(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トルクヒンジが、互いに当接する円錐面の形成されたインナーリングとアウターリングとを備え、前記インナーリングと前記アウターリングは、一方が前記内輪体に、他方が前記外輪体に結合されており、
前記外輪体が前記内輪体に対して相対的に回転するときは、前記インナーリングと前記アウターリングとが当接する円錐面で摩擦力が生じる請求項1に記載のトルクヒンジ。
前記回転駆動部材が前記ハウジングの内部空間の内周面に形成された内歯であり、前記外輪体の外周には、前記内歯と噛み合う外歯が形成されている請求項1又は請求項2に記載のトルクヒンジ。
前記回転駆動部材が前記ハウジングの内部空間の内周面に形成された連続的な突起であり、前記突起の先端が前記外輪体の外周に当接するよう設けられている請求項1又は請求項2に記載のトルクヒンジ。
前記内輪体が、前記偏心軸を中心とする偏心輪に一方向クラッチを介して嵌め合わされており、前記偏心輪が前記ハウジングに対して特定の方向に回転するときは、前記内輪体と前記外輪体とが一体で前記偏心輪の周りに回転する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のトルクヒンジ。
【背景技術】
【0002】
複写機の蓋は、閉じた位置では、複写物を載せるガラス等の透明な上面を覆って水平な状態となり、開いた位置では、透明な上面に対してほぼ直角に延びる状態となるように、中心軸の周りに回動(限定された範囲における回転)可能に取り付けられる。そして、複写機の蓋は、回動する動作に抵抗トルクを付与する、いわゆるトルクヒンジにより支持されており、蓋を手動で開閉する過程で手を蓋から離した場合には、その位置を保持して自重により蓋が落下するのを防止する。このようなトルクヒンジは、ディスプレイ装置を設けたパソコン等の電子機器の蓋にも用いられ、開閉途中の任意の傾斜角に蓋を保持することが可能である。
【0003】
複写機の蓋等に利用されるトルクヒンジの一例として、特許文献1に開示されたものを
図9、10により説明する。
図9の概略図に示すとおり、ほぼ90°の角度範囲に亘って開閉可能となった蓋体CMには、蓋体CMと一体的に回動する回転シャフトRSが固着され、回転シャフトRSの両端にトルクヒンジTHが設置してある。トルクヒンジTHのハウジングHGは、複写機等の本体MB側に固定されて回転不能となっている。
【0004】
トルクヒンジTHのハウジングHG内には、
図10(a)の断面図に示すとおり、ローラーROを備えた一方向クラッチOWと、一方向クラッチOWの外側に嵌め合わされて固着されたリング体RBとが配置してあり、さらに、リング体RBの外周にはコイルばねCSが巻き付けられ、このコイルばねCSの一端が、ハウジングHGに形成されたスリット内に挿入されて固定される。これらの部品を収容するハウジングHG内の空間はシールド板により閉鎖され、蓋体CMと一体となった回転シャフトRSが、ハウジングHG、一方向クラッチOW及びシールド板を貫通するように挿入される。
【0005】
一方向クラッチOWは、
図10(b)に示すとおり、外輪OTに形成された複数の楔形の空間にそれぞれローラーROを配置したもので、回転シャフトRSが矢印方向に回動したときは、ローラーROが外輪OTと回転シャフトRSとの間に噛み込まれ、一方向クラッチOWが接続される。これにより、リング体RBが回転シャフトRSと共に回動し、回転シャフトRSには、ハウジングHGに固定されたコイルばねCSとの間の摩擦力に基づく抵抗トルクが作用する。
【0006】
図9のトルクヒンジTHは、蓋体CMが下降して閉じる方向に回転シャフトRSが回動する場合に、一方向クラッチOWが接続されるように設定してある。そのため、蓋体CMが下降する方向には抵抗トルクが発生し、蓋体CMから手を離したときでも、蓋体CMが自重により落下することはない。
一方、蓋体CMを開く方向に回転シャフトRSが回動する場合には、一方向クラッチOWが切断されて回転シャフトRSが空転する。このときは、リング体RBがコイルばねCSにより固定されたままであり、蓋体CMの開き方向の操作に対しては、トルクヒンジTHの抵抗トルクは作用しないから、開き操作に要する力を軽減することができる。
