系化合物の具体例としては、フェノール、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、t−ブチルフェノール、カテコール、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。炭化水素系化合物の具体例としては、シクロヘキサジエン、ジフェニルメタンなどを挙げることができる。触媒の使用量(モル数)は、重合開始化合物の使用量(モル数)未満とすることが好ましい。触媒の使用量(モル数)が多過ぎると、重合が制御されすぎてしまい、重合が進行しにくくなる場合がある。
【0049】
リビングラジカル重合の際の温度(重合温度)は30〜100℃とすることが好ましい。重合温度が高すぎると、重合末端のヨウ素が分解してしまい、末端が安定せずにリビング重合とならない場合がある。また、重合末端にはヨウ素が結合しており、このヨウ素をラジカルとして解離させた末端が安定であることが好ましい。モノマーがアクリレートやビニル系モノマーなどである場合、末端は2級のヨウ化物であり、比較的安定でヨウ素ラジカルが解離せず、重合反応が進行しない、又は分子量分布が広くなる可能性がある。温度を上げてヨウ素ラジカルを解離させることもできるが、上記の温度範囲で温和に重合することが、環境やエネルギーの面で好ましい。このため、ラジカルが発生しやすく、比較的安定な3級のヨウ化物を用いることが好ましい。
【0050】
重合工程においては、通常、ラジカルを発生しうる重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤や過酸化物系開始剤を使用することができる。なかでも、上記の重合温度の範囲で十分にラジカルが発生する重合開始剤を用いることが好ましい。このような重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤を挙げることができる。重合開始剤の使用量は、モノマーに対して0.001〜0.1モル倍とすることが好ましく、0.002〜0.05モル倍とすることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量が少なすぎると重合反応が十分に進行しない場合がある。一方、重合開始剤の使用量が多すぎると、リビングラジカル重合反応ではない通常のラジカル重合反応が副反応として進行してしまう場合がある。
【0051】
リビングラジカル重合は、有機溶剤を使用しないバルク重合であってもよいが、有機溶剤を使用する溶液重合とすることが好ましい。使用した有機溶剤は、フィラー分散剤の溶媒としてそのまま使用することができる。有機溶剤は、重合開始化合物、触媒、モノマー成分、及び重合開始剤などの成分を溶解しうるものであることが好ましい。リビングラジカル重合で使用した有機溶剤を除去し、形成されたポリマーを固形分として取り出すこともできる。ポリマーを取り出す方法は特に限定されず、例えば、貧溶剤に析出させてろ過及び乾燥する;乾燥してポリマーだけを取り出すなどの方法を挙げることができる。
【0052】
溶液重合の場合、重合液の固形分濃度(モノマー濃度)は5〜80質量%とすることが好ましく、20〜60質量%とすることがさらに好ましい。重合液の固形分濃度が5質量%未満であると、重合が完結しない場合がある。一方、重合液の固形分濃度が80質量%超又はバルク重合であると、重合液の粘度が高すぎるために、撹拌が困難になって重合収率が低下する傾向にある。リビングラジカル重合は、モノマーがなくなるまで行うことが好ましい。重合時間は0.5〜48時間とすることが好ましく、実質的には1〜24時間とすることがさらに好ましい。重合雰囲気は特に限定されず、通常の範囲内で酸素が存在する雰囲気であっても、窒素気流雰囲気であってもよい。また、重合に使用する材料(モノマーなど)は、蒸留、活性炭処理、又はアルミナ処理などにより不純物を除去したものを用いてもよいし、市販品をそのまま用いてもよい。さらに、遮光下で重合を行ってもよいし、ガラスなどの透明容器中で重合を行ってもよい。
【0053】
リビングラジカル重合の際のメタクリル酸系モノマーの使用量と、重合開始化合物の使用量との関係(モル比)を調整することで、得られるA−Bブロックコポリマーの主鎖の分子量が制御することができる。すなわち、重合開始化合物のモル数に対する、モノマーのモル数を適切に設定することで、その主鎖が任意の分子量に制御されたA−Bブロックコポリマーを得ることができる。例えば、重合開始化合物1モルに対して、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、「1×100×500=50000」の理論分子量を有するポリマーを得ることができる。すなわち、主鎖のポリマーの理論分子量を下記式(1)で算出することができる。なお、上記の「分子量」は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)のいずれをも含む概念である。
