【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のある態様に係る熱交換体は、単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造に形成されたセラミックス焼結体のセグメントが、前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第一端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットと、前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第二端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットと、それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第一封止部と、それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第二封止部とを具備することを特徴とする。
【0010】
「セラミックス焼結体」を構成させるセラミックス材料は、特に限定されず、炭化珪素、アルミナ、コージェライト、ムライト等を使用可能である。
「第一封止部」及び「第二封止部」は、緻密質の材料で形成される。材料は特に限定されないが、セラミックス焼結体を構成させるセラミックス材料と同一または近似した組成の材料であれば熱膨張率が近く、熱応力の発生やこれに起因する亀裂などが生じ難く望ましい。
【0011】
「第一スリット」及び「第二スリット」は、セルの軸方向に直交する方向に貫通しているため、何れもハニカム構造のセグメントの側面に開口する。側面側の一対の開口のうち一方が第一封止部で封止されていることにより第一スリットが開口している側面と、側面側の一対の開口のうち一方が第二封止部で封止されていることにより第二スリットが開口している側面とは、異なっていても同一であってもよい。第一スリットが開口する側面と第二スリットが開口する側面が異なっている場合は、熱交換後に第一スリット及び第二スリットのそれぞれから排出される温度差のある流体の排出方向が異なるため、その温度差を維持し易い利点がある。一方、第一スリットが開口する側面と第二スリットが開口する側面が同一の場合は、第一スリット及び第二スリットそれぞれの開口に連通させるパイプなどを配設した熱交換器の全体を、コンパクトにすることができる利点がある。
【0012】
本構成の熱交換体では、第一端面で開口するセルから流入し、封止されていない第二スリットの開口から流出する第一の流体と、第二端面で開口するセルから流入し、封止されていない第一スリットの開口から流出する第二の流体との間で、隔壁を介して熱交換させることができる。或いは、封止されていない第一スリットの開口から流入し、第二端面で開口するセルから流出する第一の流体と、封止されていない第二スリットの開口から流入し、第一端面で開口するセルから流出する第二の流体との間で、隔壁を介して熱交換させることができる。従って、第一の流体と第二の流体は、隣り合うセル内を、セルの軸方向に沿って反対方向に流通するため、第一の流体と第二の流体との隔壁を介した接触時間が長く、高い効率で熱交換することができる。
【0013】
加えて、本構成では、同一の列に属するセルを区画する複数の隔壁が第一端面から同一の長さ除かれて第一スリットが形成されていると共に、それとは隣接する列で、同一の列に属するセルを区画する複数の隔壁が第二端面から同一の長さ除かれて第二スリットが形成されている。換言すれば、第一の流体がセル内を流通し、隣接するセル内を流通する第二の流体と熱交換する流路の長さは、同一のセル列において全て等しく、第二の流体がセル内を流通し、隣接するセル内を流通する第一の流体と熱交換する流路の長さは、同一のセル列において全て等しい。これにより、詳細は後述するように、隔壁を斜めに切除することにより同一のセル列においてセルを区画する隔壁の長さが相違している従来技術(特許文献3)と比べ、熱効率がより高いものとなっている。
【0014】
また、ハニカム構造体を用いた熱交換体では、機械的強度は主に隔壁によって担保されるところ、本構成の熱交換体では、第一スリットを形成するために隔壁が除かれるセルと、第二スリットを形成するために隔壁が除かれるセルは、異なる列のセルである。従って、何れの列においても、スリットが形成される一方の端面側を除き、隣接するセル間の隔壁をかなりの長さで残すことができる。これにより、セグメントの両端面側にそれぞれスリットを有していても、セグメント全体の機械的強度の低下が抑制されており、機械的強度の高い熱交換体となっている。また、第一スリットと第二スリットが隣接する異なる列のセルに設けられているため、第一の流体と第二の流体との熱交換面積が大きくなり、従来技術(特許文献4)に比べ、熱効率がより高いものとなる。
【0015】
加えて、本構成では、第一スリットに連通するセルを区画している隔壁の長さは、同一のセル列において全て等しく、第二スリットに連通するセルを区画している隔壁の長さは、同一のセル列において全て等しい。これにより、同一のセル列において隔壁の長さが相違する場合に比べて、機械的強度に偏りのない(機械的強度の高い部分と低い部分とが偏在することのない)構成となっている。
【0016】
この熱交換体において、上記構成に加え、前記セラミックス焼結体は、炭化珪素質セラミックス焼結体であり、前記隔壁の表面に形成された珪酸系ガラスの酸化防止層を更に具備するとよい。
炭化珪素は、セラミックスの中では熱伝導率が高い材料である。具体的には、アルミナ、コージェライト、及び、ムライトの熱伝導率は、それぞれ9〜30W/m・K、0.6W/m・K、及び、1.5W/m・Kであるのに対し、炭化珪素の熱伝導率は75〜130W/m・Kと高い。そのため、温度の異なる二つの流体間に介在する隔壁が熱伝導性に優れ、高い効率で熱交換することができる。
【0017】
加えて、炭化珪素の熱膨張率は、約4×10
−6/℃と小さい。これは、アルミナの熱膨張率の約1/2である。すなわち、炭化珪素は熱伝導率が高いと共に熱膨張率が小さいため、耐熱衝撃性に優れる。従って、炭化珪素質セラミックス焼結体で形成された熱交換体は、高温の流体を流通させることにより高温となる熱交換体として適している。
ところが、炭化珪素は酸素の存在する雰囲気下で高温に加熱されると、酸化してしまうという問題がある。これに対し本構成の熱交換体では、炭化珪素質セラミックス焼結体である隔壁の表面に、珪酸系ガラスの酸化防止層が形成されている。この珪酸系ガラスの層によって、炭化珪素質セラミックスの隔壁と酸素との接触が妨げられるため、炭化珪素質セラミックスの酸化が有効に抑制される。なお、酸化防止層は、隔壁の表面に加えて、セグメントの側面の表面にも形成させることができる。
