(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において同一の構成又は機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0036】
一実施形態に係る培養方法は、所定の微小な空間(以降適宜、「培養空間」と記載する)で細胞塊を作製する方法に関する。かかる培養方法は、幹細胞由来細胞、及び間葉系細胞からなる少なくとも2種類の細胞を有する集団を、培養して細胞塊を形成させる培養方法である。幹細胞由来細胞は幹細胞由来の、内胚葉細胞、外胚葉細胞又は中胚葉細胞から選択される少なくとも1つの細胞である。上記細胞は、血管細胞、血管細胞から分泌される因子、又は、血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子から選択される少なくとも1つの細胞及び/又は因子とともに培養される。
【0037】
加えて、かかる培養方法では、細胞が移動可能な空間(培養空間)の体積が400mm
3以下である。さらに加えて、細胞が移動可能な空間の体積をVmm
3、細胞が移動可能な空間の中に入れる間葉系細胞の細胞数をNとしたとき、N/V比が35以上3000以下である。
【0038】
言い換えると、上記培養方法は、複数の細胞を共培養して細胞塊を得る方法である。また、以下の条件を満たす;
【0039】
細胞懸濁液中に含まれる複数の細胞が以下の(A)乃至(C)を含むこと、
培養空間が400mm
3以下の大きさであること、及び、
培養空間の体積をVmm
3、細胞が移動可能な空間の中に存在する間葉系細胞の細胞数をNとしたとき、N/V比が35以上3000以下であること;
【0040】
(A)内胚葉細胞、外胚葉細胞及び中胚葉細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞であって、幹細胞由来である細胞、すなわち幹細胞由来細胞(以下適宜、「幹細胞由来三胚葉細胞」と記載する)、
【0042】
(C)血管細胞、血管細胞から分泌される因子、及び、血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子からなる群より選択される少なくとも1つの細胞及び/又は因子(以下適宜、「血管細胞又は分泌因子」と記載する)。
【0043】
なお、以降の説明では、「幹細胞由来細胞」と「幹細胞由来三胚葉細胞」とは特に区別しないで同様の意味で用いる。
【0044】
培養空間は、当該空間内で培養される細胞が自在に移動することが可能な空間である。言い換えれば、培養空間とは当該領域内で細胞が三次元で移動可能な領域である。また、培養空間の体積が400mm
3以下であることから、培養中の細胞は、この体積で特定される(制限される)空間内を移動する。
【0045】
各細胞は移動することで互いに凝集する。凝集した細胞はさらに増殖と分化も行う。増殖又は分化した細胞は細胞塊を形成する。凝集とは、細胞同士が結合する状態を表す。かかる状態の細胞は分化又は増殖を開始する前の段階にある。ただし増殖能や分化能が高い細胞は、増殖又は分化と、凝集とを並行して起こす場合もある。細胞が凝集した状態では、培地を緩やかに攪拌するなど物理的に弱いせん断応力を加えただけで細胞同士が分散する。培養空間の大きさの特定については、
図7等を参照して後述する。
【0046】
加えて、培養空間の大きさは、目的とする細胞塊の大きさを考慮して決定されることが好ましい。これは以下の発見に依拠する。
【0047】
発明者らの発見によれば、より生体に近い機能を有する細胞塊であって、移植の目的外の臓器の組織に分化しない細胞塊を作製するために重要なことは次の通りである;
培養空間の培地中に存在する間葉系細胞の割合、及び
間葉系細胞の移動距離可能な領域を制限すること。
【0049】
一実施形態の細胞塊は、幹細胞由来三胚葉細胞と、間葉系細胞と、血管細胞又は分泌因子とを共培養して得られる細胞群である。ここでいう、「幹細胞由来三胚葉細胞」及び「血管細胞又は分泌因子」は、上述した細胞懸濁液に含まれる。また「幹細胞由来三胚葉細胞」及び「血管細胞又は分泌因子」は、それぞれ上記(A)及び(C)に記載の通りである。
【0050】
加えて、細胞塊は、目的とする組織のもつ複数の機能を有することを前提とする。しかしながら、細胞塊が、生体組織の水準まで分化しているか否かは限定されない。また細胞塊が、成熟した細胞により構成されているかは限定されない。
【0051】
一方で、細胞塊における複数の機能の発現について、以下のように示される。細胞塊の有する複数の機能は、胎児から採取された細胞又は胎児から採取された生体組織の有する機能に近いことが好ましい。これらの機能は例えば遺伝子発現パターンとして特定することができる。
【0052】
細胞塊の有する複数の機能は、また成体から採取された細胞又は成体から採取された生体組織の有する機能に近いことが好ましい。細胞塊の有する複数の機能は、幹細胞又は幹細胞由来三胚葉細胞の有する複数の機能よりも、上記に近い複数の機能であることが好ましい。
【0053】
少なくとも二種類、(好ましくは三種類)の細胞を共培養する。これにより、細胞を凝集させる。さらに、凝集した細胞に分化又は増殖を行わせる。又はこれらを並行的におこなせて細胞塊を形成する。
【0054】
加えて、本明細書では、細胞塊は、スフェロイド形状であるか否かを問わない。本明細書では、細胞塊は、複数の細胞が塊を形成してなるものであればよい。
【0055】
「スフェロイド」とは、細胞が多数凝集して球状の細胞塊を形成したものである。スフェロイドは、細胞が3次元状態で互いに凝集している。
【0057】
「生体組織(biological tissue)」とは、何種類かの決まった細胞が一定のパターンで集合した構造の単位のことである。生体組織は、全体としてひとつのまとまった役割をもつ。例えば、生体内の各器官(臓器)は、何種類かの生体組織が決まったパターンで集まって構成されている。本明細書では、分化した細胞により構成され、かつ任意の機能を有する細胞の集まり(細胞群)を組織という。
【0058】
「幹細胞由来の内胚葉、外胚葉又は中胚葉細胞」(以下“幹細胞由来三胚葉細胞“と称す)、について以下に説明する。
【0059】
幹細胞とは胎生幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)から選択される細胞を含む。幹細胞は、無限増殖性を有している。本明細書ではさらに幹細胞が、内胚葉、中胚葉、外胚葉の全ての器官に分化可能な細胞を指す場合がある。
【0060】
内胚葉細胞とは、肝臓、膵臓、腸管、肺、甲状腺、副甲状腺、尿路などの内胚葉性器官に分化可能な細胞をいう。
【0061】
外胚葉細胞とは、脳、脊髄、副腎髄質、表皮、毛髪・爪・皮膚腺、感覚器、末梢神経、水晶体などの外胚葉系器官に分化可能な細胞のことをいう。
【0062】
中胚葉細胞とは、腎臓、尿管、心臓、血液、生殖腺、副腎皮質、筋肉、骨格、真皮、結合組織、中皮などの中胚葉系器官に分化可能な細胞のことをいう。
【0063】
すなわち、幹細胞由来三胚葉細胞とは、ES細胞及びiPS細胞から選択された細胞に由来する細胞であって、内胚葉性器官、外胚葉性器官又は中胚葉性器官の性質を有する細胞をいう。
