特許第6560206号(P6560206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6560206心電図ハイパスフィルタ、心電図モニタ及び除細動器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560206
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】心電図ハイパスフィルタ、心電図モニタ及び除細動器
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0428 20060101AFI20190805BHJP
   A61B 5/0402 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   A61B5/04 310B
   A61B5/04 310M
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-528104(P2016-528104)
(86)(22)【出願日】2014年11月5日
(65)【公表番号】特表2016-535632(P2016-535632A)
(43)【公表日】2016年11月17日
(86)【国際出願番号】IB2014065807
(87)【国際公開番号】WO2015068106
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2017年11月2日
(31)【優先権主張番号】61/901,477
(32)【優先日】2013年11月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ハーレイクソン,アール クラーク
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特表平06−504696(JP,A)
【文献】 特開2011−098198(JP,A)
【文献】 特開平10−234703(JP,A)
【文献】 特表2009−509711(JP,A)
【文献】 米国特許第06041250(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0402 − 5/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電図ハイパスフィルタであって:
有限インパルス応答ローパスフィルタ及び無限インパルス応答ローパスフィルタを含むベースラインローパスフィルタであって、前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び無限インパルス応答ローパスフィルタは、ベースラインフィルタリング前心電図信号をローパスフィルタリングし、フィルタリングされたベースライン信号を出力するために協働する構造で構成されかつ動作可能に接続される、ベースラインローパスフィルタ;
前記ベースラインフィルタリング前心電図信号を時間的に遅延させ、遅延したベースラインフィルタリング前心電図信号を出力するように動作する信号遅延部;及び
前記ベースラインローパスフィルタ及び前記信号遅延部に動作可能に接続され、前記遅延したベースラインフィルタリング前心電図信号から、前記フィルタリングされたベースライン信号を除去し、ベースラインフィルタリング済み心電図信号を出力する信号抽出部;
を有し、前記有限インパルス応答ローパスフィルタの係数の個数は、前記無限インパルス応答ローパスフィルタのコーナー周波数の逆数に所定の比率を乗算することにより算出される、心電図ハイパスフィルタ。
【請求項2】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、前記ベースラインフィルタリング済み心電図信号が、前記ベースラインフィルタリング前心電図信号の傾斜に敏感に応答しないことを含む、請求項1に記載の心電図ハイパスフィルタ。
【請求項3】
前記無限インパルス応答ローパスフィルタのコーナー周波数は、前記心電図ハイパスフィルタのコーナー周波数の関数である、請求項2に記載の心電図ハイパスフィルタ。
【請求項4】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、ベースラインローパスフィルタのゲインが信号遅延部のゲインに等しいことを含む、請求項1に記載の心電図ハイパスフィルタ。
