(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)本発明の一態様に係る誘導加熱装置は、熱媒体を加熱する誘導加熱装置であって、回転軸を有する回転体と、前記回転体と間隔をあけて対向して配置される加熱部と、前記回転体に設けられ、前記加熱部に対して磁束を発生する磁束発生部と、前記加熱部の前記磁束発生部に対向する対向面側に設けられ、前記磁束発生部からの磁束を前記加熱部に案内する磁束ガイド部と、前記加熱部に設けられ、前記熱媒体が流通する流通路とを備える。そして、前記磁束ガイド部は、
磁性材料で形成された磁性体部と、非磁性かつ電気絶縁性の材料で形成された絶縁体部とを有し、前記磁性体部と前記絶縁体部とが、前記磁束発生部から前記加熱部の方向に沿って延び、かつ、前記加熱部の周方向に沿って交互に積層された構造を有する。
【0014】
上記誘導加熱装置によれば、加熱部の対向面側に磁束ガイド部が設けられていることで、磁束発生部で発生した磁束が磁束ガイド部の磁性体部を通り、磁束発生部からの磁束を加熱部に伝えることができる。磁束ガイド部の磁性体部は、磁性材料で形成されており、磁束発生部からの磁束が流れ、磁束発生部と加熱部との間で磁束を伝える磁路を形成する。磁束ガイド部は、磁性体部と絶縁体部とが交互に積層された構造であり、磁性体部間には非磁性かつ電気絶縁性の材料で形成された絶縁体部が介在するため、磁性体部に磁束が流れても、磁性体部に発生する渦電流は絶縁体部によって分断されることから、渦電流が流れ難い。そのため、磁性体部において、渦電流の発生が抑制され、熱エネルギーとして磁束が消費され難いことから、磁束の拡散を抑制できる。したがって、磁束ガイド部によって、磁束発生部からの磁束を拡散させることなく、加熱部に伝えることができ、また、磁束ガイド部において、渦電流による発熱も抑制できる。磁性体部に流れる磁束は、絶縁体部によって隣り合う磁性体部の方向(即ち、加熱部の周方向)に流れ難く、磁束ガイド部において、磁束発生部から加熱部の方向に沿って磁束が案内され易い。
【0015】
よって、上記誘導加熱装置によれば、加熱部の対向面側に磁束ガイド部が設けられていることで、磁束ガイド部において渦電流による発熱が抑制されると共に、磁束発生部と加熱部との距離が離れることになるため、磁束発生部への熱の影響を低減でき、磁束発生部の温度上昇を抑制できる。また、磁束発生部と加熱部との距離が離れていても、磁束ガイド部によって、磁束発生部からの磁束を拡散させることなく、加熱部に伝えることができるので、加熱部での発熱量を向上できる。
【0016】
磁性体部を形成する磁性材料は、透磁率が高い材料であり、例えば比透磁率が500以上、更に1000以上である材料が好ましい。具体的には、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属や、電磁鋼(ケイ素鋼)、センダスト、パーマロイ、磁性ステンレス鋼などの合金といった磁性金属、フェライト、マグネタイトなどの磁性酸化物が挙げられる。磁性ステンレス鋼としては、マルテンサイト系ステンレス鋼(例、SUS 420J2)、フェライト系ステンレス鋼(例、SUS 430)、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(例、SUS 329J4L)などが挙げられる。絶縁体部を形成する非磁性かつ電気絶縁性の材料は、透磁率が低く、電気抵抗率が高い材料であり、例えば、比透磁率が3以下で、かつ体積抵抗率が10
7Ω・m以上である材料が好ましい。具体的には、樹脂やセラミック、ガラスなどが挙げられる。
【0017】
(2)上記誘導加熱装置の一形態として、上記磁束ガイド部が、絶縁皮膜を有する電磁鋼板が複数積層された積層体で形成されていることが挙げられる。
【0018】
絶縁皮膜を有する電磁鋼板を積層することで、磁束ガイド部を容易に構成できる。この場合、電磁鋼板が磁性体部に相当し、表面の絶縁皮膜が絶縁体部に相当することになる。
【0019】
(3)上記誘導加熱装置の一形態として、上記磁束ガイド部が、上記加熱部の対向面に全体に亘って設けられていることが挙げられる。
【0020】
磁束ガイド部が加熱部の対向面に全体に亘って設けられていることで、加熱部全体に対して磁束を伝えることができ、加熱部での発熱量の向上を図り易い。
【0021】
(4)上記誘導加熱装置の一形態として、上記磁束ガイド部が、前記加熱部の周方向に空間をあけて上記加熱部の対向面に複数設けられていることが挙げられる。
【0022】
