(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸素量変更手段は、前記測定室からの前記酸素の汲み出しを中止する、又は、前記測定室から汲み出す酸素量を前記特定ガスの検出の際に汲み出す酸素量に対して低減することを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ素子の劣化判定装置。
前記劣化判定手段は、前記濃度電流検出手段により検出された前記濃度電流の変化と、予め求められた正常な前記ガスセンサ素子における前記濃度電流の変化とを比較することにより、前記ガスセンサ素子の劣化の判定を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ素子の劣化判定装置。
前記劣化判定手段は、前記濃度電流が第1電流値から該第1電流値と異なる第2電流値に達するまでの時間に基づいて、前記ガスセンサ素子の劣化の判定を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスセンサ素子の劣化判定装置。
前記測定室は、前記測定対象ガスの流路に沿って上流側に配置された第1測定室と、前記流路の下流側に配置された第2測定室と、前記第1測定室と前記第2測定室との間に配置されて前記測定対象ガスの流れを抑制する抑制部とを備え、
前記第1測定室に前記第1内側電極を備えるとともに、前記第2測定室に前記第2内側電極及び前記第3内側電極を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスセンサ素子の劣化判定装置。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象ガス(例えば排気ガス等)に含まれる特定ガス(例えばNOx等)を検出するために、ガスセンサ素子を備えたガスセンサが知られている。
例えば、特許文献1には、特定ガスとして窒素酸化物(NOx)を検出するガスセンサ素子(NOxセンサ素子)と、これを制御して測定対象ガス中のNOx濃度を算出するガスセンサ制御装置とを備えたガスセンサ(NOxセンサ)が開示されている。
【0003】
前記NOxセンサは、第1測定室と第2測定室とを備えるとともに、それぞれの測定室に応じて、第1ポンプセルと第2ポンプセルとが設けられている。
このNOxセンサでは、第1測定室に測定対象ガスが導入され、第1ポンプセルによって、第1測定室内のガスが、所定の酸素濃度に制御される。また、第2ポンプセルに所定の電圧を印加することによって、第2測定室内のガス中の酸素分子及び構造内に酸素元素を含む酸素含有ガス(NOx)が解離される。これにより、第2測定室内ガス中の酸素分子及びNOxの濃度に応じた濃度電流が流れるので、この濃度電流の大きさから、NOxの濃度を検知することができる。
【0004】
ところで、近年では、このようなNOxセンサに用いられるNOxセンサ素子は、使用等により劣化すると、応答性が遅くなることが分かってきている。
つまり、NOxセンサは、近年の車両のNOx規制に対応するために、良好な応答性が要求されているが、NOセンサ素子の劣化によって、NOxセンサの応答性が遅くなると、要求される応答性を満足できなくなるおそれがある。
【0005】
そのため、このような応答性が遅くなったNOxセンサ素子の劣化状態を、(NOxセンサを車両に取り付けた状態にて)適切に判定できることが求められている。
この対策として、例えば特許文献2には、第2ポンプセルとして、第1ポンプセル通過後の第2測定室内の残留酸素濃度を検出するモニタセルと、この第2測定室内のガスからNOx濃度を検出するセンサセルとを設けたNOxセンサ素子について、その劣化を検出する方法が提案されている。
【0006】
この劣化検出の方法とは、第1センサセルへの印加電圧を変更して第1測定室における酸素のポンピング状態(従って酸素濃度)を変更し、その際の第2測定室におけるモニタセル及びセンサセルの出力変化に基づいてNOxセンサ素子の劣化を検出するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来技術では、第1ポンプセルのポンピング状態を変更してNOxセンサ素子の劣化を検出するので、劣化検出の精度が十分ではないという問題があった。