【0007】
回動する動作に対して抵抗トルクを付与するトルクヒンジは、複写機等の蓋に限らず、洋式便器の便座を開閉するヒンジとしても用いられる。この場合には、便座の開閉途中で任意の傾斜角に停止させることはできないが、自重で落下する便座に制動力を与えて便器に当たる際の衝撃を緩和している。
【0008】
ところで、複写機の蓋等に落下方向に作用する自重による回転モーメントは、蓋の重心から下した垂線の足と回転中心との距離に比例するため、蓋が水平状態に近づき傾斜角が小さくなるほど増大する。したがって、トルクヒンジの発生する抵抗トルクも、蓋の傾斜角に応じて変化して、傾斜角が小さいときには増大する特性を備えているのが望ましい。特許文献2には、便座の開閉に利用されるトルクヒンジであって、圧縮式のコイルばねと粘性流体を封入した流体ダンパーとを組み合わせ、便座の傾斜角に応じて発生する抵抗トルクの値が変化するトルクヒンジが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
トルクヒンジとして一般的に用いられる摩擦抵抗式のものは、特許文献1に記載のように、ハウジング内に回転可能なリング体を設置するとともにリング体の外周にコイルばねを巻き付け、リング体が回転する際にコイルばねとの間に生じる摩擦抵抗を利用してトルクヒンジとするものである。この構造のトルクヒンジは簡素な構造ではあるものの、発生する抵抗トルクが一定であって、蓋の傾斜角に応じて変えることはできない。蓋が水平に近い状態でその位置を保持させるには、抵抗トルクの値を大きく設定しなければなないけれども、そうすると、蓋が直立状態の近傍にあるときに、開閉操作のために非常に大きな力が必要となる。
【0011】
特許文献2に記載のトルクヒンジは、粘性抵抗式ダンパーを組み合わせて用いるものである。このダンパーは、シリコーン油等の粘性流体中で運動を行う羽根車に作用する粘性抵抗を利用するものであるため、粘性流体の温度が変化すると抵抗トルクの値も変動することとなり、使用環境に関係なく一定の特性を得ることが非常に困難である。また、粘性抵抗を生じさせる細いオリフィス通路の存在や、粘性流体の漏洩防止のためのシール部材の配置などに伴い、ダンパーの構造が複雑なものとなる。
本発明の課題は、中心軸の周りに回動可能な物品を支持するために用いられるトルクヒンジにおいて、発生する抵抗トルクが、物品の傾斜角に応じて可変であるとともに温度等の影響を受けることのないようにして、上述の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題に鑑み、本発明は、ハウジングに形成した断面円形の内部空間内に、いわゆる摩擦式トルクリミッタとして知られる、内輪体と外輪体との間を摩擦力により結合した装置を複数個設置し、内輪体を回動させたときに内輪体に対して相対的に回転する外輪体の数を変更することにより、発生する抵抗トルクが可変となったトルクヒンジを構成するものである。すなわち、本発明は、
「中心軸の周りに回動可能な物品を、回動に対して抵抗トルクを付与しながら支持するトルクヒンジであって、
前記トルクヒンジは、前記中心軸を中心とした断面円形の内部空間を有するハウジングを備え、前記ハウジングの内部空間には、前記中心軸から偏心した偏心軸を中心とする内輪体と、前記内輪体に摩擦結合され、前記偏心軸を中心として前記内輪体と相対的に回転可能となった複数の外輪体とが収容され、
各々の前記外輪体は、前記中心軸の軸方向に並列して前記内輪体に装着されるとともに、前記ハウジングの内部空間の内周面には、周方向の長さの異なる複数の回転駆動部材が、各々の前記外輪体と対応する位置に並列して設置されており、
前記複数の回転駆動部材の周方向角度範囲は前記中心軸の軸方向に見て互いに重複しており、
前記内輪体と前記ハウジングとの相対的な回転により、各々の前記外輪体の外周が対応する前記回転駆動部材と一致したとき、その外輪体が前記内輪体に対して相対的に回転し、摩擦力による抵抗トルクを発生させる」