「主鎖のポリマーの理論分子量」=「重合開始化合物1モル」×「モノマーの分子量」×「モノマーのモル数/重合開始化合物のモル数」 ・・・(1)
【0054】
重合工程では二分子停止や不均化の副反応を伴うことがあり、上記の理論分子量の主鎖を有するポリマーが得られない場合があるため、これらの副反応が起こることなく重合が進行することが好ましい。また、重合率は100%でなくてもよい。さらに、重合を一旦終了した後、重合開始化合物や触媒を添加し、残存するモノマーを消費させて重合を完結させてもよい。
【0055】
(非水系分散媒体)
一般的に、水酸化鉱物は親水性であるため親水性媒体中に分散しやすいが、疎水性媒体では表面を湿潤させにくく、分散させることが困難である。本発明の水酸化鉱物分散体において効果が発揮される分散媒体は、水酸化鉱物を分散させることが一般的には困難な非水系分散媒体である。本発明の水酸化鉱物分散体に用いる非水系分散媒体は、25℃の水への溶解度が20g/L以下である非プロトン性有機溶媒、又は熱可塑性樹脂である。非プロトン性有機溶媒の具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、ドデカン、イソパラフィン、シクロヘキサン、ナフテン系溶剤、エチルベンゼン、スチレンなどの炭化水素系溶媒;アセトン以外の、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのアルキルケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸メチルなどのエステル系溶媒;アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどの、紫外線又は電子線硬化型インクなどに使用されるビニル系モノマー;ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒;ジメチルシロキサンなどのシリコーン系溶媒などを挙げることができる。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、従来公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレンプロピレン、ポリスチレン、ポリシクロデセン、ポリシクロペンタジエン、ポリイソプレンなどの炭化水素系モノマーの重合物であるオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリクロロプレンなどのポリビニル系樹脂;ナイロン66、ナイロン6、ナイロン12などのポリアミド系樹脂;ビスフェノールAポリカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ジイソシアネートとジオールからなるポリウレタン系樹脂;ジイソシアネート、ジアミン、ジオールとからなるポリウレタン尿素樹脂;トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂;ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂などを挙げることができる。なお、ポリオレフィンとポリビニルの共重合体であってもよい。このような共重合体としては、ポリエチレン酢酸ビニル、ポリエチレンビニルアルコール、ポリエチレンアクリル酸エチル、アクリロニトリルブタジエンスチレンポリマーなどを挙げることができる。
【0057】
また、必要に応じて、熱硬化性樹脂を熱硬化させる前のオリゴマーを分散媒体として用いることができる。このようなオリゴマーとしては、ビスフェノールAグリシジルエーテルなどのエポキシ樹脂原料;不飽和ポリエステル;架橋(加硫)前の天然ゴムやブタジエンゴム、シリコンゴムなどを挙げることができる。
【0058】
(添加剤など)
本発明の水酸化鉱物分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、従来公知の添加剤を含有させてもよい。用いることができる添加剤としては、例えば、相溶化剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、抗菌剤、香料、帯電防止剤、導電剤、防曇剤、金属粉末、染料、顔料、界面活性剤、ナノファイバー類、粘度調整剤、伝熱剤、磁性体、ガラス粉末、クレイや木片などの天然材料、可塑剤、難燃剤、赤外線吸収剤、遠赤外線吸収剤、熱線反射剤、難溶性無機塩、ガラス繊維、炭素繊維などを挙げることができる。
【0059】
(水酸化鉱物分散体の調製)