【請求項5】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、前記ベースラインローパスフィルタのインパルス応答のピークの時間遅延が、前記ベースラインフィルタリング前心電図信号の前記信号遅延部による時間遅延の基礎となることを含む、請求項1に記載の心電図ハイパスフィルタ。
【請求項6】
心電図モニタであって:
患者の心臓の心電図波形を生成する構造で構成されるプロセッサ;及び
前記心電図波形を表示する構造で構成される心電図ディスプレイ;
を有し、前記プロセッサは、
有限インパルス応答ローパスフィルタ及び無限インパルス応答ローパスフィルタを含むベースラインローパスフィルタであって、前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び無限インパルス応答ローパスフィルタは、ベースラインフィルタリング前心電図信号をローパスフィルタリングし、フィルタリングされたベースライン信号を出力するために協働する構造で構成されかつ動作可能に接続される、ベースラインローパスフィルタ;
前記ベースラインフィルタリング前心電図信号を時間的に遅延させ、遅延したベースラインフィルタリング前心電図信号を出力するように動作する信号遅延部;及び
前記ベースラインローパスフィルタ及び前記信号遅延部に動作可能に接続され、前記遅延したベースラインフィルタリング前心電図信号から、前記フィルタリングされたベースライン信号を除去し、ベースラインフィルタリング済み心電図信号を出力する信号抽出部;
を有し、前記有限インパルス応答ローパスフィルタの係数の個数は、前記無限インパルス応答ローパスフィルタのコーナー周波数の逆数に所定の比率を乗算することにより算出される、心電図モニタ。
【請求項7】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、前記ベースラインフィルタリング済み心電図信号が、前記ベースラインフィルタリング前心電図信号の傾斜に敏感に応答しないことを含む、請求項6に記載の心電図モニタ。
【請求項8】
前記無限インパルス応答ローパスフィルタのコーナー周波数は、心電図ハイパスフィルタのコーナー周波数の関数である、請求項7に記載の心電図モニタ。
【請求項9】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、ベースラインローパスフィルタのゲインが信号遅延部のゲインに等しいことを含む、請求項6に記載の心電図モニタ。
【請求項10】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、前記ベースラインローパスフィルタのインパルス応答のピークの時間遅延が、前記ベースラインフィルタリング前心電図信号の前記信号遅延部による時間遅延の基礎となることを含む、請求項6に記載の心電図モニタ。
【請求項11】
除細動器であって:
患者の心臓の心電図波形を生成する構造で構成される心電図モニタ;
ショックエネルギを保存する構造で構成されるショックエネルギソース;及び
前記心電図波形のQRS分析に応じて、前記患者の心臓へのショックエネルギの伝達を制御する構造で構成される除細動コントローラ;
を有し、前記心電図モニタは、
有限インパルス応答ローパスフィルタ及び無限インパルス応答ローパスフィルタを含むベースラインローパスフィルタであって、前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び無限インパルス応答ローパスフィルタは、ベースラインフィルタリング前心電図信号をローパスフィルタリングし、フィルタリングされたベースライン信号を出力するために協働する構造で構成されかつ動作可能に接続される、ベースラインローパスフィルタ;
前記ベースラインフィルタリング前心電図信号を時間的に遅延させ、遅延したベースラインフィルタリング前心電図信号を出力するように動作する信号遅延部;及び
前記ベースラインローパスフィルタ及び前記信号遅延部に動作可能に接続され、前記遅延したベースラインフィルタリング前心電図信号から、前記フィルタリングされたベースライン信号を除去し、ベースラインフィルタリング済み心電図信号を出力する信号抽出部;
を有し、前記有限インパルス応答ローパスフィルタの係数の個数は、前記無限インパルス応答ローパスフィルタのコーナー周波数の逆数に所定の比率を乗算することにより算出される、除細動器。
【請求項12】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、前記ベースラインフィルタリング済み心電図信号が、前記ベースラインフィルタリング前心電図信号の傾斜に敏感に応答しないことを含む、請求項11に記載の除細動器。