磁束ガイド部が空間をあけて複数設けられていることで、磁束ガイド部間の空間によって、隣り合う磁束ガイド部への磁束の移動が阻止されることから、磁束ガイド部において、磁束発生部から加熱部の方向に沿って磁束が案内される。
【0023】
(5)上記(4)に記載の誘導加熱装置の一形態として、上記磁束ガイド部間の上記空間に断熱材が配置されていることが挙げられる。
【0024】
磁束ガイド部間の空間に断熱材が配置されていることで、加熱部からの放熱を低減できる。よって、加熱部からの熱ロスを抑制でき、熱媒体の加熱効率を改善できる。また、断熱材は、一般に非磁性体であることから、隣り合う磁束ガイド部への磁束の移動が阻止される。断熱材としては、例えば、ロックウール、グラスウール、発泡プラスチック、レンガ、セラミックなどが挙げられる。
【0025】
(6)上記誘導加熱装置の一形態として、上記流通路が、上記加熱部と上記磁束ガイド部とにそれぞれ設けられると共に各流通路の一端同士が接続され、両流通路により往復の流路となるように形成されており、前記各流通路のうち、上記磁束ガイド部に設けられた一方の流通路が往路であり、上記加熱部に設けられた他方の流通路が復路であることが挙げられる。
【0026】
流通路が加熱部と磁束ガイド部とにそれぞれ設けられると共に、往復の流路となるように形成されていることで、加熱部で発生した熱だけではなく、加熱部から磁束ガイド部に伝わった熱も熱媒体によって回収できる。したがって、加熱部で発生した熱の回収効率を改善でき、熱媒体を効率よく加熱できる。また、磁束ガイド部に設けられた一方の流通路を往路とした場合、磁束ガイド部に設けられた流通路に温度の低い熱媒体が供給されることになるため、磁束ガイド部が冷却され、磁束ガイド部の温度上昇を効果的に抑制できる。よって、磁束発生部への熱の影響をより低減でき、磁束発生部の温度上昇をより抑制できる。
【0027】
(7)上記誘導加熱装置の一形態として、上記回転軸が風車に接続されていることが挙げられる。
【0028】
回転体(回転軸)を回転させる動力には、電動機やエンジンなどの内燃機関を用いることも可能であるが、風力、水力、波力などの再生可能エネルギーを利用することが好ましい。再生可能エネルギーを利用すれば、CO
2の発生を抑制できる。回転軸が風車に接続されていることで、回転体の動力に風力を利用することができる。
【0029】
(8)本発明の一態様に係る発電システムは、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の誘導加熱装置と、上記誘導加熱装置により加熱した上記熱媒体の熱を電気エネルギーに変換する発電部とを備える。
【0030】
上記発電システムによれば、本発明の一態様に係る上記誘導加熱装置を備えることから、誘導加熱装置において、磁束発生部の温度上昇を抑制できながら、加熱部での発熱量を向上できる。そのため、誘導加熱装置における熱媒体の加熱効率を向上でき、発電効率の向上を図ることが可能である。
【0031】
上記発電システムは、上記誘導加熱装置により加熱した熱媒体の熱を利用して発電するものである。例えば誘導加熱装置の回転軸に風車を接続し、回転体の動力に風力を利用すれば、風のエネルギーを回転エネルギー→熱エネルギーに変換して、電気エネルギーとして取り出すことができる。一例としては、熱媒体の水を加熱して高温高圧蒸気を生成し、その蒸気を利用して蒸気タービンにより発電機を回転させて発電することが挙げられる。また、熱を電気エネルギーに変換する構成としたことで、蓄熱器を用いて熱としてエネルギーを蓄えることにより、安定した発電システムを実現できる。
【0032】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る誘導加熱装置、及び発電システムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0033】
〈誘導加熱装置〉
[実施形態1]
図1〜
図3を参照して、実施形態1に係る誘導加熱装置101について説明する。誘導加熱装置101は、回転体11と、加熱部13と、磁束発生部15と、磁束ガイド部12と、流通路17とを備える。誘導加熱装置101は、磁束発生部15と加熱部13とが回転体11の径方向に間隔をあけて対向して配置された、所謂ラジアルギャップ型の構造である。以下、誘導加熱装置101の構成を詳しく説明する。
【0034】
(回転体)