ことを特徴とするトルクヒンジとなっている。
【0013】
本発明のトルクヒンジにおいて、摩擦力を発生するには、「互いに当接する円錐面の形成されたインナーリングとアウターリングとを設け、前記インナーリングと前記アウターリングは、一方を前記内輪体に、他方を前記外輪体に結合」して、前記外輪体が前記内輪体に対して相対的に回転するときは、前記インナーリングと前記アウターリングとが当接する円錐面で摩擦力が生じるようにすることが好ましい。
【0014】
前記外輪体を回転させる前記回転駆動部材として、前記ハウジングの内部空間の内周面に内歯を形成するとともに、前記外輪体の外周には、その内歯と噛み合う外歯を形成することができる。この場合の歯形形状は、トロコイド歯形とすることができる。
前記回転駆動部材としては、内歯等を形成する代わりに、前記ハウジングの内部空間の内周面に連続的な突起を設け、前記外輪体の外周と前記突起の先端とが当接して、摩擦力によって前記外輪体が回転するように構成することもできる。
【0015】
また、本発明のトルクヒンジにおいては、前記内輪体を、前記偏心軸を中心とする偏心輪に一方向クラッチを介して嵌め合わせて取り付けることにより、前記偏心輪が前記ハウジングに対して特定の方向に回転するときには、前記内輪体と前記外輪体とが一体で前記偏心輪の周りに回転して、抵抗トルクを発生しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のトルクヒンジは、複写機の蓋など、中心軸の周りに回動可能となった物品を支持するために使用されるものであって、その中心軸を中心とした断面円形の内部空間を有するハウジングを備え、内部空間には、中心軸から偏心した偏心軸を中心に形成された内輪体と、内輪体に摩擦結合されて相対的に回転可能となった複数の外輪体とが収容されている。この内輪体は、中心軸との偏心量eの偏心軸を中心とする回転体形状であり、その中心は偏心量eを半径とする円周上を移動する。内輪体に摩擦結合された各外輪体は、その中心が半径eの円周上を移動(公転)しながら偏心軸を中心として回転(自転)する運動、つまり、遊星運動が可能となっている。
【0017】
複数の外輪体は、中心軸の軸方向に並列して内輪体に装着されており、外輪体が相対回転するときには、内輪体との間の摩擦結合に伴う抵抗トルクが作用する。そして、ハウジングの内部空間に内周面には、周方向の長さの異なる複数の回転駆動部材を、各々の外輪体と対応する軸方向位置に並列に設置している。
また、複数の回転駆動部材の周方向角度範囲は中心軸の軸方向に見て互いに重複している。回転駆動部材は、例えば、後述の
図1に示すような、外輪体の外周部分に形成された外歯と噛み合う内歯として設置されており、回転駆動部材が設置された角度範囲においては、外輪体を自転させる。
各々の回転駆動部材は、その周方向の長さが異なるように設定され
、かつ、その周方向角度が中心軸の軸方向に見て互いに重複しているため、外輪体の位置(公転する外輪体の中心の位置)によって回転(自転)する外輪体の数が変わる。したがって、本発明のトルクヒンジが発生する抵抗トルクは、外輪体の公転位置、つまり、内輪体のハウジングに対する回転角度に応じて段階的に変化することとなり、内輪体を複写機の蓋に固着した場合には、蓋の傾斜角が小さくなるほど自転する外輪体の数を増加して抵抗トルクを増大することができる。
【0018】
また、本発明のトルクヒンジの発生する抵抗トルクは、外輪体と内輪体との間の摩擦力によるものであって、これは、コイルばねによる摩擦力を外輪体と内輪体との間に作用させる、いわゆる摩擦式トルクリミッタとして知られる装置と同様である。特許文献2のトルクヒンジのように粘性流体を利用するものではないため、本発明のトルクヒンジは、抵抗トルクの値が温度変化の影響を受けることはなく、粘性流体の漏洩を防止するシール部材も不要であって、長期間に亘り、安定した性能を発揮できる。
ここで、複数の外輪体の各々は、同一の構成としてもよく、異なる構成とすることもできる。同一の構成とした場合は、部品の共通化によって製造コストが低減し、異なる構成として内輪体との間の摩擦力を変化させた場合は、トルクヒンジの抵抗トルクの特性を多様に変更することが可能となる。