【0009】
詳しくは、第1測定室における(酸素のポンピング前の)酸素の濃度は例えば10000ppm程度であり、その濃度の酸素をポンピングするために、第1ポンプセルに印加される電圧によって流れる電流(ポンピング電流)は、例えばmAオーダーの大きな電流である。それに対して、第2測定室におけるNOxの濃度は例えば90ppm程度であり、よって、センサセルに流れる電流はμAオーダーの微小な電流である。
【0010】
つまり、第1ポンプセルとセンサセルとでは、扱う電流のレンジ(電流値の範囲)が大きく異なるので、第1ポンプセルの動作を制御しても、センサセルの微小な出力の変化に基づいて、NOxセンサ素子の劣化を精度良く検出することは容易ではない。
【0011】
本発明は、そのような課題に鑑みてなされたものであり、ガスセンサ素子の劣化を精度良く検出できるガスセンサ素子の劣化判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の第1局面のガスセンサ素子の劣化判定装置は、測定室と主ポンプセルと補助ポンプセルとセンサセルとを備えている。
測定室には、開口部より測定対象ガスが導入される。
【0013】
主ポンプセルは、酸素イオン導電性を有する固体電解質体、及び該固体電解質体上に形成された一対の第1電極を有しており、一対の第1電極の一方の第1内側電極が測定室に露出している。そして、一対の第1電極への通電により測定室に対する酸素の汲み出し又は汲み入れが行われる。
【0014】
補助ポンプセルは、主ポンプセルより測定対象ガスの流路の下流側に配置されている。また、酸素イオン導電性を有する固体電解質体、及び固体電解質体上に形成された一対の第2電極を有しており、一対の第2電極の一方の第2内側電極が前記測定室に露出している。そして、一対の第2電極への通電により測定室に対する酸素の汲み出しが可能である。
【0015】
センサセルは、主ポンプセルより測定対象ガスの流路の下流側に配置されている。また、酸素イオン導電性を有する固体電解質体、及び固体電解質体上に形成された一対の第3電極を有しており、一対の第3電極の一方の第3内側電極が前記測定室に露出している。そして、一対の第3電極に流れる電流に基づいて、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する。
【0016】
さらに、このガスセンサ素子の劣化判定装置は、ガスセンサ素子の劣化を検出する構成として、酸素量変更手段とセンサ出力検出手段と劣化判定手段とを備えている。
酸素量変更手段は、主ポンプセルによって酸素の汲み出し又は汲み入れの動作を行っている場合に、補助ポンプセルにて測定室から汲み出す酸素量を特定ガスの検出の際に汲み出す酸素量に対して変更する。例えば、汲み出す酸素量を低減する。
【0017】
センサ出力検出手段は、酸素量変更手段によって汲み出す酸素量を変更した場合に、センサセルの出力を検出する。
劣化判定手段は、センサ出力検出手段によって検出したセンサセルの出力に基づいて、ガスセンサ素子の劣化の判定を行う。
【0018】
このように、本第1局面では、主ポンプセルによって酸素の汲み出し又は汲み入れの動作を行っている場合に、補助ポンプセルにて測定室から汲み出す酸素量を特定ガスの検出の際に汲み出す酸素量に対して変更し、そのときに検出したセンサセルの出力に基づいて、ガスセンサ素子の劣化の判定を行うので、ガスセンサ素子の劣化を精度良く検出することができる。
【0019】
特に、本第1局面では、従来のような大きな電流が流される主ポンプセルのポンピングの状態を変化させるのではなく、微小電流が流される補助ポンプセルの動作状態(例えば目標電圧)を変化させる。よって、補助ポンプセルに流れる微小電流(従って酸素の汲出量)とセンサセルに流れる微小電流(即ちセンサセルの出力)との関係から、センサセルの出力の変化を精度良く求めることができるので、そのセンサセルの出力の変化から、ガスセンサ素子の劣化を精度良く検出することができる。