本発明の水酸化鉱物分散体は、分散機等を使用し、従来公知の方法によって各成分を混合及び分散させることによって調製することができる。非水系分散媒体として液媒体を用いる場合、分散機としては、例えば、ニーダー、二本ロール、三本ロール、ミラクルKCK(浅田鉄鋼社製、商品名)などの混練機;超音波分散機;マイクロフルイダイザー(みずほ工業社製、商品名)、ナノマイザー(吉田機械興業社製、商品名)、スターバースト(スギノマシン社製、商品名)、G−スマッシャー(リックス社製、商品名)などの高圧ホモジナイザーなどを使用することができる。また、ガラスやジルコンなどのビーズメディアを用いる場合には、ボールミル、サンドミル、横型メディアミル分散機、コロイドミルなどを使用することができる。
【0060】
また、所望とする粒度・粒度分布の水酸化鉱物分散体を得るべく、粉砕メディアのサイズを小さくする;粉砕メディアの充填率を高める;処理時間を長くする;吐出速度を遅くする;粉砕後にフィルターや遠心分離機などで分級する;などの手法を採用することが好ましい。調製した水酸化鉱物分散体は、そのまま用いてもよいが、遠心分離機で処理する、或いはフィルターを通すなどして粗大粒子を除去することが好ましい。以上のようにして、非水系分散媒体が液媒体である水酸化鉱物分散体を得ることができる。
【0061】
上記のようにして得られる、非水系分散媒体が液媒体である水酸化鉱物分散体の粘度は、好ましくは1〜100mPa・s、さらに好ましくは3〜20mPa・sである。但し、使用する水酸化鉱物の量(濃度)や、水酸化鉱物分散体の用途によって好ましい粘度は相違するため、特に限定されない。
【0062】
一方、非水系分散媒体として熱可塑性樹脂を用いる場合は、例えば、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ニーダールーダー、単軸押出機、多軸押出機などで各成分を混練すればよい。混練する温度や時間は熱可塑性樹脂の種類などにより相違するため、特に限定されない。上記のようにして得られる、非水系分散媒体が熱可塑性樹脂である水酸化鉱物分散体は、例えば、シート状に裁断してもよく、ペレタイザーでペレット化してもよい。
【0063】
<有機無機複合材料>
次に、本発明の有機無機複合材料について説明する。本発明の有機無機複合材料は、水酸化鉱物及びポリマーを含有する。水酸化鉱物は、前述の水酸化鉱物分散体に用いるものと同一であり、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化水酸化鉄、及び水酸化鉄からなる群より選択される少なくとも一種である。そして、ポリマーが、前述の水酸化鉱物分散体にフィラー分散剤として用いるA−Bブロックコポリマーである。
【0064】
本発明の有機無機複合材料は、A−Bブロックコポリマーを構成するBポリマーブロックのカルボキシ基が、無機化合物である水酸化鉱物に吸着することで形成された複合材料(組成物)である。前述のように、水酸化鉱物、フィラー分散剤、及び非水系分散媒体などの各成分を混合及び分散させることによって、本発明の水酸化鉱物分散体を製造することができる。但し、水酸化鉱物をフィラー分散剤(A−Bブロックコポリマー)で処理して予め調製した有機無機複合材料を非水系分散媒体中に分散させることで、水酸化鉱物分散体がより高度に微分散された水酸化鉱物分散体を簡便に製造することができる。なお、水酸化鉱物100質量部に対する、A−Bブロックコポリマーの含有量は、20〜200質量部であることが好ましく、25〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明の有機無機複合材料は、例えば、相転移やpH変換によってA−Bブロックコポリマーを析出させて水酸化鉱物を処理する方法などによって製造することができる。なかでも、(i)A−Bブロックコポリマーのアルカリ中和物の存在下、水酸化鉱物を水系媒体中に分散させてスラリーを得た後;(ii)得られたスラリーに酸を添加してA−Bブロックコポリマーを析出させる、いわゆる酸析出法によって有機無機複合材料を製造することが好ましい。
【0066】
A−Bブロックコポリマーは、その分子構造中にカルボキシ基を有する高酸価のBポリマーブロックを含むため、アルカリで中和することで水系媒体に溶解する。一方、Aポリマーブロックは水に不溶である。このため、水系媒体中、A−Bブロックコポリマーをアルカリで中和すると、ナノサイズの分散体又はエマルジョンを得ることができる。中和に用いるアルカリとしては、例えば、アンモニア;トリエチルアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノールなどの有機アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物などを挙げることができる。これらのアルカリの使用量は、Bポリマーブロック中のカルボキシ基と当モルであっても、過剰量又は不足量であってもよい。得られる分散体又はエマルジョン中のA−Bブロックコポリマーの含有量(濃度)は特に限定されない。また、分散体又はエマルジョンは、水以外の水溶性溶媒を含有していてもよい。