【請求項13】
前記無限インパルス応答ローパスフィルタのコーナー周波数は、心電図ハイパスフィルタのコーナー周波数の関数である、請求項12に記載の除細動器。
【請求項14】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、ベースラインローパスフィルタのゲインが信号遅延部のゲインに等しいことを含む、請求項11に記載の除細動器。
【請求項15】
前記有限インパルス応答ローパスフィルタ及び前記無限インパルス応答ローパスフィルタが協働する構造で構成されることは、前記ベースラインローパスフィルタのインパルス応答のピークの時間遅延が、前記ベースラインフィルタリング前心電図信号の前記信号遅延部による時間遅延の基礎となることを含む、請求項11に記載の除細動器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に心電図(electrocardiogram:ECG)信号のハイパスフィルタリングに関連する。本発明は、具体的には、特に、診断及び緊急医療サービス(emergency medical service:EMS)のためのECG信号のハイパスフィルタリングに関連する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野で知られているように、ECG信号の信号振幅は一般に1mVのオーダーであるが、-300mVないし+300mV程度の範囲内で変動するDCオフセットを有する。このDCオフセットは、時間及び/又は患者の動きとともにドリフトし、しばしば「ベースライン変動」と言及される。除細動(defibrillation)のような出来事は、ベースラインに大きな影響をもたらし得る。特に、除細動イベントの後のDCオフセットは、除細動イベント中にECG電極を介して流れる電流に起因して、通常、ドリフトしている。
【0003】
ゲインを得るための典型的なECG信号表示設定は、1mVのECG信号が鮮明に見えるように、+/-2mVの範囲を有する。潜在的に大きくかつドリフトするDCオフセットに応えて、何らかのDCオフセットを除去し、ディスプレイ及びプリンタの画像ウィンドウの中にECG信号を維持するために、ハイパスフィルタが使用されている。特に、ECG信号の主要な診断測定は、STセグメントの上昇又は低下である。これは、QRS以前のECG信号のベースラインとQRS以後のベースラインとを比較することにより実行される。理想的には、ハイパスフィルタは、QRS前後のベースラインの相対的なレベルが影響を受けないような仕方で、ベースライン変動を除去すべきである。
【0004】
診断品質ECG測定のためのインパルス応答条件を記述するECG標準が規定されている(例えば、EN 60601-2-27及びAAMI EC13等)。例えば、標準テストで印加されるインパルスは、100mSの持続時間で3mVの振幅であり、その条件は、ベースラインの変動は100uV未満であるべきこと、及び、ベースラインの勾配はインパルスの後に300uV/sec未満であるべきことである。従って、ECGシステムのハイパスフィルタは、相容れない目標を有する。
【0005】
具体的には、ディスプレイの中心にECG信号のベースラインを安定的に維持するために、ハイパスフィルタがベースライン変動に非常に敏感に反応する場合、QRSに続くベースラインは、QRSに続いて、100uVより大きく変動するように、QRSに応答するであろう。ECGモニタが、通常、ハイパスフィルタに対する多くの帯域幅設定を臨床医に提供する理由は、そのためのである。設定(setting)は、ディスプレイスクリーン上にECG信号を見えるように維持するための「モニタ」帯域幅、或いは、(例えば、STセグメントの上昇及び下降のような)診断ECG測定を行うための「診断」帯域幅としばしば言及される。更に、最小の時間遅延でリアルタイムにECG信号を表示する意向も存在する。これは、例えば、同期式電気的除細動(synchronized cardioversion)のようなタイミングが重要な診断用途で重要になる。
【0006】
従来、いくつかのタイプのハイパスフィルタがECGモニタで使用されている。
【0007】
