(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生体内に存在し、抗腫瘍効果を示すmicroRNAに対して、変異を導入することによって抗腫瘍効果を向上させた有用な新規microRNAを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、miR-29bの塩基配列の所定部位を変異させることによって、抗腫瘍効果を格段に向上させた新規microRNAが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記(i)又は(ii)に示すポリヌクレオチドからなるmicroRNA:
(i)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示すポリヌクレオチド。
項2. 前記(ii)に示すポリヌクレオチドが、配列番号1に示す塩基配列において、5'末端から1番目、14番目、20番目、及び24番目の塩基の少なくとも1つが、他の塩基に置換、又は欠失されている塩基配列を含み、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示すポリヌクレオチドである、項1に記載のmicroRNA。
項3. 配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドからなる、項1に記載のmicroRNA。
項4. 成熟型miRNA、pri-miRNA、又はpre-miRNAである、項1〜3のいずれかに記載のmicroRNA。
項5. 項1〜4のいずれかに記載のmicroRNAを有効成分とする、癌治療剤。
項6. 癌が固形癌である、項5に記載の癌治療剤。
項7. 項1〜4のいずれに記載のmicroRNAが、炭酸アパタイト粒子に複合化されている、項5又は6に記載の大腸癌の癌治療剤。
項8. 下記(i)又は(ii)に示すポリヌクレオチドからなるmicroRNAの有効量を、癌患者に投与する工程を含む、癌の治療方法:
(i)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示すポリヌクレオチド。
項9. 下記(i)又は(ii)に示すポリヌクレオチドからなるmicroRNAの、癌の治療剤の製造のための使用:
(i)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示すポリヌクレオチド。
項10. 癌の治療に使用される、下記(i)又は(ii)に示すポリヌクレオチドからなるmicroRNA:
(i)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示すポリヌクレオチド。
【発明の効果】
【0010】
本発明のmicroRNAは、癌細胞の増殖を効果的に抑制でき、抗腫瘍効果が高いので、癌治療用の核酸医薬として有用である。更に、本発明のmicroRNAは、高い安全性も備えているで、臨床上の有用性が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1において、ヒト大腸癌細胞(DLD-1株)を用いて、本発明のmicroRNAの増殖抑制効果を評価した結果である。
【
図2】実施例1において、本発明のmicroRNA存在下でヒト大腸癌細胞(DLD-1株)を培養した後に、細胞の状態を観察した結果である。
【
図3】実施例1において、本発明のmicroRNA存在下で培養したヒト大腸癌細胞(DLD-1株)に、DAPI染色、及びKi-67に対する免疫染色を行った結果である。
【
図4】実施例2において、ヒト大腸癌細胞(SW480株)を用いて、本発明のmicroRNAの増殖抑制効果を評価した結果である。
【
図5】実施例2において、本発明のmicroRNA存在下でヒト大腸癌細胞(SW480株)を培養した後に、細胞の状態を観察した結果である。
【
図6】実施例2において、本発明のmicroRNA存在下で培養したヒト大腸癌細胞(SW480株)に、DAPI染色、及びKi-67に対する免疫染色を行った結果である。
【
図7】実施例3において、ヒト大腸癌細胞(HCT116株)を用いて、本発明のmicroRNAの増殖抑制効果を評価した結果である。
【
図8】実施例3において、本発明のmicroRNA存在下でヒト大腸癌細胞(HCT116株)を培養した後に、細胞の状態を観察した結果である。
【
図9】実施例4において、ヒト大腸癌細胞(HT29株)を用いて、本発明のmicroRNAの増殖抑制効果を評価した結果である。
【
図10】実施例4において、本発明のmicroRNA存在下でヒト大腸癌細胞(HT29株)を培養した後に、細胞の状態を観察した結果である。
【
図11】実施例4において、本発明のmicroRNA存在下で培養したヒト大腸癌細胞(HT29株)に、DAPI染色、及びKi-67に対する免疫染色を行った結果である。
【
