(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記気室は、多段構造であり、該多段構造の気室の中で少なくとも前記床布が接合されている最下段の気室の外側壁は前記補強布で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の災害用テント。
前記補強布を構成する原糸は、耐摩耗性及び耐屈曲疲労性が10000サイクル以上、耐突き刺し性が400N以上、耐候性が原強の80%以上の物性を有する原糸を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の災害用テント。
【背景技術】
【0002】
集中豪雨、洪水等の災害時には、学校の体育館、校舎、校庭等が避難場所として被災者に提供される。体育館等の施設は、風雨、冷気、日照等から被災者を守ることができるが、間仕切りがなく、被災者が段ボール板等を使用して間仕切りを設けても、プライバシー保護の観点からは問題があった。
また、校庭等の屋外避難場所では、風雨、冷気、日照等を防ぐためにテントが使用される。災害用のテントは、非使用時には、コンパクトに折り畳むことができ、保管、運搬が容易であることが要求される。しかし、従来のテントは、骨格となる金属パイプ等の支持材と、合成樹脂シート等の天幕を有し、重量、折り畳み時のコンパクト性において、上記のような要求には十分に応えられないものであった。また、テント設営時には、支持材の組み立てと、組み立てた支持材への天幕の取り付けが必要となり、テント解体時には、天幕の取り外し、支持材の解体が必要であり、作業が煩雑であった。
上記のような問題点を解消するものとして、空気膨張式のテントが開発されている。この空気膨張式テントは、空気を充填することにより支柱、梁等を形成する複数の気室を有し、気室に空気を充填することによりテントの骨格を形成し、これに天幕等を取り付けるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の空気膨張式のテントは、一度設営した後に移動した場合、気室に歪みが生じて、空気の漏洩、天幕の脱落等を生じることがあり、状況に応じて設営場所を随時変更することが難しいものであった。また、仮に屋外避難場所が集中豪雨、洪水等による水害に襲われた場合、被災者の安全を確保できないという問題があった。
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、安全性、利便性を備え、被災者の一時避難場所として機能する災害用テントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明は、環状の気室
及び当該気室に接合された床
布を少なくとも有する基部と、前記基部に着脱自在に設けられる天幕と、前記天膜を支持するための支柱と
、前記基部の前記床布の接地
側及び前記気室の少なくとも接地側の外側壁を被覆する補強布とを備え
、前記補強布は、前記床布の接地側の一部と接合されているような構成とした。
【0006】
本発明の他の態様として、前記気室は、多段構造であり、該多段構造の気室の中で少なくとも前記床布が接合されている最下段の気室の外側壁は前記補強布で被覆されているような構成とした。
本発明の他の態様として、前記支柱は、前記床布に位置する床支柱座と前記天幕に位置する天幕支柱座とに着脱可能に係合するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記補強布を構成する原糸は、耐摩耗性及び耐屈曲疲労性が10000サイクル以上、耐突き刺し性が400N以上、耐候性が原強の80%以上の物性を有する原糸を含むような構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の災害用テントは、空気を注入し膨張させて迅速に基部を形成し、この基部に天幕を装着して使用する状態とすることができ、被災者の安全を確保できる一時避難場所として機能する。また、基部により形状の維持が可能であるため、移動が容易であり、基部の接地側には補強布が位置しているので、気室や床布に損傷が及ぶことが防止され、信頼性が高いものである。また、集中豪雨、洪水等による水害に襲われた場合には、ボートのような浮力体として機能することができ、被災者の安全を確保することができる。また、使用状態とされた災害用テント1を屋内の避難場所で使用したときには、プライバシーの確保が可能である。また、空気を抜いた基部は、天幕とともにコンパクトに折り畳むことができ、非使用時における保管場所の省スペース化が可能であり、また、運搬が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