【0020】
ここで、ガスセンサ素子の劣化の検出の原理を説明する。
補助ポンプセルの動作状態(即ち酸素の汲出量)を変化させると、測定室の下流側の酸素濃度が変化する。詳しくは、補助ポンプセルの第2内側電流の近傍の雰囲気中の酸素濃度が変化する。従って、同様な下流側のセンサセルの第3内側電流の近傍の雰囲気中の酸素濃度も変化するので、その近傍の酸素分子及び酸素含有ガスの濃度も変化する。そのため、センサセルの出力(詳しくはセンサセルに流れる電流である濃度電流)も変化する。
【0021】
一方、本発明者等の研究によれば、センサセルの濃度電流に生ずる変化の状態は、ガスセンサ素子の劣化の度合いによって異なることが分かっている。従って、この濃度電流の変化から、ガスセンサ素子の劣化を判定することができる。
【0022】
なお、ここで、「特定ガスの検出」として、特定ガスの有無の検出や特定ガスの濃度の検出が挙げられる。
(2)本発明の第2局面では、酸素量変更手段は、測定室からの酸素の汲み出しを中止する、又は、測定室から汲み出す酸素量を特定ガスの検出の際に汲み出す酸素量に対して低減する。
【0023】
本第2局面では、測定室からの酸素の汲み出しを中止する、又は、測定室から汲み出す酸素量を特定ガスの検出の際に汲み出す酸素量に対して低減するので、それによるセンサセルの出力の変化(過渡応答)から、ガスセンサ素子の劣化を判定することができる。
【0024】
(3)本発明の第3局面では、劣化判定手段は、濃度電流検出手段により検出された濃度電流の変化と、予め求められた正常なガスセンサ素子における濃度電流の変化とを比較することにより、ガスセンサ素子の劣化の判定を行う。
【0025】
本第3局面では、正常なガスセンサ素子の過渡応答と劣化したガスセンサ素子の過渡応答とを比べ、その違いに基づいて、ガスセンサ素子の劣化を判定することができる。
なお、ここで「正常なガスセンサ素子」とは、劣化しているガスセンサ素子に対して、優れた性能(例えば応答性)を有するガスセンサ素子(実際の使用可能範囲の性能を有するガスセンサ素子)であり、例えば劣化していないガスセンサ素子を用いることが好ましい。
【0026】
(4)本発明の第4局面では、劣化判定手段は、濃度電流が第1電流値から(第1電流値と異なる)第2電流値に達するまでの時間に基づいて、ガスセンサ素子の劣化の判定を行う。
【0027】
非劣化品と劣化品とでは、濃度電流の過渡応答である第1電流値から第2電流値に達するまでの時間が異なるので、その時間に基づいて、ガスセンサ素子の劣化の判定することができる。
【0028】
(5)本発明の第5局面では、測定室は、測定対象ガスの流路に沿って上流側に配置された第1測定室と、流路の下流側に配置された第2測定室と、第1測定室と第2測定室との間に配置されて測定対象ガスの流れを抑制する抑制部とを備え、第1測定室に第1内側電極を備えるとともに、第2測定室に第2内側電極及び第3内側電極を備えている。
【0029】
このような構成のガスセンサ素子により、好適に特定ガスを検出することができるとともに、ガスセンサ素子の劣化を判定することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のガスセンサ素子の劣化検出装置によれば、ガスセンサ素子の劣化を精度良く検出することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、ガスセンサの一種であるNOxセンサを例に挙げる。具体的には、自動車や各種内燃機関における排気管に装着されるガスセンサであって、測定対象となる排気ガス中の特定ガス(窒素酸化物:NOx)を検出するガスセンサ素子(NOxセンサ素子)が組み付けられて構成されるNOxセンサを例に挙げて説明する。
【0033】
[1.実施形態]
[1−1.NOxセンサシステム]
まず、NOxセンサを制御するシステム構成(NOxセンサシステム)について、
図1に基づいて説明する。
【0034】