【0067】
A−Bブロックコポリマーのアルカリ中和物の存在下、水酸化鉱物を水系媒体中に分散させれば、水酸化鉱物のスラリーを得ることができる。スラリー中の水酸化鉱物の含有量は、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがさらに好ましい。水酸化鉱物のスラリーを得る際には、従来公知の撹拌装置や分散機を使用することができる。また、スターラー、モーター付き撹拌機、高速ディゾルバー、ホモミキサーを使用して混合撹拌してもよいし、ビーズミルや高圧ホモジナイザーなどの分散機を使用して再度分散させてから混合してもよい。
【0068】
得られたスラリーを撹拌しながら酸を添加し、A−Bブロックコポリマーのイオン化されたカルボキシ基を脱イオン化すれば、A−Bブロックコポリマーは水不溶化して析出するとともに、スラリー中に分散している水酸化鉱物を包み込んで被覆する。これにより、目的とする有機無機複合材料が形成される。酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸;酢酸、乳酸などの有機酸を用いることができる。酸は水で希釈して添加することが好ましい。高濃度の酸をスラリーに添加すると、A−Bブロックコポリマーが局所的に析出しやすくなる場合がある。このため、濃度10質量%以下の酸水溶液をスラリーに添加することが好ましい。また、酸は一度に添加してもよく、滴下や噴霧などによってスラリーに添加してもよい。さらに、スラリーが十分酸性になるまで酸を添加することが好ましい。具体的には、スラリーのpHが4以下となるまで酸を添加することが好ましく、pHが3以下となるまで酸を添加することがさらに好ましい。
【0069】
水性媒体中に析出した有機無機複合材料は、必要に応じてろ過及び洗浄する。ろ過速度を速めるために、スラリーを加熱して析出した有機無機複合材料を凝集させることが好ましい。ろ過及び洗浄してイオンや有機物を除去すれば、有機無機複合材料の水ペーストを得ることができる。得られた水ペーストは、そのまま用いることができる。また、必要に応じて水ペーストを乾燥して得た固化体を粉砕することもできる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0071】
<ポリマー(フィラー分散剤)の合成>
(合成例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた2Lセパラブルフラスコに、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(BDG)385.8部、ヨウ素5.1部、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)18.5部、ジフェニルメタン(DPM)0.9部、及びメタクリル酸メチル(MMA)250.3部を入れ、45℃に加温して2時間撹拌した。ヨウ素の褐色が消えたことから、V−70がヨウ素と反応し、重合開始化合物であるヨウ素化合物が形成されたことを確認した。45℃で3時間重合した後、反応溶液の一部をサンプリングして固形分を測定したところ、41.5%であった。また、測定した固形分に基づき算出した重合率は、ほぼ100%であった。以上のようにして、Aポリマーブロックの溶液を得た。テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPCにて測定したAポリマーブロックの数平均分子量(Mn)は5,700であり、分子量分布(PDI)は1.25であった。なお、GPCの検出器としては示差屈折率検出器を使用した。
【0072】
得られたAポリマーブロックの溶液を40℃に降温した後、メタクリル酸(MAA)43.1部、MMA64.7部、及びV−70 3.2部を添加した。40℃で4時間重合してBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーの溶液を得た。Bポリマーブロックの酸価(計算値)は、260.5mgKOH/gであった。Bポリマーブロックの酸価は、以下のようにして算出した。まず、Bポリマーブロック1部当たりのMAAの量を下記式から求める。
43.1/(43.1+64.7)=0.3998(部)
【0073】
次いで、MAAの分子量を86.1、KOHの分子量を56.1として、Bポリマーブロックの酸価を下記式から算出することができる。
