特許第6560537号(P6560537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6560537
(24)【登録日】2019年7月26日
(45)【発行日】2019年8月14日
(54)【発明の名称】熱交換体及び熱交換体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 9/02 20060101AFI20190805BHJP
   F28F 21/04 20060101ALI20190805BHJP
【FI】
   F28D9/02
   F28F21/04
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-108860(P2015-108860)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-6373(P2016-6373A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2018年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-111490(P2014-111490)
(32)【優先日】2014年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一
(72)【発明者】
【氏名】高木 修
(72)【発明者】
【氏名】小池 康太
【審査官】 庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−178037(JP,A)
【文献】 特開2013−100966(JP,A)
【文献】 特開2012−077944(JP,A)
【文献】 特開平06−345555(JP,A)
【文献】 特開2012−072041(JP,A)
【文献】 米国特許第04298059(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 9/02
F28F 21/04
F28D 7/16
F28D 21/00
F28F 7/00
B01J 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造に形成されたセラミックス焼結体のセグメントが、
前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁のそれぞれ奥行き方向にわたって前記第一端面から同一の長さ除かれて形成された、それぞれが前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に奥行き方向にわたって前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットと、
前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁のそれぞれが前記第二端面から同一の長さ除かれて形成された、それぞれが前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に奥行き方向にわたって前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットと、
それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第一封止部と、
それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第二封止部とを具備することを特徴とする熱交換体。
【請求項2】
前記セラミックス焼結体は、炭化珪素質セラミックス焼結体であり、
前記隔壁の表面に形成された珪酸系ガラスの酸化防止層を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の熱交換体。
【請求項3】
セラミックス原料で、単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造の成形体を成形する成形工程と、
前記成形体を焼成し、セラミックス焼結体のセグメントを得る焼成工程と、
前記セグメントにおいて前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁のそれぞれ奥行き方向にわたって前記第一端面から同一の長さ切除し、それぞれが前記軸方向に直交する方向に貫通し奥行き方向にわたって前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットを形成すると共に、前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁のそれぞれを前記第二端面から同一の長さ切除し、それぞれが前記軸方向に直交する方向に貫通し奥行き方向にわたって前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットを形成するスリット形成工程と、
それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口、及び、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止すると共に、それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口、及び、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止する封止工程とを具備することを特徴とする熱交換体の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックス原料は、焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となるものであり、前記焼成工程は非酸化性雰囲気下で行われると共に、