【0019】
本発明のトルクヒンジにおいて、外輪体と内輪体との摩擦結合の実施態様として、互いに当接する円錐面を形成した環状体であるインナーリングとアウターリングとを用意し、その一方を内輪体に他方を外輪体に結合して、外輪体が内輪体に対して回転するときは、両方のリングが当接する円錐面で摩擦力が生じるようにして回転ダンパーを構成することができる(後述の
図1等参照)。インナーリングとアウターリングは、いわゆる「輪ばね」として知られるばね装置に類似の構造をなしていて、軸方向の荷重によりインナーリングの円錐面が押し込まれて弾性変形し、アウターリングが拡径すると同時にインナーリングは縮径する。この弾性変形に伴い両方のリングの円錐面の間には大きな面圧が作用し、それに基づいて生じる摩擦力は、両方のリングの軸方向変位が僅かであっても非常に大きな値となる。
このように構成したトルクヒンジは、小型のものであったとしても、外輪体が回転する際に内輪体との間で大きな抵抗トルクが生じる。そのため、トルクヒンジをコンパクトに構成することが可能となり、特に、外輪体が複数個並列する回転軸方向の寸法を小さく抑えることができる。
【0020】
本発明のトルクヒンジにおいて、外輪体を回転させる回転駆動部材の実施形態として、ハウジングの内部空間の内周面に内歯を形成するとともに、外輪体の外周には、その内歯と噛み合う外歯を形成することができる。こうすると、外輪体が公転してその外周が回転駆動部材と当接したときには、歯車同士の噛み合いが生じて外輪体がいわゆる内接式遊星歯車運動を行い、外輪体が確実に回転駆動されることとなる。ハウジングの内歯及び外輪体の外歯の歯形形状を、一般的な歯車に採用されるインボリュート歯形とすることもできるが、トルクヒンジの小型化に向け、ハウジングの内径と外輪体の外径との差を小さく設定する場合には、内歯及び外歯の干渉を避けるため、トロコイド歯形を採用することが好ましい。
【0021】
回転駆動部材の他の実施形態として、後述の
図2(a´)に示すような、ハウジング内周面からの高さが一定の連続的な突起を設け、外輪体の外周が突起と当接したときには、両者の間の摩擦により外輪体を回転駆動するよう構成することもできる。この実施形態によれば、回転駆動部材として歯を形成するものと比べ、構造が簡素となる。突起と外輪体との当接面にウレタンゴム等の高摩擦材のライニングを施し、確実な摩擦伝動を行わせるようにしてもよい。
【0022】
また、本発明のトルクヒンジにおいては、その内輪体を、前記の偏心軸を中心とする偏心輪に一方向クラッチを介して嵌め合わせて取り付ける構造とすることができる。このようにすると、例えば、複写機の蓋を開く方向に動かすときに一方向クラッチを切断し、偏心輪と内輪体との間で滑らせることにより、内輪体と外輪体とを一体に回転させることが可能であって、トルクヒンジには抵抗トルクが生じないようになる。そのため、手動で複写機の蓋を開く際などの操作力が軽減される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて、本発明のトルクヒンジについて説明する。
図1には、本発明のトルクヒンジの第1実施例の全体的な構造を示し、
図2(a)(b)には、それぞれ第1実施例のハウジング及び回転シャフトの構造を示す。
図3は、
図1のトルクヒンジの内輪体を構成する部品を示すものであり、
図3(a)には内輪本体を、
図3(b)にはアウターリングを単品図で示す。また、
図4は、
図1のトルクヒンジの外輪体を構成する部品を示すものであり、
図4(a)には外輪本体を、
図4(b)にはインナーリングを、
図4(c)にはシールドを、それぞれ単品図で示す。
【0025】
図1に示すように、第1実施例のトルクヒンジTHは、ハウジングHGの中心に配置された回転シャフトRSを備え、回転シャフトRSには、
図9のトルクヒンジと同様に、複写機の蓋や便座等の回動可能な物品が固着される。この回転シャフトRSは、一体的に形成された偏心輪EBを備えており、偏心輪EBは断面円形であって、回転シャフトRSの中心軸oから所定距離離れた位置に偏心中心eを有している。
