(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SI値演算の重要なパラメータの1つとして、構造物モデルの固有周期の数がある。これは、固有周期T=0.1secから2.5secまでの区間を幾つに区切るかという刻みの数である。固有周期Tの刻み数を多くする(刻み幅を小さくする)方がSI値の精度は良くなる。
【0006】
しかし、固有周期Tの刻み数を多くすると、コンピュータの演算量が多くなるので、安価な製品を提供するための限られた能力のコンピュータでSI値を演算することが困難となり、またコンピュータの消費電力や発熱の増加が設計上の問題となる。したがって、固有周期Tの刻み数(あるいは刻み幅)と消費電力とのバランスを取るための固有周期Tの決定方法を改善する必要があった。
【0007】
従来は、固有周期Tを経験的な刻み(例えば等差数列)で決定し、過去の著名な地震や周波数特性に特徴のある様々な地震波の加速度をSI値の演算式に入力するシミュレーションを行ない、統計的な観点でSI値の推定精度を評価することで固有周期Tの設定が妥当かどうかを評価していた。
【0008】
このため、SI値の推定精度に満足できない場合は、固有周期Tの刻みをより細かくしたり、途中で刻み幅を変えたりして、再度シミュレーションを行なうという試行錯誤のため時間を要した。また、以上のような評価手法によると、シミュレーションに使用した地震波においてはSI値の推定精度を保証できるが、それ以外の地震波に対する精度は保証できないという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、SI値の算出に好適で、かつSI値の算出に要する演算量を抑えることができる固有周期の数列を、試行錯誤に依らない方法で短時間で設定することができる地震動強度測定装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の地震動強度測定装置は、構造物モデルの運動方程式を用いて、地震動の加速度に対する最大速度応答を算出する最大速度応答演算手段と、前記構造物モデルの固有周期を決定する調整時に、規定された2つの固有周期を1つずつ順番に前記最大速度応答演算手段に対して設定する固有周期設定手段と、調整時に地震動の加速度の代わりに、正弦波加速度の値を前記最大速度応答演算手段に入力する加速度入力手段と、調整時に前記最大速度応答演算手段が算出した最大速度応答を基に、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅を、前記固有周期設定手段が設定した固有周期別に求める周期幅導出手段と、前記固有周期設定手段が設定した2つの固有周期と、これらの固有周期別に前記周期幅導出手段が求めた入力正弦波加速度の周期幅とから、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅と固有周期との関係を示す数式を求める周期幅算出式導出手段と、この周期幅算出式導出手段が求めた数式を用いて、固有周期が規定された下限値から上限値を超えるまでの固有周期の個数を算出する固有周期算出手段と、固有周期の数列の項数が前記固有周期の個数と一致し、数列の初項が前記下限値と一致し、かつ数列の最終項が前記上限値と一致するように、固有周期の等比数列を求め、この等比数列を前記最大速度応答演算手段に設定して前記構造物モデルの固有周期を確定させる固有周期修正手段とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の地震動強度測定装置の1構成例は、さらに、前記最大速度応答演算手段が算出した最大速度応答を基にSI値を算出するSI値演算手段を備え、前記最大速度応答演算手段は、地震動強度測定時に、地震動の加速度に応じた最大速度応答を、前記固有周期修正手段が設定した固有周期別に算出することを特徴とするものである。
また、本発明の地震動強度測定装置の1構成例において、前記加速度入力手段は、前記固有周期設定手段が設定した固有周期に対応する周期範囲の中で正弦波加速度の周期を変えながら前記最大速度応答演算手段に正弦波加速度の値を入力することを特徴とするものである。