回転体11は、軸受(図示せず)により回転可能に支持された回転軸21を有し、回転軸21の一端側に連結された筒状又は柱状の部材である。この例では、円柱状の回転体11の中心軸に貫通孔が形成されており、その貫通孔に回転軸21が挿通され、回転軸21に回転体11が固定されている。回転体11の外周には、径方向に突出する複数の凸部111が形成されている。この例では、8つの凸部111を有し、各凸部111が周方向に等間隔に形成されている。また、回転体11の外周には、後述する磁束発生部15(この例ではコイル15c)が設けられている。ここでは、回転体11が反時計方向に回転するものとする(
図2、
図3中の実線矢印は回転方向を示す)。回転体11の動力には、例えば回転軸21に風車(図示せず)を接続し、風力を利用することが挙げられる。
【0035】
回転体11の形成材料としては、磁性材料、非磁性材料を問わず、機械的強度を有し、磁束発生部15を支持可能な材料であればよく、構造強度と長期耐久性(耐候性及び耐食性)に優れる材料が好ましい。例えば、構造用材料に使用される鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの金属や、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの複合材料が挙げられる。
【0036】
この例では、回転体11(凸部111を含む)が磁性材料で形成されている。磁束発生部15(コイル15c)に常電導コイルを用いる場合は、回転体11を磁性材料で形成することが好ましい。一方、超電導コイルを用いる場合は、回転体11は磁性材料、非磁性材料のいずれで形成してもよい。超電導コイルを用いる場合、回転体11の磁束飽和のために発生磁場が限定されてしまう虞があることから、回転体11を非磁性材料で形成することが好ましい場合もある。
【0037】
(加熱部)
加熱部13は、回転体11と間隔をあけて対向して配置され、回転体11の外周側に設けられた筒状の部材である。加熱部13は、回転体11に対して径方向に間隔をあけて対向して配置され、回転しないようにケーシング(図示せず)に固定されている。加熱部13には、磁束発生部15からの磁束が流れることにより、後述するように渦電流が生じ、誘導加熱によって加熱部13が発熱する。
【0038】
加熱部13は、磁束が流れることによって渦電流が発生して発熱する磁性材料、例えば、磁性金属で形成されている。磁性金属としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属や、電磁鋼(ケイ素鋼)、センダスト、パーマロイ、磁性ステンレス鋼などの合金が挙げられる。磁性ステンレス鋼としては、マルテンサイト系ステンレス鋼(例、SUS 420J2)、フェライト系ステンレス鋼(例、SUS 430)、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(例、SUS 329J4L)などが挙げられる。加熱部13を形成する磁性材料は、比透磁率が500以上、更に1000以上であることが好ましい。この例では、加熱部13が鉄で形成されている。加熱部13の厚さ(径方向の厚さ)は、磁束発生部15による磁束が流れても磁気飽和せず、磁束によって十分な渦電流が流れる厚さ(少なくとも表皮厚さ以上)となるように設定されている。
【0039】
(磁束発生部)
磁束発生部15は、回転体11に設けられ、加熱部13に対して磁束を発生する。この例では、加熱部13に対向するように回転体11の外周に磁束発生部15が設けられており、回転体11の径方向(加熱部13の方向)に磁束を発生する。具体的には、磁束発生部15としてコイル15cを用いており、回転体11の各凸部111にコイル15c(計8個)が巻回され取り付けられている。凸部111が磁性材料で形成されている場合、コイル15cと凸部111とで磁束発生部15が構成される。各コイル15cには、直流電源(図示せず)が接続され、各コイル15cに通電する電流の向きを制御して、発生させる磁場(磁束)の方向を決定しており、隣り合うコイル15cの極性が互いに異なっている(
図2を参照)。コイル15cには、例えばスリップリングを介して外部の電源と接続し、電流を供給することが挙げられる。
【0040】