図1に示す様に、本実施形態におけるNOxセンサシステム1は、内燃機関(エンジン)3を備える車両(図示せず)に搭載されており、ガスセンサ制御装置5によって、NOxセンサ7の動作を制御することにより、エンジン3の排気ガス(測定対象ガス)中のNOx濃度を検知するものである。
【0035】
このうち、NOxセンサ7は、NOxセンサ素子9(
図2参照)及びこれを保持する主体金具11等から構成されている。
なお、前記ガスセンサ制御装置5は、後に詳述するように、NOxセンサ素子9の劣化の判定を行う劣化判定装置としての機能を有する。
【0036】
[1−2.NOxセンサ素子]
次に、NOxセンサ素子9の構成について、
図2に基づいて説明する。
なお、
図2において、左右方向である長手方向(Y軸方向)がNOxセンサ7の軸線方向に沿う形態となる。また、
図2のX軸方向は、長手方向に垂直な積層方向(平面視の方向)である。また、
図2の左方向がNOxセンサ素子9の先端側(即ちNOxセンサ7の先端側)であり、右方向がNOxセンサ素子9の後端側である。
【0037】
<NOxセンサ素子の先端側の構成>
図2に示す様に、NOxセンサ素子9は、長手方向(Y軸方向)に延びる長尺で、直方体形状の板材である。
【0038】
このNOxセンサ素子9は、長手方向の先端側に、測定対象ガス(即ち排気ガス)に含まれる特定ガス(即ちNOx)の濃度を検出する検知部13を備える。また、NOxセンサ素子9の先端には、測定対象ガスを検知部13の内部の測定室15(詳しくは上流側の第1測定室15a)に導入する開口部17が設けられている。
【0039】
このNOxセンサ素子9は、複数のセラミック層が積層された積層体である。
詳しくは、NOxセンサ素子9は、
図2の上方より、第1絶縁層21、第2絶縁層23、第1固体電解質層25、第3絶縁層27、第2固体電解質層29、第4絶縁層31、第5絶縁層33、第6絶縁層35が積層された構造を有する。
【0040】
このうち、第1固体電解質層25と第2固体電解質層29との間には、長手方向に延びる開口部分である測定室15を有する第3絶縁層27が配置されている。この測定室15の先端側領域である第1測定室15aは、多孔質の拡散抵抗体37が充填された開口部17を介して外部に繋がっている。そして、この拡散抵抗体37を介して、外部から測定対象ガス(G)である外気(ここでは排気ガス)が、NOxセンサ素子9の内部に導入される。
【0041】
前記測定室15内では、同図の矢印方向に沿って測定対象ガスが流れる流路が形成されている。つまり、測定室15は、流路の上流側に設けられた第1測定室15aと、第1測定室15aの下流側に設けられた第2測定室15bとを備えており、第1測定室15aと第2測定室15bとの間には、第1測定室15aと第2測定室15bとを連通するとともに、ガスの流れを一部抑制する抑制部15cが設けられている。
【0042】
なお、この抑制部15cとしては、前記拡散抵抗体37と同様な多孔質体を配置して、ガス拡散を制限するようにしてもよい。或いは、抑制部15cを省略して、単一の測定室15とし、その測定室15の上流側を第1測定室15aとし、下流側を第2測定室15bとしてもよい。
【0043】
また、第1絶縁層21と第1固体電解質層25との間には、第2絶縁層23の開口部分23aに、後端側より大気が導入される第1基準酸素室41が設けられている。なお、この第1基準酸素室41は、平面視で、NOxセンサ素子9の後端側から第2測定室15bの先端側の位置にまで設けられている。
【0044】
同様に、第2固体電解質層29と第5絶縁層33との間には、第4絶縁層31の開口部分31aに、後端側より大気が導入される第2基準酸素室43が設けられている。なお、この第2基準酸素室43は、平面視で、NOxセンサ素子9の後端側から第1測定室15aの先端側の位置にまで設けられている。
【0045】
そして、後に詳述するように、第2固体電解質層29とその厚み方向(積層方向)の両側に形成された第1内側電極45及び第1外側電極47とによって、主ポンプセル49が形成されている。
【0046】
