(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560515
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】廃水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/28 20060101AFI20190805BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20190805BHJP
C02F 3/34 20060101ALI20190805BHJP
C02F 3/06 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
C02F3/28 A
A01K63/04 F
C02F3/34 101B
C02F3/34 101D
C02F3/28 B
C02F3/28 Z
C02F3/34 101Z
C02F3/06
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-64091(P2015-64091)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-182556(P2016-182556A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】川又 睦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一教
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−189286(JP,A)
【文献】
特開2015−000400(JP,A)
【文献】
特開2011−177619(JP,A)
【文献】
特開2008−221033(JP,A)
【文献】
実開昭58−156596(JP,U)
【文献】
特開平03−262597(JP,A)
【文献】
実開昭60−005499(JP,U)
【文献】
特開2010−029779(JP,A)
【文献】
特開2006−136775(JP,A)
【文献】
特開2008−212865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28
A01K 63/04
C02F 3/06
C02F 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水が下部から供給され上部から排出される脱窒槽と、
前記脱窒槽の下方から上方にかけて間隔を開けて設置される複数の網目状容器と、
前記網目状容器に収容され、脱窒菌が担持されている担体と、
を有し、
前記網目状容器の水平方向の断面形状が、前記脱窒槽の水平方向の断面形状と相似形でわずかに小さな形状であり、
前記複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器を除く少なくとも1つの網目状容器の底面が、水平方向に対して傾斜した傾斜部を有することを特徴とする廃水処理装置。
【請求項2】
前記複数の網目状容器の中で、最も下方に位置する網目状容器が最も大きな容量を有することを特徴とする請求項1に記載の廃水処理装置。
【請求項3】
前記脱窒槽内部の廃水が間欠的に撹拌されることを特徴とする請求項1または2に記載の廃水処理装置。
【請求項4】
前記複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器を除く少なくとも1つの網目状容器の側面が、鉛直方向に延在する凹部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃水処理装置。
【請求項5】
隣接する前記網目状容器の間に集泡部材を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の廃水処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の廃水処理装置と接続され、前記廃水処理装置との間で水が循環していることを特徴とする水棲生物の飼育水槽。
【請求項7】
水棲生物を飼育している水槽の水を、請求項1〜5のいずれかに記載の廃水処理装置で処理し、前記廃水処理装置と前記水槽との間で循環させることを特徴とする水棲生物の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水中の硝酸態窒素および亜硝酸態窒素を処理する廃水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水槽で水棲生物を飼育すると、生物の排泄物や残餌からアンモニア態窒素やリン酸等が生じて水質が悪化する。アンモニア態窒素は、硝化菌と総称される微生物群により好気的条件下で酸化され、硝酸態窒素や亜硝酸態窒素に変換される。硝酸態窒素、亜硝酸態窒素は好気的条件下で行われる通常の水処理では取り除くことができない。そのため、硝酸態窒素や亜硝酸態窒素の濃度上昇による飼育生物への影響を防止するには、毎日、水槽内の5〜10%の水を入れ替える必要がある。