磁束発生部15としては、コイル(電磁石)の他、永久磁石を用いることも可能である。コイルとしては、銅線などの常電導コイルや超電導線材を用いた超電導コイルが挙げられる。コイルの場合、コイルに通電する電流を大きくすることで、強い磁場を発生させることができ、通電電流を制御することで磁場の強さを調整することも可能である。誘導加熱(渦電流)による発熱量は磁場強度の2乗に比例することから、コイルは永久磁石に比較して発熱量の向上を図り易い。また、コイルであれば、永久磁石に比べて、温度上昇による磁気特性の低下や、経時的な磁気特性の劣化が起こり難い。したがって、磁束発生部15にコイルを用いた場合、通電電流を大きくして十分な磁場強度を維持し易く、熱媒体を発電に適した所定の温度(例えば、100℃〜600℃、好ましくは200℃〜350℃)まで加熱するのに十分な性能(熱エネルギー)を得易い。なお、コイルには直流電流を流し、直流磁場を発生させることが挙げられる。さらに、コイルに直流電流を流し、直流磁場を発生させる場合、超電導コイルであれば、電気抵抗がゼロであり、大電流を流してもコイルに発熱(損失)が実質的に生じない。そのため、常電導コイルに比較して、大電流を流すことによるコイルの発熱(損失)を抑制することができ、電力損失なしで極めて強い磁場を維持することができる。この例では、各コイル15cは、超電導コイルであり、周囲を冷却用ジャケット(図示せず)で覆い、冷却することによって超電導状態に保持されている。勿論、コイル15cには常電導コイルを用いてもよく、コイル15cに代えて永久磁石を用いてもよい。
【0041】
(磁束ガイド部)
磁束ガイド部12は、加熱部13の磁束発生部15に対向する対向面側に設けられ、磁束発生部15からの磁束を加熱部13に案内する。この例では、加熱部13の内周面に固定されており、磁束発生部15で発生した磁束を磁束ガイド部12を介して加熱部13に伝える。磁束ガイド部12は、加熱部13の内周面に全体に亘って設けられている。
【0042】
磁束ガイド部12は、磁性材料で形成された磁性体部121と、非磁性かつ電気絶縁性の材料で形成された絶縁体部122とを有する。そして、加熱部13の軸方向に直交する横断面において、磁性体部121と絶縁体部122とが、磁束発生部15から加熱部13の方向に沿って延び、かつ、加熱部13の周方向に沿って交互に積層された構造を有する。この例では、磁性体部121が薄板状の部材であり、加熱部13の径方向に沿って配置され、絶縁体部122を挟んで複数の磁性体部121が加熱部13の周方向(磁束発生部15の回転方向)に積層されている。
【0043】
磁束ガイド部12の磁性体部121は、磁束発生部15からの磁束が流れ、磁束発生部15と加熱部13との間で磁束を伝える磁路を形成する。磁性体部121と絶縁体部122とが交互に積層され、磁性体部121間に絶縁体部122が介在するため、磁性体部121に磁束が流れても、磁性体部121に発生する渦電流は絶縁体部122によって分断されることから、渦電流が小さくなる。そのため、磁性体部121では、渦電流の発生が抑制され、磁束の変化が妨げられないので、磁束の拡散が抑制される。したがって、磁束ガイド部12によって、磁束発生部15からの磁束を拡散させることなく、加熱部13に伝えることができる。磁束ガイド部12において、渦電流による発熱も抑制される。また、磁性体部121に流れる磁束は、絶縁体部122によって隣り合う磁性体部121の方向(即ち、加熱部13の周方向)に流れ難く、磁束発生部15から加熱部13の方向に沿って主として案内される。
【0044】
磁性体部121を形成する磁性材料は、比透磁率が500以上、更に1000以上であることが好ましく、例えば、上述した磁性金属や、フェライト、マグネタイトなどの磁性酸化物が挙げられる。絶縁体部を形成する非磁性かつ電気絶縁性の材料は、比透磁率が3以下で、かつ体積抵抗率が10
7Ω・m以上であることが好ましく、例えば、樹脂やセラミック、ガラスなどが挙げられる。この例では、磁束ガイド部12が絶縁皮膜を有する電磁鋼板が複数積層された積層体で形成されており、電磁鋼板が磁性体部121に相当し、表面の絶縁皮膜が絶縁体部122に相当する。電磁鋼板の積層体は、電磁鋼板を接着剤などで接着して形成することが挙げられる。電磁鋼板の絶縁皮膜は、酸化皮膜又は塗布皮膜で形成されており、例えば、リン酸塩皮膜やケイ酸塩皮膜、有機質のワニス皮膜又はエナメル皮膜などが挙げられる。
【0045】
磁性体部121の厚さ(積層方向の厚さ)は、磁束発生部15からの磁束が流れても磁気飽和せず、渦電流の発生を抑制できる厚さとなるように設定されている。磁性体部121(電磁鋼板)の厚さは、例えば0.1mm以上1mm以下、更に0.2mm以上0.5mm以下とすることが挙げられる。絶縁体部122の厚さは、磁性体部121に発生する渦電流を分断でき、かつ、磁性体部121に流れる磁束が隣り合う磁性体部121に移動することを抑制できる厚さとなるように設定されている。絶縁体部122(絶縁皮膜)の厚さは、例えば0.1μm以上5μm以下、更に1μm以上3μm以下とすることが挙げられる。
図2では、磁性体部121及び絶縁体部122を誇張して示している。