また、本発明の地震動強度測定装置の1構成例において、前記SI値の目標精度は、入力正弦波加速度の周期が、前記固有周期設定手段が設定した固有周期と等しいときに得られた最大速度応答を100%としたときの最大速度応答の正規化値で規定され、前記周期幅導出手段は、最大速度応答の正規化値が目標精度以上となる入力正弦波加速度の周期の範囲を、SI値の目標精度を満たす周期幅とすることを特徴とするものである。
また、本発明の地震動強度測定装置の1構成例において、前記固有周期算出手段は、前記下限値を固有周期の数列の初項とし、固有周期の数列の最終項が前記上限値を超えるまで、固有周期の数列の現在の最終項から、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅を算出して、この周期幅と固有周期の数列の現在の最終項とに基づいて固有周期の数列の新たな最終項を算出することを繰り返すことにより、固有周期の数列を求めて前記固有周期の個数を算出することを特徴とするものである。
また、本発明の地震動強度測定装置の1構成例において、前記固有周期設定手段が設定する2つの固有周期のうち一方は前記下限値であり、他方は前記上限値である。
【0012】
また、本発明の地震動強度測定方法は、構造物モデルの固有周期を決定する調整時に、規定された2つの固有周期を1つずつ順番に最大速度応答演算手段に対して設定する固有周期設定ステップと、調整時に正弦波加速度の値を前記最大速度応答演算手段に入力する加速度入力ステップと、調整時に前記最大速度応答演算手段が構造物モデルの運動方程式を用いて最大速度応答を算出する第1の最大速度応答演算ステップと、この第1の最大速度応答演算ステップで算出した最大速度応答を基に、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅を、前記固有周期設定ステップで設定した固有周期別に求める周期幅導出ステップと、前記固有周期設定ステップで設定した2つの固有周期と、これらの固有周期別に前記周期幅導出ステップで求めた入力正弦波加速度の周期幅とから、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅と固有周期との関係を示す数式を求める周期幅算出式導出ステップと、この周期幅算出式導出ステップで求めた数式を用いて、固有周期が規定された下限値から上限値を超えるまでの固有周期の個数を算出する固有周期算出ステップと、固有周期の数列の項数が前記固有周期の個数と一致し、数列の初項が前記下限値と一致し、かつ数列の最終項が前記上限値と一致するように、固有周期の等比数列を求め、この等比数列を前記最大速度応答演算手段に設定して前記構造物モデルの固有周期を確定させる固有周期修正ステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、規定された2つの固有周期を1つずつ順番に最大速度応答演算手段に対して設定し、正弦波加速度の値を最大速度応答演算手段に入力し、最大速度応答演算手段が構造物モデルの運動方程式を用いて算出した最大速度応答を基に、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅を、固有周期設定手段が設定した固有周期別に求め、固有周期設定手段が設定した2つの固有周期と、これらの固有周期別に周期幅導出手段が求めた入力正弦波加速度の周期幅とから、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅と固有周期との関係を示す数式を求め、この数式を用いて、固有周期が規定された下限値から上限値を超えるまでの固有周期の個数を算出し、固有周期の数列の項数が固有周期の個数と一致し、数列の初項が下限値と一致し、かつ数列の最終項が上限値と一致するように、固有周期の等比数列を求め、この等比数列を最大速度応答演算手段に設定して構造物モデルの固有周期を確定させることにより、SI値の算出に好適で、かつSI値の算出に要する演算量を抑えることができる固有周期の数列を、試行錯誤に依らない方法で短時間で設定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
本発明では、試行錯誤不要で、最悪でも目標精度を満たすSI値が求められる固有周期Tの数列を、以下のような手法で定めることができる。
上記のとおり、SI値を演算する際には、構造物を1自由度1質点減衰系で数式モデル化し、計測した地震動を入力加速度として構造物の速度応答を求め、この速度応答からSI値を求める。通常の木造家屋やコンクリート建築物の固有周期は0.1〜2.5secである。したがって、構造物モデルについても、0.1〜2.5secの固有周期を設定する。