図12】実施例5において、ヒト膵癌細胞(MIAPaCa-2株)を用いて、本発明のmicroRNAの増殖抑制効果を評価した結果である。
【
図13】実施例5において、本発明のmicroRNA存在下でヒト膵癌細胞(MIAPaCa-2株)を培養した後に、細胞の状態を観察した結果である。
【
図14】実施例6において、ヒト膵癌細胞(Panc-1株)を用いて、本発明のmicroRNAの増殖抑制効果を評価した結果である。
【
図15】実施例6において、本発明のmicroRNA存在下でヒト膵癌細胞(Panc-1株)を培養した後に、細胞の状態を観察した結果である。
【
図16】実施例7において、本発明のmicroRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子が、大腸癌細胞の腫瘍サイズに及ぼす影響を評価した結果である。
【
図17】実施例7において、ヒト大腸癌細胞を皮下注入したヌードマウスに本発明のmicroRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を所定回数投与し、18日目にヌードマウスの背部の観察、取り出した腫瘍の観察、及び腫瘍重量の測定を行った結果である。
【
図18】実施例8において、ヌードマウスに本発明のmicroRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与し、体重を経時的に測定した結果である。
【
図19】実施例8において、ヌードマウスに本発明のmicroRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与し、血液化学検査を行った結果である。
【
図20】実施例8において、ヌードマウスに本発明のmicroRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与し、各種臓器のHE(Hematoxylin and Eosin)染色を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.microRNA
本発明のmicroRNAは、下記(i)又は(ii)に示すポリヌクレオチドからなることを特徴とする:
(i)配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1に示す塩基配列と70%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示すポリヌクレオチド。
【0013】
前記(i)のポリヌクレオチドにおいて、配列番号1に示す塩基配列は、5'-UCUAAACCACCAUAUGAAACCAGC-3'であり、ヒト成熟型miR-29b-3pの塩基配列に対して62.5%の配列同一性を有している。
【0014】
前記(ii)のポリヌクレオチドは、配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示し、且つ配列番号1に示す塩基配列と70%以上の配列同一性を有していればよいが、配列番号1に示す塩基配列に対する配列同一性として、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上が挙げられる。
【0015】
本明細書において、塩基配列の「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのヌクレオチド配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全ヌクレオチド残基に対する、同一ヌクレオチド残基の割合(%)を意味する。塩基配列の「同一性」は、具体的には、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST-2(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、検索パラメータをデフォルト設定にして2つの塩基配列をアラインすることにより、計算することができる。
【0016】
また、前記(ii)のポリヌクレオチドの一態様として、配列番号1に示す塩基配列において、1又は数個のヌクレオチドが、置換、欠失、挿入、又は付加された塩基配列を含み、且つ配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果を示すポリヌクレオチドが挙げられる。ここで、置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチドの数としては、例えば、1〜6個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜4個、更に好ましくは1〜3個、特に好ましくは1又は2個が挙げられる。
【0017】