【0046】
(流通路)
加熱部13には、熱媒体が流通する流通路17が設けられている。この例では、加熱部13の軸方向に沿って流通路17が設けられており、加熱部13の軸方向の一方側から他方側(
図1では右側から左側)へ熱媒体が流通する(
図1中の白抜き矢印は熱媒体の流通方向を示す)。流通路17は、加熱部13の内部に貫通する孔を形成し、この孔に配管を挿通することで形成されている。流通路17は加熱部13との間で熱の授受が可能であり、加熱部13と流通路17とが熱的に接続されていれば、流通路17の形成箇所は特に問わない。そのため、流通路17は、加熱部13の外周面に配管を接触させて配置することで形成することも可能である。配管は、熱媒体と接触しても腐食せず、耐熱性に優れ、熱伝導率の高い金属材料で形成することが挙げられる。熱媒体としては、例えば、水、水蒸気、油、液体金属(Na、Pbなど)、溶融塩などの液体並びに気体が挙げられる。
【0047】
次に、主に
図3を参照して、誘導加熱装置101における熱媒体が加熱されるメカニズムについて説明する。
【0048】
ここでは、
図3に示すN極の磁束発生部15に着目して説明する。N極の磁束発生部15(コイル15c)から回転体11の径方向に発生した磁束は、その磁束発生部15に対向する磁束ガイド部12の磁性体部121を通り、加熱部13に案内される(
図3中の点線矢印は磁束の流れを示す)。このとき、磁性体部121では、絶縁体部122によって渦電流の発生が抑制されるため、磁束の変化が妨げられ難く、磁束の拡散が抑制される。したがって、磁束発生部15からの磁束は、磁束ガイド部12を介して拡散されることなく、加熱部13に伝えられる。加熱部13に到達した磁束は、加熱部13内を周方向に流れ、S極に対向する磁束ガイド部12の磁性体部121を通り、S極の磁束発生部15に達する。つまり、N極の磁束発生部15から、磁束ガイド部12(磁性体部121)、加熱部13、磁束ガイド部12(磁性体部121)を通って、S極の磁束発生部15に至るループ状の磁路が形成される。そして、回転体11と共に磁束発生部15が回転することにより、加熱部13に対して磁束発生部15が相対的に移動することで、加熱部13に流れる磁束の方向が変化し、磁場が周期的に変化する。その結果、加熱部13に渦電流が発生することで、加熱部13が発熱し、その熱が流通路17に流れる熱媒体に伝熱され、熱媒体が加熱される。
【0049】
また、磁性体部121に流れる磁束は、絶縁体部122によって隣り合う磁性体部121の方向に流れ難く、磁束ガイド部12において、磁束発生部15から加熱部13の方向に沿って案内され易い。つまり、磁性体部121に流れる磁束が、磁束ガイド部12内を周方向に流れることを抑制でき、上記ループ状の磁路がショートカットすることを抑制できる。
【0050】
磁束発生部15(コイル15c)の数は、適宜設定することができる。磁束発生部15の数をある程度増やすことで、磁場の変動周期を短くすることができる。誘導加熱による発熱量は磁場の周波数に比例することから、磁場の周期を短くすることで、発熱量の向上が期待できる。磁束発生部15の数は、例えば4個以上が好ましく、6個以上、更に10個以上がより好ましい。
【0051】
{作用効果}
実施形態1の誘導加熱装置101は、磁束発生部15に対向する加熱部13の内周面に磁束ガイド部12が設けられていることで、磁束発生部15からの磁束を拡散させることなく、加熱部13に伝えることができる。誘導加熱装置101は、磁束ガイド部12において渦電流による発熱が抑制されると共に、磁束発生部15と加熱部13との距離が離れることになるため、磁束発生部15への熱の影響を低減でき、磁束発生部15の温度上昇を抑制できる。また、磁束発生部15と加熱部13との距離が離れていても、磁束ガイド部12を介して磁束発生部15からの磁束を拡散させることなく、加熱部13に伝えることができるので、加熱部13での発熱量を向上できる。
【0052】
[変形例1−1]
実施形態1の誘導加熱装置101では、流通路17が加熱部13に設けられている形態を説明したが、流通路17は、加熱部13だけでなく、磁束ガイド部12に設けることも可能である。変形例1−1では、流通路17が加熱部13と磁束ガイド部12とにそれぞれ設けられている形態を説明する。以下、
図4、
図5を参照して、変形例1−1の誘導加熱装置101について、実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0053】
図4、