【0003】
近年、海から離れた内陸部に水族館が開設されている。水族館には水量500トン以上の大水槽が設けられることが多いが、内陸部に開設された水族館でこのような大水槽で海水に生息する水棲生物を飼育するには、毎日、大量の海水を運搬するか、人工海水を製造する必要があり、非常に高コストである。また、無機塩を含む廃水が大量に下水として放出されることから、下水処理場の微生物群や河川等の淡水に生息する生物への悪影響が懸念される。
【0004】
特許文献1には、飼育水の補給量を削減あるいはゼロにすることが可能な閉鎖循環式の水処理装置が提案されている。特許文献1の水処理装置は、硝化槽と脱窒槽とを並列に設け、硝化槽中の硝化菌(独立栄養細菌)の作用によりアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素を硝酸態窒素にまで酸化(硝化)するとともに、脱窒槽中の脱窒菌(従属栄養細菌)の作用により硝酸態窒素や亜硝酸態窒素を窒素にまで還元(脱窒)するものである。特許文献1の水処理装置を用いると、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素の濃度上昇を防ぐことができるため、水換えの頻度を減らすことができ、給水および廃水を大幅に減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−177619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の水処理装置において、脱窒菌は担体に担持され、脱窒槽内に充填されている。脱窒槽において、硝酸態窒素や亜硝酸態窒素は還元(脱窒)されて窒素となるが、窒素は水に不溶なため窒素ガスの気泡が生じる。この気泡が担体に付着すると、担体が浮上、流出し、担体が減少して脱窒性能が低下するという問題がある。また、担体を長期間使用すると、担体同士が付着・凝集した廃水が流れにくい箇所と、担体が存在しない廃水が流れやすい箇所(以下、水ミチという。)とが生じることがある。水ミチが生じると、水ミチ内を流れて担体と接触しない廃水が増加してしまい、十分に脱窒が行われないまま廃水が脱窒槽から排出されるという問題がある。担体に付着した気泡の分離と、担体の流動化による水ミチの防止のために、撹拌翼等による物理的な撹拌を行うことが考えられるが、物理的な撹拌を行うと、担体が摩耗、消耗してしまうという新たな問題がある。
【0007】
本発明は、廃水中の硝酸態窒素および亜硝酸態窒素を長期に亘って効率よく処理することのできる廃水処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.廃水が下部から供給され上部から排出される脱窒槽と、
前記脱窒槽の下方から上方にかけて、間隔を開けて設置される複数の網目状容器と、
前記網目状容器に収容され、脱窒菌が担持されている担体と、
を有することを特徴とする廃水処理装置。
2.前記複数の網目状容器の中で、最も下方に位置する網目状容器が最も大きな容量を有することを特徴とする1.に記載の廃水処理装置。
3.前記脱窒槽内部の廃水が間欠的に撹拌されることを特徴とする1.または2.に記載の廃水処理装置。
4.前記複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器を除く少なくとも1つの網目状容器の側面が、鉛直方向に延在する凹部を有することを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の廃水処理装置。
5.前記複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器を除く少なくとも1つの網目状容器の底面が、水平方向に対して傾斜した傾斜部を有することを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の廃水処理装置。
6.隣接する前記網目状容器の間に集泡部材を有することを特徴とする1.〜5.のいずれかに記載の廃水処理装置。
7.1.〜6.のいずれかに記載の廃水処理装置と接続され、前記廃水処理装置との間で水が循環していることを特徴とする水棲生物の飼育水槽。
8.水棲生物を飼育している水槽の水を、1.〜6.のいずれかに記載の廃水処理装置で処理し、前記廃水処理装置と前記水槽との間で循環させることを特徴とする水棲生物の飼育方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の廃水処理装置は、網目状容器が脱窒槽の下方から上方にかけて間隔を開けて複数個設置されており、隣接する網目状容器の間には空間が存在する。下方の網目状容器を通過した廃水は、この空間で分散して広がり、上方の網目状容器に収納された担体の全面に均一にぶつかるため、網目状容器内に水ミチが生じることを防止することができる。