【0016】
本発明では、このような速度応答の演算手段を利用して、ある固有周期Tを持つ1自由度1質点減衰系の構造物モデルに、様々な周期の正弦波加速度を入力してSv値(最大速度応答)を求める。Sv値の大小とSI値の精度は相関がある。
図1は入力正弦波加速度の周期TsとSv値との関係の1例を示す図である。
図1の例では、固有周期T=2.5secとし、入力正弦波加速度の周期Tsを横軸にとり、Sv値の正規化値を縦軸にとっている。Sv値の正規化値は、Ts=T=2.5secのときのSv値を100%としている。
【0017】
図1に示すように、Sv値は、入力正弦波加速度の周期Tsと固有周期Tとが等しい場合が最大となり、入力正弦波加速度の周期Tsが固有周期Tから離れると小さくなる。Sv値が小さくなるということは、SI値の精度が悪くなることを示す。よって、目標精度以上のSI値の精度が確保できる入力正弦波加速度の周期幅wは、
図1に示すように一意に決まる。
【0018】
図2は入力正弦波加速度の周期TsとSv値との関係を示す曲線を1自由度1質点減衰系の固有周期T毎に記載した図である。この
図2では、T
1=0.1secからT
n=2.5secまでの各固有周期Tについて、入力正弦波加速度の周期TsとSv値との関係を示す曲線C
1,C
2,C
3,・・・・,C
n-2,C
n-1,C
nを記載している。w
1,w
2,w
3,・・・・,w
n-2,w
n-1,w
nは、それぞれ固有周期T
1,T
2,T
3,・・・・,T
n-2,T
n-1,T
nに関して、SI値の目標精度が確保できる入力正弦波加速度の周期幅を示している。
【0019】
図2から分かる特徴を整理すると、以下のようになる。
(I)固有周期Tが短いと固有周期Tに比例してSv値が小さくなり、固有周期Tが長いとSv値が大きくなる。
(II)固有周期Tが短いと、固有周期Tから入力正弦波加速度の周期Tsが外れたときのSv値の落ち込みが大きくなり(周期Tsに対するSv値の変化が急になる)、固有周期Tが長いと、固有周期Tから入力正弦波加速度の周期Tsが外れたときのSv値の落ち込みが小さくなる。
【0020】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図3は本発明の実施の形態に係る地震動強度測定装置の構成を示すブロック図である。地震動強度測定装置は、地震動の加速度を検出する加速度計1と、構造物モデルの運動方程式を用いて、地震動の加速度に対するSv値を算出するSv値演算部2(最大速度応答演算手段)と、固有周期Tの調整時に、規定された2つの固有周期を1つずつ順番にSv値演算部2に対して設定する固有周期設定部3と、固有周期Tの調整時に地震動の加速度の代わりに、正弦波加速度の値をSv値演算部2に入力する加速度入力部4と、Sv値演算部2が算出したSv値を基に、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅を、固有周期設定部3が設定した固有周期別に求める周期幅導出部5と、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅と固有周期Tとの関係を示す数式を求める周期幅算出式導出部6と、周期幅算出式導出部6が求めた数式を用いて、下限値から上限値を超えるまでの固有周期Tの個数を算出する固有周期算出部7と、固有周期Tの数列を修正して構造物モデルの固有周期Tを確定させる固有周期修正部8と、Sv値演算部2が算出したSv値を基にSI値を算出するSI値演算部9と、SI値演算部9の算出結果を表示する表示部10とを備えている。
【0021】
次に、本実施の形態の地震動強度測定装置の固有周期調整時の動作を
図4を用いて説明する。
図4は固有周期調整時の動作を説明するフローチャートである。
最初に、固有周期設定部3は、構造物モデルの規定された2つの固有周期T
a,T
b(T
a<T
b)のうち一方の固有周期T
aをSv値演算部2に対して設定する(
図4ステップS1)。本実施の形態では、SI値を求める際の固有周期Tの既知の下限値0.1secをT
aとする。
【0022】
加速度入力部4は、周期的に変化する正弦波加速度の値をSv値演算部2に入力する(
図4ステップS2)。