(0.3998/86.1)×56.1×1000=260.5(mgKOH/g)
【0074】
得られたA−Bブロックコポリマーの溶液の固形分は50.0%であり、重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは8,300であり、PDIは1.29であり、ピークトップ分子量は10,700であった。Mnの増加により、A−Bブロックコポリマーが形成されたと考えられる。BポリマーブロックのMnは、A−BブロックコポリマーのMnからAポリマーブロックのMnを引いた値であることから、2,600と算出された。トルエン及びエタノールにより得られたA−Bブロックコポリマーを希釈した後、フェノールフタレイン溶液を指示薬とし、0.1%エタノール性水酸化カリウム溶液を用いた酸塩基滴定を行った。その結果、A−Bブロックコポリマーの酸価(実測値)は、78.3mgKOH/gであった。
【0075】
得られたA−Bブロックコポリマーの溶液に、28%アンモニア水33.4部及びイオン交換水159.5部を混合して得たアンモニア水溶液を加えた。均一になるまで撹拌して、A−Bブロックコポリマーを含有する樹脂溶液(MAP−1)を得た。得られた樹脂溶液MAP−1の固形分は40.1%であった。
【0076】
(合成例2)
前述の合成例1で用いたものと同様のフラスコに、BDG439.6部、ヨウ素5.1部、V−70 18.5部、DPM0.9部、MMA100.1部、及びメタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)252.5部を入れ、45℃に加温して2時間撹拌した。45℃で5時間重合した後、反応溶液の一部をサンプリングして固形分を測定したところ、46.0%であった。また、測定した固形分に基づき算出した重合率は、ほぼ100%であった。以上のようにして、Aポリマーブロックの溶液を得た。AポリマーブロックのMnは8,800であり、PDIは1.26であった。
【0077】
得られたAポリマーブロックの溶液を40℃に降温した後、MAA43.1部、メタクリル酸ベンジル(BzMA)17.6部、及びV−70 1.8部を添加した。40℃で4時間重合してBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーの溶液を得た。Bポリマーブロックの酸価(計算値)は、462.6mgKOH/gであった。得られたA−Bブロックコポリマーの溶液の固形分は49.9%であり、重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは11,500であり、PDIは1.33であり、ピークトップ分子量は15,300であった。BポリマーブロックのMnは、2,700と算出された。また、A−Bブロックコポリマーの酸価(実測値)は、67.8mgKOH/gであった。
【0078】
得られたA−Bブロックコポリマーの溶液に、28%アンモニア水33.4部及びイオン交換水186.4部を混合して得たアンモニア水溶液を加えた。均一になるまで撹拌して、A−Bブロックコポリマーを含有する樹脂溶液(MAP−2)を得た。得られた樹脂溶液MAP−2の固形分は40.0%であった。
【0079】
(合成例3)
前述の合成例1で用いたものと同様のフラスコに、BDG655.5部、ヨウ素5.1部、V−70 18.5部、DPM0.9部、BzMA352.4部、メタクリル酸ブチル(BMA)71.1部、及びメタクリル酸2−エチルヘキシル(EHMA)74.4部を入れ、45℃に加温して撹拌した。45℃で5時間重合した後、反応溶液の一部をサンプリングして固形分を測定したところ、44.1%であった。また、測定した固形分に基づき算出した重合率は、ほぼ100%であった。以上のようにして、Aポリマーブロックの溶液を得た。AポリマーブロックのMnは13,500であり、PDIは1.31であった。
【0080】
得られたAポリマーブロックの溶液を40℃に降温した後、MAA129.2部、及びV−70 3.9部を添加した。40℃で4時間重合してBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーの溶液を得た。Bポリマーブロックの酸価(計算値)は、651.6mgKOH/gであった。得られたA−Bブロックコポリマーの溶液の固形分は40.0%であり、重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは16,000であり、PDIは1.43であり、ピークトップ分子量は21,300であった。BポリマーブロックのMnは、2,500と算出された。また、A−Bブロックコポリマーの酸価(実測値)は、134.5mgKOH/gであった。
【0081】