【0010】
複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器の容量を最も大きくすることで、供給された廃水に含まれる酸素を素早く消費できる。最も下方に位置する網目状容器に収容された担体内の脱窒菌により酸素が消費されることで、最も下方に位置する網目状容器より上方は嫌気的雰囲気となり、上方に位置する網目状容器に収容された担体内の脱窒菌による脱窒作用が効率よく発揮される。
【0011】
脱窒槽内部の廃水を間欠的に撹拌することにより、担体に付着した気泡を分離することができる。また、担体の凝集により水ミチが発生することを防止することができる。廃水の撹拌は間欠的に行われるため、網目状容器に収容された担体が擦れて摩耗することを抑えることができる。
【0012】
複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器を除く少なくとも1つの網目状容器の側面に凹部を設けることにより、脱窒槽の内壁面と網目状容器の側面とのあいだに気泡が上方に流れる隙間を形成すると、網目状容器の内部に侵入する気泡を減らすことができる。複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器を除く少なくとも1つの網目状容器の底面が水平方向に対して傾斜した傾斜部を設け、この傾斜部の鉛直方向上部が、網目状容器底面の中心または端部となるようにすることで、下方の網目状容器で発生した窒素の気泡を上方の網目状容器の底面に沿って流し、気泡が上方の網目状容器内部へ浸入し、担体に再付着することを防ぐことができる。さらに、集泡部材を設けることで、気泡を網目状容器内部へ浸入しないように導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】側面に凹部と底面に溝状の傾斜部を有する網目状容器の側面図。
【
図3】側面に凹部と底面に溝状の傾斜部を有する網目状容器の斜視図。
【
図4】底面全面が傾斜部である網目状容器の側面図。
【
図5】底面全面が傾斜部である網目状容器の斜視図。
【
図6】プロペラ状の集泡部材と網目状容器との側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
図1に、本発明の廃水処理装置の断面図を示す。
本発明の廃水処理装置は、
廃水が下部から供給され上部から排出される脱窒槽1と、
脱窒槽1の下部から上部にかけて間隔を開けて複数設置される網目状容器2と、
網目状容器2に収容され、脱窒菌が担持されている担体と、
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の廃水処理装置は、脱窒槽1と網目状容器2と担体とを有していればよく、これらのほかに必要に応じて他の構成を有することができる。例えば、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素を硝化菌により酸化して硝酸態窒素とする硝化槽、有機物を酸、アルカリ、酵素、可溶化菌等により可溶化する分解槽、プロテインスキマー、フィルター等の物理ろ過装置、ヒーター、クーラー、熱交換器等の水温調整装置、紫外線、オゾン、塩素等で病原菌を死滅させる殺菌装置、廃水処理後の水に酸素を供給する酸素供給装置等を設けることができる。
【0016】
脱窒槽1は廃水が下部から供給され上部から排出されるものであれば特に制限されず、密封容器、開放容器のいずれでもよい。ここで、下部とは底面およびその近傍、上部とは上面およびその近傍を意味する。脱窒槽1において、廃水に含まれる硝酸態窒素および亜硝酸態窒素は、脱窒菌により還元(脱窒)されて窒素の気泡となる。廃水を脱窒槽の下部から供給して上部から排出することで、脱窒槽内部での廃水の流れる方向と気泡に加わる浮力の方向とを同一にすることができるため、効率的に気泡を排出することができる。生じた気泡は、処理された廃水とともに排出されてもよいが、気泡による送液不良を防ぐため、脱窒槽上部に排気管11を設け、この排気管11から窒素ガスを放出することが好ましい。排気管11からの廃水の噴出を防ぐために、排気管11には十分な長さを持たせることが好ましい。
【0017】
脱窒槽1は、単独で用いてもよく、直列または並列に複数個接続して用いてもよい。廃水処理量を増やすことができ、また、脱窒槽1を増設することで容易に処理能力を増強することができるため、並列に接続することが好ましい。脱窒槽1の総容積は、水理学的滞留時間(HRT)や目標とすべき硝酸態窒素濃度に応じて適宜設定することができる。水棲生物を飼育する水槽の水処理に用いるのであれば、硝酸態窒素濃度を25NO