前記封止工程の前または後に行われ、二酸化珪素を含有する酸化防止剤を前記隔壁の表面に被覆し、前記隔壁の表面に前記酸化防止剤が被覆された前記セグメントを加熱し、前記酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層として前記隔壁の表面に固着させる酸化防止層形成工程を、更に具備することを特徴とする請求項3に記載の熱交換体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスのハニカム構造体を用いた熱交換体及び熱交換体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温の排ガスや排水から熱を回収する熱交換体として、従前より、セラミックス製で、単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造体を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。ここで、特許文献1の熱交換体は、ハニカム構造体において一方向に貫通する複数のセルに流通させる流体と、ハニカム構造体の外周面に沿って流通させる流体との間で熱交換させるものである。この場合、ハニカム構造体の外周面に近い外側のセルを流通する流体は、外周面に沿って流通させる流体との間で効率よく熱交換できるものの、ハニカム構造体の内側のセルを流通する流体は、外周面に沿って流通させる流体との間の熱交換の効率が悪いという問題があった。
【0003】
一方、特許文献2の熱交換体は、ハニカム構造体を貫通するセルを一列おきに、それぞれ両端面で同じ列で封止して封止部を形成すると共に、封止された列のセルの隔壁を直角方向から穿孔して貫通させたスリットを、一端側の封止部近傍から他端側の封止部近傍まで延びるように細長く形成したものである。かかる構成により、両端面が封止されておらず貫通しているセルを流通する流体と、直交方向に貫通するスリットを流通する流体との間で、隔壁を介して熱交換が行われる。この場合、直交する方向に流通する流体間で熱交換が行われるため、二つの流体の隔壁を介した接触時間が短く、熱交換の効率が悪いという問題があった。また、特許文献2の熱交換体では、スリットが形成された列は、封止部のみ、或いは、封止部とスリットとの間に僅かに残存する隔壁のみによって、隣接する列の隔壁と接合されているため、機械的強度が不十分となるおそれがあった。
【0004】
そこで、本出願人の一は、排気と空気との間で熱交換することにより空気を予熱する空気予熱装置として、セラミックスのハニカム構造体を使用し、排気と空気を隣接するセル列を流通させると共に、その流通方向を対向させた構造の熱交換体を提案している(特許文献3参照)。これは、図8及び図9に例示するように、角柱状のハニカム構造体において、あるセル列の軸方向の端部101側で隔壁105を斜めに切除した上で、その軸方向の端部101を封止して封止部110を形成することにより、一対の側面102のうち一方のみに開口すると共に、開口端121に向かって拡大する合流路120を形成したものである。
【0005】
ここで、図8及び図9において、それぞれ(a),(b)は隣接するセル列を表しており、図8は隣接するセル列が、それぞれ異なる端部101側に合流路120を有している例であり、図9は、両端部101側に合流路120を有するセル列と、合流路を有しないセル列とが交互に並設されている例である。なお、隔壁105を斜めに切除しているのは、圧力損失を抑えることを意図したものであり、合流路120の開口面積とそのセル列のセルの断面積の合計とを略等しくするため、切削角度θを20°〜45°としている。
【0006】
また、特許文献4には、同じセル列の両端に、セルの延在する方向に対して90°の方向にセルを区画する隔壁を切削したスリットを設けたハニカム構造体を用いた熱交換器が記載されている。
上記のような構成により、排気と空気とは隣り合うセル内を、セルの軸方向に沿って反対方向に流通するため、隔壁を介した接触時間が長く、高い効率で熱交換することができる。また、隣接するセル間には、切除される端部を除いて隔壁が存在するため、機械的強度が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−189229号公報
【特許文献2】特開昭61−24997号公報
【特許文献3】特開2012−193946号公報
【特許文献4】特許第5514190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の経緯の延長にあるものであり、その目的は、セラミックスのハニカム構造体を用いた熱交換体であって、従来より熱交換の効率が高く、且つ、機械的強度の高い熱交換体及び熱交換体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のある態様に係る熱交換体は、単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造に形成されたセラミックス焼結体のセグメントが、前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第一端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットと、前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第二端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットと、それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第一封止部と、それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第二封止部とを具備することを特徴とする。
【0010】
「セラミックス焼結体」を構成させるセラミックス材料は、特に限定されず、炭化珪素、アルミナ、コージェライト、ムライト等を使用可能である。