得られたA−Bブロックコポリマーの溶液に、28%アンモニア水100.2部及びイオン交換水227.6部を混合して得たアンモニア水溶液を加えた。均一になるまで撹拌して、A−Bブロックコポリマーを含有する樹脂溶液(MAP−3)を得た。得られた樹脂溶液MAP−3の固形分は39.9%であった。
【0082】
(合成例4)
前述の合成例1で用いたものと同様のフラスコに、BDG490.7部、ヨウ素5.1部、V−70 18.5部、DPM0.9部、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(製品名「FA−512M」(FA−512M)、日立化成社製)393.0部を入れ、45℃に加温して撹拌した。45℃で5時間重合した後、反応溶液の一部をサンプリングして固形分を測定したところ、45.9%であった。また、測定した固形分に基づき算出した重合率は、ほぼ100%であった。以上のようにして、Aポリマーブロックの溶液を得た。AポリマーブロックのMnは9,700であり、PDIは1.28であった。
【0083】
得られたAポリマーブロックの溶液を40℃に降温した後、MAA71.1部、及びV−70 2.1部を添加した。40℃で4時間重合してBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーの溶液を得た。Bポリマーブロックの酸価(計算値)は、651.6mgKOH/gであった。得られたA−Bブロックコポリマーの溶液の固形分は49.8%であり、重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは10,800であり、PDIは1.32であり、ピークトップ分子量は14,300であった。BポリマーブロックのMnは、1,100と算出された。また、A−Bブロックコポリマーの酸価(実測値)は、99.6mgKOH/gであった。
【0084】
得られたA−Bブロックコポリマーの溶液に、28%アンモニア水55.2部及びイオン交換水190.2部を混合して得たアンモニア水溶液を加えた。均一になるまで撹拌して、A−Bブロックコポリマーを含有する樹脂溶液(MAP−4)を得た。得られた樹脂溶液MAP−4の固形分は40.2%であった。
【0085】
(合成例5)
前述の合成例1で用いたものと同様のフラスコに、BDG578.1部、ヨウ素5.1部、V−70 18.5部、DPM0.9部、及びメタクリル酸ステアリル(SMA)338.6部を入れ、45℃に加温して撹拌した。45℃で5時間重合した後、反応溶液の一部をサンプリングして固形分を測定したところ、37.5%であった。また、測定した固形分に基づき算出した重合率は、ほぼ100%であった。以上のようにして、Aポリマーブロックの溶液を得た。AポリマーブロックのMnは8,400であり、PDIは1.21であった。
【0086】
得られたAポリマーブロックの溶液を40℃に降温した後、2−メタクリロイロキシエチルフタル酸(PAMA)208.7部、及びV−70 6.3部を添加した。40℃で4時間重合してBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーの溶液を得た。Bポリマーブロックの酸価(計算値)は、201.6mgKOH/gであった。得られたA−Bブロックコポリマーの溶液の固形分は49.8%であり、重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは13,500であり、PDIは1.27であり、ピークトップ分子量は17,100であった。BポリマーブロックのMnは、5,100と算出された。また、A−Bブロックコポリマーの酸価(実測値)は、76.7mgKOH/gであった。
【0087】
得られたA−Bブロックコポリマーの溶液に、28%アンモニア水50.1部及びイオン交換水239.0部を混合して得たアンモニア水溶液を加えた。均一になるまで撹拌して、A−Bブロックコポリマーを含有する樹脂溶液(MAP−5)を得た。得られた樹脂溶液MAP−5の固形分は40.2%であった。
【0088】
(比較合成例1)
前述の合成例1で用いたものと同様のフラスコにBDG455.1部を入れ、70℃に加温した。別容器に予め調製しておいた、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)10部を溶解させたMMA250.3部、及びMAA43.1部を含有するモノマー溶液を、上記のフラスコ内に1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに70℃で5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は40.3%であった。ポリマー溶液中のポリマーのMnは9,300であり、PDIは2.03であり、酸価(実測値)は95.8mgKOH/gであった。