【0064】
ある細胞が内胚葉性器官、外胚葉性器官又は中胚葉性器官に分化可能な細胞であるかどうかは、マーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる。例えば細胞に一又は複数の所定のマーカータンパク質が発現していれば、その細胞は内胚葉性器官に分化可能であると判断される。
【0065】
例えば、肝臓に分化可能な細胞は、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、ALBなどをマーカーとして判別することができる。また膵臓に分化可能な細胞に対しては、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになる。腸管に分化可能な細胞に対しては、CDX2、SOX9などがマーカーになる。腎臓に分化可能な細胞に対しては、SIX2、SALL1などがマーカーになる。心臓に分化可能な細胞では、NKX2-5 MYH6、ACTN2、MYL7、HPPAなどがマーカーになる。血球に分化可能な細胞では、C-KIT、SCA1、TER119、HOXB4などがマーカーになる。脳や脊髄に分化可能な細胞では、HNK1、AP2、NESTINなどがマーカーになる。
【0066】
「間葉系細胞」とは、主として中胚葉に由来する結合織に存在する細胞である。生体組織内で機能している細胞を支持する構造を形成するための細胞である。かかる細胞は結合織細胞である。
【0067】
未分化の間葉系細胞には、間葉系細胞への分化運命が決定しているが、まだ間葉系細胞へ分化していない細胞が含まれる。本発明において用いる間葉系細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよい。未分化間葉系細胞は間葉系幹細胞ともいう。
【0068】
ある細胞が未分化間葉系幹細胞であるかどうかは、細胞がマーカータンパク質を発現しているかどうかを調べることにより確認できる。マーカータンパク質は例えばStro-1、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD133、CD271、Nestinである。
【0069】
細胞にこれらのマーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば未分化間葉系細胞であると判断できる。また、前項のマーカーのいずれも発現していない間葉系細胞は分化済みの間葉系細胞と判断できる。
【0070】
当業者間で使用されている用語のうち、mesenchymal stem cells、mesenchymal progenitor cells、mesenchymal cells(R. Peters, et al. PLoS One. 30;5(12):e15689.(2010))などは本発明における間葉系細胞に含まれる。
【0071】
本発明では、主としてヒト由来の間葉系細胞を用いる。本発明では、ヒト以外の動物、例えば、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サルなどの動物由来の未分化間葉系細胞を用いてもよい。
【0072】
「血管細胞」とは、血管内皮を構成する細胞、又はそのような細胞に分化することのできる細胞をいう。ここでいう「血管細胞」は、上述した(C)に含まれる血管細胞である。血管細胞は血管細胞等から分泌された因子以外のものである。「血管細胞」の用語は血管細胞のみを意味する。
【0073】
ある細胞が血管細胞であるかどうかは、細胞がマーカータンパク質を発現しているかどうかを調べることにより確認できる。マーカータンパク質は例えば、TIE2、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、CD41である。細胞にこれらのマーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば血管細胞であると判断できる。
【0074】
本発明において用いる血管細胞は、分化した血管細胞であっても、未分化な血管細胞であってもよい。血管細胞が、分化した細胞であるかどうかはマーカータンパク質CD31、CD144により、確認することができる。
【0075】
当業者間で使用されている用語のうち、endothelial cells、umbilical vein endothelial cells、endothelial progenitor cells、endothelial precursor cells、vasculogenic progenitors、hemangioblast(HJ. joo, et al. Blood. 25;118(8):2094-104.(2011))などは本発明における血管細胞に含まれる。
【0076】
本発明で血管細胞を用いるときは、主としてヒト由来の血管細胞を用いる。本発明では、ヒト以外の動物、例えば、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サルなどの動物由来の血管細胞を用いてもよい。
【0077】
「器官芽」とは、成熟することで器官に分化することができる構造体である。器官芽は三種類の細胞を含む構造体である。三種類の細胞はそれぞれ幹細胞由来三胚葉細胞、血管細胞、及び未分化間葉系細胞又はそれから分化した細胞である。
【0078】
ある構造体が器官芽であるかどうかは、例えば、以下の方法のうち少なくともいずれか一つを行うことで確認できる。方法の一つは、その構造体を生体へ移植し、目的の器官に分化できるかどうかを調べることである。ここで構造体が目的の器官へ分化すれば器官芽であると判断できる。方法の一つは構造体が上述した三種類の細胞をすべて含んでいるかどうかを調べることである。構造体が三種類の細胞をすべて含んでいれば器官芽であると判断できる。
【0079】
器官芽は、例えば、腎臓、心臓、肺臓、脾臓、食道、胃、甲状腺、副甲状腺、胸腺、生殖腺、脳、脊髄などの器官に分化する器官芽などであってもよい。器官芽は内胚葉性器官に分化する器官芽であることが好ましい。かかる器官芽の例は、肝臓に分化する器官芽(肝芽)、膵臓に分化する器官芽(膵芽)、及び腸管に分化する器官芽である。
【0080】
ある構造体が内胚葉性器官に分化する器官芽であるかどうかは、構造体においてマーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる。後述するマーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が構造体において発現していれば構造体は内胚葉性器官に分化する器官芽であると判断できる。
【0081】
例えば、肝芽に対しては、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、 ALBなどがマーカーになる。膵芽に対しては、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになる。腸管に分化する器官芽に対しては、CDX2、SOX9などがマーカーになる。
【0082】