3−−Nmg/L以下とすることが好ましく、脱窒槽1の総容量を飼育水槽中の飼育水の2%以上とすることが好ましい。
【0018】
脱窒槽1の内部には、網目状容器2が下部から上部に間隔を開けて複数設置される。脱窒槽1に設置される網目状容器2の数は特に制限されない。また、網目状容器の間隔は、HRTや廃水の流速に応じて適宜定めることができる。複数の網目状容器2の容量は同一でもよく、異なっていてもよいが、下記で詳述するように、最も下方に位置する網目状容器21が、2番目に大きな網目状容器よりも1.2倍以上の容量を有することが好ましい。網目状容器2を形成する材料は特に制限されず、鉄、アルミ、ステンレス等の金属、ポリスチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等の複合材を適宜用いることができる。錆びず、軽量であるため、合成樹脂またはFRPを用いることが好ましい。
【0019】
網目状容器2は、底面および上面が、廃水が通過できる網目状であればよく、側面は網目を有してもよく、有さなくてもよい。網目状容器2の網目を有する面は、一枚の板材に多数の穴を打ち抜いて形成してもよく、複数本の芯材を接合して形成してもよい。芯材から形成する際は、芯材の断面形状は特に制限されず、円形、四角形等を適宜用いることができる。隣接する芯材間の下方の隙間が、上方の隙間よりも狭くなるような三角形、五角形、涙型である芯材から網目状容器を形成すると、いわゆるウェッジメッシュとすることができ、芯材間に詰まった異物を、反対側から水を流すことで容易に取り除くことができる。
【0020】
網目状容器2の水平方向の断面形状は、脱窒槽1に収容可能であれば特に制限されない。また、中央部に貫通した穴を有するリング状であってもよい。網目状容器2の水平方向の断面形状は、脱窒槽1の水平方向の断面形状と相似形でわずかに小さな形状であることが好ましい。このような形状とすることで、脱窒槽1の内壁面と網目状容器2の側面との隙間を通過する廃水量を減らし、網目状容器を通過して担体と接触する廃水量を増やすことができるため、脱窒効率を高めることができる。
【0021】
本発明は、網目状容器2が脱窒槽1の下部から上部にかけて間隔を開けて複数個設置されることを特徴とする。隣接する網目状容器2の間に空間が存在し、下方の網目状容器を通過した廃水は、この空間で分散して広がり、上方の網目状容器に収納された担体の全面に均一にぶつかる。そのため、本発明の廃水処理装置は、水ミチの発生を防ぎ、廃水と担体との接触効率の低下を防ぐことができる。
【0022】
網目状容器2の内部には、脱窒菌を担持した担体が収容される。本発明において使用する担体の種類は、特に制限されない。例えば、粒状化したグラニュール汚泥、多孔質ガラス、多孔質セラミック、サンゴ砂、天然樹脂製または合成樹脂製のスポンジ、ゲル、活性炭などの多孔質材料や、天然岩石やガラスなどの無孔質材料を使用することができる。これらの中で、脱窒菌そのものからなるグラニュール汚泥は、処理効率が高く脱窒槽をコンパクトにすることができるため、好適に用いることができる。
【0023】
担体は、担体の粒径よりも小さなメッシュを有する網目状容器2に収容されるか、担体の粒径よりも小さなメッシュを有するネットに収容された状態で網目状容器2に収容される。例えば、上記したグラニュール汚泥の粒径は2mm程度であるため、担体を収容する網目状容器またはネットのメッシュは1mm程度であることが好ましい。担体は、担体の粒径よりも小さなメッシュを有する網目状容器またはネットに収容されるため、担体は網目状容器またはネットから漏れ出ない。そのため、気泡が担体に付着しても、担体が脱窒槽1から流出することはない。
【0024】
担体には脱窒菌が担持されている。脱窒菌とは、硝酸態窒素または亜硝酸態窒素を還元して窒素を生成する硝酸還元細菌、硫黄酸化脱窒細菌などの総称である。脱窒菌の多くは、嫌気性条件下において活動・増殖可能な通性嫌気性従属栄養細菌に属する。なお、本発明においては、硫黄酸化脱窒細菌と共生する硫酸塩還元細菌も脱窒菌に含まれるものとする。硫酸塩還元細菌は、硫酸塩を還元して硫黄イオンやチオ硫酸イオンを生成する。硫黄イオンやチオ硫酸イオンは、硫黄酸化脱窒細菌による脱窒に利用される。本発明では、脱窒菌として一般に知られている、Thauera属、Sedimenticola属、Arcobactor属などを特に制限することなく使用することができる。なお、Thauera属は、酢酸資化性脱窒細菌であり、芳香族化合物の分解菌としても知られている。
【0025】
脱窒槽の酸化還元電位(ORP)は、低下しすぎると硫化水素が発生してしまうため、−300(mV)〜−100(mV)の範囲に調整することが好ましい。なお、酸化還元電位を調整するには、脱窒槽への廃水の供給量や炭素源・電子供与体の供給量をコントロールすればよい。
【0026】