【0089】
得られたポリマー溶液に、28%アンモニア水33.4部及びイオン交換水229.4部を混合して得たアンモニア水溶液を加えた。均一になるまで撹拌して、ポリマーを含有する樹脂溶液(RM−1)を得た。得られた樹脂溶液RM−1の固形分は30.0%であった。
【0090】
合成例1〜5で得たフィラー分散剤(ポリマー)の組成及び物性をまとめたものを表1に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
<有機無機複合材料の調製>
(
参考例1)
3Lビーカーに水酸化酸化アルミニウム(商品名「DISPERAL」、SASOL社製、数平均粒子径10nm)100部、及びイオン交換水1,750部を入れ、ディゾルバーを用いて撹拌混合した。次いで、合成例1で調製したMAP−1 99.8部を添加し、2,000rpmで30分間よく混合して水酸化酸化アルミニウムのスラリーを得た。得られたスラリーのpHは8.3であった。その後、10%酢酸水溶液50.2部(MAP−1中のA−Bブロックコポリマーの酸価の1.5倍モル)を添加した。なお、酢酸水溶液の添加途中でスラリー全体が著しく増粘し、樹脂とともに水酸化酸化アルミニウムが析出したことを確認した。酢酸水溶液添加後の増粘したスラリーのpHは4.6であった。増粘したスラリーを水浴にて加温して内温を70℃とし、30分間維持して析出物を十分に凝集させた。ヌッチェでろ過した後、イオン交換水1Lで3回洗浄し、樹脂処理した水酸化酸化アルミニウムペーストを得た。乾燥機を使用して得られたペーストを80℃で24時間乾燥した後、粉砕機で粉砕し、50メッシュ通しして粗粒を取り除いて、有機無機複合材料(VA−1)を得た。
【0094】
(
参考例2〜5、比較例1、2)
表3に示す配合としたこと以外は前述の
参考例1と同様にして、有機無機複合材料を調製した。表3中、水酸化鉱物のカッコの中の数字は数平均粒子径(nm)を示す。
【0095】
【0096】
<水酸化鉱物分散体の調製−1>
(実施例6〜11、比較例3)
表4に示す種類及び量(部)の各成分を配合し、ディゾルバーを用いて2時間撹拌した。水酸化鉱物の塊がなくなったことを確認した後、横型メディア分散機を使用して分散処理して水酸化鉱物分散体を得た。表4中の略号の意味を以下に示す。
PGMAc:プロピレングリコールモノメチルエーテル(水溶解度(25℃):16g/L)
アイソパーM:イソパラフィン炭化水素(エクソンモービル社製、水溶解度(25℃):1g/L以下)
MMA:メタクリル酸メチル(水溶解度:1g/L以下)
【0097】
【0098】
<水酸化鉱物分散体の評価−1>
調製した水酸化鉱物分散体中の水酸化鉱物の数平均粒子径の測定結果を表5に示す。また、水酸化鉱物分散体の初期の粘度、及び水酸化鉱物分散体を45℃で1日間放置した後の粘度(保存後の粘度)の測定結果を表5に示す。なお、水酸化鉱物分散体の粘度は、E型粘度計を使用し、60rpm、25℃の条件で測定した。
【0099】
【0100】
表5に示すように、実施例6〜11の水酸化鉱物分散体中の水酸化鉱物の数平均粒子径は84〜120nmの範囲にあり、水酸化鉱物が微分散されていることが分かった。また、これらの水酸化鉱物分散体の初期の粘度は10mPa・s以下であった。さらに、初期の粘度と保存後の粘度を比較すると、粘度変化がほとんどなく、初期の粘度が維持されることが分かった。以上より、実施例6〜11の水酸化鉱物分散体は優れた分散安定性を有することが明らかである。
【0101】
これに対して、比較例3の水酸化鉱物分散体は初期の粘度が高く、流動性がほとんどないために粘度を測定することができなかった。すなわち、比較例3の水酸化鉱物分散体の分散性が不十分であることが分かった。これは、水酸化鉱物への吸着部が全体に点在しているランダム構造のポリマー(比較合成例1)で水酸化鉱物を処理したため、水酸化鉱物へのポリマーの吸着力が弱かったためであると考えられる。
【0102】
<フィラー分散剤(樹脂パウダー)の調製>
(
参考例12)
3Lビーカーに、合成例1で調製したMAP−1 249.4部、及びイオン交換水1,750.6部を入れ、ディゾルバーを用いて混合撹拌して、固形分5%の水溶液を得た。得られた水溶液のpHは8.6であった。この水溶液に10%酢酸水溶液125.6部添加して樹脂スラリーを得た。なお、酢酸水溶液の添加途中でスラリー全体が著しく増粘し、樹脂が析出したことを確認した。得られた樹脂スラリーのpHは4.7であった。樹脂スラリーを水浴にて加温して内温を70℃とし、30分間維持して析出した樹脂を十分に凝集させた。ヌッチェでろ過した後、イオン交換水1Lで3回洗浄して樹脂ペーストを得た。得られた樹脂ペーストを80℃で24時間乾燥して樹脂パウダー−1を得た。
【0103】