また、配列番号1の5'末端から1番目に存在するU、14番目に存在するA、20番目に存在するC、及び24番目に存在するCは、遺伝子干渉作用に大きく影響していないと考えられるので、前記(ii)のポリヌクレオチドの一態様として、配列番号1の5'末端から1番目、14番目、20番目、及び24番目の塩基の少なくとも1つが、他の塩基に置換、又は欠失されており、他の塩基は置換及び欠失されていないものが挙げられる。即ち、前記(ii)のポリヌクレオチドの一態様として、5'-X
1CUAAACCACCAUX
2UGAAAX
3CAGX
4-3'(X
1、X
2、X
3、及びX
4は任意の塩基を示す)からなる塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0018】
また、前記(ii)のポリヌクレオチドとして、「配列番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドと同等の抗腫瘍効果」を示すか否かについては、大腸癌細胞(DLD-1株、SW480株、HCT116株、HT29株、又はMIAPaCa-2株)を用いた際造増殖アッセイを行うことにより判定することができる。
【0019】
本発明のmicroRNAは、成熟型miRNA(mature-miRNA)であってもよく、またヘヤピン型前駆体miRNA(pri-miRNA)や、pri-miRNAの一部が切断されたpre-miRNAであってもよい。当該pri-miRNAやpre-miRNAは、細胞内でプロセシングを受けて成熟型miRNAになる。また、本発明のmicroRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAとからなる二本鎖の前駆体を形成していてもよい。当該二本鎖の前駆体は、癌細胞内で二本鎖が解けて成熟型miRNAを遊離させる。本発明のmicroRNAにおいて、配列番号1に示す塩基配列又はそれを変異させた塩基配列からなるポリヌクレオチドは、成熟型miRNAとして利用することができる。また、ヘヤピン型前駆体miRNAやpre-miRNAの塩基配列については、配列番号1に示す塩基配列又はそれを変異(1若しくは数個の塩基を置換、欠失、挿入、又は付加)させた塩基配列からなるポリヌクレオチドを成熟型miRNAとして生じさせるように設定すればよく、このような塩基配列は当業者にとって適宜設定可能である。
【0020】
また、本発明のmicroRNAは、酵素に対する分解耐性等を付与するために、必要に応じて、一般的に核酸に施される各種修飾がなされていてもよい。このような修飾としては、例えば、2'-Oメチル化等の糖鎖部分の修飾;塩基部分の修飾;アミノ化、低級アルキルアミノ化、アセチル化等のリン酸部分の修飾等が挙げられる。
【0021】
2.癌治療剤
前記microRNAは、優れた抗腫瘍効果を奏するので、癌治療剤の有効成分として使用される。即ち、前記microRNAは、癌治療用の核酸医薬として利用できる。
【0022】
また、本発明の癌治療剤において治療対象となる癌種については、化学療法の対象となる癌であることを限度として特に制限されないが、具体的には、大腸癌、結腸癌、胃癌、直腸癌、肝癌、膵癌、肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頚癌、頭頚部癌、胆管癌、胆嚢癌、口腔癌等の固形癌;白血病、悪性リンパ腫等の血液癌が挙げられる。これらの中でも、固形癌、とりわけ大腸癌は、本発明の癌治療剤の治療対象として好適である。
【0023】
本発明の癌治療剤の投与方法としては、本発明の癌治療剤を生体内で癌組織又は癌細胞に送達できることを限度として特に制限されないが、例えば、血管内(動脈内又は静脈内)注射、持続点滴、皮下投与、局所投与、筋肉内投与、腹膜内投与等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは動静脈内投与が挙げられる。
【0024】
本発明の癌治療剤の投与量については、癌種、患者の性別、年齢、症状などに応じて適宜決定されるため、一概に決定することはできないが、例えば、前記microRNA量換算で1日当たり1〜100mg/m
2(体表面積)程度が挙げられる。
【0025】
本発明の癌治療剤は、前記microRNAが癌細胞内に送達されて機能発現することにより、抗腫瘍効果を奏するので、本発明の癌治療剤は、前記microRNAが癌細胞内に送達され易いように、microRNA導入剤と共に製剤化されていることが望ましい。このようなmicroRNA導入剤としては、特に制限されず、炭酸アパタイト粒子、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、RNAiフェクト等のいずれであってもよい。これらのmicroRNA導入剤の中でも、炭酸アパタイト粒子は、生体内で癌細胞に集積させて癌細胞内への移行を効率的に行うことができるので、本発明の大腸癌の治療剤の好適な一態様としては、前記microRNAが炭酸アパタイト粒子との混合状態、又は前記microRNAが炭酸アパタイト粒子に複合化されてなる複合粒子の状態で存在するものが挙げられる。