ECGモニタに対するそのようなタイプのハイパスフィルタの1つは、実装の演算が簡易な無限インパルス応答(IIR)ハイパスフィルタである。例えば、二次のバタワース(Butterworth)ハイパスフィルタは、サンプル当たり5つの乗算器及び蓄積演算とともに最小の時間遅延で簡易に実現される。しかしながら、IIRハイパスフィルタの欠点は、群遅延(group delay)が周波数依存性であることである。これは、ECG信号の歪みを招く結果となる。言い換えれば、IIRハイパスフィルタは、ECG信号に続くベースラインを低下させることによって、正のECGQRS信号に応答する。更に、診断の用途に許容可能なレベルまで歪みを最小化するために、IIRハイパスフィルタのコーナー周波数は、0.05Hz以下の周波数まで抑制される必要がある。更に、一次のIIRハイパスフィルタが傾斜(ramp)に適用されるとDCオフセットを招く結果となり、二次のIIRハイパスフィルタが傾斜に適用されるとゼロ(0)のDCオフセットを招く結果となる。従って、除細動イベントの後にドリフトしているDCオフセットを除去するには、IIRハイパスフィルタは、最低限、二次のフィルタである必要がある。
【0008】
ECGモニタのための別のタイプのハイパスフィルタは、その名が示すように、線形な位相及び一定の群遅延を有する有限インパルス応答(FIR)フィルタである。留意すべきことに、FIRハイパスフィルタは、一定の、0.5Hzの或いは0.67Hzでさえ群遅延に起因する、ECG信号の歪みを最小化し、FIRハイパスフィルタは、ECG規格に従う診断品質ECG測定のための条件に合致するように実現され得る。また、FIRハイパスフィルタは、除細動の後のドリフトするDCオフセットに適切に応答し、その理由は、通常フィルタが対称的に設計されかつFIRハイパスフィルタを傾斜に適用するとゼロ(0)のDCオフセットをもたらすからである。しかしながら、FIRハイパスフィルタに幾つかの欠点が存在する。第1の欠点は、時間遅延である。具体的には、全ての周波数に関し、一定である時間遅延を持たせるには、ハイパスコーナー周波数の高域側及び低域側の双方の周波数が同じ時間遅延を受けることになり、典型的な時間遅延は約1秒のオーダーである。第2の欠点は、必要な演算負担である。具体的には、1秒の時間遅延(time delay)を有するFIRハイパスフィルタは、2秒の時間履歴(time history)を有する。1000Hzのサンプルレートは、1000サンプルレートで算出される各サンプルに関し、2000回の乗算蓄積演算を要する。従って、完全な12のリード測定(lead measurement)の場合、乗算蓄積回数はFIRハイパスフィルタでは24Mとなる。
【0009】
更に、ECGモニタリングは、しばしば、動かされる患者に対して実行される。病院外の緊急医療サービス(EMS)は、一般に、患者の動きに起因する大きなベースライン変動を観察する。EMS環境用に設計されるECGシステムには、EMSハイパスフィルタがしばしば備えられている。このハイパスフィルタは、典型的には、1Hzないし2Hzの範囲内のコーナー周波数を有する。この高いコーナー周波数を有する簡易なIIRフィルタは、ECG波形を大幅に劣化させる。このようなコーナー周波数を有するFIRフィルタは、ECGの歪みを最小化するであろうが、演算負担の大幅な増加を必要としてしまう。
【発明の概要】
【0010】
従来技術の欠点に対処するため、本発明は、診断目的(例えば、0.67以下のコーナー周波数)及びEMS目的(例えば、1Hzないし2Hzの範囲内のコーナー周波数)のためのECGハイパスフィルタを提供する。一形態のECGハイパスフィルタは、ベースラインローパスフィルタ、信号遅延部、及び、信号抽出部を使用する。動作の際に、ベースラインローパスフィルタは、ベースラインフィルタリング前ECG信号を協調してフィルタリングし、フィルタリングされたベースライン信号を出力するように、有限インパルス応答ローパスフィルタ及び無限インパルス応答ローパスフィルタを含む。信号遅延部は、遅延したベースラインフィルタリング前ECG信号を出力するように、ベースラインフィルタリング前ECG信号を時間遅延させ、信号抽出部は、遅延したベースラインフィルタリング前ECG信号から、フィルタリングされたベースライン信号を抽出し、ベースラインフィルタリング済みECG信号を出力する。
【0011】
本発明の第2形態は、患者の心臓のECG波形を生成するプロセッサと、ECG波形を表示するECGディスプレイとを利用するECGモニタである(例えば、コンピュータスクリーン又は印刷出力で可視化される)。プロセッサは、診断用及び/又はEMS用の本発明の上記のECGハイパスフィルタを組み込んでいる。
【0012】
本発明の第3形態は自動的又は手動的な除細動器であり、除細動器は、患者の心臓のECG波形を生成するECGモニタと、ショックエネルギを保存するショックエネルギ源と、心電図波形のQRS分析に応じて、患者の心臓へのショックエネルギの供給を制御する除細動コントローラとを利用する。ECGモニタは、診断用及び/又はEMS用の本発明による上記のECGハイパスフィルタを組み込んでいる。