Sv値演算部2は、加速度入力部4から入力された正弦波加速度に応じたSv値を算出する(
図4ステップS3)。
【0023】
構造物を単純化すると,運動方向が1方向で固有周期Tが1つだけの、1つの重りとバネとダンパーとから構成された、1自由度1質点減衰系で表される。この構造物モデルの運動方程式は式(1)、式(2)で表現できる。
a(t)+2hωv(t)+ω
2d(t)=−y(t) ・・・(1)
ω=2π/T ・・・(2)
【0024】
y(t)は入力加速度[cm/sec
2]、a(t)は加速度応答[Gal]、v(t)は速度応答[cm/sec]、d(t)は変位応答[cm]、hは減衰定数である。式(1)を解くと、地盤の加速度y(t)の入力に対して速度応答v(t)を求める式(3)が得られる。
【0026】
Sv値演算部2は、加速度入力部4から入力された正弦波加速度をy(t)として、式(3)に代入することにより、速度応答v(t)を算出する。Sv値は、次式に示すように速度応答v(t)の絶対値の最大値である。
Sv[cm/sec]=|v(t)|
max ・・・(4)
【0027】
こうして、Sv値演算部2は、入力正弦波加速度に応じたSv値を算出することができる。なお、以上のような構造物モデルと、式(1)〜式(4)については、文献「古川 洋之,田久保 光,簗田 貴,市田 俊司,清水 善久,小金丸 健一,中山 渉,“インテリジェント地震センサの開発,アズビル株式会社,制御技術研究報告Savemation Review,1999年8月発行号」に開示されている。
【0028】
Sv値の算出完了後、加速度入力部4は、固有周期設定部3が設定した固有周期T=T
a=0.1secに対して所定の周期範囲E
aの正弦波加速度を入力し終えたかどうかを判定し(
図4ステップS4)、正弦波加速度を入力し終えていない場合には、例えば現在の正弦波加速度の周期に所定幅を加えることでE
aの範囲内で正弦波加速度の周期を変更し(
図4ステップS5)、変更後の正弦波加速度の値をSv値演算部2に入力する(ステップS2)。こうして、正弦波加速度の周期を例えば所定幅ずつ増やしながら周期範囲E
aの各正弦波加速度についてSv値を算出し終えるまで、ステップS2〜S5の処理が正弦波加速度の周期毎に実行される。
【0029】
周期範囲E
aの各正弦波加速度についてSv値を算出し終えた後(
図6ステップS4においてYES)、周期幅導出部5は、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅w
aを求める(
図4ステップS6)。本実施の形態では、SI値の目標精度は、入力正弦波加速度の周期が固有周期Tと等しいときに得られたSv値を100%としたときのSv値の正規化値で規定されている。本実施の形態の例では、目標精度を例えば95%と設定している。
【0030】
したがって、目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅w
aは、
図5(A)に示すようにSv値の正規化値が目標精度以上となる入力正弦波加速度の周期の範囲である。また、入力正弦波加速度の上記の周期範囲E
aは、周期0.1sec(=T
a)を中心として設定され、予め想定される周期幅w
aを含み、かつ周期幅w
aよりも十分に広くなるように設定されている。
【0031】
周期幅w
aの導出完了後、固有周期設定部3は、構造物モデルの規定された2つの固有周期T
a,T
bについて入力正弦波加速度の周期幅を導出し終えたかどうかを判定し(
図4ステップS7)、入力正弦波加速度の周期幅を導出し終えていない場合には、2つの固有周期T
a,T
bのうち他方の固有周期T
bをSv値演算部2に対して設定し(
図4ステップS8)、ステップS2に戻る。本実施の形態では、SI値を求める際の固有周期Tの既知の上限値2.5secをT
bとする。こうして、固有周期T=T
b=2.5secの場合について、ステップS2〜S6の処理が実行される。
【0032】
ただし、固有周期T=T
b=2.5secの場合、加速度入力部4は、固有周期T=T
b=2.5secに対して所定の周期範囲E
bの正弦波加速度の値をSv値演算部2に入力する(ステップS2)。このとき、加速度入力部4は、上記と同様に、正弦波加速度の周期を例えば所定幅ずつ増やしながら周期範囲E
bの正弦波加速度の値をSv値演算部2に入力する。また、周期幅導出部5は、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅w