また、第1固体電解質層25とその厚み方向の両側に形成された第2内側電極51及び第2外側電極53とによって、補助ポンプセル55が形成されている。
同様に、第1固体電解質層25とその厚み方向の両側に形成された第3内側電極57及び第3外側電極59とによって、センサセル61が形成されている。なお、第2外側電極53と第3外側電極59とは共通の電極であり、補助ポンプセル55とセンサセル61とは第1固体電解質層25を共有して各セルを形成する。
【0047】
ここで、補助ポンプセル55とセンサセル61とは、それぞれの第2内側電極51と第3内側電極57とが、同じ第2測定室15b内に配置されていればよい。例えば第2内側電極51と第3内側電極57とのどちらが上流側であってもよく、あるいは、並列に配置されて、第1測定室15aに対して同じ位置(即ち同じ距離)にあってもよい。
【0048】
また、第5絶縁層33と第6絶縁層35との間には、タングステン等の導体によって形成された発熱抵抗体63を備えたヒータ65が配置されている。
ヒータ65は、外部から供給された電力によって発熱抵抗体63が発熱することで、NOxセンサ素子9(特に、検知部13)を所定の活性温度に昇温し、固体電解質体の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
【0049】
なお、前記第1、第2固体電解質層25、29は、それぞれ、酸素イオン伝導性を有する固体電解質である例えばジルコニアを主成分に用いて形成された部材(固体電解質体)である。また、第1〜第6絶縁層21、23、27、31、33、35は、電気絶縁材料である例えばアルミナを主成分に用いて形成されており、気体等の流体の透過(流通)を防止できる程度に密に形成されている。拡散抵抗体37は、アルミナ等の多孔質物質を用いて形成され、気体の流通が可能になっている。
【0050】
ここで、主成分とは「セラミック層中の主材料の含有量が50wt%以上であること」を指し、例えば、第1、第2固体電解質層25、29は、ジルコニアが50wt%以上含有されている。
【0051】
<各セルの構成>
次に、各セル49、55、61の構成等を、
図2に基づいて詳細に説明する。
上述したように、主ポンプセル49は、固体電解質体からなる第2固体電解質層29と、これを挟持するように配置された一対の矩形状の電極、即ち第1内側電極45及び第1外側電極47とを備えている。
【0052】
このうち、第1内側電極45は、第1測定室15aに面しており、第1外側電極47は、第2基準酸素室43に面している。なお、第1内側電極45と第1外側電極47とは、平面視で、同じ形状であり、第1測定室15aとほぼ同様な平面形状である。
【0053】
また、上述したように、補助ポンプセル55は、前記第1固体電解質層25と、これを挟持するように配置された一対の矩形状の電極、即ち第2内側電極51及び第2外側電極53とを備えている。
【0054】
このうち、第2内側電極51は、第2測定室15bに面しており、第2外側電極53は、第1基準酸素室41に面している。
さらに、上述したように、センサセル61は、前記第1固体電解質層25と、これを挟持するように配置された一対の矩形状の電極、即ち第3内側電極57及び第3外側電極59とを備えている。
【0055】
このうち、第3内側電極57は、第2内側電極51と同様に、第2測定室15bに面しており、第3外側電極59は、第1基準酸素室41に面している。
また、上述した各電極45、47、51、53(59)、57は、電極反応を良好に維持するために、気体を内部に流通可能な程度の多孔質状に形成されている。すなわち、測定対象ガスの気体(酸素やNOx等の気相)と電極(触媒相)と固体電解質(酸素イオン伝導相)とが接する三相界面を良好に形成する程度の多孔質状に形成されている。
【0056】
また、各電極45、47、51、53(59)、57のうち、センサセル61の第3内側電極57は、他の電極45、47、51、53(59)、よりも高い触媒活性の材料(NOxの分解活性の高い材料)が使用されている。
【0057】