【0013】
本発明の上記の形態及び他の形態並びに本発明の様々な特徴及び利点は、添付図面に関連して理解される本発明の様々な実施形態についての以下の詳細な説明から更に明らかになるであろう。詳細な説明及び図面は、本発明の例示であるにすぎず、添付の特許請求の範囲及びその均等な範囲により規定される本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明によるECGハイパスフィルタを有する除細動器の一形態を示す図。
図2】当該技術分野で知られているような2極バタワースハイパスフィルタ及び本発明のECGハイパスフィルタの周波数応答例を示す図。
図3】当該技術分野で知られているような2極バタワースハイパスフィルタ及び本発明のECGハイパスフィルタのインパルス応答例を示す図。
図4】当該技術分野で知られているような2極バタワースハイパスフィルタ及び本発明のECGハイパスフィルタの除細動イベント回復例を示す図。
図5】当該技術分野で知られているような2極バタワースハイパスフィルタ及び本発明のECGハイパスフィルタのベースライン変動応答例を示す図。
図6A】本発明によるECGハイパスフィルタの第1実施形態を示す図。
図6B】本発明によるECGハイパスフィルタの第2実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の理解を促すため、本発明の実施形態は、ここでは除細動器のECGハイパスフィルタに関連して説明される。
【0016】
図1に関し、本発明の除細動器(defibrillator)20は、一対の電極又はパドル21と、選択的なECGリード22と、(内的又は外的な)ECGモニタ23と、除細動コントローラ27と、ショックソース29とを利用する。
【0017】
電子パッド/パドル21は、図1に示されるような身体前方配置又は(不図示の)身体後方配置において患者10に導通可能に適用されるように当該技術分野で知られているように構造的に構成される。電極パッド/パドル21は、ショックソース29から患者10の心臓11へ除細動ショックを伝達し、患者10の心臓11の電気的な活動を表すECG信号(図示せず)をECGモニタ23に伝達する。代替的又は追加的に、ECGリード22は、ECG信号をECGモニタ23に伝達するために、当該技術分野で知られているように患者10に接続される。
【0018】
ECGモニタ23は、図示の患者が組織的な心拍状態又は非組織的な心拍状態を体験している場合に、患者10の心臓の電気的活動を測定するためにECG信号を処理するように、当該技術分野で知られているように構造的に構成される。組織的な心拍状態を示すECG信号の具体例はECG波形30aであり、ECG波形30aは、血液をくみ上げることが可能な患者10の心臓の心室の規則的な収縮を表す。非組織的な心拍状態を示すECG信号の具体例はECG波形30bであり、ECG波形30bは、患者10の心臓11の心室細動を表す。
【0019】
この目的のため、ECGモニタ23はプロセッサ24及びECGディスプレイ26を使用する。本発明の目的に関し、プロセッサ24は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、及び/又は、ECG信号を処理する際にECGモニタ23により要求される機能を実行する回路等のような任意の構造的な構成として本願では広く規定される。一般に、動作の際に、プロセッサ24は、パッド/パドル21及び/又はECGリード22からアナログ形式で患者10の心臓11の電気的活動を表すECG信号を受信し、必要に応じて適切な状態に整え、ECG信号を除細動コントローラ27へストリーミングし、ECGディスプレイ26により表示するためのECG波形を生成するように構造的に構成される。特に、実際には、プロセッサ24は、様々なフィルタ及びアナログディジタル変換器を実現し、様々なフィルタは、高周波信号をフィルタリングするために(例えば、≧20Hzであるような)コーナー周波数を有するローパスフィルタと、本発明によるECGハイパスフィルタ25とを含み、ECGハイパスフィルタ25は、特に除細動イベントに起因するベースライン変動/ドリフトのような低周波数信号をフィルタリングするために(例えば、≦2Hzであるような)コーナー周波数を有する。図2ないし6の記述とともに更に説明されるように、ECGハイパスフィルタ25の構造的な設計は、プロセッサ24による実行に対して演算負担が小さな設計であり、ECG信号の歪みを最小化し、ECG信号のベースライン変動/ドリフトについての優れた排除性をもたらす結果となる。