ハウジングHGには、断面円形の内部空間ISが形成してあり、ここに内輪本体1等からなる内輪体と、外歯が形成された外輪本体3A、3B、3C等からなる3個の外輪体が収容される。内部空間ISの軸方向端部は、シールド板SPにより閉鎖される。
【0026】
内輪体の一部をなす内輪本体1には、
図3(a)に示すとおり、偏心輪EBに嵌め合わされる中央孔1Hが形成されているとともに、軸方向の両側に円形空間部が形成されており、この円形空間部には、ローラー型の一方向クラッチOW及び軸受JBがそれぞれ圧入されて、内輪本体1と一体的に固着される。内輪本体1の外周には、軸方向の全長に亘ってインボリュート歯形のスプライン外歯1Sが形成されている。
【0027】
内輪本体1には、3個のアウターリング2(
図3(b)も参照)が軸方向に間隔をあけて取り付けられ、内輪本体1とアウターリング2とは、スプライン嵌合により相対回転不能に結合される。アウターリング2は、薄板金属をプレス加工等により成形した部品であって、内輪本体1のスプライン外歯1Sに嵌り合うスプライン内歯2Sを形成した平面部と、内面が円錐面2Cとなった周壁部とからなる。内輪本体1及び3個のアウターリング2は、本発明の内輪体を構成するものであり、アウターリング2は、後述の外輪体におけるインナーリング4に圧接されていて、内輪体と外輪体とが相対的に回転すると、両方のリングの円錐面の間で摩擦力が発生する。
なお、内輪本体1とアウターリング2とは、スプライン嵌合に代えて、キー結合などにより相対回転不能に結合してもよい。
【0028】
外輪体は、
図1の第1実施例では、内輪本体1の軸方向に3個並列に配置されており、各々の外輪体は、外周にインボリュート歯形の外歯が形成された外輪本体3(
図4(a)も参照。また、並列した3個の外輪本体をそれぞれ3A、3B、3Cで表す)を有するとともに、インナーリング4及びシールド5を有している。外輪本体3の中央には、内輪本体1の貫通する中央孔3Hが形成され、そして、中央孔3Hと隣接する断面円形の空間部には、内輪体の一部であるアウターリング2が収容される。
【0029】
インナーリング4(
図4(b)も参照)は、その外面に、アウターリング2の内面2Cに対向する円錐面4Cが形成されており、先端がアウターリング2の内側に入り込むよう配置される。インナーリング4及びシールド5(
図4(c)も参照)は、締結ねじ6を用いて外輪本体3に共締めされて固着されるが、このとき、インナーリング4の外面の円錐面4Cがアウターリング2の内面の円錐面2Cに対して強く圧接される。これにより、アウターリング2が弾性的に拡径されるとともにインナーリング4が縮径され、両リングが相対回転すると、当接する円錐面の間には大きな摩擦力が生じる。
3個の外輪体を内輪体に組み付けるときは、実際には、内輪体の一部であるアウターリング2を予め外輪本体3の空間部に配置した状態で、インナーリング4とシールド5とを締結ねじ6により固定したユニットを製作し、このユニットを順次内輪本体1にスプライン嵌合するのが好ましい。
【0030】
この第1実施例のトルクヒンジTHでは、抵抗トルクを発生させるため外輪体を回転させる回転駆動部材は、外輪本体3の外周に形成された外歯と噛み合う、ハウジングHGの内部空間ISの内周面に形成した内歯7となっている。内歯7は、
図2(a)に示すように、周方向の長さ(周方向の角度範囲)の異なる3本の内歯7A、7B、7Cが外輪体のそれぞれに対応する軸方向の位置に設置してある。
この実施例における内歯の周方向の長さは、内歯7Aが内周面の頂部付近から右方の水平部に至るほぼ100°の範囲であり、内歯7B、7Cは、それぞれほぼ60°、30°の範囲に亘り、終端の位置が内歯7Aと一致するよう設置される。外輪本体3A、3B、3Cの外歯が対応する内歯7A、7B、7Cと噛み合う位置に到達すると、内輪体の運動により外輪本体3が回転し、互いに当接するインナーリング4とアウターリング2の円錐面との間に、摩擦力に基づく抵抗トルクが生じる。
【0031】
なお、回転駆動部材は、外輪体を内輪体と相対回転させるものであるので、歯車伝動の代わりに摩擦伝動により外輪体を回転させることもできる。この場合は、