脱窒菌には、炭素源および電子供与体として可溶化された有機物が供給される。可溶化された有機物は、担体内における炭素率(C/N比)が1.0〜3.0になるように添加することが望ましい。なお、水中の有機物量が不足している場合には、脱窒菌の炭素源・電子供与体となる酢酸ナトリウム、酢酸、メタノール、グルコースなどを供給すればよい。これらの中で、生物への影響が少ない酢酸ナトリウムまたは酢酸が好ましい。
【0027】
脱窒菌の多くは、嫌気性条件下において活動・増殖可能な通性嫌気性従属栄養細菌に属することから、脱窒槽1の内部は、嫌気性雰囲気に維持する必要がある。ただし、溶存酸素濃度の高い廃水が脱窒槽1に供給されると、脱窒槽最下部の網目状容器21近辺は好気性雰囲気となるが、好気性雰囲気下では脱窒菌は酸素を消費して活動するため、嫌気的雰囲気下での代謝である脱窒が行われない。そのため、供給された廃水に含まれる酸素を素早く消費できるように、最も下方に位置する網目状容器21がそれ以外の網目状容器と比較して容量が大きいことが好ましい。具体的には、最も下方に位置する網目状容器は、2番目に大きな網目状容器よりも1.2倍以上の容量を有することが好ましい。最も下方に位置する網目状容器21を大容量とし、多くの担体を収容して廃水中の酸素を消費することで、最も下方に位置する網目状容器21より上方は嫌気的雰囲気となり、上方に位置する網目状容器に収容された担体内の脱窒菌による脱窒作用が効率よく発揮される。
【0028】
本発明において、脱窒槽内部の廃水が間欠的に撹拌されることが好ましい。脱窒槽内部の廃水を撹拌する方法は特に制限されず、例えば、網目状容器2を間欠的に回転、振動のいずれか、または両方をさせるための駆動装置3を設け、網目状容器2を回転、振動のいずれか、または両方をさせることにより脱窒槽内部の廃水を撹拌してもよい。振動は、鉛直方向、水平方向、斜め方向のいずれでもよく、またはこれらの組み合わせでもよい。廃水を間欠的に撹拌することで、担体に付着した気泡を分離することができる。担体が収容されて重い網目状容器を動かすのに必要なエネルギーが少ないため、網目状容器を回転、または、鉛直方向に振動させることが好ましい。また、下記で述べるように、隣接する網目状容器の間の空間で廃水を撹拌してもよい。
【0029】
駆動装置3としては特に制限されないが、例えば、複数の網目状容器2の中心を貫通する軸4を設け、この軸4をモーター等で回転、または、ギア、カム等を組み合わせて振動、または回転と同時に振動させればよい。このとき、上記したように中央部が貫通したリング状の網目状容器2を用いると、網目状容器の中央部に軸4を通すことが容易である。駆動装置3であるモーターを上部に設け、脱窒槽上部に設けた排気管11に軸を通すと、構造を簡素化でき低コストであるため好ましい。なお、網目状容器2を回転させる場合は、脱窒槽1と網目状容器2とは回転可能なように水平方向の断面が円形であることが好ましい。
【0030】
本発明において、脱窒槽内部の廃水は間欠的に撹拌される。脱窒槽内部を間欠的に撹拌することにより、脱窒槽内部を常に撹拌する場合と比較して、網目状容器2に収容された担体同士が擦れて摩耗することを抑えることができる。廃水を撹拌する間隔は、生じる窒素ガス量と、窒素ガスの担体への付着量に応じて適宜定めることができるが、通常、3〜24時間毎に動かせばよい。また、撹拌は定期的に行ってもよく、不定期に行ってもよい。
【0031】
上記したように、網目状容器2の形状は特に制限されないが、複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器21を除く少なくとも1つの網目状容器の側面が、鉛直方向に延在する凹部5を有することが好ましい。側面に凹部5を有する網目状容器2の側面図を
図2に、斜視図を
図3に示す。
【0032】
網目状容器2のメッシュは細かいため、下方の網目状容器2で発生した気泡は、上方の網目状容器底面のメッシュをすぐには通過しない。網目状容器側面に凹部5を設け、脱窒槽1の内壁面と網目状容器2の側面とのあいだに凹部5からなる隙間を形成することで、網目状容器底面のメッシュで一旦留まった気泡をこの隙間から上方に流し、網目状容器2の内部に侵入する気泡を減らすことができる。凹部5の形状、本数は特に制限されないが、脱窒槽の水平方向断面に対する凹部5の水平方向断面の総面積の比率が、10%以下であることが好ましい。10%より大きいと、網目状容器の内部を通らない廃水が多くなりすぎる。
【0033】
さらに、複数の網目状容器のうち、最も下方に位置する網目状容器21を除く少なくとも1つの網目状容器の底面が、水平方向に対して傾斜した傾斜部6を有することが好ましい。網目状容器底面に傾斜部6を設けることで、傾斜部6に気泡を集め、気泡を合一して大きな気泡とし、網目状容器底面のメッシュを通過しにくくすることができる。また、傾斜部6の上方を、底面の端部または中心とすることで、傾斜部6の傾きに沿って気泡を底面の端部または中心に導くことができる。傾斜部6の形状や数は特に制限されず、例えば、下に凸である錐状体、下に凸である半球、上に凸である錐状体、上に凸である円錐のように、底面全面を傾斜部としてもよく、1本または複数本の溝状の傾斜部を形成して底面の一部のみを傾斜部としてもよい。