詳しくは、第3内側電極57としては、白金及びロジウムを主成分とする材料が使用されており、第1内側電極45、第1外側電極47、第2内側電極51、第2外側電極53としては、白金及び金を主成分とする材料が用いられている。
【0058】
なお、上述したガスセンサ素子は、周知の方法によって製造することができる。
[1−3.ガスセンサ制御装置]
次に、ガスセンサ制御装置5の構成及びその動作等について、前記
図2に基づいて説明する。
【0059】
ガスセンサ制御装置5は、周知のマイクロコンピュータ71を備えた電子制御装置である。このガスセンサ制御装置5では、NOx濃度を検出する際やNOxセンサ素子9の劣化を判定する際には、主ポンプセル49と補助ポンプセル55とセンサセル61とを作動させる。
【0060】
<NOx濃度の検出>
まず、NOx濃度を検出する場合の動作について説明する。
NOx濃度を検出する場合には、マイクロコンピュータ71によって、第1測定室15a内の酸素濃度を目標とする酸素濃度に調整するために、主ポンプセル49の第1内側電極45と第1外側電極47との間に印加する主ポンプセル電圧Vpを制御する。つまり、第1測定室15a中の酸素の第2基準酸素室43への汲み出し又は第2基準酸素室43中の酸素の第1測定室15aへの汲み入れを行って、第1測定室15a内の酸素濃度を目標とする酸素濃度に調整する。
【0061】
なお、その際には、第1内側電極45と第1外側電極47との間に流れる主ポンプセル電流Ipを検出する。
また、第2測定室15b内の酸素濃度を所定の低濃度(例えば0.01ppm)とするために、補助ポンプセル55の第2内側電極51と第2外側電極53との間に印加する補助ポンプセル電圧Vhを制御する。つまり、第2測定室15b中の酸素の第1基準酸素室41への汲み出し行って、第2測定室15b内の酸素濃度を所定の低濃度に調整する。
【0062】
なお、その際には、第2内側電極51と第2外側電極53との間に流れる補助ポンプセル電流Ihを検出する。
さらに、第2測定室15b内のNOx濃度を検出するために、センサセル61の第3内側電極57と第3外側電極59との間に印加するセンサセル電圧Vsを制御する。このとき、第3内側電極57では、NOxの分解が行われて酸素が発生するので、センサセル61では、第2測定室15b中の酸素(NOxの分解によって発生した酸素)の第1基準酸素室41への汲み出し行う。そして、この際に、第3内側電極57と第3外側電極59との間に流れるセンサセル電流Isを検出する。
【0063】
このセンサセル電流Isは、第2測定室15b内のNOx濃度に対応した濃度電流Isであるので、この濃度電流IsからNOx濃度を求めることができる。
なお、第2測定室15b内には、補助ポンプセル55にて汲み出し切れなかった残余の酸素があるが、その量は僅かであるので、実質的にNOx濃度の検出には支障はない。
【0064】
<NOxセンサ素子の劣化の検出>
次に、NOxセンサ素子9の劣化を判定する場合の動作について説明する。
NOxセンサ素子9の劣化を判定する場合には、上述したNOx濃度の検出の場合と同様にして主ポンプセル49を作動させる。
【0065】
一方、補助ポンプセル55では、第2測定室15bからの酸素の汲出量をNOx濃度を検出する場合よりも低減する。例えば酸素の汲み出しを中止する。具体的には、補助ポンプセル電圧Vh(目標電圧)を低減して、酸素を汲み出さない電圧に設定する。
【0066】
そして、センサセル61では、補助ポンプセル55の酸素の汲み出しを中止してからの濃度電流Isを検出し、その濃度電流Isの変化からNOxセンサ素子9の劣化を判定する。
【0067】
ここで、濃度電流Isの変化からNOxセンサ素子9の劣化を判定する方法について説明する。
図3に示すように、補助ポンプセル55の酸素の汲み出しを所定のタイミング(例えば
図3の時刻0秒)で中止した場合、劣化していないNOxセンサ素子9(非劣化品)では、濃度電流Isが所定の第1電流値Is1から(第1電流値Is2より大きな)所定の第1電流値Is2に到るまので応答時間Tr1は短い。
【0068】