図2(a´)に示すとおり、内歯7A、7B、7Cに代えて、ハウジングHGの内部空間の内周面に高さが一定の連続的な3本の突起を設け、外輪体の外周(外歯は設けていない)とその突起の先端とが当接したときに、摩擦力によって外輪体が回転するように構成する。
【0032】
次いで、第1実施例のトルクヒンジの作動について、
図5により説明する。この図は、内輪本体1が(偏心)回転したときに、これに摩擦結合された外輪本体3A、3B、3Cが、内輪本体1に対しどのように動くかについて概略的に表したものである。ハウジングHGの周囲に付された斜線部は、外輪本体3A、3B、3Cに対応して設置された、周方向の長さの異なる内歯7A、7B、7Cを表す。
【0033】
本発明の第1実施例のトルクヒンジTHを、
図9の従来例のトルクヒンジのように、複写機の蓋の回動支持装置に適用する場合には、偏心輪EBが形成された回転シャフトRSを蓋に固着する。偏心輪EBに嵌め合わされた内輪本体1は、複写機の蓋が閉鎖方向に回動するときに、一方向クラッチOWが接続されて偏心輪EBと一体的に回転シャフトRSと同方向に回転するよう設定される。
図5において、内輪本体1の中心(偏心輪EBの偏心中心e:これは外輪本体3の中心でもある)は、回転シャフトRSの回動に伴って一点鎖線上を移動する。内輪本体1に付された白抜き矢印は、複写機の蓋が伸びる方向を示し、白抜き矢印の傾きが蓋の傾斜角に相当する。外輪本体3に付された黒塗り矢印は、外輪本体3の内輪本体1に対する相対的な回転を示すよう、外輪本体3に仮想的に刻印された矢印である。
【0034】
図5の上段は、開放されて垂直方向にある複写機の蓋を、閉鎖方向に少量だけ倒した傾斜角80°の状態を示すものである。内輪本体1がこの位置にあるときは、外輪本体3Aの外周の外歯が内歯7Aと噛み合うのみであり、外輪本体3B、3Cは、内歯7B、7Cに噛み合わない。内歯7Aと噛み合う外輪本体3Aは、内接式遊星歯車運動を行って内輪本体1の回転方向とは逆方向に相対的に回転するが(白抜き矢印と黒塗り矢印の方向がずれる)、外輪本体3B、3Cは、内輪本体1との相対的な回転が生じない(両方の矢印の方向が一致)。したがって、複写機の蓋を閉鎖方向に少量倒した位置では、1個の外輪本体3Aのインナーリングと内輪体のアウターリングとの間に摩擦力が働くのみであるから、トルクヒンジHGが発生する抵抗トルクの値は小さい。
なお、固定の内歯7Aと噛み合って生じる外輪本体3Aの逆方向への回転量は、内輪本体1が1回転(360°)したときに、ハウジングHGの内周と外輪本体3の外周の差だけ回転する量である。
図5の上段のように内輪本体1の回転角が小さい場合には、外輪本体3Aの逆方向への回転量はわずかなものとなる。
【0035】
複写機の蓋を閉鎖方向に45°程度傾斜したときは、
図5の中段に示す状態となり、外輪本体3Bの外周の外歯が内歯7Bと噛み合う。そのため、外輪本体3Bが内輪本体1と相対的に回転するようになり、このときには外輪本体3Aも相対的な回転を続けているため、外輪体と内輪体との間の摩擦によって発生する抵抗トルクが2倍となる。
蓋が閉鎖位置である複写機本体のガラス面の近傍に達したときは、
図5の下段に示すように、外輪本体3Cの外周の外歯も内歯7Cと噛み合う。この状態では、3個の外輪体の全てが内輪体と相対的に回転し、トルクヒンジHGが発生する抵抗トルクの値は3倍に増加する。その結果、蓋が閉鎖位置の近傍にあるときに作用する、自重による大きな回転モーメントに抗して、蓋の位置を保持するに十分な抵抗トルクを得ることが可能となる。
【0036】
図1の第1実施例のトルクヒンジHGでは、複写機の蓋を開放方向に回動するときは、偏心輪EBの回転方向が逆方向となって一方向クラッチOWが切断され、内輪本体1は、偏心輪EBに対して相対的に回転する。内輪体のアウターリング2と外輪体のインナーリング4とが相対的に回転することはなく、トルクヒンジHGには抵抗トルクが発生しないので、複写機の蓋を開放するための操作力が軽減される。
第1実施例のトルクヒンジHGは、回動する物品が一方向に動くときにのみ抵抗トルクを発生するものであるが、物品の両方向の動きに対して抵抗トルクを生じる特性を得るには、一方向クラッチOWを使用する代わりに、キー結合等により内輪本体1と偏心輪EBとを一体的に連結すればよい。