【0018】
また、珪酸系ガラスの酸化防止層が隔壁の表面に形成されているため、仮に隔壁が多孔質であっても、開気孔が酸化防止層で被覆・充填される。これにより、流体が隔壁を介して流通し、熱交換させるべき二つの流体が混合してしまうことを防止することができる。
加えて、珪酸系ガラスは高温下で軟化して延び、塑性変形する。そのため、脆性材料である炭化珪素質セラミックス焼結体に、仮に亀裂が発生した場合であっても、軟化した珪酸系ガラスがそれを埋めるため、亀裂が伸展して破壊に至ることが抑制される。従って、本発明の熱交換体は、耐熱衝撃性の高い炭化珪素質セラミックスで構成されていることに加え、更に珪酸系ガラスの層を備えていることにより、より耐熱衝撃性に優れており、高温下での機械的強度が高い。
【0019】
次に、本発明の別の態様に係る熱交換体の製造方法は、セラミックス原料で、単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造の成形体を成形する成形工程と、前記成形体を焼成し、セラミックス焼結体のセグメントを得る焼成工程と、前記セグメントにおいて前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁を前記第一端面から同一の長さ切除し、前記軸方向に直交する方向に貫通し前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットを形成すると共に、前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁を前記第二端面から同一の長さ切除し、前記軸方向に直交する方向に貫通し前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットを形成するスリット形成工程と、それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口、及び、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止すると共に、それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口、及び、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止する封止工程とを具備することを特徴とする。
【0020】
本構成の製造方法により、上述した「単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造に形成されたセラミックス焼結体のセグメントが、前記セルが開口する一対の端面のうち一方の第一端面側で、前記セルの一列おきに、同一の列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第一端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第一スリットと、前記一対の端面のうち他方の第二端面側で、前記第一スリットが形成された前記セルとは異なる列に属する前記セルを区画する複数の前記隔壁が前記第二端面から同一の長さ除かれて形成された、前記軸方向に直交する方向に貫通していると共に前記軸方向の長さが一定である複数の第二スリットと、それぞれの前記第一スリットの前記第一端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第一封止部と、それぞれの前記第二スリットの前記第二端面側の開口を封止していると共に、側面側の一対の開口のうち一方の開口のみを封止している第二封止部とを具備する」構成の熱交換体を製造することができる。
【0021】
また、この熱交換体の製造方法において、前記セラミックス原料は、焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となるものであり、前記焼成工程は非酸化性雰囲気下で行われると共に、前記封止工程の前または後に行われ、二酸化珪素を含有する酸化防止剤を前記隔壁の表面に被覆し、前記隔壁の表面に前記酸化防止剤が被覆された前記セグメントを加熱し、前記酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層として前記隔壁の表面に固着させる酸化防止層形成工程を、更に具備するものとしてもよい。
【0022】
「焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となるセラミック原料」としては、炭化珪素粉末を含有する原料を使用することができる。また、加熱により炭化珪素を生成する珪素源及び炭素源を含む原料を使用し、炭化珪素を反応生成させつつ焼結させる(反応焼結)こともできる。
「焼成工程」における「非酸化性雰囲気」は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、これらの混合ガス雰囲気、或いは、真空雰囲気とすることができる。
【0023】
「酸化防止剤」は加熱によって珪酸系ガラスとなるものであり、二酸化珪素の他、酸化ナトリウム、酸化カリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属成分、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属成分、珪素(単体の珪素)、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどを含有させることができる。ここで、アルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分は、加熱下で二酸化珪素を溶融または軟化させるため、これらの含有量により、隔壁への付着性や浸透性を調整することができる。また、酸化ホウ素の含有量により、珪酸系ガラスの熱膨張率を調整することができる。その他、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウム(加熱下で酸化アルミニウムとなる)の含有量により、珪酸系ガラスの強度を調整することができる。
【0024】
「酸化防止剤被覆工程」は、酸化防止剤を塗布・スプレーする工程、酸化防止剤にセグメントを浸漬する工程、或いは、酸化防止剤をセグメントに含浸させる工程とすることができる。なお、隔壁の表面に加え、セグメントの側面も酸化防止剤で被覆することができる。
本構成の製造方法により、上記構成に加え、「前記セラミックス焼結体は、炭化珪素質セラミックス焼結体であり、前記隔壁の表面に形成された珪酸系ガラスの酸化防止層を更に具備する」構成の熱交換体を製造することができる。