bを求める(ステップS6)。
【0033】
SI値の目標精度の定義は上記のとおりであるが、ここでは固有周期T=T
b=2.5secなので、目標精度は、入力正弦波加速度の周期が固有周期T=T
b=2.5secと等しいときに得られたSv値を100%としたときのSv値の正規化値で規定される(
図5(B))。目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅w
bは、
図5(B)に示すようにSv値の正規化値が目標精度(95%)以上となる入力正弦波加速度の周期の範囲である。入力正弦波加速度の周期範囲E
bは、周期2.5sec(=T
b)を中心として設定され、予め想定される周期幅w
bを含み、かつ周期幅w
bよりも十分に広くなるように設定されている。
【0034】
構造物モデルの規定された2つの固有周期T
a,T
bについて入力正弦波加速度の周期幅w
a,w
bを導出し終えた後(ステップS7においてYES)、周期幅算出式導出部6は、固有周期T
a,T
bと入力正弦波加速度の周期幅w
a,w
bとから、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅wと固有周期Tとの関係を示す数式を求める(
図4ステップS9)。固有周期Tに対して、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅wは以下のような一次式で表すことができる。
w=αT+β ・・・(5)
【0035】
式(5)の数式における係数α,βは、固有周期T
a,T
bと入力正弦波加速度の周期幅w
a,w
bとをパラメータとして連立方程式を解くことで、次式のように求めることができる。
【0037】
次に、固有周期算出部7は、周期幅算出式導出部6が求めた数式を用いて、固有周期T=0.1secから2.5secを超えるまでの固有周期Tの個数を算出する(
図4ステップS10)。ステップS6の処理により、固有周期T=T
1=T
a=0.1secのときにSI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅w
1=w
aは既知である。SI値の目標精度を確保できる次の固有周期T
2は、周期幅w
1と、固有周期T
1と、固有周期T
2の目標精度の最小値になる入力正弦波加速度の周期T
m1とから、式(8)、式(9)のように得ることができる。
【0039】
式(8)、式(9)に式(1)を代入して解くと、以下のような式(10)が得られる。
【0041】
したがって、固有周期算出部7は、算出する固有周期Tが2.5secを超えるまで、固有周期T=T
2,T
3,T
4,・・・・を順番に1つずつ式(10)により算出すればよい。つまり、固有周期算出部7は、下限値0.1secを固有周期Tの数列の初項T
1とし、固有周期Tの数列の最終項が上限値2.5secを超えるまで、固有周期Tの数列の現在の最終項T
iから、SI値の目標精度を満たす入力正弦波加速度の周期幅w
iを算出して、この周期幅w
iと固有周期Tの数列の現在の最終項T
iとに基づいて固有周期Tの数列の新たな最終項T
i+1を算出することを繰り返すことにより、固有周期Tの数列を求めて固有周期Tの個数を決定する。
【0042】
ただし、固有周期T
2を算出しようとする段階では、初項T
1が同時に最終項であり、周期幅w
1=w
aが既知なので、周期幅w
1を改めて算出する必要はなく、周期幅w
1と最終項T
1とを用いて新たな最終項T
2を算出すればよい。
【0043】
こうして、SI値の目標精度を確保できる固有周期Tの個数nを求めることができる。本実施の形態の固有周期算出部7が算出した固有周期Tと周期幅wの1例を表1に示す。この表1の例では、固有周期Tの個数n=24である。なお、表1に示した固有周期Tの数列は等比数列となっている。
【0045】
表1から明らかなように、固有周期算出部7が求めた固有周期Tの数列では、初項の固有周期T
1=0.1secは固有周期Tの既知の下限値0.1secと一致するものの、最終項の固有周期T
24=2.69327secが固有周期Tの既知の上限値2.5secと一致しない。
【0046】