200mLビーカーに、スターラーチップ、樹脂パウダー−1 30部、及びPGMAc70部を入れて撹拌し、樹脂パウダー−1のPGMAc溶液(PM−1)を得た。得られたPM−1の固形分は30.0%であった。また、200mLビーカーに、スターラーチップ、樹脂パウダー−1 30部、及びMMA70部を入れて撹拌し、樹脂パウダー−1のMMA溶液(PM−2)を得た。得られたPM−2の固形分は29.9%であった。
【0104】
<水酸化鉱物分散体の調製−2>
(実施例13、14)
表6に示す種類及び量(部)の各成分を配合し、ディゾルバーを用いて2時間撹拌した。水酸化鉱物の塊がなくなったことを確認した後、横型メディア分散機を使用して分散処理して水酸化鉱物分散体を得た。
【0105】
【0106】
(水酸化鉱物分散体の評価−2)
調製した水酸化鉱物分散体中の水酸化鉱物の数平均粒子径の測定結果を表7に示す。また、水酸化鉱物分散体の初期の粘度、及び水酸化鉱物分散体を45℃で1日間放置した後の粘度(保存後の粘度)の測定結果を表7に示す。なお、水酸化鉱物分散体の粘度は、E型粘度計を使用し、60rpm、25℃の条件で測定した。
【0107】
【0108】
表7に示すように、実施例13及び14の水酸化鉱物分散体中の水酸化鉱物の数平均粒子径は85〜90nmの範囲にあり、水酸化鉱物が微分散されていることが分かった。また、これらの水酸化鉱物分散体の初期の粘度は10mPa・s以下であった。さらに、初期の粘度と保存後の粘度を比較すると、粘度変化がほとんどなく、初期の粘度が維持されることが分かった。以上より、本発明のフィラー分散剤によれば、水酸化鉱物を処理して有機無機複合材料を調製せず、分散剤として直接使用した場合であっても、分散安定性に優れた水酸化鉱物分散体を調製可能であることが明らかである。
【0109】
<樹脂練り込みへの応用>
(応用例1)
参考例1で得たVA−1 10部、及びメタクリル酸メチル樹脂(比重1.5、MFR2g/min)のペレット132.8部を混合した後、小型ニーダーを使用して250℃で十分溶融混合した。次いで、2軸押出機を用いて押し出した後、造粒して、水酸化酸化アルミニウムを5%含有するペレットを得た。ラボ成型機を使用し、得られたペレットを用いてプレートを作製した。作製したプレートの表面及び断面を薄く裁断して電子顕微鏡で観察したところ、水酸化酸化アルミニウムが均一に分散していることが確認された。
【0110】
(応用例2)
参考例4で得たVC−1 10部、及び低密度ポリエチレン(比重0.918、MFR12g/min)233.3部を、2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30mm)を使用して処理温度180℃で溶融混練し、造粒してペレットを得た。インフレーション成型機を使用し、得られたペレットを用いて、水酸化カルシウムを2.0%含有するフィルムシートを成型した。このフィルムシートをプレス機にてプレスし、厚さ約20μmのシートを作製した。作製したシートを光学顕微鏡にて観察したところ、水酸化カルシウムの凝集物は認められず、均一に分散していることが確認された。
【0111】
(応用例3)
参考例5で得たVA−2を使用したこと以外は、前述の応用例2と同様にして、水酸化酸化アルミニウムを2.0%含有するフィルムシートを成型するとともに、厚さ約20μmのシートを作製した。作製したシートを光学顕微鏡にて観察したところ、水酸化酸化アルミニウムの凝集物は認められず、均一に分散していることが確認された。
【0112】
応用例1〜3の結果から、本発明のフィラー分散剤は、水酸化鉱物への吸着部と、非水系分散媒体に相溶する部位とが明確に分かれており、それぞれの機能が十分に発揮されることで、樹脂中においても優れた分散性を発揮することが分かった。
【0113】
(比較応用例1)
比較例2で得たRVC−1を使用したこと以外は、前述の応用例2と同様にして、水酸化カルシウムを2.0%含有するフィルムシートを成型するとともに、厚さ約20μmのシートを作製した。作製したシートを光学顕微鏡にて観察したところ、約50μmの凝集物が多数認められた。これは、水酸化鉱物への吸着部が全体に点在しているランダム構造のポリマー(RM−1)で水酸化カルシウムを処理したため、水酸化カルシウムへのポリマーの吸着力が弱かったためであると考えられる。
【0114】
<塊状重合による樹脂成形体への応用>
(応用例4)
反応容器に窒素ガスを流しながら、実施例11で得たDA−3 49.5部、及びV−65 0.5部を添加した。70℃で5時間塊状重合して、約1.5cm角のポリメタクリル酸メチル(PMMA)成形体を得た。得られた成形体には、重合によって引き起こされる体積収縮が生じてもクラックは生成しなかった。また、分散系が壊れることなく重合が進行し、途中で凝集が生ずることもなかった。