それに対して、劣化しているNOxセンサ素子9(劣化品)では、濃度電流Isが第1電流値Is1から第1電流値Is2に到る応答時間Tr2は、非劣化品の応答時間Tr1より長い。
【0069】
従って、この応答時間Trの違いから、NOxセンサ素子9の劣化を判定すること(即ち劣化を検出すること)ができる。
例えば、応答時間Trが所定の判定値以上であった場合には、NOxセンサ素子9が劣化していると判定し、判定値未満の場合には、劣化していないと判定することができる。この判定値は、非劣化品と劣化品とを用いた実験等によって求めることができる。
【0070】
なお、第1電流値Is1としては、補助ポンプセル55による酸素の汲み出しを中止した場合に、センサセルの濃度電流Isが変化を開始してから安定するまで電流値を100%とすると、その電流値の10%が挙げられる。同様に、第2電流値Isとしては、前記電流値の90%が挙げられる。
【0071】
ここで、NOxセンサ素子9の劣化の判定は、燃料の供給を行う場合と行わない場合とで実施することが可能である。
例えば、燃料の供給を行う場合に劣化を判定するときとしては、NOx濃度が安定している運転状態の場合が挙げられる。例えばアクセル開度が一定のアイドリング時等に劣化を判定することができる。
【0072】
一方、燃料の供給を行わない場合に劣化を判定するときには、測定対象ガスは排気ガスではなく大気になるので、濃度電流は第2測定室15b内の酸素濃度に対応したものとなる。この場合でも、補助ポンプセル55の動作の変化に伴うセンサセル61の過渡応答(即ち応答時間Tr)から、NOxセンサ素子9の劣化を判定することができる。
【0073】
[1−4.ガスセンサ制御装置による処理]
次に、ガスセンサ制御装置5による制御処理の内容について説明する。このガスセンサ制御装置では、NOx濃度の検出とNOxセンサ素子9の劣化判定とを行う。
【0074】
図4に示すように、車両のエンジン3が始動されると、ステップ(S)100では、ヒータ65に電圧を印加して、NOxセンサ素子9を暖気する処理を行う。
次に、ステップ110では、NOxセンサ素子9がNOxの検出を行う温度に達したか(即ち暖気が完了したか)否かを判定する。ここで肯定判断されるとステップ120に進み、一方否定判断されるとステップ100に戻る。
【0075】
ステップ120では、NOx濃度を検出する処理を行う。
具体的には、上述したように、主ポンプセル49により酸素のポンピングを行って、第1測定室15a内の酸素濃度を所定値に低減するとともに、補助ポンプセル55により、第2測定室15b内の酸素濃度を更に低濃度に調整する。そして、センサセル61に流れる濃度電流Isに基づいて、NOx濃度を検出する。
【0076】
続くステップ130では、NOxセンサ素子9の劣化を判定(検出)するタイミングか否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ140に進み、一方否定判断されるとステップ120に戻る。なお、ここでは、例えば燃料供給をカット(フューエルカット)するタイミングを、NOxセンサ素子9の劣化の判定のタイミングとする。
【0077】
ステップ140では、補助ポンプセル55によって、第2測定室15bから酸素を汲み出す(ポンピングする)動作を低減する。即ち、補助ポンプセル55に印加する補助ポンプセル電圧Vhを、NOx濃度の検出の際の補助ポンプセル電圧Vhより小さくして、酸素の汲出量をNOx濃度の検出の際の酸素の汲出量より少なくする。例えば補助ポンプセル55のポンピング動作を停止して、酸素の汲出量を0にする。
【0078】
続くステップ150では、センサセル61の濃度電流Ipを測定する。
続くステップ160では、上述のように、濃度電流Ipの変化から、NOxセンサ素子9の劣化を判定する。詳しくは、濃度電流Ipの変化を示す応答時間Trを求め、その応答時間Trが所定の判定値以上であった場合には、NOxセンサ素子9が劣化していると判定する。その後、ステップ120に戻る。
【0079】
[1−5.効果]