そこで、固有周期修正部8は、固有周期Tの数列の項数が前記固有周期Tの個数nと一致し、固有周期Tの数列の初項が固有周期Tの規定された範囲の下限値0.1secと一致し、かつ固有周期Tの数列の最終項が固有周期Tの規定された範囲の上限値2.5secと一致するように、固有周期Tの修正された等比数列を求める(
図4ステップS11)。
【0047】
固有周期Tの等比数列の項数をn=24とし、初項T
1を0.1sec、最終項T
nを2.5secとした場合の、等比数列の公比rは以下の式(11)のように得ることができる。
【0049】
この公比rを用いて固有周期Tの等比数列の各項Ti(ここではi=2,3,4,・・・・)は式(12)のように求めることができる。
T
i=T
1r
i-1 ・・・(12)
【0050】
固有周期修正部8は、式(11)、式(12)を用いて固有周期T=T
2,T
3,T
4,・・・・,T
n-1を算出すればよい。このときの固有周期Tの等比数列の刻み幅は、ステップS10で求めた固有周期Tの数列の刻み幅よりも狭くなる。したがって、固有周期修正部8が算出した固有周期Tの等比数列で確保できるSI値の精度は、ステップS10で求めた固有周期Tの数列で確保できるSI値の精度と同等か、あるいはそれ以上の良い結果が得られる。本実施の形態の固有周期修正部8が算出した固有周期Tの等比数列の1例を表2に示す。
【0052】
固有周期修正部8は、算出した固有周期Tの等比数列T
1,T
2,T
3,・・・・,T
nを、構造物モデルの固有周期TとしてSv値演算部2に設定する(
図4ステップS12)。以上で、固有周期Tの調整動作が終了する。
【0053】
図6は本実施の形態の地震動強度測定装置の地震動強度測定時の動作を説明するフローチャートである。実際の地震動強度測定では、加速度計1が地震動の加速度を検出する(
図6ステップS20)。
【0054】
Sv値演算部2は、加速度計1が検出した地震動の加速度に応じたSv値を固有周期T毎に算出する(
図6ステップS21)。
SI値演算部9は、以下の式(13)によりSI値を算出する(
図6ステップS22)。
【0056】
すなわち、SI値演算部9は、Sv値演算部2が固有周期T別に算出した値Sv(T)を積分して2.4で除算すればよい。
表示部10は、SI値演算部9が算出したSI値を表示する(
図6ステップS23)。なお、ここでは、SI値の処理の1例としてSI値を表示する例で説明しているが、SI値演算部9が算出したSI値の情報を装置の外部に送信するようにしてもよいことは言うまでもない。
【0057】
以上のように、本実施の形態では、SI値の算出に好適で、かつSI値の算出に要する演算量を抑えることができる固有周期Tの数列を、試行錯誤に依らない方法で短時間で設定することができる。コンパクトかつ耐ノイズ性を達成するために、演算部と加速計を一体型とし、屋外に設置するような地震動強度測定装置の場合、製品の消費電力は少なければ少ないほうが良い。しかし、演算部で行なう被害推定値のSI演算は、精度を上げるほど時間当りの演算回数が多くなるため、消費電力の低減と精度向上はトレードオフの関係にあった。
【0058】
従来は、上記のとおり、過去に記録された地震波や人工的に作成したいくつかの波形でシミュレーション演算による、統計的な精度確認を行なっていた。したがって、シミュレーションに使用した地震波においてはSI値の推定精度を保証できるが、それ以外の地震波に対する精度は保証できないという問題点があった。
【0059】
これに対して、本実施の形態では、SI値の算出に要する演算量を抑えることができ、かつ様々な地震波についてSI値の目標精度を確保することができる固有周期Tの数列の設定が容易に実現可能になる。
【0060】
本実施の形態の効果を確認するために、AとB、2つの地震波に対してシミュレーションを行った結果を表3に示す。
【0062】
ここでは、固有周期Tの個数nを2401個、つまり0.001秒刻みで求めたSI値を真値として、n=7の固有周期Tの等比数列を用いて算出したSI値の真値に対する相対誤差と、n=7の固有周期Tの等差数列を用いて算出したSI値の真値に対する相対誤差をそれぞれ求めた。表3から分かるように、A,Bいずれの地震波についても、従来のように固有周期Tの等差数列を用いるよりも、本実施の形態のように等比数列を用いた方が良い精度となった。
【0063】
本実施の形態で説明した地震動強度測定装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。