当業者間で使用されている用語のうち、liver bud、liver diverticula、liver organoid、pancreatic (dorsal or ventral) buds、pancreatic diverticula、pancreatic organoid、intestinal bud、intestinal diverticula、intestinal organoid(K. Matsumoto, et al. Science.19;294(5542):559-63.(2001))などは本発明における器官芽に含まれる。
【0083】
胎児とは受精卵から生じた仔である。かかる仔は何らかの形で母親の体との連絡を持つ。かかる仔は母体から栄養などの供給を受けて成長する。かかる仔は十分に発育した後に母体から生まれてくる。「胎児から採取された細胞」とは、かかる仔か採取された細胞である。胎児から採取された細胞には、胎児の肝臓の生体組織や市販されている胎児肝細胞を含む。
【0084】
「成体から採取された細胞」とは、十分に成長して、生殖が可能となった生物体から採取した細胞である。成体から採取された細胞は、例えば、市販されているヒト初代肝細胞やバイオプシーした生体組織を含む。
【0085】
「成体から採取された、細胞又は生体組織」は、各社からヒトや動物に由来する細胞が販売されている。肝細胞は、チャールズリバー社、KAC社から購入することができる。
【0086】
上記細胞又は生体組織は動物から採取することも可能である。例えば、ラットやマウスから肝細胞を採取する方法には、2段階コラゲナーゼ灌流法により肝細胞を分離する方法がある。例えばラットにおいて利用できる方法は以下の通りである。ます門脈よりカニューレを入れる。次に37度に加温したリン酸緩衝液(前還流液)で門脈から脱血する。次に37度に加温したコラゲナーゼ溶液で組織のコラーゲンを分解する。かかる方法により細胞のみを回収できる。
【0087】
「胎児から採取された、細胞又は生体組織」は、市販されているものがある。かかる細胞又は組織はセルバンク等から入手可能である。例えば、これらは株式会社ベリタスから入手することができる。
【0089】
複数の機能とは、細胞塊が備え得る機能である。これを言い換えると、細胞塊の成熟段階に応じて検出可能な機能である。一実施形態では、遺伝子発現量、タンパク質量によって測定できる機能を、上記複数の機能として用いることができる。本明細書では、細胞塊が複数の機能を備えるか否かを問わない。このため、複数の機能に関する説明を省略する。
【0090】
「共培養」とは、一般には、2種あるいはそれ以上の異なる種類の細胞を混合した後、これらの細胞を一緒に培養することをいう。
【0091】
また、一実施形態の共培養は、上記細胞から細胞塊を形成させる工程、細胞塊をさらに培養して増殖と分化を行う工程、及びさらに細胞塊を培養し細胞塊を成熟化させる工程を含む。
【0092】
例えば、上記細胞に細胞塊の一形態である器官芽を形成させた後、さらに器官芽の培養を行うことで器官芽を成熟化させる。ここでは説明を容易にするため、細胞に細胞塊を形成させた後、細胞塊に器官芽を形成させ、そして器官芽を成熟化させる場合を一例として説明する。しかしながら、上述したように、分化した細胞は、器官芽に限られることがない。分化した細胞は、細胞塊を分化させて形成される細胞や組織を含む。
【0093】
以下で説明する共培養は、(1)細胞に細胞塊を形成させる工程、(2)細胞塊に器官芽を形成させる工程、(3)器官芽の培養を行い、器官芽を成熟化させる工程、を含む。
【0095】
(1)細胞に細胞塊を形成させる工程(細胞塊形成工程)
【0096】
三種類の細胞、幹細胞由来三胚葉細胞、間葉系細胞、及び血管細胞又は分泌因子を共培養する。これによりこれらの細胞に細胞塊を形成させる(数時間〜1日間)。
【0097】
(2)細胞塊に器官芽を形成させる工程(器官芽形成工程)
【0098】
上記細胞塊をさらに培養する。細胞塊の細胞を増殖及び分化させる。これにより細胞塊に器官芽を形成させる。
【0099】
(3)成熟化させる工程(成熟化工程)
【0100】
上記器官芽は、細胞の増殖速度が低下する又は細胞が増殖しない状態を呈する。この状態では所定期間、細胞の増殖速度が低下する、又は細胞が増殖しない状態が維持される。かかる期間、さらに培養を継続して行う。
【0101】
幹細胞由来三胚葉細胞は、どのような細胞・組織に由来するものであっても良い。幹細胞由来三胚葉細胞は、リプログラミング技術を用いて作製した人工多能性幹細胞や胚に由来する胎生幹細胞を用いて得られることが好ましい。
【0102】
細胞塊の形成方法としては、様々な方法が知られている。例えば液滴中に細胞塊を形成させる方法がある。かかる方法はハンギングドロップ法として知られている。また培養容器底面にナノオーダのピラーやメッシュ構造の凹凸を有する容器を用いる方法がある。また培地中に細胞を浮遊させた状態でローラーボトルを攪拌して細胞塊を形成させる方法がある。またアガロースやマトリゲルなどのゲル上で培養する方法がある。さらには、細胞非接着処理が施された培養容器を用いて静置して細胞塊を形成させる方法がある。これらいずれの方法を用いて細胞塊を形成しても良い。さらにこれら方法を組合せて細胞塊を形成してもよい。具体的な手法が様々な文献で紹介されている。例えば、以下の文献に記載されている。
【0103】
Francesco Pampaloni、他著、"The third dimension bridges the gap between cell culture and live tissue"、Nature reviews molecular cell biology volume 8、2007年10月、pp. 839-845
【0104】
Markus Rimann、他著、"Synthetic 3D multicellular systems for drug development" Current Opinion in Biotechnology 2012 23、 2012年、pp. 1-7
【0105】
細胞塊形成工程では内胚葉細胞、外胚葉細胞及び中胚葉細胞からなる群を用いる。内胚葉細胞、外胚葉細胞及び中胚葉細胞は幹細胞に由来する。かかる内胚葉細胞、外胚葉細胞又は中胚葉細胞は、胎生幹細胞及び人工多能性幹細胞由来の細胞から選択される細胞を含むことが好ましい。
【0106】
加えて、上記内胚葉細胞、外胚葉細胞及び中胚葉細胞からなる群は、人工多能性幹細胞由来の細胞であって、内胚葉系列の細胞に分化可能な細胞を含むことが好ましい。これは、倫理面のハードルが低いことによる。また人工多能性幹細胞由来の細胞を用いることで標準株の確立による均質性の担保が可能であることから人工多能性幹細胞由来の細胞を用いることが好ましい。
【0107】
共培養における三種類の細胞の数の比は、器官芽が形成できる範囲内であれば特に限定されない。好適な細胞の数の比は、幹細胞由来三胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:10〜5:0.1〜1である。
【0108】
血管細胞から分泌される因子、間葉系細胞から分泌される因子、及び血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子として、次の物質が例示される。かかる物質はFGF2、FGF5、BMF4、BMP6、CTGFなどである。上記因子はこれらに限定されることはない。