「第一封止部」及び「第二封止部」は、緻密質の材料で形成される。材料は特に限定されないが、セラミックス焼結体を構成させるセラミックス材料と同一または近似した組成の材料であれば熱膨張率が近く、熱応力の発生やこれに起因する亀裂などが生じ難く望ましい。
【0011】
「第一スリット」及び「第二スリット」は、セルの軸方向に直交する方向に貫通しているため、何れもハニカム構造のセグメントの側面に開口する。側面側の一対の開口のうち一方が第一封止部で封止されていることにより第一スリットが開口している側面と、側面側の一対の開口のうち一方が第二封止部で封止されていることにより第二スリットが開口している側面とは、異なっていても同一であってもよい。第一スリットが開口する側面と第二スリットが開口する側面が異なっている場合は、熱交換後に第一スリット及び第二スリットのそれぞれから排出される温度差のある流体の排出方向が異なるため、その温度差を維持し易い利点がある。一方、第一スリットが開口する側面と第二スリットが開口する側面が同一の場合は、第一スリット及び第二スリットそれぞれの開口に連通させるパイプなどを配設した熱交換器の全体を、コンパクトにすることができる利点がある。
【0012】
本構成の熱交換体では、第一端面で開口するセルから流入し、封止されていない第二スリットの開口から流出する第一の流体と、第二端面で開口するセルから流入し、封止されていない第一スリットの開口から流出する第二の流体との間で、隔壁を介して熱交換させることができる。或いは、封止されていない第一スリットの開口から流入し、第二端面で開口するセルから流出する第一の流体と、封止されていない第二スリットの開口から流入し、第一端面で開口するセルから流出する第二の流体との間で、隔壁を介して熱交換させることができる。従って、第一の流体と第二の流体は、隣り合うセル内を、セルの軸方向に沿って反対方向に流通するため、第一の流体と第二の流体との隔壁を介した接触時間が長く、高い効率で熱交換することができる。
【0013】
加えて、本構成では、同一の列に属するセルを区画する複数の隔壁が第一端面から同一の長さ除かれて第一スリットが形成されていると共に、それとは隣接する列で、同一の列に属するセルを区画する複数の隔壁が第二端面から同一の長さ除かれて第二スリットが形成されている。換言すれば、第一の流体がセル内を流通し、隣接するセル内を流通する第二の流体と熱交換する流路の長さは、同一のセル列において全て等しく、第二の流体がセル内を流通し、隣接するセル内を流通する第一の流体と熱交換する流路の長さは、同一のセル列において全て等しい。これにより、詳細は後述するように、隔壁を斜めに切除することにより同一のセル列においてセルを区画する隔壁の長さが相違している従来技術(特許文献3)と比べ、熱効率がより高いものとなっている。
【0014】
また、ハニカム構造体を用いた熱交換体では、機械的強度は主に隔壁によって担保されるところ、本構成の熱交換体では、第一スリットを形成するために隔壁が除かれるセルと、第二スリットを形成するために隔壁が除かれるセルは、異なる列のセルである。従って、何れの列においても、スリットが形成される一方の端面側を除き、隣接するセル間の隔壁をかなりの長さで残すことができる。これにより、セグメントの両端面側にそれぞれスリットを有していても、セグメント全体の機械的強度の低下が抑制されており、機械的強度の高い熱交換体となっている。また、第一スリットと第二スリットが隣接する異なる列のセルに設けられているため、第一の流体と第二の流体との熱交換面積が大きくなり、従来技術(特許文献4)に比べ、熱効率がより高いものとなる。
【0015】
加えて、本構成では、第一スリットに連通するセルを区画している隔壁の長さは、同一のセル列において全て等しく、第二スリットに連通するセルを区画している隔壁の長さは、同一のセル列において全て等しい。これにより、同一のセル列において隔壁の長さが相違する場合に比べて、機械的強度に偏りのない(機械的強度の高い部分と低い部分とが偏在することのない)構成となっている。
【0016】
この熱交換体において、上記構成に加え、前記セラミックス焼結体は、炭化珪素質セラミックス焼結体であり、前記隔壁の表面に形成された珪酸系ガラスの酸化防止層を更に具備するとよい。
炭化珪素は、セラミックスの中では熱伝導率が高い材料である。具体的には、アルミナ、コージェライト、及び、ムライトの熱伝導率は、それぞれ9〜30W/m・K、0.6W/m・K、及び、1.5W/m・Kであるのに対し、炭化珪素の熱伝導率は75〜130W/m・Kと高い。そのため、温度の異なる二つの流体間に介在する隔壁が熱伝導性に優れ、高い効率で熱交換することができる。
【0017】
加えて、炭化珪素の熱膨張率は、約4×10−6/℃と小さい。これは、アルミナの熱膨張率の約1/2である。すなわち、炭化珪素は熱伝導率が高いと共に熱膨張率が小さいため、耐熱衝撃性に優れる。従って、炭化珪素質セラミックス焼結体で形成された熱交換体は、高温の流体を流通させることにより高温となる熱交換体として適している。
ところが、炭化珪素は酸素の存在する雰囲気下で高温に加熱されると、酸化してしまうという問題がある。これに対し本構成の熱交換体では、炭化珪素質セラミックス焼結体である隔壁の表面に、珪酸系ガラスの酸化防止層が形成されている。この珪酸系ガラスの層によって、炭化珪素質セラミックスの隔壁と酸素との接触が妨げられるため、炭化珪素質セラミックスの酸化が有効に抑制される。なお、酸化防止層は、隔壁の表面に加えて、セグメントの側面の表面にも形成させることができる。
【0018】
また、珪酸系ガラスの酸化防止層が隔壁の表面に形成されているため、仮に隔壁が多孔質であっても、開気孔が酸化防止層で被覆・充填される。これにより、流体が隔壁を介して流通し、熱交換させるべき二つの流体が混合してしまうことを防止することができる。