尚、図面は模式的または概念的なものであり、各部材の寸法、或いは、各部材間の寸法の比等は、必ずしも現実のものと同一とは限らず、また、同じ部材等を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比が異なって表される場合もある。
【0010】
図1は、本発明の災害用テントの使用状態における一実施形態を示す平面図であり、
図2は、
図1に示される災害用テントのI−I間の一点線における拡大縦断面図である。
図1および
図2において、本発明の災害用テント1は、環状の気室12と、この気室12に接合された床布13と、補強布14と、を有する基部11と、基部11に着脱可能に設けられている天幕21と、天幕21を支持する支柱31と、を備えている。基部11を構成する補強布14は、床布13の接地側13a、および、気室12の接地側の気室12Aの外側壁12aを被覆している。
災害用テント1の平面視形状は、やや細長い六角形である。したがって、床布13の外形は、やや細長い六角形であり、この床布13の周囲に気室12が接合されている。このように、平面視形状が六角形である災害用テント1は、限られた広さの避難場所に複数個を設営する場合、被災者の通路を確保した上でより密に設営することができ好適である。
【0011】
気室12は、気室12Aと気室12Bとが接着剤で接合された2段構造を有しており、接地側(使用時の下段側)の気室12Aと床布13とが接着剤で接合されている。この接地側の気室12Aの外側壁12aには接合部材15が設けられている。そして、気室12Aの外側壁12aと床布13の接地側13aを被覆する補強布14の端部14aが接着剤で接合部材15に接合されている。また、上段側の気室12Bの外側壁12bの所定箇所(
図1に示す例では8箇所)には、天幕21を着脱自在に装着するための基部側留具17が配設されている。
このように気室12が2段構造を有することにより、仮に気室12Aと気室12Bのいずれか一方が破損した場合でも、残りの気室により基部11が維持され、テントとしての機能が確保される。尚、気室12の段数は2段に限定されず、3段以上の多段であってもよい。
【0012】
2段構造の気室12を構成する気室12A,12Bは、断面形状が円形となるように形成されており、材質としては、柔軟性を有すると共に所望の強度を有し気密性に優れたゴム引き布を挙げることができる。例えば、国土交通省が定める救命いかだの型式承認試験基準の膨脹式いかだの材料試験(主気室、天幕支柱気室及び床を構成するゴム引き布の試験)に準拠した判定基準を満足するゴム引き布を使用することができる。このような気室12を構成する気室12A,12Bには、それぞれ空気注入口(図示せず)と空気排出口(図示せず)が設けられている。尚、空気注入口が空気排出口を兼ねるものであってもよい。また、必要に応じて、気室12を構成する気室12A,12Bに加圧防止用の安全弁を設けてもよい。
また、基部11を構成する床布13の内部側13bには、床支柱座16が配設されている。この床支柱座16は、支柱31の一方の先端部31aが着脱可能に係合するものであり、
図1に鎖線で示した2箇所に配設されている。
【0013】
床布13の材質としては、柔軟性を有すると共に所望の強度を有し気密性に優れたゴム引き布を挙げることができる。例えば、国土交通省が定める救命いかだの型式承認試験基準の膨脹式いかだの材料試験(主気室、天幕支柱気室及び床を構成するゴム引き布の試験)に準拠した判定基準を満足するゴム引き布を使用することができる。この床布13は、上記の気室12と同じゴム引き布であってもよい。また、床支柱座16の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属、カーボンブラック、硬質プラスチック等、支柱31の先端部31aを確実に係止できるものであればよい。床支柱座16と支柱31の先端部31aとの係合は、床支柱座16に設けた凹部へ先端部31aを嵌着するもの、あるいは螺着するもの等、特に制限はない。
また、接合部材15は、補強布14の端部14aから気室12Aに作用する外力を緩和し、気室12Aを保護するものであり、例えば、気室12と同じゴム引き布を接着剤で気室12Aに接合したものであってよい。このような接合部材15は、接地側の気室12Aの外側壁12aの周囲に連続した状態で設けることができ、また、所定間隔で設けてもよく、配設位置は、補強布14を保持可能なように適宜設定することができる。
【0014】