【0026】
以下、本発明の癌治療剤において、microRNA導入剤として使用される炭酸アパタイト粒子について説明する。
(炭酸アパタイト粒子)
炭酸アパタイトは、水酸アパタイト(Ca
10(PO
4)
6(OH)
2)の水酸基の一部をCO
3で置換した構造を有し、一般式Ca
10-mX
m(PO
4)
6(CO
3)
1-nY
nで表される化合物である。ここで、Xは、炭酸アパタイトにおけるCaを部分的に置換し得る元素であり、例えば、Sr、Mn、希土類元素等が挙げられる。mは、通常0以上1以下の正数であり、好ましくは0以上0.1以下であり、より好ましくは0以上0.01以下であり、更に好ましくは0以上0.001以下である。Yは、炭酸アパタイトにおけるCO
3を部分的に置換しうる基又は元素であり、OH、F、Cl等が挙げられる。nは、通常0以上0.1以下の正数であり、好ましくは0以上0.01以下であり、より好ましくは0以上0.001以下であり、更に好ましくは0以上0.0001以下である。
【0027】
本発明で使用される炭酸アパタイト粒子の平均粒子径については、生体内に投与されて、大腸癌細胞内へ移行できる程度の大きさである限り、特に制限されないが、生体内で大腸癌細胞に集積させて大腸癌細胞内への移行を効率的に行うという観点から、通常50nm以下、好ましくは1〜40nm、更に好ましくは1〜20nm、より好ましくは5〜10nmが挙げられる。
【0028】
なお、前記の炭酸アパタイトの平均粒子径は、走査型プローブ顕微鏡を用いて観察することにより測定される値である。走査型プローブ顕微鏡による粒子径の測定に際して、測定部位をCCDカメラで確認し、明らかに走査型プローブ顕微鏡を用いた測定に適さない巨大な粒子(例えば、粒径5μm以上)が存在する場合は、それらは測定対象範囲から除去される。また、本明細書において、粒径とは、走査型プローブ顕微鏡で測定した際に、別個の粒子として認識可能な独立した粒子の粒径を意味する。よって、複数の粒子が凝集している場合は、それらの集合体を一つの粒子と判断する。
【0029】
炭酸アパタイト粒子は、公知の手法に従って得ることができる。例えば、水溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンを共存させることによって調製することにより得ることができる。水溶液中の各イオン濃度は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されず、下記を参考に適宜設定することができる。
【0030】
水溶液中のカルシウムイオン濃度は、通常0.1〜1000mM、好ましくは0.5〜100mM、更に好ましくは1〜10mMが挙げられる。
【0031】
水溶液中のリン酸イオン濃度は、通常0.1〜1000mM、好ましくは0.5〜100mM、更に好ましくは1〜10mMが挙げられる。
【0032】
水溶液中の炭酸水素イオン濃度は、通常1.0〜10000mM、好ましくは5〜1000mM、更に好ましくは10〜100mMが挙げられる。
【0033】
カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンの供給源としては、水溶液中にこれらのイオンを供給可能である限り特に制限されないが、例えば、これらのイオンの水溶性塩が挙げられる。具体的には、カルシウムイオン源としてCaCl
2を用いることができ、リン酸イオン源としてNaH
2PO
4・2H
2Oを用いることができ、炭酸イオン源としてNaHCO
3を用いることができる。
【0034】
炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り、上述する各イオン供給源及び他の物質以外の成分を含んでも良い。例えば、水溶液中に上記組成物中に、フッ素イオン、塩素イオン、Sr、Mn等を添加することにより、炭酸アパタイトにおけるCaまたはCO
3を部分的に置換してもよい。但し、フッ素イオン、塩素イオン、Sr、Mnの添加量は、形成される複合体粒子のpH溶解性、粒径範囲に著しい影響を与えない範囲内とすることが好ましい。また、炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液は、基剤として水を使用すればよいが、細胞培養用の各種培地やバッファー等を使用してもよい。
【0035】
本発明で使用される炭酸アパタイト粒子の調製において、水溶液中への各イオン供給源及び他の物質の混合順序は特に限定されず、目的とする炭酸アパタイト粒子が得られる限り、いかなる混合順序で水溶液を調製してもよい。例えば、カルシウムイオン及び他の物質を含有する第1の溶液を調製すると共に、別途、リン酸イオン及び炭酸水素イオンを含有する第2の溶液を調製し、第1の溶液と第2の溶液とを混合して水溶液を調製することができる。
【0036】