加えて、珪酸系ガラスは高温下で軟化して延び、塑性変形する。そのため、脆性材料である炭化珪素質セラミックス焼結体に、仮に亀裂が発生した場合であっても、軟化した珪酸系ガラスがそれを埋めるため、亀裂が伸展して破壊に至ることが抑制される。従って、本発明の熱交換体は、耐熱衝撃性の高い炭化珪素質セラミックスで構成されていることに加え、更に珪酸系ガラスの層を備えていることにより、より耐熱衝撃性に優れており、高温下での機械的強度が高い。
【0019】
次に、本発明の別の態様に係る熱交換体の製造方法は、セラミックス原料で、単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造の成形体を成形する成形工程と、前記成形体を焼成し、セラミックス焼結体のセグメントを得る焼成工程と、前記セグメントにおいて前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁を前記第一端面から同一の長さ切除し、前記軸方向に直交する方向に貫通し前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットを形成すると共に、前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁を前記第二端面から同一の長さ切除し、前記軸方向に直交する方向に貫通し前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットを形成するスリット形成工程と、それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口、及び、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止すると共に、それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口、及び、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止する封止工程とを具備することを特徴とする。
【0020】
本構成の製造方法により、上述した「単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造に形成されたセラミックス焼結体のセグメントが、前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第一端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットと、前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第二端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットと、それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第一封止部と、それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第二封止部とを具備する」構成の熱交換体を製造することができる。
【0021】
また、この熱交換体の製造方法において、前記セラミックス原料は、焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となるものであり、前記焼成工程は非酸化性雰囲気下で行われると共に、前記封止工程の前または後に行われ、二酸化珪素を含有する酸化防止剤を前記隔壁の表面に被覆し、前記隔壁の表面に前記酸化防止剤が被覆された前記セグメントを加熱し、前記酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層として前記隔壁の表面に固着させる酸化防止層形成工程を、更に具備するものとしてもよい。
【0022】
「焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となるセラミック原料」としては、炭化珪素粉末を含有する原料を使用することができる。また、加熱により炭化珪素を生成する珪素源及び炭素源を含む原料を使用し、炭化珪素を反応生成させつつ焼結させる(反応焼結)こともできる。
「焼成工程」における「非酸化性雰囲気」は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、これらの混合ガス雰囲気、或いは、真空雰囲気とすることができる。
【0023】
「酸化防止剤」は加熱によって珪酸系ガラスとなるものであり、二酸化珪素の他、酸化ナトリウム、酸化カリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属成分、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属成分、珪素(単体の珪素)、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどを含有させることができる。ここで、アルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分は、加熱下で二酸化珪素を溶融または軟化させるため、これらの含有量により、隔壁への付着性や浸透性を調整することができる。また、酸化ホウ素の含有量により、珪酸系ガラスの熱膨張率を調整することができる。その他、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウム(加熱下で酸化アルミニウムとなる)の含有量により、珪酸系ガラスの強度を調整することができる。
【0024】
「酸化防止剤被覆工程」は、酸化防止剤を塗布・スプレーする工程、酸化防止剤にセグメントを浸漬する工程、或いは、酸化防止剤をセグメントに含浸させる工程とすることができる。なお、隔壁の表面に加え、セグメントの側面も酸化防止剤で被覆することができる。