【0037】
このように、本発明のトルクヒンジにおいては、発生する抵抗トルクが、回動する物品の位置、つまり、傾斜角に応じて段階的に変化する。抵抗トルクの特性は、内輪体に対し相対回転する外輪体(外輪本体等)の個数や、回転駆動部材(ハウジングの内周面に設けた内歯等)の長さを変更することにより、多様なパターンに設定が可能である。例えば、便座の支持装置では、開閉途中の位置を保持する機能ではなく、便器に当接する際の衝撃を緩和する機能が求められることがあり、こうした便座に適用する際は、回動する物品が停止する終端位置の近傍において段階的に変化する抵抗トルクを生じさせて、この機能を発揮させることもできる。
【0038】
本発明の第2実施例のトルクヒンジについて、
図6、7により説明する。第2実施例のトルクヒンジは、第1実施例のものと比較して、主に内輪体と外輪体との間の摩擦力発生手段に相違があり、
図6には、第2実施例のトルクヒンジの全体的な構造を示し、
図7には、内輪体と外輪体の構造を示す。これらの図においては、第1実施例のトルクヒンジに対応する部品等ついて、同一の符号に添字xを付して表す。
【0039】
図6に示すように、第2実施例のトルクヒンジTHxは、ハウジングの中心に配置された回転シャフトRSxを備えており、回転シャフトRSxには、複写機の蓋や便座等の回動可能な物品が固着されるとともに、偏心輪EBxが一体的に形成されている。こうした点は、
図1の第1実施例のトルクヒンジと変わりはない。
【0040】
第2実施例のトルクヒンジTHxでは、偏心輪EBxには、同一構造を有する3個の内輪体と外輪体との組み合わせユニットが軸方向に並列して嵌め合わされる。この組み合わせユニットは、従来のトルクヒンジとして例示した
図10のトルクヒンジと同様に、内輪体と外輪体との間にコイルばねCSを設置したものであり、第2実施例のトルクヒンジTHxでは、コイルばねCSにより生じる摩擦抵抗を利用して抵抗トルクを発生させる。
【0041】
各々の組み合わせユニットにおいては、外周にコイルばねCSの巻き付けられたリング体1xが配置してあり、このリング体1xが第2実施例のトルクヒンジTHxの内輪体を構成する。リング体1xの内周面には、一方向クラッチOWxが圧入されてリング体1xと一体に固着され、一方向クラッチOWxが偏心輪EBxに嵌め込まれる。コイルばねCSを装着したリング体1x及び一方向クラッチOWxは、外輪本体3(図には、代表として3Axを表示する)の内部空間に収容される。
図7にも示すように、コイルばねCSの端部は、外輪本体3Axに設けた穴に挿入して固定される。外輪本体3Axの外方には断面長方形の突起3Pが形成され、この突起3Pには、外歯3Gを有する歯車体の長穴3Hが嵌め込まれる。歯車体とコイルばねCSを設けた外輪本体3Axとは、第2実施例のトルクヒンジTHxの外輪体を構成する。
【0042】
トルクヒンジTHxのハウジングの内周面には、
図6の右図に示すとおり、周方向の長さの異なる3本の内歯7Ax、7Bx、7Cxが形成されている。これらの内歯は、本発明の回転駆動部材を構成するものであり、
図2に示す第1実施例のハウジングHGの内歯と同様に、外輪本体3Ax、3Bx、3Cxの歯車体と噛み合うよう、歯車体と対応する軸方向位置に設けてある。具体的には、内歯7Axがハウジングの内周面の頂部付近から右方の水平部に至るほぼ100°の範囲であり、内歯7Bx、7Cxは、それぞれほぼ60°、30°の範囲に亘り、終端の位置が内歯7Axと一致するよう設置される。
【0043】
第2実施例のトルクヒンジTHxの作動は、基本的には、
図5に基づいて説明した第1実施例のトルクヒンジの作動と変わるものではない。すなわち、回転シャフトRSxには複写機の蓋が固定され、蓋が閉鎖方向に回動するときには一方向クラッチOWxが接続されて、内輪体1xが偏心輪EBxと一体的に回転するよう構成されている。