炭酸アパタイト粒子は、上記の各イオンを含有する水溶液のpHを6.0〜9.0の範囲に調整し、一定時間放置(インキュベート)することによって得ることができる。炭酸アパタイト粒子を形成する際の当該水溶液のpHとしては、例えば7.0〜8.5、好ましくは7.1〜8.5、更に好ましくは7.2〜8.5、より更に好ましくは7.3〜8.5、特に好ましくは7.4〜8.5、最も好ましくは7.5〜8.0が挙げられる。
【0037】
炭酸アパタイト粒子を形成する際の当該水溶液の温度条件は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されないが、通常10℃以上であり、好ましくは25〜80℃、更に好ましくは37〜70℃以上が挙げられる。
【0038】
炭酸アパタイト粒子を形成するための当該水溶液のインキュベート時間は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されないが、通常1分〜24時間、好ましくは10分〜1時間が挙げられる。粒子形成の有無は、例えば、顕微鏡下で観察することによって確認することができる。
【0039】
また、炭酸アパタイト粒子の平均粒径を50nm以下に制御する方法としては、特に制限されないが、例えば、前記の水溶液中で形成した炭酸アパタイト粒子を超音波振動処理する方法が挙げられる。ここで、超音波振動処理とは、いわゆる菌体破砕等に用いられる超音波破砕機やホモジナイザー等の超音波振動子を直接試料に接触させて超音波をかける処理ではなく、一般に精密機器や試験管等の洗浄に用いられる超音波振動子と洗浄槽とが一体となった超音波洗浄器を用いた処理である。超音波洗浄器の洗浄槽(水槽)に液体(例えば、水)を入れ、そこに炭酸アパタイト粒子を収容した容器(例えば、プラスチック製のチューブ)を浮かべ、精密機器を洗浄する要領で液体を介して炭酸アパタイト粒子を含む水溶液に超音波をかける処理を意味する。これによって、簡便且つ効率的に炭酸アパタイト粒子の粒径を50nm以下に微細化することができる。
【0040】
超音波振動処理に使用可能な装置は、上記超音波洗浄器のように、水などの溶媒を介して間接的に炭酸アパタイト粒子を収容した容器に超音波振動を与えることが可能であるものであれば特に制限されない。汎用性及び取り扱い性の良さという観点から、超音波振動子及び恒温槽を備えた超音波洗浄器を用いることが好ましい。
【0041】
上記の超音波振動処理の条件は、粒子径を所定範囲に制御可能である限り特に制限されない。例えば、水槽の温度としては、5〜45℃の温度から適宜選択することができ、好ましくは10〜35℃、更に好ましくは20〜30℃が挙げられる。超音波振動処理の高周波出力としては、例えば、10〜500Wの範囲で適宜設定することができ、好ましくは20〜400W、更に好ましくは30〜300Wであり、より好ましくは40〜100Wが挙げられる。発振周波数としては、通常10〜60Hz、好ましくは20〜50Hz、更に好ましくは30〜40Hzである。また、超音波振動処理時間としては、例えば、30秒〜30分、好ましくは1〜20分、更に好ましくは3〜10分が挙げられる。
【0042】
超音波振動処理を行う際に用いる、炭酸アパタイト粒子を包含する容器の種類は、粒子を所定の粒子径範囲に微細化することが可能である限り制限されず、水溶液の容量や使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、1〜1000ml容量のプラスチック製チューブを用いることができる。
【0043】
また、超音波振動処理は、アルブミンの存在下(即ち、アルブミンを、炭酸アパタイト粒子を含む水溶液に添加した状態)で行うことが好ましい。これは、アルブミンと炭酸アパタイト粒子とが共存する環境で超音波振動処理を行うことにより、より微細な粒径を有する炭酸アパタイトナノ粒子が得られ、粒子の再凝集を抑制することも可能となるためである。炭酸アパタイト粒子を含む水溶液中でのアルブミンの濃度としては、微細化及び/又は再凝集抑制の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、0.1〜500mg/ml、好ましくは1〜100mg/ml、更に好ましくは1〜10mg/ml程度添加することができる。
【0044】
(前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子)
本発明の癌治療剤の好適な一態様では、前記microRNAと炭酸アパタイト粒子が複合化した複合粒子が使用される。このように前記microRNAを炭酸アパタイト粒子に複合化させることによって、炭酸アパタイトの作用によって生体内前記microRNAを癌細胞に効率的に集積させて、癌細胞内に前記microRNAを導入させることが可能になる。また、細胞内に導入された後に、細胞内で前記microRNAが炭酸アパタイト粒子から遊離できるので、前記microRNAによる抗腫瘍効果を効率的に発揮させることも可能になる。
【0045】