本構成の製造方法により、上記構成に加え、「前記セラミックス焼結体は、炭化珪素質セラミックス焼結体であり、前記隔壁の表面に形成された珪酸系ガラスの酸化防止層を更に具備する」構成の熱交換体を製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明に係る熱交換体及び熱交換体の製造方法によれば、セラミックスのハニカム構造体を用いた熱交換体であって、従来より熱交換の効率が高く、且つ、機械的強度が高い熱交換体及び熱交換体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第一実施形態の熱交換体の(a)正面側から見た斜視図、及び、(b)背面側から見た斜視図である。
図2図1の熱交換体の(a)平面図、及び、(b)底面図である。
図3図1の熱交換体の(a)X−X線端面図、及び、(b)Y−Y線端面図である。
図4】本発明の第二実施形態の熱交換体の(a)正面側から見た斜視図、及び、(b)背面側から見た斜視図である。
図5図2の熱交換体の(a)X−X線端面図、及び、(b)Y−Y線端面図である。
図6】実施例および比較例1、2について、熱回収比を比較したグラフである。
図7】実施例及び比較例1について、第一の流体及び第二の流体の流量比をセル列に対してプロットしたグラフである。
図8】特許文献3の熱交換体について(a)あるセル列の断面の略図、及び(b)隣接するセル列の断面の略図、である。
図9】特許文献3の熱交換体の他の例について(a)あるセル列における断面の略図、及び(b)隣接するセル列における断面の略図、である。
図10】比較例に係る熱交換体について(a)あるセル列における断面の略図、及び(b)隣接するセル列における断面の略図、である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第一実施形態である熱交換体1について、図1乃至図3を用いて説明する。第一実施形態の熱交換体1は、単一の軸方向に延びて列設された隔壁17により区画された複数のセル15を備えるハニカム構造に形成されたセラミックス焼結体のセグメント10が、セル15が開口する一対の第一端面11及び第二端面12のうち一方の第一端面11側で、セル15の一列おきに、同一の列に属するセル15を区画する複数の隔壁17が第一端面11から同一の長さ除かれて形成された、軸方向に直交する方向に貫通していると共に軸方向の長さが一定である複数の第一スリット21と、一対の第一端面11及び第二端面12のうち他方の第二端面12側で、第一スリット21が形成されたセル15とは異なる列に属するセル15を区画する複数の隔壁17が第二端面12から同一の長さ除かれて形成された、軸方向に直交する方向に貫通していると共に軸方向の長さが一定である複数の第二スリット22と、それぞれの第一スリット21の第一端面11側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第一封止部31と、それぞれの第二スリット22の第二端面12側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第二封止部32とを具備しているものである。
【0028】
ここで、本実施形態では、第一スリット21を形成するにあたり、異なる列に属するセル15を区画する隔壁17も、全て第一端面11から同一の長さ除かれていると共に、第二スリット22を形成するにあたり、異なる列に属するセル15を区画する隔壁17も、全て第二端面12から同一の長さ除かれている。加えて、第一スリット21を形成するために隔壁17が除かれた長さと、第二スリット22を形成するために隔壁17が除かれた長さも同一である。すなわち、本実施形態の熱交換体1においては、第一の流体が流通するセル15と第二の流体が流通するセル15とを区画する隔壁17の長さは、全て同一である。
【0029】
また、上記構成において、熱交換体1のセグメント10は四角柱状であり、第一スリット21は第一側面13で開口していると共に、第二スリット22は、第一側面13と対向する第二側面14に開口している。
更に、熱交換体1では、セラミックス焼結体は炭化珪素質セラミックス焼結体であり、熱交換体1は、隔壁17の表面に形成された珪酸系ガラスの酸化防止層(図示しない)を更に具備している。
【0030】
このような熱交換体1は、次のような製造方法によって製造することができる。すなわち、第一実施形態の熱交換体1の製造方法(第一実施形態の製造方法)は、セラミックス原料で、単一の軸方向に延びて列設された隔壁17により区画された複数のセル15を備えるハニカム構造の成形体を成形する成形工程と、成形体を焼成し、セラミックス焼結体のセグメント10を得る焼成工程と、セグメント10においてセル15が開口する一対の第一端面11及び第二端面12のうち一方の第一端面11側で、セル15の一列おきに、同一の列に属するセル15を区画する複数の隔壁17を第一端面11から同一の長さ切除し、軸方向に直交する方向に貫通し軸方向の長さが一定である複数の第一スリット21を形成すると共に、一対の第一端面11及び第二端面12のうち他方の第二端面12側で、第一スリット21が形成されたセル15とは異なる列に属するセル15を区画する複数の隔壁17を第二端面12から同一の長さ切除し、軸方向に直交する方向に貫通し軸方向の長さが一定である複数の第二スリット22を形成するスリット形成工程と、それぞれの第一スリット21の第一端面11側の開口、及び、第一スリット21の第一側面13側の開口と第二側面14側の開口のうち、第二側面14側の開口のみを封止すると共に、それぞれの第二スリット22の第二端面12側の開口、及び、第二スリット22の第一側面13側の開口と第二側面14側の開口のうち、第一側面13側の開口のみを封止する封止工程とを具備している。
【0031】
また、本実施形態の製造方法は、上記において、セラミックス原料は、焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となるものであり、焼成工程は非酸化性雰囲気下で行われると共に、封止工程の前または後に行われ、二酸化珪素を含有する酸化防止剤を隔壁17の表面に被覆し、隔壁17の表面に酸化防止剤が被覆されたセグメント10を加熱し、酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層として隔壁17の表面に固着させる酸化防止層形成工程を、更に具備するものである。