【0109】
これらの物質の添加量は次の通りである。FGF2の添加量は、細胞1x10
6個当たり、10〜100ng/mlが適当である。さらに20ng/ml程度が好ましい。BMF4の添加量は、細胞1x10
6個当たり、10〜100ng/mlが適当である。さらに20ng/ml程度が好ましい。
【0110】
培養の際に使用する培地は、所定の複数の機能を有する細胞塊が形成されるものであればどのようなものでもよい。所定の複数の機能とは生体の細胞又は生体組織の有する複数の機能に近い複数の機能である。ここで上記生体の細胞は胎児又は生体から採取された細胞である。また上記生体組織は胎児又は生体から採取された生体組織である。細胞塊の複数の機能が生体組織等の複数の機能に近いことは遺伝子発現パターンで確認してもよい。
【0111】
培養用の培地を使用することが好ましい。幹細胞培養用の培地を使用することが好ましい。幹細胞培養用の培地はES細胞やiPS細胞の培養用培地が好ましい。前記2つの培地を混合したものなどを使用することが好ましい。
【0112】
血管細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよい。hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、ヒドロコルチゾン、bFGF、アスコルビン酸、IGF1、FBS、Antibiotics(例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシンBなど)、Heparin、L-Glutamine、Phenolred、BBEの少なくとも1種を含む培地を使用するのが好ましい。
【0113】
血管細胞培養用の培地としては、EGM-2 BulletKit(Lonza社製)、EGM BulletKit(Lonza社製)、VascuLife EnGS Comp Kit(LCT社製)、Human Endothelial-SFM Basal Growth Medium(Invitrogen社製)、ヒト微小血管内皮細胞増殖培地(TOYOBO社製)などを用いることができる。
【0114】
幹細胞由来三胚葉細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよい。目的とする人工組織が肝臓組織である場合、肝細胞培養用の培地を用いることが好ましい。ascorbic acid、BSA- FAF、insulin、hydrocortisone、GA-1000の少なくとも1種を含む培地が好ましい。肝細胞培養用の培地として市販されているHCM BulletKit(Lonza社製)からhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いた培地が好ましい。RPMI1640(Sigma-Aldrich社製)に1% B27 Supplements (GIBCO社製) と 10ng/mL hHGF (Sigma-Aldrich社製)を添加した培地が好ましい。
【0115】
より好ましくはGM BulletKit(Lonza社製)とHCM BulletKit(Lonza社製)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものとを1:1で混ぜたものに、Dexamethasone、Oncostatin M、HGFを添加した培地を用いる。
【0116】
培養時の温度は特に限定されないが、30〜40℃とするのが好ましく、37℃とするのが更に好ましい。
【0117】
培養期間は特に限定されないが、3〜50日とするのが好ましく、15日とするのが更に好ましい。
【0118】
細胞塊形成工程と成熟化工程とでは異なる培養容器を用いてもよい。細胞塊形成工程は核となる細胞塊を形成させる工程である。成熟化工程は所定の複数の機能を有する細胞塊になるまでかかる細胞塊を成熟化させる工程である。所定の複数の機能とは、胎児から採取された細胞又は胎児から採取された生体組織の有する複数の機能に近い、複数の機能である。あるいは所定の複数の機能とは、成体から採取された細胞又は成体から採取された生体組織の有する複数の機能に近い、複数の機能である。
【0119】
すべての工程において培養容器を用いてもよい。また、細胞塊形成工程、成熟化工程において、ハンギングドロップ法を用いてもよい。かかる場合には、培養容器にかえて液滴で細胞を培養してもよい。
【0120】
細胞塊形成工程及び成熟化工程において、細胞同士が結合して凝集していることが好ましい。また細胞塊形成工程及び成熟化工程で形成される細胞塊は、細胞同士が結合してスフェロイド形状の塊となっていることが好ましい。
【0121】
さらに加えて、細胞同士が形成する細胞塊の直径が20μm〜2mmであることが好ましく、50μm〜2mmであることがより好ましい。細胞塊の大きさは50μm〜200μmであることがより好ましい。かかる場合、細胞塊の中心部まで培地中に含まれる栄養分(ビタミン・アミノ酸等)及び酸素を供給させることができる。このため細胞塊の中心部の細胞の壊死を防ぐことのできる(Efrem Curcio et al.,"Mass transfer and metabolic reactions in hepatocyte spheroids cultured in rotating wall gas-permeable membrane system", Biomaterials 28 (2007) 5487-5497)。
【0123】
培養容器は例えば次の構成を有するものを用いる。
【0124】
図1は、一実施形態の培養容器の一例を示す図である。
図1では、複数の培養容器1を有する培養プレート3の一部分を示す。
図1の上段には、培養容器1の底に形成される複数の凹み10の一部分を、培養プレート3の上からみた図を示す。培養容器1は、複数の凹み10が配置される。複数の凹み10は、培養容器1の製造や細胞培養の効率の観点から、規則的に配置されることが好ましい。培養容器1は例えば複数のウェルを有するウェルプレートの一つのウェルに相当する。言い換えると、ウェルプレートの各ウェルに複数の凹み10が配置されることになる。
【0125】
ウェルプレートは、多数のくぼみ(穴又はウェル)のついた平板からなる実験・検査器具である。ウェルプレートでは各ウェルを試験管あるいはシャーレとして利用する。ウェルの数には例えば、6、24、96、384などがある。ウェルの数はそれ以上の場合もある。
【0126】
ウェルの底は平らでもよく、丸くてもよい。またウェルプレートにはディープウェルプレートが含まれる。ディープウェルプレートは細長いマイクロチューブを多数組み合わせた形式のウェルプレートである。
【0127】
図2、3は、実施形態1の凹みの形状例を示す図である。
図2では、一つの凹み10を横から見たときの断面図を示し、
図3は、一つの凹み10を上から見たときの図を示す。
【0128】