本発明において、前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子とは、前記microRNAが炭酸アパタイト粒子に対してイオン結合、水素結合等によって吸着して担持された状態を指す。前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子の形成方法については、特に制限されないが、例えば、前記microRNAと炭酸アパタイト粒子を水溶液中で共存させることにより形成する方法;炭酸アパタイト粒子を調製する水溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンと共に、前記microRNAを共存させることにより、炭酸アパタイト粒子の形成と前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行う方法等が挙げられる。
【0046】
前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子の形成を、炭酸アパタイト粒子の形成と前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行う場合、炭酸アパタイトの調製に使用される水溶液中に前記microRNAを、例えば0.1〜1000nM、好ましくは0.5〜500nM、更に好ましくは1〜200nMとなるように添加すればよい。
【0047】
前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子において、前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の比率については特に制限されず、前記microRNAの投与量等に応じて適宜設定すればよい。例えば、2mgの前記microRNAを炭酸アパタイト粒子に複合化させる場合、前述する炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液2.5Lに、5mgの前記microRNAを添加して、炭酸アパタイト粒子の形成と前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行えばよい。
【0048】
また、本発明の大腸癌の治療剤として、炭酸アパタイト粒子と複合化させた前記microRNAを使用する場合、生体への投与に適した溶媒中に分散した状態で使用される。前述するように、炭酸アパタイト粒子は、各種のイオン供給源となる物質を水、培地、又はバッファー等の溶媒に溶解させることによって得られるが、そのようにして得られる炭酸アパタイト粒子分散溶液は、浸透圧、緩衝能、無菌性等の観点から必ずしも生体への投与(血管内投与)に適していない。よって、炭酸アパタイト粒子が分散した溶媒を生体への投与に適した溶媒(例えば、生理食塩水等)に置換するためには、通常、遠沈によって炭酸アパタイト粒子を溶媒から分離し、回収して溶媒を置き換える操作が必要である。しかしながら、このような操作を行うと炭酸アパタイト粒子同士が凝集し、粒子が巨大化するため、却って生体への投与には適さない状態へと変化してしまう。そこで、凝集した炭酸アパタイト粒子を生体への投与に適した溶媒に添加した上で、前述する超音波振動処理を行うことにより、前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子が、生体への投与に適した溶媒中で適度な粒子径(好ましくは平均粒径が50nm以下)で分散させることができる。
【0049】
また、本発明の癌治療剤として、炭酸アパタイト粒子と複合化させた前記microRNAを使用する場合、本発明の大腸癌の治療剤の投与は前記microRNAと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を超音波振動処理によって微小な粒子の状態で分散させた後に、当該粒子が凝集する前に速やかに行うことが望ましい。例えば、超音波振動処理後1分以内、好ましくは30秒以内の投与が好適である。但し、前述するように、アルブミンを添加することによって炭酸アパタイト粒子の凝集を抑制する場合は、超音波振動処理後、数分〜数十分経過後に投与することも可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0051】
実施例1:ヒト大腸癌細胞(DLD-1株)に対する抗腫瘍効果の評価
24穴プレートに5×10