本実施形態では、主ポンプセル49によって酸素の汲み出し又は汲み入れの動作を行っている場合に、補助ポンプセル55にて第2測定室15bから汲み出す酸素量をNOx濃度の検出の際に汲み出す酸素量に対して低減し、そのときに検出したセンサセル61の出力(濃度電流Is)に基づいて、NOxセンサ素子9の劣化の判定を行うので、NOxセンサ素子9の劣化を精度良く検出することができる。
【0080】
特に、本実施形態では、従来のような大きな電流が流される主ポンプセル49のポンピングの状態を変化させるのではなく、微小電流が流される補助ポンプセル55の動作状態(例えば目標電圧)を変化させる。よって、補助ポンプセル55に流れる微小電流(従って酸素の汲出量)とセンサセル61に流れる微小電流(即ち濃度電流Is)との関係から、センサセル61の濃度電流Isの変化を精度良く求めることができるので、その濃度電流Isの変化から、NOxセンサ素子9の劣化を精度良く検出することができる。
【0081】
詳しくは、劣化のないNOxセンサ素子(非劣化品)の過渡応答と劣化したNOxセンサ素子(劣化品)9の過渡応答とを比べ、その違いに基づいて、NOxセンサ素子9の劣化を判定することができる。
【0082】
つまり、非劣化品と劣化品とでは、濃度電流Isの過渡応答である第1電流値から第2電流値に達するまでの応答時間Trが異なるので、その応答時間Tr基づいて、NOxセンサ素子9の劣化の判定することができる。
【0083】
[1−6.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
実施形態の、開口部17、測定室15、主ポンプセル49、補助ポンプセル55、センサセル61、NOxセンサ素子9、ガスセンサ制御装置5が、それぞれ、本発明の、開口部、測定室、主ポンプセル、補助ポンプセル、センサセル、ガスセンサ素子、劣化判定装置の一例に相当する。
【0084】
また、実施形態の、第1内側電極45及び第1外側電極47、第2内側電極51及び第2外側電極53、第3内側電極57及び第3外側電極59が、それぞれ、本発明の、第1電極、第2電極、第3電極の一例に相当する。さらに、実施形態の、第1固体電解質層25及び第2固体電解質層29が、固体電解質体の一例に相当する。
【0085】
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0086】
(1)例えば、前記実施形態では、補助ポンプセルとして、第2測定室から酸素を汲み出す構成を採用したが、第2測定室に対して酸素の汲み出しと酸素汲み入れとが可能な補助ポンプセルを用いてもよい。
【0087】
(2)また、前記実施形態では、第2測定室から汲み出す酸素量をNOx濃度の検出の際に汲み出す酸素量に対して低減し(例えば汲み出しを中止し)、その際のセンサセルの出力の変化(過渡応答)から、NOxセンサ素子の劣化を判定したが、それとは別に、第2測定室から汲み出す酸素量をNOx濃度の検出の際に汲み出す酸素量より増加させ、その際のセンサセルの出力の変化(過渡応答)から、NOxセンサ素子の劣化を判定してもよい。
【0088】
(3)さらに、前記実施形態では、第1測定室と第2測定室との間に、ガスの流れを抑制する抑制部を有する測定室を用いたが、そのような抑制部の無い単一の測定室を用いてもよい。
【0089】
(4)また、前記実施形態では、NOxセンサ素子の平面形状(平面視での形状)と同様な形状の固体電解質体の基板を用い、その固体電解質体の基板の厚さ方向の両側に電極を配置したが、それとは別に、絶縁基板に埋め込み式のセルを形成してもよい。
【0090】
例えばアルミナ等の各絶縁基板の一部に開口部を設け、詳しくは主ポンプセル、補助ポンプセル、センサセルとなる部分(少なくとも1つのセル)に、板厚方向に貫通する開口部を設け、その開口部に固体電解質体を配置する。そして、この固体電解質体の両側に電極を配置する。
【0091】
(5)さらに、前記実施形態では、ガスセンサとしてNOxセンサを例に挙げたが、本発明は、例えばアンモニアセンサ等の他のガスセンサにも適用することができる。
(6)なお、上述した実施形態の構成要素を適宜組み合わせることも可能である。