各凹み10は、底部11と開口部12とから構成される。開口部12はホーン形状を有するホーン部である。開口部12の上端は開口を有する。底部11は、培養容器1の底になる部分であり、開口部12は、底部11の上部に配置される部分である。底部11と開口部12とが接する部分を境界と記載する。
図2では、符号Rの矢印で示す長さの部分が境界の位置に対応する。また、
図3では、境界の位置を2点破線で示している。ただし、底部11と開口部12とは連続した面で構成され、一体として製造される。
【0129】
図2,3では、培養容器1に形成される複数の凹み10に関して、相当直径R、深さ(高さ)H、を示す。
【0130】
相当直径Rは、凹み10の底部11に内接する内接円の直径をいう。ここでは、底部11と開口部12との境界において内接する内接円の直径をいう。より詳しくは、相当直径Rは、境界における、凹み10の高さHの方向と垂直になる面の形状の内接円の直径をいう。
【0131】
深さHは、底部11の内側の底から凹み10の上端までの長さである。凹みの10の上端は、開口部12の端部(上端)と同じである。深さHは、凹み10が形成する空間の深さである。言い換えると、底部11が形成する空間の底から開口部12が形成する空間の上端までの深さである。
図2では凹み10の深さHに加え、底部11の深さH1及び開口部12の深さH2を示している。
【0132】
底部11は、細胞を培養する空間(第1空間)を形成する。底部11は、例えば、半球状の形状を有する。例えば、相当直径Rを直径とする球形を半分にした形状を用いることができる。底部11の形状について半球状に限定されるものではない。
【0133】
開口部12は、細胞の培養及び回収を補助するように働く空間(第2空間)を形成する。開口部12は、底部11との境界から凹み10の端部(先端)までを囲むテーパ角が1度以上20度以下の壁で構成される。開口部12を構成する壁のテーパ角が5度以上15度以下であることが好ましく、10度がより好ましい。その理由は、テーパ角が小さすぎると回収する際に細胞が凹みから培地に移行できないからである。またテーパ角が、逆に大きすぎると培地交換中に細胞が離脱することも、その理由である。
【0134】
図2ではテーパ角を符号θ1、θ2で示す。
図2,3に示す凹み10の形状例では、テーパ角θ1、θ2は略同じ場合を示している。
【0135】
底部11と開口部12との境界は、相当直径Rが50μm以上1mm以下となるように形成される。細胞塊の中心部まで栄養を供給したい場合は相当直径50μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以上500μm以下である。
【0136】
加えて、底部の底から端部までの深さHが相当直径Rの0.5倍以上3倍以下となるように形成される。好ましくは、深さHが相当直径Rの0.7倍以上1.2倍以下であり、より好ましくは、0.8〜1倍である。
【0137】
また、培養容器は、隣り合う二つの凹み10の間が平坦であることが好ましい。例えば、二つの凹み10の距離が5μmから50μmの範囲であることが好ましい。その理由は、細胞が壁の上に載ることを防ぐためである。かかる構成は、壁の上で細胞が接着し増殖、細胞塊形成を阻害することを回避する効果がある。ただし、壁が薄い場合は、細胞播種時や培地交換時の振動により容易に亀裂が生じる可能性がある。そのため壁の厚さは5μm以上であることが好ましい。このような観点から壁の厚さは5〜20μmが好ましい。
【0138】
上述した形状に加え、培養容器1は以下のように製造されることが好ましい。
【0139】
培養容器1が、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、及びシリコン樹脂のうちの1つ又はこれらの組み合わせからなる樹脂の成形品であることが好ましい。
【0140】
培養容器1が有する各凹み10における水接触角が45度以下になるように、各凹み10に対して処理を行うことが好ましい。かかる処理は表面改質処理方法により官能基を形成させる処理が好ましい。表面改質処理方法はプラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれか又はこれら組み合わせからなることが好ましい。
【0141】
加えて、各凹み10へ、細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖が固定化されていることが好ましい。親水性のポリマー鎖は、上述した水接触角が45度以下になるように処理された各凹み10へ固定化されることがより好ましい。
【0142】
さらに加えて、各凹み10へ、リン脂質、又は、リン脂質・高分子複合体が固定化されていることが好ましい。この固定化の処理は、上述した水接触角が45度以下になるように処理された各凹み10に対して実施されることがより好ましい。また固定化の処理は親水性のポリマー鎖が固定化された各凹み10に対して実施されることがより好ましい。また固定化の処理は、上記処理及び固定化の組み合わせが実施された各凹み10に対して実施されることがより好ましい。
【0143】
各凹み10は、水接触角を45度以下になるように処理した表面に対して、ポリマーを固定化させることで得られる細胞非接着表面を有することが好ましい。水接触角を45度以下とするため各凹み10に対して官能基を形成することが好ましい。官能基は表面改質処理方法によって形成することが好ましい。かかる表面改質処理方法はプラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれか又はこれら組み合わせからなることが好ましい。ポリマーは細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖、及び、リン脂質、又は、リン脂質・高分子複合体のうちのいずれか一つのポリマーが好ましい。この処理は、上述した各処理、又は各処理を組合せた処理とともに実施されることがより好ましい。
【0144】
また、上述した親水性のポリマー鎖はポリヒドロキシエチルメタクリレートであることが好ましい。さらに、ポリヒドロキシエチルメタクリレートの平均分子量が10万以上であることがより好ましい。
【0145】
培養容器1は、上述した
図1−3に示すものに加え、
図4,5に示すマイクロパターンを形成した培養容器を用いてもよい。
【0146】
図4に、一実施形態で用いる培養容器の他の形状例を示す。
図5は、
図4に示す培養容器のV−V線断面図である。
【0147】
培養容器30は、培養空間31と、壁32と、底部33とを有する。
【0148】
培養空間31は、壁32と底部33とで仕切られた領域である。培養空間31は、細胞を培養する三次元の空間領域(培養領域)となる。培養空間31は、単に「空間」、又は「マイクロ空間」とも称する。
【0149】
壁32は、培養空間31を仕切る隔壁であり、培養容器30に凹凸パターンを形成する凸部ともいえる。
【0150】
底部33は、培養容器30の基板として機能する。また底部33の表面であって、培養空間31が配置される側の表面は、培養領域(培養表面)の一部となる。底部33は、例えば、
図1の培養プレートに形成された各ウェルの底部と同じ領域である。これら、各ウェルの底部が底部33として用いられる。底部33は、培養空間31の底を形成する。底部33の表面のうち、培養空間31を形成する面の一部分であり、かつ、培養領域となる底部の表面を、「底部培養面34」とも称する。