【0020】
本発明の目的に関し、ECGディスプレイ26は、観察するECG波形30を提示するように構造的に構成される任意の装置として本願では広く規定され、例えば、コンピュータディスプレイ及びプリンタを含んでよいが、これらに限定されない。
【0021】
更に図1に関し、ショックソース29は、除細動コントローラ27の制御により、患者10の心臓11に対して電極パッド/パドル21を介して除細動ショック32を伝達するための電気エネルギを保存するために、当該技術分野で知られているように構造的に構成される。実際には、除細動ショック32は当該技術分野で知られているような任意の波形を含んでよい。そのような波形の具体例は、図1に示されるように、例えば、単相正弦波形(正弦波の正の部分)32a及び打ち切られた二相波形32b等を含んでよいが、これらに限定されない。
【0022】
一実施形態において、ショックソース29は、(不図示の)高電圧キャパシタバンクを利用し、高電圧キャパシタバンクは、充電ボタン28aの押下により、高電圧チャージャ及び電源を介して高電圧を保存する。ショックソース29は、切替/分離回路(図示せず)を利用し、切替/分離回路は、除細動コントローラ27の制御により、高電圧キャパシタバンクから電極パッド/パドル21へ、電気エネルギ充電の特定の波形を選択的に印加する。
【0023】
除細動コントローラ27は、ショックボタン28bによるマニュアル同期式の電気的除細動又は自動同期式の電気的除細動を実行するために、当該技術分野で知られているように構造的に構成される。実際には、除細動コントローラ27は、除細動コントローラ27内にソフトウェア/ファームウェアとしてインストールされるマニュアル又はオートマチックの同期式除細動を実行するためのハードウェア/回路(例えば、プロセッサ、メモリ等)を利用する。一実施形態では、ソフトウェア/ファームウェアは、患者10の心臓11に除細動ショック32を伝達する際にショックソース29を制御するための基礎として、ECG信号30のQRS31を検出する。
【0024】
図2ないし6を参照しながら、本発明の理解を促すために、動作パフォーマンス及び動作パフォーマンスを実行するためのフィルタ形態の観点から、ECGハイパスフィルタ25の設計構造が説明される。
【0025】
具体的には、診断目的のための動作パフォーマンスに関し、図2及び図3はそれぞれ既知の2極バタワースモニタ帯域幅ハイパスフィルタと比較した場合のECGハイパスフィルタ25の例示的な周波数応答及び例示的なインパルス応答を示し、各フィルタは、0.5Hzという3db落ち込むコーナー周波数及び1000Hzという入力ECG信号のサンプルレートを有する。図2に示されるように、ECGハイパスフィルタ25の周波数応答50は、既知のバタワースモニタ帯域幅ハイパスフィルタの周波数応答60よりも優れた低周波信号の排除パフォーマンスを有する。図3に示されるように、ECGハイパスフィルタ25のインパルス応答51は、インパルス印加後のベースラインも同じレベルで、インパルス印加前の入力ECG信号の実質的に平坦なベースラインを有する一方(すなわち、インパルス印加の前後で同程度なベースラインである一方)、2極バタワースハイパスフィルタのインパルス応答61は、インパルスの後に非常に大きなベースラインの移動がある。
【0026】
具体例として、図4は、時間0における300mVのオフセット変化及び5秒間の時定数の指数関数的な減衰による除細動イベントをもたらすECG信号の入力波形22aを示す。この例の場合、ECGハイパスフィルタ25の除細動回復26aは、既知の2極バタワースモニタ帯域幅ハイパスフィルタの除細動回復26bと同様なパフォーマンスをもたらす。
【0027】
別の例として、図5は、ECG信号の大レベルベースライン変動22bを示す。この例の場合、ECGハイパスフィルタ25によりフィルタリングされるECG信号のセンターディスプレイ26cは、既知の2極バタワースモニタ帯域幅ハイパスフィルタによりフィルタリングされるECG信号のセンターディスプレイ26dと類似するパフォーマンスを有する。
【0028】
図6A及び6Bに関し、図2ないし5に示されるような動作パフォーマンスを達成するECGハイパスフィルタ25の構造形態は、本発明のベースラインローパスフィルタ40と、当該技術分野で知られているような信号遅延部43と、当該技術分野で知られているような信号抽出部44(例えば、加算回路)とを含む。ECGハイパスフィルタ25の実施形態25aに関し、ベースラインローパスフィルタ40aは、FIRローパスフィルタ41とIIRローパスフィルタ42との直列接続を図6Aに示されるように利用する。