垂直方向にある複写機の蓋を閉鎖方向に少量だけ倒した位置では、外輪本体3Axの歯車体の外歯3Gxのみが内歯7Axと噛み合う。外輪本体3Axは、内接式遊星歯車運動を行なって内輪体1xと逆方向にわずかに回転し、内輪体1xとコイルばねCSとの間に摩擦力が作用する。しかし、外輪本体3Bx、3Cxは、内歯7Bx、7Cxに噛み合わないので相対的な回転を行うことはなく、トルクヒンジHGxが発生する抵抗トルクの値は小さい。
複写機の蓋を閉鎖方向に40°以上傾斜させると、外輪本体3Bxの歯車体の外歯が内歯7Bxと噛み合って、外輪本体3Bxが内輪体1xと相対的に回転するようになり、外輪体と内輪体との間の摩擦によって発生する抵抗トルクが2倍となる。さらに、複写機の蓋が閉鎖位置の近傍に達すると、外輪本体3Cxの外歯も7Cxと噛み合い、トルクヒンジHGxが発生する抵抗トルクの値は3倍に増加する。
【0044】
第2実施例のトルクヒンジHGxでも、複写機の蓋を開放方向に回動するときは、偏心輪EBxの回転方向が逆方向となり、各々の組み合わせユニットに設けた一方向クラッチOWxが切断される。そのため、第1実施例のトルクヒンジと同様に、抵抗トルクが発生しないので、複写機の蓋を開放する操作力が軽減される。
第2実施例のトルクヒンジHGxにおける内輪体と外輪体との組み合わせユニットは、コイルばねを利用するいわば汎用品のトルクヒンジである。第2実施例のものでは、汎用品のトルクヒンジを適宜組み合わせることにより、発生する抵抗トルクが傾斜角に応じて多様に変化するトルクヒンジを、安価かつ容易に製造することができる。
【0045】
さらに、本発明の第3実施例のトルクヒンジについて、
図8により説明する。第3実施例のトルクヒンジは、第2実施例のものと類似しているが、外輪体とハウジングとに設けた歯の形状等に相違がある。
図8には、第3実施例のトルクヒンジの全体的な構造を示し、
図1の第1実施例のトルクヒンジに対応する部品等ついては、同一の符号に添字yを付して表している。
【0046】
図8に示すように、第3実施例のトルクヒンジTHyは、
図6の第2実施例のトルクヒンジTHxと同様の構造を備えている。すなわち、回転シャフトRSyと一体的に形成された偏心輪に同一構造を有する3個の内輪体と外輪体との組み合わせユニットが軸方向に並列して嵌め合わされる。この組み合わせユニットは、第2実施例のものと同一構造のユニットであり、内輪体と外輪体との間に設置したコイルばねの摩擦抵抗を利用して抵抗トルクを発生させる。
【0047】
第2実施例のトルクヒンジとの相違は、第3実施例のトルクヒンジTHyでは、組み合わせユニットに固定された歯車体の外歯3y、及び回転駆動部材であるハウジングの内歯7Ay、7By、7Cyの歯形形状が、インボリュート歯形に代えて、トロコイド歯形となっている点である。トロコイド歯形を用いたときには、内歯歯車に沿って外歯歯車が遊星歯車運動を行う内接式遊星歯車機構において、外歯歯車と内歯歯車の歯数の差が小さい場合でも歯の干渉を回避できる特徴がある。したがって、第3実施例のトルクヒンジTHyでは、ハウジングの内径を歯車体の外歯3yの径に近接させて、トルクヒンジのコンパクト化を図ることが可能となる。
また、第3実施例のトルクヒンジTHyにおいては、回転シャフトRSyが貫通するハウジングの部分に凹所が形成され、ここに回転シャフトRSyを軸受けするボール体BLが挿入されている。これにより、回転シャフトRSyに偏心回転する内輪体及び外輪体が設置されていたとしても、回転シャフトRSyが円滑に回転できるようになる。
【0048】
以上詳述したように、本発明は、ハウジングに形成した断面円形の内部空間内に、内輪体と外輪体との間を摩擦力により結合した装置を複数個設置し、内輪体をハウジング内で偏心回転させたときに、内輪体に対して相対的に回転する外輪体の数を変更することにより、発生する抵抗トルクが可変となったトルクヒンジを構成するものである。
上記の実施例においては、トルクヒンジのハウジングを固定し、複写機の蓋等の回動する物品を回転シャフトに固着しているが、逆に、ハウジングに蓋等を固着するとともに回転シャフトを固定して使用してもよい。また、内輪体と外輪体との間の摩擦力を、複数の外輪体について異なるように設定するなど、上記の実施例に対して各種の変形が可能であるのは明らかである。