図5に示す変形例1−1の誘導加熱装置101では、加熱部13及び磁束ガイド部12に流通路171及び流通路172がそれぞれ設けられている。加熱部13に設けられた流通路171は、加熱部13の軸方向に沿って貫通孔を形成し、この貫通孔に配管を挿通することで形成されている。磁束ガイド部12に設けられた流通路172も、流通路171と同様に、磁束ガイド部12の軸方向に沿って貫通孔を形成し、この貫通孔に配管を挿通することで形成されている。この例では、各流通路171,172の一端同士が接続管175(
図5を参照)により接続されており、流通路17は、両流通路171,172により往復の流路となるように形成されている。具体的には、流通路171,172のうち、流通路172が往路であり、流通路171が復路である。この例では、
図5に示すように、流通路172の一方側から熱媒体が供給され、流通路172を流通した熱媒体が他方側に接続された接続管175を介して流通路171に流通し、流通路171の一方側から熱媒体が排出される(
図5中の白抜き矢印は熱媒体の供給・排出方向を示す)。
【0054】
変形例1−1の誘導加熱装置101によれば、加熱部13で発生した熱だけではなく、加熱部13から磁束ガイド部12に伝わった熱も熱媒体によって回収できる。したがって、加熱部13で発生した熱の回収効率を改善でき、熱媒体を効率よく加熱できる。また、磁束ガイド部12に設けられた流通路171を往路とすることで、温度の低い熱媒体が流通路171に供給され、磁束ガイド部12が冷却されることになるため、磁束ガイド部12の温度上昇を効果的に抑制できる。よって、磁束発生部15への熱の影響をより低減でき、磁束発生部15の温度上昇をより抑制できる。
【0055】
[変形例1−2]
実施形態1の誘導加熱装置101では、磁束ガイド部12において、磁性体部(電磁鋼板)121が絶縁体部(絶縁皮膜)122を挟んで加熱部13の径方向(加熱部13の周方向に直交する方向)に沿って配列された形態を説明した。磁束ガイド部12の磁性体部121は、
図6に示す変形例1−2のように、加熱部13の径方向に対して傾斜するように配列されていてもよい。この構成によれば、磁束ガイド部12の厚さ(径方向の厚さ)、及び回転体11の凸部111の外周面と磁束ガイド部12の内周面との間隔が実施形態1と同じであっても、主たる熱伝導経路となる磁性体部121の長さを実施形態1に比べて長く採ることができる。径方向に沿った熱伝導経路は、磁性体部121に比べて一般に熱抵抗が大きい絶縁体部122によって分断されて主たる熱伝導経路とはならず、磁性体部121の傾斜に沿った方向が主たる熱伝導経路になると考えられるからである。よって、磁束発生部15と加熱部13との熱伝導距離が実質的に離れることになるため、磁束発生部15への熱の影響を低減でき、磁束発生部15の温度上昇を抑制できる。一方、主たる熱伝導経路となる磁性体部121が長くなっても、それ自体が磁性材料で形成されていることから、磁束発生部15からの磁束を拡散させることなく、加熱部13に伝えることができる。
【0056】
[実施形態2]
実施形態1の誘導加熱装置101では、磁束ガイド部12が加熱部13の対向面(内周面)の全周に亘って設けられている形態を説明したが、磁束ガイド部12は、加熱部13の内周面の周方向に空間をあけて複数設けることも可能である。実施形態2では、磁束ガイド部12が、加熱部13の周方向に空間をあけて加熱部13の対向面に複数設けられている形態を説明する。以下、
図7、
図8を参照して、実施形態2の誘導加熱装置102について、実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0057】
図7に示す実施形態2の誘導加熱装置102では、加熱部13の内周面に周方向に空間をあけて複数の磁束ガイド部12が設けられている。各磁束ガイド部12は、円弧状の積層体である。この場合、
図8の点線矢印で示すように、磁束ガイド部12に流れる磁束は、磁束ガイド部12間の空間によって隣り合う磁束ガイド部12への磁束の移動が阻止されることなる。そのため、磁束ガイド部12において、磁束発生部15から加熱部13の方向に沿って磁束を案内できる。つまり、磁束ガイド部12が空間によって分断されていることで、N極の磁束発生部15から発生した磁束が磁束ガイド部12を通ってS極の磁束発生部15へショートカットすることを防止できる。
【0058】
[変形例2]
更に、実施形態2の誘導加熱装置102において、