【0029】
ECGハイパスフィルタ25の実施形態25bの場合、ベースラインローパスフィルタ40bは、IIRローパスフィルタ42とFIRローパスフィルタ41との直列接続を図6Bに示されるように利用する。
【0030】
双方の実施形態に関し、ECGハイパスフィルタ25は、信号遅延部43を有する近似的な線形位相フィルタとして動作し、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)に適用される近似的な線形位相フィルタ応答を実現し、ECGbu(i)は、高周波信号をフィルタリングするために事前にローパスフィルタリングされ(例えば、≧20Hz)、所定のサンプルレート(例えば、1000Hz)を有する。特に重要なことに、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)は、ベースライン変動/ドリフトを含んでいてよい。動作の際に、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)は、ベースラインローパスフィルタ40及び信号遅延部43に入力される。何らかのベースライン変動/ドリフトを表現するフィルタリングされたベースライン信号BSEf(i)は、ベースラインローパスフィルタ40により出力され、かつ、信号抽出部44により、遅延したベースラインフィルタリング前心電図信号ECGdbu(i)から除去される。抽出は、ベースラインフィルタリング済み心電図信号ECGbf(i)をもたらし、ECGbf(i)は、ベースラインローパスフィルタ40により、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)のうちの任意のベースライン変動/ドリフトについての優れた排除性、及び、最小の歪みを示す。
【0031】
実際には、FIRローパスフィルタ41及びIIRローパスフィルタ42は、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)をローパスフィルタリングするために協働するように構造的に設計され、これにより、ベースラインフィルタリング済み心電図信号ECGbf(i)は、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)の傾斜(ramping)に対して敏感には応答せず、及び/又は、ベースラインローパスフィルタ40のインパルス応答の傾斜(slope)は、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)のインパルスの前後で実質的に実際に平坦になる。
【0032】
FIRローパスフィルタ41の一形態において、ボックスカー(boxcar)FIRローパスフィルタが使用され、その場合、全ての係数が同じ値である。従って、ボックスカーFIRローパスフィルタの実装は、各々のサンプルインターバルにおいて、ボックスカーFIRローパスフィルタの最初に入力サンプルを加算し、その後に、ボックスカーFIRローパスフィルタの最後でそれを減算することにより、行われてもよい。
【0033】
ベースラインローパスフィルタ40a(図6A)のボックスカーFIRローパスフィルタの実施形態は、以下の数式[1]に従う。
【0034】
【数1】
ここで、wはボックスカーFIRローパスフィルタ41の出力であり、xはベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbuであり、nはボックスカーFIRローパスフィルタの係数の数である。
【0035】
ベースラインローパスフィルタ40b(図6B)のボックスカーFIRローパスフィルタの実施形態は、以下の数式[2]に従う。
【0036】
【数2】
ここで、wはフィルタリング済みベースライン信号BSEfの出力であり、yはIIRローパスフィルタ42の出力であり、nはボックスカーFIRローパスフィルタの係数の数である。
【0037】
IIRローパスフィルタ42の一形態では、バタワース二次ローパスフィルタが使用され、バタワース二次ローパスフィルタは、以下の数式[3]により表現されるz変換H(z)を有する:
【0038】
【数3】
ベースラインローパスフィルタ40a(図6A)に対するバタワース二次ローパスフィルタの一形態は、以下の数式[4]に従ってもよい:
【0039】
【数4】
ここで、yはフィルタリング済みベースライン信号BSEfであり、wはFIRローパスフィルタ41の出力であり、a及びbは、バタワース二次ローパスフィルタのコーナー周波数を設定するためのバタワース二次ローパスフィルタの係数である。