【0032】
より詳細に説明すると、成形工程では、焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となる原料を、バインダ、界面活性化剤等の添加剤と共に水と混合して混練物とし、これを押出成形することにより、ハニカム構造の成形体を得る。ここで、原料としては、骨材となる炭化珪素粉末と、炭化珪素を生成する珪素源と炭素源との混合原料を使用することができる。骨材としての炭化珪素粉末は、混合原料に対して65質量%〜95質量%とすることができる。骨材としての炭化珪素粉末の割合が65質量%より小さい場合は、得られる焼結体の強度が低いものとなり易い。一方、95質量%より多い場合は、焼結しにくい成形体となり易い。なお、骨材としての炭化珪素粉末の混合原料に対する割合は、75質量%〜85質量%であれば、上記の相反する作用の調和が取れ、より望ましい。
【0033】
炭化珪素を生成する珪素源と炭素源については、珪素と炭素とのモル比(Si/C)が1のときに化学量論的に過不足なく炭化珪素が生成するが、Si/Cを0.5〜1.5とすることが望ましい。Si/Cが0.5より小さい場合は、残存する炭素分が多過ぎ、粗大気孔の原因となると共に生成した炭化珪素の粒子成長が阻害されるおそれがある。一方、Si/Cが1.5より大きい場合は、生成する炭化珪素の量が少なく、反応焼結が不十分となり易い。なお、Si/Cは、0.8〜1.2であれば、珪素及び炭素の過剰分または不足分が少なく、より望ましい。なお、珪素源としては、窒化珪素、珪素(単体の珪素)を使用可能であり、炭素源としては、黒鉛、石炭、コークス、木炭などを例示することができる。
【0034】
成形工程の後で焼成工程の前に、得られた成形体を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。このような乾燥工程は、調温調湿槽内での送風乾燥、外部加熱乾燥、マイクロ波照射による内部加熱乾燥等により行うことができる。
焼成工程では、加熱炉を非酸化性雰囲気として、1800℃〜2300℃の所定温度で一定時間保持する。焼成温度が1800℃より低い場合は反応焼結が不十分となるおそれがあり、2350℃を超えると炭化珪素が昇華するおそれがある。焼成温度は2000℃〜2200℃とすれば、比較的短時間で十分な強度の焼結体を得ることができるため、より望ましい。焼結時間は成形体のサイズにもよるが、例えば、30分から3時間とすることができる。
【0035】
なお、焼成工程の後、封止工程及び酸化防止層形成工程の前に、焼成工程において炭化珪素の生成反応に使用されずに残留しているおそれのある炭素源を燃焼除去する目的で、脱炭工程を設けることができる。この脱炭工程は、酸化雰囲気下(空気雰囲気下)で、600℃〜1200℃の温度で1時間〜15時間保持することにより行うことができる。この程度の加熱温度及び保持時間であれば、脱炭工程では炭化珪素の酸化はほとんど生じない。
【0036】
上記の工程を経て、ハニカム構造を有する炭化珪素質セラミックス焼結体のセグメント10が得られる。なお、セグメント10の長さ(セル15の軸方向の長さ)は、100mm〜500mmとすることができる。長さが100mmより短い場合は、流体が流通するセル15の軸方向の長さが短くなり、熱交換の効率が低下するおそれがある。一方、長さが500mmより長い場合は、ハニカム構造のセグメント10において温度勾配が生じ易く、熱応力により亀裂や割れが生じ易くなるおそれがある。
【0037】
また、ハニカム構造のセル密度は、特に限定されるものではないが、50cpsi〜500cpsi(セル/平方インチ)とすることが望ましい。この範囲とすることで、圧力損失の増大を抑制しつつ、セグメント10の機械的強度を担保することができる。
「スリット形成工程」では、セグメント10の第一端面11から第二端面12側に向かって切り込むように、セル15の一列おきに隔壁17を切除し、第一側面13から第二側面14まで貫通する第一スリット21を形成する。また、セグメント10の第二端面12から第一端面11側に向かって切り込むように、セル15の一列おきに隔壁17を切除し、第一側面13から第二側面14まで貫通する第二スリット22を形成する。このとき、第一スリット21が形成されるセル15の列と、第二スリット22が形成されるセル15の列とは、異なる列すなわち隣り合う列とする。
【0038】
第一スリット21の切込み深さ、すなわち、軸方向で隔壁17が切断される長さは、同一の列に属するセル15間で同一とすると共に、本実施形態では異なる列に属するセル15間でも同一としている。また、第二スリット22の切込み深さも、同一の列に属するセル15間で同一とすると共に、本実施形態では異なる列に属するセル15間でも同一としている。加えて、本実施形態では、第一スリット21の切込み深さと、第二スリット22の切込み深さとを同一としている。なお、第一スリット21及び第二スリット22の切込み深さは、セグメント10の全長の1/3〜1/10とすれば、機械的強度の低下を抑制して第一スリット21及び第二スリット22を形成することができ、望ましい。
【0039】
「封止工程」では、第一スリット21の第一端面11側の開口、及び、第二側面14側の開口を封止剤で封止すると共に、第二スリット22の第二端面12側の開口、及び、第一側面13側の開口を封止剤で封止する。ここで、封止剤としては、例えば、炭化珪素粉末に、アルミナ粉末及びシリカ粉末等を混合しペースト状としたものを使用することができる。封止後、セグメント10を熱処理または焼成することにより、封止剤が固化して緻密化され、第一封止部31及び第二封止部32が形成される。ここで、封止剤を固化し緻密化させる熱処理は、空気雰囲気下で1000℃〜1200℃の温度で1時間〜5時間保持することにより行うことができる。
【0040】