4cells/mlのヒト大腸癌細胞(DLD-1株)をD-MEM培地(10容量%FBS含有)に接種して37℃で終夜培養を行った後に、MIRTX-Star(配列番号1からなるmicroRNA、公知のポリヌクレオチド合成手法にて製造)を50nMとなるように添加してリポフェクタミンRNAIMAX 1.0μl/wellを用いて24時間、37℃で培養を行うことによりトランスフェクションさせた。次いで、D-MEM培地(10容量%FBS含有)に培地を交換して培養を行い、トランスフェクションから24、48及び72時間後に細胞数を測定した。更に、トランスフェクションから48時間後に、大腸癌細胞に対して、DAPI染色、及びKi-67に対する免疫染色を行った。なお、本試験では、コントロールとして、microRNAを導入しなかった場合(Parent)、MIRTX-Starの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号2)を使用した場合(NC、ネガティブコントロール)、miR-34aを使用した場合(PC、ポジティブコントロール;配列番号3)、及びmiR-29b-3p(配列番号4)を使用した場合についても同様の条件で試験を行った。
【0052】
細胞数を計測した結果を
図1、トランスフェクションから72時間後の細胞の状態を顕微鏡で観察した結果を
図2、トランスフェクションから48時間後に、DAPI染色及びKi-67に対する免疫染色を行った結果を
図3にそれぞれ示す。
【0053】
この結果から、MIRTX-Starには、大腸癌細胞(DLD-1株)の増殖を抑制する効果があり、その増殖抑制効果は、miR-29b-3pよりも遥かに高く、優れた抗腫瘍効果が知られているmiR-34aと同程度であった。また、DAPI染色及びKi-67に対する免疫染色からも、MIRTX-Starをトランスフェクションした場合には、大腸癌細胞(DLD-1株)において、細胞増殖マーカーであるKi-67量が著しく少なくなっていることも確認された。
【0054】
実施例2:ヒト大腸癌細胞(SW480株)に対する抗腫瘍効果の評価
ヒト大腸癌細胞として、SW480株を使用したこと以外は、前記実施例1と同条件で試験を行った。
【0055】
細胞数を計測した結果を
図4、トランスフェクションから72時間後の細胞の状態を顕微鏡で観察した結果を
図5、トランスフェクションから48時間後に、DAPI染色及びKi-67に対する免疫染色を行った結果を
図6にそれぞれ示す。
図4〜6から明らかなように、MIRTX-Starには大腸癌細胞(SW480株)の増殖を抑制する効果があり、その効果は、miR-34aを遥かに凌いでいた。
【0056】
実施例3:ヒト大腸癌細胞(HCT116株)に対する抗腫瘍効果の評価
ヒト大腸癌細胞として、HCT116株を使用したこと以外は、前記実施例1と同条件で試験を行った。
【0057】
細胞数を計測した結果を
図7、トランスフェクションから72時間後の細胞の状態を顕微鏡で観察した結果を
図8にそれぞれ示す。
図7及び8から明らかなように、miR-29b-3pは大腸癌細胞(HCT116株)の増殖を殆ど抑制できなかったが、MIRTX-Starには、大腸癌細胞(HCT116株)の増殖を効果的に抑制できていた。
【0058】
実施例4:ヒト大腸癌細胞(HT29株)に対する抗腫瘍効果の評価
ヒト大腸癌細胞として、HT29株を使用したこと以外は、前記実施例1と同条件で試験を行った。
【0059】
細胞数を計測した結果を
図9、トランスフェクションから72時間後の細胞の状態を顕微鏡で観察した結果を
図10、トランスフェクションから48時間後に、DAPI染色及びKi-67に対する免疫染色を行った結果を
図11にそれぞれ示す。この結果からも、MIRTX-Starには、大腸癌細胞に対する増殖抑制効果があり、大腸癌細胞(HT29株)の増殖を抑制できることが確認された。
【0060】
実施例5:ヒト膵癌細胞(MIAPaCa-2株)に対する抗腫瘍効果の評価
ヒト膵癌細胞(MIAPaCa-2株)を使用したこと以外は、前記実施例1と同条件で試験を行った。
【0061】
細胞数を計測した結果を
図12、トランスフェクションから72時間後の細胞の状態を顕微鏡で観察した結果を
図13にそれぞれ示す。この結果からも、MIRTX-Starには、優れた抗腫瘍効果があり、膵癌細胞(MIAPaCa-2株)の増殖を効果的に抑制できることが確認された。
【0062】
実施例6:ヒト膵癌細胞(Panc-1株)に対する抗腫瘍効果の評価
ヒト膵癌細胞(Panc-12株)を使用したこと以外は、前記実施例1と同条件で試験を行った。
【0063】
細胞数を計測した結果を
図14、トランスフェクションから72時間後の細胞の状態を顕微鏡で観察した結果を
図15にそれぞれ示す。
図14及び15から明らかなように、MIRTX-Starは、ヒト膵癌細胞(Panc-1株)に対する抗腫瘍効果はmiR-34aよりも高く、膵癌細胞(Panc-1株)の増殖を効果的に抑制できていた。
【0064】
実施例7:In vivoにおけるMIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子による大腸癌の治療効果の評価-1
マトリゲル(BD Biosciences, San Jose, CA)と培地を容量比1:1で含む培地/マトリゲル溶液100μL当たりヒト大腸癌細胞(HT29株)細胞を2.5×10