【0034】
図2、3に示す網目状容器は、底面端部を上方とする溝状の傾斜部6を有する。この網目状容器では、底面端部に到達した気泡は脱窒槽と網目状容器との間を通って浮上するため、網目状容器2の内部に侵入する気泡を減らすことができる。また、
図2、3に示す網目状容器2は、底面の傾斜部6と側面の凹部5とが連続しているため、よりスムーズに気泡を浮上させることができる。なお、網目状容器2は傾斜部6と凹部5とをともに有するものに限定されず、傾斜部6のみを有するものでもよい。
【0035】
底面が上に凸の円錐状であり、底面全面が傾斜部6である網目状容器2の側面図を
図4に、斜視図を
図5に示す。
図4、5に記載の網目状容器2は、網目状容器2の中心を通る軸4が中空管であり、軸側面の網目状容器底面と交差する部分に開口41を有している。底面全面が傾斜部である
図4、5に記載の網目状容器では、底面中心に集まった気泡は軸に設けられた開口41から軸4の内部に取り込まれ、網目状容器の内部を通ることなく脱窒槽1の外に排出される。なお、底面中心に導いた気泡を網目状容器内部を通らずに上方に導く方法はこれに限定されるものではなく、例えば、網目状容器2としてリング状のものを用い、網目状容器2の中央部から気泡を上方に通してもよい。
【0036】
隣接する網目状容器2の間に集泡部材7を設けてもよい。集泡部材7を形成する材料は特に制限されず、鉄、アルミ、ステンレス等の金属、ポリスチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等の複合材を適宜用いることができる。錆びず、軽量であるため、合成樹脂またはFRPを用いることが好ましい。集泡部材7は水が通過できなくてもよいが、廃水が集泡部材7の隙間から強く流れ出ると、廃水が集中してぶつかる部分に水ミチが生じやすいため、集泡部材7は水が通過できることが好ましい。水が通過できる材料としては、網目状容器と同様の材料を用いることができる。
【0037】
集泡部材7の形状は、気泡を合一して大きな気泡とすることができるものであれば特に制限することなく使用することができる。例えば、下に凸である錐状体、下に凸である半球、上に凸である錐状体、上に凸である円錐、プロペラ状、上に凸である扇状等が挙げられる。
【0038】
軸4に固定されたプロペラ状の集泡部材7と網目状容器2との側面図を
図6に、軸4に固定されたプロペラ状の集泡部材7の斜視図を
図7に示す。このような構成では、軸4を回転すると、プロペラ状の集泡部材7により廃水を強く撹拌することができる。そのため、担体に付着した気泡をより分離でき、また、担体同士の凝集を防ぐことができる。この際、網目状容器2としてリング状のものを用いてもよく、リング状の網目状容器と軸4とは接続してもよく、接続しなくてもよい。
【0039】
集泡部材7で集められて合一して大きくなった気泡は、上方の網目状容器底面のメッシュを通過しにくくなる。さらに、集泡部材で集められた気泡の網目状容器内部への侵入を少なくするために、集泡部材で集められた気泡は、網目状容器の底面端部、凹部5、傾斜部6近辺に浮上することが好ましい。
【0040】
本発明の廃水処理装置は硝酸態窒素と亜硝酸体窒素を含む廃水の処理に用いることができる。例えば、下水処理場における廃水処理、畜産場における廃水処理、水棲生物を飼育する水槽の水処理等に用いることができる。本発明の廃水処理装置で水処理を行う水槽で飼育する水棲生物の種類としては特に制限されず、魚類、イカ、タコ等の頭足類、エビ、カニ、カブトエビ、シャコ、ヤドカリ、グソクムシ等の甲殻類、イソギンチャク、クラゲ、サンゴ等の刺胞動物、ウニ、ナマコ、ヒトデ等の棘皮動物、カエル、サンショウウオ等の両生類、カメ、ヘビ、ワニ等の爬虫類、ペンギン、エトピリカ等の鳥類、カワウソ、アシカ、ラッコ、オットセイ、ジュゴン、マナティー、イルカ等の哺乳類等を挙げることができる。また、淡水に生息する水棲生物、海水に生息する水棲生物のどちらの飼育にも用いることができる。
【0041】
本発明の廃水処理装置を水棲生物の飼育水槽の水処理に用いることで、水を交換、補給する頻度を減少することができる。特に海水に生息する水棲生物の飼育水槽の水処理に用いると、海水の運搬または人工海水の作製を大幅に減らすことができ、また、無機塩を含む廃水を下水に放出する量を減らすことができる。さらに、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素を栄養とする緑藻類等の繁殖を抑え、水槽を鑑賞に適した状態に維持することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 脱窒槽
11 排気管
2 網目状容器
21 最も下方に位置する網目状容器
3 駆動装置
4 軸
41 開口
5 凹部
6 傾斜部
7 集泡部材