【0151】
図4,5では、培養容器30に形成される培養空間31に関して、相当直径D、高さ(深さ)H、壁32の幅(厚さ)W、及び、底部33の厚さTを示す。
図4,5では、底部33は、壁32と一体として作製された場合を示している。
【0152】
相当直径Dは、
図2の相当直径Rと同様である。相当直径Dは、培養空間31に内接する内接円の直径をいう。より詳しくは、相当直径Dは、培養空間31の底部33と平行する面の形状(正面の形状)をいう。これを言い換えると、相当直径Dは、培養空間31の高さHの方向と垂直になる面の形状の内接円の直径をいう。ここで培養空間31を正面視したときの形状が、高さHに応じて異なる場合がある。この場合、株化肝細胞を培養する空間領域の幅の最大値を相当直径とする。
【0153】
高さHは、培養空間31の底(底部培養面34)から壁32の上面までの長さである。高さHは、培養空間31の深さでもあるともいえる。また、底部培養面34が平面の場合、高さHは、壁32の高さと同じである。
【0154】
壁32の幅Wは、壁32の厚さであるとともに、隣接する培養空間31間を隔てる距離であるともいえる。
【0155】
培養容器30内(言い換えると、各ウェル内)において、複数の培養空間31は、
図4に示すようにアレイ状に配置される。培養容器30に含まれる培養空間31の数又は大きさは、培養プレートに作製されるウェルの数(ウェルの大きさ)と培養空間31及び壁32の大きさに依存するものである。
図4,5では、9個の培養空間31を示している。これは説明のために示したものであり、実際の培養容器30(各ウェル)に含まれる培養空間31の数に対応するものではない。
【0156】
さらに、培養容器に
図6に示す凹み20Dを用いてもよい。
図6は、底部が線状、言い換えると底部が空間を形成しない凹み20Dの形状例を示す。
図6では、上段に凹み20Dを上から見た正面図、下段に断面図を示す。凹み20Dは、開口部12から構成される。
【0157】
図7に、
図4,5に示す培養容器を用いて細胞を培養する状態の一例を示す。
図7では、ウェルプレートの一つのウェルに相当する、一つの培養容器30を表している。また
図7では、培養容器30に形成される複数の培養空間31のうち、3つの培養空間31を示している。
図7では、他の複数の培養空間31が省略されている。培養容器30には、複数の培養空間31を覆うように培地8が注入される。各培養空間31には細胞塊9が形成されている状態を示す。
【0158】
本実施形態では、細胞が移動可能な空間は、培養空間31の体積(Vmm
3)である。具体的には、
図4,5に示す培養空間31の体積は、底部培養面34の面積と高さHとの積である。なお、培養中の細胞は、培養空間31の壁32を越えて移動しないことを前提とする。
【0159】
本実施形態では、培養空間の体積Vmm
3が400mm
3以下である。加えて、培養空間の中に入れられる間葉系細胞の細胞数をNとしたとき、N/V比が35以上3000以下となるように、細胞数Nを調整する。培養空間の体積を限定すると、細胞が移動できる範囲を制限することになる。また、培養空間の体積に対する間葉系細胞の細胞数を特定すると、培養空間における間葉系細胞の密度を特定することになる。発明者らは、これら二つの要素にかかる条件を満たす場合において、間葉系細胞の細胞数を削減しても、培養される細胞から細胞塊が形成されることを発見した。加えて、発明者らは、形成された細胞塊がより生体に近い機能を有することを見出した。さらに発明者らは、かかる細胞塊は、移植の目的外の臓器の組織に分化しない、安全性の高い細胞塊であることを見出した。
【0160】
発明者らは、特に、細胞が移動可能な空間に存在する間葉系細胞の数の割合が、培養に供する細胞の総数に対し0.5%以上5%未満であることが好ましいことを発見した。ここで、培養に供する細胞の総数は、幹由来細胞、間葉系細胞、血管細胞、及びその他細胞の総数であり、因子は細胞数としてカウントしない。
【0161】
さらに加えて、上記細胞を混合し共培養するにあたり、幹細胞由来の内胚葉細胞、外胚葉細胞および中胚葉細胞の合計の細胞数(X)と間葉系細胞の細胞数(Y)との比率X:Yが、20:1から100:1の範囲内にあることが好ましいことを発見した。
【0162】
発明者らは、細胞が移動可能な空間に存在する間葉系細胞の数の割合が、培養に供する細胞の総数に対し0.5%以上であるとき、細胞塊が好適に形成されることを発見した。また、上記細胞を混合し共培養するにあたり、幹細胞由来細胞(幹細胞由来三胚葉細胞)の細胞数(X)と間葉系細胞の細胞数(Y)との比率X:Yが、20:1から100:1の範囲内にあるとき、器官芽が好適に形成される。
【0163】
幹細胞由来細胞(幹細胞由来三胚葉細胞)の細胞数(X)とは、幹細胞に由来する、内胚葉細胞、外胚葉細胞及び中胚葉細胞のうちのいずれか、又はこれらの組合せからなる細胞の数の合計である。言い換えると、細胞数(X)とは、内胚葉細胞、外胚葉細胞及び中胚葉細胞のうちから、幹細胞由来細胞として用いる細胞の数を合計したものである。
【0164】
なお、
図7の培養容器30では、複数の培養空間31(複数の移動可能な空間)は、培地8によって繋がっている。従って、各培養空間31では、培地8等の条件を同一にし易くなる。
【0165】
ここで、培養空間31(培養空間31の範囲)について、
図2,6,
図8から
図10を参照して説明する。
図7では、培養空間31と細胞が移動可能な空間とが一致する場合を例示した。しかしながら、培養空間と細胞が可能な空間とが一致するとは限らない。
【0166】
例えば、
図8に示す培養容器40Aでは、培養空間41Aを形成する壁42Aの高さHが相当直径Dより大きい(H>D)。この場合には、培養空間41Aのうち、底部培養面44Aから高さが相当直径Dの大きさまでの空間を、細胞が移動可能な空間として利用する。言い換えると、細胞が移動可能な空間の高さHは、相当直径D以下に限定される。
【0167】
また、
図2に示す培養容器10では、高さH1までが、細胞が移動可能な空間となる。
図2では、開口部12を培養空間から除き、底部11が培養空間として利用される。
【0168】
一方、
図6の凹み20D(培養容器)の開口部12のように、傾斜が一様である場合には、培養空間の高さを、培養空間の体積が400mm
3以下になる高さとする。またかかる高さより低い位置にある空間を、細胞が移動可能な空間として利用する。
【0169】
加えて、
図9に示す培養容器40Bは、
図2のように、底部11と開口部12との境界を有しない。このため、底部41Bと開口部42Bとが一様の傾斜を有する壁面で形成されている。かかる場合には、培養空間の高さを、培養空間の体積が400mm
3以下になる高さとする(例えば、L)。またかかる高さより低い位置にある空間を、細胞が移動可能な空間として利用する。
【0170】
さらに加えて、細胞が移動可能な空間(培養空間)は、必ずしも周囲が培養容器により囲まれているとは限らない。例えば、ハンギングドロップ法を用いる場合(例えば、
図10)がある。この場合、培養液により形成される液滴81によって、培養空間が限定されることになる。従って、細胞が移動可能な空間の体積は、液滴81の体積に等しい。