図9に示す変形例2のように、磁束ガイド部12間の空間に断熱材19を配置することも可能である。断熱材19を配置することで、加熱部13からの放熱を低減できる。これにより、加熱部13からの熱ロスを抑制でき、熱媒体の加熱効率を改善できる。断熱材19は、一般に非磁性体であることから、隣り合う磁束ガイド部12への磁束の移動が阻止される。断熱材19としては、例えば、ロックウール、グラスウール、発泡プラスチック、レンガ、セラミックなどを用いることができる。
【0059】
[実施形態3]
上述した実施形態1、2では、誘導加熱装置の構造が磁束発生部15と加熱部13とが回転体11の径方向に間隔をあけて対向して配置された、所謂ラジアルギャップ型の構造である形態を説明した。実施形態3では、誘導加熱装置の構造が磁束発生部15と加熱部13とが回転体11の軸方向に間隔をあけて対向して配置された、所謂アキシャルギャップ型の構造である形態を説明する。以下、
図10〜
図13を参照して、実施形態3に係る誘導加熱装置103について、実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0060】
(回転体及び加熱部)
回転体11と加熱部13は板状(ここでは円板状)であり、互いの面が対向するように間隔をあけて配置されている(
図10を参照)。回転体11は、軸受(図示せず)により回転可能に支持された回転軸21の一端側に連結されている。加熱部13は、回転体11に対して軸方向に間隔をあけて対向して配置され、回転しないようにケーシング(図示せず)に固定されている。
【0061】
(磁束発生部)
回転体11の加熱部13に対向する対向面に、回転体11の軸方向(加熱部13の方向)に磁束を発生する磁束発生部15が設けられている。この例では、磁束発生部15が永久磁石15mであり、
図11に示すように、回転体11の対向面に複数の扇形状の磁石15mが円形状に並べて配置され、隣り合う磁石15mの極性が互いに異なっている。
図11では、磁束発生部15(磁石15m)の数が6個の場合を例示しているが、磁束発生部15(磁石15m)の数はこれに限定されず、適宜設定することができる。磁束発生部15の数は、例えば4個以上が好ましく、8個以上、更に10個以上がより好ましい。磁束発生部15には、コイルを用いることも可能である。
【0062】
(磁束ガイド部)
加熱部13の磁束発生部15に対向する対向面に、磁束発生部15からの磁束を加熱部13に案内する磁束ガイド部12が設けられている。この例では、
図10及び
図12に示すように、磁性体部121と絶縁体部122とが、加熱部13の対向面に放射状に配置され、加熱部13の周方向に沿って交互に積層されている。
【0063】
(流通路)
流通路17は、加熱部13の径方向に沿って設けられている。この例では、
図10及び
図13に示すように、流通路17は、加熱部13の回転体11に対向する対向面とは反対側の反対面に、配管を放射状に配置することによって複数設けられている。また、各流通路17には、加熱部13の径方向の一方側から他方側(
図10では外側から内側)へ熱媒体が流通する(
図10中の白抜き矢印は熱媒体の供給・排出方向を示す)。
【0064】
{作用効果}
実施形態3の誘導加熱装置103であっても、実施形態1の誘導加熱装置101と同様に、磁束発生部15に対向する加熱部13の対向面に磁束ガイド部12が設けられていることで、磁束発生部15からの磁束を拡散させることなく、加熱部13に伝えることができる。したがって、磁束発生部15と加熱部13との距離が離れるため、磁束発生部15への熱の影響を低減でき、また、磁束ガイド部12を介して磁束発生部15からの磁束を拡散させずに加熱部13に伝えることができる。よって、ラジアルギャップ型の実施形態1と同じように、磁束発生部の温度上昇を抑制でき、かつ、加熱部での発熱量を向上できる。
【0065】
更に、実施形態3のアキシャルギャップ型の誘導加熱装置103においても、実施形態1の変形例1−1で説明したように、加熱部13だけでなく、磁束ガイド部12にも流通路17を設けてもよい。この場合、磁束ガイド部12に設けた流通路を往路とし、加熱部13に設けた流通路を復路として、両流通路により往復の流路を構成してもよい。更に、実施形態1の変形例1−2で説明したように、磁束ガイド部12において、磁性体部121を加熱部13の径方向に対して傾斜するように配列することも可能である。また、実施形態2で説明したように、加熱部13の対向面に周方向に空間をあけて複数の磁束ガイド部12を設けることも可能である。この場合、磁束ガイド部12間の空間に断熱材を配置してもよい。
【0066】
〈発電システム〉
図14を参照して、本発明の実施形態に係る発電システムの一例を説明する。