【0040】
ベースラインローパスフィルタ40b(図6B)に対するバタワース二次ローパスフィルタの一形態は、以下の数式[5]に従ってもよい:
【0041】
【数5】
ここで、yはバタワース二次ローパスフィルタの出力であり、xはベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbuであり、a及びbは、バタワース二次ローパスフィルタのコーナー周波数を設定するためのバタワース二次ローパスフィルタの係数である。
【0042】
FIRローパスフィルタ41とIIRローパスフィルタ42との協働する構造形態の一実施例は、バタワース二次ローパスフィルタのコーナー周波数の逆数に対するボックスカーFIRローパスフィルタの係数の数nの比率を決定することであり、これにより、ベースラインフィルタリング済み心電図信号ECGbf(i)は、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)の傾斜に対して敏感には反応しなくなる。この目的のため、バタワース二次ローパスフィルタのコーナー周波数は、ECGハイパスフィルタ25の所望のコーナー周波数の割合として算出され、ボックスカーFIRローパスフィルタの係数の数nは、サンプルレートの半分に正規化されたバタワース二次ローパスフィルタの算出されたコーナー周波数の逆数と実験的に決定される比率との積として算出され、これにより、ベースラインフィルタリング済み心電図信号ECGbf(i)は、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbu(i)の傾斜に対して敏感には反応しなくなる。この形態は、除細動イベントの後のECG信号の最適な回復をもたらす。この形態も、低周波数ベースライン変動信号の最適な排除をもたらす。
【0043】
例示的な診断の実施例では、ECGハイパスフィルタ25の所望のコーナー周波数は0.5Hzであり、バタワース二次ローパスフィルタの係数の算出されたコーナー周波数は0.5Hzの72.2%であり、ボックスカーFIRローパスフィルタの係数の数nは、0.7267の比率に基づいて、ボックスカーFIRローパスフィルタの長さに関して1006個のサンプルに等しい。
【0044】
例示的なEMSの実施例では、ECGハイパスフィルタ25の所望のコーナー周波数は1.917Hzであり、バタワース二次ローパスフィルタの係数の算出されたコーナー周波数は1.917Hzの72.5%であり、ボックスカーFIRローパスフィルタの係数の数nは、0.7338の比率に基づいて、ボックスカーFIRローパスフィルタの長さに関して66個のサンプルに等しい。
【0045】
FIRローパスフィルタ41及びIIRローパスフィルタ42の協働する構造形態の第2形態では、ベースラインローパスフィルタ40のゲインが信号遅延43のゲインに等しい。この形態は、ベースライン変動信号の最適な排除をもたらす。
【0046】
FIRローパスフィルタ41及びIIRローパスフィルタ42の協働する構造形態の第3形態では、ベースラインローパスフィルタ40のインパルス応答のピークの時間遅延が、信号遅延部による、ベースラインフィルタリング前心電図信号ECGbuの時間遅延の基礎となる。この形態は、QRS波形の直前及び直後でベースライン信号の変化を最小化することにより、STセグメントの上昇又は下降の測定についての最適なパフォーマンスをもたらす。
【0047】
図1ないし6に関し、当業者は本発明についての多くの利点を認めるであろう。利点は、例えば、(1)ECGハイパスフィルタの処理を行う演算条件を大幅に削減し、ECG信号の歪みを最小化し、ベースライン変動/ドリフトの排除性に優れ、特に、除細動イベントの後にそのような効果を発揮できること、及び、(2)診断目的及びEMS目的の双方に対してECGハイパスフィルタを構築できることを含むが、これらに限定されない。
【0048】
以上、本発明の実施形態が説明及び記述されてきたが、本願で説明される本発明の実施形態は例示であり、本発明の真の範囲から逸脱することなく、様々な変形及び修正がなされてよいし、それらの要素に対する均等物で置換されてもよいことは、当業者は理解するであろう。更に、発明の本質から逸脱することなく、本発明の教示を適合させるために多くの修正が施されてもよい。従って、本発明は本発明を実施するためのベストモードであると考えられる開示された特定の形態に限定されず、本発明は、添付の特許請求の範囲に該当する全ての実施形態を包含することが、意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B