【0171】
細胞塊を形成するための各細胞は、上述した培養容器1の各凹み10内や培養容器30の培養空間内で共培養される。凹み(凹みの底部)によって形成される空間は、培養空間と同様に細胞が移動可能な空間である。凹み及び培養空間を形成する容器(例えば、培養容器30では、底部培養面34と壁32とからなる容器)は、マイクロ容器とも記載する。
【0172】
マイクロ容器は、次のように構成されることが好ましい。
【0173】
マイクロ容器の相当直径が20μm以上2.5mm以下であることが好ましい。マイクロ容器の深さが20μm以上2.5mm以下であることが好ましい。細胞塊の中心部まで栄養を供給したい場合は、上記相当直径は、50μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以上500μm以下である。
【0174】
細胞塊を、細胞非接着表面を有するマイクロ容器を用いて培養することが好ましい。
【0175】
細胞塊を形成させるためには培養表面に細胞を接着させず細胞同士の接着を促進することが好ましい。培養容器は細胞と接触する培養面を有する。このため、細胞非接着性を有するポリマーが培養面にコートされていることが好ましい。かかるポリマーは、リン脂質、リン脂質・高分子複合体、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリビニルアルコール、アガロース、キトサン、ポリエチレングリコール、及びアルブミン、のグループから選択される一つ又はこれらの組合せからなるポリマーが好ましい。
【0176】
培養容器は、細胞の培養及び回収を補助する機能、細胞塊を保持する機能、並びに培地交換時に細胞の離脱を防ぐ機能を有することが好ましい。このため、凹み10は底部11と開口部12とで構成されていることが好ましい。
【0177】
開口部12は底部11との境界から開口部12の上端部までの高さに位置する壁であって、テーパ角1度以上20度以下の壁を有することが好ましい。開口部12の有する空間はかかる壁に囲まれていることが好ましい。
【0178】
各細胞を底部11の一箇所に自重により集合させるために、底部11の有する空間が、半球形状又は円錐台形状を有することがより好ましい。かかる態様により細胞塊の形成を促進させることができる。
【0179】
以上のようにして作製した細胞塊は、創薬スクリーニングや再生医療などに使用することができる。
【0180】
未分化細胞を分化させ、生体に近い機能を有する細胞を得るには、未分化細胞を培養して三次元の細胞塊を形成する必要がある。また、細胞を凝集させ器官芽に分化させるためには所定の量の間葉系細胞を必要としていた(例えば、特許文献3)。一方で、間葉系幹細胞が未分化細胞の分化に影響を及ぼす問題が生じていた。例えば、線維性細胞又は骨細胞が、移植の目的外の臓器の細胞である場合であっても、未分化細胞がこれらの細胞へ分化するという問題が生じていた(非特許文献2)。従って、未分化細胞を培養する技術では、間葉系細胞を削減することが課題とされていた。しかしながら、細胞塊を作成するためには、所定量の間葉系細胞とともに、幹細胞由来三胚葉細胞を培養する必要があった。
【0181】
未分化細胞を分化させるには、細胞塊を形成させる必要がある。このため、間葉系細胞の数を削減することは極めて困難であると考えられていた。しかしながら発明者らは、間葉系細胞の数を削減しても細胞塊を作製できる手法を見出した。言い換えると、発明者らは、上記で説明したような、細胞塊を作製する手法を見出した。かかる手法では細胞が移動可能な空間を制限するとともに、間葉系細胞の密度を特定する。このため間葉系細胞の数を従来よりも削減しても細胞塊を作製できる。従来よりも間葉系細胞の数を削減した状態で細胞塊を作製することにより、生体に近い機能を有し、かつ、移植の目的外の臓器の組織に分化しない細胞を培養することができる。加えて、一実施形態の培養方法では、複雑な処理を必要としない。これにより、安全性の高い細胞塊を、効率よく得ることができる。その結果、細胞塊を得るのに要する時間とコストを削減することが可能となる。
【0182】
例えば、特許文献3に記載の器官芽を形成する技術に基づいて、人工組織に関する技術が開発されている。かかる技術によって様々な高機能な移植材料を提供できる。かかる技術では目的とする臓器の機能を包括的に捉える。かかる技術では人工組織によってそれらの機能を再現することを目的とする。上述した実施形態に係る方法は、これらの技術への応用が期待できる。加えて、このような複数の細胞機能を同時に発揮する移植材料を実現するには、より生体内に近い機能を有する程度まで成熟した人工組織が必要とされている。また、そのような人工組織を得るために細胞の分化効率を高める方法が必要とされている。またリスクの少ない人工組織が必要とされている。かかるリスクとは例えば繊維性細胞又は骨細胞が移植の目的外の臓器の細胞であるにも拘らず、移植された人工組織の細胞がこれらの細胞に分化するというリスクである。一実施形態の培養方法は、これらの課題を解決する手段の一つとして採用されることが期待できる。
【0183】
以下に本発明の培養方法の一態様を実施した試験結果の一例を示す。
【0185】
実施例1と比較例1とを比較した。比較例1では、細胞が移動可能な空間が400mm
3より大きいことが実施例1と異なる。
【0187】
ヒトiPS細胞(ヒト皮膚由来TkDA3 hiPSCクローン(Koji Eto氏及び Hiromitsu Nakauchi氏より譲渡))を無血清培地にアクチビンを添加して培養した。これにより、CXCR4及びE-cadherin両陽性の内胚葉系細胞を誘導した。得られた内胚葉系細胞をBMP4、FGF2を添加して2日間培養した。これにより、CXCR4陰性、HNF4α陽性の肝臓内胚葉集団(肝臓内胚葉細胞)を得た。CXCR4及びHNF4αの発現は、以下の文献の記載に従い、免疫染色及び遺伝子発現解析により確認した。
【0188】
Karim Si-Tayeb、他著、“Highly Efficient Generation of Human Hepatocyte-Like Cells from Induced Pluripotent Stem Cells”、Hepatology、Vol 51、No.1、2010年、pp. 297-305
【0190】
細胞懸濁液は、得られた肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞(ヒト臍帯血由来静脈内皮細胞)(Lonza、Basel、Switzerland)及び未分化間葉系細胞(ヒト間葉系幹細胞、以下、MSC(mesenchymal stem cell)と表記することがある)(Lonza、Basel、Switzerland)を用いて調整した。
【0191】
細胞播種割合は、肝臓内胚葉細胞:血管内皮細胞:未分化間葉系細胞を20:14:2とし、各細胞をこの割合で混合し、細胞懸濁液(細胞溶液)を作製した。培養液は、内皮細胞培地キット−2:EGM-2 BulletKit(製品コード CC-3162:Lonza)を用いた。培養は20日間行い、2回/週の頻度で培地を交換した。
【0193】