6 cellsとなるように混合し、これをメスヌードマウス(NIHON CLEA, Tokyo, Japan)の左右両の背部の下側部分に皮下注入(左右に各200μL)した。HT29癌細胞を投与した時点を0日目として、0、2、4、7、9、12、14、及び16日目に、下記で得られたMIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子(sCa- MIRTX)を含む製剤を、1回投与当たりMIRTX-Starが40μgとなるように、尾静脈に注入した。なお、本試験では、比較として、MIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を導入しなかった場合(Parent)、MIRTX-Starの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号2)を使用した場合(sCa-control-miR)についても同様の条件で試験を行った。
【0065】
(MIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤の調製法)
100mlの蒸留水に、0.37gのNaHCO
3、90μlのNaH
2PO
4・2H
2O(1M)、及び180μlのCaCl
2(1M)をこの順に添加して溶解させ、1NのHClでpHを7.5に調整した。これを直径0.2μmのフィルターでろ過した。得られたバッファー1ml当たりに2μgのMIRTX-Star、4μlのCaCl
2(1M)を混合し、37℃の水浴中で30分間インキュベートした。その後、15000rpm×5分で遠沈し、得られたペレットを生理食塩水に分散させ、MIRTX-Starを炭酸アパタイト粒子に内包させた複合粒子の分散液を得て、これを10分間超音波振動処理にかけることにより、MIRTX-Starを包含した炭酸アパタイトナノ粒子からなる複合体を含む製剤を得た。なお、超音波振動処理は、超音波振動機能を有するウォーターバスを用いて、20℃に設定した水に、プラスチック容器に収容した前記分散液を浮かべ、高周波出力55W、発振周波数38kHzの条件で10分間行った。斯して得られた製剤は、直ちに、前記試験に使用した。また、斯して得られた製剤は、MIRTX-Starを包含した炭酸アパタイトナノ粒子からなる複合体の平均粒径が50nm以下であることが、走査型プローブ顕微鏡を用いた測定において確認されている。
【0066】
HT29癌細胞を投与した時点から、マウス背部の腫瘍サイズ(長径×短径×短径×1/2)を経時的に測定した。得られた結果を
図16に示す。また、18日目にマウスの背部の観察、18日目にマウスから取り出した腫瘍の観察、18日目にマウスから取り出した腫瘍の重量を測定した結果を
図17に示す。
【0067】
図16及び17から明らかなように、MIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与した場合には、HT29癌細胞の増殖が有意に抑えられており、格段に優れた抗腫瘍効果を示すことが確認された。
【0068】
実施例8:In vivoにおけるMIRTX-Starの安全性の評価
MIRTX-Starの安全性を評価するために、以下の試験を行った。メスヌードマウス(NIHON CLEA, Tokyo, Japan)に、実施例7で使用したMIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を含む製剤を、1回投与当たりMIRTX-Starが40μgとなるように、1、2、4、7、9、12、14、及び16日目に尾静脈に注入した。なお、本試験では、比較のために、比較として、MIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を導入しなかった場合(Parent)、MIRTX-Starの代わりにコントロールmicroRNA(配列番号2)を使用した場合(sCa-control-miR)についても同様の条件で試験を行った。経時的にヌードマウスの体重を測定し、18日目に血液化学検査及び臓器のHE(Hematoxylin and Eosin)染色を行った。
【0069】
経時的に体重を測定した結果を
図18、血液化学検査の結果を
図19、各種臓器のHE染色の結果を
図20に示す。MIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与した群では、死亡例がなく、他の群と比べて体重変化に相違は殆ど認められなかった。また、血液化学検査の結果も、MIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与した群は、他の群と比べて大きな相違は認められなかった。更に、各種臓器のHE染色の結果でも、MIRTX-Starと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を投与した群では、組織学的なダメージも認められなかった。以上の結果から、MIRTX-Starは、高い安全性を備えていることが確認された。