「酸化防止層形成工程」は、封止工程の前または後に行うことができる。この酸化防止層形成工程は、酸化防止剤で隔壁17の表面を被覆する被覆工程と、酸化防止剤の被覆後にセグメント10を加熱し、酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層として隔壁17の表面に固着させるガラス化工程とからなる。
被覆工程は、酸化防止剤をセグメント10に含浸させる工程とすることができ、この場合はまず、密閉できる容器内にセグメント10を収容し、容器内の空気を真空ポンプ等で吸引する。次に、開閉弁付きのパイプやホースを介して、密閉容器内に酸化防止剤を導入する。酸化防止剤としては、二酸化珪素の粉末に上記の副成分を添加し、水を加えて適度な粘度とした懸濁液を使用する。これにより、セグメント10の外表面及び隔壁17の表面が酸化防止剤によって被覆される。また、隔壁17が多孔質であっても、開気孔の内部まで酸化防止剤が浸入する。
【0041】
なお、酸化防止剤としては、上記の副成分に加えて、炭化珪素の粉末を混合した酸化防止剤を使用することができる。酸化防止剤に含有される炭化珪素は、焼結体を構成する炭化珪素より酸化され易く、加熱下で酸化されて二酸化珪素となり易い。そして、生成したばかりの二酸化珪素は、酸化防止剤に最初から含まれている二酸化珪素より反応性が高く、ガラス化し易い。従って、酸化防止剤に炭化珪素を含有させておくことにより、ガラス化工程において珪酸系ガラスの酸化防止層を、効率良く形成させることができる。
【0042】
ガラス化工程では、含浸させた酸化防止剤中の水分を除去する乾燥処理を行った後、酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層とする加熱を行う。この加熱は、例えば、酸化防止剤を含浸させたセグメント10を、空気雰囲気下で温度800℃〜1200℃で1時間〜30時間加熱することにより行うことができる。この加熱によって酸化防止剤は珪酸系ガラスとなり軟化してセグメント10の表面(隔壁17及び側面の表面)に密着し、その後の冷却により固化して、緻密な酸化防止層となる。
【0043】
上記の工程を経て製造された熱交換体1では、図3(a)にX−X線端面図を示すように、第一端面11側で第一側面13に開口している第一スリット21は、第二端面12に開口しているセル15と連通している。また、図3(b)にY−Y端面図を示すように、第二端面12側で第二側面14に開口している第二スリット22は、第一端面11に開口しているセル15と連通している。従って、第一端面11に開口しているセル15から流入し、第二スリット22から流出する第一の流体と、第二端面12に開口しているセル15から流入し、第一スリット21から流出する第二の流体との間で、隔壁17を介して熱交換することができる。そして、第一の流体と第二の流体とは、単一の軸方向に延びるセル15内を反対方向に流通するため、隔壁17を介して接触している時間が長く、高い効率で熱交換することができる。
【0044】
実際に、第一実施形態の熱交換体1の実施例と、従来技術として上述した特許文献3や特許文献4と同様に作成した比較例について、熱交換率を測定して対比したところ、後述のように、本実施形態の熱交換体では、熱交換率がより高いものとなっていることが確認された。
そして、第一スリット21が形成されたセル15と第二スリット22が形成されたセル15とは、異なる列のセル15である。そのため、何れの列も、スリットの形成のために隔壁17が切除されているのは、第一端面11側及び第二端面12側のうち一方のみであり、他方では端面に至るまで隔壁17が存在する。これにより、第一スリット21及び第二スリット22を形成することによってセグメント10の機械的強度が低下するおそれが低減され、機械的強度が高い熱交換体1とすることができる。
【0045】
特に、本実施形態では、第一スリット21及び第二スリット22をそれぞれ形成するために隔壁17が切除された長さが等しく、切除された後の隔壁17の長さが熱交換体1において全て等しい。そして第一スリット21と第二スリット22は、セル15の列の一列おきに形成されていると共に、第一スリット21が開口している方向と第二スリット22が開口している方向とが反対であり、熱交換体1は対称の構成である。これにより、機械的強度の高い部分と低い部分とが偏在することのない、機械的強度が均一な構成となっている。
【0046】
また、本実施形態では、セグメント10が炭化珪素質セラミックス焼結体であるため、熱伝導率が高い。そのため、第一の流体と第二の流体との間で、隔壁17を介して、より高い効率で熱交換させることができる。加えて、炭化珪素は熱伝導率が高いと共に熱膨張率が小さいため、耐熱衝撃性に優れる。そのため、本実施形態の熱交換体1は、高温の流体を流通させることにより高温となる熱交換体1として適している。一方、炭化珪素は酸素の存在下で高温に加熱されることにより酸化してしまうところ、本実施形態の熱交換体1の表面には珪酸系ガラスの酸化防止層が形成されているため、酸化反応が有効に防止されている。
【実施例】
【0047】
上記の製造方法で、セル数が224×224で長さが15cmのセグメントの焼結体を得て、第一スリット及び第二スリットの長さがそれぞれ5cmの熱交換体を作成し、実施例とした。実施例と同様の原料から、スリット形成工程を除き実施例と同様の製造工程を経て、セル数が224×224で長さが15cmのセグメントの焼結体を得た。これを、図8(a),(b)を用いて上述したように、セルの一列おきに、軸方向の一方の端部側で隔壁を斜めに切除した上で、軸方向の端部を封止することにより、一対の側面の一方のみに開口すると共に、開口端に向かって拡大する合流路を形成すると共に、それと隣接する列で、軸方向の他方の端部側で隔壁を斜めに切除した上で、軸方向の端部を封止することにより、他方の側面のみに開口すると共に、開口端に向かって拡大する合流路を形成し、比較例1とした。比較例1では、合流路の開口端の長さ、すなわち、隔壁が最も長く切除される長さを、5cmとした。さらに、比較例2として、実施例と同様の原料から、スリット形成工程を除き実施例と同様の製造工程を経て、セル数が224×224で長さが15cmのセグメントの焼結体を得た。比較例2においては、スリット形成工程で、図10に示すように、軸方向の両方の端部101、101で、セルの一列おきに、隔壁105をセルの延在方向に対して直角に切除してスリットを形成し、これを合流路120となし、この合流路120のセグメント両端面の開口、および、セグメント両端側でセグメントの側面102に開口する二対の開口のうち各対について一方の開口のみを封止して封止部110とした。つまり、比較例2では、スリットはセルの同一列について両端部101、101にそれぞれ形成されており、これが2つの開口端121、121も同一列のセルについて設けてある。