実施例1では、細胞が移動可能な空間の相当直径が500μm、深さが400μmである凹み(空間、マイクロ空間)を用いた。この凹みを1ウェルに600個有する24ウェルプレートの培養容器を使用した。
図11に実施例で用いた培養容器(凹み10)を示す。凹み10は、相当直径500μm半球からなる底部11と開口部12とから構成される。この培養容器の細胞が移動可能な空間の体積Vは0.068mm
3であった。細胞接着性を抑制するため細胞が接触する培養表面にp−HEMAをコートした。
【0194】
比較例1では底面積が2cm
2(200mm
2)の24ウェルプレートに培地が培養面から高さ3mmになるようにして培養した。このときの細胞が移動可能な空間の体積は600mm
3であった。細胞接着性を抑制するため細胞が接触する培養表面にp−HEMAをコートした。
【0196】
24ウェルの1ウェルに、肝臓内胚葉細胞が2.0×10
5個、血管内皮細胞が1.4×10
5個、未分化間葉系細胞が2.0×10
4個となるように細胞を播種した。実施例のN/V比は、2.0×10
4÷600÷0.068=490及び比較例のN/V比の値は2.0×10
4÷600=33であった。
【0197】
上述したように、N/V比は、細胞が移動可能な空間の体積V(mm
3)と、間葉系細胞の細胞数Nとの比である。ここでは、未分化間葉系細胞の数がNの値となる。
【0199】
培養20日目に、各ウェルの細胞を、倒立顕微鏡を用い、10倍に拡大しすべての視野を観察した。
【0201】
比較例1では細胞塊がほとんど形成されなかった。一方、実施例1では
図12に示すように細胞塊が形成された。また600個の空間のうち500個の空間で細胞塊が形成された。
【0203】
実施例2と比較例2とを比較した。比較例2では、細胞が移動可能な空間が400mm
3以下でN/V比が31未満であることが実施例2と異なる。
【0205】
ヒトiPS細胞(ヒト皮膚由来TkDA3 hiPSCクローン(Koji Eto氏及び Hiromitsu Nakauchi氏より譲渡))を無血清培地にアクチビンを添加して培養した。これにより、CXCR4及びE-cadherin両陽性の内胚葉系細胞を誘導した。得られた内胚葉系細胞をBMP4、FGF2を添加して2日間培養した。これにより、CXCR4陰性、HNF4α陽性の肝臓内胚葉集団(肝臓内胚葉細胞)を得た。CXCR4及びHNF4αの発現は、実施例1と同様の方法で、免疫染色及び遺伝子発現解析により確認した。
【0207】
実施例2及び比較例2では、細胞が移動可能な空間の相当直径が500μm、深さが400μmである凹み(空間)を用いた。この凹みを600個有する24ウェルプレートの培養容器を使用した。培養容器の概観は実施例1で説明した
図11と同様である。この培養容器の細胞が移動可能な空間の体積Vは0.068mm
3であった。細胞接着性を抑制するため細胞が接触する培養表面にp−HEMAをコートした。
【0209】
細胞懸濁液は、得られた肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞(ヒト臍帯血由来静脈内皮細胞)(Lonza、Basel、Switzerland)及び未分化間葉系細胞(ヒト間葉系幹細胞)(Lonza、Basel、Switzerland)を用いて調整した。
【0210】
細胞播種割合は、表1の数になるように各細胞懸濁液を調整し、細胞懸濁液を培養液に播種した。培養液は、内皮細胞培地キット−2:EGM-2 BulletKit(製品コード CC-3162:Lonza)を用いた。培養は20日間行い、2回/週の頻度で培地を交換した。
【0213】
培養20日目に、各ウェルの細胞を、倒立顕微鏡を用い、10倍に拡大し観察した。1ウェル全体に存在する600個のスポットすべてを観察した。その中で存在する細胞が10個以上集合した細胞塊が形成されているスポットの数を目視でカウントした。
【0214】
未分化マーカーとしてAFPを肝分化マーカーとしてHNF4aの2種類の遺伝子を選択した。それらについてリアルタイムPCR法で分析した。さらに、より詳細に機能を解析するため、肝分化マーカーとして、ALB(アルブミン)トランスサイレチン(TTR)ASGR1(parenchymal hepatocytes)を選択した。これらについても同様にリアルタイムPCR法で分析した。
【0217】
図13に細胞塊形成数の測定結果を表すグラフを示す。横軸はMSCの比率であり、縦軸は、測定した細胞塊形成数を示す。実施例ではMSCの比率が1/80〜1/10であった。またN/V比の値が61.3〜490.2であった。実施例では600個のスポットのうち80%以上のスポットで細胞塊が形成された。MSCの比率が1/160以下になり、かつN/V比の値で30.6以下になると、細胞塊の形成率が80%を下回った。特にN/V比の値が30を下回ったとき細胞塊の形成率が大幅に低下した。
【0219】
図14にAFP発現量の測定結果を、
図15にHNF4a発現量の測定結果を表すグラフを示す。
図14、15の横軸は、
図13と同様に、MSCの比率を示す。縦軸は、AFP又はHNF4aの発現量(relative expression)を示す。AFPは、幼若な細胞に特徴的に発現する遺伝子である。HNF4aは成熟細胞に特徴的に発現する遺伝子である。
【0220】
実施例においてMSCの比率は1/80〜1/10である。この条件下では80%以上のスポットに細胞塊が形成された。さらに細胞塊においてHNF4aが発現していた。実施例においてMSCの比率が1/80〜1/20である場合、80%以上のスポットに細胞塊が形成され、かつHNF4aの発現量が高く、かつAFPの発現量が低い(ほぼゼロ)。この範囲内にあるMSCの比率がより好ましい条件を表している。
【0221】
さらに、MSCの比率を1/80と1/10の間で変化させて、複数のマーカーについて細胞塊を検証した。成熟肝組織が有する3つの機能に関連する、ALB(アルブミン)、ASGR1(parenchymal hepatocytes)、TTR(トランスサイレチン)の遺伝子発現量を分析した。
【0222】
図16はALB発現量の測定結果を示すグラフである。
図17はTTR発現量の測定結果を示すグラフである。
図18はASGR1発現量の測定結果を示すグラフである。
図16乃至18の横軸は、
図13と同様にMSCの比率を示す。縦軸は、ALB、TTR又はASGR1の発現量(relative expression)を示す。
【0223】
また、表2にMSCの比率1/80〜1/10の各条件で得られた値の中で、最も小さい値を”+”で表した。表には(+)と表記した。最も小さい値に対して、1倍から2倍未満の大きさの値は”++”で表した。最も小さい値に対して、2倍から4倍の大きさの値は”+++”で表した。最も小さい値に対して、4倍より大きい値は”++++”で表した。
【0225】
図16乃至18、表2に示すように、MSCの比率が1/20と1/40の時、全ての分化マーカーの遺伝子発現量は、有意に高値を示した。
【0226】
この出願は、2014年5月30日に出願された日本出願特願2014−112959を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。