図14に示す発電システムPは、誘導加熱装置10と、風車20と、蓄熱器50と、発電部60とを備える。塔91の上部に設置されたナセル92に風車20が取り付けられ、ナセル92内に誘導加熱装置10が格納されている。また、塔91の下部(土台)に建てられた建屋93に蓄熱器50及び発電部60が設置されている。以下、発電システムPの構成を詳しく説明する。
【0067】
誘導加熱装置10は、本発明の実施形態に係る誘導加熱装置であり、例えば、上述した実施形態1〜3に係る誘導加熱装置101〜103を利用することができる。また、回転軸21の他端側が後述する風車20に直結され、回転体を回転させる動力に風力を利用している。なお、ここでは、熱媒体が水である場合を例に説明する。
【0068】
風車20は、水平方向に延びる回転軸21を中心に、3枚の翼201を回転軸21に放射状に取り付けた構造である。出力が5MWを超える風力発電システムの場合、直径が120m以上、回転数が10〜20rpm程度である。
【0069】
誘導加熱装置10の流通路(配管)には、誘導加熱装置10に水を供給する給水管73と、誘導加熱装置10により加熱した水を蓄熱器50に送る輸送管51とが接続されている。そして、誘導加熱装置10は、回転体に設けられた磁場発生部から磁束が発生し、回転体の回転により、回転体と間隔をあけて配置された加熱部を通過する磁束が変化することで、加熱部に渦電流が発生し、加熱部が発熱して流通路内の水を加熱する。誘導加熱装置10は、熱媒体である水を例えば100℃〜600℃といった高温に加熱する。また、誘導加熱装置10は、加熱部(流通路)が回転しない構造であるので、流通路と輸送管51及び給水管73との接続に回転継手を用いる必要がなく、例えば溶接などを用いて、簡易な構成で、堅牢な接続を実現できる。
【0070】
この発電システムPは、誘導加熱装置10により水を発電に適した温度(例えば200℃〜350℃)まで加熱し、高温高圧水を発生させる。高温高圧水は、誘導加熱装置10と蓄熱器50とを連結する輸送管51を通って蓄熱器50に送られる。蓄熱器50は、輸送管51を通って送られてきた高温高圧水の熱を蓄え、また、熱交換器を用いて発電に必要な蒸気を発電部60に供給する。なお、誘導加熱装置10により蒸気を発生させてもよい。
【0071】
蓄熱器50としては、例えば、蒸気アキュムレーターや、溶融塩や油などを用いた顕熱型、或いは、融点の高い溶融塩の相変化を利用した潜熱型の蓄熱器を利用することができる。潜熱型の蓄熱方式は蓄熱材の相変化温度で蓄熱を行うため、一般に、顕熱型の蓄熱方式に比べて蓄熱温度域が狭帯域であり、蓄熱密度が高い。
【0072】
発電部60は、蒸気タービン61と発電機62とを組み合わせた構造であり、蓄熱器50から供給された蒸気によって蒸気タービン61が回転し、発電機62を駆動して発電する。
【0073】
蓄熱器50に送られた高温高圧水又は蒸気は、復水器71で冷却され水に戻される。その後、ポンプ72に送られ、高圧水にして給水管73を通って誘導加熱装置10に送られることで循環する。
【0074】
この発電システムPによれば、本発明の実施形態に係る誘導加熱装置10を備えることから、誘導加熱装置10において、磁束発生部の温度上昇を抑制できながら、加熱部での発熱量を向上できる。よって、誘導加熱装置10における熱媒体の加熱効率を向上でき、発電効率の向上を図ることができる。その他、誘導加熱装置10により加熱した熱媒体の熱を蓄熱器50に蓄熱して発電することで、高価な蓄電池を用いなくても、需要に応じた安定的な発電を実現できる。また、風車20と誘導加熱装置10の回転軸21とを直結することにより、増速機(ギアボックス)のトラブルを回避することが可能である。さらに、熱媒体の熱を輸送管51により例えば塔91の下部(土台)に設置された発電部60に供給することで、ナセル92に発電部60を格納する必要がなく、塔91の上部に設置されるナセル92を小型・軽量化することができる。
【0075】
上記した発電システムPでは、熱媒体に水を用いた場合を例に説明したが、水よりも熱伝導率の高い液体金属を熱媒体に用いてもよい。このような液体金属としては、例えば液体金属ナトリウムが挙げられる。液体金属を熱媒体に用いる場合は、例えば、加熱部から熱を受け取る一次熱媒体に液体金属を用い、輸送管を通って送られてきた液体金属の熱で熱交換器を介して二次熱媒体(水)を加熱し、蒸気を発生させることが考えられる。
【0076】
また、常圧で100℃超の沸点を有する例えば油、液体金属、溶融塩などを熱媒体に用いた場合は、水に比較して、所定の温度まで加熱したときに、流通路内の熱媒体の気化による内圧上昇を抑制し易い。