本発明の災害用テント1の基部11を構成する補強布14は、柔軟性を有すると共に所望の強度を有する繊維布である。補強布14に使用する原糸に要求される物性としては、例えば、耐摩耗性及び耐屈曲疲労性が10000サイクル以上、耐突き刺し性が400N以上、耐候性が原強の80%以上のような物性が挙げられる。このような補強布14としては、例えば、東洋紡(株)製 ダイニーマ等の有機繊維等が挙げられる。また、補強布14は、上記のような物性を具備した原糸を使用した繊維布とともに、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等を組み合わせて使用したものであってもよい。
ここで、上記の各強度項目の評価は下記の条件、試験方法により行う。
・耐摩耗性の評価 : JIS L 1015に準拠
・耐屈曲疲労性の評価: JIS R 3420に準拠
・耐突き刺し性の評価: MIL T 52573D、MIL T 6396E、
TSO−C69cに準拠
・耐候性の評価 : JIS L 1015に準拠
【0015】
本発明の災害用テント1を構成する天幕21は、周縁部21aが気室12の外形形状と同様であり、図示例では、頂部21bが棟を構成する形状を有している。この天幕21の周縁部21aには、上記の気室12Bの外側壁12bに配設されている基部側留具17に対応するように複数(図示例では8個)の天幕側留具22が配設されている。この天幕側留具22は、基部側留具17と着脱可能に係合できるものである。また、天幕21の頂部21bには、棟の両端(
図1に鎖線で示した2箇所)に位置するように天幕支柱座23が配設されている。この天幕支柱座23は、支柱31の他方の先端部31bが着脱可能に係合するものである。天幕支柱座23と支柱31の先端部31bとの係合は、特に制限はないが、作業性の点から、天幕支柱座23に設けた凹部へ先端部31bを嵌着するものが好適である。
また、図示では、天幕21の1箇所には、開閉可能な出入り口25が設けられている。この出入り口25の位置、数は特に制限はない。
【0016】
使用する天幕21の材質としては、柔軟性を有すると共に所望の強度を有し気密性に優れたゴム引き布を挙げることができる。例えば、国土交通省が定める救命いかだの型式承認試験基準の膨脹式いかだの材料試験(外側天幕布を構成するゴム引き布の試験)に準拠した判定基準を満足するゴム引き布を使用することができる。また、天幕支柱座23の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属、カーボンブラック、硬質プラスチック等、支柱31の先端部31bを確実に係止できるものであればよく、床支柱座16と同じ材質であってもよい。
また、支柱31は棒状、パイプ形状いずれであってもよく、また、非使用時の省スペース化を考慮して、2本以上を継ぎ合わせて1本の支柱31を構成するようにしてもよい。支柱31の材質は、天幕21を安定して支持できるものであればよく、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属、カーボンブラック等であってよい。
【0017】
このような災害用テント1は、空気注入口(図示せず)から気室12A,12Bに空気を注入し膨張させて、基部11を使用状態とすることができる。次いで、2箇所の床支柱座16に支柱31の先端部31bを係合し、各支柱31の先端部31aに天幕支柱座23が係合するように天幕21を基部11上に配置する。そして、天幕21の周縁21aに設けた天幕側留具22と、基部11に設けた基部側留具17とを係合することにより、基部11に天幕56を装着することができ、災害用テント1を使用状態とすることができる。
このように使用状態とされた災害用テント1は、基部11により形状の維持が可能であるため、移動してもテント機能が安定して得られ、これにより設営場所を随時変更することが可能である。また、基部11の接地側には補強布14が位置しているので、災害用テント1を地面等に対して摺動させながら移動しても、気室12や床布13に損傷が及ぶことが防止され、信頼性が高いものである。
【0018】
また、集中豪雨、洪水等による水害に襲われた場合には、使用状態とされた災害用テント1はボートのような浮力体として機能する。さらに、屋外避難場所が集中豪雨、洪水等による水害に襲われた場合には、設営されていた災害用テント1が、そのままボートのような浮力体として機能することができ、被災者の安全を確保することができる。例えば、本発明の災害用テントは、国土交通省が定める救命いかだの型式承認試験基準の膨脹式いかだの材料試験(30日間の係留試験)に準拠した判定基準を満足する耐久性を具備している。また、本発明の災害用テントは、アメリカ連邦航空局発行の航空機用救命ボートの規格(海上性能:風速8.8〜14m/秒および波高1.9〜3.1mの条件下で使用できること)を満足する安定性を具備している。また、本発明の災害用テント1は、ボートのような浮力体として機能する場合、床布13の接地側13a、および、気室12の接地側の気室12Aの外側壁12aを被覆する補強布14を有しているので、気室12、床布13が保護され、耐久性、信頼性に優れるものである。