【0048】
実施例、及び、比較例1、2について、JIS B8628に則り熱交換率を測定した。その結果として得られた。それぞれの例の熱交換率の比較のグラフを図6に示す。ここで、比較例1の熱交換率に対する比として、それぞれの例の(熱交換率)/(比較例1の熱交換率)の値を熱回収比として図6のグラフの縦軸に示した。実施例の熱回収比は1.95であり、大幅に熱交換率が上昇していた。比較例2の熱交換率は、比較例1に対しては上昇しているものの、実施例には及ばなかった。
【0049】
このような実施例の比較例1に対する熱交換率の大幅な上昇は、図7に示すように、実施例の熱交換体では第一の流体と第二の流体それぞれの流量がほぼ等しく、その比が熱交換体の全体にわたり均一であるためと考えられた。ここで、図7は、熱交換体を軸方向に沿って半分にした仮想的な分割体(セル列112個)について、第一流体が流通する56個のセル列、及び、第二流体が流通する56個のセル列のそれぞれについて、流体の流量を測定し、N個め(N=1〜56)のセル列同士で比を求めたものである。
【0050】
図7から明らかなように、実施例では第一の流体と第二の流体の流量の比は熱交換体の全体にわたりほぼ1であり、セル列の位置によらず、第一の流体と第二の流体それぞれの流量がほぼ等しいことが分かる。これは、実施例では、第一スリット及び第二スリットを形成するために切除された後に残った隔壁の長さが、熱交換体の全てにおいて等しく、熱交換のために第一の流体が流通する流路の長さと、第二の流体が流通する流路の長さが、熱交換体の全てにおいて等しいためと考えられた。一方、比較例では、流体の流れに偏りが生じており、第一の流体は流れやすいが第二の流体は流れにくい部分、逆に、第二の流体は流れやすいが第一の流体は流れにくい部分で、熱交換がスムーズには行われていないと考えられた。これは、合流路の形成のために、隔壁が斜めに切除されていることに起因していると考えられた。
【0051】
また、実施例が比較例2に比べて熱交換率が大きい理由は、実施例は比較例2に比べて熱交換が行われる隔壁の断面積が大きいことに起因すると考えられる。
次に、本発明の第二実施形態の熱交換体2について、図4及び図5を用いて説明する。第一実施形態の熱交換体1との相違は、第一実施形態では第一スリット21と第二スリット22が異なる側面に開口していたところ(第一スリット21が第一側面13に開口し、第二スリット22が第二側面14に開口)、第二実施形態では第一スリット21と第二スリット22が同一の側面である第一側面13に開口している点である。
【0052】
このような構成の熱交換体2の製造方法は、封止工程を除き、第一実施形態の製造方法と同じである。第二実施形態の封止工程では、第一スリット21の第一端面11側の開口、及び、第二側面14側の開口を封止剤で封止すると共に、第二スリット22の第二端面12側の開口、及び、第二側面14側の開口を封止剤で封止する。
熱交換体2の平面図及び底面図は、それぞれ図2(a)及び図2(b)に示した熱交換体1の平面図及び底面図と同一であり、熱交換体2のX−X線端面図を図5(a)に、Y−Y線端面図を図5(b)に示す。これらの図から分かるように、第二実施形態の熱交換体2でも、第一実施形態の熱交換体1と同様に、第一端面11に開口しているセル15から流入し、第二スリット22から流出する第一の流体と、第二端面12に開口しているセル15から流入し、第一スリット21から流出する第二の流体との間で、隔壁17を介して熱交換することができる。そして、第一の流体と第二の流体とは、単一の軸方向に延びるセル15内を逆方向に流通するため、隔壁17を介して接触している時間が長く、高い効率で熱交換することができる。
【0053】
第一スリット21が開口する側面と第二スリット22が開口する側面が異なっている第一実施形態の熱交換体1では、熱交換後に第一スリット21及び第二スリット22のそれぞれから排出される温度差のある流体の排出方向が異なるため、その温度差を維持し易い利点がある。一方、第一スリット21が開口する側面と第二スリット22が開口する側面が同一である第二実施形態の熱交換体2の場合は、第一スリット21の開口及び第二スリット22の開口それぞれに連通させるパイプなどを含めた熱交換器の全体を、コンパクトにすることができる利点がある。
【0054】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、セグメントの形状が四角柱状の場合を例示したが、これに限定されず、円柱状や楕円柱状とすることができる。円柱状や楕円柱状のセグメントでは側面は連続した面となるが、第一スリット及び第二スリットの延びる方向に直交する方向にセグメントを二分割した場合を想定し、その仮想的な二つの分割体の側面にそれぞれ開口するスリットの一対の開口のうち、一方のみを封止すればよい。そして、側面側で第一スリットの開口が封止される仮想的な分割体と、側面側で第二スリットの開口が封止される仮想的な分割体は、同一であっても異なっていても良い。
【符号の説明】
【0055】
1,2 熱交換体
10 セグメント
11 第一端面
12 第二端面
15 セル
17 隔壁
21 第一スリット
22 第二スリット
31 第一封止部
32 第二封止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10