【0019】
また、使用状態とされた災害用テント1を屋内の避難場所で使用したときには、プライバシーの確保が可能である。
また、本発明の災害用テント1は、基部側留具17と天幕側留具22との係合を解除し、天幕21、支柱31を取り外し、気室12A,12B内の空気を空気排出口(図示せず)から抜いてコンパクトに折り畳むことができる。したがって、非使用時における保管場所の省スペース化が可能であり、また、運搬が容易である。
【0020】
図3は、本発明の災害用テントの他の実施形態を示す
図2相当の縦断面図である。
図3に示される災害用テント1では、床布13の接地側13aの一部に、
図1に示される矢印a方向に沿って並行に2本の接合部材18が設けられ、この接合部材18に接着剤で補強部14が接合されている。この接合部材18は、床布13と補強布14との摺動を抑制することにより、床布13に作用する外力を緩和して、床布13を保護するものである。また、接合部材18によって床布13と補強布14とが接合されることにより、補強布14の端部14aから接合部材15に作用する応力が緩和される。このような接合部材18は、例えば、床布13と同じゴム引き布を接着剤で床布13に接合したものであってよい。尚、接合部材18の数、配設方向、形状は図示例に限定されるものではない。例えば、
図1に示される矢印a方向に沿って、床布13の中央に1本の接合部材18が設けられたものであってもよい。
【0021】
また、本発明の災害用テント1は、床布13の接地側13aとともに気室12の少なくとも接地側の外側壁12aが補強布14で被覆されていればよく、補強布14の端部14aを気室12に接合する位置は特に制限がない。
図4に示される災害用テント1では、2段構造の気室12の上段側の気室12Bの外側壁12aに接合部材15が設けられており、気室12A,12Bの外側壁12aと床布13の接地側13aを被覆する補強布14の端部14aが接着剤で接合部材15に接合されている。接合部材15は、上段側の気室12Bの外側壁12aの周囲に連続した状態で設けてもよく、あるいは、所定間隔で設けてもよく、配設位置は、補強布14を保持可能なように適宜設定することができる。尚、
図4に示される実施形態においても、
図3に示されるような接合部材18を備えるものであってもよい。
【0022】
また、
図5は、本発明の災害用テントの他の実施形態を示す
図2相当の縦断面図である。
図5に示される災害用テント1では、基部11を構成する気室12が多段構造でなく1つの環状気室からなっている。この場合も、床布13の接地側13aとともに気室12の少なくとも接地側の外側壁12aが補強布14で被覆されていればよく、補強布14の端部14aを接合部材15を介して気室12に接合する位置は特に制限がない。尚、
図5に示される実施形態においても、
図3に示されるような接合部材18を備えるものであってもよい。
【0023】
また、
図6は、本発明の災害用テントの他の実施形態を示す
図2相当の縦断面図である。
図6に示される災害用テント1では、補強布14が、床布13の接地側13a、気室12の少なくとも接地側の外側壁12aと接合された状態となっている。
上述の実施形態は本発明の例示であり、本発明はこのような態様に限定されるものではない。
例えば、上述の実施形態における床布13の平面視形状は、やや細長い六角形であるが、床布13の平面視形状には特に制限がなく、円形、四角形、多角形、楕円形、やや細長い多角形等であってよい。
【0024】
また、天幕21の頂部21bの形状には特に制限はなく、例えば、天幕21の頂部21bには棟が存在せず、頂部21bに1個の天幕支柱座23が設けられており、これに対応するように床布13にも1個の床支柱座16が設けられ、支柱が1本であるような態様であってもよい。
さらに、本発明の災害用テントは、使用状態の災害用テントをロープ等によって地面等に固定するための係止部材を気室12の外側壁12aに備えるものであってもよい。
【0025】
また、本発明の災害用テントは、気室に空気注入口、空気排出口と共に、水注入口、水排出口を有するものであってもよい。例えば、災害用テント1の気室12を構成する接地側の気室12Aが、空気注入口、空気排出口と共に、水注入口、水排出口を有する場合、災害用テント1を使用状態とするに際して、気室12Aの一部乃至全体を占めるように水を注入してもよい。これにより、基部11が低重心になるとともに重量が増加するので、風に対する安定性が向上する。